(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-20
(54)【発明の名称】低推力および高推力推進システムを備える宇宙機
(51)【国際特許分類】
B64G 1/26 20060101AFI20231213BHJP
B64G 1/40 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
B64G1/26
B64G1/40 100
B64G1/40 200
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557842
(86)(22)【出願日】2021-12-01
(85)【翻訳文提出日】2023-07-28
(86)【国際出願番号】 IB2021061166
(87)【国際公開番号】W WO2022118208
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】102020000030011
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523210423
【氏名又は名称】ミプロンス・エッセエッレエッレ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アンジェロ・ミノッティ
(57)【要約】
宇宙機は、液体水を収容する少なくとも1つの水リザーバ(1)と、高推力推進部と、低推力推進部と、を含む、低推力および高推力宇宙推進システムを装備する。高推力推進部は、高スラスタを有し、この高スラスタは、液体水リザーバ(1)から水を吸い上げる調節バルブ(V1)と、液体水をガス状水素とガス状酸素とに分解する装置(2)と、関連の貯蔵タンク(3、4)と、ガス状水素がガス状酸素と内部で反応する燃焼室(5)と、燃焼室(5)からの噴出ノズル(6)と、を含む。低推力推進部は、液体水供給ライン(10)と、調節バルブ(2l~2n)、気化室(3l~3n)および膨張ノズル(4l~4n)を個々に含む複数のブランチ(1l~1n)内にある複数の液体水出口と、を備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体水を収容する少なくとも1つの水リザーバ(1)と、高推力推進部と、低推力推進部と、を含む、低推力および高推力推進システムを備える宇宙機において、
前記高推力推進部が、少なくとも1つの高スラスタを備え、前記少なくとも1つの高スラスタが、前記少なくとも1つの水リザーバ(1)から液体水を吸い込む調節バルブ(V1)と、前記液体水をガス状水素とガス状酸素とに分解する水分解装置(2)と、前記ガス状水素が前記ガス状酸素と内部で反応する燃焼室(5)と、前記燃焼室(5)からの噴出ノズル(6)と、を含み、
前記低推力推進部が、液体水供給ライン(10)と、調節バルブ(2l~2n)、気化室(3l~3n)、および前記気化室(3l~3n)の下流の膨張ノズル(4l~4n)を個々に含む複数のブランチ(1l~1n)内にある複数の液体水出口と、を備える
ことを特徴とする、宇宙機。
【請求項2】
前記高スラスタが、前記液体水をガス状水素とガス状酸素とに分解するように適合された電解装置を備える、請求項1に記載の宇宙機。
【請求項3】
前記高スラスタが、前記液体水をガス状水素とガス状酸素とに分解するように適合されたマイクロ波装置を備える、請求項1に記載の宇宙機。
【請求項4】
少なくとも1つのガス状水素貯蔵タンク(3)および少なくとも1つのガス状酸素貯蔵タンク(4)が、前記水分解装置(2)と前記燃焼室(5)との間に設けられる、請求項1に記載の宇宙機。
【請求項5】
予混合されたガス状水素とガス状酸素のための少なくとも1つの貯蔵タンクが、前記水分解装置(2)と前記燃焼室(5)との間に設けられる、請求項1に記載の宇宙機。
【請求項6】
前記ガス状水素貯蔵タンクおよび前記ガス状酸素貯蔵タンクが、前記水分解装置(2)内にある、請求項2または3に記載の宇宙機。
【請求項7】
ガス状水素貯蔵タンクおよびガス状酸素貯蔵タンクが設けられない、請求項1に記載の宇宙機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デュアルモードとしても知られる低推力および高推力推進システムを備える宇宙機に関する。前記宇宙機は、衛星である。
【背景技術】
【0002】
近年、グローバルかつ即時の接続および観察を得るために、通常、星座中に、新しい衛星の打ち上げに関する投資が増加してきている。
【0003】
投資の増加によって、減少した寸法の衛星プラットフォームを作り出すことを可能にする、推進システムの小型化の技術の発展が可能になった。例えば、実施する機能は同じである衛星コストの減少、ならびに、技術的な観点から常に最新の設計、製造および衛星の打ち上げにおける時間の短縮、などの利点が得られる。実際、極小衛星は、設計開始から約2~3年で軌道へと打ち上げられ、一方大きな衛星はさらに、それらの設計および打ち上げに数十年必要である。
【0004】
極小衛星には、要求される操縦(manoeuvres)の実施に適するほど十分に小さくパワフルな新しい推進システムが必要である。
【0005】
衛星は、基本的に、1)衛星の姿勢および再位置決めを制御するために、姿勢および制御操縦(RCS-リアクション制御システム)のため、2)自然およびオンデマンドの両方における耐用寿命の終わりに動作軌道に入るか軌道を逸脱させる、軌道変更操縦(デルタ-V(Delta-V))のため、ならびに3)前述のものの組合せが考えられ得る、他の操縦のために、推進システムを必要とする。
【0006】
これらの操縦は2つのタイプの推力パワーを必要とする。姿勢および制御操縦は、低推力を必要とし、軌道変更は、通常、高推力を必要とする。
【0007】
近年、衛星の小型化において、低推力操縦は、一般に、電気推進システムを使用し、高推力操縦は、重量増加、有料荷重(paying load)に利用できる容積の減少、コストの増加、信頼性の低下などの点から結果的に複雑化した他の推進システムの追加を必要とする。
【0008】
第2の推進システムが追加されない場合、低推力推進システムを用いて高推力で操縦を行うことが必要となり、その結果、操縦完了に必要な時間がかなり増し、衛星の有効寿命が著しく短くなる。
【0009】
特許文献1には、宇宙機内に、液体水を収容するリザーバと、リザーバから液体水を吸い込む調節バルブを含む駆動ユニットと、液体水をガス状水素とガス状酸素とに分解する水分解装置と、ガス状水素がガス状酸素と内部で反応する燃焼室と、燃焼室からの噴出ノズルと、を備える宇宙推進システムが開示されている。
【0010】
さらに、特許文献2には、特許文献1と類似の宇宙推進システムが記載されている。
【0011】
特許文献3には、推力を提供するためにノズルから宇宙機の外部へと向けられた推進剤噴流を提供する反応室を備えるマイクロスラスタが記載されている。使用される単元推進剤は、水であり得る。
【0012】
非特許文献1には、推進剤として水を用いたアクエリアス(AQUARIUS)推力発生プロセスが記載されている。液体水は、加圧タンク内のブラダに収容されている。ブラダを出た水は、調節バルブを通って、ドレインバルブと圧力センサとを装備した気化室に入る。第1の部分では、気化室を出る蒸気が、それぞれのデルタ-Vスラスタ弁を通って、予熱器、デルタ-Vスラスタ断熱材およびノズルをそれぞれ含む2つのデルタ-Vスラスタへ送られる。第2の部分では、気化室を出た蒸気は、それぞれのRCSスラスタバルブを通って、予熱器、RCSスラスタ断熱材およびRCSノズルをそれぞれ備える4つのRCSスラスタへと送られる。同文献において、デルタ-Vスラスタによってもたらされる推力は4.0mNであり、RCSスラスタによってもたらされる推力は2.0mNであることを読むことができる。アクエリアスは、低推力および高推力を発生させることに単一の推進剤、すなわち水を用いる利便性を実証している。しかし、アクエリアスのデルタ-Vスラスタによって発生する高推力は、非常に低いので、結果的に軌道変更操縦が非常に遅く、衛星が活動しないかたちでその寿命の一部を費やすことになる。
【0013】
同じ出願人は、特許文献4を出願しており、そこには、液体水リザーバと、水を酸素と水素に分解する電解装置と、水素と酸素とがそれらの燃焼のために内部へと注入される燃焼室と、燃焼生成物の吐出のための超音速ノズルとを備える、宇宙推進システムが記載されている。そのような推進システムは、同じ寸法を維持しつつ、アクエリアスのデルタ-Vスラスタによって得られるものよりも高い大きさのオーダーの推力を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3 348 671号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第3 246 559 Al号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2004/245406号明細書
【特許文献4】国際公開第2019/021234号パンフレット
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Fundamental Ground Experiment of a Water Resistojet Propulsion System:AQUARIUS Installed on a 6U CubeSat:EQUULEUS、Jun ASAKAWAら(Trans.JSASS Aerospace Tech.Japan、Vol.16、No.5、pp.427~431、2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、低推力と高推力の両方の操縦を実施することができるような応用のきく単一推進システムを提供することである。
【0017】
本発明の他の目的は、極小衛星にも取り付けられるほどコンパクトな推進システムを作り出すことである。
【0018】
さらなる目的は、少なくともその一次エネルギー源として単一の推進剤を使用する推進システムを提供することである。
【0019】
最後に、他の目的は、高推力において特に効率的であり、唯一の推進剤として水を直接的または間接的に好都合に使用することができる、低推力および高推力推進システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明による推進システムは、高スラスタ(high thruster)および低スラスタ(low thruster)の両方への供給に液体水だけを使用することを目的とする。高スラスタは、水電解装置および水素と酸素との燃焼を用いる。あるいは、マイクロ波のものなど、他の水素/酸素生成システムを用いてもよい。低スラスタは、水自体を加熱することによって得られる水蒸気の膨張を利用する。
【0021】
一方が高推力用、もう一方が低推力用である2つのラインは、液体水リザーバから出ている。
【0022】
高推力ラインは、
- 電解装置または例えばマイクロ波システムである他のシステムは、ソーラーパネルからとった電気によって、または潜在的にバッテリもしくは他の供給源からの電気により、水の水素-酸素結合を壊し、それによってガス状水素とガス状酸素とが生成されること、
- ガスが、電解装置または他の水素-酸素生成システムの外部または内部貯蔵タンク内に蓄積されるまたは蓄積されないこと、
- ガスが、触媒材料および/またはスパークおよび/または加熱による抵抗および/またはこれらの解決策の組合せによりそれらの燃焼をトリガするために、推力室に導入される、予混合される、または予混合されないこと、
- 燃焼からの高温ガスが、所望の推力を得るために噴出ノズル内で膨張されること、および
- システムが正しく機能するのに必要なバルブおよびセンサが存在すること、
をもたらす。
【0023】
低推力ラインは、
- 水が推力室に入り、電気抵抗により蒸気の状態へと加熱されること、
- 蒸気が、要求される操縦に必要な低推力を得るように関連の噴出ノズル内で膨張されること、および
- システムの正しい動作に必要なバルブおよびセンサが存在すること、
をもたらす。
【0024】
本発明の目的および特徴は、添付の図面を参照して、低推力および高推力推進システムを備える宇宙機についての説明から最も明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明による推進システムのブロック図である。
【
図2】
図1の推進システムを装備した衛星の、部分的に切断された、概略的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1を参照すると、本発明による推進システムは、高推力推進部と、低推力推進部と、を備える。
【0027】
高推力推進部は、スラスタを有する。スラスタは、液体水を収容する水リザーバ1と、液体水をガス状水素とガス状酸素に分解しそれらをガス状水素貯蔵タンク3とガス状酸素貯蔵タンク4にそれぞれ貯蔵する、水分解装置2と、燃焼生成物を吐出するノズル6を含む高推力室5と、を備える。分解装置は、水をガス状水素とガス状酸素とに電気分解する水電解装置、または、水をガス状水素とガス状酸素とに分解するマイクロ波水分解装置、または他の装置であり得る。水素貯蔵タンク3および酸素貯蔵タンク4に関して、それらは単一のものにまとめてもよく、そこでは、水素と酸素が混合されすでに混合されて燃焼室に送り込まれる。
【0028】
別法として、予混合されたまたは予混合されていないガス状水素およびガス状酸素の蓄積物が水分解装置2内にある。
【0029】
他の構造では、貯蔵タンクがない場合もあり、この解決策は、燃焼室に入る前に、電解装置またはマイクロ波装置または異なる装置による瞬時かつ/または連続的な水の分解によって、ミッションに必要とされるような時間に正確なおよび/または連続的な推力を実行することができ水分解装置の内部か外部のどちらかでの生成ガスの蓄積を必要としないほど十分な水素および酸素が生成されることを前提とする。
【0030】
推進システムの低推力推進部は、リザーバ1からの液体水の供給ライン10と、ブランチ1l~1n内の複数の水誘導部と、を含み、ここで、nは、ブランチの総数を示す。各ブランチ11~1nは、調節バルブ21~2nと、気化室31~3nと、気化室31~3nの下流の膨張ノズル41~4nと、を有する。
【0031】
低推力推進部は、少なくとも4つの気化室を有することが好ましいが、
図1のブロック図には、7つの流量コントロールバルブを含む6つの気化室が示されている。
【0032】
ミッション仕様(mission specification)を含むオンボードコンピュータなど、宇宙推進システムの動作および他の衛星システムとの相互作用を制御するのに、少なくとも1つの電子ボードの存在が必要とされる。
【0033】
通常、大きさのオーダーとして約0.1N以上の推力を提供できるものが、高推力室として示される。本発明によるスラスタはまた、最大10N以上の推力を提供できる。
【0034】
本発明による低推力推進部の気化室は、大きさのオーダーとして約0.001N以下の推力を特徴とし、ここで、通常、推力は1~10mNの範囲内にある。
【0035】
高推力室は、大きさのオーダーとして、約5,000kPaである高圧でも動作することができる。
【0036】
低推力室は、大きさのオーダーとして、100kPa未満の低圧でも動作する。
【0037】
高推力室は、(ノズルを除いて)1センチメートルのオーダーの寸法を有することができる。10×10mm(直径×高さ)の室は、1~5Nの推力を与えることができる。
【0038】
低推力室は、ノズルを含めて数ミリメートルのオーダーの寸法を有することができる。8×8×2mm(長さ×幅×高さ)の室は、1~25mNの範囲内の推力を提供できる。
【0039】
高推力室は、鋼、チタン、タングステンなどの金属材料から作られる。低推力室は、シリコンウェーハ上であってもよい。
【0040】
水リザーバを除いた、低推力および高推力宇宙推進システムの全体的な寸法は、約100×100×40~45mm(長さ×幅×高さ)の寸法、および重さ約400gと想定され得る。
【0041】
本発明の利点は理解されよう。異なる物理的および化学的な形態にあるが、推進剤はただ一つ、液体水である。それは、1)ガス状水素とガス状酸素への水の分解、水素と酸素との燃焼、および噴出ノズル6を通した燃焼生成物の吐出による高推力、ならびに、2)水を気化させそれを膨張ノズル4l~4n内で膨張させることによる低推力、を得るように、同じ宇宙機において使用される。
【0042】
図2は、
図1の推進システムを装備した衛星の、部分的に切断された、概略的な斜視図である。衛星は、ソーラーパネル21、22を含む略角柱体20を有する。ソーラーパネル21は、角柱体20の一面の2つの頂点上および角柱体20の反対面の2つの連続する(consecutive)頂点上に互いに直交に配置された一対の低推力ノズルを示すように、部分的に切断されている。吐出ノズル6は、衛星の角柱体20の一面に対して直交位置に概略的に示されている。
【0043】
要するに、要約すると、低推力-高推力システムに最適な推進剤として水を使用するという選択は、いくつかの考慮事項に基づいている。要約すると、液体水は、
- 経済的であり、
- 無毒であり、
- 腐食性がなく、
- 簡単に貯蔵可能および管理可能であり、それによってさらに、プロセスおよび使用コストが簡素化され、
- 高密度を特徴とし、それによってシステムをコンパクトにすることが可能になり、
- 最高性能(高推力および高比推力)の化学的結合である、水素/酸素キャリアであり、
- 極低温状態にされることのない水素/酸素キャリアであり、したがって、設計、経済および管理の著しい複雑化を伴わず、
- 多用途であり、モジュール型式、
である。
【符号の説明】
【0044】
1 水リザーバ
2 水分解装置
3 ガス状水素貯蔵タンク
4 ガス状酸素貯蔵タンク
5 高推力室、燃焼室
6 ノズル
10 液体水供給ライン
1l~1n ブランチ
2l~2n 調節バルブ
3l~3n 気化室
4l~4n 膨張ノズル
20 角柱体
21 ソーラーパネル
22 ソーラーパネル
V1 調節バルブ
【国際調査報告】