(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-20
(54)【発明の名称】エラストマーバイオマテリアル及びそれらの製造
(51)【国際特許分類】
C08G 63/00 20060101AFI20231213BHJP
C07G 1/00 20110101ALN20231213BHJP
【FI】
C08G63/00
C07G1/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023559959
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(85)【翻訳文提出日】2023-07-28
(86)【国際出願番号】 SE2021051244
(87)【国際公開番号】W WO2022132003
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523220662
【氏名又は名称】レセロ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】バウムガルテン,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】マッキー,ローレン サラ
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA02
4J029AB01
4J029AD07
4J029AD08
4J029CA02
4J029EA01
(57)【要約】
本発明は、a)粉末化された樺皮を提供すること;b)スベリンを含む分画を得るために抽出物を取り出すこと;c)スベリンを含む分画のアルカリ加水分解を行い、それによってスベリンがスベリン単量体に分解されること;d)スベリン単量体を含む分画の酸性化を行い、それにより前記スベリン単量体がプロトン化されること;e)スベリン単量体の抽出を行い、それによりプロトン化されたスベリン単量体が親水性化合物から分離されること;f)スベリン単量体を融解すること;及びg)融解した単量体を重合化すること、の連続ステップを含み、重合化中に触媒を添加することなく、架橋エラストマーが得られる、エラストマー材料及びその製造方法に関する。
【選択図】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)粉末化された樺皮を提供すること;
b)スベリンを含む分画を得るために抽出物を取り出すこと;
c)スベリンを含む分画をアルカリ加水分解して、それによりスベリンをスベリン単量体に分解すること;
d)スベリン単量体を含む分画の酸性化;
e)前記スベリン単量体の抽出;
f)前記スベリン単量体を融解すること;
g)融解した単量体を重合化すること;
の連続ステップを含み、
前記重合化中に触媒を添加することなく、得られた前記エラストマー材料が架橋される、スベリン単量体を重合化する方法により得ることが可能なエラストマー材料。
【請求項2】
ステップb)において、前記スベリンを含む分画がエタノール抽出後に、それに続く前記エタノールの蒸発によって得られる、請求項1に記載のエラストマー材料。
【請求項3】
ステップc)において、前記アルカリ加水分解が60~90℃の温度で1~5時間行われる、請求項1~2の何れか1項に記載のエラストマー材料。
【請求項4】
ステップc)において、前記アルカリ加水分解後の先行するステップで、スベリン単量体を含む溶液をろ過して非加水分解成分を除去する、請求項1~3の何れか1項に記載のエラストマー材料。
【請求項5】
ステップd)において、前記分画が2~5のpHに酸性化される、請求項1~4の何れか1項に記載のエラストマー材料。
【請求項6】
ステップe)において、ジクロロメタン、クロロホルム、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、オクタノール、ノナノール、デカノール、トルエンからなる群から選択される溶媒を用いて、好ましくはメチルtert-ブチルエーテルを用いて、抽出を行い、続いて蒸発を行う、請求項1~5の何れか1項に記載のエラストマー材料。
【請求項7】
ステップe)において、前記スベリン単量体を乾燥させる、請求項1~6の何れか1項に記載のエラストマー材料。
【請求項8】
ステップf)において、温度が70~90℃である、請求項1~7の何れか1項に記載のエラストマー材料。
【請求項9】
前記重合化が、熱誘導され、及び/又は重縮合を通じて進行する、請求項1~8の何れか1項に記載のエラストマー材料。
【請求項10】
前記スベリン単量体が、10~30、好ましくは16~24の炭素鎖長を有することを特徴とする、請求項1~9の何れかに記載のエラストマー材料。
【請求項11】
0.9~10MPaの引張強さを有することを特徴とする、請求項1~9の何れかに記載のエラストマー材料。
【請求項12】
その損失係数が-20℃~20℃の温度範囲で最大となることを特徴とする、請求項1~9の何れかに記載のエラストマー材料。
【請求項13】
示差走査熱量測定を使用して融解実験において融解ピークを示さないことを特徴とする、請求項1~9の何れかに記載のエラストマー材料。
【請求項14】
250℃を超える温度でDTGピークを示すことを特徴とする、請求項1~9の何れかに記載のエラストマー材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオベースのプラスチックの分野、及び特に架橋エラストマー材料及びその製造に関する。
【背景技術】
【0002】
化石資源への依存から脱却し、循環型のバイオエコノミーへと向かうにつれて、持続可能に生産されるバイオベース材料に対する需要が増加の一途を辿っている。しかし、天然ゴムのような従来のバイオベース材料の生産は、このような材料に対する需要を満たすには十分ではないため、バイオマテリアルの開発のために代替的な原材料が必要とされている。
【0003】
ベツラ・ペンデュラ(Betula pendula)(アメリカシラカンバ)は、北ヨーロッパにおいて最重要の硬材種の1つであるが、それは、主にパルプ及び製紙業におけるその広範な使用によるものである。加工前に木材から樺皮を除去しなければならないため、樺皮はこの産業の大量の残廃材である。実際に、1つの製紙工場では、年間およそ28,000トンの樺皮が生じ得る。現在まで、樺皮は、パルプ及び製紙業においてエネルギー生成のために主に使用される価値が低い残廃材とみなされてきた。しかし、樺皮は、ベツリン/ベツリン酸及びスベリンなどの大量の様々な価値ある化合物を含有し、それにより、樺皮は持続可能なポリマーを開発するための理想的な候補となる。特に、スベリンは、生産されるポリマーに重要な物理的及び生物活性の特質を付与し得る脂肪族化合物の含量が高いため、バイオベース材料を開発するための優れた原材料である。
【0004】
植物において、スベリンは、長鎖脂肪酸、芳香族化合物及びグリセロールの網目状構造を含む。特に、大量のカルボン酸基に加えて、スベリン中の長鎖脂肪酸はさらなる官能基を有することが多く、そのことにより、新規ポリマーを開発するための魅力的な構成要素となる。
【0005】
スベリン単量体に基づいてポリマーを作製するための方法は既に存在する。しかし、これらの方法には多くの欠点がある。一つには、それらは、架橋されたスベリンベースのポリマーを提供できない。De Oliveira,Hugo,et al.,“All natural cork composites with suberin-based polyester and lignocellulosic residue”,in Industrial Crops and Products,109(2017):843-849は実際、このような非架橋エラストマー材料のみを開示している。さらに、必要とされる加工ステップ及び必要とされる添加物は一般に、生産コストを上昇させる。故に、スベリン単量体ベースの改善されたエラストマー材料及びスベリン単量体を重合化する方法の改善が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
発明の簡単な説明
本発明によれば、100℃より低い反応温度並びに希釈された酸/塩基及び樺皮からの有用な成分を単離するための無毒性の生分解性溶剤の使用などの穏やかな条件ベースのバイオリファイナリーアプローチを使用して得ることが可能なエラストマー材料が提供される。このステップは、3つの分画:ベツリンに富む分画と、リグニン-炭水化物に富む分画と、スベリン単量体の分画と、を生じる(
図1参照)。
【0007】
本発明のエラストマー材料は、
a)粉末化された樺皮を提供すること;
b)スベリンを含む分画を得るために抽出物を取り出すこと;
c)スベリンを含む分画のアルカリ加水分解を行い、それによりスベリンをスベリン単量体に分解すること;
d)スベリン単量体を含む分画を酸性化し、それによりスベリン単量体をプロトン化すること;
e)スベリン単量体を抽出し、それによりプロトン化されたスベリン単量体を親水性化合物から分離すること;
f)スベリン単量体を融解すること;及び
g)融解した単量体を重合化すること
の連続ステップを含み、重合化中に触媒を添加することなく、得られたエラストマー材料が架橋される、スベリン単量体を重合化する方法を使用して得ることが可能である。
【0008】
本方法により得ることが可能なエラストマーの長所は、それが化石燃料由来ではないことであり、天然ゴムと比べると、本発明に従い使用される原材料は、農業資源と競合せず、熱帯雨林由来の資源も使用しない。
【0009】
以前は、トルエン中でエポキシ化スベリン単量体を重合化するためにリパーゼNovozyme435のような酵素が使用されてきた。このような酵素は、末端ヒドロキシル基とカルボン酸基との反応を特異的に触媒し得るために、このプロセスステップの結果、インタクトなエポキシ基を有する直鎖状ポリマー鎖が形成される。しかし、このようなアプローチは酵素とポリマーの分離を必要とし、従って、プロセスステップがより複雑となり、このようなプロセスステップにより得られる材料はかなり脆弱である。これに対し、本発明の方法によれば、穏和な溶剤のみが使用され、さらなる触媒が不要であり、従って本方法は環境上好ましい。さらに、酵素的重合化は直鎖状ポリマーの形成をもたらすが、本発明に従い使用される重合化条件は、全ての利用可能なヒドロキシル基とカルボキシル基との間のエステル結合の形成を可能にする。故に、本発明のエラストマー材料は、スベリン単量体の網目状構造からなる。スベリンベースのベースのエラストマーの特徴付けにより、酸性及びアルカリ条件下で安定であり、一般的な有機溶剤中で不溶性の疎水性物質が示される。
【0010】
ここで、添付の図面を参照しながら本発明を説明するが、保護の範囲を如何なるようにも限定するものとしてみなされるべきではない。当業者は、改変を行ってもよく、それらも保護の範囲内であることを認める。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明によるスベリン単量体の提供を示す。
【
図2】
図2は、本発明に従い提供される単離スベリン単量体の特徴付けを示す。A 単離スベリン単量体のFT-IRスペクトル。3600~3100cm
-1の領域はOH振動に割り当てられた。3000~2800cm
-1前後のピークはCH振動に割り当てられ、1700cm
-1のピークは、COOH基の振動を表す。B 単離スベリン単量体のNMRスペクトル。3.65ppmでの化学シフトがOH基に隣接するプロトンに割り当てられ、2.35ppmでの化学シフトはCOOH基に隣接するプロトンであると指定された。
【
図3】
図3は、スベリン単量体を重合化する方法に関する。融解処理によって、単離スベリン単量体から完全にバイオベースの材料を合成した。A 単離スベリン単量体中に存在するCOOH基とOH基との比率を、NMRデータから計算した(
図2参照)。B 単離スベリン単量体のDSC融解曲線。C スベリンベースのエラストマーの形成の提案される反応スキーム。反応が開放系で及び100℃を上回る温度で行われる場合、反応中に生じる水はすぐに蒸発する。D 生成されたエラストマーのイメージ。この材料の高度な可撓性は、最初にそれを十分に曲げ、次いでその材料を前の状態に緩めさせることにより明らかになる。E 生成されたエラストマーのFT-IRスペクトル。3600~3100cm
-1の領域がOH振動に割り当てられ、1733cm
-1でのピークはCOOR振動を表す。比較のために、単離スベリン単量体のスペクトルを示す。
【
図4】
図4は、本発明によるスベリンベースのエラストマーの機械的特性を示す。本発明のエラストマーの長方形の検体を調製した。個々に作製された材料に由来するデータに基づいて、平均及び標準偏差を計算した。A 引張試験。1mm/mmの速度で材料破壊まで応力ひずみ曲線を記録した。ヤング率、引張強さ及び最終的な伸長を計算した。B 動的粘弾性測定。最初に、材料を冷却し、-60℃に平衡化した。次に、温度を3℃/分で70℃まで上昇させた。貯蔵弾性率及び損失弾性率を示す。損失係数(tanδ)の変化も示す。貯蔵弾性率の開始温度(T
onset)、損失弾性率のピーク温度(T
peak)、tanδのT
peak及びtanδ>0.3の温度範囲(T
Tanδ>0.3)を示す。
【
図5】
図5は、本発明のスベリンベースのエラストマーの熱挙動を示す。窒素又は酸素雰囲気下でエラストマーの熱安定性を試験した。個々に作製された材料由来のデータに基づいて、平均値及び標準偏差を計算した。A 窒素雰囲気下での熱重量分析。温度を10℃/分で700℃まで上昇させながら、エラストマーの重量をモニターした。重量減少の導関数も示す(DTG)。各分解相に対して、重量減少、重量減少の開始温度(T
onset(5%))及びそのエンドセット(endset)温度(T
endset)を示す。B 酸素雰囲気下での示差走査熱量測定。10℃/分で50℃から500℃まで温度を上昇させながら、試料からの熱流を追跡した。各分解相に関して、開始温度(T
onset(5%))を示す。
【
図6】
図6は、異なる有機溶剤に対する、特許請求されるスベリンベースのエラストマーの耐性を示す。規定の重量を持つ特許請求されるエラストマーの試料を異なる有機溶剤中に浸漬し、65℃で3時間インキュベートした。次に、溶剤を除去し、材料を乾燥させ、乾燥させた材料の重量を測定した。相対的重量の平均値及び標準偏差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、
a)粉末化された樺皮を提供すること;
b)スベリンを含む分画を得るために抽出物を取り出すこと;
c)スベリンを含む分画のアルカリ加水分解を行い、それによりスベリンをスベリン単量体に分解すること;
d)スベリン単量体を含む分画を酸性化し、それによりスベリン単量体をプロトン化し、これ故にスベリン単量体をより疎水性にすること;
e)スベリン単量体を抽出し、それによりプロトン化されスベリン単量体を親水性化合物から分離すること;
f)スベリン単量体を融解すること;
g)融解した単量体を重合化すること
の連続ステップを含み、
重合化中に触媒を添加することなく、得られたエラストマー材料が架橋される、
スベリン単量体を重合化する方法により得ることが可能なエラストマー材料を提供する。
【0013】
触媒を添加しないことは、如何なる酵素も添加しないことも含むと解釈される。
【0014】
ステップb)におけるスベリンを含む分画は、好ましくは、エタノール抽出とそれに続くエタノールの蒸発を通じて得られる。
【0015】
ステップc)におけるアルカリ加水分解は、好ましくは、60~90℃、例えば70~80℃の温度で、1~5時間、例えば2~4時間にわたり行われる。
【0016】
ステップc)において、アルカリ加水分解後、スベリン単量体を含む溶液をろ過して、非加水分解成分、即ちリグニン及び炭水化物を除去し得る。このろ過は必須ではないが、次の加工ステップ、特にステップe)の相分離を容易にし得る。
【0017】
ステップd)において、分画は、2~5の間のpH、好ましくは3~4の間のpHに酸性化される。
【0018】
ステップe)の抽出は、ジクロロメタン、クロロホルム、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、オクタノール、ノナノール、デカノール、トルエン、好ましくはメチルtert-ブチルエーテルからなる群から選択される溶剤を用いて行い、それに続いて蒸発を行ってもよい。抽出ステップを好ましくは2回行う。
【0019】
ステップe)の最終部分として、スベリン単量体を乾燥させてもよい。回転蒸発を通じて乾燥を行ってもよい。
【0020】
ステップf)での融解中、温度は、70~90℃、好ましくは75~85℃であり得る。
【0021】
ステップf)において、融解されたスベリン単量体は、融解した材料の少なくとも95%を構成する。
【0022】
スベリン単量体の単離
本発明の一態様では、樺皮を粉砕し、ベツリン及び他のトリテルペノイドをエタノールで抽出した。残った残渣は、スベリン、リグニン及び炭水化物の複合体を示す。スベリン単量体をこの残渣から放出するために、アルカリ加水分解をエタノール/水(9:1)中の0.5M NaOHにおいて行った。スベリン単量体を、ろ過によって、リグニン炭水化物複合体から分離した。次に、スベリン単量体を0.5M硫酸でプロトン化し、続いてメチルtert-ブチルエーテルを使用して抽出した。全分画の乾燥重量から収量を計算し、使用した粉砕樹皮の量に対する相対値として与える。FT-IR及びNMRによる個々の分画の特徴付けに関しては、
図2を参照されたい。
【0023】
スベリンは主に、ヒドロキシル基及びカルボン酸基を含有する脂肪族化合物からなる。FT-IR及びNMR分光法を使用して、抽出物におけるこれらの官能基の存在を確認した(
図2A及びB及び
図3A)。これらの方法を使用して、材料に関する構造の「フィンガープリント」を定義し、迅速なバッチ間の比較を可能にし、本明細書中で開示される本発明の方法の再現性を確実にした。これらの技術をGC-MSで補完して、単離スベリン分画において主要な化合物を同定し、定量した。スベリン分画がC10~C30の鎖長の単量体を含有し、C18化合物が最も多かったことが見出された。さらに、発明者らは、スベリン単量体の約69%が加水分解されたモノカルボン酸であり、スベリン単量体の約28%が2個のカルボン酸基を有することを見出した。特定のスベリン単量体が同定された。重要なこととして、同定されたスベリン単量体の多くが2個より多くの官能基を有したことにより、単離されたスベリン単量体からの架橋ポリマーの形成が可能になった。
【0024】
重合化及び最初のエラストマーの特徴付け
示差走査熱量測定(DSC)実験から、単離されたスベリン単量体が90℃未満で融解することが示された(
図3B)。従って、スベリン単量体を最初に融解させ、次いで120℃で重合化することができる。開放系の使用により、反応中に生じる水の蒸発が可能になる(
図3C)。本発明の方法に含まれる重合化は、熱誘導性であり、及び/又は重縮合を通じて進行する。
【0025】
得られたエラストマー材料
本発明の方法を使用して、全てバイオベースの、非常に可撓性のエラストマー材料が得られた(
図3D)。ポリエステルの形成をモニターするために、FT-IR分光法を使用した(
図3E)。本発明者らは、本発明者らの単離スベリン分画のスペクトルにおいて優位であるカルボン酸ピーク(1715cm
-1)のエステルピーク(1730cm
-1)方向への完全なピークシフトを観察した。さらに、エラストマーは、ヒドロキシル振動領域(3100~3500cm
-1)において殆ど吸光度を示さなかった。まとめると、これは、ヒドロキシル基及びカルボン酸基の大部分が反応してエステル結合を形成したことを示す。
【0026】
機械的特性及び温度特性
エラストマー材料の機械的特性を試験した。引張試験を使用して、エラストマーが天然ゴムと同じ桁の大きさである~1MPaの引張強さを示すことが見出された(
図4)。次に、DMAを使用して、本発明のエラストマー材料の熱機械特性を試験した。およそ-27℃という貯蔵弾性率の開始温度が観察され、損失弾性率のピーク温度は、-19℃であることが見出された。DMAもまた使用して、損失係数又はtanδにより特徴付けられる材料の減衰特性を評価することができる。0.3より大きい損失係数は、良好な減衰の特徴を示す。本発明のスベリンベースのエラストマー材料に関して、-16℃~13℃の範囲の温度で0.3より大きい損失係数が観察され、ピークは-3.6℃前後であった。これに対し、天然ゴムは、その損失係数のピーク温度が-50℃前後であることが知られており、これは多くの日常的な適用の作業範囲内ではない。特に、本発明のスベリンベースのエラストマー材料の有効な減衰温度は大幅に高く、従っていくつかの適用に関してより好適となる。
【0027】
スベリンベースのエラストマーの熱安定性をまた、TGAを使用してモニターした。本発明の材料は、小さい分解相に関して217℃前後の開始温度(262℃でDTGピーク)及び主要な分解相に関して355℃(426℃でDTGピーク)での2段階の分解挙動を示した(
図5)。さらに、本発明のスベリンベースのエラストマーの熱分解は、およそ8%の灰分を生じた。天然ゴムは本発明の材料よりも安定性が低く、その主要な分解ステップに関してDTGピークが400℃未満であることは注目に値する。
【0028】
最後に、DSCを使用して、本発明のエラストマーの酸化され易さをモニターした。酸素雰囲気で、本発明の材料は結晶化又は融解しなかったが、227℃前後で分解し始めることが見出された(
図5)。さらに、367℃超で第2の主要な分解ステップが観察された。特に、これらの分解温度は、窒素雰囲気下で行われたTGA実験において見出されるものと同様である。従って、本発明のエラストマーは、酸化する傾向はないと思われる。DSC実験において融解ピークがないことから、架橋エラストマーの形成が示され、これは、提案される、エステル結合を介して連結されるスベリン単量体の網目状構造の形成と一致する。さらに、発明者らは、特許請求されるエラストマーが多くの有機溶剤中で不溶性であることも観察し、実際に架橋ポリマーが存在することを示している(
図6)。まとめると、示されるデータは、本発明の全てのバイオベースのエラストマー材料が天然ゴムよりも安定であること及びこの安定性が本発明のエラストマーの網目状構造に由来することを示している。
【0029】
故に、架橋されることを特徴とする、本明細書中に記載の方法を使用して得ることが可能なエラストマー材料が、特許請求される。エラストマー材料はさらに、スベリン単量体の炭素鎖長が10~30、好ましくは16~24であることを特徴とする。ベツリン、ベツリン酸及びフェルラ酸は、単量体のスベリン基の一部であるとみなされ得る。この場合、スベリン単量体の炭素鎖長は10~30である。ベツリン、ベツリン酸及びフェルラ酸が単量体のスベリン基の一部とはみなされない場合、スベリン単量体の炭素鎖長は16~24である。
【0030】
本明細書中に記載の方法を使用して得ることが可能なエラストマー材料は、0.9~10MPaの引張強さを有し得る。
【0031】
本明細書中で開示される方法により得ることが可能なエラストマー材料の損失係数は、-20℃~20℃、例えば-10℃~10℃の温度範囲で最大である。エラストマー材料は、示差走査熱量測定を用いた融解実験において融解ピークを示さない。エラストマー材料は、250℃を超える温度でDTGピークをさらに示す。
【0032】
実施例
材料及び方法
材料
別段の断りがない場合、化学物質は、Sigma-Aldrich(Sweden)から購入した。樺皮は、Johansson lab(Department of Fibre and Polymer Technology,KTH,Stockholm)により提供された。
【0033】
樺皮のバイオリファイナリー
樺皮を削除し、Mixer Mill MM 400(Retsch)を使用して粉砕して粉末にした。ソックスレー抽出を20時間行うことによって、抽出物をエタノールで分離した。ロータリーエバポレーターを使用し、風乾してエタノールを蒸発させることによって、抽出物分画を得た。ソックスレー抽出からの残渣を乾燥させ、次いで、エタノール/水(9:1)中の0.5M NaOHを使用して、75℃で1.5時間、アルカリ加水分解に供した。次いで、この混合物をろ過し、リグニン-炭水化物分画を表す過ケーキを乾燥させた。加水分解されたスベリン単量体を含有するろ過後の溶液を0.1M硫酸でpHが~3.5になるまで酸性化した。続いて、スベリン単量体をメチルtert-ブチルエーテルで2回抽出した。最後に、溶剤を蒸発させ、スベリン単量体を風乾した。マスバランスをモニターするために、全ての乾燥単離分画の重量を測定した。
【0034】
得られた樺皮成分の分析
フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)
FT-IRスペクトルを、単一反射減衰全反射法(single-reflection attenuated total reflection)付属ユニット(Graseby Specac LTD)を備えるPerkin-Elmer Spectrum 2000機器(Norwalk,CT)上で収集した。4cm-1の分解能で4000cm-1~600cm-1から記録された16のスキャンからスペクトルの平均を算出した。
【0035】
核磁気共鳴分光法(NMR)
H1-NMRスペクトルを記録するために、重水素化クロロホルム又は重水素化DMSOの何れかの中で試料を最初に溶解した。次に、400MHzにてAM400(Bruker)上でNMRスペクトルを記録し、残留溶媒ピークを参照として使用した(CDCl3に対してδ=7.26;D6-DMSOに対してδ=2.5)。
【0036】
スベリンベースのエラストマーの調製及び特徴付け
示差走査熱量測定(DSC)を使用して、単離されたスベリン単量体混合物の溶融加工を試験した。およそ30mgのスベリン単量体を40μLのアルミニウムるつぼに移し、Gas Controller GC100(Mettler Toledo)を備えたDSC-1機器を使用してDSCデータを記録した。1℃/分の加熱速度で、30℃~100℃でN2雰囲気において試料を加熱した。スベリンベースのエラストマーを合成するために、エタノール中で単離された単量体混合物を溶解し、溶液をポリテトラフルオロエチレン製のペトリ皿(Cowie Technology)に移した。120℃にて60時間、試料をインキュベートした。エラストマーを室温まで冷まし、その時に未反応スベリン単量体をエタノールで除去した。最後に、エラストマーを風乾した。
【0037】
ポリエステル形成をモニターするために、エラストマーのFT-IRスペクトルを上記のように記録した。65℃で168時間にわたり異なるpH値(pH0;4;7;11;13)の溶液中で定められた重量(25~45mg)の試料をインキュベートすることによって、酸性及びアルカリ性条件に対する生成されたエラストマーの耐性をモニターした。次に、溶液を除去し、各試料を水で1回、エタノールで2回洗浄した。その後、試料を乾燥させ、質量損失を決定するために各試料の重量を測定した。生成されたエラストマーの異なる有機溶剤中での溶解度を試験するために、規定の重量(20~50mg)の試料を有機溶剤に浸漬し、65℃で3時間インキュベートした。次に、溶剤を除去し、各試料を乾燥させ、重量減少をモニターするために各試料の重量を決定した。エラストマーの疎水性を、CAM200接触角メーター(KSV Instruments LTD)を使用してその水接触角をモニターすることによって評価した。MilliQ水の水滴3μLを試料表面上に置き、10秒後に接触角を測定した。
【0038】
機械的特性
生成されたスベリンベースのエラストマーの的特性を評価するために、1:5を超える長さ対幅比の長方形の検体を調製した。応力-ひずみ挙動を、Instron 5944を使用して0.1mm/mmのひずみ度でモニターした。1Hzの振動数及び0.5%のひずみで、引張モードでQ800(TA Instruments)を使用して、動的粘弾性測定(DMA)を行った。最初に、-60℃まで検体を冷却し、10分後に温度を3℃/分の加熱速度で80℃まで上昇させた。
【0039】
熱的特性
DSC及び熱重量分析(TGA)を使用して、合成されたスベリンベースのエラストマーの熱的特性を試験した。DSC測定のために、およそ5~15mgの材料を40μLのアルミニウムるつぼに入れ、Gas Controller GC100(Mettler Toledo)を備えたDSC-1機器を使用してDSCデータを記録した。10℃/分の加熱速度で30℃~500℃においてN2又はO2雰囲気下で試料を加熱した。TGAを、TGA851e機器(Mettler Toledo)を使用して行った。最大20mgの生成されたエラストマーをアルミニウムパンに置き、試料を、窒素ガス雰囲気下で10℃/分の加熱速度で30℃~650℃で加熱し、重量減少を記録した。STARe Excellenceソフトウェア(Mettler Toledo)を使用して、データを分析した。
【国際調査報告】