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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】水素貯蔵用液体調合物
(51)【国際特許分類】
   C07C 15/16 20060101AFI20231214BHJP
   C01B 3/24 20060101ALI20231214BHJP
   H01M 8/0606 20160101ALI20231214BHJP
【FI】
C07C15/16
C01B3/24
H01M8/0606
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572279
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(85)【翻訳文提出日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 FR2021052222
(87)【国際公開番号】W WO2022123166
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】2012922
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ブラン, ジェローム
【テーマコード(参考)】
4G140
4H006
5H127
【Fターム(参考)】
4G140DA03
4H006AA01
4H006AB80
4H006AD17
4H006DA10
5H127AB04
5H127BA02
5H127BA16
(57)【要約】
本発明は、50重量%以上の量のベンジルトルエン及び0.5モル%未満の量のジフェニルメタンを含む液体調合物に関する。本発明はまた、0.5モル%未満のジフェニルメタンを含む水素の生成のためのLOHCとしての前記調合物の使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体調合物であって、
調合物の全重量に対して50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、より良好には80重量%以上、及び最も好ましくは90重量%以上の量のベンジルトルエン(BT)、及び、
BT+DPMの全モル数に対して、0.5モル%未満の量のジフェニルメタン(DPM)
を含む、液体調合物。
【請求項2】
98重量%以上の量のベンジルトルエンを含む、請求項1に記載の調合物。
【請求項3】
石油生成物から得られるか、及び/又は石油生成物から合成される生成物から得られる、あるいは再生可能な生成物から得られるか、及び/又は再生可能な生成物から合成される生成物から得られる、1つ又は複数の他のLOHC流体を含む、請求項1又は2に記載の調合物。
【請求項4】
ジベンジルトルエン、ジフェニルエタン、ジトリルエーテル、フェニルキシリルエタン、モノ-及びビキシリルキシレン、1,2,3,4-テトラヒドロ(1-フェニルエチル)ナフタレン、ジイソプロピルナフタレン、モノイソプロピルビフェニル、フェニルエチルフェニルエタン、N-エチルカルバゾール、フェニルピリジン、トリルピリジン、ジフェニルピリジン、ジピリジルベンゼン、ジピリジントルエン、及びそれらの2つ以上の任意の割合の混合物から選択される1つ又は複数の他のLOHC流体を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の調合物。
【請求項5】
ベンジルトルエン+ジベンジルトルエンの全重量に対して、少なくとも50重量%のベンジルトルエン及びジベンジルトルエン、好ましくは70重量%~80重量%のベンジルトルエン及び20重量%~30重量%のジベンジルトルエンを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の調合物。
【請求項6】
80重量%~99.9重量%のベンジルトルエン及び0.1重量%~20重量%のジベンジルトルエン(ベンジルトルエン+ジベンジルトルエンの全重量に対して)を含み、好ましくはベンジルトルエン+ジベンジルトルエンの全重量に対して、90重量%~99.9重量%のベンジルトルエン及び0.1重量%~10重量%のジベンジルトルエンを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の調合物。
【請求項7】
BT+DPMの全モル数に対して、0.4モル%以下、好ましくは0.3モル%以下、より好ましくは0.1モル%以下の量のDPMを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の調合物。
【請求項8】
0.5モル%未満の量のジフェニルメタンを含む、水素を生成するためのLOHC流体としての請求項1~7のいずれか一項に記載の調合物の使用。
【請求項9】
燃料電池において、又はマイクロプロセッサ、半導体などを製造するための電子機器分野において使用することができる水素を生成するための、請求項8に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を輸送することができる液体調合物の分野に関し、より詳細には、水素を輸送することができるベンジルトルエン系調合物の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の水素は、化石エネルギー源、天然エネルギー源又は電気エネルギー源の代替物の1つである。しかしながら、この水素エネルギー源を貯蔵及び輸送することは、このエネルギー源の迅速かつ利用可能な開発にとって依然として大きな課題である。
【0003】
この非常に揮発性が高く、非常に爆発性の高いガスをより容易に貯蔵及び輸送するための様々な手法が研究されており、加圧貯蔵、極低温貯蔵、及び支持体上での貯蔵が含まれる。企図され得る支持体の種類には、液体有機水素担体(LOHC)に基づく技術が含まれ、これは、大規模開発に完全に適合するコストを伴う長距離輸送において特に関心のある有望な技術である。
【0004】
このLOHC技術の原理は、水素化工程において、好ましくは、かつ最も多くの場合、常温で液体である支持体分子上に水素を固定し、次いで、脱水素化工程において、消費部位の近くで固定された水素を放出することにある。
【0005】
今日研究されているLOHC分子の中で、既に多くの研究及び特許出願の対象となっている2つ又は3つの環を有する芳香族液体、例えば、ベンジルトルエン(BT)及び/又はジベンジルトルエン(DBT)などは、この用途に特によく適した分子を表す。したがって、欧州特許第2925669号明細書は、LOHC技術におけるBT及び/又はDBTの使用を実証し、水素貯蔵及び放出におけるこれらの流体の水素化及び脱水素化操作を記載している。
【0006】
水素化及び脱水素化工程の瞬間的な性能品質を超えて、サイクルの順序及び性能品質(水素固定/放出収率)の維持、並びに脱水素化工程中に抽出(又は放出)される水素の純度は、この技術の経済的側面の重要なポイントである。
【0007】
これは、このLOHC技術から生じる水素が、例えば燃料電池、及び多様な産業プロセスなどの非常に多くの分野で、又は他に列車、ボート、トラック、自動車、航空機などのあらゆる輸送手段の燃料として使用されているためである。水素中に存在する任意の不純物は、微量であっても、収率に関して水素化/脱水素化プロセス、及び製造される生成物の品質、あるいはこの技術によって生成される水素の最終用途における収率の両方に悪影響を及ぼし得る。
【0008】
これらの潜在的な問題を克服するために、解決策の1つは、脱水素化工程中に放出される水素が可能な限り純粋であることである。しかしながら、脱水素化工程中に放出される水素は、脱水素化される有機液体中にしばしば存在する有機化合物に起因する不純物と不可避的に同伴する。
【0009】
これらの不純物は様々な種類のものであり、元のLOHC流体だけでなく、多くの水素化/脱水素化サイクルを経た後のLOHC流体(本明細書の残りの部分では「LOHC流体」と呼ばれる)にも、多かれ少なかれ存在し得る。
【0010】
現在最も広く研究され、最も有望なLOHC流体の中で、ベンジルトルエン(BT)は、特に、水素化/脱水素化の操作と完全に適合するその物理化学的特性及び既存の工業的調製能力によって、選択される化合物である。実際、BTは周知の市販の化合物であり、その調製方法も同様に当業者に周知である。例えば、BTは、現在当業者に周知の技術により、特に欧州特許第0435737号明細書に記載されているように、トルエンとクロロトルエンとの触媒反応により容易に調製可能である。
【0011】
しかしながら、特に最初のトルエン中に微量のベンゼンが存在するため、BTの合成は、ベンゼンとクロロトルエンとの間のカップリングから生じる副生成物であるジフェニルメタン(DPM)の形成をもたらし得る。望ましくないが、BTの水素化/脱水素化サイクル中にジフェニルメタンが形成される可能性もある。
【0012】
そのため、粗BT合成生成物だけでなく、水素化/脱水素化サイクルに関与しているBT系LOHC流体も、したがって、BTなどのLOHC流体中にあまりにも多量に存在する場合には破壊的であることが判明し得るジフェニルメタンを可変量で含有し得る。
【0013】
したがって、貯蔵期間(水素化/脱水素化サイクル)における収率及び脱水素化工程中に放出される水素の純度の両方の観点から機能するLOHC流体が依然として必要とされている。さらに別の目的は、以下により詳細に記載される本発明の説明の続きにおいて明らかになるであろう。
【発明の概要】
【0014】
本出願人は、ここで、脱水素化工程中に高純度水素を放出することができる水素の貯蔵及び輸送に完全に好適なLOHC流体調合物を見出した。
【0015】
したがって、第1の態様では、本発明は、少量のジフェニルメタン(DPM)を含有するベンジルトルエン(BT)に基づく液体調合物に関する。この種類の調合物は、特に、LOHC液体に関して先行技術において提起された欠点の一部又は全てを克服することを可能にし、最適な工業的及び経済的条件下で、特に水素の貯蔵、輸送及び抽出の要件を満たし、前記調合物の脱水素化の工程の間に、高純度水素、及び特に望ましくない生成物、特にDPM及びベンゼンなどの潜在的な分解生成物(後者は、例えば燃料電池における水素の使用に特に有害である)を非常に低いレベルで有する水素の放出を可能にする。
【0016】
さらには、ジフェニルメタンの融点(25℃)は、ベンジルトルエンの融点(-80℃)よりもはるかに高いが、他のLOHC流体であるジベンジルトルエンの融点(-38.5℃)よりも高い。その結果、DPMは、BT中に過剰量で存在する場合、濁りを形成するか、又は沈殿することさえあり、これは、特にパイプライン、ポンプ、バルブ及び本発明で企図される前記LOHC流体の使用に必要な他の機器を介したLOHC流体の輸送及び移送の操作中、特に輸送中及び水素化/脱水素化サイクルでの使用中に、破壊的又は禁止的でさえあることが判明し得る。
【0017】
さらに、ベンジルトルエン系液体調合物中にDPMが存在することは、主に、BTの合成中に使用される原料中にベンゼンが存在することに起因し、最終生成物中に微量のベンゼンが存在する潜在的なリスクを保持し、この場合、このベンゼンは脱水素化工程中に放出される水素を汚染する可能性がある。
【0018】
同様に、高温で、水素化/脱水素化サイクル中に使用される触媒と接触するDPMの不可避の分解は、相当量のベンゼンの形成をもたらす可能性があり、その場合、この場合、このベンゼンは、脱水素化工程中に放出される水素を汚染する可能性がある。
【発明を実施するための形態】
【0019】
より具体的には、本発明は、
調合物の全重量に対して50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、より良好には80重量%以上、及び最も好ましくは90重量%以上の量のベンジルトルエン(BT)、及び、
BT+DPMの全モル数に対して、0.5モル%未満の量のジフェニルメタン(DPM)
を含む、液体調合物に関する。
【0020】
本発明による調合物は、常温及び周囲圧力、すなわち25℃及び1気圧(1013mbar又は1013hPa)で液体である調合物である。
【0021】
先に示したように、本発明による調合物は、50重量%以上の量のBT、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、より良好には80重量%以上、及び最も好ましくは90重量%以上の量のBTを含む。特に好ましい1つの実施形態では、本発明による調合物は、98重量%以上の量のベンジルトルエン(BT)を含む。
【0022】
本発明による調合物は、好ましくは、ベンジルトルエンを単独で含むか、又は後に示すように、任意で、1つ又はあ複数の他のLOHC流体と一緒に含み、換言すれば、0.5モル%未満の量で存在するDPM以外の成分を含まない。したがって、及び好ましい1つの実施形態では、本発明による調合物は、99.99重量%以下の量のBT、好ましくは99.95重量%以下のBT、より好ましくは99.9重量%以下のBTを含む。
【0023】
先に示したように、調合物はまた、石油生成物から得られるもの及び/又は石油生成物から合成される生成物から得られるもの、あるいは再生可能な生成物から得られるもの及び/又は再生可能な生成物から合成される生成物から得られるものなど、当業者に周知の1つ又は複数の他のLOHC流体を含み得る。DPMは、本発明の意味において目的のLOHC流体であるとは考えられない。
【0024】
そのような他のLOHC流体は、例えば、限定されないが、ジベンジルトルエン(DBT)、ジフェニルエタン(DPE)、ジトリルエーテル(DT)、フェニルキシリルエタン(PXE)、モノ-及びビキシリルキシレン、1,2,3,4-テトラヒドロ(1-フェニルエチル)ナフタレン、ジイソプロピルナフタレン、モノイソプロピルビフェニル、フェニルエチルフェニルエタン(PEPE)、N-エチルカルバゾール、フェニルピリジン、トリルピリジン、ジフェニルピリジン、ジピリジルベンゼン、ジピリジントルエン、及びそれらの2つ以上の任意の割合の混合物から選択されるものであり、本発明の文脈において使用することができる主な既知の有機流体のみを示す。
【0025】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、調合物は、少なくとも50重量%のベンジルトルエン(BT)、及びジベンジルトルエン(DBT)を含む。本発明の1つの実施形態によれば、調合物は、(BT+DBTの全重量に対して)70重量%~80重量%のBT及び20重量%~30重量%のDBTを含む。別の実施形態によれば、調合物は、(BT+DBTの全重量に対して)80重量%~99.9重量%のBT及び0.1重量%~20重量%のDBTを含み、調合物は、好ましくは(BT+DBTの全重量に対して)90重量%~99.9重量%のBT及び0.1重量%~10重量%のDBTを含み、調合物は、より好ましくは(BT+DBTの全重量に対して)90重量%~99.5重量%のBT及び0.5重量%~10重量%のDBTを含む。
【0026】
先に示したように、本発明による調合物は、BT+DPMの全モル数に対して、0.5モル%未満、好ましくは0.4モル%以下、有利には0.3モル%以下、より好ましくは0.1モル%以下の量のDPMを含む。先に示したように、実際に、DPMはLOHC調合物が供される水素化/脱水素化の操作中であっても、脱水素化の操作中に放出される水素においても、その目的の用途に必要な純度を有し得ない水素においても、多くの欠点の原因となることが非常に多いことが立証されている。
【0027】
その理由は、LOHC流体の調合物は、液体形態の水素を安全に輸送するのに特によく適しているが、これらの調合物は、脱水素化工程中に放出される水素が、支持体を水素化するために使用される水素の純度と少なくとも同程度の純度を有することを確実にしなければならないからである。
【0028】
したがって、本発明による調合物を使用して輸送される水素は、特に、例えば燃料電池などの用途、及びマイクロプロセッサ、半導体などを製造するためのエレクトロニクス部門などの高純度水素の使用を必要とする任意の他の産業用途に完全に適合する純度を有する。
【0029】
本発明の好ましい1つの実施形態では、DPMは、調合物中に、BT+DPMの全モル数に対して、1モルppm~0.5モル%(端点を除く)、好ましくは1モルppmを超え0.3モル%以下、より好ましくは1モルppmを超え0.1モル%以下の量で存在する。
【0030】
好ましい実施形態を形成しないが、本発明による調合物は、当業者に周知であり、例えば、限定されないが、抗酸化剤、顔料、染料、香料、臭気マスキング剤、粘度調整剤、不動態化剤、流動点降下剤、分解阻害剤、及びそれらの混合物から選択される1つ又は複数の添加剤及び/又は充填剤をさらに含み得る。
【0031】
本発明の調合物に有利に使用され得る抗酸化剤としては、非限定的な例として、フェノール系抗酸化剤、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、トコフェロール、及びこれらのフェノール系抗酸化剤の酢酸塩なども挙げられる。さらなる例には、例えばフェニル-α-ナフチルアミンのようなアミン型の抗酸化剤、例えばN,N’-ジ(2-ナフチル)-パラ-フェニレンジアミンのようなジアミン型の抗酸化剤だけでなく、単独で、又はそれらの2つ以上の混合物として、又は例えば緑茶抽出物及びコーヒー抽出物のような他の成分と共に用いられる、アスコルビン酸及びその塩、アスコルビン酸のエステルがある。
【0032】
1つの実施形態では、本発明は、
50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、より良好には80重量%以上、及び最も好ましくは90重量%以上の量のベンジルトルエン(BT)と、
任意でBT以外の少なくとも1つの他のLOHC流体であって、好ましくは任意でジベンジルトルエン(DBT)である少なくとも1つの他のLOHC流体と、
BT+DPMの全モル数に対して、1モルppm~0.5モル%(端点を除く)、好ましくは1モルppmを超え0.3モル%以下、より好ましくは1モルppmを超え0.1モル%以下の量と、
任意で先に定義した少なくとも1つの添加剤と、
を含む調合物に関する。
【0033】
別の1つの実施形態では、本発明は、
50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、より良好には80重量%以上、及び最も好ましくは90重量%以上の量のベンジルトルエン(BT)と、及び
前記調合物に存在するLOHC流体の全重量に対して、0.1重量%~30重量の量のジベンジルトルエン(DBT)、
BT+DPMの全モル数に対して、1モルppm~0.5モル%(端点を除く)、好ましくは1モルppmを超え0.3モル%以下、より好ましくは1モルppmを超え0.1モル%以下の量と、
任意で先に定義した少なくとも1つの添加剤及び/又は充填剤と、
を含む調合物に関する。
【0034】
ベンジルトルエン(BT)は、周知の市販の化合物であり、その調製方法も同様に当業者に周知である。例えば、BTは、現在当業者に周知の技術により、特に欧州特許第0435737号明細書に記載されているように、トルエンとクロロトルエンとの触媒反応により容易に調製可能である。
【0035】
したがって、粗BT合成生成物だけでなく、水素化/脱水素化サイクルに関与しているBT系LOHC流体も、先に記載したように、可変量のDPMを含有し得る。したがって、本発明による調合物は、例えば、典型的には、これらの粗合成生成物又はBT系LOHC液体から、当業者に周知の任意の方法によって調製され得る。
【0036】
当業者に企図され、自明であり得る本発明による調合物を調製する方法は、例えば、DPMを除去するための、又は少なくともBTのDPM含有量を低下させるためのBT調合物の蒸留である。しかしながら、この解決策は、除去されるDPMの量がしばしば比較的少なく、沸点間の差が比較的低い(BTの沸点=280℃、DPMの沸点=264℃)ので、蒸留工程(加熱、真空又は分圧の適用など)を実施する工業プラントの高コスト及び複雑さを含む多くの欠点を有する。
【0037】
別の可能な方法は、DPMの形成を最小限にするために、非常に高純度のトルエン、特に、ベンゼンを含まないか、又は微量のベンゼンしか含まないトルエンから出発することである。しかしながら、この超純トルエンから生成される「純粋な」BT調合物のコストは、工業規模の使用には全く適合しない。
【0038】
1つの好ましい実施形態によれば、本発明による調合物は、有利には、濾過剤及び/又は吸着剤に対する1つ又は複数の処理によって、粗BT合成生成物から、又は粗BT蒸留生成物から、あるいはより多い又はより少ない数の水素化/脱水素化サイクルを既に受けたBT系調合物から得ることができる。
【0039】
本発明の文脈において使用することができる濾過剤は、任意の種類のものであってよく、当業者に周知である。最も好適であることが判明している濾過剤は、吸着濾過剤であり、より具体的には、ケイ酸塩、炭酸塩、石炭、及び任意の割合のこれらの鉱物の2つ以上の混合物に基づく鉱物から選択される1つ又は複数の化合物を含む濾過剤である。
【0040】
非限定的な例としては、鉱物又は有機濾過剤、及び特に粘土、ゼオライト、珪藻土、セラミック、炭酸塩、及び石炭誘導体から選択されるもの、並びに任意の割合のそれらの2つ以上の混合物も挙げられる。
【0041】
濾過剤、吸着剤、及び濾過吸着剤として、以下:
ケイ酸塩、及び例えば、限定されないが、アタパルジャイト、モンモリロナイト、セレナイト、ベントナイト、タルクなどのケイ酸マグネシウムを含む粘土、
天然又は合成ケイ酸アルミニウム、特にカオリン、カオリナイト、ゼオライト、
炭酸塩、例えば炭酸カルシウム及び/又は炭酸マグネシウム、及びより具体的には石灰石又はチョークの名称で知られているもの、
石炭、木材、例えばココナッツの殻、オリーブの種又は殻などの殻の誘導体、及びより一般的には活性炭の名称で知られているもの、
及びその他、並びにそれらの混合物、
を挙げることができる。
【0042】
ケイ酸塩、特に粘土及びゼオライトは、本発明の調合物を調製するのに特に有効であることが判明している。実際、ケイ酸塩は、50重量%以上の量のベンジルトルエン(BT)を含む調合物中に存在するDPMの量を除去するか、又は少なくとも実質的に低減するのに特に好適であることが判明している。
【0043】
本発明の特に好ましい1つの実施形態によれば、本発明の調合物を調製するために有利に使用することができる濾過剤の例としては、BASFからのアタパルジャイトMicrosorb(登録商標)16/30LVM(化学式(Mg,Al)Si22(OH)4,SiOを有するマグネシウム-アルミニウム粘土の例)、Minerals TechnologiesからのAmcol Rafinol 900 FF、Minerals TechnologiesからのAmcol Rafinol 920 FF、Minerals TechnologiesからのAmcol Mineral Bent(アルミニウムヒドロシリケート)、及びArkemaからのSiliporite(登録商標)製品、特にMK30B0及びMK30B2(アルミノケイ酸塩ゼオライトに基づく調製物)が挙げられる。
【0044】
特に好ましい1つの実施形態では、本発明による調合物を調製するために使用される濾過剤は、モレキュラーシーブ(「ゼオライト吸着剤」とも呼ばれる)、特に少なくとも50%のBTを含む調合物中に存在するDPMを可能な限り選択的に吸着させることができるモレキュラーシーブから選択される。
【0045】
最も適切なゼオライト吸着剤材料、すなわち、1つ又は複数のゼオライトを含む材料は、有利には、合成ゼオライトに基づくモレキュラーシーブから選択され、これは、それらが調製される多種多様なプロセスのために、想定される使用のために必要とされる特定の基準を満たすために、例えば、熱安定性、機械的強度、又は再生のための能力などの微調整が可能な非常に多様なパラメータを提供する。
【0046】
好ましい1つの実施形態によれば、本発明の文脈での使用に最も好適なゼオライト吸着剤材料としては、天然又は合成ゼオライト、及びより具体的には、天然ゼオライト、例えばチャバサイト、及び合成ゼオライト、特にLTA型ゼオライト、FAU型ゼオライト、EMT型ゼオライト、MFI型ゼオライト、及びBEA型ゼオライトから選択されるゼオライト吸着剤材料が挙げられる。
【0047】
これらの様々な種類のゼオライトは、当業者には商業的に容易に入手可能であるか、又は科学文献及び特許文献で入手可能な既知の手順によって容易に合成可能である。さらに、様々な種類のゼオライトが明確に定義されており、例えば、「Atlas of Zeolite Framework Types」、第5版、(2001年)、Elsevierに記載されている。
【0048】
上述した濾過剤及び/又は吸着剤の処理、特に上述したゼオライトの処理は、合成プロセスにおける出発物質としての超高純度トルエンの選択に対して、さらには高価で複雑な蒸留操作に対して、効果的で経済的な代替物である。濾過剤及び/又は吸着剤、特にゼオライト上での処理による本発明の調合物の調製は、非常に高純度の最終生成物(BT)の提供を可能にしながら、許容可能なコストでより多くの種類の出発物質を許容するという大きな利点を有する。さらに、濾過剤及び/又は吸着剤、特にゼオライトの使用はまた、BTの調製において本質的に存在するか、又は本発明による調合物の水素化/脱水素化の多くのサイクル中に生成される1つ又は複数の他の不純物及び望ましくない化合物の一部又は全部の除去を可能にする。
【0049】
一例として、0.5モル%を超える量、典型的には0.7、0.8及び0.9モル%のDPMを含有するBT調合物は、有利には、典型的には結合剤、一般的には粘土と凝集したゼオライトの結晶の形態で、ゼオライト系吸着剤の床を通過する。ゼオライト結晶は、好ましくは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のカチオン、より具体的にはリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムカチオンから有利に選択される1つ又は複数のカチオンを含む。ゼオライト系吸着剤の例としては、Arkemaから販売されているSiliporite(登録商標)範囲のゼオライト系吸着剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
ゼオライト系吸着剤の床での処理は、任意の温度で、有利には5℃~80℃の間の温度で、典型的には約40℃で、通常は大気圧で、プロセスの利便性の明らかな理由から行うことができるが、ただし、吸着剤の床を通過する流れの通過を促進及び/又は容易にするために、増加又は減少させた圧力に曝すことができる。
【0051】
上記のゼオライト系吸着剤の処理は、特に、BT調合物のDPM含有量を0.20モル%未満、より良好には0.15モル%未満、またさらに良好には0.10モル%未満の値に低下させることを可能にする。
【0052】
別の態様によれば、本発明は、低レベルの不純物を含む水素を生成するための、特に、H+DPMの全モル数に対して0.5モル%未満の量のジフェニルメタンを含む水素を生成するための、LOHC流体としての上記で定義した調合物の使用に関する。
【0053】
本発明の調合物により、脱水素化工程中に貯蔵され、次いで放出される水素は、高純度水素であり、特に無視できる量のベンゼンのみを含有するか、又はベンゼンを含有しない水素である。したがって、このようにして生成された水素は、非常に多くの用途、特に燃料電池、及び高純度水素の使用を必要とする全ての他の産業用途、例えばマイクロプロセッサ、半導体などを製造するための電子機器分野で使用することができる。
【国際調査報告】