IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デーラー ゲーエムベーハーの特許一覧

特表2023-553265少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質を選択的に分離する方法、及び食品、嗜好品、化粧品又は医薬品における該物質の使用
<>
  • 特表-少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質を選択的に分離する方法、及び食品、嗜好品、化粧品又は医薬品における該物質の使用 図1
  • 特表-少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質を選択的に分離する方法、及び食品、嗜好品、化粧品又は医薬品における該物質の使用 図2
  • 特表-少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質を選択的に分離する方法、及び食品、嗜好品、化粧品又は医薬品における該物質の使用 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質を選択的に分離する方法、及び食品、嗜好品、化粧品又は医薬品における該物質の使用
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/20 20160101AFI20231214BHJP
   A23L 2/56 20060101ALI20231214BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20231214BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20231214BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20231214BHJP
   C12N 9/26 20060101ALN20231214BHJP
   A23L 2/00 20060101ALN20231214BHJP
【FI】
A23L5/20
A23L2/56
A23L27/00 C
A23L29/00
A23L5/00 H
C12N9/26 A
A23L2/00 B
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023528964
(86)(22)【出願日】2021-11-16
(85)【翻訳文提出日】2023-07-07
(86)【国際出願番号】 EP2021081893
(87)【国際公開番号】W WO2022106430
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】102020130250.9
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102020133525.3
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102021002339.0
(32)【優先日】2021-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522364930
【氏名又は名称】デーラー ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100189474
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 修
(72)【発明者】
【氏名】ビアフォラ,アゴスティノ
(72)【発明者】
【氏名】ビュットナー,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】カルテンブルナー,アクセル
(72)【発明者】
【氏名】ミシキーウィッチ,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】スティラー,ヤン
【テーマコード(参考)】
4B035
4B047
4B117
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LG04
4B035LG05
4B035LG07
4B035LG17
4B035LP21
4B035LP22
4B035LP24
4B035LP41
4B047LB09
4B047LF07
4B047LG05
4B047LG28
4B047LG57
4B047LP01
4B047LP02
4B047LP07
4B117LC10
4B117LK06
4B117LK07
4B117LK08
4B117LK13
4B117LK24
4B117LL01
4B117LP01
4B117LP03
4B117LP06
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つの無極性有機物質を選択的に分離する方法であって、(a)少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質1及び任意に溶媒3;4;40を含有する出発混合物10を準備する工程と、(b)出発混合物を少なくとも1つのシクロデキストリン2と接触させ、それによりシクロデキストリン-芳香性物質複合体12を得る工程と、任意に、(c)複合体12を液相から分離する工程と、(d)分離された複合体12を、特に酵素によって処理する工程と、任意に、得られた混合物を濾過する工程とを含み、少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質が装填された組成物6が得られる、方法に関する。本発明は、少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質1が装填された組成物6、及び少なくとも1つの無極性有機物質1を食品、嗜好品、化粧品又は医薬品に導入するための上記組成物6の使用にも関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(AOS)(1)及び/又は少なくとも1つ以上の芳香性物質を選択的に分離する方法であって、
(a)少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(AOS)及び/又は少なくとも1つ以上の芳香性物質(1)、並びに任意に少なくとも1つの溶媒(3;4;40)を含有する出発混合物(10)を準備することと、
(b)前記出発混合物(10)を少なくとも1つのシクロデキストリン(2)と接触させることと、
を含み、少なくとも1つの溶媒、特に水を工程(a)及び/又は工程(b)において、及び/又は工程(b)の後に添加し、
前記少なくとも1つのシクロデキストリン(2)と前記出発混合物(10)の前記少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質及び/又は前記少なくとも1つ以上の芳香性物質(1)との接触の結果として、少なくとも1つのシクロデキストリン-AOS複合体及び/又はシクロデキストリン-芳香性物質複合体(12)が液相、特に水相(3;4)中に得られる、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(1)が、揮発性芳香性物質、不揮発性芳香性物質、例えば苦味物質、油画分、脂肪画分及び/又はワックス画分、着色剤、並びに接着剤、特に植物性及び/又は動物性の出発原料からのもの、並びに言及した物質のうち少なくとも2つの混合物を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)及び/又は工程(b)において、及び/又は工程(b)の後に、
水分含量を15vol%~35vol%、好ましくは20vol%~30vol%の範囲に調整し、
及び/又はエタノール含量を少なくとも40vol%、好ましくは40vol%~60vol%の範囲のエタノール含量となるように調整することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(c)前記シクロデキストリン-AOS複合体及び/又は前記シクロデキストリン-芳香性物質複合体(12)を前記液相から分離する更なる工程、
を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(d)特に分離された、前記シクロデキストリン-AOS複合体及び/又は前記シクロデキストリン-芳香性物質複合体(12)を酵素によって、及び/又はシクロデキストリンを分解することが可能な酵母、真菌及びそれらの混合物を含む群から選択される生物で処理する更なる工程、
を含み、少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(AOS)(1)及び/又は少なくとも1つの芳香性物質が装填された組成物(6)が得られる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(d1)工程(c)において分離された前記シクロデキストリン-AOS複合体及び/又は前記シクロデキストリン-芳香性物質複合体(12)を、工程(d)における処理、特に酵素による処理の前に水で希釈する更なる工程、
を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程(d)を、少なくとも1つの無極性有機物質(AOS)及び/又は少なくとも1つの芳香性物質(1)が装填された前記組成物(6)中のシクロデキストリン濃度が0.5wt%未満、好ましくは0.1wt%未満となるように行うことを特徴とする、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
(e)前記シクロデキストリン-AOS複合体及び/又は前記シクロデキストリン-芳香性物質複合体(12)の特に酵素による処理から得られる混合物を濾過する更なる工程、
を含み、少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(AOS)及び/又は少なくとも1つの芳香性物質が装填された組成物(6)が得られる、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(a)及び/又は工程(b)において、及び/又は工程(b)の後に少なくとも1つの溶媒を使用し、該溶媒が水、C~Cアルコール、ジエチルエーテル、アセトン又はそれらの混合物、好ましくは水、エタノール及びそれらの混合物を含む群から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
シクロデキストリン(2)として、少なくとも1つの置換若しくは非置換のα-シクロデキストリン、少なくとも1つの置換若しくは非置換のβ-シクロデキストリン、少なくとも1つの置換若しくは非置換のγ-シクロデキストリン、少なくとも1つの置換若しくは非置換のδ-シクロデキストリン、又はそれらの混合物、好ましくは置換又は非置換のγ-シクロデキストリン、最も好ましくは10wt%の置換又は非置換のβ-シクロデキストリンと90wt%の置換又は非置換のγ-シクロデキストリンとからなる混合物を使用する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程(c)における前記シクロデキストリン-AOS複合体(12)の分離を遠心分離又は濾過、好ましくは真空濾過又はナノ濾過によって行う、請求項4~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
(c1)前記シクロデキストリン-AOS複合体及び/又は前記シクロデキストリン-芳香性物質複合体を前記液相から分離する前に静置する更なる工程、
を含み、工程(c1)による静置段階を特に最大24時間、好ましくは最大12時間、最も好ましくは2時間にわたって行う、請求項4~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程(c)において前記シクロデキストリン-AOS複合体及び/又は前記シクロデキストリン-芳香性物質複合体(12)を分離することによって得られた分離液相を、少なくとも1つのシクロデキストリン(2)と再び混合し、特に工程(a)に再循環させることで収率を最大限に高める、請求項4~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程(c)において分離された前記シクロデキストリン-AOS複合体及び/又は前記シクロデキストリン-芳香性物質複合体(12)を、工程(d)における特に酵素による処理の前に、工程(d1)において水で希釈することで、1つ以上の親水性有機物質及び/又は1つ以上の芳香性物質(1)の所望の最終濃度を得る、請求項5~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
工程(d)における酵素処理を、アミラーゼ活性を有する酵素、好ましくはα-アミラーゼ、最も好ましくは真菌α-アミラーゼ、脱分枝酵素、特にプルラナーゼ及び/又はイソアミラーゼ、並びにこれらの酵素のうち少なくとも2つの混合物を含む群から選択される少なくとも1つの酵素(5)を用いて行う、請求項5~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つの酵素(5)を分離固相1g当たり5FAU~1000FAUの範囲の量で使用する、請求項5~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
揮発性芳香性物質、不揮発性芳香性物質、例えば苦味物質、油画分、脂肪画分及び/又はワックス画分、着色剤、並びに接着剤、特に植物性及び/又は動物性の出発原料からのもの、並びに言及した物質のうち少なくとも2つの混合物を含む群から選択される、少なくとも1つの芳香性物質及び/又は少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(1)と、
6又は7又は8又は9グルコース単位の鎖長を有する少なくとも1つのサッカリド(20)、並びに任意に少なくとも1つのシクロデキストリンの分解生成物、特にグルコース及び/又はマルトースと、
を含む、特に請求項1~16のいずれか一項に記載の方法によって生成される組成物(6)。
【請求項18】
0.0vol%のエタノール含量を有することを特徴とする、請求項17に記載の組成物(6)。
【請求項19】
揮発性芳香性物質、不揮発性芳香性物質、例えば苦味物質、油画分、脂肪画分及び/又はワックス画分、着色剤、並びに接着剤、特に植物性及び/又は動物性の出発原料からのもの、並びに言及した物質のうち少なくとも2つの混合物を含む群から選択される、少なくとも1つの芳香性物質及び/又は少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(1)を食品、嗜好品、化粧品又は医薬品、好ましくは食品又は飲料、最も好ましくは0.0vol%のエタノール含量を有する食品又は嗜好品又は飲料又は化粧品又は医薬品に導入するための請求項17若しくは18に記載の組成物(6)又は請求項1~16のいずれか一項に記載の方法によって生成される組成物の使用。
【請求項20】
特に食品、嗜好品、化粧品、医薬品及びこれらの製品の中間製品を含む群から選択される物質系の濾過における濾過助剤としてのβ-シクロデキストリンの使用。
【請求項21】
食品、嗜好品、化粧品又は医薬品を構成する製品を風味付け及び/又は安定化する方法であって、風味付けされる製品に請求項17若しくは18に記載の組成物(6)及び/又は請求項1~16のいずれか一項に記載の方法によって生成される組成物(6)を添加することを含む、方法。
【請求項22】
請求項17若しくは18に記載の組成物(6)又は請求項1~16のいずれか一項に記載の方法によって生成される組成物(6)を含む、食品又は嗜好品又は化粧品又は医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの無極性基を含む有機物質を選択的に分離する方法、少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質を含む組成物、及び食品、嗜好品、化粧品又は医薬品におけるこの選択的に分離された有機物質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
健康的なライフスタイルに対する人々の関心の高まりから、スパークリングワイン(シャンパン)、レモネード又はビール等のノンアルコール飲料の販売が促進されている。このため、楽しめる味及び快い匂いを有するだけでなく、エタノールを全く使用しない飲料及び食品の製造を可能にする新たな製造技術を模索する必要がある。
【0003】
欧州食品情報規制(European Food Information Regulation)(LMIV)によると、アルコールのラベル表示義務は、1.2vol%からしかない。「アルコールフリー」という表示は、必ずしも「アルコール無含有」を意味するわけではない。例えば、「アルコールフリー」と宣伝されているビール及びワインは、最大で0.5vol%のアルコールを含有することがある。別の飲料(ワイン又はビール以外)を「アルコールフリー」と宣伝する場合、これはアルコールを全く含有しない必要があり、すなわちアルコール含量は0.0vol%である。そうでなければ、「アルコールフリー」というラベル表示は、誤解を招き、消費者を欺くものとみなされる。本明細書で使用される場合、「アルコール」という用語は、エタノールを指す。
【0004】
食品のみならず嗜好品、化粧品及び医薬品の重要な成分は、溶媒を用いた抽出プロセスによって得られ、エタノールが使用されることが多い。しかしながら、このようにして得られた成分は、エタノール残留物を含有することがあり、かかる成分を含有する製品は、「アルコールフリー」ではない。
【0005】
本文脈において関心が持たれる、エタノール中での抽出によって得られる成分としては、揮発性芳香性物質に加えて、不揮発性芳香性物質、例えば苦味物質、油画分、脂肪画分及び/又はワックス画分、着色剤、並びに接着剤、植物性及び/又は動物性の出発原料及び他の天然源からのもの、例えば微生物又は真菌に由来する及び/又は合成起源の芳香性物質が挙げられる。
【0006】
これらの物質は、分子中に少なくとも1つの無極性基を有するため、無極性又は両親媒性のいずれかであり得る。以下では、これらの物質も、まとめて簡潔に「無極性有機物質」という用語に包含され、読みやすくするために「AOS」と略されることもある。
【0007】
長年、特にビール/ワイン等の製品の脱アルコールプロセス及び/又は濃縮プロセスから、若しくはジュースから芳香性物質を回収する技術、又は柑橘ジュースから苦味物質等の望ましくない物質を除去する技術だけでなく、化粧品及び医薬品から無極性有機物質を回収又は除去する技術にも大きな関心が寄せられており、このようにして得られた抽出物は、製品のアルコールフリーの再芳香化、すなわち風味付けに、又は他の方法で、例えばワックスの場合にはコーティング剤として使用することができる。
【0008】
文献には、望ましい無極性有機物質の回収及び望ましくない無極性有機物質、特に水又はエタノール等の液体に溶解する芳香性物質の除去のための4つの基本的な分離プロセスが記載されている:(1)使用した溶媒の蒸発により純粋な物質又は所望の画分が最終的に得られる、有機溶媒による液/液抽出。(2)AOS又は芳香物質を含有する液体の精留。(3)無極性芳香性物質を液相から固相に富化する収着プロセス。(4)固体芳香成分の沈殿及び結晶化。(5)超臨界ガスによる直接抽出、パーコレーション。植物性又は動物性の出発原料からの脂肪画分、油画分及びワックス画分については、水蒸気蒸留及び圧搾等の機械的プロセスも適用可能である。
【0009】
抽出は広範な用途を有するが、多くは塩素系の多量の有機溶媒の使用は、環境及び持続可能性の観点から大いに問題がある。さらに、熱的に不安定な物質が溶媒の蒸発時に不可逆的に破壊される可能性がある。エタノール自体が様々な有機溶媒に可溶であるため、例えば液/液抽出によるエタノール抽出物からの芳香性物質の回収も困難である。最終生成物が「アルコール無含有」(すなわち0.0vol%のアルコール含量)の記述を満たさないため、エタノール抽出物を用いた直接再芳香化は除外される。
【0010】
通常は、抽出物に含まれる芳香性物質とともに共沸混合物が形成されるため、精留によりエタノール又は水を選択的に除去することはできない。さらに、熱的に不安定な芳香付与成分が不可逆的に破壊される可能性がある。
【0011】
収着プロセスの場合、所望の富化された物質を無極性媒体で再溶出する。特に食品産業においては、エタノールを溶離液として使用することが多く、これにより抽出物が0.0vol%の用途では使用不能となる。二酸化炭素も更なる溶離液として使用される。特許文献1には、吸着担体に担持されたホップ油を初めに液体二酸化炭素で処理して、第1の画分を分離し、続いて超臨界二酸化炭素で処理して、第2の画分を分離することによる、2種以上の画分をホップ油から抽出するプロセスが記載されている。超臨界二酸化炭素を共溶媒と組み合わせることで、他の画分を分離することができる。液体/超臨界二酸化炭素による溶出では、先に述べた望ましくないアルコールの使用が回避されるが、ガスを排出する際の収率の損失が高い。CO抽出プラントの建設及び運転には費用がかかり、特定の安全要件がある。
【0012】
圧搾等の機械的プロセスは、主に油抽出の分野で使用され、溶媒を全く必要としない。しかしながら、これらのプロセスは、全ての無極性有機物質、特に植物からの全ての油及びワックスの回収に普遍的に適用することはできない。
【0013】
したがって、少なくとも1つの無極性有機物質、特に少なくとも1つの芳香性物質を、好ましくは植物性又は動物性の製品等の天然源から選択的に得る方法を提供することが目的であり、これにより、得られる物質を、「アルコール無含有」とラベル表示し得る食品、嗜好品、化粧品及び/又は医薬品に使用することが可能となる。かかる製品は、特に「FTNS」(「指定供給源由来(From the named source)」)という表示のための品質要件を満たす必要がある。その目的は、いわゆる「クリーンラベル」製品を可能にすることである。本発明の更なる目的は、苦味物質等の不揮発性芳香性物質を選択的に得ること、並びに油画分、脂肪画分及び/又はワックス画分を植物性及び/又は動物性の出発原料から選択的に得ることを可能にすることである。
【0014】
従来技術から、望ましくない物質を食品系から除去するためにシクロデキストリンを使用する多数のプロセスが知られている。シクロデキストリンは水溶性であり、毒性学的及び環境的に無害である。例えば、シクロデキストリンは、バター(特許文献2)又は卵(特許文献3、特許文献4)からコレステロールを除去するために使用される。かかる除去プロセスは、通常は2つの段階からなる:初めに、シクロデキストリンを食品系と混合して、シクロデキストリンと望ましくない物質との間の複合体(ゲスト-ホスト複合体)を形成し、続いて、この複合体を食品系から除去する。シクロデキストリンは、例えば熱い水又はアルコール(40℃~100℃)での処理によって複合体から再び放出することができ(脱複合体化)、その後、除去プロセスに再使用することができる。
【0015】
以前から知られている芳香性物質の抽出におけるシクロデキストリンの使用には、脱複合体化に使用する溶媒をより大量に使用し、加熱する必要があるという不利点があり、これが芳香物質濃度の希釈をもたらし、付加的な技術的複雑さ及び高いコストも引き起こす。エタノールを溶媒として脱複合体化に使用する場合、芳香物質濃度の希釈に加えて、風味プロファイルに影響を与えることなく、このエタノールを再び除去することができないという事実に関連する別の問題が生じる。
【0016】
驚くべきことに、本発明者らは、水性媒体及びアルコール媒体中のシクロデキストリンが、エタノール中での抽出によって得ることができる、特に食品用のかかる成分、例えば芳香性物質、苦味物質、油、脂肪及びワックス、接着剤、並びに着色剤をその空洞に可逆的に取り込み得ることを見出した。
【0017】
かかる成分は、少なくとも1つの無極性基を有し、すなわち無極性又は両親媒性のいずれかであり得る。両親媒性成分は、少なくとも1つの無極性部分に加えて少なくとも1つの極性部分を有する。少なくとも1つの無極性基を含む有機物質は、すなわち極性部分も有し、特に両親媒性であったとしても、以下で「無極性有機物質」と称される。この用語は、「AOS」と略されることもある。エタノール中での抽出によって得られ、本発明の意味において少なくとも1つの無極性基を含む有機物質は、水中でエタノールよりも疎水性である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】欧州特許第3063260号
【特許文献2】豪国特許出願公告第638531号
【特許文献3】欧州特許出願公開第326469号
【特許文献4】欧州特許第475451号
【発明の概要】
【0019】
したがって、本発明は、好適なシクロデキストリンを選択することにより、無極性有機物質を出発混合物からシクロデキストリンと無極性有機物質とからなる複合体へと選択的に移行させる可能性を提供した。
【0020】
このため、本発明は、請求項1による方法及び請求項17による組成物によって、前述した目的を非常に単純な方法で達成する。
【0021】
本発明は、少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(AOS)及び/又は少なくとも1つ以上の芳香性物質を選択的に分離する方法であって、
(a)少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(AOS)及び/又は少なくとも1つ以上の芳香性物質、並びに任意に少なくとも1つの溶媒を含有する出発混合物を準備することと、
(b)出発混合物を少なくとも1つのシクロデキストリンと接触させることと、
を含み、工程(a)及び/又は工程(b)において、及び/又は工程(b)の後に、少なくとも1つの溶媒、特に水を添加し、
少なくとも1つのシクロデキストリンと出発混合物の少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質及び/又は少なくとも1つ以上の芳香性物質との接触の結果として、少なくとも1つのシクロデキストリン-AOS複合体及び/又は少なくとも1つのシクロデキストリン-芳香性物質複合体が液相、特に水相中に得られる、方法を提供する。
【0022】
「上記シクロデキストリン」又は「シクロデキストリン」という用語は、それぞれの材料系、例えば出発混合物又は液相中のシクロデキストリンの分子全体を意味すると理解される。これは、「上記シクロデキストリン-AOS複合体」又は「シクロデキストリン-AOS複合体」という表現にも相応に当てはまる。
【0023】
本発明による方法は、少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質、例えば芳香性物質又は苦味物質が装填された組成物を得ることを可能にする。これにより、例えば熱的に不安定な物質の可逆的な保護がもたらされ、これは必要とされなくなればすぐに除去することができる。
【0024】
少なくとも1つの無極性有機物質が出発混合物中に存在する材料系によっては、本発明の方法を行うことを可能とするために、任意の溶媒又は更なる溶媒を添加する必要はない。例えば、出発混合物は、それ自体が既に溶液であってもよく、又は工程(b)において水に溶解したシクロデキストリンを添加した後、この水の形態で十分な溶媒を含有していてもよい。
【0025】
複合体形成の質は、出発混合物の溶媒含量、特に水分含量及び/又はエタノール含量を調整することによって影響を受けることがある。したがって、本発明は、適用事例に応じて、工程(a)及び/又は工程(b)において、及び/又は工程(b)の後に少なくとも1つの溶媒中で投入する選択肢を与える。この場合、当業者であれば、複合体形成の質が用途に最適化されるように溶媒含量を調整するであろう。シクロデキストリンの選択、温度、及び/又は例えば撹拌機速度を調整することによる複合体形成時のエネルギー投入量も、複合体形成の質に影響を及ぼす可能性を与える。
【0026】
複合体形成の条件は、本発明の範囲内で分離すべき無極性有機物質に適合させることができる。特に、例えば苦味剤が選択的に複合体形成及び単離され得るか、或いはそのままにされ得るように、本発明の範囲内で抽出条件を調整することが可能である。
【0027】
本発明の有利な実施の形態においては、この目的で、工程(a)及び/又は工程(b)において、及び/又は工程(b)の後に、特に水を添加することによって、水分含量を15vol%~35vol%、好ましくは20vol%~30vol%の範囲となるように調整し、及び/又は特にエタノールを添加することによって、エタノール含量を少なくとも40vol%、好ましくは40vol%~60vol%の範囲のエタノール含量となるように調整することが企図される。
【0028】
無極性有機物質、特に芳香性物質及び/又は苦味物質のエタノール含有抽出物は、出発原料と非常によく似た天然の複雑な風味プロファイルを有するため、食品、嗜好品、化粧品又は医薬品に添加される香料に使用するのに非常に適している。本発明では、シクロデキストリンを用いた無極性有機物質の複合体形成時に水分含量及び/又はエタノール含量を調整することにより、アルコールフリー製品について脱アルコール後にこの複雑さを得ることが可能である。
【0029】
プロセス最適化の過程において、水で15vol%~35vol%、好ましくは20vol%~30vol%の範囲に希釈することで、揮発性芳香又は風味成分についてのシクロデキストリンの複合体形成の質が大幅に高まることが見出された。しかしながら、物質系によっては、水の添加の驚くべき結果として、苦味物質等の不揮発性芳香又は風味成分がそれ以上複合体形成されない可能性がある。そのため、抽出物の天然の芳香プロファイルが変化する。驚くべきことに、本発明の文脈において、シクロデキストリンとの複合体形成時の液相のエタノール含量が少なくとも40vol%であれば、苦味物質の複合体形成が依然として達成され得ることが見出された。
【0030】
したがって、本発明は、揮発性芳香物質に加えて苦味物質等の不揮発性芳香物質も含有するエタノール抽出物から、特徴的な芳香又は風味プロファイルを得ることを可能にする。このため、本発明は、苦味物質等の不揮発性芳香性物質を、無極性有機物質を含有する抽出物から、すなわちそれらの複合体形成に不利な条件下、特に40vol%未満のエタノール含量で選択的に除去する可能性も与える。
【0031】
食品系におけるシクロデキストリン(CD)の使用は知られているが、本発明者らの知識によると、少なくとも1つの無極性基を有する芳香性物質又は他の有機物質を選択的に得るために使用されたことはなかった。このため、本発明は、アルコールフリー(すなわちエタノール無含有)の申告不要のFTNS(「指定供給源由来」)の芳香性物質又は苦味物質を水性抽出物だけでなく、(特に)エタノール抽出物からも得るためにシクロデキストリンを使用する方法を提供する。
【0032】
したがって、本発明は、シクロデキストリンを用いて、少なくとも1つの無極性基を含む有機物質、及び/又は少なくとも1つの芳香性物質若しくは複数の芳香性物質を水性抽出物又はエタノール抽出物又は他の抽出物から濃縮形態で分離する/得ることを可能にする一方で、技術的複雑さ(及び溶媒の消費)を減少させ、プロセス全体を適度な温度で実行することができる方法を提供する。そのように得られた芳香性物質等の無極性有機物質は、「アルコール無含有」とラベル表示し得る食品、嗜好品、化粧品及び/又は医薬品に使用するのに適している。
【0033】
本発明により、油画分、脂肪画分及び/又はワックス画分、特に植物性及び/又は動物性の出発原料からのものを選択的に得ることも可能にするプロセスが見出された。シクロデキストリンは、水溶性であるとともに、標的物質に結合し得ることから、驚くほど単純な方法でこの目的に適した補助剤であることが証明された。標的物質は、溶媒を更に使用することなく、シクロデキストリン-AOS複合体から再び除去することができる。
【0034】
本発明は、シクロデキストリンを用いた出発混合物からの抽出により、ゲストとしてホストであるα-及び/又はβ-及び/又はγ-及び/又はδ-シクロデキストリンと反応し、複合体を形成するのに十分に疎水性である、少なくとも1つの無極性基を含む有機物質の全てを得ることができる。言い換えると、少なくとも1つの無極性基を含むそれぞれの有機物質は、溶液からα-及び/又はβ-及び/又はγ-及び/又はδ-シクロデキストリンの空洞内に入るのに十分に疎水性である。本発明の文脈において、必ずしも無極性物質全体がシクロデキストリンの空洞内に複合体形成される必要はない。例えば、脂肪及び有機酸の場合、本質的に物質の疎水性部分のみがシクロデキストリンの空洞内に複合体形成される。モデル構想によると、物質の極性部分は空洞から突き出る。両親媒性物質の場合、疎水性部分も空洞に収容され、親水性部分は、いわば手付かずである。
【0035】
本発明による方法では、無極性有機物質が高い熱負荷に曝されることが回避される。この目的で、本発明によると、少なくとも40℃ないし最大でも70℃の範囲の最高温度、好ましくは少なくとも40℃ないし55℃以下の温度で方法を行うことが意図される。これらの温度は、以下で更に説明する工程(d)に特に関連する。工程(b)においては、温度は好ましくはより低く、特に4℃~10℃の範囲、好ましくは6℃である。
【0036】
本発明は、それにより、少なくとも1つの無極性基を有する少なくとも1つの有機物質を、
二次代謝産物、
植物化学物質、特に二次植物物質、
揮発性芳香性物質、
不揮発性芳香性物質、例えば苦味物質、
着色剤、
油画分、脂肪画分及び/又はワックス画分、
接着剤、
特に天然由来のもの、好ましくは植物性及び/又は動物性の出発原料からのもの、
並びに言及した物質のうち少なくとも2つの混合物、
を含む群から選択することができることから、種々の適用分野に使用され得るという利点を与える。
【0037】
ここで特に興味深いのは、微生物又は真菌から得られるものを含む天然芳香性物質である。フェノール物質は、着色剤を安定化するのに重要であり得る。
【0038】
本発明の有利な実施の形態においては、方法は、
(c)シクロデキストリン-AOS複合体及び/又はシクロデキストリン-芳香性物質複合体を液相、特に溶媒から分離する更なる工程、
を含む。
【0039】
これにより、(依然として複合体形成した)無極性有機物質、特に芳香性物質が濃縮される。シクロデキストリン-AOS複合体及び/又はシクロデキストリン-芳香性物質複合体を液相から分離することで、少なくともシクロデキストリン-AOS複合体及び/又はシクロデキストリン-芳香性物質複合体を含有する分離固相が得られる。液相は、少なくとも1つの芳香性物質等の無極性有機物質とともに出発混合物に供給され、及び/又は本発明による方法において添加された水及び溶媒、特にエタノールを含有する。
【0040】
実質的に溶媒を含まない固体が工程(c)の後に保持される。「実質的に溶媒を含まない」とは、特に、例えば水及び/又はエタノール等の溶媒が、固相に吸着している場合もあるが、もはや固相中に自由に存在していないことを意味する。適用事例に応じて、工程(c)における水の分離により、洗浄工程の機能と同等に、出発混合物の望ましくない成分を濾過ケーキから分離することもできる。
【0041】
固相、特に濾過ケーキからの、例えば水だけでなく、他の液体の分離も、本発明の範囲内で乾燥によって支持することができる。単純な実施態様においては、圧縮空気を、例えば濾過ケーキの形態の分離固相に、フィルター層に向かって、特に2バールの圧力で通すことができる。不活性ガスを圧縮空気の代わりに使用してもよい。
【0042】
蒸発器を用いて又は逆浸透によってアルコールを除去する既知の方法には、一方で、他の重要な、特に抽出物の特徴的な味に決定的な揮発性芳香性物質もエタノールとともに除去されるという影響がある。他方では、熱的に不安定な物質が破壊されることがあり、又は味の望ましくない変化が生じることがある。本発明で記載される方法は、エタノールを抽出物から高い選択性で除去することができる。揮発性及び不揮発性の両方の芳香性成分を等しく複合体形成させることにより、抽出物の複雑さが維持される。
【0043】
本発明の更なる有利な実施の形態においては、方法は、
(d)特に分離されたシクロデキストリン-AOS複合体及び/又はシクロデキストリン-芳香性物質複合体を酵素によって、及び/又はシクロデキストリンを分解することが可能な酵母、真菌及びそれらの混合物を含む群から選択される生物で処理して、少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(AOS)及び/又は少なくとも1つの芳香性物質が装填された組成物を得る更なる工程、
を含む。
【0044】
驚くべきことに、酵素処理では、遊離シクロデキストリンだけでなく、複合体中で芳香性物質等の少なくとも1つの無極性有機物質と結合したシクロデキストリンも分解され、それにより、得られる組成物中の無極性有機物質、例では芳香性物質が(損傷なしに)富化されることが見出された。
【0045】
更に以下でより詳細に説明する酵素による処理に加えて又はその代わりに、シクロデキストリンのこの分解、ひいては複合体からの無極性有機物質の放出は、本発明の範囲内で、シクロデキストリンを分解することが可能な酵母、真菌及びそれらの混合物を含む群からの生物を用いることによっても達成することができる。
【0046】
無極性有機物質を得るためのシクロデキストリン-AOS複合体及び/又はシクロデキストリン-芳香性物質複合体の処理は、
(d1)工程(c)において分離されたシクロデキストリン-AOS複合体及び/又はシクロデキストリン-芳香性物質複合体を、工程(d)における特に酵素による処理の前に水で希釈する更なる工程、
によって支持することができる。
【0047】
特に上記のような水の分離のための前工程(c)の場合、工程(d1)で添加する水は、酵素処理(enzymation)に望ましくない構成成分を含まない。
【0048】
本発明の有利な更なる実施の形態においては、用いられる酵素と協調して酵素処理のためのpH値を、例えば酸性範囲の値、特にpH4.5に調整することも可能である。本発明の範囲内で、pH値の調整によって酵素の活性に影響を与えることができる。種々のシクロデキストリンを使用する場合、この効果を利用して、初めにpHの調整によって1種類のシクロデキストリンを分解し、続いてpHを変化させ、同じ酵素を用いて別のシクロデキストリンを分解することができる。
【0049】
ここで、本発明による方法の利点を、無極性有機物質として芳香性物質を例に用いて説明する。これらの利点は、上述の他の無極性有機物質にも当てはまる。本発明の方法は、希釈された出発混合物から、芳香性物質が濃縮形態で存在する組成物を得ることを可能にする。分離は静かにかつ完全に行うことができる。さらに、本方法により、非常に高いアルコール含量(すなわち最大80vol%)を有することもある出発混合物から、「アルコール無含有」とラベル表示し得る食品、嗜好品、化粧品及び/又は医薬品に使用することができる香料装填組成物を得ることが可能である。
【0050】
本発明による方法は、55℃以下又は更には室温以下の温度で行うことができるため、高度に揮発性及び中程度に揮発性の(すなわち、それぞれ10未満又は35~10の蒸発数(evaporation number)を有する)、及び/又は熱的に不安定な芳香性物質を得ることができる。本発明による方法の更なる利点は、使用されるα-、β-及びγ-シクロデキストリンを異なるアミラーゼで部分的に選択的に加水分解することができ、芳香性物質のカスケード放出が可能となることである。これらの点については更に以下でより詳細に論考する。
【0051】
本発明の更なる実施の形態によると、少なくとも1つの無極性有機物質(AOS)、特に少なくとも1つが装填された組成物中のシクロデキストリン濃度が0.5wt%未満、好ましくは0.1wt%未満となるように工程(d)を行うことが企図される。このように低いシクロデキストリン含量は、得られる無極性有機物質(AOS)の使用に影響を及ぼさない。
【0052】
シクロデキストリン濃度は、本発明による方法の選択された実施の形態において最終生成物となる組成物の全質量との関連で調整することができる。例えば、工程(a)、工程(b)、工程(c)及び工程(d)を芳香性物質水溶液に対して行った後、この組成物は水、芳香性物質、シクロデキストリン及び酵素の分解生成物、並びに0.1wt%未満の含量のシクロデキストリンの残留物からなる組成物であり得る。水及び酵素等の構成成分を更なる方法工程で除去する場合、シクロデキストリン濃度が更に低下し、したがって水及び酵素を含まない生成物中で0.1wt%未満となるように酵素処理を行うことができる。
【0053】
シクロデキストリン濃度の調整は、分解されていないシクロデキストリン-AOS複合体を含み得る、最終生成物に望ましくない構成成分を取り出すことによって促進され得る。この目的で、本発明の更に有利な実施の形態によると、方法は、
(e)シクロデキストリン-AOS複合体及び/又はシクロデキストリン-芳香性物質複合体の特に酵素による処理から得られる混合物を濾過して、少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(AOS)が装填された組成物を得る更なる工程、
を含む。
【0054】
工程(a)
本発明において、「芳香性物質」は、特に室温で揮発性であり、嗅覚及び味覚の認識を引き起こす又は変更する有機物質を指す。芳香性物質はアルコール、酸、エステル、ラクトン、アルデヒド、ケトン、アセタール、ケタール、エーテル、エポキシド及びそれらの類似の硫黄化合物;酸素複素環、窒素複素環及び硫黄複素環、複素環式芳香族化合物(例えばアルキルピラジン)、アミン及びアミド;単純又は複雑な飽和した及び不飽和の脂肪族及び脂環式化合物、芳香族化合物及びテルペン等であることが多い。芳香性物質の主な種類は天然、ネイチャーアイデンティカル(nature-identical)及び人工の芳香性物質である。本発明の文脈においては、出発原料が植物由来又は動物由来である、いわゆる天然芳香性物質が好ましい。動物由来の出発原料は、例えばハチミツ、乳、肉、骨及び体液である。植物由来の出発原料としては、花、蕾、葉、茎、柄、樹皮、根、塊茎、球根、根茎、果実、堅果、液果及び種子、果物及び野菜等の植物又は植物部分が挙げられる。これらの出発原料は、例えば新鮮な、調理した、発芽させた、乾燥した、発酵した形態で、又は食品若しくは嗜好品(ビール、ワイン、スパークリングワイン、ウイスキー等のスピリッツ等)としての消費のために準備された形態で提供され得る。これらの出発原料は、本発明による方法に出発混合物として直接使用してもよく、又はこれらの出発原料を出発混合物として使用する前に当業者に既知の少なくとも1つのプロセスで処理してもよい。かかるプロセスとしては、例えば溶解、分散、精製、マッシング、浸漬、発酵及び/又は分離プロセス、例えば抽出、濾過等が挙げられる。苦味物質を含むエタノール抽出物をもたらす植物の例は、ゲンチアナ、チレッタ(chiretta)及びニガヨモギである。
【0055】
出発混合物は、かかる「芳香性物質」に加えて、植物性又は動物起源の出発原料の他の構成成分を含有していてもよい。特に、出発混合物は、1つ以上の無極性有機物質を含有していてもよく、これには不揮発性芳香性物質、例えば苦味物質、油画分、脂肪画分及び/又はワックス画分、特に植物性及び/又は動物の出発原料からのもの、並びに言及した物質のうち少なくとも2つの混合物も含まれる。
【0056】
本発明の範囲内で、出発混合物は、固体又は液体の分散体の形態、特に粉末又は溶液及び/又は懸濁液及び/又はエマルションの形態で準備することができる。原則として、出発混合物は、分離すべき無極性有機物質が溶解し、分離すべき少なくとも1つの物質を含むシクロデキストリン分子の空洞に容易に収容され、又は空洞から移動させることができる任意の溶媒を含有し得る。工程(a)及び/又は工程(b)において、及び/又は工程(b)の後に本発明の範囲内で使用することができる溶媒としては、例えば水、C~Cアルコール、ジエチルエーテル、アセトン等又はそれらの混合物が挙げられる。水、エタノール又はそれらの混合物を含む群から選択される溶媒を使用するのが好ましい。工程(a)において、出発混合物の準備の一環として溶媒を添加することも可能である。例えば、エタノール及び/又は水を含有する出発混合物は、分離すべき物質に応じて、本発明によるシクロデキストリンを用いて直接抽出することもできる。
【0057】
本発明の一実施の形態においては、上述の溶媒の少なくとも1つを、工程(a)で添加するだけでなく、工程(b)で添加してもよい。
【0058】
好ましい溶媒含量は100wt%未満である。当業者であれば、溶媒含量及び2種以上の溶媒の混合比を、分離すべき芳香性物質(複数の場合もある)の溶解度、複合体形成の効率に応じて、またプロセスの経済性を考慮して選択するであろう。少なくとも1つの無極性有機物質、特に1つ以上の芳香性物質が最小量の溶媒に溶解している出発混合物が特に好ましい。
【0059】
溶媒含量が多いほど、分離すべき芳香性物質及び使用するシクロデキストリンの溶解度が高くなり、複合体形成の速度が上昇する。しかしながら、プロセスが非経済的となり、さらに芳香性物質の分子とシクロデキストリンとの接触及び相互作用の確率が低くなりすぎるため、過度に希薄な溶液は回避する必要がある。或るモデル構想によると、これらの関係は、無極性有機物質の濃度が高くなると、この物質とシクロデキストリンとの複合体が推進勾配により選択的に形成されることに起因する。過度の希釈の場合、複合体形成の推進力が十分ではなくなる。
【0060】
食品又は嗜好品(例えばビール、ワイン、スパークリングワイン、スピリッツ等)としての消費のために準備された形態の出発原料が好ましく、これを抽出、好ましくは固相抽出(略してSPE、以前から「ソーベント抽出」としても知られている)に供し、得られる溶媒含有固相抽出物を出発混合物として使用する。エタノール含有固相抽出物が特に好ましく、エタノール含量は、固相抽出物の総体積をベースとして最大80vol%であり得る。芳香性物質(複数の場合もある)の含量は、固相抽出物の総重量をベースとして少なくとも約0.1wt%、好ましくは0.5wt%~8wt%である。
【0061】
あらゆる種類の種子、特に穀物及び穀物から得られる製品、例えば麦芽、麦汁、マッシュ、ビール等が別の好ましい出発原料である。穀物は、例えば大麦、小麦、ライ麦、スペルト小麦、トウモロコシ、オート麦、米、キビ、ライ小麦及びそれらの混合物を含む群から選択することができる。この出発原料は、本発明による方法に出発混合物として直接使用してもよく、又は当業者に既知の少なくとも1つのプロセス(上記を参照されたい)で処理してもよい。出発原料としてビール麦汁及び/又はマッシュが特に好ましく、これを発酵に供し、得られる発酵液を出発混合物として使用する。芳香性物質(複数の場合もある)の含量は、発酵液の総重量をベースとして少なくとも約0.01wt%、好ましくは0.1wt%~8wt%である。
【0062】
工程(b)
本発明による方法の工程(b)において、少なくとも1つのシクロデキストリンを出発混合物と接触させることによって、シクロデキストリン-AOS複合体が生成する。成分は粉末状態で、又は懸濁液及び/又はエマルション及び/又は溶液中で混合することができる。
【0063】
ゲスト-ホスト複合体を生成する様々なプロセスが知られており、溶媒中での調製(懸濁液中での共沈及び複合体形成である「スラリー法」)又は混練法(例えば、S.K. et al.// Research Journal of Pharmaceutical, Biological and Chemical Sciences., 2013, Vol. 4, No. 2, pp. 1694-1720を参照されたい)が最も一般的に適用される。
【0064】
本発明では、懸濁液中での共沈又は複合体形成(「スラリー法」)を用い、出発混合物の水性の又はエタノールを含有する溶液又は懸濁液に少なくとも1つのシクロデキストリンを添加し、沈殿する複合体を分離する。
【0065】
使用することができる「シクロデキストリン」としては、置換若しくは非置換のα-シクロデキストリン、少なくとも1つの置換若しくは非置換のβ-シクロデキストリン、少なくとも1つの置換若しくは非置換のγ-シクロデキストリン、若しくは少なくとも1つの置換若しくは非置換のδ-シクロデキストリン、又はそれらの混合物、好ましくは置換又は非置換のγ-シクロデキストリンが挙げられる。置換シクロデキストリンの使用は、酵素処理の任意の方法工程(d)の分解生成物として、食品中では望ましくないことがあり、更なる分離工程で除去され得る物質を生じる可能性があるため、このような場合には非置換のシクロデキストリンの使用が好ましい。
【0066】
或るモデル構想によると、γ-シクロデキストリンは、言及した他のシクロデキストリンと比較して、一方では水及び/又はエタノールへのその溶解度と、他方ではその空洞サイズとの間に良好なトレードオフをもたらす。加えて、特に良好な酵素分解が観察されたが、これはモデル構想において、γ-シクロデキストリン足場がそのサイズのために或る特定の柔軟性を有するということにより説明される。したがって、鍵と鍵穴の原理によると、この分子は酵素の活性ポケットに特に良好に保存され得る。
【0067】
10wt%の置換又は非置換のβ-シクロデキストリンと90wt%の置換又は非置換のγ-シクロデキストリンとからなる混合物が、特に出発混合物から生じる液相からのシクロデキストリン-AOS複合体の分離に関して特に好ましい。これについては更に以下でより詳細に論考する。シクロデキストリンを用いた本発明の抽出によって不揮発性無極性有機物質、特に苦味物質を得ようとする場合には、γ-シクロデキストリンのみまでの高い割合で使用するのが好ましい。したがって、本発明は、苦味物質等の不揮発性芳香性物質を、少なくとも1つの無極性基を有する有機物質を含有する抽出物から、それらの複合体形成に不利な条件、特に40vol%未満のエタノール含量及び/又はγ-シクロデキストリンのみの使用によって選択的に除去する可能性も与える。
【0068】
β-シクロデキストリンとγ-シクロデキストリンとの混合物等の、異なるシクロデキストリンの混合物を用いることで、本発明によれば、苦味物質をより大きな程度まで又はほぼ独占的にγ-シクロデキストリン分子に複合体形成させ、他の芳香性物質をより大きな程度まで又はほぼ独占的に他のシクロデキストリン分子に複合体形成させることが可能である。比喩的に言うと、「ゲスト」は、複合体の形成に最適な「ホスト」を探す。このように、様々なシクロデキストリンの量比により、除去される少なくとも1つの無極性基を含む有機物質の組成に影響を与えることができる。
【0069】
シクロデキストリンは、水との混合物の形態だけでなく、グリセロール、プロピレングリコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、エチレングリコール等の幾つかの他の溶媒の少なくとも1つにおいても使用することができる。シクロデキストリンを容易に取り扱い、固体として出発混合物に添加することができるように、固体形態のシクロデキストリンが好ましい。さらに、固体としてシクロデキストリンを使用すると、シクロデキストリンとともに導入される溶媒による出発混合物の追加の希釈が引き起こされない。
【0070】
シクロデキストリンの量は、かなり広い範囲内で変化するが、出発混合物の量をベースとして、好ましくは約1wt%~約100wt%、より好ましくは約3wt%~約50wt%、最も好ましくは約3wt%~約20wt%が用いられる。
【0071】
少なくとも1つのシクロデキストリンと出発混合物との混合は、当業者に既知の任意の装置、例えば機械撹拌器、機械分散器、超音波破砕器を用いて達成される。当業者であれば、複合体形成の効率と協調し、プロセスの経済性を考慮して、温度及び保持時間のパラメーターを選択するであろう。
【0072】
概して、温度及び保持時間は広く変化させることができる。好ましい温度範囲は約4℃~約25℃、好ましくは約4℃~約15℃の範囲、より好ましくは約4℃~約10℃の範囲、最も好ましくは約6℃の温度である。保持時間は最大5日間、好ましくは20分間~72時間、最も好ましくは最大48時間にわたっていてもよい。
【0073】
本発明の文脈において、水性媒体及びアルコール媒体中のシクロデキストリンが、少なくとも1つの無極性基を含む有機物質を、その空洞に可逆的に収容することができ、出発混合物中に存在する芳香性物質の約60wt%~99wt%を選択的に複合体形成させることができ、出発混合物の残りの構成成分の大半が液相中に残ることが見出された。少なくとも1つの無極性基を含む有機物質の可逆的な収容というこの発見は、これらの物質の効率的な選択的分離のために本発明による方法に利用される。
【0074】
工程(c)
工程(c)において、工程(b)で形成されたシクロデキストリン-AOS複合体を液相から分離する。形成されたシクロデキストリン-AOS複合体は非常に安定しており、これは芳香性物質等の複合体に結合した無極性有機物質が、複合体又はシクロデキストリンの空洞から再び離れる傾向が殆どないことを意味する。したがって、複合体は、濾過技術によって水性媒体中で濃縮されるのに十分なほど安定している。原則として、プロセスにおいてゲストを放出することなく、固体と液体とを分離する技術に一般的に用いられるプロセス及び技術のいずれかを用いて、複合体を分離することができる。工程(c)におけるシクロデキストリン-AOS複合体の分離のための好ましい分離技術は、濾過及び/又は沈降及び/又は遠心分離であり、例えば真空による濾過又はナノ濾過又は限外濾過等の濾過が特に好ましい。逆浸透は、工程(c)におけるシクロデキストリン-AOS複合体の分離に適格な別の分離プロセスである。
【0075】
更に有利な実施の形態において、本発明による方法は、
(c1)シクロデキストリン-AOS複合体を液相から分離する前に静置する更なる工程、
を含み、工程(c1)による静置段階は、特に最大24時間、好ましくは最大12時間、最も好ましくは2時間にわたって行われる。
【0076】
シクロデキストリン-AOS複合体が形成されている又は形成されたシクロデキストリン化出発混合物を静置することで、複合体の分離が促進される。驚くべきことに、静置によって、より速い沈降及びより良好な濾過挙動が達成されることが見出された。静置によって沈降が起こり、沈降により、シクロデキストリン-AOS複合体を含有する沈降物の上からシクロデキストリン-AOS複合体を本質的に含まない透明な相を除去することが可能となる。これにより、工程(c)において分離、例えば濾別する必要がある総体積が減少する。シクロデキストリン-AOS複合体を含有する相が得られるように上清を除去することで、沈降のみによって工程(c)を行うこともできる。
【0077】
固液分離プロセスにおいては、濾過を改善するために通常は濾過助剤が使用される。これらはフィルタープレート、フィルター層若しくはフイルターカートリッジに組み込んでもよく、又は濾過される懸濁液に沈降助剤(珪藻土、セルロース、ベントナイト又は他のカチオン系凝集剤)として直接添加してもよい。物理的には、例えば、遠心分離機を用いて沈降、ひいては分離を加速することができる。濾過助剤を用いる他のプロセスとして、プレコート濾過が挙げられる。ここで最も重要な例は、珪藻土濾過又はパーライトによる濾過である。フィルター層は、水平又は垂直の支持層上で事前に洗浄される。実際の濾過は、フィルターが詰まるのを防ぐために、濾過助剤を常に添加しながら行われる。
【0078】
濾過助剤は、フィルターの透過性を確保するため、特に濾過層からなるフィルターの場合、蓄積する濾過ケーキによってフィルター表面が徐々に詰まるのを防ぐ。通常は濾液が所望の生成物であり、保持液又は濾過ケーキを捨てる。
【0079】
本発明の文脈において、シクロデキストリン-AOS複合体が、この場合に分離工程(c)の所望の「生成物」である濾過ケーキとして分離されるため、上述の通常の濾過助剤の使用を省くことが可能であるものとする。上述の通常の濾過助剤を使用した場合、これらの濾過助剤がシクロデキストリン複合体とともに保持液を形成する。濾過助剤は、更なるプロセス工程において濾過ケーキから分離する必要がある。これは本発明の範囲内で可能であるが、最終生成物と濾過助剤との混合を回避することで経済的、生態学的及び栄養学的な観点から大きな改善が達成される。
【0080】
種々のシクロデキストリンの沈降挙動及び濾過特性に関する研究により、β-シクロデキストリンとの複合体がγ-シクロデキストリンとの同様の複合体よりも速く沈降することが示された。さらに、β-シクロデキストリンとの複合体は、フィルター表面の詰まりが著しく少ないか、又は殆どないように凝集することから、γ-シクロデキストリンとの同様の複合体よりも良好な濾過挙動を示す。
【0081】
しかしながら、β-シクロデキストリンを用いて得られた製品は、必ずしも好ましい官能特性を有するとは限らない。γ-シクロデキストリンを用いて得られた香料は、一方で、官能的品質がより高いが、ゆっくりと沈降し、フィルター表面を非常に急速に詰まらせる。
【0082】
したがって、β-シクロデキストリンと他のシクロデキストリンとの混合物について調査し、驚くべきことに、比較的少量のβ-シクロデキストリン、例えば使用するシクロデキストリンの全質量をベースとして10wt%のβ-シクロデキストリンの使用であっても、沈降を顕著に加速し得ることが見出された。β-シクロデキストリンをα-シクロデキストリン及び/又はγ-シクロデキストリン及び/又はδ-シクロデキストリン、好ましくはγ-シクロデキストリンに添加することで、本発明は、沈降及び遠心分離をそれぞれ加速する方法を提供する。
【0083】
有利な一実施の形態によると、シクロデキストリンの全質量におけるβ-シクロデキストリンの割合が0.5wt%~最大60wt%の範囲、好ましくは2wt%~50wt%の範囲、最も好ましくは5wt%~15wt%の範囲であることが企図される。このため、本発明の範囲内で、シクロデキストリンの組成は、出発混合物から得られる少なくとも1つの無極性基を含む特定の有機物質(単数又は複数)、及び/又は分離工程の速度に関してそれぞれの用途に選択することができる。
【0084】
例えば、90wt%のγ-シクロデキストリンとの組合せでは、沈降が1日から2時間に加速された。10wt%のβ-シクロデキストリンと90wt%のγ-シクロデキストリンとからなる混合物を用いて得られた芳香性物質は、純粋なγ-シクロデキストリンから抽出された対応する芳香性物質と同じ官能的品質を有していた。
【0085】
例としては、60vol%のエタノールを含み、芳香性物質の濃度が5wt%~8wt%の範囲であるエタノールビール抽出物の物質系を用いて沈降速度を測定した。この場合、GCスペクトルにおいて検出された全ての芳香活性成分を「芳香性物質」という表現にまとめた。エタノール抽出物中のシクロデキストリン-芳香性物質複合体を含む複合体形成後に得られた懸濁液を同時に同一のメスシリンダーに移した。沈降物の体積は、30分間隔でメスシリンダーの目盛りを読み取った。このようにして、本発明によるシクロデキストリンに複合体形成した物質の沈降挙動を決定することができる。
【0086】
出発混合物から生じた液相からのシクロデキストリン-AOS複合体の分離は、少なくとも1つの無極性基を含む有機物質の収率を高めるのに重要な工程であり得る。例えば、エタノール含有出発混合物から芳香性物質を得る場合、その後の、特に酵素による複合体の処理の効率に、エタノール媒体からのシクロデキストリン-芳香性物質複合体の固液分離によって影響を与えることができる。
【0087】
固液分離により、シクロデキストリン-AOS複合体を含有する濾過ケーキが形成される。エタノール媒体から芳香性物質を分離する場合、この濾過ケーキが十分に「乾燥」していないときに、依然として存在するアルコールがその後のシクロデキストリン複合体の酵素分解を妨げることがある。さらに、単層濾過の場合、濾過ケーキが徐々に蓄積し、これがフィルター層を詰まらせ、時間的制約によって分離工程を非経済的にする恐れがある。このような状況においては、濾過助剤により、蓄積する濾過ケーキがフィルター層を詰まらせるのを防ぐことができる。
【0088】
本発明者らにとって驚くべきことに、β-シクロデキストリンが、ゲストとして複合体形成される無極性有機物質の抽出剤としてだけでなく、濾過助剤としても機能し得ることが認識された。濾過助剤としてのβ-シクロデキストリンは、濾過ケーキ中に有利に留まり、更なる工程で酵素によって食品への使用に無害な物質へと破壊又は分解され得る。このため、濾過助剤としてのβ-シクロデキストリンは、無極性有機物質の複合体形成に使用される物質とほぼ同様であり、同じ化学的及び物理的特性を有する。
【0089】
β-シクロデキストリンがγ-シクロデキストリンと同様に、芳香性物質をそれ自体に結合させ、濾過助剤としても機能するという認識は、本発明者らにとって目新しいことであった。β-シクロデキストリンを本発明による方法において抽出剤として使用し、さらに濾過助剤としても使用した後、β-シクロデキストリンを、本発明の文脈において酵素を用いて分解することができ、それにより複合体形成された芳香性物質が同時に再び放出される。シクロデキストリンの唯一の分解生成物は単糖、二糖及びオリゴ糖であり、これらは食品又は嗜好品に通常含まれるため、そこに残留していてもよい。これについては更に以下でより詳細に論考する。このように、上記のような製品への濾過助剤の混入及び残留の問題は、本発明によって防がれる。
【0090】
したがって、製品は、γ-シクロデキストリンのみを使用した場合と同じ栄養純度及び品質を有し、同時に加工性が著しく改善される。ここで、特に品質とは、無極性有機物質に関する官能的品質を指す。例えば芳香性物質の場合、β-シクロデキストリンの含量が過度に高いと、一部の香料成分が他の成分を犠牲にして選択的に複合体形成されるため、風味プロファイルが変化する。しかしながら、シクロデキストリンの分解生成物による甘みは、最終的な用量を考慮すると、通常は無視できるほどである。
【0091】
本発明を上記のエタノールビール抽出物について試験した。試験には、γ/β-シクロデキストリン混合物への芳香性物質の複合体形成、沈降速度の測定、濾過ケーキの乾燥、芳香性物質を再び放出させるためのシクロデキストリンの酵素分解、芳香物質濃度及び芳香プロファイルの分析決定、並びにこのようにして生成されたサンプルの官能評価が含まれていた。芳香性物質の濃度は、ガスクロマトグラフィーを用いてビールに典型的な全芳香性物質の合計として定量化した。残留シクロデキストリンの量は、RI検出器を用いたHPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって測定した。したがって、使用されるシクロデキストリン混合物中に僅か10wt%のβ-シクロデキストリンでも、沈降速度を1日から2時間まで加速するのに十分である。最終生成物は、出発混合物と比較して濃縮された、ビールに典型的な芳香性物質の水性芳香抽出物である。これは、アルコール含量0.0vol%のビールに1:1000の用量で首尾よく適用された。「首尾よく」という用語は、最終生成物の添加によりビールに特徴的な芳香プロファイルが得られることを意味する。この用量は、最終用途におけるエタノール含量を0.05vol%未満とするのに十分に低いため、「0.0vol%」のビールと申告することができる。また、最終生成物は透明であり、したがってピルス等の典型的な透明なビールに容易に使用することができる。
【0092】
したがって、本発明は、濾過助剤としてのβ-シクロデキストリンの使用にも関する。
【0093】
工程(c)におけるシクロデキストリン-AOS複合体の分離によって得られるような分離液相は、収率を最大限に高めるために、任意に少なくとも1つのシクロデキストリンと再混合してもよく、特に工程(a)に再循環させてもよい。
【0094】
本発明の更なる実施の形態によると、以下により詳細に説明する工程(d)における、特に酵素による処理の前に、工程(c)において分離されたシクロデキストリン-AOS複合体を、工程(d1)において1つ以上の芳香性物質又はシクロデキストリン-AOS複合体の所望の最終濃度に到達するまで水で希釈することが企図される。このように、抽出された無極性有機物質(複数の場合もある)を最も完全に放出させる条件を改善することができる。
【0095】
工程(d)
工程(d)においては、シクロデキストリン-AOS複合体を含有する、工程(c)において分離された固相を、これらの複合体中のシクロデキストリンを加水分解するために、アミラーゼ活性を有する酵素、好ましくはα-アミラーゼ、最も好ましくは真菌α-アミラーゼ、脱分枝酵素、特にプルラナーゼ及び/又はイソアミラーゼ、並びにこれらの酵素のうち少なくとも2つの混合物を含む群から選択される少なくとも1つの酵素による酵素処理に供する。
【0096】
得られた混合物を任意に濾過する。
【0097】
ホスト-ゲスト複合体の標的酵素処理の間に、シクロデキストリンの環形が破壊され、先に複合体形成され、任意に富化された標的物質が熱エネルギーなしに再び放出される。利用可能なα-、β-、γ-及びδ-シクロデキストリン、並びにこれらのシクロデキストリンをホストとして形成される複合体は異なる酵素、特に異なるアミラーゼによって部分的に選択的に加水分解することができる。結果として、本発明により、芳香性物質等の無極性有機物質のカスケード放出を可能にするプロセス設計が可能となる。
【0098】
工程(d)の後に、少なくとも1つの芳香性物質が装填された組成物が得られる。この組成物は、単糖、二糖及びオリゴ糖等のシクロデキストリンの分解生成物も含有する。これらの分解生成物は、食品に一般的に含まれるため、そこに残留していても又は必要に応じて除去してもよい。
【0099】
本発明による方法の工程(d)による、この特に酵素による処理は、水の存在下で行われる。本発明の一実施の形態においては、工程(d)に先立って、工程(c)において分離された固相を、1つ以上の芳香性物質の所望の最終濃度に到達するまで水と混合する工程(d1)を行う。好ましく使用される最終濃度は、工程(c)において分離された固相の総重量をベースとして、少なくとも100wt%~最大約3750wt%の水である。
【0100】
本発明の一実施の形態においては、工程(d1)において添加する水は、4℃~80℃の範囲、好ましくは20℃~60℃の範囲の温度を有する。pH値は、使用する酵素に応じて調整することができ、好ましくはpH3.5~pH7.5、最も好ましくは4.5、又は5.2~pH5.6の範囲である。
【0101】
続いて、得られた水性混合物を、アミラーゼ活性を有する酵素、好ましくはα-アミラーゼ、最も好ましくは真菌α-アミラーゼ、脱分枝酵素、特にプルラナーゼ及び/又はイソアミラーゼ、並びに言及した酵素のうち少なくとも2つの混合物、好ましくは2つのアミラーゼの混合物、並びに副活性としてシクロデキストリンを分解することが可能な酵素を含む群から選択される少なくとも1つの酵素で処理する。
【0102】
異なる酵素、特に異なるアミラーゼを用いることで、複合体に使用されるα-、β-及び/又はγ-シクロデキストリンを部分的に選択的に加水分解することができる。これにより、芳香性物質がカスケード方式で放出されるプロセスが可能である。
【0103】
α-アミラーゼが特に好ましく、処理に最も好ましいのは真菌α-アミラーゼである。この真菌α-アミラーゼは、好ましくは単独で使用される。
【0104】
本発明に従って使用される真菌α-アミラーゼは、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)及びアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)等の微生物に由来する。真菌α-アミラーゼの適切な市販品は、「Novozymes」社から「Fungamyl(商標)」という名前で販売されている。別の好適なアミラーゼは、「Novozymes」社から「Dextrozyme GA」という名前で販売されている。
【0105】
異なる起源の酵素が異なる反応性を示すことが知られている。各混合物に必要とされる酵素の量は、混合物によって異なり、酵素によっても異なる。シクロデキストリン-芳香性物質複合体中のシクロデキストリンの加水分解に使用される酵素の好ましい量は、シクロデキストリン-芳香性物質複合体を含有する、工程(c)において分離された固相の含量に本質的に依存し、酵素の活性にも依存し得る。
【0106】
本発明の文脈において、少なくとも1つの酵素の好ましい量は、工程(c)において分離された固相1g当たり5FAU~1000FAUであることが見出された。「FAU」という単位は、「真菌α-アミラーゼ単位」を意味し、「Novozymes」社によって、例えば酵素「Fungamyl(商標)」に使用されているα-アミラーゼの活性の尺度である。より正確には、標準的な条件(基質:可溶性デンプン、インキュベーション時間7分~20分、温度37℃、pH4.7)下では、1FAUの酵素が1時間に5.26gのデンプンを分解する。
【0107】
温度及び時間等の処理条件は、特に工程(d)において広い範囲で変化させることができるが、約4℃~約80℃、好ましくは約20℃~約60℃の温度が有利であることが見出されており、処理時間は、一般的に0.5時間~50時間の範囲である。pH値は、pH3.5~7.5、最も好ましくはpH5.2~5.6であり得る。密閉容器内でのインキュベーションが特に好ましい。
【0108】
酵素処理後に、最終シクロデキストリン濃度の最大値は、水性混合物の総重量をベースとして約0.1wt%である。混合物中のシクロデキストリンの量は、既知の方法を用いて、すなわちHPLCによって決定される。
【0109】
さらに、追加の酵素を使用することができる。例えば、プルラナーゼ及び/又はイソアミラーゼ等の好適な脱分枝酵素を少なくとも1つのアミラーゼによる処理の前に、及び/又は少なくとも1つのアミラーゼと組み合わせて使用することができる。
【0110】
本発明の更なる実施の形態においては、酵素を不活性化し、及び/又は酵素処理によってシクロデキストリン-AOS複合体から放出された無極性有機物質を含有する組成物から分離する。例えば、プロピレングリコール(PG)又はグリセロールをこの目的で使用することができる。
【0111】
本発明の主題は、
揮発性芳香性物質、不揮発性芳香性物質、例えば苦味物質、油画分、脂肪画分及び/又はワックス画分、着色剤、並びに接着剤、特に植物性及び/又は動物性の出発原料からのもの、並びに言及した物質のうち少なくとも2つの混合物を含む群から選択される、少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質と、
6又は7又は8又は9グルコース単位の鎖長を有する少なくとも1つのサッカリド、並びに任意に少なくとも1つのシクロデキストリンの分解生成物、特にグルコース及び/又はマルトースと、
を含む、特に上記のような方法によって生成される組成物を更に包含する。
【0112】
本発明の範囲内で、有利な単純な実施の形態において、組成物は、少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質と、6又は7又は8又は9グルコース単位の鎖長を有する少なくとも1つのサッカリドと、任意に少なくとも1つのシクロデキストリンの分解生成物、特にグルコース及び/又はマルトースとからなり得る。
【0113】
本発明の好ましい実施の形態においては、組成物は0.0vol%のエタノール含量を有する。
【0114】
組成物は、水性組成物であるのが好ましい。この場合、本発明による組成物を目的の用途に応じて更に処理することができる。例えば、加熱し、及び/又はpH値を変化させ、又はPG若しくはグリセロールを用いて、組成物に含まれる少なくとも1つの酵素を不活性化することが可能である。少なくとも1つの無極性有機物質、及びシクロデキストリンを分解するために使用する酵素又は生物の種類に応じて、無極性有機物質自体も不活性化を引き起こすか、又は支持することができる。
【0115】
少なくとも1つのシクロデキストリン及び酵素の分解生成物を、本発明による組成物から液/液抽出等の一般的な「下流」プロセスによって除去し、不希釈の無極性有機物質を得ることができるため、得られる組成物は、動物起源又は植物起源のいずれかであり得る少なくとも1つの無極性有機物質、特に少なくとも1つの芳香性物質のみを含有することができる。無極性有機物質の水への溶解度を超えると、この物質が油相又は固体として分離される。このように、無極性有機物質を水性糖含有相から更に分離することができる。
【0116】
少なくとも1つのシクロデキストリンの分解生成物を分離する別の可能性は、それらの酸への酸化であり、これを続いて吸着体、陰イオン交換体又はキレートの形成によって除去することができる。
【0117】
したがって、本発明は、特に揮発性芳香性物質、不揮発性芳香性物質、例えば苦味物質、油画分、脂肪画分及び/又はワックス画分、着色剤、並びに接着剤、特に植物性及び/又は動物性の出発原料からのもの、並びに言及した物質のうち少なくとも2つの混合物を含む群から選択される、少なくとも1つの芳香性物質及び/又は少なくとも1つの無極性基を含む1つの有機物質を食品、嗜好品、化粧品又は医薬品、好ましくは食品又は飲料、最も好ましくは0.0vol%のエタノール含量を有する食品又は嗜好品又は飲料又は化粧品又は医薬品に導入するための、例えば芳香性物質が装填された本発明による組成物の使用も可能にする。
【0118】
したがって、本発明は、食品、嗜好品、化粧品又は医薬品である製品を風味付け及び/又は安定化する方法も提供し、ここでは上記の組成物又は上記の方法によって生成された組成物を、風味付けされる製品に添加する。この場合、かかる製品は、「アルコール無含有」という表示(すなわちアルコール含量0.0vol%)及び/又は「FTNS」という表示で有利に宣伝することができる。少なくとも1つの無極性基を含む得られた有機物質に応じて、本発明は、風味付けの方法だけでなく、例えばコーティング若しくはコーティング成分としての油画分、脂肪画分及び/又はワックス画分、及び/又は例えば色の安定化のためのフェノール物質を用いて製品を安定化する方法も提供する。
【0119】
製品、特に食品、嗜好品、化粧品又は医薬品を風味付け及び/又は安定化する本発明による方法においては、特に上記の方法によって生成された本発明による組成物を、風味付け及び/又は安定化すべき製品と接触させるが、この「接触させる」ことは、この目的に適した当業者に既知の任意のプロセス、好ましくは混合を用いて達成することができる。
【0120】
好ましくは上記の方法によって生成された、本発明による組成物を含有する食品又は嗜好品又は化粧品又は医薬品は、本発明の更なる主題である。飲料、最も好ましくはビールであり、「アルコール無含有」(すなわちアルコール含量0.0vol%)及び/又は「FTNS」という表示で宣伝することができる食品又は嗜好品又は化粧品又は医薬品が特に好ましい。
【0121】
本発明を、添付の図面及び例示的な実施形態を参照してより詳細に説明するが、記載されたそれぞれの特定の実施形態に限定されるものではない。本発明は、相互に排他的でない限り、好ましい実施態様の任意の組合せにも関する。数値を伴う場合の「約」又は「およそ」という用語は、少なくとも10%高い若しくは低い値、又は5%高い若しくは低い値、いずれの場合にも1%高い又は低い値を含むことが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0122】
図1】芳香性物質を水溶液、例えば発酵液から分離する例を用いた本発明による方法の第1の実施形態の概要図である。
図2】芳香性物質を、例えばSPEから得られるエタノール抽出物から分離する例を用いた本発明による方法の第2の実施形態の概要図である。
図3】γ-シクロデキストリン-芳香性物質複合体(左)、β-シクロデキストリン-芳香性物質複合体(中央)、及びシクロデキストリンの全質量をベースとして10wt%のβ-シクロデキストリンと90wt%のγ-シクロデキストリンとからなる混合物中の対応する複合体(右)の沈降速度の比較試験の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0123】
図1は、少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(AOS)を選択的に分離するための本発明による方法の実施形態の概要図を示す。初めに、工程(a)において、水溶液中の芳香性物質1の形態で無極性有機物質を含有する出発混合物10を準備する。かかる水3ベースの芳香性物質は、発酵液であってもよく、例えば、特に芳香性物質の濃度が低く、任意に少なくとも1つの溶媒を含有するものであってもよい。工程(b)において、水3中の芳香性物質1からなる出発混合物10を少なくとも1つのシクロデキストリン2と接触させる。水は既に工程(a)で溶媒として添加されている。少なくとも1つのシクロデキストリン2と出発混合物10の少なくとも1つの無極性有機物質1との接触の結果として、少なくとも1つのシクロデキストリン-AOS複合体12が得られる。複合体の形成により、芳香性物質の形態の無極性有機物質が出発混合物10の溶媒の水3から抽出される。複合体12は水相中に存在する。
【0124】
図1はまた、本発明による方法の任意の継続を示す。工程(c)において、シクロデキストリン-AOS複合体12を水3の除去によって液相から分離する。続いて、工程(d)において、芳香性物質1を酵素処理によってシクロデキストリン-AOS複合体12から放出させる。無極性有機物質、ここでは芳香性物質1が装填された組成物6が得られる。これは、濃縮された芳香性物質1と、酵素処理の副生成物としてサッカリド20とを含む。
【0125】
図2は、少なくとも1つの無極性有機物質(AOS)を選択的に分離するための本発明による方法の更なる実施形態の概要図を示す。初めに、工程(a)において、例えば80vol%のアルコール(エタノール)を含有するエタノール含有溶液4中の芳香性物質1の形態で、例えば固相抽出SPEからのエタノール抽出物を含有する出発混合物10を準備する。工程(b)において、エタノール溶液4中の芳香性物質1からなる出発混合物10を少なくとも1つのシクロデキストリン2と接触させる。少なくとも1つのシクロデキストリン2と出発混合物10の少なくとも1つの無極性有機物質1との接触の結果として、少なくとも1つのシクロデキストリン-AOS複合体12が得られる。複合体の形成により、芳香性物質の形態の無極性有機物質が出発混合物10のエタノール含有溶液4から抽出される。複合体12は水性アルコール含有相4中に存在する。
【0126】
図2はまた、本発明による方法の任意の継続を示す。工程(c)において、シクロデキストリン-AOS複合体12をエタノール40の除去によって液相から分離する。続いて、工程(d)において、芳香性物質1を酵素処理によってシクロデキストリン-AOS複合体12から放出させる。この目的で、酵素処理に適した条件を作り出すために、工程(c)において、シクロデキストリンと、この場合は芳香性物質との複合体12からなる固相に水3を添加する。無極性有機物質、ここでは芳香性物質1が装填された組成物6が工程(d)から得られる。これは、濃縮された芳香性物質1と、酵素処理の副生成物としてサッカリド20とを含む。プロセス制御に応じ、それぞれの適用事例について組成物中で許容され得るエタノール濃度に応じて、組成物は、例えば最大10vol%のエタノールを含有することができる。
【0127】
図3は左から右に3枚の写真を示す。これらは、3本のシリンダーからなる試験配置の写真を示す。シリンダーは、シクロデキストリン-AOS複合体の懸濁液で満たされている。左側の各シリンダーは、γ-シクロデキストリンの複合体を含み、中央の各シリンダーは、β-シクロデキストリンの複合体を含み、右側の各シリンダーは、シクロデキストリンの全質量をベースとして10wt%のβ-シクロデキストリンと90wt%のγ-シクロデキストリンとからなる混合物中の複合体を含む(右)。示される懸濁液は、これらのシクロデキストリンに加えて、エタノール含有ビール抽出物を含んでいる。各メスシリンダーは、150gのビール抽出物、及び9gのβ-若しくはγ-シクロデキストリン又はβ-シクロデキストリンとγ-シクロデキストリンとの9gの混合物を含む。懸濁液を異なるシクロデキストリン又はシクロデキストリン混合物の存在下にて6℃で48時間撹拌した後、同時にメスシリンダーに移した。
【0128】
0時間の時点での比較実験の開始後に(左の写真)、懸濁液からの粒子の沈降を0.5時間(中央の写真)から1時間(右の写真)までにわたって見ることができ、β-シクロデキストリンを含有する懸濁液からの粒子が0.5時間後に既に沈降し、したがって、シリンダーの底部の沈降物と視覚的に区別可能な透明な上清が1時間の試験期間後に初めて現れる、γ-シクロデキストリンを含有する懸濁液の2倍の速さであることが示される。
【0129】
驚くべきことに、シクロデキストリンの全質量をベースとして僅か10wt%のβ-シクロデキストリンと90wt%のγ-シクロデキストリンとからなる混合物を含む、すなわち主にγ-シクロデキストリンを含む懸濁液は、シクロデキストリンとしてβ-シクロデキストリンのみを含有する懸濁液と同じ沈降挙動の視覚的印象を示す。このため、本発明によると、β-シクロデキストリンとγ-シクロデキストリンとの1:1未満の比率での添加は、γ-シクロデキストリンを含む懸濁液の沈殿速度をβ-シクロデキストリンのみを含む懸濁液の沈殿速度に相当する値まで高めるのに十分である。
【実施例
【0130】
例示的な実施形態:
例えば0.0vol%アルコールビールの風味付けについての実施例1
イソアミルアルコール、酢酸イソアミル、フェニルエチルアルコール、ヘキサン酸、ヘキサン酸エチル及び他の芳香物質を含有するエタノール含有(70vol%~80vol%)固相抽出物(芳香物質濃度4g/lの1kg)を60gのα-、β-及び/又はγ-シクロデキストリン、好ましくはγ-シクロデキストリンと混合する。混合物を6℃で48時間撹拌する。芳香性物質-シクロデキストリン複合体を濾過によって分離し、乾燥させる。収率を最大限に高めるために、エタノール固相抽出物を再びα-、β-及び/又はγ-シクロデキストリン、好ましくはγ-シクロデキストリンと、すなわち固相抽出物1kg当たり30gで混合してもよい。このようにして得られたアルコールフリーの濾過ケーキを水に取り、酵素によって処理して、芳香性物質を放出させる。この目的で、水性混合物を1ml当たり1μlのアミラーゼ(NovozymesのFungamyl(商標))と混合し(水性混合物1ml当たり1μlのアミラーゼ)、密閉容器内にて55℃及びpH5.2で48時間インキュベートする(最終シクロデキストリン濃度の最大値は、水性抽出物の総重量をベースとして0.1wt%である)。抽出された芳香成分の水への溶解度は低いため、得られた二相混合物を必要に応じてプロピレングリコール(最大1:1 w/w)で均質化した後、濾過してもよい。
【0131】
そのように得られた芳香性物質に富むアルコールフリー製品(5g/l)を、ここでビール、例えば0.0vol%アルコールビールの風味付けに使用することができる(適用量:0.2:1000)。
【0132】
本発明の文脈において、組成物中のシクロデキストリンの含量、特に最終シクロデキストリン濃度は、HPLC(検出器:RI;分離カラム:PhenomenexのPolysep GFC-P 2000;溶離液:水中の10%メタノール(定組成);流量:0.5ml/分;圧力:25バール;オーブン温度:55℃;実行時間:30分間)によって決定される。
【0133】
本発明による組成物、特にアルコールフリー抽出物の無極性有機物質の濃度、例えば芳香性物質の濃度は、GC-FIDによって決定される(2gのサンプルを2gのシクロヘキサンで抽出した。有機相をNaSOで乾燥させ、内部標準と混合し、分析する)。
【0134】
例えば0.0vol%アルコールビールの風味付けについての実施例2
酢酸イソアミル又は4-ビニルグアイアコールを含有する発酵液を、芳香性物質に対してモル当量のβ-シクロデキストリン(α-及び/又はγ-)と混合する。安定した芳香性物質-シクロデキストリン複合体を得るために、混合物を6℃で48時間撹拌する。
【0135】
芳香性物質-シクロデキストリン複合体は、濾過によって分離されるか、又は保持液側に濃縮される。
【0136】
芳香性物質の放出は、芳香性物質-シクロデキストリン複合体の酵素処理によって達成される。この目的で、水性混合物を1ml当たり1μlのアミラーゼ(NovozymesのFungamyl(商標))と混合し(水性混合物1ml当たり1μlのアミラーゼ)、密閉容器内にて55℃及びpH5.2で48時間インキュベートした(最終シクロデキストリン濃度の最大値は、水性抽出物の総重量をベースとして0.1wt%である)。抽出された芳香成分の水への溶解度は低いため、得られた二相混合物を必要に応じてプロピレングリコール(最大1:1 w/w)で均質化した後、濾過してもよい。
【0137】
そのように得られた芳香性物質に富むアルコールフリー製品を、ここでビール、例えば0.0vol%アルコールビールの風味付けに使用することができる。最終シクロデキストリン濃度は、HPLC(検出器:RI;分離カラム:Phenomenexのpolysep GFC-P 2000;溶離液:水(定組成);流量:0.8ml/分;圧力:20バール;オーブン温度:55℃;実行時間:30分間)によって決定される。アルコールフリー抽出物の芳香物質濃度は、GC-FIDを用いて決定される(2gのサンプルを2gのシクロヘキサンで抽出した。有機相をNaSOで乾燥させ、内部標準と混合し、分析する)。
【0138】
0.0vol%アルコール飲料の風味付けについての実施例3
イソアミルアルコール、酢酸イソアミル、フェニルエチルアルコール及び他の芳香性物質を含有するエタノール(70vol%~80vol%)(又はスピリッツ若しくはリキュール(15vol%~96vol%))を含有する固相抽出物を、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリン(1:9)からなる混合物60g/lと混合した。十分に安定したホスト-ゲスト複合体を得るために、混合物を6℃で一晩撹拌した。続いて、混合物を2時間静置して沈降させた(β-シクロデキストリンを用いない場合、このプロセスは最大1日かかることがある)。
【0139】
沈降後に透明な相を除去し、沈殿物を濾過によって乾燥させた。
【0140】
収率を最大限に高めるために、芳香性物質が枯渇した透明なエタノール固相抽出物を再びβ-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンの混合物(1:9)と混合した後、静置し、沈降後に透明な相を除去し、その後濾過に供してもよい。
【0141】
このようにして得られたアルコールフリーの濾過ケーキを水に取り、酵素によって処理して、芳香性物質を放出させる。この目的で、水性混合物を1ml当たり1μlのアミラーゼDextrozyme GA(Novozymes)と混合し、密閉容器内にて55℃及びpH4.5で48時間インキュベートした。最後に、得られた混合物を濾過した。
【0142】
そのように得られた芳香性物質に富むアルコールフリー製品を、ここで風味付けを目的として、例えば0.0vol%アルコールビールの風味付けに、例えば0.01:1000~50:1000の範囲の少量で使用することができる。
【0143】
乾燥リンゴ搾汁かすからのリンゴワックス含有画分の抽出についての実施例4
1600gの乾燥リンゴ搾汁かすを8000gの36wt%シクロデキストリン水溶液(β-シクロデキストリンとγ-シクロデキストリンとが1:1の比率、すなわち水1Lに対して18gのβ-シクロデキストリン及び18gのγ-シクロデキストリン)と混合し、室温で2日間混練した。次いで、湿ったリンゴ搾汁かすを濾過し、シクロデキストリン-リンゴワックス複合体に富む濾液を懸濁液として回収した。
【0144】
本発明による方法の工程(c)として懸濁液を遠心分離し、透明な相をデカントした。
【0145】
そのように得られた抽出物(182.65g)を200gの水と混合し、アミラーゼ「Dextrozyme GA」(400μl)とともにpH4.5及び55℃で48時間インキュベートした。次いで、真空を用いて混合物を瀘別し、ロータリーエバポレーターで一定重量まで乾燥させた。そのように得られたリンゴワックスに富む画分(16g)は、フルーツガム用の剥離剤の構成成分として首尾よく試験された。これは、このようにして得られたリンゴワックスに富む画分が、以前から知られている他の方法によって得られたワックス(同じくリンゴワックス)を含有する剥離剤と同様に剥離剤として使用され得ることを意味する。
【0146】
ホップ毬花からの芳香物質を含有する油画分の抽出についての実施例5
「ヘラクレス」品種の乾燥ホップ毬花50gをβ-シクロデキストリンの18wt%水溶液750gと混合し、室温で2日間混練した。次いで、湿ったホップ毬花を瀘別し、シクロデキストリン-油複合体に富む濾液を懸濁液として回収した。
【0147】
本発明による方法の工程(c)として懸濁液を遠心分離し、透明な相をデカントした。
【0148】
そのように得られた抽出物(28.99g)を15gの水と混合し、アミラーゼ「Dextrozyme GA」(88μl)とともにpH4.5及び55℃で48時間インキュベートした。このようにして得られた芳香物質に富む抽出物は、芳香物質負荷が高く、このようにして得られた抽出物を、例えばアルコールフリービールの風味付けに1:1000の量で使用することができる。
【0149】
エタノールを含有するゲンチアナ根抽出物からの芳香性物質の抽出についての実施例6
アルコール含量が60vol%のゲンチアナ根の抽出物を、固体形態の6wt%のγ-シクロデキストリンと混合した。混合物を6℃で一晩保管した。このようにして、十分に安定したホスト-ゲスト複合体が得られた。
【0150】
本発明による方法の工程(c)としてホスト-ゲスト複合体を濾過によって分離した。水を濾過ケーキに添加した。芳香性物質の放出は、ホスト-ゲスト複合体の酵素処理によって達成された。この目的で、水性混合物を1ml当たり1μlのアミラーゼ「Dextrozyme GA」(Novozymes)と混合し、密閉容器内にて55℃で48時間インキュベートした。最後に、得られた混合物を濾過した。
【0151】
得られた芳香物質に富む製品を、ここで風味付けを目的として、例えば0.0vol%エタノールのアルコール含量を有する製品に少量で使用することができる。
【0152】
本発明が上記の実施例に限定されず、むしろ様々な方法で変更し得ることが当業者には明らかである。個別に説明された実施例の特徴は、特に互いに組み合わせるか、又は互いに入れ替えることもできる。
【符号の説明】
【0153】
1 少なくとも1つの無極性基を含む有機物質、略して「無極性有機物質(AOS)」;芳香性物質、苦味物質、油、脂肪、ワックス、接着剤、着色剤
10 出発混合物
2 シクロデキストリン
12 シクロデキストリンと少なくとも1つの無極性基を含む有機物質(AOS)とのゲスト-ホスト複合体、シクロデキストリン-AOS複合体
20 サッカリド
3 水
4 エタノール含有溶液
40 エタノール
5 酵素
6 組成物
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2022-08-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品、嗜好品、化粧品又は医薬品を構成する製品を風味付け及び/又は安定化する方法であって、
風味付けされる製品に、少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(AOS)(1)及び/又は少なくとも1つ以上の芳香性物質を選択的に分離する方法によって生成される組成物(6)を添加すること、
を含み、前記少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(AOS)(1)及び/又は少なくとも1つ以上の芳香性物質を選択的に分離する方法
(a)少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(AOS)及び/又は少なくとも1つ以上の芳香性物質(1)、並びに任意に少なくとも1つの溶媒(3;4;40)を含有する出発混合物(10)を準備することと、
(b)前記出発混合物(10)を少なくとも1つのシクロデキストリン(2)と接触させることと、
を含み、少なくとも1つの溶媒、特に水を工程(a)及び/又は工程(b)において、及び/又は工程(b)の後に添加し、
前記少なくとも1つのシクロデキストリン(2)と前記出発混合物(10)の前記少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質及び/又は前記少なくとも1つ以上の芳香性物質(1)との接触の結果として、少なくとも1つのシクロデキストリン-AOS複合体及び/又はシクロデキストリン-芳香性物質複合体(12)が液相、特に水相(3;4)中に得ら
(c)前記シクロデキストリン-AOS複合体及び/又は前記シクロデキストリン-芳香性物質複合体(12)を前記液相から分離する更なる工程と、
(d)分離された前記シクロデキストリン-AOS複合体及び/又は前記シクロデキストリン-芳香性物質複合体(12)を酵素によって処理して、少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(AOS)(1)及び/又は少なくとも1つの芳香性物質が装填された組成物(6)を得る更なる工程と、
を含み、アミラーゼ活性を有する酵素、好ましくはα-アミラーゼ、最も好ましくは真菌α-アミラーゼ、脱分枝酵素、特にプルラナーゼ及び/又はイソアミラーゼ、並びにこれらの酵素のうち少なくとも2つの混合物を含む群から選択される少なくとも1つの酵素を用いて酵素処理を行う、方法。
【請求項2】
揮発性芳香性物質、不揮発性芳香性物質、例えば苦味物質、油画分、脂肪画分及び/又はワックス画分、着色剤、並びに接着剤、特に植物性及び/又は動物性の出発原料からのもの、並びに言及した物質のうち少なくとも2つの混合物からなる群から選択される、少なくとも1つの芳香性物質及び/又は少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(1)を食品、嗜好品、化粧品又は医薬品、好ましくは食品又は飲料に導入するための、少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(AOS)(1)及び/又は少なくとも1つ以上の芳香性物質を選択的に分離する方法によって生成される組成物の使用であって、
少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(AOS)(1)及び/又は少なくとも1つ以上の芳香性物質を選択的に分離する方法が、
(a)少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(AOS)及び/又は少なくとも1つ以上の芳香性物質(1)、並びに任意に少なくとも1つの溶媒(3;4;40)を含有する出発混合物(10)を準備することと、
(b)前記出発混合物(10)を少なくとも1つのシクロデキストリン(2)と接触させることと、
を含み、少なくとも1つの溶媒、特に水を工程(a)及び/又は工程(b)において、及び/又は工程(b)の後に添加し、
前記少なくとも1つのシクロデキストリン(2)と前記出発混合物(10)の前記少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質及び/又は前記少なくとも1つ以上の芳香性物質(1)との接触の結果として、少なくとも1つのシクロデキストリン-AOS複合体及び/又はシクロデキストリン-芳香性物質複合体(12)が液相、特に水相(3;4)中に得られ、
(c)前記シクロデキストリン-AOS複合体及び/又は前記シクロデキストリン-芳香性物質複合体(12)を前記液相から分離する更なる工程と、
(d)分離された前記シクロデキストリン-AOS複合体及び/又は前記シクロデキストリン-芳香性物質複合体(12)を酵素によって処理して、少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(AOS)(1)及び/又は少なくとも1つの芳香性物質が装填された組成物(6)を得る更なる工程と、
を含み、アミラーゼ活性を有する酵素、好ましくはα-アミラーゼ、最も好ましくは真菌α-アミラーゼ、脱分枝酵素、特にプルラナーゼ及び/又はイソアミラーゼ、並びにこれらの酵素のうち少なくとも2つの混合物を含む群から選択される少なくとも1つの酵素を用いて酵素処理を行う、使用。
【請求項3】
前記少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(1)が、揮発性芳香性物質、不揮発性芳香性物質、例えば苦味物質、油画分、脂肪画分及び/又はワックス画分、着色剤、並びに接着剤、特に植物性及び/又は動物性の出発原料からのもの、並びに言及した物質のうち少なくとも2つの混合物を含む群から選択される請求項1に記載の方法又は請求項2に記載の使用
【請求項4】
工程(a)及び/又は工程(b)において、及び/又は工程(b)の後に、
水分含量を15vol%~35vol%、好ましくは20vol%~30vol%の範囲に調整し、
及び/又はエタノール含量を少なくとも40vol%、好ましくは40vol%~60vol%の範囲のエタノール含量となるように調整することを特徴とする、請求項1若しくは2に記載の方法又は請求項2若しくは3に記載の使用
【請求項5】
(d1)工程(c)において分離された前記シクロデキストリン-AOS複合体及び/又は前記シクロデキストリン-芳香性物質複合体(12)を、工程(d)における処理、特に酵素による処理の前に水で希釈する更なる工程、
を含む、請求項1若しくは3若しくは4に記載の方法又は請求項2~4のいずれか一項に記載の使用
【請求項6】
工程(d)を、少なくとも1つの無極性有機物質(AOS)及び/又は少なくとも1つの芳香性物質(1)が装填された前記組成物(6)中のシクロデキストリン濃度が0.5wt%未満、好ましくは0.1wt%未満となるように行うことを特徴とする、請求項1若しくは3~5のいずれか一項に記載の方法又は請求項2~5のいずれか一項に記載の使用
【請求項7】
(e)前記シクロデキストリン-AOS複合体及び/又は前記シクロデキストリン-芳香性物質複合体(12)の特に酵素による処理から得られる混合物を濾過する更なる工程、
を含み、少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(AOS)及び/又は少なくとも1つの芳香性物質が装填された組成物(6)が得られる、請求項1若しくは3~6のいずれか一項に記載の方法又は請求項2~6のいずれか一項に記載の使用
【請求項8】
工程(a)及び/又は工程(b)において、及び/又は工程(b)の後に少なくとも1つの溶媒を使用し、該溶媒が水、C~Cアルコール、ジエチルエーテル、アセトン又はそれらの混合物、好ましくは水、エタノール及びそれらの混合物を含む群から選択される、請求項1若しくは3のいずれか一項に記載の方法又は請求項2~7のいずれか一項に記載の使用
【請求項9】
シクロデキストリン(2)として、少なくとも1つの置換若しくは非置換のα-シクロデキストリン、少なくとも1つの置換若しくは非置換のβ-シクロデキストリン、少なくとも1つの置換若しくは非置換のγ-シクロデキストリン、少なくとも1つの置換若しくは非置換のδ-シクロデキストリン、又はそれらの混合物、好ましくは置換又は非置換のγ-シクロデキストリン、最も好ましくは10wt%の置換又は非置換のβ-シクロデキストリンと90wt%の置換又は非置換のγ-シクロデキストリンとからなる混合物を使用する、請求項1若しくは3~8のいずれか一項に記載の方法又は請求項2~8のいずれか一項に記載の使用
【請求項10】
工程(c)における前記シクロデキストリン-AOS複合体(12)の分離を遠心分離又は濾過、好ましくは真空濾過又はナノ濾過によって行う、請求項1若しくは3~9のいずれか一項に記載の方法又は請求項2~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
(c1)前記シクロデキストリン-AOS複合体及び/又は前記シクロデキストリン-芳香性物質複合体を前記液相から分離する前に静置する更なる工程、
を含み、工程(c1)による静置段階を特に最大24時間、好ましくは最大12時間、最も好ましくは2時間にわたって行う、請求項1若しくは3~10のいずれか一項に記載の方法又は請求項2~10のいずれか一項に記載の使用
【請求項12】
工程(c)において前記シクロデキストリン-AOS複合体及び/又は前記シクロデキストリン-芳香性物質複合体(12)を分離することによって得られた分離液相を、少なくとも1つのシクロデキストリン(2)と再び混合し、特に工程(a)に再循環させることで収率を最大限に高める、請求項1若しくは3~11のいずれか一項に記載の方法又は請求項2~11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
工程(c)において分離された前記シクロデキストリン-AOS複合体及び/又は前記シクロデキストリン-芳香性物質複合体(12)を、工程(d)における特に酵素による処理の前に、工程(d1)において水で希釈することで、1つ以上の親水性有機物質及び/又は1つ以上の芳香性物質(1)の所望の最終濃度を得る、請求項1若しくは3~12のいずれか一項に記載の方法又は請求項2~12のいずれか一項に記載の使用
【請求項14】
工程(d)における酵素処理を、アミラーゼ活性を有する酵素、好ましくはα-アミラーゼ、最も好ましくは真菌α-アミラーゼ、脱分枝酵素、特にプルラナーゼ及び/又はイソアミラーゼ、並びにこれらの酵素のうち少なくとも2つの混合物を含む群から選択される少なくとも1つの酵素(5)を用いて行う、請求項1若しくは3~13のいずれか一項に記載の方法又は請求項2~13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記少なくとも1つの酵素(5)を分離固相1g当たり5FAU~1000FAUの範囲の量で使用する、請求項1若しくは3~1のいずれか一項に記載の方法又は請求項2~14のいずれか一項に記載の使用
【請求項16】
なくとも1つの芳香性物質及び/又は少なくとも1つの無極性基を含む少なくとも1つの有機物質(1)を、0.0vol%のエタノール含量を有する食品又は嗜好品又は飲料又は化粧品又は医薬品に導入するための求項~1のいずれか一項に記載の方法によって生成される組成物の使用。
【請求項17】
特に食品、嗜好品、化粧品、医薬品及びこれらの製品の中間製品からなる群から選択される物質系の濾過における濾過助剤としてのβ-シクロデキストリンの使用。
【国際調査報告】