(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】非環式モノテルペノイド類の酵素的単環化
(51)【国際特許分類】
C12N 9/88 20060101AFI20231214BHJP
C12N 15/60 20060101ALI20231214BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231214BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231214BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231214BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231214BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231214BHJP
C12P 5/00 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C12N9/88 ZNA
C12N15/60
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P5/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023529057
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(85)【翻訳文提出日】2023-07-14
(86)【国際出願番号】 EP2021082104
(87)【国際公開番号】W WO2022106522
(87)【国際公開日】2022-05-27
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508091085
【氏名又は名称】ウニベルジテート シュトゥットガルト
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハウアー,ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,アンドレアス
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AB05
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064CD04
4B064DA10
4B065AA26X
4B065AA83Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BC01
4B065BD25
4B065CA03
4B065CA41
4B065CA51
(57)【要約】
配列番号1~3から選択されるアミノ酸配列または配列番号1~3に対する60~99.9%の範囲の配列同一性の程度を有するそれに由来するアミノ酸配列を含む野生型酵素の変異体から選択される、スクアレン-ホペン-シクラーゼ活性を有する酵素変異体であって、1ステップの単環化を触媒して、ガンマ-ジヒドロイオノンおよび/またはアルファ-ジヒドロイオノンなどの生成物を生産する、変異体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1~3から選択されるアミノ酸配列または配列番号1~3に対する60~99.9%の範囲の配列同一性を有するそれに由来するアミノ酸配列を含む野生型酵素の変異体から選択される、スクアレン-ホペンシクラーゼ活性を有する酵素変異体であって、一般式(I):
【化1】
の基質の、式(II)
【化2】
の単環式化合物への少なくとも1ステップの単環化を触媒し、
式中、置換基R
1およびR
2の少なくとも一方が、オキソ、-OH、チオール、アミノ、エステル、ハロゲン、ニトロまたはニトリル基からなる群から選択され、置換基R
1およびR
2の少なくとも一方が、水素、アルキルまたはアルキレン基から選択される、変異体。
【請求項2】
a)配列番号1のG600位における変異または
b)配列番号2~3のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列における変異であって、変異の位置が配列番号1のG600位に対応する、変異
を含む、請求項1に記載の酵素変異体。
【請求項3】
アミノ酸基の最大10%が、欠失、挿入、置換、付加またはその組合せによって配列番号1または配列番号2~3と比較して改変されている、請求項1または2に記載の酵素変異体。
【請求項4】
配列番号1のG600位における、または配列番号2~配列番号3のアミノ酸配列の1つにおける配列番号1のG600位に対応する位置における変異が、G600A、G600S、G600C、G600T、G600N、G600D、G600QおよびG600Eからなる群から選択される置換である、請求項1~3のいずれか一項に記載の酵素変異体。
【請求項5】
配列番号1のY420もしくはL607位の1つにおける少なくとも1つの変異または配列番号2~配列番号3のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列における少なくとも1つの変異であって、変異の位置が、配列番号1のY420位もしくはL607位に対応する、変異をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の酵素変異体。
【請求項6】
配列番号1のY420位、G600位およびL607位における3個の変異または配列番号2~3のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列における3個の変異であって、変異の位置が配列番号1のY420位、G600位およびL607位に対応する、変異を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の酵素変異体。
【請求項7】
配列番号1のA306位、Y420位、G600位およびL607位における4個の変異または配列番号2~3のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列における4個の変異であって、変異の位置が配列番号1のA306位、Y420位、G600位およびL607位に対応する、変異を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の酵素変異体。
【請求項8】
配列番号4~8および34から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の酵素変異体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の酵素変異体をコードする核酸配列。
【請求項10】
請求項9に記載の核酸配列を含む発現カセット。
【請求項11】
少なくとも1つの調節エレメントの制御下に、少なくとも1つの請求項9に記載の核酸配列または少なくとも1つの請求項10に記載の発現カセットを含む、組換えベクター。
【請求項12】
少なくとも1つの請求項9に記載の核酸配列または少なくとも1つの請求項10に記載の発現カセットまたは少なくとも1つの請求項11に記載の組換えベクターを含む、組換え微生物。
【請求項13】
式(II)
【化3】
(式中、置換基R
1およびR
2の少なくとも一方は、=O、-OH、チオール、アミノ、エステル、ハロゲン、ニトロまたはニトリル基からなる群から選択され、置換基R
1およびR
2の少なくとも一方は、水素、アルキルまたはアルキレン基から選択される)
の化合物の製造のための方法であって、式(I)
【化4】
(式中、R
1およびR
2は、上で定義された通りである)
の化合物を、請求項1~9のいずれか一項に記載の酵素変異体を用いて、または請求項1~9のいずれか一項に記載の酵素変異体を発現する微生物の存在下で環化する、方法。
【請求項14】
請求項1に記載の式(I)の化合物の、請求項1に記載の式(II)の化合物への環化のための、請求項1~8のいずれか一項に記載の酵素変異体、請求項9に記載の核酸配列、請求項10に記載の発現カセット、請求項11に記載の組換えベクターまたは請求項12に記載の組換え微生物の使用。
【請求項15】
ゲラニルアセトン、ネリルアセトン、カルムサール、カルムソールまたはその混合物から出発する、ジヒドロイオノン誘導体、特に、(+)-γ-ジヒドロイオノンの製造のための、請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクラーゼ活性を有する新規酵素変異体および新規酵素変異体を使用する非環式モノテルペノイド類の単環化のためのプロセスに関する。
【0002】
本発明のさらなる実施形態は、新規酵素変異体をコードする核酸配列、そのような核酸配列を含む発現カセットおよび調節エレメントの制御下に、本発明による少なくとも1つの核酸配列または本発明による少なくとも1つの発現カセットを含む組換えベクターに関する。
【0003】
さらに、本発明は、本発明による少なくとも1つの核酸配列または本発明による少なくとも1つの発現カセットまたは本発明による少なくとも1つの組換えベクターを含む組換え微生物に関する。
【背景技術】
【0004】
特定のシクラーゼでのテルペン類の環化自体は公知である。例として、スクアレンは、天然のプロセスにおいてスクアレン-ホペンシクラーゼによって五環性化合物ホペンに環化される。
【0005】
アポカロテノイド類は、いくつかのC40-カロテノイドの酸化的切断から誘導される天然のイソプレノイド構造である。主に15個未満の炭素原子からなる、これらのより短いアナログは、パーソナルケア製品または食品着香料のための香味料および香料産業において頻繁に使用されており、したがって、高い経済的関心が持たれている。
【0006】
ダマスコン5~7、ダマセノン8のようなローズケトンまたはロノン1~3およびジヒドロイオノン4のようなバイオレット型匂い分子は、その極端に低い嗅覚閾値のため、この分野において傑出した地位を有する。
【0007】
【0008】
匂い自体と共にこの特性は分子の全体の構造と密接に関連し、したがって、化学合成による容易な入手可能性が非常に望ましい。最も長く公知であり、最も研究されているアポカロテノイド類としてのイオノン類1~3は、より高い分子量のカロテノイド類の酸化的切断から誘導される、植物に由来する異性体の混合物として抽出されるか、またはその線状前駆体の酸触媒環化によって合成される。これにより、リン酸、硫酸またはルイス酸、例えば、トリフルオロホウ酸を使用する、酸の選択は、得られる生成物α-1、β-2またはγ-イオノン3を決定付ける。これらは全て、その嗅覚特性において異なり、(S)-γ-誘導体が最も強力かつ心地よい匂いを有する。(S)-γ-イオノン3を得るためには、立体選択的環化が好ましいが、古典的な有機化学においては依然として困難であり、結果として、多ステップの合成およびリパーゼ触媒による分解手法が一般的に用いられている。
【0009】
対応するジヒドロイオノン類(4)は、その特性において、イオノン類(1~3)のものと同等である。続いて、ここで最も優れた誘導体はまた、γ-誘導体9である。それは、市場でのその高い価値のため、「フローティングゴールド」としても知られる、アンバーグリスの主成分である、アンブレインの光酸化的分解産物である。
【0010】
【0011】
化合物(+)-9は、3つのステップで10、11、12を化学合成するための前駆体として作用することができ、1ステップ環化において13に濃縮される。(+)-9を得るためには、前駆体であるイオノンを、ラネーニッケルの存在下、水素で化学的に還元するか、またはそうでなければ、高圧Hgランプで照射する必要がある。市販のゲラニルアセトン(16t)からの直接環化手法は、不可逆的に必要とされるエポキシ誘導体、保護基に悩まされるか、または最終的には二環式もしくは多環式生成物になる。結果として、(+)-9は、コストが大きく、労力のかかる合成のため、基本的には市場で入手できない。
【0012】
一般に、アポカロテノイドの生成のための2つの手法が、文献に記載されている:一方では、酸性環化に基づいて不均一および均一触媒作用に分割される化学的手法が存在し、他方では、カロテノイド切断酵素に基づくいくつかのバイオテクノロジー的手法が存在する。
【0013】
化学的手法
文献で公知のジヒドロイオノン類(4)のための最も初期の調製方法は、対応する前駆体イオノンの還元である。Franckeらは、18%の少ないeeを用いた、還元化合物(+)-α-ジヒドロイオノンへの(+)-1の水素化を記載した(Francke, W., Schulz, S., Sinnwell, V., Konig, W. A., & Roisin, Y, Epoxytetrahydroedulan, a new terpenoid from the hairpencils of Euploea (Lep.: Danainae) butterflies. Liebigs Annalen der Chemie 1989.12, 1195-1201 (1989))。2000年に、Fugantiら(Fuganti, C., Serra, S. & Zenoni, A. Synthesis and olfactory evaluation of (+)- and (-)-γ-ionone. Helv. Chim. Acta 83, 2761-2768 (2000))は、4つのステップにわたってラセミ体3を合成し、環化およびリパーゼ触媒による分解を実施し、最後に、パラジウム触媒により鏡像異性的に純粋なイオノンを還元して、6%の全体収率でエナンチオピュアな(+)-9を得ることによって、(+/-)-γ-イオノン3および(+/-)-γ-ジヒドロイオノン9の嗅覚特性を初めて評価した。
【0014】
Tsangarakisら(Tsangarakis, C. & Stratakis, M. Biomimetic cyclization of small terpenoids promoted by zeolite NaY: Tandem formation of α-ambrinol from geranyl acetone. Adv. Synth. Catal. 347, 1280-1284 (2005))は、小さいテルペノイドである、ゲラニオール、酢酸ゲラニル、酢酸ファルネシルおよびゲラニルアセトン16tのNaY促進性環化を調査した。その触媒は完全に非選択的であり、α-ジヒドロイオノンは反応混合物中に有意でない量を超えて存在しなかったため、この化合物の収率は与えられない。
【0015】
2008年に、Justicia (Justicia, J.ら、Titanium-catalyzed enantioselective synthesis of α-ambrinol. Adv. Synth. Catal. 350, 571-576 (2008))および共同研究者らは、ゲラニルアセトン16tから出発する(-)-α-アンブリノール13の初めてのエナンチオ選択的合成を提示した。その全シーケンスは、8つの化学的ステップにわたって18%の収率をもたらした。
【0016】
位置異性体的に濃縮されたγ-ジヒドロイオノン9の合成のための別の方法は、Serra, S., Fuganti, C. & Brenna, E. Two easy photochemical methods for the conversion of commercial ionone alpha into regioisomerically enriched γ-ionone and γ-dihydroionone. Flavour Fragr. J. 22, 505-511 (2007)によって記載された。その著者らは、市販のα-イオノン1を使用し、この基質を還元およびアセチル化し、最後にジヒドロ-α-イオノールアセテートに照射して濃縮された9を得た。この方法は6~9のステップを要し、エナンチオ選択性を欠く。
【0017】
Serra, S. “An expedient preparation of enantio-enriched ambergris odorants starting from commercial ionone alpha”, Flavour Fragr. J. 28, 46-52 (2013)においては、ラセミ体α-イオノン1は再び、出発剤として使用され、4つのステップで濃縮された(+)-γ-イオノン3に、または5つのステップで濃縮された(+)-9に変換された。合成シーケンスの全体収率は約16%であった。
【0018】
バイオテクノロジー的手法
ジヒドロイオノン4の唯一のバイオテクノロジー的合成は、Sanchez-Contreras, A., Jimenez, M. & Sanchez, S. Bioconversion of lutein to products with aroma. Appl. Microbiol. Biotechnol. 54, 528-534 (2000)によって報告された。ルテインを分解することができるマリーゴールドの花の脱水泥に由来するコロニーが単離された。2つの微生物が、反応を触媒すると割り当てられた:ルテインのカロテノイド切断のためのトリコスポロン・アサヒ(Trichosporon asahii)および得られる切断産物の還元のためのパエニバチルス・アミロリティクス(Paenibacillus amylolyticus)18。生成物混合物は、β-イオノン2の他に、3-ヒドロキシ-β-イオノンおよびジヒドロ-β-イオノール、また、微量のジヒドロ-β-イオノンを含有すると共に、ルテインと関連する約3%の相対変換率を示した。
【0019】
スクアレン-ホペンシクラーゼ(SHC)は、トリテルペンシクラーゼのファミリーに属し、線状テルペンおよびテルペノイドの多環化を触媒する。オキシドスクアレンシクラーゼ(OSC)およびジテルペンシクラーゼと共に、それはプロトナーゼスーパーファミリーに属する。それらは、それらをクラスIIテルペンシクラーゼにするプレニル基をプロトン化することによって反応を開始させる。アリシクロバチルス・アシドカルダリウス(Alicyclobacillus acidocaldarius)に由来する細菌SHCの天然基質は、トリテルペンスクアレンであり、プロトン化後、カスケードのような協調的多環化を受けて、五環性ホペンまたはホパノールを与える。ホペンまたはホパノールの五環性フレームワークにおける9個の立体中心および12個の新しい結合の形成におけるこの1ステップ反応の複雑性は5:1の比である。この反応は、とりわけ、活性部位における線状スクアレンのall-pre-chairコンフォメーションへの予備フォールディングによって促進される。他方で、中間カルボカチオンは、芳香族アミノ酸によって安定化される。この酵素の基質範囲は、伸長したC35テルペンから小さいテルペノイドであるゲラニオールまでの範囲である。イソプレニルプロトン化の他に、カルボニルおよびエポキシドも活性化し、異性化、プリンス反応およびフリーデル・クラフツアルキル化のような他の反応型も触媒することができる。
【発明の概要】
【0020】
例えば、γ-ジヒドロイオノン9ならびに香味料および香料として使用することができる他の単環式化合物を得るためにアポカロテノイドを単環化するための効率的かつ経済的に実現可能な合成経路に対する必要性が依然として存在する。
【0021】
この課題は、請求項1に記載の酵素変異体によって達成される。
【0022】
本発明の好ましい実施形態は、独立請求項および以下の詳細な説明に記載される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
第1の実施形態では、本発明は、配列番号1~3から選択されるアミノ酸配列またはその部分配列または配列番号2~3に対する60~99.9%の範囲、好ましくは、70~99.9%の範囲の配列同一性(の程度)を有する配列番号2~3に由来するアミノ酸配列を含む野生型酵素の変異体から選択される、スクアレン-ホペンシクラーゼ活性を有する酵素変異体であって、一般式(I):
【0024】
【0025】
【化4】
の単環式化合物への少なくとも1ステップの単環化を触媒し、
【0026】
式中、置換基R1およびR2の少なくとも一方が、オキソ(=O)、-OH、チオール、アミノ、エステル、ハロゲン、ニトロまたはニトリル基からなる群から選択され、置換基R1およびR2の少なくとも一方が、水素、アルキルまたはアルキレン基から選択される、変異体に関する。
【0027】
アルキル基は、好ましくは、1~10個、より好ましくは1~8個、最も好ましくは1~6個の炭素原子を含む。代表的な例は、メチル、エチル、プロピル、1-メチルエチル、ブチル、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチル、ペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、2,2-ジメチルプロピル、1-エチルプロピル、ヘキシル、1,1-ジメチルプロピル、1,2-ジメチルプロピル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、1,1-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1-エチルブチル、2-エチルブチル、1,1,2-トリメチルプロピル、1,2,2-トリメチルプロピル、1-エチル-1-メチルプロピルおよび1-エチル-2-メチルプロピルである。
【0028】
アルケニル基は、好ましくは、2~20個、より好ましくは2~10個、さらにより好ましくは2~8個の炭素原子を含み、1個以上の二重結合を有する直鎖状または分枝状炭化水素残基を表す。代表的な例は、エテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-メチルエテニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-メチル-1-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-メチル-2-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、1-メチル-1-ブテニル、2-メチル-1-ブテニル、3-メチル-1-ブテニル、メチル-2-ブテニル、2-メチル-2-ブテニル、3-メチル-2-ブテニル、1-メチル-3-ブテニル、2-メチル-3-ブテニル、3-メチル-3-ブテニル、1,1-ジメチル-2-プロペニル、1,2-ジメチル-1-プロペニル、1,2-ジメチル-2-プロペニル、1-エチル-1-プロペニル、1-エチル-2-プロペニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、5-ヘキセニル、1-メチル-1-ペンテニル、2-メチル-1-ペンテニル、3-メチル-1-ペンテニル、4-メチル-1-ペンテニル、1-メチル-2-ペンテニル、2-メチル-2-ペンテニル、3-メチル-2-ペンテニル、4-メチル-2-ペンテニル、1-メチル-3-ペンテニル、2-メチル-3-ペンテニル、3-メチル-3-ペンテニル、4-メチル-3-ペンテニル、1-メチル-4-ペンテニル、2-メチル-4-ペンテニル、3-メチル-4-ペンテニル、4-メチル-4-ペンテニル、1-メチル-4-ペンテニル、2-メチル-4-ペンテニル、3-メチル-4-ペンテニル、4-メチル-4-ペンテニル、1,1-ジメチル-2-ブテニル、1,1-ジメチル-3-ブテニル、1,2-ジメチル-1-ブテニル、1,2-ジメチル-3-ブテニル、1,3-ジメチル-1-ブテニル、1,3-ジメチル-2-ブテニル、1,3-ジメチル-3-ブテニル、2,2-ジメチル-3-ブテニル、2,3-ジメチル-1-ブテニル、2,3-ジメチル-2-ブテニル、2,3-ジメチル-3-ブテニル、3,3-ジメチル-1-ブテニル、3,3-ジメチル-2-ブテニル、1-エチル-1-ブテニル、1-エチル-2-ブテニル、1-エチル-3-ブテニル、2-エチル-1-ブテニル、3-エチル-2-ブテニル、2-エチル-3-ブテニル、1,1,2-トリメチル-2-プロペニル、1-エチル-1-メチル-2-プロペニル、1-エチル-2-メチル-1-プロペニルおよび1-エチル-2-メチル-2 プロペニルである。
【0029】
オキソという用語は、それが結合している炭素原子と一緒にケト基を形成する置換基を定義する。
【0030】
本発明による酵素変異体は、スクアレン-ホペン-シクラーゼ活性を有する、すなわち、それは、スクアレンのホペンへの環化を触媒する。スクアレン-ホペン-シクラーゼ(以後、SHCとも称される)は、文献に記載されており、EC酵素分類スキームにおいてEC. 5.4.99.17と分類されている。
【0031】
本明細書で使用される用語「シクラーゼ活性」とは、非環式生成物から出発する環式生成物の形成を記載する、参照基質を用いて標準的な条件下で決定される酵素活性を指す。標準的な条件は、基質濃度、pH値および温度である。測定は、組換えシクラーゼを発現する細胞、その画分、または精製された酵素を用いて行うことができる。
【0032】
本発明に従って基質として使用される式(I)の化合物は、非環式モノテルペノイド類の群に属する。
【0033】
これらの化合物は、環を含有しないモノテルペン類である。
【0034】
本発明は、限定されるものではないが、式(I)の基質の単環化を触媒し、配列番号1~3のアミノ酸配列または例えば、これらの配列の1つの少なくとも50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550もしくは600個の連続するアミノ酸残基を含むその部分配列を含む、スクアレン-ホペン-シクラーゼ活性を有する酵素変異体を包含する。
【0035】
配列番号1~3に対する相同性(の程度)は、少なくとも60、より好ましくは少なくとも75、さらにより好ましくは少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、99%である。相同性は、PearsonおよびLipman, Proc. Natl. Acad. Sci USA 85(8), 1988, 2444-2448のアルゴリズムを使用して決定される。本発明による%での酵素変異体の相同性または同一性は特に、アミノ酸配列の全長に基づくアミノ酸基のそれぞれの同一性を意味する。
【0036】
第1の好ましい実施形態によれば、酵素変異体中のアミノ酸基の最大40%、好ましくは最大30%、より好ましくは最大20%が、欠失、挿入、置換、付加またはその組合せによって、配列番号1または配列番号2~3と比較して改変されている。
【0037】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、酵素変異体は、
a)配列番号1のG600位における変異または
b)配列番号2~3のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列における変異
を含み、ここで、変異の位置(以後、等価な位置とも称される)は、配列番号1のG600位に対応する。
【0038】
本明細書で使用される場合、用語「機能的変異体」は、上で定義された等価な位置に少なくとも1個の変異を含む酵素変異体に関する。
【0039】
配列番号1のG600位または配列番号2~配列番号3のアミノ酸配列の1つにおける配列番号1のG600位に対応する位置における好ましい変異は、G600A(配列番号9)、G600S(配列番号10)、G600C(配列番号15)、G600T(配列番号8)、G600N(配列番号11)、G600D(配列番号12)、G600Q(配列番号13)およびG600E(配列番号14)からなる群から選択される置換である。
【0040】
本発明による酵素変異体は、配列番号1のG600位または配列番号2~配列番号3のアミノ酸配列の1つにおける配列番号1のG600位に対応する位置の変異に加えて、配列番号1のY420もしくはL607位の1つに少なくとも1つの変異、例えば、配列番号4(G600T/L607A)および配列番号5(G600T/L607A/Y420F)の酵素変異体、または配列番号2~3のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列における少なくとも1つの変異であって、変異の位置が配列番号1のY420位もしくはL607に対応する、変異をさらに含んでもよい。
【0041】
本発明によるさらに好ましい酵素変異体は、配列番号1のY420、G600およびL607位に3つの変異、例えば、配列番号5の酵素変異体、もしくは配列番号2~3のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列における3つの変異であって、変異の位置が配列番号1のY420、G600およびL607位に対応する、変異を含むか、または配列番号1のA306、Y420、G600およびL607位に4つの変異、例えば、配列番号6(G600T/L607A/Y420F/A306V)の酵素変異体、もしくは配列番号2~3のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列における4つの変異であって、変異の位置が配列番号1のA306、Y420、G600およびL607位に対応する変異を含むか、または配列番号1のA306、Y420、D436、G600およびL607に5つの変異、例えば、配列番号7(G600T/L607A/Y420F/F306V/D436I)の酵素変異体、もしくは配列番号2~3のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列における5つの変異であって、変異の位置が配列番号1のA306、Y420、D436、G600およびL607位に対応する、変異を含む。
【0042】
特に好ましい酵素変異体は、配列番号4~8から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0043】
本発明の他の態様は、本発明による酵素変異体をコードする核酸配列、本発明による酵素変異体をコードする核酸配列を含む発現カセット、少なくとも1つの調節エレメントの制御下に、本発明による酵素変異体をコードする少なくとも1つの核酸配列を含む、または本発明による酵素変異体をコードする核酸配列を含む少なくとも1つの発現カセットを含む、組換えベクターに関する。
【0044】
さらに、本発明は、本発明による少なくとも1つの核酸配列または本発明による少なくとも1つの発現カセットまたは本発明による少なくとも1つの組換えベクターを含む組換え微生物に関する。
【0045】
配列番号1は、線状C30テルペンであるスクアレンの、9個の立体中心を構成するエナンチオピュアな五環性ホペン/ホパノールへの多環化を触媒する、アリシクロバチルス・アシドカルダリウスに由来するスクアレンホペンシクラーゼ(以後、AacSHCとする)の配列である。
【0046】
本発明の過程において、G600位が、より小さい基質変換のためのホットスポット位置であり、かつ、アルギニンが嵩高いが相当に可撓性(fairly flexible)の特性を有することが見出された。
【0047】
驚くべきことに、本発明者らは、主に小さい極性のアミノ酸が、式(I)の非環式モノテルペノイド類、例えば、ゲラニルアセトン16の単環化反応を駆動することを見出した。本発明者らは、これが、トレオニン残基の、基質のカルボニル基または他の基質中の対応する位置への水素結合によって促進されると推測している。
【0048】
本発明は、以後、式(I)の1つのあり得る基質としてゲラニルアセトンを参照して記載されるが、本発明による酵素変異体は一般に、一般式(I)の非環式モノテルペノイド類を、式(II)の単環式生成物に変換することができる。
【0049】
式(I)の基質は、それぞれの化合物の全ての異性形態、すなわち、構造異性体、立体異性体または光学異性体などのそれらの混合物またはEおよびZ異性体などの幾何異性体ならびにその任意の組合せを含む。基質が1つより多い(2以上の)非対称中心を含む場合、そのような非対称中心の異なるコンフォメーションの全ての組合せ、例えば、エナンチオマー対などが可能である。
【0050】
ゲラニルアセトンのEおよびZ異性体(16cおよび16t)は、バリアントG600Rを用いて主生成物として二環式生成物に、およびより少ない程度で、単環式生成物α-(17)-およびγ-ジヒドロイオノン(9)に変換された。
【0051】
【0052】
本発明の過程において、主に小さく極性のアミノ酸が、G600位で単環化反応を駆動し、バリアントG600Tが選択性に関して最良に機能することが見出された。特に、バリアントG600T(配列番号8)、G600N(配列番号11)、G600C(配列番号15)、G600S(配列番号10)、G600D(配列番号12)、G600E(配列番号14)および少量の非極性G600A(配列番号9)は、単環式γ-ジヒドロイオノン9および/またはα-ジヒドロイオノン17を生成した。
【0053】
YASARAを用いたバリアントG600T(配列番号8)の活性部位での基質16cのドッキング試験を実行したところ、2つの主要なプレフォールディング状態が示唆された:プレフォールディング状態1は、Y420-ヒドロキシ基によるカルボニル部分の配位のため、二環化に有利である。その結果生じるカチオンカスケード反応の第2のカルボカチオンは、酸素の1個の孤立電子対と相互作用し、それによって、共有結合を形成する可能性がある。G600位における嵩高いアミノ酸は、このプレフォールディング状態に有利である。しかしながら、トレオニンのサイズにターニングポイントがあり、そこでは極性がより大きな役割を果たすようである。これは現在、極性残基の水素結合能力に起因すると推定されている。プレフォールディング状態2は、G600TおよびY609によって水素結合したカルボニル部分、かくして、酸素の孤立電子対が、生じる第2のカルボカチオンから遠ざかる方向を向いており、最終的には単環式生成物が得られることを示す。さらに、基質16cのC1メチル基と、607位のロイシンとの立体的相互作用が、このプレフォールディング状態において推定され得る。
【0054】
ドッキング結果に基づいて、L607位での部位特異的変異誘発を導入したところ、結果は、この位置におけるロイシンより小さいアミノ酸が単環化反応にとって有益であることを示した。
【0055】
縮重コドンRVT(L607位でロイシンより小さいアミノ酸のみ、例えば、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グリシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、バリンをコードする)を用いたバリアントG600T(配列番号8)の部位特異的変異誘発により、バリアントG600T/L607A(配列番号4、以後、N1)が、G600T(配列番号8)と比較して、単環式生成物へのほぼ2倍の合計ターンオーバー数および所望のγ-ジヒドロイオノン9(G600T:50%)に向かうより高い選択性(79%)を示すことが示された。
【0056】
興味深いことに、カルボニルの代わりにヒドロキシ部分を含有する基質(ゲラニルイソプロパノールおよびカルムソール)は、バリアントG600N/L607Aを有する単環式化合物に向かう、より良好な変換を示す。これは、トレオニンの場合のようにそれらを唯一供与する代わりに水素結合も受容する600位のアスパラギンの能力に起因し得る。ゲラニルイソプロパノールの単環化は、結局、G600T/L607A(配列番号4)よりもバリアントG600T(配列番号8)が良好という結果になった。この基質はケト-メチル基を欠くため、それはL607位での増大した空間に依存しないはずである。
【0057】
Y420位に第3の変異を導入し、バリアントG600T/L607A/Y420F(配列番号5、以後、N2)を得ることは、バリアントG600R/L607Tと比較して単環式生成物への直接ターンオーバーを倍加し、所望の生成物γ-ジヒドロイオノン9に向かう94%の選択性を示した。二環化はわずか2%に減少し、微量の水和生成物が完全に消去された。
【0058】
A306位に第4の変異を導入することにより、バリアントG600T/L607A/Y420F/A306V(配列番号6、以後、ネリルアセトンモノシクラーゼまたはNMCと称される)が得られ、これは、野生型と比較してほぼ160倍増加した合計ターンオーバー数および所望の生成物γ-ジヒドロイオノン9に向かう97%の選択性を示した。
【0059】
出発材料に応じて(+/-)-α-アンブリノール13を得るためのγ-ジヒドロイオノン12の硫酸により触媒される環化実験により、エナンチオピュアな生成物(+)-α-アンブリノール13、したがって、エナンチオピュアな(-)-γ-ジヒドロイオノン9が示された。かくして、NMCにより触媒される反応は、高い総ターンオーバーおよび生成物選択性で進行するだけでなく、エナンチオ選択性は99.5%を超えるeeで厳密に制御される。
【0060】
600位および609位での部位特異的変異誘発によるバリアントN2を有する水素結合ノックアウトバリアント(生成物選択性はこの時点で既に非常に高かったため)を調製した。バリアントKO600(T600ノックアウト)は、所望の生成物9に向かうほぼ80%低い変換率および22%低い選択性を示した。バリアントKO609(Y609ノックアウト)は、ほぼ完全に活性を喪失し、単環化に向かう選択性の50%を喪失した。単一点変異バリアントY609F(T600およびY609ノックアウト、Y420スイッチオン)は、変換を全く示さなかった。
【0061】
変異実験および計算を、以下の機構によって説明することができる。
【0062】
基質16cが活性部位に進入した後、そのカルボニル部分は、600位のトレオニンによって緩く配位される。この誘引相互作用によって、カルボニル部分は、強力な水素結合による強い結合のために609位のチロシンの方向に反転する。この水素結合により媒介されるコンフォメーションは、1つの触媒ステップにおけるネリルアセトン16cの高度に生成物選択的かつエナンチオ選択的な単環化を可能にする。607位での増大した空間(ロイシン→アラニン)は、一方では基質のC1-メチル基のためのいくらかの空間を作出し、他方ではT600とY609との間の距離を短縮することができる可能性がある。両シナリオは単独で、または組み合わせて、カルボニル部分がチロシンに対して反転するのを促進する。T600の媒介的役割は、良好な選択性で基質のいくらかの変換を依然として示すバリアントKO600によって強調される。420位の機能しないようにされた水素結合ドナー(チロシン→フェニルアラニン)と共に、これは、所望の単環式生成物9に向かう残存する良好な選択性を説明するであろう。強力な水素結合Y609の重要な役割は、バリアントKO609およびY609Fによって強調される。バリアントKO609は、600位のトレオニンによるカルボニル部分の弱い配位のため、その活性のほぼ全てを喪失し、後者の酵素は単環式生成物に向かう活性を全く示さなかった。
【0063】
操作経路上で生成された、操作されたNMCおよびいくつかのバリアント(G600T、G600N/L607S、N1、N2)の能力を調査した。基質アナログのE/Z混合物を、生物形質転換のために使用した。単環化の観点から、ネリルアセトン16cはNMCによって最良に変換された。カルボニルの代わりにヒドロキシ部分を含有する基質は、バリアントG600N/L607S(配列番号17)を有する単環式化合物に向かうより良好な変換を示した。これはおそらく、アスパラギンおよびヒドロキシル部分の結合能力が、トレオニンおよびヒドロキシル部分のものよりも良好に合致するという事実に起因する。化合物19に向かう、基質18(R1が=Oであり、R2が水素である式(I))の単環化は、G600T/L607A(配列番号4)よりもバリアントG600T(配列番号8)に関して良好になった。生成物19は、16と比較して、ケト-メチル基を欠き、したがって、L607位の小さい立体的な嵩に依存しないはずである。
【0064】
この反応の拡張性(scalability)は、2g(2.24ml)のネリルアセトン16cを、所望の生成物12に向かう依然として高い選択性(95%;1%のα-生成物14)を示す操作されたバリアントNMCを用いて変換することによって証明することができる。生成物の単離(89%収率)およびその後の環化により、エナンチオピュアな変換が確認された。興味深いことに、ゲラニルアセトン16のE/Z混合物を使用する場合、進化したNMCは、E異性体16tの前にZ異性体16cを変換する。これは、本発明者らの知識では、文献に報告された初めてのZ選択的なII型シクラーゼである。
【0065】
実験の結果は、本発明による酵素変異体を使用することによって、所望の単環式生成物への式(I)の基質の単環化の容易な拡張性を示し、現在は容易に入手できない式(II)の生成物を得る産業的な目的のための興味深い視点を提供する。
【0066】
結果はさらに、基質の極性官能基の誘引によってプレフォールディングを誘導する適用可能性を示す。同時に、全ての水素結合が同じ力を有するわけではないため、それらは水素結合を作出するための極性官能基の選択の重要性を象徴する。
【0067】
本発明はかくして、グラム規模での式(II)の化合物に向かう、式(I)の化合物の触媒的な1ステップの生成物選択的かつエナンチオ選択的な中断的環化(abortive cyclization)を提供する。この反応は、AacSHCの活性部位の内部の極性官能基を操作することによって可能となり、かくして、水素結合により非天然基質の極性官能基を固定する能力を付加する。プロトナーゼのこの新規特徴により、酵素は非天然のプレフォールディングを誘導し、中断的環化(部分環化)生成物を得ることができる。これらの知見は、所望のテルペン生成物のために、複雑で非天然のカチオン性環化カスケードを制御し中断するためのプロトナーゼの進化のための基礎を設定する。
【0068】
本発明のさらなる主題は、特許請求の範囲に定義され、本明細書の上で詳細に説明された、本発明による酵素変異体をコードする核酸配列である。
【0069】
これらの核酸配列(例えば、cDNAおよびmRNAなどの、一本鎖または二本鎖DNAおよびRNA配列)を、例えば、二重らせんの単一の重複する相補的核酸構成要素の断片縮合または核酸の製造もしくは単離に関して文献に記載された任意の他の方法などによって、文献に記載された通りに取得することができる。オリゴヌクレオチドの化学合成は、当業者には公知であり、従って、さらなる詳細はここに記載する必要はない。
【0070】
本発明はまた、本発明による核酸配列の同定または増幅のためのハイブリダイズするプローブまたはプライマーとして使用することができる核酸断片も含む。
【0071】
本発明はさらに、本発明による核酸配列を含む発現カセットに関する。発現カセットは、発現させようとする核酸または遺伝子と機能的に関連する発現ユニットである。かくして、発現カセットは、転写および翻訳を調節する核酸配列だけでなく、翻訳および転写の結果として、タンパク質として発現されることを意図される核酸配列も包含する。
【0072】
好ましくは、そのような発現カセットは、コード配列に対して5’の方向にあるプロモーターおよびコード配列に対して3’の方向にあるターミネーター配列、および、最終的にはさらに、コード配列に機能的に連結された調節エレメントを含む。
【0073】
本発明による発現カセットは、例えば、好適なヌクレオチド配列を含む好適なプロモーターと、ターミネーターシグナルとの融合物によって取得することができる。それぞれの組換えおよびクローニング技術は、例えば、T. Maniatis, E.F. Fritsch, およびJ. Sambrook, “Molecular Cloning: A laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor (N.Y.), 1989に記載されている。
【0074】
本発明はさらに、少なくとも1つの調節エレメントの制御下に、本発明による少なくとも1つの核酸配列または本発明による少なくとも1つの発現カセットを含む、組換えベクターに関する。本発明において使用される場合、用語「ベクター」は、宿主生物中で自律的に、または染色体によって複製され得る、プラスミドおよびファージならびにCV40、バキュロウイルスおよびアデノウイルスなどのウイルス、トランスポゾン、ISエレメント、ファージミド、コスミドおよび線状または環状DNAなどの当業者には公知の任意の他のベクターを含む。
【0075】
好適なプラスミドは、例えば、WO 2012/066059の37頁に記載されている。
【0076】
本発明の別の態様は、本発明による少なくとも1つの核酸配列または本発明による少なくとも1つの発現カセットまたは本発明による少なくとも1つの組換えベクターを含む組換え微生物である。用語「微生物」は、野生型微生物ならびに遺伝的に改変された組換え微生物を包含する。
【0077】
本発明による核酸配列または発現カセットのための組換え宿主生物として、任意の原核または真核生物が主に好適である。好ましくは、細菌、真菌または酵母が用いられる。特に好ましいのは、グラム陽性またはグラム陰性細菌であり、より好ましくは、腸内細菌科、シュードモナス科、リゾビウム科、ストレプトミセス科またはノカルジア科からなる群、特に、エシェリキア、シュードモナス、ストレプトミセス、ノカルジア、ブルクホルデリア、サルモネラ、アグロバクテリウム、クロストリジウムまたはロドコッカスの群の細菌であり、大腸菌が特に好ましい。
【0078】
本発明の別の主題は、式(II)
【化6】
(式中、置換基R
1およびR
2の少なくとも一方は、オキソ(=O)、-OH、チオール、アミノ、エステル、ハロゲン、ニトロまたはニトリル基からなる群から選択され、置換基R
1およびR
2の少なくとも一方は、水素、アルキルまたはアルキレン基から選択される)
の化合物の製造のためのプロセスであって、式(I)
【化7】
(式中、R
1およびR
2は上で定義された通りである)
の化合物を、本発明による酵素変異体を用いて、または本発明による酵素変異体を発現する微生物の存在下で環化する、プロセスである。
【0079】
当業者であれば、その専門知識に基づいて本発明によるプロセスのための最良の好適な反応条件を選択することができ、したがって、原則としてさらなる詳細をここで記載する必要はない。例示的なプロセス条件は、本発明の実施形態を構成する、実施例から取ることができる。
【0080】
本発明は、良好な収率および高い純度、特に、高い異性体またはエナンチオマー純度での、例えば、ゲラニルアセトン16などの非環式モノテルペノイド類の、式(II)の化合物への単環化にとって特に好適である酵素変異体を提供する。式(II)の化合物は、香味料および香料産業において特に関心が高い。
【0081】
本発明はかくして、当業界で公知の従来の化学的経路よりもはるかに単純かつ迅速であるバイオテクノロジー的プロセスによる、天然の材料から出発する式(II)の化合物の製造のためのプロセスを初めて提供する。低収率の複雑な多ステップのプロセスは、所望の生成物の良好な収率および純度を示す単純な1ステップのプロセスによって置き換えられる。
【0082】
さらに好ましい実施形態は、独立請求項の主題である。本発明は、以下の実施例および添付の図面においていくらかより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【
図1】
図1は、サーモシネココッカス・エロンガタス(Thermosynechococcus elongatus)に由来するスクアレン-ホペンシクラーゼ(TelSHC)を用いた、基質16の変換を示す。
【0084】
(実施例)
材料
化学物質:
合成、分子生物学および生化学の作業のために使用される化学物質は、Carl-Roth (Karlsruhe, DE)、VWR (Pennsylvania, US)、Sigma-Aldrich (St. Louis, US)およびAlfa-Aesar (Ward Hill, US)から購入した。基質(E/Z)-ゲラニルアセトンはVWR (A19184.14)から、カルムサールはambinter (18445-88-0)から、およびアンブリノールはAmyrisからである。生物触媒目的のための他の基質は全て、化学的に合成し、1H-NMR、13C-NMRおよびGC/MSによって分析した。
【0085】
分子生物学的キット
DNA精製(Zymoclean DNA Clean & Concentrator Kit)、アガロースゲル抽出(Zymoclean Gel DNA Recovery Kit)およびプラスミド単離(Zyppy(商標)Plasmid Miniprep Kit)のための分子生物学的キットは、ZymoResearch (Irvine, US)から購入した。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
一般的分析
核磁気共鳴
1H-および13C-NMRスペクトルを、1Hについては500,15MHzで、13Cについては125MHzでBruker Avance 500分光光度計上で記録した。化学シフトδは、0に設定したppmでのテトラメチルシラン(=TMS)を指す。全ての物質を、CDCl 3中に溶解し、室温で記録した。
【0090】
円偏光二色性分析
化合物の比旋光度を、Perkin Elmer Polarimeter 241上で測定した。したがって、物質をCHCl3中に溶解し(c=0.5mg/ml)、比旋光度を、ナトリウムおよび水銀スペクトルランプを用いて測定した。
【0091】
ガスクロマトグラフィー
質量分析計MSD5977BおよびHP-5MSキャピラリーカラム(Agilent, 30 m x 250 μm x 0.25 μm)を装備したAgilent GC 7820Aおよび14.168 ψの定常圧を有する担体ガスとしてのヘリウムを使用してGC分析を実施した。注入(1μL)を、スプリットモード(10:1)で実施した。基質および生成物の積分-商によりGC-MSスペクトルから直接、相対変換率を算出した。CP ChiraSil-Dex CBキャピラリーカラム(Agilent, 25 m x 250μm x 0.25μm)を装備したShimadzu GC-2010および一定の速度(直線速度: 33.1 cm/s)を有する担体ガスとしての水素上で、キラルGC分析を実施した。注入(1μL)を、スプリットモード(5:1)で実施した。温度プログラムは、表4に列挙される。
【0092】
【0093】
化学合成
ゲラニルイソプロパノールの合成
【化8】
【0094】
還元反応のために、ゲラニルアセトン(0.50ml、2.34mmol、1.00当量)をエタノール(10ml)中に溶解した。次いで、水素化ホウ素ナトリウム(0.088g、2.34mmol、1.00当量)を注意深く添加し、反応混合物を室温で1h撹拌した。反応が完了した後、混合物を0.5NのHCl(2ml)でクエンチし、再度30min撹拌した。その後、蒸留水(50ml)を添加し、水性相をDCMで3回抽出した。合わせた有機相をCaCl2上で乾燥したところ、透明の油としてゲラニルイソプロパノールが得られた(0.49ml、2.04mmol、87%)。
【0095】
1H-NMR (CDCl3、500 MHz): δ (ppm) 1.19 (d、J = 2.9Hz、3H)、1.50 (quart、J = 7.7Hz、2H) 1.6 (s、3H)、1.62 (s、3H)、1.68 (s、3H)、1.88-1.92 (t、J = 7.3Hz、2H)、2.04-2.12 (m、4H)、3.77-3.84 (sept、J = 17.43Hz、1H)、5.05-5.10 (t、J = 6.7 Hz、1H)、5.12-5.17 (t、J = 6.8Hz、1H)。13C-NMR (CDCl3、125 MHz): δ (ppm) 16.50 (1C)、16.66 (1C)、22.44-25.63 (4C)、38.15-38.70 (2C)、66.97 (1C)、75.67 (1C)、122.22-123.24 (2C)、134.9 (1C)。MS (EI): m/z (%) = 196 (0.3)、153 (32)、135 (21)、109 (58)、95 (21)、82 (19)、81 (21)、69 (100)、68 (13)、67 (44)。データは、文献1と一致する。
【0096】
6,10-ジメチルウンデカ-5,9-ジエン-2-オール(23)の合成
【化9】
反応を、合成(1)と同様に実行した。生成物は、透明の油として得られた(0.21ml、1.04mmol、43%)。
【0097】
1H-NMR (CDCl3、500 MHz): δ (ppm) 1.19-1.34 (m、2H)、1.55-1.59 (m、2H) 1,61(s、3H)、1.62-1.65 (m、1H)、1.68 (s、3H)、1.69-1.71 (m、2H)、2.04-2.12 (m、4H)、3.62-3.67 (t、J = 6.6Hz、2H)、5.03-5.19 (m、2H)。データは、文献2と一致する。
【0098】
(-)-γ-ジヒドロイオノンの硫酸により触媒される環化
【化10】
【0099】
環化反応のために、(-)-γ-ジヒドロイオノン(400μL、1.8mmol)を、50mLのSchottボトル中のTHF(15mL)に溶解した。次いで、2Nの硫酸(5mL)を添加し、反応混合物を37℃で24h振とうした。水(20mL)の添加によって反応をクエンチし、ジエチルエーテル(3x30mL)で抽出した。合わせた有機相をMgSO4上で乾燥し、シリカクロマトグラフィー(10:1、ヘキサン:酢酸エチル)により精製したところ、わずかに黄色がかった液体として(+)-α-アンブリノールが得られた(350μL、1.5mmol、88%収率);([α]D20 = +84.6; Lit. = 81.83)。
【0100】
1H-NMR (CDCl3、500 MHz): δ (ppm) 0.87 (s、3H)、0.91 (s、3H) 1.14 (m、1H)、1.22 (s、3H)、1.24-1.40 (m、3H)、1.45-1.51 (m、2H)、1.67-1.74 (m、2H)、1.98-2.02 (m、2H)、2.06-2.17 (m、2H)、5.45 (t、J = 3.84Hz、1H)。13C-NMR (CDCl3、125 MHz): δ (ppm) 22.6 (1C)、23.8 (1C)、25.05 (1C)、26.02 (1C)、28.07 (1C)、29.24 (1C)、31.11 (1C)、28.95(1C)、47.25 (1C)、49.82 (1C)、70.28 (1C)、122.04 (1C)、137.39 (1C)。データは、文献4と一致する。
【0101】
(+)-α-アンブリノール MS (EI): m/z (%) = 194 (5)、176 (40)、161 (30)、136 (100)、121 (66)、120 (40)、109 (28)、105 (31)、95 (49)、93 (28)。
【0102】
副生成物: (-)-β-アンブリノール: MS (EI): m/z (%) = 194 (6)、176 (55)、161 (100)、136 (40)、121 (84)、107 (43)、106 (46)、105 (60)、93 (52)、91 (42)。
【0103】
一般的方法
プラスミドの単離
プラスミドの単離は、ZymoResearchによるZyppy(商標)Plasmid Miniprep Kitの標準プロトコールに従って行った5。プラスミドDNAの濃度の光度計による決定のために、260nmの波長でNanodrop 1000 (Agilent, Santa Clara, US)上、1μLを測定した。
【0104】
部位飽和/部位特異的変異誘発
AacSHC (UniProt: P33247)をコードする遺伝子またはこの遺伝子に基づくバリアントを、pET-22b(+)ベクターシステム(Merck, Darmstadt, Germany)中にクローニングした。SacIおよびNdeIを制限部位として用いた。クローニングは、NovageneのKOD Hot Start DNA Polymeraseの標準プロトコールに従った6。PCR混合物の組成および温度プロファイルは、表5および表6に記載される。
【0105】
【0106】
【0107】
「22c-trick」法7を用いて、部位飽和ライブラリーを生成した。PCR産物を37℃で2h、1μLのDpnIで消化し、アガロースゲル電気泳動によって精製し、GibsonアセンブリーによるpET22b(+)ベクター中にライゲーションした8。DNA Clean & Concentrator(商標)-5キット9を使用する精製後、プラスミドをヒートショック法によって形質転換した。部位特異的クローンを消化した後、直接形質転換した。
【0108】
プラスミド形質転換
塩化ルビジウムに基づく化学コンピテント細胞を、プラスミドDNAの形質転換のために生産した10。形質転換を、無菌条件下で実行した。部位飽和ライブラリーのために、3μLの精製されたPCR産物を、25μLのXL1-blueコンピテント細胞に添加し、氷上で30minインキュベートした後、42℃で105sにわたってヒートショックを行い、次いで、3minにわたって氷で冷却した。500μlのLB培地を添加した後、細胞を37℃で40minインキュベートし、培養前に一晩、5mLのLB培地(アンピシリン、cend=100μg/ml)の接種のために用いた。プラスミドの単離後、50μLのBL21(DE3)への形質転換を、ヒートショック法を使用して実施した。再生後、150μLを寒天プレート(アンピシリン、cend=100μg/ml)上に画線し、37℃で一晩インキュベートした。品質管理のために、プラスミドを別の150μLから単離し、配列決定に送った。部位特異的変異体については、PCR産物を、消化後にXL1-blueコンピテント細胞中に直接形質転換した。再生後、300μLを、単一クローンを拾うために寒天プレート上に画線した。
【0109】
96-DWプレート中でのAacSHCライブラリーの発現
個々のコロニーを、生成された寒天プレートから拾い、37℃、800rpmで18~20h、500μLのLB培地(アンピシリン、cend=100μg/ml)中で培養した。発現培養物を、10μLの予備培養物と共に、1mLのT-DAB自己誘導培地(アンピシリン、cend=100μg/ml)中に誘導剤としてのラクトースと共に接種した。培養物を37℃、800rpmで20hにわたってインキュベートした後、収獲した(4000xg、20min)。
【0110】
24DWプレート中での発現
個々のコロニーを、生成された寒天プレートから拾い、37℃、180rpmで18~20h、2mLのLB培地(アンピシリン、cend=100μg/ml)中で培養した。発現培養物を、40μLの予備培養物と共に、4mLのT-DAB自己誘導培地(アンピシリン、cend=100μg/ml)中に誘導剤としてのラクトースと共に接種した。培養物を37℃、600rpmで20hにわたってインキュベートした後、収獲した(4000xg、20min)。
【0111】
熱分解精製11、12
収獲または凍結乾燥された細胞を、1mLの溶解バッファー中に再懸濁し、70℃で60minインキュベートした。細胞懸濁液を遠心分離(14000xg、1min)し、上清を廃棄した。酵素は膜結合型であるため、1mLの1%-CHAPSバッファーを添加して、室温で1d、600rpmで振とうすることによって細胞ペレットからそれを抽出した。その後の遠心分離(14000xg、1min)の後、AacSHCを含有する上清を新しいチューブに移した後、SDS-PAGE分析を行い、Nanodrop 1000 (Agilent, Santa Clara, US)を使用することによって酵素濃度を決定した。したがって、タンパク質特異的データとしてMW= 71439 Daおよびモル吸光係数ε=185180を用いる「タンパク質A280」モードを選択した。
【0112】
SDS-PAGE
タンパク質の精製および抽出の後、20μlの酵素調製物を、10μlのSDSローディングバッファーと混合し、95℃に10min加熱した。その後、10μlの調製物を、予め調製したSDS-PAGE上にロードした。
【0113】
GC-MSによるAacSHCライブラリーのスクリーニング
収獲したペレットを、400μLの全細胞バッファー中に再懸濁し、1.2mLのガラス注入口を備えた別の96-DWプレートに移した。その後、4μLの基質/DMSOストック溶液(基質のcend= 2mM)を細胞懸濁液に直接添加し、プレートを密閉し、30℃、600rpmで20h振とうした。反応を停止させるために、600μLのシクロヘキセン/o-キシロール(1:1)を添加し、混合物を10minインキュベートした。プレートを遠心分離(4000xg、5min)し、PPシーリングを使用して密閉し、PAL-Samplerを装備したGC-MSを使用して、有機相から直接注入した。面積生成物/(面積基質+面積生成物)*100の商によって、総イオン計数クロマトグラムから直接、定量を行った。プレートあたり合計で90のバリアントをスクリーニングした。有望なバリアントを、24DWプレート中での発現によって再スクリーニングした。
【0114】
有望なヒットの検証
96-DWスクリーニングからの有望な候補を、5mLのLB予備培養物の接種のために取った。その後、プラスミドを単離し、単一コロニーを拾うために形質転換した。単一コロニーを、24DWプレート中で発現させ、収獲後、OD600を全細胞バッファー中で20に設定し、基質を添加した(cend=4.4mM)。反応を少なくとも技術的2回反復で実行した。ジクロロメタンを添加することによって、反応を停止させた。2回の抽出後、得られた有機相を、GC-MS上で直接測定した。面積生成物/(面積基質+面積生成物)*100の商によって、総イオン計数クロマトグラムから直接、定量を行った。
【0115】
総ターンオーバー数の決定
24DWプレート中での発現および収獲後、細胞ペレットを-80℃で一晩凍結した。その後、凍結されたペレットを、Christ alpha 2-4 LD plus中で一晩、凍結乾燥させた。反応設定のために、10mgの大腸菌全細胞を、1mlのシクロデキストリンバッファー中に再懸濁し、2μl(cend=8.8mM)の基質を懸濁液に添加し、反応物を30℃で20h撹拌した。DCMの添加によって反応を停止させ、10mMの1-ウンデカノールを添加した。反応物を3回抽出し、合わせた有機相をGC-MS上で測定した。内部標準としての1-ウンデカノールによって定量を行った。熱分解により3回反復でそれぞれのバッチについて10mgから酵素を抽出することによって、タンパク質濃度を決定した((6)を参照されたい)。検証および品質管理を、SDS-PAGEによって行った。
【0116】
反応のスケールアップ
生成物を単離し、その構造を決定するために、生物形質転換のスケールアップを実施した。したがって、対応するバリアントを発現させ、収獲された細胞ペレットを凍結乾燥した。その後、3gの凍結乾燥された全細胞を、200mLのバッファー(0.1%SDS、50mMクエン酸、5mMの(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン)中に再懸濁し、200μlの基質を添加した。反応を、30℃および250rpmで7日間にわたって密閉された250mLのフラスコ中で実行した。粗生成物を遠心分離して、細胞破片を除去した。シクロデキストリンによって封入された生成物を含有する水性相を、ジエチルエーテルで3回抽出し、減圧下で減少させ、カラムクロマトグラフィー(石油エーテル:酢酸エチル;50:1→10:1)上で精製し、NMRおよびGC/MSによって評価した。
【0117】
Z-ゲラニルアセトン変換のために、10gの凍結乾燥された全細胞を、500mLのシクロデキストリン(CD)バッファー中で使用し、2g(2.24ml)の基質を添加した。
【0118】
G600R(配列番号16)を有するE-ゲラニルアセトン16t
【0119】
【0120】
無色の油、0.167ml、0.77mmol、85%収率。(4S,8S)-2,5,5,8-テトラメチル-4,5,6,7,8,8-ヘキサヒドロ-4H-クロメン11t:1H-NMR (CDCl3、500 MHz): δ (ppm) 0.81 (s、3H)、0.91 (s、3H) 1.17 (s、3H)、1.21-1.29 (m、1H)、1.4-1.6 (m、5H)、1.68 (s、3H)、1.72-1.94 (m、3H)、4.4-4.5 (m、1H)。13C-NMR (CDCl3、125 MHz): δ (ppm) 19.07 (1C)、19.21 (1C)、19.82 (1C)、20.51 (1C)、20.77 (1C) 30.31 (1C)、32.25 (1C)、39.99 (1C)、41.65 (1C)、48. 37 (1C)、76.48(1C)、94.97 (1C)、147.97 (1C)。データは、文献13と一致する。
【0121】
G600R(配列番号16)を有するZ-ゲラニルアセトン16c
【0122】
【0123】
無色の油、0.098 ml、0.45 mmol、49%収率。(4R,8S)-2,5,5,8-テトラメチル-4,5,6,7,8,8-ヘキサヒドロ-4H-クロメン11t: 1H-NMR (CDCl3、500 MHz): δ(ppm) 0.85 (s、3H)、0.87 (s、3H) 1.16 (s、3H)、1.32-1.39 (m、1H)、1.54 (s、3H)、1.6-1.66 (m、3H)、1.68 (s、3H)、1.72-1.97 (m、3H)、2.14-2.27 (m、1H)、4.4-4.5 (d、J = 2.6 Hz、1H)。13C-NMR (CDCl3、125 MHz): δ (ppm) 18.13 (1C)、19.79 (1C)、20.54 (1C)、21.19 (1C)、26.50 (1C) 32.46 (1C)、33.73 (1C)、39.66 (1C)、41.99 (1C)、44.00 (1C)、74.71(1C)、94.56 (1C)、148.76 (1C)。
【0124】
NMCを有するZ-ゲラニルアセトン16c
【0125】
【0126】
無色の油、1.97ml、9.1mmol、89%収率。(-)-γ-ジヒドロイオノン9:: 1H-NMR (CDCl3、500 MHz): δ (ppm) 0.87 (s、3H)、0.92 (s、3H) 1.10-1.30 (m、2H)、1.42-1.62 (m、2H)、1.66-1.70 (m、1H)、1.76-1.83 (m、1H)、1.97-2.04 (m、2H)、2.11 (s、3H)、2.22-2.45 (m、2H)、4.50-4.51 (d、J = 1.03 Hz、1H)、4.75-4.77 (m、1H)。13C-NMR (CDCl3、125 MHz): δ (ppm) 20.31 (1C)、22.62 (1C)、23.52 (1C)、26.5 (1C)、28.3 (1C)、30.20 (1C)、32.00 (1C)、34.83 (1C)、42.38 (1C)、53.40 (1C)、109.5 (1C)、149.09 (1C)、209.52 (1C)。データは、文献14と一致する。
【0127】
G600N/L607S(配列番号17)を有するE/Z-ゲラニルイソプロパノール21
【化14】
【0128】
黄色がかった油、0.020ml、0.9mmol、10%収率。1H-NMR (CDCl3、500 MHz): δ (ppm) 2S,4S,8S-テトラヒドロエズラン24 : 0.81 (s、3H)、0.89 (s、3H)、1.14-1.15 (d、J = 3,1、3H)、1.23 (s、3H)、1.28 (s、1H) 1.33 (s、1H)、1.42-1.53 (m、5H)、1.56 (s、2H)、1.62-1.77 (m、4H)、3.97-4.04 (m、1H)。2R,4S,8S-テトラヒドロエズラン 25: 0.74 (s、3H)、0.87 (s、3H)、1.09-1.10 (d、J = 3.2、3H)、1.23 (s、3H)、1.28 (s、1H) 1.33 (s、1H)、1.42-1.53 (m、5H)、1.56 (s、2H)、1.62-1.77 (m、4H)、3.72-3.79 (m、1H)。13C-NMR (CDCl3、125 MHz): 2R,4S,8S-テトラヒドロエズラン25: δ (ppm) 19.54 (1C)、19.59 (1C)、20.19 (1C)、20.78 (1C)、22.72 (1C)、32.11 (1C)、33.37 (1C)、35.61 (1C)、40.75 (1C)、41.67 (1C)、53.30 (1C)、65.51 (1C)、74.83 (1C)。データは、文献15と一致する。
【0129】
4-((R)-2,2-ジメチル-6-メチレンシクロヘキシル)ブタン-2-オール18:1H-NMR (CDCl3、500 MHz): δ (ppm) 4.53 (d、J = 1.25 Hz、1H)および4.75 (t、J = 1.25 Hz、1H)での特徴的なメチレンシグナル。16cのキラルGCデータおよびエナンチオピュアな単環化から、本発明者らは、ここでの立体中心がRであると推定する。
【0130】
G600N/L607S(配列番号17)を有する6,10-ジメチルウンデカ-5,9-ジエン-2-オール23
【0131】
【0132】
1H-NMR (CDCl3、500 MHz): 4.55 (d、J = 1.00 Hz、1H)および4.75 (t、J = 1.30 Hz、1H)での20に関する特徴的なC7-メチレンシグナル。10cのキラルGCデータおよびエナンチオピュアな単環化から、本発明者らは、ここでの立体中心がRであると推定する。
【0133】
表7は、野生型酵素およびバリアントG600Rに関する基質混合物16および単離された16tおよび16cの相対変換率(%)ならびに対応する生成物選択性を示す。
【0134】
【0135】
反応条件:OD600=20、20h、30℃、4.4mM基質(=1mlの細胞懸濁液中、1μl)で全細胞バッファー(0.1Mクエン酸、0.1%SDS、pH=6.0)中に再懸濁したAacSHCバリアントを担持する大腸菌全細胞。
【0136】
【0137】
反応条件:OD600=22、20h、30℃、8.48mM基質(=1mlの細胞懸濁液中、2μl)で全細胞バッファー(0.1Mクエン酸、0.1%SDS、pH=6.0)中に再懸濁したAacSHCバリアントを担持する大腸菌全細胞。
【0138】
【0139】
反応条件:OD600=20、20h、30℃、8.8mM基質(=1mlの細胞懸濁液中、2μl)で全細胞バッファー(0.1Mクエン酸、0.1%SDS、pH=6.0)中に再懸濁したAacSHCバリアントを担持する大腸菌全細胞。
【0140】
【0141】
24h、30℃、8.8mM基質で1mLの全細胞バッファー(0.1Mクエン酸、0.1%SDS、10mMの2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン、pH=6.0)中で再懸濁したAacSHCバリアント(18~22μM)を担持する10mgの凍結乾燥した大腸菌全細胞。
【0142】
【0143】
反応条件:OD600=22、20h、30℃、8.8mM基質(=1mlの細胞懸濁液中、2μl)で全細胞バッファー(0.1Mクエン酸、0.1%SDS、pH=6.0)中に再懸濁したAacSHCバリアントを担持する大腸菌全細胞。
【0144】
他のシクラーゼを用いた16の生物形質転換
以下の実験において、単環化反応を実行する他のシクラーゼの能力が示される。したがって、429位(AacSHC Y420中の対応する位置)にフェニルアラニンを天然に担持するサーメシネココッカス・エロンガタスに由来する好熱性スクアレン-ホペンシクラーゼ(TelSHC)を選択した。結果は、単環式生成物9に向かう基質16の2%の変換率を示し、したがって、本発明の知見を確認し、この反応を実行するスクアレン-ホペンシクラーゼの一般的能力を示す(図面)。
【0145】
【配列表】
【国際調査報告】