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  • 特表-白金電解質の析出速度の安定化 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】白金電解質の析出速度の安定化
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/52 20060101AFI20231214BHJP
   C25D 3/50 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C25D3/52
C25D3/50 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023531068
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(85)【翻訳文提出日】2023-05-23
(86)【国際出願番号】 EP2021086385
(87)【国際公開番号】W WO2022129461
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】102020007789.7
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513151152
【氏名又は名称】ウミコレ・ガルファノテフニック・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ・マンツ
【テーマコード(参考)】
4K023
【Fターム(参考)】
4K023AA27
4K023BA29
4K023CA09
4K023DA02
4K023DA11
4K023EA01
(57)【要約】
本発明は、電気分解浴からの白金の電気分解析出を安定化する方法に関する。特に、本発明は、白金電気分解浴がスルファメート錯体の形態の白金を有する場合に対応する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金スルファメート錯体を含有する酸性で水性のシアン化物不含電気分解浴からの白金の析出を安定化する方法であって、
電気分解中に前記白金スルファメート錯体から放出されたアミドスルホン酸を前記電気分解浴中で分解すること
を特徴とする、方法。
【請求項2】
アミドスルホン酸に相当する量の可溶性亜硝酸塩を前記浴に添加すること
を特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記浴中の遊離アミドスルホン酸を前記電気分解中に測定すること
を特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記電気分解中に分解が起こること
を特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
アミドスルホン酸を、時々加熱することにより加水分解すること
を特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記加水分解を、100℃までで行うこと
を特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記浴のpH値が、7未満であること
を特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
電気分解を中断した場合に、アミドスルホン酸を分解した後、前記電気分解浴を再使用することを特徴とする、請求項4を除き、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気分解浴からの白金の電気分解析出を安定化するための方法に関する。特に、本発明は、白金電気分解浴がスルファメート錯体の形態の白金を有する場合に対応する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金の電気めっき及び電鋳は、白金の輝く光沢及び審美的魅力からだけでなく、その高い化学的及び機械的不活性からも、装飾品及び宝石の製造において広く使用されている。したがって、白金は、プラグ接続のためのコーティング及び接点材料としても機能することができる。
【0003】
白金(II)及び白金(IV)化合物に基づく酸性及びアルカリ性浴が、白金の電着に使用されている。最も重要な浴タイプは、ジアミノ-ジニトリト-白金(II)(P塩)、スルファト-ジニトリト-白金酸(DNS)、若しくはヘキサヒドロキソ白金酸、又はそれらのアルカリ塩を含有する。言及した浴タイプは、主に数μmの薄い白金層の堆積にのみ好適である。技術的用途のための厚い層の堆積は、白金の場合には全般的な問題である。層が高い内部応力を有し、亀裂を生じ、更に裂けて開くことになるか、又は電解質が不十分な安定性であり、長い電気分解持続時間を前提とする場合比較的迅速に分解するかのいずれかになる。
【0004】
国際公開第2013104877(A1)号では、より長い持続時間にわたって安定となり、白金イオン源及びホウ酸イオン源を含有する、白金電解質が提案されている。浴は概して良好な熱安定性を有する。浴は、広範囲のpH値にわたって使用することもできる。ある特定の実施形態では、浴は、輝き光る析出物をもたらす。
【0005】
欧州特許出願公開第737760(A1)号は、最大5g/lの遊離アミド硫酸(ASS、スルファミド酸、スルファミン酸、アミドスルホン酸)及び20~400g/lの1未満のpH値を有する強酸を含有する、Pt電解質を記載している。ここで使用した白金アミンスルファメート錯体は、遊離アミド硫酸なしで強酸性浴中、驚くほど安定であることが証明された。浴は、長い電気分解持続時間を前提とする場合であっても、沈殿生成を示さなかった。白金の析出中に放出されたアミドスルホン酸は加水分解され、したがって電解質中に蓄積しない。しかし、あまり強くない酸性の浴及び通常の電気分解温度では、加水分解は比較的遅い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013104877(A1)号
【特許文献2】欧州特許出願公開第737760(A1)号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
白金スルファメート錯体が最初に使用される電解質は、許容可能な析出速度及び析出スピードで平均電流収率を示すことが見出された。しかし、これらのパラメータは、析出の過程で比較的迅速に非経済的な値まで連続的に低下する。次いで、ますます多くの水素が共析出し、それによって、亀裂なしで析出することができる最大膜厚も低下する。
【0008】
したがって、白金層の電着のための更に改善された方法が必要とされている。本発明の請求項1に記載の特徴を有する方法によって、当業者にとって従来技術から自明なこれらの課題及び他の課題が達成される。本発明による方法の好ましい実施形態は、請求項2~8において取り上げられる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題は、白金スルファメート錯体を含有する酸性で水性のシアン化物不含電解質浴からの白金の析出を安定化する方法において、電気分解中に白金スルファメート錯体から放出されたアミドスルホン酸を電気分解浴中で分解することで、非常に容易に、決して不利ではなく達成される。明らかに、白金の析出速度の低下は、析出時に白金スルファメート錯体から放出されたアミドスルホン酸による。ここで、放出されたアミドスルホン酸が分解されることで、電解質の有効寿命を大きく延長することができる。それによって、運転コスト及び時間の節約が実現され、白金析出の利益に大きく寄与する。
【0010】
有利な実施形態では、アミドスルホン酸に対応する量の可溶性亜硝酸塩が、当該アミドスルホン酸を分解するために浴に添加される。亜硝酸ナトリウム又は亜硝酸カリウムが、好ましく使用される。次いで、所与の浴条件下で、反応(1)が電気分解時に進行する。
(1) Pt(NH(NHSO+HSO→Pt(s)+NHHSO+NHSO
【0011】
以下の反応(2)は、亜硝酸塩の添加によって誘発される。
(2) NHSOH+NaNO→N+HO+NaHSO
【0012】
この方法は、任意の白金スルファメート錯体に対して役立つ。これらは、H[Pt(NHSOSO]、H[Pt(NHSOSO]、H[Pt(NHSOCl]、[Pt(NH(NHSO]、及び[Pt(NH(NHSO]からなる群から選択され得る。H[Pt(NHSO]及び[Pt(NH(NHSO]も、特に有利に使用することができる。当業者に公知であり、水に容易に溶解する一般的な化合物は、亜硝酸塩と考えられる。特に、これらは、亜硝酸ナトリウム及び亜硝酸カリウムである。
【0013】
電解質中の亜硝酸塩の過剰を回避し、放出されたアミドスルホン酸を可能な限り多く分解するために、これらを、前もって測定する必要がある。これは、例えば計算によって行うことができる。化学量論的に必要な亜硝酸塩の量は、電解質の動作中に遊離又は放出されたアミドスルホン酸(ASS)の濃度から計算することができる。ここに例を示す。白金が、白金1モル当たり2モルのスルファメートを有するPt錯体から析出する場合、2×100g/195.1g/mol=1.2モルの量のASSが、Pt 100g当たり放出される。したがって、放出されたアミドスルホン酸は、1.2モルの亜硝酸ナトリウム、即ち46.9gのNaNOの添加によって分解される。アミドスルホン酸は、使用されるアノードに応じて、アノード酸化によって部分的に分解されることがあり、又は加水分解によって分解することもあるので、実際の実験において必要な亜硝酸塩の量を測定することが望ましい。したがって、浴中の遊離アミドスルホン酸は、好ましくは電気分解中に測定される。これは、例えばイオンクロマトグラフィー又はキャピラリー電気泳動によって有利に行うことができる。当業者であれば、ここでどのように進めるかを知っている(例えば、www.metrohm.com/de-de/applikationen/AN-S-392を参照)。ASSを定量化するために1つの可能なことは、使用される電解質から試料を採取し、ここでASSを亜硝酸塩によって分解することである。次いで、得られた窒素を、例えば圧力の上昇によって測定することができる。
【0014】
したがって、原則として、放出されたアミドスルホン酸を分解するための2つの別方法が当業者に利用可能である。電解質の析出速度(その測定については実施例の項を参照)が過度に低下した場合、電気分解を中断し、アミドスルホン酸を本発明に従って亜硝酸塩で分解し、次いで電気分解プロセスを再開することができる。しかし、代替的に及び好ましくは、ASSの分解が電気分解中に起こる別法がある。
【0015】
この目的のために、電気分解が進行している間に、必要量の亜硝酸塩が電気分解浴に添加される。電気分解は、好ましくは20℃~90℃、より好ましくは30℃~80℃、非常に好ましくは40℃~70℃の温度で進行する。これらの温度範囲において、アミドスルホン酸は、添加された亜硝酸塩によって十分に迅速に分解され、高い温度は、反応速度を上昇させるので、場合により好ましい。当業者であれば、最適な分解温度自体を測定することができる。
【0016】
本発明の更なる実施形態では、アミドスルホン酸は、時々加熱することによって加水分解され得る。これにより、電気分解は、析出速度がある特定の値(実施例の節に従って測定)を下回る限り、停止される。酸中での硫酸水素アンモニウムへの加水分解(3)は、以下のように進行する。
(3) NHSOH+HO→NHHSO (ASSの加水分解)
【0017】
この目的のために、耐熱性容器(例えば、ガラス反応器、エナメル反応器、ガラストラフなど)内の電解質を、可能な限り高い温度で数時間(2時間~5時間)加水分解処理に供する。加水分解は電解質の沸点までの温度で行われることが有利である。それにより、任意選択で、析出での不利益(例えば光沢の損失)を回避するために、使用される電解質の許容最高温度を観察する必要がある。したがって、加水分解は、好ましくは最大98℃、より好ましくは最大95℃で行われる。あるいは、電気分解析出中に、電解質の部分量又は部分流をバイパス内で取り出し、加熱し、加水分解/処理し、動作温度まで冷却した後、電解質に添加して戻すことができる。
【0018】
実際の電気分解プロセス、上述した加水分解、またアミドスルホン酸の亜硝酸塩による分解は、酸性のpH範囲内で起こる。電解質浴は、好ましくはpH値<7、より好ましくは<4、非常に好ましくは<2~0を有する。これらのpH値の遵守は、当業者の責任である。
【0019】
本発明による方法は、欧州特許出願公開第737760(A1)号からのものなど、当業者に知られている白金スルファメート電気分解浴に使用することができる。本明細書で述べた方法の特定の利点は、電気分解が中断された場合に、アミドスルホン酸が分解された後に電解質浴を再使用できることである。必要に応じて、特定の消費済成分が単に補充される。亜硝酸塩によるASSの連続的な分解はまた、電解質の有効寿命が本発明による方法によって最大限に延長され得、使用される白金スルファメート錯体が最適に利用され得る状況をもたらす。これは、作業時間及び材料コストの節約につながる。優先日の時点で、これは当業者によって予想されなかった。
【0020】
「電解質浴」という用語は、本発明によれば、対応する容器に入れられ、電気分解のために電流のフロー下、アノード及びカソードで使用される水性電解質を意味すると理解される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】亜硝酸塩を添加しないPtスルファメート電解質からのPtの析出速度である。
図2】亜硝酸塩を添加したPtスルファメート電解質からのPtの析出速度である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施例]
析出速度は以下のように測定することができる。
【0023】
1リットルの電解質(欧州特許出願公開第737760(A1)号)を、長さ60mmの円筒形磁気撹拌棒を用いて少なくとも200rpmで撹拌しながら、磁気撹拌器によって例示的な実施形態に記載された温度に加熱する。この撹拌及び温度は、コーティング中も維持される。
【0024】
アノード材料として、白金めっきチタン、又は混合金属酸化物でコーティングされたチタンを使用する。それぞれのアノードを、カソードの両側でカソードに平行に取り付ける。少なくとも0.2dmの表面積を有する機械的に研磨された真鍮板がカソードとして機能する。これは、高光沢層を生成する電解質から少なくとも2μmのニッケルで予めコーティングすることができる。また、厚さ約0.1μmの金の層をニッケル層上に析出させることもできる。
【0025】
電解質に導入する前に、これらのカソードを、電気分解脱脂(5V~7V)及び硫酸を含有する酸浸漬(c=5%硫酸)を用いて洗浄する。各洗浄工程間かつ電解質への導入前に、カソードを脱イオン水ですすぐ。
【0026】
カソードを、アノード間の電解質中に位置付け、少なくとも3m/分だけアノードに対して平行に移動させる。アノードとカソードとの間の距離は、それによって変化しないものとする。
【0027】
電解質において、カソードを、アノードとカソードとの間に直流電流を印加することによってコーティングする。それに関して、アンペア数は、試験のための所定の電流密度、例えば20mA/cmが、表面積にわたって達成されるように選択される。電流の持続時間は、試験のための所定の層厚(例えば1μm)が、表面積にわたって平均して達成されるように選択される。コーティング後、カソードを電解質から取り出し、脱イオン水ですすぐ。カソードの乾燥は、圧縮空気、熱風、又は遠心分離によって行うことができる。
【0028】
カソードの表面積、印加電流のレベル及び持続時間、並びにコーティング前及び後のカソードの重量が記録され、平均層厚さ及び析出の効率又は速度を測定するために使用される。
【0029】
結果:
55℃の動作温度で、白金を、最初に、Ptスルファメート錯体として10g/lのPt及び20g/lの硫酸を有する新たに調製された白金電解質中で、2A/dmにて0.25μm/分で析出させることができる(欧州特許出願公開第737760(A1)号におけるように)。10g/lのPtの析出後、約0.12μm/分の析出速度しかここで達成されない。これは、元の速度の45%への減少に相当する。
【0030】
60℃で10g/lのPtを用いた対応する析出を考慮して、初期状態では、厚さ2μmの層を光る均質な層として堆積させる。亜硝酸塩を添加しないと、スループットの過程で外観の劣化が増す。10g/lのPtを析出させた後、堆積したコーティングは、白濁し、褐色であり、また斑点状である。析出速度がほぼ安定に保たれるように亜硝酸塩を添加して電気分解白金析出が行われる場合、層は実質的に一様に光沢があり均質である。
【0031】
堆積した層の多孔性は、亜硝酸塩を添加しない電気分解白金析出中では、同様に劣化する。これは、40℃及び5Vの電圧での1%塩化ナトリウム溶液中でのアノード負荷下での厚さ1μmの白金層及びPt対電極を考慮すると検出可能である、著しく劣った腐食結果によって明らかにされる。初期状態では、2μmの光沢のあるニッケルめっき銅基材上に1μmの白金層厚さであることを考慮すると、20倍の倍率の光学顕微鏡によって、腐食生成物によって層が引き裂かれることなく120分超経過することを観察することができる。亜硝酸塩を添加しない白金10g/lのスループットの後、この値は、堆積した白金層の多孔性が増したことにより、5分~10分未満に低下する。同じスループットを前提として、亜硝酸塩の規則的な添加によって析出速度を一定に保つ場合、耐食性の劣化は観察されない。
図1
図2
【国際調査報告】