(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】細胞を富化するための抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/30 20060101AFI20231214BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20231214BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20231214BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20231214BHJP
【FI】
C07K16/30 ZNA
C07K16/46
C12N5/0783
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023531566
(86)(22)【出願日】2021-11-30
(85)【翻訳文提出日】2023-07-20
(86)【国際出願番号】 US2021061181
(87)【国際公開番号】W WO2022115776
(87)【国際公開日】2022-06-02
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521537830
【氏名又は名称】チョ ファーマ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】リウ, イン-チー
(72)【発明者】
【氏名】チェン, チエン-ユー
(72)【発明者】
【氏名】リー, ジュ-メイ
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AC14
4B065BD14
4B065CA44
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、特にグリコール操作されたN-グリカンを有し、SSEA4に特異的に結合する改変された抗体またはその抗原結合断片に関する。本開示はまた、改変された抗体またはその抗原結合断片によって細胞を富化するための方法にも関する。本開示は、改変抗体またはその抗原結合断片によって細胞を富化するための方法に関する。本開示はまた、抗原またはその断片におけるエピトープに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージ特異的胎児性抗原4(SSEA4)またはその断片のエピトープに結合する抗体またはその抗原結合断片であって、重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)および軽鎖可変領域のCDRを含み、前記重鎖可変領域の前記CDRが、CDRH1、CDRH2およびCDRH3領域を含み、前記軽鎖可変領域の前記CDRが、CDRL1、CDRL2およびCDRL3領域を含み、ならびに:
前記CDRH1領域が、配列番号1のアミノ酸配列を含み;前記CDRH2領域が、配列番号2のアミノ酸配列を含み;前記CDRH3領域が、配列番号3のアミノ酸配列を含み;および
前記CDRL1領域が、配列番号4のアミノ酸配列を含み;前記CDRL2領域が、配列番号5のアミノ酸配列を含み;前記CDRL3領域が、配列番号6のアミノ酸配列を含み;
または
前記CDRH1領域が、配列番号25のアミノ酸配列を含み;前記CDRH2領域が、配列番号26のアミノ酸配列を含み;前記CDRH3領域が、配列番号27のアミノ酸配列を含み;および
前記CDRL1領域が、配列番号28のアミノ酸配列を含み;前記CDRL2領域が、配列番号29のアミノ酸配列を含み;前記CDRL3領域が、配列番号30のアミノ酸配列を含み;
または
前記CDRH1領域が、配列番号25のアミノ酸配列を含み;前記CDRH2領域が、配列番号31のアミノ酸配列を含み;前記CDRH3領域が、配列番号32のアミノ酸配列を含み;および
前記CDRL1領域が、配列番号28のアミノ酸配列を含み;前記CDRL2領域が、配列番号29のアミノ酸配列を含み;前記CDRL3領域が、配列番号30のアミノ酸配列を含む、
抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
前記CDRH1領域が、配列番号7、13または14のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
前記CDRH2領域が、配列番号8または15のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
前記CDRH3領域が、配列番号9、16、17または18のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
前記CDRL1領域が、配列番号10または19のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
前記CDRL2領域が、配列番号11、20または21のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
前記CDRL3領域が、配列番号12または22のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
前記CDRH1領域が配列番号13を含み、前記CDRH2領域が配列番号8を含み、前記CDRH3領域が配列番号9を含み、前記CDRL1領域が配列番号10を含み、前記CDRL2領域が配列番号20を含み、前記CDRL3領域が配列番号12を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
前記CDRH1領域が配列番号13を含み、前記CDRH2領域が配列番号15を含み、前記CDRH3領域が配列番号9を含み、前記CDRL1領域が配列番号10を含み、前記CDRL2領域が配列番号11を含み、前記CDRL3領域が配列番号12を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項10】
前記CDRH1領域が配列番号13を含み、前記CDRH2領域が配列番号8を含み、前記CDRH3領域が配列番号16を含み、前記CDRL1領域が配列番号10を含み、前記CDRL2領域が配列番号11を含み、前記CDRL3領域が配列番号12を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項11】
前記CDRH1領域が配列番号14を含み、前記CDRH2領域が配列番号8を含み、前記CDRH3領域が配列番号17を含み、前記CDRL1領域が配列番号10を含み、前記CDRL2領域が配列番号21を含み、前記CDRL3領域が配列番号12を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項12】
前記CDRH1領域が配列番号14を含み、前記CDRH2領域が配列番号8を含み、前記CDRH3領域が配列番号18を含み、前記CDRL1領域が配列番号10を含み、前記CDRL2領域が配列番号11を含み、前記CDRL3領域が配列番号12を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項13】
前記CDRH1領域が配列番号7を含み、前記CDRH2領域が配列番号15を含み、前記CDRH3領域が配列番号9を含み、前記CDRL1領域が配列番号10を含み、前記CDRL2領域が配列番号20を含み、前記CDRL3領域が配列番号12を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項14】
前記CDRH1領域が配列番号7を含み、前記CDRH2領域が配列番号15を含み、前記CDRH3領域が配列番号17を含み、前記CDRL1領域が配列番号10を含み、前記CDRL2領域が配列番号11を含み、前記CDRL3領域が配列番号12を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項15】
前記CDRH1領域が配列番号7を含み、前記CDRH2領域が配列番号8を含み、前記CDRH3領域が配列番号16を含み、前記CDRL1領域が配列番号10を含み、前記CDRL2領域が配列番号20を含み、前記CDRL3領域が配列番号12を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項16】
前記重鎖可変領域が、配列番号23のアミノ酸配列またはその実質的に類似の配列を含み;前記軽鎖可変領域が、配列番号24のアミノ酸配列またはその実質的に類似の配列を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項17】
前記抗原結合断片が、配列番号37のアミノ酸配列を含む一本鎖Fv(scFv)分子である、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項18】
前記抗原結合断片が、配列番号38のアミノ酸配列を有するFc領域に融合されている、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項19】
前記重鎖可変領域が、配列番号33のアミノ酸配列またはその実質的に類似の配列を含み;前記軽鎖可変領域が、配列番号34のアミノ酸配列またはその実質的に類似の配列を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項20】
前記重鎖可変領域が、配列番号35のアミノ酸配列またはその実質的に類似の配列を含み;前記軽鎖可変領域が、配列番号36のアミノ酸配列またはその実質的に類似の配列を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項21】
前記抗体がFc領域を含むかまたは前記抗原結合断片がFc領域に融合され、前記抗体またはその抗原結合断片が前記Fc領域にN-グリカンを有し、前記N-グリカンが、Man
5GlcNAc
2(Man5)、GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(Fuc)(G0F)、GalGlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(Fuc)(G1F)、Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(Fuc)(G2F)、Sia
2(α2-3)Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(Fuc)(G2S2F(アルファ2,3結合))、Sia
2(α2-6)Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(Fuc)(G2S2F(アルファ2,6結合))、GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(G0)、Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(G2)、Sia
2(α2-3)Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(G2S2(アルファ2,3結合))、およびSia
2(α2-6)Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(G2S2(アルファ2,6結合))からなる群から選択される、請求項1~20のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項22】
前記重鎖可変領域が配列番号23のアミノ酸配列を含み、前記軽鎖可変領域が配列番号24のアミノ酸配列を含み、前記N-グリカンが、Man5、G0F、G1FおよびG2Fからなる群から選択される、請求項21に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項23】
前記N-グリカンが、G0F、G2F、G2S2F(アルファ2,3結合)、G2S2F(アルファ2,6結合)、G0、G2、G2S2(アルファ2,3結合)、およびG2S2(アルファ2,6結合)からなる群から選択され、複数の前記抗体またはその抗原結合断片が集団で提供され、前記集団の約90%より多くが同じN-グリカンを有する、請求項21に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項24】
細胞を富化するためのキットであって:
抗体またはその抗原結合断片であり、前記抗体がFc領域を含むかまたは前記抗原結合断片がFc領域に融合してFc融合抗原結合断片を形成し、前記抗体またはそのFc融合抗原結合断片が前記Fc領域で糖操作されている、抗体またはその抗原結合断片;および
前記抗体またはその抗原結合断片を固定するための支持体
を含むキット。
【請求項25】
前記抗体またはその抗原結合断片が、請求項1~20のいずれか一項に定義されているものである、請求項24に記載のキット。
【請求項26】
前記抗体またはそのFc融合抗原結合断片が、前記Fc領域にN-グリカンをさらに含み、前記N-グリカンが、Man
5GlcNAc
2(Man5)、GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(Fuc)(G0F)、GalGlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(Fuc)(G1F)、Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(Fuc)(G2F)、Sia
2(α2-3)Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(Fuc)(G2S2F(アルファ2,3結合))、Sia
2(α2-6)Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(Fuc)(G2S2F(アルファ2,6結合))、GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(G0)、Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(G2)、Sia
2(α2-3)Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(G2S2(アルファ2,3結合))、およびSia
2(α2-6)Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(G2S2(アルファ2,6結合))からなる群から選択される、請求項24に記載のキット。
【請求項27】
前記抗体またはその抗原結合断片が、配列番号23のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号24のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含み、前記N-グリカンが、Man5、G0F、G1FおよびG2Fからなる群から選択される、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
前記N-グリカンが、G0F、G2F、G2S2F(アルファ2,3結合)、G2S2F(アルファ2,6結合)、G0、G2、G2S2(アルファ2,3結合)、およびG2S2(アルファ2,6結合)からなる群から選択され、複数の前記抗体またはそのFc融合抗原結合断片が集団で提供され、前記集団の約90%より多くが同じN-グリカンを有する、請求項26に記載のキット。
【請求項29】
前記支持体に連結された抗原をさらに含む、請求項24に記載のキット。
【請求項30】
前記抗原がSSEA4である、請求項29に記載のキット。
【請求項31】
前記抗原が、前記抗体またはその抗原結合断片に結合する、請求項29に記載のキット。
【請求項32】
前記支持体が磁気ビーズである、請求項24に記載のキット。
【請求項33】
前記抗体またはその抗原結合断片が、抗SSEA4抗体またはそのSSEA4結合断片である、請求項24に記載のキット。
【請求項34】
細胞を富化するための方法であって:
細胞のプールを抗体またはその抗原結合断片と接触させるステップであり、前記抗体がFc領域を含むかまたは前記抗原結合断片がFc領域に融合してFc融合抗原結合断片を形成し、前記抗体またはそのFc融合抗原結合断片が前記Fc領域で糖操作されている、ステップ;ならびに
前記抗体またはそのFc融合抗原結合断片に結合する細胞を前記プールから単離するステップ
を含む方法。
【請求項35】
細胞の前記プールが末梢血単核球である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記末梢血単核球が、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、マクロファージ、単球およびB細胞からなる群から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記抗体またはその抗原結合断片が、支持体上に固定される、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記抗体がフラグメント抗原結合領域(Fab領域)を有するかまたはFc融合抗原結合断片が抗原結合断片を有し、および前記Fab領域または前記抗原結合断片が、前記支持体上に固定され、および前記単離された細胞が前記Fc領域に結合する、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記Fab領域または前記抗原結合断片が、前記支持体上に連結されたSSEA4に結合する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記支持体が磁気ビーズである、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記抗体またはそのFc融合抗原結合断片に結合することができない細胞を前記プールから単離するステップをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項42】
前記抗体またはFc融合抗原結合断片に結合することができない前記細胞がT細胞である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記抗体または抗原結合断片が、抗SSEA4抗体またはSSEA4結合断片である、請求項34に記載の方法。
【請求項44】
前記抗体またはFc融合抗原結合断片に結合することができない前記細胞の約90%より多くがT細胞である、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
前記抗体またはその抗原結合断片が、請求項1~20のいずれか一項に定義されるものである、請求項34に記載の方法。
【請求項46】
前記抗体またはそのFc融合抗原結合断片が、前記Fc領域にN-グリカンをさらに含み、前記N-グリカンが、Man
5GlcNAc
2(Man5)、GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(Fuc)(G0F)、GalGlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(Fuc)(G1F)、Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(Fuc)(G2F)、Sia
2(α2-3)Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(Fuc)(G2S2F(アルファ2,3結合))、Sia
2(α2-6)Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(Fuc)(G2S2F(アルファ2,6結合))、GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(G0)、Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(G2)、Sia
2(α2-3)Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(G2S2(アルファ2,3結合))、およびSia
2(α2-6)Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2(G2S2(アルファ2,6結合))からなる群から選択される、請求項34に記載の方法。
【請求項47】
前記抗体またはその抗原結合断片が、配列番号23のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号24のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含み、前記N-グリカンが、Man5、G0F、G1FおよびG2Fからなる群から選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記N-グリカンが、G0F、G2F、G2S2F(アルファ2,3結合)、G2S2F(アルファ2,6結合)、G0、G2、G2S2(アルファ2,3結合)、およびG2S2(アルファ2,6結合)からなる群から選択され、ならびに複数の前記抗体またはそのFc融合抗原結合断片が集団で提供され、前記集団の約90%より多くが同じN-グリカンを有する、請求項46に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の分野
本開示は、免疫細胞を富化するためのステージ特異的胎児性抗原4(SSEA4)に対して特異的な、抗体またはその抗原結合断片に関する。
【背景技術】
【0002】
本開示の背景
細胞性治療としても公知である細胞治療は、がん、遺伝疾患および自己免疫障害などの多くの疾患を処置するための強力な戦略として開発されている。治療は、薬効を発揮するために、そのような処置を必要とする患者に所望の細胞を導入することを含む。細胞治療において利用される様々な細胞の中で、免疫細胞は、がんの処置におけるその顕著な成功に鑑みて重要な役割を果たす。例えば、T細胞の移植は、細胞性免疫を介してがんの成長を阻害することが可能である。所望の免疫細胞の富化は、細胞治療の分野では必須である。末梢血単核球(PBMC)の中から所望の免疫細胞を選択する従来の方法は、通常、所望の免疫細胞の表面上に位置する固有の抗原に対して特異的な抗体を利用する。例えば、抗CD56抗体は、細胞表面上にCD56抗原を発現するナチュラルキラー細胞を選択する際に適用される。しかし、ほとんどのナチュラルキラー細胞はCD56抗原を発現し、従来の方法は、キラー細胞の中から亜群を選択することができない。
【0003】
このように、細胞を富化するための新規アプローチを開発する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の概要
本開示は、改変抗体またはその抗原結合断片によって細胞を富化するための方法に関する。本開示はまた、抗原またはその断片におけるエピトープに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片も提供する。
【0005】
一態様では、本開示は、重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)および軽鎖可変領域のCDRを含む抗体またはその抗原結合断片であって、重鎖可変領域のCDRが、CDRH1、CDRH2、およびCDRH3領域を含み、軽鎖可変領域のCDRが、CDRL1、CDRL2、およびCDRL3領域を含み:ならびに
CDRH1領域が、配列番号1のアミノ酸配列を含み;CDRH2領域が、配列番号2のアミノ酸配列を含み;CDRH3領域が、配列番号3のアミノ酸配列を含み;および
CDRL1領域が、配列番号4のアミノ酸配列を含み;CDRL2領域が、配列番号5のアミノ酸配列を含み;CDRL3領域が、配列番号6のアミノ酸配列を含み;
または
CDRH1領域が、配列番号25のアミノ酸配列を含み;CDRH2領域が、配列番号26のアミノ酸配列を含み;CDRH3領域が、配列番号27のアミノ酸配列を含み;および
CDRL1領域が、配列番号28のアミノ酸配列を含み;CDRL2領域が、配列番号29のアミノ酸配列を含み;CDRL3領域が、配列番号30のアミノ酸配列を含み;
または
CDRH1領域が、配列番号25のアミノ酸配列を含み;CDRH2領域が、配列番号31のアミノ酸配列を含み;CDRH3領域が、配列番号32のアミノ酸配列を含み;および
CDRL1領域が、配列番号28のアミノ酸配列を含み;CDRL2領域が、配列番号29のアミノ酸配列を含み;CDRL3領域が、配列番号30のアミノ酸配列を含む
抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0006】
一態様では、本開示は、本明細書に開示されるCDRを含む抗体、またはその抗原結合断片、またはそのFc融合抗原結合断片を提供する。
【0007】
本開示の一実施形態では、CDRH1領域は、配列番号7、13または14のアミノ酸配列を含む。
【0008】
本開示の一実施形態では、CDRH2領域は、配列番号8または15のアミノ酸配列を含む。
【0009】
本開示の一実施形態では、CDRH3領域は、配列番号9、16、17または18のアミノ酸配列を含む。
【0010】
本開示の一実施形態では、CDRL1領域は、配列番号10または19のアミノ酸配列を含む。
【0011】
本開示の一実施形態では、CDRL2領域は、配列番号11、20または21のアミノ酸配列を含む。
【0012】
本開示の一実施形態では、CDRL3領域は、配列番号12または22のアミノ酸配列を含む。
【0013】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号13であるCDRH1領域、配列番号8であるCDRH2領域、配列番号9であるCDRH3領域、配列番号10であるCDRL1領域、配列番号20であるCDRL2領域、および配列番号12であるCDRL3領域を含む。
【0014】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号13であるCDRH1領域、配列番号15であるCDRH2領域(the CDRH2 region SEQ ID NO: 15)、配列番号9であるCDRH3領域、配列番号10であるCDRL1領域、配列番号11であるCDRL2領域、および配列番号12であるCDRL3領域を含む。
【0015】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号13であるCDRH1領域、配列番号8であるCDRH2領域、配列番号16であるCDRH3領域、配列番号10であるCDRL1領域、配列番号11であるCDRL2領域、および配列番号12であるCDRL3領域を含む。
【0016】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号14であるCDRH1領域、配列番号8であるCDRH2領域、配列番号17であるCDRH3領域、配列番号10であるCDRL1領域、配列番号21であるCDRL2領域、および配列番号12であるCDRL3領域を含む。
【0017】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号14であるCDRH1領域、配列番号8であるCDRH2領域、配列番号18であるCDRH3領域、配列番号10であるCDRL1領域、配列番号11であるCDRL2領域、および配列番号12であるCDRL3領域を含む。
【0018】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号7であるCDRH1領域、配列番号15であるCDRH2領域、配列番号9であるCDRH3領域、配列番号10であるCDRL1領域、配列番号20であるCDRL2領域、および配列番号12であるCDRL3領域を含む。
【0019】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号7であるCDRH1領域、配列番号15であるCDRH2領域、配列番号17であるCDRH3領域、配列番号10であるCDRL1領域、配列番号11であるCDRL2領域、および配列番号12であるCDRL3領域を含む。
【0020】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号7のCDRH1領域、配列番号8であるCDRH2領域、配列番号16であるCDRH3領域、配列番号10であるCDRL1領域、配列番号20であるCDRL2領域、および配列番号12であるCDRL3領域を含む。
【0021】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号23のアミノ酸配列またはその実質的に類似の配列を含む重鎖可変領域;および配列番号24のアミノ酸配列またはその実質的に類似の配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0022】
本開示の一実施形態では、抗原結合断片は、配列番号37のアミノ酸配列を含む一本鎖Fv(scFv)分子である。
【0023】
本開示の一実施形態では、抗原結合断片は、配列番号38のアミノ酸配列を有するFc領域に融合されている。
【0024】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号33のアミノ酸配列またはその実質的に類似の配列を含む重鎖可変領域;および配列番号34のアミノ酸配列またはその実質的に類似の配列を含む軽鎖可変領域をさらに含む。
【0025】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号35のアミノ酸配列またはその実質的に類似の配列を含む重鎖可変領域;および配列番号36のアミノ酸配列またはその実質的に類似の配列を含む軽鎖可変領域をさらに含む。
【0026】
本開示の一実施形態では、抗体はFc領域を含むかまたは抗原結合断片はFc領域に融合され、抗体またはその抗原結合断片はFc領域にN-グリカンを有し、N-グリカンは、Man5GlcNAc2(Man5)、GlcNAc2Man3GlcNAc2(Fuc)(G0F)、GalGlcNAc2Man3GlcNAc2(Fuc)(G1F)、Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(Fuc)(G2F)、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(Fuc)(G2S2F(アルファ2,3結合))、Sia2(α2-6)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(Fuc)(G2S2F(アルファ2,6結合))、GlcNAc2Man3GlcNAc2(G0)、Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(G2)、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(G2S2(アルファ2,3結合))、およびSia2(α2-6)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(G2S2(アルファ2,6結合))からなる群から選択される。
【0027】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号23のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号24のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含み、N-グリカンは、Man5、G0F、G1FおよびG2Fからなる群から選択される。
【0028】
本開示の一実施形態では、N-グリカンは、G0F、G2F、G2S2F(アルファ2,3結合)、G2S2F(アルファ2,6結合)、G0、G2、G2S2(アルファ2,3結合)、およびG2S2(アルファ2,6結合)からなる群から選択され、複数の抗体またはその抗原結合断片は集団で提供され、集団の約90%より多くが同じN-グリカンを有する。
【0029】
本開示はまた、細胞を富化するためのキットであって、抗体またはその抗原結合断片であり、抗体がFc領域を含むかまたは抗原結合断片がFc領域に融合され、抗体またはその抗原結合断片がFc領域で糖操作されている、抗体またはその抗原結合断片;および抗体またはその抗原結合断片を固定するための支持体、を含むキットも提供する。
【0030】
一態様では、本開示は、細胞を富化するためのキットであって、抗体またはその抗原結合断片であり、抗体がFc領域を含むかまたは抗原結合断片がFc領域に融合されてFc融合抗原結合断片を形成し、抗体またはそのFc融合抗原結合断片がFc領域で糖操作されている、抗体またはその抗原結合断片;および抗体またはその抗原結合断片を固定するための支持体、を含むキットを提供する。
【0031】
一部の実施形態では、キットは、本明細書に記載される抗体またはその抗原結合断片を含む。
【0032】
本開示の一実施形態では、支持体は磁気ビーズである。
【0033】
本開示の一実施形態では、キットは、支持体に連結された抗原をさらに含む。
【0034】
さらなる実施形態では、抗原はSSEA4である。一実施形態では、抗原は、抗体またはその抗原結合断片に結合する。
【0035】
本開示の一実施形態では、抗体または抗原結合断片は、抗SSEA4抗体またはSSEA4結合断片である。
【0036】
別の態様では、本開示はまた、細胞を富化するための方法であって:
細胞のプールを抗体またはその抗原結合断片と接触させるステップであり、抗体がFc領域を含むかまたは抗原結合断片がFc領域に融合してFc融合抗原結合断片を形成し、抗体またはそのFc融合抗原結合断片がFc領域で糖操作されている、ステップ;ならびに
抗体またはそのFc融合抗原結合断片に結合する細胞をプールから単離するステップ
を含む方法も提供する。
【0037】
別の態様では、本開示は、細胞を富化するための方法であって:
細胞のプールを抗体またはその抗原結合断片と接触させるステップであり、抗体がFc領域を含むかまたは抗原結合断片がFc領域に融合してFc融合抗原結合断片を形成し、抗体またはそのFc融合抗原結合断片がFc領域で糖操作されている、ステップ;ならびに
抗体またはそのFc融合抗原結合断片に結合する細胞をプールから単離するステップ
を含む方法も提供する。
【0038】
本開示の一実施形態では、方法は、免疫細胞を富化するためのものである。
【0039】
本開示の一実施形態では、細胞のプールは末梢血単核球である。本開示の1つのより好ましい実施形態では、末梢血単核球は、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、マクロファージ、単球およびB細胞からなる群から選択される。
【0040】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、支持体上に固定される。
【0041】
本開示の一実施形態では、抗体は、フラグメント抗原結合領域(Fab領域)を有するかまたはFc融合抗原結合断片は抗原結合断片を有し、Fab領域または抗原結合断片は支持体上に固定され、単離された細胞はFc領域に結合する。
【0042】
本開示の一実施形態では、Fab領域または抗原結合断片は、支持体上に連結されたSSEA4に結合する。
【0043】
本開示の一実施形態では、支持体は磁気ビーズである。
【0044】
本開示の一実施形態では、方法は、抗体またはそのFc融合抗原結合断片に結合することができない細胞をプールから単離するステップをさらに含む。
【0045】
本開示の一実施形態では、抗体またはFc融合抗原結合断片に結合することができない細胞はT細胞である。
【0046】
本開示の一実施形態では、抗体または抗原結合断片は、抗SSEA4抗体またはSSEA4結合断片である。
【0047】
一実施形態では、抗体またはFc融合抗原結合断片に結合することができない細胞の約90%より多くがT細胞である。
【0048】
本開示の一実施形態では、方法は、本明細書に記載される抗体またはその抗原結合断片を含む。
【0049】
本開示を、以下の節で詳細に説明する。本開示の他の特徴、目的および利点は、詳細な説明および特許請求の範囲に見出され得る。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1-1】
図1は、N-グリカンの構造の概略図を示す。
【
図1-2】
図1は、N-グリカンの構造の概略図を示す。
【0051】
【
図2】
図2は、scFv-SSEA4-Fc融合体のMCF7細胞結合の結果を示す。
【0052】
【
図3】
図3(A)~3(F)は、α-SSEA-4可変領域のアラニンスキャニングを示す。抗原結合能をELISAによって評価した。
図3(A):CDRH1。
図3(B):CDRH2。
図3(C):CDRH3。
図3(D):CDRL1。
図3(E):CDRL2。
図3(F):CDRL3。
【0053】
【
図4】
図4(A)~4(F)は、α-SSEA4重鎖可変領域の部位特異的変異誘発を示す。抗原結合能をELISAによって評価した。
図4(A):CDRH1のQ32。
図4(B):CDHR1のY35。
図4(C):CDHR2のI51。
図4(D):CDRH2のW52。
図4(E):CDRH3のV98。
図4(F):CDRH3のN105。
【0054】
【
図5】
図5(A)~5(I)は、α-SSEA4軽鎖可変領域の部位特異的変異誘発を示す。抗原結合能をELISAによって評価した。
図5(A):CDRL1のY31。
図5(B):CDRL2のD49。
図5(C):CDRL2のT50。
図5(D):CDRL3のF88。
図5(E):CDRL3のQ89。
図5(F):CDRL3のG90。
図5(G):CDRL3のY93。
図5(H):CDRL3のP94。
図5(I):CDRL3のL95。
【0055】
【
図6】
図6は、α-SSEA4重鎖および軽鎖変異(表2に要約する)の組合せを示す。抗原結合能をELISAによって評価した。
【0056】
【
図7】
図7は、Fc領域に結合する免疫細胞を富化するための方法の一態様の概略図を示す。
【0057】
【
図8】
図8は、ビーズ捕捉画分およびフロースルー画分における免疫細胞のプロファイルを示す。
【0058】
【
図9】
図9は、捕捉画分におけるNK細胞のCD16発現レベルおよびCD16
+パーセンテージを示す。
【0059】
【
図10】
図10は、親抗体または糖操作された抗体を使用する免疫細胞富化のフロースルー画分の比較を示す。
【0060】
【
図11】
図11は、親抗体または糖操作された抗体を使用する免疫細胞富化のビーズ捕捉画分の比較を示す。
【0061】
【
図12】
図12(A)は、異なる抗体、抗SSEA4-G2S2(α2,6)および抗SSEA4(2)-G2S2(α2,6)を使用する免疫細胞富化のビーズ捕捉画分を示す。
図12(B)は、異なる抗体抗SSEA4-G2S2(α2,6)および抗SSEA4(3)-G2S2(α2,6)を使用する免疫細胞富化のビーズ富化画分を示す。
【0062】
【
図13】
図13は、免疫細胞富化に使用した各々の抗SSEA4抗体の異なる細胞結合親和性を示す。
【0063】
【
図14】
図14は、7~14日間培養後の捕捉された免疫細胞の細胞増大速度および免疫細胞プロファイルを示す。
【0064】
【
図15】
図15は、14日間培養後の捕捉された細胞の細胞傷害性を示す。
【0065】
【
図16】
図16は、親抗体または糖操作された抗体によって捕捉され、14日間培養した細胞の細胞傷害性を示す。
【0066】
【
図17】
図17は、本開示の方法によって、または抗CD56抗体コンジュゲートビーズを使用する従来のアプローチによって捕捉された細胞の細胞傷害性を示す。
【0067】
【
図18-1】
図18(A)は、本開示の方法(FT T)および従来のアプローチ(対照T(Ctrl T))によって単離されたT細胞(CD3
+細胞)のパーセンテージを示す。
図18(B)は、CAR(抗CD19、または抗SSEA4)発現効率を示す。
図18(C)は、各細胞集団(CAR
+ FT T細胞、またはCAR
+ 対照T細胞)によって調製した個々のCAR-T細胞の細胞傷害活性を示す。
【
図18-2】
図18(A)は、本開示の方法(FT T)および従来のアプローチ(対照T(Ctrl T))によって単離されたT細胞(CD3
+細胞)のパーセンテージを示す。
図18(B)は、CAR(抗CD19、または抗SSEA4)発現効率を示す。
図18(C)は、各細胞集団(CAR
+ FT T細胞、またはCAR
+ 対照T細胞)によって調製した個々のCAR-T細胞の細胞傷害活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0068】
本開示の詳細な説明
以下の説明において、多くの用語が使用され、特許請求される主題の理解を容易にするために以下の定義を提供する。本明細書において明白に定義されていない用語は、その平易な通常の意味に従って使用される。
【0069】
特に指定していない限り、「1つの(a)」、または「1つの(an)」は、「1つまたは複数」を意味する。
【0070】
本明細書で使用される場合、「エピトープ」という用語は、抗体が結合する抗原上の部位を指す。
【0071】
「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、特定の抗原(例えば、SSEA4)に特異的に結合するまたは相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む任意の抗原結合分子または分子複合体を意味する。「抗体」という用語は、4つのポリペプチド鎖、ジスルフィド結合によって相互接続された2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子ならびにその多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてHCVRまたはVHと省略される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2およびCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてLCVRまたはVLと省略される)、および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は1つのドメイン(CL1)を含む。VHおよびVL領域は、より保存されたフレームワーク領域(FR)と呼ばれる領域が介在する相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域へとさらに細分することができる。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRで構成され、アミノ末端からカルボキシ末端へと以下の順で配置される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。本開示の異なる実施形態では、抗SSEA4抗体(またはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であり得るか、または天然もしくは人為的に改変されてもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つまたはそれより多くのCDRの並行分析に基づいて定義され得る。
【0072】
本明細書で使用される場合、「相補性決定領域」(CDR)という用語は、重鎖および軽鎖ポリペプチドの可変領域内で見出される不連続な抗原組合せ部位を指す。CDRは、Kabat et al., J. Biol. Chem. 252:6609-6616(1977); Kabat et al., U.S. Dept. of HealthおよびHuman Services, "Sequences of proteins of immunological interest" (1991); by Chothia et al., J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987);およびMacCallum et al., J. Mol. Biol. 262:732-745 (1996)に記載されており、定義は、互いと比較した場合にアミノ酸残基の重複またはサブセットを含む。
【0073】
抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」等の用語は、本明細書で使用される場合、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素的に得ることができる、合成の、または遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。
【0074】
本開示は、SSEA4またはその断片におけるエピトープに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を提供する。一態様では、本開示は、SSEA4またはその断片におけるエピトープに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片、またはそのFc融合抗原結合断片を提供する。
【0075】
一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片(抗SSEA4)は、重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)および軽鎖可変領域の相補性決定領域を含み、重鎖可変領域の相補性決定領域は、CDRH1、CDRH2およびCDRH3領域を含み、軽鎖可変領域の相補性決定領域は、CDRL1、CDRL2およびCDRL3領域を含み:ならびに
CDRH1領域は、配列番号1(S-Xa1-GVY、Xa1はQ、C、D、E、F、G、H、I、L、M、N、P、R、S、T、V、WまたはYである)のアミノ酸配列を含み;好ましくは、CDRH1領域は、配列番号7(SQGVY)、配列番号13(SIGVY)、または配列番号14(STGVY)のアミノ酸配列を含み;
CDRH2領域は、配列番号2(A-Xa2-WAGGSTNYNSALMS、Xa2はA、R、N、D、C、E、Q、G、H、I、L、K、M、F、S、TまたはVである)のアミノ酸配列を含み;好ましくは、CDRH2領域は、配列番号8(AIWAGGSTNYNSALMS)または配列番号15(AGWAGGSTNYNSALMS)のアミノ酸配列を含み;
CDRH3領域は、配列番号3(Xa3-DGYRGY-Xa4-MDY、Xa3は、V、I、P、またはSであり、Xa4は、N、T、GまたはQである)のアミノ酸配列を含み;好ましくは、CDRH3領域は、配列番号配列番号9(VDGYRGYNMDY)、配列番号16(IDGYRGYNMDY)、配列番号17(VDGYRGYGMDY)、および配列番号18(VDGYRGYQMDY)のアミノ酸配列を含み;
CDRL1領域は、配列番号4(SSVSXa5、Xa5はYまたはHである)のアミノ酸配列を含み;好ましくは、CDRL1領域は、配列番号10(SSVSY)または配列番号19(SSVSH)のアミノ酸配列を含み;
CDRL2領域は、配列番号5(D-Xa6-S、Xa6は、A、R、N、C、Q、G、H、I、L、K、M、F、S、T、YまたはVである)のアミノ酸配列を含み;好ましくは、CDRL2領域は、配列番号11(DTS)、配列番号20(DHS)または配列番号21(DVS)のアミノ酸配列を含み;ならびに
CDRL3領域は、配列番号6(FQGSG-Xa7-PL、Xa7は、YまたはIである)のアミノ酸配列を含み;好ましくは、CDRL3領域は、配列番号12(FQGSGYPL)または配列番号22(FQGSGIPL)のアミノ酸配列を含む。
【0076】
特に、抗体またはその抗原結合断片(抗SSEA4(2))は、以下を含む:
CDRH1領域は、配列番号25(GFSLKNYGVS)のアミノ酸配列を含み;CDRH2領域は、配列番号26(VIWGDGSTNYHSTLRS)のアミノ酸配列を含み;CDRH3領域は、配列番号27(PGRGYAMDY)のアミノ酸配列を含み;および
CDRL1領域は、配列番号28(SASSSVSYMH)のアミノ酸配列を含み;CDRL2領域は、配列番号29(YDTSKLTS)のアミノ酸配列を含み;CDRL3領域は、配列番号30(FQGSGYPLT)のアミノ酸配列を含む。
【0077】
特に、抗体またはその抗原結合断片(抗SSEA4(3))は、以下を含む:
CDRH1領域は、配列番号25のアミノ酸配列を含み;CDRH2領域は、配列番号31(VIWGDGSTNYYADSVKG)のアミノ酸配列を含み;CDRH3領域は、配列番号32(PGAGYAMDY)のアミノ酸配列を含み;および
CDRL1領域は、配列番号28のアミノ酸配列を含み;CDRL2領域は、配列番号29のアミノ酸配列を含み;CDRL3領域は、配列番号30のアミノ酸配列を含む。
【0078】
配列表を表1に示す。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0079】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号13であるCDRH1領域、配列番号8であるCDRH2領域、配列番号9であるCDRH3領域、配列番号10であるCDRL1領域、配列番号20であるCDRL2領域、および配列番号12であるCDRL3領域を含む。
【0080】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号13であるCDRH1領域、配列番号15であるCDRH2領域(the CDRH2 region SEQ ID NO: 15)、配列番号9であるCDRH3領域、配列番号10であるCDRL1領域、配列番号11であるCDRL2領域、および配列番号12であるCDRL3領域を含む。
【0081】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号13であるCDRH1領域、配列番号8であるCDRH2領域、配列番号16であるCDRH3領域、配列番号10であるCDRL1領域、配列番号11であるCDRL2領域、および配列番号12であるCDRL3領域を含む。
【0082】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号14であるCDRH1領域、配列番号8であるCDRH2領域、配列番号17であるCDRH3領域、配列番号10であるCDRL1領域、配列番号21であるCDRL2領域、および配列番号12であるCDRL3領域を含む。
【0083】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号14であるCDRH1領域、配列番号8であるCDRH2領域、配列番号18であるCDRH3領域、配列番号10であるCDRL1領域、配列番号11であるCDRL2領域、および配列番号12であるCDRL3領域を含む。
【0084】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号7であるCDRH1領域、配列番号15であるCDRH2領域、配列番号9であるCDRH3領域、配列番号10であるCDRL1領域、配列番号20であるCDRL2領域、および配列番号12であるCDRL3領域を含む。
【0085】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号7であるCDRH1領域、配列番号15であるCDRH2領域、配列番号17であるCDRH3領域、配列番号10であるCDRL1領域、配列番号11であるCDRL2領域、および配列番号12であるCDRL3領域を含む。
【0086】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号7であるCDRH1領域、配列番号8であるCDRH2領域、配列番号16であるCDRH3領域、配列番号10であるCDRL1領域、配列番号20であるCDRL2領域、および配列番号12であるCDRL3領域を含む。
【0087】
本開示の一実施形態では、重鎖および軽鎖のCDRを表2に記載する。
【表2】
【0088】
本開示に開示される抗体は全て、野生型抗体と比較してSSEA4に対する親和性の有意な改善を有する。
【0089】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号23
【化1】
のアミノ酸配列またはその実質的に類似の配列を含む重鎖可変領域;および配列番号24
【化2】
のアミノ酸配列またはその実質的に類似の配列を含む軽鎖可変領域を含む。下線の文字は、CDR領域を示す。好ましくは、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号23のアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む重鎖可変領域を含む。好ましくは、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号24のアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0090】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号37のアミノ酸配列を含む一本鎖Fv(scFv)分子である。
【0091】
本開示の一実施形態では、抗原結合断片は、配列番号38のアミノ酸配列を有するFc領域に融合されている。
【0092】
本開示に従う抗体は、全長(例えば、IgG1またはIgG4抗体)であり得、または抗原結合部分のみを含んでもよく(例えば、Fab、F(ab’)2、もしくはscFv断片)、必要に応じて機能性に影響を及ぼすように改変されてもよい。
【0093】
本開示に従う抗体またはその抗原結合断片は、SSEA4に特異的に結合する。SSEA4は、グロボ系列のスフィンゴ糖脂質(GSL)に属する6糖であり、Neu5Acα2→3Galβ1→3GalNAcβ1→3Galα1→4Galβ1→4Glcβ1の構造を含む。SSEA4は、卵巣がん、胃がん、前立腺がん、肺がん、乳がん、および膵臓がんを含む多くの上皮がん、ならびに腎細胞癌および多形性膠芽腫において過剰発現される。
【0094】
本明細書に記載される抗体はまた、完全な抗体分子の抗原結合断片も含む。抗体の抗原結合断片は、例えば任意の好適な標準的な技法、例えばタンパク質分解消化、または抗体可変ドメインおよび必要に応じて定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を伴う組換え遺伝子操作技法を使用して完全な抗体分子から得られ得る。そのようなDNAは公知であり、および/または例えば市販の起源、DNAライブラリー(例えば、ファージ抗体ライブラリーを含む)から容易に入手可能であるか、または合成することができる。DNAを、配列決定して、化学的に操作してもよく、または分子生物学技法を使用することによって操作して、例えば1つまたは複数の可変および/または定常ドメインを適した構成に配置させてもよく、またはコドンを導入し、システイン残基を作製し、アミノ酸を改変、付加、または欠失させてもよい等である。
【0095】
抗原結合断片の非限定的な例としては:(i)Fab断片;(ii)F(ab’)2断片;(iii)Fd断片;(iv)Fv断片;(v)一本鎖Fv分子;(vi)dAb断片;および(vii)抗体の超可変領域(例えば、単離された相補性決定領域(CDR)例えば、CDR3ペプチド)または拘束されたFR3-CDR3-FR4ペプチドを模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位が挙げられる。他の操作された分子、例えばドメイン特異的抗体、シングルドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディ等)、小型モジュラー免疫医薬品(small modular immunopharmaceutical(SMIP))、およびサメ可変IgNARドメインもまた、本明細書で使用される「抗原結合断片」という表現に包含される。
【0096】
抗体の抗原結合断片は典型的に、少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成のドメインであり得、一般的に1つまたは複数のフレームワーク配列に隣接するまたはそれとインフレームである少なくとも1つのCDRを含む。VLドメインに会合したVHドメインを有する抗原結合断片では、VHおよびVLドメインは、任意の好適な立体配置で互いに対して位置し得る。例えば、可変領域は二量体であり得、VH-VH、VH-VL、またはVL-VL二量体を含有し得る。あるいは、抗体の抗原結合断片は、単量体VHまたはVLドメインを含有し得る。
【0097】
ある特定の実施形態では、抗原結合断片は、Fc領域などの少なくとも1つの定常ドメインに融合してもよく、すなわちFc融合抗原結合断片であり得る。本開示の抗体の抗原結合断片内で見出され得る可変ドメインおよび定常ドメインの非限定的な例示的な配置としては、(i)VH-CH1;(ii)VH-CH2;(iii)VH-CH3;(iv)VH-CH1-CH2;(v)VH-CH1-CH2-CH3、(vi)VH-CH2-CH3;(vii)VH-CL;(viii)VL-CH1;(ix)VL-CH2;(x)VL-CH3;(xi)VL-CH1-CH2;(xii)VL-CH1-CH2-CH3;(xiii)VL-CH2-CH3;および(xiv)VL-CLが挙げられる。本開示の一部の実施形態では、抗原結合断片は、VH-VLであり、Fc融合抗原結合断片はVH-VL-Fcである。上記の例示的な配置のいずれかを含む可変ドメインおよび定常ドメインの任意の配置において、可変ドメインおよび定常ドメイン、隣接する可変ドメイン、または隣接する定常ドメインは、互いに直接連結されてもよく、または完全なもしくは部分的なヒンジもしくはリンカー領域によって連結されてもよい。本開示の一部の実施形態では、抗原結合断片は、VH-リンカー-VLであり、Fc融合抗原結合断片は、VH-リンカー-VL-Fcである。ヒンジ領域は、単一のポリペプチド分子において隣接する可変ドメインおよび/または定常ドメインの間でフレキシブルなまたは半フレキシブルな結合をもたらす少なくとも2つ(例えば、5、10、15、20、40、60、またはそれより多く)のアミノ酸からなり得る。本開示の一部の実施形態では、リンカー領域は、3コピーのG4S(配列番号39)である。その上、本開示の抗体の抗原結合断片は、互いに、および/または1つもしくは複数の単量体VHもしくはVLドメイン(例えば、ジスルフィド結合(複数可)によって)と非共有結合により会合した上記の可変ドメインおよび定常ドメイン配置のいずれかのホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含み得る。
【0098】
完全な抗体分子と同様に、抗原結合断片は、単一特異的または多重特異的(例えば、二重特異的)であり得る。抗体の多重特異的抗原結合断片は、典型的に少なくとも2つの異なる可変ドメインを含み、各可変ドメインは、個別の抗原または同じ抗原上の異なるエピトープに特異的に結合することが可能である。本明細書に開示される例示的な二重特異性抗体フォーマットを含む任意の多重特異性抗体フォーマットを、当技術分野で利用可能な通常の技法を使用して本開示の抗体の抗原結合断片との関連で使用するために適合させてもよい。
【0099】
好ましくは、本開示に従う抗体またはその抗原結合断片は、哺乳動物抗体である。
【0100】
「哺乳動物抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、哺乳動物の生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことが意図される。本開示の哺乳動物抗体は、例えばCDR、特にCDR3において哺乳動物生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、in vitroでのランダムもしくは部位特異的な変異誘発によってまたはin vivoでの体細胞変異によって導入される変異)を含み得る。
【0101】
ヒト抗体などの哺乳動物抗体は、ヒンジ不均一性に関連する2つの形態で存在し得る。1つの形態では、免疫グロブリン分子は、二量体が、鎖間重鎖ジスルフィド結合によって共に保持されるおよそ150~160kDaの安定な4つの鎖の構築物を含む。第2の形態では、二量体は、鎖間ジスルフィド結合を介して連結されず、共有結合した軽鎖および重鎖からなる約75~80kDaの分子が形成される(半抗体)。これらの形態は、親和性精製後であっても、分離することが極めて難しかった。
【0102】
本明細書に開示される抗SSEA4抗体は、抗体が由来する対応する生殖系列配列と比較して、重鎖および軽鎖可変ドメインのフレームワークおよび/またはCDR領域に1つまたは複数のアミノ酸置換、挿入および/または欠失を含む。そのような変異は、本明細書に開示されるアミノ酸配列を、例えば公開された抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列と比較することによって容易に確認することができる。本開示は、本明細書に開示される任意のアミノ酸配列に由来する抗体およびその抗原結合断片であって、1つまたは複数のフレームワークおよび/またはCDR領域内の1つまたは複数のアミノ酸が、抗体が由来する生殖系列配列の対応する残基(複数可)に、または別の哺乳動物生殖系列配列の対応する残基(複数可)に、または対応する生殖系列残基(複数可)の保存的アミノ酸置換(そのような配列変化は、本明細書において集合的に「生殖系列変異」と呼ばれる)に変異している抗体およびその抗原結合断片を含む。当業者は、本明細書に開示される重鎖および軽鎖可変領域配列から始まって、1つまたは複数の個々の生殖系列変異またはその組合せを含む複数の抗体および抗原結合断片を容易に産生することができる。ある特定の実施形態では、VHおよび/またはVLドメイン内のフレームワークおよび/またはCDR残基の全てを、抗体が由来する本来の生殖系列配列において見出される残基へと復帰変異させる。他の実施形態では、ある特定の残基のみ、例えばFR1の最初の8アミノ酸内もしくはFR4の最後の8アミノ酸内で見出される変異した残基のみ、またはCDR1、CDR2、もしくはCDR3内で見出される変異した残基のみを、本来の生殖系列配列へと復帰変異させる。他の実施形態では、フレームワークおよび/またはCDR残基(複数可)の1つまたは複数を、異なる生殖系列配列(すなわち、抗体が本来由来する生殖系列配列とは異なる生殖系列配列)の対応する残基(複数可)へと変異させる。さらに、本開示の抗体は、フレームワークおよび/またはCDR領域内に2つまたはそれより多くの生殖系列変異の任意の組合せを含有してもよく、例えばある特定の個々の残基は、特定の生殖系列配列の対応する残基へと変異するが、本来の生殖系列配列とは異なるある特定の他の残基は維持されるか、または異なる生殖系列配列の対応する残基へと変異する。得られた後、1つまたは複数の生殖系列変異を含有する抗体および抗原結合断片を、1つまたは複数の所望の特性、例えば結合特異性の改善、結合親和性の増加、アンタゴニストまたはアゴニスト生物特性の改善または増強(場合により)、免疫原性の低減等に関して容易に試験することができる。この一般的な方法で得られた抗体および抗原結合断片は、本開示に包含される。
【0103】
本開示はまた、1つまたは複数の保存的置換を有する本明細書に開示されるVH、VL、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかのバリアントを含む抗SSEA4抗体も含む。例えば、本開示は、本明細書に開示されるVH、VL、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかと比較して、例えば、6個またはそれより少ない、5個またはそれより少ない、4個またはそれより少ない、3個またはそれより少ない等の保存的アミノ酸置換を有するVH、VL、および/またはCDRアミノ酸配列を有する抗SSEA4抗体を含む。
【0104】
ポリペプチドに適用される場合、「実質的な類似性」または「実質的に類似」という用語は、2つのペプチド配列が、例えばプログラムGAPまたはBESTFITによって、デフォルトのギャップ重みを使用して最適に整列させた場合に、少なくとも95%の配列同一性を共有し、さらにより好ましくは少なくとも98%または99%の配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一ではない残基位置は、保存的アミノ酸置換によって異なる。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、類似の化学特性(例えば、電荷または疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換される置換である。一般的に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させない。2つまたはそれより多くのアミノ酸配列が保存的置換によって互いに異なる場合、パーセント配列同一性または類似性の程度を上方調整して、置換の保存的性質に関して修正してもよい。この調整を行うための手段は当業者に周知である。類似の化学特性を有する側鎖を有するアミノ酸の群の例としては、(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン;(2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリンおよびトレオニン;(3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン;(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン;(5)塩基性側鎖:リシン、アルギニンおよびヒスチジン;(6)酸性側鎖:アスパラギン酸塩およびグルタミン酸塩、ならびに(7)イオウ含有側鎖はシステインおよびメチオニンである、が挙げられる。好ましい保存的アミノ酸置換基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リシン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタメート-アスパルテート、およびアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的交換は、参照により本明細書に組み込まれる、Gonnet et al.(1992) Science 256: 1443-1445に開示されるPAM250対数尤度行列において正の値を有する任意の変化である。「中等度に保存的な」置換は、PAM250対数尤度行列において負でない値を有する任意の変化である。
【0105】
ポリペプチドの配列類似性は、配列同一性とも呼ばれ、典型的に配列解析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む様々な置換、欠失、および他の改変に割り当てられた類似性の尺度を使用して類似の配列をマッチさせる。例として、GCGソフトウェアは、GapおよびBestfitなどのプログラムを含有し、これらをデフォルトパラメーターと共に使用して、異なる種の生物からの相同なポリペプチドなどの近縁のポリペプチド間の配列相同性もしくは配列同一性、または野生型タンパク質とその変異体との間の配列相同性または配列同一性を決定することができる。ポリペプチド配列はまた、GCGバージョン6.1のプログラムであるFASTAを使用して、デフォルトまたは推奨されるパラメーターを使用して比較することもできる。FASTA(例えば、FASTA2およびFASTA3)は、クエリ配列と検索配列との間の最善の重複領域のアライメントおよびパーセント配列同一性を提供する(Pearson (2000)、上記)。本開示の配列を異なる生物からの多数の配列を含有するデータベースと比較する場合の別の好ましいアルゴリズムは、デフォルトパラメーターを使用するコンピュータプログラムBLAST、特にBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、各々が参照により本明細書に組み込まれる、Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-410およびAltschul et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389-402を参照されたい。
【0106】
好ましくは、本開示に従う抗体は、モノクローナル抗体である。
【0107】
本開示の抗体は、単一特異性、二重特異性、または多重特異性であり得る。多重特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに対して特異的であってもよく、または1つより多くの標的ポリペプチドに対して特異的な抗原結合ドメインを含有してもよい。本開示の抗SSEA4抗体を、別の機能的分子、例えば別のペプチドまたはタンパク質に連結させるか、または共発現させることができる。例えば、抗体またはその断片を、1つまたは複数の他の分子実体、例えば別の抗体または抗体断片に機能的に連結させて(例えば、化学カップリング、遺伝子融合、非共有結合による会合またはその他によって)、第2の結合特異性を有する二重特異性または多重特異性抗体を産生することができる。例えば、本開示は、免疫グロブリンの1つのアームがSSEA4またはその断片に対して特異的であり、免疫グロブリンの他方のアームが第2の治療標的に対して特異的であるか、または治療部分にコンジュゲートされている二重特異性抗体を含む。
【0108】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、原核生物および真核生物発現系を含む任意の数の発現系を使用して産生することができる。一部の実施形態では、発現系は、哺乳動物細胞発現系、例えばハイブリドーマ、またはCHO細胞発現系である。多くのそのような系が、販売元から広く利用可能である。抗体が、VHおよびVL領域の両方を含む実施形態では、VHおよびVL領域を、例えば2シストロン性の発現ユニットにおいて単一のベクターを使用して、または異なるプロモーターの制御下で発現させてもよい。他の実施形態では、VHおよびVL領域を、個別のベクターを使用して発現させてもよい。本明細書に記載されるVHまたはVL領域は、必要に応じてN末端でメチオニンを含んでもよい。
【0109】
目的の抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子を、細胞からクローニングすることができ、例えばモノクローナル抗体をコードする遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、これを使用して組換えモノクローナル抗体を産生することができる。モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子ライブラリもまた、ハイブリドーマまたは形質細胞から作製することができる。重鎖および軽鎖遺伝子生成物のランダム組合せは、異なる抗原特異性を有する抗体の大きいプールを生成する(例えば、Kuby, Immunology(3.sup.rd ed. 1997)を参照されたい)。
【0110】
一本鎖抗体または組換え抗体の産生のための技法(米国特許第4,946,778号、米国特許第4,816,567号)を、本開示のポリペプチドに対する抗体を産生するために適合させることができる。同様に、トランスジェニックマウス、または他の生物、例えば他の哺乳動物を使用して、ヒト化またはヒト抗体を発現させることもできる(例えば、米国特許第5,545,807号;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,661,016号、Marks et al., Bio/Technology 10:779-783(1992); Lonberg et al., Nature 368:856-859(1994); Morrison, Nature 368:812-13(1994); Fishwild et al., Nature Biotechnology 14:845-51(1996); Neuberger, Nature Biotechnology 14:826(1996);およびLonberg & Huszar, Intern. Rev. Immunol. 13:65-93(1995)を参照されたい)。
【0111】
好ましくは、本開示に従う抗体またはその抗原結合断片は、糖鎖抗体である。「糖鎖抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、Fc領域で単一の均一なグリコフォームを有する均一なモノクローナル抗体集団を指す。均一な集団中の個々の糖鎖抗体は同一であり、同じエピトープに結合し、十分に定義されたグリカン構造および配列を有する同じFcグリカンを含有する。
【0112】
「均一な」という用語は、Fc領域のグリコシル化プロファイルの文脈において互換的に使用され、微量の前駆体N-グリカンをほとんどまたは全く含まない、1つの所望のN-グリカン種によって表される単一のグリコシル化パターンを意味することが意図される。ある特定の実施形態では、微量の前駆体N-グリカンは約2%未満である。
【0113】
本明細書で使用される場合、「グリカン」という用語は、多糖、オリゴ糖または単糖を指す。グリカンは、糖残基の単量体またはポリマーであり得、線状または分岐であり得る。グリカンは天然の糖残基(例えば、グルコース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルノイラミン酸、ガラクトース、マンノース、フコース、ヘキソース、アラビノース、リボース、キシロース等)および/または改変糖(例えば、2’-フルオロリボース、2’-デオキシリボース、ホスホマンノース、6’スルホN-アセチルグルコサミン等)を含み得る。グリカンはまた、本明細書において複合糖質、例えば糖タンパク質、糖脂質、糖ペプチド、グライコプロテオーム、ペプチドグリカン、リポ多糖またはプロテオグリカンの、糖質部分を指すために使用される。グリカンは通常、単糖間のO-グリコシド結合のみからなる。例えば、セルロースは、β-1,4-結合D-グルコースで構成されるグリカン(またはより具体的にはグルカン)であり、キチンは、β-1,4-結合N-アセチル-D-グルコサミンで構成されるグリカンである。グリカンは、単糖残基のホモまたはヘテロポリマーであり得、線状または分岐であり得る。グリカンは、糖タンパク質およびプロテオグリカンと同様にタンパク質に結合して見出され得る。それらは一般的に、細胞の外部表面上で見出され得る。O-およびN-結合グリカンは、真核生物では非常に一般的であり、より一般的ではないが原核生物においても見出され得る。N-結合グリカンは、シークオンにおけるアスパラギンのR基窒素(N)に結合して見出される。シークオンは、Asn-X-SerまたはAsn-X-Thr配列であり、式中Xはプロリン(praline)を除く任意のアミノ酸である。
【0114】
本明細書で使用される場合、「N-グリカン」という用語は、Fc含有ポリペプチド中のアスパラギン残基のアミド窒素に連結されたN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)によって結合したN-結合オリゴ糖を指す。
【0115】
本開示の好ましい一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、グリコール操作されたN-グリカンを有する。抗体がFc領域を含むかまたは抗原結合断片がFc領域に融合され、および抗体またはその抗原結合断片は、Fc領域にN-グリカンを有し、N-グリカンは、Man5GlcNAc2(Man5)、GlcNAc2Man3GlcNAc2(Fuc)(G0F)、GalGlcNAc2Man3GlcNAc2(Fuc)(G1F)、Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(Fuc)(G2F)、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(Fuc)(G2S2F(アルファ2,3結合))、Sia2(α2-6)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(Fuc)(G2S2F(アルファ2,6結合))、GlcNAc2Man3GlcNAc2(G0)、Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(G2)、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(G2S2(アルファ2,3結合))、およびSia2(α2-6)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(G2S2(アルファ2,6結合))からなる群から選択される。
【0116】
本開示の好ましい一実施形態では、抗体は、配列番号23のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号24のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含み、N-グリカンは、Man5、G0F、G1F、およびG2Fからなる群から選択される。具体的には、複数の抗体またはその抗原結合断片は、集団で提供される。
【0117】
【0118】
別の態様では、本開示に従う抗体またはその抗原結合断片は、脱フコシル化グリコフォームを有する。本明細書で使用される場合、「脱フコシル化」という用語は、Fc領域のN-グリカンにコアフコースが存在しないことを指す。好ましくは、操作されたN-グリカンは、G0、G2、G2S2(アルファ2,3結合)、およびG2S2(アルファ2,6結合)からなる群から選択される。
【0119】
別の態様では、本開示に従う抗体またはその抗原結合断片は、糖操作されたFcを有する。本明細書で使用される場合、「糖操作されたFc」という用語は、本明細書で使用される場合、酵素的または化学的のいずれかによって変更または操作されているFc領域のN-グリカンを指す。「Fc糖操作」という用語は、本明細書で使用される場合、糖操作されたFcを作製するために使用される酵素的または化学的プロセスを指す。操作の例示的な方法は、例えば、その内容が参照により本明細書に組み込まれる、Wongら、米国特許出願第12/959,351号に記載されている。好ましくは操作されたN-グリカンは、G0F、G2F、G2S2F(アルファ2,3結合)、G2S2F(アルファ2,6結合)、G0、G2、G2S2(アルファ2,3結合)、およびG2S2(アルファ2,6結合)からなる群から選択され、複数の抗体またはその抗原結合断片は集団で提供され、集団の約90%より多くが同じN-グリカンを有する。
【0120】
操作されたN-グリカンの構造の概略図を表4に示す。
【表4】
【0121】
一部の実施形態では、複数の抗体またはその抗原結合断片は集団で提供され、抗体またはその抗原結合断片の集団の約90%より多くが同じN-グリカンを有する。
【0122】
別の態様では、本開示は、細胞を富化するための方法であって:
細胞のプールを抗体またはその抗原結合断片と接触させるステップであり、抗体がFc領域を含むかまたは抗原結合断片がFc領域に融合してFc融合抗原結合断片を形成し、抗体またはそのFc融合抗原結合断片がFc領域で糖操作されている、ステップ;ならびに
抗体またはそのFc融合抗原結合断片に結合する細胞をプールから単離するステップ
を含む方法を提供する。
【0123】
別の態様では、本開示はまた、細胞を富化するための方法であって:
細胞のプールを抗体またはその抗原結合断片と接触させるステップであり、抗体がFc領域を含むかまたは抗原結合断片がFc領域に融合してFc融合抗原結合断片を形成し、抗体またはそのFc融合抗原結合断片がFc領域で糖操作されている、ステップ;ならびに
抗体またはそのFc融合抗原結合断片に結合する細胞をプールから単離するステップ
を含む方法も提供する。
【0124】
本開示はまた、細胞を富化するためのキットであって、抗体またはその抗原結合断片であり、抗体がFc領域を含むかまたは抗原結合断片がFc領域に融合され、抗体またはその抗原結合断片がFc領域で糖操作されている、抗体またはその抗原結合断片;および抗体またはその抗原結合断片を固定するための支持体を含むキットも提供する。
【0125】
一態様では、本開示は、細胞を富化するためのキットであって、抗体またはその抗原結合断片であり、抗体がFc領域を含むかまたは抗原結合断片がFc領域に融合してFc融合抗原結合断片を形成し、抗体またはそのFc融合抗原結合断片がFc領域で糖操作されている、抗体またはその抗原結合断片;および抗体またはその抗原結合断片を固定するための支持体、を含むキットも提供する。
【0126】
本開示の別の実施形態では、キットは抗原をさらに含む。抗原を、支持体に連結させることができる。本開示の一部の実施形態では、抗原は、抗体またはその抗原結合断片に結合する。好ましくは、抗原はSSEA4である。
【0127】
本開示の一実施形態では、抗体または抗原結合断片は、抗SSEA4抗体またはSSEA4結合断片である。
【0128】
本開示に従う免疫細胞は、抗体結合細胞である。本開示の一実施形態では、免疫細胞は、抗体またはその抗原結合断片のFab領域に結合する。本開示の別の一実施形態では、免疫細胞は、抗体またはそのFc融合抗原結合断片のFc領域に結合する。本開示の一部の実施形態では、免疫細胞は、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、マクロファージ、単球およびB細胞からなる群から選択される。
【0129】
本明細書で使用される場合、「富化」という用語は、試料中の免疫細胞の比率を増加させるプロセスを指す。好ましくは、富化は、部分的精製または部分的選択のプロセスである。
【0130】
本明細書で使用される場合、「細胞のプール」という用語は、免疫細胞を含有する細胞の群を指す。通常、本開示に従う細胞のプールは他の細胞を含む。好ましくは、細胞のプールは、対象に由来する試料である。本明細書で使用される場合、「試料」という用語は、個体、対象または患者から得られた多様な試料タイプを包含する。定義は、血液および生物起源の他の液体試料、固体組織試料、例えば生検標本もしくは組織培養、またはそれに由来する細胞およびその子孫を包含する。本明細書で互換的に使用される場合、「個体」、「対象」および「患者」という用語は、これらに限定されないが、ネズミ(ラット、マウス)、非ヒト霊長類、ヒト、イヌ、ネコ、有蹄類(例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ)等を含む哺乳動物を指す。本開示の好ましい一実施形態では、細胞のプールは末梢血単核球である。より好ましくは、末梢血単核球は、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、マクロファージ、単球およびB細胞からなる群から選択される。
【0131】
本開示に従う方法が、抗体またはそのFc融合抗原結合断片のFc領域に結合する免疫細胞の富化のために適用される場合、Fab領域または抗原結合断片は、支持体上に固定される。
【0132】
本開示に従う方法が、Fc領域に結合する免疫細胞の富化のために適用される場合、抗体またはそのFc融合抗原結合断片は、Fc領域およびFab領域または抗原結合断片を有し、Fab領域または抗原結合断片は、支持体上に連結されたSSEA4に結合し、単離された細胞はFc領域に結合する。概略図を
図2に示す。いかなる理論にも拘束されないことが意図されるが、抗原(SSEA4)と抗体またはその抗原結合断片の間の親和性結合は、抗原結合によって誘導されるFc立体構造の変化を引き起こすと考えられる。その上、SSEA4および本開示に従う抗体またはその抗原結合断片は、良好な方向性を提供する。その結果、抗原結合抗体またはFc融合抗原結合断片に対して高い親和性を有する免疫細胞の亜集団が富化される。したがって、本開示に従う方法は、高親和性の捕捉を提供する。さらに、SSEA4は、非常に安定で容易に合成され、SSEA4を支持体に連結するためのプロセスは実施が容易であり、本開示に従う方法は、効率的に実施することができる。別の態様では、富化される免疫細胞を除くPBMCは、SSEA4もSSEA4結合分子のいずれも発現せず、そのような事実により、本開示に従う方法は高い特異性を達成する。
【0133】
理論によって限定されることを望まないが、本開示に従う糖操作は、Fc領域の構造を変化させ、Fc受容体を有する細胞に対する結合を改善すると考えられる。したがって、Fc受容体を有する細胞の捕捉は、より容易かつより効率的である。
【0134】
Fab領域を支持体上に固定するまたはSSEA4を支持体に連結する方法は、直接または間接的化学結合であり得る。本開示の好ましい一実施形態では、ビオチン-ストレプトアビジン反応を、連結のそのような固定に利用してもよい。
【0135】
本開示に従う支持体は、固体を指す。支持体の例としては、これらに限定されないが、ポリマー、金属、または磁性固体が挙げられる。本開示の好ましい一実施形態では、支持体は、単離ステップに役立つ磁気ビーズである。好ましくは、磁気ビーズの直径は約1μm未満である。
【0136】
抗体またはそのFc融合抗原結合断片に結合する細胞を単離するための方法は、支持体の特性に従って異なり得る。例えば、支持体が磁気ビーズである場合、磁力または遠心力をそのような単離のために適用してもよい。
【0137】
本開示の一実施形態では、実質的に純粋なT細胞集団を得て富化することができる。本開示の一部の実施形態では、抗体またはFc融合抗原結合断片に結合することができない細胞の約90%より多くはT細胞である。方法は、抗体またはそのFc融合抗原結合断片に結合することができない細胞を単離するステップをさらに含む。
【0138】
いかなる理論にも拘束されないことが意図されるが、抗体またはそのFc融合抗原結合断片に結合する細胞を除去することによって、細胞を実質的に純粋なT細胞集団としてさらに単離することができると考えられる。除外を容易にするために、抗体またはその抗原結合断片を支持体上に固定してもよい。本開示の好ましい一実施形態では、抗体または抗原結合断片は、抗SSEA4抗体またはSSEA4結合断片である。
【0139】
一部の実施形態では、本開示の方法に使用される抗体またはその抗原結合断片は、本明細書に記載される実施形態のいずれか1つである。
【0140】
本開示の一部の実施形態では、末梢血単核球(PBMC)は最初に、対象に由来する全血試料から単離され、Fc富化集団はさらに、本明細書に開示される細胞を富化するための方法またはキットから得られる。得られたFc富化集団をさらに、治療/保存使用のために増大に供してもよい。
【0141】
以下の実施例は、本開示の実践において当業者を助けるために提供される。
【実施例】
【0142】
(実施例1)
抗SSEA4抗体および抗原結合断片についての結合アッセイ
本明細書で使用されるscFv-SSEA4(VH-リンカー-VL)は、抗SSEA4重鎖hMC41(配列番号23)および軽鎖(配列番号24)およびその間に3コピーのG4Sリンカーを含む。
【0143】
Fc融合抗原結合断片(VH-リンカー-VL-Fc)は、抗SSEA4重鎖hMC41(配列番号23)、軽鎖(配列番号24)、その間の3コピーのG4Sリンカー、およびFc領域(配列番号38)を含む。
【0144】
抗SSEA4抗体の一連の変異もまた、構築する。
【0145】
簡単に説明すると、2×105個の細胞を、FACS緩衝液(PBS中で2%FBS)中で20nMの濃度の抗体と共に4℃で1時間インキュベートした。FACS緩衝液によって洗浄後、次に、細胞をFITCコンジュゲートヤギ抗ヒトIgG抗体(FACS緩衝液中で1:250に希釈、Jackson Immuno Research)と共に4℃で30分間インキュベートした。細胞に結合した抗SSEA4抗体の検出を、BD FACSVerseフローサイトメーターによって解析した。
【0146】
図2に示すように、scFv-SSEA4-Fc融合タンパク質(Fc融合抗原結合断片)は、抗体としてMCF7細胞の表面上の抗原(SSEA4)を認識することができる。
【0147】
抗SSEA4抗体の抗原結合親和性を、ELISAによって決定した。簡単に説明すると、抗体をPBS中で0.5mg/mLの濃度に希釈した後、96ウェルアッセイプレートにおいてSSEA4と共に室温で2時間インキュベートした。洗浄サイクルの後、HRPコンジュゲートヤギ抗ヒトIgG抗体(PBS中で1:10,000に希釈、Jackson Immuno Research)をウェルに加え、室温でさらに1時間インキュベートした。洗浄サイクルの後、TMB ELISA基質(Thermo scientific)を、顕色のために加え、等液量の2.5N H
2SO
4を加えることによって反応を停止させた。O.D.450nmでの吸光度を読み取り、M5 ELISAリーダー(Molecular Device)によって記録した。アミノ酸変化の位置を、野生型アミノ酸の先行する番号および変異のその後の番号として示した。
図3~6に示すように、ある特定のアミノ酸が置換され得るかどうかは、野生型抗体と比較したその抗原結合親和性によって決定された。
(実施例2)
細胞の富化
【0148】
細胞を富化するための方法を以下のスキームのように行った。
【化3】
【0149】
フローサイトメトリーの結果を
図8および9に示す。
(実施例3)
免疫細胞捕捉における糖操作したまたは糖操作しない抗体の比較
【0150】
免疫細胞捕捉における糖操作した(抗SSEA4-G2S2 α2,6)、または糖操作しない(抗SSEA4)抗体の比較の結果を、
図10(フロースルー)および11(ビーズ)に示す。
(実施例4)
免疫細胞捕捉において使用する様々な抗原結合親和性を有する異なる抗体の比較
【0151】
免疫細胞捕捉における(抗SSEA4-G2S2 α2,6)、または(抗SSEA4(2)-G2S2 α2,6)を有する抗体の比較の結果を
図12(A)(ビーズ)に示す。
【0152】
免疫細胞捕捉における(抗SSEA4-G2S2 α2,6)、または(抗SSEA4(3)-G2S2 α2,6)を有する抗体の比較の結果を
図12(B)(ビーズ)に示す。
【0153】
異なる抗原結合親和性および個々の細胞結合強度を有する抗体を使用する免疫細胞富化の結果を
図12(A)および12(B)に示す。異なるFab領域を有する抗SSEA4抗体のFc領域による免疫細胞捕捉能は、実質的に同じであることが認められ得る。Fab領域の配列は、Fc領域によって捕捉される免疫細胞の能力に影響を及ぼさないであろう。
【0154】
個々の細胞結合強度における抗SSEA4、抗SSEA4(2)、または抗SSEA4(3)を有する抗体の比較の結果を
図13に示す。
【0155】
異なるFab領域を有する抗SSEA4抗体のFc領域による細胞結合強度の能力は異なることが認められ得る。しかし、
図11および12(A)を参照すると、Fc領域によって捕捉される免疫細胞捕捉の能力は変更されないであろう。
(実施例5)
免疫細胞の細胞傷害性
【0156】
捕捉された免疫細胞をIL-2およびフィーダー細胞(不活化K562)と共にPRIME-XV培地中で培養した。培養細胞の細胞増大およびプロファイルの結果を
図14に示し、14日目での細胞の細胞傷害性の結果を
図15に示す。
【0157】
糖操作した(抗SSEA4-G2S2 α2,6)、または糖操作しない(抗SSEA4)抗体によって捕捉された捕捉免疫細胞を、IL-2およびフィーダー細胞(不活化K562)と共にPRIME-XV培地中で培養した。14日目での細胞傷害性の結果を
図16に示す。
【0158】
糖操作した(抗SSEA4-G2S2 α2,6)、または糖操作しない(抗SSEA4)抗体、および抗CD56抗体によって捕捉された捕捉免疫細胞を、IL-2およびフィーダー細胞(不活化K562)と共にPRIME-XV培地中で培養した。14日目での細胞傷害性の結果を
図17に示す。
【0159】
結果は、富化された細胞が、親PBMCまたは抗CD56ビーズ(NK細胞を単離するための一般的な方法)によって富化された細胞より、K562標的細胞に対して良好な直接殺滅活性を示したことを実証する。
【0160】
(実施例6)
T細胞を富化するための方法の比較
【0161】
T細胞単離のための従来のアプローチを、Miltenyi Biotech汎T細胞単離キット(オーダー番号130-596-535)によって実施した。非T細胞をビオチンコンジュゲートモノクローナル抗体カクテルおよび汎T細胞マイクロビーズカクテルによって標識する。磁気標識した非T細胞を、磁気カラム内でそれらを保持することによって枯渇させ、非標識T細胞はカラムを通過する。
【0162】
本開示の方法を以下に記載した。12ウェルプレート中の5×105個/ウェルのT細胞に、CARレンチウイルスを、CD3/CD28 Dynabeadsの添加の24時間後にスピン接種した。ウイルスを活性化T細胞にMOI=10で、8mg/mLポリブレンと共に加え、800g、32℃で90分間遠心沈降させた。数時間後、IL2を含有する新鮮な培地を補充する。形質導入の4日後、Dynabeadsを除去する。約10日間培養後(細胞を増大させ、IL2を2~3日毎に新しくする)、細胞を、CAR+パーセンテージおよび細胞傷害活性の試験のために適用した。
【0163】
非T細胞を枯渇させるために抗体カクテルを必要とする従来のアプローチ(対照T)によるT細胞単離とは対照的に、本明細書では純粋かつ高品質のCD3
+ T細胞を得るために1つのみの抗体で十分である。
図18(A)に示すように、類似のパーセンテージのCD3
+ T細胞を、本発明者らの方法論によるフロースルー画分(FT T)から単離することができた。加えて、CAR T細胞を、従来のアプローチと比較可能なパーセンテージ(
図18(B))および細胞傷害能(
図18(C))で本発明者らのFT Tから調製することができた。
【0164】
本開示は、上記の特定の実施形態に関連して説明してきたが、それに対する多くの代替物およびそれの改変および変形形態が、当業者には明らかである。そのような代替物、改変および変形形態は全て、本開示の範囲内に入ると見なされる。
【配列表】
【国際調査報告】