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▶ フォルシュンクスツェントラム ユーリッヒ ゲーエムベーハーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】電気化学セルの装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20231214BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20231214BHJP
   C25B 11/03 20210101ALI20231214BHJP
   C25B 9/63 20210101ALI20231214BHJP
   C25B 9/65 20210101ALI20231214BHJP
   C25B 9/70 20210101ALI20231214BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B11/03
C25B9/63
C25B9/65
C25B9/70
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023531601
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(85)【翻訳文提出日】2023-05-24
(86)【国際出願番号】 EP2021085383
(87)【国際公開番号】W WO2022128856
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】102020133770.1
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522140563
【氏名又は名称】フォルシュンクスツェントラム ユーリッヒ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャレンバッハ,マクシミリアン
(72)【発明者】
【氏名】テンペル,ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】クングル,ハンス
(72)【発明者】
【氏名】アイヒェル,リュディガー-エー.
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BA17
4K021CA01
4K021CA02
4K021CA03
4K021CA15
4K021DB11
4K021DB40
4K021DB49
4K021DB53
4K021EA07
(57)【要約】
重ね方向(x)に互いに隣接して配置された複数の電気化学セル(2)を備える装置(1)であって、本装置においては、前記電気化学セル(2)のうち隣り合っているものは、それぞれの電気絶縁性分離要素(3)によって互いから分離されており、前記電気化学セル(2)はそれぞれ、陰極(4)を有する陰極室(24)と、陽極(5)を有する陽極室(25)と、前記陰極室(24)と前記陽極室(25)との間に配置された薄膜(6)とを有し、前記陰極(4)はそれぞれ、前記重ね方向(x)において続いて並んでいる前記電気化学セル(2)の前記陽極(5)に、電気伝導性接続部(11)を介して接続されており、複数の前記電気伝導性接続部(11)は、対応する前記陰極(4)と対応する前記陽極(5)との間に配置された前記分離要素(3)を通過するか、又は、前記電気化学セル(2)の境界(23)を通過するか、又は、その両方である。陰極(4)と陽極(5)との間に電気伝導性接続部(11)があることにより、本装置1においてバイポーラプレートが省略可能となる。その結果、装置(1)は、既知の装置よりも製造における費用効果が高く、動作が効率的となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね方向(x)に互いに隣接して配置された複数の電気化学セル(2)を備える装置(1)であって、
前記電気化学セル(2)のうち隣り合っているものは、それぞれの電気絶縁性分離要素(3)によって互いから分離されており、
前記電気化学セル(2)はそれぞれ、
陰極(4)を有する陰極室(24)と、
陽極(5)を有する陽極室(25)と、
前記陰極室(24)と前記陽極室(25)との間に配置された薄膜(6)とを有し、
前記陰極(4)はそれぞれ、前記重ね方向(x)において続いて並んでいる前記電気化学セル(2)の前記陽極(5)に、電気伝導性接続部(11)を介して接続されており、
複数の前記電気伝導性接続部(11)は、
対応する前記陰極(4)と対応する前記陽極(5)との間に配置された前記分離要素(3)を通過するか、又は、
前記電気化学セル(2)の境界(23)を通過するか、又は、
その両方である、
装置(1)。
【請求項2】
請求項1に記載の装置(1)であって、
前記電気伝導性接続部(11)は、ケーシング又はシール又はその両方によって、対応する前記陰極室(24)及び対応する前記陽極室(25)から分離されている、
装置(1)。
【請求項3】
請求項1~2のいずれか一項に記載の装置(1)であって、
前記陰極(4)又は前記陽極(5)又はその両方はそれぞれ、
複数のメッシュキャリア(7)と、
それに締結された金属メッシュ(8)とを有する、
装置(1)。
【請求項4】
請求項3に記載の装置(1)であって、
前記各金属メッシュ(8)に、それぞれ、ばね要素(9)が少なくとも1つ設けられており、
前記ばね要素は、前記金属メッシュ(8)を前記分離要素(3)のうち最も近いものから引き離すように設計されている、
装置(1)。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の装置(1)であって、
前記電気伝導性接続部(11)はそれぞれ、前記電気化学セル(2)の境界(23)の外側に配置された接続要素(10)を有する、
装置(1)。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の装置(1)であって、
前記電気伝導性接続部(11)はそれぞれ、対応する前記陰極(4)と対応する前記陽極(5)との間に、接続ピン(12)を少なくとも1つ有する、
装置(1)。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の装置(1)であって、
前記分離要素(3)はそれぞれ、電気伝導性コア(13)と、電気絶縁性カバー(14)とを有し、
前記電気伝導性接続部(11)はそれぞれ、対応する前記陰極(4)と対応する前記陽極(5)との間に配置された、前記分離要素(3)の前記電気伝導性コア(13)を有する、
装置(1)。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の装置(1)であって、
前記電気化学セル(2)は、プラスチック製の境界(23)によって区切られており、
前記境界(23)の内側に、金属製の安定化要素(15)が設けられている、
装置(1)。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の装置(1)であって、
前記電気接続部(11)はそれぞれ、反対の方向を向いた2つの接続ピン(12)を有する、
装置(1)。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の装置(1)であって、
前記陰極(4)及び前記陽極(5)はそれぞれ、金属メッシュ(8)によって形成されており、
前記装置(1)は、電気伝導性のプレート(29)をさらに備え、
前記陽極(5)を形成する前記金属メッシュ(8)は、前記プレート(29)に接続されており、
前記電気伝導性接続部(11)は、接続ピン(12)によって形成されており、
前記接続ピン(12)は、前記陰極(4)に接続されており且つ前記プレート(29)に接続されている、
装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルの装置、特に水をアルカリ電気分解するための電気化学セルの装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電解セルのスタックとして知られているものを使用して電気分解を行うことが先行技術から知られている。これらは電解セルの装置である。個々のセルは、個々に接触していない。代わりに、隣り合うセル同士の間にバイポーラプレートとして知られているものが配置されており、このプレートが隣り合うセルの一方の陰極に、一方側で接続されており、隣り合うセルの他方の陽極に他方側で接続されている。バイポーラプレートの両側は同じ電位である。しかし、これは両側に隣接する電解質に対して異なっており、その結果、バイポーラプレートを指定したことが合理的であることが分かる。一つのセルからバイポーラプレートを通って次のセルに、電流がバイポーラプレートを介して流れる。したがって、スタックの端に配置された2つのセルのうちの一方によって陰極を電圧源に接続し、スタックの端に配置された他方のセルによってこの電圧源に陽極が接続され、これにより、全てのセルに電気エネルギーが供給される。電極とバイポーラプレートとの間の電気的接触を確実にするために一般に金属製の電極が金属製のバイポーラプレートに押し付けられるが、これにはわずかな接触抵抗が伴う。電極とバイポーラプレートとの間の境界表面に、酸化物層が成長する可能性がある。酸化物層は、それぞれの電極とバイポーラプレートとの間の境界抵抗をさらに増加させるものである。セル内の電解質は両方の電極に直接接触するので、アルカリ電気分解の場合のような液体電解質も同様にバイポーラプレートに接触する。バイポーラプレートが電解質及び印加電位によって腐食されないために、バイポーラプレートは一般に耐食性金属でコーティングされている。
【0003】
しかし、バイポーラプレートを使用するにはかなりの量の材料を要する。加えて、電極とバイポーラプレートとの間の境界抵抗はかなりのものである。バイポーラプレートの傷により、典型的なガルバニック塗工された保護層が剥がれ、結果として下にある基板が溶解しかねない。さらに、ニッケル、白金、金等の高価な金属の厚い金属層がバイポーラプレートに使用されることが多いので、このような保護層は、製造コストが高く且つ高価な材料を要する。また、既知のバイポーラプレートは、チャネルと入口と出口を備えた複雑な三次元設計を有する。したがって、既知のスタックは製造費がかかり、動作がエネルギー的に非効率である。
【0004】
本発明の目的は、前述の先行技術から進めて、製造における費用効果がより高く且つ動作がより効率的な、電気化学セルの装置を提供することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、独立請求項による装置によって達成される。従属請求項は、有利な実施形態を特定するものである。特許請求の範囲及び明細書において提示する特徴は、技術的に有意な態様で互いに組み合わせることができる。
【0006】
本発明によれば、重ね方向に互いに隣接して配置された複数の電気化学セルを有する装置を提示する。本装置においては、電気化学セルのうち隣り合っているものはそれぞれの電気絶縁性分離要素によって互いから分離されており、電気化学セルはそれぞれ、陰極を有する陰極室と、陽極を有する陽極室と、陰極室と陽極室との間に配置された薄膜とを有しており、陰極はそれぞれ、重ね方向において続いて並んでいる電気化学セルの陽極に、少なくとも1つの電気伝導性接続部を介して接続されており、電気伝導性接続部は、好ましくは、対応する陰極室及び対応する陽極室から分離されており、複数の電気伝導性接続部は、対応する陰極と対応する陽極との間に配置された分離要素を通過するか、又は、電気化学セルの境界を通過するか、又は、その両方である。
【0007】
本装置は、バイポーラプレートなしで済む。この点で、材料費が低減される。加えて、本装置の動作は、電極とバイポーラプレートとの間の境界抵抗に起因するエネルギー損失がないため、エネルギーの点で特に効率的である。
【0008】
この装置は、特に電気分解用に設計可能である。その場合、装置を電解装置とも称することができる。電解装置は、アルカリ水電気分解用に構成されるのが好ましい。しかし、電解装置は、クロルアルカリ電解など他の電気化学システム用に構成することもできる。あるいは、装置は、例えばバッテリ又は燃料セルとして設計することができる。
【0009】
装置は、複数の電気化学セルを備える。電気化学セルは、電気化学プロセスを行うために構成される要素として理解されねばならない。特に、電気化学セルは、電解セル、ガルバニックセル、電気透析セル、燃料セル、バッテリセルであってもよい。好ましくは、装置の電気化学セルは全て、同一に設計されており、特に全て電解セルとして設計されている。電解セルの場合には、装置は電解スタック、又は略してスタックとも称することができる。
【0010】
各電気化学セルは、陰極を有する陰極室と、陽極を有する陽極室と、陰極室と陽極室との間に配置された薄膜とを有する。薄膜は隔膜とも称することができる。陰極及び陽極は、以下では電極とも称する。特にアルカリ水電解の場合、電極はニッケルで形成されるのが好ましい。ニッケル電極は、溶融亜鉛メッキされ(feuerverzinkt)且つその後大きな触媒表面を得るためにしっかりとエッチングされてもよい。したがって、電気化学セルのうち少なくとも1つは、陰極又は陽極又はその両方が溶融亜鉛メッキされたニッケルから形成されるのが一般に好ましい。電気化学セルは、電解質を用いて動作させることができる。例えば、電気化学セルは、電解質の電解用に構成された電解セルとして設計可能である。電解質は、アルカリ溶液であるのが好ましい。用途に関わらず、電気化学セルは、電解質が陰極及び陽極と接触できるように設計される。この目的のために、各電気化学セルはそれぞれ、陰極用の陰極室と、陽極用の陽極室とを有する。動作時には、陰極室及び陽極室は、少なくとも部分的に電解質で満たされる。電気化学セルの陰極室と陽極室とはそれぞれ、薄膜を介して互いに接続されており、これにより、薄膜はイオン伝導性であるが電気絶縁性となっている。
【0011】
各電気化学セルは、重ね方向に互いに隣接して配置されている。これは、電気化学セルが全体に一列に配置されており、隣り合う電気化学セルが互いに隣接することを意味する。電気化学セルが互いに隣接して配置される方向は、重ね方向と称される。装置を以下で説明する際に用いる座標系では、重ね方向が第一方向であり、さらに第二方向と第三方向とを有し、重ね方向と第二方向と第三方向とは各対が互いに対して直角となっている。しかし、電気化学セルを直線に沿って配置することは、好ましいことであるだけにすぎず、必須ではない。記載された利点を備えた記載された機能性は、隣り合う電気化学セルが互いに斜めである場合にも等しく達成されうる。例えば、電気化学セルは、円の円弧に沿って配置可能である。したがって、重ね方向は湾曲していてもよい。隣り合う電気化学セル間の角度は、大きくても20°であるのが好ましい。
【0012】
各電気化学セルのうち隣り合っているものは、それぞれの分離要素によって互いから分離されている。分離要素は電気絶縁性であり、プラスチック又はセラミックなどの耐食性材料から構成されてもよい。この分離要素は、特にこの点で、先行技術から知られるバイポーラプレートとは異なっている。分離要素が電気絶縁性であるということは、分離要素の2つの対向する表面の間に電気的接続がないことを意味する。分離要素は、プレート状であるのが好ましい。分離要素が完全に電気絶縁性材料から形成される必要はない。分離要素は、金属などの電気伝導性材料を覆う耐食性表面からなることが可能である。このような被覆された金属プレートは、電気化学的腐食から保護されており、分離要素が機械的安定性を有することになる。分離要素の記載された機能のためには、表面が互いから電気的に絶縁されていればよい。表面自体は電気伝導性材料から形成されながらも表面間に電気的接続がないように電気絶縁性材料によって互いから分離されることが可能である。これは、例えば、両面が金属でコーティングされるプラスチックプレートの場合に当てはまる。好ましくは、分離要素は、重ね方向に対して直角な平面で見たときに、電気化学セルの断面全体にわたって延在している。電解質室はそれぞれ、各薄膜の1つ、各電気化学セルの1つの境界、及び、各分離要素の1つによって区切られるのが好ましい。境界は、電気化学セル全てについて一緒に形成されることができ、又は、各電気化学セルそれぞれの部分を構成することができる。この点で、電解質室は、全ての側において、電気絶縁性材料によって連続的に区切られてもよい。
【0013】
各陰極はそれぞれ、重ね方向において続いて並んでいる電気化学セルの陽極に電気伝導的に接続されており、好ましくは、電解質によって覆われるか又はシールされた金属接続部を介して接続されている。この記述は、当然のことながら重ね方向に次の電気化学セルがある範囲でのみ当てはまる。したがってこの記述は、装置の重ね方向の端に配置されている電気化学セルには当てはまらない。この接続は、それぞれの分離要素を介して行われる。例えば、装置が3つの電気化学セルを有する場合には、第一電気化学セルの陽極が電圧源に接続され、第一電気化学セルの陰極が第二電気化学セルの陽極に接続され、第二電気化学セルの陰極が第三電気化学セルの陽極に接続され、第三電気化学セルの陰極が電圧源に接続される。任意の数の電気化学セルが、装置の端にある電気化学セルの間に設けられてもよく、ここでは第一及び第三電気化学セルの間に設けられてもよい。装置は、最少5個最大200個の電気化学セルを有するのが好ましい。
【0014】
隣り合うセル同士の電極の電気的接続により、電気化学セルは全て電気的に接触することができ、このとき、装置の端に配置された電気化学セルの電極の一方のみが電圧源に直接接続されている。残りの電極は、他の電極を介して、それらの間の電気的接続部を介して、電解質を介して、間接的に電圧源に接続されている。隣り合う電気化学セルの電極間の電気的接続により、バイポーラプレートを省くことが可能になる。これは、電気化学セルの間にある分離要素が電気絶縁性であるように設計されていることから明らかである。これは、先行技術で知られるバイポーラプレートを有する実施形態では不可能である。
【0015】
電気伝導性接続部は、電気伝導性材料を有し、この電気伝導性材料は、各陰極と各陽極との間に配置されており、且つ、この電気伝導性材料を介して陰極と陽極との間に連続的な電気伝導経路が形成される。電気伝導性接続部は、レーザ溶接等により、陰極又は陽極又はその両方と一体的に形成されうる。レーザ溶接の場合には、比較的低い温度入力しかないため、プラスチック部分が維持される。あるいは、電気伝導性接続部は、別体の要素を用いて形成してもよい。したがって、ねじ又はリベット等の接続ピンの少なくとも1つによって各陰極と各陽極とが互いに接続されることで、電気伝導性接続部が形成することができる。この目的のために、電極はそれぞれ、少なくとも1つの貫通孔、又は、少なくとも1つのねじ山、又は、少なくとも1つのブシュ、又は、これらの組み合わせて有することが好ましく、それによって少なくとも1つの接続ピンを各電極に接続することができる。それぞれの陰極の、少なくとも1つの貫通孔又は少なくとも1つのねじ山又は少なくとも1つのブシュ又はこれらの組み合わせは、好ましくは、それぞれの陽極の、少なくとも1つの貫通孔又は少なくとも1つのねじ山又は少なくとも1つのブシュ又はこれらの組み合わせに対向する。その結果、少なくとも1つの接続ピンは、対応する分離要素を通過し且つ各陰極と各陽極とを互いに接続することができる。接続されている電極の間に配置された分離要素を電気伝導性接続部が通過することができるのは、電気伝導性接続部が分離要素の一部を有しているからである。電気伝導性接続部は、好ましくは、同時に、機械的接続部でもあり、これを介して電極が保持される。これの代わりに又はこれに加えて、電気伝導性接続部は、電気化学セルの境界を通過することもできる。いずれの場合にも、電気化学的接続は、このように、それぞれの電気化学セル内の電解質を取り囲む要素を通過する。この要素は、それぞれの電気化学セル間の分離要素であってもよく、又は、電気化学セルの境界であってもよい。
【0016】
さらに、各電気伝導性接続部は、対応する分離要素又は電気化学セルの境界又はその両方を、液密態様で通過するのが好ましい。これは、電解質室からの電解質が電気伝導性接続部を通過する箇所において、電解質室から漏出できないことを意味する。各電気伝導性接続部は、対応する分離要素又は電気化学セルの境界又はその両方を気密態様で通過するのが特に好ましい。この場合、電解質室内で発生した気体は、同様に、電解質室から漏出できない。通過する箇所を液密又は気密な構成にするのは、例えばシールによって達成可能である。したがって、電気伝導性接続部と分離要素との間に又は境界との間に、少なくとも1つのシールが配置されるのが好ましい。これにより、例えば、電解質が接続ピンに接触するのを防ぐことができる。
【0017】
電気伝導性接続部は、陰極室及び陽極室から分離されているのが好ましい。これは、電気伝導性接続部が、動作中に、陰極室の電解質又は陽極室の電解質又はその両方と接触しないことを意味する。対照的に、先行技術から知られるバイポーラプレートは電解質と接触するので、バイポーラプレートの材料は特に耐食性及び電気伝導性に関して対応する必要が生じる。しかし、本装置の場合は、電気伝導性接続部は、任意の材料から、特に鋼等の低コストの材料から形成可能である。電気接続部の材料の電気化学的性質は重要ではない。電気接続部は、陰極室又は陽極室又はその両方から、例えばケーシングやシールによって分離可能である。例えば、電気伝導性接続部は、プラスチックコーティングを有する接続ピン又はプラスチックカバーを有する接続ピン又はその両方であってもよい。
【0018】
したがって、電気伝導性接続部がケーシング又はシール又はその両方によって、対応する陰極室及び対応する陽極室から分離されている装置の実施形態が好ましい。
【0019】
装置のさらに好ましい実施形態では、陰極又は陽極又はその両方はそれぞれ、複数のメッシュキャリアと、それに締結された金属メッシュとを有する。「その両方」の場合が好ましい。
【0020】
陰極又は陽極又はその両方は、好ましくは、それぞれ締結要素を少なくとも1つさらに有する。隣り合う電気化学セルの電極間の電気的接触が、締結要素を介して、特にそれぞれの分離要素を通過する接続部を介して、確立可能である。電極は、好ましくは、スケルトン構造の態様で実施される。
【0021】
この実施形態では、電極は自立型である。電極は、特に金属メッシュによってその役割を果たすことができる。金属メッシュは、好ましくは、触媒材料を含む。これは、薄膜から短い距離のところに配置される。メッシュキャリアは、特に金属メッシュを保持する役割を担う。メッシュキャリアは、好ましくは金属製であり、好ましくは金属メッシュ及び締結要素と同じ材料で作製されている。金属メッシュ及びメッシュキャリアは、好ましくは、ニッケルから形成されている。例えば、メッシュキャリアは金属メッシュに溶接することができる。締結要素及び保持要素も同様に、溶接することができ、特にレーザ溶接によって溶接可能であり、又は、一体として作製することができる。溶接、特にレーザ溶接は、互いに接続対象となっている要素が一緒に差し込まれた後に行うことができる。レーザ溶接の場合には、比較的低い温度入力しかないため、プラスチック部分が維持される。電極の残りの部分と保持要素との間の金属的且つ一体的な接続は、電気抵抗が低いので、有利である。その後、電極全体が溶融亜鉛メッキされ且つ大きな触媒表面を得るためにしっかりとエッチングされてもよい。したがって、電気化学セルのうちの少なくとも1つの陰極又は陽極又はその両方において、メッシュキャリア及びこのメッシュキャリアに取り付けられる金属メッシュが溶融亜鉛メッキされたニッケルから形成されるのが一般に好ましい。この場合には、金属メッシュとメッシュキャリアとの間の導電性が維持される。金属メッシュは、好ましくは、重ね方向に対して直角な平面内に形成されている。メッシュキャリアは、好ましくは、重ね方向に向けられた軸を有する。メッシュキャリアは、好ましくは、金属製の平らな帯として形成される。メッシュキャリアは、好ましくは、金属メッシュに対して直角に方向づけられている。
【0022】
各陰極はそれぞれ、例えば溶接、特にレーザ溶接によって、少なくとも1つの接続ピンによって、重ね方向において続いて並んでいる電気化学セルの陽極に、一体的に結合可能である。続いて、対応する分離要素が陰極と陽極との間に設けられるが、これは、例えば分離要素を適所に鋳造したり、クランプ固定したり、接着することによって行われる。この場合には、陰極及び陽極の少なくとも一方に、穴、ブッシュ、ねじ山を設ける必要はない。したがって、装置の実施形態において好ましいのは、各陰極がそれぞれ、例えばレーザ溶接によって、重ね方向において続いて並んでいる電気化学セルの陽極に一体的に結合されることで電気伝導性接続部が形成されており、分離要素が対応する陰極と対応する陽極との間に、鋳造されたり、クランプ固定されたり、接着結合されたり、又は、これらの組み合わせであるものである。あるいは、陰極と陽極とは隔壁によって接続されることもでき、ここでは、陰極と陽極と分離要素とが配置された後に接続ピンが溶接される。
【0023】
装置のさらに好ましい実施形態では、各金属メッシュに、それぞれ、ばね要素が少なくとも1つ設けられており、前記ばね要素は、金属メッシュを、分離要素のうち最も近いものから引き離すように且つ薄膜に近づけるように設計されている。
【0024】
したがって装置は複数のばね要素を有し、これらのばね要素はそれぞれ、金属メッシュと分離要素との間に配置されており、金属メッシュを対応する分離要素から引き離すように設計されている。
【0025】
各ばね要素は、各金属メッシュを、薄膜それぞれに近づける役割を担う。各ばね要素は、このようにして、重ね方向と平行に金属メッシュそれぞれに作用する力を生成する。その結果、金属メッシュと対向する薄膜との間の距離が減少し、それによって電解の効率が高めることができる。ばね要素は、プラスチック又は金属から形成することができる。例えば、各ばね要素はそれぞれ、フリース片、ばね、又は湾曲ワイヤ片として実現可能である。
【0026】
装置のさらに好ましい実施形態では、各電気伝導性接続部はそれぞれ、電気化学セルの境界の外側に配置された接続要素を有する。
【0027】
この実施形態では、各電極は、対応する分離要素を介して互いに接続されるのではなく、電気化学セルの境界の外側に配置された接続要素を介して互いに接続されている。接続要素は、金属製が好ましい。接続要素は電気化学セルの境界の外側に配置されているので、電解質と接触しない。各電極と接続要素との間の接続部は、陰極室及び陽極室から分離されるのが好ましい。したがって、電解質は接続部と接触しない。この実施形態では、各電気伝導性接続部はそれぞれ、電気化学セルの境界を通過するのが好ましい。電気伝導性接続部は、さらに分離要素を通過する必要はない。
【0028】
装置のさらに好ましい実施形態では、電気伝導性接続部はそれぞれ、対応する陰極と対応する陽極との間に、接続ピンを少なくとも1つ有する。
【0029】
接続ピンは、ねじ、リベット又はボルトであってもよい。接続ピンは、金属製が好ましい。各陰極はそれぞれ、少なくとも1つの接続ピンを介して、重ね方向において続いて並んでいる電気化学セルの陽極に直接的に接続されるのが好ましい。これは、陰極とそれに接続された陽極とがそれぞれ、接続ピンに直接接触することを意味する。あるいは、各陰極はそれぞれ、少なくとも1つの接続ピンを介して、重ね方向において続いて並んでいる電気化学セルの陽極に間接的に接続されることができる。例えば、陰極は、接続ピンによって、電気化学セルの境界の外側に配置された接続要素に直接的に接続されることができ、対応する陽極は、さらなる接続ピンによって、接続要素に直接的に接続されることができる。したがって、陰極と陽極は、接続要素にねじ止めすることができ、この点で、接続ピンとしての2つのねじを介して互いに間接的に接続されることができる。
【0030】
装置のさらに好ましい実施形態では、各分離要素はそれぞれ、電気伝導性コアと電気絶縁性カバーとを有しており、電気伝導性接続部はそれぞれ、対応する陰極と対応する陽極との間に配置された、分離要素の電気伝導性コアを有する。
【0031】
電気絶縁性カバーのおかげで、電解質は、分離要素の電気伝導性コアと接触しない。任意の材料、特に低コストの材料、特に鋼等の金属を、コアに使用することができる。したがって、電解質から分離されていることにより金属コアの電気化学的性質は重要ではなくなるので、分離要素は、先行技術から知られるバイポーラプレートと比較して安価である。分離要素は、金属コアのおかげで特に安定している。金属コアを介して電極同士を互いに接続することにより、装置を特に簡易且つコンパクトに設計することが可能になる。この分離要素のコアを介した電気的接続により、コアの両側は異なる電位であり、これは、先行技術から公知のバイポーラプレートの場合にも知られている。しかし、前述の分離要素は、電気絶縁性カバーがある点で、これらとは異なる。これにより、分離要素のコアはバイポーラプレートとは異なり電解質と接触しないため、コア用には、既知のバイポーラプレートよりも低コストの材料を選択することができる。
【0032】
装置のさらに好ましい実施形態では、電気化学セルはプラスチック製の境界によって区切られており、境界の内側に金属製の安定化要素が設けられている。
【0033】
境界は、壁によって形成可能であり、この壁の間に電解質室が形成されている。境界は全ての電気化学セルにわたって延在している。また、境界は一体として形成可能であり、又は、個々の電気化学セルのそれぞれの境界部分で構成可能である。境界は、例えば重ね方向の囲い壁として設計可能である。プラスチック製の境界は、特に低コストであり、さらに電気化学セル内で生じる電気化学的プロセスに影響を与えない。しかし、プラスチックは、温度及び圧力の影響下で変形することがある。これは、金属製の安定化要素によって緩和される。安定化要素は、特に重ね方向と平行に作用する力に関しての安定化を可能にするように設計され且つ配置されているのが好ましい。プラスチック製の境界の内側に金属製の安定化要素が配置されているため、金属製の安定化要素は電気化学セル内の電解質と接触しない。
【0034】
装置のさらに好ましい実施形態では、各電気的接続部はそれぞれ、互いに反対の方向を向いた2つの接続ピンを有する。
【0035】
この実施形態では、接続ピンは好ましい方向を有する。その結果、2つの接続ピンが互いに反対側を向いているか又は互いに平行に向いているかが分かる。接続ピンは、好ましくは、ねじとして設計される。2つのねじは、反対の方向を向いており、特に第一ねじが第一の側から分離要素を通ってねじ止めされ、第二ねじが第二の側から分離要素を通ってねじ止めされているときに反対の方向を向いている。他の接続ピンも同様である。したがって、まず第一の電極を、対応する分離要素に第一の側から接続し、続いて第二の電極を分離要素に第二の側から接続することによって、電気伝導性接続部を形成することができる。
【0036】
この実施形態では、各分離要素はコアを有しており、且つ、各電極とそれぞれの分離要素のコアとの間に、カバーが配置されるのが好ましい。コアは金属製である。陰極と、対応する陽極とは、まず分離要素のコアの第一の側にカバーを施すことによって、互いに接続することができる。続いて、陽極は、接続ピンによって分離要素のコアに締結することができる。次いで、分離要素のコアの第二の側にさらなるカバーが設けることができ、陰極を第二接続ピンによってコアに締結することができる。最後に、第二接続ピン、特に第二接続ピンの頭部が、シーリングでシールすることができる。その結果、分離要素のコアは、カバーによって又はシーリングによって、両側の電解質から分離される。
【0037】
さらに好ましい実施形態では、各電気伝導性接続部はそれぞれ、一方の電極にねじ山付きブシュを有し、他方の電極に貫通孔を有し、これらにより形成されており、貫通孔は、好ましくは、対応する分離要素に向かって先細になった断面を有する。
【0038】
貫通孔が対応する分離要素の方向に向けて先細になった断面を有することは、断面が分離要素に向かう方向に小さくなっていくことを意味する。その結果、円錐頭部を有するねじを、2つの電極を接続するための接続ピンとして使用することができる。ねじの頭部はシーリングでシールすることができる。頭部の円錐形状により、シーリングは頭部の特に大きな表面に接することができる。
【0039】
装置のさらに好ましい実施形態では、陰極及び陽極はそれぞれ金属メッシュによって形成されており、装置は電気伝導性のプレートをさらに備え、陽極を形成する金属メッシュはプレートに接続されており、接続ピンによって電気伝導性接続部が形成されており、この接続ピンは、陰極に接続されており且つプレートに接続されている。接続ピンは、レーザ溶接によりプレートに接続されるのが好ましい。
【0040】
この実施形態では、陰極及び陽極はそれぞれ、金属メッシュによって形成されており、この金属メッシュはニッケル製であるのが好ましい。陰極は、接続ピンを介して陽極に接続されている。したがって、接続ピンは電気伝導性接続部を構成している。接続ピンは、ニッケル製であるのが好ましい。
【0041】
この実施形態では、分離要素は、プラスチック製、特にポリプロピレン製であるのが好ましい。プレートは、例えば鋼製でもよい。プレート及び金属メッシュは電気伝導性であることから、プレートも陽極の機能に寄与し、したがって陽極の一部とみなすことができる。
【0042】
プレートは、陽極室内の電解質と接触することができる。これは、陰極室及び陽極室から分離された電気伝導性接続部を有する実施形態においては、電気伝導性接続部が任意の材料から、特に鋼等の低コストの材料から形成可能であるという上述の利点を排除しない。この点で、特に耐食性に関して、陰極室と陽極室とで異なる要件が課されることに留意しなければならない。鋼等の低コストの材料は、陰極よりも陽極で利用し易い。陰極室は、ニッケルによって区切られるのが好ましい。特にアルカリ電解の場合、陽極室及び陽極に対する要件は比較的低い。したがって、陰極室のみに高価なニッケルを使用すれば十分である。一般に、本実施形態は、強い腐食性媒体に曝される材料の断面を特に小さくすることを実現可能にする。
【0043】
陽極をなしている金属メッシュは、プレートに直接取り付けることができる。これは、プレートを波状部又はリブ等によって陽極側に形成することによって容易にすることができる。陰極側では、陰極をなしている金属メッシュに、接続ピンが接続される。前述のように設計された接続部を複数介して陰極と陽極とが互いに接続されている好ましい場合では、各接続ピンは、例えば金属ストリップを介して互いに接続可能であり、この金属ストリップには、陰極をなしている金属メッシュを締結することができる。好ましくは、接続ピンは、陰極側にカラーを有し、このカラー越しにシールを分離要素に押し付けることができる。シールにより、陰極室と陽極室とを液密態様で互いから分離することができる。
【0044】
陰極と陽極とを互いに入れ替えられることのみが本実施形態と異なる実施形態も考えられる。しかし、上述したように、このような実施形態は、耐食性に関しての陰極室と陽極室とにおける異なる要件の観点からあまり好ましくない。
【0045】
本発明のさらなる態様として、重ね方向に互いに隣接して配置された複数の電気化学セルを備える装置であって、電気化学セルのうち隣り合っているものは、それぞれの電気絶縁性分離要素によって互いから分離されており、電気化学セルはそれぞれ、陰極を有する陰極室と、陽極を有する陽極室と、陰極室と陽極室との間に配置された薄膜とを有し、陰極はそれぞれ、重ね方向において続いて並んでいる電気化学セルの陽極に、電気伝導性接続部を介して接続されており、電気伝導性接続部は、対応する陰極室及び対応する陽極室から分離されており、複数の電気伝導性接続部は、対応する陰極と対応する陽極との間に配置された分離要素を通過するか、又は、電気化学セルの境界を通過するか、又は、その両方である、装置。
【0046】
上述の特徴及び利点は、この装置に適用及び転用可能である。
【0047】
図面に基づいて、本発明を以下でより詳細に説明する。図面には、特に好適な実施形態を示す。しかし、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。図面及びそこに示す比率は概略的なものにすぎない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明による装置を示す。
図2図1における装置の陽極の第一側面図を示す。
図3図2の陽極の第二側面図を示す。
図4図1による装置の詳細図を示す。
図5図5a~図5hは、図1における装置の電極同士の間の接続部を示す。
図6図1による装置の境界の詳細を示す。
図7】本発明による装置の詳細図を示す。
図8】本発明による装置の詳細図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図1は、電解セルとして設計されている三つの電気化学セル2を備える装置1を示す。電気化学セル2は、重ね方向xに隣同士に一列に配置され、互いに隣接する。重ね方向xに加えて、第二方向y及び第三方向zが示されている。電気化学セル2はそれぞれ、陰極4及び陽極5と、それらの間に配置された薄膜6を有する。各陰極4は、それぞれの陰極室24内に配置され、各陽極5はそれぞれの陽極室25内に配置される。分かり易くするために、左側の電気化学セル2の陰極室24及び陽極室25だけに参照符号を付すものとする。陰極室24及び陽極室25は、電気化学セル2の境界23によって区切られる。隣り合う電気化学セル2は、それぞれの電気絶縁性分離要素3によって互いから分離されている。図示した実施形態では、2つの分離要素3が存在する。分離要素3はそれぞれ、電気伝導性コア13と、コーティング又はケーシングの形態の電気絶縁性カバー14とを有する。ケーシングは、最大20mmの厚さを有してもよい。
【0050】
左側の電気化学セル2の陽極5は、電気伝導性接続部11としての2つの接続ピン12を介して、エンドプレート26に接続されている。各陰極4はそれぞれ、重ね方向xに続いて並んでいる、電気化学セル2の陽極5に、電気伝導性接続部11としての2つの接続ピン12を介して接続されている。これは、左側の電気化学セル2の陰極4が中央の電気化学セル2の陽極5に接続されており、中央の電気化学セル2の陰極4が右側の電気化学セル2の陽極5に接続されていることを意味する。重ね方向xにおいて、右側の電気化学セル2の先にはそれ以上の電気化学セル2は並んでおらず、したがって右側の電気化学セル2の陰極4を、重ね方向xに続いて並ぶ電気化学セル2の陽極5に電気伝導的に接続することはできない。代わりに、右側の電気化学セル2の陰極4は、電気伝導性接続部11としての2つの接続ピン12を介して、エンドプレート26に接続されている。2つのエンドプレート26は、電圧源に接続されている。各エンドプレート26は、それぞれのカバー14によって、隣接する陰極室24又は陽極室25から分離されている。
【0051】
陰極4と陽極5との間の接続は、接続ピン12を介して行われる。これらは、陰極室24及び陽極室25から分離されている(図1の概略図では強調していない)。これは、陰極室24及び陽極室25内の電解質が接続ピン12に接触しないことを意味する。接続ピン12が分離要素3とその電気伝導性コア13とをまとめて通過することに起因して、陰極4と陽極5は、伝導性コアとの導通がある場合には、対応する分離要素3の電気伝導性コア13を介して接続可能であるが、導通がない場合は、接続されている必要はない。
【0052】
図2は、図1による装置1の陽極5を示す。陰極4も同様に設計可能である。しかし、図示された電極は、図1の陽極5と同じ方向に向けられている。したがって、陰極4であれば、第二方向y及び第三方向zによる平面に関して左右が逆になる。
【0053】
陽極5は、複数のメッシュキャリア7と、これに締結された金属メッシュ8とを有する。締結要素16は、メッシュキャリア7上に配置され、これらの締結要素16を介して陽極5を隣り合う電気化学セル2の陰極4に接続することができる。各締結要素16はそれぞれ、例えば、ねじ用のねじ山を有する。メッシュキャリア7は、溶接点17を介して、締結要素16及び金属メッシュ8に接続されている。あるいは、保持要素16と締結要素とが、一体として作製されていることも可能である。さらなる実施形態では、金属メッシュ8とメッシュキャリア7との間の接続が焼結によって行われてもよい。
【0054】
図3は、図2の陽極5をさらなる視点から示す。図示された陽極5は、重ね方向xに対して直角に見たときに丸い断面を有する陰極室24及び陽極室25を備える装置1に特に適している。
【0055】
図4は、図1による装置1の詳細図を示す。ここでは、2つの電気化学セル2のそれぞれの半分が示されている。薄膜6、陰極室24又は陽極室25、金属メッシュ8を備えた電極4、5の1つが、それぞれ示されている。コア13とカバー14とを有する分離要素3が、2つの電解質セル2の間に示されている。左側の電解質セル2の陽極5は、2つの接続ピン11を介して、右側の電解質セル2の陰極4に接続されている。金属メッシュ8と分離要素3との間に、2つのばね要素9がそれぞれ配置されているのも示されており、前述のばね要素は、金属メッシュ8を分離要素3から引き離すように張るよう設計されている。このように、左側の電気化学セル2の金属メッシュ8は左へ張られており、右側の電気化学セル2の金属メッシュ8は右へ張られている。
【0056】
図5a~5gは、図1による装置1の電極4、5の間の様々な電気伝導性接続部11を示す。電極4、5の陰極4及び陽極5としての指定は、例としてのものにすぎない。図5a~5fの実施形態全てにおいて、陰極4と陽極5とは入れ替え可能である。全ての場合において、電極4、5は、電気伝導性接続部11としての接続ピン12を介して、互いに直接接続されている。したがって、分離要素3は、例えば、完全にプラスチックで形成されていてもよい。しかし、安定性の理由から、分離要素3は、金属コア13と電気絶縁性カバー14とを有するのがさらに好ましい。これは図5a~5fに示されている。さらに、図5a~5fの実施形態それぞれでは、電解質を電気伝導性接続部11から離れた状態にしておくために、フラットシール又はリングシールを使用することが可能である。ここに図示された変形例の全てにおいて、シール27を使用されており、それにより電解質が接続点に浸透できなくなっている。
【0057】
図5aでは、電極4、5が、接続ピン12を介して接続されており、この接続ピン12は、電極4、5それぞれのブシュ18に係合する。接続ピン12がリベットピンである場合には、圧着により電気伝導性接続部11が形成可能である。接続ピン12がねじ山付きピンである場合には、電極4、5は回転することにより互いに接続することができる。電極4、5と分離要素3のカバー14との間それぞれに、シール27が配置されている。各シール27は、電解質が、電極4、5と分離要素3のカバー14との間の隙間を介して接続ピン12に接触するのを防ぐ。
【0058】
図5bでは、陰極4はブシュ18を有し、一方で、陽極5は貫通孔19を有する。接続ピン12としてのねじが、貫通孔19を通って延在しており、ブシュ18に螺入される。ねじの頭部20が、貫通孔19の縁に、その外側において、載っている。電極4、5と分離要素3のカバー14との間それぞれに、シール27が配置されている。ねじの頭部20と陽極5との間に、さらなるシール27が配置されている。このシール27は、ねじの頭部20と陽極5との間の電気伝導性接触の障害とならないように設計されている。
【0059】
図5cでは、接続ピン12が陽極5と一体的に形成されている。接続ピン12は、陰極4のブシュ18に螺入又は圧入されている。この実施形態でも、電極4、5と分離要素3のカバー14との間それぞれに、シール27が配置されている。
【0060】
図5dでは、電極4、5の両方がそれぞれ貫通孔19を有し、これを通ってねじが接続ピン12として延在している。陰極4側では、ナット22が貫通孔19の縁に載っており、陽極5側では、ねじの頭部20が貫通孔19の縁に載っている。この実施形態でも、電極4、5と分離要素3のカバー14との間それぞれに、シール27が配置されている。加えて、ねじの頭部20と陽極5との間と、ナット22と陰極4との間とに、さらなるシール27が配置されている。後者のシール27は、ねじの頭部20と陽極5との間の電気伝導性接触、又は、陰極4とナット22との間の電気伝導性接触の、障害とならないように設計されている。
【0061】
図5eでは、陰極4はブシュ18を有し、このブシュ18の中にねじが接続ピン12として係合する。ねじの頭部20は、シーリング28で覆われている。ここに図示したように、シーリング28はシール27でシールされてもよい。あるいは、シーリング28は、螺合、接着、融着することも可能である。ねじの頭部20は斜めに形成される。したがって、締結要素とねじとの間に特に大きな接触面が提供される。この実施形態でも、電極4、5と分離要素3のカバー14との間それぞれに、シール27が配置されている。この実施形態では、電気伝導性接続部11は、陰極4のねじ山付きブシュ18と陽極5の貫通孔19とにより形成されており、貫通孔は右に先細になった断面を有する。
【0062】
図5fでは、陰極4と陽極5は接続ピン12を介して、互いに接続されており、この接続ピン12は、レーザ溶接等により、陰極4及び陽極5と一体的に形成されている。接続ピン12は、例えば、陰極4上に及び陽極5上に鋳造することができる。陰極4及び陽極5が接続ピン12と一体的に形成されることも可能である。この場合には、物理的に分離する線に基づいて陰極4と接続ピン12と陽極5とを分けることは不可能であり、理論的にのみ可能である。この実施形態でも、電極4、5と分離要素3のカバー14との間それぞれに、シール27が配置されている。各シール27は、電解質が、電極4、5と分離要素3のカバー14との間の隙間を介して接続ピン12に接触するのを防ぐ。
【0063】
図5gは、陰極4と陽極5との間の電気伝導性接続部11としてのねじ接続部を示す。陰極4はブシュ18に接続されており、このブシュ18は、止まり穴を有する左ねじ山を有する。陽極5は、連続した右ねじ山を有する。電極4、5はねじ山付きピン12を介して接続されており、このねじ山付きピン12は、陽極側に左ねじ山、陰極側に右ねじ山を有する。陽極側では、ねじ山付きピン12は、貫通孔19を通して、ねじ回し等を用いて締めることができる。接続部は、陽極側でシーリング28としてのねじ山を含むプラスチック部分によって電解質から遮ることができる。
【0064】
図5hは、陰極4と陽極5とが互いに接続される様子のさらなる例を示す。この場合には、陰極4及び陽極5はそれぞれ金属メッシュ8として設計されている。陰極4は、接続ピン12を介して陽極5に接続されている。接続ピン12は、電気伝導性接続部11を構成している。陰極4と陽極5との間には、分離要素3と、電気伝導性のプレート29とが配置されている。プレート29及び金属メッシュ8が電気伝導性であることから、プレート29も陽極5の機能に寄与し、したがって陽極5の一部とみなすことができる。分離要素3は、接続ピン12用の貫通孔19を有する。プレート29は、接続ピン12用のブシュ18を有する。ブシュ18は、プレート29が接続ピン12を挿入できる連続穴を有するように形成されることができ、その際に、接続ピン12は陽極側でレーザ溶接等によってプレート29に接続されてもよい。
【0065】
陰極側では、陰極4を形成する金属メッシュ8に接続ピン12が接続されている。さらに、接続ピン12は、陰極側にカラー30を有し、このカラー30越しにシール27を分離要素3に押し付けることができる。
【0066】
図6は、電気化学セル2の境界23の詳細を示す。この部分には、金属製の安定化要素15が設けられている。安定化要素15は、境界23がこのように重ね方向xに沿った力に対して安定するように設計され且つ配置されている。
【0067】
図7は、本発明による装置1の詳細図を示しており、これは図1における装置1のように原理上設計可能である。陽極5と、分離要素3と、陰極4とが示されている。陰極4と陽極5はそれぞれ、接続ピン12を介して分離要素3のコア13に接続されている。接続ピン12は、特にねじであってもよい。陰極4と陽極5とは、接続ピン12と分離要素3のコア13とを介して互いに電気伝導的に接続されており、このとき接続ピン11及び分離要素3のコア13は電気伝導性である。電極4、5それぞれと分離要素3のカバー14との間に、シール27が配置されている。各シール27は、電解質が、電極4、5と分離要素3のカバー14との間の隙間を介して接続ピン12に接触するのを防ぐ。
【0068】
陰極4と陽極5とは、まず分離要素3のコア13の左手側にカバー14をあてがうことによって、互いに接続することができる。続いて、陽極5を、上側の接続ピン12によって、分離要素3のコア13に締結することができる。次いで、分離要素3のコア13の右手側にさらなるカバー14をあてがうことができ、陰極4を下側の接続ピン12によってコア13に締結することができる。最後に、下側の接続ピン12の頭部20がシーリング21で密封することができる。その結果、分離要素3のコア13は、カバー14によって又はシーリング21によって両側の電解質から分離される。
【0069】
図8は、本発明によるさらなる装置1の詳細図を示しており、これは図1における装置1のように原理上設計可能である。この実施形態では、分離要素3は、完全に電気絶縁性材料から形成される。陰極4と陽極5は、電気化学セル2の境界23の外側に配置された接続要素10を介して互いに接続されている。接続要素10は電気伝導性接続部11の一部でもある。電気伝導性接続部11は、境界23を通過する。電気化学セル2の境界23と電極4、5との間に、シール27がそれぞれ配置される。各シール27は、電解質が、電極4、5と分離要素3のカバー14との間の隙間を介して接続ピン12に接触するのを防ぐ。
【0070】
陰極4と陽極5との間に電気伝導性接続部11があることにより、本装置1においてバイポーラプレートが省略可能となる。その結果、装置1は、既知の装置よりも製造における費用効果が高く、動作が効率的となる。
【符号の説明】
【0071】
1 装置
2 電気化学セル
3 分離要素
4 陰極
5 陽極
6 薄膜
7 メッシュキャリア
8 金属メッシュ
9 ばね要素
10 接続要素
11 電気伝導性接続部
12 接続ピン
13 コア
14 カバー
15 安定化要素
16 締結要素
17 溶接点
18 ブシュ
19 貫通孔
20 頭部
21 シーリング
22 ナット
23 境界
24 陰極室
25 陽極室
26 エンドプレート
27 シール
28 シーリング
29 プレート
30 カラー
x 重ね方向(第一方向)
y 第二方向
z 第三方向
図1
図2
図3
図4
図5a-5e】
図5f-5g】
図5h
図6
図7
図8
【国際調査報告】