(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】電気分解用の方法及び装置
(51)【国際特許分類】
C25B 1/04 20210101AFI20231214BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20231214BHJP
C25B 9/19 20210101ALI20231214BHJP
C25B 9/60 20210101ALI20231214BHJP
【FI】
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/19
C25B9/60
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023531605
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(85)【翻訳文提出日】2023-05-24
(86)【国際出願番号】 EP2021085382
(87)【国際公開番号】W WO2022128855
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】102020133773.6
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522140563
【氏名又は名称】フォルシュンクスツェントラム ユーリッヒ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャレンバッハ,マクシミリアン
(72)【発明者】
【氏名】テンペル,ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】クングル,ハンス
(72)【発明者】
【氏名】アイヒェル,リュディガー-エー.
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021CA09
4K021CA11
4K021CA15
4K021DB31
4K021DB40
(57)【要約】
電気分解用の方法であって、本方法においては、陽極(2)にH2Oを接触させ、陰極(3)に陰極液を接触させ、陰極液は補助剤を含有しており、陽極(2)と陰極(3)との間に電圧を印加して、それにより、前記陽極(2)において酸素を生成し且つ陰極(3)において補助剤を還元し、陽子と還元された補助剤とを触媒(4)に接触させ、それにより、還元された補助剤を酸化させ且つ陽子から水素を生成する。補助剤を用いることで、低圧下で電気分解をすることができ、高圧でも水素を得ることができる。これにより、電解セルの構築が容易になり、効率を低下させる気体の交差透過を防止することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気分解用の方法であって、
陽極(2)にH
2Oを接触させ、
陰極(3)に陰極液を接触させ、
前記陰極液は、補助剤を含有しており、
前記陽極(2)と前記陰極(3)との間に電圧を印加して、それにより、前記陽極(2)において酸素を生成し且つ前記陰極(3)において前記補助剤を還元し、
陽子と前記還元された補助剤とを触媒(4)に接触させ、それにより、前記還元された補助剤を酸化させ且つ前記陽子から水素を生成する、
方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記補助剤と前記還元された補助剤は、負の標準電気化学ポテンシャルを有する酸化還元対をなす、
方法。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載の方法であって、
前記補助剤はV
3+であり、
前記還元された補助剤はV
2+である、
方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法であって、
前記陽極(2)は、電解セル(7)の陽極室(5)に配置されており、
前記陰極(3)は、前記電解セル(1)の陰極室(6)に配置されており、
前記触媒(4)は、前記陰極室(6)に接続されたガスセパレータ(8)に配置されている、
方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、
前記陽極室(5)と前記陰極室(6)は、陽子が透過可能な膜(9)によって、互いに分離されており、
前記陽極(2)と前記陰極(3)との間に電圧を印加することによって、陽子が前記陽極にも生成される、
方法。
【請求項6】
請求項4又は5のいずれかに記載の方法であって、
前記陽子及び前記還元された補助剤は、前記ガスセパレータ(8)に連続的に導入され、
気体水素は、前記ガスセパレータ(8)から連続的に取り出される、
方法。
【請求項7】
請求項4又は5のいずれかに記載の方法であって、
前記陽子及び前記還元された補助剤は、前記ガスセパレータ(8)に非連続的に導入され、
気体水素は、前記ガスセパレータ(8)から非連続的に取り出される、
方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法であって、
前記陰極液のpHは、2より小さいである、
方法。
【請求項9】
電気分解用の方法であって、
第1の電解セル(11)の陽極(12)にH
2Oを接触させ、
前記第1の電解セル(11)の陰極(13)に第1の陰極液を接触させ、
前記第1の陰極液は、第1の補助剤を含有しており、
前記第1の電解セル(11)の前記陽極(12)と前記陰極(13)との間に電圧を印加して、それにより、前記第1の電解セル(11)の前記陽極(12)において酸素を生成し且つ前記第1の電解セル(11)の前記陰極(13)において前記第1の補助剤を還元し、
前記第1の陰極液は、前記還元された第1の補助剤と共に、第2の電解セル(14)の陽極(15)に接触させられ、
第2の陰極液は、前記第2の電解セル(14)の陰極(16)に接触させられ、
前記第2の陰極液は、第2の補助剤を含有しており、
前記第2の電解セル(14)の前記陽極(15)と前記陰極(16)との間に電圧を印加して、それにより、前記還元された第1の補助剤を前記第2の電解セル(14)の前記陽極(15)において酸化し且つ前記第2の補助剤を前記第2の電解セル(14)の前記陰極(16)において還元し、
陽子及び前記還元された第2の補助剤は、互いに反応し、それにより、前記還元された第2の補助剤を酸化させ且つ水素を前記陽子から生成する、
方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法による電気分解用の装置であって、
電解セル(7)を備え、
前記電解セル(7)は、
陽極室(5)と、
前記陽極室(5)に配置された陽極(2)と、
陰極室(6)と、
前記陰極室(6)に配置された陰極(3)と、
前記陰極室(6)に接続されたガスセパレータ(8)と
を有する、
装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気分解用の方法及び装置、特に水素製造用の方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、一般に、高圧下で貯蔵され且つ輸送される。移動用途では、例えば700バールの圧力を使用可能である。したがって、水素を電気分解によって製造する場合は、圧縮が必要とされることが多い。しかし、機械的に圧縮するのは、複雑であり、高価で、且つ、非効率的である。そのため、電気分解中において例えば50バールの圧力下で水素を製造し得る方法が先行技術で既知である。これにより、その後の水素の圧縮のための費用が低減される。電解装置の構造は、圧力が高くなるほど高コストになる。さらに、電解セルの膜を通過する気体の交差透過(Gasquerpermeation)は、圧力が高くなるにつれて増大し、効率を低下させる。
【0003】
先行技術では、電気分解中に製造される気体(酸素及び水素等)は、ガスセパレータにおいて電解質から分離される。電解質は、その後、再利用することができる。
【0004】
本発明の目的は、前述の先行技術から進めて、高圧下で簡単且つ効率的に水素を製造することである。
【0005】
これらの目的は、独立請求項による方法及び装置によって達成される。従属請求項は、有利な実施形態を特定するものである。特許請求の範囲及び明細書において提示する特徴は、技術的に有意な態様で互いに組み合わせることができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、電気分解用の方法を提示する。本方法において、陽極にH2Oを接触させ、陰極に陰極液を接触させ、可逆的に還元可能であり且つ酸化可能である補助剤を陰極液は含有しており、陽極と陰極との間に電圧を印加して、それにより、陽極において酸素を生成し且つ陰極において補助剤を還元し、陽子及び還元された補助剤を、反応器において、電気化学セルの外部で、触媒に接触させ、それにより、還元された補助剤を酸化させ且つ圧力下で陽子から水素を生成する。
【0007】
水素及び酸素はそれぞれ、前述の方法によって製造することができる、特に気体状態で製造することができる。得られた水素は、例えば自動車を駆動するためのエネルギーキャリアとして使用することができる。この点で、本方法は、圧力下で水素を製造する方法とみなすことができる。その過程で、副産物として酸素が生成される。前述の方法では、水素は電気分解によって直接製造されるのではない。代わりに、電気分解中に還元される補助剤を用いて電気分解が行われる。その後、補助剤も関与する化学反応によって、水素が得られる。この点において、水素は、このように電気分解によって間接的にのみ得られる。これは、好ましくは高圧反応器として設計された反応器において行われる。反応器は、好ましくは、少なくとも20バールに耐えられるように設計されている。反応器については、好ましくは、触媒式ガスセパレータが挙げられる。先行技術で既知のガスセパレータとは対照的に、触媒式ガスセパレータでは、気体分離に加えて触媒化学反応も進行する。電気分解の下流にある補助剤の化学反応によって、高圧下の水素を得ることができる。電気分解は、例えば5バール以下の低圧で実施できる。先行技術から知られている高圧電気分解の問題が、これにより回避される。前述の方法によって、機械的な圧縮が必要のない、例えば500バールの圧力で、水素を得ることができる。
【0008】
電気分解は、H2O及び陰極液を用いて行われる。H2Oは、液体の水及び水蒸気の少なくとも一方として存在してもよい。陰極液は、電気分解中に陰極と接触させられる物質として理解されるものである。陰極液は、好ましくは、液体である。陰極液は、補助剤を含有する。補助剤は、イオンであってもよい。例えば、陰極液は、補助イオンを含有する水であってもよい。この点において、補助剤は、水溶液として存在する。あるいは、補助剤は、分子によって構成されてもよい。補助剤は、可逆的に酸化可能であり且つ還元可能である、酸化還元対の一部である。
【0009】
この場合、「還元」という語は、慣用的に、1つ又は複数の電子が、原子又はイオン又は分子に吸収される化学反応を指す。還元された補助剤は、補助剤からの還元によって得られる。補助剤が原子又はイオンによって構成されている場合は、還元の結果、補助剤の酸化状態が変化する。補助剤が分子によって構成されている場合は、還元は酸化状態の変化を伴わなくてもよい。それでも、分子の場合にも、還元によって、つまり電子の取り込みによって、還元された補助剤が補助剤から得られると言われている。同様に、酸化は、1つの原子又はイオン又は分子が、1つ又は複数の電子を手放す化学反応と定義されている。
【0010】
H2Oは、液体の水及び気体の水蒸気の少なくとも一方として陽極と接触させることによって、酸化させることができる。陰極液は、陰極と接触する。これは、好ましくは、陽極に沿って水で洗い流すか又は陰極に沿って陰極液を洗い流すことで行われる。陽極及び陰極は、好ましくは、1つの電解セルの一部である。これは、陽極及び陰極が同じ電解セルに属していることを意味する。電解セルは、好ましくは、陽極触媒としてlrO2を含む。
【0011】
電気分解を行うために、陽極と陰極との間に電圧が印加される。電圧の大きさは、陽極で酸素が生成され且つ陰極で補助剤が還元されるように、選択される。
【0012】
水素を得るために、陽子と、電気分解において陰極で還元された補助剤とを、触媒に接触させる。触媒は、好ましくは、白金製である。触媒は、好ましくは、ガスセパレータに配置されている。ガスセパレータ内の触媒を、陽極触媒と混同してはならない。陽子は、電気分解中に生じることもあり得るし、陰極液に由来したものでもあり得る。陽子は、最初から陰極液に含有させてもよい。補助剤の還元により、陽子の数を増やすことができる。陽子と還元された補助剤とを、好ましくは、ガスセパレータに配置された触媒に接触させる。これは、陰極液を、陽子と還元された補助剤と共に、触媒を備える容器(特に、触媒式ガスセパレータとして設計可能)に導くことによって行われる。したがって、特に、陽子と還元された補助剤のイオンは、水溶液中に存在することができ、これにより、触媒と接触させることができる。ガスセパレータ内の触媒で行われる電極触媒プロセスの場合、触媒は、還元された補助剤を酸化するための陽極として且つ陽子を還元するための陰極として同時に機能する。還元された補助剤が酸化されるということは、還元された補助剤から再び補助剤が得られるということである。先に還元された補助剤が再び酸化される。触媒での化学反応によって酸化された補助剤は、電気分解によって再び還元され、再利用することができる。好ましくは、補助剤は回路で使用され、ここで補助剤は、電気分解による還元とガスセパレータにおける触媒での酸化による回収とを交互に行う。還元された補助剤の酸化によって放出される電子によって、陽子を水素に変換することができる。触媒の材料及び補助剤は、好ましくは、触媒での反応が自発的に進行するように選択される。
【0013】
ガスセパレータ内の触媒は、好ましくは、触媒床にあてがわれる。この触媒床は、例えば、多孔質セラミック、カーボンフリース、銀等の金属格子で生成されてもよい。触媒は、好ましくは、動作中に液体陰極液と接触するように配置される。気体水素を、触媒で生成することができ、液体陰極液中で気泡として上昇する可能性がある。これにより、陰極液を混合して、触媒に連続的に新鮮な陰極液が到達するようにしてもよい。これは、上昇する気泡の中を触媒が移動するように触媒を取り付けることによって、特に回転するように触媒を取り付けることによって、さらに強化することができる。
【0014】
本方法のさらに好ましい実施形態では、補助剤及び還元された補助剤は、負の標準電気化学ポテンシャルを有する酸化還元対をなす。これは、陰極液のpHが2以下のときに特に好ましい。
【0015】
本実施形態では、補助剤は、水素のように非希物質(unedler)と称してもよい。したがって、一方では、還元された補助剤と補助剤の酸化還元反応が、他方では、陽子と水素の酸化還元反応が進めることができて、補助剤と水素が生成される。
【0016】
本方法のさらに好ましい実施形態では、補助剤はV3+であり、還元された補助剤はV2+である。
【0017】
本実施形態では、補助剤は、イオンによりなる。V3+は、バナジウムの3価の陽イオンである。これらは、V2+に、すなわち2価のバナジウム陽イオンに還元することができる。酸化還元対V3+/V2+は、-0.25Vの標準電気化学ポテンシャルを有する。
【0018】
本実施形態では、電解セルにおいて、以下の化学反応が行われる。
2H2O→4H++O2+4e- (1)
V3++e-→V2+ (2)
【0019】
式(1)による反応は陽極で行われ、その結果、H2Oが酸素と陽子に変換され、陽子は陰極に移動する。酸素は気体状態で生成することができる。式(2)による反応は陰極で行われ、その結果、補助剤であるV3+がV2+に還元される。したがって、電気分解の全体的な反応は次のようになる。
2H2O+4V3+→4H++O2+4V2+ (3)
【0020】
さらに、触媒式ガスセパレータでは、次のような反応が行われる。
V2+→V3++e- (4)
2H++2e-→H2 (5)
【0021】
式(5)による反応は、触媒で行われ、好ましくはガスセパレータで行われる。式(4)による反応も同様に触媒で行うことができるが、これは必ずしもそうではなく、触媒と接触する電気伝導性の材料、例えば炭素担体でも行われることもある。
【0022】
この結果、式(4)及び式(5)による反応から、以下のような全体的な反応が生じる。
2V2++2H+→2V3++H2 (6)
【0023】
これに関して、陽子から且つ補助剤の酸化状態の変化によって、水素が得られる。
【0024】
本方法のさらに好ましい実施形態では、補助剤は、可逆的な水素の取り込み及び水素の放出に適している。これは、特に、補助剤がキノンによって生成される好ましい状況における場合である。
【0025】
キノンの群は、交差環状共役ジケトンの有機化合物を含む。補助剤は、好ましくは、ヒドロキシキノンよりなる。
【0026】
陰極での還元は、この場合、以下の式にしたがって行われる。
補助剤+2e-+2H2O→2OH-+補助剤‐H2 (7)
【0027】
本実施形態では、特に、式(7)による反応が可能となるキノン分子を含む任意の物質は、補助剤とみなすことができる。式(7)によれば、これらは、イオンの場合のように、それらの酸化状態を変化させない。しかしながら、吸収された水素を含む補助剤(「補助剤‐H2」)は、式(7)による還元によって補助剤から生じたものであるので、「還元された補助剤」と呼ばれる。
【0028】
本方法のさらに好ましい実施形態では、陽極は電解セルの陽極室に配置されており、陰極は電解セルの陰極室に配置されており、触媒は陰極室に接続されたガスセパレータに配置されている。
【0029】
陰極液は、好ましくは、還元された補助剤及び陽子と共に、液体状態で陰極室内に存在する。還元された補助剤がイオンである、例えばV2+である場合、これらのイオンは陽子と共に、水溶液として存在することができる。したがって、陰極液は、還元された補助剤及び陽子と共に液体とすることができ、この陰極液を陰極室からガスセパレータに案内することができる。水素は、前述のように生成させることができ、特にガスセパレータの触媒において気体状態で生成させることができる。このように生成された水素は、ガスセパレータで分離することができる。したがって、気体水素は、例えばガスセパレータの上側のガス出口を介して排出することができ、一方、液体陰極液は、回収された補助剤と共に、例えば陰極室に戻すために、ガスセパレータの下側に配置された液体出口で移送することができる。さらに、ガスセパレータは、好ましくは、陰極液用の供給口を有する。この供給口は、ガスセパレータの任意の位置に配置することができる。
【0030】
熱力学的な理由から、ガスセパレータの温度が低い場合、達成可能な水素の圧力をより高くできる。したがって、ガスセパレータは、冷却手段を有することが好ましい。冷却手段としては、例えば、周囲空気や冷却水を冷却用に使用することができる。
【0031】
本方法のさらに好ましい実施形態では、陽極室と陰極室は、陽子が透過可能な膜によって、互いに分離されており、陽極と陰極との間に電圧を印加することによって、陽子が陽極にも生成される。
【0032】
陰極液に既に含有されている陽子の代わりに又はこの陽子に加えて、陽子を陽極においてH2Oから生成することができる。これらは、陽極室から陰極室へと膜を通過することができ、例えば、そこから陰極液と共にガスセパレータへ案内される。
【0033】
本方法のさらに好ましい実施形態では、陽子及び還元された補助剤は、ガスセパレータに連続的に導入され、気体水素は、ガスセパレータから連続的に取り出される。
【0034】
好ましくは、ガスセパレータは、気体出口に圧力アクチュエータを有し、このアクチュエータを介して、水素を所定の圧力で取り出すことができる。所定の圧力は、好ましくは、300~600バールの範囲である。陰極液は、還元された補助剤及び陽子と共に、例えば、ポンプによってガスセパレータに送り込むことができる。これにより、電気分解を低圧で操作するにもかかわらず高圧で水素を製造することが可能になる。したがって、先行技術で既知の高圧での電気分解の問題は回避される。
【0035】
本方法のさらに好ましい実施形態では、陽子及び還元された補助剤は、ガスセパレータに非連続的に導入され、気体水素は、ガスセパレータから非連続的に取り出される。
【0036】
本実施形態では、以下のステップを実施することができる。
a)還元された補助剤及び陽子と共に、陰極液をガスセパレータに導入するステップ。
b)ガスセパレータを閉じるステップ。
c)ガスセパレータに生成された水素と陰極液とを、回収された補助剤と共にガスセパレータの圧力が所定の限界値に到達後に、除去するステップ。
【0037】
ステップa)は、電解セルの陰極室に存在する圧力下で行うことができる。この圧力は、好ましくは0.5~5バールの範囲である。ステップb)において、ガスセパレータは、好ましくは、完全に閉鎖され、これにより、触媒で生成された気体水素によってガスセパレータ内の圧力が増加する。したがって、ガスセパレータと陰極室との間の接続部と、ガスセパレータの気体出口と液体出口は、好ましくは、それぞれのバルブ等によって閉鎖される。ステップc)において、一方では水素を、他方では回収された補助剤と共に陰極液を、任意の順序で、同時に又は連続的に取り出すことができる。ステップa)~c)は、好ましくは循環的に実施される。
【0038】
本方法のさらに好ましい実施形態では、陽子及び還元された補助剤は、一部は連続的に、一部は非連続的に、ガスセパレータに導入され、気体水素は、一部は連続的に、一部は非連続的に、ガスセパレータから取り出される。
【0039】
本実施形態は、上述の2つの実施形態が混在したものである。これを実現可能とするには、例えば、陰極液を、還元された補助剤及び陽子と共に、交互に圧力を変化させてガスセパレータに導入し、その結果として生じた水素を、圧力を交互に変化させてガスセパレータから取り出す。この場合、基本流量が恒常的に存在する場合には、陰極液は、還元された補助剤及び陽子と共に、一部が連続的にガスセパレータに導入される。さらに、流れが基本流量より一時的に大きい場合、つまり基本流量と追加流量の合計と解釈できる場合、陰極液は、還元された補助剤及び陽子と共に、ガスセパレータに非連続的に導入される。水素を取り出す場合も同様である。好ましくは、還元された補助剤及び陽子と共に陰極液を導入することと、その結果として生じた水素を取り出すことは、互いに同期している。
【0040】
本方法のさらに好ましい実施形態では、陰極液のpHは、2より小さく、特に0.5より小さい。
【0041】
pHが低いということは、陽子が陰極液に存在することを意味する。これらは、ガスセパレータの触媒における水素の生成に寄与することができる。特に好ましくは、陰極液のpHは、0以下である。陰極液のpHの仕様は、電気分解開始前に、陰極液がどのようになっているかに関係する。
【0042】
本発明のさらなる態様は、電気分解のための方法を提示する。本方法において、第1の電解セルの陽極にH2Oを接触させ、第1の電解セルの陰極に第1の陰極液を接触させ、第1の陰極液は第1の補助剤を含有しており、第1の電解セルの陽極と陰極との間に電圧を印加し、それにより、第1の電解セルの陽極において酸素を生成し且つ第1の電解セルの陰極において第1の補助剤を還元し、第1の陰極液は、還元された第1の補助剤と共に、第2の電解セルの陽極に接触させられ、第2の陰極液は、第2の電解セルの陰極に接触させられ、第2の陰極液は第2の補助剤を含有しており、第2の電解セルの陽極と陰極との間に電圧を印加して、それにより、還元された第1の補助剤を第2の電解セルの陽極において酸化し且つ第2の補助剤を第2の電解セルの陰極において還元し、陽子及び還元された第2の補助剤が互いに反応し、それにより、還元された第2の補助剤を酸化させ且つ水素を陽子から生成する。
【0043】
先に記載した方法の前述の利点及び特徴は、ここに記載した方法にも適用及び転用可能であり、その逆もまた同様である。
【0044】
ここに記載した方法は、上述の方法と同じ原理に基づいている。どちらの場合も、H2Oを(ここでは第1の電解セルの)陽極に接触させ、陰極液(ここでは第2の陰極液)を(ここでは第2の電解セルの)陰極に接触させる。(第2の)陰極液には補助剤(ここでは第2の補助剤)が含有されている。電圧を印加することにより、(ここでは第1の電解セルの)陽極において酸素を生成し、(ここでは第2の電解セルの)陰極において補助剤(ここでは第2の補助剤)を還元する。陽子と還元された(第2の)補助剤とが互いに反応し、それにより、還元された(第2の)補助剤を酸化させ、水素を陽子から生成する。この反応は、好ましくは、触媒を用いて行われる。したがって、好ましくは、陽子及び還元された補助剤を触媒に接触させ、それにより、還元された補助剤を酸化させて、水素を陽子から生成する。
【0045】
ここに記載した方法と上述の方法との違いは、水素の製造が、1つの補助剤を用いるだけでなく、2つの補助剤を用いて行われることである。この目的のために、ここに記載した方法では、上述の方法の工程の間に、さらに一対の陰極及び陽極が接続される。第1の電解セルの陽極と陰極との間と、第2の電解セルの陽極と陰極との間に、電圧がそれぞれ印加される。これは、第1の電解セルの陽極と第2の電解セルの陰極とを電圧源に接続し、且つ、第1の電解セルの陰極と第2の電解セルの陽極とを互いに電気伝導的に接続することによって行うことができる。
【0046】
第1の補助剤は、好ましくは、2価に酸化された形態の第2の補助剤である。これを、バナジウムの場合を例として以下に記載する。したがって、第1の補助剤としてはV5+を用いることができ、第2の補助剤としてはV3+を用いることができる。この場合、第1の電解セルでは、以下の化学反応が行われる。
2H2O→4H++O2+4e- (8)
V5++e-→V4+ (9)
【0047】
式(8)による反応は、第1の電解セルの陽極で行われ、その結果、H2Oが酸素と陽子に変換される(上述の式(1)と同じ)。酸素は、気体状態で生成させることができる。式(9)による反応は、第1の電解セルの陰極で行われ、その結果、第1の補助剤であるV5+がV4+に還元される。したがって、第1の電解セルでの電気分解では、全体として次のような反応になる。
2H2O+4V5+→4H++O2+4V4+ (10)
【0048】
2回目の電気分解では、以下の化学反応が行われる。
V4+→V5++e- (11)
V3++e-→V2+ (12)
【0049】
式(11)による反応は、第2の電解セルの陽極で行われる。この反応により、還元された第1の補助剤V4+が酸化され、その結果、第1の補助剤V5+が回収される。回収された第1の補助剤V5+は、再び第1の電解セルの陰極と接触させることができる。特に、第1の電解セルの陰極に沿って、且つ、第2の電解セルの陽極に沿って、回路内で、第1の陰極液を交互に洗い流すことができる。式(12)による反応は、第2の電解セルの陰極で行われ、その結果、第2の補助剤であるV3+はV2+に還元される(上述の式(2)と同じ)。したがって、第2の電解セルでの電気分解では、全体として次のような反応になる。
V4++V3+→V5++V2+ (13)
【0050】
式(4)~(6)として上述した反応は、触媒で行われる。これは、先に記載した方法と同じ方法で行われる。
【0051】
ここに記載した方法は、電解セルに対するエージング現象が特に低いという実用的な利点を有する。これは、特に、第1の電解セルが陽極触媒(これは、水素製造に用いられる触媒と混同してはならない)としてlrO2を含む場合である。したがって、イリジウムは、電解セルの動作時間に亘って溶解していき且つイオンの形態で電解セルの膜を通過することができる。その結果、イリジウムを陰極に蓄積することができる。陰極へのイリジウムの堆積が進むと、補助剤の還元による水素の発生が促進される。したがって、陰極では水素が既に生成されおり、その結果、電気分解と水素製造との分離という記載の利点がもはや実現できない。このようなタイプの電解セルのエージングは、ここに記載した方法によって防止することができる。これは、イリジウムが、主に第1の電解セルの陰極に蓄積するからである。第1の補助剤の標準電気化学ポテンシャルにより、第1電解セルの陰極では水素が生成されなくなる。第1の補助剤は、好ましくは、適宜選択される。したがって、特に好ましくは、第1の補助剤及び還元された第1の補助剤は、0Vよりも大きい標準電気化学ポテンシャルを有する酸化還元対をなす。酸化還元対V5+/V4+は、例えば、1Vの標準電気化学ポテンシャルを有する。
【0052】
本発明のさらなる態様は、記載された方法の1つによって電気分解するための装置を提供する。装置は電解セルを備え、この電解セルは、陽極室及びその中に配置された陽極と、陰極室及びその中に配置された陰極と、陰極室に接続されたガスセパレータとを有する。
【0053】
ここに記載する2つの方法の記載された利点及び特徴は、本装置に適用及び転用可能であり、その逆もまた同様である。記載された2つの方法は、好ましくは、本装置を用いて行われる。装置を最後に記載した方法で使用する場合、装置は2つの電解セルを備え、電解セルはそれぞれ、陽極室及びその中に配置された陽極と、陰極室及びその中に配置された陰極を有する。ガスセパレータは、第2の電解セルの陰極室に接続される。
【0054】
図面に基づいて、本発明を以下でより詳細に説明する。図面には、特に好適な実施形態を示す。しかし、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。図面及びそこに示す比率は概略的なものにすぎない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】本発明による電気分解用の装置の第1の実施形態を示す。
【
図2】本発明による電気分解用の装置の第2の実施形態を示す。
【
図3】本発明による電気分解用の装置の第3の実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0056】
図1は、電気分解用の装置1の第1の実施形態を示す。装置1は、電解セル7を備える。電解セル7は、その内部に陽極2が配置された陽極室5と、その内部に陰極3が配置された陰極室6とを有する。陽極室5及び陰極室6は、膜9によって互いに分離されている。陽極2及び陰極3はそれぞれ、電圧源に接続されている。さらに、装置1は、陽極2及び陰極3のそれぞれに対して、ガスセパレータ8を備える。陰極ガスセパレータ8には、白金製の触媒4が配置されている。
【0057】
装置1は、酸素及び水素を製造するために使用することができる。この目的のために、陽極室5に水を導入することによって、H2Oを陽極2に接触させる。陰極室6に陰極液を導入することによって、陰極3に陰極液を接触させる。陰極液は、補助剤としてV3+を含有する。陽極2及び陰極3間には、電圧源によって、電圧が印加される。これにより、陽極2において気体酸素と陽子が生成され、陰極3において補助剤がV2+に還元される。陽極2で生成された陽子は、膜9を通過して陰極室6に入ることができる。さらに、陰極液はpHが2より小さいである。したがって、陰極液が陰極ガスセパレータ8を通過することによって、陽子と還元された補助剤であるV2+とを触媒4に接触させることができる。その結果、還元された補助剤であるV2+はV3+に酸化され、陽子から水素が生成される。
【0058】
図1による実施形態では、陰極液は、陽子及び還元された補助剤V
2+と共に、陰極ガスセパレータ8に連続的に導入することができる。これにより、気体水素をガスセパレータ8から連続的に取り出すことができる。
【0059】
図2は、電気分解用の装置1の第2の実施形態を示す。この装置1は、
図1による実施形態とは異なる範囲についてのみ記載されている。このように、
図2による装置1は、バッファ容器10をさらに備える。これにより、陽子及び還元された補助剤V
2+をガスセパレータ8に非連続的に導入し、気体水素をガスセパレータ8から非連続的に取り出すことが可能になる。
【0060】
図3は、本発明による、電気分解用の装置1の第3の実施形態を示す。装置1は、第1の電解セル11と第2の電解セル14とを備える。第1の電解セル11及び第2の電解セル14はそれぞれ、その内部に陽極12、15が配置された陽極室5と、その内部に陰極13、16が配置された陰極室6とを有する。陽極室5及び陰極室6は、膜9によって互いに分離されている。第1の電解セル11の陽極12及び第2の電解セル14の陰極16はそれぞれ、電圧源に接続されている。また、第1の電解セル11の陰極13と第2の電解セル14の陽極15とは、互いに電気伝導的に接続されている。さらに、装置1は、第1の電解セル11の陽極12及び第2の電解セル14の陰極16のそれぞれに対して、ガスセパレータ8を備える。陰極ガスセパレータ8には、白金製の触媒4が配置されている。
図2と同様に、第2の電解セル14と陰極ガスセパレータ8との間にバッファ容器10を接続することも可能である。
【0061】
図3による装置1は、酸素と水素を製造するために使用することもできる。この目的のために、第1の電解セル11の陽極室5に水を導入することによって、H
2Oを第1の電解セル11の陽極12に接触させる。第1の電解セル11の陰極室6に第1の陰極液を導入することによって、第1の電解セル11の陰極13に第1の陰極液を接触させる。第1の陰極液は、第1の補助剤としてV
5+を含有する。第1電解セル11の陽極12と第2電解セル14の陰極16との間には、電圧源によって、電圧を印加することができる。その結果、第1の電解セル11の、陽極12と陰極13との間にも、電圧が印加される。これにより、第1の電解セル11の陽極12において気体酸素と陽子が生成され、第1の電解セル11の陰極13において、第1の補助剤がV
4+に還元される。
【0062】
第1の陰極液は、還元された第1の補助剤と共に、第2の電解セル14の陽極15に接触させられ、第2の陰極液は、第2の電解セル14の陰極16に接触させられる。第2の陰極液は、第2の補助剤としてV
3+を含有する。また、電圧源によって印加された電圧によって、第2の電解セル14の陽極15と陰極16との間にも電圧が発生する。これにより、還元された第1の補助剤が、第2の電解セル14の陽極15において酸化され、第2の補助剤が、第2の電解セル14の陰極16において還元される。残りの処理順序は、
図1又は
図2による実施形態と同様である。
【0063】
補助剤を用いることで、低圧下で電気分解をすることができ、且つ、高圧でも水素を得ることができる。これにより、電解セルの構築が容易になり、効率を低下させる気体の交差透過を防止することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 装置
2 陽極
3 陰極
4 触媒
5 陽極室
6 陰極室
7 電解セル
8 ガスセパレータ
9 膜
10 バッファ容器
11 第1の電解セル
12 第1の電解セルの陽極
13 第1の電解セルの陰極
14 第2の電解セル
15 第2の電解セルの陽極
16 第2の電解セルの陰極
【国際調査報告】