(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20231214BHJP
C10M 139/00 20060101ALN20231214BHJP
C10M 159/22 20060101ALN20231214BHJP
C10M 159/24 20060101ALN20231214BHJP
C10M 137/10 20060101ALN20231214BHJP
C10M 145/14 20060101ALN20231214BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20231214BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20231214BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20231214BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M139/00 A
C10M159/22
C10M159/24
C10M137/10 A
C10M145/14
C10M139/00 Z
C10N10:04
C10N10:12
C10N40:25
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023531610
(86)(22)【出願日】2021-11-16
(85)【翻訳文提出日】2023-07-10
(86)【国際出願番号】 IB2021060601
(87)【国際公開番号】W WO2022112899
(87)【国際公開日】2022-06-02
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391050525
【氏名又は名称】シェブロンジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾之内 久成
(72)【発明者】
【氏名】田中 勲
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BH07C
4H104CB08C
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104DB06C
4H104DB07C
4H104EA02Z
4H104EA22C
4H104EB05
4H104EB08
4H104EB09
4H104EB11
4H104EB13
4H104FA02
4H104FA06
4H104LA06
4H104PA41
(57)【要約】
ハイブリッドエンジン用の潤滑油は、主要量の潤滑粘度のオイルと、50~300ppmのホウ素を潤滑油組成物に与える量のホウ素含有化合物と、800ppm~1800ppmのカルシウムを潤滑油組成物に与える量で存在する、ASTM D-2896の方法で測定して、150mgKOH/g超の全塩基価を個々に有する過塩基性サリチル酸カルシウムまたは過塩基性スルホン酸カルシウムと過塩基性サリチル酸カルシウムとの混合物と、100~800ppmのリンを潤滑油組成物に与える量のジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)と、非分散性櫛形ポリメタクリレート(PMA)粘度指数向上剤(VII)と、を含む。ホウ素含有化合物は、ホウ素化分散剤を含む。潤滑油組成物の100℃のKVは6cSt~8.5cStであり、潤滑油組成物の40℃のKVは25cSt~35cStであり、潤滑油組成物のVIは200超である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッドエンジン用の潤滑油組成物であって、
(a)主要量の潤滑粘度のオイルと、
(b)40~400ppmのホウ素を前記潤滑油組成物に与える量のホウ素化分散剤と、
(c)800ppm~1800ppmのカルシウムを前記潤滑油組成物に与える量で存在する、ASTM D-2896の方法で測定して150mgKOH/g超の全塩基価を個々に有する過塩基性サリチル酸カルシウムまたは過塩基性スルホン酸カルシウムと過塩基性サリチル酸カルシウムとの混合物と、
(d)100~800ppmのリンを前記潤滑油組成物に与える量のジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)と、
(e)非分散性櫛形ポリメタクリレート(PMA)粘度指数向上剤(VII)と、を含み、
前記潤滑油組成物の100℃のKVが6cSt~8.5cStであり、前記潤滑油組成物の40℃のKVが25cSt~35cStであり、前記潤滑油組成物のVIが200超である、潤滑油組成物。
【請求項2】
100~600ppmのマグネシウムを前記潤滑油組成物に与える量の1つ以上のマグネシウム含有清浄剤をさらに含む、請求項に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記ホウ素化分散剤が、ホウ素化スクシンイミド分散剤である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記潤滑油組成物に50~1000ppmのモリブデンを与える量のモリブデン含有化合物をさらに含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
摩擦調整剤、無灰耐摩耗添加剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、シール膨潤添加剤、発泡抑制剤、または粘度調整剤をさらに含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記ジチオリン酸亜鉛が、ジアルキルジチオリン酸亜鉛である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
潤滑粘度のオイルが、グループIIIベースオイルである、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記潤滑油の粘度グレードが、0W-12、0W-16、または0W-20である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
ハイブリッドエンジンを潤滑する方法であって、前記ハイブリッドエンジンに、潤滑油であって、
(a)主要量の潤滑粘度のオイルと、
(b)40~400ppmのホウ素を前記潤滑油組成物に与える量のホウ素化分散剤と、
(c)800ppm~1800ppmのカルシウムを前記潤滑油組成物に与える量で存在する、ASTM D-2896の方法で測定して150mgKOH/g超の全塩基価を個々に有する過塩基性サリチル酸カルシウムまたは過塩基性スルホン酸カルシウムと過塩基性サリチル酸カルシウムとの混合物と、
(d)100~800ppmのリンを前記潤滑油組成物に与える量のジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)と、
(e)非分散性櫛形ポリメタクリレート(PMA)粘度指数向上剤(VII)と、を含む前記潤滑油を与えることを含み、
前記潤滑油組成物の100℃のKVが6cSt~8.5cStであり、前記潤滑油組成物の40℃のKVが25cSt~35cStであり、前記潤滑油組成物のVIが200超である、前記方法。
【請求項10】
前記潤滑油が、さらに、
100~600ppmのマグネシウムを前記潤滑油組成物に与える量の1つ以上のマグネシウム含有清浄剤を含む、請求項9に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
前記ホウ素化分散剤が、ホウ素化スクシンイミド分散剤である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記潤滑油が、前記潤滑油組成物に50~1000ppmのモリブデンを与える量のモリブデン含有化合物をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記潤滑油が、摩擦調整剤、無灰耐摩耗添加剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、シール膨潤添加剤、発泡抑制剤、または粘度調整剤をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記ジチオリン酸亜鉛が、ジアルキルジチオリン酸亜鉛である、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記潤滑粘度のオイルが、グループIIIベースオイルである、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記潤滑油が、0W-12、0W-16、または0W-20の粘度グレードを有する、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
最新の潤滑油は、多くの場合、相手先ブランド製造業者(original equipment manufacturer)によって設定された厳密な規格に従って配合されている。厳格な規格を満たすため、慎重に選択された潤滑添加剤が潤滑粘度のベースオイルとブレンドされる。一般的な潤滑油組成物は、例えば、分散剤、清浄剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、防錆剤、腐食防止剤、発泡防止剤、及び/または摩擦調整剤を含有することができる。特定の用途または使用(例えば、ハイブリッド車)によって、潤滑油組成物に配合される添加剤の組み合わせが決まる。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車は、内燃エンジンと電気モーターという2つの大きく異なるタイプの動力技術に依存している。内燃エンジンは主に高速で車両を駆動する。電気モーターは低速で車両を駆動し、追加の動力が必要な場合には内燃エンジンを補助することもできる。ハイブリッド車では、車速が上がるにつれてエンジンとモーターの動力をバランスよく配分することが重要である。
【0003】
一般的にハイブリッド車は、車が停止する場合にエンジンが停止し、車がモーターまたはブレーキ動作によってのみ駆動されている場合にはエンジンの燃料システムが一時停止する始動停止システムを備えている。その結果、エンジンが水と燃料を十分に蒸発させることができないため、オイル中に水と燃料が蓄積することが問題となる。その結果、不安定なエマルジョンが形成され、エンジンの性能に悪影響を及ぼし、エンジン部品の腐食につながる。
【0004】
ハイブリッド車と従来の自動車の違いは非常に大きいため、従来のエンジンオイルは必ずしもハイブリッド車での使用に最適化されているわけではない。したがって、ハイブリッド車両専用に設計された潤滑油組成物が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
開示の概要
一態様では、本開示は、ハイブリッドエンジン用の潤滑油組成物であって、主要量の潤滑粘度のオイルと、40~400ppmのホウ素を潤滑油組成物に与える量のホウ素含有化合物と、800ppm~1800ppmのカルシウムを潤滑油組成物に与える量で存在する、ASTM D-2896の方法で測定して、清浄剤濃縮物に対して150mgKOH/g超の全塩基価を個々に有する過塩基性サリチル酸カルシウムまたは過塩基性スルホン酸カルシウムと過塩基性サリチル酸カルシウムとの混合物と、100~800ppmのリンを潤滑油組成物に与える量のジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)と、非分散性櫛形ポリメタクリレート(PMA)粘度指数向上剤(VII)と、を含み、ホウ素含有化合物がホウ素化分散剤を含み、潤滑油組成物の100℃の動粘度(KV)が6cSt~8.5cStであり、潤滑油組成物の40℃のKVが25cSt~35cStであり、潤滑油組成物の粘度指数(VI)が200超である、潤滑油組成物を提供する。
【0006】
別の態様では、本発明は、ハイブリッドエンジンを潤滑する方法であって、ハイブリッドエンジンに、潤滑油であって、主要量の潤滑粘度のオイルと、40~400ppmのホウ素を潤滑油組成物に与える量のホウ素含有化合物と、800ppm~1800ppmのカルシウムを潤滑油組成物に与える量で存在する、ASTM D-2896の方法で測定して150mgKOH/g超の全塩基価を個々に有する過塩基性サリチル酸カルシウムまたは過塩基性スルホン酸カルシウムと過塩基性サリチル酸カルシウムとの混合物と、100~800ppmのリンを潤滑油組成物に与える量のジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)と、非分散性櫛形ポリメタクリレート(PMA)粘度指数向上剤(VII)と、を含む、潤滑油を与えることを含み、ホウ素含有化合物がホウ素化分散剤を含み、潤滑油組成物のKV100℃が6cSt~8.5cStであり、潤滑油組成物のKV40℃が25cSt~35cStであり、潤滑油組成物のVIが200超である、方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
詳細な記述
本開示には、様々な改変及び代替形態があるが、それらの具体的な実施形態を本明細書に詳細に記載する。しかしながら、特定の実施形態の本明細書での説明は、本開示を開示された特定の形態に限定しようとするものではなく、逆に、その意図するところは、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の趣旨及び範囲内にあるすべての改変例、均等物、及び代替物を網羅することにあることを理解されたい。
【0008】
本明細書に開示される主題の理解を容易にするため、本明細書で使用されるいくつかの用語、略語、またはその他の略記を以下に定義する。定義されていない用語、略語または略記は、本出願の提出の時点で当業者によって使用される通常の意味を有するものとして理解される。
【0009】
本明細書で使用する場合、以下の用語は、特にそうでない旨の記載がない限り、以下の意味を有する。本明細書において、以下の単語及び表現は、使用される場合、以下に示される意味を有する。
【0010】
「主要量」とは、組成物の50重量%超を意味する。
【0011】
「少量」とは、記載された添加剤に対して、及び1乃至複数の添加剤の活性成分として計算される、組成物中に存在するすべての添加剤の合計質量に対して表される、組成物の50重量%未満を意味する。
【0012】
「活性成分」または「活性物質」または「オイルフリー」とは、希釈剤でも溶媒でもない添加剤材料を指す。
【0013】
報告されるすべてのパーセンテージは、特に断らない限り、活性成分に基づく(すなわち、キャリアオイルまたは希釈油に関係なく)重量%である。
【0014】
略語「ppm」とは、潤滑油組成物の総重量に基づく重量百万分率を意味する。
【0015】
150℃での高温高せん断(HTHS)粘度は、ASTM D4683に従って測定した。
【0016】
100℃(KV100)及び40℃での動粘度(KV40)は、ASTM D445に従って測定した。
【0017】
粘度指数(VI)は、ASTM D2270に従って測定した。
【0018】
「金属」なる用語は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらの混合物を指す。
【0019】
本明細書及び特許請求の範囲を通じて、油溶性または油分散性という表現が用いられる。油溶性または油分散性とは、所望のレベルの活性または性能を与えるのに必要な量を、潤滑粘度のオイルに溶解、分散または懸濁することによって添加することができることを意味する。通常、これは、少なくとも約0.001重量%の材料を潤滑油組成物に添加できることを意味する。油溶性及び油分散性、特に「安定的に分散可能」なる用語のさらなる考察については、この点に関して関連する教示について参照により本明細書に明示的に援用するところの米国特許第4,320,019号を参照されたい。
【0020】
本明細書で使用する場合、「硫酸灰分」なる用語は、潤滑油中の清浄剤及び金属添加剤から生じる不燃性の残留物を指す。硫酸灰分は、ASTM試験D874を用いて測定することができる。
【0021】
本明細書で使用する場合、「全塩基価」または「TBN」という用語は、1グラムの試料中のKOHのミリグラム数に相当する塩基の量を指す。したがって、TBN値が高いほど、よりアルカリ性の生成物、したがってより高いアルカリ度を反映する。TBNを、ASTM D2896試験を使用して測定した。TBN値は清浄剤濃縮物に基づく。
【0022】
ホウ素、カルシウム、マグネシウム、モリブデン、リン、硫黄、及び亜鉛の含有量は、ASTM D5185に従って測定した。
【0023】
窒素含有量は、ASTM D4629に従って測定した。
【0024】
本明細書で言及するすべてのASTM基準は、本出願の出願日の時点での最新版である。
【0025】
特に断らない限り、すべてのパーセンテージは重量パーセントである。
【0026】
本発明は、ハイブリッドエンジンに最適化された潤滑油を提供する。潤滑油は、(a)潤滑粘度のオイル、(b)ホウ素化分散剤を含むホウ素含有化合物、(c)1つ以上の過塩基性カルシウム清浄剤、(d)場合により、1つ以上のマグネシウム含有清浄剤、(e)ジチオリン酸亜鉛、及び(f)非分散性櫛形ポリメタクリレート(PMA)を含む。潤滑油組成物のKV100℃は、6cSt~8.5cStであり、潤滑油組成物のKV40℃は、25cSt~35cStであり、潤滑油組成物のVIは200超である。
【0027】
潤滑粘度のオイル
潤滑粘度のオイル(「ベースストック」または「ベースオイル」と称される場合もある)は、潤滑剤の主要液体構成成分であり、その中へ添加剤及び場合によっては他の油がブレンドされることで、例えば、最終的な潤滑剤(すなわち潤滑剤組成物)を与える。ベースオイルは、濃縮物を製造するために、そして潤滑油組成物をそれから製造するために有用であり、天然潤滑油及び合成潤滑油ならびにそれらの組み合わせから選択され得る。
【0028】
天然油としては、動植物油、液体石油系油分、ならびにパラフィン系タイプ、ナフテン系タイプ、及びパラフィン系-ナフテン系混合タイプの水素化精製され溶媒処理された鉱油系潤滑油が挙げられる。石炭またはシェールに由来する潤滑粘度のオイルも有用なベースオイルである。
【0029】
合成潤滑油としては、重合及び共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレン共重合体、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン)などの炭化水素油、アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェノール(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェノール);ならびにアルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド、ならびにそれらの誘導体、類似体及びホモログが挙げられる。重合オレフィンは、他のオレフィンと共重合し、必要に応じてさらに異性化することもできる、ミルセン、オシメン、ファルネセンなどの炭化水素テルペンなどの生物由来の原料からも誘導できる。
【0030】
別の適当なクラスの合成潤滑油は、ジカルボン酸(例えば、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸、コハク酸、アルキルコハク酸、及びアルケニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、アジピン酸、リノール酸二量体、フタル酸など)と、各種アルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコールなど)とのエステルを含む。これらのエステルの具体的な例としては、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、及び、1molのセバシン酸を2molのテトラエチレングリコール及び2molの2-エチルヘキサノイン酸と反応させることにより形成される複合エステルが挙げられる。
【0031】
合成油として有用なエステルとしては、C5~C12モノカルボン酸とポリオールから製造されるエステル、ならびにネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトールなどのポリオールエーテルも挙げられる。
【0032】
また、生物由来のエステルも合成油として有用である。
【0033】
ベースオイルは、フィッシャー・トロプシュ法により合成される炭化水素から誘導されてもよい。フィッシャー・トロプシュ法により合成される炭化水素は、フィッシャー・トロプシュ触媒を使用して、H2とCOを含む合成ガスから製造される。これらの炭化水素は、ベースオイルとして有用なものとするためにさらなる処理を通常必要とする。例えば、炭化水素は、当業者には周知のプロセスを使用して、水素異性化;水素化分解及び水素異性化;脱ろう、または水素異性化及び脱ろうすることができる。
【0034】
ベースオイルは、再生可能または生物由来のエンジンオイルであってもよい。このようなエンジンオイルの例は、参照によって本明細書に援用する、WO2016061050号及びUS20190338211号に開示されている。いくつかの実施形態によれば、再生可能または生物由来のベースオイルには、ミルセン、オシメン、及びファルネセンなどの炭化水素テルペンに由来するイソパラフィン系炭化水素などの生物ベースの炭化水素が含まれる。いくつかの実施形態では、バイオベースの炭化水素は、脂肪酸または脂肪酸エステルから生成される。
【0035】
未精製油、精製油及び再精製油を本発明の潤滑油組成物に使用することができる。未精製油は、さらなる精製処理をせずに天然または合成源から直接的に得られるものである。例えば、乾留操作から直接的に得られるシェールオイル、蒸留から直接的に得られる石油、またはエステル化プロセスから直接的に得られ、さらなる処理を行うことなく使用されるエステル油は、未精製油である。精製油は、1つ以上の特性を改善するために1つ以上の精製工程でさらに処理されている点以外は、未精製油と同様である。蒸留、溶媒抽出、酸または塩基抽出、濾過、及びパーコレーションなどの多くのそのような精製技術が当業者に知られている。
【0036】
再精製油は、既に使用されている精製油に適用されている、精製油を得るために使用されるものと同様のプロセスによって得られる。そのような再精製油は、再生利用または再処理油としても知られており、しばしば、使用済添加剤及びオイルの分解生成物の承認のための技術によってさらに処理される。
【0037】
したがって、本発明の潤滑油組成物を製造するために使用できるベースオイルは、米国石油協会(API)のベースオイル互換性ガイドライン(API出版1509)に指定されているグループI~Vのベースオイルのいずれかから選択することができる。このようなベースオイルグループを下記表1にまとめて示す。
【表1】
【0038】
本明細書における使用に適したベースオイルは、APIのグループII、グループIII、グループIV、及びグループVのオイルに対応する様々なもの、ならびにそれらの組み合わせのうちの任意のもの、好ましくは優れた揮発性、安定性、粘度測定性、及び清浄度の特色に起因するグループIII~グループVのオイルである。
【0039】
本開示の潤滑油組成物に使用される潤滑粘度の油(ベースオイルとも称される)は、典型的には主要量(例えば、組成物の総重量に基づいて、50重量%超、好ましくは約70重量%超、より好ましくは約80~約99.5重量%、及び最も好ましくは約85~約98重量%の量)で存在する。本明細書で使用する場合、「ベースオイル」なる表現は、同じ製造業者の規格を満たし、固有の配合、製品識別番号、またはその両方によって識別される、同じ規格(原料または製造業者の所在地とは無関係)で単一の製造業者によって製造される潤滑油成分であるベースストックまたはベースストックのブレンドを意味するものと理解されたい。本明細書で使用されるベースオイルは、潤滑油組成物を配合する際に使用される、現在知られている、または後に発見される潤滑粘度の任意のオイルであり得る。
【0040】
当業者であれば容易に認識するように、ベースオイルの粘度は用途によって決まる。したがって、本明細書で使用されるベースオイルの粘度は、通常、100℃(C)で約2~約2000センチストークス(cSt)の範囲である。一般に、エンジン油として使用される個々のベースオイルは、100℃で約2cSt~約30cSt、好ましくは約3cSt~約16cSt、最も好ましくは約4cSt~約12cStの範囲の動粘度を有する。
【0041】
潤滑油組成物は、SAE 0W-XX(XXは12、16、及び20のいずれかである)の粘度グレードを有するマルチグレードオイルであってよい。好ましい一実施形態によれば、潤滑油組成物はSAE 0W-20の粘度グレードを有する。
【0042】
潤滑油組成物は、少なくとも200(例えば、200~400または200~300)の粘度指数を有する。潤滑油組成物の粘度指数が135未満であると、150℃での所望のHTHS粘度を維持しつつ燃費を向上させることが困難となり得る。潤滑油組成物の粘度指数が400を超えると、蒸発性が低下し、添加剤の溶解度不足及びシール材とのマッチング性の不足による不具合が生じる場合がある。他の実施形態によれば、潤滑油組成物は、200~290、200~280、200~270、200~260、200~250、または200~240の粘度指数を有する。他の実施形態では、潤滑油組成物は、210~290、210~280、210~270、210~260、210~250、または210~240の粘度指数を有する。他の実施形態では、潤滑油組成物は、220~290、220~280、220~270、220~260、220~250、または220~240の粘度指数を有する。
【0043】
潤滑油組成物は、100℃での動粘度が6.0cSt~8.0cStの範囲(例えば、6.0mm2/s~7.9mm2/s、6.0mm2/s~7.8mm2/s、6.0cSt~7.7cSt、6.0cSt~7.6cSt、6.0cSt~7.5cSt、6.0cSt~7.4cSt、6.0cSt~7.3cSt、6.0cSt~7.2cSt、6.0cSt~7.1cSt、6.0cSt~7.0.cSt)である。他の実施形態では、潤滑油組成物は、100℃での動粘度が、6.0cSt~8.0cSt(例えば、7.0cSt~8.0cSt、7.1cSt~8.0cSt、7.2cSt~8.0cSt、7.3cSt~8.0cSt、7.4cSt~8.0cSt、及び7.5cSt~8.0cSt)の範囲である。他の実施形態では、潤滑油組成物は、100℃での動粘度が、6.0cSt~8.0cSt(例えば、6.1cSt~8.0cSt、6.2cSt~8.0cSt、6.3cSt~8.0cSt、6.4cSt~8.0cSt、6.5cSt~8.0cSt、6.6cSt~8.0cSt、6.7cSt~8.0cSt、6.6cSt~8.0cSt、及び6.9cSt~8.0cStの範囲である。
【0044】
潤滑油組成物は、40℃での動粘度が、25cSt~35cSt(例えば、25cSt~34cSt、25cSt~33cSt、25cSt~32cSt、25cSt~31cSt、及び25cSt~30cStの範囲である。他の実施形態では、潤滑油組成物は、40℃での動粘度が、25cSt~35cSt(例えば、26cSt~35cSt、27cSt~35cSt、28cSt~35cSt、29cSt~35cSt、及び30cSt~35cStの範囲である。
【0045】
一般に、潤滑油組成物中の硫黄のレベルは、潤滑油組成物の総重量に対して約0.7重量%以下である。例えば、潤滑油組成物は、約0.01重量%~0.5重量%、0.01重量%~0.4重量%、0.01重量%~0.3重量%、0.01重量%~0.2重量%、または0.01重量%~0.10重量%の硫黄レベルを有することができる。一実施形態では、潤滑油組成物中の硫黄のレベルは、潤滑油組成物の総重量に対して、約0.60重量%以下、約0.50重量%以下、約0.40重量%以下、約0.30重量%以下、約0.20重量%以下、または約0.10重量%以下である。
【0046】
一実施形態では、潤滑油組成物中のリンのレベルは、潤滑油組成物の総重量に対して、約0.08重量%以下、例えば、約0.01重量%~約0.08重量%のリンのレベルである。一実施形態では、潤滑油組成物中のリンのレベルは、潤滑油組成物の総重量に対して、約0.07重量%以下、例えば、約0.01重量%~約0.07重量%のリンのレベルである。一実施形態では、潤滑油組成物中のリンのレベルは、潤滑油組成物の総重量に対して、約0.05重量%以下、例えば、約0.01重量%~約0.05重量%のリンのレベルである。
【0047】
一実施形態では、潤滑油組成物によって生成される硫酸灰分のレベルは、ASTM D874によって測定した場合に約1.00重量%以下、例えば、ASTM D874によって測定した場合に約0.10重量%~約1.00重量%の硫酸灰分のレベルである。一実施形態では、潤滑油組成物によって生成される硫酸灰分のレベルは、ASTM D874によって測定した場合に約0.80重量%以下、例えば、ASTM D874によって測定した場合に約0.10重量%~約0.80重量%の硫酸灰分のレベルである。一実施形態では、潤滑油組成物によって生成される硫酸灰分のレベルは、ASTM D874によって測定した場合に約0.60重量%以下、例えば、ASTM D874によって測定した場合に約0.10重量%~約0.60重量%の硫酸灰分のレベルである。
【0048】
適切には、本潤滑油組成物は、4~15mgKOH/g(例えば、5mgKOH/g~12mgKOH/g、6mgKOH/g~12mgKOH/g、または8mgKOH/g~12mgKOH/g)の全塩基価(TBN)を有し得る。
【0049】
本潤滑油組成物はまた、補助機能を付与するための従来の潤滑剤添加剤を含むことで、これらの添加剤が分散または溶解された、完成した潤滑油組成物を得ることができる。例えば、潤滑油組成物は、抗酸化剤、無灰分散剤、消耗防止剤、金属清浄剤などの清浄剤、防錆剤、解乳化剤、摩擦改質剤、金属非活性化剤、注入点抑制剤、粘度改質剤、消泡剤、共溶媒、腐食抑制剤、染料、極圧剤など、及びそれらの混合物とブレンドすることができる。種々の添加剤が既知であり、市販されている。これらの添加剤、またはそれらの類似化合物は、通常のブレンド手順によって、本発明の潤滑油組成物の調製に用いることができる。
【0050】
前述の添加剤の各々は、使用されるとき、機能的に有効な量で使用され、潤滑剤に所望の特性を付与する。したがって、例えば、添加剤が無灰分散剤である場合、この無灰分散剤の機能的に有効な量は、潤滑剤に所望の分散特徴を付与するのに十分な量である。一般に、これらの添加剤の使用時の各々の濃度は、特に断らない限り、約0.001~約20重量%、例えば、約0.01~約10重量%の範囲であってよい。
【0051】
ホウ素含有化合物
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油組成物の重量に対して40~400ppmのホウ素、例えば、50~290ppm、50~280ppm、50~270ppm、50~260ppm、50~250ppm、50~240ppm、50~230ppm、50~200ppm、50~190ppm、50~180ppm、50~170ppm、50~160ppm、50~150ppm(重量基準)を与える量のホウ素化分散剤を含む。
【0052】
ホウ素化分散剤の例としては、ホウ素化ポリアルケニルコハク酸無水物などのホウ素化無灰分散剤;ポリアルキレンコハク酸無水物のホウ素化非窒素含有誘導体;コハク酸イミド、カルボン酸アミド、ヒドロカルビルモノアミン、ヒドロカルビルポリアミン、マンニッヒ塩基、ホスホノアミド、チオホスホンアミド及びホスホルアミド、チアゾール(例えば、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール及びそれらの誘導体)、トリアゾール(例えば、アルキルトリアゾール及びベンゾトリアゾール)、アミン、アミド、イミン、イミド、ヒドロキシル、カルボキシルなどを含む、1つ以上のさらなる極性官能基を有するカルボン酸エステルを含むコポリマー(例えば、長鎖アルキルアクリレートまたはメタクリレートと上記の機能のモノマーとの共重合により調製される生成物);ならびにこれらに類するもの及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるホウ素化塩基性窒素化合物が挙げられる。好ましいホウ素化分散剤は、ホウ素のコハク酸イミド誘導体、例えば、ホウ素化ポリイソブテニルコハク酸イミドである。
【0053】
ホウ素化無灰分散剤の例としては、ヒドロカルビルコハク酸または無水物をアミンと反応させることによって調製されるホウ素化無灰ヒドロカルビルコハク酸イミド分散剤である。好ましいヒドロカルビルコハク酸または無水物は、ヒドロカルビル基が、C3またはC4モノオレフィンのポリマー、特に、ポリイソブテニル基が700~5,000、より好ましくは、900~2,500の数平均分子量(Mn)を有するポリイソブチレンから誘導されるものである。このような分散剤は一般に、各ポリイソブテニル基につき、少なくとも1個、好ましくは1~2個、より好ましくは1.1~1.8個のコハク酸基を有する。一実施形態では、油溶性または油分散性ホウ素化ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤は、約550~約5000の数平均分子量を有するポリイソブチレン基から誘導される。一実施形態では、油溶性または油分散性ホウ素化ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤は、約550~約4000の数平均分子量を有するポリイソブチレン基から誘導される。一実施形態では、油溶性または油分散性ホウ素化ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤は、約550~約3000の数平均分子量を有するポリイソブチレン基から誘導される。一実施形態では、油溶性または油分散性ホウ素化ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤は、550超~約2300の数平均分子量を有するポリイソブチレン基から誘導される。一実施形態では、油溶性または油分散性ホウ素化ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤は、約950~約2300の数平均分子量を有するポリイソブチレン基から誘導される。一実施形態では、油溶性または油分散性ホウ素化ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤は、約950~約1700の数平均分子量を有するポリイソブチレン基から誘導される。一実施形態では、油溶性または油分散性ホウ素化ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤は、約2300の数平均分子量を有するポリイソブチレン基から誘導される。一実施形態では、油溶性または油分散性ホウ素化ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤は、約1700の数平均分子量を有するポリイソブチレン基から誘導される。一実施形態では、油溶性または油分散性ホウ素化ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤は、約1000の数平均分子量を有するポリイソブチレン基から誘導される。
【0054】
スクシンイミドを形成するための反応に好ましいアミンは、1分子当たり2~60個の炭素原子及び2~12個の窒素原子を有するポリアミンである。特に好ましいアミンとしては、次式で表されるポリアルキレンアミンが挙げられる。
NH2(CH2)n-(NH(CH2)n)m-NH2
(式中、nは2~3、mは0~10である。)例示的な例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなど、ならびにそのようなポリアミンの市販の混合物が挙げられる。ヒドロキシ、アルコキシ、アミド、ニトリド及びイミダゾリン基などの他の基を含むアミン、ならびにポリオキシアルキレンポリアミンも使用することができる。アミンは、一般的には反応物質を100℃~250℃、好ましくは125℃~175℃に、1~10時間、好ましくは2~6時間、加熱することにより、アルケニルコハク酸または無水物とポリアミンとのモル比が約1:1~10:1、好ましくは1:1~3:1の従来の比、好ましくは約1:1の比となるように、アルケニルコハク酸または無水物と反応させる。
【0055】
アルケニルコハク酸イミド分散剤のホウ素化もまた、米国特許第3,087,936号及び同第3,254,025号に開示されるように、当該技術分野では周知のものである。スクシンイミドは、例えば、分散剤中の窒素のそれぞれの原子比に対して原子比0.1のホウ素~原子比10のホウ素を与える量の、ホウ素、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸及びそれらのエステルからなる群から選択されるホウ素化合物で処理することができる。
【0056】
ホウ素化生成物は、一般に、ホウ素酸化分散剤の総重量に対して0.1~2.0重量%、好ましくは0.2~0.8重量%のホウ素を含有する。ホウ素は、イミドのメタホウ酸塩に結合した脱水ホウ酸ポリマーとして存在すると考えられている。ホウ素化反応は、1~3重量%(分散剤の重量に対して)の前記ホウ素化合物を添加することにより容易に行われる。
【0057】
清浄剤
本発明の潤滑油は、1つ以上の清浄剤を含む。1つ以上の清浄剤は、過塩基性サリチル酸カルシウム、または過塩基性スルホン酸カルシウムと過塩基性サリチル酸カルシウムとの混合物であってよい。清浄剤は個々に、150mgKOH/g超のTBNを有する(ASTM D-2896によって測定される)。清浄剤(複数可)は、潤滑油組成物に約800ppm~約1800ppm(例えば、800~1700、900~1600、1000~1500、1100~1400、1200~1300)のカルシウムを与える量で存在する。場合により、1つ以上の清浄剤は、潤滑油組成物に100~600ppmのマグネシウムを与える量のマグネシウム含有清浄剤を含んでもよい。清浄剤は、任意の適合した方法によって調製することができる。一実施形態では、マグネシウム清浄剤は過塩基性スルホン酸マグネシウム清浄剤である。
【0058】
スルホン酸塩は、石油の分留から得られるものなどのアルキル置換芳香族炭化水素のスルホン化、または芳香族炭化水素のアルキル化によって通常得られるスルホン酸から調製することができる。例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、ジフェニルまたはそれらのハロゲン誘導体のアルキル化により得られるものが挙げられる。アルキル化は、約3~70個超の炭素原子を有するアルキル化剤を用いて触媒の存在下で行うことができる。アルカリールスルホン酸塩は、通常、アルキル置換芳香族部分当たり約9~80個以上の炭素原子(例えば、約16~60個の炭素原子)を含む。
【0059】
サリチル酸塩は、塩基性金属化合物を少なくとも1つのカルボン酸と反応させ、反応生成物から水を除去することによって調製することができる。サリチル酸から調製される清浄剤は、カルボン酸から調製される清浄剤の1クラスである。有益なサリチル酸塩としては、長鎖アルキルサリチル酸塩が挙げられる。組成物の1つの有益なファミリーは、以下の構造:
【化1】
[式中、R”はC
1~C
30(例えば、C
13~C
30)アルキル基であり、nは、1~4の整数であり、Mは、アルカリ土類金属(例えば、CaまたはMg)である]のものである。
【0060】
ヒドロカルビル置換サリチル酸は、Kolbe反応によってフェノールから調製され得る(米国特許第3,595,791号を参照)。ヒドロカルビル置換サリチル酸の金属塩は、極性溶媒(水またはアルコール等)中での金属塩の複分解によって調製され得る。
【0061】
「過塩基性」なる用語は、存在する金属の量が化学量論的な量を上回るような、スルホン酸塩、サリチル酸塩、及びフェネートの金属塩などの金属塩に関する。このような塩は、100%を上回る転化レベルを有し得る(すなわち、酸をその「正」「中性」塩に転化するのに必要な理論量の金属の100%を超えて含み得る)。「金属比」なる表現は、しばしばMRと略記され、既知の化学反応性及び化学量論に従う、過塩基性塩中の金属の総化学当量と中性塩中の金属の化学当量の比を示して用いられる。正塩または中性塩では金属比は1であるが、過塩基性塩ではMRは1よりも大きい。これらは一般に過塩基性塩、超塩基性塩(hyperbased)、または超塩基性塩(superbased)と呼ばれ、有機硫黄酸、サリチル酸、またはフェノールの塩であってもよい。
【0062】
過塩基性清浄剤は、清浄剤濃縮物に対して、150mgKOH/グラム以上のTBN、約250mgKOH/グラム以上のTBN、または約300mgKOH/グラム以上のTBN、または約350mgKOH/グラム以上のTBN、または約375mgKOH/グラム以上のTBN、または約400mgKOH/グラム以上のTBNを有する。
【0063】
過塩基性清浄剤は、1.1:1、または2:1、または4:1、または5:1、または7:1、または10:1の金属対基質比を有することができる。
【0064】
過塩基性スルホン酸塩及び/またはサリチル酸塩
潤滑油組成物は、800ppm~1700ppmのカルシウムを潤滑油組成物に与える量で存在する、ASTM D-2896の方法で測定して150mgKOH/g超の全塩基価を個々に有する過塩基性サリチル酸カルシウムまたは過塩基性スルホン酸カルシウムと過塩基性サリチル酸カルシウムとの混合物を含む。他の実施形態では、800ppm~1800ppmのカルシウム、例えば、800~1250ppmのカルシウム、850~1250ppmのカルシウムを潤滑油組成物に与える量で存在する、ASTM D-2896の方法で測定して150mgKOH/g超の全塩基価を個々に有する過塩基性サリチル酸カルシウムまたは過塩基性スルホン酸カルシウムと過塩基性サリチル酸カルシウムとの混合物。他の実施形態では、800ppm~1800ppmのカルシウム、900~1700ppmのカルシウム、950~1700ppmのカルシウムを潤滑油組成物に与える量で存在する、ASTM D-2896の方法で測定して150mgKOH/g超の全塩基価を個々に有する過塩基性サリチル酸カルシウムまたは過塩基性スルホン酸カルシウムと過塩基性サリチル酸カルシウムとの混合物。
【0065】
マグネシウム含有清浄剤
1つ以上のマグネシウム含有清浄剤は、ASTM D-2896の方法により測定して、150mgKOH/g超の全塩基価を有する過塩基性マグネシウム含有清浄剤とすることができる。1つ以上の過塩基性マグネシウム含有清浄剤は、過塩基性スルホン酸マグネシウム清浄剤、過塩基性マグネシウムフェネート清浄剤、過塩基性サリチル酸マグネシウム清浄剤、またはそれらの混合物であってよい。特定の実施形態では、マグネシウム清浄剤は、清浄剤濃縮物に対して、約250mgKOH/グラム以上のTBN、または約300mgKOH/グラム以上のTBN、または約350mgKOH/グラム以上のTBN、または約375mgKOH/グラム以上のTBN、または約400mgKOH/グラム以上のTBNを有することができる。
【0066】
好ましいマグネシウム含有清浄剤としては、スルホン酸マグネシウム、マグネシウムフェネート、及びサリチル酸マグネシウム、特にスルホン酸マグネシウムが挙げられる。
【0067】
マグネシウム含有清浄剤は、少なくとも100ppm(例えば、100~600ppm、100~500ppm、100~400ppm、150~600ppm、150~550ppm、150~500ppm、200~600ppm、200~550ppm、200~500ppm、250~600ppm、250~550ppm、250~500ppm(重量基準)のマグネシウムを潤滑油組成物に与える量で使用することができる。
【0068】
ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)
耐摩耗剤は、金属部品の摩耗を軽減する。適当な耐摩耗剤としては、下式のジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)などのジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩が挙げられる。
Zn[S-P(=S)(OR1)(OR2)]2
[式中、R1及びR2は、1~18個(例えば、2~12個)の炭素原子を有し、アルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、アルカリール及び脂環式ラジカルなどのラジカルを含む、同じまたは異なるヒドロカルビルラジカルであってよい。]R1及びR2基として特に好ましいのは、2~8個の炭素原子を有するアルキル基である(例えば、アルキルラジカルは、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、2-エチルヘキシルであってよい)。油溶性を得るには、炭素原子の総数(すなわち、R1+R2)は少なくとも5である。したがって、ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含むことができる。ジアルキルジチオリン酸亜鉛は、第一級もしくは第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛、またはそれらの混合物であってよい。ZnDTPは、潤滑油組成物に100~800ppmのリンを与える量で存在する。
【0069】
モリブデン含有化合物
本発明の潤滑油組成物は、約50~約1000、例えば、約50~約900ppm、約50~約800ppm、約50~約750ppm、約50~約500ppm、約50~約450ppm、約50~約400ppm、約50~約350、または約50~約300ppmのモリブデンを潤滑油組成物に与える量のモリブデン含有化合物を含むことができる。
【0070】
油溶性モリブデン含有化合物は、耐摩耗剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、またはそれらの混合物の機能的性能を有し得る。油溶性モリブデン含有化合物としては、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジアルキルジチオリン酸モリブデン、ジチオホスフィン酸モリブデン、モリブデン化合物のアミン塩、キサントゲン酸モリブデン、チオキサントゲン酸モリブデン、硫化モリブデン、カルボン酸モリブデン、モリブデンアルコキシド、三核有機モリブデン化合物、モリブデンエステル、モリブデンアミド、及び/またはそれらの混合物が挙げられる。硫化モリブデンとしては、二硫化モリブデンが挙げられる。二硫化モリブデンは安定した分散液の形態であってよい。一実施形態では、油溶性モリブデン化合物は、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジアルキルジチオリン酸モリブデン、モリブデン化合物のアミン塩、及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。一実施形態では、油溶性モリブデン化合物は、ジチオカルバミン酸モリブデンであってよい。
【0071】
ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)は、下記構造で表される有機モリブデン化合物である。
【化2】
[式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、互いに独立して、4~18個の炭素原子(例えば、8~13個の炭素原子)を有する直鎖または分枝鎖のアルキル基である。]
【0072】
ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)は、下記構造で表される有機モリブデン化合物である。
【化3】
[式中、R
5、R
6、R
7及びR
8は、互いに独立して、4~18個の炭素原子(例えば、8~13個の炭素原子)を有する直鎖または分枝鎖のアルキル基である。]
【0073】
使用することが可能なモリブデン含有化合物の適当な例としては、R.T.Vanderbilt Co., Ltd.よりMolyvan 822(登録商標)、Molyvan(登録商標)A、Molyvan 2000(登録商標)、及びMolyvan 855(登録商標)、Adeka CorporationよりSakura-Lube(登録商標)S-165、S-200、S-300、S-310G、S-525、S-600、S-700、及びS-710などの商品名で販売されている市販材料、及びそれらの混合物が挙げられる。適当なモリブデン成分は、参照により本明細書にそれらの全容を援用するところの米国特許第5,650,381号、米国再発行特許第37,363E1号、米国再発行特許第38,929E1号、及び米国再発行特許第40,595E1号に記載されている。
【0074】
さらに、モリブデン含有化合物は酸性モリブデン化合物であってもよい。モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、及び他のモリブデン酸アルカリ金属塩及び他のモリブデン塩、例えばモリブデン酸水素ナトリウム、MoOCl4、MoO2Br2、Mo2O3Cl6、三酸化モリブデンまたは類似の酸性モリブデン化合物が挙げられる。あるいは、組成物に、例えば、参照により本明細書にそれらの全容を援用するところの米国特許第4,263,152号、同第4,285,822号、同第4,283,295号、同第4,272,387号、同第4,265,773号、同第4,261,843号、同第4,259,195号及び同第4,259,194号、ならびに米国特許出願公開第2002/0038525号に記載されるように、塩基性窒素化合物のモリブデン/硫黄錯体によってモリブデンを与えてもよい。
【0075】
別の適当なモリブデン含有化合物のクラスは、式:Mo3SkLnQzのものなどの三核モリブデン化合物及びそれらの混合物であり、式中、Sは硫黄を表し、Lは、化合物をオイル中に可溶性または分散可能とするのに十分な数の炭素原子を有する有機基を有する独立して選択された配位子を表し、nは1~4であり、kは4~7で異なり、Qは、水、アミン、アルコール、ホスフィン、及びエーテルなどの中性電子供与化合物の群から選択され、zは、0~5の範囲であり、非化学量論的値を含む。すべての配位子の有機基中に合計で少なくとも21個の炭素原子、例えば、少なくとも25個、少なくとも30個、または少なくとも35個の炭素原子が存在してもよい。さらなる適当なモリブデン含有化合物が、参照によって本明細書にその全容を援用するところの米国特許第6,723,685号に記載されている。
【0076】
一実施形態では、モリブデンアミンはモリブデン-コハク酸イミド錯体である。適当なモリブデン-コハク酸イミド錯体が、例えば、米国特許第8,076,275号に記載されている。これらの錯体は、酸性モリブデン化合物と、以下の構造のポリアミンまたはそれらの混合物のアルキルまたはアルケニルコハク酸イミドとを反応させることを含むプロセスによって調製される。
【化4】
[式中、Rは、C
24~C
350(例えば、C
70~C
128)のアルキル基またはアルケニル基であり、R’は、2~3個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、xは1~11であり、yは、1~10である。]
【0077】
モリブデン-コハク酸イミド錯体を調製するために使用されるモリブデン含有化合物は、酸性モリブデン化合物または酸性モリブデン化合物の塩である。「酸性」とは、ASTM D664またはD2896によって測定した場合に、モリブデン化合物が塩基性窒素化合物と反応することを意味する。一般に、酸性モリブデン化合物は6価である。適当なモリブデン化合物の代表的な例としては、三酸化モリブデン、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、ならびに他のモリブデン酸アルカリ金属塩及び他のモリブデン塩、例えば水素塩(例えばモリブデン酸水素ナトリウム)、MoOCl4、MoO2Br2、Mo2O3Cl6などが挙げられる。
【0078】
モリブデン-コハク酸イミド錯体を調製するために使用できるスクシンイミドは、多数の参考文献に開示されており、当該技術分野では周知のものである。「スクシンイミド」なる技術用語に含まれるスクシンイミド及び関連物質の特定の基本的な種類は、米国特許第3,172,892号、同第3,219,666号、及び同第3,272,746号に教示されている。「スクシンイミド」という用語は、当該技術分野では、形成され得るアミド、イミド、及びアミジン種の多くを含むと理解されている。しかしながら、主な生成物はスクシンイミドであり、この用語は一般に、アルキルまたはアルケニル置換コハク酸または無水物と窒素含有化合物との反応生成物を意味するものとして受け入れられてきた。好ましいスクシンイミドは、炭素原子が約70~128個のポリイソブテニルコハク酸無水物と、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びそれらの混合物から調製されるポリアルキレンポリアミンとを反応させることによって調製されるものである。
【0079】
モリブデン-コハク酸イミド錯体を、適当な圧力及び120℃を超えない温度で硫黄源で後処理することで硫化モリブデン-コハク酸イミド錯体を得ることができる。硫化工程は、約0.5~5時間(例えば、0.5~2時間)にわたって行うことができる。適当な硫黄源としては、硫黄元素、硫化水素、五硫化リン、式R2Sxの有機多硫化物(式中、Rは、ヒドロカルビル(例えば、C1~C10アルキル)であり、xは、少なくとも3である)、C1~C10メルカプタン、無機硫化物及び多硫化物、チオアセトアミド、及びチオ尿素が挙げられる。
【0080】
粘度調整剤
粘度調整剤(VM)は粘度指数向上剤(VII)とも呼ばれ、高温及び低温での操作性を付与するために潤滑油組成物中に存在する。粘度調整剤は、高温での潤滑油組成物の粘度を高め、これにより膜厚が増加するが、低温での粘度に対する影響は限定的である。
【0081】
粘度調整剤は、その唯一の機能を付与するために使用してもよく、多機能にすることもできる。多機能粘度調整剤は分散剤としても機能する。
【0082】
適当な粘度調整剤の例は、メタクリレート、ブタジエン、オレフィン、またはアルキル化スチレンのポリマー及びコポリマーである。他の適当な粘度調整剤としては、エチレンとプロピレンのコポリマー、スチレンとイソプレンの水素化ブロックコポリマー、及びポリアクリレート(例えば、様々な鎖長のアクリレートのコポリマー)が挙げられる。
【0083】
粘度調整剤は、潤滑油組成物中に潤滑油組成物の総重量に対して0.001重量%~10重量%の総量で存在することができる。他の実施形態では、粘度調整剤は、潤滑油組成物の総重量に対して0.01重量%~8重量%、0.1重量%~5重量%、0.4重量%~4重量%、0.6重量%~3重量%、0.7重量%~2重量%、1重量%~1.5重量%、または1.05重量%~1.44重量%の総量で存在することができる。いくつかの例示的な実施形態では、粘度調整剤は、潤滑油組成物の総重量に対して1.0重量%~1.2重量%、1.3重量%~1.4重量%、または1.4重量%~1.5重量%の総量で存在することができる。
【0084】
特に有用な粘度調整剤は、非分散性櫛形ポリメタクリレート(櫛形PMA)である。
【0085】
非分散性櫛形ポリメタクリレート
非分散性櫛形ポリメタクリレート(櫛形PMA)は、粘度調整剤または粘度指数向上剤として使用できる櫛形ポリマーである。
【0086】
一実施形態では、非分散性櫛形PMAは、300,000g/mol~600,000g/mol、350,000g/mol~550,000g/mol、375,000g/mol~500,000g/mol、または390,000g/mol~460,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有する。
【0087】
一実施形態では、非分散性櫛形PMAは、35,000g/mol~105,000g/mol、45,000g/mol~95,000g/mol、55,000g/mol~85,000g/mol、または65,000g/mol~75,000g/molの数平均分子量(Mn)を有する。別の実施形態では、非分散性櫛形PMAは、150,000g/mol~250,000g/molまたは200,000g/mol~215,000g/molの数平均分子量(Mn)を有する。
【0088】
一実施形態では、非分散性櫛形PMAのせん断安定性指数(SSI)は、0.1~1.0、0.2~0.9、または0.3~0.8である。
【0089】
潤滑油組成物の非分散性櫛形PMAは、本明細書に参照によりその開示内容を援用するところのUS2017/0298287A1号及びJP2019014802号に記載されているように記述することができる。非分散性櫛形PMAは、Evonikより販売されるViscoplex(登録商標)Viscosity Index Improver3-201及び/または3-162によって提供することができる。
【0090】
一実施形態によれば、非分散性櫛形PMAは、主樹脂成分として櫛形PMAを含むViscoplex(登録商標)3-201と呼ばれる化合物によって与えられる。この非分散性櫛形PMAは、420,000g/molの重量平均分子量(Mw)、70,946g/molの数平均分子量(Mn)、及び5.92のMw/Mnを有する。この化合物は、Mnが500以上のマクロモノマーに由来する構成単位を少なくとも有する。非分散性櫛形PMAは、化合物の総重量に対して19重量%の量で存在する。
【0091】
別の実施形態によれば、非分散性櫛形PMAは、主樹脂成分として櫛形PMAをやはり含むViscoplex(登録商標)3-162と呼ばれる化合物によって与えられる。この非分散性櫛形PMAは、399,292g/molの重量平均分子量(Mw)、205,952g/molの数平均分子量(Mn)、1.94のMw/Mn、及び0.6のせん断安定性指数(SSI)を有する。
【0092】
別の実施形態によれば、非分散性櫛形PMAは、化合物の組み合わせ、例えば、Viscoplex(登録商標)3-201とViscoplex(登録商標)3-162との組み合わせによって与えられる。
【0093】
非分散性櫛形PMAは、一般的に、潤滑油組成物の総重量に対して、0.5重量%~25重量%、1重量%~20重量%、2重量%~18重量%、4重量%~16重量%、または5重量%~15重量%の量で存在する。
【0094】
その他の粘度調整剤
直鎖状ポリ(メタ)アクリレート(PMA)は、一般に、異なるアルキルメタクリレートの混合物の単純なフリーラジカル共重合によって合成される。櫛形PMAとは異なり、従来の直鎖状PMAは、主に短いアルキル鎖長(通常1~50個の炭素)が存在しており、櫛形ポリマーにその特徴的な形状を与える長いアルキル鎖のマクロモノマーが存在しないことを特徴としている。PMAを使用すると、OCPよりも優れた低温レオロジー特性を得ることができる。一方、PMAの増粘効率は一般にOCPの増粘効率より劣るため、同じ効果を得るには高濃度で使用する必要がある。米国特許第3,607,749号及び第8,778,857号、ならびに欧州特許第0225,598号を参照されたい。
【0095】
高い増粘効率を有するオレフィンコポリマー(OCP)粘度調整剤は、マルチグレードの最終潤滑剤において有利であり、配合コストを削減し、堆積物形成のリスクを軽減する。この利点は、完全に配合されたオイル中のポリマーの使用量が少ないことからもたらされる。従来より、また、当該技術分野では周知であるように、OCPの増粘効率はエチレン含有量を最大化することによって高められるが、これによりポリマーが、完成した潤滑剤において低温性能の欠陥を引き起こすリスクが生じる。低温の欠陥は、潤滑油配合物に非晶質及び半結晶性のエチレンベースのコポリマーのブレンドを使用することで軽減することができ、増粘効率、せん断安定性指数、低温粘度性能及び流動点の向上を可能とする。例えば、米国特許第7,402,235号及び同第5,391,617号、ならびに欧州特許第0638,611号を参照されたい。
【0096】
水素化スチレン-ジエン(HSD)タイプの粘度指数向上剤は、スチレンとブタジエンを共重合し、不飽和コポリマーを水素化することによって調製することができる。水素化スチレン-ジエンコポリマーは、直鎖状ブロックコポリマーまたは星形であり得る。星形HSDコポリマーは、その放射状構造により直鎖状のコポリマーと比較して優れたせん断安定性を示し、過酷なエンジン動作条件下でもポリマーの劣化を生じず、潤滑油の永久的な粘度低下を軽減する。潤滑油中の粘度調整剤としてのHSDコポリマーの例については、例えば、米国特許第4,116,917号、同第3,772,196号及び同第4,788,316号を参照されたい。
【0097】
例
以下の例(実施例)は、あくまで例示を目的としたものにすぎず、本開示の範囲をいかなる意味でも限定するものではない。
【0098】
各発明例及び比較例は、ホウ素化及び炭酸エチレン後処理されたスクシンイミド分散剤、過塩基性カルシウムスルホネート清浄剤、アミン酸化防止剤、ホウ素化エステル摩擦調整剤、モリブデンコハク酸イミド錯体、一次及び二次ZnDTPの混合物、ならびに微量の消泡剤、ポリメタクリレートベースの流動点降下剤の混合物を用いて配合した。さらに、いくつかの例は、過塩基性サリチル酸カルシウム清浄剤及び/または中性スルホン酸カルシウム清浄剤も含んでいた。
【0099】
表1は、例1~7及び比較例1~7中に存在する金属含有量及び金属源をまとめたものである。各試料には、非分散性櫛形PMA粘度調整剤、オレフィンコポリマー粘度調整剤、直鎖状PMA粘度調整剤、またはスチレン-イソプレン共重合体粘度調整剤のいずれかも含まれる。潤滑組成物の残部はグループIIIベースオイルで構成される。表1([表1-1]~[表1-3])は、各試料の粘弾性特性も含む。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
ホウ素は、ホウ素化スクシンイミド分散剤に由来する。カルシウムは、以下の少なくとも3つの異なる清浄剤源に由来する。すなわち、TBNが425mgKOH/gで、濃縮物に基づいたCa含有量が16.1重量%である過塩基性スルホン酸カルシウム、TBNが175mgKOH/gで、濃縮物に基づいたCa含量が6.25重量%である過塩基性サリチル酸塩清浄剤、TBNが17mgKOH/gで、濃縮物に基づいたCa含量が2.3重量%である低過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤。
各試料には、一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛の約2:1混合物に由来するリンも含まれる。モリブデンはモリブデンコハク酸イミド酸化防止剤に由来する。
【0100】
ミニ回転粘度計試験(MRV)
この改変MRVテストでは、まず試験オイルを10重量%の水と10,000rpmの速度で1分間混合した後、ミニ回転粘度計セル内で試験温度(この場合は-35℃)まで24時間冷却する。各セルには較正済みのローターとステーターのセットが含まれており、ローターは、ローターシャフトに巻き付けられ重りに取り付けられた紐によって回転する。降伏応力を決定するために回転が起こるまで、10gの重りから始めて一連の増加する重みを紐に適用する。結果は、加えられた力として降伏応力としてパスカル単位で記録される。次に、150gの重りを加えて、オイルの見かけの粘度を測定する。見かけの粘度が大きくなるほど、オイルポンプ入口にオイルが継続的かつ適切に供給されなくなる可能性が高くなる。結果は粘度(センチポアズ)で記録される。
【0101】
各潤滑油組成物のMRV試験の結果を下記表2に示す。例はMRV試験に合格したが、比較例はMRV試験に不合格であった。
【表2】
【0102】
本開示には、様々な改変及び代替形態があるが、それらの具体的な実施形態を本明細書に詳細に記載する。しかしながら、特定の実施形態の本明細書での説明は、本開示を開示された特定の形態に限定しようとするものではなく、逆に、その意図するところは、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の趣旨及び範囲内にあるすべての改変例、均等物、及び代替物を網羅することにある点を理解されたい。
【0103】
一般的な説明または例に記載される行為のすべてが必要なわけではないこと、特定の行為の一部は必要でない場合があること、記載された行為に加えて1つ以上のさらなる行為が行われうる点に留意されたい。さらに、各行為が列記されている順序は、必ずしも実行される順序ではない。
【0104】
利益、他の利点、及び課題解決策は、特定の実施形態に関して本明細書で説明されている。ただし、利益、利点、課題解決策、ならびに何らかの利益、利点、または解決策を生じさせ得る、またはより顕著とし得るいずれの特徴(複数可)も、いずれかの請求項の重要な、必須の、または不可欠な特徴として解釈されるべきではない。
【0105】
本明細書に記載される実施形態の詳細及び説明は、様々な実施形態の構造の一般的な理解を与えることを目的としたものである。
【0106】
本明細書で使用する場合、「comprises(含む)」、「comprising(含む)」、「includes(含む)」、「including(含む)」、「has(有する)」、「having(有する)」なる用語、またはこれらの他の任意の変化形は、非排他的な包含を網羅するものとする。例えば、特徴の列記を含むプロセス、方法、物品、または装置は、必ずしもこれらの特徴だけに限定されるわけではなく、明示的に列記されていない他の特徴、またはそのようなプロセス、方法、物品、または装置に固有の他の特徴を含む場合がある。さらに、明示的にそうでない旨が述べられていない限り、「または」は包括的論理和を指し、排他的論理和を指さない。例えば、条件AまたはBは、以下のいずれか1つによって満たされる:Aが真(または存在する)かつBが偽(または存在しない)、Aが偽(または存在しない)かつBが真(または存在する)、A及びBがいずれも真(または存在する)。
【0107】
「a」または「an」の使用は、本明細書に記載の要素及び構成部材を説明するために使用される。これはあくまで便宜上、本開示の実施形態の範囲の一般的な意味及び範囲を与えるためにそうしているものである。この記載は、そうでない旨が明らかでない限り、1つまたは少なくとも1つを含むものとして読まれるべきであり、単数形は複数も含み、またはその逆も同様である。ある値について言及する場合、「平均化された」なる用語は、平均、幾何平均、または中央値を意味するものとする。元素の周期表内の列に対応する族番号は、CRC Handbook of Chemistry and Physics,81st Edition (2000-2001)に記載される「新しい表記」規則を使用している。
【0108】
特に定義されない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。材料、方法、及び例は、あくまで例示的なものに過ぎず、限定を目的とするものではない。本明細書において記載されていない程度の、特異的な材料及び加工行為に関する多くの詳細は従来のものであり、潤滑剤そして油及びガスの産業内の教科書及び他の出典で見出され得る。
【0109】
本明細書及び例示は、本明細書において記載される構造または方法を使用する調合物、組成物、装置、及びシステムのすべての要素及び特徴の網羅的且つ包括的な記載として供されることは意図されない。別個の実施形態が、単一の実施形態において組み合わせとして提供されてもよく、逆に、簡潔にする目的で単一の実施形態に関連して記載される様々な特徴が、別個に、または任意の部分的な組み合わせで提供されてもよい。さらに、範囲内で記載された値についての言及には、その範囲内のあらゆる値が含まれる。他の多くの実施形態は、本明細書の読了後にのみ、当業者には明らかとろう。本開示から他の実施形態を使用し、導出して、本開示の範囲から逸脱することなく構造的置換、論理的置換、または別の変更を行うことができる。したがって、本開示は制限的というよりむしろ例示的なものとしてみなされるべきである。
【国際調査報告】