(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】電気機械の固定子部材
(51)【国際特許分類】
H02K 3/50 20060101AFI20231214BHJP
H02K 5/08 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
H02K3/50 Z
H02K5/08 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532111
(86)(22)【出願日】2021-11-11
(85)【翻訳文提出日】2023-07-18
(86)【国際出願番号】 EP2021081336
(87)【国際公開番号】W WO2022112009
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】102020131220.2
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508002036
【氏名又は名称】コレクトール モビリティ デー.オー.オー.
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】ドルモタ ペトリク,アナ
(72)【発明者】
【氏名】ラツペット,エドヴァルド
(72)【発明者】
【氏名】ペターネル,プリモツ
(72)【発明者】
【氏名】クマール,ルドヴィク
【テーマコード(参考)】
5H604
5H605
【Fターム(参考)】
5H604BB01
5H604BB08
5H604BB14
5H604CC01
5H604DA14
5H604DB03
5H604QB12
5H605AA17
5H605BB05
5H605BB10
5H605CC01
5H605EC08
5H605GG18
(57)【要約】
電気機械の固定子部材(4´)が、樹脂構造体(13´)と、少なくとも部分的に前記樹脂構造体内に埋入された複数のコイルを有する固定子ユニット(8´)と、電子制御装置と複数の金属製導体要素(12´)を含んでいて、前記導体要素を介して前記コイルが前記電子制御装置に接続され、その導体要素の延長の一部が前記樹脂構造体(13´)内に埋入される。樹脂構造体(13´)は射出成形によって熱可塑性樹脂から製造され、かつ固定子ユニット(8´)とその固定子ユニットのコイルに接続される導体要素(12´)からなる予め組み立てられた組成体に対して被覆成形される。前記樹脂構造体(13´)が、いずれもその樹脂構造体から突出していて電子制御装置との接触に割り当てられる、対応する金属製の導体要素(12´)の自由端部(19´)に隣接して、いずれもその金属製の導体要素の周囲を完全に囲繞して樹脂構造体の他の部位から露出して突立する鍔部(28)を形成する。樹脂構造体(13´)と金属製の導体要素(12´)の間のシーリングを、別個のシール剤を使用せずに、前記樹脂構造体(13´)の熱可塑性樹脂と該当する金属製の導体要素(12´)との接触のみによって実行する。対応する鍔部(28)に貫入する金属製の導体要素(12´)の部分内に、レーザ彫刻を使用して表面に設置されかつ前記樹脂構造体(13´)の熱可塑性樹脂からなるリブで填塞されたグルーブ(31)の形式の微細構造が前記導体要素の周囲を周回して設けられる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂構造体(13´)と、少なくとも部分的に前記樹脂構造体内に埋入された複数のコイル(11)を有する固定子ユニット(8´)と、電子制御装置(5)と複数の金属製導体要素(12´)を含んでいて、前記導体要素を介して前記コイル(11)が前記電子制御装置(5)に接続され、前記金属製の導体要素(12´)を、対応するコイル(11)と電子制御装置(5)の接触端子間の長手方向の前記導体要素の延長の一部が前記樹脂構造体(13´)内に埋入されて、前記電子制御装置(5)の接触端子に割り当てられた自由端部(19´)が前記樹脂構造体から突出するようにしてなる、電気機械、特に電気モータの固定子部材(4´)であり:
樹脂構造体(13´)が射出成形によって熱可塑性樹脂から製造され、かつ固定子ユニット(8´)とその固定子ユニットのコイル(11)に接続される導体要素(12´)からなる予め組み立てられた組成体に対して被覆成形され、
前記樹脂構造体(13´)が、対応する金属製の導体要素(12´)の自由端部(19´)に隣接して、いずれも該当する金属製の導体要素(12´)の周囲を完全に囲繞しかつ樹脂構造体の他の部位から露出して突立する鍔部(28)を形成し、
樹脂構造体(13´)と金属製の導体要素(12´)の間のシーリングを、別個のシール剤を使用せずに、前記樹脂構造体(13´)の熱可塑性樹脂と該当する金属製の導体要素(12´)との接触のみによって実行し、
対応する鍔部(28)に貫入する金属製の導体要素(12´)の部分内に、レーザ彫刻を使用して表面に設置されかつ前記樹脂構造体(13´)の熱可塑性樹脂からなるリブ(36)で填塞されたグルーブ(31)の形式の微細構造(30)が前記導体要素の周囲を周回して設けられる、
各特徴を有してなる固定子部材。
【請求項2】
グルーブ(31)が該当する金属製の導体要素(12´)の長手方向に対して実質的に直角に指向することを特徴とする請求項1に記載の固定子部材。
【請求項3】
グルーブ(31)が10μmないし100μmの深さで形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の固定子部材。
【請求項4】
グルーブ(31)が3μmないし50μmの幅で形成されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の固定子部材。
【請求項5】
グルーブ(31)の幅と深さの間の比率が0.6ないし1.5、好適には0.8ないし1.2であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の固定子部材。
【請求項6】
隣接する2本のグルーブ(31)間の間隔が当該グルーブ(31)の幅と少なくとも同じ大きさであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の固定子部材。
【請求項7】
微細構造(30)を備える部分の長さ(L2)が、いずれも該当する金属製の導体要素(12´)の長手方向に対して平行な鍔部(28)の露出した長さ(L1)の少なくとも50%、好適には少なくとも60%であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の固定子部材。
【請求項8】
金属製の導体要素(12´)の微細構造(30)を備える部分の長さ(L2)のいずれも少なくとも80%、より好適には少なくとも90%、極めて好適には100%が鍔部(28)の領域内に配置されることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の固定子部材。
【請求項9】
四角形の断面を有する導体要素(12´)の場合に、該当する導体要素(12´)の長手方向に対して平行な鍔部(28)の露出した長さ(L1)が、金属製の導体要素(12´)の長手方向に対して横断方向の2つの寸法のうちの長い方と比べて、少なくとも0.7ないし1.0倍、好適には0.8ないし0.9倍の大きさであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の固定子部材。
【請求項10】
鍔部(28)が、対応する金属製の導体要素(12´)の自由端部(19´)の方向の末端側において先細り部(29)をもって終了することを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の固定子部材。
【請求項11】
鍔部(28)が、少なくとも大部分が均一である壁厚(W)を備えることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の固定子部材。
【請求項12】
最も大きな厚みを有する領域の鍔部(28)の壁厚(W)が、最も小さな厚みを有する領域の当該鍔部の壁厚と比べて50%超は上回らない、より好適には25%超は上回らない、極めて好適には15%超は上回らないことを特徴とする請求項11に記載の固定子部材。
【請求項13】
導体要素(12´)が、樹脂構造体(13´)の鍔部(28)による被覆の領域内、好適には表面の微細構造(30)の領域内に、いずれも樹脂構造体(13´)の熱可塑性樹脂で填塞された少なくとも1個の裂孔部(32,33)を備えることを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載の固定子部材。
【請求項14】
導体要素(12´)の自由末端部(19´)が、末端側に切込み(35)を有することによって、フォーク形状に形成されることを特徴とする請求項1ないし13のいずれかに記載の固定子部材。
【請求項15】
電子制御装置(5)が樹脂構造体(13´)上に固定され、その樹脂構造体と結合された蓋材(6)によって遮閉されることを特徴とする請求項1ないし14のいずれかに記載の固定子部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂構造体と、少なくとも部分的に前記樹脂構造体内に埋入された複数のコイルを有する固定子ユニットと、電子制御装置と複数の金属製導体要素を含んでいて、前記導体要素を介して前記コイルが前記電子制御装置に接続される、電気機械、特に電気モータの固定子部材に関する。
【背景技術】
【0002】
上述した種類の固定子部材は、例えば中国特許出願公開第105656221号(A)明細書によって知られている。これは多様な適用方式に対して有効なものであり、例えば(液体媒体の推進のために作用する)モータ・ポンプユニットのための電気モータの一部として有効である。その場合に、極めて小型かつ比較的に簡単な構造のモータ・ポンプユニットにするために、しばしばモータ回転子とポンプ回転子が共通の空間内に設置され、従ってモータ回転子が“湿式”に動作し、すなわち推進すべき媒体が通流して接触する。
【0003】
特に、侵食性の媒体(燃料、ATフルード等)を取り扱う場合、その媒体が電子制御装置に到達することを絶対に防止する必要がある。そうでなければ、電子制御装置が極めて短時間で回復不能に損傷を受ける。電子制御装置を(電気機械の回転子を収容する)固定子部材の内部空間に対して気密に分離する観点において、コイルを電子制御装置に接続させる導体要素を、電子制御装置への接触のために樹脂構造体から突出させなければならないという要求が存在する。実験により、導体要素の表面に沿って媒体が電子制御装置まで浸透する危険性が大きいことが示されており;それに従って相当に重大な損傷危険性が存在する。
【0004】
電子制御装置の損傷を防止するために、既に多様な手法が提案されかつ実用化もされている。第一に電子制御装置の直接的な保護が存在し、特に熱硬化性樹脂(特にエポキシ樹脂)を使用した電子制御装置の被覆成形によるものである。他方で、樹脂構造体に対する金属製の導体要素のより改善されたシーリングが提案されている。そのための一番目の手法は、(射出成形によって熱可塑性樹脂から製造される)樹脂構造体を、電子制御装置との接触のために導体要素が樹脂構造体から突出する箇所において、いずれも一種の小鉢の形態に形成し、前記小鉢に後に特殊なシール剤(注封材料)を充填し、そのシール剤を導体要素の材料と樹脂構造体の樹脂のいずれに対しても極めて良好な接着特性を有するものとすることである。しかしながら、そのことは多大なコストを伴う。その点に関する第2の手法は、熱可塑性樹脂に比べて顕著に小さな加工粘性とより小さな熱膨張係数あるいは収縮率を有することを特徴とする、導体要素の金属に対する粘着特性に関して最適化された熱硬化性樹脂から樹脂構造体を射出成形することである。その場合、(熱硬化性樹脂の射出成形に際しての熱可塑性樹脂と比べて大幅に困難な加工のために)樹脂構造体の形状に関する決して小さくない制約を伴い、従ってその他の要件に関して妥協が強いられる。そのことについて、他の観点(例えば他の重要な材料特性およびコスト、表面特性、熱膨張特性の観点等)に関して樹脂構造体の最適化を犠牲にしなければならないため材料選択が著しく制約されることも理由となる。
【0005】
今日までは、実用上重要な条件を満足できる、または自動車業界において一般的である過酷な検査方法、例えば繰り返しの熱衝撃処理後に実行される複合試験において十分な結果を得る解決方式は見出されていない。(金属製の導体要素あるいはその他の金属製のインサートの周りに被覆成形された樹脂構造体を備える他の適用形態と比べて)上述した電気機械の固定子部材によれば金属製の導体要素と樹脂構造体との間のシーリングの問題を解決することが困難で、高コストに製造された固定子部材においてもシーリングの欠如が観察されるため、確実なものは知られていない。考えられる理由には、電気機械の動作に際して発生可能な回転部品の(最小の)不均衡によって揺動および振動が形成され、それが金属製の導体要素からの樹脂構造体の剥離を促進する可能性があることも含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国特許出願公開第105656221号(A)明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した先行技術とそれに伴った問題の観点から、本発明の目的は、製造に際して(例えば広範な材料選択、高い形状自由度、低い製造コスト)ならびに稼働中(例えば電子制御装置の損傷に対する良好な防護)の両方における極めて好適な特性の組み合わせを特徴とする、冒頭に述べた種類の固定子部材を提供することである。その場合に固定子部材は、従来の部品とは異なって、自動車業界で採用されている最新かつ最も過酷な試験方法、特に繰り返しの熱衝撃処理(例えばいずれも90℃で90分の加熱と30秒以内に-40℃までの冷却を実行する600サイクルの温度変化)後に実行される複合試験にも適合すべきものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、固定子部材において冒頭に述べた特徴に加えて、
金属製の導体要素を、対応するコイルと電子制御装置の接触端子間の長手方向の前記導体要素の延長の一部が樹脂構造体内に埋入されて、電子制御装置の接触端子に割り当てられた自由端部が樹脂構造体から突出するようにし、
樹脂構造体が射出成形によって熱可塑性樹脂から製造され、かつ固定子ユニットとその固定子ユニットのコイルに接続される導体要素からなる予め組み立てられた組成体に対して被覆成形され、
樹脂構造体が、対応する金属製の導体要素の自由端部に隣接して、いずれも該当する金属製の導体要素の周囲を完全に囲繞しかつ樹脂構造体の他の部位から露出して突立する鍔部を形成し、
樹脂構造体と金属製の導体要素の間のシーリングを、別個のシール剤を使用せずに、前記樹脂構造体の熱可塑性樹脂と該当する金属製の導体要素との接触のみによって実行し、
対応する鍔部に貫入する金属製の導体要素の部分内に、レーザ彫刻を使用して表面に設置されかつ前記樹脂構造体の熱可塑性樹脂で填塞されたグルーブの形式の微細構造が前記導体要素の周囲を周回して設けられる、
各特徴との組み合わせによって解決される。
【0009】
前述した複数の特徴の組み合わせからなる発明を実現することによって、実用上の要求に対して従来は考えられなかったレベルで適応する固定子部材を製造することができる。本発明に係る固定子部材の独特な性能に関して有意である考えられる関連性の幾つかを挙げると:いずれも対応する(電子制御装置と接触する)金属製の導体要素の自由端部に隣接して露出して突立する鍔部を備え、その鍔部が(樹脂構造体のその他の部位から露出して突立し、すなわち梁、ブリッジ、リブ等を介して樹脂構造体と接続されることなく)該当する金属製の導体要素をそれの周囲上で完全に囲繞する樹脂構造体の構成が、該当する樹脂構造体の領域内において柔軟性を提供するように作用する。そのことによって、被覆された導体要素に適合するために樹脂構造体が変形することが可能になる。従って、樹脂構造体が鍔部の領域で導体要素の(複数方向への)熱膨張に適応することができ、同様に、(製造許容差のため)電子制御装置の取り付けに際して生じる導体要素の変形、および/または電気機械の回転部品の不均衡によって生じる振動に起因する導体要素の(微小な)再変形にも適応することができる。また、振盪によって発生する導体要素の(微細な)変形にも、樹脂構造体が導体要素を囲繞する鍔部の領域内で適応することができる。上記のことは全て、一般的な(減衰性を含む特徴的な材料特性を有する)熱可塑性樹脂から射出成形された樹脂構造体にも該当する。そのことは、組み立てならびに稼働に際して導体要素と樹脂構造体の間に発生する圧力を実質的に緩和するために極めて有効である。そのことも、(長期的な)剥離傾向を決定的に低減する。熱可塑性樹脂の金属製の導体要素に対する接着特性を改善するための特徴的な手法との組み合わせにおいて、その方式によれば追加的な措置(いずれにしても鍔部の領域内)を伴わずに導体要素と樹脂構造体の間の境界領域の恒久的なシーリングを達成することができる。従って、導体要素の表面に沿って媒体が電子制御装置まで浸透してそこで損害を発生させることが排除される。その点に関して、樹脂構造体を(熱硬化性樹脂材料と比べて加工に際しての難易度が低いものである)熱可塑性樹脂から射出成形によって製造する可能性によって樹脂構造体の構造的な細部に関して極めて拡大された設計自由度が得られるという好適な副作用さえも利用可能であり、それによって(加工性のみでなく)機能性に関しても大幅に改善することが可能になる。熱可塑性樹脂はその特徴的な材料特性から本発明の実施のために極めて好適なものであり、特にポリブチレンテレフタレート(PBT)、高密度ポリエチレン(HDPE)、およびポリフェニレンスルファイド(PPS)、ならびにいずれもPBT、HDPE、あるいはPPSを(特に主成分として、すなわち50%超)含有する混合物とされる。
【0010】
(第1の好適な追加構成に従って)鍔部が(場合によって有り得る末端側の先細り部(後述参照)を除いて)少なくとも大部分が均一である壁厚を備える場合に、上述した好適な特徴が特に顕著になる。この場合の「均一な」壁厚とは、鍔部の壁厚が長手方向および周回方向のいずれにおいても実質的に変化しない場合に存在するが、その場合も技術的に不可欠な鍔部の延長にわたった壁厚の減少(例えば成形型からの取り出しのために必要な抜け勾配にわたった壁厚の減少)は除外される。上記の場合に、最も大きな厚みを有する領域の鍔部の壁厚が、最も小さな厚みを有する領域の鍔部の壁厚と比べて50%超は上回らない、より好適には25%超は上回らない、さらに好適には15%超は上回らないことが極めて好適である。
【0011】
鍔部の壁厚の均一性の程度のみではなく、壁厚自体も影響を及ぼすものである。その理由は、その壁厚に対して、樹脂構造体の熱可塑性樹脂の材料特性との組み合わせにおいて、上述した鍔部の変形性が依存するためである。一例を挙げると:一般的な240ワットのBLDCモータに適用される、PBTから製造された樹脂構造体を有する固定子部材において、鍔部の壁厚が1.0ないし1.6mmとなることが好適である。四角形の断面を有する平型の金属製の導体要素で、辺長の比が少なくとも3:1(例えば5.5mm×0.8mm)である場合に、導体要素の断面と鍔部の壁厚の間で有効な関係性を定義することもできる。すなわち、鍔部の壁厚が小さい方の辺長の値の1.4倍ないし1.9倍であることが好適である。
【0012】
導体要素と樹脂構造体との間の恒久的で有効なシーリングのために、本発明の別の好適な追加構成によれば、該当する導体要素表面の微細構造のグルーブがその金属製の導体要素の長手方向に対して実質的に直角に指向することが極めて好適である。その種のグルーブの方向性は、典型的な適用状況において最も頻繁に発生する導体要素の(微細)変形に際して(上述参照)、特にそのような導体要素の変形によって生じる金属製の導体要素からの熱可塑性樹脂構造体の剥離の危険性に対してグルーブが防止効果をもたらすことが見込まれるという効果を有する。同様に、鍔部がいずれも対応する金属製の導体要素の自由端部の方向の末端側において先細り部をもって終了するような形式の熱可塑性樹脂構造体の鍔部の構成が、有害な剥離現象の傾向を極めて少なくするための特に有効な効果を提供する。前記の先細り部を円錐形に形成する場合に、尖端角度あるいは円錐角度を70°ないし120°とすることが好適である。尖端角度あるいは円錐角度を80°ないし110°とすれば特に好適である。
【0013】
さらに、10μmないし100μmの深さ、および/または3μmないし50μmの幅に形成されたグルーブを有する微細構造が極めて有効であることが判明しており、グルーブの幅と深さの間の好適な比率は0.6ないし1.5、特に好適には0.8ないし1.2である。グルーブ間の相互の間隔も、金属製の導体要素に対する熱可塑性樹脂構造体の接着性に影響を及ぼす。隣接する2本のグルーブ間の間隔が、当該グルーブの幅と少なくとも同じ大きさであることが好適である。
【0014】
上述した特徴的な構成(実質的に均一な鍔部の壁厚と、対応する金属製の導体要素の長手方向に対して実質的に直角な微細構造のグルーブの方向性と、10μmないし100μmの深さおよび/または3μmないし50μmの幅を有する微細構造のグルーブの形成)の組み合わせとその相乗効果によって初めて、従来は達成不可能であった特性を有する固定子部材が得られる。その理由は、その方式によって独自に達成可能な鍔部のいずれもその鍔部に貫入する導体要素に対する物理化学的な接続によって、熱可塑性樹脂材料から鍔部を形成した場合でも、該当する固定子部材が(特に追加的なシーリング等の追加の措置を施すことなく)電子制御装置の保護に関する最も厳格な要求を満足させることが可能になるためである。他の構成特徴との組み合わせにおいて、効果的な微細工学的な嵌合(マイクロメカニカルインターロック:MMI)がいずれも該当する導体要素からの鍔部の剥離現象を有効に抑止し、従って製造中における熱可塑性樹脂と金属の間の大きく異なる収縮が電子制御装置の気密性防護に対する有害な影響を与えないようにするばかりでなく、過酷な検査および試験方法にも適合する(上述参照)。
【0015】
本発明のさらに別の好適な追加構成によれば、導体要素が樹脂構造体の鍔部による被覆の領域内にいずれも樹脂構造体の熱可塑性樹脂で填塞された少なくとも1個の裂孔部を備える。そのことは、一方向の寸法がそれに直交する方向の寸法に比べて少なくとも3倍大きい(例えば5.5mm×0.8mm)ものである、顕著に平型の断面を有する導体要素に当然該当する。その種の裂孔部は、2つの観点において極めて効果的である。その裂孔部が熱伝導に対する抵抗を形成し、それによって導体要素に対して電子制御装置をはんだ付けする際に導体要素内に伝導される熱が樹脂構造体の導体要素に対する緊密な結合を損傷するような導体要素(特に微細構造の領域)の加熱につながらないようにする。さらに、前記の少なくとも1個の裂孔部を介して延在する熱可塑性樹脂の「ブリッジ」が金属製の導体要素の表面からの熱可塑性樹脂の剥離の危険性に対する追加の有効な防止策を両側面間で提供する。
【0016】
同様に、電子制御装置のはんだ付けに際しての導体要素への熱付加を最小化するために、本発明のさらに別の追加構成によれば、導体要素が末端側で(切込みによって)フォーク形状に形成されることが好適である。その種の導体要素のフォーク形状の構成によって、電子制御装置の取り付けに際して発生し得る詰まりも削減され、そのことも良好に作用する。
【0017】
上述の説明に記載したように、熱可塑性樹脂構造体の鍔部と、金属製の導体要素への熱可塑性樹脂の接着特性の改善とを、共働作用させるように機能する導体要素の表面処理、すなわち微細構造化が良好な効果を得るために重要である。その場合も、鍔部と導体要素の相互の空間的な配置によって定義される鍔部と微細構造の関係性も無視できないものであると理解することができる。そのため、本発明のさらに別の好適な追加構成によれば、金属製の導体要素の微細構造を備える部分の長さが、いずれも該当する金属製の導体要素の長手方向に対して平行な鍔部の露出した長さの少なくとも50%、好適には65%であることが極めて有効であり、その場合に「露出した長さ」とは樹脂構造体の他の部分から突出した鍔部の延長であると理解することができる。また、金属製の導体要素の微細構造を備える部分の長さのいずれも少なくとも80%、好適には少なくとも90%が鍔部の領域内に配置されることも極めて有効であると理解される。金属製の導体要素の微細構造を備える部分の長さが完全に、すなわち100%が鍔部の領域内に配置されることが特に好適である。
【0018】
(該当する導体要素の長手方向に平行に計測した)鍔部の露出した長さに関して、その長さが導体要素の寸法に対して所定の関連性を有する。四角形の断面を有していて辺の比が少なくとも3:1である平型の導体要素の場合、鍔部の露出した長さが、金属製の導体要素の長手方向に対して横断方向の2つの寸法のうちの長い方と比べて、好適には0.7ないし1.0倍、特に好適には0.8ないし0.9倍である。
【0019】
上述において、電子制御装置と導体要素に作用する多様な変形圧力との関係(特に導体要素と接触しながらの電子制御装置の取り付けと稼働中に発生し得る振盪)について既に言及されている。前記の関係の観点において、本発明によって達成可能な利点が、電子制御装置、すなわちそれに付属する基板が1個あるいは複数個の接続点を介して直接樹脂構造体に固定されるような固定子部材において、極めて有効である。その場合に、熱可塑性樹脂構造体とその樹脂構造体と結合されて電子制御装置を遮閉する蓋材とによって仕切られる空間内に前記電子制御装置を収容することも好適である。
【0020】
次に、本発明につき、添付図面に示された複数の好適な実施例を参照しながら、以下詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】従来の技術に係る、電気モータとして構成された電気機械を示した縦断面図である。
【
図2】
図1の電気モータの固定子部材を示した立体図である。
【
図3】
図2の固定子部材の細部Aを示した説明図である。
【
図4】
図2および
図3の固定子部材のさらに拡大した詳細を示した断面図である。
【
図5】本発明に係る固定子部材を示した立体図である。
【
図6】
図5の固定子部材の細部Bを示した説明図である。
【
図7】
図5および
図6の固定子部材のさらに拡大した詳細を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に示された電気モータは、固定子1と、その内部で2個のローラベアリング2を使用して軸X周りで回転可能に支持されたロータ3を備える。固定子1には、内蔵された固定子部材4と、電子制御装置5と、蓋材6と、ベアリングキャップ7が含まれる。固定子部材4は、軸X周りに配置されたコイル支持体10およびそのコイル支持体上に装着されたコイル11を有する極片9を備える固定子ユニット8と、前記コイルと接触する金属製の導体要素(ピン)12と、樹脂構造体13をさらに含み、前記樹脂構造体が、予め組み立てられた前記固定子ユニット8および導体要素12からなる構成要素群上に射出成形によって被覆成形される。ロータ3は、ロータ軸14とそのロータ軸上に装着されたロータ電機子15を備える。
【0023】
(樹脂構造体13と蓋材6の間に形成された中空部16内に収容された)電子制御装置5は、電子素子Eが実装された回路基板17を備える。その基板は、樹脂構造体13の一部である棒部材18上に取り付けられる。導体要素12は、それの長さの一部分のみが樹脂構造体13内に埋入され;その導体要素はいずれの場合も自由末端部19が前記樹脂構造体から突出し、その自由末端部を介して該当する回路基板17の開口20に貫入して電子制御装置5との接触を形成する。中性ピン21にも同じことが該当する。
【0024】
3個の導体要素12と中性ピン21の領域内において、樹脂構造体13がいずれもソケット22の形式で構成される。各ソケット22は、補強リブ24を介して樹脂構造体13の中央領域23と結合される。各ソケット22は、先端側で該当する導体要素12あるいは中性ピン21を囲繞するボウル部材25とされて、その中に配置された中央の略ピラミッド型あるいは屋根型の突起部26を有するように構成される。前記のボウル部材25には、(電子制御装置5の取り付け前に)シール剤(注封材料)27(
図1および
図4のみに示されている)が充填される。
【0025】
図2ないし
図4に示された構成の固定子部材を備えた電気モータは(例えばテスラ・モデル3のオイルポンプ用の駆動モータとして)周知であり本発明を理解するためにさらなる細部は必要でないため、これ以上の詳細な説明を省略する。
【0026】
図5ないし
図7に示された、本発明に従って構成される固定子部材4´は、基本的な構成特徴に関して
図2ないし
図4に係る技術に準ずるものである。従って、以下の説明において繰り返して全てを説明することは省略し、重要な相違点に限定して記述する。
【0027】
特に顕著で重要な相違点は、(PBTから射出成形される)樹脂構造体13´において、導体要素12´の被覆成形が、補強リブを介して樹脂構造体の中央領域23´とも結合される、肉厚のソケットから形成されるものではない点である。むしろ導体要素12´が、いずれも(ここでもそれの長さの一部分のみが)比較的薄肉の鍔部28によって周囲を囲繞され、その鍔部がそれの全周囲にわたって樹脂構造体13´の他の部分から露出して隆起する。その場合に鍔部28は、少なくとも殆ど均一な壁厚Wを有する。該当する導体要素の断面が5.5mm×0.8mmである場合に、それを囲繞する鍔部28の平均壁厚Wが約1.3mmで、鍔部の露出する長さL1は約4.5mmとなる。鍔部28は、対応する金属製の導体要素12´の自由末端部19´の方向の末端側において、先細り部29をもって終了する。
【0028】
対応する鍔部28内に貫入する金属製の導体要素12´の部分内に、それの周囲を囲繞する(図中では極概略的に示され、縮尺通りではない)、レーザ彫刻によって表面に形成された、約50μmの深さと約10μmの幅を有するグルーブ31の形式の微細構造30が設けられ、そのグルーブが相互に平行でありかつ該当する金属製の導体要素12´の長手方向に対して直角に指向する。相互に隣接するグルーブ31間の間隔は、約20μmである。各金属製の導体要素12´の微細構造30を備える部分の長さL2はいずれも約3.5mm、すなわち鍔部28の露出した長さL1の約75%であり;その場合に金属製の導体要素12´の微細構造30を備える部分が完全に鍔部28の領域内に配置される。中性ピン21´も導体要素12´と同様な方式で形成される。
【0029】
各導体要素12´は、その導体要素を横断する3個の裂孔部32および33を備える。その場合(長楕円形の形式で形成された)第1の裂孔部32が、各導体要素12´の、その導体要素が表面上に微細構造30を備える部分内に存在する。2個の(略円形の)裂孔部33(
図6中においては先細り部29の樹脂構造を適宜に破断することによって目視可能にされている)は、鍔部28の先端側の先細り部29によって遮閉された、該当する導体要素12´の領域内に存在する。3個の裂孔部32あるいは33のそれぞれを貫通して熱可塑性樹脂の「ブリッジ」34が延在し、そのブリッジが導体要素12´の相互に対向する両方の側に存在する鍔部28あるいは先細り部29の領域を相互に結合する。
【0030】
さらに、導体要素12´の(電子制御装置との接触のために機能する)末端部19´が、
図1ないし
図4に示された先行技術と異なって、末端側の切込み35を備えていてそれがフォーク形状に構成されることが理解される。
【0031】
固定子部材4´は、金属製の導体要素12´と(グルーブ31に整合してそのグルーブを填塞するリブ36を介して)導体要素に嵌合するPBT樹脂構造体13´の間の卓越したシーリング性能と、それと同時の極めて良好な長期剛性ならびに極めて低い剥離現象の発生傾向を有することを特徴とする。すなわち、樹脂構造体13´と金属製の導体要素12´の間のシーリングが樹脂構造体13´のPBT熱可塑性樹脂と該当する金属製の導体要素12´との接触のみによって達成され;別個のシール剤(例えば従来の技術において使用される注封材料)は必要とされない。
【国際調査報告】