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特表2023-553355ヒトサイトメガロウイルスとの宿主細胞表面相互作用を調節するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】ヒトサイトメガロウイルスとの宿主細胞表面相互作用を調節するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/115 20100101AFI20231214BHJP
   C07K 16/08 20060101ALI20231214BHJP
   C07K 14/71 20060101ALI20231214BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20231214BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20231214BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20231214BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20231214BHJP
   C07K 14/045 20060101ALI20231214BHJP
   C12N 15/38 20060101ALI20231214BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20231214BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20231214BHJP
   A61K 39/245 20060101ALN20231214BHJP
【FI】
C12N15/115 Z ZNA
C07K16/08
C07K14/71
C12N15/13
C12N15/12
C07K16/28
C07K16/46
C07K14/045
C12N15/38
A61K38/17
A61P31/22
A61K39/245
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532266
(86)(22)【出願日】2021-11-26
(85)【翻訳文提出日】2023-07-24
(86)【国際出願番号】 US2021060887
(87)【国際公開番号】W WO2022115652
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】63/118,859
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.UNIX
(71)【出願人】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】シフェリ, クラウディオ
(72)【発明者】
【氏名】クションサク, マルク
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA44
4C084DC50
4C084NA14
4C084ZB331
4C084ZB332
4C085AA02
4C085BA83
4C085BB12
4C085CC08
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA01
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA29
4H045FA74
(57)【要約】
ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)感染を処置又は予防する方法であって、HCMV gHgLgO三量体と原形質膜発現宿主細胞タンパク質との間の相互作用を調節することを含む方法、及びそのような相互作用のモジュレーターを同定する方法が本明細書で提供される。
【選択図】図2C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)gHgLgO三量体のgOサブユニットと、PDGFRαとの間の相互作用のモジュレーターであって、前記gOサブユニットのグリコシル化フリー表面に結合し、PDGFRαへの前記gOサブユニットの結合の減少を引き起こす、モジュレーター。
【請求項2】
前記モジュレーターが、
(a)前記gOサブユニットの残基R230、R234、V235、K237及びY238のうちの1つ以上;
(b)前記gOサブユニットの残基N81、L82、M84、M86、F109、F111、T114、Q115、R117、K121及びV123のうちの1つ以上;並びに
(c)前記gOサブユニットの残基R336、Y337、K344、D346、N348、E354及びN358のうちの1つ以上
に結合する、請求項1に記載のモジュレーター。
【請求項3】
HCMV gHgLgO三量体のgOサブユニットとPDGFRαとの間の相互作用のモジュレーターであって、
(a)前記gOサブユニットの残基R230、R234、V235、K237及びY238のうちの1つ以上;
(b)前記gOサブユニットのN81、L82、M84、M86、F109、F111、T114、Q115、R117、K121及びV123;並びに
(c)前記gOサブユニットの残基R336、Y337、K344、D346、N348、E354及びN358のうちの1つ以上
に結合し、PDGFRαへの前記gOサブユニットの結合の減少を引き起こす、モジュレーター。
【請求項4】
前記モジュレーターが、前記gOサブユニットの残基R230、R234、V235、K237、Y238、N81、L82、M84、M86、F109、F111、T114、Q115、R117、K121、V123、R336、Y337、K344、D346、N348、E354及びN358の23個全てに結合する、請求項2又は3に記載のモジュレーター。
【請求項5】
前記モジュレーターが、HCMVのgHサブユニットの残基R47、Y84及びN85のうちの1つ以上に更に結合する、請求項1~4のいずれか一項に記載のモジュレーター。
【請求項6】
前記モジュレーターが、小分子、抗体若しくはその抗原結合断片、ペプチド、模倣物、又は阻害性核酸である、請求項1~5のいずれか一項に記載のモジュレーター。
【請求項7】
前記阻害性核酸が、ASO又はsiRNAである、請求項6に記載のモジュレーター。
【請求項8】
前記抗原結合断片が、bis-Fab、Fv、Fab、Fab’-SH、F(ab’)、ダイアボディ、直鎖状抗体、scFv、scFab、VHドメイン、又はVHHドメインである、請求項6に記載のモジュレーター。
【請求項9】
前記抗体が、二重特異性抗体又は多重特異性抗体である、請求項6に記載のモジュレーター。
【請求項10】
前記二重特異性抗体又は多重特異性抗体が、前記gOサブユニットの少なくとも3つの別個のエピトープに結合する、請求項9に記載のモジュレーター。
【請求項11】
前記少なくとも3つの別個のエピトープが、
(a)前記gOサブユニットの残基R230、R234、V235、K237及びY238のうちの1つ以上を含む第1のエピトープと、
(b)前記gOサブユニットの残基N81、L82、M84、M86、F109、F111、T114、Q115、R117、K121及びV123のうちの1つ以上を含む第2のエピトープと、
(c)前記gOサブユニットの残基R336、Y337、K344、D346、N348、E354及びN358のうちの1つ以上を含む第3のエピトープと、
を含む、請求項10に記載のモジュレーター。
【請求項12】
前記モジュレーターが、PDGFRαの模倣物である、請求項6に記載のモジュレーター。
【請求項13】
HCMV gHgLgO三量体のgOサブユニットとPDGFRαとの間の相互作用のモジュレーターであって、PDGFRαのD1(配列番号11)ドメイン、D2(配列番号12)ドメイン、及びD3(配列番号13)ドメインに結合し、PDGFRαへの前記gOサブユニットの結合の減少を引き起こす、モジュレーター。
【請求項14】
前記モジュレーターが、
(a)PDGFRαの残基N103、Q106、T107、E108及びE109のうちの1つ以上;
(b)PDGFRαの残基M133、L137、I139、E141、I147、S145、Y206及びL208のうちの1つ以上;並びに
(c)PDGFRαの残基N240、D244、Q246、T259、E263及びK265のうちの1つ以上、
に結合する、請求項13に記載のモジュレーター。
【請求項15】
HCMV gHgLgO三量体のgOサブユニットとPDGFRαとの間の相互作用のモジュレーターであって、
(a)PDGFRαの残基N103、Q106、T107、E108及びE109のうちの1つ以上;
(b)PDGFRαの残基M133、L137、I139、E141、I147、S145、Y206及びL208のうちの1つ以上;並びに
(c)PDGFRαの残基N240、D244、Q246、T259、E263及びK265のうちの1つ以上、
に結合して、PDGFRαへの前記gOサブユニットの結合の減少を引き起こす、モジュレーター。
【請求項16】
前記モジュレーターが、PDGFRαの残基N103、Q106、T107、E108、E109、M133、L137、I139、E141、I147、S145、Y206、L208、N240、D244、Q246、T259、E263及びK265の19個全てに結合する、請求項14又は15に記載のモジュレーター。
【請求項17】
前記モジュレーターが、PDGFRαの残基E52、S78及びL80のうちの1つ以上に更に結合する、請求項13~16のいずれか一項に記載のモジュレーター。
【請求項18】
前記モジュレーターが、小分子、抗体若しくはその抗原結合断片、ペプチド、模倣物、又は阻害性核酸である、請求項13~17のいずれか一項に記載のモジュレーター。
【請求項19】
前記阻害性核酸が、ASO又はsiRNAである、請求項18に記載のモジュレーター。
【請求項20】
前記抗原結合断片が、bis-Fab、Fv、Fab、Fab’-SH、F(ab’)、ダイアボディ、直鎖状抗体、scFv、scFab、VHドメイン、又はVHHドメインである、請求項18に記載のモジュレーター。
【請求項21】
前記抗体が、二重特異性抗体又は多重特異性抗体である、請求項18に記載のモジュレーター。
【請求項22】
前記二重特異性抗体又は多重特異性抗体が、PDGFRαの少なくとも3つの別個のエピトープに結合する、請求項21に記載のモジュレーター。
【請求項23】
前記少なくとも3つの別個のエピトープが、
(a)PDGFRαの残基N103、Q106、T107、E108及びE109のうちの1つ以上を含む第1のエピトープと、
(b)PDGFRαの残基M133、L137、I139、E141、I147、S145、Y206及びL208のうちの1つ以上を含む第2のエピトープと、
(c)PDGFRαの残基N240、D244、Q246、T259、E263及びK265のうちの1つ以上を含む第3のエピトープと、
を含む、請求項22に記載のモジュレーター。
【請求項24】
前記モジュレーターが、前記HCMV gHgLgO三量体の前記gOサブユニットの模倣物である、請求項18に記載のモジュレーター。
【請求項25】
前記モジュレーターが、前記HCMV gHgLgO三量体の前記gOサブユニットの、PDGFRαへの結合を少なくとも50%減少させる、請求項1~24のいずれか一項に記載のモジュレーター。
【請求項26】
前記モジュレーターが、HCMV三量体の前記gOサブユニットの、PDGFRαへの結合を少なくとも90%減少させる、請求項25に記載のモジュレーター。
【請求項27】
前記モジュレーターが、前記HCMV gHgLgO三量体の前記gOサブユニットの、TGFβR3への結合を少なくとも50%減少させる、請求項1~26のいずれか一項に記載のモジュレーター。
【請求項28】
結合の前記減少が、表面プラズモン共鳴、バイオレイヤー干渉法、又は酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって測定される、請求項25~27のいずれか一項に記載のモジュレーター。
【請求項29】
前記モジュレーターが、下流シグナル伝達を誘発するPDGFRαの領域と最小限の結合を有する、請求項1~28のいずれか一項に記載のモジュレーター。
【請求項30】
前記モジュレーターが、下流シグナル伝達を誘発するPDGFRαの領域に結合しない、請求項1~28のいずれか一項に記載のモジュレーター。
【請求項31】
下流シグナル伝達を誘発するPDGFRαの前記領域が、PDGFの結合部位である、請求項29又は30に記載のモジュレーター。
【請求項32】
前記モジュレーターが、前記モジュレーターの非存在下でのシグナル伝達と比較して、PDGFRαによるシグナル伝達の20%未満の減少を引き起こす、請求項1~31のいずれか一項に記載のモジュレーター。
【請求項33】
前記モジュレーターが、前記モジュレーターの非存在下でのシグナル伝達と比較して、PDGFRαによるシグナル伝達の減少を引き起こさない、請求項32に記載のモジュレーター。
【請求項34】
前記モジュレーターが、前記モジュレーターの非存在下での感染と比較して、HCMVによる細胞の感染の減少を引き起こす、請求項1~33のいずれか一項に記載のモジュレーター。
【請求項35】
偽型粒子を使用するウイルス感染アッセイ又はウイルス侵入アッセイで測定される場合、感染が少なくとも40%減少する、請求項34に記載のモジュレーター。
【請求項36】
薬学的に許容され得る担体を更に含む、請求項1~35のいずれか一項に記載のモジュレーター。
【請求項37】
個体におけるHCMV感染を処置するための方法であって、前記方法が、有効量の請求項1~36のいずれか一項に記載のモジュレーターを前記個体に投与し、それにより前記個体を処置することを含む、方法。
【請求項38】
HCMV感染の持続期間又は重症度が、前記モジュレーターを投与されていない個体と比較して少なくとも40%減少する、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
個体におけるHCMV感染を予防するための方法であって、前記方法が、有効量の請求項1~36のいずれか一項に記載のモジュレーターを前記個体に投与し、それにより前記個体におけるHCMV感染を予防することを含む、方法。
【請求項40】
個体における二次HCMV感染に対する予防方法であって、前記方法が、有効量の請求項1~36のいずれか一項に記載のモジュレーターを前記個体に投与し、それにより前記個体における二次HCMV感染を予防することを含む、方法。
【請求項41】
前記二次感染が、非感染組織のHCMV感染である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記個体が、免疫無防備状態であるか、妊娠しているか、又は乳児である、請求項37~41のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年11月27日に出願された米国特許出願第63/118,859号の優先権を主張し、その全内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、参照によりその全体が本明細書に援用される。2021年11月15日に作成された当該ASCIIコピーの名称は50474-247WO2_Sequence_Listing_11_15_2021_ST25であり、サイズは26,180バイトである。
【0003】
ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)感染を処置又は予防する方法であって、HCMV gHgLgO三量体と原形質膜発現宿主細胞タンパク質との間の相互作用を調節することを含む方法、及びそのような相互作用のモジュレーターを同定する方法が本明細書で提供される。
【背景技術】
【0004】
ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)は、ヘルペスウイルス科のベータヘルペスウイルス亜科のメンバーであり、ヒト集団の70%超において生涯感染を確立する。一次感染後、HCMVは潜在性になり、その再活性化は、免疫抑制されているか、又は臓器若しくは造血幹細胞(HSC)移植を受けている個体において重篤な罹患率及び死亡率を引き起こす。HCMVは、胎盤関門を通過して胎児に感染する能力のために、妊娠中に特に脅威となる。HCMV感染は、新生児の0.3%~2.3%が罹患し、脳損傷、難聴、学習障害、心疾患及び精神遅滞を含む先天性出生時欠損の主要なウイルス原因となる。これらの理由から、HCMVは、医学研究所によって最優先の疾患標的として特定されている。有効な抗ウイルス治療薬又はワクチンは、宿主細胞へのウイルス侵入を含むHCMV感染サイクルの初期段階を標的とすべきである。HCMVは、2つのgHgLエンベロープ糖タンパク質複合体、gHgLgO(三量体)及びgHgLpUL128-131A(五量体)、並びに糖タンパク質B(gB)を含むいくつかのエンベロープ糖タンパク質複合体を使用して、異なる細胞株に入る。細胞宿主受容体へのHCMV三量体又は五量体結合は、まだ同定されていない機構を介して、HCMV糖タンパク質gBがウイルスと感染細胞との間の膜融合を触媒するためのトリガーシグナルを提供する。この融合は、HCMVが細胞に侵入し、複製し、その潜伏期間を確立することを可能にする。
【0005】
HCMVは、構造的及び機能的に別個の受容体タンパク質との相互作用を介して、線維芽細胞、単球、マクロファージ、ニューロン、上皮細胞及び内皮細胞を含む広範な向細胞性を示す。最近の証拠は、全ての細胞型の感染に対する三量体複合体の主要な役割を示唆した。線維芽細胞の三量体媒介感染は最もよく研究されており、三量体と受容体チロシンキナーゼ3(RTK3)ファミリーのメンバーであるPDGFRαとの相互作用を伴う。TGFβR3はまた、HCMV三量体に高親和性で結合することが見出され、HCMVの広範な向細胞性を説明し得る更なる推定細胞受容体を表す。
【0006】
過去数十年の間に、HCMV感染に対するワクチン候補を開発するための重要な努力が確立されてきた。しかしながら、最近の臨床試験からの結果は、HCMVワクチンがウイルス感染の予防において中程度の有効性しか示さなかったことを示した。したがって、HCMVに対する有効な治療薬の開発は、重要な満たされていない医学的必要性を表す。
【発明の概要】
【0007】
一態様では、本開示は、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)gHgLgO三量体のgOサブユニットと、PDGFRαとの間の相互作用のモジュレーターであって、gOサブユニットのグリコシル化フリー表面に結合してPDGFRαへのgOサブユニットの結合の減少を引き起こすモジュレーターを特徴とする。
【0008】
いくつかの態様では、モジュレーターは、(a)gOサブユニットの残基R230、R234、V235、K237及びY238のうちの1つ以上、(b)gOサブユニットの残基N81、L82、M84、M86、F109、F111、T114、Q115、R117、K121及びV123の1つ以上、並びに(c)gOサブユニットの残基R336、Y337、K344、D346、N348、E354及びN358の1つ以上に結合する。
【0009】
別の態様では、本開示は、HCMV gHgLgO三量体のgOサブユニットと、PDGFRαとの間の相互作用のモジュレーターであって、(a)gOサブユニットの残基R230、R234、V235、K237及びY238のうちの1つ以上、(b)gOサブユニットのN81、L82、M84、M86、F109、F111、T114、Q115、R117、K121及びV123;並びに(c)gOサブユニットの残基R336、Y337、K344、D346、N348、E354及びN358のうちの1つ以上に結合し、PDGFRαへのgOサブユニットの結合の減少を引き起こすモジュレーターを特徴とする。
【0010】
いくつかの態様では、モジュレーターは、gOサブユニットの残基R230、R234、V235、K237、Y238、N81、L82、M84、M86、F109、F111、T114、Q115、R117、K121、V123、R336、Y337、K344、D346、N348、E354及びN358の23個全てに結合する。
【0011】
いくつかの態様では、モジュレーターは、HCMVのgHサブユニットの残基R47、Y84及びN85のうちの1つ以上に更に結合する。
【0012】
いくつかの態様では、モジュレーターは、小分子、抗体若しくはその抗原結合断片、ペプチド、模倣物、又は阻害性核酸である。いくつかの態様では、阻害性核酸はASO又はsiRNAである。
【0013】
いくつかの態様では、抗原結合断片は、bis-Fab、Fv、Fab、Fab’-SH、F(ab’)、ダイアボディ、直鎖状抗体、scFv、scFab、VHドメイン、又はVHHドメインである。
【0014】
いくつかの態様では、抗体は二重特異性抗体又は多重特異性抗体である。いくつかの態様では、二重特異性抗体又は多重特異性抗体は、gOサブユニットの少なくとも3つの別個のエピトープに結合する。いくつかの態様では、少なくとも3つの別個のエピトープは、(a)gOサブユニットの残基R230、R234、V235、K237及びY238のうちの1つ以上を含む第1のエピトープと、(b)gOサブユニットの残基N81、L82、M84、M86、F109、F111、T114、Q115、R117、K121及びV123のうちの1つ以上を含む第2のエピトープと、(c)gOサブユニットの残基R336、Y337、K344、D346、N348、E354及びN358のうちの1つ以上を含む第3のエピトープとを含む。
【0015】
いくつかの態様では、モジュレーターはPDGFRαの模倣物である。
【0016】
別の態様では、本開示は、HCMV gHgLgO三量体のgOサブユニットとPDGFRαとの間の相互作用のモジュレーターであって、PDGFRαのD1(配列番号11)ドメイン、D2(配列番号12)ドメイン、及びD3(配列番号13)ドメインに結合し、PDGFRαへのgOサブユニットの結合の減少を引き起こすモジュレーターを特徴とする。
【0017】
いくつかの態様では、モジュレーターは、(a)PDGFRαの残基N103、Q106、T107、E108及びE109のうちの1つ以上、(b)PDGFRαの残基M133、L137、I139、E141、I147、S145、Y206及びL208のうちの1つ以上、並びに(c)PDGFRαの残基N240、D244、Q246、T259、E263及びK265のうち1つに結合する。
【0018】
別の態様では、本開示は、HCMV gHgLgO三量体のgOサブユニットと、PDGFRαとの間の相互作用のモジュレーターであって、(a)PDGFRαの残基N103、Q106、T107、E108及びE109のうちの1つ以上、(b)PDGFRαの残基M133、L137、I139、E141、I147、S145、Y206及びL208のうちの1つ以上;並びに(c)PDGFRαの残基N240、D244、Q246、T259、E263及びK265のうちの1つ以上に結合し、PDGFRαに対するgOサブユニットの結合の減少を引き起こすモジュレーターを特徴とする。
【0019】
いくつかの態様では、モジュレーターは、PDGFRαの残基T107、E108、E109、M133、L137、I139、Y206、L208、E263及びK265の10個全てに結合する。
【0020】
いくつかの態様では、モジュレーターは、PDGFRαの残基E52、S78及びL80のうちの1つ以上に更に結合する。
【0021】
いくつかの態様では、モジュレーターは、小分子、抗体若しくはその抗原結合断片、ペプチド、模倣物、又は阻害性核酸である。いくつかの態様では、阻害性核酸はASO又はsiRNAである。
【0022】
いくつかの態様では、抗原結合断片は、bis-Fab、Fv、Fab、Fab’-SH、F(ab’)、ダイアボディ、直鎖状抗体、scFv、scFab、VHドメイン、又はVHHドメインである。
【0023】
いくつかの態様では、抗体は二重特異性抗体又は多重特異性抗体である。いくつかの態様では、二重特異性抗体又は多重特異性抗体は、PDGFRαの少なくとも3つの別個のエピトープに結合する。いくつかの態様では、少なくとも3つの別個のエピトープは、(a)PDGFRαの残基N103、Q106、T107、E108及びE109のうちの1つ以上を含む、第1のエピトープと、(b)PDGFRαの残基M133、L137、I139、E141、I147、S145、Y206及びL208のうちの1つ以上を含む第2のエピトープと、(c)PDGFRαの残基N240、D244、Q246、T259、E263及びK265の1つ以上を含む第3のエピトープ、を含む。
【0024】
いくつかの態様では、モジュレーターは、HCMV gHgLgO三量体のgOサブユニットの模倣物である。
【0025】
いくつかの態様では、モジュレーターは、HCMV gHgLgO三量体の前記gOサブユニットのPDGFRαへの結合を少なくとも50%減少させる。いくつかの態様では、モジュレーターは、HCMV三量体のgOサブユニットの、PDGFRαへの結合を少なくとも90%減少させる。
【0026】
いくつかの態様では、モジュレーターは、HCMV gHgLgO三量体の前記gOサブユニットの、TGFβR3への結合を少なくとも50%減少させる。
【0027】
いくつかの態様では、結合の減少は、表面プラズモン共鳴、バイオレイヤー干渉法、又は酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって測定される。
【0028】
いくつかの態様では、モジュレーターは、下流シグナル伝達を誘発するPDGFRαの領域と最小限の結合を有する。
【0029】
いくつかの態様では、モジュレーターは、下流シグナル伝達を誘発するPDGFRαの領域に結合しない。
【0030】
いくつかの態様では、下流シグナル伝達を誘発するPDGFRαの領域はPDGFの結合部位である。
【0031】
いくつかの態様では、モジュレーターは、モジュレーターの非存在下でのシグナル伝達と比較して、PDGFRαによるシグナル伝達の20%未満の減少を引き起こす。
【0032】
いくつかの態様では、モジュレーターは、モジュレーターの非存在下でのシグナル伝達と比較して、PDGFRαによるシグナル伝達の減少を引き起こさない。
【0033】
いくつかの態様では、モジュレーターは、前記モジュレーターの非存在下での感染と比較して、HCMVによる細胞の感染の減少を引き起こす。いくつかの態様では、偽型粒子を使用するウイルス感染アッセイ又はウイルス侵入アッセイで測定される場合、感染は少なくとも40%減少する。
【0034】
いくつかの態様では、モジュレーターは、薬学的に許容され得る担体を更に含む。
【0035】
別の態様では、本開示は、個体におけるHCMV感染を処置する方法であって、有効量の本明細書に提供されるモジュレーターを個体に投与し、それにより個体を処置することを含む方法を特徴とする。いくつかの態様では、HCMV感染の持続期間又は重症度は、モジュレーターを投与されていない個体と比較して少なくとも40%減少する。
【0036】
別の態様では、本開示は、個体におけるHCMV感染を予防する方法であって、有効量の本明細書に提供されるモジュレーターを個体に投与し、それにより個体におけるHCMV感染を予防することを含む方法を特徴とする。
【0037】
別の態様では、本開示は、個体における二次HCMV感染の予防方法であって、有効量の本明細書に提供されるモジュレーターを個体に投与し、それにより個体における二次HCMV感染を予防することを含む方法を特徴とする。いくつかの態様では、二次感染は、非感染組織のHCMV感染である。いくつかの態様では、個体は、免疫無防備状態であるか、妊娠しているか、又は乳児である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1A図1Aは、中和Fab 13H11及びMsl-109に結合したヒトサイトメガロウイルス(HCMV)gHgLgO糖タンパク質三量体複合体を示す全体的な低温電子顕微鏡(cryo-EM)マップである。赤色:gOサブユニット。ピンク色:gLサブユニット。青色:gHサブユニット。灰色(左):Fab 13H11。灰色(右):Fab Msl-109。
図1B図1Bは、HCMV gHgLgO三量体複合体の正面図(左)及び背面図(右)を示す一対のリボン図である。赤色:gOサブユニット。ピンク色:gLサブユニット。青色:gHサブユニット。
図1C図1Cは、-10~+10keVの範囲のHCMV gHgLgO三量体複合体(図1Bと同じ図)の静電表面を示す一対の図である。赤色:負に帯電している。青色:正に帯電している。
図1D図1Dは、HCMV gHgLgO三量体複合体(図1Bと同じ図)のグリコシル化部位(着色)の分布を示す一対の図である。
図2A図2Aは、HCMV三量体複合体のgHgLサブユニットのHCMV五量体複合体のgHgLサブユニットへの重ね合わせ(着色)を示す図である(灰色、PDBコード:5VOB)。
図2B図2Bは、HCMV五量体gHgLグリコシル化部位(灰色、PDBコード:5VOB)へのHCMV三量体gHgLグリコシル化部位(着色)の重ね合わせを示す図である。
図2C図2Cは、gHのN末端、gL及びgOを示すHCMVの三量体の遠位領域の正面図(上のパネル)並びに残基A131とV151との間のgLループ、及びgL残基C144とgO残基C343との間のジスルフィド結合を強調するgL-gO相互作用領域の拡大図(下のパネル)を示す一対の図である。赤色:gOサブユニット。ピンク色(上のパネル):gLサブユニット。青色:gHサブユニット。
図2D図2Dは、gHのN末端、gL、UL130、UL131及びUL128を示すHCMV五量体の遠位領域の正面図(上のパネル)、並びに残基A131とV151との間のgLヘリックス、及びgL残基C144とUL128残基C162との間のジスルフィド結合を強調するgL-UL128相互作用領域の拡大図(下のパネル)を示す一対の図である。ピンク色(上のパネル):gLサブユニット。青色:UL131。緑色:UL128。オレンジ色:UL130。
図3A図3Aは、中和Fab 13H11及びMsl-109に結合したHCMV gHgLgO三量体複合体の正面図を示す図である。赤色:gOサブユニット。ピンク色:gLサブユニット。青色:gHサブユニット。緑色及び薄緑色:13H11。オレンジ色及び薄いオレンジ色:Msl-109。
図3B図3Bは、gHのC末端領域に結合した13H11及びMsl-109の可変Fab領域を示す図である。挿入パネル1~3は、13H11とHCMV三量体gHサブユニットとの間の重要な相互作用部位の拡大図を示す。挿入パネル4は、Msl-109とHCMV三量体gHサブユニットとの間の重要な相互作用領域の拡大図を示す。gH上のFab接触領域はピンク色で強調されている。緑色:13H11。オレンジ色:Msl-109。
図3C図3Cは、gH(左)上の13H11の重鎖(暗緑色)及び軽鎖(薄緑色)についての13H11の可変Fab領域及び強調された相互作用面、並びにgH(右)上のMsl-109の重鎖(濃いオレンジ色)及び軽鎖(薄いオレンジ色)についてのMsl-109の可変Fab領域及び強調された相互作用面の拡大図を示す図のセットである。
図4A図4Aは、色で示されたドメイン編成を有するHCMV gOサブユニットの構造を示す図である。
図4B図4Bは、示された二次構造要素を有するHCMV gOサブユニットのドメイン構成を示す概略図である。ドメイン1~5:N末端ベータ鎖。ドメイン6、9~10、12:中央アルファヘリックス。ドメイン16~17:C末端アルファヘリックス。
図4C図4Cは、構造比較のためのHCMV gOサブユニットのC末端ドメイン(左)、及びFLT3リガンドの短鎖サイトカインフォールド(右;PDBコード:3QS7)を示す一対の図である。ピンク色で示されるヘリックスは、サイトカインドメインに折り畳まれるgO及びFLT3の領域を表す。
図4D図4Dは、HCMV gOサブユニット内のシステイン残基(ピンク色)及びジスルフィド結合の分布を示す図である。
図4E図4Eは、-10~+10 keVの範囲のHCMV gOサブユニットの静電表面を示す一対の図である。赤色:負に帯電している。青色:正に帯電している。
図4F図4Fは、93種のヘルペスウイルス5株由来の配列に基づくHCMV gOサブユニットの保存分析の結果を示す一対の図である。保存性:低~高(緑色~紫色)。
図4G図4Gは、HCMV gOサブユニット上のグリコシル化部位(着色)の分布を示す一対の図である。
図5A図5Aは、細胞表面受容体発見プラットフォームの結果の示されたヒト受容体タンパク質とのHCMV三量体(株:Merlin及びVR1814)結合(最大シグナルのパーセントとして表される、HCMV三量体の正規化された結合シグナル)のレベルを示すグラフである。
図5B図5Bは、ヒトPDGFRαのドメイン構成を示す概略図である。ドメイン:D1、D2、D3、D4、D5、膜貫通(TM)ドメイン、及びキナーゼドメイン。
図5C図5Cは、PDGFRαドメインD1~D3に結合したHCMV gHgLgO三量体複合体の正面図を示す図である。緑色:PDGFRα。赤色:gOサブユニット。ピンク色:gLサブユニット。青色:gHサブユニット。
図5D図5Dは、gO、gL及びgHのN末端及びPDGFα D1~D4を含むHCMV三量体遠位領域の図を示す図のセットである。PDGFRα D4は、宿主細胞膜に対する受容体の配向を示すために低い不透明度で示されている。下のパネルは、部位1~4の残基相互作用を示す。緑色:PDGFRαのD1~D4。赤色:gOサブユニット。ピンク色:gLサブユニット。青色:gHサブユニット。
図5E図5Eは、図5Dに記載されるような拡大図におけるHCMV三量体遠位領域を示す図であり、強調された表面領域(緑色)がPDGFRαとの相互作用に関与している。
図5F図5Fは、gO及びgHについては93種のヘルペスウイルス5株、gLについては59種のヘルペスウイルス5株の配列に基づくHCMV gO-gL+gHのN末端の保存分析の結果を示す図である。保存範囲:低~高(緑色~紫色)。
図5G図5Gは、表2に記載の単一グリコシル化部位、又は電荷変異の組み合わせ(E52R、L80R、E108R、E111R、L137E、I139E、L208R、M260E、L261R、E263R、K265E)が導入されたPDGFRα-Fcタンパク質に対するHCMV gHgLgO三量体の結合レベル(野生型(WT)PDGFRαと比較したパーセント結合として表される)を示す棒グラフである。
図5H図5Hは、表2に記載のHCMV gHgLgO三量体及びPDGFRα-Fc相互作用についてのバイオレイヤー干渉法(BLI)結合曲線を示すグラフのセットである。
図6A図6Aは、細胞表面受容体発見プラットフォームの結果の示されたヒト受容体タンパク質とのHCMV三量体(株:Merlin及びVR1814)結合(最大シグナルのパーセントとして表される、HCMV三量体の正規化された結合シグナル)のレベルを示すグラフである。
図6B図5Bは、ヒトTGFβR3のドメイン構成を示す概略図である。ドメイン:オーファンドメイン2(OD2)、オーファンドメイン1(OD1)、N末端透明帯ドメイン(ZP-N)、C末端透明帯ドメイン(ZP-C)、膜貫通ドメイン(TM)及び細胞内ドメイン(ICD)。
図6C図6Cは、溶出したgHgLgO-TGFβR3-13H11-Msl-109複合体についての280nmでの吸光度を示すサイズ排除クロマトグラム(上のパネル)、及び示されたSEC画分中のgHgLgO-TGFβR3-13H11-Msl-109複合体の成分を示す対応するSDS-PAGEゲル画像(下のパネル)である。クロマトグラム上及びSDS-PAGEゲル画像の横の点線は、等価なSEC溶出画分を示す。
図6D図6Dは、TGFβR3 OD2に結合したHCMV gHgLgO三量体複合体の正面図を示す図である。暗緑色:TGFβR3。赤色:gOサブユニット。ピンク色:gLサブユニット。青色:gHサブユニット。
図6E図6Eは、TGFβR3(灰色)との相互作用に関与する、強調された表面領域(暗緑色)を有するgO、gL及びgH N末端を示す拡大図におけるHCMV三量体遠位領域を示す図である。
図6F図6Fは、gO及びgHについては93種のヘルペスウイルス5株、gLについては59種のヘルペスウイルス5株の配列に基づくHCMV gO-gL+gHのN末端の保存分析の結果を示す図である。保存範囲:低~高(緑色~紫色)。
図6G図6Gは、TGFβR3 OD1~OD2、gO、gL及びgH N末端を示す、HCMV三量体遠位領域を拡大図で示す図のセットである。TGFβR3 OD1は、宿主細胞膜に対する受容体の配向を示すために低い不透明度で示されている。挿入パネルは、HCMV gHgLgO三量体とTGFβR3との間の重要な相互作用部位(部位1~3)の拡大図を示す。赤色:gOサブユニット。ピンク色:gLサブユニット。青色:gHサブユニット。緑色:TGFβR3 OD2。
図6H図6Hは、TGFβR3のOD2ドメインとエンドグリン(PDBコード:5I04)との構造比較を示す図のセットである。右パネルは、TGFβR3 α1及びエンドグリンのβ6とβ7との間の対応するループ領域の拡大図を示す。
図7A図7Aは、正面図(左)及び上面図(右)におけるHCMV gHgLgO(灰色)に対するPDGFRα(薄緑色)及びTGFβR3(暗緑色)の結合を示す一対の図である。
図7B図7Bは、溶出されたgHgLgO-TGFβR3及びgHgLgO-PDGFRα-TGFβR3複合体についての280nmでの吸光度を示すサイズ排除クロマトグラム(上のパネル)、並びに示されたSEC画分中のgHgLgO-TGFβR3及びgHgLgO-PDGFRα-TGFβR3複合体の成分を示す対応するSDS-PAGEゲル画像(下のパネル)である。
図7C図7Cは、構造比較におけるHMCV gHgLgO(赤色)に結合したPDGFRα(緑色)、及びPDGFB-PDGFRβ共結晶構造に基づくPDGFRαに結合したPDGFのモデル(PDGFBは図示せず;PDBコード:3MJG)とを示す図である。
図7D図7Dは、PDGFRα-Fcと接触させた野生型gO(三量体WT)及び又は変異型gO(三量体MUT;M84R、F111R、R117E、F136R、R212E、R230E、R234E、R336E、F342E、A351R及びN358Rアミノ酸置換変異を有するgO)のいずれかを有するHCMV gHgLgO三量体についてのBLI結合曲線を示すグラフのセットである。
図7E図7Eは、MRC-5細胞における示されたPDGFRα細胞シグナル伝達成分のレベルを示すウエスタンブロット分析である。HMCV gHgLgO三量体の非存在下(-)又は存在下(+)で、野生型又は変異型gOを用いて、増殖因子PDGF-AAの添加後に、PDGFRαリン酸化(pY762、pY849)及び下流のシグナル伝達活性を評価した。(図7Dのように)
図7F図7Fは、HCMV gHgLgO三量体による受容体結合及び抗体による三量体結合の中和の作業モデルを示す概略図である。
図8A図8Aは、Fab 13H11及びMsl-109を用いたHCMV gHgLgOの精製及び再構成プロセスを示す概略図である。ヒスチジン(HIS);ストレプトアビジン(STREP);サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)。
図8B図8Bは、溶出したgHgLgO-13H11-Msl-109複合体についての280nmでの吸光度を示すサイズ排除クロマトグラム(上のパネル)、及び示されたSEC画分中のgHgLgO-13H11-Msl-109複合体の成分を示す対応するSDS-PAGEゲル画像(下のパネル)である。クロマトグラム上及びSDS-PAGEゲル画像の横の点線は、等価なSEC溶出画分を示す。
図8C図8Cは、gHgLgO-13H11-Msl-109複合体を示すcryo-EM顕微鏡写真である。スケールバー:10nm。
図8D図8Dは、単量体及び二量体のgHgLgO-13H11-Msl-109の代表的な2Dクラス平均を示すcryo-EM顕微鏡写真のセットである。スケールバー:10nm。
図8E図8Eは、gHgLgO-13H11-Msl-109のab-initio 3D再構成を得るための処理ワークフローの概略図である。
図8F図8Fは、gHgLgO-13H11-Msl-109の高分解能3D再構成を得るためのデータ収集及び処理スキームを示す概略図である。
図8G図8Gは、ウィンドウイングされたフーリエシェル相関(FSC)によって推定された局所解像度に応じた表面着色を用いた収束リファインメント前のgHgLgO-13H11-Msl-109 3Dマップの等値面レンダリングを示す図である。分解能範囲:2.7から>4.7Å(青色~赤色)。
図8H図8Hは、割り当てられた粒子配向の分布のヒートマップ表現である。ヒートマップは、3D空間内で定義された向きに配置された粒子の数を示す。
図8I図8Iは、全体的なgHgLgO-13H11-Msl-109 3D再構成及び収束リファインメント再構成(図8Fに示す)の半データセット間のFSCを示すグラフである。
図9A図9Aは、ドメインDI、DII、DII及びDIVに分割されたHCMV三量体及び五量体(PDBコード:5VOB)gHサブユニット並びにgLサブユニットの構造比較を示す一連のリボン図である。
図9B図9Bは、gL上にマッピングされたgOの相互作用界面(上)、並びにgL上のUL130及びUL128の相互作用界面(下:PDBコードに基づく:5VOB)を示す一対の図である。
図9C図9Cは、強調された推定受容体結合部位を有するHCMV五量体複合体(PDBコード:5VOB)上のグリコシル化部位分布(着色分子)を示す一対の図である。
図10図10は、gHのDII-DIV領域に結合した13H11及びMsl-109の可変Fab領域の拡大図を示す図である。水素交換質量分析によって以前に同定されたgH上のFab接触領域が強調されている。
図11A図11Aは、溶出したgHgLgO-PDGFRα-13H11-Msl-109複合体についての280nmでの吸光度を示すサイズ排除クロマトグラム(上のパネル)、及び示されたSEC画分中のgHgLgO-PDGFRα-13H11-Msl-109複合体の成分を示す対応するSDS-PAGEゲル画像(下のパネル)である。クロマトグラム上及びSDS-PAGEゲル画像の横の点線は、等価なSEC溶出画分を示す。
図11B図11Bは、gHgLgO-PDGFRα-13H11-Msl-109複合体を示す代表的なcryo-EM顕微鏡写真である。
図11C図11Cは、gHgLgO-PDGFRα-13H11-Msl-109複合体の代表的な2Dクラス平均を示すcryo-EM顕微鏡写真のセットである。
図11D図11Dは、gHgLgO-PDGFRα-13H11-Msl-109複合体の高分解能3D再構成を得るためのデータ収集及び処理スキームを示す概略図である。
図11E図11Eは、ウィンドウイングされたFSCによって推定された局所解像度に応じた表面着色を用いた収束リファインメント前のgHgLgO-PDGFRα-13H11-Msl-109 3Dマップの等値面レンダリングを示す図である。
図11F図11Fは、割り当てられた粒子配向の分布のヒートマップ表現を示す図である。ヒートマップは、3D空間内で定義された向きに配置された粒子の数を示す。
図11G図11Gは、gHgLgO-PDGFRα-13H11-Msl-109 3D再構成及び収束リファインメント再構成(図11Dに示す)の半データセット間のFSCを示すグラフである。
図12A図12Aは、PDGFRα(三量体委結合)及びPDGFRβ(PDGFβは図示せず;PDBコード:3MJG)、Kit(SCFは図示せず;PDBコード:2E9W)又はFMS(M-CSFは図示せず;PDBコード:3EJJ)のD1~D3の構造比較を示す図である。
図12B図12Bは、PDGFRα(三量体結合)及びPDGFRβ(PDGFBは図示せず;PDBコード:3MJG)の個々のD1ドメイン、D2ドメイン及びD3ドメインの構造比較を示す一連のリボン図である。
図12C図12Cは、D2上でのアライメント後のD1~D3 PDGFRα(三量体結合)及びPDGFRβ(PDGFBは図示せず;PDBコード:3MJG)の構造比較を示す一連のリボン図である。
図12D図12Dは、gHgLgO-PDGFRα及びgHgLgO(Fab 13H11及びMsl-109は図示せず)の構造比較を示すスティック図である。
図12E図12Eは、D1~D3領域のPDGFRα構造に基づくPDGFRβ配列への配列アラインメントを示す配列アラインメント図である。HCMV三量体gHgLgOとの相互作用部位(部位1~4)及びPDGFβとの相互作用部位は、赤色のボックスで強調されている。
図13A図13Aは、gHgLgO-TGFβR3-13H11-Msl-109複合体を示す代表的なcryo-EM顕微鏡写真である。スケールバー:10nm。
図13B図13Bは、gHgLgO-TGFβR3-13H11-Msl-109複合体の2Dクラス平均を示す代表的なcryo-EM顕微鏡写真のセットである。スケールバー:10nm。
図13C図13Cは、gHgLgO-TGFβR3-13H11-Msl-109複合体の高分解能3D再構成を得るためのデータ収集及び処理スキームを示す概略図である。
図13D図13Dは、ウィンドウイングされたFSCによって推定された局所解像度に応じた表面着色を用いた収束リファインメント前のgHgLgO-TGFβR3-13H11-Msl-109 3Dマップの等値面レンダリングを示す図である。分解能範囲:2.5から>5Å(青色から赤色)。
図13E図13Eは、割り当てられた粒子配向の分布を示すヒートマップ表現である。ヒートマップは、3D空間内で定義された向きに配置された粒子の数を示す。
図13F図13Fは、gHgLgO-TGFβR3-13H11-Msl-109 3D再構成及び収束リファインメント再構成(図13Eに示す)の半データセット間のFSCを示すグラフである。
図13G図13Gは、gHgLgO-TGFβR3(緑色)とgHgLgO(Fab 13H11及びMsl-109は図示せず)との構造比較を示す図である。
図13H図13Hは、エンドグリンOD2配列に対するOD2領域のTGFβR3構造に基づく配列アラインメントを示す配列アラインメント図である。HCMV三量体gHgLgOとの相互作用部位(部位1~3)を赤色のボックスで強調している。
図14A図14Aは、溶出したPDGFRα及びTGFβR3について280nmでの吸光度を示す一対のサイズ排除クロマトグラム(左パネル)、並びに示されたSEC画分中のPDGFRα及びTGFβR3を示す対応するSDS-PAGEゲル画像(右パネル)である。
図14B図14Bは、溶出したHCMV gHgLgO三量体及びgHgLgO-PDGFRα複合体についての280nmでの吸光度を示す一対のサイズ排除クロマトグラム(左パネル)、並びに示されたSEC画分中のgHgLgO-PDGFRα複合体の成分を示す対応するSDS-PAGEゲル画像(右パネル)である。
図14C図14Cは、溶出したgHgLgO-TGFβ3及びgHgLgO-PDGFRα-TGFβ3複合体についての280nmでの吸光度を示す一対のサイズ排除クロマトグラム(左パネル)、並びにgHgLgO-TGFβ3及びgHgLgO-PDGFRα-TGFβR3複合体の成分を示す対応するSDS-PAGEゲル画像(右パネル)である。gHgLgO-TGFβR3を等モル量のPDGFRαとプレインキュベートした。
【発明を実施するための形態】
【0039】
I.定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語、表記、及び他の科学用語は、本発明が関係する当業者によって一般的に理解される意味を有することを意図する。場合によっては、一般的に理解されている意味を有する用語が、明確にするため及び/又は参照しやすいようにするために本明細書において定義されており、本明細書におけるそのような定義の包含は、当技術分野で一般的に理解されているものとの実質的な違いを表すと必ずしも解釈されるべきではない。
【0040】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、この技術分野の当業者であれば容易に理解する、それぞれの値の通常の誤差範囲を指す。本明細書において、値又はパラメータについての「約」の参照は、それ自体がその値又はパラメータに向けられた側面を含む(及び説明する)。
【0041】
本明細書で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈が別途明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。例えば、「単離されたペプチド」とは、1つ以上の単離されたペプチドを意味する。
【0042】
本明細書及び特許請求の範囲を通じて、単語「含む(comprise)」、又は「含む(comprises)」若しくは「含むこと(comprising)」のような変形は、記載された整数又は整数のグループの包含を意味するが、いかなる他の整数又は整数のグループの除外をも意味しないことが理解されるであろう。
【0043】
本明細書で互換的に使用される、「患者」、「対象」又は「個体」という用語は、ヒト患者を指す。
【0044】
薬物の「静脈内」すなわち「iv」用量、投与又は製剤は、静脈を介して、例えば点滴によって投与される。
【0045】
薬物の「皮下」すなわち「sc」用量、投与又は製剤は、例えば、プレフィルドシリンジ、自動注射器、又は他の装置を介して、皮膚の下に投与される。
【0046】
本明細書の目的のために、「臨床状態」とは、患者の健康状態をいう。それは例えば、患者の状態が良くなっている、又は悪くなっていることである。一実施形態では、臨床状態は、臨床状態の順序尺度に基づく。一実施形態では、臨床状態は、患者が熱を有するか否かに基づいていない。
【0047】
「有効量」は、不要な/望ましくない副作用を上回らない治療的/予防的利益(例えば、本明細書に記載される)をもたらすのに有効な薬剤(例えば、治療剤)の量を指す。
【0048】
「薬学的製剤」という用語は、活性成分の生物学的活性が有効になるような形態であり、かつ製剤が投与される対象に許容できないほどに有毒な更なる成分を含有しない調製物を指す。そのような製剤は無菌である。一実施形態では、製剤は静脈(iv)投与用である。別の実施形態では、製剤は皮下(sc)投与用である。
【0049】
本明細書における「天然配列」タンパク質は、天然に存在するタンパク質のバリアントを含む、天然に見られるタンパク質のアミノ酸配列を含むタンパク質を指す。本明細書で使用される用語は、その天然源から単離されるタンパク質、又は組換え作製されるタンパク質を含む。
【0050】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」という用語は、特に明記しない限り、霊長類(例えばヒト)及びげっ歯類(例えばマウス、ラット)などの哺乳動物を含む任意の脊椎動物源からの任意の天然タンパク質を指す。この用語は、「完全長」の未処理のタンパク質と、細胞内での処理から生じるあらゆる形態のタンパク質を包含する。この用語はまた、タンパク質の天然に存在するバリアント、例えば、スプライスバリアント又は対立遺伝子バリアント、例えば、アミノ酸置換変異又はアミノ酸欠失変異を包含する。この用語はまた、タンパク質の単離された領域又はドメイン、例えば、細胞外ドメイン(ECD)を含む。
【0051】
「単離された」タンパク質又はペプチドは、その自然環境の成分から分離されたものである。いくつかの態様では、タンパク質又はペプチドは、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフィー(例えば、イオン交換又は逆相HPLC)によって決定されるように、95%又は99%を超える純度まで精製される。
【0052】
「単離された」核酸は、その天然環境の構成要素から分離された核酸分子を指す。単離された核酸には、通常核酸分子を含有する細胞内に含有される核酸分子が含まれるが、核酸分子は、染色体外、又は天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する。
【0053】
本明細書で使用される場合、「ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)三量体」、「HCMV gHgLgO三量体」、及び「HCMV三量体」という用語は、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のウイルスエンベロープの外面に位置し、gH、gL、及びgO糖タンパク質サブユニットから構成される糖タンパク質複合体を指す。
【0054】
本明細書で使用される場合、「ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のgOサブユニット」、「gOサブユニット」及び「gO」という用語は、特に明記しない限り、霊長類(例えばヒト)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)を含む任意の哺乳動物源由来の任意の天然gOを広く指す。この用語は、完全長gO及びgOの単離された領域又はドメインを包含する。この用語は、gOの天然に存在する変異体、例えば、スプライス変異体又は対立遺伝子変異体も包含する。例示的なヒトgOのアミノ酸配列は、配列番号1として提供される。軽微な配列バリエーション、特にgOの機能及び/又は活性に影響を及ぼさないgOの保存的アミノ酸置換もまた、本発明により意図される。
【0055】
本明細書で使用される場合、「ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のgHサブユニット」、「gHサブユニット」及び「gH」という用語は、特に明記しない限り、霊長類(例えばヒト)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)を含む任意の哺乳動物源由来の任意の天然gHを広く指す。この用語は、完全長gH及びgHの単離された領域又はドメインを包含する。この用語は、gHの天然に存在する変異体、例えば、スプライス変異体又は対立遺伝子変異体も包含する。例示的なヒトgHのアミノ酸配列は、配列番号2として提供される。軽微な配列バリエーション、特にgHの機能及び/又は活性に影響を及ぼさないgHの保存的アミノ酸置換もまた、本発明により意図される。
【0056】
本明細書で使用される場合、「ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のgLサブユニット」、「gLサブユニット」及び「gL」という用語は、特に明記しない限り、霊長類(例えばヒト)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)を含む任意の哺乳動物源由来の任意の天然gLを広く指す。この用語は、完全長gL及びgLの単離された領域又はドメインを包含する。この用語は、gLの天然に存在する変異体、例えば、スプライス変異体又は対立遺伝子変異体も包含する。例示的なヒトgLのアミノ酸配列は、配列番号3として提供される。軽微な配列バリエーション、特にgLの機能及び/又は活性に影響を及ぼさないgLの保存的アミノ酸置換もまた、本発明により意図される。
【0057】
本明細書で使用される場合、「モジュレーター」は、所与の生物学的活性、例えば、相互作用又は相互作用から生じる下流活性を調節する(例えば、増加させる、減少させる、活性化する、又は阻害する)薬剤である。モジュレーター又は候補モジュレーターは、例えば、小分子、抗体(例えば、二重特異性又は多重特異性抗体)、抗原結合断片(例えば、bis-Fab、Fv、Fab、Fab’-SH、F(ab’)、ダイアボディ、直鎖状抗体、scFv、ScFab、VHドメイン、又はVHHドメイン)、ペプチド、模倣物、アンチセンスオリゴヌクレオチド、又は阻害性核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)又は低分子干渉RNA(siRNA))であり得る。
【0058】
「増加させる」又は「活性化する」とは、例えば、20%以上、50%以上、又は75%、85%、90%、又は95%以上の全体的な増加を引き起こす能力を意味する。特定の態様では、増加させる又は活性化するとは、タンパク質間相互作用の下流活性を指すことができる。
【0059】
「減少させる」又は「阻害する」とは、例えば、20%以上、50%以上、又は75%、85%、90%、95%以上の全体的減少を引き起こす能力を意味する。特定の態様では、減少させる又は阻害するとは、タンパク質間相互作用の下流活性を指すことができる。
【0060】
「親和性」は、分子(例えば、受容体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば、リガンド)との間の非共有相互作用の総和の強度を指す。本明細書で使用される場合、「結合親和性」は、特に指示されない限り、結合対(例えば、受容体及びリガンド)のメンバー間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。一般に、分子XのそのパートナーYに対する親和性は、解離定数(K)によって表される。親和性は、本明細書に記載のものを含む当技術分野で一般的な方法により測定することができる。
【0061】
本明細書で使用される場合、「複合体」又は「複合体型」は、ペプチド結合ではない結合及び/又は力(例えば、ファンデルワールス、疎水性、親水性力)を介して互いに相互作用する2つ以上の分子の会合を指す。一態様では、複合体はヘテロ多量体である。本明細書で使用される場合、「タンパク質複合体」又は「ポリペプチド複合体」という用語は、タンパク質複合体中のタンパク質にコンジュゲートした非タンパク質実体(例えば、限定しないが、毒素又は検出剤などの化学分子を含む)を有する複合体が含まれることを理解するべきである。
【0062】
「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養物」という用語は互換的に使用され、外因性の核酸が導入された細胞を指し、そのような細胞の子孫を含む。宿主細胞には、「トランスフェクトされた細胞」、「形質転換された細胞」、及び「形質転換体」が含まれ、これらには、初代形質転換細胞及び、継代の数に関係なく、それに由来する子孫が含まれる。子孫は、核酸の含有量が親細胞と完全に同一でなくてもよく、変異を含んでいてもよい。元の形質転換細胞においてスクリーニング又は選択されたのと同じ機能又は生物学的活性を有する変異子孫が本明細書に含まれる。いくつかの態様では、宿主細胞は、外因性核酸で安定して形質転換される。他の態様では、宿主細胞は、外因性核酸で一過性に形質転換される。
【0063】
本明細書で使用される場合、「ベクター」という用語は、それが連結された別の核酸を増殖させることができる核酸分子を指す。この用語は、自己複製する核酸構造としてのベクター、及びベクターが導入された宿主細胞のゲノム内へと組み込まれたベクターを含む。ある種のベクターは、作動可能に連結された核酸の発現を指示することができる。そのようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」と呼ばれる。
【0064】
「抗体」という用語は、本明細書では最も広い意味で用いられ、限定はしないが、それらが所望の抗原結合活性を呈する限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片(例えば、bis-Fab)を含めた、様々な抗体構造を包含する。
【0065】
「抗原結合断片」又は「抗体断片」とは、インタクトな抗体以外の分子であって、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部を含む分子を指す。抗原結合断片の例としては、限定されないが、bis-Fab;Fv;Fab;Fab、Fab’-SH;F(ab’);ダイアボディ;直鎖状抗体;単鎖抗体分子(例えば、scFv、scFab);及び抗体断片から形成された多重特異性抗体が含まれる。
【0066】
「単一ドメイン抗体」は、抗体の重鎖可変ドメインの全て又は一部、あるいは軽鎖可変ドメインの全て又は一部を含む抗体断片を指す。特定の態様では、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(例えば、米国特許第6248516号B1を参照)。単一ドメイン抗体の例には、VHHが含まれるが、これに限定されない。
【0067】
「Fab」断片は、抗体のパパイン消化によって生成される抗原結合断片であり、L鎖全体と、H鎖の可変領域ドメイン(VH)及び1本の重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)からなる。抗体のパパイン消化により、2つの同一のFab断片を生成する。抗体のペプシン処理により単一の大きなF(ab’)断片が生じ、これは二価の抗原結合活性を有するジスルフィドで連結された2つのFab断片にほぼ対応し、依然として抗原に架橋することができる。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域由来の1つ以上のシステインを含むCH1ドメインのカルボキシ末端に追加のいくつかの残基を有している点でFab断片とは異なる。Fab’-SHは、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を有するFab’の本明細書での命名である。F(ab’)抗体断片は、元来、間にヒンジシステインを有するFab’断片の対として産生されたものであった。抗体断片の他の化学的カップリングも既知である。
【0068】
本明細書において「Fc領域」という用語は、天然配列Fc領域及びバリアントFc領域を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変化し得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、Cys226の位置のアミノ酸残基から又はPro230からそのカルボキシル末端まで伸長すると定義される。Fc領域のC末端リジン(EUナンバリングシステムによる残基447)は、例えば、抗体の産生若しくは精製の間に、又は抗体の重鎖をコードする核酸を組み換え操作することによって取り除かれ得る。したがって、インタクトな抗体の組成物は、全てのLys447残基が除かれた抗体集団、Lys447残基が除かれていない抗体集団、及びLys447残基を有する抗体と有さない抗体との混合物を有する抗体集団を含み得る。
【0069】
「Fv」は、1つの重鎖及び1つの軽鎖可変領域ドメインが、堅固な非共有結合をなした二量体からなる。これらの2つのドメインの折り畳みにより、抗原結合のためのアミノ酸残基を提供し、かつ抗原結合特異性を抗体に与える6つの超可変ループ(H鎖及びL鎖から各3つのループ)が生じる。ただし、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)でさえ、結合部位全体よりも低い親和性であることが多いものの、抗原を認識して結合する能力を有する。
【0070】
「完全長抗体」、「インタクトな抗体」、及び「全抗体」という用語は、本明細書では、天然抗体構造と実質的に同様の構造を有するか、又は本明細書に定義されるFc領域を含有する重鎖を有する抗体を指すために、交換可能に使用される。
【0071】
「sFv」又は「scFv」とも略される「単鎖Fv」は、単一ポリペプチド鎖中に接続するVH及びVL抗体ドメインを含む抗体断片である。好ましくは、scFvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーを更に含み、これは、scFvが抗原結合のための所望の構造を形成することを可能にする。scFvのレビューについては、Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,Springer-Verlag,New York,pp.269-315(1994);Malmborg et al.,J.Immunol.Methods 183:7-13,1995を参照されたい。
【0072】
用語「小分子」とは、分子量約2000ダルトン以下、例えば約1000ダルトン以下の任意の分子を指す。いくつかの態様では、小分子は小さな有機分子である。
【0073】
本明細書で使用される場合、「模倣物」又は「分子模倣物」という用語は、コンホメーション及び/又は結合能力において、所定のポリペプチドに対して又は前記ポリペプチドの結合パートナーに結合するための部分に対して十分な類似性(例えば、二次構造、三次構造)を有するポリペプチドを指す。模倣物は、それが模倣するポリペプチドと等しい、より少ない、又はより大きな親和性で結合パートナーと結合し得る。分子模倣物は、それが模倣するポリペプチドと明らかなアミノ酸配列類似性を有していても、有していなくてもよい。模倣物は、自然に発生することもあれば、操作されることもある。いくつかの態様では、模倣物は、結合対のメンバーの模倣物である。更に他の態様では、模倣物は、結合対のメンバーに結合する別のタンパク質の模倣物である。いくつかの態様では、模倣物は、模倣されたポリペプチドの全ての機能を実行し得る。他の態様では、模倣物は、模倣されたポリペプチドの全ての機能を実行するわけではない。
【0074】
本明細書で使用される場合、2つ以上のタンパク質の相互の「結合を可能にする条件」という用語は、2つ以上のタンパク質がモジュレーター又は候補モジュレーターの非存在下で相互作用するであろう条件(例えば、タンパク質濃度、温度、pH、塩濃度)を指す。結合を可能にする条件は個々のタンパク質によって異なり、タンパク質間相互作用アッセイ(例えば、表面プラズモン共鳴アッセイ、バイオレイヤー干渉法、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、細胞外相互作用アッセイ、及び細胞表面相互作用アッセイ)の間で異なる可能性がある。
【0075】
基準となるポリペプチド配列に関する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、配列同一性最大パーセントが得られるように、配列をアライメントし、必要に応じてギャップを導入した後に、いかなる保存的置換も配列同一性の部分として考慮せずに、基準となるポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同一である、候補配列におけるアミノ酸残基の割合として定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するためのアラインメントは、当分野の技術の範囲内にある様々な方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような一般に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して得ることができる。当業者であれば、比較する配列の全長にわたって最大のアライメントを得るのに必要な任意のアルゴリズムを含めた、配列を整列させるための適切なパラメータを決定することができる。しかしながら、本明細書での目的のために、アミノ酸配列同一性%値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を用いて生成している。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、Genentech,Inc.が作成したものであり、ソースコードは、使用者用書類と共に、米国著作権局、Washington D.C.、20559に提出され、米国著作権登録番号TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、Genentech,Inc.(South San Francisco,California)から公的に入手可能であり、又はそのソースコードからコンパイルし得る。ALIGN-2プログラムは、デジタルUNIX V4.0Dを含め、UNIXオペレーティングシステムで使用するためにコンパイルされるべきである。全ての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムによって設定されており、変わらない。
【0076】
ALIGN-2がアミノ酸配列比較に用いられる状況では、所与のアミノ酸配列Bへの、アミノ酸配列Bとの、又はアミノ酸配列Bに対する、所与のアミノ酸配列Aのアミノ酸配列同一性%(あるいは、所与のアミノ酸配列Bへの、アミノ酸配列Bとの、又はアミノ酸配列Bに対する、特定のアミノ酸配列同一性%を有する又は含む、所与のアミノ酸配列Aとして記述され得る)は、以下のように計算される。
100×分数X/Y
この場合、Xは、配列アラインメントプログラムALIGN-2によって、そのプログラムのAとBのアラインメントにおいて同一のマッチとしてスコア付けされたアミノ酸残基の数であり、Yは、B中のアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと異なる場合、AのBに対する%アミノ酸配列同一性は、BのAに対する%アミノ酸配列同一性とは異なることは理解されるであろう。特に明記しない限り、本明細書で使用される場合、全ての%アミノ酸配列同一性値は、ALIGN-2コンピュータプログラムを使用して、直前の段落で説明したように得られる。
【0077】
本明細書で使用される場合、「処置(treatment)」(及びその文法的な変形語、例えば、「処置する(treat)」又は「処置すること(treating)」)は、処置される個体の本来の経過を変える試みにおける臨床的介入を指し、予防のために、又は臨床病理の経過の間に行うことができる。処置の望ましい効果には、限定するものではないが、疾患の発生又は再発の予防(例えば、HCMV感染又はその症状の予防)、感染症を有する患者における二次感染の低減又は予防(例えば、神経組織、免疫細胞、リンパ組織、及び/又は肺組織の二次感染の低減又は予防)、症状の緩和、疾患の任意の直接的又は間接的な病理学的結果の減少、疾患進行の速度の低下、疾患状態の改善又は緩和、並びに寛解又は予後の改善が含まれる。
【0078】
疾患又は病態の「病理学」は、患者の健康を損なう全ての現象を含む。
【0079】
「改善(amelioration)」、「改善(ameliorating)」、「緩和(alleviation)」、「緩和(alleviating)」、又はそれらの同等物は、治療的処置及び予防的(prophylactic)又は予防的(preventative)措置の両方を指し、ここでその目的は、疾患又は病態、HCMV感染を改善する、予防する、減速させる(和らげる)、減少させる又は阻害することである。処置を必要とする者としては、疾患若しくは状態を既に有する者、並びに疾患若しくは状態を有する傾向にある者、又は疾患若しくは状態を予防する必要がある者が挙げられる。
【0080】
II.タンパク質間相互作用のモジュレーター
いくつかの態様では、本開示は、PDGFRα又はTGFβR3とHCMV gHgLgO三量体との間の相互作用の単離されたモジュレーターを特徴とし、モジュレーターは、モジュレーターの非存在下での結合と比較して、HCMV gHgLgO三量体のPDGFRα又はTGFβR3への結合の減少を引き起こす。
【0081】
A.PDGFRαとHCMV gHgLgO三量体との間の相互作用のモジュレーター
i.HCMV gHgLgO三量体に結合するモジュレーター
いくつかの態様では、本開示は、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)gHgLgO三量体のgOサブユニットと、PDGFRαとの間の相互作用のモジュレーターであって、gOサブユニットのグリコシル化フリー表面に結合してPDGFRαへのgOサブユニットの結合の減少を引き起こすモジュレーターを特徴とする。
【0082】
いくつかの態様では、モジュレーターは、(a)gOサブユニットの残基R230、R234、V235、K237及びY238のうちの1つ条(例えば、R230、R234、V235、K237及びY238のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つ全て)、(b)gOサブユニットの残基N81、L82、M84、M86、F109、F111、T114、Q115、R117、K121及びV123のうちの1つ以上(例えば、N81、L82、M84、M86、F109、F111、T114、Q115、R117、K121及びV123のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10個又は11個全て)、並びに(c)gOサブユニットの残基R336、Y337、K344、D346、N348、E354及びN358のうちの1つ(例えば、R336、Y337、K344、D346、N348、E354及びN358のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、又は7つ全て)に結合する。
【0083】
いくつかの態様では、本開示は、HCMV gHgLgO三量体のgOサブユニットと、PDGFRαとの間の相互作用のモジュレーターであって、(a)gOサブユニットの残基R230、R234、V235、K237及びY238のうちの1つ条(例えば、R230、R234、V235、K237及びY238のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つ全て)、(b)gOサブユニットの残基N81、L82、M84、M86、F109、F111、T114、Q115、R117、K121及びV123のうちの1つ以上(例えば、N81、L82、M84、M86、F109、F111、T114、Q115、R117、K121及びV123のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10個又は11個全て)、並びに(c)gOサブユニットの残基R336、Y337、K344、D346、N348、E354及びN358のうちの1つ(例えば、R336、Y337、K344、D346、N348、E354及びN358のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、又は7つ全て)に結合し、PDGFRαへのgOサブユニットの結合の減少を引き起こすモジュレーターを特徴とする。
【0084】
いくつかの態様では、モジュレーターは、gOサブユニットの残基R230、R234、V235、K237、Y238、N81、L82、M84、M86、F109、F111、T114、Q115、R117、K121、V123、R336、Y337、K344、D346、N348、E354及びN358の23個全てに結合する。
【0085】
いくつかの態様では、モジュレーターは、HCMVのgHサブユニットの残基R47、Y84及びN85のうちの1つ以上(例えば、R47、Y84及びN85のうちの1つ、2つ又は3つ全て)に更に結合する。いくつかの態様では、モジュレーターは、PDGFRαへのgHサブユニットの結合の減少を更に引き起こす。
【0086】
いくつかの態様では、モジュレーターは、小分子、抗体若しくはその抗原結合断片、ペプチド、模倣物、又は阻害性核酸(例えば、ASO又はsiRNA)である。モジュレーターについては、以下で更に説明する。
【0087】
いくつかの態様では、抗体は二重特異性抗体又は多重特異性抗体である。いくつかの態様では、二重特異性抗体又は多重特異性抗体は、gOサブユニットの少なくとも3つの別個のエピトープに結合する。いくつかの態様では、少なくとも3つの別個のエピトープは、(a)gOサブユニットの残基R230、R234、V235、K237及びY238のうちの1つ以上を含む第1のエピトープと、(b)gOサブユニットの残基N81、L82、M84、M86、F109、F111、T114、Q115、R117、K121及びV123のうちの1つ以上を含む第2のエピトープと、(c)gOサブユニットの残基R336、Y337、K344、D346、N348、E354及びN358のうちの1つ以上を含む第3のエピトープとを含む。
【0088】
いくつかの態様では、モジュレーターはPDGFRαの模倣物である。
【0089】
ii.PDGFRαを結合するモジュレーター
いくつかの態様では、本開示は、HCMV gHgLgO三量体のgOサブユニットと、PDGFRαとの間の相互作用のモジュレーターであって、PDGFRαのD1ドメイン、D2ドメイン、及びD3ドメインに結合し、PDGFRαへのgOサブユニットの結合の減少を引き起こすモジュレーターを特徴とする。
【0090】
いくつかの態様では、モジュレーターは、(a)PDGFRαの残基N103、Q106、T107、E108及びE109のうちの1つ以上(例えば、N103、Q106、T107、E108及びE109のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つ全て)、(b)PDGFRαの残基M133、L137、I139、E141、I147、S145、Y206及びL208のうちの1つ以上(例えば、M133、L137、I139、E141、I147、S145、Y206及びL208のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ又は8つ全て);並びに(c)PDGFRαのN240、D244、Q246、T259、E263及びK265の1つ以上(例えば、N240、D244、Q246、T259、E263及びK265のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ全て)に結合する。
【0091】
いくつかの態様では、本開示は、HCMV gHgLgO三量体のgOサブユニットと、PDGFRαとの間の相互作用のモジュレーターであって、(a)PDGFRαの残基N103、Q106、T107、E108及びE109のうちの1つ以上(例えば、N103、Q106、T107、E108及びE109のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つ全て)、(b)PDGFRαの残基M133、L137、I139、E141、I147、S145、Y206及びL208のうちの1つ以上(例えば、M133、L137、I139、E141、I147、S145、Y206及びL208のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ又は8つ全て);並びに(c)PDGFRαの残基N240、D244、Q246、T259、E263及びK265のうちの1つ以上(例えば、N240、D244、Q246、T259、E263及びK265のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ全て)に結合し、PDGFRαに対するgOサブユニットの結合の減少を引き起こすモジュレーターを特徴とする。
【0092】
いくつかの態様では、モジュレーターは、PDGFRαの残基N103、Q106、T107、E108、E109、M133、L137、I139、E141、I147、S145、Y206、L208、N240、D244、Q246、T259、E263及びK265の19個全てに結合する。
【0093】
いくつかの態様では、モジュレーターは、PDGFRαの残基E52、S78及びL80のうちの1つ以上に更に結合する。いくつかの態様では、モジュレーターは、PDGFRαへのgHサブユニットの結合の減少を更に引き起こす。
【0094】
いくつかの態様では、モジュレーターは、小分子、抗体若しくはその抗原結合断片、ペプチド、模倣物、又は阻害性核酸(例えば、ASO又はsiRNA)である。モジュレーターについては、以下で更に説明する。
【0095】
いくつかの態様では、抗体は二重特異性抗体又は多重特異性抗体である。いくつかの態様では、二重特異性抗体又は多重特異性抗体は、PDGFRαの少なくとも3つの別個のエピトープに結合する。いくつかの態様では、少なくとも3つの別個のエピトープは、(a)PDGFRαの残基N103、Q106、T107、E108及びE109のうちの1つ以上を含む、第1のエピトープと、(b)PDGFRαの残基M133、L137、I139、E141、I147、S145、Y206及びL208のうちの1つ以上を含む第2のエピトープと、(c)PDGFRαの残基N240、D244、Q246、T259、E263及びK265の1つ以上を含む第3のエピトープ、を含む。
【0096】
いくつかの態様では、モジュレーターは、HCMV gHgLgO三量体のgOサブユニットの模倣物である。
【0097】
iii.結合及び/又は感染の減少
いくつかの態様では、モジュレーターは、HCMV gHgLgO三量体の前記gOサブユニットの、PDGFRαへの結合を少なくとも50%減少させる。いくつかの態様では、結合の減少は、モジュレーターの非存在下での結合に対して、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%、又は100%(すなわち、結合が消失する)であり、例えば、減少は、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%又は95%-100%である。いくつかの態様では、モジュレーターは、HCMV三量体のgOサブユニットの、PDGFRαへの結合を少なくとも90%減少させる。いくつかの態様では、結合の減少は、例えば、表面プラズモン共鳴、バイオレイヤー干渉法、又は酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって測定して、少なくとも50%である。
【0098】
いくつかの態様では、モジュレーターは、HCMV gHgLgO三量体の前記gOサブユニットの、TGFβR3への結合を少なくとも50%減少させる。いくつかの態様では、結合の減少は、モジュレーターの非存在下での結合に対して、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%、又は100%(すなわち、結合が消失する)であり、例えば、減少は、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%又は95%-100%である。いくつかの態様では、モジュレーターは、HCMV三量体のgOサブユニットの、TGFβR3への結合を少なくとも90%減少させる。いくつかの態様では、結合の減少は、例えば、表面プラズモン共鳴、バイオレイヤー干渉法、又は酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって測定して、少なくとも50%である。
【0099】
いくつかの態様では、モジュレーターは、前記モジュレーターの非存在下での感染と比較して、HCMVによる細胞の感染の減少を引き起こす。いくつかの態様では、偽型粒子を使用するウイルス感染アッセイ又はウイルス侵入アッセイで測定される場合、感染は少なくとも40%減少する。いくつかの態様では、減少は、少なくとも 5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%若しくは99%であるか、又は100%(すなわち、感染は起こらない)であり、例えば、減少は、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%又は95%~100%)である。
【0100】
いくつかの態様では、モジュレーターは、下流シグナル伝達を誘発するPDGFRαの領域との結合が最小限であるか、又は下流シグナル伝達を誘発するPDGFRαの領域に結合しない。いくつかの態様では、下流シグナル伝達を誘発するPDGFRαの領域はPDGFの結合部位である。いくつかの態様では、モジュレーターは、下流のシグナル伝達を誘発するPDGFRαの領域へのPDGFRαリガンドの結合を立体的に妨害しないか、又は立体障害は最小であり、例えばPDGFRαへのPDGFの結合を立体的に妨害しないか、又は立体障害は最小である。
【0101】
いくつかの態様では、モジュレーターは、モジュレーターの非存在下でのシグナル伝達と比較して、PDGFRαによるシグナル伝達の20%未満の減少を引き起こす。いくつかの態様では、モジュレーターは、モジュレーターの非存在下でのシグナル伝達と比較して、PDGFRαによるシグナル伝達において5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、又は95%未満の減少を引き起こす(例えば、モジュレーターの非存在下でのシグナル伝達と比較して、PDGFRαによるシグナル伝達の0%~5%、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、又は85~95%の減少を引き起こす)。いくつかの態様では、モジュレーターは、モジュレーターの非存在下でのシグナル伝達と比較して、PDGFRαによるシグナル伝達の減少を引き起こさない。
【0102】
いくつかの態様では、モジュレーターは、薬学的に許容され得る担体を含む。
【0103】
B.TGFβR3とHCMV gHgLgO三量体との間の相互作用のモジュレーター
i.HCMV gHgLgO三量体に結合するモジュレーター
いくつかの態様では、本開示は、HCMV gHgLgO三量体と、(a)HCMV gHgLgO三量体のgOサブユニットの残基Q115、L116、R117及びK118のうちの1つ以上(例えば、Q115、L116、R117及びK118のうちの1つ、2つ、3つ又は4つ全て)、(b)HCMV gHgLgO三量体のgOサブユニットの残基Y188及びP191の一方又は両方、並びにHCMV三量体のgLサブユニットの残基N97;(c)HCMV gHgLgO三量体のgLサブユニットの残基T92及びE94の一方又は両方に結合し、TGFβR3に対するHCMV gHgLgO三量体の結合の減少を引き起こす、TGFβR3との間の相互作用のモジュレーターを特徴とする。
【0104】
いくつかの態様では、モジュレーターは、小分子、抗体若しくはその抗原結合断片、ペプチド、模倣物、又は阻害性核酸(例えば、ASO又はsiRNA)である。いくつかの態様では、抗体は二重特異性抗体又は多重特異性抗体である。
【0105】
ii.TGFβR3を結合するモジュレーター
いくつかの態様では、本開示は、HCMV gHgLgO三量体と、(a)TGFβR3の残基V135、Q136、F137及びS143のうちの1つ又は複数(例えば、V135、Q136、F137、及びS143のうちの1つ、2つ、3つ、又は4つ全て)、(b)TGFβR3の残基R151、N152及びE167のうちの1つ以上;並びに(c)TGFβR3の残基W163及びK166の一方又は両方に結合し、TGFβR3に対するHCMV gHgLgO三量体の結合の減少を引き起こすTGFβR3との間の相互作用のモジュレーターを特徴とする。
【0106】
いくつかの態様では、モジュレーターは、小分子、抗体若しくはその抗原結合断片、ペプチド、模倣物、又は阻害性核酸(例えば、ASO又はsiRNA)である。いくつかの態様では、抗体は二重特異性抗体又は多重特異性抗体である。
【0107】
iii.結合及び/又は感染の減少
いくつかの態様では、モジュレーターは、HCMV gHgLgO三量体の前記gOサブユニットの、TGFβR3への結合を少なくとも50%減少させる。いくつかの態様では、結合の減少は、モジュレーターの非存在下での結合に対して、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%、又は100%(すなわち、結合が消失する)であり、例えば、減少は、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%又は95%-100%である。いくつかの態様では、モジュレーターは、HCMV三量体のgOサブユニットの、TGFβR3への結合を少なくとも90%減少させる。いくつかの態様では、結合の減少は、例えば、表面プラズモン共鳴、バイオレイヤー干渉法、又は酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって測定して、少なくとも50%である。
【0108】
いくつかの態様では、モジュレーターは、HCMV gHgLgO三量体の前記gOサブユニットの、PDGFRαへの結合を少なくとも50%減少させる。いくつかの態様では、結合の減少は、モジュレーターの非存在下での結合に対して、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、若しくは99%、又は100%(すなわち、結合が消失する)であり、例えば、減少は、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%又は95%-100%である。いくつかの態様では、モジュレーターは、HCMV三量体のgOサブユニットの、PDGFRαへの結合を少なくとも90%減少させる。いくつかの態様では、結合の減少は、例えば、表面プラズモン共鳴、バイオレイヤー干渉法、又は酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって測定して、少なくとも50%である。
【0109】
いくつかの態様では、モジュレーターは、前記モジュレーターの非存在下での感染と比較して、HCMVによる細胞の感染の減少を引き起こす。いくつかの態様では、偽型粒子を使用するウイルス感染アッセイ又はウイルス侵入アッセイで測定される場合、感染は少なくとも40%減少する。いくつかの態様では、減少は、少なくとも 5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%若しくは99%であるか、又は100%(すなわち、感染は起こらない)であり、例えば、減少は、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%又は95%~100%)である。
【0110】
いくつかの態様では、モジュレーターは、薬学的に許容され得る担体を含む。
【0111】
C.小分子
いくつかの態様では、モジュレーター又は候補モジュレーターは小分子である。小分子は、PDGFRα(例えば、そのD1ドメイン、D2ドメイン及び/又はD3ドメイン)、TGFβR3又はHCMV gHgLgO三量体(例えば、gO及び/又はgH)に好ましくは特異的に結合し得る、本明細書で定義される結合ポリペプチド又は抗体以外の分子である。結合する小分子は、既知の方法論を使用して同定され、化学的に合成され得る(例えば、PCT公開番号WO00/00823及びWO00/39585を参照のこと)。結合する小分子のサイズは、通常約2000ダルトン未満(例えば、サイズが約2000、1500、750、500、250又は200ダルトン未満)であり、ここで、本明細書に記載のポリペプチドに好ましくは特異的に結合することができるそのような有機小分子は、既知の技術を使用して、過度の実験をすることなく同定され得る。この点については、ポリペプチド標的に結合することができる分子について小分子ライブラリをスクリーニングするための技術が当技術分野で周知であることに留意されたい(例えば、PCT公開番号WO00/00823及びWO00/39585を参照)。結合小分子は、例えば、アルデヒド、ケトン、オキシム、ヒドラゾン、セミカルバゾン、カルバジド、一級アミン、二級アミン、三級アミン、N-置換ヒドラジン、ヒドラジド、アルコール、エーテル、チオール、チオエーテル、ジスルフィド、カルボン酸、エステル、アミド、尿素、カルバメート、カーボネート、ケタール、チオケタール、アセタール、チオアセタール、アリールハロゲン化物、アリールスルホネート、アルキルハロゲン化物、アルキルスルホネート、芳香族化合物、複素環式化合物、アニリン、アルケン、アルキン、ジオール、アミノアルコール、オキサゾリジン、オキサゾリン、チアゾリジン、チアゾリン、エナミン、スルホンアミド、エポキシド、アジリジン、イソシアネート、スルホニルクロリド、ジアゾ化合物、酸塩化物等であり得る。
【0112】
いくつかの態様では、HCMV gHgLgO三量体へのPDGFRα及び/又はTGFβR3の結合は、小分子の存在下で減少する(例えば、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%減少、例えば、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%、or 95%~100%減少)。いくつかの態様では、HCMV gHgLgO三量体へのPDGFRα及び/又はTGFβR3の結合は、小分子の存在下で増加する(例えば、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、又は100%を超えて増加、例えば、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%、95%~100%、又は100%を超えて増加)。いくつかの態様では、HCMV gHgLgO三量体へのPDGFRα及び/又はTGFβR3の結合は、小分子の存在下で減少する(例えば、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%減少、例えば、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%、又は95%~100%減少)。
【0113】
D.抗体及び抗原結合断片
いくつかの態様では、モジュレーター又は候補モジュレーターは、PDGFRα、TGFβR3、及び/又はHCMV gHgLgO三量体に結合する抗体又はその抗原結合断片である。いくつかの態様では、抗原結合断片は、bis-Fab、Fv、Fab、Fab’-SH、F(ab’)、ダイアボディ、直鎖状抗体、scFv、ScFab、VHドメイン、又はVHHドメインである。
【0114】
いくつかの態様では、モジュレーターは多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体である。いくつかの態様では、モジュレーターは、HCMV gHgLgO三量体の複数のエピトープ、PDGFRαの複数のエピトープ、又はTGFβR3の複数のエピトープに結合する二重特異性又は多重特異性抗体である。いくつかの態様では、モジュレーターは、HCMV gHgLgO三量体、PDGFRα及びTGFβR3のうちの2つ又は3つ全てに結合する二重特異性抗体又は多重特異性抗体である。
【0115】
いくつかの態様では、HCMV gHgLgO三量体へのPDGFRα及び/又はTGFβR3の結合は、抗体又は抗原結合断片の存在下で減少する(例えば、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%減少、例えば、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%、or 95%~100%減少)。いくつかの態様では、HCMV gHgLgO三量体へのPDGFRα及び/又はTGFβR 3の結合は、抗体又は抗原結合断片の存在下で増加する(例えば、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、又は100%を超えて増加、例えば、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%、95%~100%、又は100%を超えて増加)。いくつかの態様では、HCMV gHgLgO三量体へのPDGFRα及び/又はTGFβR3の結合は、抗体又は抗原結合断片の存在下で減少する(例えば、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%減少、例えば、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%、又は95%~100%減少)。
【0116】
E.ペプチド
いくつかの態様では、モジュレーター又は候補モジュレーターは、PDGFRα、TGFβR3、及び/又はHCMV gHgLgO三量体に結合するペプチドである。ペプチドは、天然に存在するペプチドであり得るか、又は操作され得るペプチドであり得る。いくつかの態様では、ペプチドは、PDGFRα(例えば、そのD1ドメイン、D2ドメイン及び/又はD3ドメイン)、TGFβR3、若しくはHCMV gHgLgO三量体(例えば、gO及び/又はgH)の断片、又はPDGFRα、TGFβR3、及び/又はHCMV gHgLgO三量体に結合する別のタンパク質である。ペプチドは、完全長タンパク質と等しい、より少ない、又はより大きな親和性で結合パートナーと結合し得る。いくつかの態様では、ペプチドは完全長タンパク質の全ての機能を実行する。他の態様では、ペプチドは完全長タンパク質の全ての機能を実行するわけではない。
【0117】
いくつかの態様では、HCMV gHgLgO三量体へのPDGFRα及び/又はTGFβR3の結合は、ペプチドの存在下で減少する(例えば、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%減少、例えば、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%、or 95%~100%減少)。いくつかの態様では、HCMV gHgLgO三量体へのPDGFRα及び/又はTGFβR 3の結合は、ペプチドの存在下で増加する(例えば、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、又は100%を超えて増加、例えば、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%、95%~100%、又は100%を超えて増加)。いくつかの態様では、HCMV gHgLgO三量体へのPDGFRα及び/又はTGFβR3の結合は、ペプチドの存在下で減少する(例えば、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%減少、例えば、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%、又は95%~100%減少)。
【0118】
F.模倣物
いくつかの態様では、モジュレーター又は候補モジュレーターは、PDGFRα、TGFβR3又はHCMV gHgLgO三量体(例えば、gO及び/又はgH)に結合する模倣物、例えば分子模倣物である。模倣物は、PDGFRα(例えば、そのD1ドメイン、D2ドメイン及び/又はD3ドメイン)、TGFβR3若しくはHCMV gHgLgO三量体(例えば、gO及び/又はgH)の分子模倣物、又はPDGFRα、TGFβR3若しくはHCMV gHgLgO三量体に結合する別のタンパク質(例えば、gO及び/又はgH)であり得る。いくつかの態様では、模倣物は、模倣されたポリペプチドの全ての機能を実行し得る。他の態様では、模倣物は、模倣されたポリペプチドの全ての機能を実行するわけではない。
【0119】
いくつかの態様では、HCMV gHgLgO三量体へのPDGFRα及び/又はTGFβR3の結合は、模倣物の存在下で減少する(例えば、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%減少、例えば、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%、or 95%~100%減少)。いくつかの態様では、HCMV gHgLgO三量体へのPDGFRα及び/又はTGFβR3の結合は、模倣物の存在下で増加する(例えば、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、又は100%を超えて増加、例えば、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%、95%~100%、又は100%を超えて増加)。いくつかの態様では、HCMV gHgLgO三量体へのPDGFRα及び/又はTGFβR3の結合は、模倣物の存在下で減少する(例えば、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%減少、例えば、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%、又は95%~100%減少)。
【0120】
G.タンパク質間相互作用の調節のためのアッセイ
いくつかの態様では、候補モジュレーターの存在下又は非存在下でのPDGFRα又はTGFβR3及びHCMV gHgLgO三量体の結合が、タンパク質-タンパク質相互作用についてのアッセイで評価される。相互作用の調節は、モジュレーターの非存在下でのタンパク質-タンパク質相互作用と比較した、モジュレーターの存在下でのタンパク質-タンパク質相互作用の増加、例えば、タンパク質-タンパク質相互作用の5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、80%、90%、95%、100%、又は100%超(例えば、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%、95%~100%、又は100%超)の増加として同定され得る。あるいは、調節は、モジュレーターの非存在下でのタンパク質-タンパク質相互作用と比較した、モジュレーターの存在下でのタンパク質-タンパク質相互作用の減少、例えば、タンパク質-タンパク質相互作用の5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、80%、90%、95%、又は100%(例えば、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%、又は95%~100%)の減少として同定され得る。タンパク質間相互作用のアッセイは、例えば、SPRアッセイ、バイオレイヤー干渉法(BLI)アッセイ、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、細胞外相互作用アッセイ、又は細胞表面相互作用アッセイであり得る。
【0121】
タンパク質-タンパク質相互作用のモジュレーター、並びにそのような相互作用を調節し得る薬剤を同定するための例示的な方法は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるPCT/US2020/025471に記載されている。
【0122】
IV.HCMV感染を処置又は予防する方法
A.HCMV感染を有する個体を処置する方法
いくつかの態様では、本開示は、個体におけるHCMV感染を処置する方法であって、有効量の本明細書に記載のモジュレーター(例えば、HCMV gHgLgO三量体のgOサブユニットとPDGFRαとの間の相互作用のモジュレーター及び/又はHCMV gHgLgO三量体とTGFβR3との間の相互作用のモジュレーター)を個体に投与し、それにより個体を処置することを含む方法を特徴とする。いくつかの態様では、個体は、免疫無防備状態であるか、妊娠しているか、又は乳児である。
【0123】
いくつかの態様では、HCMV感染の持続期間又は重症度は、モジュレーターを投与されていない個体と比較して少なくとも40%減少する。いくつかの態様では、HCMV感染の持続期間又は重症度は、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、80%、90%、95%、又は100%(例えば、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%、又は95%~100%)減少する。
【0124】
B.HCMV感染又は二次感染を予防する方法
いくつかの態様では、本開示は、個体におけるHCMV感染を予防する方法であって、有効量の本明細書に記載のモジュレーター(例えば、HCMV gHgLgO三量体のgOサブユニットとPDGFRαとの間の相互作用のモジュレーター及び/又はHCMV gHgLgO三量体とTGFβR3との間の相互作用のモジュレーター)を個体に投与し、それにより個体におけるHCMV感染を予防することを含む方法を特徴とする。
【0125】
いくつかの態様では、モジュレーターは、モジュレーターの非存在下での感染と比較して、個体におけるHCMV感染の可能性を低下させる。いくつかの態様では、HCMV感染の可能性、程度、又は重症度は、未処置患者と比較して、又は対照方法(例えば、SOC)を使用して処置された患者と比較して、上述の方法に従って処置された患者において、例えば、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%(例えば、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%、又は95%~100%減少)減少する。
【0126】
いくつかの態様では、本開示は、個体(例えば、HCMV感染を有する個体)における二次HCMV感染の予防方法であって、有効量の本明細書に記載のモジュレーター(例えば、HCMV gHgLgO三量体のgOサブユニットとPDGFRαとの間の相互作用のモジュレーター及び/又はHCMV gHgLgO三量体とTGFβR3との間の相互作用のモジュレーター)を個体に投与し、それにより個体における二次HCMV感染を予防することを含む方法を特徴とする。いくつかの態様では、二次感染は、非感染組織のHCMVによる感染である。
【0127】
いくつかの態様では、モジュレーターは、モジュレーターの非存在下での二次感染と比較して、個体における二次HCMV感染の可能性を低下させる。いくつかの態様では、二次HCMV感染の可能性、程度、又は重症度は、未処置患者と比較して、又は対照方法(例えば、SOC)を使用して処置された患者と比較して、上述の方法に従って処置された患者において、例えば、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%(例えば、5%~15%、15%~25%、25%~35%、35%~45%、45%~55%、55%~65%、65%~75%、75%~85%、85%~95%、又は95%~100%減少)減少する。
【0128】
C.併用療法
上記の処置及び予防方法のいくつかの態様では、方法は、個体に少なくとも1つの追加の治療法(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、又は4つを超える追加の治療法)を投与することを含む。PDGFRα又はTGFβR3とHCMV gHgLgO三量体との間の相互作用のモジュレーターは、少なくとも1つの追加の治療法の前、少なくとも1つの追加の治療法と同時に、又は少なくとも1つの追加の治療法の後に個体に投与され得る。
【0129】
D.送達の方法
本明細書に記載の方法において利用される組成物(例えば、PDGFRα又はTGFβR3とHCMV gHgLgO三量体との間の相互作用のモジュレーター、例えば、小分子、抗体、抗原結合断片、ペプチド、模倣物、アンチセンスオリゴヌクレオチド、又はsiRNA)は任意の適切な方法で投与することができ、これには限定されないが、例えば、静脈内に、筋肉内に、皮下に、皮内に、経皮的に、動脈内に、腹腔内に、病変内に、頭蓋内に、関節内に、前立腺内に、胸膜内に、気管内に、髄腔内に、鼻腔内に、腟内に、直腸内に、局所的に、腫瘍内に、腹膜に、結膜下に、小胞内に、粘膜に、心膜内に、臍帯内に、眼内に、眼窩内に、経口的に、経皮的に、硝子体内に(例えば、硝子体内注射により)、点眼により、吸入により、注射により、移植により、注入により、持続注入により、標的細胞を直接的に浸す局所灌流により、カテーテルにより、洗浄により、クリームに入れて、又は脂質組成物に入れて、を含む任意の好適な方法により投与され得る。本明細書に記載の方法で利用される組成物はまた、全身的又は局所的に投与することができる。投与方法は、様々な因子(例えば、投与される化合物又は組成物、及び処置される症状、疾患、又は障害の重症度)に応じて変化し得る。いくつかの態様では、タンパク質間相互作用のモジュレーターは、静脈内に、筋肉内に、皮下に、局所に、経口で、経皮的に、腹腔内に、眼窩内に、移植により、吸入により、髄腔内に、脳室内に、又は鼻腔内に投与される。投薬は、その投与が短期か又は長期かに部分的に依存して、任意の適切な経路、例えば、静脈内又は皮下注射等の注射により行うことができる。本明細書では、単回投与又は様々な時点にわたる複数回投与、ボーラス投与、パルス注入を含むがこれらに限定されない様々な投与スケジュールが企図される。
【0130】
本明細書に記載されるタンパク質間相互作用のモジュレーター(及び任意の付加的治療剤)は、良好な医学的実践と一致する様式で製剤化され、投薬され、投与され得る。この文脈において考慮すべき要因には、処置される特定の障害、処置される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床的症状、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジューリング、及び医師に公知な他の要因が含まれる。モジュレーターは、必要ではないが、任意に、問題の障害を予防又は処置するために現在使用されている1つ以上の薬剤と共に製剤化され、及び/又は同時に投与される。このような他の薬剤の有効量は、製剤中に存在するモジュレーターの量、障害又は処置のタイプ、及び上述の他の因子に依存する。これらは、一般に、本明細書に記載のものと同投与量及び投与経路によって、又は本明細書に記載の投与量の約1~99%、又は適切であると経験的/臨床的に判断される任意の投与量及び任意の経路で使用される。
【0131】
本明細書で引用された全ての特許、特許公報及び参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0132】
V.実施例
実施例1.HCMV三量体gHgLgOの構造
HCMV gHgLgO三量体構造の特徴付けは、その柔軟性、伸長性、及びその多数のグリコシル化部位のために過去に困難であることが証明されており、高解像度に回折する結晶の形成を妨げる可能性がある(Ciferri et al.,Proc Natl Acad Sci U S A,112:1767-1772,2015)。gHgLgO複合体とも呼ばれるHCMV三量体の高分解能構造を決定するために、gHgLgO複合体の可溶性領域をExpi293細胞で組換え発現させ、複合体を高純度に精製した(図8A)。以前の報告と一致して、HCMV gH、gL及びgOをジスルフィド結合によって共有結合させ、SDS-PAGE(図8B)によって単一バンドとして泳動した(Ciferri et al.,Proc Natl Acad Sci U S A,112:1767-1772,2015)。gHgLgO複合体のサイズ、形状及び柔軟性による制限を克服するために、本発明者らは、gH特異的中和モノクローナル抗体(mAb)13H11及びMsl-109(図8A~8I)の断片抗原結合(Fab)領域でgHgLgOを再構成した後のcryoEM及び単一粒子分析に注目した(Macagno et al.,J Virol,84:1005-1013,2010;Fouts et al.,Proc Natl Acad Sci U S A,111:8209-8214,2014)。両方のFabの結合は、gHgLgO複合体のサイズ、安定性及び寸法を増加させ、高分解能cryoEM調査を促進した(図8C及び図8D)。2Dクラス平均は、二次構造特徴及び異なる配向(図8D)における粒子整列を含む高度の詳細を示した。さらに、2Dクラス及び3D ab-initio体積の二量体gHgLgO粒子の亜集団が認められた(図8D及び8E)。二量体gHgLgO粒子は、界面にわずかな小さな接触領域を有する対向する方向に頭尾部を配向させた。頭尾配向は、複合体の対向する末端におけるウイルス膜の位置決めを示唆しており、したがって生理学的に関連する可能性は低いと思われる。単量体gHgLgO複合体の周りにマスクを使用することにより、約2.9Åの分解能まで拡張したgHgLgO-13H11-Msl-109複合体の高分解能構造を決定した(図1A及び図8F~8I及び表1)。この複合体を3つの部分領域に分割して、収束ローカルリファインメントにおいて特異的マスクを使用してgHgLgO-13H11-Msl-109分子全体にわたってマップ品質を更に改善した(図8F)。収束3D再構築の組み合わせにより、構造を構築し、配列をgH、gL及びこれまで未知であったgOサブユニットの大部分、並びに両方のFabの可変ドメイン(Fv)に割り当てることが可能になった(図1A及び1B)。
【表1】
【0133】
HCMV三量体gHgLgOの全体構造は、長さ170Å及び幅70Åの相対寸法を有するブーツ様構造をとる(図1B)。3つのサブユニットは線形順序で相互作用し、gHのC末端はHCMVウイルス膜の最も近位に配向し、gOは受容体結合のための分子の遠位端を指す(図1A及び1B)。gLサブユニットは、複合体の中心でgH及びgOサブユニットを架橋する(図1A及び1B)。静電表面電荷は、複合体の近位gH領域に負電荷クラスタ及び遠位gO領域に正電荷クラスタを有するgHgLgO複合体にわたって非対称に分布する(図1C)。同様に、観察された22個のN結合型グリコシル化部位は、gH上に5個、gL上に1個及びgO上に16個を有するgHgLgO複合体に沿って非対称に分布している。注目すべきことに、遠位gO領域、特に複合体全体の裏側に沿ってグリコシル化残基の濃縮が存在する(図1D)。対照的に、三量体複合体の前側は、3つ全てのサブユニットにおいてグリコシル化残基を欠いているようである(図1D)。このような表面電荷及びグリコシル化の非対称分布は、受容体相互作用及びgBのプレフュージョン立体配座との潜在的な相互作用に重要な意味を有し、したがって抗ウイルス戦略の設計を知らせるために使用することができる。
【0134】
タンパク質の発現及び精製。
ヒトヘルペスウイルス5、gH(1~716)、gL及びgO(gH及びgLについてはHCMV株Merlin、並びにgOについてはVR1814株)の最適化されたコードDNAをそれぞれ、CMVプロモーターの後ろのpRKベクターにクローニングした。C末端のMyc-Avi-HisタグをgHに付加し、C末端のTwin-StrepタグをgOに付加した。
【0135】
懸濁液中のExpi293細胞を、SMM 293T-I培地中、5%CO下、37℃で培養し、細胞密度が4×10細胞/mlに達したとき、gHgLgO発現のためDNAを1:1:1の比で含むポリエチレンイミン(PEI)を用いてトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を7日間培養した後、発現上清を回収した。
【0136】
HCMV三量体gHgLgOを以下のように精製した。35lの発現体積に対応する発現上清をタンジェンシャルフロー濾過(TFF)によって1~2lの体積に濃縮し、20mlのNi Sepharose Excel(cytiva)樹脂にロードし、13カラム体積(CV)の洗浄緩衝液(30mM TRIS(pH8.0)、250mM NaCl、5%グリセロール、20mMイミダゾール)で洗浄し、5 CV溶出緩衝液(30mM TRIS(pH8.0)、250mM NaCl、5%グリセロール、400mMイミダゾール)で溶出した。溶離液を3mlのStrep-Tactin XT高親和性樹脂(IBA)に適用し、2時間結合させた。樹脂を10CV Strep-wash緩衝液(25mM HEPES(pH7.5)、300mM NaCl、5%グリセロール)で洗浄し、50 mMビオチンを補充したStrep-wash緩衝液中でビーズから溶出した。溶出液をAMICON(登録商標)Ultra遠心フィルタデバイス(30kDa分子量カットオフ(MWCO))で濃縮し、三量体-SEC緩衝液(25mM HEPES(pH7.5)、300mM NaCl、5%グリセロール)で平衡化したSuperdex 200 10/300又は10/60カラムにロードした。
【0137】
Fab Msl-109の重鎖及び軽鎖を、リン酸制限培地(C.R.A.P)中、30℃で20時間、大腸菌(E.coli)34B8細胞においてphoAプロモーター下で共発現させた。1Lの発現量からのペレットを、Rocheプロテアーゼ阻害剤の錠剤が補充された70mlの溶解緩衝液(1×PBS、25mM EDTA)に再懸濁し、超音波処理によって溶解した。溶解物を25,000×gで1時間の遠心分離によって清澄化し、続いて0.45μmフィルタにかけた。清澄化した溶解物を、溶解緩衝液中で平衡化した5mlのHiTrap Protein G HP(cytiva)カラムにロードした。カラムを10-20 CV溶解緩衝液で洗浄し、0.58%(v/v)酢酸で溶出した。SP-A緩衝液(20mM MES、pH5.5)の添加によって溶出液のpHを直ちに調整し、5ml HiTrap SP HP陽イオン交換クロマトグラフィーカラム(cytiva)にロードした。SP-B緩衝液(20mM MES(pH5.5)、500mM NaCl)に対して線形20 CV勾配でFabを溶出した。溶出液をAMICON(登録商標)Ultra Centrifugalフィルタデバイス(10kDa MWCO)を用いて濃縮し、Fab-S200バッファー(25mM Tris(pH7.5)、300mM NaCl)で平衡化したSuperdex 200 10/300カラムで更に精製した。精製したFabをAMICON(登録商標)Ultra遠心フィルタデバイス(10kDa MWCO)で濃縮し、液体窒素で凍結し、-80℃で保存した。13H11抗体を前述のように精製した(Ciferri et al.,PLoS Pathog,11:e1005230,2015)。
【0138】
ヒト受容体タンパク質によるHCMV gHgLgO三量体の再構成及びFabの中和
18.3μMのgHgLgO(300μg)と、30μMの過剰なFab 13H11(150μg)及び30μMのMsl-109(150μg)とを氷上で30分間インキュベートすることによって、gHgLgO-13H11-Msl-109複合体を組み立てた。SEC-reconst-1緩衝液(25mM HEPES(pH7.5)、200mM NaCl)で平衡化したSuperose 6 3.2/300カラムでの精製によって過剰のFabを除去した。cryo-EM試料調製のために、gHgLgO-13H11-Msl-109の主ピーク画分をSEC-reconst-1緩衝液で0.4mg/mlの濃度に希釈した。
【0139】
Cryo-EM試料調製及びデータ取得
gHgLgO-13H11-Msl-109複合体を、以下に記載されるようにして調製した。Solarus(商標)プラズマ洗浄器(Gatan)を使用して、Holey carbon grid(Au/Pd 80/20で被覆されたC-Flat 45nm R 1.2/1.3 300メッシュ;Protochips)を10秒間グロー放電させた。複合体を0.025%EMグレードのグルタルアルデヒドで室温にて10分間穏やかに架橋し、9mM Tris、pH7.5でクエンチした。3μlの試料(ここでは約0.4mg/ml)をグリッドに適用した。グリッドを、湿度100%の2.5秒のブロッティング時間を使用してVitrobot Mark IV(Thermo Fisher)でブロッティングし、液体窒素で冷却した液体エタン中で急冷した。
【0140】
K2 Summit直接電子検出器カメラ(Gatan)を備えた生物量子エネルギーフィルタを有する300keVで動作するTitan Kriosで、SerialEMを使用してムービースタックを収集した(Mastronarde et al.,J Struct Biol.Oct;152(1):36-51,2005)。画像は、20eVのエネルギースリットを使用して、ピクセルあたり0.824Åに相当する165,000倍の倍率で記録した。各画像スタックは、約50eÅ-2の蓄積線量及び10秒の総露光時間に対して0.2秒ごとに記録された50個のフレームを含む。0.5~1.5μmの設定された焦点ずれ範囲で画像を記録した。
【0141】
Cryo-EMデータ処理
RELION(Scheres,J Struct Biol.,180(3):519-30,2012)及びcisTEM(Grant et al.,Elife,7(7):e35383,2018)ソフトウェアパッケージの組み合わせを使用して、Cryo-EMデータを処理した。
【0142】
gHgLgO-13H11-Msl-109複合体について、合計14,717本の動画を、RELIONにおけるMotionCor2(Zheng et al.,Nat Methods,14(4):331-332,2017)実装を使用してフレーム動きについて補正し、コントラスト伝達関数パラメータを、CTFFIND-4(Rohou and Grigorieff,J Struct Biol.,192(2):216-2,2015)を用いてスペクトルの30~4.5Å帯域を使用して適合させた。最初のab-initio 3D再構成の生成のために、4Åよりも良好な検出された適合分解能に基づいて画像をフィルタにかけた。cisTEM内のサーキュラーブロブ選別ツールを使用して、合計974,766個の粒子を選別した。粒子を2ラウンドのcisTEM 2D分類で選別して、最良に整列する粒子を選択し、313,196個の粒子を得た。これらの粒子を、3つの標的体積を有するcisTEM内でab-initio生成に供した。単一のHCMV三量体に対応する体積を、単一の(単量体)gHgLgO-13H11-Msl-109複合体の周りにマスクを用い、マスクの外側にローパスフィルタ(LPF)を適用することによって、cisTEM自動リファイン及びマニュアルリファインメントの基準として使用した。このマップを、高解像度3Dリファインメントの3D基準として使用した。
【0143】
gHgLgO-13H11-Msl-109複合体の高分解能3D再構成の生成のために、CTF適合画像を、6Åより良好な検出された適合分解能に基づいてフィルタにかけた。30ÅローパスフィルタにかけたgHgLgO-13H11-Msl-109複合体参照構造を用いて、gautomatch(MRC Laboratory of Molecular Biology)によるテンプレートマッチングによって合計1,478,640個の粒子を採取した。RELION 2D分類中に粒子を選別し、選択した1,350,211個の粒子を3DリファインメントのためにcisTEMにインポートした。gHgLgO-13H11-Msl-109 3D再構成は、単一(モノマー)gHgLgO-13H11-Msl-109複合体の周りのマスクを用い、マスクの外側にローパスフィルタ(LPF)を適用し(フィルタ分解能20Å)、スコア閾値を0.25にすることによって自動リファイン及びマニュアルリファインメントを行った後に得られた。これにより、外側重量は、反復的なマニュアルリファインメントメントラウンドで0.5から0.15に徐々に減少した。三次元再構成は、2.9Å(フーリエシェル相関(FSC)=0.143、cisTEMで測定)のマップ分解能に収束した。マップの品質を改善するために、マスクを使用してマップを3つの別個の領域に分割した後に収束リファインメントを取得し、上述のようにマスクの外側のマニュアルリファインメントメントローパスフィルタ(LPF)を取得した。以下のパラメータ:8Åの分解能からの平坦化、逆空間の原点から-90Åの事前カットオフB因子の適用、及び性能指数フィルタ(Rosenthal and Henderson,J Mol Biol.,333(4):721-45,2003)の適用を用いて、集束マップをcisTEMで鮮明にした。モデル構築及び図面作成のために、phenix combine_focused_mapsを使用して、3つの個々の収束3Dマップから合成マップを生成した。
【0144】
モデル構築及び構造解析
HCMV五量体構造(Chandramouli et al.,Sci Immunol,2:eaan1457,2017)のgH及びgLサブユニットを剛体としてcryo-EMマップに当てはめた。gOサブユニットを高解像度cryo-EMマップにde-novoで構築した。得られたモデルを剛体としてcryo-EMマップに当てはめた。広範な再構築及びマニュアル調整の後、phenix.real_space_refinement(Afonine et al.,Acta Crystallogr D Struct Biol,74(Pt 9):814-840,2018)ツールを使用して複数回の実空間精密化を使用して、初期モデルとマップとの間のグローバル構造差を補正した。モデルの構築及びphenixでの実空間のリファインメントの反復ラウンドを通して、Coot(Emsley et al.,Acta Crystallogr D Biol Crystallogr.,66(Pt 4):486-501,2010)でモデルをさらにマニュアルで調整した。モデルを、MolProbityスコアリング(Williams et al.,Protein Sci.,27(1):293-315,2018)を組み込んだphenix.validation_cryoem(Afonine et al.,Acta Crystallogr D Struct Biol.,74(Pt 9):814-840,2018)を使用して検証した。図は、PyMOL(The PyMOL Molecular Graphics System,v.2.07 Schrodinger,LLC)、UCSF ChimeraX(Goddard et al.,Protein Sci.,27(1):14-25,2018)を使用して作成した。3 D相同性構造解析を、DALIサーバ(Holm,Methods Mol Biol.,2112:29-42,2020)を使用して行った。配列を、JalView(Waterhouse et al.,Bioinformatics,25(9):1189-91,2009)内のClustal Omega(Sievers et al.,Mol Syst Biol.,7:539,2011)を使用して整列させ、ESPript 3.0(Robert and Gouet,Nucleic Acids Res.,42(Web Server発行):W320-4,2014)を用いて例示し、続いてPDGFRα-gHgLgO-13H11-Msl-109又はTGFRβ3-gHgLgO-13H11-Msl-109構造モデルからの考察に基づいて手動で調整した。
【0145】
実施例2.HCMV三量体及び五量体特異的サブユニットのアセンブリの構造的基礎
HCMVにおける三量体及び五量体特異的集合体を媒介する構造決定因子は、未知のままである。三量体及び五量体の両方は、それらのgH及びgLサブユニットを共有するが、受容体認識を媒介する遠位サブユニットgO及びUL128~131の組成はそれぞれ異なる(Ciferri et al.,Proc Natl Acad Sci U S A,112:1767-1772,2015)。三量体では、4つのgHドメイン(DI~IV)は膜近位面から直線的に離れて延び、gH(DI)のN末端領域は、分子の膜遠位領域付近でgLを共に折り畳む(図1B及び9)。UL130特異的中和Fab 8I21に結合した三量体と五量体の結晶構造との間のgHgLサブユニットの構造比較(Chandramouli et al.,Sci Immunol,2:eaan1457,2017)は、両方の複合体(RMSD 0.7Å/582 Ca)におけるgH及びgLについてほぼ同一の構造を明らかにする(図2A)。したがって、gH及びgL上のほとんどのグリコシル化残基は、三量体構造のあまり分解されていない不規則なループ領域に見られる残基N641を除いて、三量体及び五量体について同じ方向を向いている(図2B)。
【0146】
以前、gO及びUL128/UL130/UL131Aは、gL-Cys144とのジスルフィド結合の形成を通じてgHgL上の同じ部位に結合することが確立されたが(Ciferri et al.,Proc Natl Acad Sci U S A,112:1767-1772,2015)、三量体及び五量体特異的タンパク質がどのようにして同じgL界面に対して非常に安定な相互作用を形成することができるかについての詳細は不明のままであった。三量体と五量体との間の個々のgHドメイン及びgLサブユニットの詳細な構造比較により、予想される高度の構造類似性が確認される。この全体的な類似性にもかかわらず、本発明者らは、三量体中のgO又は五量体中のUL128及びUL130サブユニットのいずれかと相互作用するgLサブユニットの最遠位端に重要な違いを観察した(図2C及び2D)。gOは、gLの周りのキャッピングクラウンとして結合し、その表面の約2400Åを覆う(図9B)。gLとgOとの間の相互作用表面は、HCMV五量体におけるgLとUl128(≒1018Å)又はUL130(≒910Å)のいずれかとの間の対応する界面よりも広い領域に及ぶ(図9B)。三量体と五量体との比較は、gLの全体的なフォールドは保存されているが、重要なCys144残基を中心とする残基の構成に違いがあることを示す。特に、三量体では、この一連の残基がループ状構造をとる(図2C)のに対して、五量体では、この領域が規則的なアルファヘリックスに折り畳まれてUL128結合を調整する(図2D)。したがって、gLは、向細胞性及び向細胞性の決定に応じて、gL C144を中心とする構造スイッチを介してgO又はUL128/UL130タンパク質の両方を認識して、HCMVウイルス表面に三量体又は五量体複合体をロードすることができるように進化した重要なアダプタータンパク質として現れる。
【0147】
実施例3.HCMV三量体及び五量体中和抗体の結合部位
HCMV研究の重要な目的は、広域中和モノクローナル抗体(mAb)の構造的基礎及び機構を理解することである。注目すべきことに、HCMV五量体及び三量体の立体配座依存的エピトープを標的とする健康なHCMV血清陽性ドナーから単離されたmAbが以前に報告されている(Macagno et al.,J Virol,84:1005-1013,2010;Falk et al.,J Infect Dis,218:876-885,2018;Nokta et al.,Antiviral Res,24:17-26,1994)。これらのうち、Msl-109及び13H11は、HCMV三量体及び五量体複合体の両方においてgHを標的とし、広範なHCMV中和が可能である(Nokta et al.,Antiviral Res,24:17-26,1994)。ここで、HCMV三量体gHgLgO-13H11-Msl-109複合体の新しい構造は、gH上の両方のFab及びそれらの対応するエピトープのFv領域を高分解能に分解する(図1A図3A図8G)。
【0148】
13H11及びMsl-109は、gHのねじれたC末端領域の対向する面に結合する。重鎖及び軽鎖の両方を使用して、13H11は、gH DII-DIIIドメインの大きなフットプリントを認識する(図3B及び3C)。具体的には、13H11重鎖は、極性相互作用を介してgH DIIドメイン上の残基R223、D241、D243に係合する(図3B、パネル1)。13H11の軽鎖は、gH-DIIドメイン上のR329、L218及びT387残基並びにgH-DIIIドメイン上の残基S553、S556、H530及びE576と極性接触を確立する(図3B、パネル2及び3)。13H11とは対照的に、Msl-109は、その重鎖を利用してgHのヒール領域を認識し、DIII-DIVドメインの比較的小さなフットプリントを認識する。Msl-109相互作用は、そのCDRと、gH-DIII及びDIVドメインの残基W 167、M 168、P 170及びD 445との間の極性接触を含む。特に、Msl-109が接触する残基は、準最適なMSL-109抗体濃度(Fouts et al.,Proc Natl Acad Sci U S A,111:8209-8214,2014)下で上皮細胞又は線維芽細胞においてHCMV VR1814ウイルスを増殖させることによって単離されたエスケープ変異位置(W167C/R、P170S/H、D445N)と同一である。gH上のFab接触領域を含む新たに確立された構造は、質量分析法(Ciferri et al.,PLoS Pathog,11:e1005230,2015)によって以前に特徴付けられた13H11及びMsl-109エピトープの知識を著しく拡大する(図10)。
【0149】
実施例4.gOの構造は、新規な折り畳みを明らかにする
gOの構造は、そのアミノ酸配列が以前に公開された構造とうまく整列しないため、最も不可解なHCMV糖タンパク質の1つである。実施例1に記載のcryo-EM構造において、gOは、1つのN末端ドメイン及び1つのC末端ドメイン(図4A)から構成される爪状の形状をとる。N末端球状ドメインは5本のベータ鎖からなり、C末端ドメインは主にアルファヘリックスである。注目すべきことに、C末端ドメインの中心の4つのアルファヘリックスは、古典的なサイトカインフォールドと高い構造的類似性を共有しており、最も近いメンバーはFLT3である(図4A~4C)。
【0150】
gOの2つのドメインは、Cys167-Cys218及びCys149-Cys141図4D)によって媒介される2つのジスルフィド架橋を介して一緒に保持され、Cys343(gO)-Cys167(gL)の間のジスルフィドを含むgOサブユニットを横切る1つの対角平面に整列する。gO中の全てのシステインは、全てのHCMV株にわたって保存されており、この構成がHCMV三量体の機能に重要であり、受容体認識に重要である可能性があることを示唆している。HCMVサブユニットの一次配列の包括的な生物情報学的配列分析は、gOが81%に等しい保存度を有する最も保存されていないエンベロープ糖タンパク質の1つであることを示した(Foglierini et al.,Front Microbiol,10:1005,2019)。注目すべきことに、新たに確立された構造へのgO保存性のマッピングは、gOの全体的な保存性は他のHCMVタンパク質よりも低いが、実際には、高度に保存されたgOの両方のドメイン上に大きな表面パッチが存在することを示す(図4E)。gOの静電表面分析により、正電荷が豊富なN末端ドメインとC末端ドメインの両方を含む広い領域が同定された(図4F)。この領域は、保存されたgO表面(図4E~4F)と重複する。注目すべきことに、gOサブユニット上のグリコシル化部位は、三量体の一方の表面にのみ不均一に分布及びクラスター化されており、gOの一方の面は完全に修飾されていない(図4G)。gOのこの保存された荷電したグリコシル化フリー表面は、受容体結合に関与する主要領域であると予測された。
【0151】
実施例5.三量体はPDGFRαとの複数の接触を確立する
PDGFRαは、最近、線維芽細胞へのウイルス侵入に必要なHCMV三量体の受容体として同定されているが(Martinez-Martin et al.,Cell,174:1158-1171 e19,2018;Kabanova et al.,Nat Microbiol,1:16082,2016;Wu et al.,PLoS Pathog,13:e1006281,2017;Wu et al.,Proc Natl Acad Sci U S A,115:E9889-E9898,2018)、PDGFRα認識の構造的基礎は不明のままである。特に、HCMV三量体は、密接に関連するPDGFRβ又はクラスIII受容体チロシンキナーゼ(RTK)の他のメンバー又は関連するVEGF受容体(FLT1、KDR、FLT4)に結合しないため、PDGFRαに対して高い親和性及び高い選択性で結合する(図5A)。選択されたヒト受容体タンパク質とのこれらの相互作用データは、以前に公開されたCell-Surface Receptor Discovery Platformの結果(図5A)からのものであった(Martinez-Martin et al.,Cell,174:1158-1171 e19,2018)。クラスIII RTKのメンバーには、PDGFRα、PDGFRβ、KIT、FMS及びFLT3が含まれ、これらの受容体の構造は、5つの細胞外Igドメインセグメント(D1~D5ドメイン)、短いシングルスパン膜貫通ドメイン及び細胞内キナーゼドメイン(図5B)からなる。HCMV三量体をFab 13H11/Msl-109及びPDGFRα D1~D5細胞外領域との複合体で再構成し、cryoEMを使用して、その構造(図11A)を約2.8Åの全体分解能まで決定した(図5C及び11A~11G)。cryo-EMマップの高解像度は、HCMV三量体-13H11-Msl109複合体の大部分及びPDGFRα D1~D3ドメインのアミノ酸配列の構築を可能にした(図11E~11F及び5C~5D)。PDGFRα D4及びD5ドメインの密度は非常に弱く、おそらくHCMV三量体との直接接触がないためであった。おそらく、PDGFRα受容体相互作用は、立体構造変化を三量体に伝播して、他のHCMV糖タンパク質(例えば、プレフュージョンgBなど)の結合を可能にするか又は不可能にし得る。しかしながら、PDGFRα結合の前後の構造を比較すると、三量体のほぼ同一の立体配座が観察され(図12D)、異なる機構がHCMV融合機構の活性化に関与している可能性があることを示唆した。
【0152】
三量体に結合した場合、PDGFRα D1~D3は、クラスIII RTKのPDGFRβ及び他のD1~D3ドメインの以前に決定された構造と同様のねじれた立体配座をとった(図12A)。PDGFRαとPDGFRβとの間の個々のD1~D3ドメインの構造比較(PDGFとの複合体で決定)により、両受容体間の高い類似性が確認される(0.7~0.8ÅのRMSD、図12B)。しかしながら、D2ドメインに沿って整列したPDGFRα及びPDGFRβ D1~D3ドメインの比較は、これら2つの構造間のD3ドメインの約105°の相対回転を示したが、D1の位置はほとんど変化しなかった(図12C)。
【0153】
PDGFRα D1~D3ドメインは、gO及びgHのN末端にわたる4つの主要な保存表面で広範な相互作用を確立した(部位1~4;図5D~5F及び表3)。具体的には、第1の主要な相互作用表面(部位1)は、鎖D1-bとD1-cとの間、及び鎖D1-dとD1-eとの間のgHのN末端及びPDGFRα D1のループ領域を含んでいた(図5D及び12E)。部位1では、PDGFRα E52は、それぞれgH R47並びにPDGFRα S78及びL80接触残基gH N85及びY84と塩橋を形成した(図5D及び12E)。部位2は、gO(図5D及び図12E)のN末端ドメインとC末端ドメインとの間の塩基性溝に結合したPDGFRα D1-fとD1-g(E108及びE109)との間の伸長ループ内の2つの酸性側鎖を有する静電的性質を有していた。部位3では、PDGFRα D2ドメインの疎水性残基(M133、L137、I139、L208、Y206)が、gOのN末端領域の疎水性溝に向かって配向していた(図5D)。部位4は、PDGFRα D3ドメインの鎖d上のE263及びK265を伴い、gO上のR336、Y337及びN358との荷電及び極性相互作用を確立した(図5D、部位4)。特に、これらの4つの主要な相互作用部位のそれぞれにおける微妙であるが独特の側鎖の違いは、まとめると、PDGFRαに結合するがPDGFRβには結合しない三量体の高い特異性を合理的に説明し得る(図12E)。PDGFRαは、構造中に観察された4つの大きな接触部位と一致して、三量体(表2及び図5G~5H)に対して低いナノモル親和性で結合した。興味深いことに、かさ高いN結合型グリカンをgH又はgO中の各個々の部位に付加することを意図した突然変異の導入は、PDGFRαの三量体への結合を有意に減少させなかった(表2及び図5G~5H)。しかしながら、変異を導入するN-グリカンの組み合わせ又は4つ全ての部位における電荷変異の導入により、PDGFRαと三量体との間の相互作用をほぼ完全に消失した(図5G)。したがって、三量体とPDGFRαとの間の広範な相互作用界面は、PDGFRαの結合を介した線維芽細胞の表面への三量体の高親和性及び高選択的な結合を促進する多数の高度に保存された残基からなった。HCMV gHgLgO三量体のPDGFRαへの結合に関与する残基を表3に示す。
【表2】
単一部位点変異(部位1:E52N、E54S;部位2:E108N、N110S;部位3:E208N、S210S;部位4:E263N、K265S)。K、解離定数;WT、野生型。
【表3】
【0154】
タンパク質の発現及び精製
ヒトPDGFRα(1~528)用に最適化されたコードDNAを、CMVプロモーターの後ろのpRKベクターにクローニングした。C末端ヒトIgG1(Fc)タグをPDGFRα構築物に付加した。懸濁液中のExpi293細胞を、SMM 293T-I培地中、5%CO下、37℃で培養し、細胞密度が4×10細胞/mlに達したとき、gHgLgO発現のためDNAを1:1:1の比で含むポリエチレンイミン(PEI)を用いてトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を7日間培養した後、発現上清を回収した。
【0155】
C末端に5つのアミノ酸を有するPDGFRα(1~524)(DDDDK)(Sino Biological)を、cryo-EM試料調製及びin vitro競合実験に使用した。凍結乾燥粉末をddH2Oに再懸濁し、AMICON(登録商標)Ultra遠心フィルタデバイス(30kDa MWCO)で濃縮し、PDGFRα-SEC緩衝液(25mM HEPES(pH7.5)、250mM NaCl)で平衡化したSuperose 6 3.2/300カラムで精製した後、HCMV三量体gHgLgO及び中和Fabで再構成した。
【0156】
HCMV gHgLgO三量体とPDGFRα及び中和Fabとの再構成
PDGFRα-gHgLgO-13H11-Msl-109複合体を、氷上で少なくとも30分間、5μM(83.3μg)のgHgLgOを過剰のPDGFRαと共に6μM(33.3μg)、Fab 13H11及びMsl-109をそれぞれ18μM(50μg)でインキュベートすることによって構築した。SEC-reconst-2緩衝液(25mM HEPES(pH7.5)、300mM NaCl)で平衡化したSuperose 6 3.2/300カラムでの精製によって過剰のFabを除去した。gHgLgO-13H11-Msl-109の主ピーク画分を合わせ、cryo-EM試料調製のために0.5mg/mlに濃縮した。
【0157】
バイオレイヤー干渉法
PDGFRαタンパク質とCMV三量体との間の相互作用を、Octet Redシステムを使用するバイオレイヤー干渉法によって分析した。組換えPDGFRαタンパク質を抗ヒトFc被覆センサー(Forte Pall)上に捕捉し、可溶性検体としてのCMV三量体への結合について試験し、PBS中でアッセイした。データを、Forte Pallソフトウェアバージョン9.0を使用して取得した。WT三量体とPDGFRα WT及び変異型タンパク質との相対的結合を比較するために、三量体を50 nM又は100nMの濃度でアッセイし、会合の終わりの結合単位をプロットした。結合速度論の推定のために、低レベルのPDGFRαタンパク質をセンサ上に捕捉した。Octet Red機器を使用してデータを取得し、続いてBiaevaluationソフトウェアバージョン4.1(GE Healthcare)を動力学的パラメータの計算に利用した。
【0158】
Cryo-EM試料調製及びデータ取得
PDGFRα-gHgLgO-13H11-Msl-109複合体を、以下に記載されるようにして調製した。Solarusプラズマ洗浄器(Gatan)を使用して、Holey carbon grid(Au/Pd 80/20で被覆されたC-Flat 45nm R 1.2/1.3 300メッシュ;Protochips)を10秒間グロー放電させた。複合体を0.025%EMグレードのグルタルアルデヒドで室温にて10分間穏やかに架橋し、9mM Tris(pH7.5)でクエンチした。3μlの試料(ここでは約0.4mg/ml)をグリッドに適用した。グリッドを、湿度100%の2.5秒のブロッティング時間を使用してVitrobot Mark IV(Thermofisher)でブロッティングし、液体窒素で冷却した液体エタン中で急冷した。
【0159】
Cryo-EMデータ処理
PDGFRα-gHgLgO-13H11-Msl-109複合体を、gHgLgO-13H11-Msl-109複合体について実施例1に記載したのと同様に処理した。MotionCor2(Zheng et al.Nat Methods,14(4):331-332,2017)実装を使用してフレーム動きに対して合計34,829個の動画を補正し、CTFFIND-4(Rohou and Grigorieff,J Struct Biol,.192(2):216-2,2015)を用いてスペクトルの30~4.5Å帯域を使用してコントラスト伝達関数パラメータを適合させた。CTF適合画像を、8Åより良好な検出された適合分解能に基づいてフィルタにかけた。30ÅローパスフィルタにかけたgHgLgO-13H11-Msl-109複合体参照構造を用いて、gautomatch(MRC Laboratory of Molecular Biology)によるテンプレートマッチングによって合計4,151,085個の粒子を採取した。RELION 2D分類中に粒子を選別し、選択した3,560,620個の粒子を3DリファインメントのためにcisTEMにインポートした。PDGFRα-gHgLgO-13H11-Msl-109 3D再構成は、マスクによる自動リファイン及びマニュアルリファインメントの後、マスクの外側にローパスフィルタ(LPF)を適用すること(フィルタ分解能20Å)及び0.25のスコア閾値によって得られた。これにより、外側重量は、反復的なマニュアルリファインメントメントラウンドで0.5から0.15に徐々に減少した。三次元再構成は、2.8Å(フーリエシェル相関(FSC)=0.143、cisTEMで測定)のマップ分解能に収束した。マップの品質を改善するために、マスクを使用してマップを3つの別個の領域に分割した後に収束リファインメントを取得し、上述のようにマスクの外側のマニュアルリファインメントメントローパスフィルタ(LPF)を取得した。収束したマップをcisTEMで鮮明にし、実施例1で上述したようにphenix を使用して組み合わせた。
【0160】
モデル構築及び構造解析
PDGFRβの構造(PDB:3MJG)を、PDGFRα D1~D3のモデリングのための鋳型として使用した。実施例1と同様にモデル構築及び構造解析を行った。
実施例6.TGFβR3は、gH、gL及びgOの間の界面に結合する
【0161】
三量体は、内皮細胞及び上皮細胞(Zhou et al.,J Virol,89:8999-9009,2015;Wille et al.,mBio,4:e00332-13,2013;Ryckman et al.,J Virol,82:60-70,2008)を含む全ての細胞型へのHCMV向性に必要である。この要件は、三量体が複数の受容体と直接相互作用することによってHCMV宿主向細胞性に直接寄与し得ることを示唆している。したがって、TGFβR3は、最近、三量体及び推定HCMV受容体に対する高親和性結合剤として同定された(Martinez-Martin et al.,Cell,174:1158-1171 e19,2018)。TGFβR3糖タンパク質は、TGF-βシグナル伝達経路受容体スーパーファミリーのメンバーであり、大部分のヒト組織における細胞増殖、アポトーシス、分化及び細胞遊走の媒介において必須の役割を有する(Zhang et al.,Cold Spring Harb Perspect Biol,9:a022145,2017)。TGFβR3の細胞外ドメインは、2つのN末端膜遠位オーファンドメイン(OD2及びOD1)及び膜近位透明帯(ZP)ドメイン(Kim et al.,Structure,27:1427-1442 e4,2019)から構成される。各ODは、2つのβサンドイッチドメインから構成され、一方、ZPドメインは、古典的な免疫グロブリン様フォールド(図6B)をとる(Lin et al.,Proc Natl Acad Sci U S A,108:5232-5236,2011)。TGFβR3とTGFβR1、TGFβR2又はエンドグリンとの間の相同性にもかかわらず、これらの更なるタンパク質とHCMV三量体との間の結合は観察されず(図6A)(Martinez-Martin et al.,Cell,174:1158-1171 e19,2018)、これは、Cell-Surface Receptor Discovery Platformの結果において以前に発表された。
【表4】
【0162】
三量体によるTGFβR3認識への直接的な構造的洞察を得るために、HCMV三量体及びFab 13H11及びMsl-109を有するOD及びZPドメインを含むTGFβR3の化学量論的複合体を再構成し、cryo-EMを使用して、約2.6Åの全体分解能までの構造を決定した(図6C~6G及び13A~13F)。三量体はPDGFRαのIg様D1~D3ドメインと会合しているので、TGFβR3の結合はそのIg様ドメインを介して起こると予想された。予想外にも、新たに明らかにされた構造は、TGFβR3が3つの主要部位(図6D~6G及び表4)でgO及びgL上の保存された残基に結合するためにOD2ドメインを排他的に利用したが、TGFβR3 OD1ドメインの密度は、明らかに三量体との直接接触がないために弱く見えたことを示した。TGFβR3 OD1は、HCMV三量体と特異的に接触せず、cryo-EMマップにおいてほとんど分解されず、構造においてモデル化されなかった。注目すべきことに、TGFβR3の結合は、PDGFRαについて観察されたものと同様に、三量体上でのいかなる主要な構造的再配列も誘導しなかった(図13G)。
【0163】
ヒトTGFβR3 OD2ドメインは、10本のβ鎖と、一方がβ6とβ7との間(α1)であり、他方がβ7とβ8との間(α2)である2つのαヘリックスとから構成され(図13H)、両方のヘリックスを取り囲む領域がHCMV三量体と重要な接触を形成した。具体的には、TGFβR3は、α1領域を取り囲むループ構造を利用して、gOのN末端ドメインで、それぞれgO側鎖K118およびR117に対してS143カルボニル及びQ136側鎖で水素結合する(部位1、図6G及び13H)。TGFβR3 F137とgO L116との間の疎水性接触は、部位1での相互作用を更に支持した(図6G、部位1)。部位2では、鎖β7bのTGFβR3 R151は、gO Y188とπスタッキング相互作用を形成し、gL N97に水素結合する(図6G、部位2)。部位3では、α2のTGFβR3 W163及びK166のカルボニルが、それぞれgL側鎖E94及びT92と水素結合を形成した(図6G、部位3)。
【0164】
TGFβR3及びエンドグリンのOD2ドメインは、構造が非常に類似していた(図6H)。特に部位1及び2の重要な相互作用領域における詳細な図は、エンドグリンOD2ドメインがα1にループ構造を欠き、β7bにβ鎖二次構造をとらないことを明らかにした(図13H及び図6H)。全体として、対照的な特性を有する多数の相互作用残基は、TGFβR3とHCMV三量体との間の強い相互作用を合理化し、部位1及び部位2のエンドグリンに対する重要な違いは、TGFβR3三量体相互作用の高い特異性及び選択性の説明を提供した。
【0165】
タンパク質の発現及び精製
ヒトTGFβR3(1~787)用に最適化されたコードDNAを、CMVプロモーターの後ろのpRKベクターにクローニングした。C末端FLAGタグをTGFβR3構築物に付加した。懸濁液中のExpi293細胞を、SMM 293T-I培地中、5%CO下、37℃で培養し、細胞密度が4×10細胞/mlに達したとき、gHgLgO発現のためDNAを1:1:1の比で含むポリエチレンイミン(PEI)を用いてトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を7日間培養した後、発現上清を回収した。
【0166】
ヒトTGFβR3-Flagを10lの発現上清から精製した。上清を10mlのM2アガロースFlag樹脂(Sigma)とインキュベートし、4℃で20時間インキュベートした。樹脂を10CV FLAG洗浄緩衝液(30mM HEPES(pH7.5)、300mM NaCl、5%グリセロール)で洗浄し、0.2mg/ml FLAGペプチドを補充したFLAG洗浄緩衝液で溶出した。溶出液をAMICON(登録商標)Ultra Centrifugalフィルタデバイス(30kDa MWCO)で濃縮し、TGFβR-SEC-1バッファー(30mM HEPES(pH7.5)、300mM NaCl、5%グリセロール)で平衡化したSuperdex 200 10/60カラムにロードした。
【0167】
C末端HISタグ(Sino Biological)を有するTGFβR3(1-781)をcryo-EM試料調製に使用した。凍結乾燥粉末をddH2Oに再懸濁し、AMICON(登録商標)Ultra Centrifugalフィルタデバイス(30kDa MWCO)で濃縮し、TGFβR-SEC-2緩衝液(25mM HEPES(pH7.5)、200mM NaCl)で平衡化したSuperdex 200 3.2/300カラムで精製した後、HCMV三量体gHgLgO及び中和Fabと集合させた。
ヒトTGFβR3及び中和FabによるHCMV gHgLgO三量体の再構成
【0168】
7.6μM(85.5μg)のTGFβR3-gHgLgO-13H11-Msl-109複合体を、9.2μM(54μg)の過剰のTGFβR3、22.6μM(78μg)のFab 13H11及び61μM(210μg)のMsl-109と氷上で少なくとも30分間インキュベーションすることによって構築した。SEC-reconst-2緩衝液(25mM HEPES(pH7.5)、300mM NaCl)で平衡化したSuperose 6 3.2/300カラムでの精製によって過剰のFabを除去した。gHgLgO-13H11-Msl-109の主ピーク画分を合わせ、cryo-EM試料調製のために0.5mg/mlに濃縮した。
【0169】
Cryo-EM試料調製及びデータ取得
TGFβR3-gHgLgO-13H11-Msl-109複合体を、以下のようにして調製した。Solarusプラズマ洗浄器(Gatan)を使用して、ホーリーカーボングリッド(Ultrafoil 25nM Au R 1.2/1.3 300メッシュ;Quantifoil)を10秒間グロー放電させた。3μlの試料をグリッドに適用し、100%の湿度で3.5秒のブロッティング時間を使用してLeica EM GP(Leica)で片面にブロッティングし、液体窒素で冷却した液体エタン中で冷却した。
【0170】
TGFβR3-gHgLgO-13H11-Msl-109複合体を、gHgLgO-13H11-Msl-109複合体について実施例1で上述したのと同様に処理した。RELIONのMotionCor2(Zheng et al.Nat Methods,14(4):331-332,2017)実装を使用してフレーム動きに対して合計19,993個の動画を補正し、CTFFIND-4(Rohou and Grigorieff,J Struct Biol,.192(2):216-2,2015)を用いてスペクトルの30~4.5Å帯域を使用してコントラスト伝達関数パラメータを適合させた。30ÅローパスフィルタにかけたgHgLgO-13H11-Msl-109複合体参照構造を用いて、gautomatchを用いたテンプレートマッチングによって合計2,780,519個の粒子を採取した。RELION 2D分類中に粒子を選別し、選択した2,780,519個の粒子を3DリファインメントのためにcisTEMにインポートした。TGFβR3-gHgLgO-13H11-Msl-109 3D再構成は、マスクによる自動リファイン及びマニュアルリファインメントの後、マスクの外側にローパスフィルタ(LPF)を適用すること(フィルタ分解能20Å)及び0.25のスコア閾値によって得られた。これにより、外側重量は、反復的なマニュアルリファインメントメントラウンドで0.5から0.15に徐々に減少した。三次元再構成は、2.6Å(フーリエシェル相関(FSC)=0.143、cisTEMで測定)のマップ分解能に収束した。マップの品質を改善するために、マスクを使用してマップを2つの別個の領域に分割した後に収束リファインメントを取得し、上述のようにマスクの外側のマニュアルリファインメントメントローパスフィルタ(LPF)を取得した。収束したマップをcisTEMで鮮明にし、上記のようにphenix を使用して組み合わせた。局所解像度は、ブロクレスアルゴリズムの社内再実施を使用してcisTEMで決定した(Cardone et al 2013)。
【0171】
モデル構築及び構造解析
ゼブラフィッシュTGFβR3(PDB:6MZN)の構造を、ヒトTGFβR3 OD2をモデル化するための鋳型として使用した。実施例1と同様にモデル構築及び構造解析を行った。
【0172】
実施例7.PDGFRα及びTGFβR3はHCMV三量体結合と競合する
HCMV三量体は、多様な受容体上に存在する2つの完全に異なるドメイン構造、すなわちPDGFRαのIg様D1~D3ドメイン及びTGFβR3のOD2ドメインに高親和性で結合することができた(図5及び6)。両方の受容体が三量体の膜遠位領域で相互作用したが、PDGFRα及びTGFβR3は、異なる相互作用表面を介して三量体に結合した(図5E及び6E)。これにもかかわらず、三量体-PDGFRα及び三量体-TGFβR3複合体構造の重ね合わせは、これらの受容体が、gH、gL及びgOの間の界面において部分的に重複する結合部位を共有し、したがって、三量体を同時に結合することができないことを示唆した(図7A)。さらに、PDGFRα N179上のN結合グリカン鎖は、TGFβR3結合部位の方向を指し示すことが見出され、これは同時受容体結合を更に制限し得る(図7A)。
【0173】
三量体へのPDGFRα及びTGFβR3の結合が相互に排他的であるという仮説を試験するために、TGFβR3に結合したHCMV三量体を等モル量のPDGFRα(図7B及び図14)と共にインキュベートすることによって競合実験を行った。結果は、PDGFRαが結合したTGFβR3を完全に置換できることを示し(図7B)、TGFβR3と比較してHCMV三量体とPDGFRαとの間の報告されたより高い親和性と一致した(Martinez-Martin et al.,Cell,174:1158-1171 e19,2018)。まとめると、これらの構造的及び生物物理学的データは、PDGFRα及びTGFβR3が共受容体として機能せず、むしろ独立した受容体として作用するHCMV向性を媒介する可能性が高いことを示唆している。
【0174】
HCMV三量体gHgLgOに対するPDGFRα及びTGFβR3の結合競合実験
HCMV三量体gHgLgO、PDGFRα及びTGFβR3を単独で、又はgHgLgO+PDGFRα、gHgLgO+TGFβR3又はgHgLgO+PDGFRα+TGFβR3の組み合わせを、SEC競合緩衝液(25mM HEPES(pH7.5)、300mM NaCl)中3μMの濃度で氷上で少なくとも60分間共インキュベートし、SEC競合緩衝液で平衡化したSuperose 6 3.2/300カラムにロードした。
【0175】
実施例8.HCMV三量体は、PDGFRαへの結合について成長因子PDGFと競合する
実施例4~6では、三量体、三量体-PDGFRα及び三量体-TGFβR3のcryo-EM構造は、受容体結合及び強力な中和抗体の可能性のある標的に関与する三量体上の機能的に重要で高度に保存された表面を明らかにした(図4、5及び6)。したがって、PDGFRαとの三量体相互作用が重要な細胞シグナル伝達経路に干渉し得るかどうかを調べた。PDGFRαの場合、PDGF成長因子の結合は、受容体を二量体化し、細胞内キナーゼドメインを活性化してシグナル伝達カスケードを誘導する(Shim et al.,Proc Natl Acad Sci U S A,107:11307-11312,2010)。三量体-PDGFRα複合体と二量体(シグナル伝達活性)PDGFRα-PDGF複合体の相同性モデルとの構造的重ね合わせは、PDGFRα D2及びD3相互作用界面でのgO及びPDGFの複数の立体的衝突を示した(図7C及び12E)。低ナノモル親和性(Kabanova et al.,Nat Microbiol,1:16082,2016)での三量体とPDGFRαとの強い相互作用(表2)、及び3桁のナノモル親和性(Mamer et al.,Sci Rep,7:16439,2017)を特徴とするPDGFRαに対するPDGF-AAの中程度の結合親和性を考慮して、三量体がPDGFRαへの結合についてPDGFと競合し、それによってシグナル伝達カスケードの誘導を妨げることができるという仮説を試験した。この仮説を試験するために、HCMV三量体を最初にgOの電荷変異で精製し(三量体mut;部位2~4:M84R、F111R、R117E、F136R、R212E、R230E、R234E、R336E、F342E、A351R、N358R)、PDGFRαへのin vitro結合のおよそ10,000倍の減少が観察された(KD三量体-WT:2.25×10-9+/-1.1M対KD三量体-mut:4.25×10-5+/-0.5M)(図7D)。次に、自己リン酸化PDGFRα残基Y762及びY849並びにリン酸化AKTを下流基質として検出することによって、PDGF-AA及び三量体WT又は三量体mutの添加時のMRC-5線維芽細胞におけるPDGFRα活性化及びシグナル伝達を評価した。PDGF-AA単独ではPDGFRα及びAKTで強い活性化シグナルを誘導したが、三量体WTの滴定はPDGFRαのPDGF-AA誘導活性を強く低下させた(図7E)。対照的に、PDGFRα結合欠損三量体Mutの添加は、PDGF-AAの存在下でPDGFRαの活性を低下させなかった(図7E)。したがって、HCMV三量体は、PDGFRαへの結合についてPDGF-AAと直接競合し、PDGFRαシグナル伝達を妨害し、これは、有効かつ安全な三量体ベースの抗ウイルス戦略の設計の重要な考慮事項である。
【0176】
PDGFRαの活性化及びシグナル伝達
線維芽細胞株MRC-5を使用して、受容体リン酸化及び下流シグナル伝達を研究した。MRC-5を、10%FBS、グルタミン及び抗生物質を補充したRPMI培地中で増殖させた。細胞を37℃及び5%COで培養した。細胞をM6ウェルプレートに播種し、約75%コンフルエントまで増殖させ、刺激前に一晩飢餓状態にした。アッセイの当日、細胞を、PDGF-AA(3.7nM濃度)、CMV三量体、又はPDGF-AA:CMV三量体で、モル比を漸増させて刺激した。刺激を、無血清培地中、37℃で10分間行った。処理後、細胞を冷PBSで洗浄し、溶解した(溶解緩衝液:プロテアーゼ(Roche)及びホスファターゼ阻害剤(Sigma)を補充した50mM Tris HCl(pH7.4)、150mM NaCl、2mM EDTA、1%(v/v)NP40)。試料を、変性条件を使用してローディングバッファー(Thermo Fisher Scientific)で希釈し、LI-COR(登録商標)装置を使用してウェスタンブロッティングによって分析した。
【0177】
抗体及び組換えタンパク質
これらの実施例で使用される全ての一次抗体を、Cell Signaling Technology(登録商標)から購入した。検出に使用した二次抗体(IRDYES(登録商標))は、LI-COR(登録商標)Biosciencesから入手した。全ての抗体を製造業者によって推奨される希釈で使用し、インキュベーションを一晩(一次抗体)、又は室温で1時間(LI-COR(登録商標)抗体)行った。
【0178】
細胞刺激に使用されるヒトPDGF-AAを、STEMCELL(商標)Technologiesから購入した。他の全ての組換えタンパク質を社内で作製した。
【0179】
結論
これらの実施例は、三量体複合体の構造、広域中和抗体の結合、三量体媒介HCMV受容体相互作用の機構、及び細胞シグナル伝達経路に対する結果に対する前例のない洞察を明らかにするHCMV三量体の構造を提示する。これらの結果は、三量体ベースのワクチン及び抗ウイルス治療薬の設計に重要な結果をもたらす。
【0180】
重要なことに、これらの実施例は、gOのグリカンを含まない表面が新規な広域中和抗体の開発の標的となり得る可能性を直接示している。さらに、PDGFRα及びTGFβR3に対する三量体相互作用の遮断はまた、HCMV侵入を標的化するための新しい戦略を提供するであろう。注目すべきことに、三量体は、PDGFRα及びTGFβR3との複数の相互作用部位にわたって広範な接触を形成し、単一部位での結合を破壊しようとすると、PDGFRα結合を完全に消失することはできなかった(図5)。代わりに、gO中の複数の相互作用部位が実証され、HCMV三量体とPDGFRαとの相互作用を遮断するために同時に標的化される必要があった(図5G)。したがって、例えば多重特異性(例えば、二重特異性)抗体を含む、gOに対する十分に大きな相互作用フットプリントを有する広域中和抗体を使用して、PDGFRα及びTGFβR3受容体タンパク質の両方の相互作用を置換することができる。あるいは、抗ウイルス治療薬の開発のために、PDGFRαのD1~D3ドメインを利用して、内因性宿主受容体への三量体結合を遮断することが可能である。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図8H
図8I
図9A
図9B
図9C
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図11G
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図13F
図13G
図13H
図14A
図14B
図14C
【配列表】
2023553355000001.app
【国際調査報告】