(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】三次元物体を製造するための付加製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/314 20170101AFI20231214BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20231214BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20231214BHJP
【FI】
B29C64/314
B33Y70/00
B29C64/118
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532344
(86)(22)【出願日】2021-11-23
(85)【翻訳文提出日】2023-07-25
(86)【国際出願番号】 EP2021082569
(87)【国際公開番号】W WO2022112194
(87)【国際公開日】2022-06-02
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ルイス, シャンタル
(72)【発明者】
【氏名】エル-ヒブリ, モハマド ジャマール
(72)【発明者】
【氏名】シルリン, ジャスティン
(72)【発明者】
【氏名】ハモンズ, ライアン
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA32
4F213AB06
4F213AB07
4F213AB08
4F213AB11
4F213AB12
4F213AC02
4F213AR06
4F213AR12
4F213AR15
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL15
4F213WL23
4F213WL27
4F213WL96
(57)【要約】
本開示は、少なくとも1種のPEEK-PEoEKコポリマーを含む部品材料(M)を使用して、三次元(3D)物体を製造するための付加製造(AM)方法、特にこの部品材料(M)から熱溶解積層法(FDM)又は溶融フィラメント製造(FFF)によって得ることが可能な3D物体に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー成分を含む部品材料(M)を押し出すことを含む、三次元(3D)物体を製造するための付加製造(AM)方法であって、そのようなポリマー成分が、少なくとも1種のPEEK-PEoEKコポリマーを含み、前記コポリマーが、前記PEEK-PEoEKコポリマー中の繰り返し単位の総数に対して合計で少なくとも50モル%の繰り返し単位(R
PEEK)と繰り返し単位(R
PEoEK)とを含み、
(a)繰り返し単位(R
PEEK)が、式(A):
【化1】
の繰り返し単位であり、
(b)繰り返し単位(R
PEoEK)が、式(B):
【化2】
の繰り返し単位であり、これらの式において、
- 各R
1及びR
2は、互いに同じであるか又は異なり、各存在において、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、
- 各a及びbは、0~4の範囲の整数からなる群から独立して選択され、
- 前記PEEK-PEoEKコポリマーが、95/5~5/95の範囲のモル比
PEEK/R
PEoEKで前記繰り返し単位R
PEEK及びR
PEoEKを含む、方法。
【請求項2】
前記繰り返し単位(R
PEEK)が、式:
【化3】
の繰り返し単位である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記繰り返し単位(R
PEoEK)が、式:
【化4】
の繰り返し単位である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記PEEK-PEoEKコポリマーが、繰り返し単位(R
PEEK)と(R
PEoEK)とから本質的に構成されており、繰り返し単位R
PEEK及びR
PEoEKとは異なる任意の追加の繰り返し単位が、存在しないか、又は前記PEEK-PEoEKコポリマー中の繰り返し単位の総モル数に対して最大2モル%、最大1モル%、若しくは最大0.5モル%の量で存在し得る、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記繰り返し単位R
PEEK及びR
PEoEKが、95/5から50/50を超える範囲、好ましくは95~50/5~60/40、更に好ましくは90/10~65/35の範囲のR
PEEK/R
PEoEKモル比でPEEK-PEoEKコポリマー中に存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記部品材料(M)が、前記部品材料の総重量に対して0.1重量%~60重量%の、流動剤、充填剤、着色剤、潤滑剤、可塑剤、安定剤、難燃剤、核剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される添加剤を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記部品材料(M)の前記ポリマー成分が、前記PEEK-PEoEKコポリマーとは異なる少なくとも1種のポリマー、好ましくは少なくとも1種のPEEK(コ)ポリマーを更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記部品材料(M)が、円筒状又はリボン状の幾何学的形状を有するフィラメントの形状であり、その直径又少なくとも1つのその断面が0.5mm~5μm、好ましくは0.8~4mm、更に好ましくは1mm~3.5mmで変化するサイズを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記部品材料(M)が1mm~1cmの範囲のサイズを有するペレットの形態である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記部品材料(M)が、
- 20~99重量%の少なくとも1種のPEEK-PEoEKコポリマーと、
- 前記ポリマー成分の総重量を基準として1~80重量%の少なくとも1種のPEEK(コ)ポリマーと、
を含むポリマー成分を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
円筒形状と0.5~5mm±0.15mmに含まれる直径とを有しポリマー成分を含むフィラメント材料であって、そのようなポリマー成分が、少なくとも1種のPEEK-PEoEKコポリマーを含み、前記コポリマーが、前記PEEK-PEoEKコポリマー中の繰り返し単位の総数に対して合計で少なくとも50モル%の繰り返し単位(R
PEEK)と繰り返し単位(R
PEoEK)とを含み、
(a)繰り返し単位(R
PEEK)が、式(A):
【化5】
の繰り返し単位であり、
(b)繰り返し単位(R
PEoEK)が、式(B):
【化6】
の繰り返し単位であり、これらの式において、
- 各R
1及びR
2は、互いに同じであるか又は異なり、各存在において、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、
- 各a及びbは、0~4の範囲の整数からなる群から独立して選択され、
- 前記PEEK-PEoEKコポリマーが、95/5~5/95の範囲のモル比R
PEEK/R
PEoEKで前記繰り返し単位R
PEEK及びR
PEoEKを含む、フィラメント材料。
【請求項12】
前記ポリマー成分をその溶融温度よりも上に加熱し、前記部品材料の前記成分を溶融混合することによって行われる溶融混合プロセスによって得られる、請求項11に記載のフィラメント材料。
【請求項13】
前記ポリマー成分が、前記フィラメントのポリマー成分の総重量を基準として少なくとも80重量%の前記PEEK-PEoEKコポリマーを含む、請求項11又は12に記載のフィラメント材料。
【請求項14】
ポリマー成分を含む部品材料(M)から、押出ベースの3D印刷プロセスによって得ることが可能な三次元(3D)物体であって、そのようなポリマー成分が、少なくとも1種のPEEK-PEoEKコポリマーを含み、前記コポリマーが、前記PEEK-PEoEKコポリマー中の繰り返し単位の総数に対して合計で少なくとも50モル%の繰り返し単位(
PEEK)と繰り返し単位(R
PEoEK)とを含み、
(a)繰り返し単位(R
PEEK)が、式(A):
【化7】
の繰り返し単位であり、
(b)繰り返し単位(R
PEoEK)が、式(B):
【化8】
の繰り返し単位であり、これらの式において、
- 各R
1及びR
2は、互いに同じであるか又は異なり、各存在において、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、
- 各a及びbは、0~4の範囲の整数からなる群から独立して選択され、
- 前記PEEK-PEoEKコポリマーが、95/5~5/95の範囲のモル比R
PEEK/R
PEoEKで前記繰り返し単位R
PEEK及びR
PEoEKを含む、三次元(3D)物体。
【請求項15】
ポリマー成分を含む、好ましくはフィラメント形状の部品材料(M)の、押出ベースの3D印刷方法を使用して3D物体を製造するための使用であって、そのようなポリマー成分が、少なくとも1種のPEEK-PEoEKコポリマーを含み、前記コポリマーが、前記PEEK-PEoEKコポリマー中の繰り返し単位の総数に対して合計で少なくとも50モル%の繰り返し単位(
PEEK)と繰り返し単位(R
PEoEK)とを含み、
(a)繰り返し単位(R
PEEK)が、式(A):
【化9】
の繰り返し単位であり、
(b)繰り返し単位(R
PEoEK)が、式(B):
【化10】
の繰り返し単位であり、これらの式において、
- 各R
1及びR
2は、互いに同じであるか又は異なり、各存在において、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、
- 各a及びbは、0~4の範囲の整数からなる群から独立して選択され、
- 前記PEEK-PEoEKコポリマーが、95/5~5/95の範囲のモル比R
PEEK/R
PEoEKで前記繰り返し単位R
PEEK及びR
PEoEKを含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2020年11月30日出願の米国仮特許出願第63/119,171号及び2021年2月8日出願の欧州特許出願公開第21155706.1号の優先権を主張するものであり、これらの出願のそれぞれの全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本開示は、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)繰り返し単位とポリ(エーテルオルトエーテルケトン)(PEoEK)繰り返し単位とを含む少なくとも1種のコポリマーを含む部品材料(M)を使用して、三次元(3D)物体を製造するための付加製造(AM)方法、特にこの部品材料(M)から熱溶解積層法(FDM)又は溶融フィラメント製造(FFF)によって得ることが可能な3D物体に関する。
【背景技術】
【0003】
付加製造システムは、1つ以上の付加製造技術を使用して3D部品のデジタル表現から3D部品を印刷又は他の方法で構築するために使用される。商業的に利用可能な付加製造技術の例としては、押出ベースの技術、選択的レーザー焼結、粉末/バインダー噴射、電子ビーム溶融及びステレオリソグラフィプロセスが挙げられる。これらの技術のそれぞれについて、3D部品のデジタル表現は、最初に複数の水平層にスライスされる。各スライスされた層に対して、続いて工具経路が生成され、これは、所与の層を印刷するように特定の付加製造システムに命令を与える。
【0004】
例えば、押出ベースの付加製造システムにおいて、3D部品は、部品材料のストリップを押し出して隣接させることによって層毎の方法で3D部品のデジタル表現から印刷され得る。部品材料は、システムの印刷ヘッドにより運ばれる押出チップを通して押し出され、x-y面の印字版上に一連の道として堆積される。押し出された部品材料は、前に堆積された部品材料に融合し、温度の降下時に固化する。そのとき、基材に対する印刷ヘッドの位置は、(x-y面に垂直の)z軸に沿って増分され、次いで、このプロセスは、デジタル表現に類似する3D部品を形成するために繰り返される。フィラメントから出発する押出ベースの付加製造システムの一例は、溶融フィラメント製造(FFF)と呼ばれ、これは熱溶解積層法(FDM)としても知られる。ペレット付加製造(PAM)は、原材料をペレット形態で印刷することができる押出ベース3D印刷方法の別の例である。
【0005】
ポリ(エーテルエーテルケトン)ポリマー(PEEK)などのポリ(アリールエーテルケトン)ポリマー(PAEK)は、その高温性能及び優れた耐薬品性に関して知られている。3D物体/物品/部品を製造するためのそれらの使用は文献に記載されている。PEEKなどの一部の半結晶性ポリマーについては、加工温度が高すぎるため、劣化及び/又は架橋が生じる。これは、部品材料としてポリマー粉末を使用する別のよく使用される3D印刷プロセスである選択的レーザー焼結(SLS)による材料の加工性とリサイクルに悪影響を及ぼすことが知られている。
【0006】
押出ベースの3D印刷プロセスにおけるPEEKの印刷適性の欠点は、特許文献において多くの様々な方法で対処されている。国際公開第2019/055737A1号パンフレット(Arkema)には、有利な特性プロファイルと、一部の機械的特性及び耐薬品性を更に改善する印刷後のアニーリングプロセスを使用する選択肢とを有する、PEEKよりもゆっくりと結晶化してより容易な印刷を可能にするPEKK70/30コポリマーが特に記載されている。国際公開第2015/081009A1号パンフレット(Stratasys)には、1つの半結晶性ポリマーと、第1の半結晶性ポリマーの結晶化速度を遅らせる機能を有する第2のポリマーとの実質的に混和性のポリマーブレンドが記載されている。
【0007】
原料の溶融及び押出成形を使用して成形された物品を製造するための、PEEK-PEDEKコポリマー(式:-Ph-Ph-O-Ph-C(O)-Ph-(-Ph-は1,4-フェニレン単位である)のPEDEK単位を含み、式:-Ph’-O-Ph’-C(O)-Ph’-O-(-Ph’-は1,4-フェニレン基である)のPEEK単位を65%より多く含む)も記載されている。国際公開第2017/051202A1号パンフレット(Victrex)には、PEEKよりも遅い結晶化速度を提供するPEEK-PEDEK75/25のコポリマーが記載されている。これらの材料は低い溶融温度を示すものの、機械的特性はPEEKと比較すると劣っていた。
【0008】
本発明の目的は、より低い溶融温度、より遅い結晶化速度、並びに高い機械的特性及び耐薬品性を備えた、押出ベースの3D印刷プロセスで使用されるPAEKに基づくポリマー材料を提供することである。以降で説明されるように、PEEK繰り返し単位とPEoEK繰り返し単位とを含むPEEK-PEoEKコポリマーは、この目的に適切な技術的解決手段を提供する。
【0009】
PEEK-PEoEKコポリマーは当該技術分野で記載されている。特開平01-221426号公報には、その実施例5及び6において、ヒドロキノン、カテコール、及びジフルオロベンゾフェノンから製造されたPEEK-PEoEKコポリマーが、上昇したガラス転移温度を有し、それと同時に優れた耐熱性を有するものとして特に記載されている。同様に、A.Ben-Haidaらは、Macromolecules,2006,39,6467-6472の中で、ヒドロキノン及びカテコールと4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとをジフェニルスルホン中で段階成長重縮合させることによって製造されるPEEKとPEoEKとの50/50及び70/30のコポリマーを記載している。しかしながら、これらの文献には、押出ベースの3D製造で使用するためのPEEK-PEoEKフィラメント又はペレットについては記載されていない。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、3D物体を押出ベースの付加製造システム(例えばFFF又はFDM)などの付加製造システムを使用して製造するための方法に関する。
【0011】
そのような製造方法によって得ることができる3D物体又は物品は、様々な最終用途において使用することができる。特に、埋込式デバイス、医療デバイス、歯科補綴物、宇宙産業におけるブラケット及び複雑な形状部品、並びに自動車産業におけるボンネット下部品を挙げることができる。
【0012】
本発明の方法は、3D物体の層を部品材料(M)から印刷する工程を含む。部品材料(M)はフィラメントの形態であることができ、溶融フィラメント製造(FFF)と呼ばれ、熱溶解積層法(FDM)としても公知である、フィラメントから出発する押出ベース付加製造システムにおいて使用され得る。また、部品材料はペレットの形態であることもでき、ペレット形態の原材料を印刷することができる3D印刷技術(PAM)において使用され得る。
【0013】
本発明は、概して、ポリマー成分を含む部品材料(M)を押し出すことを含む、3D物体を製造するためのAM方法であって、そのようなポリマー成分が、少なくとも1種のPEEK-PEoEKコポリマーを含み、このコポリマーが、PEEK-PEoEKコポリマー中の繰り返し単位の総数に対して合計で少なくとも50モル%の繰り返し単位(R
PEEK)と繰り返し単位(R
PEoEK)とを含み、
(a)繰り返し単位(R
PEEK)が、式(A):
【化1】
の繰り返し単位であり、
(b)繰り返し単位(R
PEoEK)が、式(B):
【化2】
の繰り返し単位であり、これらの式において、
- 各R
1及びR
2は、互いに同じであるか又は異なり、各存在において、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、
- 各a及びbは、互いに同じであるか又は異なり、0~4の範囲の整数からなる群から独立して選択され、
- PEEK-PEoEKコポリマーが、95/5~5/95の範囲のモル比R
PEEK/R
PEoEKで繰り返し単位R
PEEK及びR
PEoEKを含む、AM方法に関する。
【0014】
出願人の功績は、驚くべきことに、PEEK-PEoEKコポリマーが、単独で、又は他のポリマー(例えばPEEK)とのブレンドで、遅い結晶化速度と、純粋なPEEKよりも低いパーセント結晶化度の両方を有することを特定したことである。結晶化度の低下により、これらの特性は、純粋なPEEKと比較して物体のより信頼性の高い印刷を特に可能にするのみならず、より大きく複雑な物体の3D印刷への使用も可能にする。興味深いことに、結晶化速度は、3D印刷された物体から結晶性が完全になくなるほど遅いわけではない。これらの組成物から3D印刷された部品は、印刷後もある程度の結晶性を有したままであり、予期しなかったことには、ポリマーのガラス転移温度(Tg)に近い加熱チャンバー温度で印刷した場合、これらの組成物から印刷された部品は、ほとんど又は全く反りを有さない。
【0015】
「ポリマー」又は「コポリマー」という表現は、本明細書では、同じ繰り返し単位を実質的に100モル%含有するホモポリマー及び同じ繰り返し単位を少なくとも50モル%、例えば少なくとも約60モル%、少なくとも約65モル%、少なくとも約70モル%、少なくとも約75モル%、少なくとも約80モル%、少なくとも約85モル%、少なくとも約90モル%、少なくとも約95モル%、又は少なくとも98モル%含むコポリマーを表すために使用される。
【0016】
「部品材料」という表現は、本明細書では、3D物体又は3D物体の部品を形成することを意図される、材料、特にポリマー状化合物のブレンドを意味する。部品材料(M)は、本発明に従って、3D物体又は3D物体の部品の製造のために使用される供給原料として使用される。
【0017】
本発明の方法は、3D物体(例えば3Dモデル、3D物品、又は3D部品)を構築するために例えばフィラメント形態に成形され得る部品材料の主な要素としてPEEK-PEoEKコポリマーを採用する。ポリマーは、ペレット、例えばポリマーブレンドのペレットの形態で印刷することもできる。
【0018】
本出願において、
- いずれの記載も、特定の実施形態に関連して記載されているとしても、本発明の他の実施形態に適用可能であり、且つそれらと交換可能であり、
- 要素又は成分が、列挙された要素又は成分のリストに含まれ、且つ/又はリストから選択されると言われる場合、本明細書で明示的に企図される関連する実施形態において、要素又は成分は、個々の列挙された要素又は成分のいずれか1つでもあり得るか、又は明示的に列挙された要素又は成分の任意の2つ以上からなる群からも選択され得、要素又は成分のリストに列挙されたいかなる要素又は成分もこのようなリストから省略され得ることが理解されるべきであり、及び
- 本明細書での端点による数値範囲のいかなる列挙も、列挙された範囲内に包含される全ての数並びに範囲の端点及び均等物を含む。
【0019】
一実施形態によれば、部品材料は、フィラメントの形態にある。「フィラメント」という表現は、本発明によれば、本明細書に記載のPEEK-PEoEKコポリマーを少なくとも含む材料又は材料のブレンドから形成された糸状の物体又は繊維又はストランドを意味する。
【0020】
フィラメントは、円筒形状又は実質的に円筒状の形状を有し得、又はリボンフィラメント形状等の、非円筒形状を有し得、更に、フィラメントは、中空形状を有し得、又はコア-シェル形状を有し得、別のポリマー組成物がコア又はシェルのいずれかを形成するために使用される。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、AMシステムを用いて3D物体を製造するための方法は、部品材料(M)の押出を含む工程を含む。この工程は、例えば部品材料(M)のストリップ又は層を印刷する又は堆積させるときに行われ得る。また、3D物体を押出ベースの付加製造システムで製造するための方法は、溶融フィラメント製造技術(FFF)、熱溶解積層法(FDM)、及びペレット付加製造技術(PAM)としても公知である。
【0022】
FFF/FDM 3Dプリンターは、例えば、Apiumから、Robozeから、Hyrelから、又はStratasys,Inc.から(商品名Fortus(登録商標))市販されている。SLS 3Dプリンターは、例えば、商品名EOSINT(登録商標)PとしてEOS Corporationから入手可能である。FRTP 3Dプリンターは、例えば、Markforgedから入手可能である。
【0023】
PAM 3Dプリンターは、例えば、Pollenから市販されている。BAAM(大面積付加製造)は、Cincinnati Incから市販されている工業サイズの付加装置である。
【0024】
部品材料
本発明の方法で使用される部品材料(M)はポリマー成分を含み、そのようなポリマー成分は、少なくとも1種のPEEK-PEoEKコポリマーを含み、このコポリマーは、PEEK-PEoEKコポリマー中の繰り返し単位の総数に対して合計で少なくとも50モル%の繰り返し単位(R
PEEK)と繰り返し単位(R
PEoEK)とを含み、
(a)繰り返し単位(R
PEEK)は、式(A):
【化3】
の繰り返し単位であり、
(b)繰り返し単位(R
PEoEK)は、式(B):
【化4】
の繰り返し単位であり、これらの式において、
- 各R
1及びR
2は、互いに同じであるか又は異なり、各存在において、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、
- 各a及びbは、互いに同じであるか又は異なり、0~4の範囲の整数からなる群から独立して選択され、
- PEEK-PEoEKコポリマーは、95/5~5/95の範囲のモル比R
PEEK/R
PEoEKで繰り返し単位R
PEEK及びR
PEoEKを含む。
【0025】
出願人は、場合によっては他のポリマー(例えばPEEK)とブレンドされた、PEEK-PEoEKコポリマーに基づく部品材料(M)が、遅い結晶化速度を有し、これによって大きくて複雑な物体/物品の3D印刷が可能になることを見出した。場合によっては他のポリマー(例えばPEEK)とブレンドされた、PEEK-PEoEKコポリマーを含む部品材料から3D印刷された部品は、印刷後にある程度の結晶性を有するが、Tgに近い加熱チャンバー温度で印刷された場合、反りはほとんど又は全く生じない。
【0026】
本発明の部品材料(M)は、他の成分を含み得る。例えば、部品材料は、少なくとも1つの添加剤、とりわけ充填材、着色剤、潤滑剤、可塑剤、安定剤、難燃剤、核剤、流動促進剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの添加剤を含み得る。充填剤は、これに関連して、本来は強化性又は非強化性であることもできる。例えば、部品材料は、部品材料(M)の総重量に対して0.1重量%~60重量%の少なくとも1つの添加剤を含み得る。例えば、材料(M)中の添加剤の量は、材料(M)の総重量に対して、0.5重量%~50重量%、1重量%~40重量%、又は5重量%~30重量%、又は10重量%~20重量%の範囲であってよい。
【0027】
充填剤を含む実施形態において、部品材料(M)中の充填剤の濃度は、部品材料(M)の総重量に対して0.1重量%~60重量%の範囲である。好適な充填剤としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラス繊維、黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維、カーボンナノファイバー、グラフェン、酸化グラフェン、フラーレン、タルク、ウォラストナイト、マイカ、アルミナ、シリカ、二酸化チタン、カオリン、炭化ケイ素、タングステン酸ジルコニウム、窒化ホウ素及びそれらの組み合わせが挙げられる。例えば、材料(M)における充填剤の量は、材料(M)の総重量に対して0.5重量%~50重量%、1重量%~40重量、5~30重量%、又は10~20重量%の範囲であってよい。
【0028】
第1の実施形態によれば、本発明の部品材料(M)は、ポリマー成分の総重量を基準として20~100重量%、30~99重量%、40~95重量%、又は50~90重量%の少なくとも1種のPEEK-PEoEKコポリマーを含む。
【0029】
部品材料(M)のポリマー成分は、本明細書に記載のPEEK-PEoEKとは別のポリマーを含み得る。それには、例えば、そのようなPEEK-PEoEKとは異なるポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)が含まれ得る。本明細書において使用されるPAEKは、Ar’-C(=O)-Ar*基(ここで、Ar’及びAr*は、互いに等しいか又は異なり、芳香族基である)を含む繰り返し単位(RPAEK)を50モル%超含む任意のポリマーを意味する。有利には、前記PEAKポリマーは、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)ホモポリマー又はコポリマー(以降PEEK(コ)ポリマー)である。
【0030】
第2の実施形態によれば、本発明の部品材料(M)は、ポリマー成分の総重量を基準として、
- 20~99重量%、30~98重量%、40~95重量%、又は50~90重量%の少なくとも1種のPEEK-PEoEKコポリマーと、
- 1~80重量%、2~70重量%、5~60重量%、又は10~50重量%の少なくとも1種のPEEK(コ)ポリマーと、
を含む。
【0031】
第3の実施形態によれば、本発明の部品材料(M)は、部品材料(M)の総重量を基準として、
- 20~99重量%、30~98重量%、40~95重量%、又は50~90重量%の少なくとも1種のPEEK-PEoEKコポリマーと、
- 1~80重量%、2~70重量%、5~60重量%、又は10~50重量%の少なくとも1種のPEEK(コ)ポリマーと、
- 最大60重量%の、任意選択的に、充填剤、着色剤、潤滑剤、可塑剤、安定剤、難燃剤、核剤、流動促進剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの添加剤と、
を含むか、又はこれらからなる。
【0032】
いくつかの実施形態では、部品材料(M)のポリマー成分は、部品材料(M)のポリマー成分の総重量を基準として少なくとも80重量%のPEEK-PEoEKコポリマーを含む。例えば、ポリマー成分は、部品材料(M)のポリマー成分を基準として少なくとも85重量%のPEEK-PEoEKコポリマー、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも96重量%、少なくとも97重量%、少なくとも98重量%、又は少なくとも99重量%のPEEK-PEoEKコポリマーを含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、部品材料(M)のポリマー成分は、PEEK-PEoEKコポリマーからなる。
【0034】
いくつかの実施形態では、部品材料(M)は、部品材料(M)の総重量を基準として少なくとも80重量%のPEEK-PEoEKコポリマーを含む。例えば、部品材料(M)は、部品材料(M)の総重量を基準として少なくとも85重量%のPEEK-PEoEKコポリマー、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも96重量%、少なくとも97重量%、少なくとも98重量%、又は少なくとも99重量%のPEEK-PEoEKコポリマーを含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、部品材料(M)は、PEEK-PEoEKコポリマーからなるか、又は本質的にこれからなる。本明細書において使用される「本質的にPEEK-PEoEKコポリマーから本質的になる」という表現は、部品材料(M)が、この材料の有利な特性を実質的に変えないように、部品材料(M)の総重量に対して最大で2重量%、最大で1重量%、又は最大で0.5重量%の量で他の成分を含み得ることを意味する。
【0036】
PEEK-PEoEKコポリマー
本明細書において、「PEEK-PEoEKコポリマー」は、PEEK-PEoEKコポリマーの繰り返し単位の総モル数に対して合計で少なくとも50モル%の繰り返し単位(RPEEK)及び繰り返し単位(RPEoEK)を含む。いくつかの実施形態では、PEEK-PEoEKコポリマーは、PEEK-PEoEKコポリマーの繰り返し単位の総モル数に対して少なくとも51モル%、少なくとも55モル%、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、最も好ましくは少なくとも99モル%の繰り返し単位(RPEEK)及び(RPEoEK)を含む。
【0037】
繰り返し単位(R
PEEK)は、式(A):
【化5】
で表され、
繰り返し単位(R
PEoEK)は、式(B):
【化6】
で表され、
各R
1及びR
2は、互いに同じであるか又は異なり、各存在において、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、
各a及びbは、互いに同じであるか又は異なり、0~4の範囲の整数からなる群から独立して選択され、
PEEK-PEoEKコポリマーは、95/5~5/95の範囲のモル比R
PEEK/R
PEoEKで繰り返し単位R
PEEK及びR
PEoEKを含む。
【0038】
いくつかの実施形態では、各aはゼロであり、そのため、繰り返し単位(R
PEEK)は、式(A-1):
【化7】
の繰り返し単位である。
【0039】
いくつかの好ましい実施形態では、各bはゼロであり、そのため、繰り返し単位(R
PEoEK)は、式(B-1):
【化8】
の繰り返し単位である。
【0040】
好ましくは、繰り返し単位(RPEEK)は式(A-1)の繰り返し単位であり、繰り返し単位(RPEoEK)は式(B-1)の繰り返し単位である。
【0041】
本発明のPEEK-PEoEKコポリマーは、上で詳述した繰り返し単位(RPEEK)及び(RPEoEK)と異なる繰り返し単位(RPAEK)を更に含み得る。そのような場合、繰り返し単位(RPAEK)の量は、PEEK-PEoEKコポリマーの繰り返し単位の総モル数に対して0.1モル%~50モル%未満、好ましくは10モル%未満、より好ましくは5モル%未満、より好ましくは2モル%未満に含まれ得る。
【0042】
本発明のPEEK-PEoEKコポリマー中に繰り返し単位(R
PEEK)及び(R
PEoEK)と異なる繰り返し単位(R
PAEK)が存在する場合、上述した単位(R
PEEK)及び(R
PEoEK)とは異なるこれらの繰り返し単位(R
PAEK)は、通常、以下の式(K-A)~(K-M):
【化9】
【化10】
【化11】
(上記の式(K-A)~(K-M)において、R’のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、各存在において、任意選択的に1つ以上のヘテロ原子を含むC
1~C
12基;スルホン酸及びスルホネート基;ホスホン酸及びホスホネート基;アミン及び四級アンモニウム基から独立して選択され;j’のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、各存在において、0及び1~4の整数から独立して選択され、好ましくは、j’はゼロに等しい)
のいずれかに従う。
【0043】
しかしながら、本発明のPEEK-PEoEKコポリマーは、上で詳述した繰り返し単位(RPEEK)及び(RPEoEK)から本質的に構成されることが通常好ましい。したがって、いくつかの好ましい実施形態では、PEEK-PEoEKコポリマーは、繰り返し単位RPEEK及びRPEoEKから本質的に構成される。本明細書で使用される「繰り返し単位RPEEK及びRPEoEKから本質的に構成される」という表現は、上で詳述した繰り返し単位RPEEK及びRPEoEKと異なる任意の追加の繰り返し単位が、PEEK-PEoEKコポリマー中において、PEEK-PEoEKコポリマーの繰り返し単位の総モル数に対して最大2モル%、最大1モル%、又は最大0.5モル%の量で、且つPEEK-PEoEKコポリマーの有利な特性を実質的に変更しないように存在し得ることを意味する。
【0044】
繰り返し単位RPEEK及びRPEoEKは、95/5~5/95の範囲のRPEEK/RPEoEKモル比で、PEEK-PEoEKコポリマーの中に存在する。好ましくは、本発明の粉末に適したPEEK-PEoEKコポリマーは、大部分のRPEEK単位を含むもの、すなわち、RPEEK/RPEoEKモル比が95/5から50/50を超える範囲、より好ましくは95/5~60/40、更に好ましくは90/10~65/35、最も好ましくは85/15~70/30の範囲であるコポリマーである。
【0045】
いくつかの実施形態では、PEEK-PEoEKコポリマーは、340℃以下、好ましくは335℃以下の融解温度(Tm)を有する。本明細書に記載の融解温度は、ASTM D3418-03及びE794-06に従って、且つ20℃/分の加熱及び冷却速度を使用して、示差走査熱量計(DSC)の2回目の加熱走査での融解吸熱のピーク温度として測定される。
【0046】
いくつかの実施形態では、PEEK-PEoEKコポリマーは、ASTM D3418-03、E1356-03、E793-06、E794-06による2回目の加熱走査で測定される、少なくとも135℃且つ最大155℃、好ましくは少なくとも140℃のガラス転移温度(Tg)を有する。
【0047】
いくつかの実施形態では、PEEK-PEoEKコポリマーは、少なくとも1J/g、好ましくは少なくとも2J/g、少なくとも5J/gの融解熱(ΔH)を有する。本明細書に記載の融解熱は、20℃/分の加熱速度及び冷却速度を使用して、ASTM D3418-03及びE793-06に従って、示差走査熱量計(DSC)での2回目の加熱走査における融解吸熱下の面積として決定される。いくつかの態様では、PEEK-PEoEKコポリマーは、最大65J/g、好ましくは最大60J/gの融解熱(ΔH)を有し得る。
【0048】
特定の実施形態によれば、PEEK-PEoEKコポリマーは、ポリマー粉末上でATRモードで600~1,000cm
-1で記録されたときのそのFT-IRスペクトルが以下の不等式を満たすような微細構造を有する:
(i)
【数1】
(式中、A
700cm
-1は700cm
-1における吸光度であり、A
704cm
-1は704cm
-1における吸光度である);
(ii)
【数2】
(式中、A
816cm
-1は816cm
-1における吸光度であり、A
835cm
-1は835cm
-1における吸光度である);
(iii)
【数3】
(式中、
A
623cm
-1は623cm
-1における吸光度であり、A
557cm
-1は557cm
-1における吸光度である);
(iv)
【数4】
(式中、A
928cm
-1は928cm
-1における吸光度であり、A
924cm
-1は924cm
-1における吸光度である)。
【0049】
PEEK-PEoEKコポリマーは、既知のカルシウム含有量の標準で校正された誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって測定される5ppm未満のカルシウム含有量を有するものであってよい。このように特に低く制御されたCa含有量は、前記PEEK-PEoEKコポリマーが非常に厳しい誘電性能を必要とする金属接合に使用される場合に特に有益である。これらの好ましい実施形態によれば、PEEK-PEoEKコポリマーは、4ppm未満、3ppm未満、更に好ましくは2.5ppm未満のカルシウム含有量を有し得る。
【0050】
これらの好ましい実施形態では、PEEK-PEoEKコポリマーは、既知のナトリウム含有量の標準で校正された誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって測定される1,000ppm未満のナトリウム含有量を有するものであってもよい。好ましくは、PEEK-PEoEKコポリマーは、900ppm未満、800ppm未満、更に好ましくは500ppm未満のナトリウム含有量を有し得る。
【0051】
いくつかの実施形態では、PEEK-PEoEKコポリマーは、既知のリン含有量の標準で校正された誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって測定される少なくとも6ppmのリン含有量を有するものであってよい。好ましくは、PEEK-PEoEKコポリマーは、少なくとも10ppm、少なくとも15ppm、更に好ましくは少なくとも20ppmのリン含有量を有する。
【0052】
本発明の粉末では、熱安定性が向上したPEEK-PEoEKコポリマーを選択することが有利な場合があり、これは、例えば付加製造によって3D物体を製造するためなどの特定の使用分野において特に有益な場合がある。PEEK-PEoEKコポリマーは、特に、ASTM D3850に従ってTGAとして測定される少なくとも550℃、より好ましくは少なくとも551℃、更に好ましくは少なくとも552℃のピーク分解温度を有し得る。
【0053】
PEEK-PEoEKコポリマーを製造するために適合させた方法は、当該技術分野で一般に知られている。これらは特に、同時係属中の欧州特許出願第2020/065154号明細書及び欧州特許出願第2020/066177号明細書(未公開)に記載されている。
【0054】
PAEKコポリマー
本明細書で使用されるポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)は、Ar’-C(=O)-Ar*基(ここで、Ar’及びAr*は、互いに等しいか又は異なり、芳香族基である)を含む繰り返し単位(RPAEK)を50モル%超含む任意のポリマーを意味する。
【0055】
繰り返し単位(R
PAEK)は、以下の式(J-A)~式(J-D)の単位からなる群から選択することができる:
【化12】
(式中、
互いに等しいか若しくは異なる、R’のそれぞれは、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン及び第四級アンモニウムからなる群から選択され;
j’は、ゼロ、又は1~4の範囲の整数である)。
【0056】
繰り返し単位(RPAEK)において、それぞれのフェニレン部位は、独立して、繰り返し単位(RPAEK)においてR’とは異なる他の部位への1,2-、1,4-、又は1,3-結合を有し得る。好ましくは、フェニレン部位は、1,3-又は1,4-結合を有し、より好ましくは、1,4-結合を有する。
【0057】
繰り返し単位(RPAEK)内では、j’は、フェニレン部位がポリマーの主鎖を連結する置換基以外の他の置換基を全く有しないように、好ましくは各存在においてゼロである。
【0058】
一部の実施形態では、PAEKは、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)である。本明細書で使用されるポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)は、50モル%を超える式(J’-A):
【化13】
の繰り返し単位(R
PAEK)を含む任意のポリマーを表す。
【0059】
好ましくは、少なくとも60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%、最も好ましくは全ての繰り返し単位(RPAEK)が、繰り返し単位(J’-A)である。
【0060】
三次元(3D)物体の製造方法
本発明の三次元(3D)物体を製造するための付加製造(AM)方法は、部品材料(M)の押出を含む工程を含む。
【0061】
本発明の方法は、通常、付加製造システム、又は3Dプリンターとも呼ばれるプリンターを使用して行われる。
【0062】
本発明の方法は、3Dプリンターに関連して、以下の工程のうちの少なくとも1つも含み得る:
- 部品材料(M)を、吐出先端部で終わる通し穴と、通し穴内で材料(M)を溶融するための円周ヒータとを有する吐出ヘッド部材に供給する工程、
- 押出前に部品材料(M)を少なくとも350℃の温度に加熱する工程、
- 部品材料(M)を、ピストンで、例えば通し穴内でピストンとして機能する未溶融フィラメントで圧縮する工程、
- 吐出先端部及び受入れプラットフォームのX及びY方向の相対移動を確保する一方、受入れプラットフォーム上に部品材料(M)を吐出して、断面形状を形成する工程、
- 吐出先端部及び受入れプラットフォームのZ方向の相対移動を確保する一方、受入れプラットフォーム上に部品材料(M)を吐出して、高さ方向に3D物体又は部品を形成する工程。
【0063】
3D物体/物品/部品は、基材、例えば水平基材及び/又は平面基材上に構築することができる。基材は、全ての方向、例えば水平方向又は垂直方向に移動可能であり得る。3D印刷プロセス中、部品材料をポリマー材料の前の層の上に押し出すために、例えば基材を下げることができる。
【0064】
一実施形態によれば、本プロセスは、支持構造体を製造することを含む工程を更に含む。この実施形態によれば、3D物体/物品/部品は、支持構造体上に構築され、支持構造体及び3D物体/物品/部品は、両方とも同じAM方法を用いて製造される。支持構造体は、複数の状況において有用であり得る。例えば、とりわけこの3D物体/物品/部品が平面でない場合、形状3D物体/物品/部品のゆがみを回避するために、支持構造体は、印刷された又は印刷中の3D物体/物品/部品に十分な支持を提供するのに有用であり得る。これは、印刷された又は印刷中の3D物体/物品/部品を維持するために用いられる温度が粉末の再固化温度より低い場合に特に当てはまる。
【0065】
厳密に必要なわけではないが、3D物体/物品/部品に対して、製造後に熱処理(アニーリング又は焼き戻しとも呼ばれる)を行うこともできる。この場合、3D物体/物品/部品は、170℃~260℃、好ましくは180℃~220℃の範囲の温度に設定されたオーブンに、約30分~24時間、好ましくは1時間~8時間の範囲の時間入れることができる。
【0066】
本発明の3D物体は、好ましくは、20℃/分の加熱速度を使用するASTM D3418に準拠した示差走査熱量計(DSC)において、アニーリング熱処理の前に2回目の加熱走査で測定し、融解吸熱面積の絶対値から1回目の加熱走査中に検出され得る結晶化吸熱の絶対値を引いた差として計算される、少なくとも30J/gの融解エンタルピー又は融解熱に対応する結晶性のレベルを示す。いくつかの実施形態では、熱処理前に印刷され、上記の説明に従って測定される3D物体の融解熱は、少なくとも32J/g、少なくとも33J/g、又は少なくとも34J/gである。
【0067】
本発明の3D物体は、好ましくは、降伏点又は破断点におけるx-y方向引張応力よりも約50%大きい、好ましくは少なくとも55%、更に好ましくは60%の、降伏点又は破断点におけるZ方向引張応力を示す。
【0068】
部品材料(M)
本発明の部品材料(M)は、当業者に周知の方法によって製造することができる。例えば、そのような方法としては、溶融混合プロセスが挙げられるが、それらに限定されない。溶融混合プロセスは、典型的には、熱可塑性ポリマーの溶融温度よりも上にポリマー成分を加熱し、それにより熱可塑性ポリマーの溶融物を形成することによって実施される。いくつかの実施形態において、処理温度は、約280~450℃、好ましくは約290~440℃、約300~430℃、又は約310~420℃の範囲である。好適な溶融混合装置は、例えば、ニーダー、バンバリー(Banbury)ミキサー、一軸スクリュー押出機、及び二軸スクリュー押出機である。好ましくは、所望の成分の全てを押出機に、押出機の供給口又は溶融物のいずれかに投入するための手段を備えた押出機が使用される。部品材料の調製プロセスにおいて、部品材料の成分、例えばPEEK-PEoEKポリマー、任意選択的な他のポリマー、例えばPEEKポリマー、及び任意選択的な添加剤は、溶融混合装置に供給され、その装置中で溶融混合される。成分は、乾燥ブレンドとしても知られる粉末混合物又は顆粒ミキサーとして同時に供給され得るか又は別々に供給され得る。
【0069】
溶融混合中に成分を組み合わせる順序は、特に限定されない。一実施形態では、成分は、所望量の各成分が一緒に添加され、続いて混合されるような、単一バッチで混合することができる。他の実施形態では、最初のサブセットの成分が、最初に一緒に混合され得、1種以上の残りの成分が、さらなる混合のために混合物に添加され得る。明確にするために、それぞれの成分の全所望量は、単一量として混合される必要はない。例えば、1種以上の成分について、部分量が最初に添加及び混合され得、その後に、残りの一部又は全てが添加及び混合され得る。
【0070】
部品材料は例えば、ペレット付加製造(PAM)3D印刷法においてペレットの形態で使用され得る。
【0071】
部品材料がペレット形態である場合、ペレットは、1mm~1cm、例えば2mm~5mm、又は2.5mm~4.5mmの範囲のサイズを有し得る。
【0072】
フィラメント材料
本発明は、上述した少なくとも1種のPEEK-PEoEKコポリマーを含むポリマー成分を含むフィラメント材料(F)にも関する。
【0073】
本発明のこの態様によれば、PEEK-PEoEKコポリマーは上述した通りである。
【0074】
一実施形態によれば、フィラメント材料は、1種以上の他のポリマー、例えば少なくとも1種のPEEKポリマーを更に含む。
【0075】
このフィラメント材料は、三次元物体の製造方法において使用するのに好適である。
【0076】
フィラメントは、円筒形状若しくは実質的に円筒状の形状を有し得るか、又はリボンフィラメント形状などの非円筒形状を有し得、更に、フィラメントは、中空形状を有し得るか、又はコア-シェル形状を有し得、本発明の支持材料は、コア又はシェルのいずれかを形成するために使用される。
【0077】
フィラメントが円筒形状を有する場合、その直径は、0.5mm~5mm、例えば0.8~4mm又は例えば1mm~3.5mmで変動し得る。フィラメントの直径は、特定のFFF 3Dプリンターに供給するために選択することができる。FFFプロセスにおいて広範囲に渡って使用されるフィラメント直径の例は、直径が1.75mm又は2.85mmである。フィラメントの直径の精度は+/-200ミクロン、例えば+/-100ミクロン又は+/-50ミクロンである。
【0078】
本発明のフィラメントは、最初にコンパウンドを製造して部品材料をペレット状にし、次いでペレットを押し出してフィラメントを製造する2段階プロセスから製造することができる。或いは、本発明のフィラメントは、コンパウンド及びフィラメントが一段階プロセスで製造される一体化されたプロセスから製造することができる。
【0079】
本発明のフィラメントは、溶融混合プロセスなどの、しかしこれらに限定されない方法によって部品材料から製造することができる。溶融混合プロセスは、典型的には、熱可塑性ポリマーの最高溶融温度及びガラス転移温度よりも上にポリマー成分を加熱し、これにより熱可塑性ポリマーの溶融物を形成することによって実施される。いくつかの実施形態では、処理温度は、約280~450℃、好ましくは約290~440℃、約300~430℃又は約310~420℃の範囲である。
【0080】
フィラメントの製造プロセスは、溶融混合装置で実施することができ、このため、溶融混合によりポリマー組成物を調製する技術における当業者に公知の任意の溶融混合装置を使用することができる。好適な溶融混合装置は、例えば、ニーダー、バンバリー(Banbury)ミキサー、一軸スクリュー押出機、及び二軸スクリュー押出機である。好ましくは、所望の成分を全て押出機に、押出機の供給口又は溶融物のいずれかに投与するための手段を備えた押出機が使用される。フィラメントの製造プロセスにおいて、部品材料の成分は溶融混合装置に供給され、その装置内で溶融混合される。成分は、乾燥ブレンドとしても知られる粉末混合物又は顆粒ミキサーとして同時に供給され得るか又は別々に供給され得る。
【0081】
溶融混合中に成分を組み合わせる順序は、特に限定されない。一実施形態では、成分は、所望量の各成分が一緒に添加され、続いて混合されるような、単一バッチで混合することができる。他の実施形態では、最初のサブセットの成分が、最初に一緒に混合され得、1種以上の残りの成分が、さらなる混合のために混合物に添加され得る。明確にするために、それぞれの成分の全所望量は、単一量として混合される必要はない。例えば、1種以上の成分について、部分量が最初に添加及び混合され得、その後に、残りの一部又は全てが添加及び混合され得る。
【0082】
フィラメントを製造する方法は、例えば、ダイを使用する押出工程も含む。この目的のために、任意の標準的な成形技術を用いることができ、溶融/軟化形態のポリマー組成物を賦形することを含む標準的な技術を有利に適用することができ、これには、とりわけ圧縮成形、押出成形、射出成形、トランスファー成形などが挙げられる。押出成形が好ましい。例えば物品が円筒形状のフィラメントである場合は、環状のオリフィスを有するダイ等のダイを用いて物品を成形することができる。
【0083】
いくつかの実施形態では、フィラメントは、ポリマー成分をその溶融温度よりも上に加熱し、部品材料の成分を溶融混合することによって行われる溶融混合プロセスによって得られる。
【0084】
本方法は、必要であれば、様々な条件下での溶融混合又は押出の幾つかの連続工程を含み得る。
【0085】
プロセス自体、又は関連する場合、プロセスの各工程は、溶融混合物を冷却することを含む工程を更に含んでもよい。
【0086】
支持材料
本発明の方法は、別のポリマー成分を使用して組立中の3D物体も支持し得る。3D物体を構築するために使用される部品材料と同様の又は異なるこのポリマー成分は、本明細書では支持材料と呼ばれる。3D印刷中に、構築中の部品材料に垂直方向及び/又は横方向の支持を提供するために支持材料が必要になる場合がある。支持材料は、部品の中空又はオーバーハング領域で部品材料に必要な支持を提供するために硬さ及び剛性を維持できる程度に、部品材料と同様の熱特性を有する必要がある。
【0087】
本方法との関連で場合により使用される、支持材料は、有利には、高温用途に耐えるために、高い溶融温度(即ち260℃超)を有する。支持材料はまた、湿気への暴露時に十分に膨潤又は変形するために、110℃よりも低い温度で吸水挙動又は水への溶解性を有し得る。
【0088】
本発明の実施形態によれば、三次元物体を付加製造システムで製造する方法は、
- 支持構造物の層を支持材料から印刷する工程、及び
- 支持構造物の少なくとも一部を三次元物体から取り除く工程、
を更に含む。
【0089】
様々なポリマー成分を支持材料として使用することができる。とりわけ、支持材料は、ポリアミド又はコポリアミド、例えばPCT出願国際公開第2017/167691号パンフレット及び国際公開第2017/167692号パンフレットに記載されているポリアミド又はコポリアミドを含むことができる。
【0090】
用途
本発明は、三次元物体の製造のための上述のようなポリマー成分を含む部品材料(M)の使用にも関する。
【0091】
また、本発明は、三次元物体の製造のための上述のようなポリマー成分を含むフィラメント材料の使用にも関する。
【0092】
部品材料に関して上述した実施形態の全てが、部品材料の使用又はフィラメント材料の使用に等しく適用される。
【0093】
また、本発明は、三次元物体の製造において使用するためのフィラメントの製造のための、上述のようなポリマー成分を含む部品材料(M)の使用にも関する。
【0094】
また、本発明は、本明細書で記載される部品材料を使用して、少なくとも部分的に本発明の製造方法から得ることができる3D物体又は3D物品にも関する。これらの3D物体又は3D物品は、好ましくは、射出成形された物体又は物品に匹敵する密度を示す。これらは、同等の改善された機械的特性も示す。
【0095】
そのような製造方法によって得ることができる3D物体又は物品は、様々な最終用途において使用することができる。特に、埋込式デバイス、医療デバイス、歯科補綴物、宇宙産業におけるブラケット及び複雑な形状部品、自動車産業におけるボンネット下部品、石油及びガス用途、並びに電子部品を挙げることができる。
【0096】
そのような製造方法によって得られる3D物体又は物品は、例えば旅客サービスユニット、階段、窓枠、天井パネル、情報ディスプレイ、窓カバー、天井パネル、側壁パネル、壁仕切り、ディスプレイケース、鏡、サンバイザー、ブラインド、収納箱、収納扉、天井頭上収納ロッカー、配膳トレイ、背もたれ、客室の仕切り、及びダクトを含む多くの航空機用途で使用することができる。
【0097】
そのような製造方法によって得られる3D物体又は物品は、例えばコネクタ、継手、排出制御システム、及び射出成形部品を含む多くの自動車用途で使用することができる。
【0098】
そのような製造方法によって得られる3D物体又は物品は、腐食、化学的攻撃、及び経年劣化から保護するためのオフショアソリューションなどの石油及びガス用途に使用することができる。
【0099】
そのような製造方法によって得られる3D物体又は物品は、例えば高度に優れた耐熱性及び耐薬品性、並びに良好な炎、煙、及び毒性に関する特性を必要とするワイヤ及びケーブル用途、並びに寸法安定性が求められる部品を含む電子部品として使用することができる。
【0100】
参照により本明細書中に組み込まれている特許、特許出願、及び公開資料の開示が、ある用語を不明確とし得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先する。
【実施例】
【0101】
これから、本開示を以下の実施例に関連してより詳細に記載するが、それらの目的は、例示的であるにすぎず、本開示の範囲を限定することを意図しない。
【0102】
出発物質
ヒドロキノン、写真グレードは、Eastman,USAから調達した。これには、0.38重量%の水分が含まれており、この量を使用して添加重量を調整した。示されている全ての重量は、水分を含む。
レゾルシノール、ACS試薬グレードは、Aldrich,USAから調達した。
4,4’-ビフェノール、ポリマーグレードは、SI,USAから調達した。
ピロカテコール、フレーク状は、Solvay USAから調達した。その純度は、GCで99.85%であった。これには、680ppmの水分が含まれており、この量を使用して添加重量を調整した。示されている全ての重量は、水分を含む。
4,4’-ジフルオロベンゾフェノン、ポリマーグレード(99.8%+)は、Malwa,Indiaから調達した。
ジフェニルスルホン(ポリマーグレード)は、Provironから調達した(純度99.8%)。
軽質ソーダ灰である炭酸ナトリウムは、Solvay S.A.,Franceから調達した。
d90<45μmの炭酸カリウムは、Armand productsから調達した。
塩化リチウム(無水グレード)は、Acrosから調達した。
【0103】
樹脂の調製
PEEK
攪拌機と、N2注入管と、反応媒体中に入れられた熱電対付きのClaisenアダプターと、コンデンサー及びドライアイストラップ付きのDean-Starkトラップとを備えた500mlの4口反応フラスコに、127.82gのジフェニルスルホン、28.685gのヒドロキノン、及び57.326gの4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを入れた。フラスコ内容物を真空下で脱気し、次に高純度窒素(10ppm未満のO2を含有)で満たした。次に、反応混合物を一定の窒素パージ(60mL/分)下に置いた。
【0104】
反応混合物を150℃までゆっくりと加熱した。150℃で28.481gのNa2CO3と0.180gのK2CO3との混合物を30分かけて粉末ディスペンサーから反応混合物に添加した。添加の終了時、反応混合物を1℃/分で320℃まで加熱した。320℃で14分後、反応は3段階で終了した:反応器にて窒素パージを維持しながら6.818gの4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを反応混合物に添加した。5分後に、0.444gの塩化リチウムを反応混合物に添加した。10分後、別の2.273gの4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを反応器に添加し、反応混合物の温度を15分間保った。
【0105】
次いで、反応器内容物を反応器からSS受皿に注ぎ込んで冷却した。固形物を砕き、2mmスクリーンを通してアトリションミルですり潰した。ジフェニルスルホン及び塩を混合物からアセトンと水を用いて抽出した。
【0106】
次いで、粉末を12時間真空下にて120℃で乾燥させ、65gの白色粉末を得た。
【0107】
400℃、1000s-1でキャピラリーレオロジーによって測定した溶融粘度は、0.30kN-s/m2であった。
【0108】
PEEK-PEoEKコポリマー80/20
攪拌機と、N2注入管と、反応媒体中に入れられた熱電対を備えるClaisenアダプターと、コンデンサー及びドライアイストラップ付きのDean-Starkトラップとを備えた1000mLの4口反応フラスコに、343.63gのジフェニルスルホン、61.852gのヒドロキノン、15.426gのピロカテコール、及び153.809gの4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを入れた。フラスコ内容物を真空下で脱気し、次に高純度窒素(10ppm未満のO2を含有)で満たした。次に、反応混合物を一定の窒素パージ(60mL/分)下に置いた。
【0109】
反応混合物を150℃までゆっくり加熱した。150℃で、76.938gのNa2CO3と0.484gのK2CO3との混合物を30分かけて粉末ディスペンサーから反応混合物に添加した。添加の終了時、反応混合物を1℃/分で320℃まで加熱した。320℃で25分後、反応は3段階で終了した:反応器にて窒素パージを維持しながら18.329gの4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを反応混合物に添加した。5分後に、2.388gの塩化リチウムを反応混合物に添加した。10分後、別の6.110gの4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを反応器に添加し、反応混合物の温度を15分間保った。
【0110】
次いで、反応器内容物を反応器からSS受皿に注ぎ込んで冷却した。固形物を砕き、2mmスクリーンを通してアトリションミルですり潰した。ジフェニルスルホン及び塩を混合物からアセトンと水を用いて抽出した。
【0111】
次いで、粉末を真空下において12時間120℃で乾燥させ、191gの白色粉末を得た。
【0112】
【0113】
400℃、1000s-1でキャピラリーレオロジーによって測定した溶融粘度は、0.37kN-s/m2であった。
【0114】
ブレンドPEEK/PEEK-PEoEK(表1の配合物3)は、配合されるポリマーを樹脂形態で約20分間最初にタンブリングすることによって調製した。次いで、配合物を、48:1のL/D比を有する直径26mmのCoperion(登録商標)ZSK-26共回転部分噛合二軸スクリュー押出機を用いて溶融混錬した。バレルセクション2~12及びダイを、以下の通りの設定点温度に加熱した:バレル2~12:350℃、ダイ:350℃。樹脂ブレンドを、範囲30~40ポンド/時の処理量で重量測定フィーダーを用いてバレルセクション1に供給した。押出機は、およそ200RPMのスクリュー速度で作動した。約27インチの水銀の真空レベルを用いてバレルゾーン10に真空を適用した。単一孔ダイを配合物の全てについて用いて直径およそ2.4~2.5mmのフィラメントを生じさせ、ダイを出るポリマーフィラメントを水中で冷却し、ペレタイザーに供給して長さおよそ2.0mmのペレットを生成した。フィラメント押出の前に、ペレットを以下の通りアニーリングした:200℃で2時間。
【0115】
フィラメントの製造
フィラメント製造用の供給原料は、純粋なポリマー(PEEK又はPEEK-PEoEK)又はポリマー樹脂のドライブレンドのいずれかから構成された。樹脂形態でフィラメントへと押し出されるポリマーを約20分間タンブリングした。0.75インチ(1.905cm)の32L/D汎用シングルスクリューと、加熱キャピラリーダイアタッチメントと、長さ1.5インチのランドを備えた直径3/32インチのノズルと、下流のカスタム設計フィラメント搬送装置とを備えたBrabender(登録商標)Intelli-Torque Plasti-Corder(登録商標)トルクレオメーター押出機を使用して、各組成物の直径1.80mmのフィラメントを製造した。他の下流機器には、共にESI-Extrusion Services製のベルトプーラーとデュアルステーションコイラーとが含まれていた。DataPro 1000データコントローラーを備えたBeta LaserMike(登録商標)5012を使用してフィラメント寸法をモニターした。溶融ストランドを空気で冷却した。Brabender(登録商標)ゾーンの設定点の温度は、下記の通りであった:ゾーン1、395℃;ゾーン2及びゾーン3、400℃;ダイ、340℃。Brabender(登録商標)の速度は35~45rpmの範囲であり、プーラー速度は33~36フィート/分(10.058~10.973メートル/分)であった。
【0116】
3D印刷
上述したフィラメントを、Stratasys,Inc.,Eden Prarie,Minnesota,USAから市販されているF900押出ベースの付加製造システムで印刷した。上述したフィラメントをモデル材料として印刷した一方で、Stratasys SUP8000B離脱支持材料を支持材料として機能させた。高温(PPSU)ビルドシートを、印刷された物体の基材として採用した。印刷試験中、モデル押出機温度は400~420℃に設定し、支持体押出機温度は約400℃に設定し、加熱チャンバーは155℃に設定した。層厚さ0.013インチのStratasys T20Dチップをモデル材料として使用し、Stratasys T16チップを支持材料として使用した。加熱されたチャンバー内でモデル材料を層ごとの形式で一連のロードとして押し出し、構造を印刷した。100%の充填材と45°/-45°の交互ラスターを使用して、各処方について6インチ×6インチ×2mmのプラークを印刷し、印刷後、加熱チャンバー及びビルドシートから物体を速やかに取り外した。
【0117】
試験方法
DSC(Tg、Tc、融解熱)
Tgは、ASTM D3418に準拠して20℃/分の加熱及び冷却速度を用いる示差走査熱量計(DSC)での2回目の加熱走査で決定される。
【0118】
Tcは、ASTM D3418に準拠して20℃/分の加熱及び冷却速度を用いる示差走査熱量計(DSC)での1回目の冷却走査で決定される。
【0119】
融解熱は、ASTM D3418に準拠して20℃/分の加熱速度を用いる示差走査熱量計(DSC)での2回目の加熱走査で決定される。
【0120】
結果
表1は、実施例1、2、及び3で使用されたフィラメントの組成の概要を示す。
【0121】
【0122】
表2は、配合物1、2、及び3についての1回目の冷却及び2回目の加熱のDSCデータを示す。表2の最後の欄には、(Tm-Tc)/(Tm-Tg)パラメータが示されている。これは、ガラス転移温度と融解転移温度が異なる似たタイプのポリマー(すなわちこの場合はPAEK)間で結晶化速度を比較するための方法である。この数値が0.0に近いほどTcはTmに近く、結晶化速度が速くなり;この数値が1.0に近いほどTcはTgに近く、結晶化速度が遅くなる。この比率は、結晶化を引き起こすために必要とされる超らせん形成の熱的駆動力を効果的に測定する。
【0123】
【0124】
PEEKは0.27で最も高い相対結晶化速度を有する一方で、PEEK-PEoEKは0.45で最も遅く、50/50ブレンドは0.33でその差を半分にする。融解のエンタルピー欄(ΔHm)においても、PEEK-PEoEKコポリマーは、それぞれ41J/g対52J/gでPEEKよりも低い絶対結晶化度を有する一方で、50/50ブレンドは55対52J/gで純粋のPEEKと同程度の結晶化度を有する。
【0125】
純粋なPEEK-PEoEKコポリマー(303℃)及びこれとPEEKとの50/50ブレンド(333℃)の両方の融点も、有利なことに、純粋なPEEK(343℃)よりも低い。このことは、純粋なPEEKと比較して溶融加工を行い易くし、熱分解の機会も減らす。これは、全てのこれらのポリマーが、基本的に同じエーテル結合及びケトン結合、並びにその結果生じる結合解離エネルギーに起因する同様の分解温度を有するためである。
【0126】
上記材料を使用して、6インチ×6インチ×2mmのプラークを印刷した。PEEK材料については、物体の左前の角に望ましくない若干の反りがあり、これは印刷プロセス中に上向きにカールした。3つの印刷された物体全ての中央の欠陥は、以降で更に説明する印刷された部品のDSC分析に使用される切り抜きである。PEEK-PEoEKコポリマーは3D印刷プロセス中に反りを生じなかった。PPSUビルドシートから剥がした後、これはわずかに下向きの湾曲を示した。50/50ブレンド材料から3D印刷されたプラークは、有利なことに、3D印刷プロセス中及びPPSUビルドシートから剥がした後の両方で、カールや反りを示さずに平らなままであった。
【0127】
表3は、3D印刷された物体からの切り抜きの1回目の加熱のDSC温度遷移を示す。加熱チャンバーは、全てのこれらのポリマーのTgに非常に近い155℃に保持される。
【0128】
【0129】
DSCの1回目の加熱走査中に低温結晶化ピークが存在しないことによって示されるように、PEEKの印刷された部品は印刷プロセス中に完全に結晶化される。純粋なPEEK-PEoEKコポリマーは27J/gの低温結晶化エンタルピー(ΔHc)を有する一方で、50/50ブレンドは15J/gのより低いΔHcを有し、このことは、PEEK-PEoEKコポリマーと比較して印刷プロセス中に50/50ブレンドの方が多く結晶化したことを示している。
【0130】
全ての上の結果を総合すると、PEEK-PEoEK及びこれとPEEKとのブレンドは、3D印刷プロセスからの結晶性を保持しながらも、PEEKよりも低い結晶化度と遅い結晶化速度の両方を有利に有することは明らかである。PEEK-PEoEK及びこれとPEEKとのブレンドは、3D印刷プロセス中に部分的に結晶化したものの、驚くべきことに、これらは有利なことに印刷中に反りを生じなかった。これは、3D印刷プロセス中に反りを生じた純粋なPEEKとは対照的である。PEEK-PEoEK及びそのPEEKとのブレンドのこの保持された結晶性は、印刷された部品の熱的、機械的、及び化学的な耐性の特性に有利であるのみならず、エンドユーザーが部品の結晶性を更に高めるために印刷後のアニーリング工程を実行することを決定した場合に部品形状を維持するのにも有利である。
【国際調査報告】