(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】光触媒において使用するための層状ニオブ酸塩
(51)【国際特許分類】
C01G 33/00 20060101AFI20231214BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20231214BHJP
B01J 23/20 20060101ALI20231214BHJP
B01J 31/18 20060101ALI20231214BHJP
B01J 31/36 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C01G33/00 A
B01J35/02 J
B01J23/20 M
B01J31/18 M
B01J31/36 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532345
(86)(22)【出願日】2021-11-10
(85)【翻訳文提出日】2023-05-26
(86)【国際出願番号】 EP2021081245
(87)【国際公開番号】W WO2022112002
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】102020214923.2
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518241791
【氏名又は名称】タニオビス ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】TANIOBIS GmbH
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78-91, 38642 Goslar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ シュニッター
(72)【発明者】
【氏名】スヴェン アルブレヒト
(72)【発明者】
【氏名】ローラント マーシャル
(72)【発明者】
【氏名】ナタリア クリショフ
(72)【発明者】
【氏名】フラヴィウ カリン ラダシウ チョラク
【テーマコード(参考)】
4G048
4G169
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AA05
4G048AB05
4G048AC08
4G048AD08
4G169AA02
4G169AA11
4G169BA26B
4G169BA48A
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC03A
4G169BC03B
4G169BC05A
4G169BC06A
4G169BC12A
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4G169BC55A
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4G169BC71A
4G169BC71B
4G169BE44B
4G169BE46B
4G169CB81
4G169CC33
4G169DA04
4G169DA08
4G169EA01Y
4G169EA02Y
4G169EA11
4G169EC23
4G169EC25
4G169FC08
4G169HA01
4G169HB06
4G169HD02
4G169HE09
(57)【要約】
本発明は式HaAbSr2Nb3O10[式中、Hは元素のH+およびH3O+を含む群を表し、AはK+、Cs+およびRb+の群の元素を表し、0.6≦a≦1且つ0≦b≦0.4、a+b=1である]の層状ニオブ酸塩であって、異なる層間隔を有することを特徴とする前記層状ニオブ酸塩、その製造方法、並びに光触媒におけるその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[H
aA
b]
+[Sr
2Nb
3O
10]
- [式中、[Sr
2Nb
3O
10]
-が主層、および[H
aA
b]
+が中間層を形成し、HはH
+およびH
3O
+からなる群を表し、且つAはK
+、Cs
+およびRb
+の群の元素を表し、0.6≦a≦1且つ0≦b≦0.4、a+b=1である]の層状ニオブ酸塩であって、前記主層間で異なる間隔を有することを特徴とする、前記層状ニオブ酸塩。
【請求項2】
前記層状ニオブ酸塩が、ディオン・ヤコブソン(Dion-Jacobson)型の層状ペロブスカイトであることを特徴とする、請求項1に記載の層状ニオブ酸塩。
【請求項3】
前記層状ニオブ酸塩が、水和相と脱水相とを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の層状ニオブ酸塩。
【請求項4】
前記層状ニオブ酸塩が、少なくとも60%、有利には70%を上回る、特に好ましくは80~100%のプロトン化度を有し、前記プロトン化度がEDXを用いて特定されることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の層状ニオブ酸塩。
【請求項5】
前記層状ニオブ酸塩が、中間層中に水分子および/または水和されたヒドロニウムイオン(H
3O
+・H
2O)を有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の層状ニオブ酸塩。
【請求項6】
前記層状ニオブ酸塩のXRDパターンにおいて002反射および004反射がそれぞれ二重ピークとして出現することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の層状ニオブ酸塩。
【請求項7】
Aがカリウムイオンであることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の層状ニオブ酸塩。
【請求項8】
前記層状ニオブ酸塩が、式ASr
2Nb
3O
10 [式中、AはK
+、Cs
+およびRb
+の群の元素を表す]の化合物を硝酸(HNO
3)水溶液で処理することによって製造されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の層状ニオブ酸塩。
【請求項9】
硝酸水溶液での処理が、40~70℃、有利には50~65℃の温度で行われることを特徴とする、請求項8に記載の層状ニオブ酸塩。
【請求項10】
硝酸水溶液の濃度が0.5~2.5M、有利には0.5~1.5Mであることを特徴とする、請求項8または9に記載の層状ニオブ酸塩。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項に記載の層状ニオブ酸塩の製造方法であって、一般式ASr
2Nb
3O
10 [式中、AはK
+、Cs
+およびRb
+の群の元素を表す]の化合物を硝酸(HNO
3)水溶液で処理することを含み、前記処理は40~70℃、有利には50~65℃の温度で行われることを特徴とする、前記方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法により得られる層状ニオブ酸塩。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項に記載の層状ニオブ酸塩の、光触媒、有利には光誘導水分解のための光触媒としての使用。
【請求項14】
請求項1から10までのいずれか1項、または請求項12に記載の層状ニオブ酸塩を含む光触媒。
【請求項15】
前記光触媒がさらにロジウム共触媒を有することを特徴とする、請求項14に記載の光触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は式HaAbSr2Nb3O10 [式中、Hは元素のH+およびH3O+を含む群を表し、AはK+、Cs+およびRb+の群の元素を表し、0.6≦a≦1且つ0≦b≦0.4、a+b=1である]の層状ニオブ酸塩であって、異なる層間隔を有することを特徴とする前記層状ニオブ酸塩、その製造方法、並びに光触媒におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
光合成の際、太陽光が化学エネルギーに変換され、その際、二酸化炭素および水から糖が形成され、セルロースの形態で植物に貯蔵され、その植物の燃焼によって元のエネルギーが再度使用可能になる。水素の形態での太陽エネルギーの貯蔵は同様の原理に基づく。水は太陽光の助けによって触媒の存在下で水素と酸素とに分解されることができる。水素が再度燃焼すると、エネルギーと水とが放出されるので、例えば代替エネルギー源として使用され得る。この形態でエネルギーを得ることは、例えば木または他の化石原料の燃焼の際とは異なり、環境に有害な副生成物が発生せず、且つ風または太陽エネルギーとは対称的に一日のうちの時刻および気候状態に依存しないという利点を有する。古典的な水の電気分解に比して、光触媒による水分解はさらに、穏やかな反応条件および比較的低い技術的要件の利点を有する。
【0003】
二酸化チタンに基づく最初の光触媒は1970年代に既に提案されていたが、この方法の効率は水素を大量に生成できるほどに高めることには成功していない。これに関して有望であるとみなされる化合物の類は、一般式
MAn-1BnO3n+1
[式中、Mはアルカリ金属、Aはアルカリ土類金属または希土類金属、Bは五価の金属、通常はタンタルまたはニオブを表す]
のディオン・ヤコブソン(Dion-Jacobson)型の層状ペロブスカイトであり、ニオブの場合、これらの化合物は層状ニオブ酸塩とも称される。これらの化合物は、一般式[An-1(BnO3n+1)]-の、負に帯電したペロブスカイト主層から構成され、その間にアルカリ金属イオンが正の中間層として挿入されている。その層状構造および層の間の比較的大きな間隔に基づき、これらの化合物はイオン交換によって容易に改質され得る。例えば、中間層においてアルカリ金属イオンをプロトンおよび水分子によって置き換え、そのことによって、かかる化合物の光触媒活性、つまり光の照射に際して生成される水素の量を増加させることができる。
【0004】
文献においては層状ペロブスカイト、および光触媒による水素発生に関するその活性について広範な研究が発表されている。
【0005】
Domenらは、1994年にRes.Chem.Intermed., Vol.20, No.9, 895~908ページに発表された論文「Ion exchangeable layered niobates as a noble series of photocatalysts」において、KCa2Nb3O10について層間隔および水素発生の依存性を調査した。その際、層間隔はプロトン化度の増加に伴って段階的に増加し、層間隔の段階的な高まりは異なる水和度、つまりプロトンと共に水分子が中間層に取り込まれることに起因することが判明した。60%の交換度から水素形成速度の明らかな上昇が観察され、それは層間隔が大きい場合、メタノール分子が中間層に到達し、そこでホールスカベンジャーとして機能することによって説明された。その著者らは、このようにして電子とホールとの間の再結合速度を低下させることができ、より多くの電子が水分子の水素への還元のために使用可能になると考えている。
【0006】
Huangらは、Solar Energy Materials&Solar Cells 95, (2011) 1019~1027に発表された論文「Photocatalytic property of partially substituted Pt-intercalated layered perovskite, ASr2TaxNb3-xO10(A=K,H; x=0,1,1.5,2 and 3)」において、とりわけHSr2(Ta/Nb)3O10について、XRDスペクトルおよび水素形成速度を示している。この化合物については15.04Åの層間隔が記述されており、それは酸と反応してHSr2Nb3O10になった後では16.53Åであった。水銀灯での照射下での10%のメタノール溶液からの水素の発生は、プロトン化化合物HSr2Nb3O10について、標準的な光触媒TiO2 P25よりも高い値を示した。
【0007】
MaedaらのJ.Mater.Chem, 2009,19,4813~4818における刊行物「Comparison of two- and three-layer restacked Dion-Jacobson phase niobate nanosheets as catalysts for photochemical hydrogen evolution」においては、層状化されたニオブ酸塩ナノシートを、相応のディオン・ヤコブソン層状ペロブスカイト(HCa2Nb3O10、HSr2Nb3O10およびHLaNb2O7)をテトラ(n-ブチル)アンモニウムによって剥離し、引き続き塩酸で処理することによって製造し、その光触媒特性を測定し、従来の化合物と比較している。
【0008】
Fangらは、Journal of Wuhan University of Technology Mater.Sci. Ed.,2002, Vol.7, No.2において表題「Synthesis and characterization of a new triple-layered Perovskite KSr2Nb3O10 and its protonated compounds」で、固相合成によってKSr2Nb3O10を製造し、引き続き酸で処理し、プロトン交換によって化合物HSr2Nb3O10・1.5H2Oを得ることを記載している。2つの化合物について層間隔として、15.0Å(KSr2Nb3O10)もしくは16.4Å(HSr2Nb3O10・1.5H2O)が記述されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Domen et al, “Ion exchangeable layered niobates as a noble series of photocatalysts”, Res.Chem.Intermed., Vol.20, No.9, 1994, 895~908
【非特許文献2】Huang et al, “Photocatalytic property of partially substituted Pt-intercalated layered perovskite, ASr2TaxNb3-xO10(A=K,H; x=0,1,1.5,2 and 3)”, Solar Energy Materials&Solar Cells 95, 2011, 1019~1027
【非特許文献3】Maeda et al, “Comparison of two- and three-layer restacked Dion-Jacobson phase niobate nanosheets as catalysts for photochemical hydrogen evolution”, J.Mater.Chem, 2009,19,4813~4818
【非特許文献4】Fang et al, “Synthesis and characterization of a new triple-layered Perovskite KSr2Nb3O10 and its protonated compounds”, Journal of Wuhan University of Technology Mater.Sci. Ed.,2002, Vol.7, No.2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
良好な光触媒活性を有する一連の化合物が既に公知である場合でも、水の太陽光化学分解のために用いられ得る改善された効率を有する光触媒が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
意外なことに、この課題は、プロトン化状態において異なる層間隔を有することを特徴とする新規の層状ニオブ酸塩によって解決されることが判明した。
【0012】
従って、本発明の第1の対象は、式[HaAb]+[Sr2Nb3O10]- [式中、[Sr2Nb3O10]-が主層、および[HaAb]+が中間層を形成し、Hは元素のH+およびH3O+からなる群を表し、且つAはK+、Cs+およびRb+の群の元素を表し、0.6≦a≦1且つ0≦b≦0.4、a+b=1である]の層状ニオブ酸塩であって、主層間で異なる間隔を有することを特徴とする、前記層状ニオブ酸塩である。
【0013】
有利には、本発明による層状ニオブ酸塩は、組成[HaAb]+[Sr2Nb3O10]-を有し、ここで0.6<a≦1且つ0≦b≦0.4、a+b=1、有利には0.7<a≦1且つ0≦b≦0.3、特に好ましくは0.8<a≦1且つ0≦b≦0.2、それぞれa+b=1であるものである。
【0014】
本発明による層状ニオブ酸塩は、有利には上記で定義されたようなディオン・ヤコブソン型M[Sr2Nb3O10] [式中、Mは[HaAb]を表す]の層状ペロブスカイト型である。従って、本発明による層状ニオブ酸塩は、負に帯電した主層[Sr2Nb3O10]-の間に正に帯電した元素M+が挿入されていることを特徴とする。XRD測定によって特定され得る個々の層の間の間隔は、挿入された元素M+の大きさと相関する。本発明による場合、意外なことに、層状ニオブ酸塩において異なる層間隔が形成されることが判明し、それはXRDパターンにおいて相応の反射が二重になること(「二重ピーク」)によって表される。特定の理論に束縛されるものではないが、水および/または加水分解されたヒドロニウムイオンの中間層中への不均一な取り込みが、いくつかの層の間の層間隔が他の層の間よりも大きくなり、つまり本発明による層状ニオブ酸塩は2つの相を有することをみちびくと考えられる。より大きな層間隔を有する相は水和相と考えられる一方で、より小さな層間隔を有する相は中間層中への追加的な水の取り込みを有さない層と解釈される。意外なことに、本発明による層状ニオブ酸塩の光触媒活性は、水和および脱水された両方の相の出現と共に非常に増加することが確認された。その点では、層状ニオブ酸塩が水和相と脱水相とを有する本発明の実施態様が好ましい。ここで、水和相は水分子および/または水和したヒドロニウムイオン(H3O+・H2O)を中間層中に有する一方で、脱水相は相応の分子を中間層中に有さない。
【0015】
従来技術から、層状ペロブスカイトの光触媒活性は、通常は中間層に挿入されたアルカリ金属イオンの少なくとも一部がプロトンと交換される場合に高められ得ることが知られている。従って、層状ニオブ酸塩が少なくとも60%、有利には70%を上回る、特に好ましくは80~100%のプロトン化度を有する本発明の実施態様が好ましい。本発明に関し、プロトン化度は、プロトンによって置き換えられた中間層中のアルカリ金属イオンの割合を示すので、プロトン化度は例えばEDXを用いて、交換されたアルカリイオンの含有率を特定することによって特定され得る。従って、60%のプロトン化度は、通常は中間層中に埋め込まれたアルカリ金属イオンの60%がプロトンによって置き換えられたと理解されるべきである。ここで、上述のとおり、プロトン化度はアルカリ金属イオン含有率を、プロトン化されていない化合物と比較することによって測定され得る。
【0016】
本発明による層状ニオブ酸塩は殊に、異なる層間隔を有する2つの相を有することを特徴とする。これらの相はXRD測定によって同定できる。好ましい実施態様において、本発明による層状ニオブ酸塩の002および004のX線回折反射は2つの反射(二重ピーク)として出現する。従って、本発明による層状ニオブ酸塩のXRDスペクトルにおいて、上記の反射は、従来の層状ニオブ酸塩のスペクトルにおけるような単一の反射ではなく二重反射として出現する。
【0017】
本発明による層状ニオブ酸塩の光触媒活性は、中間相中に挿入されたアルカリ金属イオンの少なくとも一部をプロトンによって置き換えることによって高められ得る。この交換は、アルカリ金属イオンがカリウムイオンである場合に特に効率的であることが判明した。従って、Aがカリウムイオンである本発明の実施態様が特に好ましい。
【0018】
特定の理論に束縛されるものではないが、本発明による層状ニオブ酸塩の特別な構造の形成に寄与するのは殊にプロトン化段階であると考えられる。従って、好ましい実施態様において、層状ニオブ酸塩は式ASr2Nb3O10 [式中、AはK+、Cs+およびRb+の群の元素を表す]の化合物を硝酸(HNO3)水溶液で処理することによって製造される。有利には、硝酸水溶液での処理は40~70℃、有利には50~65℃の温度で行われる。処理の持続時間は所望のプロトン化度に従い、好ましい実施態様においては3~24時間、有利には5~20時間、および特に好ましくは12~18時間であることができる。さらに、硝酸水溶液を処理の間に新しくすることが有利であることが判明した。従って、硝酸水溶液が4~10時間毎に、有利には5~8時間毎に、新鮮な溶液によって交換される実施態様が特に好ましい。さらに好ましい実施態様において、硝酸水溶液の濃度は0.5~2.5M、有利には0.5~1.5Mである。
【0019】
本発明のさらなる対象は、本発明による層状ニオブ酸塩の製造方法であって、一般式ASr2Nb3O10 [式中、Aは元素のK+、Cs+およびRb+の群の元素を表す]の化合物を、硝酸(HNO3)水溶液で、温度40~70℃、有利には50~65℃で処理することを含む前記方法である。処理の持続時間は所望のプロトン化度に従い、好ましい実施態様においては3~24時間、有利には5~20時間、および特に好ましくは12~18時間であることができる。さらに、硝酸水溶液を処理の間に新しくすることが有利であることが判明した。従って、硝酸水溶液が4~10時間毎に、有利には5~8時間毎に、新鮮な溶液によって交換される実施態様が特に好ましい。さらに好ましい実施態様において、硝酸水溶液の濃度は0.5~2.5M、有利には0.5~1.5Mである。
【0020】
本発明のさらなる対象は、一般式ASr2Nb3O10 [式中、Aは元素のK+、Cs+およびRb+の群の元素を表す]の化合物を、硝酸(HNO3)水溶液で、温度40~70℃、有利には50~65℃で処理することによって得られる層状ニオブ酸塩である。このようにして得られた層状ニオブ酸塩は、式[HaAb]+[Sr2Nb3O10]-の組成を有し、[Sr2Nb3O10]-が主層、および[HaAb]+が中間層を形成し、Hは元素のH+およびH3O+からなる群を表し、且つAはK+、Cs+およびRb+の群の元素を表し、0.6≦a≦1且つ0≦b≦0.4、a+b=1であり、且つ主層間で異なる間隔を示す。
【0021】
本発明による層状ニオブ酸塩の製造に際する出発化合物として役立つ一般式ASr2Nb3O10の化合物は、有利には溶融塩合成または固相合成によって製造される。
【0022】
本発明による層状ニオブ酸塩は高い光触媒活性を特徴とする。従って、本発明のさらなる対象は、本発明による層状ニオブ酸塩の光触媒、有利には光誘導水分解における光触媒としての使用である。
【0023】
本発明のさらなる対象は、本発明による層状ニオブ酸塩を含む光触媒である。意外なことに、本発明による光触媒によって生成される水素の量は、同条件下で従来の光触媒によって達成される量よりも多いことが示された。有利には、本発明による光触媒はさらにロジウム共触媒を有する。
【0024】
本発明を以下で実施例を用いてより詳細に説明するが、これらは決して、本発明の思想を限定するとして理解されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】異なるプロトン化度を有する式[H
aK
b]Sr
2Nb
3O
10(A)の本発明による層状ペロブスカイトのXRDパターンを示す。
【
図2】本発明による層状ニオブ酸塩のXRDパターンを拡大した切り抜きを示す。
【
図3】本発明による層状ニオブ酸塩におけるc軸長もしくは層間隔の、K
+のH
+に対する交換度依存性を示す。
【
図4】水素形成速度の、本発明による層状ニオブ酸塩におけるK
+のH
+に対する交換度依存性を示す。
【
図5】表1の層状ニオブ酸塩のXRDパターンの比較を示す。
【実施例】
【0026】
KSr2Nb3O10を溶融塩合成によって、例えばKulischowらのCatal. Today 2017, 287, 65~69内に記載されるように製造した。
【0027】
KSr2Nb3O10を1MのHNO3溶液中、60℃で様々な時間間隔で攪拌した。プロトン化度をエネルギー分散型X線分光法(energy dispersive X-ray spectroscopy、EDX)によって追跡した。
【0028】
X線回折分析を、PANalytical MPD回折計によって、Cu-Kα線(λ=0.1541nm)を用いて2θ範囲5°~30°で実施した。
【0029】
EDX元素分析をPhilips LEO Gemini 928電界放出型SEMを用いて20kVの加速電圧で実施した。
【0030】
光触媒の調査を、KulischowらのCatal. Today 2017, 287, 65~69内に記載されるように、二重壁の石英反応器内で実施した。熱の影響を排除するために、反応器を10℃に冷却した。光源として350WのHgランプを使用した。発生する水素を検出するために、熱伝導率のための検出器(TCD)とRESTEK ShinCarbon ST 100/120カラムとを備えたShimadzu GC-2014ガスクロマトグラフを使用した。測定の間、前記カラムを温度35℃で保持し、H2についての溶出時間は1分であった。
【0031】
典型的な実験においては、本発明による層状ニオブ酸塩0.3gを、共触媒としての0.3質量%のRh(NH
3)
5Cl)Cl
2と共に超音波処理下で600mlのメタノール水溶液(10% v/v)中で懸濁し、次いで350WのHgランプで照射した。過塩素酸を用いて溶液の出発pH値を3に調整した。照射前に、その系にアルゴンでパージして、空気の完全な除去を確実にした。異なるプロトン化度を有する材料において350WのHgランプを用いたこの光触媒測定の結果を
図4に示す。
【0032】
さらなる層状ニオブ酸塩を、酸処理の温度および持続時間を変えることによって製造した。1MのHNO
3での処理を20℃、55℃、60℃、および80℃で実施した。処理の持続時間は、全ての実験に際して酸処理の最後に同様のプロトン化度が達成されるように調節され、20℃で最長の処理(172h)が必要であった。得られた層状ニオブ酸塩の化学分析を表1に要約し、ここで比較のために出発化合物KSr
2Nb
3O
10を引用している。使用された試料はそれぞれ83%の交換度またはプロトン化度を有したが、55℃もしくは60℃で酸処理を実施した例1および2の試料のみが本発明による異なる層間隔を示した。相応のXRDパターンを
図5に示す。20℃もしくは80℃での酸処理(比較例1もしくは2)は、XRDパターンにおいてそれぞれ1つだけの002ピークおよび004ピークを示した。
【0033】
【0034】
光触媒開発の目標は太陽光水分解である。Hgランプは高い割合の高エネルギーUV光線を生成し、これはたしかに光触媒水素による水素の発生を高めるのだが、太陽光のスペクトルにおいては含有されていない。太陽光水分解への応用を試験するために、上述のような表1の層状ニオブ酸塩と共触媒としてのRh(NH
3)
5Cl)Cl
2とによる光触媒懸濁液を有する石英ガラスキュベットをHgランプの代わりにキセノンアークランプ(Perkin Elmer Cermax E300BF)で、ソーラーシミュレータフィルタを通じて照射した。温度上昇を回避するために、水フィルタを使用した。照度はキュベット上で1283.9mW/cm
2であった。5時間後に測定された水素量を表2に要約する:
【表2】
【0035】
表2からわかるとおり、本発明による層状ニオブ酸塩(例1および例2)の使用によって著しく高い水素生成を達成することができた。
【0036】
図1は異なるプロトン化度を有する式[H
aK
b]Sr
2Nb
3O
10(A)の本発明による層状ペロブスカイトのXRDパターンを示し、ここでK
+がH
+と交換されており、(a)は100%プロトン交換された完全に乾燥した化合物の参照図であり、(b)は100%プロトン交換された完全に水和された化合物の参照図である。
【0037】
図2は本発明による層状ニオブ酸塩のXRDパターンを拡大した切り抜きを示し、ここで二重構造の層状ニオブ酸塩HSr
2Nb
3O
10・xH
2Oの00lピークが明らかに識別される。層間の間隔は15.3Åもしくは16.9Åである。
【0038】
図3は、本発明による層状ニオブ酸塩におけるc軸長もしくは層間隔の、K
+のH
+に対する交換度依存性を示す。
【0039】
図4は、水素形成速度の、本発明による層状ニオブ酸塩におけるK
+のH
+に対する交換度依存性を示す。
【0040】
図5は、記載された例において用いられた表1の層状ニオブ酸塩のXRDパターンの比較を示し、ここで層間隔が分かれていること(「二重ピーク」)が明らかに識別される(例1および例2)。
【国際調査報告】