(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】複数の結合ドメインを有する免疫グロブリン構築物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20231214BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20231214BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20231214BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231214BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231214BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231214BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231214BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231214BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20231214BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20231214BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20231214BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231214BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231214BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231214BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231214BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20231214BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61P31/00
A61P37/06
A61P29/00
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K47/68
A61K39/395 U
A61K39/395 G
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K39/395 W
A61K39/395 Y
A61K39/395 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533306
(86)(22)【出願日】2021-12-02
(85)【翻訳文提出日】2023-07-13
(86)【国際出願番号】 US2021061587
(87)【国際公開番号】W WO2022120033
(87)【国際公開日】2022-06-09
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブロズィー,ヨハンネス
(72)【発明者】
【氏名】ガッティベンカタクリシュナ,パバン
(72)【発明者】
【氏名】アメール,ブレンダン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA06
4B064CA08
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA94
4C076AA95
4C076CC03
4C076CC04
4C076CC26
4C076CC27
4C076CC31
4C076CC41
4C076EE59M
4C076EE59Q
4C076FF31
4C076FF63
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB081
4C084ZB111
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA33
4C085BB01
4C085BB11
4C085BB36
4C085BB42
4C085CC05
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4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG01
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4C085GG04
4C085GG06
4C085GG08
4C085GG10
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
多特異性分子の新規の形式、並びにそれらの作製方法が記載される。更に、治療指標における使用も記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の構造:
a.VH1-L1-VH2-L2-VL1-L3-VL2-L4-VH3-L1-VH4-L2-VL3-L3-VL4又は
b.VH1-L1-VH2-L2-VL1-L3-VL2-L4-半減期延長部分-L5-VH3-L1-VH4-L2-VL3-L3-VL4
(式中、VH1、VH2、VH3及びVH4は、免疫グロブリン重鎖可変領域であり、VL1、VL2、VH3及びVL4は、免疫グロブリン軽鎖可変領域であり、L1、L2、L3、L4及びL5はリンカーであり、ここでL1は、少なくとも10アミノ酸であり、L2は、少なくとも15アミノ酸であり、L3は、少なくとも10アミノ酸であり、前記分子は、免疫エフェクター細胞及び標的細胞に結合し得る)
を有するポリペプチド鎖を含む分子。
【請求項2】
次の構造:
a.VH1-L1-VH2-L2-VL1-L3-VL2-L4-VH3-L1-VH4-L2-VL3-L3-VL4又は
b.VH1-L1-VH2-L2-VL1-L3-VL2-L4-半減期延長部分-L5-VH3-L1-VH4-L2-VL3-L3-VL4
(式中、VH1、VH2、VH3及びVH4は、免疫グロブリン重鎖可変領域であり、VL1、VL2、VH3及びVL4は、免疫グロブリン軽鎖可変領域であり、L1、L2及びL3はリンカーであり、ここでL1は、少なくとも10アミノ酸であり、L2は、少なくとも10アミノ酸であり、L3は、少なくとも10アミノ酸であり、L1、L2及びL3の総アミノ酸は、少なくとも35アミノ酸であり、前記分子は、免疫エフェクター細胞及び標的細胞に結合し得る)
を有するポリペプチド鎖を含む分子。
【請求項3】
前記半減期延長部分が、単鎖免疫グロブリンFc領域(「scFc」)である、請求項1又は2に記載の分子。
【請求項4】
前記半減期延長部分が、ヒトIgG1、IgG2又はIgG4抗体由来のscFcである、請求項3に記載の分子。
【請求項5】
前記scFcのポリペプチド鎖が、Fcガンマ受容体(FcγR)結合を阻害する1つ以上の改変、及び/又は半減期を延長させる1つ以上の改変を含む、請求項4に記載の分子。
【請求項6】
前記VH1、VH2、VH3、VH4、VL1、VL2、VL3及びVL4全てが異なる配列を有する、請求項1又は2に記載の分子。
【請求項7】
前記VH2及びVH4配列が、配列番号41を含み、前記VL2及びVH4配列が配列番号42を含む、請求項1又は2に記載の分子。
【請求項8】
L1、L2及びL3が異なる長さである、請求項1又は2に記載の分子。
【請求項9】
L1、L2及びL3が同じ長さである、請求項1又は2に記載の分子。
【請求項10】
L1及びL2が同じ長さである、請求項1又は2に記載の分子。
【請求項11】
L1及びL3が同じ長さである、請求項1又は2に記載の分子。
【請求項12】
L2及びL3が同じ長さである、請求項1又は2に記載の分子。
【請求項13】
L1のアミノ酸配列が少なくとも10アミノ酸長であり、L2のアミノ酸配列が少なくとも15アミノ酸長であり、L3のアミノ酸配列が少なくとも15アミノ酸長である、請求項1又は2に記載の分子。
【請求項14】
VH1-リンカー-VL1-リンカー-VH2-リンカー-VL2-リンカー-VH3-リンカー-VL3-リンカー-VH4-リンカー-VL4又はVH1-リンカー-VL1-リンカー-VH2-リンカー-VL2-リンカー-半減期延長部分-リンカー-VH3-リンカー-VL3-リンカー-VH4-リンカー-VL4の構造を有する分子と比較した場合に安定性の向上を示す、請求項1又は2に記載の分子。
【請求項15】
VH1-リンカー-VL1-リンカー-VH2-リンカー-VL2-リンカー-VH3-リンカー-VL3-リンカー-VH4-リンカー-VL4又はVH1-リンカー-VL1-リンカー-VH2-リンカー-VL2-リンカー-半減期延長部分-リンカー-VH3-リンカー-VL3-リンカー-VH4-リンカー-VL4の構造を有する分子と比較した場合にインビトロでの発現の向上を示す、請求項1又は2に記載の分子。
【請求項16】
前記エフェクター細胞が、ヒトT細胞受容体(TCR)-CD3複合体の一部であるエフェクター細胞タンパク質を発現する、請求項1又は2に記載の分子。
【請求項17】
前記エフェクター細胞タンパク質がCD3ε鎖である、請求項16に記載の分子。
【請求項18】
請求項1~17に記載の分子をコードする核酸。
【請求項19】
請求項18に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項20】
請求項19に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項21】
(1)前記分子を発現させるための条件下で宿主細胞を培養し、(2)細胞塊又は細胞培養上清から前記分子を回収することを含み、前記宿主細胞が、請求項1~17の何れかに記載の分子をコードする1つ以上の核酸を含む、請求項1に記載の分子を製造する方法。
【請求項22】
癌患者を処置する方法であって、治療上有効な量の請求項1~17の何れかに記載の分子を前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項23】
前記分子の投与と同時に、その前又はその後に、化学療法剤、非化学療法の抗悪性腫瘍剤及び/又は放射線が前記患者に投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
感染症疾患を有する患者を処置するための方法であって、治療上有効な用量の請求項1~17の何れかに記載の分子を前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項25】
自己免疫状態、炎症状態又は線維性状態を有する患者を処置するための方法であって、治療上有効な用量の請求項1~17の何れかに記載の分子を前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項26】
請求項1~17の何れかに記載の分子を含む医薬組成物。
【請求項27】
疾患を予防する、処置する又は寛解させるための医薬の製造における、請求項1~17の何れかに記載の分子の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年12月3日に出願された米国仮特許出願第63/121,166号明細書に対する優先権を主張する。上記出願は、本明細書によってあらゆる目的のために参照により本明細書中に組み込まれる。
【0002】
本発明は、タンパク質工学の分野におけるものである。
【背景技術】
【0003】
二特異性結合分子は、近年、将来性のある治療法であることが示されている。例えば、二特異性T細胞エンゲージャー(BiTE(登録商標))形式でのCD3及びCD19の両方を標的とする二特異性分子は、低用量で目覚ましい効果を示している。Bargou et al.(2008),Science 321:974~978。このBiTE(登録商標)形式は、2つのscFv’を含み、そのうちの一方がCD3を標的とし、その一方が腫瘍抗原であるCD19を標的とするものであり、それらは可動性リンカーで連結されている。この独自の設計により、二特異性分子が、活性化されたT細胞を標的細胞に接近させ、結果として標的細胞を細胞溶解的に死滅させることができるようになる。例えば、国際公開第99/54440A1号パンフレット(米国特許第7,112,324B1号明細書)及び国際公開第2005/040220号パンフレット(米国特許出願公開第2013/0224205A1号明細書)を参照。後に、CD3ε鎖のN末端で文脈に依存しないエピトープに結合する二特異性構築物が開発された(国際公開第2008/119567号パンフレット;米国特許出願公開第2016/0152707A1号明細書を参照)。
【0004】
ある特定の治療指標において、2つを超える標的を標的とすることが所望され得る。例えば、癌免疫学治療指標において、腫瘍逃避とは、突然変異及び処置の選択圧を通じて腫瘍が標的とされる抗原の発現を喪失する既知の機序である。これが起こるとき、癌免疫治療は、腫瘍細胞に対する有効性を失う。腫瘍と関連する更なる抗原標的を添加することは、このタイプの腫瘍逃避に対処し得る1つの方法である。
【0005】
腫瘍逃避に対処することに加えて、複数の標的結合部位を含む分子は、細胞により比較的低レベルで発現される標的に対しても有用であり得る。このタイプのシナリオにおいて、おそらく結合活性効果ゆえに、同じ標的に対する単一分子上の複数の結合部位はこの低発現を克服し、標的結合を改善するのを助け得る。複数の結合部位を利用する分子のいくつかの例は、米国仮特許出願第63/110,957号明細書で提供される。
【0006】
バイオ医薬品産業では、多くの患者に供給するという商業的な要求に応じるために、分子は一般的に大規模な方式で作製され、分子が大量生産及び大量精製に適さないという恐れを軽減するために、多数の属性について評価され得る。これらの複雑な組み換えポリペプチドを効率的に発現させることは、現在進行中の課題であり得る。更に、一度発現したとしても、ポリペプチドは多くの場合、医薬品組成物に対して所望されるほど安定ではない。分子形式をうまく変化させてこれらの困難に対処するために、様々な試みがなされてきた。例えば、国際特許出願PCT/US20/36464号明細書、題名「Bispecific Binding Constructs」及び国際特許出願PCT/US20/36474号明細書、題名「Bispecific Binding Constructs with Selectively Cleavable Linkers」を参照。しかし、複数の結合部位がある分子に対して、難問が依然として存在する。従って、複数の結合部位があり、都合のよい薬物動態学的特性、治療有効性及び効率的な産生及び安定性向上をもたらす形式を有する治療分子が当技術分野で必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第99/54440A1号パンフレット
【特許文献2】米国特許第7,112,324B1号明細書
【特許文献3】国際公開第2005/040220号パンフレット
【特許文献4】米国特許出願公開第2013/0224205A1号明細書
【特許文献5】国際公開第2008/119567号パンフレット
【特許文献6】米国特許出願公開第2016/0152707A1号明細書
【特許文献7】米国仮特許出願第63/110,957号明細書
【特許文献8】国際出願PCT/US20/36464号明細書
【特許文献9】国際出願PCT/US20/36474号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Bargou et al.(2008),Science 321:974-978
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
複数の結合ドメインを含む結合分子の新規形式が本明細書中で記載される。一実施形態では、本発明は、次の構造:
VH1-L1-VH2-L2-VL1-L3-VL2-L4-VH3-L1-VH4-L2-VL3-L3-VL4又は
VH1-L1-VH2-L2-VL1-L3-VL2-L4-半減期延長部分-L5-VH3-L1-VH4-L2-VL3-L3-VL4
(式中、VH1、VH2、VH3及びVH4は、免疫グロブリン重鎖可変領域であり、VL1、VL2、VH3及びVL4は、免疫グロブリン軽鎖可変領域であり、L1、L2、L3、L4及びL5は、リンカーであり、ここで、L1は、少なくとも10アミノ酸であり、L2は、少なくとも15アミノ酸であり、L3は、少なくとも10アミノ酸である)を有するポリペプチド鎖を含む分子を提供し、この分子は、免疫エフェクター細胞及び標的細胞に結合し得る。
【0010】
別の実施形態では、本発明は、次の構造:
VH1-L1-VH2-L2-VL1-L3-VL2-L4-VH3-L1-VH4-L2-VL3-L3-VL4、又は
VH1-L1-VH2-L2-VL1-L3-VL2-L4-半減期延長部分-L5-VH3-L1-VH4-L2-VL3-L3-VL4
(式中、VH1、VH2、VH3及びVH4は、免疫グロブリン重鎖可変領域であり、VL1、VL2、VL3及びVL4は、免疫グロブリン軽鎖可変領域であり、L1、L2及びL3は、リンカーであり、ここで、L1は、少なくとも10アミノ酸であり、L2は、少なくとも10アミノ酸であり、L3は、少なくとも10アミノ酸であり、L1、L2及びL3の総アミノ酸は少なくとも35アミノ酸である)を有するポリペプチド鎖を含む分子を提供し、この分子は、免疫エフェクター細胞及び標的細胞に結合し得る。
【0011】
本発明は更に、本明細書中に記載の分子をコードする核酸、これらの核酸を含むベクター及びこれらのベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0012】
また他の実施形態では、本発明は、(1)前記分子を発現させるための条件下で宿主細胞を培養し、(2)細胞塊又は細胞培養上清から分子を回収することを含み、この宿主細胞が、本明細書中で提供される分子の何れかをコードする1つ以上の核酸を含む、本明細書中に記載の分子を製造する方法を提供する。
【0013】
また他の実施形態では、本発明は、治療上有効な量の本明細書で提供される分子を患者に投与することを含む、癌患者を処置する方法を提供する。
【0014】
他の実施形態では、本発明は、治療上有効な用量の本明細書中で提供される分子を患者に投与することを含む、感染症疾患を有する患者を処置するための方法を提供する。
【0015】
更なる実施形態では、本発明は、治療上有効な用量の本明細書中で提供される分子を患者に投与することを含む、自己免疫状態、炎症状態又は線維性状態を有する患者を処置するための方法を提供する。
【0016】
別の実施形態では、本発明は、本明細書中で提供される分子を含む医薬組成物を更に提供する。
【0017】
別の実施形態では、本発明は、疾患の予防、処置又は寛解のための薬剤の製造における本明細書中で提供される分子の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この図面は、2つの異なる代表的な結合分子-代表的な(HLHL)
2分子の構造と代表的な(HHLL)
2分子の構造との間の比較を示す。
【
図2】この図面は、2つの異なる治療標的及びCD3に結合するVH/VLドメインを有する代表的な(HHLL)
2分子を示し、VH2/VL2及びVH4/VL4ドメインの両方がCD3に結合する。異なる代表的なリンカーはL#(例えばL1、L2、L3など)により表され、構造Aは、2つの(HHLL)コンポーネント間のスペーサー部分としてリンカーを伴う分子を示し、構造Bは、スペーサー部分として任意選択的なscFcを有する分子を示す。
【
図3】この図面は、G7Q(HLHL)
2分子と比較した場合のT6M(HHLL)
2分子の適切な発現を示すクロマトグラフィーの読み取りである。
【
図4】この図面は、純度について及び分子が妥当な分子量であるか否かをアッセイするためのSDS PAGE分析の画像であり、妥当な分子量でT6M分子が発現されることを示す。
【
図5】この図面は、インビトロTDCCアッセイの結果のグラフ表示を提供し、48時間でG7Q(HLHL)
2分子と比較した場合の、T6M(HHLL)
2分子の機能性及び優れた標的細胞死滅を示す。
【
図6】この図面は、インビトロTDCCアッセイの結果のグラフ表示を提供し、72時間でG7Q(HLHL)
2分子と比較した場合の、T6M(HHLL)
2分子の機能性及び優れた標的細胞死滅を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
4つの異なる結合ドメインを有する分子に対する新規形式を本明細書中で記載する。これらの分子は、4つの免疫グロブリン可変重鎖(VH)ドメイン、4つの免疫グロブリン可変軽鎖(VL)ドメイン及び任意選択的にFc領域(例えばscFC)を含む単鎖ポリペプチドを含み、次の順序で配置される:VH-リンカー-VH-リンカー-VL-リンカー-VL-リンカー-VH-リンカー-VH-リンカー-VL-リンカー-VL又はVH-リンカー-VH-リンカー-VL-リンカー-VL-リンカー-scFc-VH-リンカー-VH-リンカー-VL-リンカー-VL(本明細書中で以後、本明細書中の
図2で示されるこれの代表的形式と共に「(HHLL)
2」又は「スクエアフォーマット(squared format)」と称される)。
【0020】
この(HHLL)2形式により、例えば(HLHL)2形式と比較した場合、免疫エフェクター細胞及び標的細胞上の所望の標的に結合する意図した機能を維持したまま、安定性の向上及びインビトロでの発現上昇の両方がもたらされる。従って、本(HHLL)2形式により、より効率的に作製され得、且つより良好な安定性、医薬組成物において求められる特徴を有する分子が提供される。
【0021】
本発明は、4つの独特の結合ドメインを伴う分子を提供し、この分子は、少なくとも1つのポリペプチドを含み、(HHLL)
2分子を一緒に形成する少なくとも5つの特徴的な構造物、即ち(i.)VH及びVLを含む第1のドメイン結合、(ii.)VH及びVLを含む第2の結合ドメイン、(iii.)連結するが、第1の(HHLL)ドメインから第2の(HHLL)ドメインまでの間隔も十分にあけるスペーサー、(iv.)第3の結合ドメイン及び(v.)第4の結合ドメインを含むことを特徴とする。好ましくは、これらのドメインは、それぞれ、本明細書中の
図2で示されるような、可動性のペプチドリンカーにより、アミノからカルボキシル方向でVHがVHに連結され、VLに連結され、VLドメインに連結されるものから構成される。本発明の特定の実施形態では、第1の結合ドメインは、CD3以外の細胞外標的に結合し(例えば腫瘍関連抗原、「TAA」)、第2の結合ドメインは、ヒト及び非ヒト(例えばマカク)CD3ε鎖の細胞外エピトープに結合し、第3の結合ドメインは、第1の結合ドメインが結合する標的と同じであるか又は異なるCD3以外の細胞外標的に結合し、第4の結合ドメインは、ヒト及び非ヒト(例えばマカク)CD3ε鎖の細胞外エピトープに結合する。
【0022】
前述の概要及び以下の詳細な説明は、何れも例示的且つ説明的なものに過ぎず、特許請求される本発明を限定するものではないことを理解されたい。本願では、単数形の使用は、特に断りのない限り、複数形を含む。本願では、「又は」の使用は、特に断りのない限り、「及び/又は」を意味する。更に、「含んでいる」という用語の使用は、「含む」及び「含まれる」などの他の形態と同様に、限定的なものではない。また、「要素」又は「コンポーネント」などの用語は、特に断りのない限り、1つのユニットを含む要素及びコンポーネント並びに2つ以上のサブユニットを含む要素及びコンポーネントの両方を包含する。また、「部分」という用語の使用は、部分の一部又は部分全体を含み得る。
【0023】
本明細書中では、別段の定義がない限り、本発明と関連して使用される科学用語及び専門用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。更に、文脈上異なる解釈を要する場合を除き、単数形の用語は、複数形を含むものとし、複数形の用語は、単数形を含むものとする。一般に、細胞及び組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学並びに本明細書に記載のタンパク質及び核酸の化学及びハイブリダイゼーションに関連して使用される命名法及び技術は、当技術分野で周知であり、且つ一般に使用されるものである。本発明の方法及び技術は、当技術分野で周知の、及び様々な一般的な参考文献及びより具体的な参考文献に記載されるような、従来法に従って一般に実施される。
【0024】
ポリヌクレオチド及びポリペプチド配列は、標準的な1文字又は3文字の略語を使用して示される。特に断りのない限り、ポリペプチド配列は、その左側にアミノ末端を、その右側にカルボキシ末端を有し、1本鎖核酸配列及び2本鎖核酸配列の上鎖は、その左側に5’末端を、その右側に3’末端を有する。ポリペプチドの特定の部位は、アミノ酸1~50などのアミノ酸残基番号によって又はアスパラギンからプロリンなどの部位における実際の残基によって指定され得る。特定のポリペプチド又はポリヌクレオチド配列はまた、参照配列とどのように異なるかを説明することによって述べられ得る。
【0025】
定義
分子(この場合、分子とは、例えば、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、多特異性分子、二特異性分子又は抗体である)に関する「単離された」という用語は、その起源又は派生源により、(1)その天然状態では、それに付随する天然に会合する成分と会合しないか、(2)同じ種由来の他の分子を実質的に含まないか、(3)異なる種からの細胞によって発現されるか、又は(4)天然に存在しない、分子である。従って、化学的に合成されるか、又はそれが天然に生じる細胞と異なる細胞系において発現される分子は、その天然に会合する成分から「単離されている」ことになる。分子は、当技術分野で周知の精製技術を使用して単離することにより、天然に会合した成分を実質的に含まないようにもされ得る。分子の純度又は均質性は、当技術分野で周知の多くの手段によって評価され得る。例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を使用し、当技術分野で周知の技術を用いてゲルを染色し、ポリペプチドを可視化することによってポリペプチド試料の純度をアッセイし得る。ある特定の目的のために、HPLC又は当技術分野で周知の他の手段を使用することにより、より高い分解能が提供され得る。
【0026】
「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」及び「核酸」という用語は、全体にわたって交換可能に用いられ、DNA分子(例えば、cDNA又はゲノムDNA)、RNA分子(例えばmRNA)、ヌクレオチド類似体を用いて生成されたDNA又はRNAの類似体(例えば、ペプチド核酸及び天然に存在しないヌクレオチド類似体)及びこれらのハイブリッドを含む。核酸分子は、1本鎖又は2本鎖であり得る。一実施形態では、本発明の核酸分子は、本発明の結合分子若しくは断片、誘導体、ムテイン、又はこれらのバリアントをコードする連続的なオープンリーディングフレームを含む。
【0027】
「ベクター」とは、核酸であり、これに連結された別の核酸を細胞に導入するために使用され得る。ベクターの一種である「プラスミド」とは、直線状又は環状の2本鎖DNA分子を指し、これに更なる核酸セグメントを連結し得る。別のタイプのベクターには、ウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス)があり、更なるDNAセグメントをウイルスゲノムに導入し得る。ある特定のベクターでは、それらが導入される宿主細胞中で自己複製が可能である(例えば、細菌複製起点を含む細菌ベクター及びエピソーム哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳類ベクター)では、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それにより宿主ゲノムと共に複製される。「発現ベクター」とは、選択したポリヌクレオチドの発現を指示し得るベクターのタイプである。
【0028】
調節配列がヌクレオチド配列の発現に影響を与える(例えば、発現のレベル、タイミング又は位置)場合、ヌクレオチド配列は、調節配列に「動作可能に連結」されている。「調節配列」とは、それに動作可能に連結された核酸の発現に影響を与える(例えば、発現のレベル、タイミング又は位置)核酸である。調節配列は、例えば、調節を受ける核酸に対して直接的に又は1つ以上の他の分子(例えば、調節配列及び/又は核酸に結合するポリペプチド)の作用を通してその効果を及ぼし得る。調節配列の例としては、プロモーター、エンハンサー及び他の発現制御エレメント(例えばポリアデニル化シグナル)が挙げられる。
【0029】
「宿主細胞」とは、核酸、例えば本発明の核酸を発現させるために使用され得る細胞である。宿主細胞は、原核生物、例えばE.コリ(E.coli)であり得るか、又は真核生物、例えば単細胞真核生物(例えば酵母又は他の真菌)、植物細胞(例えば、タバコ又はトマトの植物細胞)、動物細胞(例えば、ヒト細胞、サル細胞、ハムスター細胞、ラット細胞、マウス細胞又は昆虫細胞)又はハイブリドーマであり得る。典型的には、宿主細胞は、ポリペプチドをコードする核酸によって形質転換又は形質移入し得、続いてこの宿主細胞に核酸を発現させ得る、培養された細胞である。「組み換え宿主細胞」という語句は、発現させようとする核酸によって形質転換又は形質移入された宿主細胞を表すために使用され得る。宿主細胞は、核酸を含むが、核酸と動作可能に連結されるようになるように調節配列が宿主細胞に導入されなければ、所望のレベルで核酸を発現しない細胞でもあり得る。宿主細胞という用語は、特定の対象の細胞だけでなく、このような細胞の後代又は潜在的な後代細胞も指すことが理解される。例えば、突然変異又は環境の影響によって後の世代にある特定の修飾が生じ得るため、このような後代は、事実上、親細胞と同一ではない可能性があるが、それでもなお本明細書中で使用されるような用語の範囲内に含まれる。
【0030】
「単鎖可変断片」(「scFv」)とは、VL領域及びVH領域がリンカー(例えばアミノ酸残基の合成配列)を介して連結され、連続的なタンパク鎖を形成する融合タンパク質であり、リンカーは、タンパク鎖がそれ自体で再び折り畳まれ、1価抗原結合部位又は結合ドメインを形成することを可能にするために十分な長さを有する(例えば、Bird et al.,Science 242:423-26(1988)及びHuston et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-83(1988)を参照)。他の更なる部分(例えばFc領域)との関連における場合、scFvは、例えば、VH-リンカー-VL又はVL-リンカー-VHに配置され得る。
【0031】
「CDR」という用語は、抗体可変配列内の相補性決定領域(「最小認識単位」又は「超可変領域」とも呼ばれる)を指し、本発明の分子は、重鎖及び/又は軽鎖CDRを含む。このCDRにより、結合分子が関心対象の特定の抗原に特異的に結合することが可能となる。3つの重鎖可変領域CDR(CDRH1、CDRH2及びCDRH3)及び3つの軽鎖可変領域CDR(CDRL1、CDRL2及びCDRL3)が存在する。2つの鎖のそれぞれのCDRは、典型的には、フレームワーク領域によって整列させられ、標的タンパク質上の特定のエピトープ又はドメインと特異的に結合する構造を形成する。N末端からC末端へ、天然の軽鎖及び重鎖可変領域の両方とも、典型的には、以下のこれらの要素の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4に従う。これらのドメインのそれぞれの位置を占めるアミノ酸に対して番号を割り当てるための番号付けシステムが考案されている。このナンバリングシステムは、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest(1987 and 1991,NIH,Bethesda,MD)、又はChothia & Lesk,1987,J.Mol.Biol.196:901-917;Chothia et al.,1989,Nature 342:878-883で定義されている。この系を使用して所与の抗体の相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)を同定し得る。免疫グロブリン鎖のアミノ酸に対する他のナンバリングシステムとしては、IMGT(登録商標)(international ImMunoGeneTics information system;Lefranc et al.,Dev.Comp.Immunol.29:185-203;2005)及びAHo(Honegger and Pluckthun,J.Mol.Biol.309(3):657-670;2001)が挙げられる。1つ以上のCDRを共有結合的又は非共有結合的の何れかで分子に組み込んで、これを結合分子にし得る。
【0032】
本発明による結合分子の「結合ドメイン」は、例えば、上記で言及した群のCDRを含み得る。好ましくは、それらのCDRは、本発明の分子によって含まれる抗体軽鎖可変領域(VL)及び抗体重鎖可変領域(VH)のフレームワークに含まれる。又は、本明細書で使用される用語では、「L」及び「H」可変領域(例えば「HHLL」)である。
【0033】
「ヒト抗体」という用語には、例えば、Kabat et al.(1991)(前掲)によって記載されているものを含む、当技術分野で公知のヒト生殖系列免疫グロブリン配列に実質的に対応する、可変及び定常領域又はドメインなどの抗体領域を有する抗体が含まれる。本明細書で言及されるヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダム若しくは部位特異的突然変異誘発により、又はインビボでの体細胞突然変異により、導入される突然変異)を例えばCDR、特にCDR3に含み得る。ヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基で置き換えられた少なくとも1、2、3、4、5つ又はそれを超える位置を有し得る。本明細書中で使用される場合、ヒト抗体の定義は、Xenomouse(登録商標)が挙げられるが限定されない、例えばファージディスプレイ技術又はトランスジェニックマウス技術などの当技術分野で公知の技術又はシステムを使用することによって誘導され得るもののような、非人為的及び/又は遺伝子組み換えされた抗体のヒト配列のみを含む完全ヒト抗体をも想定するものである。本発明との関連において、ヒト抗体由来の可変領域を、企図される分子形式で使用し得る。
【0034】
ヒト化抗体は、1つ以上のアミノ酸置換、欠失及び/又は付加により、非ヒト種由来の抗体の配列と異なる配列を有し、そのため、ヒト化抗体は、ヒト対象に投与した場合、非ヒト種抗体と比較して免疫応答を誘導する可能性が低くなり、及び/又はそれほど重篤でない免疫応答を誘導する。一実施形態では、非ヒト種抗体のフレームワーク並びに重鎖及び/又は軽鎖の定常ドメイン内のある特定のアミノ酸を突然変異させて、ヒト化抗体を生成させる。別の実施形態では、ヒト抗体由来の定常ドメインを非ヒト種の可変ドメインに融合させる。別の実施形態では、ヒト対象に投与したときに非ヒト抗体の免疫原性を低下させる可能性が高くなるように、非ヒト抗体の1つ以上のCDR配列内の1つ以上のアミノ酸残基を変更するが、この変更されたアミノ酸残基の何れも、その抗原に対する抗体又は結合分子の免疫特異的な結合性に対して重要なものではないか、又はアミノ酸配列に対して行われた変化が保存的変化であり、これにより、抗原に対するヒト化抗体の結合が抗原に対する非ヒト抗体の結合よりも大幅に劣化することがないようになる。ヒト化抗体を作製する方法の例は、米国特許第6,054,297号明細書、同第5,886,152号明細書及び米国特許第5,877,293号明細書において見出され得る。本発明との関連において、ヒト化抗体由来の可変領域は、企図される分子形式で使用され得る。
【0035】
「キメラ抗体」という用語は、1つの抗体に由来する1つ以上の領域と、1つ以上の他の抗体に由来する1つ以上の領域とを含有する抗体を指す。一実施形態では、CDRの1つ以上がヒト抗体由来である。別の実施形態では、CDRの全てがヒト抗体由来である。別の実施形態では、複数のヒト抗体に由来するCDRを混合して、キメラ抗体において適合させる。例えば、キメラ抗体は、第1のヒト抗体の軽鎖に由来するCDR1と、第2のヒト抗体の軽鎖に由来するCDR2及びCDR3と、第3の抗体由来の重鎖に由来するCDRとを含み得る。更に、フレームワーク領域は、同じ抗体の1つから、ヒト抗体などの1つ以上の異なる抗体から、又はヒト化抗体からのものであり得る。キメラ抗体の一例では、重鎖及び/又は軽鎖の一部は、特定の種から又は特定の抗体クラス若しくは抗体サブクラスに属する抗体と同一であるか、相同的であるか又はこれらに由来するものである一方、鎖の残部は、別の種からの抗体又は別の抗体クラス若しくは抗体サブクラスに属する抗体と同一であるか、相同的であるか又はこれらに由来するものである。また、所望の生物学的活性を示すそのような抗体の断片も含まれる。本発明との関連において、キメラ抗体由来の可変領域を、企図される分子形式で使用し得る。
【0036】
本発明の本(HHLL)2分子との関連において、「スペーサー」ドメインは、(HHLL)2分子を一緒に含む2つの(HHLL)サブユニットのそれぞれの間に位置する。いくつかの実施形態では、スペーサーは、半減期延長部分である。他の実施形態では、このスペーサーは、ポリペプチドリンカーである。
【0037】
スペーサードメインの更なる例については、米国仮特許出願第63/110,957号明細書を参照。本発明のある特定の実施形態では、スペーサードメインの分子量は、約3.2kDa、好ましくは10kDaを超え、より更に好ましくは少なくとも15kDa、20kDa又は更に50kDaであり、及び/又は前記スペーサードメインは、少なくとも50アミノ酸、好ましくは75アミノ酸、より好ましくは少なくとも150アミノ酸及び更により好ましくは少なくとも500アミノ酸を含むアミノ酸配列を含む。
【0038】
他の実施形態では、第1及び第2の(HHLL)ドメインの間隔を十分にあけるスペーサードメインは、プログラム細胞死タンパク質1(PD1)ドメイン、ヒト血清アルブミン(HSA)又はそれらの誘導体、剛直なリンカーのマルチマー、例えば(EAAAK)10及びそれぞれヒンジ、CH2及びCH3ドメイン、ヒンジ及び更なるCH2及びCH3ドメインを含む2つのポリペプチド単量体を含むFcドメインからなる群から選択され、前記2つのポリペプチド単量体は、ペプチドリンカーを介して互いに融合されるか、又はこの2つのポリペプチド単量体は、非共有CH3-CDH3相互作用及び/又は共有ジスルフィド結合により一緒に連結されてヘテロ二量体を形成する。
【0039】
特定の実施形態では、スペーサー実体は、少なくとも1つのドメイン、好ましくは1つのドメイン又は2つの共有結合されるドメインであり、これら又はこれらのそれぞれは、アミノからカルボキシルの順で:
ヒンジ-CH2-CH3-リンカー-ヒンジ-CH2-CH3を含む。
【0040】
特定の実施形態では、スペーサー中のCH2ドメインがドメイン内システインジスルフィド架橋を含むことも想定される。
【0041】
本発明によれば、ある特定の実施形態では、2つの二特異性実体は、ある一定の距離、好ましくは35Å超、より好ましくは少なくとも40、50、60、70、80、90又は少なくとも100Åの間隔があけられなければならないことが好ましい。その距離は、結晶学、クライオ電子顕微鏡又は核磁気共鳴分析技術により容易に決定され得る。この距離は、2つのドメインの間隔をあけ、所望の高次構造でそれらを維持し、2つの分離される(HHLL)ドメインの望ましくない相互作用を防ぐ2つの(HHLL)ドメイン間のスペーサー実体により推進される。一般に、リンカーが剛直であるほど、2つの(HHLL)ドメイン間の必要とされる最小距離は小さくなる。
【0042】
本組成物及びこれらのアミノ酸の配置は、好ましくはある一定の剛直性を付与し、高い可動性を特徴とはしない。この点で、プロリンに富み、セリン及びグリシンがより少ないアミノ酸のスペーサーが好ましい。特に想定されるのは、例えば三次元ドメインを形成し、続いてそれらの構築によりある一定の剛直性を確実にし、好ましくは治療薬としての多標的二特異性分子のインビボ半減期延長などの更なる有利な効果を付与する、例えば二次元(例えばヘリックス構造)又三次元の、折り畳まれたポリペプチドであるスペーサーである。本発明との関連において、Fcドメイン又はその一部を含むスペーサーが想定される。
【0043】
(HHLL)2スペーサーが半減期延長部分である特定の実施形態では、半減期延長部分は、Fcポリペプチド鎖である。他の実施形態では、半減期延長部分は、単鎖Fcである(例えば配列番号45~53参照)。また他の実施形態では、半減期延長部分は、ヘテロ-Fcである(例えば配列番号55及び56参照)。また他の実施形態では、半減期延長部分は、ヒトアルブミン又はヒト血清アルブミンである(例えば配列番号57参照)。他の実施形態では、半減期延長部分は、アルブミン結合ドメインである。更なる具体例及び半減期延長部分及びスペーサーの配列は、米国仮特許出願第63/110,957号明細書で提供される(例えば表17参照)。
【0044】
リンカー
免疫グロブリン可変領域間にペプチドリンカーが存在し、このペプチドリンカーは、同じリンカー又は異なる長さの異なるリンカーであり得る。更なる実施形態では、(HHLL)
2分子は更に、(HHLL)ドメイン間にスペーサー部分を含み、このスペーサーは、特定の実施形態ではリンカーである。結合分子の構造においてリンカーは重要な役割を果たし得、本明細書中に記載の本発明は、適切なリンカー配列だけでなく、本発明の結合分子におけるそれぞれの位置に適切なリンカー長も提供する。リンカーが短すぎる場合、単鎖ポリペプチド上の適切な可変領域が相互作用して抗原結合部位(又は「結合ドメイン」)を形成するために十分な可動性を得ることができない。リンカーが適切な長さである場合、可変領域が同じポリペプチド鎖上の別の可変領域と相互作用して、抗原結合部位を形成することが可能となる。ある特定の実施形態では、HHLL形式は、ドメイン内(H1、L1内)及びドメイン間(H1とL1との間)の両方で-ジスルフィド結合を含む。本発明の分子の適切な発現及び立体構造を達成するために、ある特定の実施形態では、様々な免疫グロブリン領域間に特定のリンカーを使用する(例えば本明細書の
図1を参照)。例示的なリンカーは本明細書の表1で提供される。ある特定の実施形態では、リンカー長を伸ばすと、タンパク質のクリッピングの増加という望ましくない特性をもたらし得る。従って、適切なポリペプチド構造及び活性を可能としながら、クリッピングの増加をもたらすことのないように、リンカー長間で適切なバランスをとることが望ましい。
【0045】
「リンカー」とは、本明細書で意味する場合、2つのポリペプチドを連結するペプチドである。ある特定の実施形態では、リンカーは、分子との関連において、複数の免疫グロブリン可変領域を連結し得る。リンカーは、2~30アミノ酸長であり得る。いくつかの実施形態では、リンカーは、2~25個、2~20個又は3~18個のアミノ酸長であり得る。いくつかの実施形態では、リンカーは、14、13、12、11、10、9、8、7、6又は5個以下のアミノ酸長のペプチドであり得る。他の実施形態では、リンカーは、5~25、5~15、4~11、10~20又は20~30アミノ酸長であり得る。他の実施形態では、リンカーは、約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30アミノ酸長であり得る。代表的なリンカーは、例えばアミノ酸配列GGGGS(配列番号1)、GGGGSGGGGS(配列番号2)、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号3)、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号4)、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号5)、GGGGQ(配列番号6)、GGGGQGGGGQ(配列番号7)、GGGGQGGGGQGGGGQ(配列番号8)、GGGGQGGGGQGGGGQGGGGQ(配列番号9)、GGGGQGGGGQGGGGQGGGGQGGGGQ(配列番号10)、GGGGSAAA(配列番号11)、TVAAP(配列番号12)、ASTKGP(配列番号13)、AAA(配列番号14)、SGGGGS(配列番号17)及びSGGGGQ(配列番号18)を含み、とりわけ、上述のアミノ酸配列又はアミノ酸配列のサブユニットの反復(例えばGGGGS(配列番号1)又はGGGGQ(配列番号6)の反復)を含む。
【0046】
本発明の(HHLL)2分子との関連でのある特定の実施形態では、リンカー1のリンカー配列は、少なくとも10個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー1は、少なくとも15個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー1は、少なくとも20個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー1は、少なくとも25個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー1は、少なくとも30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー1は、10~30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー1は、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30個のアミノ酸である。更に他の実施形態では、リンカー1は、30個超のアミノ酸である。
【0047】
本発明の(HHLL)2分子との関連でのある特定の実施形態では、リンカー2のリンカー配列は、少なくとも15個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー2は、少なくとも20個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー2は、少なくとも25個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー2は、少なくとも30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー2は、15~30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー2は、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30個のアミノ酸である。更に他の実施形態では、リンカー2は、30個超のアミノ酸である。
【0048】
本発明の(HHLL)2分子との関連でのある特定の実施形態では、リンカー3のリンカー配列は、少なくとも15個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー3は、少なくとも20個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー3は、少なくとも25個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー3は、少なくとも30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー3は、15~30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー3は、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30個のアミノ酸である。更に他の実施形態では、リンカー3は、30個超のアミノ酸である。
【0049】
分子がscFcなどのスペーサー部分を持たず、代わりにL4でリンカーのみを含む本発明の(HHLL)2分子との関連でのある特定の実施形態では、L4のリンカー配列は、少なくとも5個のアミノ酸である。好ましい実施形態では、この文脈でのL4のリンカー配列は、SGGGGSである。他の実施形態では、この文脈でのL4のリンカー配列は、少なくとも10個のアミノ酸である。この文脈での他の実施形態では、リンカー4は、少なくとも15個のアミノ酸である。この文脈での他の実施形態では、リンカー4は、少なくとも20個のアミノ酸である。この文脈での他の実施形態では、リンカー4は、少なくとも25個のアミノ酸である。この文脈での他の実施形態では、リンカー4は、少なくとも30個のアミノ酸である。この文脈での他の実施形態では、リンカー4は、5~30個のアミノ酸である。この文脈での他の実施形態では、リンカー4は、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30個のアミノ酸である。この文脈でのまた他の実施形態では、リンカー4は、30個超のアミノ酸である。
【0050】
分子がscFcなどのスペーサー部分を含む、本発明の(HHLL)2分子との関連でのある特定の実施形態では、リンカー4のリンカー配列は、少なくとも5個のアミノ酸である。この文脈での他の実施形態では、リンカー4は、少なくとも10個のアミノ酸である。この文脈での他の実施形態では、リンカー4は、少なくとも15個のアミノ酸である。特定の実施形態では、この文脈でのリンカー4は、(GGGGS)3である。この文脈での他の実施形態では、リンカー4は、少なくとも20個のアミノ酸である。この文脈での他の実施形態では、リンカー4は、少なくとも25個のアミノ酸である。この文脈での他の実施形態では、リンカー4は、少なくとも30個のアミノ酸である。この文脈での他の実施形態では、リンカー4は、5~30アミノ酸である。この文脈での他の実施形態では、リンカー4は、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30個のアミノ酸である。この文脈でのまた他の実施形態では、リンカー4は、30個超のアミノ酸である。
【0051】
分子がscFcなどのスペーサー部分を含む本発明の(HHLL)2分子との関連でのある特定の実施形態では、L5のリンカー配列は、少なくとも5個のアミノ酸である。この文脈での他の実施形態では、リンカー5は、少なくとも10個のアミノ酸である。この文脈での他の実施形態では、リンカー5は、少なくとも15個のアミノ酸である。特定の実施形態では、この文脈でのリンカー5は、(GGGGS)3である。この文脈での他の実施形態では、リンカー5は、少なくとも20個のアミノ酸である。この文脈での他の実施形態では、リンカー5は、少なくとも25個のアミノ酸である。この文脈での他の実施形態では、リンカー5は、少なくとも30個のアミノ酸である。この文脈での他の実施形態では、リンカー5は、5~30個のアミノ酸である。この文脈での他の実施形態では、リンカー5は、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30個のアミノ酸である。この文脈でのまた他の実施形態では、リンカー5は、30個超のアミノ酸である。
【0052】
本発明の(HHLL)
2分子内の各HHLLサブユニットとの関連でのリンカーの長さにおける更なるガイダンスについては、HHLL分子の様々な方向で分子モデルを示し、HHLL分子が適正な高次構造をとり、両H-L結合ドメインが機能することを可能にするために特定の長さのリンカーがどのように必要とされるかを示す「Bispecific Binding Constructs」という題名の国際特許出願PCT/US20/36464号パンフレットの
図4A~4Dを参照のこと。A、B、及びCは、一方のドメインの末端残基のC-アルファ原子と、もう一方のドメインの開始残基のC-アルファ原子との間の距離を表す。熟練者であれば、この情報を用いて、企図されるHHLL分子をモデル化し、HHLL分子及び従って(HHLL)
2分子が望ましいように発現し、機能するように特定のH-L結合ドメインのために必要とされるようにリンカーの長さを調整し得る。
【0053】
2つの(HHLL)サブユニット間のscFcなどのスペーサーを含む本発明の(HHLL)
2分子との関連でのある特定の実施形態では、代表的なリンカー配列及び位置のサンプリングは、次の表1において示され、リンカー位置は、
図1B及び2Bで示されるものに対応する。この文脈における特定の実施形態では、リンカー1、2及び3は、(GGGGS)
4であり、リンカー4及び5は(GGGGS)
3である。他の実施形態では、2つのscFcサブユニット間のリンカーは、番号付けされたリンカーの指定は与えられないものの、このリンカーは、好ましくは(GGGGS)
6である。
【0054】
【0055】
結合領域のアミノ酸配列
本明細書に記載される例示的な実施形態では、本分子は、様々な所望の標的に対する所望の結合性を維持するが、これは、適切な立体構造によってこうした結合が可能になるという仮定からもたらされる。免疫グロブリン可変領域は、VH及びVLドメインを含み、これらが会合して、所望の標的に結合する可変ドメインを形成する。
【0056】
可変ドメインは、所望の特性を有する任意の免疫グロブリンから得ることができ、これを達成するための方法が更に本明細書中に記載される。一実施形態では、VH1及びVL1は、CD3εに会合し、結合し、VH3及びVL3は、CD3εに会合し、結合し、VH2及びVL2は、異なる標的、例えばTAAに会合し、結合し、VH4及びVL4は、異なる標的、例えば同じ又は異なるTAAに会合し、結合する。
【0057】
別の実施形態では、VH2及びVL2は、CD3εに会合し、結合し、VH4及びVL4は、CD3εに会合し、結合し、VH1及びVL1は、異なる標的に会合し、結合し、VH3及びVL3は、異なる標的に会合し、結合する。
【0058】
特定の実施形態では、VH1及びVL1は、メソテリンに会合し、結合し、VH2及びVL2は、CD3εに会合し、結合し、VH3及びVL3は、CDH3に会合し、結合し、VH4及びVL4は、CD3εに会合し、結合する。
【0059】
更なる特定の実施形態では、VH1及びVL1は、CDH3に会合し、結合し、VH2及びVL2は、CD3εに会合し、結合し、VH3及びVL3は、メソテリンに会合し、結合し、VH4及びVL4は、CD3εに会合し、結合する。
【0060】
また別の特定の実施形態では、VH1及びVL1は、CD3εに会合し、結合し、VH2及びVL2は、メソテリンに会合し、結合し、VH3及びVL3は、CD3εに会合し、結合し、VH4及びVL4は、CDH3に会合し、結合する。
【0061】
また別の特定の実施形態では、VH1及びVL1は、CD3εに会合し、結合し、VH2及びVL2は、CDH3に会合し、結合し、VH3及びVL3は、CD3εに会合し、結合し、VH4及びVL4は、メソテリンに会合し、結合する。
【0062】
特定の実施形態では、VH1(配列番号39)及びVL1(配列番号40)は、メソテリンに会合し、結合し、VH2(配列番号41)及びVL2(配列番号42)は、CD3εに会合し、結合し、VH3(配列番号43)及びVL3(配列番号44)は、CDH3に会合し、結合し、VH4(配列番号41)及びVL4(配列番号42)は、CD3εに会合し、結合する。
【0063】
更なる特定の実施形態では、VH1(配列番号43)及びVL1(配列番号44)は、CDH3に会合し、結合し、VH2(配列番号41)及びVL2(配列番号42)は、CD3εに会合し、結合し、VH3(配列番号39)及びVL3(配列番号40)は、メソテリンに会合し、結合し、VH4(配列番号41)及びVL4(配列番号42)は、CD3εに会合し、結合する。
【0064】
また別の特定の実施形態では、VH1(配列番号41)及びVL1(配列番号42)は、CD3εに会合し、結合し、VH2(配列番号39)及びVL2(配列番号40)は、メソテリンに会合し、結合し、VH3(配列番号41)及びVL3(配列番号42)は、CD3εに会合し、結合し、VH4(配列番号43)及びVL4(配列番号44)は、CDH3に会合し、結合する。
【0065】
また別の特定の実施形態では、VH1(配列番号41)及びVL1(配列番号42)は、CD3εに会合し、結合し、VH2(配列番号43)及びVL2(配列番号44)は、CDH3に会合し、結合し、VH3(配列番号41)及びVL3(配列番号42)は、CD3εに会合し、結合し、VH4(配列番号39)及びVL4(配列番号40)は、メソテリンに会合し、結合する。
【0066】
更なる特定の実施形態では、代表的な(HHLL)2分子アミノ酸配列は、配列番号37で示される。
【0067】
CD3εに結合する分子結合ドメインにおいて組み込まれ得る配列の更なる特定の例は、指定されるVH、VL及びCDRを含め、配列番号58~97において本明細書中で提供される。
【0068】
別の実施形態では、軽鎖可変ドメインは、本明細書に記載の軽鎖可変ドメインの配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0069】
別の実施形態では、軽鎖可変ドメインは、本明細書に記載のポリヌクレオチド配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、軽鎖可変ドメインは、中程度にストリンジェントな条件下で本明細書に記載の配列から選択される軽鎖可変ドメインをコードするポリヌクレオチドの相補体にハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、軽鎖可変ドメインは、ストリンジェントな条件下で本明細書に記載の配列からなる群から選択される軽鎖可変ドメインをコードするポリヌクレオチドの相補体にハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む。
【0070】
別の実施形態では、重鎖可変ドメインは、本明細書に記載の配列から選択される重鎖可変ドメインの配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、重鎖可変ドメインは、本明細書に記載の配列から選択される重鎖可変ドメインをコードするヌクレオチド配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、重鎖可変ドメインは、中程度にストリンジェントな条件下で本明細書に記載の配列から選択される重鎖可変ドメインをコードするポリヌクレオチドの相補体にハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、重鎖可変ドメインは、ストリンジェントな条件下で本明細書に記載の配列から選択される重鎖可変ドメインをコードするポリヌクレオチドの相補体にハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む。
【0071】
置換
本発明の分子は、分子が同じ又はより良好な所望の結合特異性(例えばCD3への結合性)を保持するのであれば、少なくとも1つのアミノ酸置換を有し得るということが認識されるであろう。従って、本結合分子構造に対する修飾が本発明の範囲内に包含される。一実施形態では、本結合分子は、本明細書に記載されるもののCDR配列からの5、4、3、2、1又は0個の単一アミノ酸の付加、置換及び/又は欠失によってそれぞれ独立して異なる配列を含む。本明細書中で使用される場合、本明細書に記載のCDR配列から全体で例えば4個以下のアミノ酸の付加、置換及び/又は欠失によって異なるCDR配列とは、本明細書に記載の配列と比較して4、3、2、1又は0個の単一アミノ酸の付加、置換及び/又は欠失を有する配列を指す。これらは、結合分子の所望の結合能力を損なうことのない、保存的又は非保存的であり得るアミノ酸置換を含み得る。保存的アミノ酸置換は、非天然アミノ酸残基を包含し得、これらは、典型的には、生体系における合成によってではなく、化学的なペプチド合成によって組み込まれる。こうしたものには、ペプチド模倣体及びアミノ酸部分が逆転又は反転した他の形態が含まれる。保存的アミノ酸置換には、その位置におけるアミノ酸残基の極性又は電荷に殆ど又は全く影響しないような、天然アミノ酸残基の標準残基での置換も含まれ得る。
【0072】
非保存的置換には、1つのクラスのアミノ酸又はアミノ酸模倣物のメンバーと、物理的性質(例えば、サイズ、極性、疎水性、電荷)が異なる、別のクラスに由来するメンバーとの交換も含まれ得る。ある特定の実施形態では、そのような置換残基を、非ヒト抗体と相同であるヒト抗体の領域に、又は分子の非相同領域に導入し得、これを使用して本発明の結合分子を生成させ得る。
【0073】
更に、当業者であれば、それぞれの所望のアミノ酸残基に単一のアミノ酸置換を含有する試験バリアントを生成し得る。続いて、このバリアントを、当業者にとって公知の活性アッセイを使用してスクリーニングし得る。そのようなバリアントを使用して、好適なバリアントに関する情報を収集し得る。例えば、破壊されるか、所望しない還元を受けるか、又は不適切な活性が生じた特定のアミノ酸残基に対する変更を発見した場合、このような変更を伴うバリアントを避け得る。換言すれば、当業者であれば、そのような日常的な実験から収集された情報に基づいて、単独で又は他の突然変異と組み合わせて、更なる置換を避けるべきであるアミノ酸を容易に判断し得る。
【0074】
熟練した技術者であれば、周知の技術を使用して、本明細書に記載されるような結合分子の好適なバリアントを決定することが可能となろう。ある特定の実施形態では、当業者であれば、活性に重要でないと考えられる領域を標的とすることにより、活性を損なうことなく、変更され得る分子の好適な領域を特定し得る。ある特定の実施形態では、上に記載したように、同様のポリペプチドの中に保存されている分子の残基及び部分を特定することもできる。ある特定の実施形態では、生物活性又は構造に重要であり得る領域であっても、生物活性を損なうことなく又はポリペプチド構造に有害な影響を及ぼすことなく、保存的アミノ酸置換を行い得る。
【0075】
更に、当業者であれば、活性又は構造に重要となる、同様のポリペプチドにおける残基を特定する構造機能試験を検討し得る。そのような比較を考慮することで、同様のタンパク質の活性又は構造に重要なアミノ酸残基に対応するタンパク質のアミノ酸残基の重要性を予測し得る。当業者であれば、そのように重要であると予測されるアミノ酸残基に対して化学的に類似したアミノ酸置換を選択し得る。
【0076】
いくつかの実施形態では、当業者であれば、必要に応じて特性の向上をもたらす、変更され得る残基を特定し得る。例えば、アミノ酸置換(保存的又は非保存的)により、所望の標的に対して結合親和性が増強され得る。
【0077】
当業者であれば、同様のポリペプチドの構造に関する三次元構造及びアミノ酸配列も分析し得る。当業者であれば、そのような情報を考慮することで、その三次元構造に関する抗体のアミノ酸残基のアライメントを予測し得る。ある特定の実施形態では、当業者であれば、タンパク質の表面に存在することが予測されるアミノ酸残基が、他の分子との重要な相互作用に関与する可能性があるため、そのような残基に根本的な変化が生じないような選択を行い得る。二次構造の予測には、多くの科学刊行物が寄稿されている。Moult J.,Curr.Op.in Biotech.,7(4):422-427(1996)、Chou et al.,Biochemistry,13(2):222-245(1974);Chou et al.,Biochemistry,113(2):211-222(1974);Chou et al.,Adv.Enzymol.Relat.Areas Mol.Biol.,47:45-148(1978);Chou et al.,Ann.Rev.Biochem.,47:251-276及びChou et al.,Biophys.J.,26:367-384(1979)を参照。更に、現在、二次構造の予測支援にコンピュータープログラムを利用し得る。二次構造の予測方法の1つには、ホモロジーモデリングに基づく。例えば、30%を超える配列相同性又は40%を超える類似性を有する2つのポリペプチド又はタンパク質は、多くの場合、類似した構造トポロジーを有する。タンパク質構造データベース(PDB)の発達により、ポリペプチド構造又はタンパク質構造内の折り畳みの潜在的な数を含む二次構造の予測精度が向上している。Holm et al.,Nucl.Acid.Res.,27(1):244-247(1999)を参照。二次構造を予測する更なる方法としては、「スレッディング」(Jones,D.,Curr.Opin.Struct.Biol.,7(3):377-87(1997);Sippl et al.,Structure,4(1):15-19(1996))、「プロファイル分析」(Bowie et al.,Science,253:164-170(1991);Gribskov et al.,Meth.Enzym.,183:146-159(1990);Gribskov et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.,84(13):4355-4358(1987))及び「進化的リンケージ(evolutionary linkage)」(前掲のHolm(1999)及び前掲のBrenner(1997)を参照)が挙げられる。
【0078】
ある特定の実施形態では、結合分子のバリアントとしては、親ポリペプチドのアミノ酸配列と比較してグリコシル化部位の数及び/又はタイプが変化した、グリコシル化バリアントが挙げられる。ある特定の実施形態では、バリアントは、天然タンパク質よりも数が多い又は少ないN結合グリコシル化部位を含む。或いは、この配列を削除する置換によって既存のN結合糖鎖が除去される。また、1つ以上のN結合グリコシル化部位(典型的には天然に存在するもの)が削除されて、1つ以上の新しいN結合部位が生成される、N結合糖鎖の再配置がもたらされる。更なるバリアントとしては、親アミノ酸配列と比較して、別のアミノ酸(例えばセリン)によって1つ以上のシステイン残基が欠失又は置換されているシステインバリアントが挙げられる。システインバリアントは、不溶性封入体の単離後など、抗体又は他のポリペプチド分子が生物学的に活性である立体構造に再び折り畳まれなければならない場合に有用であり得る。システインバリアントは一般に、天然タンパク質よりも少ないシステイン残基を有し、典型的には不対システインから生じる相互作用を最小限に抑えるために偶数個のシステイン残基を有する。
【0079】
所望のアミノ酸置換(保存的か又は非保存的かにかかわらず)は、そのような置換を所望する時点で当業者が決定し得る。ある特定の実施形態では、アミノ酸置換を用いて、関心対象の標的に対する結合分子の重要な残基を特定することができるか、又は本明細書に記載の関心対象の標的に対する結合分子の親和性を増大若しくは減少させ得る。
【0080】
ある特定の実施形態によれば、所望のアミノ酸置換は、(1)タンパク質分解に対する感受性を減少させるもの、(2)酸化に対する感受性を減少させるもの、(3)タンパク質複合体を形成するための結合親和性を変化させるもの、(4)結合親和性を変化させるもの及び/又は(4)そのようなポリペプチドに対して他の生理化学的特性又は機能的特性を付与するか又は改変させるものである。ある特定の実施形態によれば、単一又は複数のアミノ酸置換(ある特定の実施形態では保存的アミノ酸置換)は、天然の配列(ある特定の実施形態では、分子間接触を形成するドメインの外側のポリペプチドの部分)において行われ得る。ある特定の実施形態では、保存的アミノ酸置換は、典型的には、親配列の構造的特徴を実質的に変化させ得ない(例えば、置換アミノ酸により、親配列中に存在するヘリックスが破壊されるか、又は親配列を特徴付ける他のタイプの二次構造が破壊される傾向があるべきではない)。当業者に認識されるポリペプチドの二次構造及び三次構造の例は、Proteins,Structures and Molecular Principles(Creighton,Ed.,W.H.Freeman and Company,New York(1984));Introduction to Protein Structure(C.Branden and J.Tooze,eds.,Garland Publishing,New York,N.Y.(1991));及びThornton et al.Nature 354:105(1991)に記載があり、それぞれが参照により本明細書中に組み込まれる。
【0081】
半減期延長及びFc領域
ある特定の実施形態では、本発明の分子のインビボにおける半減期を延長することが望ましい。これは、半減期延長部分を本分子の一部として含むことによって達成され得る。半減期延長部分の非限定的な例としては、Fcポリペプチド、アルブミン、アルブミン断片、アルブミン若しくは新生児型Fc受容体(FcRn)に結合する部分、アルブミン若しくはその断片に結合するように改変されたフィブロネクチンの誘導体、ペプチド、単一ドメインタンパク質断片又は血清半減期を延長させ得る他のポリペプチドが挙げられる。代替的実施形態では、半減期延長部分は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)など、ポリペプチドではない分子であり得る。
【0082】
「Fcポリペプチド」という用語は、本明細書中で使用される場合、抗体のFc領域由来のポリペプチドの天然及びムテイン形態を含む。二量体化を促進するヒンジ領域を含有するこのようなポリペプチドのトランケート型も含まれる。本明細書中に記載の他の特性に加えて、Fc部分を含むポリペプチドは、例えば、プロテインA又はプロテインGカラムによるアフィニティークロマトグラフィーによって精製されるという利点をもたらす。
【0083】
ある特定の実施形態では、半減期延長部分は、抗体のFc領域である。Fc領域は、(HHLL)2分子のN末端の端部に位置していてもよく、又は(HHLL)2分子のC末端の端部に位置していてもよい。(HHLL)2分子とFc領域との間にリンカーが存在し得るが、そうである必要はない。上記で説明されるように、Fcポリペプチド鎖はヒンジ領域の全て又は一部を含み得、その後にCH2及びCH3領域を含み得る。Fcポリペプチド鎖は、哺乳類(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヒトコブラクダ又は新世界若しくは旧世界ザル)、鳥類又はサメ起源のものであり得る。加えて、上記で説明したように、Fcポリペプチド鎖は限られた数の変化を含み得る。例えば、Fcポリペプチド鎖は、1つ以上のヘテロ二量体化変化、FcγRに対する結合性を阻害若しくは増強する1つ以上の変化又はFcRnに対する結合性を増大させる1つ以上の変化を含み得る。
【0084】
特定の実施形態では、半減期延長のために利用されるFcは、単鎖Fc(「scFc」)である。
【0085】
いくつかの実施形態では、Fcポリペプチドのアミノ酸配列は、哺乳類、例えばヒトのアミノ酸配列であり得る。Fcポリペプチドのアイソタイプは、IgG1、IgG2、IgG3若しくはIgG4などのIgG、IgA、IgD、IgE又はIgMであり得る。ヒトIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のFcポリペプチド鎖のアミノ酸配列のアライメントを下記の表2に示す。
【0086】
使用され得るヒトIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のFcポリペプチドの配列を配列番号45~48で提供する。配列の100個のアミノ酸につき10個以下の単一アミノ酸の欠失、挿入又は置換を含む他の近縁バリアントとして、1つ以上のヘテロ二量体化の変化、半減期を延長する1つ以上のFcの変化、ADCCを増強する1つ以上の変化及び/又はFcγ受容体(FcγR)の結合を阻害する1つ以上の変化を含有するこれらの配列のバリアントも想定される。
【0087】
【0088】
表2に示す番号付けは、IgG1抗体の定常領域の連続する番号付けに基づくEU番号付けシステムに従った。Edelman et al.(1969),Proc.Natl.Acad.Sci.63:78~85。従って、この番号付けは、IgG3のヒンジの余分な長さに十分対応していない。それにもかかわらず、本明細書では、この番号付けを、Fc領域内の位置を表すために使用するが、これは、Fc領域中の位置を指すために、依然としてこの番号付けが当技術分野で一般的に使用されているためである。IgG1、IgG2及びIgG4のFcポリペプチドのヒンジ領域は、およそ位置216からおよそ位置230に延びている。IgG2及びIgG4のヒンジ領域がIgG1ヒンジよりもそれぞれアミノ酸3個分短いことは、アライメントから明らかである。IgG3のヒンジは、かなり長く、上流に更なる47個のアミノ酸が延びている。CH2領域は、およそ位置231から340に延びており、CH3領域は、およそ位置341から447に延びている。
【0089】
Fcポリペプチドの天然に存在するアミノ酸は、僅かに変化させられ得る。そのような変形形態には、天然のFcポリペプチド鎖の配列の100個のアミノ酸につき10個以下の単一アミノ酸の挿入、欠失又は置換が含まれ得る。置換が存在する場合、これらは上記で定義したように保存的アミノ酸置換であり得る。第1及び第2のポリペプチド鎖上のFcポリペプチドは、アミノ酸配列において異なり得る。いくつかの実施形態では、それらには、「ヘテロ二量体化の変化」、例えば、上記で定義したようにヘテロ二量体形成を促進する電荷対合置換が含まれ得る。更に、PABPのFcポリペプチド部分は、FcγR結合を阻止又は増強させる変化も含み得る。そのような突然変異については、上記及びXu et al.(2000),Cell Immunol.200(1):16~26に記載されており、その関連部分は、参照により本明細書中に組み込まれる。また、Fcポリペプチド部分は、上に記載のように、「半減期を延長するFc変異」を含み得、例えば米国特許第7,037,784号明細書、米国特許第7,670,600号明細書及び米国特許第7,371,827号明細書、米国特許出願公開第2010/0234575号明細書及び国際出願PCT/US2012/070146号明細書に記載されるものを含み、その全ての関連部分が参照により本明細書中に組み込まれる。更に、Fcポリペプチドは、上記で定義したように、「ADCCを増強する変化」を含み得る。
【0090】
PCT出願公開の国際公開第93/10151号パンフレット(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている別の好適なFcポリペプチドは、ヒトIgG1抗体のFc領域のN末端のヒンジ領域から天然のC末端に延びる単鎖ポリペプチドである。別の有用なFcポリペプチドは、米国特許第5,457,035号明細書及びBaum et al.,1994,EMBO J.13:3992-4001に記載されているFcムテインである。このムテインのアミノ酸配列は、アミノ酸19がLeuからAlaに変更され、アミノ酸20がLeuからGluに変更され、アミノ酸22がGlyからAlaに変更されている点を除き、国際公開第93/10151号パンフレットに提示された天然Fc配列のアミノ酸配列と同一である。このムテインは、Fc受容体に対する親和性の低下を示す。
【0091】
1つ以上の変異をFcに導入することによって、抗体のエフェクター機能を増大又は低下させ得る。本発明の実施形態には、エフェクター機能を増大させるように改変されたFcを有するIL-2ムテインFc融合タンパク質(米国特許第7,317,091号明細書及びStrohl,Curr.Opin.Biotech.,20:685-691,2009;両方ともその全体が参照により本明細書に組み込まれる)が含まれる。ある特定の治療指標について、エフェクター機能を増大させることが望ましい場合がある。他の治療指標では、エフェクター機能を低下させることが望ましい場合がある。
【0092】
増大したエフェクター機能を有する例示的なIgG1のFc分子としては、以下の置換基を有するものが挙げられる。
S239D/I332E
S239D/A330S/I332E
S239D/A330L/I332E
S298A/D333A/K334A
P247I/A339D
P247I/A339Q
D280H/K290S
D280H/K290S/S298D
D280H/K290S/S298V
F243L/R292P/Y300L
F243L/R292P/Y300L/P396L
F243L/R292P/Y300L/V305I/P396L
G236A/S239D/I332E
K326A/E333A
K326W/E333S
K290E/S298G/T299A
K290N/S298G/T299A
K290E/S298G/T299A/K326E
K290N/S298G/T299A/K326E
【0093】
IgGのFc含有タンパク質のエフェクター機能を増大させる別の方法には、Fcのフコシル化を減少させることによるものがある。Fcに結合した二分岐の複合型オリゴ糖からコアフコースを除去することにより、抗原結合性又はCDCエフェクター機能を変化させることなくADCCエフェクター機能が著しく増強される。Fc含有分子、例えば抗体のフコシル化を減少又は消失させるためのいくつかの方法が知られている。これらの方法には、FUT8ノックアウト細胞株、バリアントCHO株Lec13、ラットハイブリドーマ細胞株YB2/0、特異的にFUT8遺伝子に対する低分子干渉RNAを含む細胞株及びα-1,4-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII及びゴルジα-マンノシダーゼIIを同時発現する細胞株を含むある特定の哺乳類細胞株における組み換え発現が挙げられる。代わりに、Fc含有分子を植物細胞、酵母又は原核細胞(例えば、E.コリ(E.coli)などの非哺乳類細胞に発現させ得る。
【0094】
本発明のある特定の実施形態では、本分子は、エフェクター機能を低下させるように改変されたFcを含む。低下したエフェクター機能を有する例示的なFc分子としては、以下の置換基を有するものが挙げられる。
N297A又はN297Q(IgG1)
L234A/L235A(IgG1)
V234A/G237A(IgG2)
L235A/G237A/E318A(IgG4)
H268Q/V309L/A330S/A331S(IgG2)
C220S/C226S/C229S/P238S(IgG1)
C226S/C229S/E233P/L234V/L235A(IgG1)
L234F/L235E/P331S(IgG1)
S267E/L328F(IgG1)
【0095】
ヒトIgG1は、N297(EUナンバリングシステム)にグリコシル化部位を有し、グリコシル化は、IgG1抗体のエフェクター機能に寄与することが知られている。例示的なIgG1配列は、配列番号45で提供される。アグリコシル化抗体を作製するためにN297を突然変異させ得る。例えば、突然変異により、N297を、グルタミン(N297Q)などの生理化学的性質がアスパラギンに類似するアミノ酸又は極性基を有さないアスパラギンを模倣するアラニン(N297A)で置換し得る。
【0096】
ある特定の実施形態では、ヒトIgG1のアミノ酸N297をグリシン、即ちN297Gに突然変異させると、その残基における他のアミノ酸置換と比較してはるかに優れた精製効率及び生物物理学的特性がもたらされる。例えば、米国特許第9,546,203号明細書及び米国特許第10,093,711号明細書を参照。特定の実施形態では、本発明の分子は、N297G置換を有するヒトIgG1のFcを含む。
【0097】
N297G突然変異を有するヒトIgG1のFcを含む本発明の分子は、更なる挿入、欠失及び置換も含み得る。ある特定の実施形態では、ヒトIgG1 FcはN297G置換を含み、配列番号45に記載されるアミノ酸配列と、少なくとも90%同一、少なくとも91%同一、少なくとも92%同一、少なくとも93%同一、少なくとも94%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一、又は少なくとも99%同一である。特に好ましい実施形態では、C末端のリジン残基が置換されているか又は欠失させられている。
【0098】
ある特定の例では、アグリコシル化されたIgG1のFc含有分子は、グリコシル化されたIgG1のFc含有分子よりも安定性が劣っている可能性がある。従って、Fc領域を更に改変して、アグリコシル化分子の安定性を増強させ得る。いくつかの実施形態では、二量体の状態のジスルフィド結合を形成するために1つ以上のアミノ酸をシステインに置換する。特定の実施形態では、配列番号45に記載されているアミノ酸配列の残基V259、A287、R292、V302、L306、V323、又はI332をシステインで置換し得る。他の実施形態では、残基の特定の対合が互いにジスルフィド結合を優先的に形成するように置換され、従って、ジスルフィド結合のスクランブルを制限又は防止する。特定の実施形態では、対合として、A287C及びL306C、V259C及びL306C、R292C及びV302C並びにV323C及びI332Cが挙げられるが限定されない。
【0099】
リンカーセクションで本明細書の上記で論じられるように、本発明の分子は、様々なドメインと(HHLL)
2分子を構築する部分との間に、及び例えば本明細書中の
図2で示されるように、リンカーを含む。ある特定の実施形態では、リンカーは、適切な細胞で発現される場合、グリコシル化され、そのようなグリコシル化により、溶液中で及び/又はインビボで投与されるとき、タンパク質の安定化が促進され得る。従って、ある特定の実施形態では、本発明の分子は、(HHLL)
2ポリペプチドのドメイン間に少なくとも1つのグリコシル化リンカーを含む。
【0100】
本分子をコードする核酸
別の実施形態では、本発明は、本発明の分子をコードする単離核酸分子を提供する。加えて、核酸を含むベクター、核酸を含む細胞、及び本発明の結合分子を作製する方法が提供される。核酸は、例えば、分子の全部若しくは一部、例えば又はその断片、誘導体、ムテイン若しくはバリアントをコードするポリヌクレオチド、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、同定する、分析する、突然変異させる又は増幅させるためのハイブリダイゼーションプローブ、PCRプライマー又はシーケンシングプライマーとしての使用に十分なポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドの発現を阻害するためのアンチセンス核酸及び上記の相補的配列を含む。核酸は、所望の使用又は機能に適したあらゆる長さであり得、1つ以上の更なる配列、例えば調節配列及び/又はより大きい核酸、例えばベクターの一部を含み得る。核酸は、1本鎖又は2本鎖であり得、RNA及び/又はDNAヌクレオチド並びにその人工的なバリアント(例えばペプチド核酸)を含み得る。
【0101】
ポリペプチド(例えば、重鎖又は軽鎖、可変ドメインのみ又は完全長)をコードする核酸は、抗原で免疫化されたマウスのB細胞から単離され得る。核酸は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの従来の手順によって単離され得る。
【0102】
重鎖及び軽鎖可変領域の可変領域をコードする核酸配列が本明細書に含まれる。熟練した技術者であれば、遺伝暗号の縮重により、本明細書で開示されるポリペプチド配列のそれぞれが多数の他の核酸配列によってコードされていることを認めるであろう。本発明は、本発明の各結合分子をコードする、各縮重ヌクレオチド配列を提供する。
【0103】
本発明は、特定のハイブリダイゼーション条件下で他の核酸にハイブリダイズする核酸を更に提供する。核酸をハイブリダイズするための方法は、当技術分野で周知である。例えば、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,N.Y.1989;6.3.1-6.3.6を参照。本明細書で定義されるように、例えば、中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件では、5x塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)、0.5%SDS、1.0mMのEDTA(pH8.0)を含有する予洗溶液、約50%ホルムアミド、6xSSCのハイブリダイゼーション緩衝液及び55℃のハイブリダイゼーション温度(又は約50%ホルムアミドを含有するものなど、42℃のハイブリダイゼーション温度での他の類似のハイブリダイゼーション溶液)並びに0.5xSSC、0.1%SDS中で60℃での洗浄条件が用いられる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件では、45℃の6xSSC中でハイブリダイズし、その後、68℃の0.1xSSC、0.2%SDS中で1回以上洗浄する。更に、当業者であれば、ハイブリダイゼーション条件及び/又は洗浄条件を操作して、互いに少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%又は99%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸が典型的に互いにハイブリダイズしたままで維持されるように、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを上昇又は低下させ得る。ハイブリダイゼーション条件の選択に影響する基本パラメータ及び好適な条件を考案するためのガイダンスは、例えばSambrook,Fritsch,and Maniatis(1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,chapters 9 and 11;及びCurrent Protocols in Molecular Biology,1995、Ausubel et al.,eds.,John Wiley & Sons,Inc.,sections 2.10 and 6.3-6.4)によって示され、例えば、DNAの長さ及び/又は塩基組成に基づいて当業者が容易に決定し得る。核酸への突然変異によって変更を導入し得、それによって核酸がコードするポリペプチド(例えば結合分子)のアミノ酸配列において変更が生じる。突然変異は、当技術分野で公知の何らかの技術を使用して導入され得る。一実施形態では、例えば、部位特異的変異誘発プロトコールを使用して、1つ以上の特定のアミノ酸残基が変更される。別の実施形態では、例えば、ランダム突然変異誘発プロトコールを使用して、1つ以上のランダムに選択される残基が変更される。実施方法にかかわらず、突然変異ポリペプチドを発現させ、その所望の特性をスクリーニングし得る。
【0104】
核酸がコードするポリペプチドの生物活性を大きく変えることなく、突然変異を核酸に導入し得る。例えば、非必須アミノ酸残基でのアミノ酸置換につながるヌクレオチド置換を実施し得る。一実施形態では、本発明の結合分子の本明細書で提供されるヌクレオチド配列又はその所望の断片、バリアント若しくは誘導体を突然変異させて、本発明の結合分子の軽鎖又は本発明の結合分子の重鎖について本明細書中で示されるアミノ酸残基の1つ以上の欠失又は置換を含むアミノ酸配列をコードし、2つ以上の配列が異なる残基となるようにする。別の実施形態では、この突然変異誘発により、本発明の結合分子の軽鎖又は本発明の結合分子の重鎖について本明細書中で示される1つ以上のアミノ酸残基に隣接するアミノ酸が2つ以上の配列の異なる残基となるように挿入される。或いは、核酸がコードするポリペプチドの生物活性を選択的に変更する核酸に1つ以上の突然変異を導入し得る。
【0105】
別の実施形態では、本発明は、本発明のポリペプチド又はその一部をコードする核酸を含むベクターを提供する。ベクターの例としては、プラスミド、ウイルスベクター、非エピソーム哺乳類ベクター及び発現ベクター、例えば組み換え発現ベクターが挙げられるが限定されない。
【0106】
本発明の組み換え発現ベクターは、宿主細胞に核酸を発現させるのに適した形態の本発明の核酸を含み得る。組み換え発現ベクターは、発現のために使用される宿主細胞に基づいて選択される1つ以上の調節配列を含み、こうした調節配列は、発現させようとする核酸配列に動作可能に連結される。調節配列としては、多くの種類の宿主細胞においてヌクレオチド配列の恒常的発現を誘導するもの(例えば、SV40初期遺伝子エンハンサー、ラウス肉腫ウイルスプロモーター及びサイトメガロウイルスプロモーター)、ある特定の宿主細胞のみにおいてヌクレオチド配列の発現を誘導するもの(例えば、組織特異的調節配列;その全体が参照により本明細書に組み込まれるVoss et al.,1986,Trends Biochem.Sci.11:287、Maniatis et al.,1987,Science 236:1237を参照)並びに特定の処理又は条件に応じてヌクレオチド配列の誘導性発現を誘導するもの(例えば、哺乳類細胞におけるメタロチオネイン(metallothionin)プロモーター並びに原核生物系と真核生物系の両方におけるtet応答性及び/又はストレプトマイシン応答性プロモーター(同文献を参照)が挙げられる。発現ベクターの設計は、形質転換しようとする宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベルなどの要因に依存し得ることを当業者は認識するであろう。本発明の発現ベクターを宿主細胞に導入し、それにより、本明細書に記載されるような核酸によってコードされる融合タンパク質又はペプチドを含むタンパク質又はペプチドを産生し得る。
【0107】
別の実施形態では、本発明は、本発明の組み換え発現ベクターが導入された宿主細胞を提供する。宿主細胞は、何れかの原核細胞又は真核細胞であり得る。原核生物の宿主細胞としては、グラム陰性又はグラム陽性の微生物、例えばE.コリ(E.coli)又は桿菌(bacilli)が挙げられる。高等真核細胞としては、昆虫細胞、酵母細胞及び哺乳類起源の樹立された細胞株が挙げられる。好適な哺乳類宿主細胞株の例としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞若しくはVeggie CHOなどのそれらの派生株及び無血清培地で増殖する関連細胞株(Rasmussen et al.,1998,Cytotechnology 28:31を参照)又はDHFRにおいて欠損しているCHO系統のDXB-11(Urlaub et al.,1980,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216-20を参照)が挙げられる。更なるCHO細胞株としては、CHO-K1(ATCC#CCL-61)、EM9(ATCC#CRL-1861)及びUV20(ATCC#CRL-1862)が挙げられる。更なる宿主細胞としては、サル腎培養細胞のCOS-7株(ATCC CRL 1651)(Gluzman et al.,1981,Cell 23:175を参照)、L細胞、C127細胞、3T3細胞(ATCC CCL 163)、AM-1/D細胞(米国特許第6,210,924号明細書に記載)、HeLa細胞、BHK(ATCC CRL 10)細胞株、アフリカミドリザル腎細胞株CV1に由来するCV1/EBNA細胞株(ATCC CCL 70)(McMahan et al.,1991,EMBO J.10:2821を参照)、293、293 EBNA若しくはMSR 293などのヒト胚腎臓細胞、ヒト表皮A431細胞、ヒトColo205細胞、他の形質転換された霊長類細胞株、正常二倍体細胞、初代組織のインビトロ培養に由来する細胞株、初代移植片、HL-60細胞、U937細胞、HaK細胞又はJurkat細胞が挙げられる。細菌、真菌、酵母及び哺乳類細胞宿主と共に使用するのに適切なクローニングベクター及び発現ベクターは、Pouwels et al.(Cloning Vectors:A Laboratory Manual,Elsevier,New York,1985)によって記載されている。
【0108】
ベクターDNAは、従来の形質転換技術又は遺伝子移入技術を介して原核細胞又は真核細胞に導入し得る。哺乳類細胞の安定した形質移入の場合、使用される発現ベクター及び遺伝子移入技術に応じて、ごくわずかな細胞のみで外来DNAをそのゲノムに組み込み得ることが知られている。こうした組み込み体を識別して選択するために、一般的に、選択可能マーカー(例えば抗生物質耐性のための)をコードする遺伝子が目的遺伝子と共に宿主細胞に導入される。更なる選択可能マーカーとしては、G418、ハイグロマイシン及びメトトレキサートなどの薬物に対する耐性を与えるものが挙げられる。導入された核酸で安定的に遺伝子移入された細胞は、他の方法の中でも特に、薬物選択によって識別され得る(例えば、選択可能マーカー遺伝子が組み込まれた細胞は、生存するが他の細胞は死滅する)。
【0109】
形質転換細胞は、ポリペプチドの発現を促進する条件下で培養し得、そのポリペプチドを従来のタンパク質精製手順によって回収し得る。本明細書中での使用が想定されるポリペプチドは、内在性物質の混入を実質的に含まない実質的に均質な組み換え哺乳類ポリペプチドを含む。
【0110】
本発明の分子をコードする核酸を含有する細胞には、ハイブリドーマも含まれる。ハイブリドーマの生成及び培養が本明細書で述べられる。
【0111】
いくつかの実施形態では、本明細書中に記載のような核酸分子を含むベクターが提供される。いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書中に記載のような核酸分子を含む宿主細胞を含む。
【0112】
いくつかの実施形態では、本明細書中に記載のような分子をコードする核酸分子が提供される。
【0113】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の少なくとも1つの分子を含む医薬組成物が提供される。
【0114】
作製の方法
本発明の分子は、タンパク質(例えば抗体)の合成のための当技術分野において公知の何れかの方法、特に化学合成技術によって、又は好ましくは組み換え発現技術によって作製され得る。
【0115】
本分子の組み換え発現は、本分子をコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターの構築を必要とする。本分子をコードするポリヌクレオチドが得られたら、組み換えDNA技術によって本分子の作製のためのベクターが作製され得る。本分子のコード配列及び適切な転写及び翻訳制御シグナルを含有する発現ベクターが構築される。これらの方法としては、例えば、インビトロ組み換えDNA技術、合成技術及びインビボ遺伝子組み換えが挙げられる。
【0116】
従来技術によって発現ベクターを宿主細胞に導入し、続いてこの遺伝子移入細胞を従来技術によって培養して、本発明の分子を生成させる。
【0117】
様々な宿主発現ベクター系が、本発明の分子を発現させるために利用され得る。そのような宿主発現系は、関心対象のコード配列を生成し、続いて精製することができるビヒクルを意味するだけでなく、適切なヌクレオチドのコード配列で形質転換又は遺伝子移入した場合にインサイチュで本発明の分子を発現し得る細胞も意味する。E.コリ(E.coli)などの細菌細胞、及び真核細胞は、組み換え結合分子の発現、特に、組み換え結合分子全体を発現させるために一般的に使用される。例えば、ヒトサイトメガロウイルス由来の主要中間初期遺伝子のプロモーターエレメントなどのベクターと組み合わせたチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)などの哺乳類細胞は、抗体にとって効果的な発現系である(Foecking et al.,Gene 45:101(1986);Cockett et al.,Bio/Technology 8:2(1990))。
【0118】
加えて、所望される特定の方法で挿入配列の発現を調節するか、又は遺伝子産物を修飾し、プロセシングする宿主細胞株が選択され得る。タンパク質産物のそのような修飾(例えばグリコシル化)及びプロセシング(例えば切断)は、タンパク質が機能するために重要であり得る。異なる宿主細胞では、タンパク質及び遺伝子産物の翻訳後プロセシング及び修飾に関して特徴的で特異な機構を有する。発現された外来タンパク質の正確な修飾及びプロセシングを確実なものとするために、適切な細胞株又は宿主系を選択し得る。この目的を達成するために、遺伝子産物の一次転写物の適切なプロセシング、グリコシル化及びリン酸化のための細胞機構を有する真核宿主細胞を使用し得る。そのような哺乳類宿主細胞としては、CHO、COS、293、3T3又は骨髄腫細胞が挙げられるが限定されない。
【0119】
組み換えタンパク質を長期間にわたって高収率で産生させるために、安定な発現が好ましい。例えば、結合分子を安定的に発現させる細胞株を改変し得る。ウイルス性複製起点を含有する発現ベクターを使用する代わりに、適切な発現調節エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位など)により制御されるDNA及び選択マーカーによって宿主細胞を形質転換し得る。外来DNAを導入した後、操作された細胞を濃縮培地中で1~2日間増殖させることが可能であり得、続いて選択培地に切り替えられる。組み換えプラスミド中の選択可能マーカーによって選択に対する耐性が与えられ、細胞がそれらの染色体にプラスミドを安定的に組み込み、増殖させて集積を形成することが可能となり、これらをクローニングして細胞株に拡大し得る。有利に本方法を使用して、結合分子を発現する細胞株を有利に改変し得る。そのような改変細胞株は、特に、結合分子と直接又は間接的に相互作用する化合物をスクリーニングし、評価する際に有用となり得る。
【0120】
単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(Wigler et al.,Cell 11:223(1977))、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Szybalska & Szybalski,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 48:202(1992))及びアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowy et al.,Cell 22:817(1980))が挙げられるが限定されないいくつかの選択系が使用され得、遺伝子は、それぞれtk、hgprt又はaprt-細胞において利用され得る。また、代謝拮抗物質耐性は、以下の遺伝子のための選択の基準として使用され得る:メトトレキセートに対する耐性を与えるdhfr(Wigler et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:357(1980);O’Hare et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:1527(1981));ミコフェノール酸に対する耐性を与えるgpt(Mulligan & Berg,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:2072(1981));アミノグリコシドG-418に対する耐性を与えるneo(Wu and Wu,Biotherapy 3:87-95(1991));及びハイグロマイシンに対する耐性を与えるhygro(Santerre et al.,Gene 30:147(1984))。組み換えDNA技術の技術分野において一般的に知られる方法が、所望の組み換えクローンを選択するために慣行的に適用され得、そのような方法は、例えば、Ausubel et al.(eds.),Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,NY(1993);Kriegler,Gene Transfer and Expression,A Laboratory Manual,Stockton Press,NY(1990);及びChapters 12 and 13,Dracopoli et al.(eds),Current Protocols in Human Genetics,John Wiley&Sons,NY(1994);Colberre-Garapin et al.,J.Mol.Biol.150:1(1981)に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0121】
結合分子の発現レベルは、ベクター増幅によって上昇させ得る(総説については、Bebbington and Hentschel,“The use of vectors based on gene amplification for the expression of cloned genes in mammalian cells”(DNA Cloning,Vol.3.Academic Press,New York,1987)を参照)。結合を発現するベクター系におけるマーカーが増幅可能である場合、宿主細胞の培養物中に存在する阻害剤のレベルの上昇により、マーカー遺伝子のコピー数が増加する。増幅領域は遺伝子と会合するので、タンパク質産物も増加する(Crouse et al.,Mol.Cell.Biol.3:257(1983))。
【0122】
宿主細胞は、本発明の複数の発現ベクターで同時遺伝子移入され得る。ベクターは、発現されるポリペプチドの同様の発現を可能にする同一の選択可能マーカーを含有し得る。或いは、例えば本発明のポリペプチドをコードし、発現させることが可能な単一のベクターを使用し得る。コード配列は、cDNA又はゲノムDNAを含み得る。
【0123】
本発明の結合分子を、動物によって、化学的に合成することによって生成させるか、又は組み換えによって発現させたら、免疫グロブリン分子の精製のための当技術分野において公知の何れかの方法、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、特にプロテインA後の特異抗原へのアフィニティークロマトグラフィー、及びサイズ排除クロマトグラフィー)、遠心分離、溶解度差、又はタンパク質の精製のための何れかの他の標準的な技術によって精製し得る。加えて、本発明の結合分子又はこれらの断片は、本明細書中で記載されるか又は他に当技術分野で公知の異種ポリペプチド配列に融合させて、精製を促進し得る。精製技術は、Fc領域(例えばscFC)が本発明の分子に結合されるか否かに応じて異なり得る。
【0124】
いくつかの実施形態では、本発明は、ポリペプチドに組み換え技術によって融合させられるか又は化学的に複合化される(共有結合及び非共有結合の両方による複合化を含む)結合分子を包含する。精製を容易にするために、融合又は複合化される本発明の結合構築物を使用し得る。例えば、Harbor et al.,前掲及びPCT出願公開の国際公開第93/21232号パンフレット;欧州特許第439,095号明細書;Naramura et al.,Immunol.Lett.39:91-99(1994);米国特許第5,474,981号明細書;Gillies et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.89:1428-1432(1992);Fell et al.,J.Immunol.146:2446-2452(1991)を参照。
【0125】
更に、本発明の結合分子又はこれらの断片は、精製を促進するためにペプチドなどのマーカー配列に融合させ得る。好ましい実施形態では、マーカーアミノ酸配列は、pQEベクター(QIAGEN,Inc.,9259 Eton Avenue,Chatsworth,Calif.,91311)において提供されるタグなどのヘキサ-ヒスチジンペプチド(配列番号58)であり、とりわけ、その多くが市販されている。Gentz et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:821-824(1989)に記載される通り、例えば、ヘキサ-ヒスチジン(配列番号58)は、融合タンパク質の簡便な精製を提供する。精製に有用な他のペプチドタグとしては、インフルエンザヘマグルチニンタンパク質に由来するエピトープに対応する「HA」タグ(Wilson et al.,Cell 37:767(1984))及び「flag」タグが挙げられるが限定されない。
【0126】
分子の作製
本発明の分子は、一般的な意味で、所望の抗体からVH領域及びVL領域を選択し、それらを本明細書で記載されるようなポリペプチドリンカーを使用して連結し、任意選択的にFc領域が結合された(HHLL)2分子を形成することによって構築される。より具体的には、VH、VL及びリンカー並びに任意選択的にFcをコードする核酸を組み合わせて、本発明の分子をコードする(HHLL)2核酸コンストラクトを生成させる。
【0127】
抗体の作製
ある特定の実施形態では、本発明の分子を作製する前に、所望の標的に対する結合特異性を有する単一特異性抗体を最初に作製する。
【0128】
本発明の分子を作製するのに有用な抗体は、当業者にとって周知の技術によって調製され得る。例えば、動物(例えばマウス又はラット又はウサギ)を免疫化することにより、続いて免疫スケジュールの完了後、この動物から採取した脾臓細胞を不死化することによる。脾臓細胞は、当技術分野で公知の何れかの技術を使用して不死化され得、例えば、脾臓細胞を骨髄腫細胞と融合してハイブリドーマを生成することよって不死化し得る。例えば、Antibodies;Harlow and Lane,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1st Edition(例えば、1988からの)又は2nd Edition(例えば、2014からの)を参照。
【0129】
一実施形態では、ヒト化モノクローナル抗体は、マウス抗体の可変ドメイン(又はその抗原結合部位の全て又は一部)と、ヒト抗体由来の定常ドメインとを含む。或いは、ヒト化抗体断片は、マウスモノクローナル抗体の抗原結合部位と、ヒト抗体由来の可変ドメイン断片(抗原結合部位を欠く)と、を含み得る。操作されたモノクローナル抗体を作製するための手順は、Riechmann et al.,1988,Nature 332:323、Liu et al.,1987,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 84:3439、Larrick et al.,1989,Bio/Technology 7:934及びWinter et al.,1993,TIPS 14:139に記載されるものが挙げられる。一実施形態では、キメラ抗体は、CDR移植抗体である。抗体をヒト化するための技術は、例えば、米国特許第5,869,619号明細書;米国特許第5,225,539号明細書;米国特許第5,821,337号明細書;米国特許第5,859,205号明細書;米国特許第6,881,557号明細書、Padlan et al.,1995,FASEB J.9:133-39,Tamura et al.,2000,J.Immunol.164:1432-41、Zhang,W.,et al.,Molecular Immunology.42(12):1445-1451,2005;Hwang W.et al.,Methods.36(1):35-42,2005;Dall’Acqua WF,et al.,Methods 36(1):43-60,2005;及びClark,M.,Immunology Today.21(8):397-402,2000において論じられる。
【0130】
本発明の分子はまた、完全ヒトモノクローナル抗体の領域も含み得る。完全ヒトモノクローナル抗体は、当業者が精通しているであろう多くの技術によって作製され得る。そのような方法としては、ヒト末梢血細胞(例えば、Bリンパ球を含有する)のエプスタイン・バーウイルス(EBV)形質転換、ヒトB細胞のインビトロ免疫化、挿入されたヒト免疫グロブリン遺伝子を有する免疫化したトランスジェニックマウス由来の脾臓細胞の融合、ヒト免疫グロブリンV領域のファージライブラリーからの単離又は当技術分野で公知の及び本明細書に開示されるものに基づく他の手順が挙げられるが限定されない。
【0131】
非ヒト動物でヒトモノクローナル抗体を作製するための手順が開発されている。例えば、様々な手段によって1つ以上の内在性免疫グロブリン遺伝子が不活性化されたマウスが作製されている。不活性化したマウス遺伝子を置き換えるために、マウスにヒト免疫グロブリン遺伝子が導入されている。この技術では、ヒト重鎖及び軽鎖遺伝子座のエレメントが胚性幹細胞由来のマウスの系統に導入されるが、これには、内在性重鎖及び軽鎖遺伝子座を標的化して破壊することが含まれる(Bruggemann et al.,Curr.Opin.Biotechnol.8:455-58(1997)も参照)。例えば、ヒト免疫グロブリン導入遺伝子は、ミニ遺伝子コンストラクト、又はマウスリンパ組織のB細胞特異的なDNA再編成及び高頻度変異を受ける酵母人工染色体上の導入遺伝子座であり得る。
【0132】
動物において産生される抗体は、その動物に導入されたヒト遺伝子材料によってコードされるヒト免疫グロブリンポリペプチド鎖を組み込む。一実施形態では、トランスジェニックマウスなどの非ヒト動物を好適な免疫原で免疫化する。
【0133】
ヒト抗体又は部分的なヒト抗体を作製するために、トランスジェニック動物を作製及び使用するための技術の例は、米国特許第5,814,318号明細書、同第5,569,825号明細書、及び同第5,545,806号明細書、Davis et al.,Production of human antibodies from transgenic mice in Lo,ed.Antibody Engineering:Methods and Protocols,Humana Press,NJ:191-200(2003)、Kellermann et al.,2002,Curr Opin Biotechnol.13:593-97、Russel et al.,2000,Infect Immun.68:1820-26、Gallo et al.,2000,Eur J Immun.30:534-40、Davis et al.,1999,Cancer Metastasis Rev.18:421-25,Green,1999、J Immunol Methods.231:11-23,Jakobovits,1998,Advanced Drug Delivery Reviews 31:33-42、Green et al.,1998,J Exp Med.188:483-95,Jakobovits A,1998,Exp.Opin.Invest.Drugs.7:607-14、Tsuda et al.,1997,Genomics.42:413-21、Mendez et al.,1997,Nat Genet.15:146-56、Jakobovits,1994,Curr Biol.4:761-63、Arbones et al.,1994,Immunity.1:247-60、Green et al.,1994,Nat Genet.7:13-21、Jakobovits et al.,1993,Nature.362:255-58、Jakobovits et al.,1993,Proc Natl Acad Sci USA.90:2551-55.Chen,J.,M.Trounstine,F.W.Alt,F.Young,C.Kurahara,J.Loring,D.Huszar.“Immunoglobulin gene rearrangement in B-cell deficient mice generated by targeted deletion of the JH locus.”International Immunology 5(1993):647-656、Choi et al.,1993,Nature Genetics 4:117-23、Fishwild et al.,1996,Nature Biotechnology 14:845-51、Harding et al.,1995,Annals of the New York Academy of Sciences、Lonberg et al.,1994,Nature 368:856-59,Lonberg,1994,Transgenic Approaches to Human Monoclonal Antibodies in Handbook of Experimental Pharmacology 113:49-101、Lonberg et al.,1995,Internal Review of Immunology 13:65-93,Neuberger,1996,Nature Biotechnology 14:826、Taylor et al.,1992,Nucleic Acids Research 20:6287-95、Taylor et al.,1994,International Immunology 6:579-91、Tomizuka et al.,1997,Nature Genetics 16:133-43、Tomizuka et al.,2000,Proceedings of the National Academy of Sciences USA 97:722-27、Tuaillon et al.,1993,Proceedings of the National Academy of Sciences USA 90:3720-24及びTuaillon et al.,1994,Journal of Immunology 152:2912-20.;Lonberg et al.,Nature 368:856,1994;Taylor et al.,Int.Immun.6:579,1994;米国特許第5,877,397号明細書;Bruggemann et al.,1997 Curr.Opin.Biotechnol.8:455-58;Jakobovits et al.,1995 Ann.N.Y.Acad.Sci.764:525-35に記載されている。加えて、XenoMouse(登録商標)(Abgenix、現在ではAmgen,Inc.)を含むプロトコールは、例えば、米国特許出願第05/0118643号明細書及び国際公開第05/694879号パンフレット、国際公開第98/24838号パンフレット、国際公開第00/76310号パンフレット及び米国特許第7,064,244号明細書に記載されている。
【0134】
例えば、ハイブリドーマを作製するために、免疫化したトランスジェニックマウス由来のリンパ系細胞を骨髄腫細胞と融合させる。ハイブリドーマを作製する融合手順での使用のための骨髄腫細胞は、好ましくは、非抗体産生細胞であり、高い融合効率を有し、且つ所望の融合細胞(ハイブリドーマ)のみの増殖を助ける、ある特定の選択培地での増殖を不可能にする酵素欠損を有する。そのような融合に使用するのに好適な細胞株の例としては、Sp-20、P3-X63/Ag8、P3-X63-Ag8.653、NS1/1.Ag4 1、Sp210-Ag14、FO、NSO/U、MPC-11、MPC11-X45-GTG1.7及びS194/5XX0 Bulが挙げられ、ラット融合において使用される細胞株の例としては、R210.RCY3、Y3-Ag1.2.3、IR983F及び4B210が挙げられる。細胞融合に有用な他の細胞株は、U-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2及びUC729-6である。
【0135】
リンパ系(例えば脾臓)細胞及び骨髄腫細胞は、ポリエチレングリコール又は非イオン性界面活性剤などの膜融合促進剤と数分間組み合わせ、続いてハイブリドーマ細胞の増殖を助けるが未融合の骨髄腫細胞を助ない選択培地において低密度で播種され得る。選択培地の1つは、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)である。十分な時間、通常、約1~2週間後に、細胞のコロニーが観察される。単一のコロニーを単離し、当技術分野で公知であり、本明細書に記載される様々な免疫アッセイの何れか1つを使用して、細胞によって産生された抗体を所望の標的に対する結合活性について試験し得る。ハイブリドーマをクローニングし(例えば、限界希釈クローニングによって又は軟寒天プラーク単離によって)、所望の標的に特異的な分子を産生する陽性クローンを選択して培養する。ハイブリドーマ培養液に由来する結合分子を、ハイブリドーマ培養液の上清から単離し得る。従って、本発明は、細胞の染色体において本発明の結合分子をコードするポリヌクレオチドを含むハイブリドーマを提供する。これらのハイブリドーマは、本明細書中に記載され、当技術分野で公知の方法に従って培養し得る。
【0136】
本発明の結合分子を作製するのに有用なヒト抗体を生成するための別の方法には、ヒト末梢血細胞をEBV形質転換によって不死化することが含まれる。例えば、米国特許第4,464,456号明細書を参照。所望の標的に特異的に結合するモノクローナル抗体を産生する、そのような不死化B細胞株(又はリンパ芽球様細胞株)は、本明細書で提供されるような免疫検出法、例えばELISAによって同定し得、続いて標準的なクローニング技術によって単離し得る。抗体を産生するリンパ芽球様細胞株の安定性は、当技術分野で公知の方法に従って(例えば、Glasky et al.,Hybridoma 8:377-89(1989)を参照)、形質転換細胞株をマウス骨髄腫と融合させて、マウス-ヒトハイブリッド細胞株を作製することによって向上され得る。ヒトモノクローナル抗体を作製するための更なる別の方法は、ヒト脾臓のB細胞を抗原でプライミングし、その後プライミングしたB細胞をヘテロハイブリッドの融合パートナーと融合させることを含むインビトロでの免疫化である。例えば、Boerner et al.,1991 J.Immunol.147:86-95を参照。
【0137】
ある特定の実施形態では、所望の抗体を産生しているB細胞を選択し、当技術分野で公知の(国際公開第92/02551号パンフレット;米国特許第5,627,052号明細書;Babcook et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:7843-48(1996))及び本明細書中に記載の分子生物学的技術に従って、このB細胞から軽鎖及び重鎖可変領域をクローニングする。所望の抗体を産生している細胞を選択することにより、免疫化した動物由来のB細胞が、脾臓、リンパ節又は末梢血試料から単離され得る。B細胞はまた、ヒトから、例えば末梢血試料から単離され得る。所望の特異性を有する抗体を産生している単一のB細胞を検出するための方法は、当技術分野で周知であり、例えばプラーク形成、蛍光活性化細胞選別、インビトロ刺激後の特異的抗体の検出などによる。特異的抗体を産生するB細胞を選択するための方法としては、例えば、抗原を含有する軟寒天中でB細胞の単一の細胞懸濁液を調製することが含まれる。B細胞によって産生される特異的抗体が抗原に結合すると、複合体の形成が起こるが、この複合体は、免疫沈降物として目に見え得る。所望の抗体を産生するB細胞を選択した後に、DNA又はmRNAを単離及び増幅することによって特異的抗体遺伝子をクローニングし得、これを使用して、当技術分野で公知であり、本明細書に記載の方法に従って本発明の分子を作製し得る。
【0138】
本発明の分子を作製するのに有用な抗体を得るための更なる方法は、ファージディスプレイによる。例えば、Winter et al.,1994 Annu.Rev.Immunol.12:433-55;Burton et al.,1994 Adv.Immunol.57:191-280を参照。ヒト又はマウス免疫グロブリン可変領域遺伝子のコンビナトリアルライブラリをファージベクターにおいて作製し得、これにより、TGF-β結合タンパク質又はそのバリアント若しくは断片に特異的に結合するIg断片(Fab、Fv、sFv又はそれらの多量体)を選択するためにスクリーニングし得る。例えば、米国特許第5,223,409号明細書;Huse et al.,1989 Science 246:1275-81;Sastry et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:5728-32(1989);Alting-Mees et al.,Strategies in Molecular Biology 3:1-9(1990);Kang et al.,1991 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:4363-66;Hoogenboom et al.,1992 J.Molec.Biol.227:381-388;Schlebusch et al.,1997 Hybridoma 16:47-52及びそこで引用される文献を参照。例えば、Ig可変領域断片をコードする複数のポリヌクレオチド配列を含有するライブラリが、ファージコートタンパク質をコードする配列とインフレームでM13又はそのバリアントなどの糸状バクテリオファージのゲノムに挿入され得る。融合タンパク質は、コートタンパク質と軽鎖可変領域ドメインと及び/又は重鎖可変領域ドメインとの融合体であり得る。ある特定の実施形態によれば、免疫グロブリンFab断片はまた、ファージ粒子上にディスプレイされ得る(例えば、米国特許第5,698,426号明細書を参照)。
【0139】
重鎖及び軽鎖免疫グロブリンcDNA発現ライブラリはまた、ラムダファージ、例えばλlmmunoZapTM(H)及びλImmunoZapTM(L)ベクター(Stratagene,La Jolla,California)を使用して調製され得る。簡潔に述べると、mRNAをB細胞集団から単離し、これを使用して、λImmunoZap(H)及びλImmunoZap(L)ベクターにおいて重鎖及び軽鎖免疫グロブリンcDNA発現ライブラリを作製する。これらのベクターを個別にスクリーニングするか又は同時発現させて、Fab断片又は抗体を形成させ得る(Huse et al.,前掲を参照;Sastry et al.,前掲も参照)。その後、陽性プラークを非溶解性のプラスミドに変換させ得、これによりE.コリ(E.coli)由来のモノクローナル抗体断片を高レベルで発現させることが可能になる。
【0140】
一実施形態では、ハイブリドーマにおいて、ヌクレオチドプライマーを使用して関心対象のモノクローナル抗体を発現する遺伝子の可変領域が増幅される。これらのプライマーは、当業者によって合成され得るか、又は市販の供給源から購入され得る。(例えば、特にVHa、VHb、VHc、VHd、CH1、VL及びCL領域に対するプライマーを含むマウス及びヒト可変領域に対するプライマーを販売するStratagene(La Jolla、California)を参照)。これらのプライマーを使用して重鎖又は軽鎖可変領域を増幅し得、続いてこれをImmunoZAPTMH又はImmunoZAPTML(Stratagene)などのベクターにそれぞれ挿入し得る。続いて、これらのベクターを発現のためのE.コリ(E.coli)、酵母又は哺乳類に基づく系に導入し得る。これらの方法を使用して、VHドメイン及びVLドメインの融合体を含有する大量の単鎖タンパク質を産生させ得る(Bird et al.,Science 242:423-426,1988を参照)。
【0141】
ある特定の実施形態では、本発明の結合分子は、「重鎖のみ」の抗体又は「HCAb」を産生するトランスジェニック動物(例えばマウス)から得られる。HCAbは、天然のラクダ及びラマの一本鎖VHH抗体に類似する。例えば、米国特許第8,507,748号明細書及び同第8,502,014号明細書及び米国特許出願公開第2009/0285805A1号明細書、米国特許出願公開第2009/0169548A1号明細書、米国特許出願公開第2009/0307787A1号明細書、米国特許出願公開第2011/0314563A1号明細書、米国特許出願公開第2012/0151610A1号明細書、国際公開第2008/122886A2号パンフレット及び国際公開第2009/013620A2号パンフレットを参照。
【0142】
上述の免疫化及び他の技術の何れかを使用して本発明による抗体を産生する細胞が得られたら、本明細書に記載のような標準的手順に従い、そこからDNA又はmRNAを単離及び増幅することによって特異的抗体遺伝子をクローニングし得、続いてこれを使用して本発明の分子を作製し得る。そこから産生された抗体を配列決定し得、CDRを同定し、CDRをコードするDNAを前述の通りに操作して、本発明による他の分子を作製し得る。
【0143】
抗体結合部位の中央にある相補性決定領域(CDR)の分子進化は、親和性が増大した抗体、例えばSchier et al.,1996,J.Mol.Biol.263:551に記載されるような抗体を単離するためにも使用されている。従って、そのような技術は、本発明の結合構築物を調製することにおいて有用である。
【0144】
ヒト抗体、部分的ヒト抗体又はヒト化抗体は多くの用途、特に本発明の用途に好適であるが、ある特定の用途には他のタイプの結合分子が好適である。これらの非ヒト抗体は、例えば、何れかの抗体産生動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ロバ又は非ヒト霊長類(例えば、カニクイザル又はアカゲザルなどのサル)若しくは類人猿(例えばチンパンジー)などの由来のものであり得る。例えば、その種の動物を所望の免疫原によって免疫化することにより、又はその種の抗体を生成するための人工的な系(例えば、特定の種の抗体を作製するための細菌又はファージディスプレイに基づく系)を使用することにより、又は例えば抗体の定常領域を他の種由来の定常領域で置き換えることにより、又は他の種由来の抗体の配列に更に酷似するように抗体の1つ以上のアミノ酸残基を置換することにより、1つの種に由来する抗体を別の種に由来する抗体に変換することによって特定の種由来の抗体を作製し得る。一実施形態では、抗体は、2つ以上の異なる種由来の抗体に由来するアミノ酸配列を含むキメラ抗体である。続いて、所望の結合領域配列を使用して、本発明の分子を作製し得る。
【0145】
上述したCDRの1つ以上を含有する、本発明による結合分子の親和性を向上させることが望まれる場合、CDRの維持(Yang et al.,J.Mol.Biol.,254,392-403,1995)、鎖シャフリング法(Marks et al.,Bio/Technology,10,779-783,1992)、E.コリ(E.coli)の突然変異株の使用(Low et al.,J.Mol.Biol.,250,350-368,1996)、DNAシャフリング法(Patten et al.,Curr.Opin.Biotechnol.,8,724-733,1997)、ファージディスプレイ(Thompson et al.,J.Mol.Biol.,256,7-88,1996)及び更なるPCR技術(Crameri,et al.,Nature,391,288-291,1998)を含むいくつかの親和性成熟プロトコールによって得ることができる。親和性成熟のこれらの方法の全ては、Vaughan et al.Nature biotechnology 16;535:539-1998)により論じられている。
【0146】
ある特定の実施形態では、本発明の(HHLL)2分子を作製するために、まず、アミノ酸架橋(短いペプチドリンカー)を介して重鎖及び軽鎖可変ドメイン(Fv領域)断片を連結することによって形成され得るより典型的な単鎖抗体を作製して、単鎖ポリペプチドを生じさせることが望ましいものであり得る。そのような単鎖Fv(scFv)は、2つの可変ドメインポリペプチド(VL及びVH)をコードするDNA間のペプチドリンカーをコードするDNAを融合することによって調製されている。得られたポリペプチドは、それら自体で再度折り畳まれ、2つの可変ドメイン間の可動性リンカーの長さに応じて、抗原結合性の単量体を形成させ得るか、又は多量体(例えば、二量体、三量体又は四量体)を形成させ得る(Kortt et al.,1997,Prot.Eng.10:423;Kortt et al.,2001,Biomol.Eng.18:95-108)。1本鎖抗体を作製するために開発された技術としては、米国特許第4,946,778号明細書;Bird,1988,Science 242:423;Huston et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879;Ward et al.,1989,Nature 334:544,de Graaf et al.,2002,Methods Mol Biol.178:379-87に記載されるものが挙げられる。これらの単鎖抗体は、本発明の分子とは区別され、異なるものである。
【0147】
抗体由来の抗原結合性断片はまた、従来の方法に従って、例えば、抗体のタンパク質分解性の加水分解によって、例えば、全抗体のペプシン又はパパイン消化によって得ることもできる。例として、抗体をペプシンによって酵素的開裂させることによって抗体断片を生成させ、F(ab’)2と称される5S断片を提供し得る。この断片を、チオール還元剤を使用して更に切断して、3.5S Fab’1価断片を作製し得る。任意選択的に、切断反応は、ジスルフィド結合の切断によって生じるスルフヒドリル基に対するブロッキング基を使用して実施され得る。別の方法として、パパインを使用した酵素的切断により、2つの1価Fab断片及びFc断片が直接生作製される。これらの方法は、例えば、Goldenberg,米国特許第4,331,647号明細書、Nisonoff et al.,Arch.Biochem.Biophys.89:230,1960;Porter,Biochem.J.73:119,1959;Edelman et al.によりMethods in Enzymology 1:422(Academic Press 1967)において;及びAndrews,S.M.and Titus,J.A.によりCurrent Protocols in Immunology(Coligan J.E.,et al.,eds),John Wiley & Sons,New York(2003),pages 2.8.1-2.8.10及び2.10A.1-2.10A.5において記載されている。1価軽鎖-重鎖断片(Fd)を形成するために重鎖を分離するか、断片を更に切断するか、又は他の酵素的技術、化学的技術若しくは遺伝子技術などの抗体を切断するための他の方法も、インタクト抗体により認識される抗原に断片が結合する限り使用され得る。
【0148】
ある特定の実施形態では、本分子は、抗体の1つ以上の相補性決定領域(CDR)を含む。CDRは、関心対象のCDRをコードするポリヌクレオチドを構築することによって得ることができる。そのようなポリヌクレオチドは、例えば、鋳型として抗体産生細胞のmRNAを使用して可変領域を合成するためのポリメラーゼ連鎖反応を使用することにより調製される(例えば、Larrick et al.,Methods:A Companion to Methods in Enzymology 2:106,1991;Courtenay-Luck,“Genetic Manipulation of Monoclonal Antibodies,”in Monoclonal Antibodies:Production,Engineering and Clinical Application,Ritter et al.(eds.),page 166(Cambridge University Press 1995);及びWard et al.,“Genetic Manipulation and Expression of Antibodies,”in Monoclonal Antibodies:Principles and Applications,Birch et al.,(eds.),page 137(Wiley-Liss,Inc.1995))を参照)。抗体断片は更に、本明細書に記載の抗体の少なくとも1つの可変領域ドメインを含み得る。従って、例えば、V領域ドメインは、単量体及びVH又はVLドメインであり得、これは、本明細書に記載のように少なくとも10-7M以下の親和性で所望の標的(例えばヒトCD3)に独立して結合可能である。
【0149】
可変領域は、何れかの天然の可変ドメインであり得るか、又はその改変バージョンであり得る。改変バージョンとは、組み換えDNA改変技術を使用して生成された可変領域を意味する。そのような改変バージョンとしては、例えば、特異的抗体のアミノ酸配列内におけるか又はそれに対する、挿入、欠失若しくは変更により、特異的抗体の可変領域から生成されるものが挙げられる。当業者であれば、改変に適切なアミノ酸残基を同定するために、何れかの既知の方法を使用し得る。更なる例としては、少なくとも1つのCDR並びに任意選択的に第1の抗体由来の1つ以上のフレームワークのアミノ酸及び第2の抗体由来の可変領域ドメインの残部を含有する、改変可変領域が挙げられる。抗体可変ドメインの改変バージョンは、当業者が精通しているであろう多くの技術によって作製され得る。
【0150】
可変領域は、C末端アミノ酸において少なくとも1つの他の抗体ドメイン又はその断片に共有結合され得る。従って、例えば、可変領域に存在するVHが免疫グロブリンのCH1ドメインに連結され得る。同様に、VLドメインがCKドメインに連結され得る。このように、例えば、抗体は、抗原結合ドメインがVHドメイン及びVLドメインのC末端でそれぞれCH1及びCKドメインに共有結合される、会合したVHドメイン及びVLドメインを含有するFab断片であり得る。CH1ドメインを更なるアミノ酸で伸長させ、例えば、Fab’断片に見られるようなヒンジ領域又はヒンジ領域ドメインの一部を提供し得るか、又は抗体のCH2及びCH3ドメインなどの更なるドメインを提供し得る。
【0151】
結合特異性
抗体又は(HHLL)2分子は、10-7M以下の値の平衡解離定数(KD、又は以下で定義されるような対応するKD)によって求められるような厳格な結合親和性を有する抗原に結合する場合に、抗原に「特異的に結合する」。
【0152】
親和性は、当技術分野で公知の様々な技術、例えば、これらに限定されないが、平衡法(例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA);KinExA,Rathanaswami et al.Analytical Biochemistry,Vol.373:52-60,2008;又はラジオイムノアッセイ(RIA))を使用して、又は表面プラズモン共鳴アッセイ、又は他の動態学に基づくアッセイの機構(例えば、BIACORE(登録商標)分析若しくはOctet(登録商標)分析(forteBIO))並びに間接的な結合アッセイ、競合的結合アッセイ、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、ゲル電気泳動及びクロマトグラフィー(例えばゲルろ過)などの他の方法を用いて測定し得る。これら及び他の方法では、検査される構成成分の1つ以上において標識を利用し得、及び/又は発色性標識、蛍光標識、発光標識若しくは同位体標識を含むが限定されない様々な検出法を使用し得る。結合親和性及び動態の詳細な説明は、抗体と免疫原との相互作用に焦点を当てた、Paul,W.E.,ed.,Fundamental Immunology,4th Ed.,Lippincott-Raven,Philadelphia(1999)で見出され得る。競合的結合アッセイの一例は、非標識抗原の量を増加させた状態で標識された抗原を関心対象の抗体と温置すること及び標識抗原と結合した抗体を検出することを含むラジオイムノアッセイである。特定の抗原に対する関心対象の抗体の親和性及び結合解離率は、スキャッチャードプロット分析によりデータから求められ得る。第2の抗体との競合はまた、ラジオイムノアッセイを用いて求められ得る。この場合、非標識の第2の抗体の量を増加させた状態で、抗原を標識化合物に複合化された関心対象の抗体と温置する。このタイプのアッセイは、本発明の分子との使用に対して容易に適合させ得る。
【0153】
本発明の更なる実施形態は、10-7M未満、又は10-8M未満、又は10-9M未満、又は10-10M未満、又は10-11M未満、又は10-12M未満、又は10-13M未満、又は5x10-13MM未満(値が低いほど、より高い結合親和性を示す)の平衡解離定数、又はKD(koff/kon)で所望の標的に結合する分子を提供する。なお、本発明の更なる実施形態は、約10-7M未満、又は約10-8M未満、又は約10-9M未満、又は約10-10M未満、又は約10-11M未満、又は約10-12M未満、又は約10-13M未満、又は約5x10-13M未満の平衡解離定数又はKD(koff/kon)で(with an with an)所望の標的に結合する分子である。
【0154】
更に別の実施形態では、所望の標的に結合する分子は、約10-7M~約10-8M、約10-8M~約10-9M、約10-9M~約10-10M、約10-10M~約10-11M、約10-11M~約10-12M、約10-12M~約10-13Mの平衡解離定数又はKD(koff/kon)を有する。更に別の実施形態では、本発明の分子は、10-7M~10-8M、10-8M~10-9M、10-9M~10-10M、10-10M~10-11M、10-11M~10-12M、10-12M~10-13Mの平衡解離定数又はKD(koff/kon)を有する。
【0155】
分子安定性
特にバイオ医薬品の治療用分子との関連において、分子安定性の様々な態様が所望され得る。例えば、様々な温度における安定性(「熱安定性」)が所望され得る。いくつかの実施形態では、これは、生理的温度範囲、例えば37℃若しくは約37℃又は32℃~42℃における安定性を包含し得る。他の実施形態では、これは、より高い温度範囲、例えば42℃~60℃における安定性を包含し得る。他の実施形態では、これは、より低い温度範囲、例えば20℃~32℃における安定性を包含し得る。更に他の実施形態では、これは、冷凍状態の間、例えば0℃以下での安定性を包含し得る。
【0156】
タンパク質分子の熱安定性を測定するためのアッセイは、当技術分野で公知である。例えば、熱勾配中に内在性タンパク質蛍光及び静的光散乱(SLS)データを同時に取得することが可能である、完全に自動化されたUNcleプラットフォーム(Unchained Labs)が使用され、更に実施例に記載される。更に、示差走査蛍光定量法(DSF)及び静的光散乱(SLS)など、実施例において本明細書に記載の熱安定性及び凝集アッセイを使用して、熱融解(Tm)及び熱凝集(Tagg)の両方をそれぞれ測定することもできる。
【0157】
或いは、この分子に対して加速寿命試験(accelerated stress studies)を実施し得る。要約すると、これは、特定の温度(例えば40℃)でタンパク質分子を温置し、続いてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって様々な時点で凝集を測定することを含み、この場合、凝集レベルが低いほど、より良好なタンパク質の安定性を示す。
【0158】
或いは、以下のように分子凝集温度の観点から熱安定性パラメータを決定し得る:濃度250μg/mlの分子溶液を単回使用のキュベットに移し、動的光散乱(DLS)装置内に置く。測定される半径を一定に取得しながら、試料を0.5℃/分の加熱速度で40℃から70℃に加熱する。半径の増大は、タンパク質の融解及び凝集を示し、これを用いて分子の凝集温度を算出する。
【0159】
或いは、示差走査熱量測定(DSC)によって融解温度曲線を決定して、結合分子の固有の生物物理学的なタンパク質の安定性を決定し得る。MicroCal LLC(Northampton,MA,U.S.A)VP-DSCデバイスを使用してこれらの実験を行う。結合分子を含有する試料のエネルギー取り込みを20℃から90℃まで記録して、処方緩衝液のみを含有する試料と比較する。結合分子を例えばSECランニング緩衝液中250μg/mlの最終濃度に調整する。それぞれの融解曲線を記録するために、試料全体の温度を段階的に上昇させる。それぞれの温度Tで、試料及び処方緩衝液標準物質のエネルギー取り込みを記録する。試料から標準物質を差し引いたエネルギー取り込みCp(kcal/mole/℃)の差をそれぞれの温度に対してプロットする。融解温度は、エネルギー取り込みが最初に最大となる温度として定義される。
【0160】
更なる実施形態では、本発明による分子は、生理的pH又はおよそ生理的pH、即ち約pH7.4で安定である。他の実施形態では、本分子は、より低いpHで、例えばpH6.0まで、安定である。他の実施形態では、本分子は、より高いpH、例えば最大pH9.0まで、安定である。一実施形態では、本分子は、6.0~9.0のpHで安定である。別の実施形態では、本分子は、6.0~8.0のpHで安定である。別の実施形態では、本分子は、7.0~9.0のpHで安定である。
【0161】
ある特定の実施形態では、本分子が非生理的pH(例えばpH6.0)に対して耐性が高いほど、載せられたタンパク質の総量に対してイオン交換カラムから溶出される分子の回収率が高くなる。一実施形態では、イオン(例えばカチオン)交換カラムからの分子の回収率は≧30%である。別の実施形態では、イオン(例えばカチオン)交換カラムからの分子の回収率は≧40%である。別の実施形態では、イオン(例えばカチオン)交換カラムからの分子の回収率は≧50%である。別の実施形態では、イオン(例えばカチオン)交換カラムからの分子の回収率は≧60%である。別の実施形態では、イオン(例えばカチオン)交換カラムからの分子の回収率は≧70%である。別の実施形態では、イオン(例えばカチオン)交換カラムからの分子の回収率は≧80%である。別の実施形態では、イオン(例えばカチオン)交換カラムからの分子の回収率は≧90%である。別の実施形態では、イオン(例えばカチオン)交換カラムからの分子の回収率は≧95%である。別の実施形態では、イオン(例えばカチオン)交換カラムからの分子の回収率は≧99%である。
【0162】
ある特定の実施形態では、分子の化学的安定性を測定することが望まれ得る。分子の化学的安定性の測定は、実施例において更に本明細書に記載されるような内在性タンパク質蛍光を監視することによる等温化学変性(「ICD」)によって実行され得る。ICDによってC1/2及びΔGが得られ、これらは、タンパク質の安定性に対する優れた測定基準であり得る。C1/2は、タンパク質の50%を変性させるために必要となる化学的変性剤の量であり、これを用いてΔG(即ちアンフォールディングエネルギー)を導出する。
【0163】
タンパク鎖のクリッピングは、生物学的薬物に関して慎重に観察又は報告される別の決定的な製品品質特性である。典型的には、長いリンカー及び/又はそれほど構造化されていないリンカーは、温置時間及び温度の関数としてクリッピングの増大が生じることが予想される。標的ドメイン又はT細胞結合ドメインの何れかを接続するリンカーへのクリッピングは、薬物効力及び有効性に最終的に有害な影響を与えるため、クリッピングは分子にとって重大な問題である。scFcを含む更なる部位へのクリッピングは、薬力学的/動態学的特性に影響し得る。クリッピングの増大は、医薬品において回避されるべき特性である。従って、ある特定の実施形態では、実施例において本明細書で記載されるように、タンパク質のクリッピングをアッセイし得る。
【0164】
免疫エフェクター細胞及びエフェクター細胞タンパク質
分子は、免疫エフェクター細胞の表面上で発現される分子(本明細書では「エフェクター細胞タンパク質」と称する)に及び標的細胞の表面上で発現される別の分子(本明細書では「標的細胞タンパク質」と称する)に結合し得る。免疫エフェクター細胞は、T細胞、NK細胞、マクロファージ又は好中球であり得る。いくつかの実施形態では、エフェクター細胞タンパク質は、T細胞受容体(TCR)-CD3複合体に含まれるタンパク質である。TCR-CD3複合体は、TCRα及びTCRβ又はTCRγ及びTCRδ、加えてCD3ゼータ(CD3ζ)鎖、CD3イプシロン(CD3ε)鎖、CD3ガンマ(CD3γ)鎖及びCD3デルタ(CD3δ)鎖の中からの様々なCD3鎖を含むヘテロ二量体を含むヘテロ多量体である。
【0165】
CD3受容体複合体は、タンパク質複合体であり、4本の鎖から構成される。哺乳動物において、この複合体は、CD3γ(ガンマ)鎖、CD3δ(デルタ)鎖及び2本のCD3ε(イプシロン)鎖を含有する。これらの鎖は、T細胞受容体(TCR)及び所謂ζ(ゼータ)鎖と会合してT細胞受容体CD3複合体を形成し、Tリンパ球において活性化シグナルを生じさせる。CD3γ(ガンマ)、CD3δ(デルタ)及びCD3ε(イプシロン)鎖は、単一の細胞外免疫グロブリンドメインを含有する、非常に近縁の免疫グロブリンスーパーファミリーの細胞表面タンパク質である。CD3分子の細胞内尾部は、TCRのシグナル伝達能に必須である免疫受容活性化チロシンモチーフ又は略称ITAMとして知られる単一の保存的モチーフを含有する。CD3イプシロン分子は、ヒトにおいて第11染色体上に存在するCD3E遺伝子によってコードされるポリペプチドである。最も好ましいCD3イプシロンのエピトープは、ヒトCD3イプシロン細胞外ドメインのアミノ酸残基1~27の範囲に含まれる。本発明による分子は、典型的且つ有利には、特異的免疫療法において望ましくない非特異的T細胞活性化を僅かしか示さないと想定される。これは、換言すれば、副作用のリスクを低減することになる。
【0166】
いくつかの実施形態では、エフェクター細胞タンパク質は、多量体タンパク質の一部であり得るヒトCD3イプシロン(CD3ε)鎖(その成熟アミノ酸配列が配列番号40で開示される)であり得る。或いは、エフェクター細胞タンパク質は、ヒト及び/又はカニクイザルのTCRα、TCRβ、TCRδ、TCRγ、CD3ベータ(CD3β)鎖、CD3ガンマ(CD3γ)鎖、CD3デルタ(CD3δ)鎖又はCD3ゼータ(CD3ζ)鎖であり得る。
【0167】
更に、いくつかの実施形態では、分子は、マウス、ラット、ウサギ、新世界ザル及び/又は旧世界ザル種などの非ヒト種由来のCD3ε鎖にも結合し得る。そのような種としては、以下の哺乳類種が挙げられるが限定されない:マス・マスクルス(Mus musculus);ラッツス・ラッツス(Rattus rattus);ラッツス・ノルベギクス(Rattus norvegicus);カニクイザル、マカカ・ファスシキュラリス(Macaca fascicularis);マントヒヒ、パピオ・ハマドリアス(Papio hamadryas);ギニアヒヒ、パピオ・パピオ(Papio papio);アヌビスヒヒ、パピオ・アヌビス(Papio anubis);キイロヒヒ、パピオ・シノセファルス(Papio cynocephalus);チャクマヒヒ、パピオ・ウルシヌス(Papio ursinus);カリスリクス・ジャックス(Callithrix jacchus);サグイヌス・オエディプス(Saguinus Oedipus);及びサイミリ・スシウレウス(Saimiri sciureus)。カニクイザルのCD3ε鎖の成熟アミノ酸配列は、配列番号34で提供される。ヒト並びにマウス及びサルなどの前臨床試験に一般に使用される種において同等の活性を有する治療用分子は、薬物開発を簡素化し、促進し、最終的に改善された成果をもたらし得る。薬物を市場に出すための長期で費用のかかるプロセスでは、このような利点が重要となり得る。
【0168】
ある特定の実施形態では、(HHLL)2分子は、ヒトCD3ε鎖又は、異なる種、特に上で挙げる哺乳動物種のうち1つ由来のCD3ε鎖であり得るCD3ε鎖の最初の27アミノ酸(配列番号36)内のエピトープに結合し得る。エピトープは、アミノ酸配列Gln-Asp-Gly-Asn-Gluを含有し得る。このようなエピトープに結合する分子の利点は、その関連部分が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2010/0183615A1号明細書で詳細に説明されている。抗体又は分子が結合するエピトープは、例えば、その関連部分が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2010/0183615A1号明細書に記載されているアラニンスキャニングによって決定され得る。他の実施形態では、本分子は、CD3εの細胞外ドメイン(配列番号35)内のエピトープに結合し得る。
【0169】
T細胞が免疫エフェクター細胞である実施形態では、分子が結合し得るエフェクター細胞タンパク質としては、CD3ε鎖、CD3γ、CD3δ鎖、CD3ζ鎖、TCRα、TCRβ、TCRγ及びTCRδが挙げられるが限定されない。NK細胞又は細胞障害性T細胞が免疫エフェクター細胞である実施形態では、例えば、NKG2D、CD352、NKp46又はCD16aがエフェクター細胞タンパク質であり得る。CD8+T細胞が免疫エフェクター細胞である実施形態では、例えば、4-1BB又はNKG2Dがエフェクター細胞タンパク質であり得る。或いは、他の実施形態では、分子は、T細胞、NK細胞、マクロファージ又は好中球上で発現される他のエフェクター細胞タンパク質に結合し得る。
【0170】
標的細胞及び標的細胞上で発現される標的細胞タンパク質
上記で説明したように、分子は、エフェクター細胞タンパク質及び標的細胞タンパク質に結合し得る。標的細胞タンパク質は、例えば、癌細胞、病原体に感染した細胞又は疾患、例えば炎症状態、自己免疫状態及び/又は線維性状態に介在する細胞の表面で発現され得る。いくつかの実施形態では、標的細胞タンパク質は、標的細胞上で高度に発現され得るが、高レベルの発現が必ずしも必要とされるわけではない。
【0171】
標的細胞が癌細胞である場合、本明細書で記載されるような分子は、上記で説明されるように癌細胞抗原に結合し得る。癌細胞抗原又は腫瘍関連抗原(「TAA」)は、ヒトタンパク質又は別の種由来のタンパク質であり得る。例えば、分子は、数ある中でも特に、マウス、ラット、ウサギ、新世界ザル及び/又は旧世界ザル種由来の標的細胞タンパク質に結合し得る。そのような種としては、以下の種が挙げられるが限定されない:マス・マスクルス(Mus musculus);ラッツス・ラッツス(Rattus rattus);ラッツス・ノルベギクス(Rattus norvegicus);カニクイザル、マカカ・ファスシキュラリス(Macaca fascicularis);マントヒヒ、パピオ・ハマドリアス(Papio hamadryas);ギニアヒヒ、パピオ・パピオ(Papio papio);アヌビスヒヒ、パピオ・アヌビス(Papio anubis);キイロヒヒ、パピオ・シノセファルス(Papio cynocephalus);チャクマヒヒ、パピオ・ウルシヌス(Papio ursinus);カリスリクス・ジャックス(Callithrix jacchus)、サグイヌス・オエディプス(Saguinus Oedipus)及びサイミリ・スシウレウス(Saimiri sciureus)。本発明との関連での好ましい標的細胞表面抗原は、MSLN、CDH3、FLT3、CLL1、EpCAM、CD20及びCD22である。典型的には、本発明との関連での標的細胞表面抗原は、腫瘍関連抗原(TAA)である。Bリンパ球抗原CD20又はCD20は、前B期(CD45R+、CD117+)で始まり、成熟まで濃度が徐々に増加する全てのB細胞の表面上で発現される。CD22又は表面抗原分類22は、レクチンのSIGLECファミリーに属する分子である。この分子は、成熟B細胞の表面上で見出され、一部の未熟B細胞上では比較的低い程度で見られる。Fms様チロシンキナーゼ3(FLT3)は、表面抗原分類135(CD135)、受容体型チロシン-プロテインキナーゼFLT3又は胎児肝キナーゼ-2(Flk2)としても知られる。FLT3は、受容体チロシンキナーゼクラスIIIに属するサイトカイン受容体である。CD135は、サイトカインFlt3リガンド(FLT3L)に対する受容体である。FLT3遺伝子は、急性骨髄性白血病(AML)において頻繁に突然変異している。C型レクチン様受容体(CLL1)は、CLEC12A又はMICLとしても知られる。これには、シグナル伝達ホスファターゼSHP-1及びSHP-2と関連し得る細胞質尾部中のITIMモチーフが含有される。ヒトMICLは、顆粒球、単球、マクロファージ及び樹状細胞を含む、主に骨髄系細胞上で単量体として発現され、AMLと関連している。メソセリン(MSLN)は、中皮細胞において発現され、いくつかのヒト腫瘍で過剰発現される40kDaのタンパク質である。P-カドヘリンとしても知られるカドヘリン-3(CDH3)は、5つの細胞外カドヘリン反復配列、膜貫通領域及び高度に保存された細胞質尾部から構成されるカルシウム依存性の細胞-細胞接着糖タンパク質である。これは、一部のタイプの腫瘍と関連する。上皮細胞接着分子(EpCAM)は、上皮におけるCa2+非依存性の同型細胞-細胞接着に介在する膜貫通糖タンパク質である。EpCAMは発癌性であり、癌腫の腫瘍形成及び転移に寄与すると思われる。
【0172】
いくつかの例では、標的細胞タンパク質は、感染細胞上で選択的に発現されるタンパク質であり得る。例えば、HBV又はHCV感染の場合、標的細胞タンパク質は、感染細胞の表面で発現されるHBV又はHCVのエンベロープタンパク質であり得る。他の実施形態では、標的細胞タンパク質は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染細胞上のHIVによってコードされるgp120であり得る。
【0173】
他の態様では、標的細胞は、自己免疫疾患又は炎症性疾患に介在する細胞であり得る。例えば、喘息におけるヒト好酸球が標的細胞であり得、その場合、例えば、EGF様モジュール含有ムチン様ホルモン受容体(EMR1)が標的細胞タンパク質であり得る。或いは、全身性エリテマトーデス患者における過剰なヒトB細胞が標的細胞であり得、その場合、例えば、CD19又はCD20が標的細胞タンパク質であり得る。他の自己免疫状態では、過剰なヒトTh2 T細胞が標的細胞であり得、その場合、例えば、CCR4が標的細胞タンパク質であり得る。同様に、標的細胞は、アテローム性動脈硬化症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、硬変症、強皮症、腎移植線維症、腎臓同種移植腎症若しくは特発性肺線維症及び/又は特発性肺高血圧症を含む肺線維症などの疾患に介在する線維性細胞であり得る。そのような線維性状態の場合、例えば、線維芽細胞活性化タンパク質アルファ(FAPアルファ)が標的細胞タンパク質であり得る。
【0174】
治療方法及び組成物
分子を使用して、例えば様々な形態の癌、感染症、自己免疫状態若しくは炎症状態及び/又は線維性状態を含む多様な状態を処置し得る。
【0175】
従って、一実施形態では、疾患の予防、処置又は寛解における使用のための分子が、本明細書で提供される。
【0176】
別の実施形態は、疾患の予防、処置又は寛解ための医薬の製造における、本発明の結合分子(又は本発明の工程に従って作製される結合分子)の使用を提供する。
【0177】
分子を含む医薬組成物が本明細書中で提供される。これらの医薬組成物は、治療上有効な量の分子と、生理学的に許容可能な担体、賦形剤又は希釈剤などの1つ以上の更なる成分と、を含む。いくつかの実施形態では、これらの追加の成分としては、多くの可能性の中でも特に、緩衝液、炭水化物、ポリオール、アミノ酸、キレート剤、安定化剤及び/又は防腐剤が挙げられ得る。
【0178】
いくつかの実施形態では、ときに癌細胞が新しい領域に侵襲すること、即ち転移することを可能にし得る、隣接組織の破壊及び新生血管の成長を付随する、調節されない及び/又は不適切な細胞の増殖に関与する、癌を含む細胞増殖性疾患を処置するために、分子が使用され得る。分子によって処置可能な状態としては、結腸直腸ポリープ、脳虚血、肉眼的嚢胞性疾患(gross cystic disease)、多発性嚢胞腎疾患、良性前立腺肥大症及び子宮内膜症を含む不適切な細胞増殖を含む非悪性状態が挙げられる。癌を標的とする好ましい方法は、癌細胞表面抗原、即ち腫瘍関連抗原(TAA)へと分子を標的化することである。これは、タンパク質、好ましくはタンパク質の細胞外部分、又は炭水化物構造、好ましくは糖タンパク質などのタンパク質の炭水化物構造であり得る。
【0179】
本発明の分子を使用して、血液悪性腫瘍又は固形腫瘍悪性病変を処置し得る。より具体的には、分子を使用して処置し得る細胞増殖性疾患は、例えば、中皮腫、扁平上皮癌、骨髄腫、骨肉腫、神経膠芽腫、膠腫、癌腫、腺癌、黒色腫、肉腫、急性及び慢性白血病、リンパ腫及び髄膜腫、ホジキン病、セザリー症候群、多発性骨髄腫及び肺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、喉頭癌、乳癌、頭頸部癌、膀胱癌、卵巣癌、皮膚癌、前立腺癌、子宮頸癌、膣癌、胃癌、腎細胞癌、腎臓癌、膵臓癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌及び食道癌、肝胆道癌、骨癌、皮膚癌及び血液癌並びに鼻腔及び副鼻腔、鼻咽腔、口腔、中咽頭、喉頭、下喉頭、唾液腺、縦隔、胃、小腸、結腸、直腸及び肛門部、尿管、尿道、陰茎、精巣、外陰、内分泌系、中枢神経系及び形質細胞の癌を含む癌である。
【0180】
癌療法のための手引き書を提供するテキストは、Cancer,Principles and Practice of Oncology,4th Edition,DeVita et al.,Eds.J.B.Lippincott Co.,Philadelphia,PA(1993)である。癌の特定の種類及び患者の全身状態などの他の要因に従い、関連する分野で認識されているように、適切な治療アプローチが選択される。癌患者を処置する際、他の抗悪性腫瘍剤を使用する治療レジメンに分子を追加し得る。
【0181】
いくつかの実施形態では、例えば、化学療法剤、非化学療法の抗悪性腫瘍剤及び/又は放射線などの癌の処置で広く使用される様々な薬物及び処置と同時に、その前に又はその後に分子を投与し得る。例えば、本明細書に記載の何らかの処置前、その間及び/又はその後に化学療法及び/又は放射線治療を行い得る。化学療法剤の例は上に記載されており、シスプラチン、タキソール、エトポシド、ミトキサントロン(Novantrone(登録商標))、アクチノマイシンD、シクロヘキシミド、カンプトテシン(又はこれらの水溶性誘導体)、メトトレキサート、マイトマイシン(例えばマイトマイシンC)、ダカルバジン(DTIC)、抗悪性腫瘍性抗生物質、例えばアドリアマイシン(ドキソルビシン)及びダウノマイシン、並びに前述の全ての化学療法剤が挙げられるが限定されない。
【0182】
感染症疾患、数ある中でも特に、例えば慢性B型肝炎ウイルス(HBV)感染症、C型肝炎ウイルス(HCV)感染症、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症、エプスタイン・バーウイルス(EBV)感染症又はサイトメガロウイルス(CMV)感染症を処置するためにも、分子を使用し得る。
【0183】
分子は、ある特定の細胞型を枯渇させるために有用である場合、他の種類の状態における更なる使用を見出し得る。例えば、喘息におけるヒト好酸球、全身性エリテマトーデスにおける過剰なヒトB細胞、自己免疫状態における過剰なヒトTh2 T細胞又は感染症疾患における病原体感染細胞を枯渇させることが有用であり得る。線維性状態では、線維性組織を形成する細胞を枯渇させるために有用であり得る。
【0184】
治療上有効な用量の分子を投与し得る。治療上の用量を構成する分子の量は、処置される徴候、患者の体重、算出した患者の皮膚表面積によって変動し得る。所望の効果を達成するために、分子の投与を調整し得る。多くの場合、反復投与が必要とされ得る。
【0185】
分子又はそのような分子を含有する薬学的組成物は、実現可能な何れかの方法によって投与され得る。ある特別な処方又はそのような特別な状況でない場合、経口投与では胃の酸性環境においてタンパク質の加水分解が生じるため、タンパク質治療薬は通常、非経口経路、例えば注射によって投与される。可能な投与経路は、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、動脈内注射、病巣内注射又は腹膜ボーラス注射である。分子はまた、注入、例えば静脈内注入又は皮下注入を介して投与され得る。特に皮膚に関与する疾患に対して、局所投与も可能である。或いは、粘膜との接触を通じて、例えば鼻腔内投与、舌下投与、膣内投与若しくは直腸投与又は吸入薬としての投与により、分子を投与し得る。或いは、分子を含むある特定の適切な薬学的組成物を経口投与し得る。
【0186】
「処置」という用語は、少なくとも1つの症状又は他の障害の実施形態の緩和又は疾患重症度の低減などを包含する。本発明による分子は、実行可能な治療剤を構成するために、完全治癒又はあらゆる疾患の症状又は発現の根絶をもたらす必要はない。関連分野で認識されているように、治療剤として使用される薬物は、所与の病状の重症度を低下させ得るが、有用な治療薬とみなされるために、疾患のあらゆる症状を消失させる必要はない。単に、疾患の影響を軽減すること(例えば、その症状の数又は重症度を軽減することにより、又は別の処置の有効性を増大させることにより、又は別の有益な効果を生じさせることにより)又は疾患が対象において発症するか若しくは悪化する可能性を低下させることで十分である。本発明の一実施形態は、特定の障害の重症度を反映する指標のベースラインを超える持続的改善を誘導するために十分な量及び時間で、患者に本発明の分子を投与することを含む方法に関する。
【0187】
「予防」という用語には、少なくとも1つの症状又は他の障害の実施形態などの予防が包含される。本発明による分子を組み込む予防的に施される処置は、実行可能な予防剤を構成するために、状態の発症の予防において完全に有効である必要はない。単に、疾患が対象において発症するか又は悪化する可能性を低下させることで十分である。
【0188】
関連分野において理解されるように、本分子を含む薬学的組成物は、適応症及び組成物に適切な方法で対象に投与される。医薬組成物は、非経口、局所的に、又は吸入によるものを含むが限定されない何れかの好適な技術によって投与され得る。注射される場合、本医薬組成物は、例えば、関節内、静脈内、筋肉内、病巣内、腹腔内若しくは皮下経路を介して、ボーラス注射により、又は持続注入により投与され得る。吸入による送達には、例えば、経鼻又は経口吸入、ネブライザーの使用、エアロゾル形態での本結合分子の吸入などが挙げられる。他の代替手段としては、丸薬、シロップ剤又はトローチを含む経口製剤が挙げられる。
【0189】
生理学的に許容可能な担体、賦形剤又は希釈剤などの1つ以上の更なる成分を含む組成物の形態で本分子を投与し得る。任意選択的に、本組成物は更に、1つ以上の生理学的活性剤を含む。様々な特定の実施形態では、本組成物は、1つ以上の分子に加えて、1、2、3、4、5又は6種の生理学的活性剤を含む。
【0190】
本明細書で論じられる状態の何れかの処置における使用のための、1つ以上の分子及びラベル又は他の説明書を含む、医師による使用のためのキットが提供される。一実施形態では、本キットは、本明細書に開示されるような組成物の形態であり得、1つ以上のバイアル中にあり得る1つ以上の分子の無菌製剤を含む。
【0191】
投与量及び投与頻度は、投与経路、使用される特定の分子、処置しようとする疾患の性質及び重症度、状態が急性であるか又は慢性であるか、及び対象の体格及び全身状態などの要因によって異なり得る。
【0192】
上記では、一般的な用語で本発明を説明してきたため、限定するものではなく、実例として以下の実施例を提供する。
【実施例】
【0193】
実施例1:
(HHLL)
2結合分子の作製及び発現
図1は、(HLHL)
2及び(HHLL)
2形式の両方に対する代表的な構造を有する。これらの分子の両方のバージョンを作製した。
【0194】
作製された(HHLL)2バージョン(T6M)は、N-からC-末端への次のドメインを含む:抗MSLN VH-(GGGS)4リンカー-抗CD3 VH-(GGGS)4リンカー-抗MSLN VL-(GGGS)4リンカー-抗CD3 VL-(GGGS)3リンカー-scFc-(GGGS)3リンカー-抗CDH3 VH-(GGGS)4リンカー-抗CD3 VH-(GGGS)4リンカー-抗CDH3 VL-(GGGS)4リンカー-抗CD3 VL。
【0195】
作製された(HLHL)2バージョン(G7Q)は、N-からC-末端へ次のドメインを含む:抗MSLN VH-(GGGS)3リンカー-抗MSLN VL-(SGGGS)1リンカー-抗CD3 VH-(GGGS)3リンカー-抗CD3 VL-(GGGS)3リンカー-scFc-(GGGS)3リンカー-抗CDH3 VH-(GGGS)3リンカー-抗CDH3 VL-(SGGGS)1リンカー-抗CD3 VH-(GGGS)3リンカー-抗CD3 VL。
【0196】
図1で示されるような2つの異なる形式のオープンリーディングフレームを遺伝子合成として注文し、細胞培養液上清に分泌発現させるために、これをIgG由来のシグナルペプチドを含有する哺乳類発現ベクターにサブクローニングした。配列を確認したプラスミドクローンについてCHO細胞へと安定的に遺伝子移入を行い、6日後に細胞培養上清を回収し、タンパク質精製まで-80℃で保管した。T6M及びG7Qの両方に対する産生実行の概要をそれぞれ表3及び4で提供し、両分子に対する同等なタンパク質収率を明らかにする。
【0197】
【0198】
【0199】
実施例2
クロマトグラフィー分析
ろ過した細胞培養上清のプロテインA(GE Healthcare,mAb SelectSuRE)アフィニティークロマトグラフィーとそれに続くpH7の緩衝溶液中でのサイズ排除クロマトグラフィーによってタンパク質精製を行った(エラー!参考文献ソースは見つからず。e3(Error! Reference source not found.e3))。OD280nmシグナルによりピークをプールし、MWをSDS-PAGEによって分析した。タンパク質単量体ピーク(それぞれG7Qは159.9mlでピーク又はT6Mは166.08mlでピーク)を緩衝溶液中で処方し、-80℃での保管のために分注した。
【0200】
SDS-PAGE分析
精製した単量体試料をSDS PAGE分析に適用し、純度及び正確な分子量(MW)を調べた(
図4)。60μlの試料を20μl(4X)のLDS試料緩衝液及び10μlの1M DTTと混合し、70℃で10分間温置した。Bolt 4-12%Bis-Tris Plus 12Well gel(NW04122BOX、Invitrogen)を使用して、15μlの試料を各レーンに載せた。マーカーについては、7.5μl(Sharp Pre-Stained Protein Standard(LC5800,Invitrogen))を個別のレーン上に載せた。ランニング緩衝液は、1x MES(20xMES SDS Running Buffer,Invitrogen,NP0002-02)であり、ゲルに対して200V-120mA max-60分間泳動した。最終的な結果から、予想される分子量でのT6Mの移動が明らかになった。
【0201】
実施例3
非刺激ヒトPBMCを用いた細胞傷害アッセイ(TDCC)
エフェクター細胞の単離
輸血用血液を収集する血液バンクの副産物である濃縮リンパ球製剤(バフィーコート)からフィコール密度勾配遠心分離により、ヒト末梢血単核球(PBMC)を調製した。バフィーコートは現地の血液バンクにより供給され、血液収集の翌日にPBMCを調製した。フィコール密度遠心分離及びダルベッコPBS(Gibco)での徹底洗浄後、残存赤血球をPBMCから赤血球溶解緩衝液(155mM NH4Cl、10mM KHCO3、100μM EDTA)との温置を介して除去した。残存リンパ球は、主にBリンパ球及びTリンパ球、NK細胞並びに単球を包含する。10%FCS(Gibco)含有のRPMI培地(Gibco)中37℃/5%CO2での培養下でPBMCを維持した。
【0202】
CD14+及びCD56+細胞の枯渇
CD14+細胞の枯渇の場合、ヒトCD14マイクロビーズ(Milteny Biotec,MACS,#130-050-201)をNK細胞ヒトCD56マイクロビーズ(MACS,#130-050-401)の枯渇に使用した。PBMC数を数え、室温にて300xgで10分間遠心分離した。上清を廃棄し、MACS単離緩衝液(60μL/107個の細胞)中で細胞ペレットを再懸濁した。CD14マイクロビーズ及びCD56マイクロビーズ(20μL/107個の細胞)を添加し、4~8℃で15分間温置した。AutoMACSリンス緩衝液(Milteny #130-091-222)(1~2ml/107個の細胞)で細胞を洗浄した。遠心分離(上記参照)後、上清を廃棄し、MACS単離緩衝液(500μL/108細胞)中で細胞を再懸濁した。次に、LSカラム(Milteny Biotec,#130-042-401)を使用して、CD14/CD56陰性細胞を単離した。PBMC w/o CD14+/CD56+細胞を1.2x106個の細胞/mLに調整し、インキュベーター中、RPMI完全培地、即ち10%FBS(Bio West、#S1810)、1x非必須アミノ酸(Biochrom AG、#K0293)、10mM Hepes緩衝液(Biochrom AG、#L1613)、1mMピルビン酸ナトリウム(Biochrom AG、#L0473)及び100U/mLのペニシリン/ストレプトマイシン(Biochrom AG、#A2213)が添加されたRPMI1640(Biochrom AG、#FG1215)中で37℃にて必要になるまで培養した。
【0203】
標的細胞の調製
細胞を回収し、遠心分離により沈殿させ、完全RPMI培地中で1.2x105個の細胞/mLに調整した。Nucleocounter NC-250(Chemometec)及びアクリジンオレンジ及びDAPIを含有するSolution18 Dye(Chemometec)を使用して、細胞の活性を測定した。
【0204】
ルシフェラーゼに基づく分析
このアッセイは、標的細胞の溶解を多特異性抗体コンストラクトの連続希釈物の存在下で定量するように設計した。等体積のルシフェラーゼ陽性標的細胞及びエフェクター細胞(即ち、CD14+細胞なしのPBMC;CD56+細胞)を混合し、10:1のE:T細胞比とした。42μLのこの懸濁液を384ウェルプレートの各ウェルに移した。8μLの対応する分子の連続希釈液及び陰性対照分子(無関係の標的抗原も認識するCD3に基づく分子)又は更なる陰性対照としてのRPMI完全培地を添加した。5%CO2の加湿インキュベーター中で、分子介在性の細胞傷害反応を48時間進行させた。次に、25μLの基質(Steady-Glo(登録商標)試薬、Promega)を384ウェルプレートに移した。生きているルシフェラーゼ陽性細胞のみを基質に反応させ、このように発光シグナルを生成させる。試料をSPARKマイクロプレートリーダー(TECAN)で測定し、Spark Control Magellanソフトウェア(TECAN)により分析した。
【0205】
細胞傷害性のパーセンテージを次のように計算した:
【数1】
RLU=相対発光単位
陰性対照=多特異性抗体コンストラクトがない細胞
【0206】
GraphPad Prism 7.04ソフトウェア(Graph Pad Software,San Diego)を使用して、細胞傷害性のパーセンテージを対応する多特異性抗体コンストラクト濃度に対してプロットした。固定ヒルスロープを有するシグモイド用量反応曲線の評価のための4つのパラメトリックロジスティック回帰モデルを用いて用量反応曲線を解析し、EC50値を算出した。この実験の結果を
図5及び6で示し、これらは試験した分子のインビトロでの機能性を明らかにするが、(HHLL)
2分子は、48時間(
図5)及び72時間(
図6)の両方で優れた活性を示す。
【0207】
ルシフェラーゼに基づく細胞傷害性アッセイに対して以下の標的細胞株を使用した:
・GSU-LUC wt(CDH3+及びMSLN+)
・GSU-LUC KO CDH3(CDH3-及びMSLN+)
・GSU-LUC KO MSLN(CDH3+及びMSLN-)
【0208】
本明細書中で引用されるあらゆる文献は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0209】
本発明は、個々の本発明の実施形態の単一の説明並びに機能的に均等な本発明の方法及び構成要素として意図される、本明細書に記載される特定の実施形態によって範囲が限定されるものではない。実際に、本明細書に示され記載されるものに加えて、本発明の様々な変更形態は、上述の説明及び添付図面から当業者に明らかになるであろう。そのような変更形態は、特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【0210】
配列
代表的なリンカー配列
GGGGS(配列番号1)
GGGGSGGGGS(配列番号2)
GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号3)
GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号4)
GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号5)
GGGGQ(配列番号6)
GGGGQGGGGQ(配列番号7)
GGGGQGGGGQGGGGQ(配列番号8)
GGGGQGGGGQGGGGQGGGGQ(配列番号9)
GGGGQGGGGQGGGGQGGGGQGGGGQ(配列番号10)
GGGGSAAA(配列番号11)
TVAAP(配列番号12)
ASTKGP(配列番号13)
AAA(配列番号14)
GGNGT(配列番号15)
YGNGT(配列番号16)
SGGGGS(配列番号17)
SGGGGQ(配列番号18)
GGGG(配列番号19)
(GGGG)2(配列番号20)
(GGGG)3(配列番号21)
(GGGG)4(配列番号22)
(GGGG)5(配列番号23)
(GGGG)1-10(配列番号24)
(GGGG)2-10(配列番号25)
(GGGG)3-10(配列番号26)
(GGGGS)1-10(配列番号27)
(GGGGS)2-10(配列番号28)
(GGGGS)3-10(配列番号29)
(GGGGQ)1-10(配列番号30)
(GGGGQ)2-10(配列番号31)
(GGGGQ)3-10(配列番号32)
【0211】
成熟ヒトCD3εのアミノ酸配列(配列番号33)
【化1】
【0212】
カニクイザルの成熟CD3εのアミノ酸配列(配列番号34)
【化2】
【0213】
ヒトCD3εの細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号35)
QDGNEEMGGITQTPYKVSISGTTVILTCPQYPGSEILWQHNDKNIGGDEDDKNIGSDEDHLSLKEFSELEQSGYYVCYPRGSKPEDANFYLYLRARVCENCMEMDVMS
【0214】
ヒトCD3εのアミノ酸1~27(配列番号36)
QDGNEEMGGITQTPYKVSISGTTVILT
【0215】
【0216】
【0217】
抗メソテリン15-B12 CC VH(配列番号39)
【化5】
【0218】
抗メソテリン15-B12 CC VL(配列番号40)
DIVMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQGISNYLAWYQQKPGKVPKLLIYAASTLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQSYSTPFTFGCGTKVEIK
【0219】
抗CD3 6H10.09 VH(配列番号41)
【化6】
【0220】
抗CD3 6H10.09 VL(配列番号42)
QTVVTQEPSLTVSPGGTVTITCGSSTGAVTSGNYPNWIQKKPGQAPRGLIGGTKFLAPGTPARFSGSLEGGKAALTLSGVQPEDEAEYYCVLYYSNRWVFGSGTKLTVL
【0221】
抗CDH3 15-E11 CC VH(配列番号43)
【化7】
【0222】
抗CDH3 15-E11 CC VL(配列番号44)
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDISNYLNWYQQKPGKVPKLLIYYTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDVATYYCVQYAQFPLTFGCGTKVEIK
【0223】
【0224】
【0225】
【0226】
【0227】
【0228】
【0229】
【0230】
【0231】
【0232】
【0233】
heteroFc(A)(配列番号55)
【化18】
【0234】
heteroFc(B)(配列番号56)
【化19】
【0235】
ヒト血清アルブミン(HSA)(配列番号57)
【化20】
【0236】
【0237】
【配列表】
【国際調査報告】