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特表2023-553406トランスアルコール化によって金属アルコキシドを調製する方法
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  • 特表-トランスアルコール化によって金属アルコキシドを調製する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】トランスアルコール化によって金属アルコキシドを調製する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/70 20060101AFI20231214BHJP
   C07C 31/30 20060101ALI20231214BHJP
   C07F 1/00 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C07C29/70
C07C31/30
C07F1/00 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534037
(86)(22)【出願日】2021-12-01
(85)【翻訳文提出日】2023-08-02
(86)【国際出願番号】 EP2021083700
(87)【国際公開番号】W WO2022117612
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】20211888.1
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521037411
【氏名又は名称】ベーアーエスエフ・エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163522
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 晋平
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフ-シュテッフェン・ヴァイスカー
(72)【発明者】
【氏名】エドワード・リッチモンド
【テーマコード(参考)】
4H006
4H048
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB40
4H006AB81
4H006AC41
4H006AD11
4H006BC35
4H006BD21
4H006BD32
4H006BD52
4H006BD81
4H006BD82
4H048AA02
4H048AC90
4H048BD40
4H048BD52
4H048VA20
4H048VA50
4H048VB10
(57)【要約】
トランスアルコール化によって金属アルコキシドを調製する方法であって、低級金属アルコキシドおよび高級アルコールを反応蒸留塔に供給するステップと、塔底から、または塔底から取り出された再循環流から、高級アルコール中の高級金属アルコキシドの溶液を除去するステップと、塔頂から気体低級アルコールを除去し、気体低級アルコールを少なくとも部分的に凝縮し、凝縮液の一部を塔頂に再循環させるステップと、を含み、補助アルコールが、反応蒸留塔に提供され、補助アルコールの沸点が、反応蒸留塔内で優勢な圧力での低級アルコールの沸点と高級アルコールの沸点との間である、方法。この方法は、エネルギー必要量を低くすると同時に、蒸留塔内の固体堆積物の形成を制限しながら、低級金属アルコキシドの高級金属アルコキシドへの高い転化を可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスアルコール化によって金属アルコキシドを調製する方法であって、
-低級金属アルコキシドおよび高級アルコールを反応蒸留塔に供給するステップと、
-塔底から、または前記塔底から取り出された再循環流から、前記高級アルコール中の高級金属アルコキシドの溶液を除去するステップと、
-塔頂から気体低級アルコールを除去し、前記気体低級アルコールを少なくとも部分的に凝縮し、凝縮液の一部を前記塔頂に再循環させるステップと、を含み、
補助アルコールが、前記反応蒸留塔に提供され、前記補助アルコールの沸点が、前記反応蒸留塔内で優勢な圧力での前記低級アルコールの沸点と前記高級アルコールの沸点との間である、方法。
【請求項2】
前記低級アルコキシドが、サイドフィードを介して前記反応蒸留塔に供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記高級アルコールが、好ましくは液体形態で、前記塔底、および/または前記塔底から取り出された前記再循環流に供給される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記高級金属アルコキシドの前記溶液が、前記高級金属アルコキシドの前記溶液の総重量に対して、最大で1重量%の前記低級アルコールを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記高級金属アルコキシド溶液が、前記高級金属アルコキシド溶液の総重量に対して、3~90重量%の前記高級金属アルコキシドを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記蒸留塔が、強制循環リボイラーを備え、前記高級アルコールが、前記強制循環リボイラーに供給される流れに液体形態で供給される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記気体低級アルコールの前記凝縮液が、前記凝縮液の総重量に対して、最大で1重量%の前記高級アルコールを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記低級金属アルコキシドが、前記低級アルコール中の溶液として前記蒸留塔に供給され、前記溶液が、前記低級金属アルコキシドの前記溶液の総重量に対して、20~40重量%の前記低級金属アルコキシドを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記低級金属アルコキシドが、アルカリ金属アルコキシドである、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記低級金属アルコキシドが、ナトリウムアルコキシドまたはカリウムアルコキシド、好ましくはナトリウムメトキシドまたはカリウムメトキシド、最も好ましくはナトリウムメトキシドである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記高級アルコールが、3-メチル-3-メトキシブタノール、2-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、3-エチル-3-ペンタノール、2-メチル-2-ヘキサノール、3-メチル-3-ヘキサノール、3,7-ジメチル-3-オクタノール、特に3,7-ジメチル-3-オクタノールから選択される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記補助アルコールの前記沸点が、前記反応蒸留塔内で優勢な前記圧力での前記低級アルコールの前記沸点より少なくとも10℃高い、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記補助アルコールの前記沸点が、前記反応蒸留塔で優勢な前記圧力での前記高級アルコールの前記沸点より少なくとも10℃低い、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記補助アルコールが、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、tert-ブタノール、特に2-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、および3-メチル-2-ブタノールから選択される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記高級金属アルコキシドが、20℃の温度および1バールの絶対圧力で液体である、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補助アルコールの存在下で低級金属アルコキシドを高級アルコールと反応させることによって金属アルコキシドを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属アルコキシドは、多数の化合物の合成、例えば農業または医薬用途のための活性成分の製造における強塩基として有用である。金属アルコキシドは、塩基触媒反応、例えば、エステル交換反応またはアミド化反応のための触媒として、またはアニオン重合開始剤としても使用することができる。
【0003】
金属アルコキシド(MOR)は、以下の式に示すように、反応蒸留塔で金属水酸化物(MOH)をアルコール(ROH)と反応させることによって得ることができる。反応で得られた水は、留出物と共に除去され、MORの合成に向けて反応が進められる。
MOH+ROH⇔MOR+H2O
【0004】
欧州特許出願公開第0091425号明細書は、アルカリ金属水酸化物の水溶液が反応蒸留塔の精留部に供給され、気体アルコールが塔底に供給されるそのような方法を記載している。水は、共沸物として蒸留塔のヘッドを介して除去され、その後分離される。同様の方法は、欧州特許出願公開第1997794号明細書および旧東独国特許出願公開第246988号明細書に記載されている。
【0005】
金属アルコキシドは、以下の式に示すように、高級金属アルコキシド(MOR2)および低級アルコール(R1OH)を得るための反応蒸留を介して低級アルコールの金属アルコキシド(MOR1)と高級アルコール(R2OH)とのトランスアルコール化によっても得ることができる。
MOR1+R2OH⇔MOR2+R1OH
【0006】
このような方法は、例えば独国特許出願公開第2726491号明細書および独国特許出願公開第1254612号明細書に記載されている。高級アルコールと低級金属アルコキシドとの混合物は反応蒸留塔に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0091425号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1997794号明細書
【特許文献3】旧東独国特許出願公開第246988号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第2726491号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第1254612号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高沸点アルコール、例えば、C10-アルコールの金属アルコキシドの製造のための公知の方法は、高いエネルギーの必要量を有する。さらに、トランスアルコール化プロセスは、高級アルコール中の低級金属アルコキシドの溶解度が低く、蒸留塔内の低級金属アルコキシドの望ましくない沈殿をもたらす可能性がある。固体堆積物は蒸留塔の目詰まりを引き起こす可能性があり、それらの除去には反応蒸留を中断して蒸留塔を空にすることが必要であり、それは時間とコストがかかるプロセスである。
【0009】
そのような沈殿は、特に、高級アルコールと低級アルコールとが大きな構造的相違、例えば炭素数の大きな差を示す場合に起こる。金属メトキシドおよびエトキシドは、安価な低級金属アルコキシド出発物質として容易に入手可能であり、他の金属アルコキシド(高級アルコールの炭素数に近い炭素数を有する)の選択は、経済的観点から実行可能な選択肢ではない。
【0010】
本発明の目的は、蒸留塔内の固体堆積物の形成を制限しながら、低級金属アルコキシドの高級金属アルコキシドへの高い転化を可能にする、反応蒸留塔内で金属アルコキシドを調製する方法を提供することである。この方法は、エネルギー必要量を低くすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、トランスアルコール化によって金属アルコキシドを調製する方法であって、
-低級金属アルコキシドおよび高級アルコールを反応蒸留塔に供給するステップと、
-塔底から、または塔底から取り出された再循環流から、高級アルコール中の高級金属アルコキシドの溶液を除去するステップと、
-塔頂から気体低級アルコールを除去し、気体低級アルコールを少なくとも部分的に凝縮し、凝縮液の一部を塔頂に再循環させるステップと、を含み、
補助アルコールが、反応蒸留塔に提供され、補助アルコールの沸点が、反応蒸留塔内で優勢な圧力での低級アルコールの沸点と高級アルコールの沸点との間である、方法を提供する。
【0012】
低級金属アルコキシド、補助アルコールおよび高級アルコールを、反応蒸留塔内で互いに接触させる。本発明の文脈において、「反応蒸留塔」という用語と「蒸留塔」という用語は同義的に使用される。
【0013】
「低級」および「高級」アルコールという用語は、互いに対してより低い沸点およびより高い沸点を有するアルコールを指す。言い換えれば、高級アルコール(「トランスアルコール化アルコール」)は、反応蒸留塔内で優勢な圧力で、低級金属アルコキシドのアルコールよりも高い沸点を有する。補助アルコールの沸点は、反応蒸留塔内で優勢な圧力で、低級アルコールの沸点と高級アルコールの沸点との間である。本発明による方法は、アルコールが反応蒸留塔内で優勢な圧力で、蒸留可能であることを条件として、補助アルコールの存在下での低級アルコールの金属アルコキシドと高級アルコールとの反応に一般的に適用可能である。
【0014】
同様に、「低級金属アルコキシド」という用語は、上で定義した低級アルコールからのプロトンの引き抜きによって形成されたアニオンを有する金属アルコキシドを指し、「高級金属アルコキシド」という用語は、上で定義した高級アルコールからのプロトンの引き抜きによって形成されたアニオンを有する金属アルコキシドを指し、「補助金属アルコキシド」という用語は、上で定義した補助アルコールからのプロトンの引き抜きによって形成されたアニオンを有する金属アルコキシドを指す。
【0015】
低級金属アルコキシド、補助アルコールおよび高級アルコールを、反応蒸留塔内で互いに接触させる。蒸留塔の下部では、高級アルコールおよび補助アルコールは、部分的に気体であり、塔頂に向かって上昇するが、低級金属アルコキシドの溶液は、塔底に向かって滴下する。低級金属アルコキシド(MOR1)の滴下溶液は、以下の式に示すように、向流で上昇する補助アルコール(RXOH)と反応して、低級アルコール(R1OH)および補助金属アルコキシド(MORX)を形成する。
MOR1+RXOH⇔MORX+R1OH
【0016】
トランスアルコール化反応は、液相中で優先的に進行する。形成された低級アルコール(R1OH)の除去が反応の推進力である。気体低級アルコールは、塔頂に向かって上昇し、補助金属アルコキシドの溶液は、塔底に向かって滴下する。以下の式に示されるように、補助金属アルコキシド(MORX)の滴下溶液は、向流で上昇する高級アルコール(R2OH)と反応して、高級金属アルコキシド(MOR2)および補助アルコール(RXOH)を形成する。
MORX+R2OH⇔MOR2+RXOH
【0017】
補助アルコールにおける低級金属アルコキシドの溶解度は、一般に、高級アルコールにおける低級金属アルコキシドの溶解度と比較して高いので、補助アルコールは、低級金属アルコキシドと高級アルコールとを相溶させる。したがって、蒸留塔内の固体堆積物の形成が大幅に減少するか、または完全に防止される。補助金属アルコキシドが、高級アルコールにおいて比較的高い溶解度を示すことがさらに有利である。特に、補助アルコールは、本発明による方法で消費されず、反応蒸留塔に本質的に残る。
【0018】
気体低級アルコールを反応蒸留塔の塔頂で抜き出して凝縮し、高級アルコール中の高級金属アルコキシドの溶液を塔底から、または塔底から取り出された再循環流から除去する。このようにして、塔頂画分および塔底画分が得られる。これらの画分の純度は、プロセスの効率および画分の有用性にとって決定的である。
【0019】
有利には、本発明の方法により、塔頂で得られた低級アルコールおよび塔底で得られた高級金属アルコキシドの溶液の両方の高純度を可能にする。言い換えれば、気体低級アルコールは、有利には、少量または無視できる量しか高級アルコールおよび補助アルコールを含まず、高級金属アルコキシドの溶液は、少量または無視できる量しか低級アルコール、低級金属アルコキシド、補助アルコールおよび補助金属アルコキシドを含まない。
【0020】
塔頂で除去された気体低級アルコールは、少なくとも部分的に凝縮され、得られた凝縮液の一部は、還流として塔頂に再循環される。蒸留塔内では、気相と液相とが向流接触している。気相と液相との間では物質移動が起こる。揮発性の高い成分は、塔頂に向かって気相に蓄積し、揮発性の低い成分は、塔底に向かって液相に蓄積する。
【0021】
得られた画分、特に塔底から、または塔底から取り出された再循環流から除去された高級金属アルコキシドの溶液の純度は、例えば塔頂での還流比によって調整することができる。還流比は、蒸留塔に戻される凝縮液の量(還流)と、プロセスから除去される凝縮液の量との比である。一般に、還流比が高いほど、高級金属アルコキシドの溶液の純度は高くなる。しかしながら、還流比が高くなると、プロセスのエネルギー必要量も高くなる。本発明の方法は、有利には、気体低級アルコールの十分に高い純度を達成しながら、比較的低い還流比を可能にする。
【0022】
上記の反応の反応平衡定数は、イダクト(educt)アルコールの酸性度に依存する。短いアルキル鎖を有する第一級アルコールの場合、反応平衡は、より長い鎖の第二級または第三級アルコールの場合の反応平衡と比較して、生成物側のさらに先であり、これは、イダクトアルコールおよび金属アルコキシドの側のはるか先である。補助アルコールの適切な選択により、記載される2つの反応の反応平衡定数は、経済的に低い還流比を可能にする範囲内にある。
【0023】
低級金属アルコキシドは、一級一価C1-C3-アルコールの金属アルコキシド、すなわちメトキシド、エトキシドまたはプロポキシドであり得る。好ましくは、低級金属アルコキシドは、金属メトキシドまたは金属エトキシド、特に金属メトキシドである。
【0024】
低級金属アルコキシドとしては、アルカリ金属アルコキシドが好ましく、ナトリウムアルコキシドまたはカリウムアルコキシドがより好ましい。
【0025】
特に好ましい実施形態では、低級金属アルコキシドは、ナトリウムメトキシドまたはカリウムメトキシド、特にナトリウムメトキシドである。
【0026】
高級アルコールは、直鎖、分岐または環状の一価のC6-C16-アルコール、例えば、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノールおよびそれらの構造異性体(環状アルコールならびにアルコールの一級、二級および三級形態を含む)から選択されてもよい。原則として、ジオール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロパンジオールまたはブタンジオール、およびそれらの構造異性体などの多価C2-C10-アルコールも使用することができる。
【0027】
高級アルコールの炭素鎖は、1つ以上の酸素原子によって中断されていてもよく、中断する酸素原子の間、および中断する酸素原子と化合物に含まれる各ヒドロキシ基との間には少なくとも2つの炭素原子が存在する。炭素鎖が酸素原子によって中断されている一価のアルコールの例は、3-メチル-3-メトキシブタノールまたは1-メトキシ-2-プロパノールである。
【0028】
高級アルコールはまた、本発明の方法条件下で不活性である、すなわち存在する化合物または中間体、例えば-Fまたは-Clと反応しない、1つ以上の置換基を含んでもよい。
【0029】
高級アルコールは、好ましくは、3-メチル-3-メトキシブタノール、2-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、3-エチル-3-ペンタノール、2-メチル-2-ヘキサノール、3-メチル-3-ヘキサノール、3,7-ジメチル-3-オクタノール(テトラヒドロリナロール、THL)、3,7-ジメチル-1-オクタノール、および2,6-ジメチル-2-オクタノール(テトラヒドロミルセノール)から選択される。3,7-ジメチル-3-オクタノールが特に好ましい。
【0030】
好ましくは、高級アルコールから得られる高級金属アルコキシドは、STP(20℃および1バール絶対)で液体である。例えば、テトラヒドロリナロール酸ナトリウムはSTPで液体である。液体としての安定性が向上することにより、高級金属アルコキシドの沈殿は、反応蒸留塔の長さにわたって、より確実に回避することができる。また、生成物金属アルコキシドは、高濃度の溶液として抜き出すことができる。
【0031】
補助アルコールは、好ましくは、反応蒸留塔内で優勢な圧力での低級アルコールの沸点より少なくとも10℃、より好ましくは少なくとも15℃、最も好ましくは少なくとも20℃高い沸点を有する。好ましくは、補助アルコールの沸点は、反応蒸留塔内で優勢な圧力での高級アルコールの沸点より少なくとも10℃、より好ましくは少なくとも15℃、最も好ましくは少なくとも20℃低い。
【0032】
補助アルコールは、一価のC3-C7-アルコール、すなわちプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノールおよびそれらの構造異性体、例えば環状アルコールならびにアルコールの一級、二級および三級形態から選択され得る。アルコールの炭素鎖は、1つ以上の酸素原子によって中断されていてもよく、中断する酸素原子の間、および中断する酸素原子と化合物に含まれる各ヒドロキシ基との間には少なくとも2つの炭素原子が存在する。炭素鎖が酸素原子によって中断されている一価のアルコールの例は、1-メトキシ-2-プロパノールである。
【0033】
補助アルコールはまた、本発明による方法の条件下で不活性である、すなわち存在する化合物または中間体と反応しない、1つ以上の置換基を含んでもよい。
【0034】
好適な補助アルコールには、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、tert-ブタノール、3-メチル-3-ペンタノールおよび3-エチル-3-ペンタノールが含まれる。2-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノールおよび3-メチル-2-ブタノール、特に3-メチル-2-ブタノールが特に好ましい。
【0035】
特に、本発明の方法は、金属アルコキシドとアルコールとの可能な組み合わせの範囲に関し、例えば、特定の一実施形態ではアルコールが高級アルコールを構成し、別の特定の実施形態では補助アルコールを構成することができる。上記に提供された低級金属アルコキシド、高級アルコールおよび補助アルコールの具体例は、例示であり、特定の実施形態で使用される成分の沸点の差に応じて、例えば補助アルコールまたは高級アルコールのいずれかを構成するアルコールの可能性を制限するものではないことが理解される。
【0036】
得られた気体および液体画分の純度および/またはプロセスのエネルギー必要量は、例えば、低級金属アルコキシドの供給口および高級アルコールの供給口の位置によって影響され得る。
【0037】
低級金属アルコキシドは、サイドフィードを介して反応蒸留塔に供給されてもよい。「サイドフィード」という用語は、供給口の位置が塔頂より下で塔底より上にあることを意味する。好ましくは、低級金属アルコキシドは、蒸留塔の中間または上半分に供給される。低級金属アルコキシドの供給口の位置により、精留部(供給口の位置の上方)およびストリッピング部(供給口の位置の下方)が画定される。トランスアルコール化は、蒸留塔のストリッピング部で行われる。
【0038】
一般に、低級金属アルコキシドは、溶液として、例えばポンプを介して蒸留塔に供給される。例えば、低級金属アルコキシドは、低級アルコール中の溶液として蒸留塔に供給されてもよく、溶液は、低級金属アルコキシドの溶液の総重量に対して、20~40重量%の低級金属アルコキシド、好ましくは25~35重量%の低級金属アルコキシド、例えば28~32重量%の低級金属アルコキシドを含む。パーセンテージは、特に明記しない限り、本明細書では重量パーセントとして提供される。
【0039】
低級金属アルコキシドの溶液の供給入口温度は、好ましくは少なくとも6℃、特に少なくとも10℃、特に好ましくは少なくとも20℃、例えば25℃または30℃である。低級金属アルコキシドの溶液は、例えば、塔底から、または塔底から取り出された再循環流から除去された高級金属アルコキシドの溶液が同時に冷却される熱交換器で沸騰温度まで予熱することができる。これは、プロセスのエネルギー必要量に関して特に有利である。
【0040】
高級アルコールは、好ましくは、低級金属アルコキシドの供給入口の下の1つ以上の点で蒸留塔に供給される。高級アルコールは、例えば、蒸留塔のストリッピング部、塔底、および/または塔底から取り出された再循環流に供給されてもよい。好ましくは、高級アルコールは、塔底および/または塔底から取り出された再循環流に供給される。「塔底から取り出された再循環流」は、塔底から取り出されて蒸留塔に再循環される、好ましくは塔底に再循環される流れに関すると理解される。
【0041】
低級金属アルコキシドの供給口より下の反応蒸留塔に高級アルコールを供給すると、低級アルコールによる高級金属アルコキシドの溶液の汚染が著しく低下することが分かった。したがって、所望の仕様を達成するために、本発明による方法では、より低い還流比およびより少ない塔底循環が必要とされる。したがって、同じ純度仕様に対して著しく低いエネルギー必要量が達成され得る。
【0042】
高級アルコールは、液体または気体の形態で蒸留塔に供給されてもよい。高級アルコールは、好ましくは塔底に供給され、および/または塔底から液体形態で取り出された再循環流、特に再循環流に供給される。
【0043】
補助アルコールは、典型的には反応蒸留塔の始動前に、反応蒸留塔に提供される。無視できる量しか補助アルコールおよび補助金属アルコキシドを含まない得られた気体および液体画分の分析によって監視され得るように、補助アルコールは消費されず、反応蒸留塔内に本質的に残る。
【0044】
それにもかかわらず、長期間の製造にわたって、蒸留塔内の補助アルコールの有効濃度を維持するために、バッチ方式または連続方式、好ましくは連続方式で蒸留塔に補助アルコールを補充することが必要な場合がある。好ましくは、補助アルコールは、サイドフィード、特に低級金属アルコキシドの供給口と高級アルコールの供給口との間に位置するサイドフィードを介して反応蒸留塔に供給される。特に好ましい実施形態では、補助アルコールは、塔底より十分に高い、例えば蒸留塔高さの少なくとも5%、より好ましくは蒸留塔高さの少なくとも15%、例えば蒸留塔高さの少なくとも30%の長さで反応蒸留塔に供給される。
【0045】
反応蒸留塔は、一般に、リボイラー、好ましくは循環リボイラーを備える。リボイラーでは、塔底から除去された高沸点金属アルコキシドの溶液の部分流が加熱され、少なくとも部分的に気体形態で塔底に戻される。代替的または追加的に、塔底は直接加熱されてもよい。高級アルコールの一部は、気体形態で反応蒸留塔中に存在し、塔頂に向かって上昇する。
【0046】
高級アルコール中の高級金属アルコキシドの溶液は、塔底から、および/または塔底から取り出された再循環流から除去される。有利には、高級アルコール中の高級金属アルコキシドの溶液は、少量の低級アルコールのみを含有し、これにより効率的なプロセスが可能になる。
【0047】
好ましくは、高級金属アルコキシドの溶液は、高級金属アルコキシド溶液の総重量に対して、最大で1重量%の低級アルコール、より好ましくは最大で0.1重量%の低級アルコール、最も好ましくは最大で0.02重量%の低級アルコール、例えば0.005~0.02重量%の低級アルコールを含む。高級金属アルコキシドの溶液中の低級アルコールの濃度は、例えば、蒸気空間分析またはガスクロマトグラフィーによって決定することができる。
【0048】
さらに、高級アルコール中の高級金属アルコキシドの溶液は、有利には、微量以下の補助アルコールを含有する。好ましくは、高級金属アルコキシドの溶液は、高級金属アルコキシド溶液の総重量に対して、最大で1重量%の補助アルコール、より好ましくは最大で0.1重量%の補助アルコール、最も好ましくは最大で0.02重量%の補助アルコール、例えば0.005~0.02重量%の補助アルコールを含む。高級金属アルコキシドの溶液中の補助アルコールの濃度は、例えばガスクロマトグラフィーによって決定することができる。
【0049】
高級金属アルコキシドの溶液は、通常、取り出された高級金属アルコキシドの溶液の総重量に対して3~90重量%の高級金属アルコキシドを含む。抜き出された溶液中の高級金属アルコキシドの量は、一般に、高級アルコール中の高級金属アルコキシドの溶解度に依存する。効率のために、抜き出された高級金属アルコキシドの溶液が可能な限り多くの生成物金属アルコキシドを含むように、トランスアルコール化プロセスを実施すべきである。高級アルコールの溶液中の高級金属アルコキシドの濃度は、例えば滴定によって決定することができる。
【0050】
塔頂凝縮液は、好ましくは、オーバーヘッド凝縮液の総重量に対して、最大で1重量%の高級アルコール、より好ましくは最大で0.1重量%の高級アルコール、最も好ましくは最大で0.01重量%の高級アルコールを含む。塔頂凝縮液中の高級アルコールの濃度は、例えばガスクロマトグラフィーによって決定することができる。
【0051】
塔頂凝縮液は、好ましくは、オーバーヘッド凝縮液の総重量に対して、最大で5重量%の補助アルコール、より好ましくは最大で1重量%の補助アルコール、最も好ましくは最大で0.1重量%の補助アルコールを含む。塔頂凝縮液中の補助アルコールの濃度は、例えばガスクロマトグラフィーによって決定することができる。
【0052】
塔頂凝縮液中の高級アルコールおよび補助アルコールの量は、得られた気体画分の純度を表す。
【0053】
本発明の方法は、典型的に使用される任意の反応蒸留塔で実行することができる。好適なタイプの反応蒸留塔には、充填塔、例えば、ランダム充填物または構造化充填物を有する蒸留塔、棚段塔(すなわち、段塔)、ならびに充填物および棚段の両方を含む混合塔が含まれる。
【0054】
好適な棚段塔は、その上を液相が流れる内部を備えていてもよい。好適な内部構造には、シーブトレイ、バブルキャップトレイ、バルブトレイ、トンネルトレイおよびThormann(登録商標)トレイ、特にバブルキャップトレイ、バルブトレイ、トンネルトレイおよびThormann(登録商標)トレイが含まれる。
【0055】
ランダム充填塔は、様々な形状の物体で充填されてよい。通常25~80mmの範囲のサイズを有する成形体を用いて表面積を拡大することによって、熱および物質の伝達が改善される。好適な形状の物体には、ラシヒリング(中空円筒)、レッシングリング、ポールリング、ハイフローリングおよびインタロックスサドルが含まれる。充填材料は、規則的または不規則な方法で(バルク材料として、すなわち緩く充填されて)蒸留塔に提供されてよい。好適な材料には、ガラス、セラミック、金属およびプラスチックが含まれる。
【0056】
構造化充填物は、規則的充填物を発展させたもので、規則的な形状の構造を有する。これにより、ガス流の圧力損失を低減することができる。好適なタイプの構造化充填物には、布および金属板充填物が含まれる。
【0057】
好ましくは、蒸留塔の精留部および蒸留塔のストリッピング部の両方がトレイを備える。上述のように、補助アルコールは、好ましくは、塔底より十分に高い反応蒸留塔に供給される。実際の実施形態では、補助アルコールのサイドフィードは、塔底から縦方向に少なくとも5トレイ上にある。例えば、80段のトレイを含む蒸留塔では、金属メトキシドを40番目のトレイに供給することができ、補助アルコールを38番目のトレイに供給することができ、反応アルコールを10番目のトレイに供給することができる。
【0058】
蒸留塔の「塔頂」または「ヘッド」という用語は、最上段のトレイの上または最上段の充填物の上に位置する内部構造のない領域を指す。これは、一般に、反応蒸留塔の終端要素を形成するドーム型のベース(ヘッド、例えば、KlopperヘッドまたはKorbbogenヘッド)によって形成される。
【0059】
蒸留塔の「塔底」または「サンプ」という用語は、最下段のトレイまたは最下段の充填物の下に位置する内部構造のない領域を指す。
【0060】
精留部の理論段数は、補助アルコールと低級アルコールとの蒸気圧の差に依存するため、差が小さい場合には理論段数が大きい方が有利である。ストリッピング部の理論段数は、補助アルコールと高級アルコールとの蒸気圧の差、ならびにトランスアルコール化反応の平衡位置に依存する。平衡が主に出発物質の側にある場合、理論段数が大きいほど有利である。精留部およびストリッピング部の両方の理論段数は、塔底の生成物および塔頂の生成物の所望の純度、ならびに使用される還流比にも依存し、それにより、所与の還流比でより高い純度を達成するために、より大きい理論段数が必要とされる。
【0061】
蒸留塔は、複数のカスケード接続された個々の容器またはカスケード接続された個々の蒸留塔からなることができる。個々の容器および蒸留塔は、好ましくは、上下に配置され、互いに横方向にオフセットされてもよい。個々の容器および蒸留塔はまた、好適なポンプ要素を使用して並んで配置されてもよい。
【0062】
いずれの場合も、適切な接続ライン、および場合により、搬送手段によって、精留部とストリッピング部とが直接連結され、精留部中の還流がストリッピング部中で起こるトランスアルコール化を有利にもたらすことが保証されなければならない。好ましくは、ストリッピング部および精留部は、単一の蒸留塔に上下に配置される。
【0063】
塔頂から除去された気体低級アルコールは、少なくとも部分的に凝縮されて塔頂凝縮液を生じる。凝縮は、好ましくは、プレート式熱交換器、シェル&チューブ式熱交換器もしくはストレート管コンデンサ、または直列に接続された、いくつかのそのようなコンデンサで行われる。ストレート管コンデンサまたはシェル&チューブ式熱交換器またはそれらの組み合わせを使用することが好ましい。設計に応じて、コンデンサは、例えば空気、冷却水または塩水によって冷却することができる。
【0064】
凝縮液の一部は、還流として塔頂に再循環され、凝縮液の残りは、プロセスから除去される。還流比は、得られる気体画分、特に得られる液体画分の純度に影響を及ぼす。還流比は、蒸留塔に戻される凝縮液の量(kg/h)(還流)と、プロセスから除去される凝縮液の量(kg/h)との比である。還流比が高いほど、得られる気体および液体の画分の純度は高くなる。
【0065】
最適な還流比は、主に、本発明の方法で使用される高級アルコールのタイプに依存し、有利には予備試験で決定されるべきである。最適な還流比は、低級アルコール、補助アルコールおよび高級アルコールを分離するために必要なエネルギーに関して経済的な最適条件で、プロセスから除去された低級アルコールの純度および高級金属アルコキシドの溶液に関して最適条件が達成されるように公知の方法で決定され得る。
【0066】
プロセスから除去された低級アルコール、すなわちプロセスから除去された凝縮液は、一般に高純度であり、さらに蒸留することなく再利用することができる。還流量を調整するために必要とされない過剰量の塔頂凝縮液のみがシステムから除去される。塔頂凝縮液の残量は還流として塔頂に戻される。
【0067】
反応蒸留塔は、一般に、サンプ循環(「塔底循環」)を含む。好ましくは、サンプ循環は、上述のように、リボイラー、好ましくは循環リボイラーを備える。リボイラーでは、塔底から除去された高沸点金属アルコキシドの溶液の部分流が加熱され、少なくとも部分的に気体形態で塔底に戻される。
【0068】
一実施形態では、塔底から除去された高級アルコール中の高級金属アルコキシドの溶液の副流は、塔底に戻され、塔底から除去された高級アルコール中の高級金属アルコキシドの溶液の別の副流は、プロセスから除去される。
【0069】
別の実施形態では、塔底で除去された高級アルコール中の高級金属アルコキシドの溶液の副流は、好ましくはリボイラーを介して塔底に再循環され、塔底で除去された高級アルコール中の高級金属アルコキシドの溶液の別の副流は、プロセスから除去される。さらなる実施形態では、サンプ循環は、リボイラーを備え、サンプ循環流の副流は、塔底に再循環され、サンプ循環流の別の副流は、好ましくはリボイラーの後にプロセスから除去される。
【0070】
反応蒸留塔は、一般に、塔底に組み込まれたリボイラー、または好ましくは、サンプ循環に含まれているリボイラーを含む。塔底で除去された高級金属アルコキシドの溶液の副流は、サンプ循環を介してリボイラーに供給され、その後、場合により2つの相を含んでいてもよい加熱流体流として蒸留塔に戻される。好適なリボイラーには、蒸発器、自然循環リボイラー、強制循環リボイラー、および強制循環フラッシュリボイラーが含まれる。
【0071】
強制循環リボイラーは、ポンプを使用して液体を循環させ、ヒータを介して蒸発させる。その後、得られた気液体混合物は蒸留塔に戻される。
【0072】
強制循環フラッシュリボイラーでは、蒸発する液体をヒータを介して循環させるためにポンプも使用される。過熱液体が得られ、減圧されて塔底に送られる。蒸留塔に再循環される高級金属アルコキシド溶液が受ける圧力は、過熱によって上昇する。過熱された再循環流は、流量制限器を介して減圧される。したがって、液体は、蒸留塔内で優勢な圧力に対してその沸点を超えるまで過熱される。
【0073】
過熱された液体が流量制限器を通過して蒸留塔に再び入ると、液体の急激な蒸発が起こる。この急激な蒸発は、体積の大幅な増加を伴い、蒸留塔に入る流体流の加速をもたらす。流量制限器は、過熱液体が蒸留塔に再流入する地点の直前、または蒸留塔の内部にも位置していることが好ましい。
【0074】
好ましくは、流量制限器は、オリフィスプレート、バルブ、スロットル、有孔ディスク、ノズル、毛細管、またはそれらの組み合わせから選択される。好ましくは、バルブ、例えば、ロータリープラグバルブが流量制限器として使用される。好ましい実施形態では、流量制限器の開口プロファイルは調整可能である。これにより、例えば、始動および停止プロセス中に起こり得る様々な流速下で、蒸留塔内で優勢な圧力に対してリボイラー内の圧力を液体の沸騰圧力より高く維持することが可能になる。
【0075】
有利には、リボイラーを強制循環リボイラーまたは強制フラッシュ循環リボイラーとして動作させると、自然循環リボイラーと比較して、ヒータ内の液体の流速、例えば、熱交換器の管束が増加する。流速が速くなると、熱交換器と加熱された流体との間の熱伝達が改善され、局所的な過熱を防ぐことができる。
【0076】
強制循環蒸発器または強制循環フラッシュ蒸発器で使用されるポンプは、除去ラインと蒸発器との間に配置されることが好ましい。
【0077】
好ましい実施形態では、蒸留塔は、強制循環蒸発器を備え、高級アルコールは、液体形態で強制循環リボイラーに供給される流れに供給される。
【0078】
塔底循環リボイラーの代わりに、またはそれに加えて、例えば内部蒸発器によって、塔底を直接加熱することができる。
【0079】
所与の圧力において、塔底の温度は、塔底から、または塔底から取り出された再循環流から除去された溶液中の高級金属アルコキシドの濃度を決定する。したがって、温度および濃度は、高級金属アルコキシドが常に塔底の溶液中に残るように好適に選択される。塔底温度は、リボイラーおよび/または塔底を直接加熱することによって調整することができる。
【0080】
本発明の方法は、減圧または高圧だけでなく、周囲圧力でも実行することができる。蒸留塔内で優勢な圧力は、好ましくは0.2~10バールの範囲の絶対圧力、より好ましくは0.5~3バールの範囲の絶対圧力、最も好ましくは周囲圧力、例えば1バールの絶対圧力である。
【0081】
トランスアルコール化の平衡位置は、一部のアルコキシドでは温度依存性であり得る。これらの場合、温度が高いほど高いターンオーバーに影響することがある。高圧下、例えば少なくとも1.5バールの絶対圧力、少なくとも2.5バールの絶対圧力または少なくとも5.0バールの絶対圧力で本発明の方法を実行することも有利であり得る。
【0082】
本発明の方法は、連続的またはバッチ式で実施することができる。好ましくは、本発明の方法は、連続的に実施される。
【0083】
反応蒸留塔内では、連続的な物質移動、ならびに気相および液相内の濃度の変化により、反応平衡が常に再調整されるため、高い転化率が可能になる。蒸留塔を始動する際には、塔頂に低級アルコールを供給して還流量を調整し、ストリッピング部およびサンプを高級アルコールおよび補助アルコールで充填されてもよい。低級アルコールを高級アルコールおよび/または補助アルコールに添加することもできる。
【0084】
動作温度に達した後、低級金属アルコキシドの溶液を添加する。新鮮な低級アルコールが、反応中に連続的に形成される。
【0085】
さらなる実施形態では、始動前に反応蒸留塔が補助アルコールおよび高級アルコールで充填され、補助アルコールを最初に還流として使用する。動作温度に達した後、低級金属アルコキシドの溶液を添加する。低級金属アルコキシドの添加は、蒸留塔内の温度に影響を及ぼし、その結果、最終動作温度は、後の時点、特に塔底で達する。
【0086】
塔頂で抜き取られた気体低級アルコールは、典型的には、本質的に純粋な低級アルコールからなる。塔頂凝縮液は、さらに精製することなくプロセスから除去されてもよく、例えば、低級金属アルコキシドまたはその溶液の製造に使用することができる。場合により、塔頂凝縮液は、さらなる後処理ステップ、例えば、蒸留に供されてもよい。
【0087】
塔底から、または塔底から取り出された再循環流から除去された高級金属アルコキシドの溶液は、典型的には、高級アルコールおよび高級金属アルコキシドから本質的になる。したがって、高級金属アルコキシドの溶液は、必要に応じて熱交換器中で冷却した後、そのままさらに使用することができる。
【0088】
あるいは、高級金属アルコキシドは、当技術分野で公知の方法に従って、例えば高級アルコールの蒸発によって、高級アルコール中の溶液から単離されてもよい。
【0089】
本発明は、添付の図面および以下の実施例によってさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0090】
図1】本発明の方法による金属アルコキシドの製造に好適なプラントを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0091】
図1によれば、プラントは、補助アルコールが提供される反応蒸留塔101を備える。低級金属アルコキシドの溶液は、ライン102を介して蒸留塔101に供給される。高級アルコールは、ライン103、リボイラー110およびライン111を介して蒸留塔101の底部に供給される。補助アルコールは、典型的には、ライン102と111との間に位置するライン(図1には図示せず)を介して蒸留塔101の始動前に提供され、補助アルコールは、反応の過程で前記ラインを介して蒸留塔101に連続的に供給され、蒸留塔101中の補助アルコールの有効濃度を維持する。
【0092】
蒸留塔101の塔頂では、気体低級アルコールがライン104を介して除去され、コンデンサ105で凝縮される。凝縮された低級アルコールの第1の流れは、ライン106を介してプロセスから除去され、凝縮された低級アルコールの第2の流れは、ライン107を介して蒸留塔101の塔頂に戻される。
【0093】
高級アルコール中の高級金属アルコキシドの溶液は、塔底から除去される。高級金属アルコキシドの溶液の第1の流れは、ライン108を介してプロセスから除去され、高級金属アルコキシドの溶液の第2の流れは、ライン109およびリボイラー110を介して、ライン103からの高級アルコールと一緒に、ライン111を介して塔底に戻される。
【0094】
実施例および方法
2-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノールおよび3-メチル-2-ブタノールを補助アルコールとして使用して、ナトリウムメトキシドおよびテトラヒドロリナロール(THL)からのトランスアルコール化によるテトラヒドロリナロールナトリウムの製造について実験を実施した。
【0095】
方法
A.塔頂凝縮液中の高級アルコールおよび補助アルコールの決定
塔頂凝縮液のサンプルを採取し、1,4-ジオキサンを内部標準として添加し、サンプルをそのTHLおよび補助アルコール含有量についてガスクロマトグラフィー(分離カラムRTX-5アミン、長さ30m、内径0.32mm、膜厚1.5μm、TCD検出器)で分析した。検出限界は約500mg/kgであった。
【0096】
B.塔底出力物中の低級アルコールおよび補助アルコールの決定
B.1補助アルコール:2-ブタノール
生成物金属アルコキシドの溶液のサンプル500mgを採取し、室温(約23℃)に冷却した。サンプルを1mLのエタノール中0.5mgの2-メチル-2-ブタノール(内部標準として)と混合し、4mLのエタノール(内部標準なし)を添加して希釈したサンプルを得た。サンプルが固体である場合、60℃で溶融させてから、2-メチル-2-ブタノールおよびエタノールと混合した。
【0097】
希釈したサンプルをガスクロマトグラフィー(分離カラムDB-1、長さ30m、内径0.25mm、膜厚1.0μm)で分析した。定量は標準添加法を用いて行った。検出限界は200mg/kgであった。
【0098】
B.2補助アルコール:1-メトキシ-2-プロパノール
生成物金属アルコキシドの溶液のサンプル500mgを採取し、室温(約23℃)に冷却した。サンプルを1mLのエタノール中0.5mgのsec-ブタノール(内部標準として)と混合し、4mLのエタノール(内部標準なし)を添加して希釈したサンプルを得た。サンプルが固体である場合、60℃で溶融させてから、sec-ブタノールおよびエタノールと混合した。
【0099】
希釈したサンプルをガスクロマトグラフィー(分離カラムDB-1、長さ30m、内径0.25mm、膜厚1.0μm)で分析した。定量は標準添加法を用いて行った。検出限界は200mg/kgであった。
【0100】
B.3補助アルコール:3-メチル-2-ブタノール
生成物金属アルコキシドの溶液のサンプル500mgを採取し、室温(約23℃)に冷却した。サンプルを1mLのイソプロパノール中0.5mgのn-ヘキサン(内部標準として)と混合し、1滴のリン酸を添加し、3mLのイソプロパノール(内部標準なし)を添加して希釈したサンプルを得た。サンプルが固体である場合、60℃で溶融させてから、ヘキサン、リン酸およびエタノールと混合した。
【0101】
希釈したサンプルをガスクロマトグラフィー(分離カラムDB-1、長さ30m、内径0.25mm、膜厚1.0μm)で分析した。定量は標準添加法を用いて行った。検出限界は200mg/kgであった。
【0102】
標準添加法では、サンプルの多重測定、例えば二重測定が行われる。特定の量の測定対象物質(反応アルコール)を各サンプルに数回添加し、各添加後のサンプルを測定する。物質の増加量が測定される。元のサンプル中の反応アルコールの濃度は、線形回帰によって計算することができる。
【0103】
サンプルの溶解性は予め確認しておく必要がある。2つの相が形成される場合、サンプルの重量を減らす必要がある。
【0104】
C.塔底出力物中のナトリウムアルコキシドテトラヒドロリナロレートの濃度の決定
塔底のナトリウムアルコキシドテトラヒドロリナロレートの量を決定するために、サンプルを採取し、アルコキシド、水酸化物および炭酸塩からなる塩基の総含有量を、2-プロパノール中でトリフルオロメタンスルホン酸(2-プロパノール中0.1mol/l)による滴定によって決定した。水酸化物および炭酸塩の量は、これらの成分がKFT中のKF成分と反応して水を形成するため、容量法カールフィッシャー滴定(KFT)によって決定した。水酸化物および炭酸塩の寄与を総塩基含有量から差し引いてアルコキシド含有量を決定した。
【0105】
実施例
実施例は、ガラス製の80個のバブルキャップトレイを備えた反応蒸留塔と強制循環フラッシュリボイラーとを備える、図1に従うプラントで実施された。表1は、実施例の具体的なパラメータを示す。
【0106】
リボイラーは、最大加熱電力5700Wの市販のサーモスタット(Julabo HT6)で加熱した。蒸留塔の直径は50mmであった。熱損失を避けるために、蒸留塔を電気保護加熱システムで等温加熱した。
【0107】
始動前に、蒸留塔に補助アルコールおよび反応アルコールを充填した。動作温度に達したら、ナトリウムメトキシドおよび反応アルコールを蒸留塔に供給した。
【0108】
ナトリウムメトキシド(メタノール中30重量%)を側方から蒸留塔に供給した(トレイ40または60)。テトラヒドロリナロール(THL)をリボイラーの前の蒸留塔またはトレイ30に供給した。
【0109】
塔底で除去された生成物金属アルコキシドの溶液中の生成物金属アルコキシド、補助アルコールおよびメタノールの(「塔底出力物」)量を決定した。
【0110】
塔頂で、気体メタノールを除去し、コンデンサで凝縮した。塔頂凝縮液中の反応アルコールおよび補助アルコールの量を測定した。
【0111】
【表1】
【0112】
実施例2と同様に実施したが、補助アルコールを含まない比較実施例4では、1~2時間以内に蒸留塔に固体堆積物が形成され、蒸留塔のトレイを詰まらせたため、安定した動作は不可能であった。
【0113】
補助アルコールの存在は、蒸留塔の安定した動作を可能にすることは明らかである。さらに、テトラヒドロリナロール中のテトラヒドロリナロールナトリウムの溶液は、メタノールおよび補助アルコールの両方を本質的に含まない。
【符号の説明】
【0114】
30 トレイ
38 トレイ
40 トレイ
60 トレイ
101 反応蒸留塔
102 ライン
103 ライン
104 ライン
105 コンデンサ
106 ライン
107 ライン
108 ライン
109 ライン
110 リボイラー
111 ライン
図1
【国際調査報告】