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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】生合成方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20231214BHJP
   C12P 1/04 20060101ALI20231214BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231214BHJP
   A61K 35/741 20150101ALI20231214BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231214BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20231214BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C12N15/63 Z
C12P1/04 ZNA
C12N1/21
A61K35/741
A61P35/00
A61P3/00
A61P37/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534045
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(85)【翻訳文提出日】2023-08-02
(86)【国際出願番号】 EP2021084194
(87)【国際公開番号】W WO2022117827
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】2019175.5
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515170540
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ タルトゥ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ヨエルス、アーヴィ
(72)【発明者】
【氏名】カサリ、マージ
(72)【発明者】
【氏名】カサリ、ヴィル
(72)【発明者】
【氏名】ケルマス、ミリアム
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA60
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC32
4C087BC33
4C087BC61
4C087BC64
4C087BC68
4C087BC72
4C087NA14
4C087ZB07
4C087ZB26
4C087ZC21
(57)【要約】
本発明は、一般に、細菌細胞により産物を生産する方法に関する。より詳細には、本発明は、細菌細胞により産物を生産する方法であって、細菌細胞における複製開始点を不可逆的に不活性化する工程を含む方法に関する。本発明はまた、改変された細菌細胞、ポリヌクレオチドベクター、および産物を生産するためのそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌細胞(bacterial cell)により産物を生産する方法であって、前記細菌細胞における複製開始点を不可逆的に不活性化する工程を含む方法。
【請求項2】
前記方法によって、前記細菌細胞により生産される産物の収量もしくは力価が増加するか、または前記細菌細胞の生産性が増加する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記産物が異種産物である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記産物が同種産物または内因性産物である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記細菌細胞における複製開始点を不可逆的に不活性化する工程が、該複製開始点の遺伝子改変を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記遺伝子改変が、前記複製開始点のヌクレオチド配列の少なくとも部分的な除去を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記遺伝子改変が、前記複製開始点の全ヌクレオチド配列の除去を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
(i)前記産物を生産するかまたは前記産物を生産することが可能である細菌細胞を用意する工程と、
(ii)前記細菌細胞における複製開始点を不可逆的に不活性化する工程と、必要に応じて、
(iii)前記細菌細胞において前記産物の生産を誘導する工程と、を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(ii)および(iii)が、同時にまたは順次行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記細菌細胞が、細菌細胞集団内に存在し、前記工程(ii)および/または(iii)が、前記細菌細胞集団の指数増殖期に行われる、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項11】
細菌細胞の代謝活性を損なうことなく細菌細胞の増殖を停止させる方法であって、該細菌細胞における複製開始点を不可逆的に不活性化することを含む方法。
【請求項12】
複製開始点を含む細菌細胞であって、該細菌細胞は、該複製開始点が不可逆的に不活性化され得るように改変されている、細菌細胞。
【請求項13】
前記複製開始点が、部位特異的リコンビナーゼによる認識のための部位特異的組換え部位によって挟まれている、請求項12に記載の細菌細胞。
【請求項14】
前記部位特異的組換え部位が、セリンリコンビナーゼによる認識のための部位特異的組換え部位を含み、好ましくは、前記セリンリコンビナーゼは、γδ、Bxb1、φC31、またはTP901であり、かつ/あるいは、前記部位特異的組換え部位が、チロシンリコンビナーゼによる認識のための部位特異的組換え部位を含み、好ましくは、前記チロシンリコンビナーゼは、Cre、Dre、Flp、KD、B2、またはB3である、請求項13に記載の細菌細胞。
【請求項15】
前記部位特異的組換え部位が、1対の部位特異的組換え部位を含み、かつ/または、前記部位特異的組換え部位が、2対以上の部位特異的組換え部位を含む、請求項13または請求項14に記載の細菌細胞。
【請求項16】
前記部位特異的リコンビナーゼをコードする遺伝子および/または異種産物をコードする遺伝子をさらに含む、請求項13から15のいずれか一項に記載の細菌細胞。
【請求項17】
前記部位特異的リコンビナーゼをコードする遺伝子が、プロモーターに作動可能に連結されており、好ましくは、前記プロモーターは、温度感受性、pH感受性、光感受性、または化学感受性を有し、より好ましくは、前記プロモーターは、ファージラムダcI857リプレッサーによって制御されている、請求項16に記載の細菌細胞。
【請求項18】
機能的な複製開始点配列を欠く、改変された細菌細胞。
【請求項19】
前記細胞が、細菌細胞における複製開始点を不可逆的に不活性化する工程を含む方法によって取得可能である、請求項18に記載の改変された細菌細胞。
【請求項20】
前記細菌細胞が、請求項12から19のいずれか一項に定義された通りである、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
部位特異的組換え部位によって挟まれた複製開始点を含むポリヌクレオチドベクター。
【請求項22】
前記部位特異的組換え部位が、セリンリコンビナーゼによる認識のための部位特異的組換え部位を含み、好ましくは、前記セリンリコンビナーゼは、γδ、Bxb1、φC31、またはTP901であり、かつ/あるいは、前記部位特異的組換え部位が、チロシンリコンビナーゼによる認識のための部位特異的組換え部位を含み、好ましくは、前記チロシン部位特異的リコンビナーゼは、Cre、Dre、Flp、KD、B2、またはB3である、請求項21に記載のポリヌクレオチドベクター。
【請求項23】
産物を生産するための、請求項12から17のいずれか一項に記載の細菌細胞、請求項18もしくは請求項19に記載の改変された細菌細胞、または請求項21もしくは請求項22に記載のポリヌクレオチドベクターの使用。
【請求項24】
疾患または病状の治療または予防に使用するための、請求項12から17のいずれか一項に記載の細菌細胞、または請求項18もしくは請求項19に記載の改変された細菌細胞であって、好ましくは、前記疾患または病状が、癌、代謝疾患、または免疫障害である、細菌細胞または改変された細菌細胞。
【請求項25】
前記細菌細胞が、エシェリヒア属、バチルス属、ラクトコッカス属、ストレプトコッカス属、ラクトバチルス属、コリネバクテリウム属、ストレプトマイセス属、シュードモナス属、クロストリジウム属、キサントモナス属、または腸内細菌科である、請求項1から請求項24のいずれか一項に記載の方法、細菌細胞、改変された細菌細胞、ポリヌクレオチドベクター、使用、または使用のための細菌細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、細菌細胞により産物を生産する方法に関し、特に、有用な化学物質および産物、例えば生物学的産物を生産するために生きた細胞が使用される産業バイオテクノロジーまたは産業微生物学の分野に関する。より詳細には、本発明は、細菌細胞により産物を生産する方法であって、細菌細胞における複製開始点を不可逆的に不活性化する工程を含む方法に関する。本発明はまた、複製開始点を含む細菌細胞であって、該細菌細胞が、該複製開始点が不可逆的に不活性化され得るように改変された、細菌細胞に関する。本発明はまた、機能的な複製開始点配列を欠く改変された細菌細胞、ならびに、種々のベクター、および該改変された細菌細胞の使用に関する。
【0002】
産業バイオテクノロジーは、生きた細胞(主に微生物)を使って有用な化学物質や材料を生産するものである。そのルーツは伝統的なバイオテクノロジーであり、人々は何千年もの間、微生物を利用してサワーミルクやビールや漬け物を生産してきた。最近では、遺伝子工学や合成生物学の進歩により、可能性のある産物の選択の幅が大いに広がっている。
【0003】
科学文献には、微生物が生産する何百種類もの化学物質の報告があるが、商業生産に至っているものはほんの一部である。主な問題は、候補株の多くが十分な産物を生産しないことである。すなわち、力価、収量、および/または生産性が低過ぎ、採算が取れる商業生産ができない(Van Dien、2013年)。生産量が低い根本的な理由は、微生物の増殖と産物の生産との間にトレードオフがあることである(Venayakら、2015年)。一般的に、微生物は、利用可能な炭素源とエネルギー源を、バイオマスを生産して増殖するかまたは目的の産物を合成するかのどちらかに利用することができる。より多くの資源が増殖に割り当てられると、生産は低下し、その逆もまた同様である。この増殖対生産のトレードオフは、生産株の開発を著しく制限し、商業的に生産できる産物のリストを限定する。
【0004】
このトレードオフを回避する1つの方法として、二段階バイオプロセスが提案されている(Burgら、2016年)。二段階バイオプロセスでは、バイオプロセスが2つの段階に分けられる。最初は細胞が(有意な)生産をせずに最大速度で増殖し、十分なバイオマスが蓄積すると、増殖が止められ、産物生産が誘導される。産物合成に必要な遺伝子の発現を誘導しかつ産物生産を誘導するためのシステムがいくつか丁寧に報告されている(Marschall、Sagmeister、およびHerwig、2017年)が、増殖を止めることは、はるかに難しい。これまでに報告されている、二段階バイオプロセスで増殖を止めるための解決策は、代謝経路の再編成に依存している(Somaら、2014年))(BrockmanおよびPrather、2015年))。増殖から生産へのスイッチ時に、増殖に必要な代謝経路をオフにし、蓄積した代謝中間体を目的の産物に向ける。しかしながら、これらの解決策は、産物に特異的であり、新しい産物ごとに増殖停止のための新しい経路を設計し構築しなければならない。したがって、細菌を増殖段階から生産段階へと効率的にスイッチするための普遍的な方法が欠けている。
【0005】
本発明者らは、二段階バイオプロセスの新規な方法、ひいては細菌による産物生産の新規な方法を開発した。本解決法は、全ての細菌に適用できて、対象となる代謝経路に依存しない(例えば、所望の産物の生産に関与する代謝経路に依存しない)という意味で、普遍的であるので有利である。本解決法は、細菌染色体の複製開始点の不可逆的な不活性化に基づいている。驚くべきことに、これによって細胞の分裂と増殖が不可逆的に停止する一方で、細胞の代謝活性は維持される、ということが判明した。
【0006】
考えられる本発明の用途は数多くある。例えばタンパク質や小分子産物の、力価、収量、および生産性を増加させるために微生物バイオ生産に使用することができる。非分裂性細胞同士は互いにより速く増殖することがないため、一定の株比率の微生物コンソーシアムまたは微生物共培養系を生成するために使用することもできる。このようなコンソーシアムは、2つ(またはそれ以上)の株または種の間で経路が分割されている場合の産物の生産に使用することができる。この場合、第1の株が中間分子を生産し、この中間分子は、その後、第2の(またはさらなる)株によって最終産物に変換される(Wangら、2018年)(Yuanら、2020年)。本発明を用いて、これらの株の増殖期を別々に実施することができ、コンソーシアムは、各株の複製開始点が不可逆的に不活性化された後、例えば細胞の増殖および分裂が完了した後に、それらの株を予め定められた比率で混合することによって、作成することができる。あるいは、各株の複製開始点が不可逆的に不活性化される前、例えば細胞の増殖および分裂が始まる前または完了する前に、それらの株を混合することができる。
【0007】
増殖期と生産期とを分離することにより、これらを異なる時間や施設で実施することも可能になる。ある施設で細胞を増殖させ、後で使用するために同じ場所でまたは別の場所に輸送して保管することが可能である。
【0008】
本発明は、産業微生物学以外でも利用できる。生きている治療薬(living therapeutics)の分野では、生きた微生物細胞を治療薬として患者に投与し、必要な分子を生産したり、有害な分子を分解したりする。これらの生きた治療薬は、その機能を果たすために代謝的に活性でなければならないが、増殖の暴走(runaway multiplication)は避けなければならない。本発明はこの二重の機能を有する。
【0009】
本発明の方法は、ゲノムから複製開始点を永久的に除去または不活性化することを容易にする。一旦複製開始点が除去または不活性化されると、ゲノムは複製を開始することができなくなる。スイッチング(例えば、複製開始点の切除)の効率が非常に高いため、研究者は、産物生産が誘導される前に細胞培養が到達すべき最終細胞密度を精密に選択することができる(例えば図3参照)。
【0010】
本発明で使用される複製開始点の除去または不活性化の永久的性質の別の利点は、細菌を増殖期から生産期にスイッチするために必要な条件を維持する必要がないことである。したがって、一旦複製開始点が除去される(または欠失または不可逆的に不活性化される)と、細胞は、誘導前の条件(または実際には他の任意の条件)に戻すことができ、増殖を再開させることはない。このことは、オペレーターの自由を増し、可能な生産条件を制限しない。
【0011】
本技術の予期せぬ利点は、スイッチされた細胞が、培養密度が高くても産物を生産し続けることである。図4Bでは、コントロール株とスイッチャー株(スイッチング後)の両方が同時に同じ最終細胞密度に到達する実験設定(約10時間)において、スイッチされた細胞ではタンパク質生産がコントロール細胞よりもはるかに長く継続することが示されている。コントロール細胞では、赤色蛍光タンパク質(RFP)の生産が8時間の時点で停止し、それ以降RFPは蓄積しない。しかしながら、スイッチャー細胞(スイッチング後)では、RFPシグナルが14時間まで増加し続け、コントロールと比較してRFPレベルは最大400%の増加となる。これは、両培養物が同時に同じ最大細胞密度に到達するにもかかわらず起こる。
【0012】
本発明は、幅広い応用が可能である。例えば、ヒトの体内で治療に使用する非分裂性の細胞調製物を生成するために使用することができる。このような応用例では、複製開始点の永久的な除去または不活性化が極めて重要である。なぜなら、複製開始点の永久的な除去または不活性化により、細胞調製物がヒトの体内にあるときに複製開始点の不活性化状態を維持できるからである。このことは、産物(治療用産物)の生産、ひいては治療効果を可能にしながら体内での細胞の不要な増殖を防ぐために重要である。
【0013】
本発明はまた、生物学的封じ込め(biocontainment)の分野にも適用することができ、例えばバイオリアクター(または他の閉鎖環境)から自然(または非閉鎖)環境へ偶発的に漏出し得る細胞の増殖の暴走を防止する(Leeら、2018年)。本発明のスイッチされた細胞は、増殖することができないため、閉鎖(例えばバイオリアクター)環境から放出された場合の脅威は低いであろう。これに対して、例えば、一時的にブロックされた細胞だと、一旦誘導条件から逃れると、増殖を再開する可能性がある。
【0014】
1つの態様において、本発明は、細菌細胞(菌体:bacterial cell)により産物を生産する方法であって、該細菌細胞における複製開始点を不可逆的に(または永久的に)不活性化する工程を含む方法を提供する。
【0015】
「複製開始点」という用語は、当技術分野の用語であり、当業者に理解されている。この用語は、一般に、DNA複製が開始され得る任意の配列、例えばヌクレオチド配列を指し、例えば、複製機構の一部であるかまたは複製プロセスに必要である適切なタンパク質および酵素の結合によって、DNA複製が開始され得る任意の配列、例えばヌクレオチド配列を指す。ある特定の細菌株における複製開始点は、当技術分野では特定の名称で呼ばれることがある。例えば、大腸菌の染色体に見られる複製開始点は、oriCと呼ばれ、いくつかの実施形態ではこの複製開始点の不可逆的な不活性化が好ましい。複製開始点は、染色体上に存在することもあれば、染色体外遺伝物質、例えば、エピソーム、プラスミド、またはポリヌクレオチドベクター上に存在することもある。典型的には、複製開始点は染色体上にある。
【0016】
「エピソーム」、「プラスミド」、および「ポリヌクレオチドベクター」という用語は、しばしば環状の二本鎖DNA断片の形態である、染色体外エレメントを指す。このようなエレメントは、任意の源に由来する、一本鎖または二本鎖のDNAまたはRNAの(線状または環状の)、自己複製配列、ゲノム組込み配列、ファージ配列、またはヌクレオチド配列であり得、それらにおいては、いくつかのヌクレオチド配列が、例えば選択された遺伝子産物のための目的のまたは関連するプロモーター断片およびDNA配列を適切な3’非翻訳配列と共に細胞に導入することが可能な独特の構成に、連結されているかまたは組み換えられている。
【0017】
本明細書中で使用する、複製開始点またはそれと同様のものを「不可逆的に不活性化する」または「永久的に不活性化する」という用語は、複製開始点が、DNA複製の開始部位として作用することを不可逆的に(または永久的に)不可能にされるか、あるいは複製開始点として機能的に不活性にされることを意味する。
【0018】
同様に、本明細書中で使用する「不可逆的に不活性化可能な」または「永久的に不活性化可能な」複製開始点という用語は、活性または機能的であるが、不可逆的(または永久的)な方法で不活性化され得る(または不活性化することが可能である)複製開始点を意味する。
【0019】
同様に、本明細書中で使用する「不可逆的に除去可能な」または「永久的に除去可能な」複製開始点という用語は、不可逆的(または永久的)な方法で除去され得る(または除去することが可能である)複製開始点を意味する。
【0020】
実施形態において、複製開始点を不可逆的に(または永久的に)不活性化することは、複製開始点に永久的な変化、好ましくは永久的な遺伝子変化(または永久的なヌクレオチド変化)を加えることによって達成され得る。不可逆的に(または永久的に)不活性化された複製開始点は、複製開始点として機能することができなくなった複製開始点、例えば、DNA複製が開始される部位として使用することができなくなった複製開始点である。
【0021】
実施形態において、細菌細胞における複製開始点を不可逆的に(または永久的に)不活性化することは、複製開始点の遺伝子改変(またはヌクレオチド改変)を含むか、あるいはこのような遺伝子改変(またはヌクレオチド改変)からなる。
【0022】
実施形態において、遺伝子改変(またはヌクレオチド改変)は、複製開始点が複製開始点として機能することができなくなるような複製開始点の変異を含むか、あるいはこのような変異からなる。
【0023】
実施形態において、複製開始点の変異は、複製開始点でのヌクレオチドの挿入、除去、または置換による複製開始点の変異を含む。例示的な変異または改変またはその他の変更は、複製が開始または実行されるために複製開始点と相互作用することが必要であるタンパク質、酵素、または他の分子実体が、複製開始点と相互作用できなくなるか、あるいは、複製、例えば測定可能または有意な複製が起こるような方法で複製開始点と相互作用することができなくなるようなものである。例えば、このような変異などは、複製開始点の機能を低下または阻害または防止する変異など、例えば複製開始点におけるDNA複製を減少または阻害(例えば、有意に減少または阻害)または防止する変異などであればよい。
【0024】
異なる細菌株の細菌の複製開始点に共通する特徴として、DNA鎖の分離を促進するATリッチなDNA巻き戻しエレメント(DNA unwinding element)(DUE)と、DnaAの結合部位となる9ヌクレオチド長のエレメント(いわゆる「DnaAボックス」)とが挙げられる。DNA複製開始の過程で、DnaAモノマーが複製開始点内のDnaAボックスに結合する。これらのDnaAモノマーは、DnaAボックスに結合している間、オリゴマー化してDnaA複合体を形成する。DnaA複合体は、DUEを巻き戻し、かつ、露出した一本鎖へのDNAヘリカーゼ(DnaB)のローディングを支援するのに十分であり、このローディングにより細菌の複製前複合体の形成が完了する。したがって、細菌におけるDNA複製開始にはDUEおよびDnaAボックスが必要であることが、当技術分野において一般的に理解されている。
【0025】
そのため、実施形態において、複製開始点の不可逆的な(または永久的な)不活性化は、複製開始点へのDnaAモノマーの結合が減少もしくは阻止(例えば、有意に減少もしくは阻止)されるか、またはDUEの巻き戻しが減少もしくは阻止(例えば、有意に減少もしくは阻止)されるか、またはDNAヘリカーゼの結合(例えば、DnaBの分子の結合)が減少もしくは阻止(例えば、有意に減少もしくは阻止)されるような、変異(mutation)または他の変更(alteration)または改変(modification)を含む。換言すれば、変異、変更、または改変は、DNA複製が複製開始点において開始できない、もしくは有意に開始できないようなものであるか、または複製開始点が不活性もしくは本質的に不活性であるようなものである。より具体的には、複製開始点の不可逆的な(または永久的な)不活性化は、複製開始点の、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、もしくは全て、または、最大で2個、最大で3個、もしくは最大で4個のDnaAボックス(つまりDnaA結合部位)の変異などを含み得る。
【0026】
実施形態において、複製開始点の不可逆的な(または永久的な)不活性化は、複製開始点の、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個、少なくとも13個、少なくとも14個、少なくとも15個、もしくは全てのDnaAボックスの変異などを含むか、または、最大で5個、最大で6個、最大で7個、最大で8個、最大で9個、最大で10個、最大で11個、最大で12個、最大で13個、最大で14個、もしくは最大で15個のDnaAボックスの変異、例えば、少なくとも13個または最大で13個のDnaAボックスの変異などを含む。実施形態において、複製開始点の不可逆的な(または永久的な)不活性化は、複製開始点の、少なくとも、または最大で、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、もしくは全てのDnaAボックス、例えば、少なくとも13個または最大で13個のDnaAボックスの除去(removal)(または欠失(deletion)または削除(elimination)または切除(excision))を含む。上記変異は除去(または欠失または削除または切除)であることが好ましい。
【0027】
実施形態において、産物は、細菌細胞内で生産されるかまたは細菌細胞により生産可能な、産物(または任意の産物または任意の目的の産物)であって、例えば当技術分野の二段階バイオプロセス法において生産されるかまたはそのような二段階バイオプロセス法によって生産可能な、産物(または任意の産物または任意の目的の産物)である。したがって、このような産物は、大量で、測定可能なまたは有意な量で調製または生産することが望まれる産物であり、例えば、望ましい産物、有用な産物、工業的な産物、もしくは商業的な産物、または、例えば産業上もしくは研究上、価値のある産物である。よって、実施形態において、上記産物は小分子である。あるいは、またはさらに、上記産物は、ポリペプチドまたはタンパク質またはタンパク質複合体(または目的のタンパク質)、例えば、抗体、抗原、酵素、増殖因子、またはサイトカインであってもよい。好ましくは、上記産物は、医薬化合物、医薬品、食品添加物、着色化合物、芳香成分、工業薬品、ファインケミカル、またはバイオ燃料である。好ましくは、上記バイオ燃料は、アルコール、例えばブタノールまたはイソブタノールである。
【0028】
細菌が所望の産物を生産することを可能にするために必要な工程、例えば、産物の合成または調節に必要な遺伝子の発現を誘導または許容することは、当業者にはよく知られているであろう。例えば、産物が小分子である場合、所与の基質から産物を生産することができる1つ以上の酵素を発現させてもよい。上記基質は、例えば、その基質が細菌細胞内の代謝経路の中間体である場合は、細菌細胞内で同種的に(homogenously)または内因的に(endogenously)入手可能であり得る。あるいは、またはさらに、上記基質は、異種的に(heterologously)(例えば、細菌細胞における異種遺伝子の発現によって)、または外因的に(exogenously)、例えば培地への投与によって、提供され得る。
【0029】
産物の生産は、産物の生産を増加させる調節タンパク質の発現によって、かつ/または、産物の生産を減少させる酵素および/もしくは調節タンパク質をコードする遺伝子の削除によって、増強され得る。これらの工程は、通常は、細胞DNAに変化を導入することによって、例えば、ゲノムの変化および/またはプラスミドの変化によって、実行される。産物が異種タンパク質である場合、典型的には、当該異種タンパク質をコードするヌクレオチド配列を提供する必要がある。必要に応じて、シャペロンタンパク質および/または他の補助的因子をコードするヌクレオチド配列も、目的のタンパク質のフォールディングやプロセシングを支援するために提供され得る。細菌細胞からの産物の生産を小規模で試験する場合は、必要な異種遺伝子は、通常、まずプラスミド上またはエピソーム上に提供される。しかしながら、工業規模では、ゲノムからの発現によって行われることがほとんどであり、好ましい。
【0030】
実施形態において、本発明の方法は、細菌細胞による産物または産物生産(または生産された産物)のレベルまたは量または濃度を、好ましくは力価、収量、もしくは生産性の点で、または細胞当たりの力価、細胞当たりの収量、もしくは細胞当たりの生産性の点で、増加または改善させる。好ましくは、上記増加は、測定可能または有意な増加であり、例えば、統計的または臨床的に有意なものである。例として、産物生産または生産された産物のレベル(好ましくは、力価、収量、もしくは生産性の点で、または細胞当たりの力価、細胞当たりの収量、もしくは細胞当たりの生産性の点で)、あるいは、上記産物を生産するかまたは上記産物の生産に積極的な役割を果たす1つ以上の酵素の活性を、少なくとも、または最大で、1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、または10倍増加させることができる、機能的な複製開始点配列を欠く本発明の細菌細胞(例えば、複製開始点が不可逆的に(または永久的に)不活性化された本発明の細菌細胞)が好ましい。任意の適切な比較を用いることができ、例えば、複製開始点の不可逆的な(または永久的な)除去が存在しないかまたは誘導されていない同じ種類の細菌細胞(例えば、複製開始点が不可逆的に不活性化されていない同等の細菌細胞)から観察される上記のレベルと比較した場合の増加、または、例えば他の箇所に記載されるように、コントロール株の上記のレベルとの比較における増加である。
【0031】
本明細書中で使用する「コントロール株」(またはコントロール細胞)という用語は、一般に、複製開始点の不可逆的な(または永久的な)除去がない、またはそのような除去を有さない、細菌株(同等の細菌株)を指し得る。例えば、この用語は、不可逆的な(または永久的な)不活性化が可能な複製開始点を含まないという点で本発明の細菌細胞とは異なり、例えば、天然のまたは野生型または未改変の複製開始点を含み、例えば、天然のまたは野生型または未改変の株または細胞である、細菌株(または細菌細胞)を指し得る。あるいは、「コントロール株」という用語は、複製開始点の不可逆的な(または永久的な)不活性化が存在しないかまたはトリガー/誘導されない条件で使用される場合の細菌株または細菌細胞(例えば、本発明の細菌細胞)を示し得る(例えば、本明細書中で定義するスイッチャーまたはスイッチャー細胞、すなわち、複製開始点が不可逆的に不活性化され得るように改変されている(すなわち、不可逆的に不活性化することが可能である)が不可逆的に不活性化されてはいない、改変された細菌細胞)。あるいは、「コントロール株」という用語は、(例えばスイッチャー細胞について上述したような)改変された複製開始点を有している細菌株または細菌細胞であるが、例えば当該細菌細胞が不活性化プロセスの触媒作用を担う酵素(または当該酵素の機能的形態)(例えば、部位特異的リコンビナーゼであり、例えば、このようなコントロール株は、欠陥のあるリコンビナーゼもしくは非機能的なリコンビナーゼを含み得るか、または、活性なリコンビナーゼを欠き得る)を欠くために、複製開始点の不可逆的な(または永久的な)不活性化が誘導され得ない細菌株または細菌細胞を示し得る。
【0032】
産物生産または生産された産物のレベル(好ましくは、力価、収量、もしくは生産性の点で、または細胞当たりの力価、細胞当たりの収量、もしくは細胞当たりの生産性の点で)あるいは上記産物を生産する酵素の活性を測定する適切な方法は、当業者にはよく知られているであろう。したがって、本発明のいくつかの実施形態では、本方法は、細菌株によって生産された産物の量またはレベル(例えば、濃度)を検出または測定し(例えば、力価または収量を測定する場合)、必要に応じて、細菌細胞により生産される産物をその量またはレベル(例えば、濃度)まで生産するのに要した時間を測定する工程を含む。
【0033】
したがって、典型的には、本発明の株または本発明の方法に使用される株は、スイッチされた場合(すなわち、複製開始点が不可逆的に(または永久的に)不活性化された後)、上記のようなコントロール株、例えばスイッチャー株よりも高いレベルを示し、場合によっては有意に高いレベルの産物生産または生産された産物(好ましくは、力価、収量、もしくは生産性の点で、または細胞当たりの力価、細胞当たりの収量、もしくは細胞当たりの生産性の点で)を示す。適切な場合には、産物生産のレベルは、当技術分野で公知の方法によって便利に測定または決定することができる。したがって、コントロールよりも高い(増加した)レベルまたは有意に高い(増加した)レベルの産物生産または生産された産物(好ましくは、力価、収量、もしくは生産性の点で、または細胞当たりの力価、細胞当たりの収量、もしくは細胞当たりの生産性の点で)を、例えばin vitroで評価した場合に、示すことができる株は、本発明のさらに別の態様を形成する。
【0034】
細菌細胞により生産された産物は、培地(もしくは上清)中に分泌される場合もあれば、細胞内に保持される場合もある。したがって、生産または生産された産物のレベルは、培地(もしくは上清)中に存在する産物のレベル、細胞内に保持された産物のレベル(例えば、これは標準的なタンパク質抽出・精製後に測定可能である)、またはその両方の観点から、該当する産物に応じて適宜測定され得る。
【0035】
別の見方をすると、スイッチされたときに、コントロール株よりも高い(増加した)レベル、または有意に高い(増加した)レベルの産物生産または生産された産物(好ましくは、力価、収量、もしくは生産性の点で、または細胞当たりの力価、細胞当たりの収量、もしくは細胞当たりの生産性の点で)を、例えば細菌細胞の培地(もしくは上清)中で、および/または細胞内で、例えばin vitroで評価した場合に、示すことができる株は、本発明のさらに別の態様を形成する。例えば、スイッチされたときに被験体において産物生産または生産された産物の高い(増加した)レベル、または有意に高い(増加した)レベル(好ましくは、力価、収量、もしくは生産性の点で、または細胞当たりの力価、細胞当たりの収量、もしくは細胞当たりの生産性の点で)を示すことができる株、例えばスイッチされたときに、被験体においてコントロール株よりも高い(増加した)局所レベルの産物生産または生産された産物を、例えばin vivoで評価した場合に、示すことができる株は、本発明のさらに別の態様を形成し、特に、株を被験体に投与したときにそのような効果が観察される場合に、本発明のさらに別の態様を形成する。
【0036】
本発明の細菌細胞または改変された細菌細胞は、治療法、例えば細菌細胞を用いた治療法のためや、適応される疾患の治療のための、従来の任意の適切な方法で、被験体に投与され得る。そのような方法には、経口投与、舌下投与、経皮投与、皮膚投与、直腸投与、鼻腔投与、膣投与、もしくは眼投与、または吸入投与、頬側投与、もしくは注射投与が含まれるが、これらに限定されない。さらに、本発明の細胞または組成物は、例えば注射または持続注入による非経口投与用に製剤化され得る。投与経路は、被投与者に害を与えることなく、細菌細胞または改変された細菌細胞を所望の部位に効果的に輸送する経路であればよい。
【0037】
好ましくは、細菌株における上記のより高いレベルまたは増加(産物生産のレベルまたは増加、あるいは生産された産物のレベルまたは増加、あるいは産物を生産する酵素の活性のレベルまたは増加)は、測定可能または有意な増加であり、例えば、統計的または臨床的に有意なものである。例として、産物または産物生産または生産された産物のレベル(好ましくは、力価、収量、もしくは生産性の点で、または細胞当たりの力価、細胞当たりの収量、もしくは細胞当たりの生産性の点で)、例えば、産物生産または生産された産物の局所レベルまたはin vitroレベル、あるいは、産物を生産する酵素の活性のレベル(例えば、in vitroで評価した場合)を、上述のようにコントロールのレベルと比較して、少なくとも、または最大で、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、550%、またはそれ以上、増加させることができる株が好ましい。別の見方をすれば、産物または産物生産または生産された産物のレベル(好ましくは、力価、収量、もしくは生産性の点で、または細胞当たりの力価、細胞当たりの収量、もしくは細胞当たりの生産性の点で)、例えば、産物生産または生産された産物の局所レベルまたはin vitroレベル、あるいは、産物を生産する酵素の活性のレベルを、上述のようにコントロールのレベルと比較して、少なくとも、または最大で、1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、または10倍、増加させることができる株が好ましい。in vitroレベルは、例えば細菌培養において、本明細書中の他の箇所に記載されるように、便利に測定することができる。好ましくは、このような増加は、産物の細胞外(例えば分泌された)レベルおよび/または細胞内レベルの増加(好ましくは、力価または収量の点で)、あるいは、産物を生産する酵素の活性の増加であって、例えばin vitroで、例えば細菌培養の培地(もしくは上清)中でまたは細胞内で、測定した増加、ある。
【0038】
産物または産物生産または生産された産物のレベル(好ましくは、力価、収量、もしくは生産性の点で、または細胞当たりの力価、細胞当たりの収量、もしくは細胞当たりの生産性の点で)、あるいは、産物を生産する酵素の活性を測定するための適切な方法は、当業者に公知であり、そのいずれかを使用することができる。
【0039】
実施形態において、本発明の方法は、細菌細胞による産物または産物生産または生産された産物のレベル(好ましくは、力価、収量、もしくは生産性の点で、または細胞当たりの力価、細胞当たりの収量、もしくは細胞当たりの生産性の点で)を増加させる。好ましくは、上記増加は、測定可能または有意な増加であり、例えば、統計的または臨床的に有意なものである。例として、細菌細胞における複製開始点の不可逆的な(または永久的な)不活性化(または細菌細胞における機能的な複製開始点配列の欠如)は、本発明の方法において使用される場合、産物生産または生産された産物のレベル(好ましくは、力価、収量、もしくは生産性の点で、または細胞当たりの力価、細胞当たりの収量、もしくは細胞当たりの生産性の点で)において、あるいは、産物を生産する酵素の活性において、上記で定義したような増加倍数または増加率をもたらす。任意の適切な比較を用いることができ、例えば、同じ細菌細胞(または同じタイプの細菌細胞)において、細菌細胞における複製開始点が不活性化されていない(または不可逆的に不活性化されていない)場合に、観察されるレベルと比較したときのレベル(好ましくは、力価、収量、もしくは生産性の点で、または細胞当たりの力価、細胞当たりの収量、もしくは細胞当たりの生産性の点で)の増加や、コントロール細胞、例えば、本明細書中の他の箇所に記載されるようなコントロール細胞でのレベルと比較したときのレベル(好ましくは、力価、収量、もしくは生産性の点で、または細胞当たりの力価、細胞当たりの収量、もしくは細胞当たりの生産性の点で)の増加など、任意の適切な比較を用いることができる。
【0040】
必要に応じて、細菌細胞による産物または産物生産または生産された産物のレベル(好ましくは、力価、収量、または生産性)を、細菌細胞数ごとに(または細菌細胞集団サイズごとに、または細菌細胞集団密度ごとに)定量化することができる。換言すれば、細菌細胞による産物または産物生産または生産された産物のレベル(好ましくは、力価、収量、または生産性)を、産物を生産するために使用される細菌細胞数(または細菌細胞集団サイズ、または細菌細胞集団密度)を考慮した方法で、定量化することができる。
【0041】
細菌細胞集団サイズまたは細菌細胞数を測定する適切な方法は、600nmにおける細菌細胞集団の光学密度(OD600)の測定をはじめとして、当技術分野においてよく知られている。
【0042】
実施形態において、本発明の細菌細胞または本発明の方法において使用される細菌細胞は、細菌細胞の複製開始点が不可逆的に(または永久的に)不活性化された後の一定期間、産物を生産する能力(または、産物を生産するように誘導/刺激される能力)を保持する(好ましくは、このような能力は、コントロール細胞、例えば本明細書中の他の箇所に記載されるようなコントロール細胞と比較して、より長い期間、または有意により長い期間保持される)。本発明の細菌細胞または本発明の方法において使用される細菌細胞は、細菌細胞の複製開始点が不可逆的に(もしくは永久的に)不活性化された後、または細菌細胞の不可逆的な(もしくは永久的な)不活性化がトリガーもしくは誘導された後、あるいは、細菌細胞における複製開始点を不可逆的に不活性化する工程が実施された後、最大で(もしくは少なくとも)3時間、最大で(もしくは少なくとも)4時間、最大で(もしくは少なくとも)5時間、最大で(もしくは少なくとも)6時間、最大で(もしくは少なくとも)7時間、最大で(もしくは少なくとも)8時間、最大で(もしくは少なくとも)9時間、最大で(もしくは少なくとも)10時間、最大で(もしくは少なくとも)11時間、最大で(もしくは少なくとも)12時間、最大で(もしくは少なくとも)13時間、最大で(もしくは少なくとも)14時間、最大で(もしくは少なくとも)15時間、最大で(もしくは少なくとも)20時間、最大で(もしくは少なくとも)25時間、または最大で(もしくは少なくとも)30時間、産物を生産する能力(または、産物を生産するように誘導/刺激される能力)を保持し得る。また、任意の特定の時点において、本発明の細菌細胞または本発明の方法において使用される細菌細胞が産物を生産する能力が、本明細書中の他の箇所に記載されるような適切なコントロール細胞よりも、例えば、スイッチャー細胞(すなわち、複製開始点が不活性化されていない本発明の改変された細菌細胞)、または複製開始点の不可逆的な不活性化が起こり得ない細胞、または未改変もしくは野生型の細胞と比較して、優れている、例えば、有意に優れていることも好ましい。
【0043】
細菌細胞における複製開始点の不可逆的な不活性化は、細胞の分裂および増殖の停止につながるはずである。一旦細菌細胞における複製開始点の不可逆的な不活性化が誘導またはトリガーされると、細菌細胞培養物は、徐々に明確な細胞密度プラトーに達する。細胞密度の増加が停止する(すなわち、細胞密度がプラトーに達する)値は、細菌細胞培養の開始細胞密度(例えば、接種された培養液の細胞密度および/または接種された培養液の希釈倍率)ならびに/あるいは複製開始点の不可逆的不活性化が誘導される細胞密度を調整することによって選択することができる。
【0044】
したがって、実施形態において、本発明の細菌細胞または本発明の方法において使用される細菌細胞の培養物のピーク細胞密度(または最大(maximum)細胞密度または極大(maximal)細胞密度または細胞密度プラトー)は、コントロール細菌細胞培養物のピーク細胞密度の、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、約100%(つまり、ほぼ同じ、もしくは同じ)、100%超、少なくとも100%、少なくとも105%、少なくとも110%、約110%、少なくとも115%、少なくとも120%、少なくとも125%、少なくとも130%、少なくとも135%、少なくとも140%、少なくとも145%、少なくとも150%である。「最大」値としても、これらのパーセンテージが与えられる。
【0045】
好ましくは、本発明の細菌細胞または本発明の方法において使用される細菌細胞の培養物のピーク細胞密度(または最大細胞密度または極大細胞密度または細胞密度プラトー)は、コントロール細菌細胞培養物のピーク細胞密度の、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、約100%(つまり、ほぼ同じ、もしくは同じ)、100%超、少なくとも100%、少なくとも105%、少なくとも110%、約110%、少なくとも115%、または少なくとも120%である。「最大」値としても、これらのパーセンテージが与えられる。
【0046】
好ましくは、本発明の細菌細胞または本発明の方法において使用される細菌細胞の培養物のピーク細胞密度(または最大細胞密度または極大細胞密度または細胞密度プラトー)は、コントロール細菌細胞培養物のピーク細胞密度の、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、約100%(つまり、ほぼ同じ、もしくは同じ)、100%超、少なくとも100%、少なくとも105%、少なくとも110%、または約110%である。「最大」値としても、これらのパーセンテージが与えられる。
【0047】
適切なコントロール細菌細胞培養物は、本明細書中の他の箇所に記載される通りであり、例えば、複製開始点の不可逆的な不活性化が誘導されていない(例えば、複製開始点の不可逆的な不活性化が起こらないかまたは起こり得ない)本発明の細菌細胞の培養物であり得る。
【0048】
実施形態において、本発明の細菌細胞もしくは改変された細菌細胞または本発明の方法において使用される細菌細胞もしくは改変された細菌細胞による生産された産物のレベルまたは生産のレベルは、細菌細胞培養物または改変された細菌細胞の培養物のピーク細胞密度(または最大細胞密度または極大細胞密度または細胞密度プラトー)がコントロール細菌細胞培養物のものにより近い場合、例えば、上記のようなコントロール細菌細胞培養物のピーク細胞密度などの少なくとも70%である場合に、より高くなる。
【0049】
実施形態において、本発明の方法は、細菌細胞により生産される産物の収量もしくは力価を増加させるか、または細菌細胞の生産性を増加させる。
【0050】
「力価」という用語は、バイオプロセス中またはバイオプロセス終了時に生産される産物の量または濃度を意味する。したがって、力価は「g/L」単位または任意の他の適切な単位で測定することができる。
【0051】
「収量」という用語は、生産方法またはバイオプロセスのために細菌に与えられる基質(例えば、炭素およびエネルギー源)の質量当たりに生産される産物の質量を意味する。したがって、収量は「g/g」単位または任意の他の適切な単位で測定することができる。
【0052】
「生産性」という用語は、バイオプロセスにおいて細菌が産物を生産する速さに関連する。したがって、生産性は、単位時間当たりに生産される産物の量または濃度である。したがって、生産性は、「gL-1-1」、すなわち1時間当たり1リットル当たりのグラム数を単位として、または任意の他の適切な単位で、測定することができる。
【0053】
実施形態において、産物は異種産物である。
【0054】
「異種(heterologous)」という用語は、当技術分野において一般に理解されている。したがって、本発明の文脈における「異種産物(heterologous product)」とは、細菌によって通常生産されない(すなわち、自然には生産されない、または天然には生産されない)産物である。したがって、ある細菌が異種産物を生産するためには、遺伝子改変されるかまたは異種基質に曝露されることを必要とする場合がある。したがって、「異種」は「外因性(exogenous)」を意味し得る。「異種」という用語は、「同種(homologous)」および「内因性(endogenous)」と対照的であり、これらの用語もやはり当技術分野において一般に理解されている。
【0055】
実施形態において、産物は同種産物である。
【0056】
「同種」という用語は、当技術分野において一般に理解されている。したがって、本発明の文脈において使用される「同種」という用語は、細菌によって通常生産される(すなわち、自然に生産される、または天然に生産される)産物である。したがって、ある細菌が同種産物を生産するためには、異種基質に曝露されなくてもよい。したがって、「同種」は「内因性」を意味し得る。
【0057】
産物が同種産物もしくは内因性産物である場合、細菌細胞は、複製開始点が不可逆的に除去される前(すなわち、スイッチング前)に既に産物を生産していることがある。この場合、例えば本明細書中の他の箇所に記載されるようなコントロール細菌細胞と比較して、産物のレベルを増加させるか、または産物を過剰発現させるために、例えば、同種産物もしくは内因性産物を生産する際の細菌細胞の力価、収量、および/または生産性を増加させるために、複製開始点の不可逆的な除去を使用することができる。
【0058】
実施形態において、複製開始点を不可逆的に(または永久的に)不活性化することは、遺伝子(またはヌクレオチド)改変によって達成され得、ここで、遺伝子(またはヌクレオチド)改変は、複製開始点の全ヌクレオチド配列または完全なヌクレオチド配列の除去または改変または変異を含むか、あるいはそのような除去または改変または変異からなる。別の見方をすれば、複製開始点を不可逆的に(または永久的に)不活性化することは、複製開始点の全ヌクレオチド配列の除去によって達成され得る。別の見方をすれば、複製開始点を不可逆的に(または永久的に)不活性化することは、複製開始点の全配列を除去(または欠失または削除または切除)することによって、すなわち、複製開始点の全てを除去(または完全に欠失もしくは削除もしくは切除)することによって達成され得る。大腸菌では、ori配列はoriCと呼ばれ、一般的な実験室株ではmnmG遺伝子とmioC遺伝子との間に位置している(Messer、2002年)。そのため、例として、これら2つの遺伝子間のヌクレオチド配列の全部または一部を除去(または欠失または削除または切除)すると、その結果として、複製開始点が除去され、不可逆的不活性化が起こり得る。
【0059】
別の実施形態では、複製開始点を不可逆的に(または永久的に)不活性化することは、遺伝子(またはヌクレオチド)改変によって達成され得、ここで、遺伝子(またはヌクレオチド)改変は、複製開始点の少なくとも一部または複製開始点の一部のみの除去または改変または変異を含むか、あるいはそのような除去または改変または変異からなる。別の見方をすれば、複製開始点を不可逆的に(または永久的に)不活性化することは、複製開始点の少なくとも一部または複製開始点の一部のみを除去(または欠失または削除または切除)することによって達成され得る。
【0060】
複製開始点の少なくとも一部または一部のみが改変または除去(例えば、部分的除去など)される実施形態は、複製開始点が複製開始点として機能する能力の喪失または有意な低下、例えばその部位でDNA複製を開始する能力の喪失または有意な低下をもたらす任意の除去または改変、あるいは、複製開始点の不可逆的な不活性化をもたらす任意の除去または改変を包含する。
【0061】
本明細書中で使用する「除去された(removed)」(または、欠失された(deleted)、または、削除された(eliminated)、または、切除された(excised))という用語またはそれと同様の用語は、複製開始点(またはその一部)が、それが含まれていたポリヌクレオチドを細菌細胞が複製できなくなる(または複製する能力が著しく低下する)ように、当該ポリヌクレオチドから除去(または欠失または削除または切除)されたことを意味する。したがって、複製開始点(またはその一部)は、それが本来含まれていたポリヌクレオチド、例えば細菌染色体から除去された場合、「除去された」(または、欠失された、または、削除された、または、切除された)と見なすことができる。したがって、複製開始点(またはその一部)は、それが含まれていたか本来含まれていたポリヌクレオチドからは欠失されたが、それにもかかわらず細菌細胞内に残っている(例えば、細胞内の直鎖状配列または環状配列またはプラスミドまたはエピソームとして)場合もやはり「除去された」と見なすことができる。必要に応じて、「除去された」という用語は、もはや細菌細胞に含まれないように細菌細胞から除去されたことを意味する。
【0062】
複製開始点の少なくとも一部の除去(または欠失または削除または切除)または改変、あるいは、複製開始点の一部のみの除去(または欠失または削除または切除)または改変(例えば、部分的除去)は、複製開始点内の複数の隣接していない(noncontiguous)(または、途切れのある(non-continuous)、または、連続していない(non-consecutive))配列の除去、例えば本明細書中の他の箇所に記載されるような、複製開始点からの1つ以上または2つ以上などのDnaAボックス配列の改変(例えば変異)または除去を、例えば包含し得る。あるいは、複製開始点の「部分的」除去または複製開始点の「一部」の除去に言及するとき、それは、複製開始点内の単一の、隣接して続く(contiguous)(または、途切れなく続く(continuous)、または、連続した(consecutive))配列の改変(例えば変異)または除去のみを包含し得る。
【0063】
実施形態において、遺伝子改変は、複製開始点のヌクレオチド配列の部分的除去を含むか、または複製開始点のヌクレオチド配列の部分的除去からなる。
【0064】
実施形態において、複製開始点の部分的除去(または部分的欠失または部分的削除または部分的切除)は、複製開始点のDnaAボックスのヌクレオチド配列の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、もしくは95%、または100%の除去(または欠失または削除または切除)を含むか、あるいはそのような除去(または欠失または削除または切除)からなる。好ましくは、複製開始点の部分的除去(または部分的欠失または部分的削除または部分的切除)は、複製開始点のDnaAボックスのヌクレオチド配列の少なくとも3分の1(つまり少なくとも33%)、少なくとも2分の1(つまり少なくとも50%)、少なくとも3分の2(つまり少なくとも67%)、または全ての除去(または欠失または削除または切除)を含むか、あるいはそのような除去(または欠失または削除または切除)からなる。「最大」値としても、これらのパーセンテージが与えられる。
【0065】
実施形態において、複製開始点の部分的除去(または部分的欠失または部分的削除または部分的切除)は、複製開始点のDNA巻き戻しエレメント(DUE)のヌクレオチド配列の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、もしくは95%、または100%の除去(または欠失または削除または切除)を含むか、あるいはそのような除去(または欠失または削除または切除)からなる。好ましくは、複製開始点の部分的除去(または部分的欠失または部分的削除または部分的切除)は、複製開始点のDNA巻き戻しエレメントのヌクレオチド配列の少なくとも3分の1(つまり少なくとも33%)、少なくとも2分の1(つまり少なくとも50%)、少なくとも3分の2(つまり少なくとも67%)、または全ての除去(または欠失または削除または切除)を含む。「最大」値としても、これらのパーセンテージが与えられる。
【0066】
実施形態において、複製開始点の部分的除去(または部分的欠失または部分的削除または部分的切除)は、好ましくは、複製開始点のヌクレオチド配列の少なくとも3分の1(つまり少なくとも33%)、少なくとも2分の1(つまり少なくとも50%)、少なくとも3分の2(つまり少なくとも67%)、または全ての欠失を含む。好ましくは、複製開始点の部分的除去(または部分的欠失または部分的削除または部分的切除)は、複製開始点のヌクレオチド配列の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、もしくは95%、または100%の除去(または欠失または削除または切除)を含む。「最大」値としても、これらのパーセンテージが与えられる。
【0067】
実施形態において、本発明の方法は、
(i)上記産物を生産することが可能であるかまたは上記産物を生産する細菌細胞を用意することと、
(ii)上記細菌細胞における複製開始点を不可逆的に(または永久的に)不活性化することと、必要に応じて、
(iii)上記細菌細胞内で産物の生産を誘導することと、を含む。
【0068】
工程(ii)を実施するための適切な技術は当業者にはよく知られており、そのいずれを用いてもよい。例えば組換えまたは部位特異的組換えの使用を含む、好ましい技術は、本明細書中の他の箇所に記載されている。
【0069】
実施形態において、本発明の方法の工程(ii)および工程(iii)は、同時にまたは順次行われる。順次行われる場合、工程(ii)および工程(iii)は、任意の適切な順序で実施することができる。
【0070】
実施形態において、細菌細胞は、細菌細胞集団内に存在する。実際、本発明の全ての実施形態において、細菌細胞は、典型的には、細菌細胞集団の一部であるか、細菌細胞集団を含むか、または細菌細胞集団からなる。
【0071】
本発明の好ましい方法において、本発明の方法の工程(ii)および/または工程(iii)は、細菌細胞集団の指数増殖期の間に行われる。指数増殖期中、工程(ii)および/または工程(iii)を実施するのに適切な時点は、例えば所望の産物生産または最大の産物生産のために、容易に決定することができる。例えば、いくつかの実施形態では、工程(ii)つまりスイッチの起動を、細胞密度が低い(または比較的低い)指数増殖期の開始時(または前半)に実施することが有益であり得、いくつかの実施形態では、細胞密度が高い(例えば、指数増殖期の開始時よりも高いかまたは有意に高い)指数増殖期の後期(例えば、後半)に実施することが有益であり得る。多くの実施形態では、スイッチの最適なタイミングは、達成したい最終(または最大)細胞密度に大きく依存する。所望の最終細胞密度が高ければ、スイッチを指数増殖期の後期に誘導することが必要になる可能性が高く、所望の最終細胞密度が低ければ(または、それほど高くなくてもよければ)、スイッチを指数増殖期の早期に誘導することができる。
【0072】
培養中の細菌の増殖を、典型的に(1)誘導期(lag phase)、(2)指数期(exponential phase)、(3)定常期(stationary phase)、および(4)死滅期(death phase)という4つの異なる期でモデル化できることが、当技術分野においてよく理解されている。誘導期では、細菌は培養条件に適応し、細胞分裂は最小限であるかまたは全く起こらない。指数期では、細胞分裂が起こるため、連続する期間ごとに細胞数が倍増する。定常期には、必須栄養素の枯渇などの増殖制限要因によって到達する。定常期では、細胞増殖速度は細胞死速度と一致する(例えば、細胞増殖も細胞死も事実上存在しない場合がある)。すなわち、細胞数はほぼ同じままである。死滅期では、より多くの細菌が死滅するため、(生きている)細胞の数は減少する。これらの典型的な期は、例えば、本明細書に添付の図3図4、および図5に見ることができる。
【0073】
指数増殖期が始まる時間は、事前に(例えば、特定の条件下/接種レベル下での当該株の増殖パターンの知識から)、または、増殖の定期的な監視(例えば、600nmにおける細菌細胞培養物の光学密度(OD600)の測定による)によって、予測可能である/知ることができることが、当技術分野において理解されている。
【0074】
本明細書中で使用する「スイッチ(switch)」および「スイッチング(switching)」という用語は、細菌細胞における複製開始点の不可逆的な(または永久的な)不活性化の過程または工程を指す。
【0075】
本明細書中で使用する「スイッチ」および「スイッチング」という用語は、例えば二段階バイオプロセス法において、細菌細胞が増殖段階から生産段階に変化する過程を指し得る。換言すれば、本明細書中で使用する「スイッチ」および「スイッチング」という用語は、細菌細胞が(i)増殖(例えば、細胞増殖(cell growth)、分裂増殖(multiplication)、および/またはバイオマスの増加)が産物生産よりも優先され、好ましくは産物生産が行われない状態(例えば、代謝状態)から、(ii)産物生産が増殖(例えば、細胞増殖、分裂増殖、および/またはバイオマスの増加)よりも優先され、好ましくは増殖(例えば、細胞増殖、分裂増殖、および/またはバイオマスの増加)が行われない状態(例えば、代謝状態)へ変化する過程を指し得る。
【0076】
本発明の方法において、細菌細胞が増殖段階から生産段階へ変化する過程は、細菌細胞の複製開始点の不可逆的な(または永久的な)不活性化によって誘導され得る(または引き起こされ得る、またはそれに付随し得る)。驚くべきことに、このような不活性化は、細菌細胞の増殖を停止または有意に減少させる便利な方法を提供することができる。また、このような不活性化は、細菌細胞を産物生産が増殖(例えば、細胞増殖、分裂増殖、および/またはバイオマスの増加)よりも優先され、好ましくは増殖(例えば、細胞増殖、分裂増殖、および/またはバイオマスの増加)が行われない状態へスイッチする便利な方法を提供することができる。したがって、本発明の方法において、このような、複製開始点を不可逆的に不活性化する工程は、産物生産(所望の産物生産)、例えば内因的産物生産を伴うか、または適切な時点で産物(所望の産物)の生産を誘導する工程を伴うことが好ましい。
【0077】
同様に、「スイッチャー(switcher)」または「スイッチャー細胞」または「スイッチャー株」は、複製開始点を含む細菌細胞であって、その複製開始点が不可逆的に(または永久的に)不活性化され得るように、改変された細菌細胞である。本明細書中で使用する「スイッチされた(switched)」または「スイッチされた細胞」もしくは「スイッチされた株」という用語は、複製開始点が不可逆的に(または永久的に)不活性化された細胞を意味する。
【0078】
スイッチング、つまり複製開始点の不可逆的な(または永久的な)不活性化は、任意の適切な時点で誘導または実施することができる。
【0079】
実施形態において、スイッチング、つまり複製開始点の不可逆的な(または永久的な)不活性化は、細菌細胞集団の指数増殖期中に誘導または実施される。例えば、複製開始点の不可逆的な(または永久的な)不活性化は、細菌細胞集団の指数増殖期の開始時、またはほぼ開始時、または開始直後、または開始の少し後に誘導または実施されてもよい。換言すれば、開始点の不活性化は、例えば、指数増殖期の前半に誘導または実施されてもよく、極大細胞密度(もしくはOD)の50%の細胞密度の達成時点またはその達成前の時点で誘導または実施されてもよい。他の実施形態において、スイッチング、つまり複製開始点の不可逆的な(または永久的な)不活性化は、細胞密度がより高い細菌細胞集団の指数増殖期の後期、例えば指数増殖期の後半に誘導または実施されるか、または、極大細胞密度(もしくはOD)の50%の細胞密度の達成後の時点で誘導または実施される。
【0080】
代替的な実施形態において、スイッチング、つまり複製開始点の不可逆的な(または永久的な)不活性化は、細菌細胞集団の指数増殖期よりも前に誘導または実施されてもよい。例えば、複製開始点の不可逆的な(または永久的な)不活性化は、細菌細胞集団の指数増殖期の開始直前(または開始の少し前)に誘導または実行されてもよい。
【0081】
したがって、スイッチング、つまり複製開始点の不可逆的な(または永久的な)不活性化は、培地への細菌接種後、予測された時点、または好都合な時点、または好適な時点で、誘導または実施されるか、細菌培養物の細胞密度(光学密度)がある特定の閾値レベルもしくは所望の閾値レベルに到達した後、例えば、到達直後または到達後間もなく、誘導または実施される。
【0082】
好ましくは、到達後、例えば到達直後にスイッチング(すなわち、複製開始点の不可逆的不活性化)を開始または誘導すべき閾値光学密度レベルは、スイッチング後の細菌細胞培養物またはコントロール細菌細胞培養物のピーク細胞密度(または最大細胞密度または極大細胞密度または細胞密度プラトー)、例えば、スイッチングを行わない細菌細胞培養物のピーク細胞密度の少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、または少なくとも90%である。
【0083】
好ましくは、到達直後にスイッチング(すなわち、複製開始点の不可逆的不活性化)を開始または誘導すべき閾値光学密度レベルは、スイッチング後の細菌細胞培養物またはコントロール細菌細胞培養物のピーク細胞密度(または最大細胞密度または極大細胞密度または細胞密度プラトー)、例えば、スイッチングを行わない細菌細胞培養物のピーク細胞密度の1%~5%、5%~10%、10%~15%、15%~20%、20%~25%、25%~30%、30%~35%、35%~40%、40%~45%、45%~50%、50%~55%、55%~60%、60%~65%、65%~70%、70%~75%、75%~80%、80%~85%、または85%~90%である。
【0084】
上記および本明細書中の他の箇所で述べるような、ピークまたは最大などの細胞密度の光学密度レベルは、予め決定することができるが、異なる条件下、例えば、培地や温度などの異なる増殖条件下、または異なる産物の生産下で、細菌細胞によって異なる。したがって、選択された条件下または所望の条件下で達成される最大細胞密度の百分率を使用することは、スイッチング(つまり複製開始点の不可逆的不活性化)をいつ開始または誘導すべきかを決定するのに特に好都合である。
【0085】
コントロール細菌細胞培養物は、例えば、複製開始点の不可逆的不活化が誘導されない(すなわち、複製開始点の不可逆的不活化が起こらないか、または起こり得ない)本発明の細菌細胞の培養物とすることができる。
【0086】
所望の産物の生産は、当業者であれば容易に決定できる任意の適切な時点で行われ得る。
【0087】
実施形態において、所望の産物の生産は、スイッチング、つまり複製開始点の不可逆的な(または永久的な)不活性化が誘導または実施されるのと同時(あるいは、スイッチングつまり複製開始点不活性化とほぼ同時、またはスイッチングつまり複製開始点不活性化の直前、またはスイッチングつまり複製開始点不活性化の直後、またはスイッチングつまり複製開始点不活性化の少し前もしくは少し後)に開始または誘導(例えば、所望の産物の生成を担う酵素または代謝経路の生産および/または活性化を誘導することによってか、あるいは、例えば産物がタンパク質である場合は、産物をコードする遺伝子または核酸配列の発現を誘導することにより、産物の生産を誘導することによって)されてもよい。
【0088】
あるいは、産物(所望の産物)の生産の開始または誘導のタイミングは、必ずしもスイッチングつまり複製開始点不活性化の誘導のタイミングと結び付けなくてもよく、細菌細胞が測定可能または有意なレベルの産物(所望の産物)を生産することが可能であれば、任意の適切な時点で実施することができる。例えば、実施形態において、産物の生産は、細菌細胞集団の指数増殖期中(または指数増殖期のほぼ開始時、または開始直前、または開始直後、または開始の少し前、または開始の少し後)に、開始または誘導(例えば、所望の産物の生成を担う酵素または代謝経路の生産および/または活性化を誘導することによってか、あるいは、例えば産物がタンパク質である場合は、産物をコードする遺伝子または核酸配列の発現を誘導することにより、産物の生産を誘導することによって)される。換言すれば、産物生産は、例えば、指数増殖期の前半に、または極大細胞密度(もしくはOD)の50%の細胞密度が達成された時点でもしくはその達成前に、誘導または実行され得る。他の実施形態において、産物生産は、例えば、細胞密度がより高くなる細菌細胞集団の指数増殖期の後期、例えば指数増殖期の後半に、または極大細胞密度(もしくはOD)の50%の細胞密度の達成後の時点で、誘導または実行され得る。
【0089】
あるいは、産物の生産を指数期のタイミングと結び付けなくてもよい。例えば、産物は、構成的または内因的に生産されてもよく(その場合、開始または誘導工程は必ずしも必要ではない)、細菌細胞培養物増殖の指数期の開始前または開始後に開始または誘導を始めてもよい。
【0090】
代替的な実施形態において、産物の生産は、指数増殖期中の他の時点で開始または誘導されたり、さらには定常期中に開始または誘導されたりする。実際、細菌細胞が増殖の定常期にある間もまだ細菌細胞に産物(所望の産物)の生産を開始または誘導させることができることは、本発明の方法の驚くべき利点である。
【0091】
したがって、産物生産は、培地への細菌接種後の予測された時点、または好都合な時点、または好適な時点で、開始または誘導されてもよく、細菌培養物の光学密度が特定の閾値レベルもしくは所望の閾値レベルに到達した後、例えば、到達直後または到達の少し後に、開始または誘導されてもよい。
【0092】
好ましくは、到達直後に産物生産が開始または誘導されるべき閾値光学密度レベルは、スイッチング後の細菌細胞培養物またはコントロール細菌細胞培養物のピーク細胞密度(または最大細胞密度または極大細胞密度または細胞密度プラトー)の、例えば、スイッチングが行われない場合の細菌細胞培養物のピーク細胞密度の、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、または少なくとも90%である。
【0093】
好ましくは、到達直後に産物生産が開始または誘導されるべき閾値光学密度レベルは、スイッチング後の細菌細胞培養物またはコントロール細菌細胞培養物のピーク細胞密度(または最大細胞密度、または極大細胞密度、または細胞密度プラトー)の、例えば、スイッチングを行わない細菌細胞培養物のピーク細胞密度の、1%~5%、5%~10%、10%~15%、15%~20%、20%~25%、25%~30%、30%~35%、35%~40%、40%~45%、45%~50%、50%~55%、55%~60%、60%~65%、65%~70%、70%~75%、75%~80%、80%~85%、または85%~90%である。
【0094】
上記および本明細書中の他の箇所で述べるような、ピークまたは最大などの細胞密度の光学密度レベルは、予め決定することができるが、異なる条件下、例えば、培地や温度などの異なる増殖条件下、または異なる産物の生産下で、細菌細胞によって異なる。したがって、選択された条件下または所望の条件下で達成される最大細胞密度の百分率を使用することは、産物生産をいつ開始または誘導すべきかを決定するのに特に好都合である。
【0095】
コントロール細菌細胞培養物は、例えば、複製開始点の不可逆的不活化が誘導されない(すなわち、複製開始点の不可逆的不活化が起こらないか、または起こり得ない)本発明の細菌細胞の培養物とすることができる。
【0096】
いくつかの実施形態では、使用者が産物の生産を誘導する必要はなく、例えば、産物の誘導または生産が培養中に特定の時点で自動的に行われるため、この工程は任意であってよいことが理解されるであろう。これは、例えば、産物の生産が内部刺激または内部条件に感受性があるプロモーターと関連付けられる場合に当てはまり得る。例えば、プロモーターは、例えばPCP_2836プロモーター(Maら、2018年)、phoPRプロモーター(Paulら、2004年)、およびP170プロモーター(Madsenら、1999年)と同じように、細菌細胞培養物が増殖の特定の期に入ったときに誘導され得る。好ましくは、プロモーターは、細菌細胞培養物が指数増殖期に入ったときに誘導されてもよく、指数増殖期中に誘導されてもよい。他の好ましい設定としては、自動誘導培地(例えば、Studierら、2005年、Protein Expression and Purification,2005,41:207-234に記載)や自己誘導系(例えば、Briandら、2016年、Scientific Reports,6:33037に記載のSILEX)の使用が挙げられる。
【0097】
あるいは、産物が、例えば構成的プロモーターまたは内因性プロモーターの制御下で、構成的または継続的または恒常的に生産され、例えば、内因性産物である場合(ただし、同様に構成的または継続的または恒常的な生産を異種産物の生産に適用することも可能である)、使用者が細菌細胞において産物の生産を誘導しなくてもよい。この場合、細菌細胞における複製開始点の不可逆的不活性化により、所望の産物の生産またはレベルの増加または向上が可能になり、例えば、産物を生産する際の細菌細胞の力価、収量、および/または生産性が増加する。
【0098】
実施形態において、細菌細胞は、産物をコードする遺伝子(もしくは核酸分子)または産物を生産するために必要な酵素をコードする遺伝子(もしくは核酸分子)を含む。このような遺伝子は、同種性(内因性)であってもよく、異種性であってもよい。
【0099】
実施形態において、上記遺伝子はプロモーターに作動可能に連結される。このようなプロモーターは、産物または酵素、例えば、同種性(内因性)または異種性の産物または酵素の発現を制御できる。したがって、いくつかの実施形態では、このようなプロモーターは、内因性プロモーター(例えば、遺伝子または細菌細胞に天然に存在するプロモーター)であり得るか、継続的または恒常的な発現を可能にするために、構成的プロモーターであり得る。あるいは、このようなプロモーターは、誘導性プロモーターまたは異種プロモーターであり得、それらは、例えば、所望の時点で細菌細胞における遺伝子によってコードされる産物の生産の誘導を可能にするために使用され得る。
【0100】
適切な誘導性プロモーターは、当技術分野においてよく知られ、報告されており、そのいずれをも使用することができる。例えば、実施形態において、プロモーターは、pH感受性、光感受性、温度感受性、または化学感受性を有し得る。このようなプロモーターや系の例と詳細は、本明細書中の他の箇所に述べられている。また、1つの例示的な系が、実施例に示されている。
【0101】
他の実施形態において、遺伝子またはプロモーターの発現は、標的タンパク質分解によって誘導または制御されてもよく、CRISPR干渉(CRISPRi)などの他の適切な技術によって誘導または制御されてもよい。
【0102】
CRISPR干渉(CRISPRi)の概念は、当技術分野においてよく知られており、例えば、Leiら、2013年(Cell 152,1173-1183)に報告されている。CRISPRiでは、触媒不活性な型のCas9が、特定の配列を有するsgRNAを用いて特定のDNA配列に標的化される。触媒不活性型Cas9は、標的DNA領域(例えば、プロモーター領域)に結合し、RNAポリメラーゼの結合と転写伸長をブロックする。
【0103】
したがって、遺伝子またはプロモーターの発現がCRISPR干渉(CRISPRi)によって誘導または制御される細菌細胞の実施形態では、細菌細胞は、触媒不活性型Cas9をコードする遺伝子と、所望の産物を生産するための遺伝子またはプロモーターに触媒不活性型Cas9を標的化し、それにより当該遺伝子またはプロモーターの発現が阻害されるようにするためのsgRNAと、を含む。
【0104】
本発明の方法の別の観点から、または別の態様において、本発明は、細菌細胞の代謝活性を損なうことなく細菌細胞の増殖を不可逆的に(または永久的に)停止させる方法であって、細菌細胞における複製開始点を不可逆的に(または永久的に)不活性化することを含む方法を提供する。したがって、本発明の方法は、細菌細胞の代謝活性を損なうことなく細胞の増殖を停止させる方法も提供する。
【0105】
「細菌細胞の代謝活性を損なうことなく細胞の増殖を停止させる」という表現は、細菌細胞が、DNA複製に関与することはできないが、それ以外の点では実質的に影響を受けないことを意味し、すなわち、細菌細胞の代謝経路、特に、所望の産物生産に関連する経路、例えば産物または酵素の遺伝子発現が、無傷もしくは機能的(または少なくとも実質的に無傷もしくは機能的)なまま残されることを意味する。これは、増殖段階から生産段階への変化に、1つ以上の特定の代謝経路の標的化されたダウンレギュレーションまたは不活性化(例えば、代謝経路酵素の標的化された阻害、または該酵素をコードする遺伝子の発現の標的化された阻害による)、ならびに/あるいは、他の特定の経路の標的化されたアップレギュレーションまたは活性化(例えば、代謝経路酵素の標的化された活性化、または該酵素をコードする遺伝子の発現の標的化された誘導による)を必要とした、当技術分野の二段階バイオプロセス法とは対照的である。
【0106】
別の態様において、本発明は、複製開始点を含む細菌細胞であって、該細菌細胞は、該複製開始点が不可逆的に(または永久的に)不活性化され得るように改変された、細菌細胞を提供する。したがって、このような態様は、改変された細菌細胞を提供する。
【0107】
遺伝子エレメントを不可逆的に不活性化する様々な方法が当技術分野において知られており、当業者であれば、これらの方法を複製開始点の不活性化にどのように適用するかを理解するであろう。例えば、上記細菌細胞は、染色体中の複製開始点を複製開始点として作用できなくする、例えばDNA複製開始部位として作用できなくすることができるように遺伝子改変された染色体を含んでいてもよい。不活性化は、複製開始点の変異または欠失によって実行され得る。好ましくは、不活性化は、例えば、変異事象もしくは欠失事象の原因となるかまたは変異事象もしくは欠失事象に関与する因子(agent)の制御によって誘導または制御され得る。例えば、不活性化は、変異事象もしくは欠失事象の原因となるかまたは変異事象もしくは欠失事象に関与する因子をコードする遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターを介して誘導または制御され得る。そして、上記プロモーターの誘導によって、複製開始点の不可逆的不活性化がトリガーされ得る。したがって、このために好ましいプロモーターは誘導性プロモーターである。
【0108】
本発明に従って複製開始点を不可逆的に不活性化する好ましい方法は、相同組換えを利用して複製開始点ヌクレオチド配列の全部または一部を除去するかまたは欠失させることである。例えば、複製開始点を含む染色体を、相同組換えを開始するのに適切な部位、例えば、複製開始点ヌクレオチド配列の全部または一部の除去または欠失を可能にするように位置決めされ配向された、部位特異的リコンビナーゼによる認識のための部位特異的組換え部位を含むように、遺伝子改変することができる。部位特異的リコンビナーゼは、好都合には細菌細胞内で発現させることにより、細菌細胞に供給することができる。理想的には、この発現は、相同組換え(またはスイッチングまたは開始点不活性化)をトリガーすることが望まれるという必要な時点または適切な時点でリコンビナーゼの発現を誘導できるように、制御、好ましくは厳密に制御されなければならない。好都合なことに、これはリコンビナーゼの発現を誘導性プロモーターの制御下に置くことによって行うことができる。
【0109】
不可逆的に不活性化可能な複製開始点を含む細菌細胞、または該細菌細胞を使用する方法の実施形態において、複製開始点は、当技術分野における標準的な技術を用いて、例えばリコンビナーゼを用いて、例えば部位特異的組換えもしくは相同組換えを用いて、例えばセリンリコンビナーゼ系もしくはチロシンリコンビナーゼ系またはファージラムダRedリコンビナーゼ系を用いて、除去され得る(または除去可能である)(例えば、Progress in Biophysics and Molecular Biology 147(2019)33e46を参照)。
【0110】
不可逆的に不活性化可能な複製開始点を含む細菌細胞、または該細菌細胞を使用する方法の実施形態において、複製開始点を例えば相同組換えによって別の配列と置換することによって複製開始点が除去され得る(すなわち、スイッチングが起こり得る)。そのような実施形態において、置換配列は、スイッチング後にDNA複製開始がその部位で保持されることを可能にしない配列であるべきである。別の言い方をすれば、置換配列は、その部位からのDNA複製開始が保持されることを可能にする配列であってはならない。例えば、不可逆的に不活性化可能な複製開始点は、該細菌細胞において機能的である別の複製開始点と置換されるべきではない。
【0111】
不可逆的に不活性化可能な複製開始点を含む細菌細胞、または該細菌細胞を使用する方法の実施形態において、複製開始点を例えば相同組換えによって別の配列と置換することによって複製開始点が除去され得る(すなわち、スイッチングが起こり得る)。そのような実施形態において、置換配列は、スイッチング後にDNA複製開始がその部位で保持されることを可能にしない配列であるべきである。別の言い方をすれば、置換配列は、その部位からのDNA複製開始が保持されることを可能にする配列であってはならない。例えば、不可逆的に不活性化可能な複製開始点は、該細菌細胞において機能的である別の複製開始点と置換されるべきではない。
【0112】
複製開始点を不可逆的に(または永久的に)不活性化するために、他のタイプのゲノム編集も同様に使用することができる。考えられる候補としては、CRISPR/Cas系(単独で、もしくはファージラムダRedリコンビナーゼ系などの別のリコンビナーゼ系と組み合わせて)、または、本明細書中の他の箇所に記載されるように、細菌、例えば細菌染色体における複製開始点配列を不可逆的に(または永久的に)変更、例えば除去または切除し、該複製開始点をDNA複製を開始できない状態にする任意の他のタイプの酵素の使用が挙げられる。
【0113】
したがって、例示的な改変された細菌細胞は、例えば複製開始点を除去または切除できるようにすることによって、複製開始点配列の全部または一部を不可逆的に(または永久的に)不活性化できるようにするために、組換え部位、例えば部位特異的組換え部位によって挟まれた複製開始点を含むかもしれない。このような組換え部位は、当技術分野における標準的な技術を用いて容易に導入できる。
【0114】
複製開始点を含む細菌細胞であって、該複製開始点が不可逆的に(または永久的に)不活性化され得るように改変された細菌細胞は、当技術分野における標準的な技術を用いて、例えばリコンビナーゼを用いて、例えば相同組換えを用いて、例えばファージラムダRedリコンビナーゼ系を用いて、生成することができる(例えば、Progress in Biophysics and Molecular Biology 147(2019)33e46を参照)。リコンビナーゼを用いるこのような相同組換えは、例えば、部位特異的組換え部位によって挟まれた複製開始点を含むベクターを使用して実施することができ、ここで、部位特異的組換え部位自体が、対象となる細菌細胞の染色体中の対応する配列に相同なヌクレオチド配列によって挟まれている(すなわち、その中に入れ子になっている)。
【0115】
不可逆的に不活性化可能な複製開始点を含む細菌細胞を生成する過程においては、出発細菌細胞の本来の(すなわち、天然の(native)、自然の(natural)、野生型、または内因性の)複製開始点を、異なる複製開始点と置換してもよい。例えば、挿入された(すなわち、不可逆的に不活性化可能な)複製開始点は、出発細菌細胞の本来の(すなわち、天然の、自然の、野生型、または内因性の)複製開始点と比較して、異なる配列を有していてもよい(例えば、複製開始点は、異なる細菌種または細菌株に由来するものであってもよく、外因性の配列であってもよい)。
【0116】
同様に、本明細書中に記載される、本発明の産物を生産する方法および他の態様において、細菌細胞において不可逆的に不活性化される(または不可逆的に不活性化可能である)複製開始点は、使用される細菌細胞の本来の(すなわち、天然の、自然の、野生型、または内因性の)複製開始点と比較して、異なる配列を有していてもよい(例えば、複製開始点は、異なる細菌種または細菌株に由来するものであってもよく、外因性の配列であってもよい)。
【0117】
実施形態において、複製開始点は、部位特異的リコンビナーゼによって認識および切断されるための部位特異的組換え部位(例えば、部位特異的認識および切断部位)によって挟まれている。
【0118】
そして、該当する部位特異的リコンビナーゼが、DNA組換えを促進するかまたは可能にするように、上記部位に結合して上記部位を切断する。
【0119】
実施形態において、複製開始点は、部位特異的リコンビナーゼ酵素によって認識可能な部位特異的組換え部位によって挟まれている(例えば、複製開始点の5’側と複製開始点の3’側とに位置する2つの部位特異的組換え部位が存在し得る)。
【0120】
実施形態において、部位特異的組換え部位は、異なる配列、例えばattB部位およびattP部位を有する。あるいは、部位特異的組換え部位は、同じ配列を有し(すなわち、部位特異的組換え部位が同一である)、例えばloxP部位を有する。適切な部位特異的組換え部位は、使用されているリコンビナーゼ酵素に応じて選択され、当業者であれば容易に導き出せるであろう。
【0121】
実施形態において、各部位特異的組換え部位は、複製開始点の全部または一部を含む除去したいヌクレオチド領域を挟むように、複製開始点の一端(5’末端または3’末端のいずれか)から適切な距離に配置され、相同組換えが成功し得るように適切な間隔をあけて配置される。
【0122】
ほとんどの細菌および細菌細胞は単一の複製開始点(例えば、単一の染色体複製開始点)のみを含むが、場合によっては、複製開始点は複数のヌクレオチドストレッチから構成され、例えば、開始点は単一の連続したヌクレオチド配列に存在するわけではない。
【0123】
例えば、枯草菌(Bacillus subtilis)では、複製開始点は2つの部分からなる。すなわち、複製開始点は2つのヌクレオチドストレッチからなり、複製開始点の一部ではない介在領域(dnaA遺伝子)によって隔てられている。したがって、2つの部分からなる複製開始点を有する枯草菌などの細菌株の文脈では、「複製開始点は部位特異的組換え部位によって挟まれている」という表現またはこれと同様の表現は、組換え部位が複製開始点の一方または両方のヌクレオチドストレッチを挟んでいることを意味する。
【0124】
細菌細胞が複数の複製開始点(例えば、複数の染色体複製開始点)を有する場合、本発明に従った産物生産(好ましくは、力価、収量、または生産性の点で)の増加は、細菌細胞中の複製開始点(例えば、染色体複製開始点)の1つ、少なくとも1つ、または全てを不可逆的に(または永久的に)不活性化することによって誘導され得る。したがって、実施形態において、複製開始点が複数の部分からなる、すなわち、2つの別個のヌクレオチドストレッチからなる(すなわち、2つの部分からなる)、またはそれ以上のヌクレオチドストレッチからなる(例えば、3つの部分からなる)場合、複製開始点は、該複製開始点のヌクレオチドストレッチのうちの1つ、または両方、または全ての除去(または欠失または削除または切除)によって不可逆的に(または永久的に)不活性化され得る。
【0125】
細菌細胞は、プラスミドやエピソームなどの染色体外遺伝物質上に1つ以上の複製開始点を含んでいてもよい。このような場合、スイッチングを促進にするには、染色体複製開始点のみを不可逆的に(または永久的に)不活性化すればよい。したがって、実施形態において、スイッチングは、細菌細胞における染色体複製開始点を不可逆的に(または永久的に)不活性化することを含むか、またはそのように不活性化することからなる(、またはそのように不活性化することによって誘導される)。好ましくは、スイッチングは、細胞における1つの複製開始点のみ、好ましくは細胞における1つの染色体複製開始点のみを不活性化することを含むか、またはそのように不活性化することからなる(またはそのように不活性化することによって誘導される)。
【0126】
本明細書中で使用する「リコンビナーゼ」という用語は、切除、挿入、反転、または転座によるDNA操作が可能な部位特異的酵素を包含する。したがって、「リコンビナーゼ」という用語は、リコンビナーゼだけでなく、インテグラーゼ、インベルターゼ、およびレゾルバーゼも包含する。
【0127】
本明細書中で使用する「部位特異的リコンビナーゼ」(または部位特異的インテグラーゼまたは部位特異的インベルターゼまたは部位特異的レゾルバーゼ)という用語は、そのリコンビナーゼに特異的な標的部位配列間のDNA交換反応を触媒する酵素を意味する。したがって、本明細書中で使用する部位特異的リコンビナーゼ(および部位特異的リコンビナーゼ部位)は、細菌細胞の複製開始点の少なくとも一部、好ましくは全ての除去(または欠失または削除または切除)を促進し得る。
【0128】
部位特異的組換え部位、例えば1対の部位特異的組換え部位の相対的な向きによって、組換え事象の結果が決まる。本明細書中で使用する、部位特異的組換え部位の「向き」(または方向もしくは方向性)という用語は、当技術分野において一般に理解されている用語であり、ポリヌクレオチドにおいて部位特異的リコンビナーゼ部位が設けられる方向に関する。例えば、同じポリヌクレオチド上の部位特異的組換え部位、例えば1対の部位特異的組換え部位が互いに反対の向きを有する場合、ポリヌクレオチド内の挟まれた配列の反転が起こり得る(例えば、(Cre-lox系における)1対のloxP部位の場合、または(例えばセリンリコンビナーゼ系で見られるような)attP部位とattB部位とからなる対の場合)。これに対して、2つの部位特異的組換え部位が互いに同じ向き(または平行な向き)を有する場合、ポリヌクレオチドから、挟まれた配列の切除が起こり得る。
【0129】
したがって、実施形態において、部位特異的組換え部位は、部位特異的組換えによって細菌染色体からの複製開始点の切除が起こるような向きで、細菌染色体における複製開始点を挟む(すなわち、その両側に配置される)。実施形態において、部位特異的組換え部位は、ポリヌクレオチド上に互いに同じ向きに配置されてもよい。あるいは、部位特異的組換え部位は、ポリヌクレオチド上に互いに反対向きに配置されてもよい(すなわち、一方の部位が「センス」向きであり、他方の部位が「アンチセンス」向きである)。
【0130】
実施形態において、部位特異的組換え部位は、セリンリコンビナーゼによる認識のための部位特異的組換え部位を含む。好ましくは、セリンリコンビナーゼはγδ、Bxb1、φC31、またはTP901である。しかしながら、当技術分野においてや実験的に報告された多くの異なるセリンリコンビナーゼと、バイオインフォマティクスによって予測されている4000を超える新しいセリンリコンビナーゼが存在している(Yangら、2014年)。これらのいずれを使用してもよい。
【0131】
実施形態において、部位特異的組換え部位は、セリンインテグラーゼによる認識のための部位特異的組換え部位を含む。
【0132】
セリン部位特異的インテグラーゼ(セリン部位特異的リコンビナーゼのサブファミリー)による組換えのメカニズムは、当技術分野において一般に理解されている。セリン部位特異的インテグラーゼは、attP部位とattB部位の組換えを触媒し、attL部位とattR部位とを生成する。attP部位とattB部位の組換えの結果は、部位特異的組換え部位の向きに依存する。互いに同じ向きを有し、同じポリヌクレオチド上に位置するattP部位とattB部位の組換えの結果、挟まれた配列がポリヌクレオチドから切除され、残りのポリヌクレオチドにattR部位またはattL部位が残る。これに対して、互いに反対の向きを有するattP部位とattB部位の組換えにより、DNA配列の反転が起こる。
【0133】
したがって、実施形態において、セリン部位特異的組換え部位は、細菌染色体からの複製開始点の切除をもたらすような組換え(適切な酵素によって触媒された場合)の向きで、細菌染色体における複製開始点を挟む(すなわち、その両側に配置される)。好ましくは、セリン部位特異的組換え部位は、ポリヌクレオチド上に互いに同じ向きに配置され得る。あるいは、セリン部位特異的組換え部位は、ポリヌクレオチド上に互いに反対の向きに配置されてもよい(すなわち、一方の部位が「センス」向きであり、他方の部位が「アンチセンス」向きである)。
【0134】
実施形態において、部位特異的組換え部位は、チロシンリコンビナーゼによる認識のための部位特異的組換え部位を含み、好ましくは、チロシンリコンビナーゼはCre、Dre、Flp、KD、B2、またはB3である。
【0135】
本発明での使用に適した部位特異的リコンビナーゼ技術の例としては、セリン部位特異的組換え、チロシン部位特異的組換え、Cre-Lox組換え、FLP-FRT組換え、および相同組換えが挙げられる。
【0136】
実施形態において、部位特異的組換え部位は、1対の部位特異的組換え部位を含むか、または1対の部位特異的組換え部位からなる。
【0137】
本明細書中で使用する、部位の「対」という用語は、同じ部位特異的リコンビナーゼ酵素によって認識される2つの部位であって、組換え事象が起こるためには両方の部位が存在しなければならない2つの部位を指す。したがって、1対の部位特異的組換え部位の例としては、attP部位とattB部位(例えば、セリンリコンビナーゼ/インテグラーゼによる認識のため)、または2つのloxP部位(例えば、Creリコンビナーゼによる認識のため)が挙げられる。
【0138】
部位特異的組換え部位の対の他の例は、当技術分野において公知であろう。したがって、部位特異的組換え部位の対の他の例として、2つのFRT部位(例えば、Flpリコンビナーゼによる認識のため)、2つのrox部位(例えば、Dreリコンビナーゼによる認識のため)、2つのKDリコンビナーゼ標的(KDRT)部位(例えば、KDリコンビナーゼによる認識のため)、2つのB2リコンビナーゼ標的(B2RT)部位(B2リコンビナーゼによる認識のため)、または2つのB3リコンビナーゼ標的(B3RT)部位(B3リコンビナーゼによる認識のため)が挙げられる。
【0139】
このように、本明細書中に記載される、部位の1つの「対」は、使用されているリコンビナーゼ酵素に応じて、2つの異なる部位(2つの異なる配列を有する)または2つの同一の部位(同じ配列を有する)であり得る。
【0140】
不可逆的に(または永久的に)除去可能な複製開始点を含む改変された細菌細胞は、意図せずに複製開始点を除去不可能にする(すなわち、除去可能ではなくならせる)変化を受ける可能性がある。複製開始点の除去可能性の喪失は、例えば、1つ以上の部位特異的組換え部位の変異、または当該部位に特異的な部位特異的リコンビナーゼをコードする1つ以上の遺伝子の変異によって引き起こされ得る。
【0141】
したがって、2対、3対、もしくは4対(あるいは少なくとも、または最大で、2対、3対、もしくは4対)の部位特異的組換え部位、好ましくは2対の部位特異的組換え部位によって複製開始点が挟まれている細菌細胞を提供することが有益であり得る。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、そのような細菌細胞がそれらの細菌細胞の複製開始点を不可逆的に不活性化する能力を失う確率は、複製開始点が1対の部位特異的組換え部位のみによって挟まれている細菌細胞と比較して減少する。
【0142】
したがって、実施形態において、部位特異的組換え部位は、2対以上、好ましくは2対の部位特異的組換え部位を含むか、または2対以上、好ましくは2対の部位特異的組換え部位からなる。
【0143】
あるいは、部位特異的組換え部位は、3対、4対、5対、もしくは6対の部位特異的組換え部位を含むか、または3対、4対、5対、もしくは6対の部位特異的組換え部位からなる。
【0144】
本発明の細菌細胞がそれらの複製開始点を不可逆的に不活性化する能力を失う確率は、部位特異的組換え部位の対の数が増加するにつれて減少する。したがって、例えば、3対の部位特異的組換え部位を有する細菌細胞がそれらの複製開始点を不可逆的に不活性化する能力を失う確率は、2対の部位特異的組換え部位を有する細菌細胞がそれらの複製開始点を不可逆的に不活性化する能力を失う確率よりも低い、などとなる。
【0145】
複製開始点を挟んでいる部位特異的組換え部位が2対以上存在する場合、それらの対の部位特異的組換え部位は、組換えの成功を可能にするような順序であれば、染色体に沿って任意の順序で設けられてよい。
【0146】
実施形態において、2対の部位特異的組換え部位が存在している場合、一方の対の部位特異的組換え部位が他方の対の中に入れ子になっている。すなわち、一方の対の組換え部位が他方の対の組換え部位によって挟まれている。したがって、2対の組換え部位AおよびBの場合、それらの部位は、ポリヌクレオチドに沿ってA-B-B-Aの順序またはB-A-A-Bの順序で配置される。
【0147】
あるいは、各対の部位特異的組換え部位を、ポリヌクレオチドに沿って交互に設け、それにより、どちらの対も他方の対の中に入れ子にならないようにする。換言すれば、2対の組換え部位AおよびBの場合、それらの部位は、ポリヌクレオチド内にA-B-A-Bの順序またはB-A-B-Aの順序で配置される。
【0148】
2対以上の組換え部位の個々の構成要素は、組換えが起こり得るように空間的に配置される。このようにして、好ましい実施形態では、適切な数のヌクレオチドが、隣接するA部位およびB部位(すなわち、各対の隣接する部位)を分離する。代替的な好ましい実施形態では、隣接するA部位とB部位(すなわち、各対の隣接する部位)を分離するヌクレオチドが存在しない。換言すれば、隣接するA部位とB部位(すなわち、各対の隣接する部位)は1つの連続配列を形成する。
【0149】
上記段落で示した各実施形態は、必要な変更を加えて、部位特異的組換え部位の対のさらなる組、例えば3つの部位特異的組換え部位に適用される。
【0150】
実施形態において、本発明の細菌細胞は、部位特異的リコンビナーゼをコードする遺伝子をさらに含む。
【0151】
実施形態において、部位特異的リコンビナーゼをコードする遺伝子は、プロモーターに作動可能に連結されている。
【0152】
部位特異的リコンビナーゼは、選択された部位特異的組換え部位と作用することができるように、適切に選択される。このため、2対以上の組換え部位が用いられる実施形態において、細菌細胞は、適宜、組換え部位の対の各々について部位特異的リコンビナーゼをコードする遺伝子、例えば、2つ以上のリコンビナーゼ、例えば、適宜、3つ、4つ、5つ、または6つのリコンビナーゼをコードする遺伝子をさらに含み得る。さらに、部位特異的リコンビナーゼ酵素のそれぞれをコードする遺伝子は、同じプロモーターに作動可能に連結されていてもよく、異なるプロモーターに作動可能に連結されていてもよい。さらに、部位特異的リコンビナーゼ酵素のそれぞれをコードする遺伝子は、同じ核酸配列上に存在していてもよく、異なる核酸配列上に存在していてもよく、例えば、同じ染色体外エレメント、例えばプラスミドまたは構築物上に存在していてもよく、異なる染色体外エレメント、例えばプラスミドまたは構築物上に存在していてもよい。
【0153】
本明細書中で使用する「プロモーター」という用語は、当技術分野で認識されている意味を持ち、一般に、プロモーターの下流のDNA配列の転写を制御、開始、および/または阻害するためにタンパク質が結合するDNAの配列を意味すると理解されている。リコンビナーゼ酵素をコードする遺伝子がプロモーターに「作動可能に連結されている」と記載されている場合、そのプロモーターは、プロモーターの動作によって、遺伝子に連結された配列の転写を制御するために、遺伝子に対して正しい機能的位置および/または向きにあることを意味する。
【0154】
実施形態において、プロモーターは内部刺激または内部条件に感受性を有する。例えば、プロモーターは、PCP_2836プロモーター(Maら、2018年)、phoPRプロモーター(Paulら、2004年)およびP170プロモーター(Madsenら、1999年)と同じように、細菌細胞培養物が特定の増殖期に入ったときに誘導され得る。好ましくは、プロモーターは、細菌細胞培養物が指数増殖期に入ったときに誘導されてもよく、指数増殖期中に誘導されてもよい。他の好ましい設定としては、自動誘導培地(例えば、Studierら、2005年、前掲)や自己誘導系(例えば、Briandら、2016年、Scientific Reports,6:33037に記載のSILEX)の使用が挙げられる。
【0155】
内部条件に感受性を有するプロモーターは、工業的環境において好まれる場合がある。このようなプロモーターは、それらを誘導するため、また、本発明においてはそれによってスイッチング、つまり複製開始点の不可逆的不活性化を誘導するために、使用者の介入(例えば、化学的誘導物質の投与)が必要とされないためである。
【0156】
実施形態において、プロモーターは、1つ以上の外部刺激に感受性があり、例えば、誘導性プロモーターである。したがって、使用されるプロモーターは、使用者がスイッチング(つまり複製開始点の不活性化)を開始したい外部刺激に基づいて選択され得る。
【0157】
いくつかのそのような実施形態において、プロモーターは、温度感受性、pH感受性、光感受性、または化学感受性を有する。これらの特性および他の特性、例えば他の誘導可能な特性を有するプロモーターは、当技術分野においてよく知られ、報告されており、本発明において使用するための適切なプロモーターが容易に選択され得る。
【0158】
例えば、同じ目的に使用できる他のタイプの遺伝子発現制御法としては、誘導物質(IPTG、アラビノース、ホモセリンラクトン、アンヒドロテトラサイクリンなど)による誘導(Marschall、Sagmeister、およびHerwig、2017年)(LutzおよびBujard、1997年)(Cox、Surette、およびElowitz、2007年)、標的タンパク質分解(CameronおよびCollins、2014年)、CRISPR/Cas9の様々なバリアント(Qiら、2013年)などが挙げられるが、これらに限定されない。当業者であれば、このような他のタイプの遺伝子発現制御法をどのように使用するかを知っているであろう。例えば、化学的に誘導されるプロモーターの場合、適切な化学物質が増殖培地に添加され、拡散または促進輸送によって細胞内に入る。細胞内で、化学物質はその標的転写調節因子に結合し、これにより、該転写調節因子の標的プロモーターからの転写が活性化される。転写抑制因子がプロモーターからの発現を制御し、該転写抑制因子がタンパク質分解に対して感受性にされた場合、当該転写調節因子のタンパク質分解を誘導することにより、プロモーターからの発現を誘導することができる。触媒不活性型CRISPR/Cas9は、適切なガイドRNAを細胞内で発現させることによってプロモーターに標的化することができ、これにより、正確な配置(configuration)に応じて、プロモーターの活性化または抑制のいずれかを導くことができる。
【0159】
このように、実施形態において、プロモーターは化学感受性を有し、好適なプロモーターは当技術分野において容易に入手可能であろう。例えば、好ましいプロモーターは、プロモーターが、イソプロピルβ-d-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)、アラビノース、ホモセリンラクトン、またはアンヒドロテトラサイクリンを使用して誘導可能であるものであり、例えば、プロモーターは、lacオペロン、araオペロン、tetオペロン、またはluxオペロン由来のプロモーターであり、例えば、プロモーターは、lacプロモーター(lac p)、araBADプロモーター、ppuIプロモーター、tetプロモーター(Ptetプロモーター)、またはluxIプロモーターである。
【0160】
例えば、細菌細胞が部位特異的リコンビナーゼをコードする遺伝子を含むことが可能であり、該遺伝子の発現をlacオペロン発現系下で制御することができる。該遺伝子の発現は、IPTGまたはアロラクトースによって誘導することができる。例えば、遺伝子がプラスミド上に設けられていてもよく、この場合、lacプロモーターおよびlacオペレーターが遺伝子の上流に設けられ、また、プラスミドがlacリプレッサー(lac I)をさらに含んでいてもよい。この系の下での標的遺伝子の制御に適したプラスミドは当技術分野において公知である。
【0161】
代替例において、細菌細胞が部位特異的リコンビナーゼをコードする遺伝子を含んでいてもよく、該遺伝子の発現をaraオペロン発現系下で制御することができる。該遺伝子の発現は、アラビノースによって誘導することができる。例えば、細菌細胞がプラスミド上に設けられた遺伝子を含み、araBADプロモーターが該遺伝子の上流にあり、プラスミドはaraオペロンを用いた遺伝子制御に必要な他の遺伝子エレメントも含んでいる。遺伝子制御に必要なaraオペロンの遺伝子エレメントは当業者に公知であり、上記に示されている。
【0162】
代替例において、細菌細胞が部位特異的リコンビナーゼをコードする遺伝子を含んでいてもよく、該遺伝子の発現をluxオペロン発現系下で制御することができる。該遺伝子の発現は、AHLによって誘導することができる。例えば、細菌細胞がプラスミド上に設けられた遺伝子を含み、luxIプロモーターが遺伝子の上流にあり、プラスミドがluxR遺伝子も含み、好ましくは、luxR遺伝子は構成的に発現される。
【0163】
代替例において、細菌細胞が部位特異的リコンビナーゼをコードする遺伝子を含んでいてもよく、該遺伝子の発現をTet-OffまたはTet-On発現系下で制御することができる。該遺伝子の発現は、テトラサイクリン(またはアンヒドロテトラサイクリンまたはドキシサイクリン)によって誘導することができる。例えば、細菌細胞は、(i)プラスミド上に設けられた遺伝子であって、上流にテトラサイクリン(またはアンヒドロテトラサイクリンまたはドキシサイクリン)依存性プロモーターがある遺伝子と、(ii)tTA発現プラスミドまたはrtTA発現プラスミドとを含む。この系の下での標的遺伝子の制御に適したプラスミドは当技術分野において公知である。
【0164】
実施形態において、遺伝子またはプロモーターの発現は、標的タンパク質分解によって誘導または制御され得る。
【0165】
実施形態において、遺伝子またはプロモーターの発現は、CRISPR干渉(CRISPRi)によって誘導または制御される。
【0166】
好ましい実施形態では、プロモーターは温度感受性である。
【0167】
任意の適切な温度感受性プロモーターを使用することができ、当技術分野において多くの例が存在する。
【0168】
本発明で使用される温度感受性プロモーターは、任意の好適な温度で活性化される(かつ/または活性レベルが最も高くなる)ように選択することができる。好ましくは、プロモーターは、20~25℃の間、25~30℃の間、30~35℃の間、35~40℃の間、40~45℃の間、45~50℃の間、50~55℃の間、もしくは55~60℃の間、または60℃以上で活性化される(かつ/または活性レベルが最も高くなる)温度感受性プロモーターであり得る。好ましくは、プロモーターは、約37℃で活性化され得る(かつ/または活性レベルが最も高くなり得る)。
【0169】
したがって、実施形態において、本発明で使用される温度感受性プロモーターは、細菌細胞(または細菌細胞培養物)の温度を、温度感受性プロモーターが活性化される(かつ/または活性レベルが最も高くなる)温度(または温度範囲)に変化させる(すなわち、上昇または低下させる)ことにより、誘導することができる。したがって、スイッチングを誘導するために、温度を20~25℃、25~30℃、30~35℃、35~40℃、40~45℃、45~50℃、50~55℃、もしくは55~60℃、または60℃以上に変化させてもよい。
【0170】
使用される温度感受性プロモーターは、より高い温度で活性化されてもよく、その場合、活性化ひいてはスイッチング(つまり開始点不活性化)を誘導するために、細菌細胞(または細菌細胞培養物)の温度を、最初はより低くし(例えば、30℃、または30℃未満)、その後上昇(例えば、37℃まで、または37℃超まで)させる、という必要がある場合がある。逆に、使用される温度感受性プロモーターは、より低い温度で活性化されてもよく、その場合、スイッチング(つまり開始点不活性化)を誘導するために、細菌細胞(または細菌細胞培養物)の温度を、最初はより高くし(例えば、37℃、または37℃超)、その後低下(例えば、30℃まで、または30℃未満まで)させる、という必要がある場合がある。好ましくは、プロモーターは、37℃または約37℃(または37℃未満)で活性化され得る(かつ/または活性レベルが最も高くなり得る)。このため、スイッチング(つまり開始点不活性化)を誘導するために、好都合には、細菌細胞(または細菌細胞培養物)の温度を、最初はより低くし、例えば、30℃または約30℃、例えば25℃~33℃の間にし、その後上昇(例えば、37℃まで、または約37℃まで、例えば36℃~39℃の間まで、または37℃超まで)させてもよい。
【0171】
本発明において使用するための好ましい温度感受性プロモーターは、温度感受性因子(または温度感受性リプレッサーまたは温度感受性アクチベーター)、例えばファージラムダcI857リプレッサー、によって制御可能であるかまたは調節されるプロモーターである。実施形態において、温度感受性プロモーターは、ラムダcI857リプレッサーによって制御されるファージラムダPRもしくはPLプロモーター(またはPRもしくはPLプロモーターの改変体)であり、これらは、37℃または約37℃で活性化される(かつ/または活性レベルが最も高い)(Jechlingerら、1999年)。したがって、このプロモーターの使用により、好都合なことに、細菌細胞(または細菌細胞培養物)の温度を、30℃または約30℃(例えば、25℃~33℃の間)から37℃または約37℃(例えば、36℃~39℃の間、または37℃超)まで変化させることでスイッチング(つまり開始点不活性化)を誘導することが可能になる。
【0172】
実施形態において、機能的エレメント、例えば、複製開始点の不可逆的不活性化に使用される(または必要な)機能的エレメント(すなわち遺伝子エレメント)の1つ以上または全てが、ゲノム上、例えば染色体(すなわち細菌染色体)上に位置している(または組み込まれている)。例えば、実施形態において、部位特異的リコンビナーゼをコードする遺伝子エレメント(または遺伝子)は、ゲノム上、例えば染色体(すなわち細菌染色体)上に位置している(または組み込まれている)。あるいは、リコンビナーゼ発現系(またはスイッチャー系)全体がゲノム上に位置していてもよい(または組み込まれていてもよい)。例えば、部位特異的リコンビナーゼをコードする遺伝子エレメントやリコンビナーゼ調節因子成分をコードする遺伝子エレメントが、ゲノム上、例えば染色体上に位置していてもよい(または組み込まれていてもよい)。リコンビナーゼ調節因子成分は、本明細書中で定義する温度感受性プロモーター(例えば、PRもしくはPLプロモーターまたはそれらの改変体)を含んでいてもよく、また、適宜必要に応じて、本明細書中で定義する当該感受性を促進する因子をコードする遺伝子、例えば温度感受性リプレッサーをコードする遺伝子、例えばcI857リプレッサーをコードする遺伝子を含んでいてもよい。
【0173】
実施形態において、機能的エレメント、例えば複製開始点の不可逆的不活性化に使用される(または必要な)機能的エレメント(すなわち遺伝子エレメント)の1つ以上または全てが、1つ以上のエピソームまたはプラスミド上、または細菌細胞内の何らかの他の適切な染色体外エレメント上に位置している(または組み込まれている)。例えば、実施形態において、部位特異的リコンビナーゼをコードする遺伝子エレメント(または遺伝子)が、1つ以上のエピソームもしくはプラスミド上、または細菌細胞内の1つ以上の他の適切な染色体外エレメント上に位置している(または組み込まれている)。あるいは、リコンビナーゼ発現系(またはスイッチャー系)全体が、1つ以上のエピソームまたはプラスミド(または他の適切なエレメント)上に位置していてもよい(または組み込まれていてもよい)。例えば、部位特異的リコンビナーゼをコードする遺伝子エレメント(または遺伝子)とリコンビナーゼ調節因子成分をコードする遺伝子エレメント(または遺伝子)とが、1つ以上のエピソームまたはプラスミド(または他の適切なエレメント)上に位置していてもよい(または組み込まれていてもよい)。リコンビナーゼ調節因子成分は、本明細書中で定義する温度感受性プロモーター(例えば、PRもしくはPLプロモーター、またはそれらの改変体)を含んでいてもよく、また、適宜必要に応じて、本明細書中で定義する当該感受性を促進する因子をコードする遺伝子エレメント(または遺伝子)、例えば、温度感受性リプレッサーをコードする遺伝子、例えばcI857リプレッサーをコードする遺伝子を含んでいてもよい。
【0174】
あるいは、部位特異的リコンビナーゼをコードする遺伝子エレメント(または遺伝子)がゲノム上に位置し、関連するリコンビナーゼ調節因子成分をコードする遺伝子エレメントが1つ以上のエピソームまたはプラスミド上に位置していてもよく、その逆であってもよい。
【0175】
実施形態において、複製開始点の不可逆的不活性化に使用される(または必要な)機能的エレメント(すなわち、遺伝子エレメント)の1つ以上はコドン最適化される。例えば、部位特異的リコンビナーゼをコードする遺伝子エレメント(または遺伝子)がコドン最適化されてもよい。あるいは、またはさらに、温度感受性プロモーターの感受性を促進する温度感受性因子をコードする(例えば、温度感受性リプレッサーをコードする、例えばcI857をコードする)遺伝子エレメント(または遺伝子)は、そのような温度感受性プロモーター系が使用される場合、コドン最適化される。
【0176】
別の態様において、本発明は、改変された細菌細胞を提供し、ここで、該改変された細菌細胞は、機能的複製開始点配列を欠いている。したがって、好ましい実施形態において、そのような細菌細胞は、遺伝子改変されている。換言すれば、そのような細菌細胞のゲノムまたは染色体は、機能的複製開始点を欠くように改変されている。そのような細菌細胞を生産する方法は、本明細書中の他の箇所に、細菌細胞における複製開始点を不可逆的に不活性化する工程を含む本発明の方法に関連して記載される。
【0177】
したがって、さらに別の態様は、改変された細菌細胞を提供し、ここで、該改変された細菌細胞は、機能的複製開始点配列を欠いており、該改変された細菌細胞は、細菌細胞における複製開始点を不可逆的に不活性化する工程を含む方法によって得られるか、または生産されるか、または取得可能である。このような不可逆的不活性化を実施する適切な方法は、本明細書中の他の箇所に記載されており、例えば、複製開始点の遺伝子改変、例えば複製開始点のヌクレオチド配列の部分的または完全な除去を含む方法が挙げられる。
【0178】
実施形態において、本発明は、改変された細菌細胞を提供し、ここで、該改変された細菌細胞は、機能的複製開始点配列を含まない(または、全く含まない)。好ましくは、改変された細菌細胞は、DNA複製能を有さない(すなわち、いかなる染色体DNA複製もできない)。
【0179】
実施形態において、本発明は、改変された細菌細胞を提供し、ここで、該改変された細菌細胞は、機能的染色体複製開始点配列を含まない(または、全く含まない)。好ましくは、改変された細菌細胞は、染色体DNA複製能を有さない(すなわち、いかなる染色体DNA複製もできない)。
【0180】
実施形態において、細菌細胞または改変された細菌細胞は、本発明の方法に従って、所望の産物などの産物を生産することができる(または産物を生産可能である、または産物を生産している)。所望の産物の例は、本明細書中の他の箇所に記載される。したがって、産物を生産する細菌細胞は、本発明のさらに別の態様である。
【0181】
実施形態において、細菌細胞または改変された細菌細胞は、産物をコードする遺伝子または産物を生産するために必要な酵素をコードする遺伝子を含む。産物または酵素をコードする適切な遺伝子も本明細書中の他の箇所に記載されており、例えば、産物(およびコードする遺伝子)は、内因性産物、同種産物、または異種産物であり得る。
【0182】
実施形態において、上記遺伝子は、プロモーターに作動可能に連結される。適切なプロモーターの例は、本明細書中の他の箇所に記載されており、例えば、天然のプロモーターまたは異種プロモーターであってもよく、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターであってもよい。
【0183】
別の態様において、本発明は、部位特異的組換え部位に挟まれた複製開始点を含むポリヌクレオチドベクターを提供する。適切で好ましい部位特異的組換え部位は、本明細書中の他の箇所に記載されている。
【0184】
実施形態において、部位特異的組換え部位は、リコンビナーゼ、好ましくはセリンリコンビナーゼによる認識のための部位特異的組換え部位を含み、好ましくは、セリンリコンビナーゼはγδ、Bxb1、φC31、またはTP901である。
【0185】
実施形態において、部位特異的組換え部位は、チロシンリコンビナーゼによる認識のための部位特異的組換え部位を含み、好ましくは、チロシン部位特異的リコンビナーゼは、Cre、Dre、Flp、KD、B2、またはB3である。
【0186】
実施形態において、本発明のポリヌクレオチドベクターまたは細菌細胞(改変された細菌細胞)は、不可逆的に(または永久的に)不活性化可能な複製開始点を選択するためのマーカーをさらに含む。
【0187】
選択マーカーは、典型的には、それが発現される細胞に選択的耐性を付与するタンパク質をコードするヌクレオチド配列である。選択マーカーは、好ましくは抗生物質耐性遺伝子である。クロラムフェニコール耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、およびカナマイシン耐性遺伝子が好ましい選択マーカーであるが、他の多くのものが当技術分野において報告されており、使用することができる。クロラムフェニコール耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、およびカナマイシン耐性遺伝子は、当技術分野において常用されている、周知であり、良好に性状を特定された選択マーカーである。あるいは、選択マーカーは、人工窒素源を利用する能力を付与する遺伝子や、人工炭素源を利用する能力を付与する遺伝子であってもよい。選択マーカーは、不可逆的に(または永久的に)不活性化可能な複製開始点が組み込まれた(integrated)/組み込まれた(incorporated)細胞の選択(または同定)を可能にする。
【0188】
実施形態において、選択マーカーは、部位特異的組換え部位間に複製開始点と共に挟まれ、その結果、複製開始点の染色体への組み込み(例えば相同組換えによる)のためのポジティブマーカーとして働く。したがって、いくつかの実施形態において、不可逆的に(または永久的に)不活性化可能な複製開始点は、5’から3’方向に、(i)部位特異的組換え部位、(ii)複製開始点、(iii)ポジティブ選択マーカー、および(iv)部位特異的組換え部位を含むか、あるいは、不可逆的に(または永久的に)不活性化可能な複製開始点は、5’から3’方向に、(i)部位特異的組換え部位、(ii)ポジティブ選択マーカー、(iii)複製開始点、および(iv)部位特異的組換え部位を含む。
【0189】
選択マーカーは、不活性化可能な複製開始点を細菌染色体に挿入(例えば、相同組換えまたは別の方法によって)するために用いることができる。ただし、選択マーカーは、不活性化可能な複製開始点(例えば、組換え部位に挟まれた複製開始点)を染色体中に保持したまま、後で除去してもよい。一般に、選択マーカーの存在は、本発明の細菌株(例えば、本発明のスイッチャー株)の下流適用には必要ではなく、例えば、産物生産には必要ではない。したがって、一旦不活性化可能な複製開始点が細菌染色体に組み込まれれば、選択マーカーを細胞内に維持する必要は一般にない。あるいは、本発明の株(例えば、スイッチャー株)は、選択マーカーを使用することなく、例えば、別のポジティブ選択ツールを使用してか、またはポジティブ選択ツールを全く使用せずに、生成することもできる。
【0190】
実施形態において、不可逆的に(または永久的に)不活性化可能な複製開始点は、選択マーカー(またはさらなる選択マーカー)を含んでいてもよく、ここで、該マーカーは、スイッチされた(すなわち、複製開始点が不可逆的に(または永久的に)不活性化された)本発明の細菌細胞だけが該マーカーを発現することができるように配置される。例えば、選択マーカーは、選択マーカーの全配列が複製開始点の除去(または欠失または削除または切除)によってのみ隣接して会合されるように、複製開始点を挟む部位特異的組換え部位によって中断されるように配置され得る。あるいは、選択マーカーとそのプロモーターとが、該選択マーカーとプロモーターとが複製開始点を挟む部位特異的組換え部位によって中断されるように配置されてもよく、このようにすることで、選択マーカーとそのプロモーターは、スイッチング(すなわち、複製開始点の不可逆的除去)が起こった後でのみ、作動可能に連結される(したがって選択マーカーの発現が可能になる)。
【0191】
不可逆的に(または永久的に)不活性化可能な複製開始点の実施形態において、ポジティブ選択マーカーは、複製開始点を除いて、部位特異的リコンビナーゼ酵素によって認識可能な部位特異的組換え部位によって挟まれている(すなわち、ポジティブ選択マーカーの5’側とポジティブ選択マーカーの3’側とにそれぞれ位置する2つの部位特異的組換え部位が存在し得る)。
【0192】
いくつかの実施形態では、ゲノムからの複製開始点の削除を行った細胞のみに対するポジティブ選択を含むことが望ましい。複製開始点の削除により、生存に必要な遺伝子(例えば、抗生物質耐性遺伝子または必須栄養素の代謝に必要な遺伝子)の発現がオンにスイッチされると、スイッチされた(または不活性化された複製開始点を有する)細胞だけが生き延びる。複製開始点を削除した細胞に対してのみポジティブ選択工程を使用することにより、例えば、本発明に従って複製開始点を除去することができなくなるかまたは不可逆的に不活性化することができなくなった場合に、発生する、温度移行などの適切な誘導条件に応答して増殖を停止する能力を失った稀な変異体の生存を低減または防止するメカニズムが提供される。このような変異体は、本明細書中で「cheater」とも呼ばれ、誘導条件下、例えば37℃で、もしかすると成長および増殖を続けるかもしれず、培養において優勢な集団になる可能性がある。いくつかの実施形態では、この潜在的な問題を回避するためにこのポジティブ選択工程を用いることができる。
【0193】
この潜在的な問題を回避するもう一つの方法は、本明細書中の他の箇所に記載されるように、複数(例えば2つ以上)の部位特異的リコンビナーゼとそのそれぞれの部位特異的組換え部位とを使用することである。
【0194】
上記のような本発明の細菌細胞は、本発明の生産方法において容易かつ便利に使用することができ、例えば、産物(所望の産物)を生産することが可能な細胞である。実際、そのような細胞の使用が好ましく、好ましい方法は、上記産物を生産することが可能なそのような本発明の細菌細胞を用意する工程を含む。
【0195】
上記で述べたことから、細菌細胞における複製開始点を不可逆的に不活性化する工程には多くの方法が利用可能であり、そのいずれか、または実際には任意の適切な代替方法を、本発明の生産方法におけるこの工程に使用できることもわかる。好ましい方法もまた上記に記載されており、上述したように複製開始点が組換え部位、例えば部位特異的組換え部位によって挟まれている方法の使用を含む。
【0196】
本明細書中に記載されるような産物を生産する方法(産物生産方法)(または産物の生産における使用)には、産物生産に必要な任意のさらなる工程が含まれ得る。例えば、産物を生産する細菌細胞は、産物、例えば適切な量もしくは十分な量の産物を生産するために、または、細菌細胞の集団を増殖もしくは拡大させるために、当技術分野で周知の適切な方法によって培養、増殖(grown)もしくは増殖(propagated)、または生産されてもよい。したがって、上記方法は、細菌細胞を培養、増殖(growing)もしくは増殖(propagating)させる工程をさらに含んでもよい。上記方法はまた、細菌細胞から、例えば、培地(もしくは上清)から、または細菌細胞の細胞内環境から、産物を収集、単離、精製、または取得する工程をさらに含んでもよい。そのような工程を実施するための方法はやはり当技術分野において周知であろう。
【0197】
単離または精製された細菌細胞(または細菌細胞の集団)も提供される。いくつかの実施形態において、このような細菌細胞は、自然起源の(naturally occurring)細菌株ではないか、または自然起源の細菌株には相当しない。いくつかの実施形態は、このような細菌株を培養または増殖(propagating)または生産し、必要に応じて、培養または増殖(propagated)または生産された株を、当該株を含む組成物、例えば、産物生産のための、例えば工業的または商業的な産物生産のための安定した配合物に、または医薬組成物に、製剤化する、さらなる工程を含む。あるいは、このような細菌細胞は、例えば凍結乾燥または凍結により、将来使用するために保存され得る。
【0198】
別の態様において、本発明は、産物、例えば所望の産物を生産するための、本発明の細菌細胞の使用、本発明の改変された細菌細胞の使用、もしくは本発明のポリヌクレオチドベクターの使用、または本発明の方法の使用を提供する。例示的な産物は、本明細書中の他の箇所に記載される。
【0199】
本発明の細菌細胞(改変された細菌細胞)は、治療上有効な産物や有用な産物を含む目的の産物を、有用な量または有意な量で生産するように操作することができるので、そのような細菌は明確な治療用途を有し、例えば、その産物の投与が治療上有効または有用である場合、被験体または患者、特にヒト患者に投与することができる。生きた医薬品、例えばプロバイオティクスとしての、細菌の使用は、当技術分野で受け入れられており、そのような生きた医薬品の使用が好適または適切なあらゆる治療法における本発明の細菌細胞の使用が、本発明により企図されている。
【0200】
したがって、別の態様において、本発明は、治療法に使用するための、本発明の細菌細胞または本発明の改変された細菌細胞を提供する。
【0201】
別の態様において、本発明は、疾患または病状の治療または予防に使用するための、本発明の細菌細胞または本発明の改変された細菌細胞を提供する。好ましい実施形態において、上記疾患または病状は、癌、代謝疾患、または免疫障害である。
【0202】
別の態様において、本発明は、疾患または病状の治療または予防のための医薬の製造における、本発明の細菌細胞または本発明の改変された細菌細胞の使用を提供する。好ましい実施形態において、上記疾患または病状は、癌、代謝疾患、または免疫障害である。
【0203】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の細菌細胞または本発明の改変された細菌細胞を被験体に投与することを含む、疾患の治療方法または予防方法を提供し、好ましくは、上記疾患または病状は、癌、代謝疾患、または免疫障害である。
【0204】
実施形態において、上記疾患または病状は、代謝疾患(または代謝障害)である。好ましくは、上記代謝疾患(または代謝障害)は、酸塩基平衡異常、代謝性脳疾患、カルシウム代謝障害、DNA修復不全症、グルコース代謝障害、高乳酸血症、鉄代謝障害、脂質代謝障害、吸収不良症候群、メタボリックシンドローム、先天性代謝異常、ミトコンドリア病、リン代謝障害、ポルフィリン症、プロテオスタシス欠損症、代謝性皮膚疾患、消耗症候群(または悪液質)、または水分電解質不均衡である。
【0205】
実施形態において、上記疾患または病状は、免疫障害(または免疫疾患)である。好ましくは、上記免疫障害(または免疫疾患)は、アレルギー、喘息、自己免疫疾患(例えば、ループス、強皮症、溶血性貧血、血管炎、1型糖尿病、グレーブス病、関節リウマチ、多発性硬化症、グッドパスチャー症候群、悪性貧血、ミオパチー、もしくはライム病)、自己炎症症候群、または免疫不全症候群である。
【0206】
本明細書中で使用する用語「被験体」(または「患者」)には、任意の哺乳動物、例えばヒトおよび任意の家畜、飼育動物または実験動物が含まれる。具体例としては、マウス、ラット、ブタ、ネコ、イヌ、ウマ、ヒツジ、ウサギ、ウシ、およびサル(または他の霊長類)が挙げられる。ただし、好ましくは、患者はヒト被験者である。
【0207】
本明細書中に記載される治療方法および使用に関する実施形態において、適切な被験体とは、治療の対象となる疾患を有するか、有する疑いがあるか、または有するリスクがある(もしくは罹患しやすい)被験体である。
【0208】
本発明の上記治療方法および使用における細菌株の投与は、治療を必要とする被験体に対して、薬学的、治療的、または生理学的に有効な量で実施される。したがって、上記方法および使用は、治療を必要とする被験体を同定する追加の工程を含んでもよい。
【0209】
本発明による疾患の治療(例えば、既存の疾患の治療)には、当該疾患または状態の治癒、あるいは疾患または疾患の症状の軽減または緩和(例えば、疾患重症度の低下)が含まれる。
【0210】
本発明の方法および使用は、疾患の予防および疾患の積極的治療(例えば、既存の疾患の治療)に適している。したがって、予防的治療も本発明に包含される。このため、本発明の方法および使用において、治療には、適宜、予防(prophylaxis)もしくは予防(prevention)も含まれる。
【0211】
実施形態において、上記細菌細胞はグラム陰性細菌細胞である。あるいは、上記細菌細胞はグラム陽性細菌細胞である。
【0212】
実施形態において、上記細菌細胞は、エシェリヒア(Escherichia)属、バチルス(Bacillus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、クロストリジウム(Clostridium)属、キサントモナス(Xanthomonas)属、または腸内細菌科(Enterobacteriaceae)である。
【0213】
実施形態において、上記細菌細胞は、エシェリヒア属であり、より好ましくは大腸菌(Escherichia coli)、より好ましくは大腸菌MG1655である。
【0214】
実施形態において、上記細菌細胞は、バチルス属であり、好ましくは枯草菌(Bacillus subtilis)である。
【0215】
本出願全体を通じて使用される用語「a」および「an」は、言及された構成要素または工程の「少なくとも1つ」、「少なくとも第1の」、「1つ以上」、または「複数」を意味する意味で使用される。ただし、後で上限が具体的に記載されている場合を除く。
【0216】
さらに、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、「有する(has)」もしくは「有する(having)」という用語またはその他の同等の用語が本明細書中で使用される場合、いくつかのより具体的な実施形態において、これらの用語には、「からなる(consists of)」もしくは「から本質的になる(consists essentially of)」という用語またはその他の同等の用語が含まれる。特定の工程を含む方法は、適宜、それらの工程からなる方法も含む。
【0217】
本明細書中に記載される「増加する(increase)」または「増強する(enhance)」という用語(または同等の用語)には、適切なコントロールと比較した場合の測定可能な増加または上昇が含まれる。適切なコントロールは、当業者によって容易に特定され、本明細書中に適切な例が記載されている。好ましくは、増加は、適切なコントロールレベルまたはコントロール値と比較した場合に、有意であり、例えば臨床的または統計的に有意であり、例えば≦0.05の確率値で有意である。
【0218】
本明細書中に記載される「減少する(decrease)」または「低下する(reduce)」という用語(または同等の用語)には、適切なコントロールと比較した場合の測定可能な減少または低下が含まれる。適切なコントロールは、当業者によって容易に特定され、本明細書中に適切な例が記載されている。好ましくは、減少は、適切なコントロールレベルまたはコントロール値と比較した場合に、有意であり、例えば臨床的または統計的に有意であり、例えば≦0.05の確率値で有意である。
【0219】
被験体の試験群間の差または特定のパラメータのレベルもしくは値の差の統計的有意性を決定する方法は、当技術分野において周知であり、文書化されている。例えば、本明細書において、減少または増加は、一般に、スチューデントt検定、マン-ホイットニーのU順位和検定、カイ二乗検定またはフィッシャーの正確確率検定、一元配置分散分析検定または二元配置分散分析検定などの、有意性検定を適宜使用して統計学的に比較した結果、≦0.05の確率値を示す場合、統計学的に有意であるとみなされる。
【0220】
次に、本発明について、以下の図を参照しながら、以下の非限定的な実施例においてさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0221】
図1図1。スイッチャー株の遺伝的基盤。(A)セリンリコンビナーゼ認識部位attBおよびattPが、組換えにより細菌染色体からoriCが切除されるような向きで、細菌染色体中のoriCの両側に組み込まれる。(B)セリンリコンビナーゼが、構成的に発現される温度感受性ファージラムダcIリプレッサーによって抑制されるファージラムダPRまたはPLプロモーターの制御下に置かれる。(C)2つのリコンビナーゼの両方がラムダcIリプレッサーの制御下にある、デュアルリコンビナーゼセットアップ。
図2図2。φC31インテグラーゼの温度誘導発現により、スイッチャー細胞におけるoriCの切除が起こる。コントロール(bAJ83、白塗り記号)およびスイッチャー(bAJ84、黒塗り記号)の培養物を一晩培養したものを希釈し、振盪フラスコ内で30℃で2時間増殖させた(白いプロット領域)。時点0で、温度を37℃に移行した(灰色のプロット領域)。(A)温度移行の前後でコロニー形成単位数を測定した。3回の独立した実験の幾何平均がプロットされており、エラーバーは標準偏差を示す。(B)染色体DNAからのoriC切除を、未組換え(oriC保持)DNA配列または組換え(oriC切除)DNA配列のいずれかに特有のプライマーを用いたPCRによって検出し、アガロースゲル電気泳動によって視覚化した。(C)φC31インテグラーゼによるoriC切除後にattB部位とattP部位との間に形成された接合部のDNA配列。
図3図3。スイッチのタイミングによって最終細胞密度を調整できる。コントロール株(bAJ83、白塗り記号)およびスイッチャー株(bAJ84、黒塗り記号)の一晩培養物の様々な希釈液を、30℃でマイクロプレートインキュベーターに接種した(白いプロット領域)。0時間の時点で、温度を37℃(灰色のプロット領域)に変化させ、スイッチングを誘導した。スイッチャー細胞は、スイッチ時の密度に応じて、生産されたバイオマスの異なるレベル(600nmでの光学密度)で増殖を停止した。2回の独立した実験からの6つの生物学的反復の平均がプロットされており、網掛けは標準偏差を示している。
図4AB図4。コントロール株と比較したスイッチャー株のタンパク質生産能の評価。コントロール(bAJ85、白塗り記号)およびスイッチャー(bAJ86、黒塗り記号)の培養物をマイクロプレートインキュベーターで30℃で予備増殖させ(白いプロット領域)、一晩培養したものを異なる希釈度(Aは2400倍、Bは1600倍)で播種した。0時間の時点で、温度を37℃に移行し(灰色のプロット領域)、スイッチャー株におけるoriC切除を誘導した。時点0でHSLを添加することによって蛍光mRFP1タンパク質の生産を誘導した。(A、B)600nmでのODの変化(左軸)とmRFP1タンパク質の蛍光の増加(励起:584nm、発光:607nm)(右軸)とをモニターした。
図4CD】(C、D)コントロール(白塗り)およびスイッチャー(黒塗り)の培養物の蛍光対光学密度(バイオマス)比を、パネルAおよびパネルBの値に基づいて計算し、プロットした(Cは2400倍、Dは1600倍)。3つの生物学的反復の平均がプロットされており、網掛けは標準偏差を示している。
図5図5。スイッチャー株のタンパク質生産能は長期間にわたって活性を維持している。コントロール(bAJ85、白塗り記号)およびスイッチャー(bAJ86、黒塗り記号)の培養物を、マイクロプレートインキュベーターで30℃で予備増殖させた(白いプロット領域)。0時間の時点で、温度を37℃に移行し(灰色のプロット領域)、スイッチャー株におけるoriC切除を誘導した。示されている時点でコントロールとスイッチャーの両培養物にHSLを添加することによって、蛍光mRFP1レポータータンパク質の生産を誘導した。光学密度(A)と蛍光(B、励起:584nm、発光:607nm)の変化をモニターした。3つの生物学的反復の平均がプロットされており、網掛け(パネルB)は標準偏差を示している。
図6A図6。使用したDNA構築物とプラスミドの模式図。A.スイッチャー株のゲノムに組み込まれた直鎖状DNA断片。ゲノム中のmnmG遺伝子とmioC遺伝子との間の領域をf_bAJ78 DNA断片で置換した。T:転写ターミネーター、T_bi:双方向転写ターミネーター、FRT:フリッパーゼ認識標的部位、cat:クロラムフェニコール耐性遺伝子、gfpmut2:GFPレポーター遺伝子。
図6B】B.この研究で使用したプラスミドのマップ。λPR(T41C):ファージλPR(T41C)プロモーター;bom、rop、trfA、oriV、RK2:プラスミドDNA複製開始点のエレメント;pBR322_origin:プラスミド複製開始点;tetA、tetR:テトラサイクリン耐性遺伝子;KanR:カナマイシン耐性遺伝子;lux-box:LuxRによって制御されるプロモーター。
図7図7A。コントロール株と比較したスイッチャー株のタンパク質生産能の評価。コントロール(bAJ139、白塗り記号)およびスイッチャー(bAJ140、黒塗り記号)の培養物をマイクロプレートインキュベーターで30℃で予備増殖させ(白いプロット領域)、一晩培養したものを2000倍希釈で播種した。0時間の時点で、温度を37℃に移行し(灰色のプロット領域)、スイッチャー株におけるoriC切除を誘導した。時点0でIPTGを添加することによって蛍光E2-Crimsonタンパク質の生産を誘導した。600nmにおけるODの変化(左軸)とE2-Crimsonタンパク質の蛍光(励起:610nm、発光:650nm)の増加(右軸)をモニターした。3つの生物学的反復の平均がプロットされており、網掛けは標準偏差を示している。 図7B。コントロール株と比較したゲノムスイッチャー株のタンパク質生産能の評価。コントロール(bAJ85、白塗り記号)およびスイッチャー(bAJ178、黒塗り記号)の培養物をマイクロプレートインキュベーターで30℃で予備増殖させ(白いプロット領域)、一晩培養したものを8000倍希釈で播種した。0時間の時点で、温度を37℃に移行し(灰色のプロット領域)、ゲノムスイッチャー株におけるoriC切除を誘導した。時点0でHSLを添加することによって、蛍光mRFP1の生産を誘導した。600nmにおけるODの変化(左軸)とmRFP1タンパク質の蛍光(励起:584nm、発光:607nm)の増加(右軸)をモニターした。3つの生物学的反復の平均がプロットされており、網掛けは標準偏差を示している。 図7C。コントロール株と比較したゲノムスイッチャー株のタンパク質生産能力の評価。コントロール(bAJ43、白塗り記号)およびスイッチャー(bAJ176、黒塗り記号)の培養物をマイクロプレートインキュベーターで30℃で予備増殖させ(白いプロット領域)、一晩培養したものを16000倍希釈で播種した。0時間の時点で、温度を37℃に移行し(灰色のプロット領域)、全ゲノムスイッチャー株におけるoriC切除を誘導した。時点0でIPTGを添加することによって、蛍光E2-Crimsonタンパク質の生産を誘導した。600nmでのODの変化(左軸)とE2-Crimsonタンパク質の蛍光(励起:610nm、発光:650nm)の増加(右軸)をモニターした。3つの生物学的反復の平均がプロットされており、網掛けは標準偏差を示している。
図8図8。使用したDNA構築物とプラスミドの模式図。A.ゲノムスイッチャー株bAJ174のゲノムに組み込まれた直鎖状DNA断片。ゲノム中のmnmG遺伝子とmioC遺伝子との間の領域をbAJ174DNA断片で置換した。T:転写ターミネーター、T_bi:双方向転写ターミネーター、FRT:フリッパーゼ認識標的部位、cat:クロラムフェニコール耐性遺伝子、gfpmut2:GFPレポーター遺伝子。B.この研究で使用したプラスミドのマップ。bom、rop:プラスミドDNA複製開始点のエレメント;p15A_orign、pBR322_origin:プラスミド複製開始点;lac operator:lacI結合配列;AmpR:アンピシリン耐性遺伝子;KanR:カナマイシン耐性遺伝子。
【実施例
【0222】
実施例1
材料と方法
細菌株、プラスミド、および増殖培地
菌株とプラスミドを表1に示す。プラスミドのクローニングと増殖には大腸菌DH5αを用いた。ゲノム改変とプラスミドに基づくスイッチャー実験とを大腸菌MG1655で行った。大腸菌は、株の選択とプラスミドの維持に必要な場合は適切な量の抗生物質(100μg/mlアンピシリン、25μg/mlクロラムフェニコール、および25μg/mlカナマイシン、10μg/mlテトラサイクリン)を添加した溶原性ブロス(LB)中で増殖させた。
【0223】
DNA操作
クローニングおよびシークエンシングのための短いオリゴヌクレオチド配列は、Metabion International AG社から取り寄せた。
大腸菌MG1655ゲノムin situ操作は、リコンビニアリング法(recombineering)を用いて行った。ラムダRed組換え系は、pKD46プラスミドから発現させた(DatsenkoおよびWanner、2000年)。隣接しているattB部位とattP部位とを有するoriC断片(表2)は、Twist Bioscience社から合成DNAとして取り寄せた。隣接している400bp長の相同領域は、大腸菌MG1655のゲノムDNAから増幅した。隣接するFRT部位を持つクロラムフェニコール耐性マーカーは、pKD3から増幅した。リコンビニアリング断片f_bAJ78(表3に記載の最終配列、図6A)は、オーバーラップ伸長PCRを用いて構築し、ゲル精製し、電気穿孔法により大腸菌細胞に形質転換した。
ゲノムスイッチャー株の構築のために、φC31インテグラーゼ、λPLプロモーターを有するBxb1インテグラーゼ、PkatGプロモーターを有するcI857リプレッサー、attB部位とattP部位、およびcat選択マーカー遺伝子のコドン最適化配列を、Twist Bioscience社から合成DNA断片として取り寄せた(表2および表5)。リコンビニアリングに必要なoriCと相同領域は、大腸菌MG1655ゲノムDNAからPCRにより増幅した。断片をオーバーラップ伸長PCRによって組み立て、ゲル精製し、リコンビニアリングに用いた(DatsenkoおよびWanner、2000年)(ゲノムに組み込まれたbAJ174の最終配列を表3に示す、図8A)。
プラスミドpAJ35を、スイッチャー株におけるφC31インテグラーゼの発現に用いた。pAJ35では、φC31インテグラーゼ(Merrick、Zhao、およびRosser、2018年)は、pET24骨格中の構成的プロモーターから発現するファージλリプレッサーcI587(Jechlingerら、1999年)の温度感受性変異体によって活性が制御される変異λPR(T41C)プロモーター(表2;(Jechlingerら、1999年))の制御下に置いた(表4、図6B)。コントロール株では、φC31インテグラーゼORFをMDTYAGAYDRQSRERENSSAASPATQRSAを翻訳する小さいORFで置き換えた以外はpAJ35と全く同じエレメントを含むプラスミドpAJ27を、ネガティブコントロールとして用いた(表4、図6B)。
タンパク質合成活性の測定のために、赤色蛍光タンパク質mRFP1(Campbellら、2002年)(Campbellら、2002年)を、プラスミドpAJ144中のHSL誘導性Luxプロモーターの制御下に置いた(表4、図6B)。
IPTG誘導タンパク質合成活性の測定のために、蛍光タンパク質E2-Crimson(Strackら、2009年)を、pBR322複製開始点を有するプラスミド(pAJ194)またはp15A複製開始点を有するプラスミド(pAJ157)中のIPTG誘導性Ptacプロモーターの制御下に置いた(表4、図8B)。
【0224】
oriC切除の検証
スイッチャー株とコントロール株の培養物を30℃で一晩増殖させ、20mLの新鮮なLBに2000倍希釈し、30℃で2時間増殖させた。その後、温度を37℃に移行した。1時間ごとにサンプルを採取し、LB-寒天プレート上で培養液量当たりのコロニー形成単位(CFU/mL)をカウントし、PCRでoriCの切除を解析した。鋳型の量はODで正規化した。特定のプライマーペアを用いて、oriCの切除されたもの(oAJ297およびoAJ32)または切除されていないもの(oAJ91およびoAJ32)を検出した。oriCの切除されたもののDNA配列を、シークエンシングによって確認した。
【0225】
増殖および蛍光の測定
スイッチャー株とコントロール株の培養物を30℃で一晩増殖させ、図の凡例に示すように希釈し、96ウェルプレートで30℃で3時間(ゲノムスイッチャーの場合)または4時間増殖を続けた後、温度を37℃に移行した(時点0時間)。適宜、温度移行の直前かまたは示されている時点で12μMのHSL(最終濃度)を添加することによって、mRFP1合成の誘導を誘導した。増殖曲線とmRFP1関連蛍光(タンパク質レベルを反映)を、BioTek社のSynergy MXプレートリーダーを用いて測定した。600nmでの光学密度と蛍光強度(584/13.5nmで励起、607/13.5nmで発光)を100μLの培養液量で測定した。温度移行の直前に0.5mMのIPTG(最終濃度)を添加することによってE2-Crimsonの合成を誘導し、蛍光強度(610/20nmで励起、650/20nmで発光)を100μLの培養液量で測定した。
【0226】
【表1】
【0227】
【表2】
【0228】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【0229】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【表4-5】
【表4-6】
【表4-7】
【表4-8】
【0230】
【表5】
【0231】
結果
DNA複製は、全ての生物において細胞分裂の必須条件である。細菌では、染色体が複製開始点(ori)の単一のDNA配列を有し、そこで複製複合体が構築され、複製が始まる。大腸菌では、このori配列はoriCと呼ばれ、一般的な実験室株ではmnmG遺伝子とmioC遺伝子との間に位置している(Messer、2002年)。
【0232】
本発明者らは、細胞のDNA複製を阻害することで細胞の増殖と分裂を阻止しようと試みた。そのために、セリンリコンビナーゼ認識部位attBとattPとをoriCの両側に組み込んだ(図1A)。対応するセリンリコンビナーゼが細胞内で発現すると、当該部位でDNAの切断を触媒し、鎖交換によってその間のDNA配列を切除し、DNAを再結合させて本質的に不可逆的なハイブリッドatt部位を形成する(Merrick、Zhao、およびRosser、2018年)。その結果、oriCは細菌染色体から削除される。以下、この実施例セクションにおいて、また本明細書中の他の箇所において、oriCの切除を「スイッチ(switch)」または「スイッチされた(switched)」と言い、スイッチングが可能な株を指して「スイッチャー(switcher)」と言う。oriCの切除は、それ以降のDNA複製の開始を排除するが、その一方で、進行中の複製は完了させる。これらの実施例では、セリンリコンビナーゼを用いてスイッチを構築しているが、他の種類のゲノム編集も同じ目的に使用できることは明らかである。考えられる候補としては、チロシンリコンビナーゼ(Foggら、2014年)、CRISPR/Cas(Yaoら、2018年)、または、染色体中のoriC配列を永久的に変更してDNA複製を開始できない状態のままにする他の種類の酵素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0233】
基本的に、セリンリコンビナーゼ(または他の種類の編集)の活性/発現は、oriCの早期削除や増殖の休止を避けるために厳密に制御される。本発明者らは、この目的のために、温度感受性ファージラムダcI857リプレッサーを用いた(図1B)。30℃(またはそれ以下)では、標的プロモーター(PRまたはPL)に結合してそれを抑制するが、37℃(またはそれ以上)ではこの抑制が解除され、発現がオンになる。限定されるものではないが、誘導物質(IPTG、アラビノース、ホモセリンラクトン、アンヒドロテトラサイクリンなど)による誘導(Marschall、Sagmeister、Herwig、2017年)(LutzおよびBujard、1997年)(Cox、Surette、およびElowitz、2007年)、標的タンパク質分解(CameronおよびCollins、2014年)、CRISPR/Cas9の様々なバリアント(Qiら、2013年)などを含む、他の種類の遺伝子発現制御方法を同じ目的に使用することができる。
【0234】
本発明者らは、改変されたoriC近傍(図1A)とエピソームプラスミド上に発現させたセリンリコンビナーゼ発現系(ただし、図7Bおよび図7Cで評価されるように、セリンリコンビナーゼ発現系も同様にゲノムに組み込むことができた)とを有する大腸菌株を構築した。本発明者らの系では、同じcIリプレッサーの制御下で、異なるセリンリコンビナーゼを単一でまたは二重に発現させることができる(図1Bおよび図1C)。必要であれば、同じ発現制御機構または異なる発現制御機構を有するさらなるリコンビナーゼを追加することができる。本発明者らはφC31インテグラーゼを実験に用いたが、他のセリンリコンビナーゼも、それらの同族の(cognate)attP部位およびattB部位と共に、同じ目的に使用できることは明らかである。実験的に報告されているセリンリコンビナーゼは数十種類あり、バイオインフォマティクスによって新たに4000種類超が予測されている(Yangら、2014年)。
【0235】
温度移行に反応して増殖を止める能力を失った稀な変異体が発生する可能性がある。このような変異体(「cheater)」)は、37℃で成長および増殖を続け、培養において優勢な集団となる可能性がある。この潜在的な問題を回避するために、ゲノムからの複製開始点(oriC)の削除を行った細胞のみに対するポジティブ選択を含むことが可能である。後者が生存に必要な遺伝子(たとえば、抗生物質耐性遺伝子、または必須栄養素の代謝もしくは人工窒素源の代謝に必要な遺伝子)の発現をオンにスイッチすると、スイッチされた細胞だけが生き残る。
【0236】
本発明者らは、まず30℃(切除なし)で細胞を増殖させ、次に37℃に培養物を移す(切除)という時間経過実験において、ゲノムからのoriCの削除を行うスイッチャーの能力を試験した(図2)。温度移行後、スイッチャー株のCFU/mL数は2桁以上減少し(図2A)、組換えによって速やかにoriCが削除される(図2B)。活性型リコンビナーゼを欠くコントロール株(Control)では、このような変化は起こらない。oriCの切除をさらに確認するため、スイッチされた株におけるattB部位とattP部位との接合部の塩基配列を決定し、それが正確に予測通りであることを確認した(図2C)。
【0237】
oriCが切除されてゲノム複製がなくなると、最終的に細胞の分裂と増殖が停止することがわかった。バッチ培養系において細胞密度の変化を調べるために、異なる細胞密度でスイッチを誘導した(図3)。スイッチ後、OD値は数時間増加し続け、その後鈍化し始めた。初期細胞密度に応じて、スイッチャー株は、徐々に、コントロール細胞よりもさらに高い場合もある明瞭な密度プラトー(図3ではコントロール株のプラトーの約65%、95%、および110%)に達する。最終密度がコントロールより低いスイッチャー培養物は、栄養素が培地から枯渇しておらず、スイッチャーの増殖が別の原因によって停止されていることを示唆する。このことより、スイッチ時に適切なOD(細胞密度)を選択するだけでプラトーのレベルを調整することができる。
【0238】
スイッチャー株のタンパク質生産能を評価するために、ホモセリンラクトン(HSL)誘導性プロモーターの制御下にある単量体赤色蛍光タンパク質(mRFP1)をコードするプラスミドベースの蛍光レポーター系を用いた。HSLを培地に添加すると、赤色蛍光(励起:584nm、発光:607nm)を測定することによりモニターすることができるmRFPが生産される。スイッチャーとコントロールの両方をレポータープラスミドで形質転換し、温度移行実験で試験した(図4)。
【0239】
これらの株を30℃で4時間増殖させた後、培養物を37℃に移行させ、同時にHSLを添加して、mRFP1合成を誘導した(図4A)。両培養物ともmRFP1の合成を開始したが、コントロール培養物では定常期に達すると合成が停止した。スイッチャー培養物でも細胞密度の増加は止まったが、mRFP1レベルは増加し続け、コントロールに比べて高いレベルに達した。より高い密度でスイッチが誘導され、スイッチャー培養物がコントロール培養物と同じODに達すると、mRFP1の発現はさらに高くなる(図4B)。コントロール株に比べて、スイッチャー株では、ODに対するmRFP1蛍光の比率がほぼ3倍になるため、mRFP1の合成がはるかに効率的である(図4Cおよび図4D)。このことは、タンパク質発現において、本発明者らのスイッチャー系がコントロール株よりも有意に優れていることを示している。
【0240】
スイッチされた細胞のタンパク質合成能力をより長い期間にわたって調べるために、スイッチ時のHSL添加時間を変化させた(図5)。スイッチャー株ではスイッチから3時間後、6時間後、20時間後、さらには30時間後でも、mRFP1合成を誘導できたが、コントロール株ではmRFP1誘導は3時間後のみ検出可能である(図5B)。HSL陰性のスイッチャー培養では、時間の経過とともにmRFP1シグナルがいくらか増加しているが、HSLの添加は明らかにmRFP1発現を誘導している。この結果は、スイッチャー細胞が、非増殖状態であるにもかかわらず、代謝的に活性な状態を維持し、スイッチが起こってからかなり後で外部刺激に応答して新しいタンパク質合成を開始できることを示している。
【0241】
スイッチャーがタンパク質発現に及ぼすプラスの効果が、特定のレポータープラスミドに特異的なものではないことを確認するために、別のレポーターでもスイッチングを試験した。イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)誘導性Ptacプロモーターの制御下にある深紅蛍光タンパク質(E2-Crimson)をコードする蛍光レポーター系を、p15A複製開始点と選択用アンピシリン耐性遺伝子と組み合わせた(レポータープラスミドpAJ157)。培地にIPTGを添加するとE2-Crimsonの生産が誘導され、蛍光(励起:610nm、発光:650nm)を測定することでモニターできる。スイッチャーとコントロールの両方をレポータープラスミドで形質転換し、温度移行実験で試験した(図7A)。これらの株を30℃で4時間増殖させた後、培養物を37℃に移行し、同時にIPTGを添加して、E2-Crimson合成を誘導した。両培養物ともE2-Crimsonの合成を開始したが、スイッチャー株の方が有意に多い蛍光タンパク質を生産した。
【0242】
プラスミドを含まないスイッチャー株を構築するために、スイッチャーが機能するために必要な全ての遺伝子エレメントを大腸菌MG1655のゲノムに組み込み、bAJ174(ゲノムスイッチャー;表3、図8A)を得た。ファージφC31由来のインテグラーゼは、大腸菌での合成を増強するためにコドン最適化し、λPR(T41C)プロモーターの制御下に保持した。30℃でのインテグラーゼのゲノム抑制を増強するために、野生型cI857に加えて、PkatGプロモーターの制御下にあるコドン最適化cI857のコピーを別途ゲノムに追加した。さらに、ファージBxb1由来のインテグラーゼをコドン最適化し、λPLプロモーターの制御下に置き、組換えが成功する確率を高めるために、attB部位とattP部位をそれぞれoriCの両側に付加した。
【0243】
ゲノムスイッチャーは、効率的に細胞増殖を停止させ、mRFP1タンパク質とE2-Crimsonタンパク質の合成を増加させた(図7Bおよび図7C)。このことは、全ての必須要素を細菌ゲノムに組み込むことができ、それによりスイッチャー細胞がプラスミドなしで機能できることを示している。
【0244】
参照文献
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図1
図2
図3
図4AB
図4CD
図5
図6A
図6B
図7
図8
【配列表】
2023553408000001.app
【国際調査報告】