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特表2023-553470質量分析のための蒸発ベースのサンプル調製ワークフロー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】質量分析のための蒸発ベースのサンプル調製ワークフロー
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20231214BHJP
   G01N 30/08 20060101ALI20231214BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20231214BHJP
   B01J 20/282 20060101ALI20231214BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20231214BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20231214BHJP
   G01N 1/40 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
G01N27/62 F
G01N27/62 X
G01N27/62 V
G01N30/08 L
B01J20/281 R
B01J20/282 Z
G01N30/72 C
G01N30/88 E
G01N1/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535821
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(85)【翻訳文提出日】2023-07-03
(86)【国際出願番号】 EP2021085832
(87)【国際公開番号】W WO2022129131
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】20215190.8
(32)【優先日】2020-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】ベルナー,コーネリア
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】クプサー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ライネンバッハ,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ミトラ,インドラニル
(72)【発明者】
【氏名】ナンダニア,ジャティン
【テーマコード(参考)】
2G041
2G052
【Fターム(参考)】
2G041AA06
2G041CA01
2G041DA05
2G041EA04
2G041EA12
2G041FA10
2G041FA22
2G041GA09
2G041HA01
2G041JA02
2G041JA05
2G041JA06
2G041JA13
2G041LA08
2G052AA28
2G052AB16
2G052AD26
2G052AD46
2G052BA17
2G052ED01
2G052ED05
2G052ED07
2G052GA24
2G052GA27
2G052JA09
(57)【要約】
本発明は、質量分析を用いてサンプル中の分析物を検出および/または定量するための方法に関する。本発明の方法は、固相抽出(SPE)を使用してサンプルから分析物を抽出して、分析物を含むSPE抽出物を得る工程、分析物を濃縮する工程であって、濃縮が、SPE抽出物から溶媒を蒸発させることを含む、分析物を濃縮する工程、ならびに質量分析を使用してサンプル中の分析物を検出および/または定量する工程を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析を使用してサンプル中の分析物を検出および/または定量するための方法であって、
a)固相抽出(SPE)を使用して前記サンプルから前記分析物を抽出して、前記分析物を含むSPE抽出物を得る工程であって、前記SPE抽出物が50体積%~100体積%の有機溶媒を含み、前記分析物がステロイドであり、好ましくはテストステロンおよびエストラジオールからなる群から選択される、固相抽出(SPE)を使用して前記サンプルから前記分析物を抽出して、前記分析物を含むSPE抽出物を得る工程;
b)前記分析物を濃縮する工程であって、前記濃縮が、a)で得られた前記SPE抽出物から溶媒を一部蒸発させることを含み;前記一部蒸発に供される前記SPE抽出物の体積が、50%~95%、好ましくは60%~90%、より好ましくは70%~80%減少する、前記分析物を濃縮する工程;
b1)工程b)から得られた前記濃縮された分析物を希釈溶媒で希釈して、希釈された分析物を得る工程であって、前記希釈された分析物が、工程c)の前に50体積%未満の前記有機溶媒またはさらなる有機溶媒を含む、工程b)から得られた前記濃縮された分析物を希釈溶媒で希釈して、希釈された分析物を得る工程;ならびに
c)質量分析を使用して前記サンプル中の前記分析物を検出および/または定量する工程であって、前記質量分析が液体クロマトグラフィーに連結された質量分析(LC-MS)である、質量分析を使用して前記サンプル中の前記分析物を検出および/または定量する工程
を含む、方法。
【請求項2】
希釈剤溶液を用いて、一部蒸発後の前記体積を、a)の前記SPEに供される前記サンプルの体積の5%~40%、一実施形態では10%~30%、一実施形態では13%~27%に相当する最終体積に調整することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
a)の前記SPEに供される前記サンプルの体積が、250μl以下、一実施形態では200μl以下、一実施形態では150μl以下、一実施形態では150μlである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機溶媒が、アセトニトリルおよびメタノールからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記サンプルが、流体、特に生物学的流体、特に血清または血漿である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記分析物を分析物結合タンパク質から解放するための前処理工程をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記SPEに使用される固相が、磁性粒子、特に磁性マイクロビーズによって形成される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記SPEの固相が、前記分析物に特異的に結合する抗体でコーティングされた粒子によって形成される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記固相抽出(SPE)が、
a)前記分析物を固相に捕捉する工程;
b)場合により固相の1回以上の洗浄工程;および
c)前記固相から前記分析物を溶出させて、前記分析物を含む前記SPE抽出物を得る工程
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
添加された溶出溶媒の体積が、SPEに供される前記サンプルの体積の50%~150%、一実施形態では、SPEに供される前記サンプルの体積の90%~120%、一実施形態では、SPEに供される前記サンプルの体積の100%に相当する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程a)の前に前記サンプルに定量用内部標準(ISTD)を添加する工程をさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記液体クロマトグラフィー(LC)がHPLCまたはラピッドLCであり、一実施形態では、前記HPLCがマイクロLC(μLC)および/または超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析を用いてサンプル中の分析物を検出および/または定量するための方法に関する。本発明の方法は、固相抽出(SPE)を使用してサンプルから分析物を抽出して、分析物を含むSPE抽出物を得る工程;分析物を濃縮する工程であって、濃縮が、SPE抽出物から溶媒を一部蒸発させることを含む、分析物を濃縮する工程;ならびに質量分析を用いてサンプル中の分析物を検出および/または定量する工程を含む。
【背景技術】
【0002】
LC-MS用途のための自動化サンプル調製システムならびにHPLCシステムでは、デッドボリュームに関連するサンプル体積および分析物の損失があり、感度の低下の原因となる。例えば、固相抽出(SPE)による分析物の濃縮から得られた溶出サンプルを一次反応容器から二次反応容器に移送する際に、著しいサンプルの損失が起こり得る。サンプルまたはHPLCバイアルのデッドボリュームから、および高い精度および再現性を確保するために過剰充填を使用したフルループ注入から、LC注入プロセス中に更にサンプル損失が起こり得る。
【0003】
SPE中の分析物の溶出は、多くの場合、有機溶媒(例えば80% MeOH)を必要とする。しかしながら、サンプル中の有機溶媒の含有量は、特にμLCシステムについて、許容可能なクロマトグラフィー性能を維持するためにLC-MS注入の前に最小限にする必要がある。したがって、そのような溶出液は、有機溶媒濃度を下げるために(例えば30~40%MeOH以下)、例えば水で1:1希釈することが多い。この希釈は、分析物検出感度をさらに低下させる原因となる。
【0004】
したがって、特にSPE技術(例えば、磁性粒子ベースのSPE技術)を使用するサンプル調製プロセスの状況において、分析物損失が最小限に抑えられ、より高い分析物検出感度が達成され得るように、質量分析のためのサンプル調製ワークフローを改善する必要性が高い。
【発明の概要】
【0005】
本明細書では、質量分析を使用してサンプル中の目的の分析物を検出および/または定量するための方法であって、
a)固相抽出(SPE)を使用してサンプルから分析物を抽出して、分析物を含むSPE抽出物を得る工程;
b)a)で得られたSPE抽出物から溶媒を一部蒸発させることによって分析物を濃縮する工程;および
c)質量分析を用いてサンプル中の分析物を検出および/または定量する工程
を含む、方法が提供される。
【0006】
特に、本発明は、以下の項目にも関する。
【0007】
1.質量分析を使用してサンプル中の分析物を検出および/または定量するための方法であって、
a)固相抽出(SPE)を使用してサンプルから分析物を抽出して、分析物を含むSPE抽出物を得る工程;
b)分析物を濃縮する工程であって、a)で得られたSPE抽出物から溶媒を蒸発させることを含む、分析物を濃縮する工程;および
c)質量分析を用いてサンプル中の分析物を検出および/または定量する工程
を含む、方法、
好ましくは、質量分析を使用してサンプル中の分析物を検出および/または定量するための方法であって、
a)固相抽出(SPE)を使用してサンプルから分析物を抽出して、分析物を含むSPE抽出物を得る工程であって、SPE抽出物が50体積%~100体積%の有機溶媒を含み、分析物がステロイドであり、好ましくはテストステロンおよびエストラジオールからなる群から選択される、固相抽出(SPE)を使用してサンプルから分析物を抽出して、分析物を含むSPE抽出物を得る工程;
b)分析物を濃縮する工程であって、濃縮が、a)で得られたSPE抽出物から溶媒を一部蒸発させることを含み;一部蒸発に供されるSPE抽出物の体積が、50%~95%、好ましくは60%~90%、より好ましくは70%~80%減少する、分析物を濃縮する工程;
b1)工程b)から得られた濃縮された分析物を希釈溶媒で希釈して、希釈された分析物を得る工程であって、希釈された分析物が、工程c)の前に50体積%未満の有機溶媒またはさらなる有機溶媒を含む、工程b)から得られた濃縮された分析物を希釈溶媒で希釈して、希釈された分析物を得る工程;ならびに
c)質量分析を使用してサンプル中の分析物を検出および/または定量する工程であって、質量分析が液体クロマトグラフィーに連結された質量分析(LC-MS)である、質量分析を使用してサンプル中の分析物を検出および/または定量する工程
を含む、方法。
【0008】
2.SPE抽出物からの溶媒の蒸発が、SPE抽出物からの溶媒の一部蒸発である、項目1に記載の方法。
【0009】
3.濃縮に供されるSPE抽出物の体積が、50%~95%、一実施形態では60%~90%、一実施形態では70%~80%、一実施形態では73%~87%減少する、項目1または2に記載の方法。
【0010】
4.希釈剤溶液を使用して蒸発後の体積を、a)のSPEに供されるサンプルの体積の5%~40%、一実施形態では10%~30%、一実施形態では13%~27%に相当する最終体積に調整することをさらに含む、項目3に記載の方法。
【0011】
5.希釈剤溶液が、10体積%、特に5体積%、特に0体積%未満の有機溶媒濃度を有する水溶液である、項目4に記載の方法。
【0012】
6.希釈剤溶液が水である、項目4に記載の方法。
【0013】
7.a)のSPEに供されるサンプルの体積が、250μl以下、一実施形態では200μl以下、一実施形態では150μl以下、一実施形態では150μlである、項目1~6のいずれか一項に記載の方法。
【0014】
8.SPEに供されるサンプルの体積が150μlであり、SPE抽出物の体積が濃縮によって最終体積10μl~60μl、一実施形態では20μl~50μl、一実施形態では40μlに減少する、項目1~7のいずれか一項に記載の方法。
【0015】
9.SPE抽出物が、50体積%~100体積%の有機溶媒を含む、項目1~8のいずれか一項に記載の方法。
【0016】
10.有機溶媒が、アセトニトリルおよびメタノールからなる群から選択される、項目9に記載の方法。
【0017】
11.分析物がステロイドである、項目1~10のいずれか一項に記載の方法。
【0018】
12.分析物がステロイドホルモン、一実施形態では、アンドロゲン、エストロゲン、グルココルチコイド、ミネラルコルチコイドおよびゲスターゲンからなる群から選択されるステロイドホルモンである、項目1~11のいずれか一項に記載の方法。
【0019】
13.分析物がアンドロゲンまたはエストロゲンである、項目1~12のいずれか一項に記載の方法。
【0020】
14.アンドロゲンがテストステロンである、項目13に記載の方法。
【0021】
15.エストロゲンがエストラジオールである、項目13に記載の方法。
【0022】
16.サンプルが、流体、特に生物学的流体である、項目1~15のいずれか一項に記載の方法。
【0023】
17.サンプルが、得られた体液、一実施形態ではヒト体液である、項目1~16のいずれか一項に記載の方法。
【0024】
18.サンプルが血清または血漿である、項目1~17のいずれか一項に記載の方法。
【0025】
19.分析物を分析物結合タンパク質から解除するための前処理工程をさらに含む、項目1~18のいずれか一項に記載の方法。
【0026】
20.SPEがバッチ型SPEである、項目1~19のいずれか一項に記載の方法。
【0027】
21.SPEに使用される固相が、磁性粒子、特に磁性マイクロビーズによって形成される、項目1~20のいずれか一項に記載の方法。
【0028】
22.SPEの固相が、サンプルから分析物を捕捉し、溶出溶媒で処理されたときに分析物を放出するように構成された粒子(例えば、磁性粒子)によって形成される、項目1~21のいずれか一項に記載の方法。
【0029】
23.SPEの固相が、分析物に特異的に結合する抗体でコーティングされた粒子(例えば、磁性粒子)によって形成される、項目1~22のいずれか一項に記載の方法。
【0030】
24.SPEの固相が、サンプルの分析物に結合または吸着し得、溶出溶液で処理した場合に分析物を放出し得る多孔質ポリマーマトリックスによって形成される、項目1~23のいずれか一項に記載の方法。
【0031】
25.固相抽出(SPE)が:
a)分析物を固相に捕捉する工程;
b)場合により固相の1回以上の洗浄工程;および
c)固相から分析物を溶出させて、分析物を含むSPE抽出物を得る工程
を含む、項目1~24のいずれか一項に記載の方法。
【0032】
26.分析物を溶出させる工程が、溶出溶媒を固相に添加すること、および添加した溶出溶媒の存在下で固相をインキュベートすることを含む、項目25に記載の方法。
【0033】
27.添加される溶出溶媒の体積が、SPEに供されるサンプルの体積の50%~150%、一実施形態では、SPEに供されるサンプルの体積の90%~120%、一実施形態では、SPEに供されるサンプルの体積の100%に相当する、項目25または26に記載の方法。
【0034】
28.溶出溶媒が、特に40~100体積%、特に45~90体積%、特に60~80体積%の濃度でACNを含む、項目25~27のいずれか一項に記載の方法。
【0035】
29.溶出溶媒が、特に70~100体積%、特に80~90体積%、特に80体積%の濃度でMeOHを含む、項目25~27のいずれか一項に記載の方法。
【0036】
30.工程a)の前に、定量のための内部標準(ISTD)をサンプルに添加する工程をさらに含む、項目1~29のいずれか一項に記載の方法。
【0037】
31.ISTDが、1つ以上の重同位体で人工的に標識された分析物である、項目30に記載の方法。
【0038】
32.質量分析が液体クロマトグラフィーに連結された質量分析(例えば、分析がLC-MS分析またはより具体的にはLC-MS/MS分析である)である、項目1~31のいずれか一項に記載の方法。
【0039】
33.液体クロマトグラフィー(LC)がHPLCまたはラピッドLCである、項目32に記載の方法。
【0040】
34.LCがマイクロLCである、項目32または33に記載の方法。
【0041】
35.LCが超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)である、項目32~34のいずれか一項に記載の方法。
【0042】
36.質量分析が、エレクトロスプレーイオン化(ESI)を使用する質量分析計を用いて行われる、項目1~35のいずれか一項に記載の方法。
【0043】
37.質量分析が、タンデム質量分析計、特にトリプル四重極質量分析計である質量分析計を用いて行われる、項目1~36のいずれか一項に記載の方法。
【0044】
38.方法が自動化されている、項目1~37のいずれか一項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】蒸発なし(単純希釈)、完全蒸発、および一部蒸発ワークフローを使用した分析物テストステロンについての分析物シグナル(A)および回収率(B)の比較。60% MeOH中に60pg/mLのテストステロンを含むサンプルを、40μLアリコートの3つの試験群に分配した。最初の試験群では、サンプルを40μLのH2Oで希釈して80μLの総最終体積とし、対照試験群(100%の回収率)とした。第2および第3の試験群では、サンプルを蒸発させて完全に乾燥させ(完全蒸発)、次いで40μLの30% MeOHで再構成するか、または10μLの体積まで蒸発させ(一部蒸発)、次いで30μLの30% MeOHで希釈して総最終体積を40μLにした。全てのサンプルは同じ量の分析物を含み、最終的な有機物含有量は30% MeOHであった。
図2】検出感度およびクロマトグラフィー性能を最大化するように最適化された標準希釈ワークフロー(上)ならびに完全および一部蒸発ワークフロー(下)の概略図。図1(中央)で使用される完全蒸発ワークフローも示す。全てのワークフローは、150μLのサンプルおよび内部標準を混合し、結合タンパク質から分析物を解除するための前処理に加え、抗体被覆磁気ビーズで分析物を濃縮し、水で2回洗浄することによって未結合マトリックス成分を最小化することによって進行する。60μLまたは150μLの80% MeOH溶出緩衝液を使用して分析物を放出し、続いて標準および蒸発ワークフローのためにそれぞれ40μLまたは130μLの溶出液を新しい反応容器に移した。通常のワークフローでは、40μLの溶出液を67μLの水で希釈し、蒸発ワークフローでは、サンプルを蒸発させて完全に乾燥させるか(完全蒸発)、または20~40μLまで蒸発させ(一部蒸発)、サンプルを場合により水で希釈して40μLの最終体積を得る。全てのワークフローについて、LC-MS分析のために20μLが注入される。
図3】標準的なワークフロー(図3)および最適化された一部蒸発ワークフロー(図4)とを比較する、UniDilでスパイクされた2pg/mLエストラジオールの抽出イオンクロマトグラム。分析物クロマトグラフィーピークは、蒸発アッセイを使用して明確に検出し得たが、標準アッセイでは検出し得なかった。
図4】標準的なワークフロー(図3)および最適化された一部蒸発ワークフロー(図4)とを比較する、UniDilでスパイクされた2pg/mLエストラジオールの抽出イオンクロマトグラム。分析物クロマトグラフィーピークは、蒸発アッセイを使用して明確に検出し得たが、標準アッセイでは検出し得なかった。
図5】分析物/ISTDピーク面積比は、標準的なワークフローおよび最適化された蒸発ワークフローについて同じであり(A)、分析物ピーク面積および分析物濃度の線形適合は、蒸発ワークフローがUniDilに添加されたエストラジオール(図5)およびGoldenWestSerumに添加されたテストステロン(図6)について勾配の傾きが大きい(B)ことを実証した。
図6】分析物/ISTDピーク面積比は、標準的なワークフローおよび最適化された蒸発ワークフローについて同じであり(A)、分析物ピーク面積および分析物濃度の線形適合は、蒸発ワークフローがUniDilに添加されたエストラジオール(図5)およびGoldenWestSerumに添加されたテストステロン(図6)について勾配の傾きが大きい(B)ことを実証した。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、質量分析を使用してサンプル中の目的の分析物を検出および/または定量するための方法であって、
a)固相抽出(SPE)を使用してサンプルから分析物を抽出して、分析物を含むSPE抽出物を得る工程;
b)分析物を濃縮する工程であって、a)で得られたSPE抽出物から溶媒を蒸発させることを含む、分析物を濃縮する工程;および
c)質量分析を用いてサンプル中の分析物を検出および/または定量する工程
を含む、方法に関する。
【0047】
好ましい態様では、本発明は、質量分析を使用してサンプル中の分析物を検出および/または定量するための方法であって、
a)固相抽出(SPE)を使用してサンプルから分析物を抽出して、分析物を含むSPE抽出物を得る工程であって、SPE抽出物が50体積%~100体積%の有機溶媒を含み、分析物がステロイドであり、好ましくはテストステロンおよびエストラジオールからなる群から選択される、固相抽出(SPE)を使用してサンプルから分析物を抽出して、分析物を含むSPE抽出物を得る工程;
b)分析物を濃縮する工程であって、濃縮が、a)で得られたSPE抽出物から溶媒を一部蒸発させることを含み;一部蒸発に供されるSPE抽出物の体積が、50%~95%、好ましくは60%~90%、より好ましくは70%~80%減少する、分析物を濃縮する工程;
b1)工程b)から得られた濃縮された分析物を希釈溶媒で希釈して、希釈された分析物を得る工程であって、希釈された分析物が、工程c)の前に50体積%未満の有機溶媒またはさらなる有機溶媒を含む、工程b)から得られた濃縮された分析物を希釈溶媒で希釈して、希釈された分析物を得る工程;ならびに
c)質量分析を使用してサンプル中の分析物を検出および/または定量する工程であって、質量分析が液体クロマトグラフィーに連結された質量分析(LC-MS)である、質量分析を使用してサンプル中の分析物を検出および/または定量する工程
を含む、方法に関する。
【0048】
好ましい態様では、本発明は、質量分析を使用してサンプル中の目的の分析物を検出および/または定量するための方法であって、
a)固相抽出物(SPE)を使用してサンプルから分析物を抽出して、分析物を含むSPE抽出物を得る工程;
b)a)で得られたSPE抽出物から溶媒を一部蒸発させることによって分析物を濃縮する工程;および
c)質量分析を用いてサンプル中の分析物を検出および/または定量する工程
を含む、方法に関する。
【0049】
添付の実施例、本発明の方法によって実証されるように、本発明者らは、意外にも、目的の分析物(例えばステロイド、特にアンドロゲンまたはエストロゲン)を含むSPE抽出物に一部蒸発を適用することにより、MSサンプル調製ワークフローにおける分析物回収率を、以前に使用された希釈ワークフローに対して向上し得ることを見出した。さらに、本発明者らは、SPE抽出物の一部蒸発が、完全な蒸発乾固およびその後の定義された体積での再構成の使用と比較して、サンプルの回収、したがって分析物の検出感度(例えば、ステロイド、特にアンドロゲンまたはエストロゲン)が驚くほど優れていることを実証した。より高い分析物の回収および検出感度が高いという利点に加えて、一部蒸発は、完全蒸発よりもはるかに速いという利点を有する。したがって、溶媒の蒸発時間を短縮すると、サンプルの調製時間全体が短縮される。短時間のサンプル調製で、より高いサンプルターンオーバーが可能になり、典型的には可能な限り高いサンプルスループットを有する必要がある完全に自動化されたMSサンプル調製および測定システムについて論じるときに特に重要になる。
【0050】
「SPE抽出物から溶媒を一部蒸発させることによって分析物を濃縮する」とは、SPE抽出物中の分析物の濃度に対して体積が減少し、得られた溶液中の分析物の濃度が増加するようにSPE抽出物を蒸発させることを意味する。
【0051】
本明細書で使用される場合「一部蒸発」とは、液体サンプルの溶媒(本明細書ではSPE抽出物/溶出液)が蒸発して完全に乾燥するのではなく、溶媒の一部が残ることを意味する。換言すれば、蒸発に供された液体サンプルの溶媒(本明細書ではSPE抽出物/溶出液)は完全には蒸発していない。
【0052】
「溶媒を蒸発させる」とは、分析物が蒸発しないように液体を蒸発させることを意味する。好ましくは、分析物はまた、蒸発中に沈殿しない。
【0053】
本発明による一部蒸発は、分析物濃度を増加させるように構成される。さらに、一部蒸発は、好ましくは、有機溶媒(例えば、アセトニトリルまたはメタノールなどの揮発性有機溶媒)の含有量を減少させるように構成される。SPE抽出物中の有機溶媒の含有量を低下させることにより、LC-MSにおけるLC性能が改善する。
【0054】
複数の実施形態では、本方法は以下の順序で行われる:a)、次いでb)、次いでc)。
【0055】
複数の実施形態では、本方法は以下の順序で行われる:a)、次いでb)、次いでb1)、次いでc)。
【0056】
複数の実施形態では、一部蒸発(例えば、温度および/または真空設定)の設定は、有機溶媒(例えば、アセトニトリルまたはメタノール)が蒸発するように構成され得る。複数の実施形態では、一部蒸発の設定は、有機溶媒が水などの他の溶媒よりも優先的に蒸発するように選択され得る。水性混合物中のより高い蒸気圧またはより低い沸点を有する溶媒(例えば、アセトニトリルおよびメタノール)は、沸点(温度と圧力の組み合わせ)に近いまたはそれを超える含水量よりも速く蒸発する。これにより、相対的な有機含有量は蒸発によって効果的に低減される。
【0057】
濃縮工程は、サンプル中の分析対象物濃度に関する定量下限を向上させ得るように、質量分析に用いる分析対象物の濃度が高められるという利点を有する。特に、SPEおよび一部蒸発を含む濃度を組み合わせることによって、驚くべきことに、シグナルの増大を達成し得た。濃縮工程による分析物の濃度の上昇はまた、所与の定量限界に対してより低いサンプルの体積を使用することを可能にし、規定の体積で質量分析に供される分析物の体積を増加させる。さらに、溶媒の一部蒸発を使用した分析物の濃縮は、SPE抽出物(例えば、固相から分析物を抽出するために使用され得るACNまたはメタノール)に含まれる有機溶媒などの揮発性溶媒を除去し得るという利点を有する。このような有機溶媒は、質量分析ワークフローを含むLCの液体クロマトグラフィーを妨害する可能性がある。
【0058】
蒸発または一部蒸発は、当技術分野で知られている種々の蒸発システムまたはチャンバを用いて達成し得る。蒸発システムまたはチャンバは、質量分析システムの一部であってもよい。蒸発は、完全に自動化されていてもよく、すなわち手動の取り扱い工程なしで行われてもよい。複数の実施形態では、遠心分離を使用しない蒸発システムを使用し得る。好ましい実施形態では、蒸発システムは、蒸発のために真空および加熱を使用し得る(例えば、SpeedVac真空濃縮器、ThermoFisher)。
【0059】
複数の実施形態では、蒸発による濃縮に供されるSPE抽出物の体積は、(濃縮/蒸発に供されるSPE抽出物の体積に対して)50%~95%、特に60%~90%、特に70%~80%減少する。特に、蒸発を使用して溶媒体積を73%~87%減少させることによって、SPE抽出物を濃縮し得る。添付の実施例1では、SPE抽出物からの溶媒の濃縮/蒸発のそのような程度を使用して、検体の増加した検体回収率および検出感度を希釈ワークフローおよび完全蒸発ワークフローに対して達成できることが実証されている。
【0060】
例えば、磁性粒子ベースのSPEを実施し、150μlの総SPE抽出物が得られた場合、磁性粒子をペレット化し、130μlのSPE抽出物を別の管に移し、蒸発に供してもよい。例えば、130μlのSPE抽出物の処理体積を20μlの体積に減少させることは、体積を84.6%減少させることに相当する。
【0061】
複数の実施形態では、蒸発に供されるSPE抽出物の体積は、蒸発によって少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%減少し得る。
【0062】
複数の実施形態では、蒸発に供されるSPE抽出物の体積は、蒸発によって最大で50%、最大で55%、最大で60%、最大で65%、最大で70%、最大で75%、最大で80%、最大で85%、最大で90%、最大で95%、または最大で99%減少し得る。
【0063】
複数の実施形態では、蒸発に供されるSPE抽出物の体積は、蒸発によって5%~50%、特に10%~40%、特に20%~30%の最終体積まで減少する。特に、溶媒体積を13%~27%の最終体積まで減少させる蒸発によって、SPE抽出物を濃縮し得る。
【0064】
複数の実施形態では、この方法は、希釈剤溶液を使用して蒸発後の体積をLC-MSの対象となる最終体積に調整することを含み得る。希釈剤溶液による調整後の最終体積は、SPEに供されるサンプルの体積の5%~40%、一実施形態では10%~30%、または一実施形態では13%~27%に相当し得る。例示的であるが非限定的に、130μlのSPE抽出物の体積は、蒸発を使用して分析物を濃縮する工程に供され得、体積は、濃縮によって10μlに減少され得、最終的に、体積は、希釈剤溶液を使用して40μlに調整され得る。
【0065】
複数の実施形態では、SPE抽出物から溶媒を蒸発させた後に得られた体積は、得られた最終体積がLCへの注入体積および場合により溶液が含まれる反応容器のデッドボリュームに対応するように、希釈剤溶液を添加することによって調整され得る。例えば、SPE抽出物から溶媒を蒸発させた後に得られる体積は、使用される反応容器からLCへの注入のために15~30μl、特に20μLを除去し得るように希釈剤溶液の添加によって調整され得る。
【0066】
本開示の文脈で使用される希釈剤溶液は、例えば、水溶液または水であり得る。好ましくは、希釈剤溶液として使用される水溶液は、20体積%以下、好ましくは10体積%以下、さらにより好ましくは5体積%以下、最も好ましくは0体積%の有機溶媒濃度を含む。複数の実施形態では、希釈剤溶液は水であってもよい。低濃度の有機溶媒を使用し、または有機溶媒の含有量がないことでさえも、有機溶媒含有量を低く維持し得るという利点があり、これは濃縮溶液をLC-MSに供する場合に有利である。特にC18マトリックスなどの疎水性LC固定相を使用する場合、高濃度の有機溶媒は、典型的には、LCのピーク幅が広がる原因となる。
【0067】
本発明の方法は、種々の分析物およびサンプルに適用可能である。本方法は、目的の分析物のみを検出および/または定量することを含んでいてもよく、目的の分析物およびそれに加えて、さらなる分析物が検出し得る。
【0068】
複数の実施形態では、本発明の方法によって検出および/または定量される目的の分析物は、ステロイド、特にステロイドホルモンであり得る。特に、分析物は、アンドロゲン、エストロゲン、グルココルチコイド、ミネラルコルチコイド、ゲスターゲンからなる群から選択されるステロイドであり得る。
【0069】
アンドロゲンの例示的であるが非限定的な例は、テストステロン、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、デヒドロエピアンドロステロンサルフェート(DHEA-S)、アンドロステンジオン(A4)、アンドロステンジオール(A5)、ジヒドロテストステロン(DHT)およびアンドロステロンである。
【0070】
特定の実施形態では、アンドロゲンはテストステロンである。
【0071】
エストロゲンの例示的であるが非限定的な例は、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)およびエステトロール(E4)である。
【0072】
特定の実施形態では、エストロゲンはエストラジオールである。
【0073】
糖質コルチコイドの例示的であるが非限定的な例は、コルチゾールである。
【0074】
ミネラルコルチコイドの例示的であるが非限定的な例はアルドステロンである。
ゲスターゲンの例示的であるが非限定的な例は、プロゲステロン(P4)、16α-ヒドロキシプロゲステロン、17α-ヒドロキシプロゲステロン、20α-ジヒドロプロゲステロン、20β-ジヒドロプロゲステロン、5α-ジヒドロプロゲステロン、5β-ジヒドロプロゲステロン、3β-ジヒドロプロゲステロン、11デオキシコルチコステロンおよびジヒドロデオキシコルチコステロンである。
【0075】
複数の実施形態では、分析物は、11デスオキシコルチゾール、17-アルファ-ヒドロキシプロゲステロン(17OHP)、21-デスオキシコルチゾール、アルドステロン、アンドロステンジオン(A4)、コルチゾール、コルチゾン、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、デヒドロエピアンドロステロンサルフェート(DHEAS)、ジヒドロテストステロン(DHT)、エストラジオール(E2)、プロゲステロン、テストステロン(T)からなる群から選択されるステロイドである。好ましい実施形態では、分析物は、アルドステロン、アンドロステンジオン(A4)、デヒドロエピアンドロステロン、ジヒドロテストステロン(DHT)、エストラジオール(E2)、プロゲステロンまたはテストステロン(T)から選択される。特に好ましい実施形態では、分析物はテストステロン(T)またはエストラジオール(E2)である。
【0076】
本発明の方法は、以前に得られたサンプルを使用する。したがって、本発明の方法はインビトロ法である。サンプルは、特に、ヒト個体から得られたサンプルであり得る。
【0077】
原則として、目的の分析物を含むかまたは含むと疑われるあらゆるサンプルを本発明の方法に供し得る。固相抽出に供されるサンプルは液体である必要があるが、原則として、固体サンプル(例えば、乾燥血液スポット)も本発明の方法に供し得る。固体サンプルの場合、SPEの前に追加のサンプル調製工程が含まれ、これは乾燥血液スポットを液体中で再構成することを含む。分析物(例えば、ステロイド)が液体中に回収されるように固体サンプルを液体に再構成するためのそれぞれの方法および手段は、当技術分野において公知である(Rossiら,Clin Chem Lab Med 2011;49(4):677-684;Kimら,Ann Lab Med 2015;35:578-585)。
【0078】
複数の実施形態では、サンプルは液体サンプル、例えば生物学的流体であり得る。特定の実施形態では、サンプルは体液であり得る。体液の例示的であるが非限定的な例は、全血、血清、血漿、尿、精液、(女性)卵胞液および唾液である。特に、サンプルは、全血、血清および血漿から選択される血液サンプルであり得る。特定の実施形態では、サンプルは血清または血漿であり得る。使用されるサンプルの種類に応じて、サンプルをSPEに供する前にサンプル調製工程を必要とする場合があり、サンプルの量を調整する必要があり得る。当業者は、そのようなサンプル調製をどのように行うかを知っている。
【0079】
SPEに供されるサンプルの体積は、サンプルの種類ならびにサンプル中の検出される分析物の種類および/または濃度に応じて変化させ得る。サンプルの体積が少ないと、分析のための試薬の体積および総分析時間(例えば、液体クロマトグラフィーなどの時間を短縮することによって)を減少させ、追加のサンプル材料を種々の分析に供する機会を提供するという利点を有する。本発明の方法のSPE抽出物および濃縮工程の組み合わせにより、感度の向上に寄与し、したがって、サンプルの体積を低く維持し得る。
【0080】
例えば、サンプルの体積は、250μl以下、一実施形態では200μl以下、一実施形態では150μl以下、一実施形態では150μlであり得る。複数の実施形態では、150μl~250μl、またはより詳細には150μl~200μlのサンプル体積を使用し得る。特定の実施形態では、サンプルの体積は150μlであり得る。
【0081】
サンプルの種類および分析物に応じて、分析物の一部は、1つ以上のタンパク質(例えば、ステロイドは、ステロイド結合タンパク質および/または性ホルモン結合グロビンに結合していてもよい)または他のサンプル成分(例えば、血清成分またはアルブミン)と複合体を形成し得る。本発明の方法は、検出および/または定量される分析物をタンパク質(例えば、性ホルモン結合グロビン)などの結合パートナーから解除する工程を含み得る。解除工程は、特に、SPEの前に行われてもよい。解除/前処理工程を実施することにより、検出および/または定量のための1つ以上のステロイドの利用可能性を高め得る。前処理工程は、「除タンパク」工程、すなわち、1つ以上のステロイドの一部または全部を、それらが結合している1つ以上のタンパク質から解除する工程であり得る。
【0082】
前処理/解除工程は、解除剤(例えば除タンパク剤)をサンプルに添加することを含み得る。遊離剤(例えば除タンパク剤)は、サンプルに添加されると、サンプル中のその結合パートナー(性ホルモン結合グロビンおよび/またはサンプルの他の成分などのタンパク質)から1つ以上のステロイドを解除する薬剤である。いくつかの実施形態では、解除組成物(例えば除タンパク組成物)を使用し得る。解除組成物(例えば除タンパク組成物)は、サンプルに添加されたときに、その結合パートナー(性ホルモン結合グロビンおよび/またはサンプルの他の成分などのタンパク質)からの1種以上のステロイドの解除を引き起こす少なくとも1種の薬剤を含む2種以上の物質の混合物である。除タンパク剤および組成物、ならびにそれらを使用する技術は、当技術分野で公知である。本開示の文脈において、解除剤(例えば除タンパク剤)は、例えば、アセトニトリル(ACN)、メタノール(MeOH)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)から選択される有機溶媒などの有機溶媒であり得る。例示的であるが非限定的な解除組成物(例えば除タンパク組成物)としては、アセトニトリル(ACN)、メタノール(MeOH)およびジメチルスルホキシド(DMSO)の群からの少なくとも2つを含む混合物が挙げられるが、これらに限定されない。サンプルに添加される解除剤(例えば除タンパク剤)および/または解除組成物(例えば除タンパク組成物)の体積は、薬剤および/または薬剤組成物およびそれが干渉すべき結合の種類に応じて調整され得る。例えば、ACNは、1~10体積%、特に2~5体積%、特に約2体積%または正確に2体積%の最終濃度になるようにサンプルに添加され得る。MeOHは、例えば、2.5~30体積%、特に5~15体積%、特に7.5体積%の最終濃度でサンプルに添加し得る。DMSOは、2~20体積%、特に3~10体積%、特に5体積%の最終濃度でサンプルに添加し得る。本発明の文脈における前処理工程は、さらにまたは代替的に、サンプルのpHを低下または上昇させることを含んでもよい。pHの変化がステロイドのサンプル成分への結合を妨害し得ることは、当技術分野で公知である。例えば、pHは、5以下、特に4以下、特に3以下、特に2以下のpHに酸性化し得る。
【0083】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、解除剤(例えば、中性pHで)として有機溶媒を添加することを含む、工程a)の前の前処理工程を含み得る。例えば、有機溶媒アセトニトリル(ACN)を上記のように最終濃度でサンプルに添加し得る。
【0084】
複数の実施形態では、当技術分野で公知の前処理条件も使用し得る。前処理条件の非限定的な例は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるGervasoni,J.ら.(Clin Biochem,2016.,49(13-14):p.998-1003に記載されている。
【0085】
本発明の方法は、「固相抽出(SPE)を使用してサンプルから分析物を抽出して、分析物を含むSPE抽出物を得る」工程を含む。「サンプルから分析物を抽出する」とは、サンプルの複雑さが低減されることを意味する。すなわち、分析物は、他のサンプルから部分的または完全に分離または精製される。抽出によるサンプルの複雑さの低減は、質量分析を容易にし、バックグラウンドシグナルを低減する。複数の実施形態では、「サンプルから分析物を抽出する」工程は、「サンプルから分析物を濃縮する」とも呼ばれ得る。この文脈における「濃縮」は、分析物の量が他のサンプル成分と比較して増加しているSPE抽出物が生成されることを意味する。複数の実施形態では、少なくとも1種の他のサンプル成分に対する分析物の存在量を増加させ得る。
【0086】
本発明の文脈で使用される「固相抽出」(SPE)は、液体混合物および/またはサンプルに含まれる他の成分から分析物または分析物の群を部分的または完全に分離する方法を指す。SPE法は、分析物ならびに混合物および/またはサンプルに含まれる1つ以上の他の化合物の固相および液相分布に依存する。本開示による固相抽出の第1の実施形態では、分析物は、混合物またはサンプル中の1つ以上の他の化合物よりも固相に対する結合親和性が高い場合がある。分析物の固相に対する結合親和性が高いため、分析物は、混合物および/またはサンプルの他の化合物から部分的または完全に分離、すなわち抽出され得る。第2の代替実施形態では、分析物は、固体SPEに供された混合物および/またはサンプルに含まれる1つ以上の他の化合物の結合親和性よりも固相に対する結合親和性が低い場合がある。この実施形態では、1つ以上のステロイドは液相に留まり、1つ以上のサンプルの他の成分は固相に結合することによって除去される。したがって、本明細書で使用される場合、固相抽出という用語は、以下のような種々の実施形態を含む:(i)液相で他の化合物を一部または完全の除去することを可能にする固相での分析物の保持(場合により1以上の洗浄工程も行なう)ならびに(ii)固相での他の化合物の保持および液相での分析物の抽出。複数の実施形態(i)では、SPEは、典型的には、可逆的に結合した分析物を固相から放出するために適切な溶出溶液を使用した溶出を含む。溶出溶液は、固相の結合原理に応じて選択し得る。
【0087】
本発明の文脈で使用される「固相抽出」としては、固相抽出カートリッジ/カラムまたは固相チップを使用する古典的な固相抽出方法などの技術が挙げられるが、これらに限定されない。特に、本発明の文脈における「固相抽出」という用語は、粒子ベース、特にビーズベースのワークフローを含む。本開示の文脈における「固相抽出」という用語は、異なる分離原理を含む。複数の実施形態では、分析物(すなわち、1つ以上のステロイド)は固相(例えばビーズ)によって遅延され、1つ以上の他のサンプル成分は液相に残る場合がある。他の実施形態では、分析物(すなわち、1つ以上のステロイド)は液相のままであり、1つ以上の他のサンプル成分は固相に結合する場合がある。
【0088】
本発明の文脈において固相抽出に使用される「固相」としては、表面または粒子(例えばマイクロビーズなどのマイクロ粒子)が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、固相はビーズ、特にマイクロビーズであり得る。ビーズ(例えばマイクロビーズ)は、非磁性、磁性、または常磁性であり得る。特に好ましい実施形態では、固相は磁性マイクロビーズであり得る。ビーズ(例えばマイクロビーズ、特に磁性マイクロビーズ)は、様々な異なる材料で製造され得る。ビーズ(例えば磁気ビーズ)は、様々なサイズ(例えばμm範囲内)を有し、細孔の有無にかかわらず表面を含み得る。
【0089】
本発明の特定の実施形態では、固相は、必須ではない固相;すなわち、懸濁液中に保持され、分注可能な固相材料であってもよい。そのような分注可能な固相の非限定的な例は、粒子、特にビーズ、より具体的にはマイクロビーズ、さらにより具体的には磁性マイクロビーズである。分注可能な固相は、種々の分析物に対して種々の固相を使用することを必要とし得る自動化されたサンプル調製および質量分析装置においてランダムアクセスモードで効率的に使用し得るという利点を有する。さらに、分注可能な固相材料の量をより容易に調整し得る。
【0090】
固相(例えば粒子、特に磁性粒子、特に磁性マイクロビーズ)は、分析物の結合/捕捉を可能にするようにコーティングされていてもよい。1つ以上のステロイドを捕捉/結合するための適切なコーティングは、当技術分野で公知である。
複数の実施形態では、固相(例えば粒子、特に磁性粒子、特に磁性マイクロビーズ)は、分析物に特異的に結合する抗体またはその断片でコーティングされていてもよい。特定の実施形態では、分析物に結合/捕捉する免疫ビーズ(すなわち、表面に結合した抗体またはその抗原結合断片を有するマイクロビーズなどの磁性粒子)は、SPE用の固相として使用され得る。他の実施形態では、固相は、分析物の遅延を可能にする多孔質ポリマーマトリックスでコーティングされていてもよい。
【0091】
複数の実施形態では、国際公開第2018189286号または国際公開第2019141779号に記載されているような粒子を、サンプルから分析物(例えばステロイド)を捕捉するためのSPEに使用し得る。これらの文献、特にそこに記載されている粒子またはビーズは、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0092】
本発明の文脈における固相抽出としては、フロースルー固相抽出およびバッチ式固相抽出が挙げられ得る。
【0093】
フロースルーベースの固相抽出は、固相を容器(例えば、カートリッジ)に保持し、サンプル(または前処理されたサンプル)をフロースループロセスで固相に適用することを意味する。場合により、フロースルーは、フロースルーが遮断されている間にサンプルが固相と接触すると定義されたインキュベーション時間を含み得る。例えば、フロースルーベースの固相抽出は、固相抽出カートリッジ/カラムまたは固相チップを用いて行ってもよい。フロースルーベースの固相抽出は、残留液相が除去される1つ以上の洗浄工程を含み得る。
【0094】
本明細書で使用される「バッチ式ベースの固相抽出」は、フロースルー工程を含まない固相ベースの分離方法を指す。「バッチ式ベースの固相抽出」は、サンプル(または前処理されたサンプル)を固相と接触させ、場合により、サンプルを固相の存在下で定義された時間(分離原理に応じて1つ以上の他のサンプル成分の分析物結合または結合に必要)インキュベートし、フロースルーとは異なる手段(例えば、ペレット化)によって固相を液相から分離する工程を含む。特に、バッチ式固相抽出は、固相が粒子(特にビーズなどの磁性粒子)によって形成され、SPE中の液相からの固相の分離がビーズのペレット化によって達成される実施形態を含む。ビーズのペレット化は、遠心分離または他の手段によって達成され得る。特定の実施形態では、ビーズのペレット化は遠心分離を含まなくてもよい。特定の好ましい実施形態では、ビーズは磁性であってもよく、ビーズは磁力によってペレット化され得る。
【0095】
特定の実施形態では、SPEにおいて使用される固相は、バッチ式SPE、好ましくは(マイクロ)ビーズを使用するバッチ式SPE、さらにより好ましくは磁性(マイクロ)ビーズを使用するバッチ型SPEであり得る。バッチ式SPEは、SPEで使用される固相への分析物の結合/捕捉に基づいている場合がある。他の実施形態では、他のサンプル成分が固相に結合してもよく、分析物が液相に残ってもよい。
【0096】
SPEによって得られた分析物またはその大部分を含む溶液は、本明細書では「SPE抽出物」と呼ばれる。SPEで使用される分離原理(すなわち、固相上または液相中の分析物の遅延)に応じて、「SPE抽出物」は、固相とのインキュベーション後に得られるサンプルの液相に対応することもあり(これらの実施形態では、分析物は固相に結合しないため)、または溶出溶媒/溶液を使用した固相からの溶出によって得られる溶出液に相当することもある(これらの実施形態では、分析物は固相に結合し、続いて溶出される)。特定の実施形態では、分析物は固相で遅延する場合があり、SPE抽出物は、溶出溶媒を使用して固相から溶出することによって得られた溶出液に対応し得る。
【0097】
複数の実施形態では、SPE抽出物は、50体積%~100体積%の有機溶媒を含み得る。有機溶媒は、メタノール、またはアセトニトリルであってもよい。
【0098】
特定の実施形態では、SPEは、
a)固相への分析物の結合/捕捉工程;
b)場合により、1回以上の洗浄工程;および
c)固相から分析物を溶出する工程であって、得られた溶出液がSPE抽出物と呼ばれ、分析物を含む、固相から分析物を溶出する工程
を含んでいてもよい。
【0099】
分析物の固相への結合は、分析物の捕捉が検出されることを可能にする条件下で、所定の時間、固相とサンプルとのインキュベーションを含み得る。
【0100】
特に好ましい実施形態では、SPEは、磁性粒子ベースのワークフローであり得る。磁性粒子ベースのワークフローは、
a)磁性粒子への分析物の結合/捕捉工程;
b)場合により、1回以上の洗浄工程;および
c)固相から分析物を溶出する工程であって、得られた溶出液がSPE抽出物と呼ばれ、分析物を含む、固相から分析物を溶出する工程
を含んでいてもよい。
【0101】
磁気ビーズベースのワークフローは、
d)ビーズからSPE抽出物を分離することをさらに含む。
【0102】
この分離は、第1の反応容器内で磁気ビーズを(例えば、磁力によって)ペレット化し、溶出液を別の反応容器に移すことによって達成され得る。
【0103】
したがって、特定の態様では、本発明は、質量分析を使用してサンプル中の分析物を検出または定量するための方法であって、
a)磁性粒子ベースのワークフロー(例えば、本明細書の他の箇所に記載されているように)を使用してサンプルから分析物を抽出して、分析物を含む溶出液を得る工程;
b)溶離液中で分析物を濃縮する工程であって、濃縮することが、a)で得られた溶離液から溶媒を一部蒸発させることを含む、溶離液中で分析物を濃縮する工程;および
c)質量分析を用いてサンプル中の分析物を検出および/または定量する工程
を含む、方法を提供する。
【0104】
換言すれば、「固相抽出(SPE)を使用してサンプルから分析物を抽出して、分析物を含むSPE抽出物を得ること」は、本発明の実施形態では、「磁性粒子ベースのワークフローを使用してサンプルから分析物を抽出して、分析物を含む溶出液を得ること」であってもよい。
【0105】
「磁性粒子ベースのワークフロー」とは、磁性粒子(例えば磁性マイクロビーズ)を使用してサンプルから分析物を抽出する方法を指す。磁性粒子は、他のサンプル成分が液相で一部または完全に除去されている間に分析物に結合し得る。
【0106】
特に好ましい実施形態では、本発明は、分析物に特異的に結合する抗体または抗原結合断片(例えば、1つの抗体または抗原断片の複数のコピー)でコーティングされた磁性粒子を使用する。これらの磁性粒子は、本明細書では免疫ビーズとも呼ばれる。したがって、一態様では、本発明は、質量分析を使用してサンプル中の分析物を検出または定量するための方法であって、
a)検体特異的抗体(すなわち、免疫ビーズ)でコーティングされた磁性粒子を使用してサンプルから検体を精製して、検体を含む溶出液を得る工程;
b)溶離液中で分析物を濃縮する工程であって、濃縮することが、a)で得られた溶離液から溶媒を一部蒸発させることを含む、溶離液中で分析物を濃縮する工程;および
c)質量分析(例えばLC-MS)を使用してサンプルの分析物を検出および/または定量する工程
を含む方法に関する。
【0107】
本発明の方法のSPEは、洗浄液を使用する1回以上の洗浄工程を含み得る。この方法は、例えば、洗浄液を使用する1回または2回の洗浄工程を含み得る。洗浄工程は、分析物を固相に結合/捕捉した後、分析物を固相から溶出する前に行ってもよい。
【0108】
分析物が固相に結合し、SPE抽出物を形成するために溶出される必要がある実施形態では、溶出溶媒を用いてこれを達成し得る。溶出溶媒を固相に添加し、固相を溶出溶媒の存在下でインキュベートしてもよい。インキュベーション時間は、どの固相を使用するか、また溶出溶媒がどれだけ過酷であるかに応じて調整し得る。
【0109】
SPE用の溶出溶媒の組成(磁性粒子ベースのワークフローも含む)は、固相、分析物、および分析物と固相との間の相互作用原理に応じて選択され得る。
【0110】
複数の実施形態では、溶出溶媒は、特に40~100体積%、特に45~90体積%、特に50~70体積%、特に60体積%の濃度でアセトニトリル(ACN)を含み得る。上述のACNを含む溶出溶媒は、本明細書の他の箇所に開示されている磁性粒子などの粒子を使用する実施形態で特に使用され得る。これらの溶出溶媒は、特に、免疫ビーズが使用される場合にも使用され得る。
【0111】
複数の実施形態では、溶出溶媒は、特に60~100体積%、特に70~90体積%、特に80体積%の濃度でメタノールを含み得る。溶出溶媒は、メタノールおよび水の混合物であってもよい。上述のメタノールを含む溶出溶媒は、本明細書の他の箇所に開示されている磁性粒子などの粒子を使用する実施形態で特に使用され得る。これらの溶出溶媒は、特に、免疫ビーズが使用される場合にも使用され得る。
【0112】
本発明の方法は、1つ以上の内部標準(ISTD)、特に同位体標識内部標準を使用することを含み得る。ISTDは、分析物の定量に使用し得る。1つ以上の内部標準は、好ましくは、SPEおよび任意の前処理工程の前に、所定の既知の量でサンプルに添加される。
【0113】
「内部標準(ISTD)」は、典型的には、質量分析検出ワークフロー(すなわち、任意の前処理、濃縮および実際の検出工程を含む)に供した場合に、目的の分析物と同様の物理化学的特性を示す化合物である。さらに、ISTDは、典型的には、相当量(例えば、分析物の量の1%以下)で測定されるサンプル中に自然に発生しないように選択される。ISTDは、目的の分析物と類似または同一の化学的特性を示すが、質量分析によって目的の分析物と依然として明確に区別可能である。例示すると、ガスまたは液体クロマトグラフィーのようなクロマトグラフ分離の間、ISTDは、サンプルからの目的の分析物とほぼ同じ保持時間を有する。したがって、分析物およびISTDの両方が同時に質量分析計に入る。ISTDは、しかしながら、サンプルからの目的分析物とは異なる分子量を呈する。これにより、異なる質量/電荷(m/z)比を用いて、ISTDからのイオンと分析物からのイオンとを質量分析で区別し得る。両方を断片化に供し、娘イオンを得る。これらの娘イオンは、互いのm/z比およびそれぞれの親イオンによって区別し得る。結果として、ISTDおよび分析物からのシグナルの別個の決定および定量化を行い得る。ISTDは既知量で添加されているので、サンプルからの分析物のシグナル強度は、特定の定量的量の分析物に帰属し得る。このように、ISTDを添加することにより、検出された分析物の量を相対的に比較することが可能になり、分析物が質量分析計に到達したときにサンプル中に存在する目的の分析物の明確な同定および定量することが可能になる。必ずしもそうとは限らないが、典型的には、ISTDは、目的の分析物の同位体標識変異体(例えば、H、13C、および/または15Nなどのラベルのうちの少なくとも3つを含む)である。
【0114】
テストステロンを定量するための例示的であるが非限定的なISTDは、13C3-テストステロン(例えば、Cerilliantから入手可能)である。エストラジオールを定量するための例示的であるが非限定的なISTDは、13C3-エストラジオール(例えば、Cerilliantから入手可能)である。
【0115】
質量分析は、液体クロマトグラフィー(LC)を含み得る。特に好ましい実施形態では、質量分析はLC-MSまたはLC-MS-MSであり得る。
【0116】
いくつかの実施形態では、液体クロマトグラフィーは、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)であり得る。HPLCは、当技術分野で公知の異なるカラム材料に基づき得る。HPLCの流量は、分析物および必要に応じて適合させることが可能である。特定の実施形態では、HPLCの流量は、0.20~1.0ml/分、特に0.44ml/分であり得る。
【0117】
いくつかの実施形態では、質量分析の液体クロマトグラフィーはラピッドLCであり得る。
【0118】
いくつかの実施形態では、質量分析の液体クロマトグラフィーはマイクロLCであり得る。
【0119】
いくつかの実施形態では、質量分析の液体クロマトグラフィーは、UHPLC、例えばマイクロLCを使用するUHPLCであり得る。
【0120】
複数の実施形態では、HPLC分離原理は、逆相HPLC(RP-HPLC)であり得る。RP-HPLCは、C18-HPLCであり得るが、これに限定されない。
【0121】
質量分析におけるイオン化は、本明細書の他の箇所に記載されているような種々の技術に基づいてもよい。一実施形態では、エレクトロスプレーイオン化(ESI)。
【0122】
質量分析に使用されるMS装置は、タンデム質量分析計、特にトリプル四重極装置であってもよい。
【0123】
特定の実施形態では、本発明の方法は自動化されてもよい。「自動化された」とは、サンプルおよび試薬をシステムに適用する工程を除いて、1つ以下、好ましくは手動の取り扱い工程が不要であることを意味する。手動処理工程は、特に、サンプルへの試薬の手動添加および処理中のサンプルの1つの装置から別の装置への移送を含む。
【0124】
複数の実施形態では、本発明の方法は、遠心分離工程を含まなくてもよい。特に、SPEおよび/または濃縮は、遠心分離なしで行われ得る。遠心分離工程(例えば、磁気ビーズベースのSPEワークフローを使用することによって)を防止することにより、より容易に自動化し得、サンプル調製システムが遠心分離機を必要としないという利点を有する。さらに、SPE中に固相を分離する時間を短縮し得る。
【0125】
複数の実施形態では、本発明の方法は、特にサンプル調製中に液体-液体抽出を含まなくてもよい。言い換えれば、SPEおよび濃縮工程は、質量分析前の唯一のサンプル調製工程(例えばLC-MS、特にLC-MS/MS)であり得る。液体-液体抽出工程は、典型的には扱いにくく、有機溶媒を消費する。
【0126】
本発明の方法は、特に、ランダムアクセス互換モード(random-access compatible mode)で、ランダムアクセス互換システムを使用して実行し得る。「ランダムアクセス」は、好ましくは、記載された本発明の試薬およびシステム設定が、システムの適合または平衡、特に手動システムの適合または平衡(質量分析および/またはLC設定の変更を含む)を必要とせずに、異なる分析物に対処する他のアッセイと適合することを意味する。
【0127】
本発明の方法の質量分析は、多重反応モニタリング(MRM)モードを使用して実施し得る。
【0128】
一態様では、本発明はまた、分析物を検出および/または定量する質量分析(例えばLC-MS/MS)のためのサンプルを調製するための方法であって、
a)固相抽出物(SPE)を使用してサンプルから分析物を抽出して、分析物を含むSPE抽出物を得る工程;
b)分析物を濃縮する工程であって、濃縮する工程が、a)で得られたSPE抽出物から溶媒を蒸発させることを含む、分析物を濃縮する工程
を含む、方法を提供する。
【0129】
分析物を検出および/または定量するための方法に関して上述したことは、分析物を検出または定量する質量分析(例えばLC-MS/MS)のためのサンプルを調製する方法に準用される。
【0130】
「質量分析」(「Mass Spec」または「MS」)という用語は、化合物をその質量によって同定するために使用される分析技術に関する。MSは、その質量対電荷比または「m/z」に基づいて、イオンをフィルタにかけ、検出し、測定する方法のことである。MS技術は、一般に、(1)化合物をイオン化して荷電化合物を形成すること、および(2)質量電荷比を検出することを含む。化合物は、任意の好適な手段によってイオン化されて、検出され得る。「質量分析計」は、一般に、イオン化装置およびイオン検出器を含む。一般に、1つ以上の目的の分子がイオン化されて、続いて、このイオンは、質量分析機器に導入されて、この機器において、磁場および電場の組み合わせにより、イオンは、質量(「m」)および電荷(「z」)に依存して空間の経路をたどる。「イオン化」または「イオン化する」という用語は、1つ以上の電子単位に等しい正味の電荷を有する分析物のイオンを発生させるプロセスを指す。陰イオンは、1つ以上の電子単位の正味の負電荷を有するものである一方、陽イオンは、1つ以上の電子単位の正味の正電荷を有するものである。MS方法は、陰イオンが発生してこれが検出される「陰イオンモード」、または陽イオンが発生してこれが検出される「陽イオンモード」のどちらか一方で行い得る。
【0131】
「タンデム質量分析」または「MS/MS」は、質量分析の選択および検出の複数の工程を含み、工程の間に分析物の断片化が起こる。タンデム質量分析計では、イオンをイオン源で生成し、質量分析の第一段階(MS1)で質量電荷比により分離する。特定の質量電荷比のイオン(前駆イオンまたは親イオン)が選択され、断片イオン(娘イオンとも呼ばれる)が衝突誘起解離、イオン-分子反応、および/または光解離によって生成される。次いで、得られたイオンを分離し、質量分析の第二段階(MS2)で検出する。
【0132】
通常、質量分析測定の場合、以下の3つの工程が行われる:
(1.)目的の分析物を含むサンプルを、通常、カチオンとの付加物形成、しばしばカチオンへのプロトン化によってイオン化する。イオン化源は、以下に限定されないが、エレクトロスプレーイオン化(ESI)および大気圧化学イオン化(APCI)を含む。
(2.)イオンをその質量および電荷に応じて分類し、分離する。高電場非対称波形イオン移動度分光分析(FAIMS)をイオンフィルタとして使用し得る。
(3.)分離されたイオンを、例えば多重反応モード(multiple reaction mode:MRM)で検出し、その結果をチャートに表示する。
【0133】
「エレクトロスプレーイオン化」または「ESI」という用語は、溶液を長さの短いキャピラリー管に沿って通過させて、キャピラリー管の端部に高い正電位または負電位を印加する、方法を指す。管の端部に到達した溶液は、溶媒蒸気中で非常に小さな溶液の液滴のジェットまたはスプレーへと気化(噴霧化)される。液滴のこの霧は、エバポレーションチャンバを通り、このチャンバは、わずかに加熱されて、縮合を予防して溶媒をエバポレートする。液滴が小さくなるほど、同じ電荷間の自然な反発によってイオンと中性分子が放出されるまで、電気的な表面電荷密度が向上する。
【0134】
「大気圧化学イオン化」または「APCI」という用語は、ESIに類似した質量分析法を指す。しかしながら、APCIは、大気圧のプラズマ内で起こるイオン分子反応によってイオンを生成する。プラズマは、スプレーキャピラリーと対電極との間の電気放電により維持される。イオンは、通常、一連の差動ポンプ式スキマーステージ(differentially pumped skimmer stages)の使用により質量分析装置に抽出される。向流の乾燥および予熱N2ガスを用いて、溶媒の除去を改善し得る。APCIにおける気相イオン化は、極性がより低い実体を分析するためにESIよりも有効となり得る。
【0135】
「多重反応モード」または「MRM」は、前駆イオン(親イオンとも呼ばれる)および1つ以上の断片イオンが選択的に検出および/または定量されるMS機器の検出モードである。
【0136】
質量分析計は、わずかに異なる質量のイオンを分離して検出するので、所与の元素からなる異なる同位体を容易に区別する。したがって、質量分析は、以下に限定されないが、低分子量の分析物、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質を含めた、分析物の正確な質量測定および特徴づけのための重要な方法である。その用途は、タンパク質およびその翻訳後修飾の同定、タンパク質複合体、そのサブユニットおよび機能的相互作用の解明、ならびにプロテオミクスにおけるタンパク質の全測定を含む。質量分析によるペプチドまたはタンパク質のデノボ配列決定は、通常、アミノ酸配列のこれまでの知識なしに実施し得る。
【0137】
質量分析決定は、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、特にHPLC、および/またはイオン移動度に基づく分離技法等のクロマトグラフィー法を含めた追加の分析法と組み合わされてもよい。
【0138】
本開示の文脈において、サンプルは、「個体」または「対象」に由来するサンプルであり得る。典型的には、対象は、哺乳動物である。哺乳動物としては、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌおよびウマ)、霊長類(例えば、ヒトおよび非ヒト霊長類、例えば、サル)、ウサギおよびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、サンプルはヒトから得られる。
【0139】
「クロマトグラフィー」という用語は、液体または気体によって運ばれる化学混合物が、固定液相固相と相互作用しながら化学的実体が周りまたは上を流れる際に、化学的実体の差次的分布の結果として成分に分離されるプロセスを指す。
【0140】
「液体クロマトグラフィー」または「LC」という用語は、細かく分かれた物質のカラムまたは毛管路を通って流体が均一に浸透する際に、流体溶液の1つ以上の成分を選択的に遅延させるプロセスを指す。遅延は、この流体が固定相(複数可)に対して移動する際の、1つ以上の固定相とバルク流体(すなわち、移動相)との間の混合物成分の分布に起因する。固定相が移動相よりも極性が高い方法(例えば、移動相としてトルエン、固定相としてシリカ)は順相液体クロマトグラフィー(NPLC)と呼ばれ、固定相が移動相よりも極性が低い方法(例えば、移動相として水-メタノール混合物、固定相としてC18(オクタデシルシリル))は逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)と呼ばれる。
【0141】
「高速液体クロマトグラフィー」または「HPLC」とは、圧力下において固定相、典型的には高密度に充填されたカラムに移動相を通すことによって分離の程度が増加する、液体クロマトグラフィーの方法を指す。典型的に、カラムには、不規則または球形の粒子、多孔質モノリシック層、または多孔質膜で構成される固定相が充填されている。HPLCは、歴史的に、移動相および固定相の極性に基づいて2つの異なるサブクラス、すなわちNP-HPLCおよびRP-HPLCに分けられる。
【0142】
マイクロLCとは、典型的には1mm未満、例えば約0.5mmの狭い(norrow)内径を有するカラムを用いるHPLC法を指す。「超高速液体クロマトグラフィー」または「UHPLC」とは、120MPa(17,405lbf/in)または約1200気圧の圧力を用いるHPLC法を指す。
【0143】
ラピッドLCとは、上記のような内径であり、長さが2cm未満、例えば1cmの短いカラムを用いて、上記のような流量および上記のような圧力を加えるLC法を指す(マイクロLC、UHPLC)。短いラピッドLCプロトコルは、単一の分析カラムを用いるトラッピング/洗浄/溶出工程を含み、1分未満の非常に短い時間でLCを実現する。
【0144】
さらに周知のLC様式としては、親水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、サイズ排除LC、イオン交換LCおよび親和性LCが挙げられる。
【0145】
LC分離は、並列に配置された複数のLCチャネルを含むシングルチャネルLCまたはマルチチャネルLCであってもよい。LCにおいて、分析物は、当業者に一般的に知られているように、それらの極性またはログP値、サイズ、または親和性に従って分離され得る。
【0146】
本明細書で使用される場合、サンプル中の分析物を「検出」または「検出する」ことは、少なくとも、分析物がサンプル中に存在するかまたは存在しないかを判定することを意味する。分析物を検出することは、分析物を定量すること、すなわち分析物の絶対量または相対量を決定することを含んでも含まなくてもよい。
【0147】
本明細書で使用される場合、サンプル中の分析物を「定量」または「定量する」とは、サンプル中の分析物の存在および量を決定することを意味する。量は、サンプル中の分析物の絶対量または相対量であり得る。絶対量は、例えば濃度または質量などの任意の定量的尺度であり得る。相対量は、任意の相対的な定量的尺度であり得る。例えば、分析物の量は、別のサンプルの成分、サンプルに添加された内部標準、または同じ1つ以上の分析物を含む基準サンプルの量と比較して検出され得る。
【0148】
薬剤および/または組成物をサンプルに添加する文脈において本明細書で使用される「最終濃度」は、薬剤および/または組成物をサンプルに添加することによって得られる混合物中の薬剤および/または組成物の濃度を指す。
【0149】
「溶媒」という用語は、目的の分析物(例えば、1つ以上のステロイド)を溶液中に保持する任意の溶媒または溶媒の混合物を含む。溶媒または溶媒混合物の成分の例示的であるが非限定的な例は、水、アルコール(例えば、メタノールまたはエタノール)およびアセトニトリルである。
【0150】
「ステロイド」は、当技術分野で公知の分子群である。ステロイドは、典型的には4つの環のコア構造を有する化合物であり、ステロイド環A、B、CおよびDとも呼ばれる。ステロイドのコア環構造は、通常、17個の炭素原子で構成され、これらは、3個のC6原子シクロヘキサン環(環A、環Bおよび環C)および1個のC5原子シクロペンタン環(環D)の4つの縮合環で結合している。ステロイドは、その4つの環に結合した官能基および環の酸化状態によって変化する。
【0151】
いくつかのステロイドはまた、4つの環のうちの1つが開いているという点で環構造の変化を含む。
【0152】
「を含む(comprise)」という語、ならびに「を含む(comprises)」および「を含んでいる(comprising)」などの変化形は、明記した整数もしくは工程、または整数もしくは工程の群を含むことを意味するが、他のいかなる整数もしくは工程、または整数もしくは工程の群を除外することを意味するものではないことが理解されよう。
【0153】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、その内容が特に明白に示さない限り、個々の複数の用語も含む。
【0154】
さらに、以下で使用されるように、「特に」、「より具体的には」、「具体的には」、「より具体的には」という用語または同様の用語(例えば、好ましくは、またはより好ましくは)は、代替の可能性を制限することなく、特定のまたは代替の実施形態の特徴と併せて使用される。開示された方法/システムは、当業者が認識するように、代替的な特徴を使用することによって実行され得る。同様に、「開示された方法/システムの一実施形態では」、「実施形態では」または同様の表現によって導入される特徴は、代替の実施形態に関するいかなる制限もなく、開示された方法/システムの範囲に関するいかなる制限もなく、開示された方法/システムの他の任意の、または非任意の特徴とそのように導入された特徴を組み合わせる可能性に関するいかなる制限もなく、追加のおよび/または代替の特徴であることが意図されている。
【0155】
比率、濃度、量、および他の数値データは、「範囲」の形式で本明細書に表すまたは提示し得る。本開示の文脈において、そのような範囲形式は単に便宜および簡潔に使用され、したがって、範囲の限界として明示的に列挙された数値だけでなく、各数値およびサブ範囲が明示的に列挙されているかのようにその範囲内に包含される全ての個々の数値または部分範囲も含むように柔軟に解釈されるべきであることが理解されるべきである。例示として、「4%~20%」の数値範囲は、4%~20%という明示的に列挙されている値を含むだけではなく、表示されている範囲内の個々の値および部分範囲を含むと解釈されるべきである。したがって、この数値範囲には、4、5、6、7、8、9、10、...18、19、20%等の個々の値と、4~10%、5~15%、10~20%等のサブレンジとが含まれる。この同じ原則は、最小値または最大値を列挙する範囲に適用される。さらに、このような解釈は、その範囲の幅または記載されている特性にかかわらず、適用すべきである。
【0156】
「約」という用語は、数値に関連して使用される場合、示された数値よりも5%小さい下限値を有し、かつ示された数値よりも5%大きい上限値を有する範囲内の数値を包含することを意味する。
本開示において、溶媒および溶液への言及は、ある化合物の%、(v/v)%またはvol%によって行われる場合がある。別段の指定がない限り、溶液または溶媒は水溶液である。例えば、80% MeOH、80(v/v)%または80体積%MeOHは、80体積パーセントのMeOHを含む水性混合物を指す。
【0157】
以下の実施例および図は、本発明の理解を助けるために提供されており、本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲に記載されている。本発明の要旨から逸脱することなく、記載された手順に変更を加え得ることが理解される。
【実施例
【0158】
実施例
材料および方法
分析物特異的磁気免疫ビーズの作製
分析物特異的抗体でコーティングされた磁気ビーズ(免疫ビーズ)を作製するために、Elecsys(登録商標)ストレプトアビジンビーズ懸濁液を使用し、ビーズを分析物特異的抗体でコーティングした。コーティングのために、磁気分離を使用して磁気ビーズ(1mg/ml)を分離し、ビーズをPBS緩衝液で洗浄し、ボルテックスした。洗浄を2回繰り返した。最終洗浄工程の後、上清を除去し、分析物に対するビオチン標識抗体を含む溶液をビーズに添加した。それぞれの抗分析物抗体溶液(50μg/ml)をビーズの体積に等しい体積で添加し、混合物を4℃で一晩インキュベートした。最後に、PBSを使用する3回の洗浄工程を実施して、未結合抗体を除去した。洗浄したビーズを元のビーズの体積に相当する体積に再懸濁して、最終濃度を1mg/mLにした。
【0159】
テストステロン特異的磁気免疫ビーズの作製のために、ビオチン標識モノクローナル抗テストステロン抗体をビーズに結合させた。エストラジオール特異的磁気免疫ビーズの作製のために、ビオチン標識モノクローナル抗エストラジオール抗体をビーズに結合させた。
【0160】
サンプル
本発明の文脈において、種々のサンプルを使用した。サンプルは、規定量のそれぞれの分析物を添加した溶液を特に含んでいた。それぞれの分析物がどのマトリックスにスパイクされたかは、それぞれの実施例で特定される。実施例を通して使用したマトリックスには、60体積% MeOH溶液、UniDilおよびGolden West Serum(Golden West Diagnostic LLC;カタログ番号MSG4000)が含まれる。
【0161】
定量的質量分析に用いられる内部標準
内部標準として、それぞれの分析物の重同位元素標識同位元素を使用した。テストステロンの検出には、13C3-テストステロン(Cerilliant製)を使用した。エストラジオールの定量化のために、13C3-エストラジオール(Cerilliant製)を使用した。特に明記しない限り、前処理および免疫ビーズベースの固相抽出の前に、10μlの10ng/ml内部標準溶液を150μlのサンプル体積にスパイクした。
【0162】
サンプルの前処理
以下の実施例で使用される分析物はステロイドである。ステロイドは、血清または血漿などのサンプルに関連してタンパク質に結合することによって結合され得る。したがって、免疫ビーズベースの固相抽出による分析物の濃縮の前に、結合タンパク質からステロイドを解除させる前処理を行った。前処理のために、50μlの30体積%のMeOH水溶液を150μlのサンプルに添加し、サンプルをボルテックスによって混合した。
【0163】
免疫ビーズベースの分析物の固相抽出
サンプル中の分析物を抽出および/または濃縮するために、免疫ビーズベースの固相抽出を行った。この目的のために、分析物特異的磁気免疫ビーズ(上記参照)を、内部標準をスパイクした前処理サンプルに添加した。具体的には、40μlの1mg/mL溶液を添加した。混合物をボルテックスし、37℃で7.5分間インキュベートして、ビーズへの検体の結合を可能にした。その後、ビーズを200μlの水で二回または三回洗浄した。最後に、水性80%メタノール溶出を使用して分析物をビーズから溶出した。その後の蒸発工程(完全または一部)を含む実験では、150μlの溶出溶液体積を使用した。60μlの体積の溶出溶液を蒸発なしのワークフローに使用した。溶出のために、最後の洗浄工程後に磁気ビーズを磁力によって分離し、上清を除去し、溶出溶液をビーズに添加し、ビーズと溶出溶液の混合物をボルテックスし、37℃で2分間インキュベートした。最後に、ビーズを磁力によって分離し、分析物を含む溶離液上清(固相抽出物とも呼ばれる)130μl(蒸発を含むワークフロー)または40μl(蒸発なしのワークフロー)を除去し、ピペットで新しい容器に入れた。
【0164】
その後、回収した溶出液を蒸発(完全または一部;下記参照)に供するか、または蒸発を伴わないワークフローにおいて、回収した溶出液40μlをLC-DILを用いて最終体積107μlに希釈した。
【0165】
蒸発
免疫ビーズベースのSPEまたはスパイク溶液の溶出液の蒸発は、真空を適用し、特注の装置を用いて50℃~100℃で加熱することによって行った。開始体積は、特に明記しない限り、130μlであった。
【0166】
完全に蒸発させるために、サンプルを蒸発乾固させた。その後、残りのペレットをボルテックスを用いて40μlのLC-DILに分割した。
【0167】
一部蒸発させるために、20~40μlの最終溶媒体積が残るまで蒸発を行った。サンプルをLC-MSに供する前の最終体積を、LC-DILを使用して(必要に応じて)40μlに調整した。
【0168】
MSに連結した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
Agilent 1200 Infinity II LC System(Waldbron、ドイツ)およびPAL LC注入およびオートサンプラーシステム(Zwingen、スイス)を使用して、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を行った。機器は、AB SciexのAnalystデバイスドライバーを介して制御した。クロマトグラフィー分離は、ChromaNik(大阪、日本)製のSunShell 2.6μm融合コア粒子が充填されたC18 HPLCカラム(内径1.0または2.1mm×50mm)を使用して行った。使用したLC溶媒は、(A)水および(B)メタノール中0.2mM NH4Fであり、使用した流速は440μl/分であった。0.7~1.2分以内に39%~60%の溶液Bから90%~98%の溶液Bに傾斜させることによってLC勾配を確立した。LC-MSシステムに注入された体積は、サンプル調製ワークフロー(蒸発ありまたはなし)とは無関係に20μlであった。
【0169】
質量分析(MS)
質量分析検出は、AB Sciex(ダルムシュタット、ドイツ)製のTriple Quad 6500+LC-MS/MSシステムまたは同等のMS装置を使用して行った。
【0170】
テストステロンの測定には、MS設定をポジティブモードになるように選択し、MS設定を感度のために最適化した。エストラジオールの測定のためのMS設定は、ネガティブモードになるように選択され、感度のためにも最適化された。
【0171】
データ分析
MSシステムは、分析物に最適化された設定および機械制御およびデータ分析のための関連ソフトウェアを使用した。分析物選択的MRMトランジションのクロマトグラフィーピークをガウスフィットによって積分して、分析物および内部標準のピーク面積および信号対ノイズ比(S/N)を生成し、これを異なるワークフロー(すなわち、希釈、一部蒸発、および完全蒸発のワークフロー)から直接比較して、感度の向上または回復を比較した。分析物/ISTD比を使用して、LC-MS法の精度および感度をさらに評価し、種々のワークフローを比較した。
【0172】
実施例1:完全および一部蒸発を使用した純粋な(neat)ニートサンプル中のテストステロンの濃縮
この実施例では、スパイクされたサンプルをLC-MSにかけるまでの3つの異なるワークフローを比較する。(1)サンプルの希釈;(2)完全蒸発;(3)一部蒸発。
【0173】
具体的には、60体積%のMeOH中に60pg/mlのテストステロンを含むサンプルを作製した。これらのサンプルは、ビーズベースのSPEからの溶出物/抽出物、特に本明細書で以下にも使用され、上記の方法に記載される免疫ビーズベースのSPEからの溶出を模倣する。
【0174】
希釈ワークフローに供されたサンプルについては、サンプルを40μLのH2Oで希釈して、総最終体積を80μLとした。完全に蒸発させたサンプルについては、サンプルを蒸発させて完全に乾燥させ、次いで40μLの30% MeOHで再構成した。一部蒸発に使用されるサンプルについては、サンプルを10μLに蒸発させ(一部蒸発)、次いで30μLの30% MeOHで希釈して総最終体積を40μLとする。全てのサンプルが最終的に30% MeOHの有機物含有量を含むことを確実にした。
【0175】
最終的にLC-MSに供したサンプルおよびテストステロンのシグナル強度を測定した(図1A参照)。希釈ワークフローの強度を100%に設定したことにより、2つの蒸発ワークフローのテストステロン回収率を百分率で算出した(図1B参照)。
【0176】
全てのサンプルが同じ量の分析物を含有していたので、完全に蒸発したサンプルおよび一部蒸発したサンプルは、いずれも200%の分析物回収率を有すると予想された。完全蒸発および一部蒸発の両方で回収率の増加が達成されたが、一部蒸発を使用した場合、分析物の回収率は驚くほど著しく良好であった。一部蒸発の別の利点は、蒸発プロセスの持続時間が短いことである。蒸発に必要な時間を短縮することは、特に自動化されたサンプル調製およびLC-MS分析システムの状況において重要になる。
【0177】
これらの結果を考慮して、さらなる実施例に示す実験のために一部蒸発を選択した。これらの実施例およびそれを参照する図が「蒸発」に言及するときはいつでも、これは上記の方法で説明した「一部蒸発」に関する。
【0178】
実施例2:エストラジオールを検出するためのMSサンプル調製ワークフローにおける免疫ビーズ溶出液の一部蒸発および希釈の比較
診断用MS測定は、典型的には、純粋なサンプルを含まず、むしろ、血液ベースのサンプル(例えば血清または血漿)などの他の成分との複合マトリックスの状況で分析物を含む複合サンプルを含む。これらのサンプルを測定するために、典型的には、残りの成分から分析物を可能な限り精製するサンプル調製ワークフローが使用される。この目的のために、SPEなどの方法を使用し得る。本実施例では、免疫ビーズベースのSPEは、有機溶媒(例えば、MeOHまたはアセトニトリル)含有量が高い溶出溶液でビーズから分析物を溶出することを伴って使用される。高濃度のこれらの溶媒は、例えばピークの広がりによって、LC-MSシステムおよび方法のLC分解能を妨げる可能性がある。したがって、SPE溶出液は、典型的にはLC-MSの前に希釈されて、LCの前の有機溶媒の濃度を低下させる。しかしながら、そのような希釈により、分析物濃度が低下し、特に純粋なサンプルよりも典型的に高いバックグラウンドシグナルを示す複雑なマトリックスを含むサンプルにおいて、初期サンプル中の低濃度の分析物を検出することがより困難になる。
【0179】
MSワークフロー全体の文脈における一部蒸発およびサンプル希釈の性能を比較するために、(1)内部標準の添加、(2)分析物の免疫ビーズに基づくSPE、(3)SPE溶出液の一部蒸発または希釈、および(4)LC-MSを含むMSワークフロー全体を実行する実験を、上記の材料および方法の節で説明したように行った。
【0180】
希釈MSワークフローおよび蒸発MSワークフローに供したサンプルは、それぞれ0.5pg/ml、2pg/ml、5pg/ml、10pg/mlおよび15pg/mlのエストラジオールをスパイクした150μlのUniDil(Elecsys(登録商標)Diluent Universal)であった。使用される希釈ワークフローおよび一部蒸発を、図2に概略的に示す。
【0181】
2pg/mlのサンプルの希釈ワークフローおよび一部蒸発ワークフローから得られたMSスペクトルを、それぞれ図3および図4に示す。
【0182】
図3から明らかなように、希釈ワークフローを使用すると、この特定の実験ではエストラジオールのシグナルを検出できなかった。
【0183】
対照的に、エストラジオールのシグナルは、一部蒸発ワークフローを使用して明確に検出可能であり(図4参照)、一部蒸発ワークフローで感度の向上が達成されたことを示している。
【0184】
したがって、この実験は、より複雑なマトリックス中の分析物を測定し、多段階サンプル調製ワークフローの状況で高度に精製された分析物サンプルを提供し、続いて高分解能LC分離を行う場合でも、一部蒸発がシグナル対ノイズ比および分析物検出感度(定量下限)を向上させ得ることを実証している。
【0185】
図5Bは、分析物濃度に対してプロットされた一部蒸発ワークフローおよび希釈ワークフローの両方のシグナル強度を示す。この図は、分析された各サンプルについて、一部蒸発ワークフローの方が、希釈ワークフローよりも信号(ピーク面積)が増加したことを示している。さらに、両方のワークフローについて、LoQより上の分析された濃度範囲において線形測定範囲が達成された。しかし、一部蒸発ワークフローは、直線性の傾きが大きくなっている。傾斜が増大することは、所与の濃度差に対するシグナルの動的性が増加し、したがって精度が向上し得るので、明らかな利点である。
【0186】
図5Aは、測定された分析物濃度における分析物シグナルおよび内部標準(ISTD)の比を示す。希釈および一部蒸発ワークフローは、いずれにおいても、比率は類似しており、測定された濃度範囲にわたって同じ傾斜で直線的に増加する。
【0187】
実施例3:テストステロンを検出するためのMSサンプル調製ワークフローにおける免疫ビーズ溶出液の一部蒸発および希釈の比較
25pg/ml、150pg/mlおよび250pg/mlの濃度の分析物テストステロンが添加されたGoldenWestSerumのサンプルを使用して、一部蒸発ワークフローおよび希釈ワークフローの比較を繰り返した。
【0188】
上記の実施例2のように、(1)内部標準の添加、(2)分析物の免疫ビーズに基づくSPE、(3)SPE溶出液の一部蒸発または希釈、および(4)LC-MSを含むMSワークフロー全体を、上記の材料および方法の節で指定されるように行った。
【0189】
希釈MSワークフローおよび蒸発MSワークフローに供したサンプルは、それぞれ25pg/ml、150pg/mlおよび250pg/mLのテストステロンがスパイクされた150μlのGolden West Serumであった。使用される希釈ワークフローおよび一部蒸発を、図2に概略的に示す。
【0190】
図6Bは、分析物濃度に対してプロットされた一部蒸発ワークフローおよび希釈ワークフローの両方のシグナル強度を示す。この図は、分析された各サンプルについて、一部蒸発ワークフローの方が、希釈ワークフローよりも信号(ピーク面積)が増加したことを示している。さらに、両方のワークフローについて、定量限界(LOQ)を超える分析濃度範囲で線形測定範囲が達成された。しかし、一部蒸発ワークフローは、直線性の傾きが大きくなっている。傾斜が増大することは、所与の濃度差に対するシグナルの動的性が増加し、したがって精度が向上し得るので、明らかな利点である。
【0191】
図6Aは、測定された分析物濃度における分析物シグナルおよび内部標準(ISTD)の比率を示す。希釈および一部蒸発ワークフローの両方について、比率は類似しており、測定された濃度範囲にわたって同じ傾斜で直線的に増加する。
【0192】
本特許出願は、欧州特許出願20215190.8の優先権を主張し、この欧州特許出願の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】