(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】リチウム金属電池用電解質組成物
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0569 20100101AFI20231214BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20231214BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20231214BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231214BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20231214BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20231214BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20231214BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20231214BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20231214BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M10/0567
H01M10/052
H01M50/423
H01M50/417
H01M50/414
H01M50/443 M
H01M50/451
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535917
(86)(22)【出願日】2021-11-03
(85)【翻訳文提出日】2023-08-10
(86)【国際出願番号】 EP2021080434
(87)【国際公開番号】W WO2022128233
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ジエ
(72)【発明者】
【氏名】トルテッリ, ヴィート
(72)【発明者】
【氏名】ミューラー, ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】ハフ, ローレンス アラン
(72)【発明者】
【氏名】ガリムベルティ, マルコ
(72)【発明者】
【氏名】リー, スヨン
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ヒスン
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
5H021EE04
5H021EE06
5H021EE08
5H021EE22
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL12
5H029AM04
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ02
(57)【要約】
本発明は、a)R
1-O-R
2-O-R
3の式I(式中、各R
1及びR
3は独立してフッ素化アルキル基であり、R
2は任意選択的にフッ素化アルキル基であり、C
aF
bH
cの式II(式中、aは1~6の整数であり、b+cは2~10の整数であり、bが0である場合、R
1及びR
3は独立してHを有さない)によって表される、フッ素化されていてもよいアルキル基である)で表される4~10個の炭素原子を含む少なくとも1つのフッ素化ジエーテル;b)少なくとも1つの非フッ素化エーテル;c)a)フッ素化ジエーテルが、a)フッ素化ジエーテル及びb)非フッ素化エーテルの総体積に基づいて、少なくとも50体積%(体積%)の量である、少なくとも1つのリチウム塩を含む、リチウム金属電池用電解質組成物に関する。また、本発明は、リチウム金属を含む負極と、正極と、セパレータと、本発明の電解質組成物とを含むリチウム金属電池に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属電池用電解質組成物であって、
a)式Iによって表される、4~10個の炭素原子を含む少なくとも1つのフッ素化ジエーテル
R
1-O-R
2-O-R
3 (式I)
(式中、各R
1及びR
3は、独立して、フッ素化アルキル基であり、R
2は、任意選択的にフッ素化アルキル基であり、式II
C
aF
bH
c(式II)
(式中、aは1~6の整数であり、b+cは2~10の整数であり、bが0である場合、R
1及びR
3は独立してHを有さない)によって表される);
b)少なくとも1つの非フッ素化エーテル;及び
c)少なくとも1種のリチウム塩;
を含有し、
a)前記フッ素化ジエーテルが、a)前記フッ素化ジエーテル及びb)前記非フッ素化エーテルの総体積に基づいて、少なくとも体積で50%(体積%)の量である、リチウム金属電池用電解質組成物。
【請求項2】
a)前記フッ素化ジエーテルが、5~8個の炭素原子、好ましくは6個の炭素原子を含む、請求項1に記載のリチウム金属電池用電解質組成物。
【請求項3】
a)前記フッ素化ジエーテル及びb)前記非フッ素化エーテルの総体積に基づいて、60~90体積%のa)前記フッ素化ジエーテル及び10~40体積%のb)前記非フッ素化エーテルを含む、請求項1又は2に記載のリチウム金属電池用電解質組成物。
【請求項4】
a)前記フッ素化ジエーテルのモル比F/Hが、2.0~11.0、好ましくは2.5~8.0、より好ましくは2.5~6.0である、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウム金属電池用電解質組成物。
【請求項5】
a)前記フッ素化ジエーテルが、a)前記フッ素化ジエーテルの総重量に基づいて、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも重量で70%(重量%)の量でC
6F
10H
4O
2を含む混合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウム金属電池用電解質組成物。
【請求項6】
a)前記フッ素化ジエーテルが、a)前記フッ素化ジエーテルの総重量に基づいて、少なくとも50重量%の量でC
6F
12H
2O
2を含む混合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウム金属電池用電解質組成物。
【請求項7】
b)前記非フッ素化エーテルが、ジメトキシエタン(DME)、1,3-ジオキソラン(DOL)、ジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGME)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DEGDME)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEGDEE)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(PEGDME)、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン(THF)、トリエチルホスフェート(TEP)、及びその混合物を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウム金属電池用電解質組成物。
【請求項8】
c)前記リチウム塩が、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF
6)、ヘキサフルオロアンチモン酸リチウム(LiSbF
6)、ヘキサフルオロタンタル酸リチウム(LiTaF
6)、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl
4)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)、クロロホウ酸リチウム(Li
2B
10Cl
10)、フルオロホウ酸リチウム(Li
2B
10F
10)、Li
2B
12F
xH
12-x(x=0~12);LiPF
x(R
F)
6-x及びLiBF
y(R
F)
4-y(式中、R
Fは、パーフルオロ化C
1~C
20アルキル基又はパーフルオロ化芳香族基を表し、x=0~5であり、及びy=0~3である)、LiBF
2[O
2C(CX
2)
nCO
2]、LiPF
2[O
2C(CX
2)
nCO
2]
2、LiPF
4[O
2C(CX
2)
nCO
2](式中、Xは、H、F、Cl、C
1~C
4アルキル基及びフッ素化アルキル基からなる群から選択され、n=0~4である)、リチウムトリフルオロメタンスルホネート(LiCF
3SO
3)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドLi(FSO
2)
2N(LiFSI)、LiN(SO
2C
mF
2m+1)(SO
2C
nF
2n+1)及びLiC(SO
2C
kF
2k+1)(SO
2C
mF
2m+1)(SO
2C
nF
2n+1)(式中、k=1~10であり、m=1~10であり、及びn=1~10である)、LiN(SO
2C
pF
2pSO
2)及びLiC(SO
2C
pF
2pSO
2)(SO
2C
qF
2q+1)(式中、p=1~10であり、及びq=1~10である)、キレート化されたオルトボレート及びキレート化されたオルトホスフェートのリチウム塩、例えばリチウムビス(オキサラト)ボレート[LiB(C
2O
4)
2]、リチウムビス(マロナト)ボレート[LiB(O
2CCH
2CO
2)
2]、リチウムビス(ジフルオロマロナト)ボレート[LiB(O
2CCF
2CO
2)
2]、リチウム(マロナトオキサラト)ボレート[LiB(C
2O
4)(O
2CCH
2CO
2)]、リチウム(ジフルオロマロナトオキサラト)ボレート[LiB(C
2O
4)(O
2CCF
2CO
2)]、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート[LiP(C
2O
4)
3]、リチウムトリス(ジフルオロマロナト)ホスフェート[LiP(O
2CCF
2CO
2)
3]、リチウムジフルオロホスフェート(LiPO
2F
2)、リチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾール(LiTDI)並びにその混合物を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウム金属電池用電解質組成物。
【請求項9】
c)前記リチウム塩の濃度が、1M~8M、好ましくは1M~4M、より好ましくは1M~2Mである、請求項1~8のいずれか一項に記載のリチウム金属電池用電解質組成物。
【請求項10】
d)前記電解質組成物の総重量に対して5~50重量%、好ましくは10~40重量%、より好ましくは20~30重量%の量の少なくとも1つのフッ素化有機カーボネート化合物をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のリチウム金属電池用電解質組成物。
【請求項11】
d)前記フッ素化有機カーボネート化合物は、4-フルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、テトラフルオロエチレンカーボネート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルメチルカーボネート、ビス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)カーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(2,2-ジフルオロエチル)カーボネート、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート、1-フルオロエチルメチルカーボネート、1-フルオロエチルプロピルカーボネート、1-フルオロエチルエチルカーボネート、1-フルオロエチルフェニルカーボネート、1-フルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート、アリル-1-フルオロエチルメチルカーボネート、2-シアノエチル-1-フルオロエチルカーボネート、1-フルオロエチルプロパニルカーボネート、4-(2,2-ジフルオロエトキシ)エチレンカーボネート、4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エチレンカーボネート、エチル-フルオロ(フェニル)メチルカーボネート、トリス(トリフルオロエチル)ホスフェート、メチル-3,3,3-トリフルオロプロパノネート、3-((2-オキソ-1,3-ジオキソラン-4-イル)オキシ)プロパンニトリル、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルアセテート、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルプロピオネート、及びその混合物を含む、請求項10に記載のリチウム金属電池用電解質組成物。
【請求項12】
e)少なくとも1種の膜形成添加剤を、前記電解質組成物の総重量に対して0.05~5.0重量%、好ましくは0.05~2.0重量%の量でさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のリチウム金属電池用電解質組成物。
【請求項13】
e)前記膜形成添加剤が、1,3-プロパンスルトン(PS)、エチレンサルファイト(ES)、及びプロプ-1-エン-1,3-スルトン(PES)を含む環状亜硫酸塩及び硫酸塩化合物;ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン(別名スルホラン)、エチルメチルスルホン、及びイソプロピルメチルスルホンを含むスルホン誘導体;スクシノニトリル、アジポニトリル、グルタロニトリル及び4,4,4-トリフルオロニトリルを含むニトリル誘導体;硝酸リチウム(LiNO
3);リチウムジフルオロオキサラトボレート(LiDFOB)、リチウムフルオロマロナト(ジフルオロ)ボレート(LiFMDFB)を含むホウ素誘導体塩;酢酸ビニル、ビフェニルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート、トリフェニルホスフィン、エチルジフェニルホスフィナイト、トリエチルホスファイト、トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファイト、無水マレイン酸、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、セシウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド(CsTFSI)、ヘキサフルオロリン酸セシウム(CsPF
6)、フッ化セシウム(CsF)、トリメチルボロキシン(TMB)、トリブチルボレート(TBB)、2-(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ)-1,3,2-ジオキサホスホラン(PFPOEPi)、2-(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ)-4-(トリフルオロメチル)-1,3,2-ジオキサホスホラン(PFPOEPi-1CF
3)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)、硝酸銀(AgNO
3)、ヘキサフルオロリン酸銀(AgPF
6)、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン(TMSP)、1,6-ジビニルペルフルオロヘキサン、及びその混合物を含む、請求項12に記載のリチウム金属電池用電解質組成物。
【請求項14】
リチウム金属電池であって、
-リチウム金属を含む負極;
-正極;
-セパレータ、及び
-請求項1~13のいずれか一項に記載の電解質組成物
を含む、リチウム金属電池。
【請求項15】
前記セパレータが、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンナフタレン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン(ポリエチレン及びポリプロピレンなど)又はそれらの混合物などのポリエステルからなる群から選択される、無機ナノ粒子でコーティングされていてもよい少なくとも1つの材料を含む多孔質高分子材料である、請求項14に記載のリチウム金属電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年12月16日出願の、欧州特許出願第20214399.6号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、a)R1-O-R2-O-R3の式I(式中、各R1及びR3は独立してフッ素化アルキル基であり、R2は任意選択的にフッ素化アルキル基であり、CaFbHcの式II(式中、aは1~6の整数であり、b+cは2~10の整数であり、bが0である場合、R1及びR3は独立してHを有さない)によって表される、4~10個の炭素原子を含む少なくとも1つのフッ素化ジエーテル;b)少なくとも1つの非フッ素化エーテル;c)a)フッ素化ジエーテルが、a)フッ素化ジエーテル及びb)非フッ素化エーテルの総体積に基づいて、少なくとも体積で50%(体積%)の量である、少なくとも1つのリチウム塩を含む、リチウム金属電池用電解質組成物に関する。また、本発明は、リチウム金属を含む負極と、正極と、セパレータと、本発明の電解質組成物とを含むリチウム金属電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、軽量であり、適度なエネルギー密度を有し、且つ良好なサイクル寿命を有することなどの多くの利点のため、充電式エネルギー貯蔵デバイスの市場で支配的な地位を維持してきた。それにもかかわらず、現在のリチウムイオン電池は、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、グリッドエネルギー貯蔵(大規模エネルギー貯蔵とも呼ばれる)等の高出力用途の必要性を満たすために連続的に増加する、必要なエネルギー密度に対して比較的低いエネルギー密度を依然として抱えている。
【0004】
リチウム金属を負極として使用することは、その低い酸化還元電位及び高い比容量に起因するリチウム金属の好ましい特性のために1970年以来知られている。このようなリチウム金属電池は、通常、炭酸塩系電解質及び/又は低粘度且つ高イオン伝導度を有するエーテル系電解質等の従来の液体電解質を使用する。これらの液体電解質は、サイクルの開始時に分解して不動態化層を形成し、これによってデンドライトの成長が生じ、電解質と堆積した反応性リチウムイオンとの間のさらなる副反応も引き起こされる。これらは、リチウム金属電池の商業化を阻止する重要な問題であった。
【0005】
リチウム金属電池に適した電解質の基本的な要件は、リチウムイオン電池用の従来の液体電解質と同じであり、すなわち、高いイオン伝導率、低い融点及び高い沸点、(電気)化学的安定性並びに安全性である。上記の基本的な要件に加えて、リチウム金属電池に適した電解質は、上述の欠点に対する解決策を提供するはずである。
【0006】
リチウムデンドライトの生成を軽減又は抑制し、リチウム金属電池のサイクル性能を向上させることを目的とした多様な研究の一つとして、液体電解質の代わりに固体電解質を用いることが検討されている。例えば、R.Sudoらは、Solid State Ionics,262,151(2014)において、Li金属を不局として含む電気化学セルの固体電解質として、AlドープさLi7La3Zr2O12を使用することについて記載している。しかしながら、やはりリチウムデンドライトが観察された。
【0007】
D.AurbachらはSolid State Ionics,148,405(2002)の中で、及びH.OtaらはElectrochimica Acta,49,565(2004)の中で、CO2、SO2、炭酸ビニレン等の添加剤が不動態化層の安定性の向上に役立つことを報告している。しかしながら、これらの添加剤はセルの動作中に消費される。したがって、デンドライト形成に対する長期的な解決策にはなり得ない。
【0008】
さらに、液体電解質の組成を変更することからなる、同じ目的を有する様々なアプローチが存在する。
【0009】
例えば、リチウムデンドライト形成を抑制するために、ジメトキシエタン(DME)-1,3ジオキソラン(DOL)(1:1 v:v)中のLiTFSIの高リチウム塩濃度の液体電解質を使用することが、L.SuoらによってNature Communications,DOI:10.1038/ncomms2513(2013)によって説明されている。
【0010】
H.Wangらは、ChemElectroChem,2,1144(2015)において、負極としてのリチウム金属と、電解質としてのテトラグライム(G4)及びLiFSIの溶媒和イオン液体とを含むセルが優れたサイクル性能を示すことを報告している。
【0011】
米国特許出願公開第2007/054186A1号明細書 (3M Innovative Properties Company)は、エチレンカーボネート等の環状炭酸エステルと、特定の式のヒドロフルオロエーテル等の少なくとも80℃の沸点を有する少なくとも1つのフッ素含有溶媒と、LiPF6等の少なくとも1つの電解質塩とを含む溶媒組成物を含む、電気化学デバイス用の電解質組成物を開示している。
【0012】
国際公開第2015/078791B1号パンフレット(Solvay Specialty Polymers Italy S.P.A.)もまた、電解質混合物の必須成分としてのヒドロフルオロエーテル及び極性有機溶媒、特に有機カーボネートを含む電解質配合物を開示している。
【0013】
特に、欧州特許第3118917号明細書(Samsung Electronics Co.,Ltd.)は、リチウムイオンを溶媒和することができる非フッ素置換エーテル、特定の式を有するグリム系溶媒であるフッ素置換エーテル、及びリチウム塩を含み、フッ素置換エーテルの量が非フッ素置換エーテルの量よりも多い、リチウム金属電池に特有の電解質を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、液体電解質と負極との間のデンドライト成長及び副反応を最小限に抑えながら、安全性を含むセル性能を向上させたリチウム金属電池用電解質を提供することが依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、リチウム金属電池用電解質組成物であって
a)式Iによって表される、4~10個の炭素原子を含む少なくとも1つのフッ素化ジエーテル
R1-O-R2-O-R3 (式I)
(式中、各R1及びR3は、独立して、フッ素化アルキル基であり、R2は、任意選択的にフッ素化アルキル基であり、式II
CaFbHc(式II)
(式中、aは1~6の整数であり、b+cは2~10の整数であり、bが0である場合、R1及びR3は独立してHを有さない)で表される);
b)少なくとも1つの非フッ素化エーテル;及び
c)少なくとも1種のリチウム塩;
を含有し、
a)フッ素化ジエーテルが、a)フッ素化ジエーテル及びb)非フッ素化エーテルの総体積に基づいて、少なくとも体積で50%(体積%)の量である、組成物に関する。
【0016】
また、本発明は、リチウム金属を含む負極と、正極と、セパレータと、本発明の電解質組成物とを含むリチウム金属電池に関する。
【0017】
驚くべきことに、本発明者らは、本発明のリチウム金属電池用電解質組成物を用いることにより、上記の技術的課題を解決できることを見出し、これは優れた容量維持率及びクーロン効率によって証明される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】3.0~4.4V(0.5C/0.5C)における、E1~E2及びCE1~CE4の電解質組成物を含むLiCoO
2/Liセルのサイクル保持率(%)を示す。
【
図2】3.0~4.4V(0.5C/0.5C)における、E1~E2及びCE5~CE9の電解質組成物を含むLiCoO
2/Liセルのサイクル保持率(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書の全体にわたり、文脈上他の意味に解すべき場合を除いて、語「含む(comprise)」若しくは「包含する(include)」又は「含む(comprises)」、「含んでいる」、「包含する(includes)」、「包含している」などの変形は、述べられた要素若しくは方法工程又は要素若しくは方法工程の群の包含を意味するが、任意の他の要素若しくは方法工程又は要素若しくは方法工程の群の排除を意味しないと理解される。好ましい実施形態によれば、語「含む」及び「包含する」並びにそれらの変形は、「のみからなる」を意味する。
【0020】
本明細書において用いる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その」は、文脈がそうでないと明確に示さない限り、複数態様を包含する。用語「及び/又は」は、意味「及び」、「又は」及びまたこの用語と関係した要素の他の可能な組合せを全て包含する。
【0021】
用語「~」は、限界点を含むと理解されるべきである。本明細書で使用される有機基に関する用語「(Cn~Cm)」(式中、n及びmは、それぞれ整数である)は、この基が、1つの基当たりn個の炭素原子~m個の炭素原子を含有し得ることを示す。
【0022】
「脂肪族基」という用語は、1~18個の炭素原子を典型的に有する、直鎖又は分岐鎖を特徴とする有機部分が含まれる。複雑な構造においては、鎖は分岐、橋かけしていてもよく、又は架橋していてもよい。脂肪族基には、アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基が含まれる。
【0023】
比、濃度、量及び他の数値データは、本明細書では、範囲形式で示され得る。そのような範囲形式は、単に便宜上及び簡潔さのために用いられることと、範囲の限界点として明示的に列挙された数値を包含するのみならず、それぞれの数値及び部分範囲が明示的に列挙されるかのように、その範囲内に包含される個々の数値又は部分範囲を全て包含すると柔軟に解釈されるべきであることとが理解されるべきである。例えば、約120℃~約150℃の温度範囲は、約120℃~約150℃の明示的に列挙された限界点のみならず、125℃~145℃、130℃~150℃等などの部分範囲並びに122.2℃、140.6℃及び141.3℃など、明記された範囲内の小数量などの個々の量も包含すると解釈されるべきである。
【0024】
本明細書で使用される場合、モル濃度又はモル濃度は、溶液の単位体積当たりの物質の量に関して、溶液中の化学種、特に溶質の濃度の尺度である。モル濃度の最も一般的に使用される単位は、mol/Lの単位を有する1リットル当たりのモル数である。1mol/Lの濃度を有する溶液は、1モル濃度として示され、1Mと示される。
【0025】
別段の明記がない限り、本発明との関係おいて、組成物中の成分の量は、成分の体積と組成物の総体積との比率に100を掛けたもの、すなわち体積%(vol%)、又は成分の重量と組成物の総重量との比率に100を掛けたもの、すなわち重量%(wt%)として示される。
【0026】
本発明において、ファラデー効率としても知られている「クーロン効率」という用語は、電気化学反応を促進するシステム、すなわち電池において電子が移動する充電効率を表すことを意図しており、全サイクルにわたって電池に投入された総電荷に対する電池から抽出された総電荷の比に対応する。さらに、クーロン効率(%)は、各サイクルの放電容量を、各サイクルの充電容量で除し、100を乗じて算出される。
【0027】
本明細書で使用される場合、「リチウム金属電池」という用語は、アノードとして金属リチウムを有する二次(充電式)電池を示すことを意図している。
【0028】
前述の概要及び以下の詳細な説明の両方は、例示であり、特許請求される本発明のさらなる説明を提供することを意図していることが理解されるべきである。したがって、本明細書に記載される様々な変更形態及び修正形態は、当業者に明らかであろう。更に、明確且つ簡潔にするために、周知の機能及び構造の説明は、省略されている場合がある。
【0029】
本発明は、リチウム金属電池用電解質組成物であって:
a)式Iによって表される、4~10個の炭素原子を含む少なくとも1つのフッ素化ジエーテル
R1-O-R2-O-R3 (式I)
(式中、各R1及びR3は、独立して、フッ素化アルキル基であり、R2は、任意選択的にフッ素化アルキル基であり、式II
CaFbHc(式II)
(式中、aは1~6の整数であり、b+cは2~10の整数であり、bが0である場合、R1及びR3は独立してHを有さない)で表される);
b)少なくとも1つの非フッ素化エーテル;及び
c)少なくとも1種のリチウム塩;
を含有し、
a)フッ素化ジエーテルが、a)フッ素化ジエーテル及びb)非フッ素化エーテルの総体積に基づいて、少なくとも体積で50%(体積%)の量である、組成物に関する。
【0030】
一実施形態において、フッ素化アルキル基は、フッ素化された飽和及び直鎖炭化水素である。
【0031】
他の実施形態において、フッ素化アルキル基は、フッ素化された飽和及び直鎖炭化水素である。
【0032】
一実施形態において、a)フッ素化ジエーテルは、5~8個の炭素原子、好ましくは6個の炭素原子を含む。
【0033】
一実施形態において、本発明によるリチウム金属電池用電解質組成物は:
a)式Iによって表される、5~8個の炭素原子を含む少なくとも1つのフッ素化ジエーテル
R1’-O-R’2-O-R3’ (式I’)
(式中、各R1’及びR3’は、独立して、フッ素化アルキル基であり、R2’は、任意選択的にフッ素化アルキル基であり、式II’
Ca’Fb’Hc’(式II’)
(式中、a’は1~4の整数であり、b’+c’は2~8の整数であり、b’が0である場合、R1’及びR3’は独立してHを有さない)によって表される);
b)少なくとも1つの非フッ素化エーテル;及び
c)少なくとも1種のリチウム塩;
を含有し、
a)フッ素化ジエーテルが、a)フッ素化ジエーテル及びb)非フッ素化エーテルの総体積に基づいて、少なくとも50体積%の量である、組成物に関する。
【0034】
一実施形態において、本発明による電解質組成物は:
-a)フッ素化ジエーテル及びb)非フッ素化エーテルの総体積に基づいて、60~90体積%のフッ素化ジエーテル;及び
-10~40体積%のb)非フッ素化エーテルを含む。
【0035】
別の実施形態では、本発明による電解質は:
-a)フッ素化ジエーテル及びb)非フッ素化エーテルの総体積に基づいて、80~90体積%のa)フッ素化エーテル化合物;及び
-10~20体積%のb)非フッ素化エーテルを含む。
【0036】
特定の一実施形態において、本発明によるリチウム金属電池用電解質組成物は:
-a)フッ素化ジエーテル及びb)非フッ素化エーテルの総体積に基づいて、80体積%のa)6個の炭素原子を含むフッ素化ジエーテル;
-20体積%のb)非フッ素化エーテル及び
-a)フッ素化ジエーテル及びb)非フッ素化エーテルの混合物に溶解した1MのLiFSIを含む。
【0037】
本発明において、用語「アルキル」は、1つ以上の炭素原子を有し、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル等の直鎖アルキル基、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル等の環状アルキル基(又は「シクロアルキル」又は「脂環式」)を含む、飽和炭化水素を意味することが意図されている。
【0038】
本発明において、「フッ素化エーテル化合物」という用語は、少なくとも1つの水素原子がフッ素によって置き換えられたエーテル化合物を意味することが意図されている。1つ、2つ、3つ、又はそれ以上の数の水素原子がフッ素で置き換えられていてもよい。
【0039】
本発明において、「沸点」という用語は、液体物質の蒸気圧が液体を取り囲む圧力に等しく、液体がその物理的状態を蒸気に変化させる温度を示すことを意図している。液体物質の沸点は周囲の環境圧力に応じて変化し、本発明による沸点は、液体が大気圧にあるときの沸点に対応し、大気圧沸点としても知られる。
【0040】
一実施形態において、a)フッ素化ジエーテルの沸点は、少なくとも80℃、好ましくは80℃~160℃である。
【0041】
一実施形態において、a)フッ素化ジエーテル中のモル比F/Hは、2.0~11.0、好ましくは2.5~8.0、より好ましくは2.5~6.0である。
【0042】
一実施形態において、a)フッ素化ジエーテルは5個の炭素原子を含む。
【0043】
好ましい実施形態において、a)フッ素化ジエーテルは、a)フッ素化ジエーテルの総重量に基づいて、少なくとも50重量%の量でC5F9H3O2を含む混合物である。
【0044】
他の好ましい実施形態において、a)フッ素化ジエーテルは、a)フッ素化ジエーテルの総重量に基づいて、少なくとも50重量%の量でC5F10H2O2を含む混合物である。
【0045】
他の好ましい実施形態において、a)フッ素化ジエーテルは、a)フッ素化ジエーテルの総重量に基づいて、少なくとも50重量%の量でC5F11H1O2を含む混合物である。
【0046】
他の実施形態において、a)フッ素化ジエーテルは6個の炭素原子を含む。
【0047】
好ましい実施形態において、a)フッ素化ジエーテルは、a)フッ素化ジエーテルの総重量に基づいて、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%の量で C6F10H4O2を含む混合物である。
【0048】
好ましい実施形態において、a)フッ素化ジエーテルは、a)フッ素化ジエーテルの総重量に基づいて、少なくとも50重量%の量でC6F11H3O2を含む混合物である。
【0049】
好ましい実施形態において、a)フッ素化ジエーテルは、a)フッ素化ジエーテルの総重量に基づいて、少なくとも50重量%の量でC6F12H2O2を含む混合物である。
【0050】
他の実施形態において、a)フッ素化ジエーテルは7個の炭素原子を含む。
【0051】
好ましい実施形態において、a)フッ素化ジエーテルは、a)フッ素化ジエーテルの総重量に基づいて、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%の量でC7F12H4O2を含む混合物である。
【0052】
好ましい実施形態において、a)フッ素化ジエーテルは、a)フッ素化ジエーテルの総重量に基づいて、少なくとも50重量%の量でC7F14H2O2を含む混合物である。
【0053】
他の実施形態において、a)フッ素化ジエーテルは8個の炭素原子を含む。
【0054】
好ましい実施形態において、a)フッ素化ジエーテルは、a)フッ素化ジエーテルの総重量に基づいて、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも80重量%の量でC8F12H6O2を含む混合物である。
【0055】
好ましい実施形態において、a)フッ素化ジエーテルは、a)フッ素化ジエーテルの総重量に基づいて、少なくとも50重量%の量でC8F14H4O2を含む混合物である。
【0056】
好ましい実施形態において、a)フッ素化ジエーテルは、a)フッ素化ジエーテルの総重量に基づいて、少なくとも重量で50%(重量%)の量でC8F16H2O2を含む混合物である。
【0057】
本発明による適切なa)フッ素化ジエーテル化合物の非限定的な例としては、特に以下のものが挙げられる:
CF3CH2-O-CF2CHF-O-CF3,CHF2CH2-O-CF2CF2-O-CF3,CF3CF2-O-CHFCHF-O-CHF2,CHF2CF2-O-CHFCHF-O-CF3,CF3CHF-O-CHFCF2-O-CHF2,CF3CHF-O-CF2CHF-O-CHF2,CH3CF2-O-CF2-O-CF2CF3,CFH2CHF-O-CF2-O-CF2CF3,CF3CF2-O-CHF-O-CHFCHF2,CF3CF2-O-CHF-O-CHFCHF2,CF3CH2-O-CF2CF2-O-CF3,CHF2CHF-O-CF2CF2-O-CF3,CH2FCF2-O-CF2CF2-O-CF3,CF3CF2-O-CHFCHF-O-CF3,CF3CF2-O-CF2CH2-O-CF3,CF3CF2-O-CH2CF2-O-CF3,CF3CF2-O-CF2CFH-O-CHF2,CF3CHF-O-CHFCF2-O-CF3,CF3CHF-O-CF2CHF-O-CF3,CHF2CF2-O-CF2CHF-O-CF3,CHF2CF2-O-CHFCF2-O-CF3,CHF2CF2-O-CF2CF2-O-CHF2,CF3CHF-O-CF2CF2-O-CHF2,CF3CF2-O-CF2-O-CHFCF3,CF2HCF2-O-CF2-O-CF2CF3,CF3CHF-O-CF2-O-CF2CF3,CF3CF2-O-CHF-O-CF2CF3,CF3CF2-O-CF2-O-CF2CHF2,CF2HCF2-O-CF2CH2-O-CF2CF2H,CF3CF2-O-CH2CH2-O-CF2CF3,CF2HCF2-O-CHFCHF-O-CF2CF2H,CF3CF2-O-CHFCH2-O-CF2CF2H,CF2HCF2-O-CHFCHF-O-CF2CF2H,CF3CF2-O-CH2CHF-O-CF2CF2H,CF3-O-CHFCF2CH2-O-CF2CF2H,CF2HCF2-O-CF2CF2-O-CF2CF2H,CF3CF2-O-CF2CHF-O-CF2CF2H,CF3CF2-O-CHFCF2-O-CF2CF2H,CF3CF2-O-CF2CH2-O-CF2CF3,CF3CF2-O-CHFCHF-O-CF2CF3,CF3CF2-O-CHFCHF-O-CF2CF3及びその混合物。
【0058】
本発明において、用語「非フッ素化エーテル」は、フッ素原子が存在しないエーテル化合物を意味することが意図されている。
【0059】
本発明による適切なb)非フッ素化エーテル化合物の非限定的な例としては、特に以下のものが挙げられる:
-脂肪族、脂環式、又は芳香族のエーテル、より具体的には、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジメトキシエタン(DME)、1,3-ジオキソラン(DOL)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン、及びジフェニルエーテル;
-エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DEGDME)、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEGDEE)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGME)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(PEGDME)などのグリコールエーテル;
-エチレングリコールメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルエステル及び
-トリアルキルホスフェート、例えばトリメチルホスフェート及びトリエチルホスフェート(TEP)。
【0060】
好ましい実施形態において、本発明によるb)非フッ素化エーテル化合物は、ジメトキシエタン(DME)、1,3-ジオキソラン(DOL)、ジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGME)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DEGDME)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEGDEE)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(PEGDME)、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン(THF)、トリエチルホスフェート(TEP)、及びそれらの混合物を含む。
【0061】
より好ましい実施形態では、b)非フッ素化エーテルは、DMEとDOLとの混合物である。
【0062】
他のより好ましい実施形態では、b)非フッ素化エーテルはDMEである。
【0063】
リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF6)、ヘキサフルオロアンチモン酸リチウム(LiSbF6)、ヘキサフルオロタンタル酸リチウム(LiTaF6)、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、クロロホウ酸リチウム(Li2B10Cl10)、フルオロホウ酸リチウム(Li2B10F10)、Li2B12FxH12-x(x=0~12);LiPFx(RF)6-x及びLiBFy(RF)4-y(式中、RFは、パーフルオロ化C1-C20アルキル基又はパーフルオロ化芳香族基を表し、x=0~5であり、及びy=0~3である)、LiBF2[O2C(CX2)nCO2],LiPF2[O2C(CX2)nCO2]2、LiPF4[O2C(CX2)nCO2](式中、Xは、H、F、Cl、C1-C4アルキル基及びフッ素化アルキル基からなる群から選択され、及びn=0~4である)、リチウムトリフルオロメタンスルホネート(LiCF3SO3)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドLi(FSO2)2N(LiFSI)、LiN(SO2CmF2m+1)(SO2CnF2n+1)及びLiC(SO2CkF2k+1)(SO2CmF2m+1)(SO2CnF2n+1)(式中、k=1~10であり、m=1~10であり、及びn=1~10である)、LiN(SO2CpF2pSO2)及びLiC(SO2CpF2pSO2)(SO2CqF2q+1)(式中、p=1~10であり、及びq=1~10である)、キレート化されたオルトボレート及びキレート化されたオルトホスフェートのリチウム塩、例えばリチウムビス(オキサラト)ボレート[LiB(C2O4)2]、リチウムビス(マロナト)ボレート[LiB(O2CCH2CO2)2]、リチウムビス(ジフルオロマロナト)ボレート[LiB(O2CCF2CO2)2]2]、リチウム(マロナトオキサラト)ボレート[LiB(C2O4)(O2CCH2CO2)]、リチウム(ジフルオロマロナトオキサラト)ボレート[LiB(C2O4)(O2CCF2CO2)]、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート[LiP(C2O4)3]、リチウムトリス(ジフルオロマロナト)ホスフェート[LiP(O2CCF2CO2)3]、リチウムジフルオロホスフェート(LiPO2F2)、リチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾール(LiTDI)並びに前述したものの混合物などのリチウムイオン錯体として説明される。
【0064】
好ましいリチウム塩は、LiPF6、LiTFSI、及びLiFSIであり、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0065】
一実施形態において、c)リチウム塩はLiPF6である。
【0066】
好ましい実施形態では、c)リチウム塩はLiFSIである。
【0067】
一実施形態において、本発明による液体電解質組成物中のリチウム塩のモル濃度(M)は、1M~8M、好ましくは1M~4M、より好ましくは1M~2Mである。
【0068】
一実施形態によれば、本発明による電解質組成物は、d)少なくとも1つのフッ素化有機カーボネート化合物をさらに含む。
【0069】
d)フッ素化有機カーボネート化合物の非限定的な例は、4-フルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、テトラフルオロエチレンカーボネート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルメチルカーボネート、ビス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)カーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(2,2-ジフルオロエチル)カーボネート、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート、1-フルオロエチルメチルカーボネート、1-フルオロエチルプロピルカーボネート、1-フルオロエチルエチルカーボネート、1-フルオロエチルフェニルカーボネート、1-フルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート、アリル-1-フルオロエチルメチルカーボネート、フルオロメチルメチルカーボネート、2-シアノエチル-1-フルオロエチルカーボネート、1-フルオロエチルプロパニルカーボネート、4-(2,2-ジフルオロエトキシ)エチレンカーボネート、4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エチレンカーボネート、エチルフルオロ(フェニル)メチルカーボネート、トリス(トリフルオロエチル)ホスフェート、メチル-3,3,3-トリフルオロプロパノネート、3-((2-オキソ-1,3-ジオキソラン-4-イル)オキシ)プロパンニトリル、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルアセテート、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルプロピオネート、及びその混合物を含む。
【0070】
本発明において、d)少なくとも1つのフッ素化有機カーボネート化合物の総量は、電解質の総重量に対して、0~50重量%、好ましくは、0~40重量%、より好ましくは、0~30重量%であり得る。
d)少なくとも1つのフッ素化有機カーボネート化合物の総量は、本発明の電解質組成物に含まれる場合、電解質組成物の総重量に対して5~50.0重量%、好ましくは10~40重量%、より好ましくは20~30重量%である。
【0071】
一実施形態によれば、本発明による電解質組成物は、e)電極表面で溶媒を予め反応させることによって負極表面での固体電解質界面(SEI)層の形成を促進する少なくとも1つの被膜形成添加剤をさらに含む。したがって、SEI層についての主成分は、Li2CO3(正極としてはLiCoO2の場合)、リチウムアルキルカーボネート、リチウムアルキルオキシド、及びLiPF6系電解質のためのLiF等の他の塩部分を含み得る電解質溶媒及び塩の分解生成物を含む。別の実施形態によれば、e)膜形成添加剤は、特に高電圧下での正極の構造変化を防止することによって正極表面のカソード電解質界面(CEI)層を安定化させる。通常、膜形成添加剤の還元電位は、反応が負極表面で起こる時の溶媒の還元電位よりも高く、膜形成添加剤の酸化電位は、反応が謡曲側で起こる時の溶媒の酸化電位よりも低い。
【0072】
一実施形態では、本発明による膜形成添加剤は、e)1,3-プロパンスルトン(PS)、エチレンサルファイト(ES)、及びプロプ-1-エン-1,3-スルトン(PES)を含む環状亜硫酸塩及び硫酸塩化合物;ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン(別名スルホラン)、エチルメチルスルホン、及びイソプロピルメチルスルホンを含むスルホン誘導体;スクシノニトリル、アジポニトリル、及びグルタロニトリル及び4,4,4-トリフルオロニトリルを含むニトリル誘導体;硝酸リチウム(LiNO3);リチウムジフルオロオキサラトボレート(LiDFOB)、リチウムフルオロマロナト(ジフルオロ)ボレート(LiFMDFB)などのホウ素誘導体塩;酢酸ビニル、ビフェニルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート、トリフェニルホスフィン、エチルジフェニルホスフィナイト、トリエチルホスファイト、トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファイト、無水マレイン酸、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、セシウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド(CsTFSI)、ヘキサフルオロリン酸セシウム(CsPF6)、フッ化セシウム(CsF)、トリメチルボロキシン(TMB)、トリブチルボレート(TBB)、2-(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ)-1,3,2-ジオキサホスホラン(PFPOEPi)、2-(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ)-4-(トリフルオロメチル)-1,3,2-ジオキサホスホラン(PFPOEPi-1CF3)、リチウムヘキサフルオロホスフェーと(LiPF6)、硝酸銀(AgNO3)ヘキサフルオロリン酸銀(AgPF6)、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン(TMSP)、1,6-ジビニルペルフルオロヘキサン、及びその混合物からなる群から選択される。
【0073】
好ましい一実施形態では、e)本発明による膜形成添加剤はビニレンカーボネートである。
【0074】
他の実施形態では、e)本発明による膜形成添加剤はイオン液体である。
【0075】
本明細書で使用される「イオン液体」という用語は、正に帯電したカチオン及び負に帯電したアニオンを含み、大気圧において100℃以下の温度で液体状態である化合物を指す。水などの通常の液体は、主に電気的に中性の分子からできている一方、イオン液体は、主に、イオンと、短寿命のイオン対とからできている。本明細書で使用される場合、「イオン液体」という用語は、溶媒を含まない化合物を示す。
【0076】
本明細書で使用される「オニウムカチオン」という用語は、その電荷の少なくとも一部がO、N、S又はPなどの少なくとも1つの非金属原子上に局在する、正に帯電したイオンを指す。
【0077】
本発明では、イオン液体は、An-Ql+
(n/l)
(式中、
-An-は、アニオンを表し、
-Ql+
(n/l)は、カチオンを表し、
-n及びlは、1~5で独立して選択され、それぞれアニオンAn-及びカチオンQl+
(n/l)の電荷を表す)
の一般式を有する。
【0078】
カチオンは、互いに独立して、金属カチオン及び有機カチオンから選択され得る。カチオンは、一価カチオン又は多価カチオンであり得る。
【0079】
金属カチオンとして、好ましくは、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン及びd-ブロック元素のカチオンを挙げることができる。
【0080】
本発明では、Ql+
(n/l)は、オニウムカチオンを表し得る。オニウムカチオンは、3つ又は4つの炭化水素鎖を有するVB族及びVIB族の元素(元素周期表に従って古い欧州のIUPACシステムで定義された通り)によって形成されたカチオンである。VB族には、N、P、As、Sb及びBi原子が含まれる。VIB族には、O、S、Se、Te及びPo原子が含まれる。オニウムカチオンは、特に、N、P、O及びS、より好ましくはN及びPからなる群から選択される原子と、3つ又は4つの炭化水素鎖とによって形成されるカチオンであり得る。
【0081】
オニウムカチオンQ
l+
(n/l)は、
- ヘテロ環式オニウムカチオン、特に:
【化1】
からなる群から選択されるもの;
- 不飽和環状オニウムカチオン、特に以下からなるもの:
- 飽和環状オニウムカチオン、特に以下からなるもの:
【化2】
- 非環状オニウムカチオン、特に一般式
+L-R’
s(式中、Lは、N、P、O及びS、より好ましくはN及びPからなる群から選択される原子を表し、sは、元素Lの価数に応じて2、3又は4から選択されるR’基の数を表し、各R’は、独立して、水素原子又はC
1~C
8のアルキル基を表し、L
+とR’との間の結合は、単結合又は二重結合であり得る)のもの
から選択することができる。
【0082】
上の式において、各「R」の記号は、互いに独立して、水素原子又は有機基を表す。好ましくは、各記号「R」は、上の式において、互いに独立して、水素原子を表すか、又は任意選択的にハロゲン原子、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル基、エステル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、スルホン基若しくは亜硫酸基によって1回以上置換される、飽和若しくは不飽和の、直鎖、分岐若しくは環状のC1~C18炭化水素基を表すことができる。
【0083】
カチオンQl+
(n/l)は、より具体的には、アンモニウム、ホスホニウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピラゾリニウム、イミダゾリウム、ヒ素、四級ホスホニウム及び四級アンモニウムカチオンから選択することができる。
【0084】
四級ホスホニウム又は四級アンモニウムカチオンは、より好ましくは、テトラアルキルアンモニウム若しくはテトラアルキルホスホニウムカチオン、トリアルキルベンジルアンモニウム若しくはトリアルキルベンジルホスホニウムカチオン又はテトラアリールアンモニウム若しくはテトラアリールホスホニウムカチオンから選択することができ、これらのアルキル基は、同一であるか又は異なり、4~12個の炭素原子、好ましくは4~6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐のアルキル鎖を表し、これらのアリール基は、同一であるか又は異なり、フェニル基又はナフチル基を表す。
【0085】
特定の実施形態では、Ql+
(n/l)は、四級ホスホニウム又は四級アンモニウムカチオンを表す。
【0086】
好ましい一実施形態では、Ql+
(n/l)は、四級ホスホニウムカチオンを表す。四級ホスホニウムカチオンの非限定的な例には、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム及びテトラアルキルホスホニウムカチオン、特にテトラブチルホスホニウム(PBu4)カチオンが含まれる。
【0087】
別の実施形態では、Ql+
(n/l)は、イミダゾリウムカチオンを表す。イミダゾリウムカチオンの非限定的な例には、1,3-ジメチルイミダゾリウム、1-(4-スルホブチル)-3-メチルイミダゾリウム、1-アリル-3H-イミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムが含まれる。
【0088】
別の実施形態では、Ql+
(n/l)は、特に、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム、メチルトリブチルアンモニウム、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム、N,N-ジメチル-N-エチル-N-(3-メトキシプロピル)アンモニウム、N,N-ジメチル-N-エチル-N-ベンジルアンモニウム、N,N-ジメチル-N-エチル-N-フェニルエチルアンモニウム、N-トリブチル-N-メチルアンモニウム、N-トリメチル-N-ブチルアンモニウム、N-トリメチル-N-ヘキシルアンモニウム、N-トリメチル-N-プロピルアンモニウム及びAliquat336(メチルトリ(C8~C10アルキル)アンモニウム化合物の混合物)からなる群から選択される四級アンモニウムカチオンを表す。
【0089】
一実施形態では、Ql+
(n/l)は、ピペリジニウムカチオン、特にN-ブチル-N-メチルピペリジニウム、N-プロピル-N-メチルピペリジニウムを表す。
【0090】
別の実施形態では、Ql+
(n/l)は、ピリジニウムカチオン、特にN-メチルピリジニウムを表す。
【0091】
より好ましい実施形態では、Q
l+
(n/l)は、ピロリジニウムカチオンを表す。特定のピロリジニウムカチオンの中でも、以下のものを挙げることができる:C
1~12アルキル-C
1~12アルキル-ピロリジニウム、より好ましくはC
1~4アルキル-C
1~4アルキル-ピロリジニウム。ピロリジニウムカチオンの例としては、限定するものではないが、N,N-ジメチルピロリジニウム、N-エチル-N-メチルピロリジニウム、N-イソプロピル-N-メチルピロリジニウム、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム、N-ブチル-N-メチルピロリジニウム、N-オクチル-N-メチルピロリジニウム、N-ベンジル-N-メチルピロリニウム、N-シクロヘキシルメチル-N-メチルピロリジニウム、N-[(2-ヒドロキシ)エチル]-N-メチルピロリジニウムが挙げられる。より好ましいものは、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム(PYR13)及びN-ブチル-N-メチルピロリジニウム(PYR14)である。
イオン液体のアニオンの非限定的な例は、ヨージド、ブロミド、クロリド、硫酸水素イオン、ジシアンアミド、アセテート、ジエチルホスフェート、メチルホスフェート、フッ素化アニオン、例えばヘキサフルオロホスフェート(PF
6
-)及びテトラフルオロボレート(BF
4
-)、並びに以下の式:
【化3】
のオキサラトボレート
を含む。
【0092】
一実施形態では、An-は、フッ素化アニオンである。本発明に使用することができるフッ素化アニオンの中でも、フッ素化スルホンイミドアニオンが特に有利であり得る。この有機アニオンは、特に、以下の一般式:
(Ea-SO2)N-R
(式中、
- Eaは、フッ素原子又はフルオロアルキル、パーフルオロアルキル及びフルオロアルケニルから選択される、好ましくは1~10個の炭素原子を有する基を表し、及び
- Rは、置換基を表す)
を有するアニオンから選択され得る。
【0093】
好ましくは、Eaは、F又はCF3を表し得る。
【0094】
第1の実施形態によれば、Rは、水素原子を表す。
【0095】
第2の実施形態によれば、Rは、好ましくは1~10個の炭素原子を有する直鎖又は分岐の環状又は非環状の炭化水素に基づく基を表し、これは、1つ以上の不飽和を任意選択的に有していてもよく、またハロゲン原子によって、ニトリル官能基によって、又はハロゲン原子で1回以上任意選択的に置換されていてもよいアルキル基によって1回以上任意選択的に置換されていてもよい。さらに、Rは、ニトリル基-CNを表し得る。
【0096】
第3の実施形態によれば、Rは、スルフィネート基を表す。特に、Rは、Eaが上に定義された通りである基-SO2-Eaを表し得る。この場合、フッ素化アニオンは、対称、すなわちアニオンの2つのEa基が同一であるようなものであり得るか、又は非対称、すなわちアニオンの2つのEa基が異なるようなものであり得る。
【0097】
さらに、Rは、基-SO2-R’を表すことができ、R’は、好ましくは1~10個の炭素原子を有する直鎖又は分岐の環状又は非環状の炭化水素に基づく基を表し、これは、1つ以上の不飽和を任意選択的に有していてもよく、またハロゲン原子によって、ニトリル官能基によって、又はハロゲン原子で1回以上任意選択的に置換されていてもよいアルキル基によって1回以上任意選択的に置換されていてもよい。特に、R’はビニル基又はアリル基を含み得る。さらに、Rは、基-SO2-N-R’(R’は、上に定義された通りであるか、又は他にR’は、スルホネート官能基-SO3を表す)を表し得る。
【0098】
環状の炭化水素に基づく基は、好ましくは、シクロアルキル基又はアリール基を指すことができる。「シクロアルキル」は、3~8個の炭素原子を有する単環式炭化水素鎖を指す。シクロアルキル基の好ましい例は、シクロペンチル及びシクロヘキシルである。「アリール」は、6~20個の炭素原子を有する単環式又は多環式の芳香族炭化水素基を指す。アリール基の好ましい例は、フェニル及びナフチルである。基が多環式基である場合、環は、σ(シグマ)結合によって縮合又は結合され得る。
【0099】
第4の実施形態によれば、Rは、カルボニル基を表す。Rは、特に、式-CO-R’(R’は上に定義された通りである)で表され得る。
【0100】
本発明で使用できる有機アニオンは、有利には、CF3SO2N-SO2CF3(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、一般にTFSIとして示される)、FSO2N-SO2F(ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、一般にFSIとして示される)、CF3SO2N-SO2F及びCF3SO2N-SO2N-SO2CF3からなる群から選択することができる。
【0101】
好ましい実施形態では、イオン液体は、
-1つ以上のC1-C30アルキル基を任意選択的に含むイミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム及びピペリジニウムイオンからなる群から選択される、正に帯電したカチオンと、
-ハライド、フッ素化アニオン、及びボレートからなる群から選択される、負に帯電したアニオンと
を含有する。
【0102】
C1-C30アルキル基の非限定的な例としては、とりわけ、メチル、エチル、プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、ペンチル、イソペンチル、2,2-ジメチル-プロピル、ヘキシル、2,3-ジメチル-2-ブチル、ヘプチル、2,2-ジメチル-3-ペンチル、2-メチル-2-ヘキシル、オクチル、4-メチル-3-ヘプチル、ノニル、デシル、ウンデシル及びドデシル基が挙げられる。
【0103】
好ましい一実施形態では、本発明による膜形成添加剤は、N-メチル-N-プロピルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(PYR13FSI)、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(PYR14FSI)、N-メチル-N-プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PYR13TFSI)、及びN-ブチル-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PYR14TFSI)からなる群から選択される。
【0104】
本発明において、e)被膜形成用添加剤の総量は、電解質組成物の総重量に対して、0~10重量%、好ましくは0~8重量%、より好ましくは0~5重量%であってよい。
【0105】
e)膜形成添加剤の総量は、本発明の液体電解質に含まれる場合、電解質組成物の総重量に対して0.05~5.0重量%、好ましくは0.05~3.0重量%、より好ましくは0.05~2.0重量%である。
【0106】
好ましい実施形態では、e)膜形成添加剤の総量は、電解質組成物の少なくとも1.0重量%を占める。
【0107】
また、本発明は、
リチウム金属を含む負極;
正極;
セパレータ;及び
本発明に係る電解質を含むリチウム金属電池を提供する。
【0108】
本発明では、「負極」という用語は、特に、放電中に酸化が起こる電気化学セルの電極を表すことが意図されている。
【0109】
本発明では、「正極」という用語は、特に、放電中に還元が起こる電気化学セルの電極を表すことが意図されている。
本発明において、「電気活性物質」という用語は、電池の充電段階及び放電段階の間に、その構造に組み込み又は挿入することができ、そこからリチウムイオンを実質的に放出することができる電気活性物質を意味することが意図されている。
【0110】
リチウム金属電池用の正極を形成する場合、正極の電気活物質は特に限定されない。これは、式LiMQ2(式中、Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr及びVなどの遷移金属から選択される少なくとも1つの金属であり、Qは、OやSなどのカルコゲンである)の複合金属カルコゲニドを含み得る。これらの中でも、式LiMO2(式中、Mは、上で定義したものと同じものである)のリチウム系複合金属酸化物を使用することが好ましい。それらの好ましい例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiNixCo1-xO2(0<x<1)及びスピネル構造化LiMn2O4が挙げられ得る。その別の好ましい例としては、式LiNixMnyCozO2のリチウム-ニッケル-マンガン-コバルトに基づく酸化物(x+y+z=1、NMCと呼ばれる)、例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2及び式LiNixCoyAlzO2のリチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウムに基づく金属酸化物(x+y+z=1、NCAと呼ばれる)、例えばLiNi0.8Co0.15Al0.05O2.が挙げられ得る。
【0111】
代替形態として、リチウム金属電池のための正極を形成する場合にはさらに、正極の電気活性物質は、式M1M2(JO4)fE1-f(式中、M1は、リチウムであり、M1金属の20%未満に対応する別のアルカリ金属によって部分的に置換され得、M2は、Fe、Mn、Ni又はこれらの混合物から選択される+2の酸化レベルの遷移金属であり、0を含めてM2金属の35%未満に対応する、+1~+5の酸化レベルの1つ以上のさらなる金属によって部分的に置換され得、JO4は、任意のオキシアニオンであり、Jは、P、S、V、Si、Nb、Mo又はこれらの組み合わせのいずれかであり、Eは、フルオリド、ヒドロキシド又はクロリドアニオンであり、fは、通常、0.75~1に含まれるJO4オキシアニオンのモル分率である)のリチウム化又は部分的にリチウム化された遷移金属オキシアニオン系電気活性物質を含み得る。
【0112】
上で定義されたようなM1M2(JO4)fE1-f電気活物質は、好ましくは、ホスフェート系であり、規則正しい又は改質されたかんらん石構造を有し得る。
【0113】
より好ましくは、正極の電気活物質は、式Li3-xM’yM’’2-y(JO4)3(式中、0≦x≦3であり、0≦y≦2であり、M’及びM’’は、同じ又は異なる金属であり、それらの少なくとも1つは、遷移金属であり、JO4は、好ましくは、別のオキシアニオンで部分的に置換されていてもよいPO4であり、Jは、S、V、Si、Nb、Mo又はそれらの組合せのいずれかである)を有する。さらに好ましくは、電気活物質は、式Li(FexMn1-x)PO4(式中、0≦x≦1であり、xは好ましくは1である(すなわち式LiFePO4のリチウム鉄ホスフェートである))のホスフェート系の電気活性物質である。
【0114】
好ましい実施形態では、正極の電気活物質は、LiMQ2(MはCo、Ni、Fe、Mn、Cr、及びVから選択される少なくとも1つの金属であり、QはO又はSである);LiNixCo1-xO2(0<x<1);スピネル構造のLiMn2O4;式LiNixMnyCozO2(x+y+z=1)のリチウム-ニッケル-マンガン-コバルト系金属酸化物、式LiNixCoyAlzO2(x+y+z=1)のリチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム系金属酸化物、及びLiFePO4からなる群から選択される。
【0115】
「セパレータ」という用語は、本明細書では、電気化学デバイス内の反対の極性の電極を電気的及び物理的に分離し、それらの間を流れるイオンを透過させる単層又は多層のポリマー、不織セルロース又はセラミック材料/膜を示すことを意図している。
【0116】
本発明では、セパレータは、電気化学デバイスのセパレータに一般的に使用される任意の多孔質基材であり得る。
【0117】
一実施形態では、セパレータは、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンナフタレン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン(ポリエチレン及びポリプロピレンなど)又はそれらの混合物などのポリエステルからなる群から選択される、無機ナノ粒子でコーティングされていてもよい少なくとも1つの材料を含む多孔質高分子材料である。
【0118】
無機ナノ粒子の非限定的な例は、SiO2、TiO2、Al2O3、及びZrO2を含む。
【0119】
特定の一実施形態において、セパレータは、SiO2でコーティングされたポリエステル膜である。
【0120】
別の特定の実施形態において、セパレータは、Al2O3でコーティングされたポリエステル膜である。
【0121】
別の特定の実施形態では、セパレータは、ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)でコーティングされた多孔性高分子材料である。
【0122】
参照により本明細書中に組み込まれている特許、特許出願、及び公開資料の開示が、ある用語を不明確とし得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先する。
【0123】
以下の実施例を参照しつつ本発明を以降でより詳しく説明するが、その目的は例示的であるにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0124】
原材料
BP120:Solvay内で合成された、約120℃の沸点を有するフッ素化ジエーテルの総重量に基づいて70重量%の量のC6F10H4O2を含む混合物としてのフッ素化ジエーテル
BP120*:Solvay内で合成された、約120℃の沸点を有するフッ素化ジエーテルの総重量に基づいて45重量%の量のC6F10H4O2を含む混合物としてのフッ素化ジエーテル
BP80:Solvay内で合成された、約80℃の沸点を有するフッ素化ジエーテルの総重量に基づいて50重量%の量のC6F12H2O2を含む混合物としてのフッ素化ジエーテル
TFEE:Solvay内で合成された、約160℃の沸点を有する1,2-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)エタンの単一化合物としてのフッ素化ジエーテル
TTE:SynQuestから市販されている、約93℃の沸点を有する1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルの単一化合物としてのフッ素化モノエーテル
DME:1,2-ジメトキシエタン、Enchemから市販
DMC:ジメチルカーボネート、Enchemから市販
EC:エチレンカーボネート、Enchemから市販
EMC:エチルメチルカーボネート、Enchemから市販
Li塩:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、Nippon Shokubaiから市販
【0125】
A/電解質組成物の処方:
電解質組成物を、E1~E2の本発明の実施例及びCE1~CE9の比較例のために調製した。それらの成分は下の表1にまとめられている:
【表1】
【0126】
E1の電解質組成物を調製する際には、リチウム塩としての1 M LiFSIを、電解質組成物の全体積に対して20体積%のDMEと80体積%のBP120との混合物に溶解させ、グローブボックス内でマグネチックスターラーを用いて混合した。全ての成分を1つのボトルに加え、溶液が透明になるまで混合した。
【0127】
フッ化ジエーテル化合物としてBP120の代わりにBP80を用いた以外はE1と同様にしてE2の電解質組成物を調製した。
CE1の電解質組成物を調製する際には、体積比50:50のECとDMCとの混合物にLiFSIを溶解させて、リチウム塩の1M溶液を調製した。
【0128】
体積比が40:40:20であるEC、DMC及びBP120の混合物にLiFSIを溶解してリチウム塩の1M溶液を調製したことを除いて、CE1と同様にしてCE2の電解質組成物を調製した。
【0129】
EC、DMC及びBP120の体積比がそれぞれ25:25:50及び10/10/80であったことを除いて、CE2と同じ方法でCE3~CE4の電解質組成物を調製した。
【0130】
BP120の代わりにTFEEを使用し、DME/TFEEの体積比を40/60にしたことを除いて、E1と同様にしてCE5の電解質組成物を調製した。
【0131】
DMEとTFEEとの体積比を40/60ではなく20/80にしたことを除いて、CE5と同様にしてCE6の電解質組成物を調製した。
【0132】
BP120の代わりにそれぞれBP120*及びTTEを使用したことを除いて、E1と同じ方法でCE7~CE8の電解質組成物を調製した。
【0133】
CE9の電解質を調製する際には、LiFSIをDMEのみに溶解させて、リチウム塩の1M溶液を調製した。全ての成分を1つのボトルに加え、溶液が透明になるまで混合した。
【0134】
B/リチウム金属電池の作製:
LiCoO2と、導電剤Super-P(LiFUN Technologyより市販)と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)とを混合し、正極組成物を得た。
【0135】
正極組成物は、約97.8:1.2:1.0の重量比を有する、LiCoO2、導電剤、及びPVDFを含んでいた。
この正極組成物を厚さ約20μmのアルミニウム箔の上面に塗布した後、約110℃の真空下で熱処理を行い、正極を得た。
【0136】
上記のプロセスで得られた正極と負極としてのリチウム金属(Honjo Metal Ltd.より市販)との間に、ポリエチレンセパレータ(Tonen Corporationより市販)を厚さ約20μmで配置し、コインセル(CR2032型)としてのリチウム金属電池を作製した。
【0137】
C/セルの活性化及び初期のセル性能の測定
1-形成(リチウム金属電池の活性化):コインセルの製造後、25℃で10時間保管した(エイジングプロセス)。次いで、セルを4.4Vに充電し、3.0Vに3サイクル繰り返し放電してセルを活性化した。
【0138】
2-サイクリル性能の測定:各セルのサイクル性能を評価した。その後、各セルを充電と放電のサイクルの反復に供した。1サイクルは、Cの充電電流での充電段階と、それに続くCの放電電流での放電段階からなっていた。
【0139】
D/リチウム金属電池の性能測定
コインセルは、以下に詳述するように、特性を確認するための様々な条件で試験した:
i)3サイクルの容量確認
充電:定電流及び定電圧で0.1C/4.2V/0.05C(CC-CV)
放電:0.1C/3.0V(CC)
ii)連続サイクル試験(最大300サイクル)
充電:0.5C/4.4V/0.05C(CC-CV)
放電:0.5C/3.0V(CC)
【0140】
E/サイクル試験-容量維持:
各セルのサイクル性能を評価した。その後、各セルを充電と放電のサイクルの反復に供した。得られた結果を下の表2に示す。
【表2】
【0141】
図1は、本発明の実施例E1~E2及び比較例CE1~CE4の容量維持率80%でのサイクル数をサイクル数の関数として示す。なお、本発明の電解質組成物を用いたE1-E2の容量維持率80%のサイクル数は、比較例CE1-CE4よりもはるかに高かった。
【0142】
さらに、上記の表2に示すように、E1-E2の平均クーロン効率(%)は、E1について220サイクルまで及びE2について231サイクルまでであり、E1及びE2の両方がそれぞれ99.9%を超えて比較例のものよりも優れていたことに留意されたい。E1-E2のクーロン効率は、少なくとも約180サイクルまで本質的に一定のままであり、サイクルがさらに増加するにつれて減少したが、非常にゆっくりであったのに対して、CE1-CE4のクーロン効率は、主に約10~40サイクルで急速に減少した。
【0143】
DMEとTFEEの混合物(v/v 20/80)であるCE6の電解質組成物は、比較的良好な容量維持率、すなわち80%の容量維持率で172サイクルを示したが、本発明によるE1-E2のそれぞれ、220サイクル、及び231サイクルよりも依然としてはるかに低かった。さらに、CE6の平均クーロン効率(%)は、E1-E2の平均クーロン効率よりも低かった。
【0144】
CE7の電解質組成物は、DMEとBP120*との混合物であり、BP120*は、約120℃の沸点を有するフッ素化ジエーテルの総重量に基づいて45重量%の量でC6F10H4O2を含む混合物としてのフッ素化ジエーテルであった。容量保持率80%(187サイクル)でのサイクル数は比較的高く、比較例CE1~CE9の中で最も高かったが、本発明によるE1よりも約15%低く、E2よりも約19%低かった。これは、サイクル性能の実質的な差を意味した。CE7(99.80%)の平均クーロン効率(%)も比較的高く、比較例の中で最も高かったが、E1-E2の平均クーロン効率よりも依然として低かった。
【0145】
本発明に係る電解質組成物E1~E2は、容量維持率及びクーロン効率の両方に関して、優れたバランスのとれた性能を示すことが明らかに実証された。
【国際調査報告】