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特表2023-553485強度、成形性及び表面品質に優れためっき鋼板及びその製造方法
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  • 特表-強度、成形性及び表面品質に優れためっき鋼板及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】強度、成形性及び表面品質に優れためっき鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20231214BHJP
   C22C 38/16 20060101ALI20231214BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20231214BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20231214BHJP
   C23C 2/28 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C22C38/16
C21D9/46 J
C23C2/06
C23C2/28
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535995
(86)(22)【出願日】2021-12-02
(85)【翻訳文提出日】2023-06-14
(86)【国際出願番号】 KR2021018102
(87)【国際公開番号】W WO2022131635
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0175088
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ヨン-フン
(72)【発明者】
【氏名】ハ、 ユ-ミ
(72)【発明者】
【氏名】ハン、 ソン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】ヨム、 ジュン-ソン
【テーマコード(参考)】
4K027
4K037
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AA23
4K027AB02
4K027AB14
4K027AB42
4K027AB43
4K027AC12
4K027AC73
4K027AC87
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA04
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EB02
4K037EB03
4K037EB06
4K037EB08
4K037EC01
4K037FA02
4K037FA03
4K037FB00
4K037FC07
4K037FE02
4K037FG00
4K037FJ05
4K037FK02
4K037FK03
4K037FK08
4K037FM02
4K037GA05
4K037JA06
4K037JA07
(57)【要約】
本発明は、自動車の軽量化を実現できる強度、成形性及び表面品質に優れた極低炭素鋼めっき鋼板及びその製造方法に関し、より詳細には、自動車外板材の素材として好適に使用できる高強度、高成形性を有する亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鉄と、
前記素地鉄上に形成されためっき層と、を含み、
前記素地鉄は重量%で、C:0.003~0.009%、Si:0.05%以下(0%は除く)、Mn:0.4~1.0%(0%は除く)、P:0.04~0.09%、S:0.01%以下(0%は除く)、N:0.005%以下(0%は除く)、Sol.Al:0.1%以下(0%は除く)、Mo:0.03~0.08%、Ti:0.005~0.03%、Nb:0.02~0.045%、Cu:0.04~0.15%、B:0.0015%以下(0%は除く)、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、
下記関係式1及び2を満たす、めっき鋼板。
[関係式1]
0<10×[Si]/[Mn]≦1.3
(前記関係式1において、前記[Si]は、素地鉄中のSiの平均重量%の含量を示し、前記[Mn]は、素地鉄中のMnの平均重量%の含量を示す。)
[関係式2]
0≦[Ao]/[At]≦0.15
(前記関係式2において、前記[At]は、前記めっき鋼板に対する断面を基準として、前記素地鉄とめっき層との間の長さ500nm以上の界面線をめっき層側の厚さ方向に3μm離隔させた線を描いたとき、前記界面線から前記離隔させた線の間の領域の面積を示し、前記[Ao]は、前記界面線から前記離隔させた線の間の領域においてMn-Si-O系複合酸化物が占める面積を示す。)
【請求項2】
前記Mn-Si-O系複合酸化物の平均直径は200nm以下である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項3】
前記めっき鋼板に対する厚さ方向への断面を基準として、前記素地鉄とめっき層との間の界面線をめっき層側の厚さ方向に0.3μm離隔させた線を描いたとき、前記界面線から前記離隔させた線の間の領域においてMn-Si-O系複合酸化物が占める面積が、前記離隔させた線から前記めっき層の表面線の間の領域においてMn-Si-O系複合酸化物が占める面積より大きい、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項4】
引張強度は390MPa以上であり、伸び率は15%以上である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項5】
前記素地鉄の微細組織は面積分率で、フェライトが99%以上であり、残部はパーライトである、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項6】
前記フェライトの平均結晶粒サイズは5~15μmの範囲である、請求項5に記載のめっき鋼板。
【請求項7】
重量%で、C:0.003~0.009%、Si:0.05%以下(0%は除く)、Mn:0.4~1.0%(0%は除く)、P:0.04~0.09%、S:0.01%以下(0%は除く)、N:0.005%以下(0%は除く)、Sol.Al:0.1%以下(0%は除く)、Mo:0.03~0.08%、Ti:0.005~0.03%、Nb:0.02~0.045%、Cu:0.04~0.15%、B:0.0015%以下(0%は除く)、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、前述した関係式1を満たす鋼を連続鋳造した後、鋼の表面から厚さ方向に2~5mmを溶削処理する段階と、
前記溶削処理後に得られた鋼スラブを1180~1230℃で再加熱した後、Ar3以上で熱間圧延して熱延鋼板を提供する段階と、
前記熱延鋼板を600~650℃で巻き取る段階と、
巻き取られた熱延鋼板を70~83%の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を提供する段階と、
前記冷延鋼板を740~830℃で焼鈍する段階と、
焼鈍された冷延鋼板に溶融亜鉛系めっきを行い、表面に亜鉛系めっき層が形成された鋼板を500~560℃で合金化熱処理する段階と、
1.0~1.6μmの粗さ(Ra)を有するスキンパスロールを用いて、0.6~1.2%の圧下率で調質圧延する段階と、
を含む、めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記焼鈍する段階は露点温度が-60~-20℃の範囲で行われる、請求項7に記載のめっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記焼鈍する段階は、740~850℃範囲の温度で熱処理した後、2~6℃/sの平均冷却速度で1次冷却を行い、次いで6.5~15℃/sの平均冷却速度で2次冷却を行う、請求項7に記載のめっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記調質圧延する段階は、0.05~0.4の圧下率で1次調質圧延を行った後、0.6~1.0%の圧下率で2次調質圧延を行う、請求項7に記載のめっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の軽量化を実現できる強度、成形性及び表面品質に優れた極低炭素鋼めっき鋼板及びその製造方法に関し、より詳細には、自動車外板材の素材として好適に使用できる高強度、高成形性を有する亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車外板材としてプレス加工等により加工された冷延鋼板が使用され、一般に高い成形性が要求される。近年、地球温暖化を防止する観点から二酸化炭素の排出規制策として、新たに自動車の燃費を改善するための目標が設定され、低燃費の自動車に対する優遇税制が導入されるなど、自動車の燃費向上が求められている。自動車の燃費向上には、自動車車体の軽量化が有効な手段であり、このような軽量化の観点から自動車車体用鋼板のスリム化が要求された。一方、自動車車体の安定性を確保する観点からは、自動車車体用鋼板の高強度化が求められている。このような鋼板のスリム化及び高強度化の要件を満たし、複雑な形状にプレスされる自動車車体用鋼板として、表面外観に優れ、プレス成形性に優れた亜鉛系めっき高張力鋼板が求められている。
【0003】
自動車用鋼板の成形性を向上させるために、極低炭素冷延鋼板にTiやNbを単独又は複合添加し、C、N、Sなどの固溶元素を炭化物及び窒化物の形態で析出させて伸び率及び塑性変形比を高めることで、成形性を向上させるいわゆるIF鋼(Interstitial Free Steel)がある。したがって、従来は製鋼段階で高清浄化を達成するとともに、Ti等のような炭窒化物形成元素を添加して固溶元素を析出させる方法で固溶元素による時効現象を制限している。また、高張力鋼板においては、鋼板の強度を向上させるために、鋼中にSi、Mn、P等の固溶強化元素を含有させる方法が行われている。
【0004】
一方、高強度亜鉛系めっき鋼板を製造するためには、材質確保のために、水素と窒素の混合雰囲気で焼鈍処理を行うことになる。このような焼鈍雰囲気で素地鉄(Fe)の還元が起こり、Si、Mn、Alなどの元素のように酸化しやすい元素の場合、焼鈍雰囲気に微量含有されたOあるいはHOと反応して酸化物を形成する。素地鉄の表面に酸化物が形成されると、後続のめっき工程時に未めっきが発生したり、不均一なめっき層を形成するなどの問題が発生する。
【0005】
したがって、表面品質に優れるとともに、高強度及び高成形性を有する亜鉛めっき鋼板の需要を満たすことができるレベルの技術は未だに開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国公開特許公報第2005-0063917号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一側面は、表面品質に優れるとともに、高強度及び高成形性を有するめっき鋼板及びその製造方法を提供しようとする。
【0008】
本発明の課題は、上述の内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、誰でも本発明の明細書全体にわたる内容から本発明の更なる課題を理解する上で何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、
素地鉄と、
上記素地鉄上に形成されためっき層と、を含み、
上記焼鉄は重量%で、C:0.003~0.009%、Si:0.05%以下(0%は除く)、Mn:0.4~1.0%(0%は除く)、P:0.04~0.09%、S:0.01%以下(0%は除く)、N:0.005%以下(0%は除く)、Sol.Al:0.1%以下(0%は除く)、Mo:0.03~0.08%、Ti:0.005~0.03%、Nb:0.02~0.045%、Cu:0.04~0.15%、B:0.0015%以下(0%は除く)、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、
下記関係式1及び2を満たす、めっき鋼板を提供する。
【0010】
[関係式1]
0<10×[Si]/[Mn]≦1.3
(上記関係式1において、上記[Si]は、素地鉄中のSiの平均重量%の含量を示し、上記[Mn]は、素地鉄中のMnの平均重量%の含量を示す。)
【0011】
[関係式2]
0≦[Ao]/[At]≦0.15
(上記関係式2において、上記[At]は、上記めっき鋼板に対する断面を基準として、上記素地鉄とめっき層との間の長さ500nm以上の界面線をめっき層側の厚さ方向に0.3μm離隔させた線を描いたとき、上記界面線から上記離隔させた線の間の領域の面積を示し、上記[Ao]は、上記界面線から上記離隔させた線の間の領域においてMn-Si-O系複合酸化物が占める面積を示す。)
【0012】
また、本発明のさらに他の一側面は、
重量%で、C:0.003~0.009%、Si:0.05%以下(0%は除く)、Mn:0.4~1.0%(0%は除く)、P:0.04~0.09%、S:0.01%以下(0%は除く)、N:0.005%以下(0%は除く)、Sol.Al:0.1%以下(0%は除く)、Mo:0.03~0.08%、Ti:0.005~0.03%、Nb:0.02~0.045%、Cu:0.04~0.15%、B:0.0015%以下(0%は除く)、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、上述した関係式1を満たす鋼を連続鋳造した後、鋼の表面から厚さ方向に2~5mmを溶削処理する段階と、
上記溶削処理後に得られた鋼スラブを1180~1230℃で再加熱した後、Ar3以上で熱間圧延して熱延鋼板を提供する段階と、
上記熱延鋼板を600~650℃で巻き取る段階と、
巻き取られた熱延鋼板を70~83%の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を提供する段階と、
上記冷延鋼板を740~830℃で焼鈍する段階と、
焼鈍された冷延鋼板に溶融亜鉛系めっきを行い、表面に亜鉛系めっき層が形成された鋼板を500~560℃で合金化熱処理する段階と、
1.0~1.6μmの粗さ(Ra)を有するスキンパスロールを用いて、0.6~1.2%の圧下率で調質圧延する段階と、
を含む、めっき鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一側面によれば、表面品質に優れるとともに、高強度及び高成形性を有するめっき鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【0014】
本発明の多様かつ有益な利点及び効果は、上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本明細書の比較例4から得られるめっき鋼板の表面を1倍率で光学カメラを用いて撮影した写真である。
図2】本発明の発明例4から得られるめっき鋼板に対する厚さ方向への断面を撮影した写真であって、素地鉄とめっき層との間の界面付近を40,000倍率で透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy;TEM)装置を用いて撮影した写真である。
図3】本発明の比較例2から得られるめっき鋼板に対する厚さ方向への断面を撮影した写真であって、素地鉄とめっき層との間の界面付近を100,000倍率でEDSを用いて撮影した写真である。
図4】関係式2の測定方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形することができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されるものではない。さらに、本発明の実施形態は、当技術分野において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0017】
本発明者らは、上述した従来技術の問題点を解決するために鋭意研究した結果、鋼中に強力な炭窒化物形成元素であるチタン(Ti)及び/又はニオブ(Nb)等を添加して炭素(C)、窒素(N)、硫黄(S)等の固溶元素を最小化することによって成形性を確保するとともに、固溶強化元素であるSi、Mn、P等を添加して、引張強度390MPa以上の高強度を確保し、成分及び合金化度の制御により、優れためっき性を確保できることを確認し、本発明を完成するに至った。以下、本発明の自動車外板材の素材として好ましく適用できる表面品質に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法について具体的に説明する。
【0018】
自動車用鋼板としては、高張力化とともに、深絞り性などのプレス成形性を満たすものでなければならない。本実施形態に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板の基材となる脱スケール圧延鋼板は、加工性を向上させるために極低炭素鋼を基本成分とし、固溶強化元素であるSi、Mn、P等を添加した高張力鋼板を 使用する。
【0019】
すなわち、本発明の一側面に係るめっき鋼板は、素地鉄と、上記素地鉄上に形成されためっき層と、を含む。このとき、上記素地鉄は、重量%で、C:0.003~0.009%、Si:0.05%以下(0%は除く)、Mn:0.4~1.0%(0%は除く)、P:0.04~0.09%、S:0.01%以下(0%は除く)、N:0.005%以下(0%は除く)、Sol.Al:0.1%以下(0%は除く)、Mo:0.03~0.08%、Ti:0.005~ 0.03%、Nb:0.02~0.045%、Cu:0.04~0.15%、B:0.0015%以下(0%は除く)、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む。以下では、素地鉄の基本成分の添加理由及びその限定理由について説明する。
【0020】
炭素(C):0.003~0.009%
Cは侵入型固溶元素であって、冷延及び焼鈍過程において鋼板の集合組織の形成に大きな影響を及ぼす。鋼中に固溶炭素量が多くなると、絞り加工に有利な{111}ガンマ(γ)-ファイバ集合組織を有する結晶粒の成長が抑制され、{110}及び{100}集合組織を有する結晶粒の成長が促進され、焼鈍板の絞り性が低下する。さらに、上記Cの含量が0.009%を超えると、これを炭化物として析出させるために必要なTi及びNbの含量が大きくなり、経済性の面で不利であるだけでなく、パーライト等が生成されて成形性を低下させることがある。したがって、上記C含量は0.009%以下に制限することが好ましい。また、上記C含量が0.003%未満であると、十分な強度を確保できない可能性があるため、上記C含量は0.003%以上に制限することが好ましい。但し、より好ましくは、上記C含量の下限は0.0038%であってもよく、上記C含量の上限は0.0080%であってもよい。
【0021】
シリコン(Si):0.05%以下(0%は除く)
Siは、固溶強化による強度上昇に寄与する元素である。このような固溶強化による強度上昇の効果を発揮するためには、Siを必須に添加する必要があるため、上記素地鉄中のSi含量を0%超過に制限する。一方、上記Si含量が0.05%を超えると、表面スケール欠陥を誘発してめっき表面特性が低下するという問題があるため、本発明では、上記Si含量を0.05%以下に管理する。但し、より好ましくは、上記Si含量の下限は0.01%であってもよく、上記Si含量の上限は0.042%であってもよい。
【0022】
マンガン(Mn):0.4~1.0%
Mnは固溶強化元素であって、強度上昇に寄与するだけでなく、鋼中のSをMnSとして析出させる役割を果たす。上記Mnの含量が0.4%未満であると、強度の低下が懸念されるのに対し、上記Mnの含量が1.0%を超えると、酸化物による表面問題が発生する可能性があるため、上記Mnの含量は0.4~1.0%に制限することが好ましい。但し、より好ましくは、上記Mn含量の下限は0.48%であってもよく、上記Mn含量の上限は0.80%であってもよい。
【0023】
リン(P):0.04~0.09%
Pは固溶効果に最も優れており、絞り性を大きく損なうことなく、鋼の強度確保に最も効果的な元素である。上記Pの含量が0.04%未満であると、目的とする強度の確保が不可能であるのに対し、上記Pの含量が0.09%を超えると、P偏析による2次脆性及び表面縞模様欠陥が生じることがあるため、上記Pの含量は0.04~0.09%に制限することが好ましい。但し、より好ましくは、上記P含量の下限は0.048%であってもよく、上記P含量の上限は0.089%であってもよい。
【0024】
モリブデン(Mo):0.03~0.08%
Moは、P(リン)との親和力の高い元素であって、P偏析を抑制する役割を果たす。極低炭素鋼において高強度を確保するためには、Pを不可避に活用しなければならないが、Moを適正に添加してP偏析による表面欠陥を改善するのに一部寄与することができる。上記Mo含量が0.03%未満の場合、目的とする表面改善には大きな効果がない。また、上記Mo含量が0.08%を超える場合、価格が高くなりコスト競争力が低下するため、上記Moの含量は0.03~0.08%に制限することが好ましい。但し、より好ましくは、上記Mo含量の下限は0.05%であってもよく、上記Mo含量の上限は0.078%であってもよい。
【0025】
硫黄(S):0.01%以下(0%は除く)、窒素(N):0.005%以下(0%は除く)
S及びNは、鋼中に存在する不純物であって不可避に添加されるため、上記素地鉄中におけるS及びN含量はそれぞれ独立して0%を超える。但し、優れた溶接特性を確保するためには、その含量をできるだけ低く制御することが好ましいため、本発明において上記S含量は0.01%以下に管理し、上記N含量は0.005%以下に管理する。但し、より好ましくは、上記S含量の下限は0.0015%であってもよく、上記S含量の上限は0.0034%であってもよい。また、より好ましくは、上記N含量の下限は0.0008%であってもよく、上記N含量の上限は0.004%であってもよい。
【0026】
アルミニウム(Al):0.1%以下(0%は除く)
AlはAlNを析出させ、鋼の絞り性及び延性の向上に寄与する。このような絞り性及び延性の向上効果を発揮するために、上記素地鉄中のAl含量は0%を超える。但し、上記Alの含量が0.1%を超える場合、製鋼操業時にAl介在物の過剰形成による鋼板の内部欠陥が発生するという問題があるため、上記Al含量は0.1%以下に制御することが好ましい。但し、より好ましくは、上記Al含量の下限は0.025%であってもよく、上記Al含量の上限は0.08%であってもよい。
【0027】
チタン(Ti):0.005~0.03%
Tiは、熱間圧延中に固溶炭素及び固溶窒素と反応してTi系炭窒化物を析出させることにより鋼板の絞り性の向上に大きく寄与する元素である。上記Ti含量が0.005%未満の場合、炭窒化物を十分に析出させることができず、絞り性が低下する。一方、上記Ti含量が0.03%を超える場合、製鋼操業時に介在物の管理が難しく、介在物性欠陥が発生する可能性があるため、上記Tiの含量は0.005~0.03%に制限することが好ましい。但し、より好ましくは、上記Ti含量の下限は0.007%であってもよく、上記Ti含量の上限は0.012%であってもよい。
【0028】
ニオブ(Nb):0.02~0.045%
Nbは、熱間圧延solute drag及び析出物pinning効果によるオーステナイト域の未再結晶領域が高温に広くなると、圧延及び冷却する過程を通じて非常に微細な結晶粒(grain)を作ることができる最も効果的な元素である。上記Nb含量が0.02%未満の場合、鋼中のオーステナイト未再結晶温度領域の範囲が狭くなり、結晶粒サイズ(grain size)の微細化効果が僅かとなる。一方、上記Nb含量が0.045%を超える場合、高温強度が高くなり熱間圧延の困難をもたらすという問題があるため、上記Nbの含量は0.02~0.045%に制限することが好ましい。但し、より好ましくは、上記Nb含量の下限は0.028%であってもよく、上記Nb含量の上限は0.044%であってもよい。
【0029】
ボロン(B):0.0015%以下(0%は除く)
Bは、鋼中にP添加による2次加工脆性を防止するために添加する元素であって、上述した2次加工脆性防止の効果を発現するために、上記素地鉄中のB含量は0%を超える。但し、B含量が0.0015%を超える場合、鋼板の延性低下を伴うため、上記Bの含量は0.0015%以下に制限することが好ましい。一方、より好ましくは、上記B含量の下限は0.0004%であってもよく、上記B含量の上限は0.001%であってもよい。
【0030】
銅(Cu):0.04~0.15%
Cuも強度確保のために添加される元素であって、鋼組成を製鋼により調整する際に除去しにくい元素である。したがって、強度確保のためにCuを0.04%以上添加することが好ましいが、Cu含量が0.15%を超えると、粒界脆化やコスト上昇につながるため、Cu含量を0.15%以下に制限する。一方、より好ましくは、上記Cu含量の下限は0.06%であってもよく、上記Cu含量の上限は0.10%であってもよい。
【0031】
この他に、残りのFe及び不可避不純物が含まれる。上記組成以外に有効な成分の添加が排除されるものではない。一方、上記不可避不純物は、通常のめっき鋼板の製造工程において意図せずに混入し得るものであれば、全て含まれることができる。当該技術分野における技術者であれば、その意味を容易に理解することができるため、特にこれを限定しない。
【0032】
なお、上記めっき鋼板は、下記関係式1を満たすことができる。
【0033】
[関係式1]
0<10×[Si]/[Mn]≦1.3
(上記関係式1において、上記[Si]は、素地鉄中のSiの平均重量%の含量を示し、上記[Mn]は、素地鉄中のMnの平均重量%の含量を示す。)
【0034】
すなわち、上記関係式2から定義される10×[Si]/[Mn]の値が1.3を超えると、焼鈍時に表面Si酸化物が多発してめっき濡れ性が悪化するため、最終製品において未めっき又はめっき不均一による表面欠陥が生じる可能性がある。これは、SiがMnに比べて酸化反応が起こりやすいため、焼鈍中にSi単独及び複合酸化物が容易に形成され、これによって表面欠陥が発生する結果を招くものと判断される。一方、上述した効果をより改善しようとする観点から、より好ましくは、上記10×[Si]/[Mn]の値の下限は0.48であってもよく、上記10×[Si]/[Mn]の値の上限は0.68であってもよい。
【0035】
本発明は、上述の成分系を満たすことにより、成形性に優れた自動車外板用高強度の極低炭素合金化溶融亜鉛めっき鋼板を効果的に提供することができる。
【0036】
すなわち、本発明は成形性を向上させるために極低炭素鋼を基本成分とし、強化元素であるSi、Mn、P等を含有する高張力鋼板を基材(素地鉄)とした合金化溶融亜鉛系めっき鋼板に関するものであって、本発明は、素地鉄表面の酸化物による未めっき及び不均一なめっき層の形成を防止するために、組成及び合金化度を適切に調節することにより優れた表面外観を有する自動車外板用合金化溶融亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法を効果的に提供することができる。
【0037】
上記めっき鋼板は、下記関係式2を満たすことが好ましい。本発明によるめっき鋼板は、下記関係式2を満たすことにより、素地鉄とめっき層との界面付近において界面酸化物の比を安定的に制御して優れた表面品質を確保することができる。
【0038】
[関係式2]
0≦[Ao]/[At]≦0.15
(上記関係式2において、上記[At]は、上記めっき鋼板に対する断面を基準として、上記素地鉄とめっき層との間の長さ500nm以上の界面線をめっき層側の厚さ方向に0.3μm離隔させた線を描いたとき、上記界面線から上記離隔させた線の間の領域の面積を示し、上記[Ao]は、上記界面線から上記離隔させた線の間の領域においてMn-Si-O系複合酸化物が占める面積を示す。)
【0039】
上記[Ao]/[At]の値が0.15を超えると、表面酸化物によりめっき濡れ性が悪化し、未めっき又はめっき不均一による表面欠陥が生じることがある。一方、本発明は、素地鉄とめっき層との間の界面付近にMn-Si-O系複合酸化物が存在しない場合も含むため、上記関係式2で定義される[Ao]/[At]値の下限は0であってもよい(すなわち、[Ao]/[At]の値としては0を含み、[Ao]/[At]の値が0であるというのは、素地鉄とめっき層との間の界面付近にMn-Si-O系複合酸化物を含まない場合を意味することができる)。
【0040】
一方、上記[Ao]/[At]の値の下限は0%であってもよく、上記[Ao]/[At]の値の上限は0.08であってもよい。あるいは、上記素地鉄とめっき層との間の界面付近にMn-Si-O系複合酸化物が存在する場合であって、上記[Ao]/[At]の値の下限は、より好ましくは0.001%であることができる。
【0041】
本明細書において、厚さ方向は、圧延方向と垂直な方向を意味することができる。また、上記関係式2の[Ao]及び[At]を計算するための上記界面線の長さは500nm以上であってもよい。ここで、めっき鋼板に対する断面を基準として、上記素地鉄と上記めっき層との間の境界に沿って描かれる界面線の全長さを測定した値を意味することができる。したがって、上記関係式2に定義された[Ao]及び[At]値の測定時には、上記界面線の全長さが500nm以上であることを基準として測定することができる。
【0042】
一方、上記関係式2に定義された[Ao]及び[At]の測定方法を図4に模式的に示した。すなわち、めっき鋼板の厚さ方向への断面を基準として、素地鉄1とめっき層2との間の全界面長さ500nm以上となる界面線10を描いた後、上記界面線10を厚さ方向に平行に0.3μm離隔させた線20を描く。これにより、上記界面線10と上記離隔させた線20との間の領域の面積Atを求め、さらに上記界面線10と上記離隔させた線20との間の領域に存在するMn-Si-O系複合酸化物100の面積Aoを求めることができる。このとき、上記めっき鋼板の断面は、素地鉄1とめっき層2との間の境界付近がよく見えるようにEDS等の測定装置を用いて観察することができ、例えば、上記Aoの値は図4の斜線部分に該当する領域の面積を求めることで確認することができる。
【0043】
また、上記関係式2に定義された[Ao]/[At]の単位は、それぞれの[Ao]及び[At]の単位が統一さえされていればよい。例えば、上記[Ao]の単位がμmであると、[At]の単位もμmに統一させ、[Ao]の単位がnmであると、[At]の単位もnmに統一させた後、[Ao]/[At]の値を求めればよい。
【0044】
本発明者らは研究を重ねた結果、上記素地鉄とめっき層との間の界面付近において、Mn-Si-O系複合酸化物の生成を特定量以下に抑えることにより、自動車外板材用として好適に使用可能な優れた表面品質と高強度を有するめっき鋼板が得られることを見出した。したがって、上述した関係式2を満たすことにより、Pを含有した高強度冷延鋼板の自動車車体への適用範囲を、これまで適用されたことのない範囲まで(例えば、side outer等に対しても)拡大することが可能となり、結果的に自動車車体をさらに軽量化することが実現できる。
【0045】
このとき、上記Mn-Si-O系複合酸化物は、MnSiO2+aであり、上記aは0<a≦2を満たす実数であることができる。例えば、上記Mn-Si-O系複合酸化物としては、MnSiO、MnSiO、Mn0.9SiO2.9(すなわち、0.9MnO・SiO)等が挙げられる。
【0046】
本発明の一側面によれば、上記Mn-Si-O系複合酸化物の平均直径は200nm以下であってもよい。上記Mn-Si-O系複合酸化物の平均直径が200nmを超えると、点状型の未めっき欠陥が発生するという問題が生じることがある。但し、上記Mn-Si-O系複合酸化物は小さいほど、表面欠陥の防止に有利であるため、その平均直径の下限は特に限定しなくてもよい。一方、上述した効果をより改善する観点から、上記Mn-Si-O系複合酸化物の平均直径の上限は100nmであってもよく、上記Mn-Si-O系複合酸化物の平均直径の下限は0nmであってもよい(すなわち、Mg-Si-O系複合酸化物が0個の場合を意味する)。
【0047】
このとき、上記Mn-Si-O系複合酸化物の平均直径は、上記めっき鋼板に対する厚さ方向(すなわち、圧延方向に垂直な方向)への切断面を基準として、上述したMn-Si-O系複合酸化物に対する円相当直径を測定した値の平均値を意味することができる。
【0048】
また、本発明の一側面によれば、上記めっき鋼板の切断面において、上記素地鉄とめっき層との間の界面線をめっき層側の厚さ方向に0.3μm離隔させた線を描いたとき、上記界面線から上記離隔させた線の間の領域においてMn-Si-O系複合酸化物が占める面積が、上記離隔させた線から上記めっき層の表面線の間の領域においてMn-Si-O系複合酸化物が占める面積より大きいことができる。これは、上述したMn-Si-O系複合酸化物が主に製造過程中の焼鈍時に素地鉄の表面に形成され、溶融亜鉛系めっきを行いながら、素地鉄とめっき層との間の界面付近に存在するためと判断される。
【0049】
一方、本発明の一側面によれば、上記素地鉄は、C含量が0.01%未満の極低炭素鋼に該当するため、上記素地鉄はフェライトベースの微細組織を有することができる。このとき、上記フェライトベースの微細組織は不可避に生成される他の組織を含むことができる。
【0050】
具体的に、本発明の一側面によれば、上記素地鉄の微細組織は面積分率で、フェライトが95%以上であり、他にパーライト等が微量残存することができる(例えば、残部はパーライト)。あるいは、より好ましくは、上記素地鉄の微細組織はフェライトが面積分率で、99%以上であり、パーライトが1%以下であることができる。あるいは、最も好ましくは、上記素地鉄の微細組織はフェライト単相であってもよい。このような微細組織的な特徴を満たすことにより、優れた成形性を確保することができる。すなわち、素地鉄中に、上述したフェライト以外のパーライト等の微細組織の含量が5%を超えると、成形性が悪化するという問題が生じることがある。
【0051】
本発明の一側面によれば、特に限定するものではないが、上記素地鉄において、上記フェライトの平均結晶粒サイズは5~15μm(すなわち、5μm以上15μm以下)であってもよい。上記フェライトの平均結晶粒サイズが5μm未満であると、強度が高すぎて伸び率を十分に確保できないという問題が生じる可能性がある。また、上記フェライトの平均結晶粒サイズが15μmを超えると、目標の強度を確保できないという問題が生じる可能性がある。但し、上述した効果をより改善する観点から、上記フェライトの平均結晶粒サイズの下限は6μmであってもよく、上記フェライトの平均結晶粒サイズの上限は10μmであってもよい。
【0052】
ここで、上記フェライトの平均結晶粒サイズとは、上記めっき鋼板の厚さ方向(すなわち、圧延方向に垂直な方向)への切断面を基準として、結晶粒に対する円相当直径を測定した値の平均値を意味することができる。
【0053】
本明細書において、上述した円相当直径とは、結晶粒の内部を貫通する最も長い長さを粒径として描かれる球状の粒子を仮定したとき、上記粒径を測定した値を意味することができる。
【0054】
一方、本発明の一側面によれば、上記めっき層は、溶融亜鉛系めっき層又は亜鉛系合金めっき層であってもよい。特に限定するものではないが、一例として、上記めっき層は重量%で、Fe:8~13%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含む組成を有することができ、上述しためっき層の組成を満たすことにより優れたパウダリング性を容易に確保することができる。
【0055】
本発明の一側面によれば、上記めっき鋼板の引張強度は390MPa以上(より好ましくは390~480MPaの範囲)であってもよい。このように、上記めっき鋼板の引張強度が390~480MPaの範囲を満たすことにより、高張力鋼を用いた自動車の軽量化を実現することができる。
【0056】
また、本発明の一側面によれば、上記めっき鋼板の伸び率は15%以上であり、より好ましくは28~43%、最も好ましくは28~38%であってもよい。このように、上記めっき鋼板の伸び率が上記範囲を満たすことにより、優れた成形性及び加工性を確保することができる。
【0057】
次に、めっき鋼板の製造方法について詳細に説明する。但し、本発明のめっき鋼板が必ずしも以下の製造方法により製造されるべきことを意味するものではない。
【0058】
本発明の一側面に係るめっき鋼板の製造方法は、上述した組成を有する鋼を連続鋳造する段階を含み、上記鋼の組成については、上述しためっき鋼板の組成に対する説明を同様に適用可能である。
【0059】
また、上記鋼を連続鋳造した後、鋼の表面から厚さ方向(このとき、厚さ方向は圧延方向と垂直な方向を意味する)に2mm以上5mm以下を溶削処理することができる。上記溶削処理される厚さが2mm未満であると、難酸化元素の偏析帯が除去されず、表面欠陥が発生する可能性があり、上記溶削処理される厚さが5mmを超えると、実収率の低下という問題が生じることがある。
【0060】
また、上記めっき鋼板の製造方法は、連続鋳造して得られた鋼スラブを1180~1230℃に再加熱した後、Ar3以上で熱間圧延して熱延鋼板を提供する段階を含む。このとき、上記スラブの再加熱温度が1180℃未満であると、FM区間の圧延負荷により生産に問題が生じる可能性があり、スラブの再加熱温度が1230℃を超えると、表面スケール欠陥が発生する可能性がある。また、上記熱間圧延は、仕上げ圧延温度がAr3以上となるように行うことができ、より詳細には880~970℃の範囲で行うことができる。上記熱間圧延が880℃未満であると、二相域領域(すなわち、Ar3未満)で冷却されて表層部に粗大粒が生成され、これにより表層部の結晶粒サイズが不均一となり、最終的に写像性に問題が生じる可能性がある。970℃を超えると、結晶粒のサイズが十分に微細にならず、最終素材の強度が不足するという問題が生じることがある。
【0061】
また、本発明の一側面によれば、上記熱延鋼板の巻き取りは600~650℃の範囲で行われることができる。上記巻取温度が600℃未満であると(Ti、Nb)Cなどの析出物が十分に生成されないため、焼鈍時に析出して再結晶及び結晶粒成長に影響を与え、所望の強度及び伸び率を確保しにくくなるという問題が生じることがある。また、上記巻取温度が650℃を超えると、熱延2次スケールの生成により表面特性が低下するという問題が生じる可能性がある。
【0062】
また、本発明の一側面によれば、上記熱延鋼板の巻き取り後に、酸洗工程を経ることができ、次いで70~83%の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を得ることができる。上記冷間圧延時の圧下率が70%未満の場合、{111}集合組織が十分に成長しないため、成形性が低下するという問題が生じることがある。一方、上記冷間圧延時の圧下率が83%を超える場合、現場製造時に圧延ロールの負荷が非常に激しく形状が悪くなるため問題が生じる可能性がある。したがって、上記圧下率は70~83%に制御することが好ましく、74~80%に制御することがより好ましい。
【0063】
次いで、上記冷延鋼板を740~830℃の範囲の再結晶温度以上の温度で焼鈍を行うことができる。再結晶温度以上の温度で焼鈍(アニール)することで、圧延により発生した変形が除去され、鋼板が軟質化して加工性を向上させることができる。すなわち、上記焼鈍温度が740℃未満であると、フェライト相の再結晶が完了せず、伸び率が不足するという問題が生じる可能性があり、上記焼鈍温度が830℃を超えると、再結晶完了後に結晶粒の成長が過度に進行し、強度不足の問題が生じる可能性がある。
【0064】
一方、特に限定するものではないが、上記焼鈍は740~850℃の範囲の温度で熱処理した後、2~6℃/sの平均冷却速度で1次冷却を行い、次いで6.5~15℃/sの平均冷却速度で2次冷却を行うことができる。上述した条件を満たすように焼鈍を行うことにより、素地鉄とめっき層との間の界面付近において複合酸化物の量を適正範囲に制御することができ、これにより焼鈍時に形成される複合酸化物から起因する合金化の不均一を防止することができる。
【0065】
また、特に限定するものではないが、本発明の一側面によれば、上記焼鈍は露点温度が-60~-20℃の範囲で行われることができる。上記焼鈍時に、露点温度が-60℃未満であると、炉内雰囲気温度を維持するために、経済性の面で劣るという問題が生じる可能性があり、上記焼鈍時に、露点温度が-20℃を超えると、表面酸化物が多発するという問題が生じる可能性がある。
【0066】
また、上記焼鈍後に、冷延鋼板に対して、連続する溶融亜鉛系めっきラインでそのまま溶融亜鉛系めっきを行うことができる。このとき、亜鉛系めっきとは、Znを60%以上含むめっき浴に浸漬して行われるめっきをいい、一例として、上記めっきは、Al:0.121~0.133%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含むめっき浴に浸漬して行うことができる。その後、上記溶融亜鉛系めっき後に合金化熱処理を500~560℃の範囲で行うことができる。このとき、上記合金化熱処理温度が500℃未満であると、合金化が十分に進行せず、また560℃を超えると、過度に合金化が進行してめっき層が脆化するため、プレス等の加工によりめっきが剥離するなどの問題を誘発する可能性がある。
【0067】
また、上記合金化熱処理された鋼板に対して、1.0~1.6μmの粗さ(Ra)を有するスキンパスロールを用いて、0.6~1.2%の圧下率(平均圧下率を意味することができる)で調質圧延する段階をさらに含むことができる。上記調質圧延時に、スキンパスロールの粗さ(Ra)が1.0μm未満であると、Mn-Si-O系複合酸化物に起因する表面欠陥を十分に抑制できないだけでなく、塗装後の美麗な表面特性を示す写像性が不足することがある。一方、上記調質圧延時に、スキンパスロールの粗さ(Ra)が1.6μmを超えると、プレス性に問題が生じることがある。また、上記調質圧延の圧下率が0.6%未満であると、形状校正等に問題が生じることがあり、1.2%を超えると、加工硬化効果により降伏強度が基準値を超えるという問題が生じることがある。
【0068】
なお、上記調質圧延は、上述した効果をより改善する観点から、より好ましくは、1.1~1.5μmの粗さ(Ra)を有するスキンパスロールを用いて、0.6~1.2%の圧下率で行われることができる。
【0069】
あるいは、本発明の一側面によれば、特に限定するものではないが、上記調質圧延は、0.05~0.4の圧下率で1次調質圧延を行った後、0.6~1.0%の圧下率で2次調質圧延を行うことにより、素地鉄とめっき層との間の界面付近に存在する複合酸化物から起因する表面欠陥を抑制し、優れた表面特性の確保に寄与することができる。このとき、上記1次調質圧延及び2次調質圧延に対する平均圧下率は、上述した0.6~1.2%の圧下率を満たす。
【発明を実施するための形態】
【0070】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。但し、下記の実施例は例示を通じて本発明を説明するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【0071】
(実験例1)
下記表1及び2に記載の合金組成(残部はFe及びその他の不純物、単位:重量%)を有する厚さ250mmの鋼スラブを2~4mm溶削処理した後、1230℃に再加熱し、下記表3の条件で、熱間圧延、巻き取り、冷間圧延、焼鈍、めっき及び合金化処理を施してめっき鋼板を製造した。このとき、上記焼鈍は露点温度-60~-20℃及び740~850℃の範囲の温度で熱処理した後、鋼板の表面温度を基準として、2~6℃/sの平均冷却速度で650℃まで1次冷却を行った後、次いで6.5~15℃/sの平均冷却速度で550℃まで2次冷却を行った。また、上記めっきの際には、Al:0.121~0.133%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含む亜鉛めっき浴に浸漬して合金化溶融亜鉛めっきを行った。
【0072】
このようにして得られためっき鋼板について、TEM(Transmission electron microscopy)-EDS(Energy dispersive spectroscopy)装備を用いて、関係式2による酸化物の占有比([Ao]/[At]の値)を測定した。具体的に、溶融亜鉛めっきされた試験片の断面(厚さ方向への切断面)の素地鉄と溶融亜鉛めっき層との界面付近を測定及び元素分析して酸化物の占有比を測定し、この値を下記表4に示した。
【0073】
また、下記表4に降伏強度(YS)、引張強度(TS)、破壊伸び率(El)を測定して示した。このとき、試験片の幅、平行部の長さ、厚さを測定した後、引張試験機に試験片を装着して試験片が破壊されるまで待った後、その試験片の降伏強度、引張強度及び破壊伸び率を測定した。降伏強度は弾性変形が起こるときの限界応力であって、通常0.2%offsetにより値を示し、引張強度は最高荷重を原断面で除した値を示し、破壊伸び率は引張試験から破断後の試験片変形量を%で表したものである。このとき、引張強度が390MPa以上、伸び率が15%以上の場合を合格と評価した。
【0074】
なお、深絞り加工の指標であるr値の評価は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板から圧延方向に平行方向、45°方向、直角方向の3方向について、JIS5号引張試験片を採取し、各試験片のr値を測定して下記表4に示した。すなわち、r値の測定は、上記の引張試験において15%程度の引張変形を行った時点での板厚の変化値及び板幅の変化値を測定し、板厚に対する板幅の変化値の比率 を求めた。そして、圧延方向に平行なr値をr、45°方向のr値をr45、直角方向のr値をr90としたとき、下記の各方向のr値を下記関係式Aから求め、r値が1.2以上の場合を合格とした。
【0075】
[関係式A]
r=r+2×r45+r90/4
【0076】
上記合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面品質(白色欠陥の発生の有無)を評価し、その結果を下記表4に併せて示した。このとき、表面品質を評価する方法及び基準は次のように設定した。
【0077】
表面品質:合金化溶融亜鉛めっき層が素地鋼板によくコーティングされている程度であって、目視でめっき鋼板の外観を観察した。通常の連続焼鈍ライン条件で冷延鋼板(F/H)焼鈍熱処理を行った後、素地鉄の表面に酸化物が過度に又は不均一に生成される場合には、合金化の速度差による不均一なめっき層が形成され、めっき層が相対的に厚く形成された領域が白く目立つ欠陥が現れる。当該欠陥が現れる場合、自動車外板用への使用は不可能であるため、白色欠陥の有無を表面品質判断の尺度に設定した。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
Ar3=910-310×[C]-80×[Mn]-20×[Cu]-15×[Cr]-55×[Ni]-80×[Mo]-0.35×(厚さ-8)
【0080】
【表3】
FDT:仕上げ圧延
CT:巻き取り
Ra:スキンパスロール粗さ
【0081】
【表4】
【0082】
上記表1~4の実験結果から分かるように、本発明の素地鉄の組成、製造条件を満たすことにより、関係式1及び2を満たす発明例1~8の場合、めっき鋼板に対する素地鉄の微細組織が面積分率で、フェライト単相であることを確認し、引張強度が390MPa以上であり、降伏強度が230~330MPaの範囲であって、高強度でありながらも伸び率が15%以上と成形性に優れるだけでなく、表面特性も良好であることを確認した。これらのうち、本願の発明例4から得られるめっき鋼板に対する厚さ方向への断面に対する写真を図2に示した。具体的に、図2は、素地鉄とめっき層との間の界面付近を40,000倍率で透過電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影したものである。
【0083】
一方、比較例1~4は、関係式1の10×[Si]/[Mn]の値が1.3を超え、さらに、関係式2による複合酸化物の占有比[Ao]/[At]が本発明の範囲を満たしておらず、不均一なめっき層による白色欠陥が発生したことを確認した。これらのうち、比較例4から得られるめっき鋼板の表面を1倍率で光学カメラで撮影した写真を図1に示し、白色欠陥が発生したことを目視で確認することができた。また、比較例2から得られるめっき鋼板の厚さ方向の断面を100,000倍率でEDSを用いて撮影した写真を図3に示し、図3のように、素地鉄とめっき層との間の界面付近においてMn-Si-O系複合酸化物が存在することが確認できた。
【0084】
(実験例2)
調質圧延時に、下記表5に記載の条件で1次及び2次調質圧延を行った以外は、下記表5の条件で仕上げ圧延、巻き取り、冷間圧延、焼鈍、めっき及び合金化処理を、上述した実験例1と同様の方法でめっき鋼板を製造した。
【0085】
【表5】
【0086】
上述の方法で得られた各めっき鋼板について、Mn-Si-O系複合酸化物の平均直径を測定し、フェライトの実験例1と同様の方法で複合酸化物の占有比、降伏強度、引張強度、破壊伸び率、r値及び表面の白色欠陥の有無を評価し、下記表6に示した。また、本願明細書で説明した方法と同様に、Mn-Si-O系複合酸化物の平均直径及びフェライトの平均結晶粒サイズを測定し、下記表6に示した。
【0087】
【表6】
【0088】
上記表6に示すように、本発明の素地鉄の組成及び製造条件を満たさない比較例5の場合、関係式1及び2を満たしておらず、これにより引張強度が390MPa未満となり、強度が不足するだけでなく、不均一なめっき層による白色欠陥が発生した。
【0089】
これに対し、本発明の素地鉄の組成及び製造条件を満たす発明例9~13の場合、関係式1及び2を満たし、比較例5に比べて、強度特性に優れるだけでなく、表面特性も良好であった。
【0090】
また、上述した発明例13から製造されるめっき鋼板に対する厚さ方向への断面を基準として、素地鉄とめっき層との間に500nmの長さを有する界面線をめっき層側の厚さ方向に0.3μm離隔させた線を描いたとき、上記界面線から上記離隔させた線の間の領域においてMn-Si-O系複合酸化物が占める面積が、上記離隔させた線から上記めっき層の表面線の間の領域においてMn-Si-O系複合酸化物が占める面積より大きいことを確認した。
【0091】
特に、調質圧延時に、圧下率が0.05~0.4%である1次調質圧延と、圧下率が0.6~1.0%である2次調質圧延を行った発明例10及び11の場合、上述した1次調質圧延及び2次調質圧延の条件を満たさない発明例9及び12に比べて、深絞り性及び表面特性がさらに向上することを確認した。
【0092】
一方、表面の白色欠陥が良好な試験片の場合、目視上、図1に示される欠陥が確認されず、非常に良好な試験片の場合、目視上、欠陥が観察されないだけでなく、走査電子顕微鏡(SEM)を活用してめっき層の断面を観察したとき、断面のめっき層内の最小厚さと最大厚さとの偏差[(最大厚さ-最小厚さ)/(最大厚さ)]が0.1を超えないことから確認することができる。
【符号の説明】
【0093】
1:素地鉄
2:めっき層
10:素地鉄とめっき層との間の全界面長さが500nm以上の界面線
20:界面線を厚さ方向に平行に0.3μm離隔させた線
At:上記界面線10と離隔させた線20との間の領域の面積
100:Mn-Si-O系複合酸化物
Ao:上記界面線10と上記離隔させた線20との間の領域に存在するMn-Si-O系複合酸化物の面積
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】