(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】鉄電気めっき溶液及びこれを用いて製造された電気めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
C25D 3/20 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
C25D3/20
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536012
(86)(22)【出願日】2020-12-14
(85)【翻訳文提出日】2023-06-14
(86)【国際出願番号】 KR2020018283
(87)【国際公開番号】W WO2022131386
(87)【国際公開日】2022-06-23
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、 ジン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ウォン-フウィ
(72)【発明者】
【氏名】リム、 サン-ベ
【テーマコード(参考)】
4K023
【Fターム(参考)】
4K023AA04
4K023AA14
4K023BA06
4K023CB16
4K023DA02
4K023DA06
(57)【要約】
【課題】長期間連続めっきを行っても、鉄イオンの酸化によるスラッジ発生を抑制することができ、めっき効率を一定に維持して、頻繁な溶液交換が不要である鉄電気めっき溶液、及びこれを用いて製造された電気めっき鋼板を提供する。
【解決手段】本発明は、第1鉄イオン及び第2鉄イオンを含む鉄イオンと、錯化剤と、不可避不純物と、を含み、上記鉄イオン中の第2鉄イオンの含量は5~60重量%である鉄電気めっき溶液に関する。本発明によると、電気めっき効率が高く、連続めっき作業によるめっき効率の低下がなく、スラッジ発生が防止されることから、めっき溶液の管理が容易になる。また、高電流密度の操業でもバーニングを防止できることから、高品質の鉄めっき層を得ることができる。さらに、めっき反応によって生成される第2鉄イオンの濃度が一定に維持されてめっき溶液の交換が不要になるため、連続めっき工程に適合する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1鉄イオン及び第2鉄イオンを含む鉄イオンと、錯化剤と、不可避不純物と、を含み、
前記鉄イオン中の第2鉄イオンの含量は5~60重量%である、鉄電気めっき溶液。
【請求項2】
前記鉄イオンの濃度は、前記鉄電気めっき溶液1L当たり1~80gである、請求項1に記載の鉄電気めっき溶液。
【請求項3】
前記鉄イオンと前記錯化剤のモル濃度比は、1:0.05~2.0である、請求項1に記載の鉄電気めっき溶液。
【請求項4】
前記錯化剤は、アミノ酸及びアミノ酸重合体から選択された1種以上である、請求項1に記載の鉄電気めっき溶液。
【請求項5】
前記錯化剤は、アラニン、グリシン、セリン、スレオニン、アルギニン、グルタミン、グルタミン酸、及びグリシルグリシンから選択された1種以上である、請求項1に記載の鉄電気めっき溶液。
【請求項6】
前記鉄電気めっき溶液のpHは、1.2~4.0である、請求項1に記載の鉄電気めっき溶液。
【請求項7】
前記鉄電気めっき溶液は、1L当たり200g以下(但し、0を除く)の導電助剤をさらに含む、請求項1に記載の鉄電気めっき溶液。
【請求項8】
前記導電助剤は、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、及び硫酸アンモニウムから選択された1種以上である、請求項7に記載の鉄電気めっき溶液。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の鉄電気めっき溶液でめっきされた、めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄電気めっき溶液及びこれを用いて製造された電気めっき鋼板に関し、より詳しくは、電気めっき効率及びめっき密着性に優れ、長期間にわたって高電流密度で電気めっきを行ってもスラッジが発生しない鉄電気めっき溶液、及びこれを用いて製造された電気めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板は、優れた機械的強度及び良好な加工性を有し、豊富な資源をもとに自動車、家電、及び建材などの構造材として広く使用されているが、鋼板自体は耐食性が非常に不良なことから、主に表面にめっきなどの表面処理を施すことでその寿命を延ばしている。
【0003】
特に、鉄は、鋼板又は鋼材に製造されて、汎用的な構造用材料として使用される物質であるものの、耐食性及び外観特性などが他の金属に比べて劣るため、磁気的特性の活用又は特殊目的の合金形成を目的として、電気めっきを施してきた。しかしながら、鉄は、電気めっき過程でめっき効率が極端に低く、長期間使用すると、スラッジが発生するという問題があり、産業的適用は非常に困難である。
【0004】
例えば、特許文献1には、電気亜鉛めっき鋼板下地用鉄めっき溶液が開示されている。特許文献1には、スラッジを防止するために、グルコン酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸などの錯化剤を使用している。このような場合、スラッジの防止は可能であったが、過電圧の上昇及び低めっき効率、さらに、バーニング(burning)発生によってめっき層が脱落しやすいという問題がある。また、チオ尿素、イミダゾールなどは、電気めっき中に電気分解が起きやすいため、連続工程で溶液の管理及び濃度の制御が非常に難しいという問題点がある。
【0005】
特許文献2、特許文献3、及び特許文献4においても、グルコン酸、酒石酸、クエン酸、ジカルボン酸などのカルボン酸を錯化剤として使用してスラッジを防止しようとしているが、高電流密度で操業すると、めっき効率が低く、バーニングが発生してめっき層が脱落しやすいという問題がある。一方、アスコルビン酸を使用する場合、第2鉄イオンを第1鉄イオンに還元する役割を担うため一時的なスラッジ防止は可能であるが、アスコルビン酸が酸化されてデヒドロアスコルビン酸(dehydroascorbic acid)が生成されると、鉄イオンと錯化して電気めっき効率を急激に低下させるようになるため、連続作業には適していない。
【0006】
なお、従来の鉄めっき溶液は、第1鉄イオン(Fe2+)を含有しているものの、連続電気めっき過程で第2鉄イオン(Fe3+)に酸化されると、めっき効率が急激に低下し、スラッジが発生するという問題点がある。したがって、第2鉄イオンを第1鉄イオンに還元したり、又は、周期的に溶液を交換したりしなければならないが、大量の連続電気めっき工程ではその適用が困難である。さらに、可溶性陽極を使用することで溶液の第2鉄形成を抑制する方法が提示されているが、可溶性陽極はめっきの進行に伴って徐々に溶解して消耗されるため、極間距離及び表面状態が変わるだけでなく、周期的に交換しなければならず、その管理が非常に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】大韓民国公開特許第10-2009-0112919号公報
【特許文献2】大韓民国公開特許第10-2013-0070235号公報
【特許文献3】日本公開特許第1998-204674号公報
【特許文献4】日本公開特許第1994-081188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような現状を勘案して案出されたものであって、長期間にわたって連続めっきを行っても、鉄イオンの酸化によるスラッジ発生を抑制することができ、めっき効率を一定に維持して、頻繁な溶液交換が不要である鉄電気めっき溶液、及びこれを用いて製造された電気めっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面によると、第1鉄イオン及び第2鉄イオンを含む鉄イオンと、錯化剤と、不可避不純物と、を含み、上記鉄イオン中の第2鉄イオンの含量は5~60重量%である鉄電気めっき溶液が提供される。
【0010】
上記鉄イオンの濃度は、上記鉄電気めっき溶液1L当たり1~80gであることができる。
【0011】
上記鉄イオンと上記錯化剤のモル濃度比は、1:0.05~2.0であることができる。
【0012】
上記錯化剤は、アミノ酸又はアミノ酸重合体から選択された1種以上であることができる。
【0013】
上記錯化剤は、アラニン、グリシン、セリン、スレオニン、アルギニン、グルタミン、グルタミン酸、及びグリシルグリシンから選択された1種以上であることができる。
【0014】
上記鉄電気めっき溶液のpHは、1.2~4.0であることができる。
【0015】
上記鉄電気めっき溶液は、1L当たり200g以下の導電助剤をさらに含むことができる。
【0016】
上記導電助剤は、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、及び硫酸アンモニウムから選択された1種以上であることができる。
【0017】
本発明の他の側面によると、上記鉄電気めっき溶液で鉄めっきされためっき鋼板が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、電気めっき効率が高く、連続めっき作業によるめっき効率の低下がなく、スラッジ発生が防止されることから、めっき溶液の管理が容易になる。
【0019】
また、高電流密度の操業でもバーニングを防止できることから、高品質の鉄めっき層を得ることができる。
【0020】
さらに、めっき反応によって生成される第2鉄イオンの濃度が一定に維持されてめっき溶液の交換が不要になるため、連続めっき工程に適合する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例3のめっき溶液を使用して電流密度50A/dm
2、0.7秒間めっきされた試験片の初期の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図2】実施例3のめっき溶液を使用して電流密度50A/dm
2、0.7秒間めっきされた試験片の末期の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図3】比較例7のめっき溶液でめっきされた試験片を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、多様な実施例を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲が以下で説明する実施形態に限定されるものではない。
【0023】
本発明は、鉄電気めっき溶液及びこれを用いて製造された電気めっき鋼板に関し、より詳しくは、電気めっき効率及びめっき密着性に優れ、長期間にわたって高電流密度で電気めっきを行ってもスラッジが発生しない鉄電気めっき溶液、及びこれを用いて製造された電気めっき鋼板に関する。
【0024】
連続めっき工程において、均一で純粋な鉄めっき層を形成する方法として電気めっき法が使用されている。しかしながら、鉄には、2価イオンの第1鉄イオン(Fe2+)と3価イオンの第2鉄イオン(Fe3+)が存在し、第2鉄イオンは、溶液のpHが2以上の酸性溶液でも容易にスラッジを形成するようになる。
【0025】
電解液を製造するためにスラッジが形成されない第1鉄イオンのみを原料として使用しても、大気中の酸素又は電気めっき過程で発生した酸素と接触すると、溶液中で自然に第2鉄イオンが形成される。さらに、不溶性陽極を使用すると、陽極の酸化反応によって直接、第1鉄イオンから第2鉄イオンに酸化される。これを抑制するために可溶性陽極を使用すると、鉄イオンの酸化を多少抑制することができるが、鉄イオンの酸化を根本的に抑制することはできない。したがって、第2鉄が形成されると、スラッジを除去するための濾過装置が必須であり、蓄積される第2鉄イオンの除去のために電解液を周期的に交換しなければならないため、原料の浪費が必然的に激しくなる。
【0026】
溶液のpHを2以下と低く管理すると、スラッジの発生は多少抑制され得るが、水素還元反応が増加して電気めっき効率が急激に低下し、第2鉄イオンの生成を根本的に抑制することはできない。
【0027】
一方、鉄電気めっき溶液のスラッジ生成を抑制するために錯化剤を投入する。本発明において、錯化剤とは、水溶液中の金属イオンと強く結合して錯イオンを形成する物質を意味し、これは、水中の水酸イオン(OH-)と金属イオンとの結合を抑制してスラッジ発生を防止する役割を果たす。よって、錯化剤と金属イオン間の結合が水酸イオンと金属イオン間の結合力に比べて弱いと、スラッジ防止のための錯化剤としての役割を果たすことができないのに対し、錯化剤と金属イオン間の結合が過度に強いと、スラッジ発生は防止されるものの、めっき過程で錯化剤と金属イオンとの分離が困難になり、めっき過電圧を上昇させるため、めっき効率が低下するという問題がある。
【0028】
溶液中のスラッジ防止のための効果的な有機錯化剤として、キレート分子を使用する場合が考えられる。代表的なキレートとしては、一つの分子中に2個以上の複数のカルボキシル基を含むシュウ酸、クエン酸などがあり、複数のカルボキシル基とアミンが含まれたNTA、EDTAなどがある。複数のカルボキシル基を含有する錯化剤は、1個の錯化剤分子中の2個以上のカルボキシル基が鉄イオンと強く結合することから、鉄イオンが水酸イオンと結合することを抑制してスラッジ発生を抑制することができるが、陰極でめっきされる過程で鉄イオンと錯化剤分子との分離が困難になるため、上述したようなめっき過電圧の上昇によるめっき効率の低下という問題が発生する。
【0029】
一方、カルボキシル基は、弱酸性で水素が解離して負電荷を形成するようになるが、2個以上のカルボキシル基を有する錯化剤はpH2~4領域で1価又は2価以上の陰イオンを形成するようになり、錯化剤と鉄イオンの結合によって形成された錯イオンも負電荷を帯びるようになる。錯イオンが負電荷を持つと、電気めっき反応が発生する陰極と電気的な反発力が発生して物質の伝達が困難になり、めっき効率が低下する一方、酸化反応が発生する陽極は、陰イオン性錯イオンによって物質の伝達がより容易になるため、第2鉄イオンがさらに加重される。特に、第2鉄イオンは、第1鉄イオンよりも錯化剤との結合力がはるかに強力であるため、溶液中に生成された第2鉄イオンは、スラッジの形成はないが、めっき反応に全く使われず、累積するという問題が発生する。したがって、連続工程で長期間めっきを行うと、めっき反応に寄与する第1鉄イオンの濃度が急激に低くなるだけで、第2鉄イオンの濃度は増加してめっき効率が低下するため目標水準のめっき量を得ることができず、バーニングが発生してめっき品質が低下するため溶液を周期的に交換しなければならず、原料の浪費が激しくなる。
【0030】
本発明者らは、上記のような問題点を解決するために研究を行い、鉄電気めっき溶液に一定水準の第2鉄イオンを含むと、陽極では第1鉄イオンが酸化されて第2鉄イオンを形成することが抑制され、陰極では第2鉄イオンが第1鉄イオンに還元される反応を加速させるため、第2鉄イオンを鉄電気めっき原料として使用することができ、pH及び第2鉄濃度変化が低く、連続電気めっき工程で溶液の状態が大きく変わらないため、長期間使用してもめっき効率を安定して確保することができ、鉄電気めっき用電解液にアミノ酸又はアミノ酸の重合体を錯化剤として使用すると、第2鉄の生成によるスラッジ発生を抑制しながらも高めっき効率が得られることを知見し、本発明に到達した。
【0031】
即ち、本発明の好ましい実施形態によると、第1鉄が第2鉄に酸化されてスラッジの形成を抑制するとともに、第2鉄イオンを鉄めっき用原料として再使用することで溶液の変質を抑制し、めっき効率を一定に維持することができる。
【0032】
本発明の一側面によると、第1鉄イオン及び第2鉄イオンを含む鉄イオンと、錯化剤と、不可避不純物と、を含み、上記鉄イオン中の第2鉄イオンの含量が5~60重量%である鉄電気めっき溶液が提供される。本発明において、不可避不純物とは、例えば、素地鋼板から溶出したマンガン、ケイ素などの合金成分又は溶液原料に含有された成分などを意味する。
【0033】
本発明の好ましい実施形態によると、鉄電気めっき溶液は、第1鉄イオン及び第2鉄イオンを含む。高めっき効率を得るためには、第1鉄イオンのみが含まれるのが有利であり得るが、第1鉄イオンのみを含む場合、溶液が変質してめっき効率が急激に低下し、連続電気めっき工程で品質ムラを誘発するため、好ましくない。
【0034】
これによって、本発明では、上記鉄イオン中の第2鉄イオンの含量は5~60重量%であることが好ましく、5~40重量%であることがより好ましい。5%未満であると、陰極で第2鉄が第1鉄に還元される速度が、陽極で第1鉄が第2鉄に酸化される速度よりも遅く、第2鉄濃度が急激に上昇し、pHの急激な低下とともにめっき効率が持続的に低下する。これに対し、第2鉄のイオンの濃度が60%を超過すると、陰極で第2鉄が第1鉄に還元される反応量が、第1鉄が還元されて金属鉄として析出する反応量よりも大きく増加するようになるため、めっき効率が低下してめっき品質が低下する。したがって、めっき量、作業電流密度、溶液補給量、ストリップに付着して失われる溶液量、蒸発による濃度変化速度などの設備及び工程特性を考慮して、上記鉄イオン中の第2鉄イオンの含量を5~60重量%にすることが好ましい。
【0035】
一方、第1鉄イオンを含む溶液を製造するためには、高濃度の硫酸に純粋な金属鉄、酸化鉄、又は水酸化鉄を溶解するか、又は、硫酸第1鉄塩及び硫酸第2鉄塩を混合して溶解するなどの方法を使用することができるが、上記の原料及び方法のみに限定されるものではない。
【0036】
また、第2鉄イオンを含む鉄電気めっき溶液を製造するためには、第2鉄を含有する硫酸塩、酸化鉄、水酸化鉄などを混合して溶解するか、第1鉄のみを含有する硫酸系電解液を製造した後、過酸化水素などの酸化剤の投入又は空気の注入によって酸化させるか、或いは、陽極を印加して電気的に酸化させることで、第2鉄を含む硫酸系めっき溶液(電解液)を製造することができるが、これに限定されるものではない。
【0037】
上記鉄イオンの濃度は、上記鉄電気めっき溶液1L当たり1~80gであることが好ましく、1L当たり10~50gであることがより好ましい。1g/L未満であると、めっき効率及びめっき品質が急激に低下するという問題があり、80g/Lを超過すると、溶解度を超過するようになるため、沈殿の恐れがあり、連続めっき工程で溶液流失による原料損失が増加するため、経済的ではない。
【0038】
本発明の鉄電気めっき溶液には錯化剤が含まれるが、第2鉄を多量含有しながらもスラッジ発生なしに、高めっき効率を維持するためには、アミノ酸又はアミノ酸重合体を錯化剤として使用することが好ましい。
【0039】
アミノ酸は、カルボキシル基(-COOH)とアミン基(-NH2)が結合されている有機分子のことを指し、アミノ酸重合体は、2個以上のアミノ酸が重合して形成された有機分子のことを意味し、アミノ酸重合体は、アミノ酸と類似の錯化剤特性を示す。よって、以下の説明では、アミノ酸とアミノ酸重合体をまとめてアミノ酸と表記する。
【0040】
アミノ酸を中性の水に溶解すると、アミンは水素イオンと結合して正電荷を有し、カルボキシル基は水素イオンが解離して負電荷を有するようになるため、アミノ酸分子は電荷中性を維持するようになる。溶液が酸性化すると、カルボキシル基は水素イオンと再結合して電荷中性となり、アミンは正電荷を有するため、アミノ酸分子は陽イオンを形成するようになる。即ち、アミノ酸は、弱酸性の水溶液中で電荷中性又は陽イオンを形成するようになる。
【0041】
鉄イオンが含有された酸性の電解液にアミノ酸を投入すると、第1鉄イオン及び第2鉄イオンと錯化するが、アミノ酸と錯化した鉄イオンは、錯化した状態でも陽イオン状態を維持するようになる。よって、複数のカルボキシル基を有する通常の錯化剤が弱酸性の水溶液で負電荷を帯びることとは電気的に反対の特性を示す。
【0042】
また、アミノ酸は、クエン酸、EDTAなどの複数のカルボキシル基を含む錯化剤に比べて、鉄イオンと形成する結合手が少なく結合力は弱いが、スラッジを発生させる第2鉄イオンとの結合力は十分に強いことから、第2鉄イオンによる沈殿を防止することができる。さらに、第2鉄イオンが錯化しても陽イオンを維持することができるため第2鉄イオンが陰極に容易に伝達されて第1鉄イオンに還元され、めっき反応に寄与することができる一方で、陽極への移動が抑制されて第2鉄イオンの生成速度が鈍化するため、長期間連続めっきを行っても第2鉄イオン濃度が一定水準を維持するようになり、めっき効率が一定に維持されるため、電解液を交換する必要がなくなる。
【0043】
なお、連続電気めっき工程でめっきによって溶液中の鉄イオンが消耗されると、溶液は酸性化されるが、同量の鉄イオンが析出しても第1鉄イオンのみが含有された溶液よりも、第2鉄イオンが共に含まれた溶液はpH変化が減少するようになる。pHが高くなると、一部の第2鉄イオンが水酸イオンと結合し、pHが減少すると、水酸イオンが分離して中和され、第2鉄イオンを含む溶液は別途のpH緩衝剤がなくてもpH変化が鈍化してpH緩衝剤の役割を果たすようになり、連続電気めっき工程で電気めっき効率を一定に維持することができる。
【0044】
したがって、アミノ酸を錯化剤として使用することで、スラッジを防止することができ、第1鉄イオンだけでなく、第2鉄イオンもめっき原料として使用することができ、第1鉄イオンと第2鉄イオンを混合して使用すると溶液のpH変化を鈍化させ、第2鉄イオンの蓄積を容易に防止することができることから、連続電気めっき工程で電気めっき効率及びめっき品質を一定に維持することができる。
【0045】
一方、上記錯化剤は、上記鉄イオンと錯化剤のモル濃度比が1:0.05~2.0になる量を投入することが好ましく、1:0.5~1.0になる量を投入することがより好ましい。0.05未満であると、過量含有された第2鉄イオンが水酸イオン又は酸素と結合してスラッジを形成することを抑制できず、第2鉄が含まれていなくてもめっき効率が非常に低下し、さらには、バーニングを誘発するため、めっき品質が悪くなる。これに対し、2.0を超過しても、スラッジ抑制効果及びめっき品質は維持されるが、過電圧が上昇してめっき効率が低下し、硫酸鉄などの鉄イオンを含有する原料と比べて比較的高価のアミノ酸を不必要に過剰に含むようになり、原料費用が上昇するため経済的ではない。
【0046】
上記錯化剤は、アミノ酸又はアミノ酸重合体から選択された1種以上であることが好ましく、例えば、アラニン、グリシン、セリン、スレオニン、アルギニン、グルタミン、グルタミン酸、及びグリシルグリシンから選択された1種以上であることができる。
【0047】
本発明の好ましい実施形態によると、上記鉄電気めっき溶液のpHは1.2~6.0であることが好ましく、2~4であることがより好ましい。pHが1.2未満であると、水素イオンの還元反応が急増して電気めっき効率が急激に低下する一方で、pHが6を超過すると、第1鉄イオンもスラッジを形成するようになり、錯化剤を多量含有しても溶液の清浄性を維持できなくなる。一方、pHが4~6になると、電気めっきが行われない間は溶液自体は清浄性が維持され得るが、電気を印加してめっきする過程で一時的にスラッジが生成するため混濁度が高くなる恐れがある。よって、スラッジ形成の防止とともにめっき効率を高く維持するためには、pHを2~4に調整することがさらに好ましい。一方、pHの調整は、硫酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどを含む酸、及びアルカリ溶液が使用可能であるが、これに限定されない。
【0048】
本発明の好ましい実施形態によると、必要に応じて、上記鉄電気めっき溶液は、鉄電気めっき溶液1L当たり200g以下の導電助剤(但し、0は除く)をさらに含むことができる。例えば、鉄イオン濃度が低くてpHが高く、高電流作業が必要な場合、導電助剤を使用することでめっき電圧を減少させることができる。但し、200g/Lを超過する場合、伝導度が大きく増加せず溶液の比重が増加するため溶液循環に不利となり、低い温度で沈殿が発生する恐れがあるため、鉄電気めっき溶液1L当たり200g以下の量を使用することが好ましい。
【0049】
上記導電助剤の種類は、具体的に限定するものではないが、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、及び硫酸アンモニウムから選択された1種以上を使用することができる。
【0050】
一方、本発明の他の側面によると、上記鉄電気めっき溶液でめっきされた鉄めっき鋼板が提供される。好ましくは、上記鉄電気めっき溶液を使用して温度80℃以下、電流密度0.5~150A/dm2で電気めっきを実施する場合、スラッジ発生なしに高い電気めっき効率を維持することができ、高品質の鉄めっき層が形成された鉄めっき鋼板を得ることができる。
【0051】
以下、具体的な実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。下記の実施例は、本発明の理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の範囲がこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
鉄めっき溶液を製造するために、硫酸第1鉄塩及び硫酸第2鉄塩を使用した。錯化剤としてはアミノ酸のうちの1種を選択し、錯化剤の濃度は鉄イオン濃度によってモル濃度比で重量を計算して溶解した。
【0053】
溶液のpHは、硫酸又は水酸化ナトリウムを用いて調整した。溶液製造の手順は、純粋に錯化剤、導電助剤などを先に溶解した後、硫酸鉄を投入した。硫酸鉄を先に溶解すると、溶解過程でスラッジが発生し、その後に錯化剤を投入してもスラッジが溶解しにくいため、硫酸鉄は錯化剤が完全に溶解してから投入することが好ましい。
【0054】
pH4以上の溶液を製造する場合、水酸化ナトリウムで中和し、この過程で一時的に発生する沈殿物は十分な時間撹拌して完全に溶解した。製造されためっき溶液は50℃になるように加熱した。
【0055】
素地金属としては、銅板及び冷延鋼板を使用した。素地金属は、アルコールを用いて表面を洗浄し、通常のアルカリ脱脂条件で脱脂し、1~5%の硫酸溶液に約10秒以内浸漬して酸洗し、純粋を用いて水洗した後、めっきを行った。
【0056】
陽極は、IrO2がコーティングされた不溶性金属板を使用し、めっきされる面積及び陽極板の面積を一致させた。それぞれ製造されためっき溶液からめっきした結果を表1に示した。
【0057】
一方、本発明の鉄めっき溶液は、溶液製造直後のめっき効率及びスラッジ発生の有無だけでなく、連続工程で長期間使用できるように考案されたことを考慮して、連続工程で鉄イオンが一定量以上消耗されてpHが低下し、第1鉄イオンの相当量が第2鉄に酸化されるなどの溶液変性時の電気めっき効率及びスラッジ発生の有無を判断するために各溶液を製造した後、総3段階に分けてめっきを行った。
【0058】
具体的には、1段階では、各溶液を製造して昇温し、素地金属及び陽極板に整流器を連結した後、電流密度及びめっき時間を制御して初期めっき溶液におけるめっき試験片を製造した。素地金属としては、銅板と冷延鋼板を使用し、銅板にめっきした結果からめっき効率を測定し、冷延鋼板にめっきした結果からめっき密着性を評価した。電気めっき効率を測定するために銅板にめっきされた試験片を塩酸溶液でめっき層を溶解し、溶液中の鉄成分の総量を測定してめっき量を計算して、初期めっき効率として表記した。
【0059】
2段階では、上記の溶液で長期間電気めっきした時の溶液の特性変化を確認するために、めっき溶液に含まれた鉄イオンの総量の10%が析出し得る総電流量を計算して連続的に電流を印加し、必要に応じて素地金属を周期的に交換した。
【0060】
3段階では、長時間電流の印加によって変性した溶液を用いて1段階と同様の方法によってめっき試験片を製造し、めっき品質及び末期めっき効率を測定した。
【0061】
冷延鋼板を素地金属として得られた鉄めっき層は、走査型電子顕微鏡を用いて表面形状を分析し、めっきされた試験片の表面にテープを用いてめっき層の脱落の有無を目視で確認し、めっき層の密着水準を表1に併せて示した。評価基準は、次の通りである。
〇:脱落した粉末が目視では全く確認されない水準
△:めっき層が粉末状に脱落して目視で確認可能な水準
×:めっき層の剥離又は粉末状に多量脱落する水準
【0062】
【0063】
実施例1から4、及び比較例1は、アミノ酸のうちの1種であるグルタミンを錯化剤とし、鉄イオン濃度による結果を示したものである。グルタミンの濃度は、モル濃度比にして鉄イオン濃度の0.5倍となるようにし、pHは2~4となるように調整し、めっき電流密度は溶液中の鉄イオン濃度に応じて10~50A/dm2でめっきした。実施例1から4に示されたように、鉄イオン濃度が1g/L以上になると、めっき密着性が良好であり、長期間使用によるスラッジも発生せず、鉄濃度が高いほどめっき効率が増加する傾向にあった。しかしながら、比較例1のように、鉄イオン濃度が過度に低いと、鉄めっき反応の限界電流密度が低いためめっき効率が低くなり、めっき層に水酸化物が多量混入されて黒色のめっき層を形成し、密着性が不良になる。
【0064】
図1に、実施例3のめっき溶液を使用して電流密度50A/dm
2、0.7秒間めっきされた試験片の初期の走査型電子顕微鏡写真を示した。鉄電気めっき初期には球形の鉄金属粒子状に成長し始め、
図2は上記試験片の末期の走査型電子顕微鏡写真を示したもので、めっき時間を増やすと、めっき組織が徐々に緻密になり、2.0秒以上めっきを行った結果、
図2のように緻密なめっき層が形成された。
【0065】
実施例5から7、比較例2、及び3の結果を参照すると、全体鉄イオン中の第2鉄イオンの比率が増加するほど初期めっき効率は徐々に減少する傾向にある。しかしながら、第2鉄イオンの比率が増加するほど、鉄イオンの総量の10%がめっきされ得る電流量を印加して変性させた時にめっき効率はかえって高くなった。特に、比較例2のように初期溶液に第2鉄含量が5%未満で含有されると、長期間使用された溶液でかえってめっき効率が急激に低下するため、連続工程中にめっき効率を一定に維持することが困難になる。一方、第2鉄イオンの濃度が60%を超過すると、初期溶液と比べて変性した溶液でめっき効率が小幅増加したにもかかわらず、初期溶液・末期溶液ともにめっき効率が低く、めっき層が容易に脱落してめっき品質が不良になる。
【0066】
実施例8から11、及び比較例4では、グルタミンを錯化剤として使用し、錯化剤の含量によるめっき効率及びスラッジ発生の有無を示した。比較例4のように、錯化剤の濃度が鉄のモル濃度に対して0.01以下になる場合、めっき効率も低く、めっき中にスラッジが容易に発生し、めっき層も脱落するなどの安定した電気めっきが困難であるものの、錯化剤濃度が鉄のモル濃度に対して0.05以上になると、めっき効率も高く、スラッジの発生もなかった。
【0067】
実施例12から16には、アミノ酸重合体の一種であるグリシルグリシンを錯化剤としてめっき効率を測定した結果を示した。初期だけでなく、十分に変性した溶液でもめっき効率が全て良好であり、スラッジの発生もなかった。
【0068】
実施例17、18、比較例5、及び6では、鉄電気めっき溶液のpHを1~6に調整して電気めっきを行った。比較例5のように、pH1.2未満の鉄電気めっき溶液は非常に安定で清浄度を維持することができたが、めっき効率が過度に低くなった。しかしながら、pHが1.2以上になると、pHが増加するほどめっき効率も徐々に高くなった。pHが4を超過すると、めっきを行わない間は溶液の清浄性が維持されたが、連続めっき過程で少量の沈殿物が発生し、撹拌後に多くは溶解した。しかしながら、pHが5を超過すると、めっき過程で発生する沈殿物が撹拌後にも自然に再溶解せず、めっき層が容易に脱落し、めっき効率もかえって低下した。
【0069】
産業的な応用が可能になるためには、必要に応じて、電流密度を調整する必要があるが、操業可能な電流密度の範囲が広いほど良い。実施例19から23では、電流密度を0.5~150A/dm2に変化してめっき効率を測定した。電流密度が低いほどめっきに消耗される電流よりも水素発生、及び第2鉄イオンが第1鉄イオンに還元される副反応が比較的増加するため、めっき効率が減少する傾向を示した。一方、電流密度が100A/dm2までは電流密度が増加するほどめっき効率が大きく増加し、これを超過して電流密度を150A/dm2まで増加させると、めっき効率が小幅減少したが、依然として高めっき効率を維持しながらもめっき品質が良好であり、スラッジの発生もなかった。
【0070】
実施例24では、アミノ酸の一種であるアラニンを錯化剤として使用し、比較例7及び8では、分子中のカルボキシル基のみを有するクエン酸及びグルコン酸を錯化剤として使用して製造された溶液で電気めっきを行った。アラニンを使用した溶液ではアミノ酸の一種であるグルタミンやアミノ酸重合体の一種であるグリシルグリシンを錯化剤として使用した場合と類似の水準の初期及び末期のめっき効率が得られ、めっき過程でスラッジの発生もなかった。しかしながら、クエン酸及びグルコン酸を錯化剤として使用した場合は、スラッジは発生しなかったものの、初期めっき効率が非常に低く、めっき層が容易に脱落して良好なめっき品質を得ることができなかった。特に、長期間使用された溶液ではめっき効率が急激に低下した。
【0071】
図3には、クエン酸を錯化剤として使用した比較例7の溶液でめっきされた試験片を走査型電子顕微鏡で観察した写真を示した。グルタミンを錯化剤として使用して得た
図1及び
図2のめっき組織とは異なり、クエン酸を含有する鉄めっき溶液で得ためっき組織は非常に微細で粗い粒子でめっきされ、めっき層に水酸化物が非常に多量含有されていた。
【0072】
以上の結果から、アミノ酸又はアミノ酸重合体を錯化剤として含有する溶液は、通常使用される錯化剤であるカルボン酸錯化剤を使用しためっき溶液とは異なり、水酸化物の混入を防いでバーニングを抑制し、高品質のめっき層が得られるだけでなく、電気めっき効率が高く、長期間使用してもめっき効率が維持されてスラッジの発生を抑制するため、高速の連続操業が可能になると期待される。
【0073】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲は、これに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から外れない範囲内で多様な修正及び変形が可能であるということは、当技術分野における通常の知識を有する者にとっては自明である。
【国際調査報告】