(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】造血幹細胞を生成する方法及びその組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0789 20100101AFI20231214BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231214BHJP
C12N 5/0786 20100101ALI20231214BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20231214BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231214BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20231214BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20231214BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20231214BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20231214BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20231214BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20231214BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20231214BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20231214BHJP
A61K 35/545 20150101ALN20231214BHJP
【FI】
C12N5/0789
C12N5/10
C12N5/0786
A61K35/28
A61P35/02
A61P7/06
A61P7/00
A61P31/18
A61P37/06
A61P7/04
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/62 Z
A61K35/545
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560237
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(85)【翻訳文提出日】2023-07-12
(86)【国際出願番号】 US2021062884
(87)【国際公開番号】W WO2022125947
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523218371
【氏名又は名称】ガルーダ セラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャー ドバニット
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065BA21
4B065BD14
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087CA12
4C087NA05
4C087ZA51
4C087ZA53
4C087ZA55
4C087ZB08
4C087ZB27
4C087ZB33
(57)【要約】
様々な態様及び実施形態において、本開示は、造血幹細胞(HSC)を生成する方法、並びにそれを含む組成物、及び疾患を治療する方法を提供する。本開示は、E26形質転換特異的変異体2(ETV2)転写因子の発現(例えば過剰発現)により多能性幹細胞から内皮細胞を調製する方法を提供する。次いで、機械的、生化学的、薬理学的及び/又は遺伝学的刺激を用いて内皮細胞からHSCを生成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血幹細胞(HSC)を生成する方法であって、
E26形質転換特異的変異体2(ETV2)転写因子の発現により多能性幹細胞から内皮細胞を調製することと、
前記内皮細胞を造血性内皮細胞に転換させるとともに、該造血性内皮細胞を造血幹細胞に転換させることと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記多能性幹細胞が、体細胞のリプログラミングにより調製された人工多能性幹細胞(iPSC)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記体細胞が、Sox2、Oct3/4、c-Myc、Nanog、Lin28及びKlf4の1つ以上から選択されるリプログラミング因子の発現によりリプログラミングされる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記iPSCが、レシピエントに対して自己由来又は同種異系である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
iPSCがHLA改変細胞又はHLA欠損細胞である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記iPSCが遺伝子改変されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記iPSCが構成的又は誘導的な自殺遺伝子を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記iPSCがレポーター遺伝子を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ETV2が非統合エピソームから発現される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ETV2発現が構成的又は誘導的である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ETV2が、前記iPSCに導入されたmRNAから発現される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ETV2 mRNAを、前記iPSCから調製された中胚葉前駆細胞(MPC)に導入する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記iPSCを中胚葉前駆細胞(MPC)に分化させ、該MPCを内皮細胞(EC)に分化させる、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
VEGF-Aの添加によりMPCをECに分化させる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
Piezo1アゴニストの添加によりECを造血性内皮細胞(HEC)に分化させる、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記Piezo1アゴニストがYoda1、Jedi1及び/又はJedi2である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
サイクリックストレッチを適用することによりECをHECに分化させる、請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
CD34
posであり、任意にCD31
pos、CD144
pos、KDR
pos、CD235
neg及びCD43
negの1つ以上から選択される細胞表面表現型を有する細胞を選択又は富化することを更に含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
Piezo1アゴニストの添加によりHECをHSCに分化させる、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記Piezo1アゴニストがYoda1、Jedi1及び/又はJedi2である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
サイクリックストレッチを適用することによりHECをHSCに分化させる、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
造血分化を誘導することが、内皮細胞又はHE細胞をインスリン様成長因子-1(IGF-1)、ソニックヘッジホッグ(SHH)、アンジオテンシン2、ロサルタン、Flt3、Flt3リガンド、Y27632、FGF、FGF-2(bFGF)、BMP-4、アクチビンA、トランスフェリン、VEGF、DKK、IL-6、IL011、SCF、EPO、TPO、IL-3、SB-431542、フィブロネクチン及びビトロネクチンの1つ以上とともに培養することを含むか、又は更に含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
Dnmt3b及び/又はGimap6の発現又は活性を増加させることを含むプロセスにより前記ECをHEC又はHSCに転換させる、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
Dnmt3b及び/又はGimap6遺伝子がエピソームから発現される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
Dnmt3b及び/又はGimap6が、前記iPSC、EC又はそれらの前駆体に導入されたmRNAから発現される、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記HSCを、任意にリノール酸、PGE
2、PGE
2誘導体及び/又はPGE
2前駆体(複数の場合もある)を用いて増殖させる、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
HSC増殖が、引用することにより本明細書の一部をなす米国特許第10,457,683号に記載される化合物を用いて前記細胞を培養することを含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
HSC増殖が、ポリビニルアルコール、UM171、ニコチンアミド及びバルプロ酸の1つ以上を用いて前記細胞を培養することを含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記HSCが長期HSC(LT-HSC)を含む、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
CD34
+細胞を選択又は富化し、任意にCD45、CD38、CD90、CD49f及びGPI-80の1つ以上の陽性発現又は陰性発現に基づいて細胞を選別又は富化することを更に含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
培養物中に浮遊している細胞を回収することを含む、請求項28又は29に記載の方法。
【請求項32】
前記HSCが少なくとも0.0001%のLT-HSCを含む、請求項1~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
請求項1~32のいずれか一項に記載の方法に従って作製されたHSC集団を含む組成物。
【請求項34】
レシピエントにおける疾患又は病態を治療する方法であって、請求項33に記載の組成物を前記レシピエントに投与することを含む、方法。
【請求項35】
前記疾患又は病態が血液疾患、骨髄疾患、代謝性疾患、免疫疾患又はミトコンドリア疾患である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記疾患又は病態が急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、骨髄増殖性障害、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、再生不良性貧血、赤芽球癆、発作性夜間血色素尿症、ファンコニ貧血、重症型サラセミア、鎌状赤血球貧血、重症複合免疫不全(SCID)、後天性免疫不全症候群(AIDS)、ウィスコット-アルドリッチ症候群、血球貪食性リンパ組織球症、先天性代謝異常、表皮水疱症、重症先天性好中球減少症、シュワッハマン-ダイアモンド症候群、ダイアモンド-ブラックファン貧血及び白血球接着不全症から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記HSCが同種異系由来又はユニバーサル適合ドナー細胞、HLA改変細胞又はHLA欠損細胞に由来し、任意に遺伝子改変されている、請求項34~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記HSCが前記レシピエントの細胞に由来する、請求項34~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
免疫療法のための細胞集団を調製する方法であって、請求項1~32のいずれか一項に従って産生されたHSCを免疫細胞系統に分化させることを含む、方法。
【請求項40】
前記免疫細胞系統がT細胞、B細胞又はNK細胞である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記免疫細胞系統が制御性T細胞、細胞傷害性T細胞、γδT細胞又はαβT細胞である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
異種TCRを発現させることを更に含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
キメラ抗原受容体(CAR)を発現させることを更に含む、請求項40又は41に記載の方法。
【請求項44】
異常ヘモグロビン症を治療するための細胞集団を調製する方法であって、請求項1~32のいずれか一項に従って産生されたHSCを赤血球に分化させることを含む、方法。
【請求項45】
移植免疫寛容、自己免疫障害又は線維症を治療するための細胞集団を調製する方法であって、請求項1~32のいずれか一項に従って産生されたHSCをマクロファージに分化させることを含む、方法。
【請求項46】
出血性障害を直接又は間接的に治療するための細胞集団を調製する方法であって、請求項1~32のいずれか一項に従って産生されたHSCを血小板に分化させることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2020年12月10日に出願された米国仮特許出願第63/123,778号の利益及び優先権を主張し、この内容全体を引用することによって本明細書の一部をなすものとする。
【背景技術】
【0002】
造血幹細胞(HSC)移植(HSCT)には、例えば血液癌の治療のように、骨髄又は免疫系に欠陥のある患者において造血機能を再確立するために、自己由来又は同種異系幹細胞を注入することが含まれる。HSCは、腫瘍関連抗原に対するT細胞受容体(TCR)又はキメラ抗原受容体(CAR)をコードする遺伝子の導入を含む癌免疫療法を生み出すのにも有用である。具体的には、被験体において生着して長期的に血球を産生する細胞は、寛解を持続させるための標的抗癌エフェクター細胞の長期的な供給源をもたらし得る(非特許文献1)。
【0003】
しかしながら、ex vivoでのHSC増殖は、特に患者への投与後に効果的に生着し得るHSC生成物を得ることにとって、依然として大きな障害である(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Gschweng et al., Hematopoietic stem cells for cancer immunotherapy, Immunol Rev. 2014 257(1):237-49
【非特許文献2】Tajer P, et al., Ex Vivo Expansion of Hematopoietic Stem Cells for Therapeutic Purposes: Lessons from Development and the Niche, Cells 2019 Feb; 8(2): 169
【発明の概要】
【0005】
様々な態様及び実施の形態において、本発明は、これらの目的を達成する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】ETV2過剰発現(OE)が多能性に影響を及ぼさないことを示す図である。
図1は、ETV2及びGFP配列を過剰発現させるアデノウイルスベクターによるiPSCの形質導入効率の代表的なFACSプロットを示す。ETV2過剰発現は、TRA-1-60幹細胞性マーカーの発現によって示されるように、iPSC幹細胞性に影響を及ぼさない。
【
図2】ETV2過剰発現(OE)が造血性内皮細胞の収率を増加させることを示す図である。造血性内皮細胞(CD235a-CD34+CD31+と記載)の代表的なフローサイトメトリー分析及び相対定量により、ETV2-OEが造血性内皮細胞の形成を増進することが実証される。
【
図3】ETV2過剰発現(OE)がiPSC分化時のCD34+細胞形成を増進することを示す図である。CD34+細胞の代表的なフローサイトメトリー分析及び相対定量により、ETV2-OEがCD34+細胞形成を増進することが実証される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
様々な態様及び実施形態において、本開示は、造血幹細胞(HSC)を生成する方法、並びにそれを含む組成物、及び疾患を治療する方法を提供する。本開示に従って産生されるHSCは、様々な実施形態において、造血機能の確立及び/又は血球系統の長期産生のための生着、及び/又は免疫療法のための細胞のex vivo産生に利点を有する。
【0008】
幾つかの実施形態において、本開示は、造血幹細胞(HSC)を生成する方法を提供する。方法は、E26形質転換特異的変異体2(ETV2)転写因子の発現(例えば過剰発現)により多能性幹細胞から内皮細胞を調製することを含む。次いで、機械的、生化学的、薬理学的及び/又は遺伝学的刺激を用いて内皮細胞からHSCを生成する。ETV2をコードするヌクレオチド配列は、Wang K, et al., Robust differentiation of human pluripotent stem cells into endothelial cells via temporal modulation of ETV2 with mRNA. Sci. Adv. Vol. 6 (2020)(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されている。
【0009】
本開示の実施形態によると、iPSCにおけるETV2過剰発現は、それらの多能性特性に影響を与えず、造血性内皮分化及び造血分化を受けるそれらの能力を促進する。
【0010】
幾つかの実施形態において、多能性幹細胞は、体細胞のリプログラミングにより調製された人工多能性幹細胞(iPSC)である。例えば、体細胞は、Sox2、Oct3/4、c-Myc、Nanog、Lin28及びKlf4から選択される1つ又は組合せから選択されるリプログラミング因子の発現によりリプログラミングすることができる。幾つかの実施形態において、リプログラミング因子はSox2、Oct3/4、c-Myc、Nanog、Lin28及びKlf4である。幾つかの実施形態において、リプログラミング因子はSox2、Oct3/4、c-Myc及びKlf4である。iPSCを調製する方法は、例えば米国特許第10,676,165号、米国特許第9,580,689号及び米国特許第9,376,664号(それらの全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されている。様々な実施形態において、リプログラミング因子は、レンチウイルス系又はセンダイウイルス系等の既知のウイルスベクター系を用いて発現される。代替的には、リプログラミング因子は、リプログラミング因子をコードするmRNA(複数の場合もある)を体細胞に導入することによって発現させてもよい。さらにまた、リプログラミング因子を発現する非統合エピソームプラスミド、すなわち導入遺伝子フリーかつウイルスフリーのiPSCを作製するための非統合エピソームプラスミドを導入することにより、iPSCを作製してもよい。複製能力が限られ、したがって数細胞世代の間に失われる既知のエピソームプラスミドを用いることもできる。幾つかの実施形態において、線維芽細胞又はPBMC等(これらに限定されない)の体細胞からiPSCを生成する。幾つかの実施形態において、iPSCは、T細胞、B細胞、臍帯血(臍帯血に由来するCD3+細胞又はCD8+細胞を含む)、CD34+細胞若しくはCD34富化細胞、又は他のヒト一次組織に由来する。様々な実施形態において、iPSCは、レシピエントに対して自己由来又は同種異系(例えばHLA適合)である。幾つかの実施形態において、iPSCは、HLA改変細胞又はHLA欠損(HLA-null)細胞である。これら又は他の実施形態において、iPSCは遺伝子改変されており、キメラ抗原受容体(CAR)又はCCR5の発現のための遺伝子を含んでいてもよい。
【0011】
幾つかの実施形態において、iPSCは、1つ以上の構成的又は誘導的な自殺遺伝子を含む。これらの実施形態において、HSCでの処理後に、移植HSCを容易に枯渇させることができる。例示的な自殺遺伝子は、Liang Q, et al., Linking a cell-division gene and a suicide gene to define and improve cell therapy safety. Nature Vol. 563: 701-704 (2018)に記載されているようなHSV-チミジンキナーゼ(HSV-TK)である。HSV-TKは、ガンシクロビルを毒性生成物に変換するため、この活性剤を用いたTK+細胞の選択的な排除が可能である。代替的又は付加的な自殺遺伝子は、カスパーゼ-9である(Yagyu S. et al., An Inducible Caspase-9 Suicide Gene to Improve the Safety of Therapy Using Human Induced Pluripotent Stem Cells. Mol. Ther. 2015 23(9):1475-85)。Wiebking V., et al., Metabolic engineering generates a transgene-free safety switch for cell therapy. Nature Biotechnology Vol. 38: 1441-1450 (2020)も参照されたい。
【0012】
これら又は他の実施形態において、iPSCは、患者への投与後を含む、本プロセスに従って調製されたHSCの検出を可能にするレポーター遺伝子を含んでいてもよい。例示的なレポーター遺伝子としては、例えば治療用細胞の位置、全位置での量、経時的な生存及び増殖の全身モニタリングを可能にする陽電子放出断層撮影(PET)イメージングレポーター遺伝子が挙げられる。例示的なPETレポーター(reporting)遺伝子は、例えばYaghoubi S. et al., Positron Emission Tomography Reporter Genes and Reporter Probes: Gene and Cell Therapy Applications. Theranostics. 2012; 2(4): 374-391に記載されている。例示的なPETレポーター遺伝子はPMK2である。Haywood T., et al., Positron emission tomography reporter gene strategy for use in the central nervous system. PNAS 2019 116(23): 11402-11407を参照されたい。
【0013】
様々な実施形態において、iPSCを中胚葉前駆細胞(MPC)に分化させ、MPCを内皮細胞(EC)に分化させる。MPCへの分化は、一般にWnt及びNoda1シグナル伝達経路の活性化による。Patsch C., et al., Generation of vascular endothelial and smooth muscle cells from human pluripotent stem cells. Nat. Cell. Biol. 17, 994-1003 (2015)を参照されたい。例えば、Wnt及びNoda1シグナル伝達経路は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3阻害剤(例えばCHIR99021)を用いて活性化することができる。Wang K, et al., Robust differentiation of human pluripotent stem cells into endothelial cells via temporal modulation of ETV2 with mRNA. Sci. Adv. Vol. 6 (2020)を参照されたい。MPC細胞におけるETV2発現は、ECへの分化に関与している。異種ETV2は例えば、ETV2の構成的又は誘導的発現及び導入遺伝子フリーのECの産生のためのコード非統合エピソームプラスミドの導入によって発現させることができる。幾つかの実施形態において、ETV2は、MPCに導入されたmRNAから発現される。mRNAは、エレクトロポレーション又はリポフェクションを含む任意の利用可能な方法を用いて導入することができる。ETV2を発現するMPCの分化は、VEGF-Aの添加を含み得る。Wang K, et al., Robust differentiation of human pluripotent stem cells into endothelial cells via temporal modulation of ETV2 with mRNA. Sci. Adv. Vol. 6 (2020)を参照されたい。幾つかの実施形態において、ETV2の発現にウイルスベクターを用いることができる。
【0014】
幾つかの実施形態において、iPSC(例えばETV2を発現する)を用いて胚様体(EB)を生成し、これをEHTの誘導に使用することができる。EBの調製は、例えば米国特許出願公開第2019/0177695号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されている。幾つかの実施形態において、ヒトiPSC集合体を、例えばAbecasis B. et al., Expansion of 3D human induced pluripotent stem cell aggregates in bioreactors: Bioprocess intensification and scaling-up approaches. J. of Biotechnol. 246 (2017) 81-93に記載されているようにバイオリアクター内で増殖させる。
【0015】
幾つかの実施形態において、分化(例えば内皮細胞への分化)を受けるように誘導されたヒト多能性幹細胞の集団を、例えば米国特許第9,834,754号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されているように富化する。例えば、このプロセスは、ヒト多能性幹細胞(又はそれに由来するEB)の集団において分化を誘導することと、誘導された集団をCD34及び/又はCD43の発現に基づいて選別することとを含み得る。CD34+及び/又はCD43negの画分を選択する。
【0016】
このプロセスによって産生されたECを、機械的、生化学的、遺伝学的及び/又は薬理学的刺激を用いて造血性内皮細胞(HEC)又はHSCに転換させることができる。幾つかの実施形態において、方法は、内皮細胞におけるDNA(シトシン-5-)-メチルトランスフェラーゼ3β(Dnmt3b)及び/又はGTPアーゼIMAPファミリーメンバー6(Gimap6)の活性又は発現を、HSCの形成を刺激するのに十分な条件下で(例えば機械的、薬理学的又は遺伝学的手段を用いて)増加させることを含む。国際公開第2019/236943号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)を参照されたい。幾つかの実施形態において、機械的、遺伝学的及び/又は薬理学的刺激を用いてECを造血性内皮(HE)細胞に転換させ、これを続いて任意に機械的、遺伝学的及び/又は薬理学的刺激を用いてHSCに転換させることができる。
【0017】
幾つかの実施形態において、薬理学的刺激は、内皮細胞とDnmt3bの活性又は発現を増加させる機械感受性受容体又は機械感受性チャネルの有効量のアゴニストとを接触させることを含む。幾つかの実施形態において、機械感受性受容体はPiezo1である。例示的なPiezo1アゴニストはYoda1である。Yoda1(2-[5-[[(2,6-ジクロロフェニル)メチル]チオ]-1,3,4-チアジアゾール-2-イル]-ピラジン)は、機械感受性イオンチャネルPiezo1に対して開発された小分子アゴニストである(Syeda R, Chemical activation of the mechanotransduction channel Piezo1. eLife (2015))。Yoda1は以下の構造を有する:
【化1】
【0018】
Yoda1の誘導体は、様々な実施形態に用いることができる。例えば、2,6-ジクロロフェニルコアを含む誘導体が幾つかの実施形態に用いられる。例示的なアゴニストは、Evans EL, et al., Yoda1 analogue (Dooku1) which antagonizes Yoda1-evoked activation of Piezo1 and aortic relaxation, British J. of Pharmacology 175(1744-1759): 2018に開示されている。更に他のPiezo1アゴニストとしては、Jedi1及び/又はJedi2、又はそれらの誘導体が挙げられる。Wang Y., et al., A lever-like transduction pathway for long-distance chemical- and mechano-gating of the mechanosensitive Piezo1 channel. Nature Communications (2018) 9:1300を参照されたい。Jedi1及びJedi2は、3-カルボン酸メチルフラン構造モチーフを有する。このモチーフを共有する他のPiezo1アゴニストが本発明の実施形態に従って用いられ得る。これらのPiezo1アゴニストは市販されている。様々な実施形態において、Piezo1アゴニスト又は誘導体の有効量は、約0.1μM~約500μM、若しくは約0.1μM~約200μM、若しくは約0.1μM~約100μMの範囲、又は幾つかの実施形態において、約1μM~約150μM、若しくは約5μM~約100μM、若しくは約10μM~約50μM、若しくは約20μM~約50μMの範囲である。
【0019】
代替的又は付加的に、HE細胞又はHSCへの転換は、遺伝学的刺激による。例えば、Dnmt3bのmRNA発現は、Dnmt3bをコードする転写産物を細胞に送達するか、又はDnmt3bをコードする導入遺伝子を導入するか、又は非統合エピソームを細胞に導入することに限定されない導入遺伝子フリーの方法によって増加させることができる。幾つかの実施形態において、遺伝子編集を用いて内皮細胞のDnmt3b発現エレメントに遺伝子改変を導入し、例えばプロモーター強度、リボソーム結合、RNA安定性を増加させるか、又はRNAスプライシングに影響を与える。
【0020】
幾つかの実施形態において、方法は、内皮細胞におけるGimap6の活性又は発現を、単独で又はDnmt3bと組み合わせて増加させることを含む。Gimap6の活性又は発現を増加させるために、Gimap6をコードするmRNA転写産物を細胞に導入することができ、エピソーム又は代替的にはGimap6をコードする導入遺伝子を細胞に導入することを含むが、これに限定されない、導入遺伝子フリーのアプローチを用いることもできる。幾つかの実施形態において、遺伝子編集を用いて内皮細胞のGimap6発現エレメントに遺伝子改変(例えばプロモーター強度、リボソーム結合、RNA安定性を増加させるか、又はRNAスプライシングに影響を与えるための1つ以上の改変)を導入する。
【0021】
細胞へのmRNA送達を用いる本開示の実施形態において、既知の化学修飾を用いて、細胞における先天性免疫応答を回避することができる。例えば、カノニカルヌクレオチドのみを含む合成RNAは、パターン認識受容体に結合することができ、細胞において強力な免疫応答を誘発することができる。この応答は、翻訳ブロック、炎症性サイトカインの分泌、及び細胞死を引き起こし得る。或る特定の非カノニカルヌクレオチドを含むRNAは、自然免疫系による検出を回避することができ、高効率でタンパク質に翻訳され得る。特に先天性免疫応答を回避するためのヌクレオチド修飾に関して、米国特許第9,181,319号(引用することにより本明細書の一部をなす)を参照されたい。
【0022】
幾つかの実施形態において、Dnmt3b及び/又はGimap6の発現は、所望のレベルの過剰発現を(様々なプロモーター強度又は発現制御エレメントの他の選択により)指向することができる導入遺伝子を細胞に導入することによって増加させる。導入遺伝子は、当該技術分野で既知の様々なウイルスベクター又はトランスフェクション試薬を用いて導入することができる。幾つかの実施形態において、Dnmt3b及び/又はGimap6の発現は、導入遺伝子フリーの方法(例えば、記載のようなエピソーム送達)によって増加させる。
【0023】
幾つかの実施形態において、Dnmt3b及び/又はGimap6又は本明細書に開示される他の遺伝子の発現又は活性は例えば、プロモーター強度、リボソーム結合又はRNA安定性を増加させるための1つ以上の改変を導入する遺伝子編集技術を用いて増加させる。様々な編集技術が既知であり、CRISPR、ジンクフィンガー(ZF)及び転写活性化因子様エフェクター(TALE)が挙げられる。これらのDNA結合ドメイン1つ以上とFok1エンドヌクレアーゼの切断ドメインとを含む融合タンパク質を用いて、細胞内のDNAの所望の領域に二本鎖切断を生じさせることができる(例えば、米国特許出願公開第2012/0064620号、米国特許出願公開第2011/0239315号、米国特許第8,470,973号、米国特許出願公開第2013/0217119号、米国特許第8,420,782号、米国特許出願公開第2011/0301073号、米国特許出願公開第2011/0145940号、米国特許第8,450,471号、米国特許第8,440,431号、米国特許第8,440,432号及び米国特許出願公開第2013/0122581号(これら全ての内容が引用することにより本明細書の一部をなす)を参照されたい)。幾つかの実施形態において、遺伝子編集は、当該技術分野で既知のCRISPR関連Casシステムを用いて行われる。例えば、米国特許第8,697,359号、米国特許第8,906,616号及び米国特許第8,999,641号(それらの全体が引用することにより本明細書の一部をなす)を参照されたい。
【0024】
幾つかの実施形態において、2D又は3D培養物における円周方向の伸展を含むプロセス等の機械的刺激を用いて、EC又はHECをHSCに転換させる。例えば、発生的に塑性の内皮細胞又はHE細胞を含む細胞集団をバイオリアクターに導入する。幾つかの実施形態において、バイオリアクターは、国際公開第2017/096215号に記載されるように繰り返し歪み生体力学的伸展をもたらす(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)。繰り返し歪み生体力学的伸展は、Dnmt3b及び/又はGimap6の活性又は発現を増加させる。これらの実施形態において、機械的手段が細胞に伸展力を加える。例えば、フレキシブルボトム培養プレートのナイロン膜又は同様の生体適合膜又は生体模倣膜に取り付けたコンピュータ制御真空ポンプシステム(例えば、FlexCell(商標) Tension System、Cytostretcher System等)を用いて、規定の制御された繰り返し歪み条件下で細胞にex vivoで円周方向の伸展を加えることができる。
【0025】
幾つかの実施形態において、HE細胞の内皮細胞を、所望の細胞表面マーカー表現型を有する細胞について選別又は富化する。幾つかの実施形態において、内皮細胞又はHE細胞をCD34+細胞について選択又は富化する。任意に、以下の細胞表面マーカー:CD31pos、CD144pos、KDRpos、CD43neg及びCD235negの1つ以上に基づいて細胞を選別又は富化する。
【0026】
幾つかの実施形態において、方法は、少なくとも部分的に、内皮細胞又はHE細胞をインスリン様成長因子-1(IGF-1)、ソニックヘッジホッグ(SHH)、アンジオテンシン2、ロサルタン、Flt3、Flt3リガンド、Y27632、FGF、FGF-2(bFGF)、BMP-4、アクチビンA、トランスフェリン、VEGF、DKK、IL-6、IL011、SCF、EPO、IL-3、SB-431542、フィブロネクチン及びビトロネクチンから選択される1つ以上の因子とともに培養することにより、造血分化を誘導することを含む。
【0027】
様々な実施形態において、生成したHSCを増殖させる。例えば、米国特許第8,168,428号、米国特許第9,028,811号、米国特許第10,272,110号及び米国特許第10,278,990号(それらの全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に開示される方法に従ってHSCを増殖させることができる。例えば、幾つかの実施形態において、HSCのex vivo増殖に、培養物へのプロスタグランジンE2(PGE2)又はPGE2誘導体若しくは前駆体の添加を用いる。これら又は他の実施形態において、ex vivo増殖に培養物へのリノール酸の添加を用いる。これら又は他の実施形態において、HSC増殖に培養物へのポリビニルアルコールの添加を用いる。幾つかの実施形態において、HSC増殖は、少なくとも部分的に、米国特許第10,457,683号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されているものを含む置換イミダゾピリジン及びイミダゾピラジン等のアリール炭化水素受容体アンタゴニストとともに細胞を培養することを含む。HSCを増殖させるのに有用な他の化合物及び試薬は、Papa L., et al., Distinct Mechanisms Underlying the Ex Vivo Expansion of Human Cord Blood Stem Cells with Different Strategies Currently Used for Allogeneic Transplantation, Blood (2019) 134 (Supplement 1): 4470に記載されている。かかる化合物及び試薬には、ニコチンアミド及びバルプロ酸が含まれ得る。
【0028】
様々な実施形態において、本開示に従って産生される造血幹細胞は、優れた生着を示し、レシピエントにおいて機能的な多系統の成体血液に再構成される長期造血幹細胞(LT-HSC)を含む。幾つかの実施形態において、HSCは、Lin-/Scal+/c-kit+細胞を含む。LT-HSCは、自己複製して幹細胞プールを維持するか、又は短期HSC(ST-HSC)若しくは系統限定前駆細胞に分化し、広範な増殖及び分化を経て、最終分化した機能的な造血細胞を産生する。ST-HSC又は多能性前駆細胞(MPP)は、造血を短期的にしか維持することができないが、LT-HSCは、生物の生涯にわたって存続し、絶えず造血系を補充することができる。本開示の幾つかの実施形態において、HSCは、少なくとも約0.0001%のHSC、又は少なくとも約0.001%のLT-HSC、又は少なくとも約0.01%のLT-HSC、又は少なくとも約0.1%のLT-HSC、又は少なくとも約1%のLT-HSCを含む。幾つかの実施形態において、細胞の亜集団(例えばLT-HSC)は、例えば細胞選別アプローチを用いて単離又は富化することができる。例えば、幾つかの実施形態において、細胞をCD34+細胞について選択又は富化する。幾つかの実施形態において、CD34、CD45、CD38、CD90、CD49f及びGPI-80の1つ以上の発現に基づいて細胞を富化又は選別する。幾つかの実施形態において、以下の表現型マーカー:CD110+、CD135+及びAPLNR+の1つ以上を有する細胞について細胞を富化又は選別する。
【0029】
様々な実施形態において、HSCへの転換時に、培養物中に浮遊している(例えば非接着)細胞を回収する。
【0030】
幾つかの態様では、本開示は、本明細書に記載の方法に従って作製されたHSC集団を含む組成物を提供する。様々な実施形態において、本明細書に記載の方法によって調製されたHSCの集団と、薬学的に許容可能なビヒクルとを含む細胞療法用の組成物を調製する。医薬組成物は、少なくとも約102個のHSC、又は少なくとも約103個のHSC、又は少なくとも約104個のHSC、又は少なくとも約105個のHSC、又は少なくとも約106個のHSC、又は少なくとも約107個のHSC、又は少なくとも108個のHSCを含み得る。例えば、幾つかの実施形態において、レシピエントの体重1kg当たり約100000個~約400000個の(CD34+)HSC(例えば1kg当たり約200000個の細胞)を含む医薬組成物を投与する。
【0031】
療法又は移植用のHSCは、幾つかの実施形態において、比較的短時間、例えば2ヶ月未満、又は1ヶ月未満、又は約2週間未満で生成することができる。
【0032】
細胞組成物は、静脈内注入又は他の投与経路に適した薬学的に許容可能な担体又はビヒクルを更に含んでいてもよく、好適な抗凍結剤を含んでいてもよい。例示的な担体は、DMSO(例えば約10%のDMSO)である。細胞組成物は、ユニットバイアル又はバッグで提供し、使用まで凍結して保管することができる。或る特定の実施形態において、組成物の容量は、約1液量オンス~1パイントである。
【0033】
本明細書に記載の方法を用いて生成したHSCは、例えば静脈内注入又は骨髄内移植によって被験体(レシピエント)に投与する。方法は骨髄破壊的、骨髄非破壊的又は免疫毒素ベース(例えば抗c-kit、抗CD45等)の移植前処置(conditioning regimes)に続いて行うことができる。
【0034】
本明細書に記載の方法を用いて、例えば血液疾患(悪性及び非悪性)、骨髄疾患、代謝性疾患及び免疫疾患を治療するための移植プロトコルに用いられるHSCの集団を生成することができる。幾つかの実施形態において、HSC集団は、自己由来細胞、又はユニバーサル適合(universally-compatible)ドナー細胞、又はHLA改変細胞若しくはHLA欠損細胞に由来する。幾つかの実施形態において、HSC集団は、1つ以上の導入遺伝子(例えばCCR5、TCR又はCAR)を含む遺伝子編集細胞に由来する。すなわち、HSC集団は、レシピエント被験体の細胞から調製されるか、又はドナー細胞(例えばユニバーサルドナー細胞、HLA適合細胞、HLA改変細胞又はHLA欠損細胞)から調製され、任意に遺伝子編集されるiPSCから生成する。
【0035】
幾つかの実施形態において、レシピエント被験体は、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、骨髄増殖性障害、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、再生不良性貧血、赤芽球癆、発作性夜間血色素尿症、ファンコニ貧血、重症型サラセミア、鎌状赤血球貧血、重症複合免疫不全(SCID)、後天性免疫不全症候群(AIDS)、ウィスコット-アルドリッチ症候群、血球貪食性リンパ組織球症、先天性代謝異常、表皮水疱症、重症先天性好中球減少症、シュワッハマン-ダイアモンド症候群、ダイアモンド-ブラックファン貧血及び白血球接着不全症から選択される病態を患っている。
【0036】
更に他の実施形態において、本開示に従って産生されたHSCを用いて、T細胞(例えば異種TCR発現T細胞、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)、制御性T細胞、細胞傷害性T細胞、γδT細胞、αβT細胞等)、NK細胞(CAR-NK細胞を含む)又はB細胞(CAR-B細胞を含む)等の免疫療法用の免疫細胞を産生する。
【0037】
他の実施形態において、本開示に従って産生されたHSCを用いて、例えば移植免疫寛容、自己免疫障害又は線維症を治療するためのマクロファージを産生する。
【0038】
幾つかの実施形態において、本開示に従って産生されたHSCを用いて、例えば異常ヘモグロビン症の治療に使用することができる赤血球を産生する。更に他の実施形態において、本開示に従って産生されたHSCを用いて、直接又は間接的な出血性障害の治療のための血小板を産生する。幾つかの実施形態において、HSCを用いて、血液疾患、骨髄疾患、免疫疾患、代謝性疾患又はミトコンドリア障害と関連する併存疾患の治療のための血液製剤を調製する。
【0039】
所望の細胞系統に分化させる方法は、当該技術分野で既知である。
【0040】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、関連の数値の±10%を意味する。
【実施例】
【0041】
実施例1-ETV2過剰発現は、造血性内皮細胞の収率を増加させ、iPSC分化時のCD34+細胞形成を増進するが、多能性には影響しない
EF1Aプロモーターの制御下のETV2及びGFP配列の両方を含むアデノウイルスベクターを用いて、人工多能性幹細胞(iPSC)を形質導入した。形質導入後に、iPSC培養物の約45%がGFP陽性であることが観察され、ETV2過剰発現(ETV2-OE)が確認された。幹細胞性マーカー発現TRA-1-60によって示されるように、iPSCにおけるETV2-OEがiPSCの多能性特性を保持することが更に観察された(
図1)。
図1は、ETV2及びGFP配列を過剰発現させるアデノウイルスベクターによるiPSCの形質導入効率の代表的なFACSプロットを示す。
【0042】
次に、ETV2-OE-iPSCを(ETV2を含まないGFP配列を有するベクターで形質導入した対照iPSCとともに)胚様体に分化させ、続いて造血性内皮細胞に分化させた(Strugeon et al., 2014)。結果から、CD235a
-集団におけるCD34
+及びCD31
+マーカーの発現によって実証されるように、ETV2の過剰発現が造血性内皮細胞の形成を増進させることが示唆される(
図2)。具体的には、
図2は、造血性内皮細胞(ここではCD235a-CD34+CD31+と定義される)の代表的なフローサイトメトリー分析を示し、相対定量により、ETV2-OEが造血性内皮細胞の形成を増進することが実証される。
【0043】
さらに、結果から、ETV2-OEがCD34
+細胞の形成を増進することが示唆される(
図3)。
図3は、CD34+細胞の代表的なフローサイトメトリー分析を示し、相対定量により、ETV2-OEがCD34+細胞形成を増進することが実証される。
【0044】
総合すると、これらのデータから、iPSCにおけるETV2過剰発現が、それらの多能性特性に影響を与えず、造血性内皮分化及び造血分化を受けるそれらの能力を促進することが示される。
【国際調査報告】