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特表2023-553540Far UV-C照射を利用する保護レスピレータ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】Far UV-C照射を利用する保護レスピレータ
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/10 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
A61L2/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560248
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(85)【翻訳文提出日】2023-08-07
(86)【国際出願番号】 US2021063139
(87)【国際公開番号】W WO2022126023
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】63/124,437
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】523220178
【氏名又は名称】エックスシーエムアール インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ラサンスキー,リチャード エー.
(72)【発明者】
【氏名】ケリー,ケネス
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA28
4C058BB06
4C058KK02
(57)【要約】
Far UV-C放射(例えば、222ナノメートル付近を中心とする波長を有する)を放出することによって、ユーザの口および鼻の前のキルゾーン内の病原体を不活化する保護レスピレータ。いくつかの実施形態では、コントローラは、数学的モデルを使用して、微生物(例えば、SARS-CoV-2などのウイルス)を死滅させる閾値確率を提供するために必要な強度または放出時間を決定する。必要な強度または時間は、大気条件および/またはユーザの生理学的条件に基づいて決定されてもよい。Far UV-C放射は、ユーザの皮膚または目と交差しない(例えば、ユーザから離して、またはユーザの顔の前面を横切る)キルゾーンを通る方向に放出され得る。代替として、コントローラは、ユーザの皮膚または目におけるFar UV-C放射のフルエンスを経時的に推定し、放出されるFar UV-C放射を調整してもよい。
【選択図】図5A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線(UV)照射を利用して、ユーザの口および鼻の前のキルゾーン内の病原体を不活化する保護レスピレータであって、
電源と、
前記キルゾーンを通してFar UV-C放射を放出する1つ以上のFar UV-C放射源と、
数学的モデルを使用して、前記Far UV-C放射の必要な強度、または前記Far UV-C放射を放出するのに必要な時間を決定し、前記キルゾーンを通って移動する微生物を死滅させる閾値確率を提供するコントローラと
を含む保護レスピレータ。
【請求項2】
前記Far UV-C放射が、222ナノメートル(nm)付近を中心とする波長を有する、請求項1に記載の保護レスピレータ。
【請求項3】
前記微生物がウイルスである、請求項1に記載の保護レスピレータ。
【請求項4】
前記数学的モデルが、シミュレートされた環境における速度場、前記1つ以上のFar UV-C放射源によって放出されるFar UV-C放射のフルエンス、および実験室実験を使用して識別された前記微生物の不活化応答の固有の動力学を組み合わせるために、計算流体力学を使用することによって開発される、請求項1に記載の保護レスピレータ。
【請求項5】
前記必要な強度または時間が、1つ以上の大気条件に基づいて決定され、
前記コントローラが、前記1つ以上の大気条件を示すデータを受信する、
請求項1に記載の保護レスピレータ。
【請求項6】
前記1つ以上の大気条件を示す前記データが、サーバ、個人用電子デバイス、またはロケーションビーコンから受信される、請求項5に記載の保護レスピレータ。
【請求項7】
前記1つ以上の大気条件を示す前記データが、1つ以上の大気センサによって決定される、請求項5に記載の保護レスピレータ。
【請求項8】
前記必要な強度または時間が、前記ユーザの1つ以上の生理学的条件を示すデータに基づいて決定され、
前記コントローラが、前記ユーザの前記1つ以上の生理学的条件を示すデータを受信する、
請求項1に記載の保護レスピレータ。
【請求項9】
前記1つ以上の生理学的条件を示す前記データが、個人用電子デバイスまたはフィットネストラッカから受信される、請求項8に記載の保護レスピレータ。
【請求項10】
前記1つ以上の生理学的条件を示す前記データが、慣性測定ユニット、ジオロケーションモジュール、または1つ以上の生理学的センサによって決定される、請求項9に記載の保護レスピレータ。
【請求項11】
前記1つ以上のFar UV-C放射源が、前記ユーザから離してFar UV-C放射を放出する、請求項1に記載の保護レスピレータ。
【請求項12】
前記1つ以上のFar UV-C放射源が、前記ユーザの皮膚または目と交差しない方向に、前記キルゾーンを通して前記Far UV-C放射を放出する、請求項1に記載の保護レスピレータ。
【請求項13】
前記コントローラが、
前記ユーザの前記皮膚または目におけるFar UV-C放射の前記フルエンスを経時的に推定し、
前記決定に応答して、前記1つ以上のFar UV-C放射源によって放出される前記Far UV-C放射を調整する、
請求項1に記載の保護レスピレータ。
【請求項14】
前記コントローラが、
前記電源の充電レベルを経時的に監視し、
前記決定に応答して、前記1つ以上のFar UV-C放射源によって放出される前記Far UV-C放射を調整する、
請求項1に記載の保護レスピレータ。
【請求項15】
紫外線(UV)照射を利用して、ユーザの口および鼻の前のキルゾーン内の病原体を不活化する方法であって、
数学的モデルを使用して、Far UV-C放射の必要な強度、または前記Far UV-C放射を放出するのに必要な時間を決定し、前記キルゾーンを通って移動する微生物を死滅させる閾値確率を提供することと、
1つ以上のFar UV-C放射源によって、前記キルゾーンを通してFar UV-C放射を放出することと
を含む方法。
【請求項16】
前記1つ以上の大気条件を示すデータを受信することをさらに含み、
前記必要な強度または時間が、前記1つ以上の大気条件を示す前記データに基づいて決定される、
請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記1つ以上の大気条件を示す前記データが、1つ以上の大気センサによって決定される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ユーザの前記1つ以上の生理学的条件を示すデータを受信することをさらに含み、
前記必要な強度または時間が、前記ユーザの1つ以上の生理学的条件に基づいて決定される、
請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記1つ以上の生理学的条件を示す前記データが、個人用電子デバイスまたはフィットネストラッカから受信される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記1つ以上の生理学的条件を示す前記データが、慣性測定ユニット、ジオロケーションモジュール、または1つ以上の生理学的センサによって決定される、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる、2020年12月11日に出願された米国仮特許出願第63/124,437号、および2021年12月13日に出願された米国仮特許出願第63/265,336号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
過去10年間にわたって、インフルエンザ、ジカ熱、およびコロナウイルスの自然パンデミックは、世界中で経済的破壊ならびに罹患率および死亡率を引き起こしてきた。自然パンデミックは、過去10年間に証明された人獣共通感染症の流行(例えば、H1N1、SARS、MERS、ジカ、エボラ、マールブルグ)、ならびに、脆弱な集団の増加、毎年の新たな脆弱な出生コホート、および免疫老化を経験する高齢者に基づいて再発する可能性がある。COVID-19は、準備および対応の手段が不十分であることを考慮して、特に米国に対して生物学的脅威の重大性を示した。
【0003】
定義上、新規の生物学的脅威は、証明されたワクチンまたは医薬品を有しておらず、個人衛生、物理的分離、表面および空気の汚染除去、ならびにマスク、手袋、およびゴーグルなどの個人用保護具(PPE)の着用などの公衆衛生対策のみに依存する必要がある。COVID-19のパンデミックでは、使い捨てPPE、手指消毒剤、エアフィルタの備蓄と供給が極めて困難であることが示された。しかし、PPE(高濾過N-95およびKN-95マスクから家庭用綿布マスクまで様々な品質)の使用の劇的な増加は、2020~2021年および初期の2021~2022年シーズンの季節性インフルエンザ発生率および罹患率の大幅な減少に寄与した可能性がある。
【0004】
N95型マスクのような非常に効果的なPPEは、しばしば、短期間着用される使い捨ての物である。その一方で、N95型マスクは、不快感およびフィット感の悪さのために、多くの場合、あまり利用されていない。加えて、グローバルな需要を満たすようにスケーリングされた場合、使い捨ての物は高価な解決策である。したがって、インフルエンザ、コロナウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、ヒトメタニューモウイルス(HMPV)などの呼吸器病原体に対処するために、有効な、再利用可能な、拡張可能なPPEが必要とされる。これらの呼吸器ウイルスは、伝染性呼吸器疾患による疾患および死亡の主な原因である。
【0005】
約200ナノメートル(nm)~320nmの波長を有する紫外線(UV)放射は、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)のような重要な生体分子に光化学的損傷を引き起こす。したがって、「殺菌UV」と呼ばれることもある200~320nmのUV放射を使用して、表面および空気の体積を消毒することができる。また、約240nm未満の波長を有するUV放射は、タンパク質を損傷し、これは、微生物およびウイルスの不活化ももたらし得る。しかしながら、UVスペクトルの一部からの放射線への長時間の曝露は、ヒトの皮膚および目に損傷を引き起こす可能性がある。したがって、殺菌性UV照射の消毒特性を利用するために、放射線がヒト組織を損傷する可能性があるスペクトルの部分の波長を有する放射線への長期の曝露からヒト組織を保護する必要がある。
【発明の概要】
【0006】
ユーザの口および鼻の前のキルゾーンを通してFar UV-C放射(例えば、222ナノメートル付近を中心とする波長を有する)を放出することによって、ユーザに「近視野」保護を提供する保護レスピレータ。実施形態では、保護レスピレータは、電源と、Far UV-C放射を放出する1つ以上のFar UV-C放射源と、数学的モデルを使用して、Far UV-C放射の必要な強度、またはFar UV-C放射を放出するのに必要な時間を決定し、キルゾーンを通って移動する微生物(例えば、SARS-CoV-2などのウイルス)を死滅させる閾値確率を提供するコントローラとを含む。数学的モデルは、シミュレートされた環境における速度場、Far UV-C放射源によって放出されるFar UV-C放射のフルエンス、および実験室実験を使用して識別された微生物の不活化応答の固有の動力学を組み合わせるために、計算流体力学を使用することによって開発される。
【0007】
必要な強度または時間は大気条件に依存し得るので、いくつかの実施形態では、コントローラは、1つ以上の大気条件を示すデータを受信する。いくつかの実施形態では、データは、1つ以上の大気センサによって決定される。いくつかの実施形態では、データは、サーバ、個人用電子デバイス、またはロケーションビーコンから受信される。
【0008】
これらの大気条件は、ユーザの1つ以上の生理学的条件に依存し得るので、いくつかの実施形態では、コントローラは、ユーザの1つ以上の生理学的条件を示すデータを受信する。いくつかの実施形態では、データは、慣性測定ユニット、ジオロケーションモジュール、または1つ以上の生理学的センサによって決定される。いくつかの実施形態では、データは、個人用電子デバイスまたはフィットネストラッカから受信される。
【0009】
いくつかの実施形態では、Far UV-C放射源は、ユーザから離してFar UV-C放射を放出する。いくつかの実施形態では、Far UV-C放射源は、ユーザの皮膚または目と交差しない方向に、キルゾーンを通してFar UV-C放射を放出する。他の実施形態では、コントローラは、ユーザの皮膚または目におけるFar UV-C放射のフルエンスを経時的に推定し、決定に応答して、1つ以上のFar UV-C放射源によって放出されるFar UV-C放射を調整する。
【0010】
いくつかの実施形態では、コントローラは、電源の充電レベルを経時的に監視し、決定に応答して、1つ以上のFar UV-C放射源によって放出されるFar UV-C放射を調整する。
【0011】
例示的な実施形態の態様は、添付の図面を参照してより良く理解され得る。図面中の構成要素は、必ずしも縮尺通りではなく、代わりに、例示的な実施形態の原理を示すことに重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】ヒトの皮膚への紫外線(UV)浸透の図である。
図1B】ヒトの目へのUV浸透の図である。
図2A】波長の関数としてのUV放射の相対スペクトル有効性のグラフである。
図2B】波長の関数としての閾値限界値のグラフである。
図3】例示的な実施形態による保護レスピレータのブロック図である。
図4A】例示的な実施形態によるFar UV-C放射源の図である。
図4B】例示的な実施形態によるFar UV-C放射源の図である。
図4C】2つの例示的なFar UV-C放射源の正規化された出力のグラフである。
図5A】着用可能な実施形態による保護レスピレータを示す図である。
図5B】別の着用可能な実施形態による保護レスピレータを示す図である。
図5C】別の着用可能な実施形態による保護レスピレータを示す図である。
図5D】別の着用可能な実施形態による保護レスピレータを示す図である。
図5E】別の着用可能な実施形態による保護レスピレータを示す図である。
図5F】別の着用可能な実施形態による保護レスピレータを示す図である。
図5G】別の着用可能な実施形態による保護レスピレータを示す図である。
図6図6A-6B。例示的な実施形態によるキルゾーンを示す図である。
図6C】別の例示的な実施形態によるキルゾーンを示す図である。
図6D】別の例示的な実施形態によるキルゾーンを示す図である。
図7A】例示的な実験室実験を示す図である。
図7B図7Aの実験中の不活化応答のコンピュータシミュレーションを示す図である。
図8図8A-8C。例示的な実施形態による計算流体力学を使用したシミュレーションを示す図である。
図9】例示的な実施形態によるネットワーク環境の図である。
図10】例示的な実施形態による、微生物(例えば、細菌、芽胞、ウイルス、原虫、および/または真菌などの微生物および/またはウイルス粒子)を不活化するプロセスを示すフローチャートである。
図11】携帯型の実施形態による保護レスピレータを示す図である。
図12】定置型の実施形態による保護レスピレータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、例示的な実施形態の様々な図を示す図面を参照する。本明細書の図面および図面の説明において、特定の用語は、便宜のためにのみ使用され、本発明の実施形態を限定するものとして解釈されるべきではない。さらに、図面および以下の説明において、同様の番号は、全体を通して同様の要素を示す。
【0014】
いくつかの紫外線(UV)放射は、ヒト組織に損傷を引き起こすが、最近の研究は、約200ナノメートル(nm)~230nmの波長を有するUV放射(非公式に「Far UV-C」放射と呼ばれる)が、皮膚および目を含む重要な哺乳動物組織に最小限の損傷を引き起こすことを示している。
【0015】
図1Aは、角質層(死層)171、透明層173、顆粒層(顆粒層)175、有棘層(有棘後)177、基底層(基底層)178、および真皮179を含む、ヒトの皮膚170へのUV浸透の図である。図1Aに示されるように、254nmのソース154からの放射は、有棘層177によって吸収されるまで、角質層171、透明層173、および顆粒層175を透過することができる。しかしながら、対照的に、222nmのソース400からの放射は、ヒトの皮膚170の死細胞の外層である角質層にほぼ完全に吸収される。
【0016】
図1Bは、虹彩192、房水194、水晶体196、および角膜198を含む、ヒトの目190へのUV透過の図である。図1Bに示されるように、222nmの放射は、角膜198の外面上の死細胞の層を超えて透過しない。Far UV-C放射は、ヒトの皮膚および眼内の死細胞によってのみ吸収されるため、それらの組織にほとんどまたは全く損傷を与えない。哺乳動物モデル(ヘアレスマウス)およびヒト組織を含む最近の実験は、これらの結論を支持する。
【0017】
人間を保護するために、米国産業衛生専門家会議(ACGIH)および組織国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)を含む組織は、閾値限界値(TLV)を確立し、これは、人が有害な健康影響なしに曝露され得る各有害物質または物への曝露の推奨限界である。Far UV-C放射の安全性を実証した最近の研究は、Far UV-C放射の曝露限界の再評価を促した。
【0018】
図2Aは、波長(横軸上)の関数としてのUV放射の相対スペクトル有効性のグラフである。図2Aに示されるように、UV照射がヒト組織に損傷を引き起こす可能性は、約270nmでピークに達する。より長い波長では、放射線は、損傷を引き起こすのに不十分なエネルギーとなる。より短い波長では、それは、新しい細胞を生み出す発芽層に浸透することができない。次いで、これらのスペクトル有効性の値を使用して、毎日(8時間)の曝露限界(労働者の典型的な労働日のもの)を識別する。
【0019】
図2Bは、波長の関数としてのミリジュール/平方センチメートル(mJ/cm)単位の閾値限界値のグラフである。線201は、ACGIHおよびICNIRPによって提供される現在のガイダンスである。線202および203には、最近の研究結果を考慮して、ヒトの皮膚(線203)および目(線202)の曝露についての閾値限界値(TLV)に対する更新されたガイダンスを提案される。8時間曝露限界に対するこれらの提案された変化は、目への許容曝露の7倍の増加(23mJ/cmから161mJ/cm)、および皮膚への許容曝露の20倍を超える増加(23mJ/cmから479mJ/cmへ)を表す。
【0020】
上述のように、Far UV-C放射への曝露は、以前に想定されていたよりもヒト組織に対してかなり安全であることが示されている。一方、Far UV-C照射の消毒は有効なままである。実際、呼吸器ウイルス(SARS-CoV-2、HuCoV-229E、およびインフルエンザAを含む)はFar UV-C放射に対して最も感受性の高い病原体の1つであるため、呼吸器ウイルスを不活化するには、非常に少ない線量のFar UV-C放射ですむ。ACGIHによって最近提案された曝露限界は、消毒用途で必要とされる可能性が高いFar UV-C放射の線量をはるかに超えるので、Far UV-C照射は、空気中、エアロゾル中、表面上、または水中の病原体を不活化するために安全に使用することができる。したがって、Far UV-C照射の安全性および有効性を利用して、個人および個人のグループに効果的で、再使用可能で、スケーラブルな個人保護を提供する、保護レスピレータおよびデバイスが開示される。
【0021】
図3は、例示的な実施形態による保護レスピレータ300のブロック図である。図3に示されるように、保護レスピレータ300は、1つ以上のFar UV-C放射源400と、コントローラ310と、電源390とを含む。いくつかの実施形態では、保護レスピレータ300はまた、近接センサ320、通信モジュール320、大気センサ340、慣性測定ユニット350、ジオロケーションモジュール360、マイクロフォン370、および/または生理学的センサ380を含み得る。
【0022】
Far UV-C放射源400は、約200nm~約230nmの波長を有する任意のUV放射源を含み得る。図4を参照して以下に説明するように、Far UV-C放射源400は、222nm付近を中心とする波長を有するFar UV-C放射を出力する光学フィルタ塩化クリプトン(KrCl*)エキシマランプであってもよい。
【0023】
コントローラ310は、本明細書に記載の機能を実行することができる任意の適切なコンピューティングデバイスであってもよい。図3の実施形態では、コントローラ310は、非一時的コンピュータ可読記憶媒体(メモリ318)およびハードウェアコンピュータプロセッサ314を含む。他の実施形態では、コントローラ310は、例えば、有限状態機械であってもよい。
【0024】
通信モジュール320は、保護レスピレータ300が直接および/またはネットワークを介して他の電子デバイスと通信することを可能にする任意のハードウェアデバイスであり得る。例えば、通信モジュール320は、レスピレータ300が他のレスピレータ300および/または個人用電子デバイス(例えば、スマートフォン、活動モニタ、フィットネストラッカなど)と、直接、短距離、ワイヤレス通信(例えば、Bluetooth)を使用して通信するための機能を提供し得る。
【0025】
距離センサ330は、いかなる物理的接触もなしに近くの物体の存在を検出し、保護レスピレータ300と近くの物体との間の距離を示すデータを感知するように適切に構成された任意のデバイスであり得る。
【0026】
大気センサ340は、保護レスピレータ300を取り巻く大気を示すデータを収集するために使用される任意の電子デバイスを含み得る。大気センサ340は、温度センサ322、相対湿度センサ324、気圧計326、および/または風速センサ328を含み得る。
【0027】
慣性測定ユニット350は、保護レスピレータ300の動きおよび/または配向を測定し、報告する任意のハードウェアデバイスを含み得る。内部測定ユニット350は、加速度計352、ジャイロスコープ354、および/または磁力計356を含み得る。
【0028】
ジオロケーションモジュール360は、例えば、衛星ナビゲーション、ネットワーク識別、ロケーションビーコンとの通信などを使用して、保護レスピレータ300の地理的位置を決定または推定する任意のハードウェアデバイスを含み得る。
【0029】
マイクロフォン370は、可聴ノイズを感知する任意のハードウェアデバイスであり得る。電源390は、保護レスピレータ300に電力を供給する任意のハードウェアデバイスであってもよい。以下に説明する着用可能な実施形態では、電源390は、充電式バッテリであってもよい。他の実施形態では、電源390は、外部電源への有線接続であってもよい。
【0030】
生理学的センサ380は、保護レスピレータ300を着用しているユーザの生理学的条件を示すデータを感知する任意のハードウェアデバイスを含み得る。生理学的センサ380は、血液循環の体積変化を測定するために皮膚の表面に光源および光検出器を使用するフォトプレチスモグラム(PPG)センサ382、および/または汗腺活動の変化から生じる電気(イオン)活動の変化を検出するガルバニック皮膚応答(GSR)センサ384を含み得る。PPGセンサ382からのデータは、例えば、ユーザの呼吸の頻度、強度、および振幅を推定するために使用され得る。
【0031】
保護レスピレータ300の動きは、生理学的センサ380、大気センサ340などによってキャプチャされたデータに影響を及ぼし得る。したがって、いくつかの実施形態では、コントローラ310は、保護レスピレータ300の動きを決定し、デジタル信号処理アルゴリズム(例えば、メモリ318に記憶される)を使用して、センサによって受信されたデータから動きによって影響を受ける動きアーチファクトを除去し得る。
【0032】
図4Aおよび図4Bは、例示的な実施形態によるFar UV-C放射源400の図である。
【0033】
図4Aおよび図4Bの実施形態では、Far UV-C放射源400は、各々が低温プラズマを蓄積する複数のマイクロキャビティ440を含む。Far UV-C放射源400はまた、電源390に電気的に接続された複数のアノード420およびカソード430も含む。アノード420およびカソード430によって供給される電力に応答して、マイクロキャビティ440内のプラズマはエキシマ460を生成し、Far UV-C放射450を放出する。図4Aおよび図4Bの実施形態では、エキシマ460は塩化クリプトンである。
【0034】
図4Cは、UVスペクトルにわたる2つの例示的なFar UV-C放射源400の正規化された出力(対数スケール)のグラフ490である。線491は、第1の例示的なFar UV-C放射源400(フィルタリングなし)の正規化された出力を表し、線492は、第2の例示的なFar UV-C放射源400(フィルタリングなし)の正規化された出力を表す。図4Cに示されるように、クリプトン-クロライド(KrCl*)エキシマランプは、222nm付近を中心とする主要な一次ピークを有し、したがって、以下に記載されるように、エアロゾル化ウイルスの不活化によく適している。
【0035】
また、クリプトン-クロライドエキシマランプは、258nm付近の二次ピークを有する。二次ピークの波長を有する放射線は、ヒト組織に損傷を与える可能性があるので、図4Aおよび図4BのFar UV-C放射源400は、Far UV-Cスペクトル外の透過を減衰させるための光学フィルタ480も含む。グラフ490において、線495は、光学フィルタ480を有する第1の例示的なFar UV-C放射源400の光学的にフィルタリングされた出力を表し、線492は、光学フィルタ480を有する第2の例示的なFar UV-C放射源400の正規化された出力を表す。グラフ490に示されるように、光学フィルタ480が適用されると、それは、潜在的に有害な二次ピークを約100分の1に減少させることができる。
【0036】
マイクロキャビティプラズマ(または単にマイクロプラズマ)として知られているこれらの例示的なFar UV-C放射源400は、1気圧までの圧力および1気圧を超える圧力、低ガス温度、ならびにナノリットル範囲のプラズマ体積での連続動作を特徴とする。キャビティによるプラズマの閉じ込めは、数eVの電子温度および1013~1016立方センチメートル(cm)の電子密度を有する、安定した、拡散した、均一なグロー放電の生成をもたらす。これらの値は、連続波(CW)、高圧グローに対して前例のないものであり、気相における光エミッタの効率的な励起に理想的に適している。マイクロキャビティ構造440に閉じ込められたプラズマの独特の特性のために、図4Aおよび図4Bの例示的なFar UV-C放射源400は、長寿命にわたって即時照明および消灯を提供する、薄く、軽量のUV放射源である。
【0037】
不均衡な光子束(線量)は、空間または期間にわたって一貫性のない死滅速度をもたらし得る。従来のUVランプは、円筒形状を有し、したがって、特定の設備なしでは、広い面積にわたって均一な処理を行うことができない。対照的に、図4Aおよび図4Bの例示的なFar UV-C放射源400は、フラットフォームファクタでFar UV-C光子を効率的に利用し、標的空間(空気、エアロゾル、粒子、液滴、表面、水など)にわたって微生物およびウイルスを効果的に死滅させるために、大規模表面または空間にわたって放射光子の均一な分布を提供する。
【0038】
図4Aおよび図4Bを参照して上述したように、いくつかの実施形態では、Far UV-C放射源400は、マイクロプラズマクリプトン-塩化物エキシマランプであってもよい。しかしながら、他の実施形態では、保護レスピレータ300は、エキシマレーザ、発光ダイオード(LED)、レーザダイオードなどを含む他のFar UV-C放射源400を含んでもよい。
【0039】
図5A図5Gは、様々な着用可能な実施形態による保護レスピレータ300を示す。図5Aの実施形態では、保護レスピレータ300aは、Far UV-C放射源400が、ユーザの鼻および口の前の体積を通してFar UV-C放射450を放出するためにユーザの首の周りに着用され得るペンダント500aに組み込まれ、個人の呼吸の体積を効果的に覆うように実現される。
【0040】
図5B図5Dの実施形態では、保護レスピレータ300b~300dは、各々ユーザの顔の前に延びるブーム510を含むヘッドウェア500b、500c、および500dとして実現される。これらの実施形態では、Far UV-C放射源400は、ブーム510に組み込まれて、ユーザの鼻および口の前の領域にわたってFar UV-C放射450を放出することができる。これらの実施形態のいくつかでは、Far UV-C放射源400は、ユーザの顔に向かってFar UV-C放射450を放出することができる。図5Eでは、保護レスピレータ300eは、つば520を有する帽子500dとして実現される。これらの実施形態では、Far UV-C放射源400は、つば520の底部に取り付けられて、ユーザの鼻および口の前の領域にわたってFar UV-C放射450を放出することができる。図5Fでは、保護レスピレータ300fは、ユーザの鼻および口の前の領域にわたってFar UV-C放射450を放出するために、Far UV-C放射源400が前面から延びるヘルメット500fとして実現される。図5Gの実施形態では、保護レスピレータ300gは、Far UV-C放射源400がアイウェア500gに組み込まれるように実現される。
【0041】
着用可能な実施形態では、保護レスピレータ300は、ユーザの鼻および口の前のキルゾーン600を通してFar UV-C放射450を放出する。図6A図6Dは、様々な例示的な実施形態によるキルゾーン600を示す。
【0042】
ペンダント500aおよび眼鏡500gなどのいくつかの着用可能な実施形態では、保護レスピレータ300は、Far UV-C放射源400が、ユーザの皮膚および目から離してFar UV-C放射450を放出するように構成される。図6Aおよび図6Bに示されるように、キルゾーン600aは、ユーザの口および鼻の前の平面(例えば、約10cm×10cm)を含む空気の体積である。図6Cの実施形態では、キルゾーン600bは、ユーザの口の前に頂点を有する円錐形の体積の空気を含む。
【0043】
他の実施形態では、保護レスピレータ300は、一部のFar UV-C放射がユーザの皮膚または目によって吸収されるように構成されてもよい。図6Dの実施形態では、キルゾーン600dは、ユーザの口、鼻、およびいくつかの実施形態では、ユーザの目を含む体積である。
【0044】
上述のように、保護レスピレータ300は、Far UV-C放射450を放出することによって微生物(細菌、芽胞、ウイルス、原虫、および/または真菌などの微生物および/またはウイルス粒子を含む)を不活化するように構成される。いくつかの実施形態では、保護レスピレータ300は、キルゾーン600を通って移動する特定の微生物を死滅させる閾値確率(例えば、90パーセント、99パーセント、99.9パーセントなど)を提供するように構成される。照射中に特定の微生物を死滅させる確率p(または死滅させたそれらの微生物の割合)は、Far UV-C照射450のフルエンスDおよび特定の微生物の感受性定数kに依存する。
p=1-e-D*k
一方、Far UV-C放射450のフルエンスDは、その微生物の経路に沿ったFar UV-C放射450の強度Iと、微生物がそのFar UV-C放射450に曝露される時間tとに依存する。
D=∫I(t)・dt
【0045】
簡単に図5Aに戻ると、Far UV-C放射源400が点源である実施形態では、Far UV-C放射450の強度Iは、Far UV-C放射源400からの距離の逆二乗で低下する。一方、微生物が曝露される時間tは、微生物の速度およびFar UV-C放射450を通る距離dに依存する。Far UV-C放射450を通る粒子の経路が長いほど、吸収された放射線またはフルエンスが大きくなり、粒子内の微生物の死滅が高くなる。より長い相対距離(例えば、図5Aの距離d3)を通過する粒子は、より短い相対距離(例えば、図5Aの距離dl)よりも長い時間のFar UV-C放射450への曝露を経験し、その結果、受け取られるフルエンスDのレベルがより高い受け取りをもたらし得る。
【0046】
図3に戻って参照すると、いくつかの実施形態では、コントローラ310は、選択された微生物(例えば、SARS-CoV-2ウイルス)を死滅させる所定の確率p(例えば、90パーセント、99パーセントなど)を達成するためにFar UV-C放射450を放出するのに必要な強度Iを決定する。他の実施形態では、UV-C放射源400によって放出されるUV-C放射450の強度Iは、一定であり得る。これらの実施形態のいくつかでは、コントローラ310は、その選択された微生物を死滅させる所定の確率pを達成するために、Far UV-C放射450を放出するのに必要な時間tを決定し得る。
【0047】
Far UV-C放射源400からの距離および微生物がFar UV-C放射450を通って移動する距離dに加えて、特定の微生物を死滅させる確率pを達成するために必要な強度Iおよび/または時間tは、微生物の速度に依存し、これは、キルゾーン600におけるエアロゾル粒径分布および大気条件(湿度、風速または局所換気)に依存する。したがって、いくつかの実施形態では、保護レスピレータ300は、キルゾーン600内の大気条件を示すデータを収集する。
【0048】
例えば、いくつかの実施形態では、保護レスピレータ300は、キルゾーン600内の気温を示すデータ(例えば、温度センサ322から)、キルゾーン600内の相対湿度(例えば、相対湿度センサ324から)、絶対気圧および/またはキルゾーン600内の気圧の変化(例えば、気圧計326からの気圧測定値を使用して)、および/またはキルゾーン600内の風速または換気(例えば、風速センサ328からのデータを使用して)を受信し得る。
【0049】
着用可能な実施形態では、キルゾーン600は、ユーザの鼻および口の前の領域を含む。したがって、これらの着用可能な実施形態では、キルゾーン600内の大気条件は、ユーザの挙動(例えば、ユーザの呼吸の頻度、強度、および振幅)に大きく依存し得る。したがって、いくつかの実施形態では、保護レスピレータ300は、ユーザの生理学的条件を示すデータを収集することができる。いくつかの実施形態では、例えば、保護レスピレータ300は、ユーザの活動レベルを示すデータを(例えば、ジオロケーションモジュール360および/または慣性測定ユニット350から)受信することができる。これらの実施形態では、コントローラ210は、ユーザの生理学的条件(例えば、性別、体重、身長、喫煙状態、肺の健康状態など)を示す情報を記憶することができる。併せて、ユーザの活動レベルおよびユーザの生理学的条件は、ユーザの呼吸の頻度、強度、および振幅と高度に相関する。
【0050】
他の実施形態では、保護レスピレータ300は、ユーザの生理学的条件を示すデータ(例えば、PPGセンサ382からの血液循環の体積変化を示すデータ、GSRセンサ384からのガルバニック皮膚応答を示すデータなど)を受信することができ、これもまた、ユーザの呼吸の頻度、強度、および振幅と高度に相関する。
【0051】
さらに他の実施形態では、保護レスピレータ300は、(例えば、マイクロフォン370から)音データを受信し、(例えば、メモリ318に記憶された)数学的モデルを実行して、ユーザの呼吸を示す音を分離することができる。
【0052】
いくつかの着用可能な実施形態では、保護レスピレータ300は、呼吸を示すデータを収集するのに一意に適した位置でユーザの身体に着用され得る。Far UV-C放射源400が図5Aのペンダント500aに組み込まれる実施形態では、例えば、保護レスピレータ300b~300dは、ユーザの呼吸の頻度、強度、および振幅と高度に相関する、ユーザの胸部の動きを示すデータを収集する慣性測定ユニット350を含み得る。Far UV-C放射源400が図5Bのヘッドウェア500bまたは図5Cもしくは図5Dのヘッドセット500cもしくは500dに組み込まれる実施形態では、保護レスピレータ300b~300dは、血液循環の体積変動を示すデータを測定するために、ユーザのこめかみ上にPPGセンサ382を含み得る。
【0053】
選択された微生物を死滅させる所定の確率pを達成するためにFar UV-C放射450の必要な強度I(および/またはFar UV-C放射450を放出する必要な時間量t)を決定するために、コントローラ310は、実験室実験および計算流体力学に基づいて開発された数学的モデル(例えば、メモリ318に記憶されている)を使用する。
【0054】
図7Aは、エアロゾル化ウイルスの不活化応答の固有の動力学を測定するための例示的な実験室実験700を示す。
【0055】
例示的な実験室実験例700では、噴霧器710を使用して、エアロゾル化ウイルスが石英チャネル750に導入される。石英チャネル750は、Far UV-C放射450を放出する多数のFar UV-C放射源400を含む。エアロゾル化ウイルスは、石英チャネル750を通過する際にFar UV-C放射450に曝露される。試料は、バイオエアロゾルサンプラ790を使用して石英チャネル750の出力で収集される。次いで、これらの試料を分析して、Far UV-C照射450に曝露されたエアロゾル化ウイルスの不活化応答を決定する。
【0056】
既知のウイルスの不活化応答を決定するために、実験室実験は、これらの病原体の生物学的代用物を使用して行われる。例えば、実験は、細菌に感染する能力を有するが、ヒト組織に影響を及ぼす能力を有さないファージを使用して行われる。コロナウイルスの不活化応答を決定するために、例えば、それらのコロナウイルスに類似するUV放射に対する応答を有するファージが選択される。例えば、T1およびT1UVファージ、Φ6ファージ、Qβファージ、およびマウス肝炎ウイルス(MHV)はすべて、同様の対数線形(一次)挙動を有し、すべてコロナウイルスに対してわずかに保存的である。
【0057】
これらの実験室実験を使用して既知の病原体の不活化応答の固有の動力学を測定した後、計算流体力学を使用したコンピュータモデルによって、これらの既知の病原体の不活化応答がシミュレートされる。
【0058】
図7Bは、実験700中の不活化応答のコンピュータシミュレーションを示す。ヒートマップ740は、石英チャネル750を通る速度ベクトル場のマップである。画像760は、Far UV-C放射源400のうちの1つのフルエンス率輪郭のマップである。速度場およびFar UV-C線源400のフルエンス率を特定の病原体の不活化の動力学と統合することにより、システムは、画像780に示されるように、チャネル750を通過するときの特定の病原体の不活化応答を予測する数学的モデルを開発することができる。
【0059】
図8A図8Cはさらに、選択された微生物を死滅させる所定の確率pを達成するために、Far UV-C放射450の必要な強度I(および/またはFar UV-C放射450を放出する必要な時間量t)を決定するために、保護レスピレータ300のコントローラ310によって実行されるモデルに知らせる計算流体力学を使用するシミュレーションを示す。
【0060】
図8Aは、保護レスピレータ300を着用しているユーザ820と、(例えば、咳または呼吸によって)ユーザ820に向けてウイルスを放出する人860(図示せず)とを含む部屋内の気流810のシミュレーションである。図8Bは、ユーザ820によって着用された保護レスピレータ300のFar UV-C放射源400によって放出されたFar UV-C放射450のシミュレートされたフルエンス率のヒートマップ840を示す。計算流体力学を使用して、システムは、ユーザ820の環境における速度場(図8Aに示される)、保護レスピレータ300のFar UV-C放射源400によって放出されるFar UV-C放射450のフルエンス率(図8Bに示される)、および特定の病原体の不活化の固有の動力学(例えば、図7Aに示されるように、実験室実験を使用して識別される)を組み合わせて、保護レスピレータ300のキルゾーン600を通る特定の病原体の不活化応答の数学的モデルを開発する。図8Cは、数学的モデルによって決定される、図8Aおよび図8Bの保護レスピレータ300のユーザ820の周りの予測される不活化応答のヒートマップである。その数学的モデル(およびいくつかの実施形態では、キルゾーン600内の大気条件を示すデータ)を使用して、コントローラ310は、キルゾーン600を通過するときに特定の微生物(例えば、SARS-CoV-2)を死滅させる所定の確率pを達成するために必要なフルエンスDを送達するためのFar UV-C放射450の必要な強度I(および/またはFar UV-C放射450を放出する必要な時間量t)を決定する。
【0061】
上述のように、着用可能な実施形態では、保護レスピレータ300は、ユーザの口および鼻の前のキルゾーン600を通してFar UV-C放射450を放出することによって、ユーザを保護する(および、ユーザが近くの他の人に感染する可能性を低減する)。いくつかの実施形態では、保護レスピレータ300はまた、安全でない量のFar UV-C放射に曝露されることからユーザを保護する。
【0062】
いくつかの着用可能な実施形態では、保護レスピレータ300は、Far UV-C放射源400が、(例えば、図5Cに示されるように)ユーザの口および鼻の前のキルゾーン600を通ってユーザから離してFar UV-C放射450を放出するように実現される(例えば、図6A図6Cに示されるように)。他の着用可能な実施形態では、保護レスピレータ300は、Far UV-C放射源400が、ユーザの皮膚または目に向かってFar UV-C放射450を放出することなく(例えば、図5Aに示されるように)、ユーザの鼻および口の前のキルゾーン600を横切ってFar UV-C放射450を放出するように実現される(例えば、図6A図6Bに示されるように)。しかしながら、いくつかの実施形態では、1つ以上のFar UV-C放射源400によって放出されるFar UV-C放射450のうちの一部は、ユーザの皮膚または目によって吸収され得る。したがって、これらの実施形態のいくつかでは、コントローラ310は、ユーザに向かって放出されるFar UV-C放射450の量を制限するように構成され得る。
【0063】
簡単に図3に戻ると、いくつかの実施形態では、コントローラ310は、Far UV-C放射源400のうちの1つ以上とユーザとの間の距離を示すデータを(例えば、距離センサ330から)受信する。その距離およびユーザに向けて放射されるFar UV-C放射450の強度Iを使用して、コントローラ310は、ユーザの皮膚または目の位置におけるFar UV-C放射450のフルエンスを決定することができる。これらの実施形態のいくつかでは、コントローラ310は、Far UV-C放射450の総線量を経時的に決定し、ユーザの皮膚および/または目によって吸収されるFar UV-C放射450の線量を制限するために、ユーザに向かって放出されるFar UV-C放射450の強度I(または、Far UV-C放射450がユーザに向かって放出される時間t)を調整し得る。例えば、コントローラ310は、Far UV-C放射450の強度I(またはFar UV-C放射450が放出される時間t)を低減して、保護レスピレータ300が、所定の期間(例えば、8時間)、またはユーザによって指定された、ユーザが保護レスピレータ300を着用すると予想される期間にわたって、Far UV-C放射450の閾値限界値を超えてユーザに向かって放出することを防止することができる。
【0064】
保護レスピレータ300が2つ以上のFar UV-C放射源400を含む実施形態では、コントローラ310は、距離センサ330からのデータを使用して、Far UV-C放射源400のうちのどれが、ユーザの皮膚または目に向かってFar UV-C放射450を放出しているか(およびそれらのFar UV-C放射源400の各々の間の距離)を決定し、Far UV-C放射450の強度I(および/またはFar UV-C放射450が放出される時間t)を所定のまたはユーザ指定の時間にわたって制限することができる。
【0065】
電源390が充電式バッテリである実施形態では、コントローラ310は、バッテリによって蓄積された充電量を経時的に監視し、保護レスピレータ300が、所定の期間、またはユーザによって指定された、ユーザが保護レスピレータ300を着用すると予想される期間にわたってFar UV-C放射450を放出するように、Far UV-C放射450の強度I(および/またはFar UV-C放射450が放出される時間t)を制限することもできる。
【0066】
図9は、例示的な実施形態によるネットワーク環境900の図である。図9に示されるように、保護レスピレータ300は、インターネットなどの1つ以上の広域ネットワーク950を介してサーバ920と(例えば、通信モジュール320を使用して)通信し得る。追加または代替として、保護レスピレータ300は、直接的なワイヤレス通信プロトコル(例えば、Bluetooth)を使用して、個人用電子デバイス940(例えば、スマートフォン)とペアリングすることができる。これらの実施形態では、保護レスピレータ300は、個人用電子デバイス940を介してサーバ920と通信し得る。これらの実施形態のいくつかでは、個人用電子デバイス940はまた、アクティビティトラッカ960(例えば、フィットネストラッカ、リストバンド、スマートウォッチなど)とペアリングされ得る。
【0067】
サーバ920と通信することによって、保護レスピレータ300は、コントローラ310によって使用される数学的モデル(上述のように計算流体力学および実験室実験で識別された不活化の固有の動力学を使用して開発された)を受信して、それがキルゾーン600を通過するときに特定の微生物(例えば、SARS-CoV-2)を死滅させる所定の確率pを達成するために必要なフルエンスDを送達するためのFar UV-C放射450の必要な強度I(および/またはFar UV-C放射450を放出する必要な時間量t)を決定することができる。
【0068】
図3を参照して上述したように、いくつかの実施形態では、Far UV-C放射450の必要な強度I(および/またはFar UV-C放射450を放出する必要な時間量t)は、保護レスピレータ300を取り巻く大気条件および/またはユーザの生理学的条件(例えば、呼吸)を示すデータを使用して決定される。図3の実施形態では、保護レスピレータ300は、大気センサ340、慣性測定ユニット350、ジオロケーションモジュール360、マイクロフォン370、および/または生理学的センサ380を含む。しかしながら、他の実施形態では、個人用電子デバイス940および/またはアクティビティトラッカ960は、これらのセンサの一部または全部を含んでもよい。これらの実施形態のうちのいくつかでは、保護レスピレータ300は、個人用電子デバイス940および/またはアクティビティトラッカ960から、大気条件および/またはユーザの生理学的条件を示すデータを受信し得る。
【0069】
図9に示されるように、いくつかの実施形態では、保護レスピレータ300は、他のソースから大気条件を示すデータを受信し得る。例えば、保護レスピレータ300は、(例えば、保護レスピレータ300が、空気交換の特定の速度を提供する特定の換気システムを有する建物内に位置することを示す)ロケーションビーコン980から、大気条件を示すデータを受信することができる。
【0070】
いくつかの実施形態では、各保護レスピレータ300は、他の保護レスピレータ300と(例えば、Bluetooth、メッシュネットワーク、ローカルエリアネットワーク、セルネットワークなどを介して)通信するように構成される。これらの実施形態のいくつかでは、各保護レスピレータ300は、数学的モデルによって指示されるように、Far UV-C放射450の必要な強度I(および/またはFar UV-C放射450を放出する必要な時間量t)を決定して、保護レスピレータ300が、各ユーザのキルゾーン600において指定された微生物を死滅させる所定の確率pを集合的に達成することができる。
【0071】
いくつかの実施形態では、保護レスピレータ300は、サーバ920から大気条件を示すデータを受信し得る。例えば、Far UV-C放射450の必要な強度I(および/またはFar UV-C放射450を放出する必要な時間量t)を決定するのに関連し得る1つの大気条件は、保護レスピレータ300が屋内にあるか屋外にあるかである。したがって、いくつかの実施形態では、コントローラ310は、保護レスピレータ300の地理的位置を出力することができ(例えば、ジオロケーションモジュール360によって決定される)、サーバ920は、その位置に基づいて、保護レスピレータ300が屋内にあるか屋外にあるかを決定し得る。保護レスピレータ300が屋内にあるか屋外にあるかを決定するために、サーバ920は、建物位置の2次元マップを記憶し、保護レスピレータ300の位置が建物のうちの1つの中にあるかどうかを決定し得る。加えて、サーバ920は、地形マップを記憶し、保護レスピレータ300の高度が地上レベルの上にあるか下にあるか(ユーザが上階にいる、または地下にいることを示す)を決定し得る。
【0072】
図10は、例示的な実施形態による、微生物(例えば、細菌、芽胞、ウイルス、原虫、および/または真菌などの微生物および/またはウイルス粒子)を不活化するために保護レスピレータ300によって実行されるプロセス1000を示すフローチャートである。上記で詳細に説明したように、保護レスピレータ300は、Far UV-C放射450を放出することによって微生物を不活化する。いくつかの実施形態では、保護レスピレータ300は、キルゾーン600を通って移動する特定の微生物(例えば、SARS-CoV-2ウイルス)を死滅させる閾値確率(例えば、90パーセント、99パーセントを提供するのに十分な時間tの間、十分な強度Iを有するFar UV-C放射450を放出するように構成される。
【0073】
選択された微生物を死滅させる閾値確率を達成するために、Far UV-C放射450の必要な強度Iおよび/または必要な時間tを決定するために、保護レスピレータ300は、ステップ1002において、数学的モデルをメモリ318に記憶する。上述のように、数学的モデルは、様々なシミュレートされた環境における速度場、Far UV-C放射源400によって放出されるFar UV-C放射450のフルエンス率、および(実験室実験で識別された)選択された微生物の不活化応答の固有の動力学を組み合わせるために、計算流体力学を使用することによって開発され得る。図9を参照して上述したように、いくつかのネットワーク接続された実施形態では、数学的モデルは、サーバ920から受信され得る。他の実施形態では、数学的モデルは、製造時にメモリ318に記憶されてもよい。
【0074】
上述のように、特定の微生物を死滅させる閾値確率pを達成するために必要な強度I(および/または必要な時間t)は、微生物の速度に依存し、これは、キルゾーン600内の大気条件に依存し得る。したがって、いくつかの実施形態では、保護レスピレータ300は、ステップ1004において、保護レスピレータ300を取り巻く環境内の大気条件を示すデータを受信する。図9を参照して上述したように、大気条件を示すデータは、サーバ920、個人用電子デバイス940、ロケーションビーコン980などから受信され得る。図3を参照して上述したように、大気条件を示すデータは、1つ以上の大気センサ340(保護レスピレータ300、個人用電子デバイス940などに組み込まれている)から受信され得る。
【0075】
上述のように、キルゾーン600内の大気条件は、ユーザの生理学的条件に依存し得る。したがって、いくつかの実施形態では、保護レスピレータ300は、ステップ1006において、ユーザの生理学的条件を示すデータを受信する。図9を参照して上述したように、ユーザの生理学的条件を示すデータは、個人用電子デバイス940、アクティビティトラッカ960などから受信され得る。図3を参照して上述したように、ユーザの生理学的条件を示すデータは、慣性測定ユニット350、ジオロケーションモジュール360、1つ以上の生理学的センサ380など(保護レスピレータ300、個人用電子デバイス940、アクティビティトラッカ960などに組み込まれる)から受信され得る。
【0076】
コントローラ310は、ステップ1008において、特定の微生物を死滅させる閾値確率pを達成するために必要な強度I(および/または必要な時間t)を決定する。
【0077】
いくつかの実施形態では、保護レスピレータ300は、Far UV-C放射源400のうちの1つ以上が、ユーザの皮膚および/または目に向かってFar UV-C放射450を放出するように構成される。したがって、いくつかの実施形態では、コントローラ310は、ステップ1010において、ユーザによって吸収されたFar UV-C放射450のフルエンス率Dを決定し、ステップ1012において、Far UV-C放射源400のうちの1つ以上によって放出されたFar UV-C放射450の強度Iおよび/またはFar UV-C放射源400のうちの1つ以上がFar UV-C放射450を放出する時間tを調整して、ユーザの皮膚または目によって吸収されたFar UV-C放射450のフルエンスが、所定の期間(例えば、8時間)、またはユーザによって指定された、ユーザが保護レスピレータ300を着用すると予想される期間にわたって閾値限界値を超えることを防止する。
【0078】
いくつかの実施形態では、保護レスピレータ300の電源390は、充電式電池である。したがって、いくつかの実施形態では、コントローラ310は、ステップ1014において、電源390に残っている充電量を決定し、保護レスピレータ300が、所定の期間(例えば、8時間)全体、またはユーザによって指定された、ユーザが保護レスピレータ300を着用すると予想される期間にわたってFar UV-C放射450を放出するように、Far UV-C放射450の強度I(および/またはFar UV-C放射450が放出される時間t)を調整する。
【0079】
上述のように、いくつかの実施形態では、保護レスピレータ300は着用可能であってもよい。しかしながら、保護レスピレータ300は、そのように限定されない。
【0080】
図11は、携帯型の実施形態による保護レスピレータ300を示す。図11の携帯型の実施形態では、保護レスピレータ300は、Far UV-C放射450を放出する1つ以上のFar UV-C放射源400を含むワンド1100として実現される。
【0081】
図12は、定置型の実施形態による保護レスピレータ300を示す。図12の実施形態では、保護レスピレータ300は、Far UV-C放射450を放出する1つ以上のFar UV-C放射源400を含む物体1200(この例ではテーブルタンプ)として実現される。
【0082】
好ましい実施形態を上述したが、本開示を検討した当業者は、本発明の範囲内で他の実施形態を実現できることを容易に理解するであろう。したがって、本発明は、任意の添付の特許項によってのみ限定されると解釈されるものとする。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C-5D】
図5E
図5F
図5G
図6A-6B】
図6C
図6D
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】