(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-22
(54)【発明の名称】SQSTM1及びがん治療におけるその使用
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20231215BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20231215BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20231215BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231215BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231215BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231215BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231215BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231215BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231215BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231215BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20231215BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/574 A
A61K38/17
A61K45/00
A61K48/00
A61P29/00
A61P35/00
A61P37/04
A61P43/00 121
A61K39/395 N
C07K14/47
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536197
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(85)【翻訳文提出日】2023-06-14
(86)【国際出願番号】 EP2021085911
(87)【国際公開番号】W WO2022129180
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】591282995
【氏名又は名称】アンスティテュ ナスィヨナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE
【住所又は居所原語表記】101, rue de Tolbiac/75654 PARIS CEDEX 13/FRANCE
(71)【出願人】
【識別番号】520100435
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・コート・ダジュール
【氏名又は名称原語表記】Universite Cote d’Azur
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】モグラビ、バハリア
(72)【発明者】
【氏名】ヤズベック、ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】ベレイ、アミン
(72)【発明者】
【氏名】ダンドレア、グレゴワール
(72)【発明者】
【氏名】グロジャン、イリス
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン、ポール
【テーマコード(参考)】
2G045
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045DA36
2G045FB03
4C084AA02
4C084AA13
4C084AA22
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA25
4C084DC50
4C084MA02
4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C084ZC752
4C085AA14
4C085BB50
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE03
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA51
(57)【要約】
本発明は、
-免疫チェックポイント阻害剤に対する免疫療法、
-免疫療法、好ましくはICI、及び化学療法の組み合わせに、対する応答を調節及び予測するためのSQSTM1/p62タンパク質の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SQSTM1/p62タンパク質の使用であって、
-ICIとも呼ばれる、免疫チェックポイント阻害剤に対する免疫療法、
又は
-ICI及び化学療法の組み合わせ、
に対する腫瘍の細胞の応答をインビトロで調節するための、SQSTM1/p62タンパク質の使用。
【請求項2】
前記SQSTM1/p62タンパク質が、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むか、又はそれから本質的になるか、若しくはそれからなる、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
治療に対する腫瘍の耐性をインビトロで予測するための方法であって、前記治療が、ICI又はICI及び化学療法の組み合わせであり、前記方法が、
-前記腫瘍に由来する生体試料中のSQSTM1/p62タンパク質の存在若しくは非存在又は量を評価することと、
-前記SQSTM1/p62タンパク質の前記存在、前記非存在、又は前記量を、対照試料中の前記SQSTM1/p62タンパク質の量と比較することと、
-以下
*SQSTM1/p62タンパク質が前記生体試料中に存在しないか、又は前記対照試料中で取得された量以下であるときに、前記腫瘍が前記治療に耐性がある可能性が高い、及び
*SQSTM1/p62タンパク質が前記生体試料中に存在するか、又は対照レベルよりも高いときに、前記腫瘍が前記治療に感受性がある可能性が高い、と結論付けることと、を含む、方法。
【請求項4】
前記SQSTM1/p62タンパク質の前記存在又は前記非存在が、前記生体試料においてインサイチュで、好ましくは、組織生検又は液体生検において評価される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
腫瘍に罹患している患者の生存率をインビトロで予測するための方法であって、前記方法が、
-前記腫瘍に由来する生体試料中のSQSTM1/p62タンパク質の存在若しくは非存在又は量を評価することと、
-前記SQSTM1/p62タンパク質の前記存在、前記非存在、又は前記量を、対照試料で評価された前記SQSTM1/p62タンパク質の量と比較することと、
-以下
*前記生体試料中のSQSTM1/p62タンパク質が存在しないか、又は前記対照試料中で取得される量以下であるときに、前記患者が5年後に80%よりも高い生存率を有する、及び
*前記生体試料中のSQSTM1/p62が存在するか、又は前記対照試料中で取得される量よりも多いときに、前記患者が5年後に70%よりも低い生存率を有するであろう、と結論付けることと、を含む、方法。
【請求項6】
-PD-L1タンパク質、及び
-CD8+Tリンパ球
の存在、非存在、又は量が、SQSTM1/p62タンパク質の存在若しくは非存在又は量と同時に評価され、対照試料中で評価されたそれぞれのPD-L1タンパク質及びCD8+Tリンパ球の存在、非存在又は量と比較され、
前記生体試料中のSQSTM1/p62タンパク質、PD-L1タンパク質、及びCD8+Tリンパ球が存在するか、又は前記対照試料中で取得された量よりも多いときに、前記患者が5年後に50%よりも低い生存率を有するであろう、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
腫瘍に罹患し、ICI又はICI及び化学療法の組み合わせで治療された患者の生存率をインビトロで予測するための方法であって、前記方法は、
-前記腫瘍に由来する生体試料中のSQSTM1/p62タンパク質の存在若しくは非存在又は量を評価することと、
-前記SQSTM1/p62タンパク質の前記存在、非存在、又は量を、対照試料で評価された前記SQSTM1/p62タンパク質の量と比較することと、
-以下
*前記生体試料中のSQSTM1/p62が存在しないか、又は前記対照試料中で取得された量以下であるときに、前記患者が20ヶ月の処置後に10%以下の生存率を有する、及び
*前記生体試料中のSQSTM1/p62が存在するか、又は前記対照試料中で取得された量よりも多いときに、前記患者が20ヶ月の処置後に50%以上の生存率を有するであろう、と結論付けることと、を含む、方法。
【請求項8】
組成物であって、
-SQSTM1/p62タンパク質、又は
-前記SQSTM1/p62タンパク質をコードする核酸分子を、
チェックポイント阻害剤に対する免疫療法抗体、又は化学療法剤及びチェックポイント阻害剤に対する免疫療法抗体の組み合わせとともに含む、
炎症を伴う病状を治療するために使用するための、組成物。
【請求項9】
前記炎症を伴う病状が、がん、特に、原発性腫瘍又は転移性腫瘍、特に、肺がん、腎臓がん、膀胱がん、頭頸部がん、子宮がん、黒色腫、ホジキンリンパ腫、大細胞型B細胞リンパ腫、メルケル病、肝細胞がん腫、及び消化管がん、好ましくは、ミニサテライト不安定性を有する消化管がんである、請求項8に記載のその使用のための組成物。
【請求項10】
キットであって、
-SQSTM1タンパク質と、
-チェックポイント阻害剤に対する免疫療法を誘導するために有用な抗体と、
-化学療法剤、好ましくは、前記化学療法剤が、プラチン化合物を含有する化学療法剤、又はパクリタキセル若しくはドセタキセル化合物、又は放射線療法のいずれかである、化学療法剤と、を含む、キット。
【請求項11】
前記抗体が、抗PD-L1抗体、抗PD-1抗体、又は抗CTLA-4抗体である、請求項12に記載のキット。
【請求項12】
SQSTM1/p62タンパク質を発現しない腫瘍、又は対照組織中のSQSTM1/p62タンパク質のレベルよりも低いレベルでSQSTM1/p62タンパク質を発現する腫瘍を治療するために使用するための、タキサンと関連して免疫療法ICI化合物を含む組成物。
【請求項13】
SQSTM1/p62タンパク質を発現する腫瘍、又は対照組織中のSQSTM1/p62タンパク質のレベルよりも高いレベルでSQSTM1/p62タンパク質を発現する腫瘍を治療するために使用するための、DNA損傷誘導剤と関連して免疫療法ICI化合物を含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質SQSTM1及び治療におけるその使用に関する。
【0002】
高等真核生物における免疫系は、外来病原体及び感染細胞による侵入に対して中心的な役割を果たす。外部傷害がない場合、免疫系はまた、細胞表面において異常な抗原又は異常に過剰発現されたタンパク質を検出することによって、発生期の形質転換細胞を慎重に調査し、効率的に認識する。
【0003】
古典的には、自然免疫細胞、すなわち、ナチュラルキラー細胞(natural killer cell、NK)、樹状細胞(dendritic cell、DC)、多形核白血球、及びマクロファージが、細胞溶解死滅による形質転換細胞の攻撃に対する防御の最前線として動員される。次いで、DCなどの抗原提示細胞(antigen-presenting cell、APC)が、腫瘍抗原を処理し、リンパ節へ移動し、Bリンパ球及びTリンパ球によって媒介されるより集中的な適応免疫応答をプライミングする。それぞれ、ナイーブCD4+及びCD8+T細胞に対するMHC-II及びMHC-I受容体を介した抗原提示時に、これらの細胞は、クローン増殖及び分化を受けて、エフェクター機能又は記憶機能を発揮する。T細胞機能は、核内で最高潮に達し、系統特異的転写因子を活性化する、TCR依存性及びサイトカイン依存性シグナル伝達カスケードによって分子レベルで決定付けられる。これは、多様な機能を発揮し、特異的表面マーカー及び核マーカー、並びに分泌されたエフェクター分子によって特徴付けられる、広範な一連のTリンパ球の発生をもたらす。
【0004】
T細胞サブセットのうち、「シリアルキラー」は明らかに、腫瘍部位へ移動し、Th1及びTh2 CD4+ヘルパーと協働して形質転換細胞を攻撃して死滅させる、CD8+細胞傷害性Tリンパ球(cytolytic T lymphocyte、CTL)である。CD4+細胞が、免疫刺激環境を作り出すことによって「補助」する一方で、CTLは、Fasリガンド及び炎症性腫瘍壊死因子(tumor-necrosis factor、TNF)、並びにパーフォリン(孔形成タンパク質)及びグランザイム(セリンプロテアーゼ)を含有する細胞傷害性顆粒を分泌することによって、標的細胞においてアポトーシス死を誘導する。ケモカインのうち、多数の研究が、腫瘍根絶におけるIFN-γの重要性を強調している。このサイトカインは、活性化されたCD4及びCD8 T細胞によって放出され、APCの発生及び機能を制御する。次いで、アポトーシス性腫瘍細胞が、迅速に検出され、マクロファージ及び樹状細胞などの専門の食細胞によって飲み込まれて、腫瘍抗原をCTLに提示し、過剰な炎症を回避する。加えて、CD4+調節性T細胞(regulatory T cell、Treg)が、炎症性応答を抑制する形質転換増殖因子β(transforming growth factorβ、TGF-β)、IL-10、及びIL-35を分泌し、それによって、組織損傷を制限する。理想的には、細胞傷害活性と調節活性との間の調整された平衡が、腫瘍細胞除去を可能にし、周囲の健康な組織の完全性を保つ。
【0005】
理論的には、有効な免疫監視が、T細胞プライミング及び腫瘍根絶の成功をもたらすであろう。
【0006】
しかしながら、臨床的に診断された腫瘍は、免疫監視を逃れる新生物細胞の能力を証明する。免疫抑制方略のうち、T細胞共阻害経路は、抗腫瘍応答を回避するために腫瘍細胞によって乗っ取られる。炎症の間、これらの共阻害経路(「免疫チェックポイント」とも呼ばれる)は、免疫細胞及び上皮細胞上で発現されて、共刺激シグナルの平衡を保ち、T細胞機能を阻害し、過剰な細胞傷害性を回避する。
【0007】
プログラム死-1(programmed death-1、PD-1)並びにそのリガンドPD-L1及びPD-L2は、群を抜いて有名な免疫阻害性カップルを形成する。PD-L1は、様々ながん、すなわち、黒色腫、神経膠腫、肺がん、結腸がん、膵臓がん、乳がん、腸がん、腎臓がん、膀胱がん、及び卵巣がんの細胞表面で過剰発現され、低い全生存に関連する。そのリガンドPD-L1に結合すると、PD-1シグナル伝達は、T細胞活性化(IFN-γ産生)、解糖、及び細胞周期進行を低減する。この再プログラミングの根底にあるシグナル伝達事象はまだ研究されていないが、結果として生じる機能不全T細胞はPD-1/PD-L1相互作用を遮断することによって再活性化され得ることが現在明らかである。
【0008】
これらのチェックポイントの知識により、科学者らが、それらを使用して、腫瘍に対する新しい治療、すなわち、チェックポイント阻害剤免疫療法を開発することにつながった。
【0009】
免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitor、ICI)、特に、腫瘍浸潤リンパ球(tumor-infiltrating lymphocyte、TIL)を再活性化し、腫瘍発生に対する有益な武器を構成するPD-1/PD-L1遮断抗体は、いくつかの進行性がんを治療し、全生存期間を延長することに有効であることが証明されている。
【0010】
残念ながら、客観的反応がホジキン病ではほぼ87%、線維形成性黒色腫では70%である、がん患者で観察される最も高い臨床的利益にもかかわらず、肺がん及び黒色腫などの他のがんの大多数は、チェックポイント阻害剤免疫療法に対してせいぜい25~30%の有効性を経験した。がん患者の残りの80%は、ICIに対する先天的又は後天的耐性に悩まされる。
【0011】
したがって、チェックポイント阻害剤免疫療法が決定された腫瘍で効率的であるか否かを病理学者が決定するのに役立ち得る、バイオマーカーを提供する必要性がある。
【0012】
したがって、本発明の目的は、従来技術のこの不足を取り除くことである。
【0013】
本発明の1つの目的は、チェックポイント阻害剤免疫療法の有効性の予測マーカーとしての既知のタンパク質の使用を提供することである。
【0014】
本発明の1つの他の目的は、この種の免疫療法に耐性があり得る腫瘍を予測するか、又は効率的に治療するための方法を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、腫瘍が単独又は組み合わせで免疫療法に応答するか否かを決定するための簡単ですぐに使用できるキットを提供することである。
【0016】
したがって、本発明は、p62とも呼ばれるか、又はSQSTM1/p62タンパク質と呼ばれるSQSTM1の使用であって、
-免疫療法、好ましくは、ICIとも呼ばれる免疫チェックポイント阻害剤に対する免疫療法、
-DNA修復を妨げる薬剤ではない薬剤を使用する化学療法、又は
-免疫療法、好ましくはICI、及び腫瘍の細胞の化学療法の組み合わせ、に対する応答を、好ましくはインビトロで調節するための使用に関する。
【0017】
本発明は、SQSTM1/p62が抗がん療法に対する応答の中心的マーカーであるという、本発明者らによってなされた予期しない観察に基づく。したがって、SQSTM1/p62タンパク質の発現を調節することによって、免疫療法、DNA修復を妨げる薬剤ではない薬剤を使用する化学療法、又は免疫療法及び化学療法の組み合わせに対する腫瘍の細胞の応答を改変又は調節することが可能である。
【0018】
これは、有利なことして、SQSTM1が存在するか、若しくは存在しないか、又は異なるレベルであるときに、インビトロで腫瘍の細胞が上記の治療を用いた処置に異なって応答し得ることを意味する。
【0019】
本発明は、SQSTM1/p62タンパク質を含む組成物であって、
-免疫療法、好ましくは、ICIとも呼ばれる免疫チェックポイント阻害剤に対する免疫療法、
-DNA修復を妨げる薬剤ではない薬剤を使用する化学療法、又は
-免疫療法、好ましくはICI、及び腫瘍の細胞の化学療法の組み合わせ、を、好ましくはインビトロで調節するための上記組成物に関する。
【0020】
最初の自食作用アダプタータンパク質であることで有名である、セクエストソーム1タンパク質又はSQSTM1/p62は、最も重要なこととして、細胞増殖、細胞遊走、及び細胞生存を含む無数の細胞機能を制御するシグナル伝達ハブである。SQSTM1/p62は、固有のシグナル伝達機能を有していないが、キナーゼ、ユビキチンリガーゼ、及び他のタンパク質と相互作用して、シグナル伝達経路を駆動する。
【0021】
SQSTM1/p62タンパク質は、がんにおいて調節解除されることが報告されたが、SQSTM1/p62タンパク質が抗がん療法に対する耐性又は感受性を評価するための中心的マーカーであり得ることは決して教示されることも示唆されることもなかった。
【0022】
本発明では、「化学療法」とは、化学療法化合物を用いた処置又は放射線療法を使用することによる処置のいずれかを意味する。
【0023】
化学療法化合物は、本発明によれば、がん細胞だけでなく正常細胞においても、DNA損傷、DNA修復、DNA複製、DNAメチル化、後成的修飾、先天的防御、IFN応答、又は細胞分裂に影響を及ぼす化合物に対応する。
【0024】
本発明では、免疫療法又はがん免疫療法は、標的抗体、がんワクチン、養子細胞移入、腫瘍感染ウイルス、合成ウイルス、合成RNA/DNA、並びに免疫チェックポイント阻害剤、サイトカイン、及びアジュバントを含む、様々な形態を包含する。免疫療法の目的は、身体の自然防御を強化してがん細胞と戦うことである。
【0025】
具体的な免疫療法のうちの1つは、免疫チェックポイントの阻害剤の使用である。
【0026】
免疫チェックポイントは、免疫系の正常な部分であり、免疫応答が身体内の健康な細胞を破壊するほど強くなることを防止する。免疫チェックポイントは、T細胞表面上のタンパク質がいくつかの腫瘍細胞などの他の細胞上のパートナータンパク質を認識し、それに結合するときに関与する。チェックポイントタンパク質及びパートナータンパク質がともに結合すると、それらは、「オフ」シグナルをT細胞に送信する。これは、免疫系ががんを破壊することを防止し得る。免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる免疫療法薬は、チェックポイントタンパク質がそのパートナータンパク質と結合することを阻止することによって作用する。これは、「オフ」信号が送信されることを防止し、T細胞ががん細胞を死滅させることを可能にする。1つのそのような薬物は、CTLA-4タンパク質、PD-1タンパク質、又はそのパートナータンパク質PD-L1と呼ばれる、チェックポイントタンパク質に対して作用する。
【0027】
有利なこととして、本発明は、好ましくはインビトロで、免疫チェックポイント阻害剤に対する免疫療法に対する応答を調節するためのSQSTM1/p62タンパク質の使用に関する。
【0028】
有利なこととして、本発明は、好ましくはインビトロで、DNA修復を妨げる薬剤ではない薬剤を使用する化学療法に対する応答を調節するためのSQSTM1/p62タンパク質の使用に関する。
【0029】
有利なこととして、本発明は、好ましくはインビトロで、ICI及び化学療法の組み合わせに対する応答を調節するためのSQSTM1/p62タンパク質の使用に関する。
【0030】
有利なこととして、本発明は、当該SQSTM1/p62タンパク質が、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むか、又はそれから本質的になるか、若しくはそれからなる、上記で定義される使用に関する。
【0031】
有利なこととして、本発明は、当該SQSTM1/p62タンパク質が、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むか、又はそれから本質的になるか、若しくはそれからなる、上記で定義されるその使用のための上記で定義されるような上記組成物に関する。
【0032】
ヒトSQSTM1/p62タンパク質は、以降に表される配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる:
MASLTVKAYL LGKEDAAREI RRFSFCCSPE PEAEAEAAAG PGPCERLLSR VAALFPALRP GGFQAHYRDE DGDLVAFSSD EELTMAMSYV KDDIFRIYIK EKKECRRDHR PPCAQEAPRN MVHPNVICDG CNGPVVGTRY KCSVCPDYDL CSVCEGKGLH RGHTKLAFPS PFGHLSEGFS HSRWLRKVKH GHFGWPGWEM GPPGNWSPRP PRAGEARPGP TAESASGPSE DPSVNFLKNV GESVAAALSP LGIEVDIDVE HGGKRSRLTP VSPESSSTEE KSSSQPSSCC SDPSKPGGNV EGATQSLAEQ MRKIALESEG RPEEQMESDN CSGGDDDWTH LSSKEVDPST GELQSLQMPE SEGPSSLDPS QEGPTGLKEA ALYPHLPPEA DPRLIESLSQ MLSMGFSDEG GWLTRLLQTK NYDIGAALDT IQYSKHPPPL。
【0033】
このタンパク質は、NCBIデータベースNM_003900.5で参照され、配列番号2として列挙される核酸分子によってコードされる。
【0034】
したがって、有利な実施形態では、本発明は、好ましくはインビトロで、免疫チェックポイント阻害剤に対する免疫療法に対する応答を調節するための配列番号1に示されるSQSTM1/p62タンパク質の使用に関する。
【0035】
有利なこととして、本発明は、好ましくはインビトロで、DNA修復を妨げる薬剤ではない薬剤を使用する化学療法に対する応答を調節するための配列番号1に示されるSQSTM1/p62タンパク質の使用に関する。
【0036】
有利なこととして、本発明は、好ましくはインビトロで、ICI及び化学療法の組み合わせに対する応答を調節するための配列番号1に示されるSQSTM1/p62タンパク質の使用に関する。
【0037】
1つの他の態様では、本発明はまた、好ましくはインビトロ又はエクスビボで、腫瘍の治療に対する耐性を予測するための方法に関し、当該治療は、化学療法及び/又は免疫療法であり、当該方法は、
-腫瘍に由来する生体試料中のSQSTM1/p62タンパク質の存在若しくは非存在又は量を評価することと、
-SQSTM1/p62タンパク質の存在、非存在、又は量を、対照試料中のSQSTM1/p62タンパク質の量と比較することと、
-以下
*SQSTM1/p62タンパク質が当該生体試料中に存在しないか、又は対照試料中で取得された量以下であるときに、腫瘍が治療に耐性がある可能性が高い、及び
*SQSTM1/p62タンパク質が当該生体試料中に存在するか、又は対照レベルよりも高いときに、腫瘍が治療に感受性がある可能性が高い、と結論付けることと、を含む。
【0038】
本発明では、本発明者らは、SQSTM1/p62タンパク質の発現又は発現の調節解除が、腫瘍の治療に対する耐性又は感受性の有益なマーカーであることを示している。
【0039】
実際に、本発明者らは、腫瘍又は腫瘍試料中のSQSTM1/p62タンパク質の存在又は発現の増加が、化学療法、免疫療法、又は両方の療法に対する当該腫瘍又は当該腫瘍試料の感受性のマーカーであることを示している。同様に、SQSTM1/p62タンパク質が腫瘍又は腫瘤において発現されないか、又は未発現であるとき、腫瘍又は腫瘍試料は、化学療法、免疫療法、又は両方の療法に耐性があることになろう。
【0040】
タンパク質、すなわち、SQSTM1/p62タンパク質の存在若しくは非存在、又は量の変動が、決定因子である。実際に、SQSTM1/p62タンパク質の存在の生物学的効果は、腫瘍の感受性/耐性の重要点である。したがって、特に、転写レベルと翻訳レベルとの間に相関関係がない場合、SQSTM1/p62をコードする核酸分子(すなわち、RNA)の量を評価することは十分ではない。
【0041】
SQSTM1/p62タンパク質の存在又は量の検出は、特に、抗体又はその誘導体などの免疫学的手段を使用することによる、タンパク質を特異的に検出するための当技術分野で公知である任意の技術によって、実行することができる。この検出は、免疫組織化学、免疫ブロット法、インサイチュでの免疫蛍光によって、又はフローサイトメーターを使用することによって、実行することができる。
【0042】
SQSTM1/p62タンパク質の存在、非存在、又は量の変動は、腫瘍に由来する、すなわち、生検若しくは液体生検に由来するか、又は当該腫瘍に由来する循環細胞が存在する血液試料に由来する試料で評価される。白血病又はリンパ腫などの血液学的腫瘍の場合、生体試料は、血液試料、又は骨髄若しくは悪性細胞が生着した臓器から取得された生検のいずれかである。
【0043】
SQSTM1/p62の存在、非存在又は量は、参照試料中のタンパク質の存在、非存在、又は量と比較して決定される。有利なこととして、参照試料は、腫瘍と同じ性質又は起源のものである。これは、腫瘍が肺腫瘍である場合、参照試料が肺がんに罹患していない個人の肺又は同じ患者由来の隣接する対照組織から取得されることを意味する。
【0044】
参照試料は、陰性参照試料、すなわち、腫瘍に対応しないことが知られている試料、又はSQSTM1/p62タンパク質の量若しくは非存在が知られている陽性参照試料のいずれかであり得る。本発明における参照試料は、例えば、隣接する健康な組織から取得され得る。
【0045】
研究されるべき試料と参照試料との両方の間で存在、非存在、又は量を比較するために、SQSTM1/p62タンパク質の検出は、発光又は蛍光、褐色比色シグナルの定量などの当技術分野で公知の手段によって定量化され得る。過剰発現がんにおける点状SQSTM1/p62染色パターン対健康な組織における辛うじて均一な染色の検出(以下の実施例を参照)。
【0046】
有利なこととして、SQSTM1/p62タンパク質は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる。
【0047】
したがって、有利なこととして、本発明はまた、腫瘍の治療に対する耐性を予測するための方法に関し、当該治療は、化学療法及び/又は免疫療法であり、当該方法は、
-腫瘍に由来する生体試料中の配列番号1に示されるSQSTM1/p62タンパク質の存在若しくは非存在又は量を評価することと、
-SQSTM1/p62タンパク質の存在、非存在、又は量を、対照試料中の配列番号1に示されるSQSTM1/p62タンパク質の量と比較することと、
-以下
*配列番号1に示されるSQSTM1/p62タンパク質が当該生体試料中に存在しないか、又は対照試料中で取得された量以下であるときに、腫瘍が治療に耐性がある可能性が高い、及び
*配列番号1に示されるSQSTM1/p62タンパク質が当該生体試料中に存在するか、又は対照レベルよりも高いときに、腫瘍が治療に感受性がある可能性が高い、と結論付けることと、を含む。
【0048】
有利なこととして、本発明は、SQSTM1/p62タンパク質の存在又は非存在が、生体試料においてインサイチュで、好ましくは、組織生検又は液体生検において評価される、上記で定義される方法に関する。
【0049】
当技術分野で公知であるように、組織バイオプシーは、疾患の存在又は程度を決定するための検査のための試料細胞又は組織の抽出を伴う。組織は、一般的に、病理学者によって顕微鏡下で検査される。これはまた、化学的に、又はプロテオーム分析を使用することによって分析され得る。
【0050】
液体生検は、血液などの流体中を循環するバイオマーカーを使用する腫瘍の分析に対応する。いくつかのタイプの液体生検方法が存在する。方法選択は、研究されている状態に依存する。液体生検は、がん細胞の検出だけでなく、タンパク質及び循環腫瘍核酸(DNA又はRNA-ctDNA)の検出にも基づく。
【0051】
多種多様なバイオマーカーを、疾患を検出又は監視するために調査することができる。
【0052】
有利なこととして、本発明は、インサイチュ評価が免疫学的手段によって実行される、上記で定義される方法に関する。
【0053】
上述のように、SQSTM1/p62タンパク質の存在、非存在、又は量は、生体試料においてインサイチュで評価され、これは、SQSTM1/p62タンパク質の存在、非存在、又は量が、腫瘍に由来する細胞上で直接評価されることを意味する。
【0054】
組織生検が使用される場合、タンパク質の存在若しくは非存在又は量を決定するために免疫組織化学技法を実行することが有利である。したがって、一般的にペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼなどの標識色素原と結合した二次抗体と併せて、特異的抗SQSTM1/p62抗体が使用される。免疫細胞化学技法も実行することができる。
【0055】
液体生検が使用される場合、試料において、又はフローサイトメーターを使用することによってのいずれかで、SQSTM1/p62タンパク質を発現する細胞を検出するために、フルオロフォアに結合した特異的抗SQSTM1/p62抗体を使用することが有利である。分泌されたSQSTM1/p62はまた、抗SQSTM1/p62抗体を用いたELISA又はプロテオミクスアプローチなどの周知の技術によって検出することもできる。
【0056】
これらの技法は、当技術分野で周知であり、細胞中のタンパク質を識別する知識を有する当業者は、研究される試料のタイプに応じて最も適切な技法を使用するであろう。
【0057】
別の態様では、本発明はまた、好ましくはインビトロで、腫瘍に罹患している患者の生存率を予測するための方法に関し、当該方法は、
-腫瘍に由来する生体試料中のSQSTM1/p62タンパク質の存在若しくは非存在又は量を評価することと、
-SQSTM1/p62タンパク質の存在、非存在、又は量を、対照試料で評価されたSQSTM1/p62タンパク質の量と比較することと、
-以下
*当該生体試料中のSQSTM1/p62タンパク質が存在しないか、又は対照試料中で取得される量以下であるときに、患者が5年後に80%よりも高い生存率を有する、及び
*当該生体試料中のSQSTM1/p62が存在するか、又は対照試料中で取得される量よりも多いときに、患者が5年後に70%よりも低い生存率を有するであろう、と結論付けることと、を含む。
【0058】
本発明の別の態様では、本発明者らは、上記に開示されるタンパク質SQSTM1/p62の発現レベルを単に測定することによって、腫瘍に罹患している患者の生存率を予測することが可能であることを特定した。
【0059】
本発明者らは、タンパク質SQSTM1/p62の発現レベルが、非腫瘍性の、より一般的には、健康ではない生体試料で観察される相対発現レベル以下であるときに、試料が取得される個人が、80%よりも高い5年にわたる生存の可能性を有するであろうことに注目した。反対に、タンパク質の発現レベル、すなわち、量が参照試料中のレベルより高いとき、試料が取得される個人は、80%よりも低い5年にわたる生存の可能性を有するであろう。
【0060】
したがって、本発明者らは、腫瘍におけるSQSTM1/p62タンパク質の発現の増加が、例えば、腫瘍免疫回避に起因する、腫瘍の重症度及びその潜在的攻撃性の顕著な特徴であることを特定した。
【0061】
したがって、生体腫瘍試料中のSQSTM1/p62タンパク質の量の変動量を評価することは、患者の転帰を決定するために、かつ患者に適切な治療を提供するために有用であり得る。
【0062】
有利なこととして、本発明は、
-PD-L1タンパク質、及び
-T CD8リンパ球
の存在、非存在、又は量が、SQSTM1/p62タンパク質の存在若しくは非存在又は量と同時に評価され、対照試料中で評価されたそれぞれのPD-L1タンパク質及びCD8+Tリンパ球の存在、非存在又は量と比較され、
当該生体試料中のSQSTM1/p62タンパク質、PD-L1タンパク質、及びCD8+Tリンパ球が存在するか、又は対照試料中で取得された量よりも多いときに、患者が5年後に50%よりも低い生存率を有するであろう、上記で定義される方法に関する。
【0063】
本発明者らはまた、有利なこととして、PD-L1タンパク質及びT CD8リンパ球の量を更に評価することが、5年にわたる生存の予後を精緻化するために有用であり得ることも特定している。実際に、SQSTM1/p62及びPD-L1タンパク質の増加は、T CD8リンパ球の増加とともに、分割者が5年にわたる腫瘍の悪い転帰を予測することを可能にする。したがって、可能性として他の化合物と関連する抗PD-L1抗体を使用する免疫療法などの適切な治療が提案され得る。
【0064】
本発明では、上述の患者は、シスプラチン、ドセタキセル、オキザリプラチンなどのDNA損傷剤、DNA/エピジェネティック薬(とりわけ、DNAメチラーゼ阻害剤、5-アザシチジン、デシタビン、HDAC阻害剤、ヒストンメチラーゼ阻害剤)、細胞周期阻害剤(パルボシクリブ/PD-0332991、アベマシクリブ、及びリボシクリブ/LEE011などのCDK4/6阻害剤)、先天的防御、IFN応答...で更に治療することができる。
【0065】
本発明はまた、好ましくはインビトロで、腫瘍に罹患し、化学療法及び/又は免疫療法で治療された患者の生存率を予測するための方法に関し、当該方法は、
-腫瘍に由来する生体試料中のSQSTM1/p62タンパク質の存在若しくは非存在又は量を評価することと、
-SQSTM1/p62タンパク質の存在、非存在、又は量を、対照試料で評価されたSQSTM1/p62タンパク質の量と比較することと、
-以下
*当該生体試料中のSQSTM1/p62が存在しないか、又は対照試料中で取得された量以下であるときに、患者が20ヶ月の処置後に10%以下の生存率を有する、及び
*当該生体試料中のSQSTM1/p62が存在するか、又は対照試料中で取得された量よりも多いときに、患者が20ヶ月の処置後に50%以上の生存率を有するであろう、と結論付けることと、を含む。
【0066】
本発明はまた、好ましくはインビトロで、腫瘍に罹患し、化学療法若しくは免疫療法、又は両方で治療された患者の生存率を予測するための方法に関し、当該方法は、
-腫瘍に由来する生体試料中のSQSTM1/p62タンパク質の存在若しくは非存在又は量を評価することと、
-SQSTM1/p62タンパク質の存在、非存在、又は量を、対照試料で評価されたSQSTM1/p62タンパク質の量と比較することと、
-以下
*当該生体試料中のSQSTM1/p62が存在しないか、又は対照試料中で取得された量以下であるときに、患者が20ヶ月の処置後に10%以下の生存率を有する、及び
*当該生体試料中のSQSTM1/p62が存在するか、又は対照試料中で取得された量よりも多いときに、患者が20ヶ月の処置後に50%以上の生存率を有するであろう、と結論付けることと、を含む。
【0067】
本発明の別の態様では、本発明者らはまた、腫瘍に罹患し、免疫療法又は化学療法を使用することによって治療された患者の生存率の予測が、SQSTM1/p62タンパク質の発現レベルを測定することによって評価され得ることも特定している。
【0068】
本発明者らは、腫瘍を有し、免疫療法若しくは化学療法、又は両方で治療された患者が参照量よりも多いSQSTM1/p62の量を有するときに、患者が20ヶ月にわたって良好な転帰を有することに注目している。しかしながら、SQSTM1/p62の量が参照レベルよりも低い場合、患者は、20ヶ月にわたって悪い転帰を有するであろう。
【0069】
したがって、転帰を増加させることを意図するために、当該患者の腫瘍においてSQSTM1/p62の発現を実施することが可能である。SQSTM1/p62タンパク質の量を増加させるために、ベクター療法又は化学療法を使用することができる。当業者は、そのようなタンパク質発現を実施する最良の方法を容易に決定し得る。
【0070】
本発明はまた、組成物であって、
-SQSTM1/p62タンパク質、又は
-当該SQSTM1/p62タンパク質をコードする核酸分子を、
チェックポイント阻害剤に対する免疫療法抗体、又は組み合わせ、若しくは化学療法剤及びチェックポイント阻害剤に対する免疫療法抗体の組み合わせとともに含む、
炎症を伴う病状を治療するために使用するための組成物、に関する。
【0071】
別の態様では、本発明は、SQSTM1/p62タンパク質を、
化学療法剤若しくはチェックポイント阻害剤に対する免疫療法抗体、又は両方とともに含む、
炎症を伴う病状を治療するために使用するための組成物に関する。
【0072】
更に、本発明は、当該SQSTM1/p62タンパク質をコードする核酸分子を、
化学療法剤若しくはチェックポイント阻害剤に対する免疫療法抗体、又は両方とともに含む、
炎症を伴う病状を治療するために使用するための組成物に関する。
【0073】
別の態様では、本発明は、SQSTM1/p62のエフェクターのうちの1つを、
化学療法剤若しくはチェックポイント阻害剤に対する免疫療法抗体、又は両方とともに含む、
炎症を伴う病状を治療するために使用するための組成物に関する。
【0074】
本発明では、炎症を伴う病状は、例えば、がん及び自己免疫疾患、並びに感染症を伴う病状であり得る。
【0075】
更に、本発明は、SQSTM1/p62のエフェクターのうちの1つをコードする核酸分子を、
化学療法剤若しくは免疫療法抗体、又は両方とともに含む、
炎症を伴う病状を治療するために使用するための組成物に関する。
【0076】
上述のように、本発明者らは、SQSTM1/p62タンパク質の発現の増加が、炎症及び炎症を伴う病状の発症又は進行を著しく低減し得ることを予期せず見出している。
【0077】
上記の組成物は、タンパク質自体、特に、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は当該タンパク質をコードする核酸分子のいずれかを含有し得る。
【0078】
上述の核酸分子は、配列番号2に示される分子であり得る。
【0079】
有利なこととして、SQSTM1/p62タンパク質又は当該タンパク質をコードする核酸分子、並びに化学療法剤及び/又は免疫療法抗体を、同時に、別々に、又は連続して、当業者によって決定される決定された用量で使用することができる。分離又は連続使用は、タンパク質と化学療法剤及び/又は免疫療法抗体との間の適合性に依存するであろう。
【0080】
有利なこととして、本発明は、炎症を伴う当該病状が、がん、特に、原発性腫瘍又は転移性腫瘍である、上記で定義されるその使用のための上記で定義される組成物に関する。
【0081】
原発性腫瘍は、腫瘍進行が始まり、進行してがん性腫瘤を生じさせた、解剖学的部位で増殖する腫瘍である。大部分のがんは、その原発部位で発症する。
【0082】
転移性腫瘍は、それが始まった身体の部分(原発部位)から身体の他の部分に広がった腫瘍である。がん細胞が腫瘍から離脱すると、それらは血流又はリンパ系を通って身体の他の部分に移動することができる。
【0083】
有利なこととして、本発明は、当該がんが、肺がん、腎臓がん、膀胱がん、頭頸部がん、子宮がん、黒色腫、ホジキンリンパ腫、大細胞型B細胞リンパ腫、メルケル病、肝細胞がん、及び消化管がん、好ましくは、ミニサテライト不安定性を有する消化管がんである、上記で定義されるその使用のための上記で定義される組成物に関する。
【0084】
メルケル細胞がんは、しばしば、顔、頭、又は首で、通常、肌色又は青みがかった赤色の結節として現れる、珍しいタイプの皮膚がんである。メルケル細胞がんはまた、皮膚の神経内分泌がんとも呼ばれる。
【0085】
本発明はまた、キットであって、
-SQSTM1タンパク質、又は当該SQSTM1タンパク質若しくはその当該断片をコードする核酸分子と、
-チェックポイント阻害剤に対する免疫療法を誘導するために有用な抗体と、
-化学療法剤と、を含む、キット、に関する。
【0086】
本発明によるキットは、有利なこととして、配列番号1に示されるSQSTM1タンパク質、又はSQSTM1タンパク質をコードする核酸分子を含み、核酸分子は、有利なこととして、配列番号2に示される分子である。
.
【0087】
当該抗体が、抗PD-L1抗体、抗PD-1抗体、又は抗CTLA-4抗体である、上記の定義によるキット。
【0088】
有利なこととして、本発明はまた、キットであって、
-SQSTM1タンパク質、又は当該SQSTM1タンパク質若しくはその当該断片をコードする核酸分子と、
-免疫療法を誘導するために有用な抗PD-L1抗体、抗PD-1抗体、又は抗CTLA-4抗体と、
-化学療法剤と、を含む、キット、に関する。
【0089】
有利なこととして、本発明は、当該化学療法剤が、プラチン化合物を含有する化学療法剤、又はパクリタキセル若しくはドセタキセル化合物、又は放射線療法のいずれかである、上記で定義されるキットに関する。
【0090】
プラチンを含有する化合物の例は、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキザリプラチン、ネダプラチン、四硝酸トリプラチン、フェナントリプラチン、サトラプラチン、又はピコプラチンである。
【0091】
DNAメチラーゼ阻害剤、5-アザシチジン、デシタビンHDAC阻害剤、ヒストンメチラーゼ阻害剤)、細胞周期阻害剤(パルボシクリブ/PD-0332991、アベマシクリブ、及びリボシクリブ/LEE011などのCDK4/6阻害剤)、先天的防御、IFN応答などの他の化合物も使用することができる。
【0092】
放射線療法は、がんの初期段階で、又はそれが広がり始めた後に使用され得る。最も一般的なタイプは、
-放射線のビームを腫瘍に慎重に向けるために機械が使用される、外部放射線療法、
-放射性金属の小片が腫瘍の近くで身体内に(通常は一時的に)配置される、放射線療法インプラント(小線源療法)、
-放射性液体を嚥下するか、又はそれを血液に注射させる、放射線療法注射、カプセル、又は飲料(放射性同位体療法)、及び
-放射線が乳がん手術中に腫瘍に直接送達される、イントラビーム放射線療法、である。
【0093】
放射線療法で使用される放射線の量は、グレイ(gray、Gy)で測定され、治療されているがんのタイプ及び病期に応じて変動する。固形上皮腫瘍のための典型的な線量が、治癒症例では60~80Gyの範囲である一方で、リンパ腫は、20~40Gyで治療される。
【0094】
予防線量は、典型的には、(乳がん、頭部がん、及び頸部がんには)1.8~2Gy分割で約45~60Gyである。患者が化学療法を受けているかどうか、患者の共存疾患、放射線療法が手術の前又は後に投与されているかどうか、及び手術の成功の程度を含む、多くの他の因子が、線量を選択するときに放射線腫瘍専門医によって考慮される。
【0095】
本発明は、以下の図面及び下記の実施例を考慮して、より良く理解されるであろう。
【0096】
本発明はまた、腫瘍に罹患している個人を治療するための方法に関し、当該方法は、
-腫瘍に由来する生体試料中のSQSTM1/p62タンパク質の存在若しくは非存在又は量を評価することと、
-SQSTM1/p62タンパク質の存在、非存在、又は量を、対照試料で評価されたSQSTM1/p62タンパク質の量と比較することと、
-以下
*当該生体試料中のSQSTM1/p62タンパク質が存在するか、又は対照試料中で取得された量以上であるときに、免疫療法、好ましくは、免疫チェックポイント阻害剤に対する免疫療法が、化学療法、特に、DNA損傷誘導剤と関連して、又は関連せずに患者に投与される、及び
*当該生体試料中のSQSTM1/p62が存在しないか、又は対照試料中で取得された量よりも少ないときに、免疫療法、好ましくは、免疫チェックポイント阻害剤に対する免疫療法が、タキサン系化学療法の構成要素と関連して患者に投与される、と結論付けることと、を含む。
【0097】
本発明はまた、その細胞がSQSTM1/p62タンパク質の発現を有するか、又は対照試料よりも多いSQSTM1/p62タンパク質の量を有する腫瘍に罹患している患者を治療するために使用するための、可能性として化学療法剤と関連して少なくとも免疫療法化合物を含む組成物に関する。
【0098】
本発明はまた、その細胞がSQSTM1/p62タンパク質の発現を有していないか、又は対照試料よりも少ないSQSTM1/p62タンパク質の量を有する腫瘍に罹患している患者を治療するために使用するための、タキサンと関連して少なくとも免疫療法化合物を含む組成物に関する。
【0099】
換言すると、本発明は、SQSTM1/p62タンパク質を発現しない腫瘍、又は対照組織中のSQSTM1/p62タンパク質のレベルよりも低いレベルでSQSTM1/p62タンパク質を発現する腫瘍を治療するために使用するための、タキサンと関連して免疫療法化合物を含む組成物に関する。
【0100】
具体的ながんを治療するために使用される上述の組成物は、好ましくは、抗PD-L1抗体、抗PD-1抗体、又は抗CTLA-4抗体を含有する。これはまた、上記に記載される処置の方法にも該当する。
【0101】
換言すると、本発明は、SQSTM1/p62タンパク質を発現する腫瘍、又は対照組織中のSQSTM1/p62タンパク質のレベルよりも高いレベルでSQSTM1/p62タンパク質を発現する腫瘍を治療するために使用するための、DNA損傷誘導剤と関連して免疫療法化合物を含む組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0102】
図1~
図3:がん療法に対する耐性が、DNA損傷修復シグネチャー及び「冷たい(COLD)」免疫原性プロファイルを共有する。
【
図1】The Cancer Genome Atlasデータベース(TCGA、PanCancer Atlas、上)及び対応するヒートマップ(下)からの、冷たいヒト黒色腫(SKCM)(CD8Aについて陰性、かつHLA-B転写産物レベルについて陰性)におけるDNA修復の遺伝子セットの著しい活性化が存在することを示すGSEA分析を表す。基本色:薄い灰色及び濃い灰色は、それぞれ、低い発現及び高い発現に対応する。
【
図2】シスプラチン耐性非小細胞肺がん(non-small cell lung cancer、NSCLC、応答者-R、非応答者-NR、GEOプロスペクト研究)におけるDNA修復の遺伝子セットの著しい活性化、及び同種移植片拒絶の阻害、白血球媒介細胞傷害性遺伝子セットを示す、GSEAプロットを表す。
【
図3】ICI耐性黒色腫におけるDNA修復及び細胞周期チェックポイント遺伝子セットの著しい強化を示す、GSEA及びボックスプロット分析を表す(抗PD-1、NR、cBioportal、https://portals.broadinstitute.org/single-cell/study/melanoma-immunotherapy-resistance#study-visualize、GSE115978)。
図4~
図9:SQSTM1/p62は、免疫療法に対する応答の強力な予測因子である。
【
図4】SQSTM1が、「ICIに対する応答」、「RTに対する応答」(RT:Radiotherapy、放射線療法)、及び「NF-kBシグナル伝達」シグネチャーの間の差分発現遺伝子のベン図の交点にあることを表す(GSEA、KEGG)。
【
図5】p62/SQSTM1の構造及び相互作用パートナーを表す。SQSTM1は、自食作用機構、並びに細胞死、炎症、DNA修復、及び最終的にはがんに関与するシグナル伝達経路とのその相互作用に必要とされる複数のドメインから構成される。PB1 Phox及びBem1、ZZジンクフィンガー、RIR Raptor相互作用領域、TBS Traf6結合部位、LIR Lc3相互作用領域、KIR Keap1相互作用領域、UBA Ub関連、NLS核局在化シグナル、NES核外輸送シグナル。
【
図6】The Cancer Genome Atlasデータベース(TCGA、PanCancer Atlas)からのヒト黒色腫(SKCM)及び肺がん(LUAD)におけるSQSTM1転写産物レベルと正及び負に相関した抗原提示及びDNA修復シグネチャーのGSEAプロットを表す。
【
図7】ICI応答者(R)対非応答者(NR)の間の最も差分的に発現されたシグナル伝達足場タンパク質のリストを表す。挿入図。ICI応答者(R)対非応答者(NR)におけるSQSTM1 mRNA発現のボックスプロット(抗PD-1、調整p値、黒色腫、GSE115978)。
【
図8】SQSTM1高(high、H)対低(low、L)、及びSQSTM1高/PD-L1高/CD8高(HHH)対免疫療法で治療された患者の他の群における疾患特異的生存(disease-specific survival、DSS)曲線を示す、カプラン・マイヤープロットを表す。
【
図9】LUAD腫瘍切片上のSQSTM1、PD-L1、及びCD8陽性並びに陰性IHC染色の代表的な画像を表す。単一のSQSTM1アッセイが、免疫療法に応答する「偽陰性」(高SQSTM1発現)症例と、PD-L1発現評価単独で観察された「偽陽性」症例(低温微小環境及び低SQSTM1発現を有する非応答者)とを正確に区別できたことに留意されたい。
図10~
図16:SQSTM1枯渇は、「冷たい」表現型及びDDA耐性を誘導するために十分である。
【
図10】それぞれ、高及び低SQSTM1発現を有する190個の肺がん細胞株にわたって、「熱い(Hot)」表現型[CD274、抗原提示(左下)]、シスプラチン/RT感受性(RT放射線療法)、及びDNA修復(下、左、右)に関連する遺伝子セットの著しい強化を示す、ヒートマップ(上)及び対応するGSEAプロファイルを表す。薄い灰色及び濃い灰色は、それぞれ、低い発現及び高い発現に対応する。
【
図11】2つの独立したSQSTM1 shRNAによるshRNAノックダウン後のSQSTM1タンパク質レベル(SQSTM1#1及び#2対対照shRNA)の効率的な減少を示す、ウェスタンブロットを表す。次いで、SQSTM1枯渇に対するA549肺がん細胞応答が、HLA-B及びDNA修復に関して調査された(RAD51、及びP-Thr68-CHK2 WB)。
【
図12】shRNAノックダウン後のケモカイン発現(CXCL10、IL29)を表す。対照又はSQSTM1 shRNA、並びにSQSTM1プラスミドでトランスフェクトされたshSQSTM1細胞(救済のため、#2+SQ)を発現するA549における遺伝子発現が、qRT-qPCRによって測定された。同様の結果が、3つの独立した実験で観察された。
【
図13】shRNAノックダウン後のMHC-I発現(HLA-A-C、qRT-PCR)を表す。対照又はSQSTM1 shRNA、並びにSQSTM1プラスミドでトランスフェクトされたshSQSTM1細胞(救済のため、#2+SQ)を発現するA549における遺伝子発現が、qRT-qPCRによって測定された。同様の結果が、3つの独立した実験で観察された。
【
図14】SQSTM1 shRNAノックダウン後のA549細胞生存率(シスプラチン用量応答、IC50、Cis:シスプラチン、5日間)を表す。
【
図15】DDA処置に応答したHLA-B(左)及びPD-L1(右)遺伝子発現を表す(Cis:シスプラチン、10μM、Oxa:オキサリプラチン、1.4μM、Dox:ドキソルビシン、50nM、RT:電離放射線、10Gy、5日間)を表す。
【
図16】対照、SQSTM1、又はATG5 shRNAで形質導入されたA549におけるMHC-I(A~C、上、フローサイトメトリー)及びPD-L1細胞表面発現(下、フローサイトメトリー)を表す。同様の結果が、3つの独立した実験で観察された。HLA-B及びPD-L1発現の最大増強が、他の実験のために選択されたシスプラチンによって達成された。
【
図17】DDA耐性に対するSQSTM1枯渇の結果を表す。示されたDDAを用いた5日の処置後のshControl及びshSQSTM1 A549細胞におけるクリスタルバイオレット細胞傷害性アッセイ(右)からのIC50濃度(N=3)。
図18~
図22:DNA損傷剤は、SQSTM1依存性様式でPD-L1/MHC-Iの後期発現を誘導する。
【
図18】shControl及びshSQSTM1 A549細胞が、10μMのシスプラチンで処置された。示された時間に、大域的なDNA損傷(A)が、53BP1病巣形成によって測定された(右の免疫蛍光染色、53BP1赤色、Dapi、青色。左、5つより多くのスポットを有する細胞の割合)。
【
図19】シスプラチンで処置したA549細胞におけるTBK1及びJAK経路のSQSTM1依存性活性化。細胞が溶解され、TBK1及びJAK経路の活性化が、抗ホスホ-Ser172-TBK1(phospho-Ser172-TBK1、P-TBK1)及び抗ホスホ-Tyr701-STAT1(phospho-Tyr701-STAT1、P STAT1)を用いたWCLのウェスタンブロッティングによって評価された。チューブリン及びTBK1が、ローディング対照として使用された(N=3)。
【
図20】I型及びIII型インターフェロンの相対発現(左、5日-5d、N=3)、並びにIL29発現の動態が、qRT-PCRによって測定された(右、N=3)。
【
図21】シスプラチン誘導HLA-B mRNA(左、qRT-PCR、N=3)、タンパク質(中央、上:ウェスタンブロット、下:チューブリンに対して正規化されたImageJによる濃度測定のための倍数変化、N=4)、及び細胞表面発現(フローサイトメトリー、右、N=3)の時間経過。蛍光強度中央値(Median Fluorescence Intensity、MFI)及び陽性細胞の%が示される。
【
図22】シスプラチン誘導PD-L1 mRNA(左、qRT-PCR、N=3)、タンパク質(中央、上:ウェスタンブロット、下:チューブリンに対して正規化されたImageJによる濃度測定のための倍数変化、N=4)、及び細胞表面発現(フローサイトメトリー、右、N=3)の時間経過。蛍光強度中央値(MFI)及び陽性細胞の%が示される。
図23~
図24:シスプラチンは、SQSTM1とは無関係に細胞周期停止及びDNAメチル化を誘導する。
【
図23】シスプラチンで処置したshControl及びshSQSTM1 A549細胞におけるCDKN1A及びDNMT1遺伝子発現(10μM、qRT-PCR、N=3)。
【
図24】ICI応答を、DNA修復シグネチャー、細胞周期、及びDNAメチル化と相関させる、GSEA及びボックスプロット分析(抗PD-1、cBioportal、https://portals.broadinstitute.org/singlecell/study/melanoma-immunotherapy-resistance#study-visualize)。
図25:免疫原性細胞死(immunogenic cell death、ICD)誘導物質が、SQSTMI依存性経路を通してHLA-B及びPD-L1発現を上方調節する。
【
図25】shSQSTM1 A549細胞が、ICD誘導物質で処置された(放射線療法、10Gy、Doxo、50nM)。DDAで処置したshControl及びshSQSTM1 A549におけるDNMT1、IFNL2/IL29、PD-L1、及びHLA-BのqRT-PCR発現(時間経過、N=3)。
図26:シスプラチンが、TBK1及びJAK依存性様式でHLA-B及びPD-L1発現を誘導する。
【
図26】shControl A549細胞が、TBK1阻害剤MRT 67307(10μM)又はJAK1/JAK2阻害剤ルキソリチニブ(5μM)の存在下又は非存在下で、10μMのシスプラチンで処置された。左、ホスホ-TBK1、及びホスホ-STAT1ウェスタンブロット(5日)。右、IL-29、HLA-B、及びPD-L1のqRT-PCR発現(100%はシスプラチンで処置した細胞に対応する(右パネル、N=2)。
図27~
図28:IFNが、SQSTM1枯渇細胞におけるHLA-B及びPD-L1発現の上方調節を救済する。
【
図27】自食作用欠陥がIFN感受性を増加させることを表す。SQSTM1、ATG5、又はATG7ノックダウンA549細胞が、IFNG(50ng/mL)によって1時間又は24時間処置された。ホスホ-STAT1及びIDO1のウェスタンブロット(アクチンがローディング対照として使用された、左)。PD-L1発現が、qRT-PCR及びPD-L1発現の細胞表面染色によって分析された(右)。
【
図28】シスプラチン(5日)及びIFN(24時間)後のホスホ-TBK1、ホスホ-STAT1、HLA-B、及びPD-L1ウェスタンブロットを表す(TBK1がローディング対照として使用された、右パネル、N=3)。
*<P 0.05ノンパラメトリックT検定(マン・ホイットニー)
図29~
図30:ドセタキセルが、SQSTM1枯渇細胞においてHLA-B及びPD-L1発現を誘導する。
【
図29】ドセタキセルで処置したshControl及びshSQSTM1 A549細胞におけるCDKN1A/p21、DNMT1、IFN-III、HLA-B、及びPD-L1の相対発現を表す(5nM、qRT-PCR、N=2)。
【
図30】シスプラチン及びドセタキセルで処置した細胞のホスホ-TBK1、ホスホ-STAT1、及びHLA-Bウェスタンブロットを表す(5nM、5日、アクチンがローディング対照として使用された)。
【
図31】SQSTM1染色の代表的な画像を表す(元の倍率×400)。皮膚黒色腫は、細胞質及び核SQSTM1染色パターンの増加を示す。
【実施例】
【0103】
実施例1
免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の近年の出現後、臨床がん治験の課題は、DNA損傷剤(化学療法及び放射線療法、以降ではDDA(DNA-Damaging Agent)と称される)とのICIの最適な組み合わせを開発することである。耐性機構を解明することは、ICI効率を改善するための新しい予測バイオマーカー及び新しい治療アプローチを提案するために必須である。本発明者らは、DDA及びICIに対する耐性が、内因性腫瘍機構によって部分的に媒介され、そのうちのいくつかが共有され得ることを仮定した。3つの相補的アプローチ(インシリコ、患者コホートに対するエクスビボ、及びインビトロ)を通して、本発明者らは、感受性DDA及びICIを予測及び制御することが可能な重要な分子メディエーターとしてp62/SQSTM1足場タンパク質を識別する。機構的に、DNA損傷に応答して、本発明者らは、SQSTM1がDNA修復の阻害に必須であることを見出した。ドセタキセルでSQSTM1枯渇腫瘍細胞を処置することは、IFN及びMHC経路を救済し、非応答者において冷たい腫瘍を熱い腫瘍に変える有望な治療手段を提供することができる。したがって、そのレベルに応じて、本発明者らは、ICI有効性及び患者転帰を増加させることを目的としている、ICI単独、ii)シスプラチンと組み合わせたICI、iii)又はドセタキセルと組み合わせたICIの間で処置決定を導くための予測バイオマーカーとしてSQSTM1を提案する。
【0104】
結果
本発明者らは、放射線療法、化学療法、及び免疫療法で治療された患者のコホートからのRNA発現シグネチャーを比較して、交差耐性を媒介し得る共有分子経路を特定した。本発明者らは、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)マーカーCD8A及びCD8B、免疫チェックポイント遺伝子CD274/PD-L1(以降ではPD-L1と称される)、並びにクラスI MHC遺伝子(HLA-A、B、C)の発現に基づいて、腫瘍を免疫学的に「熱い(hot)」及び「冷たい(cold)」に分類した。CD8+T細胞における強化が、2つの細胞溶解酵素、グランザイムB(granzyme B、GZM B)及びパーフォリン(perforin、PRF)の存在によって更に検証された。
【0105】
1)DDA方略とICI方略との間の交差耐性の証拠
免疫療法に適格な2つの悪性腫瘍である、肺腺がん及び黒色腫の遺伝子セット強化分析(gene set enrichment analysis、GSEA)は、冷たい腫瘍の2つの特徴である、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を欠き、より低いレベルのMHC-Iを発現した症例が、DNA修復マーカーを過剰発現したことを強調する(
図1)。同様に、汎がん分析は、多様な腫瘍型にわたる「冷たい」腫瘍表現型とのDNA修復シグネチャーの関連性を支持した(FDR<0.01、データは示されていない)。顕著なことには、このより高いDNA修復シグネチャーは、大部分の冷たい腫瘍の一貫した顕著な特徴であった。重要なゲノム安定性源として、より高いDNA修復の腫瘍は、より低い腫瘍変異負荷(tumor mutation burden、TMB)と相関する傾向があり、これは低い抗原性及びT細胞炎症腫瘍微小環境の欠如に関するものであり、これらは、ICIの不良な臨床的利益の3つの予測バイオマーカーである。そのような蓄積する証拠を考慮して、本発明者らは、i)より高いDNA修復が、ICI療法のために患者を最適に選択する別の機会を提示し得ることを提案する。これまで、DNA修復欠陥から生じるがんのごくわずかな割合が、ICI療法に応答性であることが見出された。現在、臨床的に有意な割合のがんがDNA修復欠損を有すると考えられている。ii)また、推論により、免疫抑制された冷たい腫瘍は本質的にDNA修復と共役し、それによって、「熱い」腫瘍よりも劣るDDAに対する応答に関連することが予期され得る。
【0106】
したがって、本発明者らは、熱い/冷たいシグネチャーと共役したDNA修復が、3つの治療オプションである化学療法、放射線療法、及び免疫療法に対する臨床応答を予測するために適用され得るかどうかを分析する。代わりに、遺伝子発現に基づく階層的クラスタリングが、LUAD(
図2)及び他のがん型の独立した検証コホート(データは示されていない)の両方における免疫療法応答を決定する3つの顕著な特徴である、シスプラチン感受性がん及び放射線療法(RT)感受性がん内の熱いシグネチャー(T細胞マーカー及びMHC-I)の強化を明らかにした。逆に、免疫に欠陥のある「冷たい」シグネチャーは、抗腫瘍免疫がシスプラチン/RTの臨床活性に重要であることを強く示唆する、DDA耐性腫瘍の共有特徴である。興味深いことに、本発明者らは、DNA修復シグネチャーとICI耐性との重要な相関の最初の証拠を提供する(
図3)。推論により、そのような回帰性臨床相関は、ICI/DDA感受性患者の転帰を改善するためにDDAをICIと組み合わせる論拠を提供する。これに従うと、シスプラチン/RTに対して不応性の患者のサブグループもまた、交差耐性を獲得し、第2選択免疫療法からの利益を減少させるであろう。この攻撃的な耐性腫瘍表現型を説明する魅力的な可能性は、従来のDDAに対する耐性を媒介することが知られている高DNA修復経路が、免疫療法に対する応答の減少にも寄与し得ることを考慮することであり得る。
【0107】
2)SQSTM1/p62は、ICI/DDA応答性の有望なバイオマーカーである。
冷たいシグネチャー及びDNA修復シグネチャーの同時発現は、ICI及びDDAに対する応答が、腫瘍交差耐性を促進するために密接に結び付けられているだけでなく、同じシグナル伝達経路によって制御される可能性も高いことを示唆する。次いで、本発明者らの方略は、冷たい/熱い表現型の間で差分的に発現され、最も重要なこととして、ICI/DDAの組み合わせに対する応答性と相関したシグナル伝達足場をインシリコで識別することであった(
図4)。スクリーニングされた潜在的なシグナル伝達プラットフォームから、本発明者らは、i)足場タンパク質SQSTM1が、炎症、DNA修復、及び細胞死経路のいくつかのシグナル伝達パートナーをドッキングすることによって、シグナルを統合し、細胞表面から核へシグナルを中継することに役立つため、足場タンパク質SQSTM1に着目することを決定した(
図5)。ii)興味深いことに、その発現は、肺腺がん及び黒色腫において、抗原提示と正に相関し、DNA修復シグネチャーと負に相関した(p=e-9)(
図6)。iii)SQSTM1は、DDA感受性腫瘍では最も高度に強化されたプラットフォームである一方で、耐性腫瘍ではそうではない(データは示されていない)。iv)本発明者らは、黒色腫の単一細胞RNA-seqを使用して、非応答者と比較したICI応答者におけるSQSTM1過剰発現の最初の証拠を提供する(p=e-62)(
図7)。これは、IHCによるSQSTM1/p62の高い検出がICI応答性に再び関連した(p<0.0001)、第1選択では遮断PD-1(ペンブロリズマブ)で、又は第2選択ではPD-1(ニボルマブ)免疫療法で治療された進行性LUAD患者(ステージIIIA~IV、進行中)の2つの独立したコホートを使用することによって検証された(
図8)。驚くべきことに、低いSQSTM1発現は、低いCD8 Tリンパ球浸潤を示し、免疫療法に応答することができなかったPD-L1「偽陽性」腫瘍のサブセット(8人の患者、10.4%)を識別するために十分であった(
図9)。全体的に、本発明者らの結果は、ICI、単剤療法としてのDDA、及び潜在的にICI+DDAの組み合わせ(進行中)に対する応答性の予測における腫瘍SQSTM1の臨床的有用性を示唆する。
【0108】
3)SQSTM1は、DDA誘導毒性及び抗原提示の増強に必須である
上記の臨床結果を考慮すると、本発明者らの作業仮説は、SQSTM1/p62の発現がICI及びDDAに対する交差応答を決定付け得るということである。CCLEからの一連の190個の肺がん細胞株を使用して、本発明者らは、SQSTM1の腫瘍細胞固有の発現が抗原提示と正に相関し、DNA損傷修復及びDDA/ICI耐性遺伝子シグネチャーと逆相関することをGSEAによって最初に確認した(
図10)。これに従うと、SQSTM1の発現が、ICI及びDDAに耐性がある最も攻撃的ながん型のうちの1つである、小細胞肺がん細胞株(small cell lung cancer、SCLC、p値=6e-16)において最も低いことを指摘する価値がある(
図10右)。次いで、本発明者らは、SQSTM1と抗がん療法に対する交差感受性との間の因果関係を評価した。細胞モデルとして、本発明者らは、化学療法に感受性がある一方で、原発性ICI耐性に関連する2つの分子事象である、KRAS G12Sがん遺伝子を持つ肺腺がんに由来するA549細胞株、及びSKT11/LKB1腫瘍抑制遺伝子(Q37
*)の喪失を選択した。実験的に、shRNAによるA549細胞におけるSQSTM1ノックダウン(
図11)は、インシリコで観察された重度の表現型を忠実に再現するために十分であった。これは、mRNAレベル及びHLA-Bタンパク質レベル(
図11)の両方でのケモカインCXCL10、IFN-III IL29(
図12)、並びにMHC-I(HLA-A、B、及びC
図13)の下方調節によって証明される通りである。このシナリオと一致して、SQSTM1の再発現は、ケモカイン及びHLA-Bの発現を回復させた(
図12及び
図13)。以前の観察と一致して、SQSTM1のサイレンシングもまた、DNA修復マーカーRAD51の発現、及び細胞周期進行を遅延させてDNA修復を促進するチェックポイントキナーゼ2(checkpoint kinase 2、CHK2)のリン酸化を増加させるために十分であった(
図11)。
【0109】
したがって、本発明者らは、ICIを用いた臨床試験において、多くのFDA承認化学療法剤に対するSQSTM1枯渇細胞の感受性を研究する。白金処置(シスプラチン、Cis)時に、ShSQSTM1細胞は、対照ShC細胞の大量死(IC50 24±1.4μM、
図14)と比較して、一貫して耐性があった(対照ShC細胞の2倍であるIC50 51±5.3μMを有した)。致死量以下の用量(10μM)で、本発明者らは、CisがShC細胞においてHLA-B及びPD-L1 mRNAの堅調な過剰発現(それぞれ、60倍及び37.8倍の増加、
図15)を誘導し、これは、細胞表面におけるMHC-I(HLA-A、B、C)及びPD-L1の存在の増強によって反映される(
図16)ことを観察した。シスプラチン耐性と完全に一致して、SQSTM1の枯渇は、Cisにより上方調節されたHLA-B及びPD-L1発現を無効にした(
図15及び
図16)。概念実証として、全てのこれらの特徴(すなわち、DDA耐性及びHLA/PD-L1発現の減少)が、アントラサイクリン(ドキソルビシン、Dox、50nM)、オキサリプラチン(Oxa、1.4μM)、及び放射線療法(RT、10Gy)などの異なるDNA損傷剤を使用して再現された(
図15及び
図17)。
【0110】
SQSTM1が足場タンパク質及び選択的自食作用受容体の両方として機能することを考慮して、本発明者らは、ATG5 shRNA(
図16)又は薬理学的bafA1若しくはクロロキン処置(データは示されていない)による自食作用の阻害が、SQSTM1欠乏によって誘導される表現型を再現せず、代わりに、HLA-B及びPD-L1の発現の増強につながることを見出した。まとめると、これらの結果は、がん治療に対する耐性が、少なくとも部分的に、腫瘍細胞の固有の特性であるという見解を指摘する。分子レベルでは、これらの結果は、自食作用経路ではなくSQSTM1シグナル伝達足場が、DDA誘導毒性、HLA-B発現、及び免疫療法において標的とされる重要な免疫チェックポイントタンパク質であるPD-L1発現にとって重要であることを確立する。集合的に、これは、ICI/DDA交差応答におけるSQSTM1の付加的機能を明らかにした。
【0111】
4)SQSTM1は、CisによるIFN/PD-L1/MHC-Iの後期上方調節に絶対的に必要とされる。
本発明者らは、次に、SQSTM1の喪失がDDA誘導応答にどのように影響を及ぼすかを評価した。直接的な細胞傷害効果以外に、DDAの治療作用は、DNAウイルスとして認識され、16時間で初期IFN応答(IFN、HLA-B、及びPD-L1)をプライミングするDNAのサイトゾル内への放出に依存し得ることが提案されている。
【0112】
予期される通り、DDAは、CHK2のリン酸化(データは示されていない)及び53BP1陽性病巣の形成(
図18)によって可視化されるように、急速にDNA損傷を誘導し、これは、6時間のシスプラチン処置後に始まり、同様に16時間でピーク値に達し、次いで、減少した。予期せずに、DDAで処置したShC細胞では、TBK1及びSTAT1のリン酸化(
図19)、並びにIFN-I及びIFN-IIIの発現は、DNA損傷のものと一致しなかったが、後に、処置の3日目頃に始まった(
図20)。下流では、DDA誘導HLA-B及びPD-L1 mRNA(右)並びにタンパク質(中央及び左)発現の動態は、IFNの動態に従い、5日目頃にプラトー値に達した(
図21及び
図22)。ここで再び、ホスホ-TBK1、IFN、HLA-B、及びPD-L1発現のDDA上方調節は、時間経過の全体を通してSQSTM1の非存在下で失敗した(
図19~
図22)。この観察により、DNA損傷と免疫原性応答との間でSQSTM1によって制御される分子経路を特定することが促された。
【0113】
そのような動態の相違は、後期IFN/HLA-B/PD-L1経路の開始における初期dsDNAの主要な役割と相反する。これは、LKB1/STK11変異A549細胞におけるDNAセンサーSTINGのサイレンシングと一致しており、代わりに、代替的なSQSTM1依存性DAMPを示唆した。
【0114】
5)SQSTM1及びDNA損傷剤。
注目すべきことに、本発明者らは、細胞周期阻害剤CDKN1A/p21の初期誘導が、対照細胞及びSQSTM1枯渇細胞(
図23)の両方においてDDA誘導DNA損傷(核病巣、
図18)の初期誘導を忠実に辿ることを観察した。まとめると、これは、SQSTM1がDNA損傷応答の初期の最初のステップのために必須ではなく、DSBの形成及び細胞周期停止後に作用することを識別する。
【0115】
近年、細胞周期停止及びDNA脱メチル化を誘導する薬物が、がん細胞においてIFN/MHC-I/PD-L1発現を導くことを証明した前臨床研究は少ない。この仮説を支持して、インシリコ分析から、ICI応答がDNAメチラーゼの発現と逆相関することが判明した(
図24)。PD-L1発現を上方調節することが報告された一連の後成的調節因子(DNMT1、DNMT3a、DNMT3b、LDS1、SETD1、TRIM28/KAP1、EZH2)のうち、DNMT1の発現のみがCis処置の1日目に早期に低下した一方で、他のものは中程度又は可変の応答を示した(
図23)。開始事象としてのDDA媒介性DNMT下方調節を支持して、DNMT1を阻害する脱メチル化剤である5-アザシチジン(500nM、5-Aza)を用いたA549 ShC細胞の処置は、(5日目及び6日目に)HLA-B及びPD-L1の後期発現を再現した。この事象は、一貫してIFN-III IL28の再活性化によって先行された(5日目)。
【0116】
顕著なことには、SQSTM1の非存在下で、シスプラチン処置時にCDKN1A/p21及びDNMT1発現の同様の下方調節が観察された(
図23)。しかし、この後に、P-TBK1/IFN/p-STAT1からの下流経路全体の活性化が続かなかった(
図19)。その異常なシグナル伝達と一致して、SQSTM1枯渇細胞は、シスプラチンに応答して、mRNA、タンパク質、並びにHLA-B及びPD-L1の細胞表面発現を上方調節しなかった。
【0117】
シスプラチン以外に、本発明者らは、次いで、放射線療法、オキサリプラチン、及びドキソルビシンなどの異なる免疫原性細胞死(ICD)誘導物質を用いて、この経路の後期誘導を再現した。ICD誘導物質にかかわらず、本発明者らは、この経路がSQSTM1に完全に依存することを示した(
図25)。したがって、これらのデータは、DNA損傷剤誘導PD-L1/MHC-I発現に対するSQSTM1の新規かつ包括的な役割を明らかにする。
【0118】
6)DDAが、TBK1-IFN-JAK経路の活性化を通してHLA-B及びPD-L1発現を誘導する
本発明者らは、シスプラチンが、IFNの転写に関与するキナーゼであるTBK1のリン酸化を誘導したことを示す。一貫して、本発明者らは、mRNAレベルでIFN-IIIを検出し、TBK1阻害剤MRT 67307を用いたCisの同時処置は、JAK/STAT阻害剤ルキソリチニブと同様に、IFN/HLA B/PD-L1を誘導するシスプラチンの能力を遮断するために十分であった(
図26)。要するに、本発明者らのデータは、致死量以下の用量のDDAが、I型ではなくIII型IFNの発現を誘導することができ、その後に、JAK依存性様式でHLA-B及びPD-L1の下流発現が続くことを示唆する。
【0119】
7)IFNが、SQSTM1枯渇細胞におけるHLA-B及びPD-L1発現の上方調節を救済する。
次いで、本発明者らは、IFNGの添加が、shC及びshSQSTM1細胞においてSTAT1リン酸化、HLA-B、及びPD-L1発現を誘導し、IFN経路がSQSTM1枯渇細胞において機能的であることを示すことを確認した(
図27及び
図28)。興味深いことに、IFNGに応答したISG(IDO-1、HLA-B、及びPD-L1)の発現は、Shcと比較してSQSTM1枯渇細胞ではより高いことが観察された。このパターンは、少なくとも部分的に、IFN刺激shATG5及びShATG7において再現され、自食作用欠乏細胞がより優れたIFN感受性を示すことを示唆した(
図27)。
【0120】
まとめると、これらのデータは、DDAが、DNA損傷、G1停止から、DNMT下方調節、並びに下流のIFN制御MHC及びPD-L1発現に向かって連続経路を駆動する、作業モデルを強く示唆する。この経路では、SQSTM1が脱メチル化の下流でMHC/PD-L1の産生を制御することが結論付けられる。
【0121】
8)タキサンが、SQSTM1枯渇細胞においてHLA-B及びPD-L1の発現を救済する
その段階で、SQSTM1枯渇細胞の耐性を克服し得る標準治療処置を特定することが関心であった。そのうち、微小管標的化剤(microtubule targeting agent、MTA)は、DDA耐性がんに対して証明された有効性を有する第2選択化学療法である候補である。ドセタキセルが、Shc及びShSQSTM1細胞の両方において増殖停止及びDNMT1下方調節を誘起したことが示される。驚くべきことに、SQSTM1が存在しないにもかかわらず、ドセタキセルは、下流のTBK1/STAT1リン酸化(
図30)並びにIFN、HLA-B及びPD-L1の発現(
図29及び30)を著しく救済した。顕著なことには、ドセタキセルは、他のDDAについて観察されたものと同じ後期時間経過に従った。ここで再び、シスプラチンが、SQSTM1陽性細胞においてHLA-B及びPD-L1を誘導するための最も効果的な薬物のままであった一方で、ドセタキセルは、SQSTM1枯渇細胞において唯一効果的であったことを指摘する価値がある。要するに、本発明者らのデータは、HLA-B及びPD-L1を誘導する際のドセタキセルの新しい特性を明らかにし、特にDDA耐性患者において、ICIとの新規の組み合わせを研究する論拠を提供した。特に興味深いことに、SQSTM1は、ICI/DDA応答を予測し得るだけでなく、シスプラチン又はドセタキセルとの2つのICI組み合わせの間で処置決定を導き得る、強力なバイオマーカーとして浮上する。
【0122】
考察
肺がんは、皮膚がん、結腸がん、前立腺がん、及び膵臓がんを組み合わせたものよりも多い、がん関連死の主要な原因である。白金ベースの化学療法剤及び電離放射線などのDNA損傷剤は、標準治療処置であり、肺がん患者の約80%は、その処置の過程の間にこれらの治療を受けることになる。しかしながら、初期応答にもかかわらず、ほぼ全ての患者が、患者の生存に関与するDDA耐性再発を最終的に発症する。最近では、抗PD-1又は抗PD-L1中和抗体を用いた免疫療法が、進行した患者にとっての治療の見込みを示す。しかしながら、この顕著な進歩にもかかわらず、患者の30~40%は、依然として免疫療法に対する耐性を示した。
【0123】
連続併用ICI+DDA療法の限定された成功は、分かりにくいままであり、狭い感受性治療域に起因する可能性が高い。更に、ICI/DDAに対する耐性の展望は未知であり、応答者を非応答者から正確に分離することが可能なバイオマーカーはない。これまで、PD-L1の腫瘍発現は、PD-1/PD-L1阻害に対する客観的奏効率の増強に関連するが、併用応答を予測するために感受性でも特異的でも有用でもない。治療的介入のために重要であるが、どのようにDDAが抗原提示及びPD-L1を上方調節するかは完全には明らかではなく、この経路がDDA耐性腫瘍において阻害されるかどうかも理解されていない。
【0124】
本発明者らのデータは、足場タンパク質SQSTM1が、ICI、DDA、及び潜在的にICI/DDAの組み合わせの臨床転帰を肯定的に予測し得るという刺激的な提案につながった。この仮説は、本発明者らが、インシリコ、患者コホートを使用したインビボ、及び操作されたサイレンシング細胞株を使用したインビトロの両方で行った3つの重要な観察に基づく:i)SQSTM1 mRNA及びタンパク質発現(IHCスコア)は、非応答者よりもICI、RT、及びCis応答者において著しく高い。ii)機構的に、SQSTM1は、DNA修復の発現及び免疫IFN/MHC/PD-L1経路の両方を制御する。iii)SQSTM1喪失は、ICI及びDDA療法に対する先天的耐性を駆動するために十分である。本発明者らは、ここで、共培養アッセイ及び同系インビボマウスNSCLCモデルを使用して、腫瘍免疫微小環境、特に、T細胞媒介性抗腫瘍免疫(T細胞浸潤及び活性化)に対するSQSTM1の遺伝的及び薬理学的阻害(zz阻害剤、CRISP/CAS9)の効果を評価することを目標とする。
【0125】
SQSTM1は、免疫腫瘍可塑性の分子ドライバーである
ここで、本発明者らは、SQSTM1発現が、明確に異なる生物学、免疫プロファイル、及び治療脆弱性を有するLUAD及びSKCMのサブグループを定義するという最初の証拠を提供する。そのレベルに応じて、SQSTM1は、2つの完全に異なる免疫抑制プログラムを駆動する。低いSQSTM1レベルを有する腫瘍が、実際に、乏しい抗原提示及びT細胞排除を伴う「冷たい」微小環境に関連した一方で、高いSQSTM1発現を有する腫瘍は、PD-L1発現、T細胞浸潤、及び消耗を伴う「熱い」ものであった。
【0126】
興味深いことに、SQSTM1は、全てがん発生に直接影響を及ぼすプログラム事象である炎症、細胞生存(NF-κB)、酸化的解毒ストレス(NRF2)、及び細胞増殖(mTOR)を制御する重要なシグナル伝達経路の活性化に関与する重要な足場タンパク質である。したがって、がんタンパク質SQSTM1は、腫瘍増殖を免疫回避と結び付ける。驚くべきことではないが、SQSTM1は、マウスにおけるKRAS-G12D誘導肺腫瘍発生に必須である。ヒトでは、SQSTM1過剰発現は、肺がん、消化管がん、前立腺がん、肝臓がん、腎臓がん、及び乳がんにおける生存率の悪化に関連した。逆説的に、SQSTM1の喪失はまた、冷たいがん型である前立腺がんの腫瘍発生を増加させることが示された。この点に関して、本発明者らが本明細書で明らかにしたSQSTM1の獲得及び喪失が腫瘍免疫回避を付与する能力は、これらの議論の的になる結果を説明することに役立ち得る。
【0127】
これらのシグナル伝達機能以外に、SQSTM1は、腫瘍細胞生存及び薬物耐性を促進する細胞プロセスである、最初に識別された自食作用受容体であった。したがって、自食作用は、SQSTM1のクリアランスを媒介し、ATG5 shRNAによる自食作用の阻害は、SQSTM1蓄積をもたらし、一貫してHLA-B過剰発現をもたらした。まとめると、これらのデータは、がん遺伝子、炎症性サイトカイン、及び自食作用分解を伴うフィードバックループによるSQSTM1発現の顕著な制御が、「熱い」表現型と「冷たい」表現型との間の腫瘍細胞可塑性を決定付け得る、作業モデルを強く示唆する。
【0128】
SQSTM1は、DNA修復の阻害を介してDDA及びICI感受性を支配する。
本発明者らは、ここで、SQSTM1下方調節がDDA及びICIに対する耐性の主要な要因であることを示す。機構的に、SQSTM1は、DNA修復を抑制し、同時にMHC-Iの発現に必須であった。したがって、SQSTM1は、DDA感受性、腫瘍DNA不安定性、腫瘍変異負荷、及び腫瘍免疫の間の分子リンクを表す。潜在的な機構の更なる調査では、核内のSQSTM1の役割は、依然として十分に理解されていない。SQSTM1は、2つの核局在化シグナル及び1つの核外輸送シグナルを含み、これらは、SQSTM1が核コンパートメントとサイトゾルコンパートメントとの間を高速で連続的に往復することを可能にする。DNA損傷時に、本発明者らは、SQSTM1が核DNA損傷病巣に動員されることを見出し(データは示されていない)、そこでDNA修復を阻害することが報告された。DNA修復以外に、SQSTM1はまた、いくつかの核内受容体に結合し、その転写活性を調節することが報告された。候補のうち、核外輸送の阻害時に、SQSTM1及び腫瘍抑制因子TP53は、DNA修復、TP53関連細胞周期停止、及びアポトーシスに関与する前骨髄球性白血病タンパク質核小体(promyelocytic leukemia protein nuclear body、PML-NB)に動員されることが明らかになる。ゲノムの保護役として、TP53は、ゲノム安定性において中心的な役割を果たし、主にDNA修復タンパク質の発現を誘導することによって作用する。したがって、SQSTM1がTp53と転写複合体を形成することによってDNA修復応答を調節するかどうかを決定することが興味深いであろう。SQSTM1によって制御されるそのような転写因子を特定することは、冷たい難治性がんのためのPD-L1発現を救済し得る新しい治療標的を発見することによって、腫瘍免疫生物学において広範囲に及ぶ重要性を有するであろう。
【0129】
集合的に、本発明者らは、SQSTM1が、IFN経路の再活性化を介して、DDA、ICI、及びICI/DDAに対する腫瘍交差感受性に寄与するという最初の証拠を提供する。これは、単剤療法及び併用療法としてのICI、DDAの両方の予測バイオマーカーとしてSQSTM1を提案する。注目すべきことに、使用される治療(放射線療法、免疫原性細胞死誘導物質の誘導物質、及び非ICD化学療法)にかかわらず、本発明者らのデータはまた、DNA損傷剤によるHLA-B/PD-L1発現の誘導におけるSQSTM1の新規かつ包括的な役割も明らかにする。
【0130】
本発明者らの結果の個別化された処置決定への変換
免疫腫瘍学における処置決定は、ICIとの組み合わせの導入によりますます困難になっている。治療応答を正確に予測するマーカーも、最適な組み合わせを調整するマーカーも、まだ1つも出現していない。ICI/DDA応答を予測し、処置決定を導き得る有望なバイオマーカーが、SQSTM1によってここで提案される。現在、本発明者らの目的は、迅速に診療所に移し、最終的にFDA承認併用方策のコンパニオン試験として使用することができる、ICI/DDA応答の第1の予測バイオマーカーとしてSQSTM1を検証することである。実際に、本発明者らの所見は、次の4つの潜在的に影響力の大きい臨床的意義を有する。
(1)本発明者らが、ICI及びDDAへの腫瘍回避のためにSQSTM1を下方調節する交差耐性機構を特定しているため、連続単剤療法よりも同時併用療法が推奨される。
(2)2つの異なるICI組み合わせの間で処置決定を導き得る。SQSTM1を抗原提示及びPD-L1発現に結び付けることによって、ICI、DDA、又はICI/シスプラチン療法を、SQSTM1を過剰発現する患者に更に限定することによって患者選択方略を再定義し、それによって、奏効率を増加させ得る。
(3)本発明者らが、A549細胞を使用して、シスプラチン及びドセタキセルがこの冷たいサブグループを免疫療法にプライミングすることができるという原理の証明を提供しているため、KRAS及びSTK11変異を持つがSQSTM1を過剰発現する、相当数の以前に除外された患者を治療する論拠も提供し得る。
(4)ICI/MTA(微小管標的化剤:ドセタキセル、パクリタキセル)の組み合わせで低レベルSQSTM1発現LUADを有する患者を治療する新しい治療機会を提供する。
【0131】
SQSTM1予測値を中心とした試験の設計は、ICI/シスプラチン又は代替的なICI/ドセタキセル方略のいずれかに切り替えられるべき患者群を識別し、最終的にICI有効性及び患者転帰を改善するために、より大きな適切に設計されたコホートを用いて緊急に試験されるべきである。SQSTM1 IHCスコアについての試験が臨床的に検証される場合、本発明者らは、ICI及びDDAの利用を他の冷たい腫瘍に拡張し、患者転帰を改善することを望む。
【0132】
材料及び方法
細胞培養
本研究で提示された実験の大部分は、ヒトKRAS G12S/SKT11 Q37*共変異NSCLC A549細胞(American Type Tissue Collection、ATCC)を用いて実施された。全ての細胞を、10%胎児ウシ血清(Dutcher)、2%ピルビン酸ナトリウム、及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Life technologies)を補充したダルベッコ改変最小必須培地及びHam’s F-12培地(DMEM/F12 Glutamax、Life Technologies)内で維持した。SQSTM1ノックダウン安定細胞株を確立するために、細胞に、SQSTM1のmRNAコード配列を標的とする小ヘアピンRNA(small hairpin RNA、shRNA)レンチウイルスを形質導入した。2つの明確に異なるSQSTM1 shRNA(Sigma、ヒト、NM_003900、SQSTM1#1、TRCN0000007237、及びSQSTM1#2、TRCN0000007236)を使用して、配列依存性標的外効果を最小限にした。対照として、自食作用が、ATG5(Sigma、ヒト、NM_004849、ATG5#1、TRCN0000151963)又はATG7 shRNA(Sigma、ヒト、NM_006395、TRCN0000007584)によって開始ステップで阻害された。この目的のために、標的及び対照(Sigma;SHC002V)shRNAレンチウイルスを細胞に形質導入した。shRNA媒介性タンパク質下方調節が、qRT-PCR又は特異的プライマー及び抗体を用いた免疫ブロット法によって制御された(shRNA、プライマー、及び抗体の詳細については補足表1~3を参照されたい)。
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
細胞処置
全ての実験について、細胞を6ウェルプレート又は60mm培養皿に播種し、60~70%の集密度に達するまでインキュベートした。次いで、細胞を、1%FBSを補充した新鮮なDMEM中のシスプラチン(Cis、10μM)で指示された時間にわたって処理した。同様の条件下で、本発明者らは、本発明者らの研究を、アントラサイクリン、すなわち、ドキソルビシン(Dox、0.5μM)、オキサリプラチン(Ox、1.4μM)、並びにタキサン(ドセタキセル、D、5nM、及びパクリタキセル、P、3nM、表4)などのDNA損傷及び免疫原性細胞死(ICD)を誘導することが知られている他の化学療法剤に拡張した。薬物濃度は、各薬物によって到達された血中濃度のピークに基づいて用量反応曲線を使って選択された[IC50:Shc A549(Cis=24μM+/-3.7、Dox=364nM+/-3、Ox=2.61μM+/-0.9、D=364nM+/-3、P=1.4nM+/-0.27)、ShSQSTM1 A549(Cis=47.7μM+/-5、Dox=486nM+/-85、Ox=4.51μM+/-1、D=21.3nM+/-10、P=3.7M+/-0.7)]。
【0137】
対照として、SQSTM1枯渇細胞のDDA耐性が薬物流出に関連しないことを確実にするために、160kV/6.3mAで動作するFaxitron X線システム(CP 160オプションを備えたモデル43855 F、Faxitron Bioptics)を使用して、細胞を10Gyで照射した。照射直後に、細胞をトリプシン処理し、新鮮な10%FBS培地を含む6ウェルプレートに再播種した。全ての化学療法剤を、Antoine-Lacassagne Cancer Centreから入手した。
【0138】
指示された場合、シスプラチン(10μM)の添加の前に、MRT67307(TBK1阻害剤、10μM、Tocris)又はルキソリチニブ(JAK1/JAK2阻害剤、5μM、Tocris)を1%FBS培地に90分間添加した。陽性対照として、細胞をIFNγ(50ng/mL、24時間、C-60724プロモカイン)で処理した。
【0139】
ここで研究された用量での全ての薬理学的阻害剤は、細胞死を18~24時間誘導することができなかった。先天的防御を活性化するDNA損傷剤の能力が、IFNの下流誘導、IFN媒介性シグナル伝達、HLA-B及びPD-L1の発現によって確認された。
【0140】
mRNAレベルの相対的定量化
TRI試薬(TR 118、MRC)及びRNeasy Mini Kit(#74106、Qiagen)を使用して、全RNAを細胞から精製した。600ngの全RNAを、DNAse I(18068015、Invivogen)で処理し、SuperScript III逆転写酵素(Life Technologies)を使用して逆転写した。SYBR Greenマスターミックス及びApplied StepOne Plus PCRシステム(Life technologies)を使用して、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応分析を等量のcDNAに実施した。使用されたIFN応答遺伝子のプライマーが、表2に列挙されている。2[-ΔΔCt]法を使用して、相対的遺伝子発現変化を定量化し、未処理細胞試料と比較してハウスキーピング遺伝子RPLP0に対して正規化した。
【0141】
ウェスタンブロッティング
処理後、細胞をPBS中で洗浄し、全細胞溶解液(whole-cell lysate、WCL)を、3%SDS、10%グリセロール、10mMのNa2PO4を含有し、プロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤カクテル(1mMのNa3VO4、10mMのβ-グリセロホスフェート、10mMのNaF及び1:25、Complete(商標))を含むTR3溶解緩衝液で抽出し、超音波処理した。WCL(5~40μg)を、以前に記載されたように、SQSTM1、PD-L1、HLA-B、DNA損傷、細胞周期停止、並びにTBK1及びJAKシグナル伝達経路を特異的に認識する抗体(表3)を用いたウェスタンブロッティングによって分析した。チューブリン、アクチン(#A3853、Sigma)、及びHSP90(クローンC45G5、#4877S、Cell Signaling Technology)をローディング対照として使用した。洗浄後、一次抗体の存在が、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗マウス(1:6,000、sc-2005、Santa Cruz)又は抗ウサギ(1:10,000、sc-45040、Santa Cruz)により明らかとなり、Enhanced Chemiluminescence検出システム(Perkin Elmer)で可視化された。
【0142】
フローサイトメトリー分析
PD-L1の細胞表面発現を、フローサイトメトリーを使用して調査した。指示された時間にわたる10μMシスプラチンの処理後、細胞をトリプシン処理せずに2.5mMのEDTA-PBS中で採取し、抗PD-L1抗体(CD274、brilliant violet 650コンジュゲート、#329740、Biolegend)、又は抗アイソタイプ抗体(brilliant violet 650コンジュゲート、#400351、Biolegend)で標識した。フローサイトメトリー分析を、Cytoflexフローサイトメーター(10,000個の細胞、Cytoflexソフトウェア)で実施した。MFI(PD-L1アイソタイプ)は、MFI(PD-L1)がMFI(アイソタイプ対照)によって減算されると計算される。
【0143】
データセット分析
cBioがんゲノミクスポータル(http://www.cbioportal.org/public-portal/)及びPhantasusソフトウェア(https://artyomovlab.wustl.edu/phantasus/)を使用して、The Cancer Genome Atlas(TCGA)PanCancer Atlas及びCancer Cell-line Encyclopedia(CCLE)からデータをマイニングした。化学療法、放射線療法、及び免疫療法で治療されたがん患者のいくつかのデータセット(RNAseq、DNAマイクロアレイ)を、Gene Expression Omnibus(GEO Database、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gds)からダウンロードした。
【0144】
各腫瘍におけるTリンパ球浸潤、DNA損傷応答、IFN(C2CGP、C2 reactome、C5BP、及び「顕著な特徴」)を、遺伝子セット強化分析(GSEA)及びssGSEA分析によって、CD274/PD-L1、CD8A/B、HLA-及びSQSTM1発現の遺伝子発現と相関させた。TCGAがん型の略称の完全なリストについては、https://gdc.cancer.gov/resources-tcga-users/tcga-code-tables/tcga-study-abbreviationsを参照されたい。
【0145】
患者コホート
肺腺がん(lung adenocarcinoma、LUAD)を有する患者のコホートが、University Cote d’AzurのLaboratory of Clinical and Experimental Pathology(Nice,France)において、2010年1月1日から2018年4月1日の間に行われ、調査された。研究は、REMARKガイドラインに従って実施され、書面によるインフォームドコンセントの要件を放棄したNice University Hospitalの倫理委員会によって承認された。最初に、468人の患者が、病状記録に従ってLUAD診断の包含基準を満たした。p40及びTTF-1についての免疫組織化学的染色が、研究に含まれた腫瘍の腺様分化を決定的に確認した。更に、全ての腫瘍のスライドを、病期関連特性(胸膜浸潤など)に関して再評価した。全ての腫瘍を、UICC TNM分類の第8版に従って再病期分類した。症例収集は、最終的に、初期段階(I~IIIA)からの287個の腫瘍及び後期段階(IIIB~IV)からの181個の腫瘍を含んだ。アジュバント化学療法及び/又は放射線療法を、70/181人(39%)の患者に投与し、EGFR TKIを、18/181人(10%)に投与し、第1選択(ペンブロリズマブ)又は第2選択(ニボルマブ)免疫療法を、それぞれ、37/181人(20%)及び41/181人(23%)の患者に投与した。15/181人(8%)の患者が、任意のアジュバント処置の前に死亡した。
【0146】
免疫組織化学的染色及びスコア化
SQSTM1(希釈1/400、BD Transduction Laboratories(商標))、PD-L1(クローン22C3、希釈1/50、Dako,Inc.)、及びCD8(細胞傷害性T細胞、クローンSP57、予備希釈、Ventana)(表3)について以前に記載されたように、自動Ultra Ventana(Ventana、Tucson,AZ)を使用して、p62/SQSTM1、PD-L1/CD274、及びCD8についての免疫組織化学的染色を4μm切片で実施し、製造業者の指示に従って使用した。腫瘍細胞の様々な細胞内成分において検出されたSQSTM1についての免疫組織化学的染色パターンのスコア化を、全ての切片全体にわたって実施した。ドット様染色を、以下のように0から3までスコア化した:スコア0-腫瘍細胞の<5%でドットがないか、又はドットが辛うじて可視である、スコア1-腫瘍細胞の5~25%でドットがある、スコア2-腫瘍細胞の25~75%でドットがある、スコア3-腫瘍細胞の>75%でドットがある。SQSTM1細胞質染色を、以下のように0から3までスコア化した:スコア0-染色なし又はかすかな染色、スコア1-弱い染色、スコア2-中程度の染色が可視である、及びスコア3-強い染色。SQSTM1核免疫組織化学染色を、以下のように0から1までスコア化した:スコア0-核の<10%で核染色が可視である、及びスコア1-核の>10%で核染色が可視である。スコア化は、2人の熟練した病理学者(VH及びPH)によって40倍の対物倍率で実施された。次いで、臨床病理学的特徴との相関のために、免疫組織化学的スコアは、単一値の予後値に従って、低又は高のいずれかに更に分類された。ドット様及び細胞質SQSTM1染色は、スコア0~1については低、スコア2~3については高として分類された。SQSTM1についての複合ドット様及び細胞質染色は、未加工値の0~2の合計スコアについては低、3以上の合計スコアについては高として分類され、最良の予後判別を示した。SQSTM1核染色スコア0は、低として分類され、スコア1は、高として分類された。PD-L1陽性腫瘍細胞を計数し、1つのカットオフを使用した(>50%PD-L1陽性腫瘍細胞)。腫瘍内CD8陽性細胞を計数し、腫瘍を、腫瘍発現細胞なし(-)、低(+)、中(++)及び高(+++)として分類した。
【0147】
SQSTM1、PD-L1、及びCD8状態に従った細分類。SQSTM1ドット様/細胞質、PD-L1及びCD8染色の組み合わせは、症例を3つのサブタイプ:低SQSTM1ドット様-細胞質/低PD-L1/低CD8染色(low SQSTM1 dot-like-cytoplasmic/low PD-L1/low CD8 stainings、LLL)、高SQSTM1ドット様細胞質/高PD-L 1/高CD8(high SQSTM1 dot-like-cytoplasmic/high PD-L1/high CD8、HHH)、及び高SQSTM1ドット様細胞質/低PD-L1;高CD8染色(high SQSTM1 dot-like-cytoplasmic/low PD-L1;high CD8 stainings、HLH)に階層化した。
【0148】
統計分析
統計分析のために、GraphPad Prism 6ソフトウェアを使用してデータを分析した。クロスタブ、対応のないノンパラメトリックT検定、χ2検定、ANOVA、及びフィッシャーの直接確率検定を使用して、群比較を実施した。値は、平均及び標準偏差(SD)として提示される。P<0.05を、統計的有意性を達成するものとして設定した。生存分析は、再発までの時間(time to recurrence、TTR)が切除の日から局所領域若しくは転移性再発又は疾患特異的死亡まで測定されることを包含した。疾患特異的生存(DSS)を、診断時から疾患特異的死亡まで決定した。全生存(overall survival、OS)及び無病生存(disease-free survival、DFS)を計算した。カプラン・マイヤー曲線及びログランク検定を、単変量生存分析に使用した。多変量分析のために、コックス回帰分析を使用した。全ての統計的検定の有意性レベルを、p値<0.05について設定した。
【0149】
実施例2:SQSTM1は、進行性黒色腫における免疫療法予測バイオマーカーである
本発明者らは、抗PD1免疫療法から利益を得る別の免疫原性固形腫瘍である、進行性皮膚黒色腫(SKCM)における予測バイオマーカーとしてのSQSTM1の利益を検証した。
【0150】
1.論拠
転移性又は進行性黒色腫は、致命的な皮膚がんであり、現在までの5年生存率は30%未満である。プログラム細胞死-1(PD-1)及びそのリガンドPD-L1を標的とする免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の開発は、5年全生存の中央値が52%増加した真のパラダイムシフトを表す。しかしながら、ICIに対する持続的応答が、患者のサブセットのみに限定される一方で、患者の40%は、単剤療法ではICIに応答しない。
【0151】
大部分の臨床試験では、免疫組織化学によって評価されるPD-L1の発現は、応答する患者の選択を可能にしない(Robert C et al.,2015)。増加したレベルのSQSTM1を有する非小細胞肺がん患者が、低いレベルを有する患者よりも良好な応答を有するという最初の証拠が提供され、ICIに対する応答の予測因子としてSQSTM1を強く示す。ここで、本発明者らの研究の目的は、SQSTM1評価が再発性又は転移性黒色腫を有する患者において有効な予測バイオマーカーであり得るかどうかを決定するために、腫瘍内PD-L1及びCD8+Tリンパ球の浸潤の定量化と組み合わせた黒色腫細胞におけるSQSTM1の発現をICI応答に相関させることであった。
【0152】
2.材料及び方法
a)患者及び組織試料(IlieM,et al.Oncoimmunology.2021 Mar 19;10(1):1901446)。この後ろ向きコホートは、2013年7月から2017年2月の間に診断され、Department of Dermatology,University of Nice,Archet 2 Hospital(Nice,France)で治療された、連続的な原発性皮膚悪性黒色腫を有する125人の患者を含んだ。最初にステージI~IIの黒色腫と診断された患者は、局所又は遠隔転移再発の時点で試験に登録された。転移からの組織学的材料の可用性及び署名入りのインフォームドコンセントの存在は、研究に症例を含むための必要基準であった。
【0153】
125人の患者のうち、91人(73%)が、局所転移(35件のイントランジット(in-transit)転移及び56件のリンパ節転移)を提示し、34人(27%)が、遠隔転移(19件の肺転移部位及び15件の皮下転移部位)を提示した。
【0154】
2つの患者群が、この研究では区別された:免疫療法(抗PD-1阻害剤-ペンブロリズマブ/ニボルマブ及び/又は抗CTLA4)の少なくとも1回の処置を受けた58人の患者の群(46%)、及び免疫療法処置を受けなかったが、一部が他の処置(抗BRAF剤及び抗MEK剤を用いた化学療法又は標的療法)を受けた67人の患者の群(53%)。
【0155】
全ての腫瘍標本を、患者の署名入りのインフォームドコンセントとともに使用した。本研究は、地元の倫理委員会(Human Research Ethics Committee,Nice University Hospital Center/hospital-related Biobank BB-0033-00025;http://www.biobank-cotedazur.fr/)によって承認され、ヘルシンキ宣言のガイドラインに従って実施された。
【0156】
b)免疫組織化学(immunohistochemistry、IHC)を、以前に記載されたように、SQSTM1抗体を使用した標準的なプロトコルに従って実施した。簡潔には、ホルマリン固定パラフィン包埋(Formalin-fixed paraffin-embedded、FFPE)連続4μm組織切片を新たに切断し、脱パラフィンし、前処理し、BenchMark ULTRA自動染色装置(Ventana Medical Systems、Tucson,AZ,USA)上でSQSTM1に対するモノクローナル抗体(BD Transduction Laboratories(商標)、610833)で染色した。基質として3,3-ジアミノベンジジン(DAB、OptiView Kit、Roche Diagnostics、Ventana、カタログ番号760-700)とともに抗免疫グロブリン結合西洋ワサビペルオキシダーゼを使用して、染色を検出した。マイヤーヘマトキシリンを用いて核対比染色を実施した。各IHC実行は、陽性対照及び陰性Ab対照(緩衝液、一次Abなし)を含んだ。
【0157】
c)免疫組織化学の評価。観察者間及び観察者内変動性。SQSTM1(細胞質及び/又は核)についての免疫組織化学スコア化を、観察内及び観察者間変動性について調査した。2人の病理学者が、独立して、臨床病理学的データの知識を持たずに免疫組織化学染色結果を評価した。2人の病理学者の観察者間合意は、高かった(α=0.97)。スコア化の観察者内合意も、高い一致を示した。相違結果が、マルチヘッド顕微鏡を使用して解決された。
【0158】
d)IHCスコア化。各症例の免疫組織化学染色の強度、パーセンテージ、及び細胞内局在を記録した。一次抗体を省略した染色を、陰性対照として実施した。正に染色された細胞の強度及び割合を、低倍率視野(100倍)で走査し、次いで、高倍率視野(400倍)で評価した。SQSTM1染色を、細胞質及び核において識別した。SQSTM1染色の強度を、それぞれ、陰性、弱い、中程度、及び強い染色を指す、0、1、2、及び3として記録した(下記参照)。SQSTM1陽性細胞の割合を、0~100%で記録した。陽性細胞の割合(percentage of positive cells、P)に強度(intensity、I)を乗算することによって得られた、クイック(quick、Q)スコアを使用して、染色の結果をスコア化した(Q=P×I、最大値=300、Charafe-Jauffret et al.,2004)。黒色腫のQスコアの中央値をカットオフポイントとして使用して、がんを「低発現」及び「高発現」を示すものとして分類した。χ2検定又はスチューデントt検定を使用して、群間の差を調べた。
図31。
【0159】
3.結果
SQSTM1は、核細胞質シャトルタンパク質であるが、その細胞内局在の皮膚発がん及び免疫療法に対する応答との関連性は、これまで実証されていなかった。
【0160】
本発明者らは、ICIで治療された58人の患者の間で、免疫組織化学によって検出され、デジタル分析臨床病理学的特徴及び全生存(OS)によって定量化される、腫瘍内及びCD8+Tリンパ球と組み合わせて黒色腫細胞において発現されたSQSTM1の関連性を遡及的に評価した。
【0161】
本発明者らは、黒色腫が正常な皮膚よりも強いSQSTM1発現を示すことを見出した。ICIで治療した黒色腫のうち、非応答黒色腫は、限定された細胞質SQSTM1染色を示した。対照的に、応答黒色腫は、細胞質及び核SQSTM1発現の最も高い増加を示した。2つの群(非応答者及び応答者)の間の細胞質及び核発現の差は、統計的に有意であった(p値=0.00026)。要するに、これらの所見は、皮膚黒色腫のICI予測バイオマーカーとしての核及び細胞質SQSTM1染色の利益の最初の証拠を提供した。
【0162】
実施例3:SQSTM1は、肺腺がん(LUAD)における免疫療法階層化のための液体生検における循環バイオマーカーである
本発明者らはまた、LUADにおける免疫療法階層化の改善のための液体生検における非侵襲性循環バイオマーカーとしてのSQSTM1の予測値も評価した。
【0163】
1.論拠
分子検査のために十分な腫瘍組織を取得することは、組織生検がアクセス不可能であるか、実施することが極めて困難であるか、又は低い割合の腫瘍細胞が存在する(分子検査のため、及び/又はPD-L1発現の堅調な評価のための少量の抽出された核酸につながる)進行性又は転移性疾患を有する患者では、ますます困難になっている。したがって、満たされていない診断の必要性が、免疫療法から恩恵を受け得る患者を識別する非侵襲的アプローチを促す。近年では、i)本発明者らは、ISET(登録商標)プラットフォーム(Isolation by SizE of Tumor cells、Hofman V 2011a/b)を使用して、肺がん患者の血液から循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cell、CTC)を特異的に単離するためのプロトコルを使用した。ii)本発明者らは、進行性肺がん(NSCLC)を有する全てではないが一部の患者の血液中の循環腫瘍細胞(CTC)上のPD-L1の過剰発現の報告に成功した。iii)本発明者らは、CTCにおけるPD-L1発現及び合致した肺生検を相関させた。iv)しかしながら、PD-L1偽陽性及び偽陰性染色の不正確性が残っている(IlieM,et al.Ann Oncol.2018 Jan 1;29(1):193-199)。
【0164】
NSCLC患者では、腫瘍生検におけるSQSTM1発現は、PD-L1阻害剤に対する利益の改善と相関した。したがって、本発明者らは、CTC及び40人の進行期NSCLC患者のコホート内の合致した腫瘍組織の両方においてISETプラットフォームSQSTM1発現を使用して、血液試料中のPD-L1及びSQSTM1発現の普及を評価することによって、腫瘍のPD-L1状態の非侵襲性代理としてのCTCの有用性を調べた。
【0165】
2.方法
a)CTC捕捉。サイズベースの濾過を細胞病理学的評価(ISET(登録商標)技術)と組み合わせる方法によって、CTC捕捉を実施した。簡潔には、血液試料をK3EDTA又は採血管(blood collection tube、BCT)(Streck)に引き込み、製造業者の推奨に従って、CTCの捕捉のために、Isolation by SizE of Tumor(ISET(登録商標)システム、Rarecells、Paris,France)によって濾過した(IlieM,et al.Ann Oncol.2018 Jan 1;29(1):193-199)。フィルターを、悪性(CNHC-MF)又は不確定(CNHC-UMF)特徴を有する循環非血液細胞の存在について分析した。
【0166】
b)ISETフィルター上のSQSTM1発現。CTC検出(≧2 CNHC-MF及び/又はCNHC-UMF)を提示した試料を、以下のように、3つの未染色ISETフィルタースポット上の免疫細胞化学によるSQSTM1発現の更なる分析のために選択した:10倍の反応緩衝液(カタログ番号950-300、Ventana)を用いた2分間の再水和後、フィルターを、BenchMark ULTRA自動染色装置(Ventana)内の正に荷電したガラススライドの上に置き、(上記に記載されるような)IHCに関するSQSTM1染色プロトコルに従った。
【0167】
SQSTM1 ICC分析は、SQSTM1の細胞質及び核発現を評価し、SQSTM1を発現するCTC及びWBCの割合をスコア化した。血液試料及び合致した腫瘍組織からの結果を、研究の完了まで盲検化した。
【0168】
3.結果
本発明者らは、ISET(登録商標)を使用してLUAD患者の血液試料からCTCを単離し、免疫細胞化学的染色によってSQSTM1を検出することに成功した。この概念実証研究は、免疫療法応答患者階層化のための非侵襲性リアルタイム液体生検としてのCTC/SQSTM1アッセイの予測値を実証した。
【配列表】
【国際調査報告】