(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-25
(54)【発明の名称】めっき品質に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板、めっき用鋼板及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 3/20 20060101AFI20231218BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20231218BHJP
C23C 2/02 20060101ALI20231218BHJP
C25D 5/50 20060101ALI20231218BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20231218BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
C25D3/20
C23C2/06
C23C2/02
C25D5/50
C22C38/38
C22C38/00 301T
C22C38/00 302A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535319
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(85)【翻訳文提出日】2023-08-03
(86)【国際出願番号】 KR2021018665
(87)【国際公開番号】W WO2022124826
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0173907
(32)【優先日】2020-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、 ジン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ウォン-フウィ
(72)【発明者】
【氏名】カン、 キ-チョル
(72)【発明者】
【氏名】クウォン、 ソン-チュン
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
4K027
【Fターム(参考)】
4K023AA04
4K023AA14
4K023CB16
4K023DA07
4K023DA09
4K024AA04
4K024AB01
4K024BA02
4K024CA02
4K024CA04
4K024CA06
4K024DB01
4K027AA23
(57)【要約】
本発明は、めっき品質に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板、これを製造するためのめっき用鋼板、及びこれらの製造方法に関するものである。
本発明の一態様に係るめっき用鋼板は、表面から深さ方向に観察したMn成分のGDSプロファイルが順次的に極大点と極小点を含み、上記極大点におけるMn濃度を母材のMn濃度で除した値と、極小点におけるMn濃度を母材のMn濃度で除した値との差(Mnの換算濃度の差)が10%以上であり、上記極大点におけるSi濃度を母材のSi濃度で除した値と、極小点におけるSi濃度を母材のSi濃度で除した値との差(Siの換算濃度の差)が10%以上であることができる。
但し、深さ5μm以内で極小点が現れない場合には、深さ5μm地点を極小点が現れた地点とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から深さ方向に観察したMn成分とSi成分のGDSプロファイルが順次的に極大点と極小点を含み、
前記Mn成分のGDSプロファイルの極大点におけるMn濃度を母材のMn濃度で除した値と、前記Mn成分のGDSプロファイルの極小点におけるMn濃度を母材のMn濃度で除した値との差(Mnの換算濃度の差)が10%以上であり、
前記Si成分のGDSプロファイルの極大点におけるSi濃度を母材のSi濃度で除した値と、Si成分のGDSプロファイルの極小点におけるSi濃度を母材のSi濃度で除した値との差(Siの換算濃度の差)が10%以上である、鋼板。
但し、深さ5μm以内で極小点が現れない場合には、深さ5μm地点を極小点が現れた地点とする。
【請求項2】
前記鋼板は、素地鉄、及び前記素地鉄の表面に形成されたFeめっき層を含み、前記表面はFeめっき層の表面である、請求項1に記載の鋼板。
【請求項3】
前記Mnの換算濃度の差が15%以上であり、Siの換算濃度の差が15%以上である、請求項1に記載の鋼板。
【請求項4】
前記極大点が形成される深さは0.05~1.0μmである、請求項1に記載の鋼板。
【請求項5】
前記素地鉄が重量%で、Mn:1.0~8.0%、Si:0.1~3.0%を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のめっき用鋼板。
【請求項6】
前記素地鉄が重量%で、Mn:1.0~8.0%、Si:0.1~3.0%、C:0.05~0.3%、Al:0.005~3.0%、P:0.04%以下(0%は除く)、S:0.015%以下(0%は除く)、Cr:1.5%以下(0%を含む)、B:0.005%以下(0%を含む)、残部Fe及び不可避不純物を含む組成を有する、請求項5に記載のめっき用鋼板。
【請求項7】
請求項1から4に記載のめっき用鋼板、及び前記めっき用鋼板上に形成された溶融亜鉛めっき層を含む、溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項8】
素地鉄を準備する段階;
前記素地鉄に対して電気めっきを行い、酸素が5~50重量%含まれたFeめっき層を形成する段階;及び
前記Feめっき層が形成された素地鉄を露点温度-20℃未満に制御された1~70%H
2-残りのN
2ガス雰囲気の焼鈍炉で600~950℃に5~120秒間維持して焼鈍する段階を含む、めっき用鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記Feめっき層の付着量は0.5~3g/m
2である、請求項8に記載のめっき用鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記錯化剤はアラニン、グリシン、セリン、スレオニン、アルギニン、グルタミン、グルタミン酸及びグリシルグリシンの中から選択された1種以上である、請求項8または9に記載のめっき用鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記電気めっき溶液は第1鉄イオン及び第2鉄イオンを含み、前記第2鉄イオンは全体鉄イオンに対して5~60重量%の割合を有し、前記鉄イオンの全体濃度は、前記電気めっき溶液1L当たり1~80gである、請求項8または9に記載のめっき用鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記電気めっきは、溶液温度80℃以下、電流密度3~120A/dm
2の条件で行われる、請求項8または9に記載のめっき用鋼板の製造方法。
【請求項13】
素地鉄を準備する段階;
前記素地鉄に対して電気めっきを行い、酸素が5~50重量%含まれたFeめっき層を形成する段階;
前記Feめっき層が形成された素地鉄を露点温度-20℃未満に制御された1~70%H
2-残りのN
2ガス雰囲気の焼鈍炉で600~950℃に5~120秒間維持して焼鈍してめっき用鋼板を得る段階;及び
亜鉛めっき浴に前記めっき用鋼板を浸漬する段階を含む、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき品質に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板、これを製造するためのめっき用鋼板及びこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車産業分野では自動車用鋼材として高強度鋼板を適用することで、安全性向上及び厚さ減少による軽量化を行ってきた。自動車用鋼材として好ましく適用できる鋼材としては、析出強化鋼、固溶強化鋼などが開発されており、さらに強度向上と同時に延伸率を向上させるために相変態を利用したDP鋼(Dual Phase Steel)、CP鋼(Complex Phase Steel)、TRIP鋼(Transformation Induced Plasticity Steel)、及びTWIP鋼(Twinning Induced Plasticity Steel)などが開発された。これらの高強度鋼は一般鋼に比べて様々な合金元素を添加するようになるが、特にMn、Si、Al、Cr、BなどFeに対して酸化傾向が高い元素を多く添加するようになる。
【0003】
溶融亜鉛めっきは、めっきが実施される直前の焼鈍鋼板の表面状態によってめっき品質が決定されるが、鋼板の物性を確保するために添加されたMn、Si、Al、Cr、Bなどの元素から起因する焼鈍中の表面酸化物の形成によりめっき性が悪化する。すなわち、焼鈍過程で上記元素が表面側に拡散し、焼鈍炉中に存在する微量の酸素もしくは水蒸気と反応して鋼板表面に上記元素の単独あるいは複合酸化物を形成することで表面の反応性を低下させるようになる。反応性が落ちた焼鈍鋼板の表面は溶融亜鉛めっき浴の濡れ性を妨げ、めっき鋼板の表面に局部的または全体的にめっき金属が付着しない未めっきを引き起こし、またこのような酸化物によって溶融めっき過程でめっき層の密着性確保に必要な合金化抑制層(Fe2Al5)の形成が不十分であり、めっき層の剥離が発生するなど、めっき鋼板のめっき品質が大きく低下する。
【0004】
高強度溶融めっき鋼板のめっき品質を向上させるために様々な技術が提案された。そのうち特許文献1は、焼鈍過程で空気と燃料の空燃比を0.80~0.95に制御し、酸化性雰囲気の直接火炎炉(Direct Flame Furnace)内で鋼板を酸化させ、鋼板内部の一定深さまでSi、Mn又はAl単独あるいは複合酸化物を含んだ鉄酸化物を形成させてから、還元性雰囲気で鉄酸化物を還元焼鈍させた後、溶融亜鉛めっきを行ってめっき品質に優れた溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する技術を提示している。
【0005】
特許文献1のように焼鈍工程で酸化後に還元する方法を用いると、鋼板表層から一定深さにSi、Mn、Alなどの酸素と親和力が大きい成分が内部酸化され、表層への拡散が抑制されるため、表層ではSi、MnまたはAl単独または複合酸化物が比較的減少して、亜鉛との濡れ性が改善され、未めっきを減少させることができる。しかし、Siが添加された鋼種の場合、還元工程中にSiが酸化鉄の直下に濃化して帯状のSi酸化物を形成するようになり、これによってめっき層を含む表層部で剥離、すなわち、還元された鉄とその下の素地鉄との間の界面で剥離が発生して、めっき層の密着性確保が難しいという問題がある。
【0006】
一方、高強度溶融めっき鋼板のめっき性向上のためのさらに他の方法として、特許文献2には、焼鈍炉内の露点(Dew Point)を高く維持し、酸化が容易なMn、Si、Alなどの合金成分を鋼内部に内部酸化させることで、焼鈍後の鋼板表面に外部酸化される酸化物を減少させてめっき性を向上させる方法が提示されている。しかし、特許文献2による方法では、内部酸化が容易なSiの外部酸化によるめっき性問題は解決が可能であるが、内部酸化が比較的難しいMnが多量添加されている場合には、その効果が僅かである問題がある。
【0007】
また、内部酸化によってめっき性を向上させるとしても、表面に不均一に形成された表面酸化物によって線状の未めっきが発生するか、めっき後に合金化熱処理によって合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA鋼板)を製造する場合には、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面に不均一合金化による線状欠陥が発生するなどの問題が発生することがある。
【0008】
また他の従来技術として、焼鈍前のNi先めっきを行い、焼鈍中の合金元素が表面に拡散することを抑制する方法がある。しかし、この方法もMnの拡散抑制には効果があるが、Siの拡散を十分に抑制できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国公開特許第2010-0030627号公報
【特許文献2】韓国公開特許第2009-0006881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の一態様によると、未めっきが発生せず、めっき層が剥離する問題が解決されためっき品質に優れた溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法が提供される。
【0011】
本発明の他の一態様によると、めっき後に合金化熱処理を実施しても線状欠陥が発生せず、優れた表面品質の合金化溶融亜鉛めっき鋼板で製造できる溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法が提供される。
【0012】
本発明のまた他の一態様によると、このように優れためっき品質を有する溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができるめっき用鋼板及びその製造方法が提供される。
【0013】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書の全体的な事項から本発明のさらなる課題を理解することに何ら問題がない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様に係るめっき用鋼板は、表面から深さ方向に観察したMn成分とSi成分のGDSプロファイルが順次的に極大点と極小点をそれぞれ含み、上記Mn成分のGDSプロファイルの極大点におけるMn濃度を母材のMn濃度で除した値と、上記Mn成分のGDSプロファイルの極小点におけるMn濃度を母材のMn濃度で除した値との差(Mnの換算濃度の差)が10%以上であり、上記Si成分がGDSプロファイルの極大点におけるSi濃度を母材のSi濃度で除した値と、上記Si成分のGDSプロファイルの極小点におけるSi濃度を母材のSi濃度で除した値との差(Siの換算濃度の差)が10%以上であることができる。
【0015】
但し、深さ5μm以内で極小点が現れない場合には、深さ5μm地点を極小点が現れた地点とする。
【0016】
本発明の他の一態様である溶融亜鉛めっき鋼板は、上述しためっき用鋼板及び上記めっき用鋼板上に形成された溶融亜鉛めっき層を含むことができる。
【0017】
本発明の他の一態様であるめっき用鋼板の製造方法は、素地鉄を準備する段階;上記素地鉄に対して電気めっきを行い、酸素が5~50重量%含まれたFeめっき層を形成する段階;及び上記Feめっき層が形成された素地鉄を露点温度-20℃未満に制御された1~70%H2-残りのN2ガス雰囲気の焼鈍炉で600~950℃に5~120秒間維持して焼鈍する段階を含むことができる。
【0018】
本発明のまた他の一態様である溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、素地鉄を準備する段階;上記素地鉄に対して電気めっきを行って、酸素が5~50重量%含まれたFeめっき層を形成する段階;上記Feめっき層が形成された素地鉄を露点温度-20℃未満に制御された1~70%H2-残りのN2ガス雰囲気の焼鈍炉で600~950℃に5~120秒間維持して焼鈍してめっき用鋼板を得る段階;及び亜鉛めっき浴に上記めっき用鋼板を浸漬する段階を含むことができる。
【発明の効果】
【0019】
上述のように、本発明は先めっき層を形成し、内部のMn及びSi成分の濃度プロファイルを制御することで、溶融亜鉛めっき時に未めっきが発生する現象を顕著に改善し、めっき密着性を向上させた溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができる。
【0020】
また、本発明の一態様によると、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板に対して合金化熱処理を行っても得られる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面に線状欠陥などを防止することができるため、表面品質に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】Fe電気めっきされた冷延鋼板で製造した溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層を除去した後に測定したMn及びSi成分のGDSプロファイルの概略図である。
【
図2】酸素を含有したFe電気めっきが形成された素地鉄(冷延鋼板)を800℃、53秒間焼鈍した鋼板の断面電子顕微鏡写真であり、(a)は、電子顕微鏡写真、(b)は、Mn分布図、(c)は、Si分布図、(d)は、Oの分布図を示す。
【
図3】酸素を含有したFeめっき層を形成した素地鋼板の焼鈍過程を示した模式図である。
【
図4】溶融亜鉛めっき鋼板をめっき層の除去後に測定されたGDS濃度プロファイルであり、(a)は、比較例1、(b)は、比較例6、(c)は、発明例3によって得られた鋼板に関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明者の研究により完成された本発明の一態様によるめっき品質に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板について詳細に説明する。本発明において、各元素の濃度を示す際に特に断りのない限り、重量%を意味することに留意する必要がある。なお、Fe電気めっき量は単位面積当たりのめっき層に含まれたFeの総量で測定されためっき量であり、めっき層内の酸素及び不可避不純物はめっき量に含まなかった。
【0023】
さらに、特に断りのない限り、本発明で言及する濃度及び濃度プロファイルはGDS、すなわちグロー放電分光器(Glow discharge optical emission spectrometer)を用いて測定された濃度及び濃度プロファイルを意味する。
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
MnとSiを多量含有する鋼板で未めっき及びめっき密着性の低下が発生する原因は、冷延鋼板を高温で焼鈍する過程で、特にMn、Siなどの合金元素が表面で酸化されて生成される表面酸化物に起因すると知られている。
【0026】
Mn、Siなどの合金元素が表面に拡散することを抑制するために、酸素を多量含有した酸化物層を形成する方法で、昇温中に酸化した後、再度還元雰囲気に維持して還元させる酸化還元法または素地金属の表面に鉄酸化物をコーティングして熱処理する方法などを用いることができる。しかし、素地金属の表面に強固に形成された鉄酸化物は、FeOだけでなく還元が難しいFe3O4及びFe2O3が混在しており、還元雰囲気の焼鈍過程で表面は金属鉄に還元される一方、鉄酸化物層と素地鉄の界面は還元速度が遅いため、完全に還元されにくく、Mn、Si酸化物が界面に蓄積して連続的な酸化物層を形成するようになるため、溶融亜鉛との濡れ性は改善されるが、酸化物層が容易に割れてめっき層が剥離する問題が発生する可能性がある。
【0027】
一方、熱処理過程で焼鈍炉内の酸素分圧または露点を上昇させて、Mn、Siなどの合金元素を鋼内部で酸化させる焼鈍内部酸化法を適用する場合、熱処理過程で鋼表面に優先的にMn、Si酸化物を形成し、この後、鋼内部に拡散した酸素によってMn、Siが酸化されて表面拡散を抑制するようになる。したがって、素地鉄の表面に薄い酸化物膜が形成されるが、焼鈍前の冷延鋼板の表面が完全に均質でないか、酸素分圧、温度などの局部的なばらつきが発生すると、溶融亜鉛めっき中の濡れ性が不均一であって未めっきが発生するか、亜鉛めっき後の合金化熱処理過程で酸化膜の厚さが不均一であって、合金化度の差が発生すると、目視で容易に識別可能な線状欠陥が引き起こされる傾向にある。
【0028】
上記の技術の問題点を解決するために、本発明者らは、めっき用鋼板の表面側に酸化性元素であるMn及びSiの存在形態を以下のように制御することで表面が美麗で、めっき剥離の問題がない溶融亜鉛めっき鋼板を製造しようとした。
【0029】
すなわち、本発明の一実施形態による鋼板は、Mn及びSiのGDS濃度プロファイルが次のような特徴を有することができる。
図1のGDSプロファイルを参照して、本発明のめっき用鋼板について詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明の鋼板を含む溶融亜鉛めっき鋼板から亜鉛めっき層を除去した後に表面部から現れ得る合金成分の典型的なGDSプロファイルと本発明の範囲から外れた場合の合金成分のGDSプロファイルを概略的に示したグラフである。グラフにおける縦軸はMn、Siなどの合金元素の濃度を示し、横軸は深さを示す。
【0031】
図1に示した本発明のMn成分またはSi成分のGDSプロファイルの典型的な例から分かるように、本発明の鋼板は、その表面にはMnの濃度が非常に低く、表面から深さ方向に極大点と極小点が順次現れる形態の濃度勾配を有することができる。ここで、順次的に有するということは、表面(界面)から深さ方向に必ず極大点が先に現れることではなく、場合によっては極小点が先に現れることもあるが、この後に極大点と極小点が順次的に現れるべきであることを意味する。但し、一部の実施形態においては、極大点の後に極小点が現れない場合もあり、この場合には5μm深さ領域の内部濃度を極小点濃度とすることができる。また、表面の合金元素濃度は極大点の濃度より低い値を有するが、場合によっては表面と極大点との間に合金元素濃度が低い極小点が現れることもある。
【0032】
上記
図1で例示したGDS濃度プロファイルにおいて、必ずしもこれに制限するものではないが、表層部は素地鉄から合金元素が多く拡散しないため、合金元素の濃度が低いFeめっき層に該当し、極大点はFeめっき層と素地鉄との間の界面付近に形成された合金元素の内部酸化物が集中された領域に該当し、Feめっき層から素地鉄側に現れる極小点は、合金元素を含まないFeめっき層として合金元素が拡散して希釈されたり、内部酸化が発生された極大点で合金元素が拡散して枯渇した領域に該当する。
【0033】
本発明の一実施形態では、上記極大点は、鋼板の表面から0.05~1.0μmの深さに形成されることができる。もし、これより深い領域で極大点が現れると、本発明の効果による極大点と判断されないことがある。また、極小点は鋼板の表面から深さ5μm以内の位置に形成されることができる。上述したように、もし極小点が深さ5μm以内の地点で形成されない場合、5μm深さを極小点が形成される地点とすることができる。5μm深さの濃度は、母材の内部濃度と実質的に同一であるため、これ以上濃度が減少しない地点と見なすことができる。
【0034】
このとき、Mn濃度プロファイルとSi濃度プロファイルにおいて、該当元素の極大点の換算濃度(該当地点の濃度を母材の濃度で除した値、%単位で表示)と極小点の換算濃度との差が大きいほど表面に拡散するMn及びSiを減少させることができるため重要である。本発明の一実施形態では、MnとSiの極大点の換算濃度-極小点の換算濃度の値がそれぞれ10%以上であることができる。
【0035】
本発明者らが様々な条件で実験した結果、上記の条件を満たす場合、溶融亜鉛めっき時に未めっきが発生せず、めっき密着性が良好な溶融亜鉛めっき鋼板が得られた。しかし、Mn及びSiの極大点と極小点の換算濃度の差が10%未満であると、点または線状の未めっきが発生するか、めっき剥離が発生する問題がある。すなわち、上記換算濃度の差を一定のレベル以上に制御することで、表面にMn及びSiの酸化物が生成されることを防止することができ、表面が美麗でかつめっき密着性が良好な超高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができ、追って合金化熱処理過程を経ても表面に線状欠陥などの欠陥が発生することを抑制することができる。上記換算濃度値の差が大きいほど有利であるため、その値の上限を敢えて決める必要はない。但し、含まれる元素の含有量を考慮するとき、上記換算濃度値の差は、Mn、Siのいずれも200%以下と決めることができる。本発明の他の一実施形態では、上記Mn及びSiの換算濃度の差を15%以上または20%以上とすることができる。
【0036】
以下、本発明で実施したGDS分析方法について詳細に説明する。
【0037】
GDS濃度分析のために溶融亜鉛めっきされた鋼板を長さ30~50mmの大きさにせん断し、20~25℃の常温で5~10重量%の塩酸水溶液に浸漬して亜鉛めっき層を除去する。亜鉛めっき層の溶解過程で素地鉄の表面損傷を防止するために、亜鉛めっき層と酸溶液反応による気泡発生が中断されると、10秒以内に酸溶液を除去し、純水を用いて素地鉄を洗浄して乾燥した。まだ溶融亜鉛めっきされていないめっき用鋼板であれば、このようなめっき層の除去作業なしにも分析できることはもちろんである。
【0038】
GDS濃度プロファイルは、鋼板の厚さ方向に1~5nm毎に鋼板に含有された全ての成分の濃度を測定する。測定されたGDSプロファイルには、不規則なノイズが含まれることができ、Mn及びSi濃度の極大点、極小点を算出するために測定された濃度プロファイルにカットオフ値が100nmのガウシアンフィルタを適用して平均濃度プロファイルを得て、ノイズが除去されたプロファイルから濃度の極大点と極小点の濃度値と深さをそれぞれ求めた。なお、本発明で言及する極大点と極小点は、深さ方向に互いに10nm以上の位置差がある場合にのみ極大点と極小点として算出したことに留意する必要がある。
【0039】
本発明で対象とするめっき用鋼板は、素地鉄と、上記素地鉄上に形成されたFeめっき層を含むことができる。上記素地鉄は、その組成を特に制限しない。
【0040】
但し、Mn1.0~8.0重量%、Si0.1~3.0重量%を含有して表面に酸化物が生成され易い組成を有する高強度鋼板であれば、本発明によってめっき性が有利に改善することができる。素地鉄のMn濃度の上限は特に制限しないが、通常的に用いられる組成を考慮するとき、その上限を8重量%に制限することができる。また、Mnの濃度の下限を特に制限しないが、Mnが1.0重量%未満含有された組成は、Feめっき層を形成しなくても溶融亜鉛めっき鋼板の表面品質が美麗でFe電気めっきを行う必要がない。Si濃度の上限は特に制限しないが、通常的に用いられる組成を考慮するとき、その上限を3.0重量%以下に制限することができ、Si濃度が0.1重量%未満では本発明の方法を実施しなくても溶融亜鉛めっきの品質が美麗であるため、本発明の方法を実施する必要がない。
【0041】
上記MnとSiはめっき性に影響を及ぼす元素であるため、その濃度を上述のように制限することができるが、本発明は素地鉄の残りの成分については特に制限しない。
【0042】
但し、合金成分を多量含有する高強度鋼板の場合において、未めっき及びめっき密着性の低下がひどく起こり得るという態様を考慮して、本発明の一実施形態では、上記素地鉄の組成を重量%で、Mn:1.0~8.0%、Si:0.1~3.0%、C:0.05~0.3%、Al:0.005~3.0%、P:0.04%以下(0%は除く)、S:0.015%以下(0%は除く)、Cr:1.5%以下(0%を含む)、B:0.005%以下(0%を含む)、残部Fe及び不可避不純物を含むものとすることができる。ここで高強度とは、焼鈍後に高い強度を有する場合にはもちろん、この後の後続工程での熱処理などによって高い強度を有し得る場合を全て含む意味で用いられる。なお、本発明における高強度は、引張強度(Tensile strength)基準490MPa以上を意味することができるが、これに制限されるものではない。上記素地鉄は、上述した成分の他にも、Ti、Mo、Nbなどの元素を合計1.0%以下でさらに含むことができる。上記素地鉄については特に制限しないが、本発明の一実施形態では、上記素地鉄として冷延鋼板または熱延鋼板を用いることができる。
【0043】
本発明の一態様では、上記めっき用鋼板を含む溶融亜鉛めっき鋼板が提供されることができ、上記溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき用鋼板及び上記めっき用鋼板の表面に形成された溶融亜鉛めっき層を含むことができる。このとき、溶融亜鉛めっき鋼板としては常用されるものであれば、どのようなものでも適用することができ、特にその種類を制限しない。
【0044】
次に、上述した有利な効果を有するめっき用鋼板及び溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法の1つの例示的な実施形態を説明する。本発明の一実施形態によると、めっき用鋼板は素地鉄を準備する段階;上記素地鉄に対して電気めっきを行い、酸素が5~50重量%含まれたFeめっき層を形成する段階;上記Feめっき層が形成された素地鉄を焼鈍してめっき用鋼板を得る段階を含む過程により製造されることができる。
【0045】
Mn2.6%、Si1.0%、その他の合金元素を含む1.2GPa級冷延鋼板に鉄付着量で1.99g/m
2になるように酸素を6.3重量%含有するFe電気めっきした後、上記電気めっきされた冷延鋼板をN
2-5%H
2、露点-40℃の雰囲気、温度800℃で53秒間焼鈍して冷却した。上記焼鈍過程の全体時間の間の雰囲気は同一に維持され、冷却された鋼板から試料を採取した後、透過電子顕微鏡で観察した断面を
図2に示した。図面から確認できるように、鉄電気めっき層と素地鉄の界面に粒子型のMn、Si酸化物が形成されているのに対し、電気めっき層の表面にはMn、Si酸化物がほぼ形成されていないことが確認できる。特に、このような状態をGDSプロファイルで分析すると、
図1の(b)に示したように、鋼板(Feめっき層を含む)の表面から直下部分でMn及びSi濃度の極大値が現れるようになり、より深い位置でMn及びSi濃度の極小値が現れることがある。もちろん、場合によっては極小値は明確に現れず、濃度が徐々に減少する傾向を表すこともできるが、極大値は明確に観察することができる。
【0046】
このような現象は、焼鈍前に高い酸素含有量を有するFeめっき層を形成したためである。すなわち、鉄電気めっき層に5~50重量%の酸素を含有させると、還元雰囲気の焼鈍炉内で焼鈍される際に、鉄電気めっき層内の酸素が素地鉄内で表面に拡散するMn、Siなどの合金元素を酸化させ、鉄電気めっき層と素地鉄の界面に蓄積させるようになる。したがって、
図1のグラフ(b)のように、GDSで濃度を測定すると、表面から鉄電気めっき層の厚さに該当する深さにMn、Siなどの濃度が高い極大点が確認される。一方、Mnなどのように拡散速度が遅い合金元素は、鉄電気めっき層によって濃度が希釈されるか、内部酸化によって固溶されたMnが枯渇しても、素地鉄から急速に拡散できないため、GDS濃度の極大点の後に、極小点が存在することがある。しかし、Siは焼鈍過程で内部から急速に拡散し、鉄電気めっき層と素地鉄の界面で持続的に内部酸化が進行して酸化物が蓄積されるため、GDS濃度分析で極小点が確認されないこともある。したがって、GDS濃度プロファイルで極小点が現れないことは、鉄電気めっき層によってMn、Siなどの合金元素が酸化されて、表面への拡散を効果的に抑制したことを意味する。
【0047】
高温で強固に形成された酸化物とは異なり、多量の酸素を含有する鉄めっき層を形成して焼鈍するようになると、鉄電気めっき層の表面だけでなく、鉄電気めっき層と素地鋼板の界面でも同時に還元が発生するようになる。このとき、還元された鉄は素地鉄と相互拡散して接合され、MnとSiは、Feめっき層にあった酸素と反応して鉄電気めっき層と素地鋼板の界面に粒子形態または不連続的な板状形態の酸化物を形成するため、鉄電気めっき層と素地金属間の密着力が良好に維持されることができる。それだけでなく、均一に形成された鉄電気めっき層が表面酸化物の生成を抑制し、鋼板表面に固溶されたMn、Siなどの合金元素濃度を低減させて、亜鉛めっき層との合金化反応を促進させて、表面欠陥がなく、均一な合金化溶融めっき鋼板を得ることができる。
【0048】
焼鈍内部酸化法は酸化還元法と異なり、層状の酸化物層を形成しないため、Mn、Siなどの合金元素が多量含有される超高強度鋼板の溶融亜鉛めっき時のめっき密着性を改善するのに優れた特性を示すが、焼鈍炉内の水蒸気が必然的に鋼板の表面をまず酸化させた後、酸素が内部に浸透するため、表面酸化物を根本的に除去することはできない。その結果、焼鈍前の冷延鋼板の表面が完全に均質ではないか、焼鈍時に酸素分圧、温度などの局部的なばらつきが発生するようになると、溶融めっき液との濡れ性が不均一であって未めっきが発生したり、亜鉛めっき後の合金化熱処理過程で酸化膜の厚さが不均一であって合金化度の差が発生して、目視でも容易に識別可能な線状欠陥が引き起こされる問題が発生することがある。
【0049】
酸素が多量含有されたFeめっきによって合金元素の表面拡散を抑制し、美麗でめっきの剥離問題がない溶融亜鉛めっき鋼板を製造するためには、素地鉄に5~50重量%の酸素を含有する鉄電気めっき層を熱付着量の基準として0.5~3.0g/m2になるようにFeめっき層を形成し、鋼板の機械的物性が確保できるように600~950℃の温度に昇温し、再び冷却して溶融めっきを行うことが良い。
【0050】
本発明の一実施形態では、上記Feめっき層は連続めっき工程を通じて形成されることができ、このときのFeめっき量はFe付着量の基準として0.5~3.0g/m2になるようにすることができる。Feめっき量が0.5g/m2未満になると、通常の連続焼鈍工程でFeめっき層による合金元素の拡散抑制効果が不足することがある。また、3.0g/m2を超過しても合金元素の抑制効果はさらに増加することができるが、高いめっき量を確保するために複数のめっきセルを運用しなければならず、不溶性陽極を用いる場合、電気めっき溶液が急激に酸性化してめっき効率が低下し、スラッジが発生する問題があるため、経済的ではない。本発明の他の一実施形態において、上記Feめっき量は1.0~2.0g/m2であることができる。Feめっき層を形成した後に内部酸化させると、Feめっき層と素地鉄の界面または界面直下に内部酸化物を形成するようになるため、MnとSi濃度の極大点は0.05~1.0μm領域に存在するようになる。本発明の0.5~3.0g/m2のFeめっき量は、焼鈍後の0.05~0.4μmの厚さに該当することができる。
【0051】
また、上述した高い酸素濃度を有するFeめっき層は、後続する焼鈍工程の温度、露点温度及び雰囲気を制御することでめっき用鋼板の内部にMn及びSi元素のGDS濃度プロファイルで極大点と極小点が形成され、上記極大点における換算濃度と極小点における換算濃度が本発明の一実施形態で制限する数値範囲を満たすことができるようにする。このような点を考慮して、本発明の一実施形態において、上記Feめっき層内の酸素濃度は5~50重量%であることができ、他の一実施形態では10~40重量%であることができる。表面酸化物の抑制効果を得るためには、Feめっき層内の酸素量が十分に多くなければならない。Feめっき層内の酸素濃度が5重量%未満であってもFeめっき量を増加させて表面酸化物の抑制効果を得ることができるが、このような効果を得るためには3.0g/m2を超過してめっきを行う必要があるため、上述した様々な問題が発生することがある。また、酸素の含有量が5重量%に未達しない場合、MnとSiのGDSプロファイルに極大点と極小点を順次形成させることが難しいため、本発明の一実施形態では、上記Feめっき層中の酸素の含有量を5重量%以上に制御する。一方、Feめっき層内の酸素濃度が増加するほど、焼鈍中の表面酸化物の抑制効果はさらに増加することができるが、通常の電気めっき方法では50重量%を超過するめっき層を得ることが難しいため、上限を50重量%に制限することができる。本発明の他の一実施形態では、上記Feめっき層中の酸素濃度を10~40%に制限することもできる。
【0052】
本発明の一実施形態において、焼鈍温度は均熱帯の鋼板温度を基準として600℃~950℃であることができる。焼鈍温度が低すぎると、冷延鋼板の組織が適切に回復、再結晶されず、鋼板の強度、延伸率などの機械的物性を確保し難く、950℃を超過するようになると鋼中の合金元素が急速に表面に拡散して溶融亜鉛めっきの品質が不良になり、不要に高温で操業するようになるため経済的ではない。
【0053】
一方、本発明の一実施形態において、焼鈍炉の内部の露点は必ずしもこれに限定するものではないが、-20℃未満であることができる。露点温度を-20℃未満に維持する場合、露点を高めるための別途の加湿装置が必要でないため経済的である。それだけでなく、本発明の場合、酸素濃度が高いFeめっき層が形成されているため、敢えて雰囲気による内部酸化を誘導しなくても十分にMnとSiなどの合金元素が表面まで拡散することを防止することができる。露点温度の下限は特に決めない。但し、露点を-90℃未満に維持することは、非常に高純度のガスを用いるなど工業的に有利でないことがあるため、これを考慮して露点の下限を-90℃に決めることができる。本発明の他の一実施形態によると、鋼板の温度が600~950℃の場合の露点は-70~-30℃であることができる。
【0054】
また、焼鈍中の素地鉄とFeめっき層の酸化を防止するためには、焼鈍時の雰囲気ガス中の水素濃度を体積%で1%以上とすることができる。水素濃度が1%未満になると、H2及びN2ガスに不可避に含まれる微量の酸素を酸化反応によって効果的に除去できず、酸素分圧が増加するため、素地鉄の表面酸化を引き起こすことがある。一方、水素濃度が70%を超過すると、ガス流出時の爆発リスク、高水素作業による費用が増加するため、上記水素濃度を70%以下に決めることができる。上記水素(H2)以外には不可避に含まれる不純ガスを除いては、実質的に窒素(N2)であることができる。
【0055】
そして、本発明の一実施形態によると、焼鈍時の目標温度に達した後の維持時間を5~120秒に制限することができる。焼鈍時、素地鉄の内部まで十分に熱伝達され、厚さ方向に均一な機械的物性を得るためには焼鈍目標温度で5秒以上維持する必要がある。一方、高温の焼鈍維持時間が長すぎると、Feめっき層を介した合金妨害元素の拡散が増加して表面酸化物の生成量が増加し、結果的に溶融亜鉛めっきの品質が不良になるため、120秒以下に制限することができる。
【0056】
以下、上述した内容に基づいて多量の酸素を含むFeめっき層を形成した冷延鋼板が高い露点雰囲気で焼鈍中にMn、Siの表面拡散が抑制される効果を
図3を参照してより詳細に説明する。
【0057】
図3は、本発明の条件により鋼板の温度を上げることによって鋼板内部で起こる現象を概略的に示したものである。
【0058】
図3の(a)は、酸素が多量含有されたFeめっき層が形成された素地鋼板の断面概略図を示した。素地鋼板にはMn、Siなどの合金元素が含まれ、Feめっき層は5~50重量%の酸素とめっき中に不可避に混入する不純物が含まれ、残部がFeで構成される。
【0059】
図3の(b)には、鉄電気めっきされた冷延鋼板を1~70%H
2が含有された窒素雰囲気で約300~500℃に加熱した状態を示した。Feめっき層の表面が徐々に還元されて酸素が除去され、Feめっき層と素地鉄の界面には、素地鉄から拡散したMn、Siなどの内部酸化物が生成し始め、温度が増加するほど粒界の酸化物は粗大に成長する。
【0060】
図3の(c)には、同じ還元雰囲気で500~700℃に昇温したときの素地鋼板の断面概略図を示した。Feめっき層はほぼ還元されて素地鉄に対してMn、Si濃度が低いフェライトが形成され、Feめっき層内の酸素が徐々に枯渇するため、Mn、SiがFeめっき層を透過してFeめっき層の表面に徐々に拡散し始めるようになる。
【0061】
図3の(d)には、600~950℃の温度で焼鈍が完了された鋼板の断面概略図を示した。鉄電気めっき層はMn、Siなどの内部酸化物を除外すると、金属鉄の内部に固溶された酸素が完全に除去され、生成された内部酸化物は大体に球形または短い板状を有する。また、結晶粒の成長により鉄電気めっき層は、素地鉄と単一結晶粒を形成することもできる。しかし、内部酸化物の形態が必ずしも粒子型に生成されるものではなく、冷延鋼板の延伸率、鋼成分、焼鈍炉内の雰囲気、鉄電気めっき層に含有された酸素の含有量によって素地鉄の結晶粒と鉄電気めっき層の結晶粒が区分されて現れることもあり、鉄電気めっき層と素地鉄の界面または素地鉄の内部の粒界に沿って短い線状の酸化物が生成されることもある。
【0062】
上記焼鈍段階後に焼鈍した鋼板を冷却することができる。焼鈍段階後の冷却段階における冷却条件は、最終製品の表面品質、すなわちめっき品質に大きな影響を与えないため、本発明において冷却条件を特に制限する必要はない。但し、冷却過程で鉄成分の酸化を防止するために、少なくとも鉄に対しては還元性の雰囲気が適用されることができる。
【0063】
本発明の一実施形態によると、上述した過程によって得られためっき用鋼板に対して溶融亜鉛めっきして溶融亜鉛めっき層を形成することができる。本発明における溶融亜鉛めっき方法は特に制限しない。
【0064】
なお、本発明では、上述した合金組成を有する素地鉄であれば、本発明に係るめっき用鋼板または溶融亜鉛めっき鋼板の素地鉄として制限なく適用可能であるため、素地鉄を製造する方法については具体的に限定しないことができる。
【0065】
本発明の一実施形態において、Feめっき層は電気めっき方式を介して素地鉄の表面に形成されることができ、電気めっき溶液の条件とめっき条件を適切に制御することで形成されるFeめっき層の酸素濃度を制御することができる。
【0066】
すなわち、本発明においてFeめっき層を形成するためには、第1鉄イオン及び第2鉄イオンを含む鉄イオン;錯化剤;及び不可避不純物を含み、上記鉄イオン中の第2鉄イオンの濃度は5~60重量%である電気めっき溶液を用いることができる。
【0067】
本発明の一実施形態によると、電気めっき溶液は、第1鉄イオン及び第2鉄イオンを含む。高いめっき効率を得るためには、第1鉄イオンのみが含まれることが有利であることができるが、第1鉄イオンのみを含む場合、溶液が変質してめっき効率が急激に下落するため、連続電気めっき工程で品質偏差を引き起こす可能性があるため、上記第2鉄イオンをさらに含むことができる。このとき、上記第2鉄イオンの濃度は、第1鉄と第2鉄イオンの合計の5~60重量%であることが好ましく、5~40重量%であることがより好ましい。5%未満の場合、陰極で第2鉄が第1鉄に還元される速度が陽極で第1鉄が第2鉄に酸化される速度よりも小さく、第2鉄濃度が急激に上昇し、pHが急激に下落しながらめっき効率が持続的に低下する。一方、第2鉄のイオンの濃度が60%を超過するようになると、陰極で第2鉄が第1鉄に還元される反応量が第1鉄が還元されて金属鉄に析出する反応量より大きく増加するため、めっき効率が大きく下落し、めっき品質が低下する。したがって、めっき量、作業電流密度、溶液補給量、ストリップに付着して失われる溶液量、蒸発による濃度変化速度などの設備及び工程特性を考慮して、上記鉄イオン中の第2鉄イオンの濃度を5~60重量%になるようにすることが好ましい。
【0068】
上記鉄イオンの濃度は、上記電気めっき溶液1L当たり1~80gであることが好ましく、1L当たり10~50gであることがより好ましい。1g/L未満の場合、めっき効率とめっき品質が急激に低下する問題があるのに対し、80g/Lを超過すると、溶解度を超過するようになって沈殿が発生する可能性があり、連続めっき工程で溶液流失による原料損失が増加するため経済的ではない。
【0069】
本発明の電気めっき溶液は錯化剤を含むが、第2鉄を多量含有しながらもスラッジが発生せず、高いめっき効率を維持するためにアミノ酸またはアミノ酸重合体を錯化剤として用いることが好ましい。
【0070】
アミノ酸は、カルボキシル基(-COOH)とアミン基(-NH2)が結合している有機分子を示し、アミノ酸重合体は、2個以上のアミノ酸が重合して形成された有機分子を意味し、アミノ酸重合体はアミノ酸と類似した錯化剤特性を示す。したがって、以下の説明でアミノ酸とアミノ酸重合体を総称してアミノ酸と表記する。
【0071】
アミノ酸は中性の水に溶解すると、アミンは水素イオンと結合して正電荷を有するようになり、カルボキシル基は水素イオンが解離して負電荷を有するため、アミノ酸分子は電荷中性を維持するようになる。一方、溶液が酸性化されると、カルボキシル基は水素イオンと再結合して電荷中性となり、アミンは正電荷を有するため、アミノ酸分子は陽イオンを形成するようになる。すなわち、アミノ酸は弱酸性の水溶液内で電荷中性または陽イオンを形成するようになる。
【0072】
鉄イオンが含有された酸性の電解液にアミノ酸を投入すると、第1鉄イオン及び第2鉄イオンと錯化されるが、アミノ酸と錯化された鉄イオンは錯化された状態でも陽イオン状態を維持するようになる。したがって、複数のカルボキシル基を有する通常の錯化剤が弱酸性の水溶液で負電荷を帯びることと電気的に反対の特性を示す。
【0073】
また、アミノ酸はクエン酸、EDTAなどの複数のカルボキシル基を含む錯化剤に比べて鉄イオンと形成する結合数が少なく、結合力は弱いが、スラッジを発生させる第2鉄イオンとの結合力は十分に強いため、第2鉄イオンによる沈殿を防止することができる。さらに、第2鉄イオンが錯化されても陽イオンを維持することができるため、第2鉄イオンが陰極に容易に伝達され、第1鉄イオンに還元されてめっき反応に参加できるのに対し、陽極への移動が抑制されて第2鉄イオンの生成速度が鈍化するため、長期間連続めっきを行っても第2鉄イオン濃度が一定レベルを維持するようになり、めっき効率が一定に維持され、電解液を交換する必要がなくなる。
【0074】
一方、連続電気めっき工程でめっきによって溶液内の鉄イオンが消耗されると溶液は酸性化されるが、同じ量の鉄イオンが析出されても第1鉄イオンのみが含有された溶液よりも第2鉄イオンが一緒に含まれた溶液はpH変化が減少するようになる。pHが高くなると一部の第2鉄イオンが水酸イオンと結合し、pHが減少すると水酸イオンが分離して中和されるため、第2鉄イオンを含む溶液は別途のpH緩衝剤がなくてもpH変化が鈍化してpH緩衝剤の役割を果たすようになるため、連続電気めっき工程で電気めっき効率を一定に維持することができる。
【0075】
したがって、アミノ酸を錯化剤として用いて、スラッジを防止することができ、第1鉄イオンだけでなく第2鉄イオンもめっき原料として用いることができ、第1鉄イオンと第2鉄イオンを混合して用いるようになると、溶液のpH変化を鈍化させ、第2鉄イオンの蓄積を容易に防止することができるため、連続電気めっき工程において電気めっき効率とめっき品質を一定に維持することができる。
【0076】
一方、上記錯化剤は、上記鉄イオンと錯化剤とのモル濃度比が1:0.05~2.0となる量で投入されることが好ましく、1:0.5~1.0となる量で投入されることがより好ましい。0.05未満の場合、過量に含有された第2鉄イオンが水酸イオンまたは酸素と結合してスラッジを形成することを抑制できず、第2鉄が含まれなくてもめっき効率が非常に低下し、さらにバーニングを誘発してめっき品質が悪くなる。一方、2.0を超過してもスラッジ抑制効果とめっき品質は維持されるが、過電圧が上昇してめっき効率が低下し、硫酸鉄などの鉄イオンを含有した原料に比べて比較的高価のアミノ酸を不要に過量に含むことになるため、原料費用が上昇するようになって経済的ではない。
【0077】
上記錯化剤は、アミノ酸またはアミノ酸重合体の中から選択された1種以上であることが好ましく、例えば、アラニン、グリシン、セリン、スレオニン、アルギニン、グルタミン、グルタミン酸及びグリシルグリシンの中から選択された1種以上であることができる。
【0078】
上記アミノ酸を錯化剤として用い、溶液温度80℃以下、pH2.0~5.0に維持しながら、電流密度3~120A/dm2で電気めっきを行うと、めっき効率が高く、酸素濃度の高いFeめっき層を得ることができる。
【0079】
Fe電気めっき溶液の温度はFeめっき層の品質には大きく影響しないが、80℃を超過するようになると溶液の蒸発がひどくなって、溶液の濃度が持続的に変化して均一な電気めっきが難しくなる。
【0080】
Fe電気めっき溶液のpHが2.0未満になると、電気めっき効率が低下して連続めっき工程に適さず、pHが5.0を超過するようになるとめっき効率は増加するが、連続電気めっき中に鉄水酸化物が沈殿するスラッジが発生されて配管詰まり、ロール、及び設備汚染の問題が発生するようになる。
【0081】
電流密度は3A/dm2未満になると、陰極のめっき過電圧が下落してFe電気めっき効率が下落するため、連続めっき工程に適さず、120A/dm2を超過するようになると、めっき表面にバーニングが発生して電気めっき層が不均一であり、Feめっき層が脱落しやすいという問題が生じる。
【0082】
本発明は、上述したように、Feめっき層に5~50重量%の酸素を含有することが好ましい。Feめっき層に酸素が混入する原因は、以下のとおりである。陰極を印加した鋼板表面に鉄が析出する過程で同時に水素イオンが水素気体に還元されながらpHが上昇するようになる。これに伴い、第1鉄及び第2鉄イオンはいずれも一時的にOH-イオンと結合するようになり、Feめっき層が形成されるときに一緒に混入することがある。もし、酢酸、乳酸、クエン酸、EDTAなどのアニオン性錯化剤を用いるようになると、錯化剤がOH-イオンと結合された鉄イオンが平均的に負電荷を帯び、電気めっきのために陰極を印加すると、電気的に反発力が発生してFeめっき層への混入が抑制される。一方、アミノ酸はpH2.0~5.0で電気的に中性であり、pH2.0未満の強酸では陽イオンを帯びるが、アミノ酸と結合した鉄イオンに1~2個のOH-が結合しても陽イオンを帯びるため、電気めっきを実施する陰極と電気的引力が発生して酸素を多量混入するようになる。よって、鉄イオンとアミノ酸のモル濃度比が1:0.05~1:2.0となるようにアミノ酸を錯化剤として用いて、pH2.0~5.0を維持してFe電気めっきを行うと、めっき効率が高く、スラッジ発生が抑制されながらも酸素を5~50重量%含有するFeめっき層を得ることができる。
【0083】
Mn、Siを含有した鋼板の溶融亜鉛めっきの品質を確保するためには、Feめっき層のめっき量を鉄の量を基準として0.5~3.0g/m2で処理することが好ましい。Feめっき量の上限は特に限定されないが、連続めっき工程で3.0g/m2を超過するようになると、複数個のめっきセルが必要になるか、生産速度が低下するため経済的でない。さらに、Fe電気めっき量が多いと連続工程でFe電気めっき溶液が急激に変性してpHが下落し、めっき効率が大きく低下して、溶液管理が難しくなるという問題がある。一方、Fe電気めっき量が0.5g/m2未満になると、Feめっき層内に含まれた酸素が急速に還元されて除去されるため、素地鉄からMn、Siが拡散して表面酸化物が形成されることを効果的に抑制できなくなり、溶融めっき品質が低下するという問題がある。上記Feめっき量は、めっき層内に含有された鉄濃度でFeめっき層が焼鈍中に完全に還元されると、約0.05~0.4μmの厚さを有する。
【実施例】
【0084】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は本発明を例示して具体化するためであって、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれから合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【0085】
(実施例)
まず、下記表1の組成のように2種の素地鉄を用意した。素地鉄は冷間圧延された鋼板であり、表面に特別なめっき層が形成されていないものである。
【0086】
【0087】
鋼板にFe電気めっきを行う前に、Cu板を用いてFe電気めっきを行った後に、5~10重量%の塩酸溶液で溶解してFe総量を測定して電気めっき付着量とめっき効率を予め測定した。測定されためっき効率を参考にして、冷延鋼板にFe電気めっきを施すことによってめっき溶液及びめっき条件が変更されても、Fe電気めっき付着量を類似に調節した。各溶液及びめっき条件でCu板にFe電気めっきをさらに行い、GDS分析によりFeとOの総量を求めて、各電気めっき条件に応じたFeめっき層の平均酸素濃度を測定し、塩酸で溶解してめっき付着量を別途測定し、表2に示した。めっき時の全てのめっき溶液の温度は50℃に調節した。一方、Cuに電気めっきした溶液及びめっき条件と同様にして表1に記載された2種の冷延鋼板に鉄電気めっき層を形成した後に次の条件で焼鈍及び溶融亜鉛めっきを行った。焼鈍炉の内部は全ての区間で5%H2を含むN2ガス雰囲気に還元性雰囲気を維持し、露点は表2に示したようにすべての区間で-40℃に維持した。ここに上述した過程(すなわち、表2の条件、めっき浴温度:50℃)でFe電気めっきされた冷延鋼板を装入し、約2.5℃/secの昇温速度で810℃まで加熱した後、53秒間維持した。この後、2.8℃/secの速度で650℃まで徐々に冷却し、再び14.5℃の速度で400℃まで急冷した。冷却が完了されると、溶融亜鉛めっきが可能になるように480℃まで再び昇温して溶融亜鉛めっき浴に引き入れた。溶融亜鉛めっき浴は0.20~0.25%のAlを含有し、温度は460℃に維持し、めっき後、徐々に常温に冷却して溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。
【0088】
製造された溶融亜鉛めっき鋼板に対するめっき性評価を行い、約8%塩酸溶液でめっき層を溶解した素地鉄についてGDS濃度プロファイルを測定し、Mn及びSiの極大点、極小点及び素地鉄の内部の5μmで平均濃度をそれぞれ測定し、その結果を表3に示した。
【0089】
溶融亜鉛めっき鋼板のめっき性は目視で評価した。全体面積にわたって未めっきが全くない場合は「良好」で表し、1mm以下の微細な点状未めっきが発生する場合は「点未めっき」、直径1mmを超過する面積で未めっきが発生する場合は「未めっき」に区分した。
【0090】
めっき密着性を評価するために、溶融亜鉛めっき鋼板に自動車構造用シーラーを約5mm厚さで塗布し、150~170℃の温度で硬化した。常温に冷却された溶融亜鉛めっき鋼板を90度にベンディングしてシーラーを剥離させた。めっき層がシーラーに接着して亜鉛めっきと素地鉄の界面の全体で剥離すると、めっき密着性が不良であると判断して「剥離」と表記し、めっき層の剥離が発生しなかった場合、めっき密着性が「良好」であると判断した。一部の試験片では、めっき層の一部のみが剥離される場合もあったが、この場合には「部分剥離」と表示した。しかし、「未めっき」が発生した試験片については、めっき密着性を評価しなかった。
【0091】
めっき層を塩酸で除去した素地鉄は、上述したGDS分析方法にしたがって濃度プロファイルを求め、100nmガウシアンフィルタを適用してノイズを除去した後、極大点と極小点を算出した。一部のGDSプロファイルでは、極大点または極小点を算出することができず、この場合、「ND」と表記した。但し、極小点の場合には表示されなかったとしても、換算濃度の差を求める際には、以下に記載した母材内部のMn及びSi濃度と同一であるものとみなして計算に導入した。しかしながら、極大点が形成されていない場合には、換算濃度を求めることができず、本発明の範囲から逸脱したものとみなした。
【0092】
母材内部のMn及びSiの濃度としては、いずれも鋼板表面(めっき層界面)から深さ方向に5μm地点で測定した値を用いた。
【0093】
【0094】
【0095】
比較例1及び2では、鉄電気めっき層を形成していない素地鋼板を上述した条件と同様に焼鈍条件及び溶融亜鉛めっきを行った。素地鋼板のSi含有量が高い比較例1では溶融亜鉛めっきにならず、ほとんどの素地鋼板の表面が露出した状態であった。一方、素地鋼板のSi含有量が低い比較例2では溶融亜鉛めっき後の外観は良好であったが、めっき密着性の評価結果、めっき層が全て剥離された。比較例1の溶融めっき鋼板に残存する溶融めっき層を塩酸で除去した後、素地鋼板の表面に対するMn及びSiのGDS濃度プロファイルを測定し、
図4のグラフ(a)に示した。図面での実線はMnの濃度プロファイルであり、点線はSiの濃度プロファイルである(以下、同一)。素地鋼板の表面の0.5μm深さまでMnの濃度が低く現れることを確認し、これはMnが表面酸化物を形成しながら、素地鋼板の表面の近くでMnが一定量枯渇されたためである。一方、Siは素地鋼板の表面の0.5μm深さまで濃度が増加する傾向を示したが、これはSiが表面だけでなく、素地鋼板の内部でも持続的に酸化が発生するため、表面の近くでSiの濃度が高くなったわけである。比較例3~7では、錯化剤としてクエン酸が含まれた鉄電気めっき溶液で鉄電気めっきを行った。GDS分析により測定された鉄電気めっき層内に含有された酸素の濃度は約3.3~4.9重量%であった。溶融亜鉛めっきを行った結果、鉄電気めっき量が1.21g/m
2以下である比較例3~5では広い面積で溶融亜鉛めっきされず、鉄電気めっき量が1.99g/m
2以上である比較例6~7では溶融亜鉛めっきされたが、めっき密着性の評価結果、全てめっき層が剥離した。比較例6の溶融亜鉛めっき鋼板の亜鉛層を塩酸で除去した後、GDS濃度プロファイルを測定し、
図4のグラフ(b)に示した。
図4のグラフ(a)に示した鉄電気めっき層を形成していない場合と比較して、素地鋼板の表面のMnはさらに多く枯渇したように示されたが、Mnを含まない鉄電気めっき層が形成されて、Mn濃度が希釈されたためである。また、鉄電気めっき層に該当する深さにMn極大点が現れるが、素地鉄の内部の平均濃度に対する極大点と極小点の換算濃度の差が約2.3%レベルで非常に僅かなレベルであった。
【0096】
比較例8~12には、乳酸ナトリウムを錯化剤として用いた溶液で鉄電気めっきを行った結果を示した。鉄電気めっき層内の酸素含有量は3.3~3.7%レベルで、クエン酸を錯化剤として用いた場合よりも若干低いレベルであった。溶融亜鉛めっきを実施した結果、鉄電気めっき量1.20g/m2以下では溶融亜鉛めっきがされない未めっき状態であり、鉄電気めっき量が2.02g/m2以上では溶融亜鉛めっき時に微細な点状の未めっきが形成され、めっき密着性が不良であった。
【0097】
比較例13及び14、発明例1~7では、アミノ酸の一種であるグリシンを錯化剤として鉄電気めっき溶液を製造し、2種の素地鋼板に全て鉄電気めっきを行った。鉄電気めっき層内の酸素含有量は5.1~10.3重量%であり、クエン酸または乳酸ナトリウムを錯化剤として用いた場合よりも高かった。鉄電気めっきされた冷延鋼板を溶融亜鉛めっきし、めっき性とめっき密着性を評価した。比較例13と14のように、鉄めっき量が0.4g/m
2と少ない場合には、鋼1と鋼2のいずれも直径1mm以内の微細な点未めっきが発生し、めっき密着性を評価した結果、全て剥離が発生した。しかし、発明例1~7では、鉄の電気めっき量が約0.82g/m
2以上になると、未めっきなしに溶融亜鉛めっきになり、めっき密着性も全て良好であった。発明例3の鋼1に溶融亜鉛めっきされた鋼板のめっき層を塩酸で除去した後、GDS濃度プロファイルを測定した結果を
図4のグラフ(c)に示した。鉄電気めっき層に該当する深さ領域でMnとSiは共に極大点を有し、鉄電気めっき層の厚さより深い領域で極小点を有する。また、極大点と極小点の換算濃度の差はMn69%、Si87%のレベルで非常に高かった。鉄電気めっき層が厚いほどMn及びSiの極大点と極小点の濃度比の差が増加する傾向を示したが、鋼1に対して、鉄電気めっき量が0.82g/m
2である発明例1ではMnの極大点と極小点の濃度比の差が23%、Siは32%レベルであり、鉄電気めっき量が3.00g/m
2で最も多い発明例4ではMnの極大点と極小点の濃度比の差が107%、Siは105%レベルであった。
【0098】
一方、鋼2に鉄電気めっき層を形成した発明例5~7でもMnの極大点と極小点の濃度比の差が12%~58%、Siは30~39%レベルで鋼1と類似した傾向を示し、酸素を多量含有した鉄電気めっき層を形成して鉄電気めっき層の下部にMn及びSiを内部酸化させると溶融亜鉛めっきの表面品質が改善されることが分かる。
【0099】
発明例8~14には、グリシンを錯化剤として用いた鉄電気めっき溶液で70A/dm2の高電流密度で鉄電気めっきを行い、溶融亜鉛めっきした結果を示した。電流密度が20A/dm2で行った比較例13及び14、発明例1~7よりFeめっき層内の酸素の含有量が高かったが、溶融亜鉛めっきの結果は類似した。したがって、Feめっき層の酸素の含有量が高くても、Feめっき量(鉄付着量)が0.5g/m2以上と高くなければMn及びSiを効果的に内部酸化させ、表面に拡散を抑制して、表面品質に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができないことを確認した。
【0100】
上述したように、本発明の条件を全て満たす発明例の場合には、優れためっき性とめっき密着性を示していることが確認できた。したがって、本発明の有利な効果を確認することができた。
【国際調査報告】