(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-25
(54)【発明の名称】アルコキシル化ポリエチレンイミンを含む電着塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 201/02 20060101AFI20231218BHJP
C09D 5/44 20060101ALI20231218BHJP
C09D 179/02 20060101ALI20231218BHJP
C25D 13/00 20060101ALI20231218BHJP
C25D 13/06 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
C09D201/02
C09D5/44 A
C09D179/02
C25D13/00 308A
C25D13/00 309
C25D13/00 307D
C25D13/06 E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536396
(86)(22)【出願日】2021-11-23
(85)【翻訳文提出日】2023-08-03
(86)【国際出願番号】 EP2021082636
(87)【国際公開番号】W WO2022128359
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ベルク,ゼバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】レセル,イェルク
(72)【発明者】
【氏名】ユング,ヴェルナー-アルフォンス
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG121
4J038DB001
4J038DG302
4J038DJ011
4J038KA03
4J038MA08
4J038NA01
4J038NA03
4J038PA04
4J038PB07
4J038PC02
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのカソード析出性ポリマー及び少なくとも1つのアルコキシル化ポリエチレンイミンを含む、水性カソード析出性電着塗料組成物に関する。本発明はまた、導電性基材を、前述の電着材料のカソード電着塗装により少なくとも部分的に塗装する方法に関するものでもある。さらに、本発明は、上記の水性カソード析出性電着塗料組成物から得られた焼き付け塗膜を有する導電性基材の端部防食を改善するための、少なくとも1つのアルコキシル化ポリエチレンイミンの使用方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 少なくとも1つのカソード析出性ポリマー、及び
(b) 少なくとも1つのアルコキシル化ポリエチレンイミン
を含む、水性カソード析出性電着塗料組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つのアルコキシル化ポリエチレンイミン(b)のポリエチレンイミン部位が、分枝状のポリエチレンイミン部位であることを特徴とする、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1つのアルコキシル化ポリエチレンイミン(b)が、エトキシル化、プロポキシル化及び/又は混合エトキシル化/プロポキシル化ポリエチレンイミンであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1つのアルコキシル化ポリエチレンイミン(b)が、エトキシル化ポリエチレンイミンであることを特徴とする、請求項3に記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1つのアルコキシル化ポリエチレンイミン(b)が、アルコキシル化の程度(すなわち、アミノ基のアルコキシル化修飾あたりの重合アルコキシ部位(すなわちO-アルキル部位)の平均数)を10~100に有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つのアルコキシル化ポリエチレンイミン(b)が、数平均分子量を2500~30000g/モルに有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【請求項7】
前記組成物中に含まれる成分(b)の量が、前記電着塗料組成物の総質量に対して0.01~10質量%の範囲にあることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【請求項8】
少なくとも1つのエポキシド-アミン付加物が少なくとも1つのポリマー(a)として存在することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【請求項9】
少なくとも1つのエポキシド-アミン付加物が、少なくとも1つのポリマー(a)として存在し、ビスフェノールAに基づく少なくとも1つのエポキシ樹脂と、少なくとも1つの第1級及び/又は第2級アミン及び/又はその塩及び/又は少なくとも1つの第3級アミン又はその塩との反応生成物であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【請求項10】
(c)少なくとも1つの架橋剤成分を含有することを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【請求項11】
少なくとも1つのブロック化ポリイソシアネートが少なくとも1つの架橋剤成分(c)として存在することを特徴とする、請求項10に記載の塗料組成物。
【請求項12】
カソード電着塗装により導電性基材を少なくとも部分的に塗装する方法であって、少なくとも工程(1)~(5)、すなわち、
(1)請求項1から11のいずれか一項に記載の電着塗料組成物を含む電着塗装浴に、前記導電性基材を少なくとも部分的に浸漬する工程、
(2)該基材をカソードとして接続する工程、
(3)前記電着塗料組成物から得られた塗膜を、直流電流を使用して前記基材上に析出させる工程、
(4)前記塗装した基材を電着塗装浴から取り出す工程、及び
(5)前記基材上に析出した前記塗膜を焼き付ける工程
を含む方法。
【請求項13】
少なくとも1つのさらなる工程(6)、すなわち、
(6)工程(1)で適用した前記組成物とは異なる少なくとも1つのさらなる塗料組成物を、工程(5)の後に得られた前記焼き付け塗膜の上に少なくとも部分的に適用する工程
を含むことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から11のいずれか一項に記載の電着塗料組成物を焼き付け状態で少なくとも部分的に塗装した、及び/又は請求項12又は13に記載の方法により得られた、導電性基材。
【請求項15】
前記少なくとも1つのアルコキシル化ポリエチレンイミンの他に、少なくとも1つのカソード析出性ポリマー(a)を含む、水性カソード析出性電着塗料組成物から得られた焼き付け塗膜を有する導電性基材の端部防食を改善するために、請求項1から6のいずれか一項に定義した少なくとも1つのアルコキシル化ポリエチレンイミンを使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのカソード析出性ポリマー(a)及び少なくとも1つのアルコキシル化ポリエチレンイミンを含む、水性カソード析出性電着塗料組成物に関する。本発明はまた、導電性基材を少なくとも部分的に塗装する方法に関し、この方法は、本発明の電着塗料組成物を含む電着塗装浴に基材を少なくとも部分的に浸漬する工程(1)を包含する、少なくとも工程(1)~(5)を含むカソード電着塗装によるものである。本発明はさらに、焼き付けした本発明の電着塗料組成物で少なくとも部分的に塗装した、及び/又は本発明の方法によって得ることができる、導電性基材に関する。さらに、本発明は、導電性基材の端部防食を改善するためにアルコキシル化ポリエチレンイミンを使用する方法にも関する。
【0002】
自動車の分野では、製造に使用する金属部品は、通常、腐食から保護する必要がある。実現すべき腐食抑制に関する要求は、極めて厳しい。それは、特に、製造業者が長年にわたって錆穿孔しないことを保証することが多いからなおさらである。このような腐食抑制は、通常、構成部品に、又は部品の製造に使用する基材に、その目的に適した少なくとも1つの塗装で塗膜を施すことによって実現されている。
【0003】
必要な腐食抑制を確実にするためには、電着塗膜をその金属基材に施すのが一般的な方法である。このとき、基材には、リン酸塩処理で、及び/又は他の種類の前処理で、前処理がなされている場合がある。電着(エレクトロコート)塗料は、任意に架橋剤、顔料及び/又は充填剤、及び、しばしば添加剤を含む、ポリマーをバインダーとして含む塗料である。一般に、アノード析出性エレクトロコート材料とカソード析出性エレクトロコート材料がある。特に金属効果顔料を含むアノード電着塗装組成物が、例えば、WO2006/117189A1に開示されている。しかし、カソード析出性材料が、工業塗装、特に自動車仕上げにおいて最も重要である。カソード電着塗装では、被塗装基材を電着浴内に浸し、カソードとして接続する。その浴には対極となるアノードがある。エレクトロコート材料の粒子は正電荷で安定化し、カソードに析出して塗膜を形成する。析出後、塗装した基材を電着浴から取り出し、水ですすぎ、そして塗膜の焼き付け、すなわち、熱硬化を行う。
【0004】
カソード析出性エレクトロコート材料は、従来技術、例えばEP1041125A1、DE19703869A1及びWO91/09917A2で知られている。
【0005】
すでに述べたように、カソード析出性エレクトロコート材料の主な目的は、金属基材の防食である。自動車分野において、これらの基材は、特に自動車の車体及び横方向制御アーム、ばね仕掛けの制御アーム又はダンパーのような金属製の構成要素部品である。これらの基材は、その形状、及び塗装工程に先立って行われるスタンピングなどのプロセスにより、本質的に複数の端部を含む。これらの端部は、電着塗装プロセスによる適切な防食にとって大きな課題として残されている。表面及び平面の保護はかなり確立されていると言えるが、端部における最適な技術的解決には至っていないのが現状である。その理由は、極めて自明であるが、電着の特殊性とその利点を考慮しても、例えば硬化中の膜の軟化中に粘度を変更して端部に十分な膜を構築すると同時に、十分な材料の流れを確保して表面及び平面上の膜の所望のレベリングを達成することが困難だということである。この影響は、経済的な理由により、最近の工業的な塗装プロセスでは、例えば基材端部のサンディング及び磨き仕上げプロセスがしばしば省略されるような後処理工程において、鋭い端部が丸められず変化しないままであるので、塗装がさらに困難であることから、さらに重要で関連性が高い。その結果、塗膜の厚さは薄くなり、これら端部の防食が低下する。
【0006】
この問題に対処する1つの方法は、析出した電着材料の粘度を増加させ、さらに硬化中の粘度増加を促進させることである。しかしながらこれは、塗布後及び硬化中に材料を平均にできないので、コーティングの表面粗さの増加を同時にもたらすことが多い。しかし、表面粗さの増加は、その補正が後続のコーティング層の形成中に厳しい努力を要するか又は全く不可能であるので、結果として生じる自動車多層塗装の美的特性が許容できなくなるため、自動車塗装産業では避けるべき影響である。実際に、高い表面粗さの回避は、良好な防食を達成すると同時に、自動車産業における電着塗装における1つの大きな課題である。
【0007】
よって、エレクトロコートした基材の表面粗さに悪影響を与えることなく、金属基材の端部の防食を高めることができる電着塗料が提供可能である必要がある。
【0008】
US2010/0143632A1は、金属基材の防食を得るための、ポリエチレンイミンとポリ(メタ)アクリル酸の混合物を含む組成物を記載している。端部防食については記載されていない。また、カソード析出性エレクトロコート組成物は言うに及ばず、エレクトロコート組成物についても何も開示されていない。これは、そのようなポリエチレンイミンがカソード析出性電着塗料組成物において性能を発揮しない、すなわちそのようなカソード析出性電着塗料組成物は析出性ではないという(実施例の項で以下に示す)知見と一致する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2006/117189A1
【特許文献2】EP1041125A1
【特許文献3】DE19703869A1
【特許文献4】WO91/09917A2
【特許文献5】US2010/0143632A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って本発明の目的は電着塗料を提供することにあり、この材料は、金属基材上に塗布する際に滑らかで均質な膜を構築することができ、それによって、得られた塗装が端部領域で優れた耐食性を示す。
【0011】
この目的は、本願の特許請求の範囲の主題、及び本明細書に開示するその好ましい実施形態、すなわち本明細書に記載の主題によって解決された。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の主題は、
(a) 少なくとも1つのカソード析出性ポリマー、及び
(b) 少なくとも1つのアルコキシル化ポリエチレンイミン
を含む水性カソード析出性電着塗料組成物である。
【0013】
本発明のさらなる主題は、カソード電着塗装により導電性基材を少なくとも部分的に塗装する方法であって、少なくとも工程(1)~(5)、すなわち、
(1)本発明の電着塗料組成物を含む電着塗装浴に、導電性基材を少なくとも部分的に浸漬する工程、
(2)該基材をカソードとして接続する工程、
(3)電着塗料組成物から得られた塗膜を、直流電流を使用して基材上に析出させる工程、
(4)塗装した基材を電着塗装浴から取り出す工程、及び
(5)基材上に析出した塗膜を焼き付ける工程
を含む方法である。
【0014】
本発明のさらなる主題は、焼き付けた本発明の電着塗料組成物で少なくとも部分的に塗装した、及び/又は本発明の方法により得ることができる、導電性基材である。
【0015】
本発明のさらなる主題は、少なくとも1つのアルコキシル化ポリエチレンイミンを、本発明の水性カソード析出性電着塗料から得られた焼き付けた塗膜を有する導電性基材の端部防食を改善するために使用する方法である。
【0016】
驚くべきことに、本発明の電着塗料組成物により、導電性(すなわち金属)基材の優れた端部防食が可能となることが見出された。さらに、驚くべきことに、改善された端部防食の他、表面膜の均質性が依然として高品質であること、すなわち表面粗さが回避されることが見出された。つまり、本発明はこのように、電着塗装の2つの重要な特性、すなわち高い端部防食と優れた膜均質性を両立させるものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の意味における「含む」という用語は、例えば本発明の電着塗料組成物に関連して、「からなる」の意味を含むが、これに限られるものではない。よって例えば、本発明の電着塗料組成物に関して、成分(a)、(b)及び水に加えて、以下に特定し、そして本発明の電着塗料組成物に任意に含まれるさらなる成分の1つ以上が、該組成物に含まれることが可能である。あらゆる構成成分は、各場合とも以下に特定するようにそれらの好適な実施形態で存在する。「からなる」は、「…のみを含む」又は「専ら含む」とも呼ばれ、すなわち「含む」は、特定の用語「からなる」を含む総称と呼ばれる。
【0018】
本発明の電着塗料組成物
本発明のカソード析出性水性電着塗料組成物(以下に本発明の電着塗料組成物ともいう)は、少なくとも成分(a)、(b)及び水も含む。用語「電着塗料組成物」及び「電着塗装組成物」は、本明細書での使用において交換可能である。
【0019】
本発明のカソード析出性水性電着塗料組成物は、電着塗装組成物で導電性基材を少なくとも部分的に塗装するのに好適であり、これはつまり、本発明のカソード析出性水性電着塗料組成物が導電性基材の基材表面に少なくとも部分的に適用するのに好適であることを意味し、そしてその適用により、基材の表面に電着塗膜がもたらされる。
【0020】
本発明のカソード析出性電着塗料組成物は水性である。本発明の電着塗料組成物に関連する「水性」という用語は、好ましくは本発明の目的のために、溶媒として及び/又は希釈剤として、電着塗料組成物中に存在するあらゆる溶媒及び/又は希釈剤の主構成成分として水が存在することを意味すると理解され、その量は本発明の電着塗装組成物の総質量に対して、好ましくは少なくとも35質量%である。有機溶媒は、より低い割合で、好ましくは<20質量%の量で追加的に存在してもよい。
【0021】
本発明の電着塗装組成物は、好ましくは、少なくとも40質量%、より好ましくは少なくとも50質量%、なおより好ましくは少なくとも60質量%、なおより好ましくは少なくとも65質量%、特に少なくとも70質量%、最も好ましくは少なくとも75質量%の分率の水を含み、これらは各場合とも電着塗装組成物の総質量に対するものである。
【0022】
本発明の電着塗装組成物は、好ましくは、<10質量%、より好ましくは0~<10質量%の範囲、非常に好ましくは0~<7.5質量%の範囲又は0~<5質量%又は0~2質量%の範囲の分率の有機溶媒を含み、これらは各場合とも電着塗装組成物の総質量に対するものである。そのような有機溶媒の例には、ヘテロ環状、脂肪族、又は芳香族炭化水素、一価又は多価アルコール、特にメタノール及び/又はエタノール、エーテル、エステル、ケトン、及びアミド、例えば、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、トルエン、キシレン、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びブチルグリコールエーテル及びそれらのアセテート、ブチルジグリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、イソホロン、又はそれらの混合物が含まれる。このような有機溶媒の顕著な例は、例えば、ブチルグリコールのようなエチレングリコールエーテル、又はブトキシプロパノール又はフェノキシプロパノールのようなプロピレングリコールエーテルである。
【0023】
本発明の電着塗料組成物の固形分含量は、好ましくは5~35質量%の範囲、より好ましくは7.5~30質量%、非常に好ましくは10~27.5質量%、より具体的には12.5~25質量%、最も好ましくは15~22.5質量%又は15~20質量%であり、これらは各場合とも電着塗装組成物の総質量に対するものである。固形分含量、言い換えれば、不揮発性分率は、以下に記載する方法によって測定する。
【0024】
本発明の電着塗料組成物は、好ましくは、pHを2.0~10.0の範囲、より好ましくは2.5~9.5の範囲又は2.5~9.0の範囲、非常に好ましくは3.0~8.5の範囲又は3.0~8.0の範囲、より具体的には2.5~7.5の範囲又は3.5~7.0の範囲、特に好ましくは4.0~6.5の範囲、最も好ましくは3.5~6.5又は5.0~6.0の範囲に有する。
【0025】
電着塗料組成物は、成分(a)を好ましくは15~85質量%の範囲、より好ましくは20~80質量%、非常に好ましくは25~77.5質量%、より具体的には30~75質量%又は35~75質量%、最も好ましくは40~70質量%又は45~70質量%又は50~70質量%の量で含み、これらは各場合とも、電着塗装組成物の総固形分含量に対するものである。あるいは、本発明の電着塗料組成物は、成分(a)を好ましくは1~80質量%の範囲、より好ましくは2.5~75質量%、非常に好ましくは5~70質量%、より具体的には7.5~65質量%、最も好ましくは8~60質量%又は10~50質量%の量で含み、これらは各場合とも、塗装浴中の電着塗料組成物それぞれの総質量に対するものである。
【0026】
電着塗料組成物は、成分(b)を好ましくは0.01~10質量%の範囲、より好ましくは0.05~2.5質量%、非常に好ましくは0.1~1.6質量%、より具体的には0.2~1.4質量%、最も好ましくは0.4~1.2質量%又は0.6~1質量%の量で含み、これらは各場合とも、電着塗料組成物の総質量に対するものである。
【0027】
成分(b)の量が少ない場合、場合によっては、端部防食が低下することがある。一方で、成分(B)の量が多い場合、場合によっては、表面粗さが増加し、それ故均質性が低下することがある。
【0028】
本発明の電着塗料組成物が少なくとも1つの架橋剤成分(c)をさらに含む場合、該成分(c)は、好ましくは、5~45質量%の範囲、より好ましくは6~42.5質量%、非常に好ましくは7~40質量%、より具体的には8~37.5質量%又は9~35質量%、最も好ましくは10~35質量%、特に好ましくは15~35質量%の量で存在し、これらは各場合とも、電着塗装組成物の総固形分含量に対するものである。あるいは、本発明の電着塗装組成物が少なくとも1つの架橋剤成分(c)をさらに含む場合、該成分(c)は、好ましくは、0.5~30質量%の範囲、より好ましくは1~25質量%、非常に好ましくは1.5~20質量%、より具体的には2~17.5質量%、最も好ましくは2.5~15質量%、特に好ましくは3~10質量%の量で存在し、これらは各場合とも、塗装浴中の電着塗料組成物それぞれの総質量に対するものである。
【0029】
本発明の電着塗装組成物に含まれるあらゆる成分(a)、(b)及び水の、及び追加的に存在し得るさらなる成分、例えば成分(c)の、質量%で表される分率は、合計で、電着塗料組成物の総質量に対して100質量%となる。
【0030】
電着塗料組成物中の成分(a)及び(c)(成分(c)が存在する場合)の互いに対する相対質量比は、好ましくは5:1~1.1:1の範囲、より好ましくは4.5:1~1.1:1の範囲、非常に好ましくは4:1~1.2:1の範囲、より具体的には3:1~1.5:1の範囲である。
【0031】
成分(a)
成分(a)は、少なくとも1つのカソード析出性ポリマーであり、好ましくは、本発明の電着塗料組成物において少なくとも1つのバインダーとして機能する。同時に、成分(a)は粉砕樹脂として機能する場合もある。詳細は後述する。
【0032】
カソード析出可能である限り、如何なるポリマーもバインダーとして、従って成分(a)として好適である。好ましいのは、ポリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリレートコポリマー、及びエポキシドポリマーである。
【0033】
好ましくは、本発明の電着塗装組成物の成分(a)は、少なくとも1つのエポキシド-アミン付加物を含む、及び/又は少なくとも1つのエポキシド-アミン付加物である。
【0034】
本発明の目的のためのエポキシド-アミン付加物は、少なくとも1つのエポキシ樹脂及び少なくとも1つのアミンの反応生成物である。使用するエポキシ樹脂は、より具体的には、ビスフェノールA及び/又はその誘導体に基づくものである。エポキシ樹脂と反応させるアミンは、第1級及び/又は第2級アミン又はその塩及び/又は第3級アミンの塩である。
【0035】
成分(a)として使用される少なくとも1つのエポキシド-アミン付加物(a)は、好ましくは、カチオン性の、エポキシドベースのアミン修飾樹脂である。このようなカチオン性の、アミン修飾エポキシドベース樹脂の調製は既知であり、例えば、DE3518732、DE3518770、EP0004090、EP0012463、EP0961797B1、及びEP0505445B1に記載されている。カチオン性の、エポキシドベースのアミン修飾樹脂は、好ましくは2個以上、例えば3個のエポキシド基を有する少なくとも1つのポリエポキシド、及び少なくとも1つのアミン、好ましくは少なくとも1つの第1級及び/又は第2級アミンの反応生成物であることが好ましいと理解される。特に好ましいポリエポキシドは、ポリフェノール及びエピハロヒドリンから調製されるポリフェノールのポリグリシジルエーテルである。使用されるポリフェノールは、特にビスフェノールA及び/又はビスフェノールFである。他の適したポリエポキシドは、多価アルコールの、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレン1,2-グリコール、プロピレン1,4-グリコール、1,5-ペンタンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、グリセロール、及び2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンのポリグリシジルエーテルである。使用されるポリエポキシドは、修飾ポリエポキシドであってもよい。修飾ポリエポキシドは、反応性官能基のいくつかが少なくとも1つの修飾化合物と反応しているポリエポキシドであると理解される。そのような修飾化合物の例は次のとおりである。
【0036】
i)カルボキシル基を含有する化合物、例えば飽和又は不飽和モノカルボン酸(例えば、安息香酸、リンシード油脂肪酸、2-エチルヘキサン酸、バーサチック酸(Versatic acid))、種々の鎖長の脂肪族、脂環式及び/又は芳香族ジカルボン酸(例えば、アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸、又は二量化脂肪酸)、ヒドロキシアルキルカルボン酸(例えば、乳酸、ジメチロールプロピオン酸)、及びカルボキシル含有ポリエステル、又は
ii)ジエチルアミン又はエチルヘキシルアミンなどのアミノ基又は第2級アミノ基を有するジアミンを含有する化合物、例えば、N,N’-ジアルキルアルキレン-ジアミン、例えばジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジアルキル-ポリオキシアルキレンアミン、例えばN,N’-ジメチルポリオキシプロピレンジアミン、シアノアルキル化アルキレンジアミン、例えばビス-N,N’-シアノエチルエチレンジアミン、シアンアルキル化ポリオキシアルキレンアミン、例えばビス-N,N’-シアノエチル-ポリオキシプロピレンジアミン、ポリアミノアミド、例えばベルサミド(Versamide)、特にジアミンのアミノ末端反応生成物(例えばヘキサメチレンジアミン)、ポリカルボン酸、特に二量体脂肪酸及びモノカルボン酸、より具体的には脂肪酸、又は1モルのジアミノヘキサン及び2モルのモノグリシジルエーテル又はモノグリシジルエステルの反応生成物、特にα分枝脂肪酸のグリシジルエステル、例えばバーサチック酸、又は
iii)ヒドロキシル基を含有する化合物、例えばネオペンチルグリコール、ビスエトキシル化ネオペンチルグリコール、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレート、ジメチルヒダントイン-N,N’-ジエタノール、ヘキサン-1,6-ジオール、ヘキサン-2,5-ジオール、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,1-イソプロピリデンビス(p-フェノキシ)-2-プロパノール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、又はアミノアルコール、例えばトリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、又はヒドロキシル基含有アルキルケチミン、例えばアミノメチルプロパン-1,3-ジオールメチルイソブチルケチミン又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンシクロヘキサノンケチミン、及びポリグリコールエーテル、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、種々の官能性及び分子量のポリカプロラクタムポリオール、又は
iv)ナトリウムメトキシドの存在下でエポキシ樹脂のヒドロキシル基でエステル化される、飽和又は不飽和脂肪酸メチルエステル。
【0037】
成分(a)の調製に使用することができるアミンの例は、例えば、モノ-及びジアルキルアミン、例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、メチルブチルアミン、アルカノールアミン、例えばメチルエタノールアミン又はジエタノールアミン、ジアルキルアミノアルキルアミン、例えばジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、又はジメチルアミノプロピルアミンである。使用することができるアミンは、アミンと任意に修飾されたポリエポキシドのエポキシド基との反応を中断せず、且つ反応混合物のゲル化も引き起こさない限り、他の官能基も含んでよい。第2級アミンが好ましく使用される。水での希釈性及び電気析出に必要な電荷は、水溶性の酸(例えば、ホウ酸、ギ酸、酢酸、乳酸、アルキルスルホン酸(例えばメタンスルホン酸))、好ましくは酢酸及び/又はギ酸でのプロトン化によって生成される。任意に修飾されたポリエポキシドにカチオン性基を導入するさらなる手段は、ポリエポキシドのエポキシド基をアミン塩と反応させることである。
【0038】
成分(a)として使用することができるエポキシド-アミン付加物は、好ましくは、ビスフェノールAに基づくエポキシ樹脂、及び第1級及び/又は第2級アミン又はその塩及び/又は第3級アミンの塩の反応生成物である。
【0039】
成分(b)
本発明の電着塗料組成物は、少なくとも1つのアルコキシル化ポリエチレンイミンを含む。好ましくは、厳密に1種類のアルコキシル化ポリエチレンイミンが含まれる。
【0040】
ポリエチレンイミンは当業者によく知られている。ポリエチレンイミンは、反応したアジリジン分子、すなわちエチレン(-CH2-CH2-)スペーサーユニットによって分離されたアミン官能基から形式的に構成される繰り返し単位を有するポリマーである。直鎖ポリエチレンイミンの場合、鎖内のアミノ基はすべて第2級アミノ基であるが、分枝ポリエチレンイミンでは、分枝の特性及びその程度に応じて、分子内に第3級アミノ基(分枝点を表す)も存在する。鎖/ポリマーが切断されると、当然ながら第1級アミノ基が生じる。
【0041】
このようなポリエチレンイミンの合成法も周知であり、アジリジンの開環重合により行われる。反応条件の違いにより、分枝の程度が異なる。詳細については、広く知られ且つ入手可能な確立された科学文献及び一般的な知識を参照されたい。
【0042】
ポリエチレンイミン(b)は、アルコキシル化されたポリエチレンイミンである。よって、このようなポリエチレンイミンに存在する第1級アミノ基及び第2級アミノ基のN-H官能基が、好適な成分によって修飾され、そして反応することにより、それぞれのアルコキシル化が起こる。一例として、アミノ基の求核中心(N-H官能基)をエチレンオキシド(オキシラン)と反応させ、エチレンオキシドの開環重合を介してポリエチレンイミンをアルコキシル化(ここではエトキシル化)する。
【0043】
アルコキシル化の程度(すなわち、アミノ基のアルコキシル化修飾あたりの重合アルコキシ部位(すなわちO-アルキル部位)の平均数)、及びアミノ基の個々のアルコキシル化修飾のサイズ及び長さの統計分布は、化学量論条件及び反応条件にも依存する。繰り返しになるが、詳細については、周知の科学文献及び当業者の知識を参照されたい。
【0044】
明らかに、アルコキシル化修飾は1つのプロトン性N-H官能基を消費するので、第1級アミノ基から第2級アミノ基へ、又は第2級アミノ基から第3級アミノ基へと導く。
【0045】
第3級アミノ基は通常、第1級及び第2級アミノ基よりもアルカリ性であるため、所定のpH値において、分子全体がよりプロトン化される傾向となる。より具体的には、電着塗装材料の文脈で好ましいpH値、例えば3.5~7.0又は4.0~6.5のpH値で、一定のプロトン化が既に達成される場合がある(すなわちpH値は、一方では、カソード析出性塗料の文脈で好ましく適用される分散したバインダーポリマーのプロトン化状態を保証し(つまり、これらのポリマーは分散液中で安定化し、電流を印加したときにカソードに移動する)、他方では、任意の欠陥又は例えば材料の再溶解なしに、基材上に析出できることを意味する)。従って水分散性に関して、これらのアミノ基の存在は、pH条件でのプロトン化挙動がカソード析出性塗料に適していることから、有利である。
【0046】
好ましくは、アルコキシル化ポリエチレンイミン(b)は、分枝の特性を有する、すなわち、成分(b)のポリエチレンイミン部位は、分枝状のポリエチレンイミン部位である。よってこれは、たとえ統計的な理由から単独で依然として第2級及び第1級アミノ基を含有する場合でも、分枝の特性により第3級アミノ基を(も)含む。さらに、ポリエチレン部位の分枝の特性は、少なくとも部分的に球状、樹枝状構造をもたらす場合がある。そしてこれは、分枝状のポリエチレンイミ部位の比較的コンパクトな分子のコア、及びアルコキシル化にアクセスできる複数のN-H官能基を含むシェル状の構造に相当する。
【0047】
好ましくは、少なくとも1つのアルコキシル化ポリエチレンイミン(b)は、エトキシル化、プロポキシル化及び/又は混合エトキシル化/プロポキシル化ポリエチレンイミンである。より好ましくは、少なくとも1つのアルコキシル化ポリエチレンイミン(b)は、エトキシル化ポリエチレンイミンである。前記両方の種類のアルコキシル化は十分に利用可能であり、便利に実現可能であるが、これらはまた、水分散性の強化に寄与する(このことは本発明の水性電着塗料の文脈では重要である)。これは特にエトキシル化されたポリエチレンイミンの場合である。さらに、両者は例えば、シェル状構造としての立体的効果を示し、本発明の電着塗料との相互作用に影響を与え、アルコキシル化ポリエチレンイミン(b)のアミン官能基のアルカリ性により、本発明の電着塗料の他の成分、例えば成分(a)との相溶性を確保することができる。よってアルコキシル化の程度が不十分であったり、又は欠けたりすると、電着塗装との相性が悪くなり、例えば、塗料浴が不安定になる場合がある。
【0048】
アルコキシル化の程度(すなわち、アミノ基のアルコキシル化修飾あたりの重合アルコキシ部位(すなわちO-アルキル部位)の平均数)は、好ましくは、5~100の範囲、より好ましくは10~90又は15~70で選択される。アルコキシル化のこれらの範囲内では、統計的な理由から単独で、N-H官能基が高い割合(又はすべて)がアルコキシル化修飾によって消費される、つまり上述の効果(少量のN-H官能基、カソード析出性塗料の文脈で大いに好適なpH値での高い水分散性、コアシェル様構造、立体効果など)がかなりの程度まで達成されることが、明白である。
【0049】
アルコキシル化の程度は、13C NMR分光法、及び(i)アルコキシル化のアルキル-Oユニット(例えば、エトキシル化タイプでは(CH2-CH2-O))に割り当てられる炭素シグナルと、(ii)かかるアルコキシル化のヒドロキシル末端基に対するアルファ位の炭素に割り当てられる炭素シグナルとのシグナル強度の比較により決定される。
【0050】
アルコキシル化ポリエチレンイミン(b)の数平均分子量(Mn)は、例えば、1000~30000g/モル、例えば2500~25000g/モル、好ましくは5000~20000g/モル、又はさらに7500~15000g/モルの範囲であってよい。数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(溶離液テトラヒドロフラン/トリエチルアミン(0.5体積%)、ポリメチル-メタクリレート標準に対する較正)を介して決定される。
【0051】
好ましい実施形態では、成分(b)は、水性分散液又は溶液の形態で適用される。より好ましくは、この水性分散液又は溶液のpHは、7未満、さらにより好ましくは6.5未満、又はさらに6未満である。ここで、好ましい範囲は4~7、又は4.5~6.5、さらにより好ましくは5~6である。
【0052】
成分(b)自体が塩基性アミノ基のかなりの部分を含有するので、これを単に水と混合すると、最終的にpHが塩基性範囲に上昇することは明らかである。従って、上記の好ましいpH値及び範囲を実現するために、水性混合物には、酸、好ましくは前述のように当技術分野で既知の水溶性酸、例えば酢酸又はメタンスルホン酸を添加して酸性を導入する必要があることが明らかである。この手段により、水中に成分(b)の少なくとも部分的にプロトン化されたアミノ基部分を含む平衡状態が生じ、それによってpHが上記の範囲内にある。
【0053】
本発明のエレクトロコート材料に添加する成分(b)の水性分散液又は溶液の上記好ましいpH範囲の理由は、成分(b)のそのような基本的な特性である(つまり、積極的なpH調整がないとpHは著しく高いことを意味する)。前述したように、好ましいバインダーポリマー(例えば、上述の特定の成分(a))は、その所望の目的を果たすために特定のpH範囲を必要とする。本発明のエレクトロコート材料の特性、例えばpHを適切な作業条件からずらすと、浴及び/又は塗布特性に劇的な影響が生じ、例えば、浴の不安定性及び貯蔵寿命の減少、又は塗布中の欠陥、又は塗布されたがまだ硬化していない材料の再溶解がもたらされることがある。
【0054】
あるいは、アルコキシル化ポリエチレンイミン(b)のエレクトロコート材料への添加は、当技術分野で既知の他の選択肢によって行ってもよい。例えば、網羅的ではないが、ポリエチレンイミン(b)は、成分(a)の調製中、好ましくは分散工程の前に添加してよい。この例では、成分(a)及び(b)のpH調整及び分散が同時に実施される。
【0055】
成分(b)、特に好ましい成分(b)はエトキシル化された分枝ポリエチレンイミンであり、例えば、商品名Sokalan HP、例えばSokalan HP20(登録商標)で市販品として入手可能である。
【0056】
これらの市販品は、洗濯、食器洗浄及びクリーニングなどの用途に提供されているが、極めて驚くべきことに、冒頭で述べた電着塗装材料の端部防食にも著しい好影響を有する。
【0057】
任意の成分(c)
成分(c)として、少なくとも1つの架橋剤を電着塗料組成物中に存在させることができる。この架橋剤は、ブロック化ポリイソシアネート、遊離ポリイソシアネート、アミノ樹脂、及びそれらの混合物からなる群から選択される。前記成分(c)は成分(a)とは異なる。
【0058】
「ブロック化(blocked)ポリイソシアネート」という用語は当業者に既知である。利用することができるブロック化ポリイソシアネートは、少なくとも2つのイソシアネート基を有するポリイソシアネート(正確に2つのイソシアネート基の場合にはジイソシアネート)であるが、好ましくは、2つを超える、例えば3~5つのイソシアネート基を有するポリイソシアネートである。ここでは、そのイソシアネート基が反応していて、その結果、形成したブロック化ポリイソシアネートは、特にヒドロキシル基及び第1級アミノ基及び/又は第2級アミノ基などのアミノ基に対して、室温、すなわち18~23℃の温度で安定であるが、高温では、例えば80℃以上、110℃以上、130℃以上、140℃以上、150℃以上、160℃以上、170℃以上、又は180℃以上では、それぞれ、変換とウレタン及び/又はウレア結合の形成を伴い反応する。
【0059】
ブロック化ポリイソシアネートの調製に際し、架橋に好適な任意の所望の有機ポリイソシアネートを使用することが可能である。使用されるイソシアネートとしては、好ましくは、(ヘテロ)脂肪族、(ヘテロ)脂環式、(ヘテロ)芳香族、又は(ヘテロ)脂肪族-(ヘテロ)芳香族のイソシアネートがある。好ましいポリイソシアネートは、2~36個、特に6~15個の炭素原子を含有するポリイソシアネートである。好ましい例として、エチレン1,2-エチレンジイソシアネート、テトラメチレン1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレン1,6-ジイソシアネート(HDI)、2,2,4(2,4,4)-トリ-メチルヘキサメチレン1,6-ジイソシアネート(TMDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,9-ジイソシアナト-5-メチルノナン、1,8-ジイソシアナト-2,4-ジメチルオクタン、ドデカン1,12-ジイソシアネート、ω,ω’-ジイソシアナトジプロピルエーテル、シクロブテン1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン1,3-及び1,4-ジイソシアネート、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート、IPDI)、1,4-ジイソシアナトメチル-2,3,5,6-テトラメチル-シクロヘキサン、デカヒドロ-8-メチル(1,4-メタノナフタレン-2(又は3),5-イレンジメチレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ-4,7-メタノインダン-1(又は2),5(又は6)-イレンジメチレンジソシアネート、ヘキサヒドロ-4,7-メタノインダン-1(又は2),5(又は6)-イレンジイソシアネート、ヘキサヒドロトリレン2,4-及び/又は2,6-ジイソシアネート(H6-TDI)、トルエン2,4-及び/又は2,6-ジイソシアネート(TDI)、ペルヒドロジフェニルメタン2,4’-ジイソシアネート、ペルヒドロジフェニルメタン4,4’-ジイソシアネート(H12MDI)、4,4’-ジイソシアナト-3,3’,5,5’-テトラメチルジシクロヘキシルメタン、4,4’-ジイソシアナト-2,2’,3,3’,5.5’,6,6’-オクタメチルジシクロヘキシルメタン、ω,ω’-ジイソシアナト-1,4-ジエチルベンゼン、1,4-ジ-イソシアナトメチル-2,3,5,6-テトラメチルベンゼン、2-メチル-1,5-ジイソシアナトペンタン(MPDI)、2-エチル-1,4-ジイソシアナトブタン、1,10-ジイソシアナトデカン、1,5-ジイソシアナトヘキサン、1,3-ジイソシアナトメチルシクロヘキサン、1,4-ジイソシアナトメチルシクロヘキサン、2,5(2,6)-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(NBDI)、及びこれらの化合物の任意の混合物が挙げられる。より高級のイソシアネート官能性のポリイソシアネートも使用してよい。その例として、三量化ヘキサメチレンジイソシアネート及び三量化イソホロンジイソシアネート、より具体的には対応するイソシアヌレートが挙げられる。さらに、ポリイソシアネートの混合物を使用することも、また可能である。
【0060】
ポリイソシアネートのブロック化には、好ましくは、任意の所望の好適な脂肪族、脂環式、又は芳香族アルキルモノアルコールを使用することが可能である。その例として、脂肪族アルコール、例えばメチル、エチル、クロロエチル、プロピル、ブチル、アミル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、3,3,5-トリメチルヘキシル、デシル及びラウリルアルコール、脂環式アルコール、例えばシクロペンタノール及びシクロヘキサノール、芳香族アルキルアルコール、例えばフェニルカルビノール及びメチルフェニルカルビノールが挙げられる。同様に、好適なジオール、例えばエタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール及び/又はポリオールも、ポリイソシアネートのブロック化に使用してよい。他の好適なブロック剤は、ヒドロキシルアミン、例えばエタノールアミン、オキシム、例えばメチルエチルケトンオキシム、アセトンオキシム及びシクロヘキサノンオキシム、及びアミン、例えばジブチルアミン及びジイソプロピルアミンである。
【0061】
トリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジン(TACT)も同様に、当業者に知られている。トリス(アルコキシカルボニルアミノ)-1,3,5-トリアジンを塗料組成物の架橋剤として使用することは公知である。例えば、DE19712940A1には、ベースコート材料にこのような架橋剤を使用することが記載されている。米国特許第5,084,541号には、成分(c)として使用することができる対応する化合物の調製が記載されている。このようなトリアジンは、本発明の目的のために、用語「ブロック化ポリイソシアネート」に包含されるものである。
【0062】
アミノ樹脂(アミノプラスト樹脂)も同様に、当業者に知られている。使用するアミノ樹脂は、好ましくはメラミン樹脂、より具体的にはメラミン-ホルムアルデヒド樹脂であり、同様に当業者に知られている。ただし、架橋剤(c)としてメラミン-ホルムアルデヒド樹脂などのアミノ樹脂を使用しないことが好ましい。従って本発明の電着塗料組成物は、好ましくはメラミン-ホルムアルデヒド樹脂などのアミノ樹脂を含まない。
【0063】
本発明の電着塗料組成物は、好ましくは一液型(1K)塗装組成物として使用される。このため、本発明の電着塗装組成物は、好ましくは遊離のポリイソシアネートを含有しない。
【0064】
任意の成分(d)
本発明の電着塗料組成物は、少なくとも1つの顔料及び/又は少なくとも1つの充填剤を任意の成分(複数可)(d)として含んでよく、そして好ましくはこれらを含むものである。
【0065】
「顔料」という用語は、例えばDIN55943(日付:2001年10月)から、当業者に公知である。本発明の意味での「顔料」は、好ましくは、例えば本発明の電着塗料組成物のような、それらを取り囲む媒体に実質的に、好ましくは完全に不溶な粉末又はフレークの形態の成分を指す。顔料は好ましくは、その磁気的、電気的及び/又は電磁的特性から顔料として使用することができる着色剤及び/又は物質である。顔料は、好ましくはその屈折率において「充填剤」とは異なり、顔料の場合、屈折率は1.7以上である。
【0066】
「充填剤」という用語は、例えばDIN55943(日付:2001年10月)から、当業者に公知である。本発明の目的のため、「充填剤」は、好ましくは、例えば本発明の電着塗料組成物のような塗布媒体に実質的に、好ましくは完全に不溶であり、特に体積を増加させるために使用される成分である。本発明の意味における「充填剤」は、その屈折率において「顔料」とは異なることが好ましく、充填剤の場合、屈折率は1.7未満である。
【0067】
任意の成分(d)として、当業者に既知の任意の慣用的な顔料を使用してよい。好適な顔料の例として、無機着色顔料及び有機着色顔料が挙げられる。好適な無機着色顔料の例として、白色顔料、例えば二酸化チタン、白亜鉛、硫化亜鉛又はリトポン、黒色顔料、例えばカーボンブラック、鉄マンガンブラック又はスピネルブラック、有彩色顔料、例えば酸化クロム、酸化クロム水和物グリーン、コバルトグリーン又はウルトラマリングリーン、コバルトブルー、ウルトラマリンブルー又はマンガンブルー、ウルトラマリンバイオレット又はコバルトバイオレット及びマンガンバイオレット、酸化赤鉄、カドミウムサルホセレニド、モリブデートレッド又はウルトラマリンレッド、褐色酸化鉄、混合褐色、スピネル相及びコランダム相又はクロムオレンジ、又は黄色酸化鉄、ニッケルチタン黄、クロムチタン黄、硫化カドミウム、硫化カドミウム亜鉛、クロムイエロー又はビスマスバナデートが挙げられる。さらなる無機着色顔料として、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化アルミニウム水和物、特にベーマイト、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、及びこれらの混合物が挙げられる。好適な有機着色顔料の例としては、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、アントラキノン顔料、ベンズイミダゾール顔料、キノアクリドン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ジオキサジン顔料、インダントロン顔料、イソインドリン顔料、イソインドリノン顔料、アゾメチン顔料、チオインジゴ顔料、金属錯体顔料、ペリノン顔料、ペリレン顔料、フタロシアニン顔料又はアニリンブラックが挙げられる。
【0068】
当業者に既知の任意の慣例の充填剤を任意の成分(d)として使用してよい。適した充填剤の例は、カオリン、ドロマイト、カルサイト、チョーク、硫酸カルシウム、バリウムスルフェート、グラファイト、シリケート、例えばマグネシウムシリケート、特に対応するフィロシリケート、例えばヘクトライト、ベントナイト、モンモリロナイト、タルク及び/又はマイカ、シリカ、特にヒュームドシリカ、水酸化物、例えば水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウム、又は有機充填剤、例えば織物繊維、セルロース繊維、ポリエチレン繊維又はポリマー粉末である。さらなる詳細については、Roempp Lexikon Lacke und Druckfarben、Georg Thieme Verlag、1998年、第250頁以降、「充填剤」を参照されたい。
【0069】
本発明の電着塗料組成物の総質量に対する顔料と充填剤との含有量は、好ましくは0.1~20.0質量%の範囲、より好ましくは0.1~15.0質量%、非常に好ましくは0.1~10.0質量%、特に好ましくは0.1~5.0質量%、及びより具体的には0.1~2.5質量%である。
【0070】
成分(d)は、好ましくは、顔料ペースト及び/又は充填剤ペーストの形態で電着塗料組成物に配合することが好ましい。1つ以上の顔料及び/又は充填剤の両方を成分(複数可)(d)として含む1つの顔料ペーストを使用することが可能であり、また好ましい。このようなペーストは、粉砕樹脂として使用する少なくとも1つのポリマーを含むのが一般的である。従って、本発明の電着塗装組成物に含まれる粉砕樹脂として使用するこのようなポリマーが少なくとも1つ存在することが好ましい。電着塗料組成物においてバインダーとして使用する少なくとも1つのポリマー(a)が、顔料ペースト中で粉砕樹脂としても追加的に機能することも、可能である。当該粉砕樹脂は、好ましくはエポキシド-アミン付加物であり、これは、上記で概説したように、成分(a)の定義に対応し得る及び/又は包含されるものである。粉砕樹脂として使用するポリマーは、顔料の表面に対して相互作用するビルディングブロックを有することが好ましい。従って粉砕樹脂は、乳化剤の効果を有することが好ましい。多くの場合、粉砕樹脂の特性を改善する目的で、第4級アンモニウム化合物が配合される。顔料は、好ましくは、粉砕樹脂とともに粉砕されて、顔料ペーストを形成する。完成した電着塗料組成物を製造するためには、このペーストと残りの構成成分を混合する。電着塗料組成物の顔料/充填剤及びバインダーを、顔料/充填剤ペーストの量を介していつでも容易に実施の要求に適合させることができるので、顔料ペーストの使用は、電着塗装の柔軟性を有利に高める。
【0071】
さらなる任意の成分
本発明の電着塗料組成物は、少なくとも1つの成分(e)触媒、例えば、特にスズ含有触媒又はビスマス含有触媒のような金属含有触媒を含んでよい。任意に含まれる触媒は、さらにより好ましくは、ビスマス含有触媒である。特に好ましくは、ビスマス含有触媒、例えば酸化ビスマス(III)、塩基性酸化ビスマス(III)、水酸化ビスマス(III)、炭酸ビスマス(III)、硝酸ビスマス(III)、次硝酸ビスマス(III)(塩基性硝酸ビスマス(III))、サリチル酸ビスマス(III)及び/又は次サリチル酸ビスマス(III)(塩基性サリチル酸ビスマス(III))、及びこれらの混合物を使用することが可能である。特に好ましくは、水不溶性のビスマス含有触媒である。より具体的に好ましくは、次硝酸ビスマス(III)である。本発明の電着塗料組成物は、好ましくは、ビスマス(III)含有量(ビスマス金属として計算)が本発明の電着塗料の総質量に対して10ppm~20000ppmの範囲となる量で、少なくとも1つのビスマス含有触媒を含む。金属として計算されるビスマスの量は、DIN EN ISO11885(日付:2009年9月)に準拠した誘導結合プラズマ-原子発光分光分析(ICP-OES)により決定する。
【0072】
所望の用途に応じて、本発明の電着塗料組成物は、1つ以上の任意の成分(f)として、一般的に用いられるさらなる添加剤を含んでもよい。成分(f)は、成分(a)~(e)のいずれとも異なる。好ましくは、これらの添加剤は、湿潤剤、乳化剤、分散剤、界面活性剤などの表面活性化合物、流動制御助剤、可溶化剤、消泡剤、レオロジー助剤、抗酸化剤、安定剤、好ましくは熱安定剤、プロセス安定剤、及び紫外線及び/又は光安定剤、柔軟化剤、可塑剤及び前記の添加剤の混合物からなる群から選択される。添加剤の含有量は、使用目的によって非常に大きく異なる場合がある。添加剤の含有量は、本発明の電着塗料組成物の総質量に対して、好ましくは0.1~20.0質量%の範囲、より好ましくは0.1~15.0質量%、非常に好ましくは0.1~10.0質量%、特に好ましくは0.1~5.0質量%、及びより具体的には0.1~2.5質量%である。
【0073】
電着塗装の方法
本発明のさらなる主題は、カソード電着塗装により導電性基材を少なくとも部分的に塗装する方法であって、少なくとも工程(1)~(5)、すなわち、
(1)本発明の電着塗料組成物を含む電着塗装浴に、導電性基材を少なくとも部分的に浸漬する工程、
(2)該基材をカソードとして接続する工程、
(3)電着塗料組成物から得られた塗膜を、直流電流を使用して基材上に析出させる工程、
(4)塗装した基材を電着塗装浴から取り出す工程、及び
(5)基材上に析出した塗膜を焼き付ける工程
を含む方法である。
【0074】
本発明の電着塗料組成物に関連する上記のあらゆる好ましい実施形態は、この電着塗料組成物を使用し、カソード電着塗装によって導電性基材を少なくとも部分的に塗装するための、前述の本発明の方法に関する好ましい実施形態でもある。
【0075】
好ましくは、上述の方法は工程(4)と(5)の間に、塗装した基材を、例えばDI水ですすぐ工程(4.1)を含む。この工程は、極めて明らかなことに、基材の洗浄、すなわち、基材上に十分に堆積していない残留塗料の除去を行うものである。
【0076】
本発明の方法は、自動車車両ボディ又はその部品、及びさらにそれぞれの金属基材の電着塗装に特に好適である。従って好ましい基材は、自動車車両ボディ又はその部品である。本発明の電着塗料組成物は、優れた端部保護を得るのに特に有用であるため、好ましい実施形態として、そのような端部を比較的多く有する金属基材が挙げられる。このような基材は特に、例えば、横型コントロールアーム、ばね式コントロールアーム又はダンパーのような金属の自動車構成要素部品である。そのような構成要素部品は、鋳鉄部品であってよく、又は当技術分野で既知の他の確立された方法によって製造されてもよい。さらにそのような基材は、金属の自動車ボディ、例えば特定の部品を切り取るか又は特定の形状を形成するために部分的にスタンピングされ、それ故比較的多くの端部を含む自動車ボディである。よって本発明の好ましい一実施形態では、基材は、多くの端部を有する前記の基材から選択される。
【0077】
既に上述したように、本発明によって行われる顕著な端部保護は、例えばサンディング又は磨き仕上げのような後処理を施さなかった端部、つまり比較的鋭いままである端部を少なくとも部分的に有する金属基材の文脈で特に有用である。よって本発明の別の好ましい実施形態では、基材は、端部を低減するために例えばサンディング又は磨き仕上げのような後処理を少なくとも部分的に施さなかった又は他の処理をしなかった端部、さらにサンディング又は磨き仕上げなしと呼ばれる端部を有する、前述の基材から選択される。
【0078】
本発明により使用される導電性基材として、慣用的に使用され、当業者に既知のあらゆる導電性基材が適している。本発明により使用される導電性基材は、好ましくは金属基材であり、より好ましくは鋼からなる群から選択され、好ましくは、裸鋼、冷間圧延鋼(CRS)、熱間圧延鋼、溶融亜鉛めっき鋼(HDG)などの亜鉛めっき鋼、合金亜鉛めっき鋼(例えば、ガルバリウム、合金化溶融めっき(Galvannealed)又はガルファン(Galfan))及びアルミめっき鋼からなる群から選択される鋼、アルミニウム及びマグネシウム、及びZn/Mg合金及びZn/Ni合金である。特に好適な基材は、自動車製造のための車両ボディの部品又は完全な車体である。
【0079】
本発明の方法の工程(1)で導電性基材のそれぞれを使用する前に、その基材を好ましくは洗浄及び/又は脱脂する。
【0080】
本発明により使用する導電性基材は、好ましくは前処理した基材、例えばリン酸亜鉛などの少なくとも1つの金属リン酸塩で前処理した基材である。リン酸塩処理によるこの種の前処理は、通常、基材を洗浄した後及び基材を工程(1)で電着塗装する前に行われ、特に自動車産業で慣例の前処理工程である。しかし、リン酸塩処理以外の前処理方法、例えばジルコニウムオキシド又は典型的なシランをベースとする薄膜前処理も可能である。
【0081】
本発明の方法の工程(1)、(2)、及び(3)の実行中、本発明の電着塗料組成物を、工程(1)で浴に浸漬した基材の領域にカソード析出させる。工程(2)では、基材をカソードとして接続し、基材と少なくとも1つの対極との間に電圧を適用する。対極は析出浴中に位置し、又は、例えばアニオン透過性のアニオン交換膜によって、浴とは別に存在する。このように、対極はアノードとして機能する。アノードとカソードとの間で電流が流れると、しっかりと付着する塗膜が、カソード上、すなわち基材の浸漬部分上に析出する。ここで適用される電圧は、好ましくは50~500ボルトの範囲である。本発明の方法の工程(1)、(2)、及び(3)の実行時に、電着塗装浴は、20~45℃の範囲の浴温度を有することが好ましい。
【0082】
工程(5)における焼き付け温度は、好ましくは100℃~210℃の範囲、より好ましくは120℃~205℃、非常に好ましくは120℃~200℃、より具体的には125℃~195℃又は125℃~190℃、最も好ましくは130℃~185℃又は140℃~180℃である。
【0083】
本発明の方法の工程(5)を行った後、工程(5)の後に得られた焼き付け塗膜の上に、1つ以上のさらなる塗膜を適用することができる。例えば、プライマー及び/又は充填剤を適用し、続いてベースコート及びクリアコートを適用することができる。
【0084】
従って、本発明の方法は、少なくとも1つのさらなる工程(6)、すなわち
(6)工程(1)で適用した組成物とは異なる少なくとも1つのさらなる塗料組成物を、工程(5)の後に得られた焼き付け塗膜の上に少なくとも部分的に適用する工程
を含むことが好ましい。
【0085】
基材
本発明のさらなる主題は、本発明の焼き付け電着塗料で少なくとも部分的に塗装した導電性基材である。この焼き付け塗料は、本発明の方法の工程(5)の後に得られる焼き付け塗膜に相当する。
【0086】
本発明の電着塗料組成物及び本発明の方法に関連する上記のあらゆる好ましい実施形態は、前述の本発明の少なくとも部分的に塗装した基材に関する好ましい実施形態でもある。
【0087】
無論、本発明の電着塗料組成物から製造された焼き付け電着塗装層も本発明の対象である。
【0088】
使用方法
本発明のさらなる主題は、本発明の水性カソード析出性電着塗料組成物から得られた焼き付け塗膜を有する導電性基材の端部防食を改善するための、少なくとも1つのアルコキシル化ポリエチレンイミンの使用方法である。本発明の主題はまた、少なくとも1つのアルコキシル化ポリエチレンイミンの前記使用方法であり、この物質は同時に、基材上の焼き付け塗膜の膜均質性に顕著な悪影響を全く及ぼさない。
【0089】
本発明の電着塗料組成物、本発明の方法、及び本発明の少なくとも部分的に塗装した基材に関連して本明細書で説明したあらゆる好ましい実施形態は、前述の本発明の使用方法に関しても好ましい実施形態である。
【0090】
方法
1. 不揮発性画分の決定
不揮発性画分(固形分又は固形分含量)は、DIN EN ISO3251(日付:2019年6月)に準拠して決定する。これは、予め乾燥させておいたアルミ皿に試料1gを秤量し、試料を入れた皿を乾燥庫で180℃、30分間乾燥させた後、デシケーターで冷却し、再度秤量するものである。使用した試料の総量に対する残渣が不揮発性画分に相当する(%又は質量%単位)。
【0091】
2. VDA気候変動試験(DIN EN ISO11997-1:2018-01)
この気候変動試験は、基材上の塗装の耐食性を判定するのに使用する。気候変動試験は、10~20のいわゆるサイクルで実施する。
【0092】
試験対象の塗装が穴のある金属基材上に存在する場合、これらの穴は、比較的多数の端部/端部ゾーンを有する現実の金属基材をシミュレートする。また、如何なる前処理及び塗装プロセスを開始する前にも、例えばサンディング又は磨き仕上げのような後処理がされていない穴を有する基材の場合、これらの基材は、塗装、ひいては腐食端部保護の点でさらに困難である。これらの穴の縁の腐食の程度(「穴の縁の腐食」又は「縁の腐食」とも呼ばれる)は、気候変動試験後の穴の縁の腐食の程度/部分を観察することによって視覚的に評価する(1~5までの評価スケール、ここで「5」は100%の腐食(穴の縁全体が腐食している)、「1」は0%の腐食を意味する)。
【0093】
気候変動試験を行う前に、試験対象の試料の塗装にナイフで基材まで切れ目を入れると、気候変動試験中に基材が切れ目に沿って腐食するので、DIN EN ISO4628-8(03-2013)に従って試料の膜下腐食の程度を試験することができる。腐食が進むと、試験中に塗装が多かれ少なかれ浸潤される。浸食(単位mm)の程度が、塗装の耐食性を示す指標となる(スクライブ腐食性ともいう)。
【0094】
さらに以下に示す各評価結果は、3~5個の個々の試験結果の平均値である。各個別の試験結果は、個別パネル(すなわち塗装された試験基材)により生成され、それにより各個別パネルは7つの個別の穴を呈した。穴の保護に関する1つの個別パネルの個別の試験結果自体は、7つの個別の穴の分析平均値である。
【0095】
3. 塩水噴霧試験
コーティングの耐食性は、塩水噴霧試験によって決定してもよい。塩水噴霧試験は、調査対象の塗装した基材についてDIN EN ISO9227NSS(日付:2012年9月)に従って行う。調査対象の試料を、35℃の温度のチャンバー内に1008時間又は2016時間の間継続して収容し、6.5~7.2の範囲のpHに制御した5%濃度の塩化ナトリウム溶液からミストを生成する。調査対象の試料にミストが付着し、試料は腐食性の塩水膜で覆われる。
【0096】
試験対象の塗装が穴のある金属基材上に存在する場合、これらの穴は、比較的多数の端部/端部ゾーンを有する現実の金属基材に類似している。また、如何なる前処理及び塗装プロセスを開始する前にも、端部がサンディング/磨き仕上げされていない穴を有する基材の場合、これらの基材はサンディング/磨き仕上げされていない多数の端部/端部ゾーンを有する基材に類似しているので、塗装及び腐食端部保護の点でさらに困難である。これらの穴の縁の腐食の程度(「穴の縁の腐食」又は「縁の腐食」とも呼ばれる)は、気候変動試験後の穴の縁の腐食の程度/部分を観察することによって視覚的に評価する(1~5までの評価スケール、ここで「5」は100%の腐食(穴の縁全体が腐食している)、「1」は0%の腐食を意味する)。
【0097】
DIN EN ISO9227NSSによる塩水噴霧試験の前に、調査対象試料の塗装にブレードの切り込みで基材まで切れ目を入れると、DIN EN ISO9227NSS塩水噴霧試験中に基材が切れ目ラインに沿って腐食するので、試料をDIN EN ISO4628-8(03-2013)の腐食性浸食のレベルについて調査することができる。腐食が進行した結果、試験中に多かれ少なかれ塗装が浸食される。浸食(単位mm)の程度が、塗装の腐食に対する耐性を示す指標となる(スクライブ腐食性とも呼ばれる)。
【0098】
さらに以下に示す各評価結果は、3~5個の個々の試験結果の平均値である。各個別の試験結果は、個別パネル(すなわち塗装された試験基材)により生成され、それにより各個別パネルは7つの個別の穴を呈した。穴の保護に関する1つの個別パネルの個別の試験結果自体は、7つの個別の穴の分析平均値である。
【0099】
4. 表面粗さ
表面粗さは、DIN EN10049:2014-03に準拠して測定する。低値[マイクロメートル]は、極めて明らかに表面粗さが低く、それ故コーティングの平滑性及び均質性が優れていることを反映している。
【0100】
さらに以下に示す各評価結果は、3~5個の個々の試験結果の平均値である。各個別の試験結果は、個別パネル(すなわち塗装された試験基材)により生成される。
【実施例】
【0101】
以下の実施例により本発明をさらに説明するが、その範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0102】
1.水性カソード析出性電着塗料組成物の調製
1.1 顔料ペースト
水性カソード析出性電着塗料組成物の調製に慣用されている2つの標準顔料ペーストP1及びP2を適用した。両ペーストは、(i)ディゾルバーでそれぞれの構成成分を混合し、そして(ii)(i)からの混合物を標準ミルを用いて慣用条件下で粉砕することにより、調製した。
【0103】
顔料ペーストP1は、研削樹脂として、エポキシ-アミン付加物(成分(a)、固形分含量40.4%)の水性分散液を含んでいた。また、ペーストP1は、触媒としての次サリチル酸ビスマス(III)、黒色顔料としてのカーボンブラック、充填剤としてのカオリン、及びさらなる構成成分、特に、水性カソード析出性電着塗料組成物に慣用される水及び添加剤をさらに含んでいた。顔料ペーストP1の固形分含量は62.0%であった。
【0104】
顔料ペーストP2も同様に、上述の研削樹脂を含んでいた。さらに、触媒としての次硝酸ビスマス(III)、充填剤としてのカオリン、及び白色顔料としての二酸化チタンを含んでいた。さらに、さらなる充填剤としてバリウムスルフェートが含まれていた。さらなる構成成分、特に、水性カソード析出性電着塗料組成物に慣用される水及び添加剤も、含有されていた。顔料ペーストP2の固形分含量は65.5%であった。
【0105】
1.2 バインダー分散液
バインダー分散液として、電着塗料組成物において慣用のB1及びB2の2つの系を使用した。あらゆるバインダー分散液は、バインダー樹脂としてのエポキシ-アミン付加物(成分(a)でもあるが、顔料ペーストに適用されるエポキシ-アミン付加物とは異なる)の水性分散液、架橋成分(c)としてのブロック化イソシアネート、及びさらに、特に慣用の添加剤、有機共溶剤及び水のようなさらなる構成成分を含有した。バインダー分散液の固形分含量は、36.6%(バインダー分散液B1)及び37.6%(バインダー分散液B2)であった。
【0106】
1.3 電着塗料組成物
上記の顔料ペースト及びバインダー分散液により、電着塗料組成物を調製した。比較例の系は、顔料ペースト、バインダー分散液及び水から調製したが、発明例の系は、追加の構成成分として成分(b)、すなわちアルコキシル化ポリエチレンイミンも含んでいた。
【0107】
成分(b)は電着塗料組成物において、水中での溶液/分散液として適用した。これらの水性混合物のpHは、酢酸によってpH5~6に調整した。固形分含量(それ故水性混合物中の成分(b)の有効量)は8.2%であった。この実施例のセクション内で使用された第1の成分(b)は、市販の製品Sokalan(登録商標)HP20(BASF社)をベースとしたものであった。この製品は、80~82%の固形分含量を有する(つまり、水及び酢酸で1/10m/m希釈して固形分含量8.2%及びpH5~6の水性混合物とした(成分(b)b.1))。それぞれのアルコキシル化ポリエチレンイミンは、エトキシル化度が28の分枝エトキシル化ポリエチレンイミンであり、数平均分子量は8600g/モルであった(測定方法は上記の発明の詳細な説明を参照)。第2の成分(b)もまた、54のエトキシル化度を有するエトキシル化され且つ分枝した変種であり、数平均分子量は13500g/モルであった(測定方法は上記の発明の詳細な説明を参照)。同様に、この成分を水及び酢酸で希釈して、固形分含量8.2%及びpH5.5の水性混合物とした(成分(b)b.2)。
【0108】
浴それぞれ及びその構成成分の詳細を表1及び表2に示す。表中の構成成分をこの順番で混合することにより、塗布用の電着塗料組成物(下記項目2)を形成した。
【0109】
【0110】
表1から観察されるように、各発明例組成物中の成分(b)の量は、浴の総質量に対して0.845質量%(又は8450ppm)であった。
【0111】
【0112】
表2から観察されるように、各発明例組成物中の成分(b)の量は、浴の総質量に対して0.865質量%(又は8650ppm)であった。
【0113】
2. 基材の電着塗装
項目1.3で記載した電着塗料組成物から得られた塗膜を、カソード接続された試験パネル上に析出電圧220V(塗料組成物系A)又は260V(塗料組成物系B)、及び塗装浴温度32℃(塗料組成物系A)又は36℃(塗料組成物系B)で析出させ、その後基材温度175℃で15分間焼き付け(塗料組成物系A及びBの両方とも)、両系について20マイクロメートルの塗装層厚を得た。35マイクロメートルの塗装層厚を得るために、析出電圧270V及び塗装浴温度33℃で、系Aを上記のように析出させた。
【0114】
試験パネルとして、リン酸塩処理組成物(亜鉛マンガンリン酸塩処理組成物の噴霧塗布)で前処理した冷延鋼基材を使用した(Gardobond(登録商標)GB26S6800OC)。前処理を行う前に、試験パネルに7個の個別の穴を穿孔した。これらの穴及びその縁はそれぞれサンディング又は磨き仕上げしておらず、それぞれ現実の基材のサンディング/磨き仕上げしていない縁に類似していた。
【0115】
表3に、調製した基材上の硬化塗装について下記の項目3により検討した詳細を示す。
【0116】
【0117】
3. 塗装した基材の特性調査
上述した方法により、基材1~12上の硬化塗装の耐食性を調査した。より具体的には、基材上の塗装について、以下の特性のうちの複数又はすべてを調査した。
【0118】
- 穴の縁の腐食(端部腐食性)、塩水噴霧試験1008時間(SST1008)
- 端部腐食性、SST2016
- 端部腐食性、VDA気候変動試験10サイクル(VDA10)
- 端部腐食性、VDA20
- スクライブ腐食性、SST1008
- スクライブ腐食性、SST2016
- スクライブ腐食性、VDA10
- スクライブ腐食性、VDA20
- 表面粗さ。
【0119】
表4及び表5にそれぞれのデータ及び特性を示す。
【0120】
【0121】
このデータから、本発明の組成物(系A)及び硬化塗装はそれぞれ、比較例の系と比較して、端部防食が著しく向上していることがわかる。同時に、表面粗さはたとえあったとしても、低いレベルでしか影響されない。
【0122】
【0123】
ここでも、本発明の組成物(系B)及び硬化塗装はそれぞれ、著しく向上した端部防食を示すことが分かる。同様に、スクライブ腐食性への影響は無視できるか、又は少なくともそれほど高くはない。さらに、表面粗さへの関連した負の影響は観察されなかった。
【0124】
4. さらなる比較検討
電着塗料組成物系Aをベースにして、さらなる比較例組成物を製造した。この組成物(C-A.1)は、単純に分枝状のポリエチレンイミン(アルコキシル化されていない)の量0.845質量%を適用したことを除き、組成物(C-A)と同じであった。
【0125】
しかし、組成物及びそれぞれの浴を安定的に製造することは全くできなかった。むしろ、短時間で系が崩れ、凝固した。電着による適用処理は不可能であった。
【国際調査報告】