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特表2023-553677虚血再灌流障害の治療のためのPPARβ/δアゴニストを用いたMSCの前処理
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-25
(54)【発明の名称】虚血再灌流障害の治療のためのPPARβ/δアゴニストを用いたMSCの前処理
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20231218BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20231218BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20231218BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P9/00
C12N5/0775
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536416
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(85)【翻訳文提出日】2023-08-14
(86)【国際出願番号】 EP2021086394
(87)【国際公開番号】W WO2022129468
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】20306596.6
(32)【優先日】2020-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521240402
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ド モンペリエ
(71)【出願人】
【識別番号】594016872
【氏名又は名称】サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス)
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】513096967
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・ユニヴェルシテール・ドゥ・モンペリエ
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE DE MONTPELLIER
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファリダ、ジュアド、サムリ
(72)【発明者】
【氏名】ステファニー、バレール、ルメール
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン、ヨルゲンセン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065AC12
4B065AC20
4B065BB13
4B065BC12
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087BB64
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA36
(57)【要約】
本発明は、虚血再灌流障害を治療することを目的とした間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物を調製するためのイン・ビトロ方法に関し、この方法は、a)MSCを提供する工程;b)PPARβ/δアゴニストを含む培地でMSCを培養する工程;c)培地を除去し、MSCを洗浄する工程;およびd)薬学上許容される担体中にMSCを収集する工程、ここで、薬学上許容される担体はPPARβ/δアゴニストを含有しない、を含む。本発明は、さらに、本発明の方法を使用して得られたMSC、ならびに、好ましくは虚血再灌流障害の治療または予防における、薬剤としてのそれらの使用に関し、治療または予防の方法は、対象にPPARβ/δアゴニストを投与することを含まない。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血再灌流障害、好ましくは、心筋または腎の虚血再灌流障害の治療方法において、それを必要とする対象に使用するための、PPARβ/δプライムド間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物であって、
a)MSCを提供する工程;
b)PPARβ/δアゴニストを含む培地でMSCを培養する工程;
c)培地を除去し、MSCを洗浄する工程;および
d)薬学上許容される担体中にMSCを収集する工程、ここで、前記薬学上許容される担体はPPARβ/δアゴニストを含まない、
を含むイン・ビトロ方法によって得られたものであり、
前記治療方法は前記対象にPPARβ/δアゴニストを投与することを含まない、組成物。
【請求項2】
静脈内投与または冠動脈内投与によって前記対象に投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記対象に投与されるMSCの総量が、5×10~5×1010のPPARβ/δプライムドMSCである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
虚血再灌流障害の発症から7日以内にまたは虚血性臓器の再灌流中に投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
虚血再灌流障害を治療することを目的とした間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物を調製するためのイン・ビトロ方法であって、
a)MSCを提供する工程;
b)PPARβ/δアゴニストを含む培地でMSCを培養する工程;
c)培地を除去し、MSCを洗浄する工程;および
d)薬学上許容される担体中にMSCを収集する工程、ここで、前記薬学上許容される担体はPPARβ/δアゴニストを含まない、
を含み、
工程b)の継続時間が、12時間~72時間、好ましくは18時間~48時間、より好ましくは20時間~30時間、例えば、24時間である、方法。
【請求項6】
工程a)において提供されるMSCが、骨髄由来MSCまたは脂肪組織由来MSCである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程a)において提供されるMSCが、同種異系であり、かつ、健康な対象から得られたものである、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
工程b)の培地中のPPARβ/δアゴニストの濃度が、0.01μM~10μM、好ましくは0.05μM~5μM、より好ましくは0.1μM~1μMである、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
PPARβ/δアゴニストが、GW0742およびGW501516から選択される、請求項5~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程b)の培地が、MSCに形質導入するためのウイルスベクターを含有しない、請求項5~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程c)における洗浄が、PPARβ/δアゴニストを含まない溶液を用いて実行される、請求項5~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程d)において、MSCが、薬学上許容される担体中に10~10 MSC 細胞/mLの濃度で、好ましくは10~10 MSC 細胞/mLの濃度で収集される、請求項5~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
PPARβ/δプライムド間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物であって、請求項1~12のいずれか一項に記載のイン・ビトロ方法によって得られた、組成物。
【請求項14】
治療方法において使用するための、請求項13に記載の組成物であって、前記治療方法は、前記対象にPPARβ/δアゴニストを投与することを含まない、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞の使用に基づく虚血再灌流障害の治療を目的とした治療法の分野にある。本発明は、虚血再灌流障害を治療することを目的とした間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物を調製するためのイン・ビトロ(in vitro)方法に関し、この方法は、a)MSCを提供する工程;b)PPARβ/δアゴニストを含む培地でMSCを培養する工程;c)培地を除去し、MSCを洗浄する工程;およびd)薬学上許容される担体中にMSCを収集する工程、ここで、薬学上許容される担体はPPARβ/δアゴニストを含有しない、を含む。本発明は、さらに、本発明の方法を使用して得られたMSC、ならびに、好ましくは虚血再灌流障害の治療または予防における、薬剤としてのそれらの使用に関し、治療または予防の方法は、対象にPPARβ/δアゴニストを投与することを含まない。
【背景技術】
【0002】
責任動脈の血行再建による心筋再灌流は、急性心筋梗塞(AMI)患者に対する唯一の治療である。しかしながら、主にアポトーシスに起因し、虚血組織での急激な酸素回復によって引き起こされる再灌流の副作用と考えられている、不可逆的な虚血再灌流(IR)障害を特異的に予防する治療はない。アポトーシスは、動物モデルおよび患者の両方の虚血性疾患において観察されるため、高度に調節されたエネルギー依存形式の細胞死であり、治療的介入にとって潜在的に興味深いものである(Roubille, F. et al. Delayed postconditioning in the mouse heart in vivo. Circulation 124, 1330-1336, doi:CIRCULATIONAHA.111.031864 [pii] 10.1161/CIRCULATIONAHA.111.031864 (2011); ); Saraste, A. et al. Apoptosis in human acute myocardial infarction. Circulation 95, 320-323, doi:10.1161/01.cir.95.2.320 (1997))。この調節された細胞死の機構は、再灌流段階に特有のものである。実際、アポトーシスはATP産生に依存しているため、虚血中に予め作動させ、再灌流中に実行される(McCully, J. D., Wakiyama, H., Hsieh, Y. J., Jones, M. & Levitsky, S. Differential contribution of necrosis and apoptosis in myocardial ischemia-reperfusion injury. Am J Physiol Heart Circ Physiol 286, H1923-1935, doi:10.1152/ajpheart.00935.2003 (2004))。アポトーシスカスケードを特異的に標的とすることは、再灌流障害を予防し、梗塞サイズを制限するための主な戦略であると考えられる(Boisguerin, P. et al. A novel therapeutic peptide targeting myocardial reperfusion injury. Cardiovasc Res 116, 633-644, doi:10.1093/cvr/cvz145 (2020))。したがって、AMI後のIR誘導性アポトーシスを標的とする戦略を開発する必要がある。
【0003】
間葉系幹細胞(MSC)に基づく療法は、心筋梗塞(MI)後の心筋の機能回復を、内因性細胞の生存、増幅および血管新生の増加を含む無数の経路によって改善することが報告されている。加えて、MSCは、その可塑性と、生物活性分子を放出し、ミトコンドリアおよび細胞外小胞(EV)などの細胞小器官を移動させる能力によって炎症およびアポトーシスを強く抑制する(Karantalis, V. & Hare, J. M. Use of mesenchymal stem cells for therapy of cardiac disease. Circ Res 116, 1413-1430, doi:10.1161/CIRCRESAHA.116.303614 (2015))。これらの特性に基づいて、MSCは、いくつかの前臨床研究で試験されており、有望な結果が得られている。実際、AMIの前臨床研究では、MSC注射は、組織修復および心臓機能を改善し(Cashman, T. J., Gouon-Evans, V. & Costa, K. D. Mesenchymal stem cells for cardiac therapy: practical challenges and potential mechanisms. Stem Cell Rev Rep 9, 254-265, doi:10.1007/s12015-012-9375-6 (2013))、炎症反応を調節し、細胞アポトーシス(Tompkins, B. A. et al. Preclinical Studies of Stem Cell Therapy for Heart Disease. Circ Res 122, 1006-1020, doi:10.1161/CIRCRESAHA.117.312486 (2018))および動物の死亡率を減少させる(Llano, R. et al. Intracoronary delivery of mesenchymal stem cells at high flow rates after myocardial infarction improves distal coronary blood flow and decreases mortality in pigs. Catheter Cardiovasc Interv 73, 251-257, doi:10.1002/ccd.21781 (2009))。臨床試験では、第I相および第II相におけるMSCの安全性および有効性が実証されているが、第III相試験では矛盾が報告されている(Jeong, H. et al. Mesenchymal Stem Cell Therapy for Ischemic Heart Disease: Systematic Review and Meta-analysis. International journal of stem cells, doi:10.15283/ijsc17061 (2018); Roncalli, J. et al. Intracoronary autologous mononucleated bone marrow cell infusion for acute myocardial infarction: results of the randomized multicenter BONAMI trial. European heart journal 32, 1748-1757, doi:10.1093/eurheartj/ehq455 (2011); Chen, Z., Chen, L., Zeng, C. & Wang, W. E. Functionally Improved Mesenchymal Stem Cells to Better Treat Myocardial Infarction. Stem Cells Int 2018, 7045245, doi:10.1155/2018/7045245 (2018))。これらの矛盾は、部分的には、MSCによって示されるイン・ビボ(in vivo)生存率の低さと生着に起因しただけでなく、使用されるMSCの供給源とMSC機能のイン・ビトロ増幅プロセスの悪影響にも起因した(Chen, Z., Chen, L., Zeng, C. & Wang, W. E. Functionally Improved Mesenchymal Stem Cells to Better Treat Myocardial Infarction. Stem Cells Int 2018, 7045245, doi:10.1155/2018/7045245 (2018))。したがって、MSCの治療可能性を最適化し、それらを日常的な臨床現場に導入するためには、MSCの生存率および損傷組織への生着、ならびに心臓細胞に対する抗アポトーシス性を高めることによってMSCを強化/増大する必要があると提案されている。
【0004】
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)は、3つの異なるアイソフォーム:PPARα、PPARβ/δおよびPPARγで存在する核内受容体である。それらはレチノイドX受容体(RXR)とヘテロ二量体を形成し、リガンド結合後、転写調節因子として作用する。組織リガンドおよび補因子に応じて、PPARアイソフォームは複数の機能を発揮する(Wagner, K. D. & Wagner, N. Peroxisome proliferator-activated receptor beta/delta (PPARbeta/delta) acts as regulator of metabolism linked to multiple cellular functions. Pharmacology & therapeutics 125, 423-435, doi:10.1016/j.pharmthera.2009.12.001 (2010))。PPARαは主に褐色脂肪組織、腸、心臓、肝臓、腎臓で発現されるが、PPARγは免疫細胞、消化管、白色脂肪組織および褐色脂肪組織で発現され、PPARβ/δは遍在的に発現される。PPARファミリーの血管新生促進メンバーであるPPARβ/δは、血管細胞で発現される(Bishop-Bailey, D. Peroxisome proliferator-activated receptors in the cardiovascular system. Br J Pharmacol 129, 823-834, doi:10.1038/sj.bjp.0703149 (2000))。細胞質プロスタサイクリン受容体が欠損したHEK293細胞におけるPPARβ/δの活性化は、アポトーシスを促進する(Hatae, T., Wada, M., Yokoyama, C., Shimonishi, M. & Tanabe, T. Prostacyclin-dependent apoptosis mediated by PPAR delta. The Journal of biological chemistry 276, 46260-46267, doi:10.1074/jbc.M107180200 (2001))。その後の研究では、内皮細胞におけるPPARβ/δの抗アポトーシス性は内皮14-3-3の活性化を介して媒介されることが報告されている(Liou, J. Y., Lee, S., Ghelani, D., Matijevic-Aleksic, N. & Wu, K. K. Protection of endothelial survival by peroxisome proliferator-activated receptor-delta mediated 14-3-3 upregulation. Arteriosclerosis, thrombosis, and vascular biology 26, 1481-1487, doi:10.1161/01.ATV.0000223875.14120.93 (2006); Brunelli, L., Cieslik, K. A., Alcorn, J. L., Vatta, M. & Baldini, A. Peroxisome proliferator-activated receptor-delta upregulates 14-3-3 epsilon in human endothelial cells via CCAAT/enhancer binding protein-beta. Circ Res 100, e59-71, doi:10.1161/01.RES.0000260805.99076.22 (2007))。これらの研究と一致して、選択的PPARδアゴニスト、GW501516が、H誘発細胞死から心筋芽細胞株H9c2を保護することが示された(Pesant, M. et al. Peroxisome proliferator-activated receptor delta (PPARdelta) activation protects H9c2 cardiomyoblasts from oxidative stress-induced apoptosis. Cardiovasc Res 69, 440-449, doi:10.1016/j.cardiores.2005.10.019 (2006))。
【0005】
PPARβ/δアゴニストはまた、様々な病状を治療するための幹細胞とPPARβ/δアゴニストの同時投与を含む併用療法における幹細胞生着促進剤としての使用について、WO2015/164506において提案されている。具体的には、この出願において開示される主な使用は、血管関連疾患および/または筋疾患の治療のための、プロスタサイクリン(PGI2)を過剰発現する幹細胞とPGI2の組合せの使用であるが、この出願の実施例6には、虚血後肢の状況におけるMSCとPPARβ/δアゴニストGW501516の併用が開示されている。MSCは、イン・ビトロで4日間PPARβ/δアゴニストGW501516で前処理され、NOD/SCIDマウスの虚血後肢の腓腹筋に直接注射され、マウスにはPPARβ/δアゴニストGW501516も毎日投与される。
【0006】
PPARβ/δアゴニストはまた、WO2014/015318において、様々な細胞集団(MSCを含むが、実験データは造血幹細胞-HSCに集中している)における遺伝子送達ベクター(特にレトロウイルスベクター)の細胞形質導入効率を高めるために提案されている。
【0007】
しかしながら、PPARβ/δアゴニストのイン・ビボ投与は、重大な悪影響をもたらす可能性がある。具体的には、PPARβ/δアゴニストGW501516は、マウスおよびラットの両方において、3mg/kg/日の用量でいくつかの臓器で癌を急速に発生させることが判明した(Sahebkar A, Chew GT, Watts GF (2014). "New peroxisome proliferator-activated receptor agonists: potential treatments for atherogenic dyslipidemia and non-alcoholic fatty liver disease". Expert Opin Pharmacother. 15 (4): 493-503; Geiger LE, Dunsford WS, Lewis DJ, Brennan C, Liu KC, Newsholme SJ (2009). PS 895 - Rat carcinogenicity study with GW501516, a PPAR delta agonist. 48th Annual Meeting of the Society of Toxicology. Baltimore: Society of Toxicology. p. 105; Newsholme SJ, Dunsford WS, Brodie T, Brennan C, Brown M, Geiger LE (2009). PS 896 - Mouse carcinogenicity study with GW501516, a PPAR delta agonist. 48th Annual Meeting of the Society of Toxicology. Baltimore: Society of Toxicology. p. 105)。
【発明の概要】
【0008】
したがって、特に心筋梗塞の状況において、先行技術で開示されているPPARβ/δアゴニストの同時投与の悪影響を及ぼすことなく、抗アポトーシス性を有するMSCの効率的な生着を可能にする、細胞療法により虚血再灌流障害を治療するための改善された方法が必要とされている。
【0009】
PPARβ/δは、MSCによって高度に発現されるが(Luz -Crawford, P. et al. PPARbeta/delta directs the therapeutic potential of mesenchymal stem cells in arthritis. Annals of the rheumatic diseases, doi:10.1136/annrheumdis-2015-208696 (2016))、MSCの抗アポトーシス性および心臓保護特性に対するその役割は調査されていない。
【0010】
本発明に関連して、本発明者らは、MSCによるPPARβ/δの発現が心筋虚血再灌流障害の治療における治療効率に不可欠であることを見出した。実際、PPARβ/δのノックダウンにより抗炎症性は変わらなかったが、心臓保護作用が消失した(実施例1、特に図4B参照)。このことは、AMIにおける有益な効果を改善するためにMSCの免疫調節性を強化することは、第III相臨床試験の不一致を克服するための唯一のまたは主要なアプローチであるべきではなく、むしろ、患者に投与された後の生存を高めることと同時に考慮されるべきであることを示唆している。
【0011】
これらの最初の結果に基づいて、本発明者らはさらに、意外にも、心筋虚血再灌流障害の状況においてMSCの生存、生着および抗アポトーシス性を大幅に改善するには、PPARβ/δアゴニストによるMSCの短時間の前処理(わずか24時間)で十分であり、前処理を受けていないMSCを使用した場合の2分の1の用量で同様の治療効果が得られることを見出した。この方法では、天然(形質導入されていない)MSCをPPARβ/δアゴニストで前処理し、その後洗い流し、前処理済みのMSCを含むがPPARβ/δアゴニストを含まない組成物を、それを必要とする対象に投与し、その結果、PPARβ/δアゴニストのイン・ビボ投与に関連する悪影響が防止される。予想外なことに、このような短時間の前処理は、虚血再灌流障害の治療におけるMSCの生着および抗アポトーシス性、ならびにそれらの治療効率を大幅に改善するのに十分である(実施例2参照)。
【0012】
したがって、第1の態様において、本発明は、虚血再灌流障害を治療することを目的とした間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物を調製するためのイン・ビトロ方法に関し、この方法は、a)MSCを提供する工程;b)PPARβ/δアゴニストを含む培地でMSCを培養する工程;c)培地を除去し、MSCを洗浄する工程;およびd)薬学上許容される担体中にMSCを収集する工程、ここで、薬学上許容される担体は前記PPARβ/δアゴニストを含有しない、を含む。
【0013】
本発明はまた、本発明によるイン・ビトロ方法によって得られた、間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物に関する。
【0014】
本発明はまた、好ましくは、虚血再灌流障害の治療方法において、それを必要とする対象に薬剤として使用するための本発明による組成物に関し、前記治療方法は前記対象にPPARβ/δアゴニストを投与することを含まない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1:C57Bl6マウス心臓をランゲンドルフシステムに取り付け、IR障害に供した。(A):エクス・ビボ(ex vivo)プロトコールは、15分間の安定化、それに続いて、大動脈を通る流れを止めることによって達成される30分の全体虚血(無流)を含む。再灌流は、タイロード灌流を60分間回復することによって達成した。SHAM条件では、虚血誘発を行わずに、プロトコール中ずっと心臓を灌流した。プロトコールの最後に、TTC染色法を使用して梗塞サイズを測定した。冠動脈流出液は、エクス・ビボプロトコール中の2時点で収集した:サイトカイン放出の「基礎」レベルを評価するための安定化中と、IR障害後の「IR60」サイトカイン産生を評価するための再灌流段階終了時。(B):散布図およびバー(平均±SD)は、IR心臓(n=12)およびSHAM心臓(n=3)における梗塞サイズ(LVの%)を表したものである。TTC染色したLVスライスの代表的な写真を各群について示した。(C):バー(平均±SD)付きの散布図は、虚血前(基礎)と、Meso Scale Discovery(MSD)V-Plex Plus Proinflammatory Panel 1(マウス)キットを使用したIRプロトコール後の60分の再灌流後(IR60)に収集した冠動脈流出液内のサイトカインの定量について示すものである。統計分析は、マン・ホイットニー検定を使用して実行した。TNFα(pg/ml)では、p**=0.002を**で記し、CXCL1(pg/ml)では、p***=0.0007を***で記し、IL-6(pg/ml)では、p****<0.0001を**で記した。
図2図2.ランゲンドルフシステムにおいてエクス・ビボで灌流した摘出心臓は、図1Aで記載したものと同様の灌流プロトコールに従った。(A)MSC群では、タイロードバッファーで調製した様々な濃度(2,500;5,000または20,000細胞/mL)のMSC細胞の溶液で再灌流を達成した。PostC群については、1分の虚血-1分の再灌流を3サイクル含むポストコンディショニング刺激を再灌流の開始時に適用した。 対照条件(IR)では、心臓にタイロード液単独を再灌流した(対照条件)。プロトコールの最後に梗塞サイズ測定および免疫化学のために組織学的分析を実行した。(B):散布図およびバー(平均±SD)は、IR(n=12)、MSC 2500細胞/mL(n=6)、MSC 5,000細胞/mL(n=6)およびMSC 20,000(n=6)における梗塞サイズ(LVの%)を表したものである。統計分析は、クラスカル・ウォリス法を使用して実行し、多重比較のダンの事後検定を行った。IRと比較した統計的有意性は、p=0.0009を***と記し、IRに対するp=0.22をnsと記し、MSC 5,000細胞/mLに対するp=0.84を#と記している。(C):散布図およびバー(平均±SD)は、IR(n=12)、PostC(n=6)およびMSC(5,000細胞/mL、n=6)における梗塞サイズ(LVの%)を表したものである。統計分析は、クラスカル・ウォリス法を使用して実行し、多重比較のダンの事後検定を行った。IRと比較した統計的有意性は、p=0.0002を***と記し、p=0.006を**と記し、PostCに対するp>0.99を#と記している。
図3図3.(A):ランゲンドルフシステムにおいてエクス・ビボで灌流した摘出心臓は、図1Aで記載したものと同様の灌流プロトコールに従った。MSC群では、5000細胞/mLの濃度に調製したMSCタイロード液で再灌流を達成した。PostC群については、1分の虚血-1分の再灌流を3サイクル含むポストコンディショニング刺激を再灌流の開始時に適用した。対照条件(IR)では、心臓にタイロード液単独を再灌流した(対照条件)。冠動脈流出液は、IR障害プロトコールおよびPostCプロトコールの両方の後のサイトカイン産生を評価するための再灌流段階終了時に収集した。(B、C、D):バー(平均±SD)付きの散布図は、Meso Scale Discovery(MSD)V-Plex Plus Proinflammatory Panel 1(マウス)キットを使用したIRまたはPostCプロトコール(それぞれIRおよびMSC)後の60分の再灌流後に収集した冠動脈流出液内のサイトカインの定量について示すものである。統計分析は、クラスカル・ウォリス検定を使用して実行した。(B):TNFα(pg/ml)では、p=0.108をnsと記した。(C):CXCL1(pg/mL)では、p***=0.0006(対IR)を***と記し、p=0.018(対IR)を**と記し、p>0.999をと記した。(D):IL-6(pg/mL)では、p**=0.002(対IR)を**と記し、p=0.029(対IR)を**と記し、p>0.999をと記した。
図4図4.(A):ランゲンドルフシステムにおいてエクス・ビボで灌流した摘出心臓は、図1Aで記載したものと同様の灌流プロトコールに従った。IR群ではタイロード液単独で、MSCに関して5000細胞/mLの濃度に調製したタイロード液で(MSC群)、KO MSCで(KO MSC群)再灌流を達成した。プロトコールの最後に、摘出心臓(B)で梗塞サイズ分析を実行し、Meso Scale Discovery(MSD)V-Plex Plus Proinflammatory Panel 1(マウス)キットを使用してサイトカイン産生を分析した(C、D、E)。統計分析は、クラスカル・ウォリス検定を使用して実行し、必要に応じてダンの事後検定を行った。(B):散布図およびバー(平均±SD)は、IR(n=12)、MSC(5,000細胞/mL、n=9)およびKO MSC(5,000細胞/mL、n=13)における梗塞サイズ(LVの%)を表したものである。IRと比較した統計的有意性は、p=0.001を**と記し、p=0.029をと記し、MSCに対するp=075をと記している。(C、D、E):バー(平均±SD)付きの散布図は、再灌流の開始後60分でMeso Scale Discoveryキットを使用して、未処置の心臓(IR)、野生型MSC(MSC)およびPPARβ/δ欠損MSC(KO MSC)で処置した心臓から収集した冠動脈流出液内のTNFα、CXCL1およびIL-6の定量について示すものである。統計分析は、クラスカル・ウォリス検定を使用して実行した。(C):TNFα(pg/ml)では、pns=0.60をnsと記した。(D):CXCL1(pg/mL)では、p**=0.0017(MSC 対IR)を**と記し、p=0.34(KO MSC 対IR)をnsと記し、p=0.28をと記し(KO MSC 対MSC);(E):IL-6(pg/mL)では、p**=0.004(MSC 対IR)を**と記し、p=0.03(KO MSC 対IR)をと記し、p>0.999(KO MSC 対MSC)をと記した。
図5図5:PPARβ/δプライムドMSCによって処置した心臓における心臓保護の増大。(A)C57Bl6マウス心臓をランゲンドルフシステムに取り付け、IR障害に供した。エクス・ビボプロトコールは、15分間の安定化、それに続いて、大動脈を通る流れを止めることによって達成される30分の全体虚血(無流)を含む。再灌流は、タイロード灌流を60分間回復することによって達成した(IR群)。PostC群については、1分の虚血-1分の再灌流を3サイクル含むポストコンディショニング刺激を再灌流の開始時に適用した。MSC群では、タイロードバッファーで調製した様々な濃度(2,500;5,000または10,000細胞/mL)のMSC細胞の溶液で再灌流を達成した。プロトコールの最後に、心臓を梗塞サイズ(TTC染色法;B~E)または免疫化学(F)の分析のみに使用した。(B)散布図およびバー(平均±SD)は、IR(n=11)、PostC(n=7)、MSC 2,500細胞/mL(n=11)、MSC 5,000細胞/mL(n=10)、およびMSC 10,000細胞/mL(n=10)における梗塞サイズを表したものであり;統計分析は、クラスカル・ウォリス法を使用して実行し、多重比較のダンの事後検定を行った。IRと比較した統計的有意性は、p=0.0004(PostC 対IR)にを***と記し、pns=0.80(MSC 2500 対IR)をnsと記し、p***=0.0004(MSC 5,000 対IR)を***と記し、pns>0.99(MSC 10,000 対IR)をnsと記し、PostCとの比較では:p$=0.097(MSC 2,500)を$と記し、p>0.99(MSC 5,000)をと記し、p##=0.001(MSC 10,000)を##と記している。(C)散布図およびバー(平均±SD)は、IR(n=11)、MSC 5,000細胞/mL(n=12)、MSC(5,000細胞/mL)+GSK0660(n=9)における梗塞サイズを表したものである。統計分析は、ANOVAにより実行し(データが正規性検定に合格したため)、それに続いて、テューキーの多重比較検定を実行した。統計的有意性は、IRに対するp****<0.0001を****と記し、IRに対するp**=0.007を**と記し、MSCに対するp#=0.019をと記した。(D)散布図およびバー(平均±SD)は、IR(n=11)、MSC 2,500細胞/mL(n=12)、MSC(2,500細胞/mL)+GW0742 0.1μM(n=8)、MSC(2,500細胞/mL)+GW0742 1μM(n=7)およびMSC(2,500細胞/mL)+GW0742 5μM(n=5)における梗塞サイズを表したものである。統計分析は、クラスカル・ウォリス法によって実行し、それに続いて、ダンの事後検定を実行した。統計的有意性は、p****<0.0001(MSC+GW0742 1μM 対IR)を****と記し、pns=0.16(MSC 対IR)をnsと記し、pns=0.056(MSC+GW0742 0.1μM 対IR)をnsと記し、pns=0.0.07(MSC+GW0742 5μM 対IR)をnsと記した。(E)散布図およびバー(平均±SD)は、IR(n=11)、MSC 5,000細胞/mL(n=12)およびMSC(2,500細胞/mL)+GW0742 1μM(n=7)における梗塞サイズを表したものである。統計分析は、クラスカル・ウォリス法によって実行し、それに続いて、ダンの事後検定を実行した。統計的有意性は、p***=0.001(MSC 5,000 対IR)を***と記し、p***=0.0003(MSC 2,500+GW0742 対IR)を***と記し、pns>0.99をnsと記した。(F)MSC(DI-I標識MSC)とMSC+GW0742 1μM(各群n=3)を注射した心臓で測定された蛍光の%についての散布図およびバー(平均±SD)(比較)。各ドットは、各心臓のn=17~26のスライスから得られた蛍光のパーセンテージの平均を表す。
図6図6:PPARβ/δプライムドMSCの酸化的ストレスに対する耐性および生存の増大。(A)完全培地への播種工程から48時間後、MSCを血清枯渇状態の最少培地中で4時間H誘発酸化的ストレスに供した。PPARβ/δアゴニストまたはアンタゴニストを使用したMSCの薬理学的プレコンディショニングは、酸化的ストレス曝露の24時間前に実行した。プロトコールの最後に、ELISAにより特異的なDNA断片化を測定し、RT-qPCRにより転写量を測定して、細胞死または相対的遺伝子発現を分析した。(B):散布図およびバーは、最少培地中で様々な濃度(0、100、150、250、500および750μM)のHで4時間処理したMSCにおいて測定した特異的なDNA断片化の定量について示したものである。データ(未処理のMSCで得られた対照値によって正規化したもの)を、各処理群の散布ドットブロットおよび平均±SDとしてプロットし、クラスカル・ウォリス法(ダンの事後検定)を使用して比較し、p<0.0001(250群、n=11 独立培養物 対0群、n=13)を****と記し、p=0.0013(100群、n=10 対0群、n=13)を**と記し、p=0.0015(350群、n=9 対0群、n=13)を**と記し、p=0.0015(500群、n=9 対0群、n=13)を**と記し、p=0.0332(750群、n=3 対0群、n=13)をと記した。(C):散布図およびバーは、H曝露の24時間前に0.1および1μMのGW0742またはGSK0660で前処理し、250μMのHで処理したMSCにおいて測定した特異的なDNA断片化の定量について示したものである。データ(H誘発ナイーブMSCで得られた値によって正規化したもの)を、各処理群の散布ドットブロットおよび平均±SDとしてプロットし、クラスカル・ウォリス法(ダンの事後検定)を使用して比較した。P値は、p<0.0001(MSC/H、n=18に対するMSC、n=16 独立培養物)を****と記し、p=0.0402(MSC/H、n=18に対するMSC+1μM GSK0660/H、n=8)をと記した、(D)H曝露の24時間前に0.1および1μMでのGW0742またはGSK0660で前処理し、Hで処理したMSCにおけるBcl-2 相対的発現。
図7図7:心筋細胞に対するPPARβ/δプライムドMSCの抗アポトーシス効果の増大。(A)PPARβ/δアゴニストを使用した24時間のMSCの薬理学的プレコンディショニングの後、トランスウェル(上部チャンバー)とH9c2(下部チャンバー)を使用して細胞を共培養した。両方の培養物を、最少培地(血清枯渇)中で350μMのHに4時間曝露した。プロトコールの最後に、H9c2細胞において特異的なDNA断片化を定量し、値を、ナイーブMSCまたはPPARβ/δアンタゴニスト(GSK0660またはGSK03787)で前処理し、350 HμMに暴露したMSCとの共培養物で得られた値と比較した。(B、C、D)散布ドットプロットおよびバーは、プロトコールの最後にH9c2において定量した特異的なDNA断片化について示したものである。データ(各処理群の平均±SD)は、ナイーブMSC/Hで得られた値によって正規化し、クラスカル・ウォリス法((ダンの事後検定)を使用して比較した。(B):データは、条件1のプロトコールを使用して得た。(C):条件2のプロトコールPに従い、p値は、p<0.0001(MSC/H、n=18に対するMSC、n=16 独立培養物)を****と記した。条件3のプロトコールで得られたデータ(D)については、p値は、p=0.0436(MSC/H、n=10に対するMSC+1μM GSK0660/H、n=6)をと記した。
図8図8:(A)完全培地への播種工程から48時間後、MSCを血清枯渇状態の最少培地中で4時間H誘発酸化的ストレスに供した。PPARβ/δアゴニストまたはアンタゴニストを使用したMSCの薬理学的プレコンディショニングは、酸化的ストレス曝露の24時間前に実行した。プロトコールの最後に、RT-qPCRにより転写量を測定して、相対的遺伝子発現を分析した。酸化的ストレスに暴露した未処理のMSCまたはプレコンディショニング済みのMSCにおけるmRNA発現レベルをRT-qPCRにより評価した。(B)vegfについては:データ(平均±SEM)を、ANOVAおよび多重比較のテューキーの事後検定(正規性検定に合格)を使用して比較した。P値は、p=0.0301(H、n=9に対する対照、n=9)をと記し、p=0.0009(GSK0660 0.1μM、n=9に対するH、n=9)を***と記し、p=0.0191(GSK0660 1μM、n=8に対するH、n=9)をと記した;(C)hgfについては:データ(平均±SEM)を、クラスカル・ウォリス法、それに続いて、多重比較のダンの事後検定を使用して比較した。P値は、H、n=7に対し、対照 n=8、GWO742 0.1μM n=7、GW0742 1μM n=9、GSK0660 0.1μM n=6およびGSK0660 1μM n=9についてnsであった;(D)pdgfについては:データ(平均±SEM)を、ANOVAおよび多重比較のテューキーの事後検定(正規性検定に合格)を使用して比較した。P値は、p=0.0132(H、n=9に対する対照、n=9)をと記し、p=0.0277(GW07421 1μM、n=9に対するH、n=9)てをと記した。統計分析のため、未処理のMSC/H群と比較した。
図9図9:(A)C57Bl6マウス心臓をランゲンドルフシステムに取り付けた。エクス・ビボプロトコールは、15分間の安定化、それに続いて、大動脈を通る流れを止めることによって達成される30分の全体虚血(無流)を含む。再灌流は、タイロード灌流を60分間回復することによって達成した(IR群)。MSC群では、タイロードバッファーで調製した、1μMのGW0742により前処理したまたは前処理していないMSC細胞の溶液(2500細胞/mL)で再灌流を達成した。プロトコールの最後に、心臓を採取し、さらなる分析のためにタンパク質を抽出した。(B、C、D)ウエスタンブロット分析を、薬理学的前処理を行ってまたは行わずに、未処置IR心臓またはMSC処置マウスIR心臓からのLVタンパク質抽出物から実行した(エクス・ビボ)。散布ドットブロットおよび平均±SDは、開裂カスパーゼ3(IR、n=10についてのMSC+GW0742、n=10に対するp=0.0322)およびpAKT/AKT(IR、n=8についてのMSC+GW0742、n=8に対するp=0.0385)についてのプロットである。データは、ノンパラメトリックなクラスカル・ウォリス検定(ダンの事後検定)を使用して比較した。
図10図10:(A)MSCを、10%ウシ胎仔血清(FBS)、2mMグルタミン、100U/mLペニシリン、100mg/mLストレプトマイシンおよび2ng/mlヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)が添加された最少必須培地(MEM)-αを含有する完全培地中で培養した。エクス・ビボ実験の24時間または96時間前に、MSCを、培地で希釈したPPARβ/δアゴニストを含有する処理溶液(GW0742、1μMおよびGW501516、0.1μM)とともにインキュベートした。処理は24時間または96時間続けた。細胞を洗浄し、トリプシン処理工程の後、200gで3分間遠心分離した。MSCを、終濃度5000細胞/mlで、予熱したタイロード液に再懸濁した。(B)C56Bl6マウス心臓に予熱したタイロード液を15分間灌流した(安定化)。全体虚血は、灌流の流れを30分間止めることによって得た(《無流》)。再灌流工程(60分)は、MSC溶液で流れを回復することによって達成し、これは、60分の再灌流工程の間適用した。対照条件(IR)は、タイロード液単独を使用して得た。(C)散布図およびバー(平均±SD)は、IR(n=1;グラフでは未処理と記している)、MSC(n=3)、MSC+GW501516 0.1μM(96時間のプレコンディショニング;n=8)、MSC+GW501516 0.1μM(24時間のプレコンディショニング;n=7) MSC+GW0742 1μM(24時間のプレコンディショニング;n=2)における梗塞サイズを表したものである。MSCは、プレコンディショニング処理およびその継続時間に関係なく、同様の心臓保護作用を示す。
【発明の具体的説明】
【0016】
虚血再灌流障害を治療することを目的とした間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物を調製するためのイン・ビトロ方法
本発明は、第一に、虚血再灌流障害を治療することを目的とした間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物を調製するためのイン・ビトロ方法に関し、この方法は、
a)MSCを提供する工程;
b)PPARβ/δアゴニストを含む培地でMSCを培養する工程;
c)培地を除去し、MSCを洗浄する工程;および
d)薬学上許容される担体中にMSCを収集する工程、ここで、前記薬学上許容される担体はPPARβ/δアゴニストを含有しない、を含む。
【0017】
工程a)
工程a)において、間葉系幹細胞が提供される。
ヒトMSCを定義するための最小基準は、2006年に国際細胞治療学会(the International Society for Cellular Therapy)の間葉系および組織幹細胞委員会(the Mesenchymal and Tissue Stem Cell Committee of)によって定義され、現在でも広く受け入れられている:
1.MSCは、標準的な培養条件で維持した場合、プラスチックに接着性を有する必要があり。
2.表現型:MSCは、以下である必要がある:
a.(細胞の少なくとも95%が)CD105(エンドグリンとして知られ、もともとMAb SH2によって認識される)、CD73(エクト5’ヌクレオチダーゼとして知られ、もともとMAb SH3およびSH4によって認識される)およびCD90(Thy-1としても知られる)を発現すること、および
b.(細胞の2%未満が)CD45(汎白血球マーカー)、CD34(未分化造血前駆細胞および内皮細胞のマーカー)、CD14またはCD11b(MSC培養物中で見つかる可能性が最も高い造血細胞である単球およびマクロファージで顕著に発現され、1つだけで検査する必要がある)、CD79aまたはCD19(B細胞のマーカー、1つだけで検査する必要がある)、およびHLA-DR(刺激を受けない限りMSCでは発現されない)表面分子の発現を欠いていること。
3.イン・ビトロでの分化:MSCは、イン・ビトロで骨芽細胞、脂肪細胞および軟骨芽細胞への分化能を有する必要がある。
【0018】
MSCの起源の組織
MSCは、骨髄(BM, the initial source of MSCs, Pittenger MF, Mackay AM, Beck SC, Jaiswal RK, Douglas R, Mosca JD, Moorman MA, Simonetti DW, Craig S, Marshak DR. Multilineage potential of adult human mesenchymal stem cells. Science 1999;284:143-147)、脂肪組織(Wagner W, Wein F, Seckinger A, Frankhauser M, Wirkner U, Krause U, Blake J, Schwager C, Eckstein V, Ansorge W. Comparative characteristics of mesenchymal stem cells from human bone marrow, adipose tissue, and umbilical cord blood. Exp Hematol 2005;33:1402-1416; Zhang X, Yang M, Lin L, Chen P, Ma K, Zhou C, Ao Y. Runx2 overexpression enhances osteoblastic differentiation and mineralization in adipose-derived stem cells in vitro and in vivo. Calcif Tissue Int 2006;79:169-178)、歯の組織(Huang GT, Gronthos S, Shi S. Mesenchymal stem cells derived from dental tissues vs. those from other sources: Their biology and role in regenerative medicine. J Dent Res 2009;88:792-806)、唾液腺(Rotter N, Oder J, Schlenke P, Lindner U, Bohrnsen F, Kramer J, Rohwedel J, Huss R, Brandau S, Wollenberg B. Isolation and characterization of adult stem cells from human salivary glands. Stem Cells Dev 2008;17:509-518)、周産期組織、例えば、胎盤、臍帯組織(ホウォートンゼリー)または羊水(Raynaud C, Maleki M, Lis R, Ahmed B, Al-Azwani I, Malek J, Safadi F, Rafii A. Comprehensive characterization of mesenchymal stem cells from human placenta and fetal membrane and their response to osteoactivin stimulation. Stem Cells Int 2012; 2012:658356; Wang HS, Hung SC, Peng ST, Huang CC, Wei HM, Guo YJ, Fu YS, Lai MC, Chen CC. Mesenchymal stem cells in the Wharton’s jelly of the human umbilical cord. Stem Cells 2004;22:1330-1337; Hou T, Xu J, Wu X, Xie Z, Luo F, Zhang Z, Zeng L. Umbilical cord Wharton’s Jelly: a new potential cell source of mesenchymal stromal cells for bone tissue engineering. Tissue Eng Part A 2009;15:2325-2334; Kita K, Gauglitz GG, Phan TT, Herndon DN, Jeschke MG. Isolation and characterization of mesenchymal stem cells from the sub-amniotic human umbilical cord lining membrane. Stem Cells Dev 2010;19:491-502)、月経血(Luz-Crawford, P. et al. Mesenchymal Stem Cell-Derived Interleukin 1 Receptor Antagonist Promotes Macrophage Polarization and Inhibits B Cell Differentiation. Stem cells 2016; 34, 483-492, doi:10.1002/stem.2254; Francisca Alcayaga-Miranda et al.,Characterization of menstrual stem cells: angiogenic effect, migration and hematopoietic stem cell support in comparison with bone marrow mesenchymal stem cells. Stem Cell Res Ther 2015 Mar 17;6(1):32)、末梢血(Weiping Lin et al., Characterisation of multipotent stem cells from human peripheral blood using an improved protocol. J Orthop Translat 2019; 7;19:18-28)および滑膜組織(Djouad, F., Bony, C., Haupl, T. et al. Transcriptional profiles discriminate bone marrow-derived and synovium-derived mesenchymal stem cells. Arthritis Res Ther 7, R1304 (2005); De Bari C, Dell'Accio F, et al. Multipotent mesenchymal stem cells from adult human synovial membrane. Arthritis Rheum. 2001 Aug;44(8):1928-42)を含む様々な組織から単離し得る。
【0019】
したがって、工程a)において提供されるMSCは、骨髄、脂肪組織、歯の組織、唾液腺由来、または周産期組織(胎盤、臍帯組織(ホウォートンゼリー)、羊水、月経血、末梢血または滑膜組織などに由来し得る。
【0020】
好ましい実施形態では、工程a)において提供されるMSCは、骨髄由来または脂肪組織由来のMSC、特に骨髄由来のMSCである。
【0021】
MSCの起源の対象
工程a)において提供されるMSCは、虚血再灌流障害を治療するためのそれらの投与の前に前処理されることを意図している。したがって、それらは自己(すなわち、治療される対象の組織に由来する)または同種異系(すなわち、別の対象の組織に由来する)であり得る。
【0022】
本発明に関連して、工程a)において提供されるMSCは同種異系であり、健康な対象から事前に採取されていることが好ましい。
【0023】
これにより、個人差を克服することができ、虚血再灌流障害に罹患している対象への投与の前のMSCの調製が簡単かつはるかに迅速になる。
【0024】
工程a)において提供されるMSCは、工程a)の直前に健康な対象から採取し得る。しかしながら、個人差を制限し、本発明の調製方法をできるだけ早く開始することを目標として、健康な対象に由来する、すでに単離されている同種異系MSCのバンクから選んだMSCを使用することが好ましい。この実施形態では、健康な対象に由来する、単離された同種異系MSCの凍結サンプルのバンクが事前に作成され、工程a)においてMSCの供給源として使用される。
【0025】
MSCの単離
上述の様々な組織からMSCを単離するための方法は、当技術分野で知られている。それらの方法は、一般に、外科手術中にドナーから採取された骨髄および脂肪組織の新鮮なサンプルに依存する。
【0026】
骨髄(BM)から開始する場合、好適なプロトコールは次のとおりである(Djouad, F., Bony, C., Haupl, T. et al. Transcriptional profiles discriminate bone marrow-derived and synovium-derived mesenchymal stem cells. Arthritis Res Ther 7, R1304 (2005)):
BM穿刺液を培地に再懸濁し、周囲温度で150~300×g(好ましくは約200×g)で5~15分間(好ましくは約10分間)遠心分離する。次に、細胞を、5~15%(好ましくは約10%)ウシ胎仔血清、1~10ng/mL(好ましくは1ng/ml)塩基性線維芽細胞増殖因子、抗生物質(通常ペニシリンおよびストレプトマイシン)を添加したα-MEM中に、4×10~6×10細胞/cm(好ましくは約5×10細胞s/cm)の密度でプレーティングする。コンフルエンシーに達したら、細胞を剥がし、その後、500~1,500細胞/cm(好ましくは約1,000細胞/cm)の密度で再びプレーティングする。第2継代~第7継代の間の接着細胞が、単離されたBM由来MSCを構成する。
【0027】
ヒトBMからヒトMSCを単離する場合、好ましいプロトコールは、Djouad, F., Bony, C., Haupl, T. et al. Transcriptional profiles discriminate bone marrow-derived and synovium-derived mesenchymal stem cells. Arthritis Res Ther 7, R1304 (2005)に開示されている。
【0028】
脂肪組織から開始する場合、好適なプロトコールは次のとおりである(Maumus M, Manferdini C, et al. Adipose mesenchymal stem cells protect chondrocytes from degeneration associated with osteoarthritis. Stem Cell Res. 2013 Sep;11(2):834-44.):
脂肪組織を消化し、遠心分離する(150~300×g、好ましくは約300×gで、5~15分間、好ましくは約10分間)。間質血管細胞群を収集し、3000~600細胞/cm(好ましくは約4000細胞/cm)の初期密度で、抗生物質(通常ペニシリンおよびストレプトマイシン)、グルタミンおよび5~15%(好ましくは約10%)ウシ胎児血清(FCS)を添加したαMEMに播種する。24時間~48時間(好ましくは約24時間)後、培養物を生理食塩水(好ましくはPBS)で2回洗浄する、5~10日(好ましくは約1週間)後、細胞を剥がし、サブコンフルエンシーに到達するまで1000~3000細胞/cm(好ましくは約2000細胞/cm)で増殖させる。
【0029】
歯の組織(Huang GT, Gronthos S, Shi S. Mesenchymal stem cells derived from dental tissues vs. those from other sources: Their biology and role in regenerative medicine. J Dent Res 2009;88:792-806)、唾液腺(Rotter N, Oder J, Schlenke P, Lindner U, Bohrnsen F, Kramer J, Rohwedel J, Huss R, Brandau S, Wollenberg B. Isolation and characterization of adult stem cells from human salivary glands. Stem Cells Dev 2008;17:509-518)、および周産期組織、例えば、胎盤、臍帯組織(ホウォートンゼリー)または羊水(Raynaud C, Maleki M, Lis R, Ahmed B, Al-Azwani I, Malek J, Safadi F, Rafii A. Comprehensive characterization of mesenchymal stem cells from human placenta and fetal membrane and their response to osteoactivin stimulation. Stem Cells Int 2012; 2012:658356; Wang HS, Hung SC, Peng ST, Huang CC, Wei HM, Guo YJ, Fu YS, Lai MC, Chen CC. Mesenchymal stem cells in the Wharton’s jelly of the human umbilical cord. Stem Cells 2004;22:1330-1337; Hou T, Xu J, Wu X, Xie Z, Luo F, Zhang Z, Zeng L. Umbilical cord Wharton’s Jelly: a new potential cell source of mesenchymal stromal cells for bone tissue engineering. Tissue Eng Part A 2009;15:2325-2334; Kita K, Gauglitz GG, Phan TT, Herndon DN, Jeschke MG. Isolation and characterization of mesenchymal stem cells from the sub-amniotic human umbilical cord lining membrane. Stem Cells Dev 2010;19:491-502)からMSCを単離するための好適なプロトコールは、当技術分野で開示されている。
【0030】
工程b)
工程b)において、MSCは、PPARβ/δアゴニストを含む培地で培養される。
【0031】
MSCの播種
工程a)において提供されるMSCは、培地を含む培養容器に播種される。
【0032】
MSCは接着細胞であるため、接着細胞の培養に好適な培養容器、供給業者CorningまたはFalconによって提供される75cmフラスコなどに播種することが好ましい。
【0033】
MSCに好適な播種密度は、60~80%のコンフルエンシー、すなわち、3000~10000細胞/cm、好ましくは3000~7000細胞/cm、4000~6000細胞/cm、より好ましくは約5,000細胞/cmである(Bouffi C, Bony C, et al. IL-6-dependent PGE2 secretion by mesenchymal stem cells inhibits local inflammation in experimental arthritis. PLoS One. 2010 Dec 7;5(12):e14247)。
【0034】
培地
工程b)において使用される培地は、MSCの維持に好適な任意の培地であり得る。そのような培地には、ウシ胎仔血清(FBS)、グルタミン、抗生物質(通常ペニシリンおよびストレプトマイシン)、およびヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加した最少必須培地(MEM)-αが含まれる。
【0035】
一実施形態では、工程b)の培地は、5~15%(好ましくは10%)ウシ胎仔血清、1~5mM(好ましくは2mM)グルタミン、50~200U/mL(好ましくは100U/mL)ペニシリン、50~200mg/mL(好ましくは100mg/mL)ストレプトマイシンおよび1~5ng/mL(好ましくは2ng/mL)ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加した最少必須培地(MEM)-αであり得る。
【0036】
PPARβ/δアゴニスト
実施例2および3に示すデータは、いくつかの異なるPPARβ/δアゴニストは、前処理プロトコールで使用した場合に、MSCの心臓保護特性を大幅に改善する能力を有することを示している。加えて、本発明による調製方法は、工程c)において、培地の除去とPPARβ/δアゴニストで処理されたMSCの洗浄によって、PPARβ/δアゴニストが除去されるため、PPARβ/δアゴニストが対象に投与されないことから、イン・ビボ投与により悪影響(PPARβ/δアゴニスト GW501516の場合の癌など)のリスクが増加することが示されているPPARβ/δアゴニストであっても使用し得る。
【0037】
したがって、いかなるPPARβ/δアゴニストも本発明による調製方法に使用し得る。
【0038】
既知のPPARβ/δアゴニストには、Takada I, Makishima M. Peroxisome proliferator-activated receptor agonists and antagonists: a patent review (2014-present). Expert Opin Ther Pat. 2020 Jan;30(1):1-13(特に、この論文の図1の化合物3~5、および図3の化合物14~20参照)に開示されているように、下記表1に示す化合物が含まれる:
【0039】
【表1】
【0040】
本発明に関連して使用し得るPPARβ/δのアゴニストとして提案するさらなる化合物は、US9487493B2、US9695137B2、US2017304255A1、US2018305403A1およびWO2017180818A1において開示されており、これらの総ては、引用することにより本明細書の一部とされる。
【0041】
したがって、工程b)において使用されるPPARβ/δアゴニストは、いかなるPPARβ/δアゴニストからも選択し得、特に上記表1に開示されているもの、好ましくは、GW0742、GW501516、L165041、MBX-8025およびKD-3010から選択し得る。特に好ましい実施形態では、工程b)において使用されるPPARβ/δアゴニストは、GW0742およびGW501516から選択される。
【0042】
工程b)において使用されるPPARβ/δアゴニストの濃度は、選択された特定のPPARβ/δアゴニストおよびPPARβ/δに対する親和性に応じて調整される。しかしながら、実施例2および3で得られたデータに基づき、工程b)の培地中のPPARβ/δアゴニスト(特に化合物GW0742およびGW501516)の濃度は、好ましくは、0.001~10μM、より好ましくは0.01μM~10μM、より好ましくは0.05μM~5μM、最も好ましくは0.1μM~1μMである。
【0043】
継続時間
実施例2および3に示すデータは、MSCの心臓保護特性を大幅に改善するには、PPARβ/δアゴニストによるMSCの短時間(24時間)の前処理で十分であることを示している。
【0044】
したがって、工程b)の継続時間は、好ましくは、12時間~72時間、好ましくは18時間~48時間、より好ましくは20時間~30時間に含まれ、例えば、24時間である。
【0045】
MSCに形質導入するためのウイルスベクターが存在しない
WO2014/015318に開示されているものとは対照的に、本発明による調製方法を使用して調製されるMSCは、好ましくは、異種遺伝子を発現するベクター(特にウイルスベクター、とりわけレトロウイルスベクター)による形質導入を使用した遺伝子改変を受けない。
【0046】
したがって、工程b)の培地は、好ましくは、MSCに形質導入するためのウイルスベクターを含有しない。
【0047】
工程c)
工程c)において、培地が除去され、MSCが洗浄される。
【0048】
この工程は、MSCの前処理に使用されたPPARβ/δアゴニストを除去し得るため、非常に重要である。結果として、本発明による調製方法を使用して得られる前処理済MSC組成物は、工程b)において使用されたPPARβ/δアゴニストを含有しないかまたは微量レベルしか含有しない。これにより、PPARβ/δアゴニストのイン・ビボ投与に関連している可能性のある悪影響が防止される。
【0049】
MSCは接着細胞であるため、培地は、廃棄または吸引することによって容易に除去し得る。
【0050】
次いで、MSCは、洗浄溶液を加え、工程b)の培地の場合と同様の方法を使用してそれを除去することにより洗浄される。洗浄溶液は、PPARβ/δアゴニストを含まず、好ましくは、生理食塩水緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水、MEM)から選択される。洗浄工程(すなわち、洗浄溶液の添加とその除去)は、場合により繰り返してよい(すなわち、2工程以上の洗浄、例えば、2または3工程の洗浄を含め得る)が、PPARβ/δアゴニストを含まないかまたは微量しか含まない組成物を得るためには、一般に、1工程の洗浄だけで十分であろう。
【0051】
工程d)
工程d)において、MSCは、PPARβ/δアゴニストを含まない、薬学上許容される担体中に収集される。
【0052】
前記薬学上許容される担体は、血液と等張の生理食塩水であり、とりわけ、塩化ナトリウムの等張水溶液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS) 1×および生理血清から選択され得る。以下の化合物を、血液と等張の生理食塩水にさらに添加し得る:
・ヘパリン(好ましくは1~10U/mLの濃度のもの、ヘパリンは、ウサギIR障害のモデルにおいて、細胞療法の有効性を向上させることが記載されているため)(Ghadrdoost B, Khoshravesh R, et al. Heparin Enhances the Effects of Mesenchymal Stem Cell Transplantation in a Rabbit Model of Acute Myocardial Infarction. Niger J Physiol Sci. 2018 Jun 30;33(1):9-15)、および/または
・ヒト血清(Janssens S, Dubois C, et al. Autologous bone marrow-derived stem-cell transfer in patients with ST-segment elevation myocardial infarction: double-blind, randomised controlled trial. Lancet. 2006 Jan 14;367(9505):113-21)もしくはヒト血清アルブミン(Chullikana A, Majumdar AS, Gottipamula S, et al. Randomized, double-blind, phase I/II study of intravenous allogeneic mesenchymal stromal cells in acute myocardial infarction. Cytotherapy. 2015 Mar;17(3):250-261)(好ましくは1~10%(v/v)の濃度のもの)。
【0053】
MSCは接着細胞であるため、収集するには培養容器から細胞を剥離する必要がある。これは、細胞をトリプシン、トリプシン-EDTA、またはPBS-EDTAに暴露することにより行い得る。
【0054】
次に、MSCの収集に使用される薬学上許容される担体の量は、以下に応じて選択される:
・培養容器中に存在するMSCの総数、および
・MSCの所望の終濃度、これ自体は、選択された投与経路に応じた投与に好適な液体の量に依存する。
【0055】
例えば、前処理したMSCが静脈内投与を目的としたものである場合、最大150mL(特に30~150mL)の量を投与し得、特に心筋虚血再灌流障害の治療では、10~10MSC細胞/mL、好ましくは10~10MSC細胞/mLである薬学上許容される担体中のMSCの濃度を使用し得る。
【0056】
前処理したMSCが冠動脈内投与を目的としたものである場合、最大10mL(特に20~10mL)の量を投与し得、特に心筋虚血再灌流障害の治療では、10~1010MSC細胞/mLである薬学上許容される担体中のMSCの濃度を使用し得る。
【0057】
任意選択の凍結工程e)
本発明による調製方法は、場合により、使用まで保存するためにPPARβ/δプライムドMSCを凍結する工程e)をさらに含んでもよい。
【0058】
この場合、PPARβ/δプライムドMSC組成物は、好ましくは、供給業者に応じた特定のMSC凍結溶液(とりわけ、様々な供給業者から入手可能な、プラズマライトAなどの複数の電解質注入溶液、好ましくは、ヒト血清アルブミン(好ましくは3~7%)および/またはジメチルスルホキシド(好ましくは8~12%)などの凍結保存剤を含有するもの)を使用して凍結され、液体窒素中で-196℃の温度で保存される。
【0059】
凍結したPPARβ/δプライムドMSC組成物は、凍結PPARβ/δプライムドMSCサンプルのバンクを作成するために使用され得る。
【0060】
上記の本発明によるイン・ビトロ調製方法によって得られる、PPARβ/δプライムドMSCを含む組成物
本発明はまた、本発明によるイン・ビトロ方法によって得られた、PPARβ/δプライムド間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物に関する。
【0061】
「PPARβ/δプライムドMSC」は、本明細書では、本発明による方法を使用してPPARβ/δによって処理されたMSCを意味することを意図する。
【0062】
したがって、本発明によるPPARβ/δプライムドMSC組成物は、以下の特徴を有する:
・PPARβ/δアゴニストで短期間プライミングされ、心臓保護特性が向上したMSCを含む
・PPARβ/δアゴニストを含まないかまたは微量しか含まない。
【0063】
PPARβ/δプライムドMSCは、薬学上許容される担体中に存在し、この薬学上許容される担体は、PPARβ/δアゴニストを含まず、血液と等張の生理食塩水であり、とりわけ、塩化ナトリウムの等張水溶液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS) 1×および生理血清から選択され得る。以下の化合物が、薬学上許容される担体中にさらに存在し得る:
・ヘパリン(好ましくは1~10U/mLの濃度のもの、ヘパリンは、ウサギIR障害のモデルにおいて、細胞療法の有効性を向上させることが記載されているため)(Ghadrdoost B, Khoshravesh R, et al. Heparin Enhances the Effects of Mesenchymal Stem Cell Transplantation in a Rabbit Model of Acute Myocardial Infarction. Niger J Physiol Sci. 2018 Jun 30;33(1):9-15)、および/または
・ヒト血清(Janssens S, Dubois C, et al. Autologous bone marrow-derived stem-cell transfer in patients with ST-segment elevation myocardial infarction: double-blind, randomised controlled trial. Lancet. 2006 Jan 14;367(9505):113-21)もしくはヒト血清アルブミン(Chullikana A, Majumdar AS, Gottipamula S, et al. Randomized, double-blind, phase I/II study of intravenous allogeneic mesenchymal stromal cells in acute myocardial infarction. Cytotherapy. 2015 Mar;17(3):250-261) (好ましくは1~10%(v/v)の濃度のもの)。
【0064】
本発明による組成物は、好ましくは、前処理したMSCを治療上有効な量で含有する。本発明者らは、マウスモデルにおいて、PPARβ/δプライムドMSCの総数3.10細胞に相当する2.5×10MSC細胞/mLの濃度で前処理したMSCを含む80~150mLの量の組成物の再灌流が、ナイーブ(すなわち、非PPARβ/δプライムド)MSCの2倍と同じくらい有効であることを見出した。したがって、PPARβ/δプライムドMSCの治療上有効な量は、ナイーブMSCの治療上有効な量の約半分であるはずである。
【0065】
ヒトでは、様々な状況(MSC起源、投与経路…)で虚血再灌流障害の治療にある程度の有効性を示すことが判明したナイーブMSCの数は、10~1011細胞である。PPARβ/δプライムドMSCを使用する場合、治療上有効な量は少なくなるはずであり、とりわけ、5×10~5×1010細胞であり得る。
【0066】
本発明による方法の工程d)において上に開示したように、選択された投与経路を使用する場合に投与され得る量に応じて、本発明によるPPARβ/δプライムドMSC組成物についてのPPARβ/δプライムドMSCの好適な量および濃度が選択される。
【0067】
本発明による調製方法の工程a)に関して上に説明したように、組成物のMSCは自己または同種異系であり得るが、好ましくは同種異系であり、好ましくは健康な対象から得られたものである。
【0068】
本発明による組成物は、好ましくは医薬組成物である。
【0069】
本発明による組成物の治療的使用
本発明者らは、予想外なことに、本発明による組成物が、心筋虚血再灌流障害の場合に心臓保護作用の改善を示すPPARβ/δプライムドMSCを含み、したがって、PPARβ/δアゴニストを併用せずに単独で投与した場合に心筋虚血再灌流障害の治療または予防に有効であることを示した。
【0070】
したがって、本発明はまた、治療または予防の方法における使用のための本発明による組成物にも関し、この治療または予防の方法は対象にPPARβ/δアゴニストを投与することを含まない。
【0071】
具体的には、本発明は、それを必要とする対象における虚血再灌流障害の治療または予防の方法における使用のための本発明による組成物に関し、この治療または予防の方法は対象にPPARβ/δアゴニストを投与することを含まない。
【0072】
本発明はまた、虚血再灌流障害の治療または予防を目的とした薬剤の製造のための本発明による組成物の使用にも関し、この治療または予防は対象にPPARβ/δアゴニストを投与することを含まない。
【0073】
本発明はまた、虚血再灌流障害の治療または予防のための本発明による組成物の使用にも関し、この治療または予防は対象にPPARβ/δアゴニストを投与することを含まない。
【0074】
本発明はまた、虚血再灌流障害を、それを必要とする対象において治療または予防するための方法にも関し、この方法は、本発明による組成物の治療上有効な量を対象に投与することを含む。
【0075】
「治療」または「治療すること」とは、虚血再灌流障害が生じた後に本発明による組成物を投与した場合の、対象における臨床的または生物学的基準の改善を意味する。例えば、「治療」または「治療すること」は、本発明による組成物の投与前と比較した、対象臓器におけるアポトーシスおよび/または炎症の減少に対応し得る。
【0076】
「予防」または「予防すること」とは、虚血が起こった後、対象臓器の再灌流の前またはその間に、すなわち、虚血再灌流障害が生じる前に本発明による組成物を投与した場合の、虚血再灌流障害に関連する臨床的または生物学的基準の発症を予防もしくは遅延するまたは強度を下げるという事実を意味する。例えば、「予防」または「予防すること」は、同様の再灌流の場合に一般的に観察されるものと比較して、臓器の再灌流後の対象臓器における炎症および/またはアポトーシスの不在または弱い発生に対応し得る。
【0077】
「治療上有効な量」とは、上で定義したように、対象に治療的または予防的利益を与えるのに必要な量に相当する。
【0078】
虚血再灌流障害
「虚血再灌流障害」または「IR障害」または「IRI」は、すでに虚血状態にある組織への血流回復後の細胞の機能障害および死という逆説的な悪化として定義し得る。血流の再確立は虚血組織を回復させるために不可欠であるが、再灌流自体が逆説的にさらなる損傷を引き起こし、臓器の機能および生存能力を脅かす。IRIは、心臓、肺、腎臓、消化管、骨格筋および脳を含む広範囲の臓器で起こり、虚血臓器自体が関与するだけでなく、遠隔臓器に対する全身損傷を誘発する可能性があり、多系統臓器不全に至る可能性がある。
【0079】
したがって、本発明による組成物は、とりわけ、心臓、肺、腎臓、消化管、骨格筋または脳の虚血再灌流障害の治療において使用し得る。
【0080】
心筋虚血再灌流障害において本発明者らによって得られたデータに基づいて、本発明による組成物は、好ましくは、心臓(特に心筋)の虚血再灌流障害において使用される。
【0081】
虚血再灌流障害が重大な問題となる別のケースは、臓器移植(腎臓移植など)中にあり、したがって、本発明による組成物は、好ましくは、臓器移植後、特に腎臓移植後の虚血再灌流障害の治療においても使用され得る。
【0082】
投与スケジュール
任意の好適な投与スケジュールを使用し得る。
【0083】
投与経路
具体的には、治療する虚血再灌流障害のタイプに応じて、いくつかの投与経路を使用し得る。
【0084】
心臓(特に心筋)の虚血再灌流障害の場合、好適な投与経路には、冠動脈内(血管内手段による)、静脈内および心筋内(開心術手段による)または経心内膜(血管内手段による)が含まれる。
【0085】
血管内手段を使用した冠動脈内投与は、冠動脈造影法中、再灌流時またはその後に行い得るため、特に好ましい。冠動脈造影法は、心筋梗塞に罹患している患者において定期的に実行される比較的ソフトな介入である。
【0086】
全身投与は、投与されたPPARβ/δプライムドMSCが様々な臓器で広まり、それらの多くが非標的臓器(肺など)に捕捉される可能性があることを意味するため、静脈内投与は、あまり好ましくない。しかしながら、静脈内投与は、ナイーブMSCを使用するいくつかの臨床的プロトコールにおいて心筋梗塞後の患者に使用されており(Kobayashi K, Suzuki K. Mesenchymal Stem/Stromal Cell-Based Therapy for Heart Failure - What Is the Best Source? Circ J. 2018 Aug 24;82(9):2222-2232参照)、したがって、本発明に関連しても使用し得る。
【0087】
心筋内投与もナイーブMSCを使用するいくつかの臨床的プロトコールにいて心筋梗塞後の患者に使用されており(Kobayashi K, Suzuki K. Mesenchymal Stem/Stromal Cell-Based Therapy for Heart Failure - What Is the Best Source? Circ J. 2018 Aug 24;82(9):2222-2232参照)、したがって、本発明に関連しても使用し得る。心筋内投与は、開心術の状況においてまたは血管内手段を使用して実行し得るが、血管内手段を使用する心筋内投与が好ましい。
【0088】
臓器(とりわけ腎臓)移植後の虚血再灌流障害の場合、好適な投与経路には、血管内手段による最も近い動脈(移植腎の場合、腎内動脈)への投与が含まれる。
【0089】
MSC用量
治療上有効な用量の本発明によるPPARβ/δプライムドMSC組成物を使用する。
【0090】
本発明によるPPARβ/δプライムドMSC組成物に関するセクションで上に説明したように、治療上有効な用量の範囲は、投与経路を含む様々なパラメーターに依存する。しかしながら、特に冠動脈内投与により投与される場合、好適な用量範囲は5×10~5×1010PPARβ/δプライムドMSCである。
【0091】
投与のタイミング
虚血再灌流障害の場合、迅速な治療的介入が重要である。具体的には、AMI(急性心筋梗塞)患者では、MSCの投与が有効であるためには、AMI後1週間以内に実行すべきである。
【0092】
したがって、好ましい実施形態では、本発明によるPPARβ/δプライムドMSC組成物は、虚血再灌流障害の発症から1週間以内、好ましくは、6日以内、5日以内、4日以内、より好ましくは、3日以内、2日以内、さらには、24時間以内に投与される。
【0093】
別の好ましい実施形態では、本発明によるPPARβ/δプライムドMSC組成物は、虚血再灌流障害を予防するために、虚血性臓器の再灌流中に投与される。
【0094】
虚血または虚血再灌流障害に対するそのような迅速な応答は、本発明に関連して、MSCの短時間のPPARβ/δプライミングによって可能になる。
【0095】
同種異系MSCを使用する場合、それは、事前に作成されたMSCバンクのサンプルを使用することによってさらに可能になる。一実施形態では、MSCバンクは、本発明による迅速な調製方法を使用してすぐにPPARβ/δプライミングができるナイーブMSCのサンプルを含むため、対象を捉える捉えた時点から2日以内でのPPARβ/δプライムドMSCの投与を可能にする。別の実施形態では、MSCバンクは、すでにPPARβ/δでのプライミングを受けたMSCのサンプルを含み、対象を捉える捉えた時点から数時間以内(24時間以内、18時間以内、12時間以内、10時間以内、8時間以内、さらには、6時間以内など)の投与を可能にする。
【0096】
以下の実施例は、単に本発明を説明するためのものである。
【実施例
【0097】
実施例1:PPARβ/δは、心筋虚血再灌流障害における間葉系幹細胞の心臓保護作用に必要である
心筋梗塞は世界での死亡率第1位となっている。成人の心臓は再生できないため、梗塞後の収縮組織の損失を補うために線維化が拡大し、心臓リモデリングおよび心不全を引き起こす。成人の間葉系幹細胞(MSC)の再生特性、ならびにそれらの安全性および有効性は、前臨床モデルで実証されている。しかしながら、臨床試験では、それらの有益な効果については議論の余地がある。関節炎の実験モデルにおいて、PPARβ/δノックアウト(KO MSC)マウス由来のMSCは、野生型マウス由来のMSCよりも強い治療効果をもたらすことが示されている
【0098】
この研究の目的は、虚血再灌流障害に対するKO MSC細胞および野生型MSCと未処理の対照条件(IR)の治療効果を比較することであった。
【0099】
材料および方法
動物の飼育と世話
実験は、1986年11月の欧州共同体理事会指令(the European Communities Council directive)に従って、C57BL/6Jマウス(Charles River laboratory)において実施し、米国国立衛生研究所(the US National Institutes of Health)発行の「実験動物の管理と使用に関する指針(the Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)」(NIH刊行物 第8版、2011)に準拠した。総てのマウスを研究所の動物施設内で環境制御条件(22±2℃、12時間の明/12時間の暗サイクル)下で維持した。総てのエクス・ビボプロトコールは、動物研究倫理委員会 (the Ethical Committee for Animal Research)(協定番号A34-172-41)によって承認された。
【0100】
エクス・ビボ実験
雄マウスを、ケタミン(14mg/kg、Imalgene(登録商標);Merial)、キシラジン(14mg/kg、Rompun(登録商標);Bayer)の腹腔内注射(IP)、その後のペントバルビタール(IP;76.6mg/kg;Sanofi-Aventis)の注射によって麻酔した。麻酔したマウスには、血栓形成を防ぐために、250Uのヘパリン(IP)を投与した。胸骨切開後、心臓を切除し、上行大動脈にカニューレを挿入し、迅速にランゲンドルフシステムに取り付けた。予熱したタイロード液(NaCl 140mM、KCl 5.4mM、MgCl 1mM、Hepes 5mM、グルコース 5.5mM、CaCl2 1.8mM、pH7.4)を一定の圧力および温度(37℃)で灌流した。
【0101】
虚血・再灌流プロトコール(IR)
ランゲンドルフシステムで、心臓に予熱したタイロード液を15分間灌流した(安定化)。全体虚血は、灌流の流れを30分間止めることによって得た(《無流》)。再灌流工程(60分)は、流れを回復することによって達成した。MSCによる処置は、再灌流の間適用した(タイロード液中のMSC)。対照条件(IR)は、タイロード液単独を使用して得た。再灌流プロトコール全体にわたって(再灌流後5、30および60分で)冠動脈流出液を収集し、今後の実験のために-80℃で保存した。
【0102】
梗塞サイズの測定
IRプロトコールの最後に、心臓を摘出した。左心室を寒天(4%)に入れ、ビブラトームで横方向にスライスした(1mm)。組織の生存能力を明らかにするために、スライスを2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロリド溶液(TTC色素)とともに37℃で15分間インキュベートした。固定工程(4%パラホルムアルデヒド、48時間)後、各スライスの各面を撮影した。梗塞領域は、ImageJソフトウェアを用いた面積測定によって定量した。
【0103】
MSC培養物
マウスMSCの単離、増幅および特性評価は、これまでに報告されているように実行した(Scholtysek, C. et al. PPARβ/δ governs Wnt signaling and bone turnover. Nat Med 19, 608-613, doi:10.1038/nm.3146 (2013))。簡潔には、Beatrice Desvergneによって提供された、PPARβ/δ-/- MSCと呼ばれるPpard fl/fl sox2cretg PPARβ/δ欠損マウスおよびPPARβ/δ+/+ MSCと呼ばれるそれらの野生型Ppard fl/+同腹仔の長骨から骨髄(BM)を洗い流した(Scholtysek, C. et al. PPARβ/δ governs Wnt signaling and bone turnover. Nat Med 19, 608-613, doi:10.1038/nm.3146 (2013))。細胞は、10%ウシ胎仔血清、2mM グルタミン、100U/mL ペニシリン、100mg/mL ストレプトマイシンおよび2ng/ml ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含有する最少必須培地(MEM)-α中、0.5×10細胞/cmの密度で培養した。MSCの表現型および機能の特性評価は、従前に実行された(Luz-Crawford, P. et al. PPARbeta/delta directs the therapeutic potential of mesenchymal stem cells in arthritis. Annals of the rheumatic diseases, doi:10.1136/annrheumdis-2015-208696 (2016))。PPARβ/δ+/+ MSCは、5μMのPPARβ/δアンタゴニストGSK0660とともに24時間プレインキュベートした。
【0104】
CM-DiIによるMSC標識
蛍光細胞トレーサーCM-DiI(Molecular Probes)のストック溶液を、ジメチルスルホキシド(DMSO)で1μg/μLの濃度に再構成した。MSCを収集し、5mL PBSに10細胞/10μg CM-DiIの濃度に懸濁した。細胞を暗所で、37℃で5分間、続いて、4℃で15分間インキュベートした。次に、取り込まれなかった蛍光色素を、300gで5分間遠心分離し、PBSで2回洗浄することによって除去した。標識細胞をPBSに再懸濁し、心筋に注射するまで4℃で維持した。
【0105】
サイトカインの定量
サイトカインの定量のために、灌流した心臓からの流出液の収集物を、基礎条件(t0)、10分間の安定化後、および60分間の再灌流後のプロトコールの終了時(IR60)に得た。異なる流出液は、「Plateforme de Proteomique Clinique de Montpellier」において、Meso Scale Discovery(MSD) V-Plex Plus Proinflammatory Panel 1(マウス)キットを使用して製造業者のプロトコールに従ってアッセイを実行するまで、-80℃で保存した。このパネルには、IFNγ、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、KC/GRO(CXCL1)、IL-10、IL-12p70およびTNFαが含まれた。特定のサイトカインについて、検出限界より低い、すなわち、バックグラウンドノイズと区別できないサイトカイン濃度を有するサンプルは、そのサイトカインについて陰性であるとみなした。
【0106】
免疫化学
エクス・ビボ実験の終了時に、左心室(LV)を4%-PFAで固定し、パラフィン包埋した。各左心室を心尖部から基部まで切断した(4μm切片、各150μm)。パラフィン包埋した切片を脱パラフィン処理し、その後、アルコール勾配によって再水和した。LV切片を一次抗体:抗F4/80(1:100;ラットモノクローナル;Abcam)、抗CD68モノクローナル抗体(FA-11;Invitrogen)、CX3CR1抗体(1H14L7;Thermofischer Scientific)および抗α-アクチニン(1:100、マウスモノクローナル;Sigma-Aldrich)とともにインキュベートした。細胞核をHoechst(Life technologies SAS)で染色し、内皮細胞をイソレクチンB4(FITCコンジュゲート;Sigma-Aldrich)で染色した。一次抗体のインキュベーション後、切片をPBSで洗浄し、二次抗体(1:2,000、Jackson ImmunoRes Laboratories,Inc.)とともにインキュベートした(3時間)。一次抗体および二次抗体は、3%BSAおよび0.1%Triton X100を含有するPBSで希釈した。染色した切片をMowiol(Biovalley)に取り付けた。画像はZeiss Axioimager Z3蛍光顕微鏡で取得し、ImageJおよびAdobe Photoshopを使用して分析し、最終図面を作成した。
【0107】
統計分析
平均±SD値として表したデータは、GraphPad Prism 8ソフトウェアを使用したノンパラメトリックなマン・ホイットニー法(2群)およびクラスカル・ウォリス法(多重比較)を使用して比較した。グラフは、平均±標準偏差(SD)を示している。P値<0.05()、P<0.01(**)、P<0.001(***)およびp<0.0001(****)は、統計的に有意であるとみなされた。分析およびグラフ表示は、Graph-Pad Prism(商標)ソフトウェア(Graphpad)を使用して実行した。
【0108】
結果
エクス・ビボで虚血再灌流障害に供した、灌流した摘出心臓における炎症促進反応の誘導
この研究では、MSCの治療効果を評価するために、全体虚血とそれに続く再灌流(IRプロトコール)のエクス・ビボモデルを開発した。摘出心臓をランゲンドルフシステムに取り付け、灌流し、30分の全体虚血(無流)、それに続いて、60分の再灌流に供し、この段階で細胞を投与した(図1Aのプロトコールを参照)。研究の最初の部分は、本発明者らのモデルの特性評価に専念した。心筋虚血再灌流障害後の心臓の特徴は、左心室のパーセンテージで表した梗塞サイズの平均値56.4±10.3であった(図1B)。免疫組織学により、心筋の厚さに位置する心筋内在住マクロファージを証明することができた(データは示していない)。
【0109】
したがって、IR障害の誘導および心筋内のマクロファージの存在が、安定化中に収集された基礎状態(基礎)と比較して、再灌流開始後60分において収集された冠動脈流出液中の炎症促進性サイトカインの過剰な放出と関連しているのではないかと考えた。Meso Scale Discovery VPlex Plus Proinflammatoryを使用して定量した10種のサイトカインのうち、IFNγ、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-10、IL-12p70を含む7種は、検出できないレベルのサンプルが多すぎたため、統計分析に含めなかった。3種のサイトカイン、TNFα、KC/GRO(CXCL1)およびIL-6は、基礎状態(10分の安定化で収集、基礎)と比較して、IR障害後(虚血および60分の再灌流後)の心臓における冠動脈流出液の極めて大きな増加を示した(図1C)。まとめると、これらの結果は、エクス・ビボで30分の虚血とそれに続く1時間の再灌流に供したC57Bl6マウスの心臓の心筋IR障害が、炎症を起こした心筋内に浸潤するマクロファージの存在と関連していることを明らかにしている。
【0110】
MSCは、エクス・ビボ全体虚血モデルの再灌流中に投与した場合に強力な心臓保護作用を発揮した。
IR心筋の炎症を軽減し、その結果として、梗塞サイズを縮小するために、本発明者らがエクス・ビボモデルで初めて比較した2つの広く認められている心臓保護戦略:虚血PostCおよびMSCに基づく療法を利用した。その目的で、図2Aに示すプロトコールに記載するように、30分の全体虚血に供した摘出心臓の再灌流中にMSCを投与した。灌流溶液中の様々な濃度のMSCを試験した(図2B)。用量反応曲線は、様々な用量のMSCを使用して確立し、有意な有益な効果が得られない2,500細胞/mL(3.10細胞/心臓)と比べて(IRでの56.39±10.33、n=12に対して、MSC 2,500での34.1±13.93、n=6;p=0.2238)、5,000細胞/mL(6.10細胞/心臓)および20,000細胞/mL(24.10細胞/心臓)により心臓保護作用が誘発されることを示した(それぞれ、IRでの56.39±10.33、n=12に対して、MSC 5,000の17.29±6,84、n=6;p=0.0009および56.39±10.33、n=12に対して、MSC 20,000での17.04±4.07;n=6;p=0.0009)。5,000細胞/mLの濃度は、エクス・ビボマウスモデルにおいて最大の心臓保護をもたらす最小濃度であるため、本発明者らの研究の総ての実験に選択した。さらに、5,000細胞/mL(6.10細胞/心臓)のMSCによる再灌流により、本発明者らの実験で陽性対照として用いた虚血PostCと同程度に梗塞サイズが縮小することを実証した(MSCでの17.29±6.84、n=6に対して、PostCでの14.04±4.32、n=8、p>0.99;図2C)。免疫組織学的分析により、エクス・ビボで灌流したMSCは、1時間の再灌流後に冠状微小血管内に位置することが明らかになった(データは示していない)。まとめると、これらの結果は、6.10MSC/心臓が、AMI中の心臓保護におけるゴールドスタンダードな戦略である虚血PostCと同じくらい治療効果があることを実証している。
【0111】
虚血PostCとMSC投与の両方の強力な心臓保護作用は、損傷した心筋内の炎症促進性サイトカインの減少と関連している
IR障害に対する虚血PostCとMSCの投与の有益な効果が、免疫応答の調節と関連しているかどうかを判断するために、再灌流開始後15、30および60分において収集された冠動脈流出液内の炎症促進性サイトカインを定量した(図3A)。MSDアプローチを使用して定量した10種のサイトカインのうち、IFNγ、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-10、IL-12p70を含む7種は、サンプルにおいて検出されなかった。しかしながら、TNFα(図3B)、CXCL1(KC/GRO)(図3C)およびIL-6(図3D)は、虚血PostCまたはMSCの投与を受けた心臓の冠動脈流出液中に有意に低いレベルで存在した。この結果は、冠動脈流出液中の炎症促進性サイトカインの定量によって評価されるように、PostCおよびMSCの保護作用が強力な抗炎症作用と関連していることを示している。
【0112】
PPAR β/δは、IR障害に対するMSCによって媒介される心臓保護作用に関与している。
最近、関節炎の実験において、PPARβ/δがMSCの免疫調節機能および治療機能にとって極めて重要であることを示した(Luz-Crawford, P. et al. PPARbeta/delta directs the therapeutic potential of mesenchymal stem cells in arthritis. Annals of the Rheumatic Diseases 2016;75:2166-2174)。しかしながら、MSCの心臓保護活性に対するPPARβ/δの役割および炎症を起こした心筋におけるMSCの免疫調節性に対するPPARβ/δの関連性については、これまで取り上げられていない。PPARβ/δがMSCの心臓保護特性に重要であるかどうかを判断するために、PPARβ/δ-/-欠損マウスから単離されたMSC(KO MSC)およびそれらのPPARβ/δ+/+対照同腹仔から得られたもの(MSC)の効果を比較した。摘出心臓を再灌流中に、6.10細胞/心臓の最適用量でMSCを含有する溶液によって灌流した(プロトコール図4A参照)。これらの条件において、虚血障害後に摘出心臓にKO MSCを灌流すると、野生型MSCによって誘発される梗塞サイズの劇的な減少(IRでの56.4±10.3、n=12に対して、MSCでの24.1±11.8、n=9;p**=0.001)は、消失した(IRでの56.4±10.3、n=12に対して、KO MSCでの48.4±25.4、n=13;pns=0.75およびMSCでの24.1±11.8、n=9に対して、KO MSCでの48.4±25.4、n=13;p=0.029)(図4B)。PPARβ/δのノックダウンに応答したMSCの治療効果の喪失が、梗塞した心筋における炎症を軽減する能力の喪失と関連しているかどうかを判断するために、再灌流開始後60分において収集された冠動脈流出液内の炎症促進性サイトカインを定量した。サイトカインのMSD定量では、MSC処置した心臓と未処置の心臓の冠動脈流出液中のTNFα濃度に変化は見られなかった。しかしながら、本発明者らは、再灌流時に収集された冠動脈流出液中のCXCL1およびIL-6濃度の有意な減少によって明らかなように、虚血障害を起こしている心臓におけるMSCの抗炎症作用を実証した(CXCL1については:MSCでの2.56pg/ml±3.79、n=10に対して、IRでの16.61pg/ml±10.53、n=10、p**=0.0017(図4D)およびIL-6については:MSCでの5.43pg/ml±3.02、n=10に対して、IRでの21.83pg/ml±11.08、n=10、p**=0.004(図4E))。注目すべきことに、MSCにおけるPPARβ/δのノックダウンは、再灌流時に収集され維持された冠動脈流出液中のCXCL1(KO MSCでの3.73pg/ml±1.65、n=8に対して、MSCでの2.56pg/ml±3.79、n=10、pns=0.28;図4D)およびIL-6(KO MSCでの7.65pg/ml±5.04、n=8に対して、MSCでの5.43pg/ml±3.02、n=10、pns>0.99;図4E)の濃度によって明らかなように、それらの抗炎症能を変更しなかった。
【0113】
考察および結論
前記研究で使用した全体虚血(30分)とそれに続く60分の再灌流のエクス・ビボプロトコールが、60分の再灌流時に収集された冠動脈流出液中のTNFα、IL-6およびCXCL1のレベルの増加によって評価されるように、炎症促進反応を誘発したことを実証した後、MSCの免疫調節機能および治療機能に対するPPARβ/δの役割を試験した。まず、本発明者らは、最小限の細胞濃度でエクス・ビボマウスモデルにおいて有意な心臓保護を提供可能な、MSCの最適用量、6. 10細胞/心臓を確認した。注目すべきことに、選択したMSCのこの用量では、本発明者らの研究で陽性対照として用いた虚血ポストコンディショニング(PostC)と同様の心臓保護が観察された。実際、両方の治療により、同じ有効性でIR障害の炎症促進反応を軽減し、梗塞サイズを縮小することができた。さらに、この研究は、MSCの心臓保護特性が、冠動脈流出液中のTNFα、CXCL1およびIL-6の放出に対する抗炎症作用と比べて、PPARβ/δ依存性であることを明らかにしている。
【0114】
AMI患者において有益な効果があるにもかかわらず、再灌流療法は、無菌性炎症と呼ばれる局所炎症と全身炎症の両方を誘発し、AMI後の壊死細胞を除去し、梗塞した心筋を修復するために引き起こされる初期炎症反応を強化する。革新的な治療アプローチを開発および評価するために、すでにイン・ビボで報告されているように、56%梗塞サイズ(左心室(left ventricel)のパーセンテージで表される)および冠動脈流出液中への炎症促進性サイトカインの有意なレベルでの放出によって評価される強力なIR障害を提供するエクス・ビボモデルを設計した。
【0115】
この炎症反応は、梗塞サイズの決定とその後の左心室のリモデリングに重要な役割を果たすため、MI後の臨床状態を改善するための潜在的な治療標的である。心筋を保護するために、AMI後の炎症促進反応を間接的または直接的に標的とする多数の治療戦略が試験されてきた。
【0116】
IR障害に対する心臓保護におけるゴールドスタンダードと考えられている虚血ポストコンディショニング(PostC)は、無数の細胞内カスケードを活性化して、調節された細胞死を阻害し、1時間の再灌流時に強い心臓保護作用を誘発するために抗炎症反応も引き起こすことが報告されている(Roubille, F. et al. Delayed postconditioning in the mouse heart in vivo. Circulation 124, 1330-1336, doi:CIRCULATIONAHA.111.031864 [pii] 10.1161/CIRCULATIONAHA.111.031864 (2011))。本研究において使用したIR障害のエクス・ビボモデルでは、PostC心臓保護戦略により、IRと比較して、梗塞サイズが75.1%縮小し(IRに対するPostC、p)、摘出心臓の冠動脈流出液中のTNFα、IL-6およびCXCL1レベルがそれぞれ、71.7、71.8および91.4%減少した。まとめると、これらの結果は、炎症反応の調節が、虚血PostCによって媒介されるIR障害に対する心臓保護と関連していることを示唆している。
【0117】
これに関連して、動物モデルにおいて炎症性サイトカインおよびケモカインを標的にすることを目的とした戦略が研究されており、炎症の制御に関して有望な結果が得られている(Ong, S. B. et al. Inflammation following acute myocardial infarction: Multiple players, dynamic roles, and novel therapeutic opportunities. Pharmacol Ther 186, 73-87, doi:10.1016/j.pharmthera.2018.01.001 (2018))。しかしながら、AMI患者で評価した場合、ほとんどの治療試験では、梗塞サイズ縮小または臨床転帰に関して何の利益も示されていない(総説については、Ong, S. B. et al. Inflammation following acute myocardial infarction: Multiple players, dynamic roles, and novel therapeutic opportunities. Pharmacol Ther 186, 73-87, doi:10.1016/j.pharmthera.2018.01.001 (2018)参照)。再灌流の補助剤としてインターロイキン-1の特異的阻害剤を使用すると、NSTEMI患者において死亡が大幅に増加することが報告されている (Morton, A. C. et al. The effect of interleukin-1 receptor antagonist therapy on markers of inflammation in non-ST elevation acute coronary syndromes: the MRC-ILA Heart Study. Eur Heart J 36, 377-384, doi:10.1093/eurheartj/ehu272 (2015))。加えて、コルチコステロイドまたは免疫抑制剤も臨床試験において不本意な結果を示しており(Ong, S. B. et al. Inflammation following acute myocardial infarction: Multiple players, dynamic roles, and novel therapeutic opportunities. Pharmacol Ther 186, 73-87, doi:10.1016/j.pharmthera.2018.01.001 (2018))、急性MI後のこの治療アプローチは問題として取り上げられ、炎症は氷山の一角であることも示唆されている。
【0118】
したがって、MSCに基づく療法を含むより包括的な療法は、多面的な虚血性心臓疾患を治療し、心臓機能を回復するための有望なアプローチとして浮上している。実際、免疫調節能力、抗線維化能力および抗アポトーシス能力を含むMSCの多面発現効果を考えると、MSCに基づく療法は、AMIの3つの主な病原軸を抑えることが可能であり、したがって、医療ニーズが満たされていないこの難治性障害の突破口と考えられている。安全性および有効性は、それぞれ、有害事象の評価と、左心室駆出率(LVEF)および死亡率の改善によって評価した。得られた結果は重大な異質性を特徴としていたが、MSC注射は急性有害事象とは関連しておらず、患者のLVEFの改善を誘導するようであった。死亡率に有意差は報告されなかった。他の興味深い結果はほとんど研究されておらず、結論は限定されていた。本発明者らの研究では、MSCは、PostCによってもたらされる心臓保護作用と同様の心臓保護作用を発揮し、PostCは、本発明者らの研究では陽性対照と見なされるものである。実際、MSC細胞療法を使用すると、梗塞サイズは69.3%縮小した(PostC 対MSC、p=ns)。加えて、TNFα、IL-6およびCXCL1のMSD定量によって評価すると、MSC(6.10細胞/心臓)は強い抗炎症作用をもたらしており、それぞれ、35、75.1および84.6%縮小していた。本発明者らの結果は、AMIのマウスモデルで報告されたデータと一致しており、MSCの注射により、MI誘導の2日後、循環心臓と梗塞心臓の両方において、炎症促進性マクロファージを含むマクロファージ/単球の頻度が減少し、抗炎症性マクロファージおよび修復性マクロファージ(F4/80CD206)のパーセンテージが増加したことを示している(Ben-Mordechai, T. et al. Macrophage subpopulations are essential for infarct repair with and without stem cell therapy. J Am Coll Cardiol 62, 1890-1901, doi:10.1016/j.jacc.2013.07.057 (2013); Dayan, V. et al. Mesenchymal stromal cells mediate a switch to alternatively activated monocytes/macrophages after acute myocardial infarction. Basic Res Cardiol 106, 1299-1310, doi:10.1007/s00395-011-0221-9 (2011))。したがって、MSCに基づく療法は、AMIの3つの主な病原軸のうちの1つ、すなわち、炎症に対抗し、この免疫調節性の強化は、AMIにおけるMSCの治療効果の向上につながる可能性がある。実際、MIのラットモデルでは、MSCにおけるIL-33の過剰発現は、対照MSCと比較して、LVEFを改善する。IL-33を過剰発現するMSCのこの有効性強化は、イン・ビトロで抗炎症性表現型へのマクロファージの分極を促進し、ビボでの心臓炎症を軽減する高い能力と関連していた (Chen, Y. et al. The enhanced effect and underlying mechanisms of mesenchymal stem cells with IL-33 overexpression on myocardial infarction. Stem Cell Res Ther 10, 295, doi:10.1186/s13287-019-1392-9 (2019))。これに関連して、本研究では、本発明者らの研究室がこれまでに報告している、PPARβ/δについてノックダウンされたMSCの治療的役割を試験し、ナイーブMSCと比較して、イン・ビトロでのTリンパ球の増幅と、イン・ビボでの関節炎の発生およびCIAの進行の両方を阻害する能力の増強を示した(Luz-Crawford, P. et al. PPARbeta/delta directs the therapeutic potential of mesenchymal stem cells in arthritis. Annals of the rheumatic diseases, doi:10.1136/annrheumdis-2015-208696 (2016))。TNFαおよびIFNγでプライミングすると、PPARβ/δを欠損しているMSCは、それらの野生型対応MSCと比較して、VCAM-1、ICAM-1および一酸化窒素(NO)を含むMSC免疫抑制メディエーターの発現レベルが増加した (Luz-Crawford, P. et al. PPARbeta/delta directs the therapeutic potential of mesenchymal stem cells in arthritis. Annals of the rheumatic diseases, doi:10.1136/annrheumdis-2015-208696 (2016))。
【0119】
本研究では、梗塞した心筋に注射した場合、MSCのPPARβ/δノックダウンにより抗炎症性は変わらないことが観察された。実際、野生型およびPPARβ/δ KO MSCの両方は、IRプロトコール後の60分の再灌流後の冠動脈流出液内の炎症促進性サイトカインの濃度を有意に低下させた。したがって、PPARβ/δ KO MSCについて本明細書で報告した心筋虚血再灌流障害におけるMSCの治療効果の喪失は、AMIにおける有益な効果に極めて重要なMSCの他の機能の障害に起因する可能性があり、またはそれらのアポトーシスの促進によりイン・ビボでの生存率を低下させる可能性がある。PPARβ/δは、癌細胞および心筋細胞を含むいくつかの細胞型の生存を促進することが報告されているため、MSCにおけるPPARβ/δの欠損は、それらの生存率に影響を及ぼし、イン・ビボで注射すると、それらの生着を低下させる可能性があると予測しようとしている(Palomer, X., Barroso, E., Zarei, M., Botteri, G. & Vazquez-Carrera, M. PPARbeta/delta and lipid metabolism in the heart. Biochim Biophys Acta 1861, 1569-1578, doi:10.1016/j.bbalip.2016.01.019 (2016); Li, Y. J. et al. PPAR-delta promotes survival of chronic lymphocytic leukemia cells in energetically unfavorable conditions. Leukemia 31, 1905-1914, doi:10.1038/leu.2016.395 (2017); Wang, X. et al. PPAR-delta promotes survival of breast cancer cells in harsh metabolic conditions. Oncogenesis 5, e232, doi:10.1038/oncsis.2016.41 (2016))。実際、血管細胞におけるPPARβ/δの役割は、血管細胞をアポトーシスから保護する一方で、細胞が細胞質プロスタサイクリン受容体を欠損している場合には、PPARβ/δの活性化によりアポトーシスが促進される(Hatae, T., et al. (2001). "Prostacyclin-dependent apoptosis mediated by PPAR delta." J Biol Chem 276(49): 46260-46267)。内皮細胞では、PPARβ/δの抗アポトーシス性が報告されており、根底にある機構は内皮14-3-3活性化に関連していた(Liou, J. Y., et al. (2006). "Protection of endothelial survival by peroxisome proliferator-activated receptor-delta mediated 14-3-3 upregulation." Arterioscler Thromb Vasc Biol 26(7): 1481-1487; Brunelli, L., et al. (2007). "Peroxisome proliferator-activated receptor-delta upregulates 14-3-3 epsilon in human endothelial cells via CCAAT/enhancer binding protein-beta." Circ Res 100(5): e59-71)。また、心筋芽細胞株H9c2では、選択的アゴニスト、GW501516によるPPARβ/δ受容体の活性化が、H誘発細胞死から細胞を保護することが報告されている(Pesant, M., et al. (2006). "Peroxisome proliferator-activated receptor delta (PPARdelta) activation protects H9c2 cardiomyoblasts from oxidative stress-induced apoptosis." Cardiovasc Res 69(2): 440-449)。PPARβ/δは、MSCによって高度に発現される(Luz-Crawford, P., et al. (2016). "PPARbeta/delta directs the therapeutic potential of mesenchymal stem cells in arthritis." Ann Rheum Dis 75(12): 2166-2174)が、それらのC 抗アポトーシス性および心臓保護特性はこれまで研究されていなかった。
【0120】
結論として、本発明者らの研究は、抗炎症作用が持続しているにもかかわらず、PPARβ/δ受容体が欠如すると、MSCの心臓保護作用は失われることを示している。このことは、AMIにおける有益な効果を改善するためにMSCの免疫調節性を強化することは、第III相臨床試験の不一致を克服するための唯一のまたは主要なアプローチであるべきではなく(Jeong, H. et al. Mesenchymal Stem Cell Therapy for Ischemic Heart Disease: Systematic Review and Meta-analysis. International journal of stem cells, doi:10.15283/ijsc17061 (2018); Roncalli, J. et al. Intracoronary autologous mononucleated bone marrow cell infusion for acute myocardial infarction: results of the randomized multicenter BONAMI trial. Eur Heart J 32, 1748-1757, doi:10.1093/eurheartj/ehq455 (2011))、むしろ、患者に投与された後の生存を高めることと同時に考慮されるべきであることを示唆している。
【0121】
実施例2:ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体β/δアゴニストは心筋虚血再灌流障害における間葉系幹細胞の抗アポトーシス性および治療特性を強化する
KO MSC細胞を使用して実施例1で得られた結果に従って、心筋の虚血再灌流障害におけるそれらの抗アポトーシス性および治療特性に対するPPARβ/δアゴニストによるMSCの前処理の効果を試験した。
【0122】
材料および方法
動物実験
総ての実験を、1986年11月の欧州共同体理事会指令に従って、C57BL/6Jマウス(Charles River laboratory)において実施し、米国国立衛生研究所発行の「実験動物の管理と使用に関する指針」(NIH刊行物 第8版、2011)に準拠した。
【0123】
ランゲンドルフエクス・ビボ研究
C57Bl6雄マウスを、ケタミン(14mg/kg、Imalgene(登録商標);Merial)およびキシラジン(14mg/kg、Rompun(登録商標);Bayer)を含む麻酔薬カクテルの最初の筋肉内注射と、ペントバルビタール(76.6mg/kg;Sanofi-Aventis)の2回目の注射によって麻酔した。胸骨切開後、心臓を切除し、迅速に大動脈にカニューレを挿入し、自家製ランゲンドルフシステムに取り付けた。それを、圧力および温度が一定(37℃)のタイロード液で逆行灌流した。
【0124】
虚血・再灌流プロトコール
ランゲンドルフシステムにおいて、心臓を、15分のタイロード灌流安定化期間の後、全体虚血を誘発するための30分の無流期間を含む虚血-再灌流(IR)プロトコールに供した。再灌流は、タイロード液単独(IR対照)または再灌流中に投与されるタイロード液(MSC)中のMSC細胞を使用して60分間灌流を回復することによって達成した。虚血ポストコンディショニングは、全体虚血の最後に、1分の再灌流/1分の虚血を3サイクルとそれに続く54分の再灌流を含むコンディショニング刺激を適用することにより誘導した。MSCに基づく細胞療法のエクス・ビボ評価のために、タイロード液で調製した様々な濃度(2500、5000 et 20000細胞/mL)のMSC細胞 80~150mL(平均値120mL)を、60分の再灌流段階中に、摘出心臓の大動脈および冠状血管を介して逆行灌流した。
【0125】
梗塞サイズの評価
LVは、横方向に1mm厚にスライスし、2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC、Sigma-Aldrich)の1%溶液中、37℃で15分間インキュベートした。4%パラホルムアルデヒド-PBS溶液での固定後、スライスの重さを量り、各面を撮影した(オリンパス社製カメラ)。梗塞領域は、ImageJソフトウェア(米国国立衛生研究所)を用いた面積測定法により測定し、左心室のパーセンテージとして表した。
【0126】
MSC培養物
マウスMSCのMSC単離および増幅は、これまでに記載されている条件で実施した(Bouffi, C., Bony, C., Courties, G., Jorgensen, C. & Noel, D. IL-6-dependent PGE2 secretion by mesenchymal stem cells inhibits local inflammation in experimental arthritis. PLoS One 5, e14247 (2010))。次に、MSCを、10%ウシ胎仔血清(FBS)、2mM グルタミン、100U/mL ペニシリン、100mg/mL ストレプトマイシンおよび2ng/ml ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加した最少必須培地(MEM)-αに0.5×10細胞/cmの密度で播種した。MSCの表現型および分化能については従前と同様に実行した(Bouffi, C., Bony, C., Courties, G., Jorgensen, C. & Noel, D. IL-6-dependent PGE2 secretion by mesenchymal stem cells inhibits local inflammation in experimental arthritis. PLoS One 5, e14247 (2010))。簡潔には、表現型の特性評価では、MSCを、0.1%ウシ血清アルブミンを添加したPBS中で、BD Biosciences(Le Pont de Claix、フランス)のコンジュゲートモノクローナル抗体とともに20分間インキュベートした。MSCの脂肪細胞、骨芽細胞および軟骨細胞への分化に関しては、すでに報告されている誘導条件を利用した(Bouffi, C., Bony, C., Courties, G., Jorgensen, C. & Noel, D. IL-6-dependent PGE2 secretion by mesenchymal stem cells inhibits local inflammation in experimental arthritis. PLoS One 5, e14247 (2010))。MSCの脂質生成分化は、オイルレッドO染色後の液滴形成の分析およびRT-qPCRによって評価した。MSCの軟骨形成分化は、RT-qPCRによって評価し、骨形成分化は、RT-qPCRおよび細胞外マトリックスの石灰化によって評価した。
【0127】
PPARβ/δアゴニストおよびアンタゴニストによるMSCの前処理とCM-DiIによる標識。
MSCを、PPARβ/δアンタゴニスト GSK3787(0.1および1μM)、PPARβ/δ逆アゴニスト GSK0660(0.1および1μM)またはPPARβ/δアゴニスト GW0742(0.1、1および5μM)のいずれかとともに24時間プレインキュベートした後、PBSで洗浄し、共培養実験に使用するかまたは心筋に注射した。必要であれば、MSCを蛍光細胞トレーサーCM-DiI(Molecular Probes)で標識した。MSCを収集し、CM-DiIを含有するPBS 5mLに懸濁した(10細胞/10μg)後、暗所で、37℃で5分間、続いて、4℃で15分間インキュベートした。標識MSCをPBSで2回洗浄し、PBSに再懸濁し、心筋に注射するまで4℃で維持した。
【0128】
心筋細胞とMSCの共培養
H9c2、ドブネズミの心筋細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)、100単位/mL ペニシリン、および100μg/mL ストレプトマイシンを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で培養した。アポトーシスを誘導するために、H9c2を、350μMのHを含有する最少培地(FBS不含)中で4時間培養した。心筋細胞に対するMSCの影響を評価するため、細胞間接触を避けるためにトランスウェルシステムを使用した共培養アッセイを設計した。350μMのHの存在下で、12ウェルディッシュの各ウェル当たり15,000個の心筋細胞(下部)をプレーティングし、または15,000個のMSC(上部)をプレーティングした。2つの異なる共培養プロトコールを実行した。プロトコール1では、H9c2および共培養したMSCをHに暴露した(血清枯渇状態)。プロトコール2では、H9c2を最少培地中のHに4時間暴露し、洗浄後、細胞を完全培地中でMSCと共培養した。プロトコール3では、H9c2を、Hの存在下、血清を含まない通常の培地で4時間培養し、さらに1時間培養を続けた。次いで、H9c2とMSCの共培養を完全培地中で1時間実行した。総てのプロトコールの終了時に、アポトーシスおよびRT-qPCR分析のためにH9c2を回収した。
【0129】
DNA断片化アッセイ
DNA断片化は、細胞溶解物において、アポトーシスの誘導後の細胞の細胞質外のヒストン複合体DNA断片(モノおよびオリゴヌクレオソーム)を測定するように設計された酵素結合免疫吸着測定キット(Cell Death ELISA;Roche Diagnostics)を用いてイン・ビトロ定量した。
【0130】
RT-qPCR
各サンプルの全RNAの単離は、RNeasy Mini Kit(Qiagen、Courtaboeuf)を使用して実行した。抽出されたRNAの量と質は、NanoDrop ND-1000分光光度計(NanoDrop ND、Thermo Fisher Scientific)を使用することにより定義した。次に、SensiFAST cDNA合成キット(Bioline)を使用し、500ngのRNAをcDNAに逆転写してcDNAを合成した。SensiFAST(商標)SYBR(Bioline)およびLightCycler(登録商標)480定量的検出システムを製造業者の推奨に従って使用し、PCRを実行した。angpl4、pdk4、bcl2、hgf、pdgf、nrf2に特異的なプライマーは、Primer3ソフトウェアを使用して設計した。データは、ハウスキーピング遺伝子リボソームタンパク質S9(RPS9)に対して正規化し、それらの値を2-ΔCt法を使用して算出された特定の遺伝子発現の相対的mRNAレベルとして表した。
【0131】
免疫ブロット法
組織サンプル(左心室)は、エクス・ビボでのIRプロトコール終了後、液体窒素中で急速凍結した。サンプルは、EDTA不含プロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤(Halt(商標)Protease and phosphatase single-use inhibitor Cocktail-100X、Thermoscientific)を添加したRIPAバッファー[50mM Tris(Sigma-Aldrich)、150mM NaCl(Sigma-Aldrich)、1%Triton X-100(Sigma-Aldrich)、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(Sigma-Aldrich) pH8.0]中でグラインダーを用いてホモジナイズした。遠心分離後、タンパク質の精製のためにペレットをRIPAバッファーに再懸濁し、4℃で1時間インキュベートした。タンパク質濃度は、ビシンコニン酸(BCA)タンパク質アッセイキット(Pierce)を用いて決定した。タンパク質のサンプル(25μg)をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(4~20%mini-Protean(登録商標)TGX(商標)プレキャストゲル;Biorad)によって分離し、ニトロセルロース(Trans-Blot(登録商標)Turbo(商標);Biorad)に転写した。次の抗体および供給業者を使用した:1)EMD Millipore:抗カスパーゼ3(Upstate 06-735)、2)Cell Signaling Technology:抗リン酸化ERK1,2;抗ERK1,2;抗リン酸化AKT;抗AKT;β-チューブリン;抗α-アクチニン;ビンキュリン(E1E9V)、GAPDH、3)Jackson ImmunoResearch:西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗ウサギ。タンパク質バンドは、ECLキット(SuperSignal(商標)West Pico chemiluminescent Substrate;Thermo Scientific(商標))を使用した強化化学発光法により視覚化した。濃度測定分析は、Chemidoc(商標)(Biorad)およびImageJソフトウェア(米国国立衛生研究所)を使用して実行した。各タンパク質のバンドのシグナル強度は、ローディング対照(チューブリン、ビンキュリン、GAPDHまたはα-アクチニン)について得られた対応する値で補正した後、IR対照条件について得られた平均値で正規化した。
【0132】
免疫化学
エクス・ビボ実験の終了時に、左心室(LV)をホルモルで固定し、パラフィン包埋した。各左心室を心尖部から基部まで切断した(4μm切片、各150μm)。パラフィン包埋した切片を脱パラフィン処理し、その後、アルコール勾配によって再水和した。切片をMowiol(Biovalley)に取り付けた。LV切片は、Zeiss Axio Scan Z1スライドスキャナー(Zeiss、オーバーコッヘン、ドイツ)でスキャンした。スキャンは20倍対物レンズを使用して行った。画像はImageJを使用して分析した。
【0133】
統計分析
統計分析は、n≧5の独立した実験に対してのみ実行した。データ(平均±SD)は、母集団の正規性を確認した後(正規分布については、アンダーソン・ダーリング検定)、ANOVAパラメトリック検定を用いて分析した。適合しない場合には、ノンパラメトリックなクラスカル・ウォリス法、それに続いて、多重比較のダンの事後検定または2群のマン・ホイットニー法を使用した。データは、GraphPad Prism(MacOs用バージョン8.3.0、GraphPad Software、サンディエゴ、米国カリフォルニア州、www.graphpad.com)を用いて分析した。統計的有意性は、p>0.05をnsと記し、p<0.05をと記し、p<0.01を**と記し、p<0.001を***と記し、p<0.0001を****と記した。
【0134】
結果
全体虚血のエクス・ビボモデルにおいて再灌流中に投与されたMSCの心臓保護作用はPPARβ/δに依存する
まず、これまでに記載されているように、研究に使用したMSCの表現型および機能を特徴付けた(Bouffi, C., Bony, C., Courties, G., Jorgensen, C. & Noel, D. IL-6-dependent PGE2 secretion by mesenchymal stem cells inhibits local inflammation in experimental arthritis. PLoS One 5, e14247 (2010))。本発明者らは、MSCは、CD11bおよびCD45について陰性であるが、MSCで発現されるCD44およびSca-1などのマーカーについて陽性であることを示した(データは示していない)。3つの特定の系統へのMSC分化の誘導後、MSCは以下を生じた:1)II型コラーゲン(Col2)の発現によって示される軟骨細胞;2)pparγおよびlplの発現および脂肪液滴の形成を特徴とする脂肪細胞、ならびに3)オステオカルシンの発現およびアルカリホスファターゼおよびリザリンレッドS染色(データは示していない)を特徴とする骨芽細胞。本発明者らのIR障害のエクス・ビボモデルにおいてMSCの保護作用を評価するために、全体虚血に供した摘出心臓の再灌流段階中にMSCを様々な濃度で(タイロード液中2500、5000 et 10000細胞/mL)投与した(プロトコール、図5A参照)。図5Bは、MSCの心臓保護作用の用量反応について得られたU字曲線を示す。5,000細胞/mLの濃度は、PostC刺激によってもたらされる最適な有効性と同様の最適な有効性を提供する用量として特定され、これは、本発明者らの実験では陽性対照と見なされた(MSC 5,000;n=12での30.27±5.89に対して、PostCでの28.13±4.69、n=7;p $>0.999)。加えて、2,500細胞/mLの用量(IRでの46.51±6.28、n=11に対して38.64±5.36、n=11;pns=0.80)でも、試験した最大の10,000細胞/mL(IRでの46.51±6.28、n=11に対してMSC 10,000での50.28±11.09、n=6;pns>0.999)でも、IRと比較して、梗塞サイズの有意な縮小は生じなかった。
【0135】
以前の研究で、分化能および免疫調節性を含むMSC機能におけるPPARβ/δ発現の極めて重要な役割を実証したため、本明細書ではMSCの心臓保護作用における役割に焦点を当てた(Scholtysek, C. et al. PPARβ/δ governs Wnt signaling and bone turnover. Nat Med 19, 608-613, doi:10.1038/nm.3146 (2013; Luz-Crawford, P. et al. PPARbeta/delta directs the therapeutic potential of mesenchymal stem cells in arthritis. Ann Rheum Dis 75, 2166-2174, doi:10.1136/annrheumdis-2015-208696 (2016);Contreras-Lopez, R. A. et al. PPARβ/δ-dependent MSC metabolism determines their immunoregulatory properties. Sci Rep 10, 11423, doi:10.1038/s41598-020-68347-x (2020))。その目的で、MSCを、IR障害のエクス・ビボモデルに投与する(5,000細胞/mL)前に、PPARβ/δアンタゴニストまたはアゴニスト薬剤で前処理した。図5Cは、MSC(5,000細胞/mL)を、再灌流段階中のエクス・ビボ虚血心臓に投与する前に、GSK0660(1μM)で24時間前処理すると心臓保護が低下したことを示している(MSCでの30.27±5.89、n=12に対して、MSC+GSK0660での37.78±5.31、n=9;p#=0.019)。この結果に従って、様々な用量(0.1、1および5μM)でのGW0742 PPARβ/δアゴニストの使用が、それ自体では保護できないより低い用量(2,500細胞/ml)で投与されたMSCによってもたらされる心臓保護の改善と関連しているかどうかを調査した。まず、MSC培養物に対するGW0742 PPARβ/δアゴニスト前処理の効果を検証し、GW0742のアゴニスト効果がangpl4およびpdk4標的遺伝子の発現レベルの増加と関連しており、アゴニストの機能性の実証が可能であることを見出した(データは示していない)。次に、様々な濃度のPPARβ/δアゴニストでのMSCの前処理は1μMの濃度で心臓保護作用を誘導した(IRでの46.51±6.28、n=11に対して、MSC+GW0742 1μMでの25.77±4.68、n=7;p****<0.0001)ことを示したが、0.1および5μMでは有益な効果は観察されなかった。2500c/mLでの投与前にGW0472(1μM)で細胞を前処理することにより、5000c/mLのナイーブMSCを使用して観察された心臓保護作用と同じ心臓保護作用を誘導することができた(図5E)。PPARβ/δプライムドMSCの治療効果のこの改善は、DiI標識MSCを使用した免疫組織学実験によって評価されたように、梗塞した心筋組織に移植されたMSCの数の増加と関連しており、GW0472での前処理によって蛍光のパーセンテージが3.5倍増加したことが示された(図5F)。
【0136】
PPARβ/δプライムドMSCの模擬IRに対する耐性の増加
組織学的実験により、MSCをPPARβ/δアゴニストでプライミングすると、心筋の梗塞領域におけるMSC数の増加が明らかになったため、まず、プライムドMSCのIRストレスに対する耐性を調べた。これを行うために、MSCを、様々な濃度のH(100、250、350、500および750μM;図6Aのプロトコール参照)を使用してイン・ビトロで4時間、IR模擬ストレスに供した。アポトーシスの定量は、異なる処理群の特異的なDNA断片化の測定によって評価した。本発明者らは、100μMのHに暴露したMSCにおいてHにより特異的なDNA断片化が誘導され、そのスコアは100μMから750μMまで横ばい状態であることを見出した(図6B)。250μMの濃度のHを選択したのは、その濃度が、未処理のMSCと比較して、最大の効果を提供する最低用量であるためであった(p****)。Hに対するMSCの耐性におけるPPARβ/δの役割を決定するために、Hストレス誘導(250μMで4時間)の前に、異なる濃度(0.1および1μM)のPPARβ/δアンタゴニストおよびアゴニストで24時間、MSCを前処理した。0.1μMのPPARβ/δアゴニスト GW0742でのMSCの前処理により、酸化的ストレスに対するMSCの抵抗能力は変わらなかった(図6C)。しかしながら、1μMのPPARβ/δアゴニスト GW0742での前処理により、Hに暴露したナイーブMSCと比較して、MSCの耐性は有意に増強された(p)。1μMのPPARβ/δアンタゴニスト GSK0660での前処理により、H誘発酸化に対するMSCの耐性は有意に達することなく低下した(図6C)。PPARβ/δアゴニストでの前処理によって誘導されるMSCのアポトーシスに対する耐性のこの増強は、特に、0.1μMのGW0742での前処理後の、bcl2遺伝子発現レベルの有意な増加によって確認された(p**)。逆に、1μMのGSK0660でのMSCの前処理により、bcl2遺伝子発現レベルは、対照のH処理したMSCと比較して、有意に低下した(p図6D)。まとめると、これらの結果は、PPARβ/δの活性化により、H誘発模擬IRストレスによってもたらされるアポトーシスからMSCが保護されることを明らかにした。
【0137】
PPARβ/δプライミングは、IR様酸化的ストレスに暴露した心筋細胞に対するMSCの保護作用を高める
心筋細胞に対するMSC誘導の保護作用におけるPPARβ/δの役割を決定するために、梗塞組織に移植されたときにMSCが受けるストレスを模倣するための3つのプロトコールを設計および開発した。第1のプロトコールは、トランスウェルを使用して、ナイーブなMSCまたはプライムドMSCを、350μMのHに4時間暴露したH9c2とともに共培養することにあった。第2のプロトコールは、完全培地でそれらとナイーブなMSCまたはプライムドMSCを共培養する前に、H9c2を350μMのHに4時間曝露することにあった。第3のプロトコールは、完全培地でそれらとナイーブなMSCまたはプライムドMSCを共培養する前に、H9c2を350μMのHに4時間曝露し、それに続いて、血清枯渇を1時間行うことにあった。(図7A)。第1のプロトコールでは、1μMのGSK0660またはGSK3787で前処理したMSCは、ナイーブMSCと比較して、心筋細胞をアポトーシスから保護する能力を失うことが見出された。これに対して、0.1および1μMのPPARβ/δアゴニスト GW0742で前処理したMSCは、ナイーブMSCと比較して、H誘発酸化的ストレスに暴露した心筋細胞に対してより高い抗アポトーシス効果を示した(図7B)。第2のプロトコールでは、1μMのGSK0660またはGSK3787でのMSCの前処理により、Hストレスを受けた心筋細胞に対するMSC保護特性は変わらないことが示された。しかしながら、1μMのPPARβ/δアゴニスト GW0742でのMSCの前処理により、ナイーブMSCと比較して、IR様酸化的ストレスに暴露した心筋細胞に対する有意な保護作用がもたらされた(MSC、n=18 対MSC/1μM GSK07342、n=10;p***=0.0008)(図7C)。第3のプロトコールについては、1μMのGSK0660またはGSK3787で前処理したMSCは、ナイーブMSCと比較して、心筋細胞をアポトーシスから保護する能力を失う。PPARβ/δアゴニスト GW0742での前処理(1μM)により、ナイーブMSCと比較して、IR様酸化的ストレスに暴露した心筋細胞に対する有意な保護作用がもたらされた(MSC、n=11 対MSC/1μM GSK07342、n=6;p=0.004326)(図7D)。まとめると、これらの結果は、損傷した心筋細胞との共培養に先立ち、PPARβ/δアゴニストでMSCを前処理することにより、イン・ビトロでの心筋細胞に対する抗アポトーシス性が強化されることを明らかにした。
【0138】
PPARβ/δプライミングは、MSCパラクリン機能に対するIR様酸化的ストレスの抑制効果を逆転させる
MSC移植は、AMIモデルに適用した場合の心臓再生能力についても記載されているVEGF(Scott, R. C. et al. Targeting VEGF-encapsulated immunoliposomes to MI heart improves vascularity and cardiac function. Faseb j 23, 3361-3367, doi:10.1096/fj.08-127373 (2009); Ruvinov, E., Leor, J. & Cohen, S. The promotion of myocardial repair by the sequential delivery of IGF-1 and HGF from an injectable alginate biomaterial in a model of acute myocardial infarction. Biomaterials 32, 565-578, doi:10.1016/j.biomaterials.2010.08.097 (2011))およびPDGF(Xu, B., Luo, Y., Liu, Y., Li, B. Y. & Wang, Y. Platelet-derived growth factor-BB enhances MSC-mediated cardioprotection via suppression of miR-320 expression. Am J Physiol Heart Circ Physiol 308, H980-989, doi:10.1152/ajpheart.00737.2014 (2015))を含む抗アポトーシス因子を放出する能力により、IR誘導性アポトーシスを抑制する。したがって、これらの因子の転写物レベルを調節するMSCの能力に対するH誘発酸化的ストレスの効果を試験し(図8A)、Hストレスを受けたMSCが、vegf-a転写物を上方調節し、hgfおよびpdgfの転写物を下方調節する能力の増強を示すことを見出した(図8B~D)。0.1または1μMのGSK0660で前処理したMSCでは、vegf-a転写物の量が有意に減少することを証明した(それぞれ、p***およびp図8B)。同様の傾向がhgfおよびpdgfについても観察された(図8C、D)。これに対して、0.1および1μMのPPARβ/δアゴニスト GW0742でのMSCの前処理により、MSCのvegf-aおよびhgf転写レベルは変わらなかった(図8B、C)が、1μMの濃度で適用した場合、pdgfの発現は有意に増加した(p図8D)。
【0139】
PPARβ/δ-プライミングは、エクス・ビボでのMSCの心臓保護作用を高める
心筋細胞に対するPPARβ/δプライムドMSCの強力な抗アポトーシス効果を心臓全体においてさらに確認した。エクス・ビボでIR障害に供した心臓におけるウエスタンブロット分析により、MSC処理が、未処理のIR条件と比較して、カスパーゼ3の活性化の減少をもたらしたことを示すことができた(図9A)。MSCをGW0742 PPARβ/δアゴニスト(1μM)で24時間前処理すると、カスパーゼ3開裂のこの阻害はさらに増加した(図9B)。これに対して、再灌流時のエクス・ビボ IR心臓への注射に先立ち、GSK0660 PPARβ/δアンタゴニストでMSCを前処理することにより、IR対照条件と同じレベルでカスパーゼ3の完全活性化が回復した。
【0140】
加えて、ERK1/2(図9C)およびAKT(図9D)生存促進キナーゼのリン酸化パターンの評価では、MSCを再灌流中の投与前にGW0742 PPARβ/δアゴニスト(1μM)で前処理した場合、MSC処置したIR心臓と未処置のIR心臓のリン酸化比pAkt/Aktの有意な増加を示した。これに対して、ナイーブMSCをIRプロトコールの虚血後の段階で投与した場合には、pERK1/2/ERK1/2比に変化はなかった。
【0141】
考察および結論
本発明者らの研究は、PPARβ/δの活性化が、MSCをアポトーシスから保護し、抗アポトーシス性および心筋虚血再灌流障害に対する治療特性を強化することを初めて実証した。この研究のために、ナイーブなMSCとPPARβ/δプライムドMSCの治療効果を評価および比較するために、全体虚血とそれに続く再灌流からなるエクス・ビボモデル(IRプロトコール)を開発した。IRプロトコールに供した心臓の再灌流段階中にMSCを投与したことによって、梗塞サイズを縮小させることができた。MSCを投与前に24時間、PPARβ/δアンタゴニストで前処理した場合、それらの心臓保護作用は有意に減少した。PPARβ/δアゴニストでの前処理により、MSCによって誘発される心臓保護が有意に増強され、これは心室壁で検出された細胞数の有意な増加と関連していた。本発明者らは、PPARβ/δの予備活性化によりMSCの生存と酸化的ストレスに対する耐性が増加され得ることをイン・ビトロで証明した。H誘発ストレスに対するMSCの耐性のこの増加は、MSCをPPARβ/δアゴニストを用いて、また、bcl2転写物の量の増加によってプライミングされた場合のアポトーシス率の低下と関連していた。加えて、PPARβ/δプライムドMSCは、Hストレスを受けた心筋細胞培養物に対してナイーブMSCよりも強力な抗アポトーシス治療効果を有していた。心臓全体では、本発明者らの結果は、カスパーゼ3活性化のウエスタンブロット分析によって評価したように、PPARβ/δプライムドMSCの抗アポトーシス効果は、ナイーブMSCによってもたらされる効果よりも有効であることも明らかにした。したがって、AKT生存促進キナーゼのリン酸化比もナイーブMSCで処置したIR心臓に対してPPARβ/δプライムドMSCで処置したIR心臓で増加した。
【0142】
再灌流は、両刃の剣と考えられたとしても、急性心筋梗塞患者に推奨される唯一の治療である(Braunwald, E. & Kloner, R. A. Myocardial reperfusion: a double-edged sword? J Clin Invest 76, 1713-1719, doi:10.1172/JCI112160 (1985))。虚血障害の解決における明らかな有益な効果であるにもかかわらず、責任動脈の血行再建は脅かされている心筋組織において酸素の突然の復帰をもたらす。致死的再灌流障害は、再灌流の開始時に起こる、アポトーシス死に至る、虚血期間の終了時に生存能力のある心臓細胞の死に相当する(Piper, H. M. & Garcia-Dorado, D. Prime causes of rapid cardiomyocyte death during reperfusion. Ann Thorac Surg 68, 1913-1919, doi:10.1016/s0003-4975(99)01025-5 (1999); Zhao, Z. Q. et al. Progressively developed myocardial apoptotic cell death during late phase of reperfusion. Apoptosis 6, 279-290 (2001))。細胞死、アポトーシス、壊死、ネクロトーシスおよびオートファジーの多くの調節された形態は、虚血再灌流障害中に心臓細胞で活性化され得る。アポトーシスおよび壊死は、主に重度の損傷の場合に誘発され、オートファジーは、障害がより中程度の場合に細胞生存を確保するのに寄与する(Galluzzi, L. et al. Molecular mechanisms of cell death: recommendations of the Nomenclature Committee on Cell Death 2018. Cell death and differentiation 25, 486-541, doi:10.1038/s41418-017-0012-4 (2018))。虚血イベント後の調節された細胞死経路を標的にすることは、再灌流障害を防止し、梗塞サイズを制限するための主な戦略として考えられる(Boisguerin, P. et al. A novel therapeutic peptide targeting myocardial reperfusion injury. Cardiovasc Res 116, 633-644, doi:10.1093/cvr/cvz145 (2020))。抗アポトーシス戦略によって、再灌流により誘発されるアポトーシス細胞死を特異的に阻害することが可能となり、マウス心臓で本発明者らのグループが最近証明したように、長期の心臓保護作用がもたらされる(Covinhes, A. et al. Anti-apoptotic peptide for long term cardioprotection in a mouse model of myocardial ischemia-reperfusion injury. Sci Rep 10, 18116, doi:10.1038/s41598-020-75154-x (2020))。本発明者らの研究で使用したエクス・ビボモデルは、開裂カスパーゼ3発現のウエスタンブロット分析によって証明されたように、強いアポトーシス促進ストレスを誘発する46.5%梗塞サイズ(LVの%として表される)を生成するように設計したものである(SHAM、n=6 対IR、n=10;p**=0.0047;データは示していない)。灌流した摘出心臓のこのエクス・ビボモデルにおいて再灌流時に投与されたMSCは、梗塞サイズの35%縮小をもたらした。イン・ビボデータで既に証明されている心臓保護のU字型曲線が観察され、臨床試験で報告されているように、MSCによって誘発される心臓保護が用量依存的であることが明確に示されている。実際、AMI患者では、最近の研究により、1週間以内に10個未満のMSC用量で投与した場合のみ左心室の収縮機能が向上したが、1週間後に10個を超える細胞を投与すると逆の効果があったことが示されている(Wang, Z. et al. Rational transplant timing and dose of mesenchymal stromal cells in patients with acute myocardial infarction: a meta-analysis of randomized controlled trials. Stem Cell Res Ther 8, 21, doi:10.1186/s13287-016-0450-9 (2017))。この研究と一致して、慢性進行性虚血性心不全の治療におけるMSCの心臓保護作用についてのU字型曲線が報告されており、最高用量の細胞では結果が劣ることを示している(Bartunek, J. et al. Congestive Heart Failure Cardiopoietic Regenerative Therapy (CHART-1) trial design. Eur J Heart Fail 18, 160-168, doi:10.1002/ejhf.434 (2016))。U字型曲線により、最大の心臓保護作用を提供する最適用量を特定することができた(60分間、5000c/mLで再灌流)。心臓あたりに投与された細胞の対応量は約7.5.10細胞であり、これは比較的低用量に相当する。より高用量のMSCを使用すると、心臓保護機能の喪失が生じた。これら結果は、ヒトではより高用量(10個を超える細胞)の投与後に悪影響が現れたという観察と一致している(Wang, Z. et al. Rational transplant timing and dose of mesenchymal stromal cells in patients with acute myocardial infarction: a meta-analysis of randomized controlled trials. Stem Cell Res Ther 8, 21, doi:10.1186/s13287-016-0450-9 (2017))。興味深いことに、PPARβ/δアゴニストでプライミングしたMSCによって、心臓へのMSCの注射用量を二分の一に減らすことができることも観察された。実際、本発明者らの研究では、3.10個のMSCの用量で注射したPPARβ/δプライムドMSCを使用してエクス・ビボで観察された心臓保護作用は、最適用量(6.10個のMSC)で投与したナイーブMSCで得られたものと同様であった。損傷した心筋に注射されたMSCについて既に報告されているように、エクス・ビボで証明されたMSCによって誘発される心臓保護は、左心室で測定された開裂カスパーゼ3の量の減少と関連していた(Ward, M. R., Abadeh, A. & Connelly, K. A. Concise Review: Rational Use of Mesenchymal Stem Cells in the Treatment of Ischemic Heart Disease. Stem Cells Transl Med 7, 543-550, doi:10.1002/sctm.17-0210 (2018))。PPARβ/δアゴニストでのMSCプライミングにより、ナイーブMSCを使用してエクス・ビボで心臓において証明された抗アポトーシス性が悪化した。この結果は、心筋細胞共培養物におけるH誘導性アポトーシスを阻害するプライムドMSCの有効性の増加を示すイン・ビトロ実験によってさらに確認された。移植時点においてMSCに及ぼす環境の影響を模倣した様々なプロトコールを使用して、PPARβ/δアゴニストによるプライミングによってMSCの治療特性が増加し得ることを証明した。プロトコール2および3では、プロトコール1と比べて、MSCとH9c2との共培養は、イン・ビボでは、MSCが、梗塞領域の部位での酸素を含む血液の存在下での再灌流期間中に送達されると仮定して、完全培地の存在下で実現された。しかしながら、2つのプロトコールでは、MSCはHの暴露を受けておらず、これは臨床的状況を表していない。したがって、補足プロトコールでプライムドMSCの心臓保護作用を調査することは興味深いことである。このプロトコールでは、H9c2は、ストレスを受けた心筋細胞とプライムドMSCの両方が存在する虚血心臓への酸素を含む血液の再流入を模倣するために完全培地に切り替えられる前の4時間、H誘発ストレスにまだ直面しているMSCと共培養される前に酸化的ストレスに暴露される。
【0143】
最近、マウス関節炎に焦点を当てたイン・ビボ概念実証研究において、本発明者らのグループは、PPARβ/δの発現レベルによりMSCの免疫調節能が予測され、その下方調節により治療上の抗炎症作用が高まることを実証した(Luz-Crawford P, Ipseiz N, Espinosa-Carrasco G, et al. PPARβ/δ directs the therapeutic potential of mesenchymal stem cells in arthritis Annals of the Rheumatic Diseases 2016;75:2166-2174)。本研究では、エクス・ビボ投与前のPPARβ/δ活性の下方調節により、IR損傷心臓におけるMSCの心臓保護作用が低下した。同様に、PPARβ/δアゴニスト(GW0742、1μM)でのMSCの前処理により、この心臓保護作用は増強された。実際、梗塞した心臓の再灌流中に2500細胞/mL(弱く有意でない有益な効果をもたらす)で投与されたMSCにおけるPPARβ/δ受容体を刺激することにより心臓保護特性が現れることを実証した。イン・ビトロでは、本明細書において、MSCにおいて、PPARβ/δでのプレコンディショニングがHストレスに供した場合にアポトーシスから保護する能力の増強と関連していることを初めて実証した。H9c2心筋芽細胞、内皮細胞、ニューロンまたはケラチノサイトを含むいくつかの分化した細胞型では、イン・ビトロ実験でPPARβ/δ刺激により抗アポトーシス効果がもたらされることが報告されているs(Liou, J. Y., et al. Protection of endothelial survival by peroxisome proliferator-activated receptor-delta mediated 14-3-3 upregulation. Arteriosclerosis, thrombosis, and vascular biology 26, 1481-1487, doi:10.1161/01.ATV.0000223875.14120.93 (2006); Pesant, M. et al. Peroxisome proliferator-activated receptor delta (PPARdelta) activation protects H9c2 cardiomyoblasts from oxidative stress-induced apoptosis. Cardiovasc Res 69, 440-449, doi:10.1016/j.cardiores.2005.10.019 (2006); Brunelli, L., et al. Peroxisome proliferator-activated receptor-delta upregulates 14-3-3 epsilon in human endothelial cells via CCAAT/enhancer binding protein-beta. Circ Res 100, e59-71, doi:10.1161/01.RES.0000260805.99076.22 (2007))。
【0144】
内皮細胞では、PPARβ/δの抗アポトーシス性は、アポトーシス促進因子Badに結合する内皮14-3-3の発現増加によって媒介され、その後、酸化的ストレスに対する保護の増大につながることが示されている(Liou, J. Y., et al. Protection of endothelial survival by peroxisome proliferator-activated receptor-delta mediated 14-3-3 upregulation. Arteriosclerosis, thrombosis, and vascular biology 26, 1481-1487, doi:10.1161/01.ATV.0000223875.14120.93 (2006); Brunelli, L., et al. Peroxisome proliferator-activated receptor-delta upregulates 14-3-3 epsilon in human endothelial cells via CCAAT/enhancer binding protein-beta. Circ Res 100, e59-71, doi:10.1161/01.RES.0000260805.99076.22 (2007))。
【0145】
AKT1経路などのPPARβ/δ受容体の活性化に続く他の抗アポトーシス機構も強調されている。実際、Di-Poiと共同研究者らは、ケラチノサイトでのPPARβ/δの活性化は、ilk(インテグリン結合キナーゼ)およびpdk1(3-ホスホイノシチド依存性キナーゼ-1)の転写を増加させることによってアポトーシスを防止することを示した(Di-Poi, N., et al. Antiapoptotic role of PPARbeta in keratinocytes via transcriptional control of the Akt1 signaling pathway. Mol Cell 10, 721-733, doi:10.1016/s1097-2765(02)00646-9 (2002))。Gamdzykのチームは、ニューロンのストレスの状況において、アゴニストGW0742によるPPARβ/δの活性化は、アポトーシス促進経路ASK1/p38 MAPKの活性化に関与するTXNIP(チオレドキシン相互作用タンパク質)を阻害することを示した(Gamdzyk, M. et al. Role of PPAR-β/δ/miR-17/TXNIP pathway in neuronal apoptosis after neonatal hypoxic-ischemic injury in rats. Neuropharmacology 140, 150-161, doi:10.1016/j.neuropharm.2018.08.003 (2018))。MSCに関しては、H誘発ストレスの存在下で観察されたアポトーシス率の低下は、MSCの治療特性の増強を説明するために主として重要である可能性がある。アポトーシスは、特に、IR障害後に損傷を受けた心臓などの損傷組織にMSCを移植する場合に、MSCの生存能力に影響を及ぼす細胞死のよく知られた機構である(Zhu, W et al. Hypoxia and serum deprivation-induced apoptosis in mesenchymal stem cells. Stem cells 24, 416-425, doi:10.1634/stemcells.2005-0121 (2006))。移植後にMSCのアポトーシスを阻害し、MSCのヒートショック治療 (Gao, F. et al. Heat shock protein 90 protects rat mesenchymal stem cells against hypoxia and serum deprivation-induced apoptosis via the PI3K/Akt and ERK1/2 pathways. J Zhejiang Univ Sci B 11, 608-617, doi:10.1631/jzus.B1001007 (2010))または低酸素調節性ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)ベクター修飾 (Tang, Y. L. et al. Improved graft mesenchymal stem cell survival in ischemic heart with a hypoxia-regulated heme oxygenase-1 vector. Journal of the American College of Cardiology 46, 1339-1350, doi:10.1016/j.jacc.2005.05.079 (2005))などの低酸素・再酸素化障害をMSCが生き残るよう助けるためのいくつかの戦略が開発された。MSCの治療効果に悪影響を及ぼす要因の中で、細胞移植後の生存率の低下は非常に重要である。したがって、IR障害に対するMSCの治療効果を向上させることを目的として、酸化的ストレスに対するMSCの耐性を高める必要がある(Li, L., Chen, X., Wang, W. E. & Zeng, C. How to Improve the Survival of Transplanted Mesenchymal Stem Cell in Ischemic Heart? Stem Cells Int 2016, 9682757, doi:10.1155/2016/9682757 (2016))。本発明者らの研究は、PPARβ/δアゴニストによるプライミングにより、イン・ビトロでH誘発酸化的ストレスに対するMSCの耐性を増加させることができることを証明した。さらに、RT-qPCR実験では、PPARβ/δによるプライミングでのH誘発ストレスに対するMSCの耐性の増加は、抗アポトーシスbcl2遺伝子転写物の量の増加と関連し、アポトーシス率の低下を裏付けていることを示した。
【0146】
さらに、vegf(血管内皮増殖因子)遺伝子の上方調節が観察された。VEGFは、Nrf2活性化の下流の血管新生促進プログラムを活性化し、抗アポトーシス効果を提供することが報告されている。さらに、MSCによって分泌されるVEGFは、同じくMSCによって放出されるHGFと相乗作用して、内皮バリア機能を保護し得る(Yang, Y. et al. Synergism of MSC-secreted HGF and VEGF in stabilising endothelial barrier function upon lipopolysaccharide stimulation via the Rac1 pathway. Stem Cell Res Ther 6, 250, doi:10.1186/s13287-015-0257-0 (2015))。
【0147】
本発明者らの研究では、vegfは、PPARβ/δアゴニストプライムドMSCにおけるMSCのH曝露で増加し、vegfがPPARβ/δの抗アポトーシス効果と関与していることが示唆され、同じ発現プロファイルがHGFでも観察された。HGFおよびVEGFパラクリン因子は両方とも抗アポトーシス性を示す(Kinnaird, T. et al. Marrow-derived stromal cells express genes encoding a broad spectrum of arteriogenic cytokines and promote in vitro and in vivo arteriogenesis through paracrine mechanisms. Circ Res 94, 678-685, doi:10.1161/01.RES.0000118601.37875.AC (2004); Xu M, Uemura R, Dai Y, Wang Y, Pasha Z and Ashraf M. In vitro and in vivo effects of bone marrow stem cells on cardiac structure and function. J Mol Cell Cardiol. 2007;42:441-8)。実際、VEGFは、骨髄由来のMSCによって分泌され、損傷した心筋細胞において、miRNA-23aおよびmiRNA-92の下方調節を介して抗アポトーシス効果をもたらすことが報告されている (Song, Y. S. et al. Bone marrow mesenchymal stem cell-derived vascular endothelial growth factor attenuates cardiac apoptosis via regulation of cardiac miRNA-23a and miRNA-92a in a rat model of myocardial infarction. PLoS One 12, e0179972, doi:10.1371/journal.pone.0179972 (2017)。
【0148】
HGFは、特に、Aktのような生存経路の活性化によって、酸化的ストレス誘導性アポトーシスから心臓細胞を保護すると報告されている(Wang, Y., Ahmad, N., Wani, M. A. & Ashraf, M. Hepatocyte growth factor prevents ventricular remodeling and dysfunction in mice via Akt pathway and angiogenesis. J Mol Cell Cardiol 37, 1041-1052, doi:10.1016/j.yjmcc.2004.09.004 (2004))。低酸素プレコンディショニングでは、低酸素・再酸素化ストレスに対するMSCの耐性は増大し、bcl-2およびvegf発現の上方調節と関連し、ERKおよびAktを促進した(Wang, J. A. et al. Hypoxic preconditioning attenuates hypoxia/reoxygenation-induced apoptosis in mesenchymal stem cells. Acta Pharmacol Sin 29, 74-82, doi:10.1111/j.1745-7254.2008.00716.x (2008))。
【0149】
最後に、H誘発ストレスに暴露されたMSCで観察されたpdgfの発現レベルの有意な低下は、MSCをPPARβ/δで前処理することにより大幅に抑制されるが、PPARβ/δアンタゴニストでの前処理後に上昇する傾向があることを観察した。これは、いくつかの細胞型をアポトーシスから保護し、肥大成長を誘導すると報告されている、十分に裏付けされたPDGFの役割と一致している(Vantler, M. et al. PDGF-BB protects cardiomyocytes from apoptosis and improves contractile function of engineered heart tissue. J Mol Cell Cardiol 48, 1316-1323, doi:10.1016/j.yjmcc.2010.03.008 (2010))。心筋細胞の生存と機能に関しては、PDGFが、心筋細胞の生存、α-サルコメアのアクチニン含量および収縮性能を改善することが示された(Vantler, M. et al. PDGF-BB protects cardiomyocytes from apoptosis and improves contractile function of engineered heart tissue. J Mol Cell Cardiol 48, 1316-1323, doi:10.1016/j.yjmcc.2010.03.008 (2010))。したがって、PPARβ/δアゴニストでプライミングしたMSCの抗アポトーシス効果の増強は、部分的には、vegf、hgfおよびpdgfの発現レベルの増加の組合せによって媒介される可能性がある。この仮説は機能の損益実験で調査する必要がある。
【0150】
結論として、本発明者らの研究は、増強されたMSCに基づく細胞産物が、強力な抗アポトーシス効果と、再灌流開始から1時間後に損傷した心筋で生存するMSC数の増加により、IR障害からの心臓保護を誘導するという証拠を提供する。
【0151】
これらの結果は、AMI患者における損傷した心筋の心臓保護のためにMSCの有効性を改善する臨床状況で非常に興味深いものになる可能性がある。
【0152】
実施例3:PPARβ/δアゴニストでのMSCの前処理の継続時間の効果
材料および方法
イン・ビトロ:
間葉系幹細胞の培養
C57BL/6からの骨髄由来のMSCを、これまでに記載されているように単離した(Bouffi C, Bony C, Courties G, Jorgensen C, Noel D. IL-6-dependent PGE2 secretion by mesenchymal stem cells inhibits local inflammation in experimental arthritis. PLoS One. 2010 Dec 7;5(12):e14247)。簡潔には、長骨から骨髄を洗い流し、細胞懸濁液(0.5×10細胞/cm)を、10%ウシ胎仔血清(FBS)、2mM グルタミン、100U/mL ペニシリン、100mg/mL ストレプトマイシンおよび2ng/ml ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加した最少必須培地(MEM)-αにプレーティングした。サブコンフルエンス状態で、細胞を収集し、5,000細胞/cmの密度に増殖させ、第7代継代から使用した。
【0153】
薬理学的プレコンディショニング:
エクス・ビボ実験の24時間または96時間前に、培地で希釈したPPARβ/δアゴニストを含有する処理溶液(GW0742、1μMおよびG501516、0.1μM)とともにMSCをインキュベートした。処理は24時間または96時間続いた。このプレコンディショニング段階の後、細胞をPBSで2回すすぎ洗いし、トリプシンEDTA(Invitrogen)で、37℃で1分間トリプシン処理した(5%CO。細胞を200gで3分遠心分離した後、予熱したタイロード液に終濃度5000細胞/mlで再懸濁した。
【0154】
エクス・ビボ評価:
プレコンディショニング済みのMSCの心臓保護作用を、心筋虚血・再灌流のエクス・ビボモデルにおいて評価した。急性心筋虚血・再灌流は、30分の虚血(無流)、それに続いて、再灌流に供したC57Bl6マウスから摘出した灌流心臓で実行した。雄マウスを、ケタミン(14mg/kg、Imalgene(登録商標);Merial)、キシラジン(14mg/kg、Rompun(登録商標);Bayer)の腹腔内注射(IP)、その後のペントバルビタール(IP;76.6mg/kg;Sanofi-Aventis)の注射によって麻酔した。麻酔したマウスには、血栓形成を防ぐために、250U ヘパリン(IP)を投与した。胸骨切開後、心臓を切除し、上行大動脈にカニューレを挿入し、迅速にランゲンドルフシステムに取り付けた。予熱したタイロード液(NaCl 140mM、KCl 5.4mM、MgCl 1mM、Hepes 5mM、グルコース 5.5mM、CaCl2 1.8mM、pH7.4)を一定の圧力および温度(37℃)で灌流した。
【0155】
虚血・再灌流プロトコール(IR)
ランゲンドルフシステムで、心臓に予熱したタイロード液を15分間灌流した(安定化)。全体虚血は、灌流の流れを30分間止めることによって得た(《無流》)。再灌流工程(60分)は、流れを回復することによって達成した。MSCによる処置は、再灌流の間適用した(タイロード液中のMSC;5,000細胞/ml)。対照条件(IR)は、タイロード液単独を使用して得た。
【0156】
梗塞サイズの測定:
IRプロトコールの最後に、心臓をランゲンドルフから外し、摘出した。左心室を寒天(4%)に入れ、ビブラトームで横方向にスライスした(1mm)。組織の生存能力を明らかにするために、スライスを2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロリド溶液(TTC色素)とともに37℃で15分間インキュベートした。固定工程(4%パラホルムアルデヒド、48時間)後、各スライスの各面を撮影した。梗塞領域は、ImageJソフトウェアを用いた面積測定により定量し、左心室質量のパーセンテージとして表した。
【0157】
結果:
図10は、5,000細胞/ml(合計4.10細胞/心臓)を含有するタイロード液による再灌流により、対照条件(タイロード液による灌流、IR)と比較して梗塞サイズを39,8%縮小させることができたことを示している。
【0158】
ランゲンドルフシステムにおいて4.10細胞/心臓の量で灌流した場合、4日のGW501516(0.1μM)によるMSCのプレコンディショニングにより、対照条件(タイロード液単独による再灌流、IR)と比較して梗塞サイズを54.5%縮小させることができた。
【0159】
GW501516での前処理を24時間だけ適用した場合、MSC(4.10細胞/心臓)により、梗塞サイズを同程度に縮小させることができ、GW501516で1日間(n=7)での平均値は37.4(LV質量の%)であったのに対し、GW501516で4日間(n=8)での平均値は36.05%となり、それぞれ、梗塞サイズは52.8%および54.5%縮小した。
【0160】
別のPPAR β/δアゴニストであるGWO742を使用しても同様の結果が得られた。実際、MSCをGWO742(1μM)で24時間プレコンディショニングした場合、梗塞サイズは未処理の条件(IR)と比較して54.6%縮小した。
【0161】
結論:
上記のデータは、MSCをGW501516で24時間前処理することにより、96時間の前処理で得られるものと同じ心臓保護をもたらす薬理学的刺激が提供されることを示している。
【0162】
したがって、心筋虚血再灌流障害後のMSCの心臓保護作用を有意に改善するには、PPARβ/δアゴニストによるMSCの短時間の前処理で十分である。
【0163】
それにもかかわらず、本発明者らの24時間のプロトコールは、WO2015164506(実施例6)の96時間のプロトコールよりも優れており、2つの主な利点を有する:-前処理の継続時間は4分の1に短縮される(4日に対して1日)、
-細胞用量は1000~100 000分の1である(WO2015164506の実施例6に記載されているように、5~600×10細胞/mlに対して5,000細胞/ml)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】