(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-25
(54)【発明の名称】標的治療のための前駆体タンパク質及びキット
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20231218BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20231218BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20231218BHJP
A61K 38/43 20060101ALI20231218BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20231218BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231218BHJP
C07K 14/52 20060101ALN20231218BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K16/00
A61K47/64
A61K38/43
A61K38/19
A61P35/00
C07K14/52
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536851
(86)(22)【出願日】2021-12-16
(85)【翻訳文提出日】2023-06-26
(86)【国際出願番号】 EP2021086151
(87)【国際公開番号】W WO2022129313
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ブリンクマン ウルリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】ブヨツェク アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ブルドゥン カン
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジュ ガイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084DA01
4C084DC01
4C084NA13
4C084ZB26
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA01
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、不活性化された受容体リガンド又は酵素を含む前駆体タンパク質のセット、及び治療におけるそれらの使用方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセットであって、
各前駆体タンパク質が、二量体化ドメインを介して互いに会合した2つのポリペプチドを含み、
前記前駆体タンパク質の少なくとも1つが、受容体リガンド及び酵素から選択される部分を含み、前記部分が、機能的に不活性であり、前記部分が前記二量体化ドメインに融合され、
前記第1の前駆体タンパク質と前記第2の前駆体タンパク質との間のポリペプチド鎖交換時に、活性化タンパク質が形成され、
前記活性化タンパク質が、前記第1の前駆体タンパク質由来の1つのポリペプチド及び前記第2の前駆体タンパク質由来の1つのポリペプチドを含み、両方のポリペプチドがそれらの二量体化ドメインを介して互いに会合しており、かつ、前記活性化タンパク質が前記部分を含み、
前記活性化タンパク質が前記部分を機能的に活性な形態で含むこと、を特徴とする、
前記第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【請求項2】
前記第1の前駆体タンパク質又は前記第2の前駆体タンパク質のいずれかが、受容体リガンド及び酵素から選択される前記部分を含み、前記部分が不活性化部分に結合している、請求項1に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【請求項3】
前記部分が、受容体リガンドであり、前記不活性化部分が、対応する受容体又はそのリガンド結合サブユニットである、請求項2に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【請求項4】
前記第1の前駆体タンパク質及び前記第2の前駆体タンパク質が、受容体リガンド及び酵素から選択される前記部分の相補的サブユニットを含む、請求項1に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【請求項5】
前記第1の前駆体タンパク質が、前記部分の第1の非改変サブユニット及び前記部分の第2のサブユニットを含み、前記第2のサブユニットが不活性化変異を含み;前記第2の前駆体タンパク質が、前記部分の第2の非改変サブユニットを含む、請求項4に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【請求項6】
前記部分が受容体リガンドである、請求項5に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【請求項7】
前記受容体リガンドがサイトカインであり、前記第1の前駆体タンパク質が、前記サイトカインの第1のサブユニット及び前記サイトカインの第2のサブユニットを含み、前記第2のサブユニットが不活性化変異を含み;前記第2の前駆体タンパク質が、前記サイトカインの第2の非改変サブユニットを含む、請求項6に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【請求項8】
前記第1の前駆体タンパク質及び前記第2の前駆体タンパク質が、受容体リガンド及び酵素から選択される人工的に分割された部分の相補部分を含み、前記相補部分の1つが不活性化されている、請求項1に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【請求項9】
前記部分が受容体リガンドである、請求項8に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【請求項10】
前記受容体リガンドが、サイトカイン又は酵素である、請求項9に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【請求項11】
前記二量体化ドメインがCH3ドメインである、前記請求項のいずれか一項に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【請求項12】
前記第1の前駆体タンパク質と前記第2の前駆体タンパク質との間のポリペプチド鎖交換を支持するために、前記CH3ドメインが、改変された界面を有する、請求項11に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【請求項13】
前記前駆体タンパク質が、細胞の表面に結合したときにポリペプチド鎖交換を受けることができる、前記請求項のいずれか一項に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【請求項14】
前記請求項のいずれか一項において定義される第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とを含む、治療キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、不活性化された受容体リガンド又は酵素を含む前駆体タンパク質のセット、及び治療におけるそれらの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
抗原結合部位の標的化活性化のための方法及びポリペプチドは、以前に報告されている。国際公開第2019/086362号(特許文献1)及びPCT/EP2020/061413(特許文献2)は、ポリペプチド鎖交換による2つの前駆体タンパク質からの抗CD3抗体結合部位の形成を報告している。不安定化CH3界面及び所望の抗CD3抗体の可変ドメインの1つを含む2つの前駆体タンパク質は、ポリペプチド鎖交換を受け、それによって所望の抗CD3抗体を含むタンパク質へとアセンブリすると記載されている。
【0003】
サイトカインは、白血球の生存、増殖、分化及びエフェクター機能を調節することによって免疫応答を調整するタンパク質である(Dinarello CA,Eur J Immunol.2007;37(Suppl 1):S34-S45(非特許文献1))。サイトカインは、構造的類似性に従ってファミリー及びサブファミリーに分類することができる。4αヘリックスバンドルファミリーには、とりわけ、インターロイキン(IL)-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-9、IL-11、IL-13、IL-15、白血病抑制因子(LIF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、カーディオトロフィン-1(CT-1)、オンコスタチンM(OSM)及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)が含まれる(Nicola NA and Hilton DJ,Adv.Protein Chem.1998;52:1-65(非特許文献2))。IL-12ファミリーは、ヘテロ二量体サイトカイン、例えばIL-12、IL-23、IL-27及びIL-35を含み、そのうちのそれぞれのサイトカインのα鎖は4αヘリックスバンドルファミリーに属する(Vignali DAA and Kuchroo VJ,Nat Immunol.2012 Aug;13(8):722-728(非特許文献3))。IL-17のホモログは、IL-17ファミリーにおいて要約されている(McGeachy MJ et al.,Immunity.2019;50(4):892-906(非特許文献4))。IL-1ファミリーは、IL-1及びIL-18からなる。システインノットファミリーは、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF-β)サイトカインを含む(Sun PD and Davies DR,Annu Rev Biophys Biomol Struct.1995;24:269-291(非特許文献5))。
【0004】
今日まで、サイトカインは、自己免疫、ウイルス感染及び癌を含む様々な症状の処置に応用されている(Lipiainen T et al.,J Pharm Sci.2015 Feb;104(2):307-26(非特許文献6))。インターロイキン(IL)-2、IL-12、IL-15、IL-21、及びIFN-αなどのI型インターフェロン(IFN)を含む広範囲のサイトカインが、癌の処置について評価されている(Ardolino M,Hsu J,Raulet DH,Oncotarget 2015 6:19346-19347(非特許文献7))。さらに、いくつかのサイトカイン産物が臨床使用のために承認されている(Lipiainen T et al.,J Pharm Sci.2015 Feb;104(2):307-26(非特許文献6))。
【0005】
しかしながら、サイトカインを単独で治療薬として使用することは、しばしば重大な欠点を伴う。腫瘍組織において有効な濃度を達成するためには、大量のサイトカイン量を投与する必要があり、その結果、発熱、低血圧、疲労、悪心、食欲不振、又は好中球減少症を含む重篤な有害作用を引き起こす可能性がある。
【0006】
サイトカインは癌治療に使用されている(Waldmann TA,Cold Spring Harb Perspect Biol.2018 Dec 3;10(12)(非特許文献8))。全身分布のこの問題は、サイトカインを腫瘍標的化抗体又は抗体様分子に融合し、腫瘍部位での治療薬の優先的な蓄積を可能にすることによって対処することができる。様々な抗体-サイトカイン融合物は、標的化癌免疫療法の有望な結果を示している(Kiefer JD,Neri D,Immunol Rev.2016;270(1):178-192(非特許文献9))。サイトカインの抗原標的化送達は全身のサイトカイン負荷を減少させることができるが、抗原特異性は依然として課題である。多くの腫瘍抗原は単に過剰発現されるにすぎず、腫瘍細胞上に排他的に発現されるわけではない(Vigneron N,Biomed Res Int.2015;2015:948501(非特許文献10))。オンターゲットオフ腫瘍標的化は、健康な組織の重度の損傷を引き起こす可能性がある。
【0007】
したがって、サイトカインベースの癌治療のための代替アプローチが依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2019/086362号
【特許文献2】PCT/EP2020/061413
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Dinarello CA,Eur J Immunol.2007;37(Suppl 1):S34-S45
【非特許文献2】Nicola NA and Hilton DJ,Adv.Protein Chem.1998;52:1-65
【非特許文献3】Vignali DAA and Kuchroo VJ,Nat Immunol.2012 Aug;13(8):722-728
【非特許文献4】McGeachy MJ et al.,Immunity.2019;50(4):892-906
【非特許文献5】Sun PD and Davies DR,Annu Rev Biophys Biomol Struct.1995;24:269-291
【非特許文献6】Lipiainen T et al.,J Pharm Sci.2015 Feb;104(2):307-26
【非特許文献7】Ardolino M,Hsu J,Raulet DH,Oncotarget 2015 6:19346-19347
【非特許文献8】Waldmann TA,Cold Spring Harb Perspect Biol.2018 Dec 3;10(12)
【非特許文献9】Kiefer JD,Neri D,Immunol Rev.2016;270(1):178-192
【非特許文献10】Vigneron N,Biomed Res Int.2015;2015:948501
【発明の概要】
【0010】
本発明は、第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセットに関するものであり、各前駆体タンパク質が二量体化ドメインを介して互いに会合した2つのポリペプチドを含み、前駆体タンパク質の少なくとも1つが受容体リガンド及び酵素から選択される部分を含み、前記部分が機能的に不活性であり、前記部分が二量体化ドメインに融合し、第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質と間のポリペプチド鎖交換時に、活性化タンパク質が形成され、活性化タンパク質が第1の前駆体タンパク質由来の1つのポリペプチドと第2の前駆体タンパク質由来の1つのポリペプチドとを含み、両方のポリペプチドがそれらの二量体化ドメインを介して互いに会合し、かつ、活性化タンパク質が前記部分を含み、活性化タンパク質が機能的に活性な形態で前記部分を含むこと、を特徴とする。
【0011】
一実施形態では、第1の前駆体タンパク質又は第2の前駆体タンパク質のいずれかは、受容体リガンド及び酵素から選択される部分を含み、該部分は不活性化部分に結合している。ポリペプチド鎖交換時に、不活性化部分が除去され、その部分は機能的に活性な形態になる。
【0012】
別の実施形態では、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、受容体リガンド及び酵素から選択される部分の相補的サブユニットを含む。ポリペプチド鎖交換時に、得られた活性化タンパク質は、機能的に活性な形態の部分を含む、すなわち、両方の相補的サブユニットを含む。
【0013】
さらに別の実施形態では、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、受容体リガンド及び酵素から選択される人工的に分割された部分の相補部分を含み、相補部分の1つは不活性化されている。ポリペプチド鎖交換時に、得られた活性化タンパク質は、人工的に分割された部分の両方の部分を含み、それらは不活性化されておらず、それにより、機能的に活性な形態の部分を含む。
【0014】
一実施形態では、二量体化ドメインはCH3ドメインである。一実施形態では、第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質との間のポリペプチド鎖交換を支持するために、CH3ドメインは、改変された界面を有する。
【0015】
一実施形態では、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、標的細胞の抗原に特異的に結合する。一実施形態では、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、標的細胞の表面の抗原に特異的に結合する抗体断片を含む。
【0016】
一実施形態では、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質はヒンジ領域を含む。一実施形態において、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、ヒンジ領域に鎖間ジスルフィド結合を含まない。
【0017】
一実施形態では、活性化タンパク質は、抗原に特異的に結合するVHドメイン及びVLドメインの対を含み、VHドメインは第1の前駆体タンパク質由来のポリペプチドに含まれ、VLドメインは第2の前駆体タンパク質由来のポリペプチドに含まれるか;又は、活性化タンパク質は、抗原に特異的に結合するVHドメイン及びVLドメインの対を含み、VLドメインは第1の前駆体タンパク質由来のポリペプチドに含まれ、VHドメインは第2の前駆体タンパク質由来のポリペプチドに含まれる。
【0018】
本発明の別の態様は、治療のための本発明のセットである。
【0019】
本発明の別の態様は、受容体リガンド及び酵素から選択される前記部分の活性化形態を生成するための本発明の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセットの使用である。
【0020】
本発明の別の態様は、本発明の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とを含む、治療キットである。
【0021】
本発明の別の態様は、本発明の治療キットを提供する方法であって、組換え発現された第1の前駆体タンパク質及び組換え発現された第2の前駆体タンパク質を提供する工程と、第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とを、任意に、薬学的に許容され得る担体と共に製剤化して、治療キットを提供する工程とを含む方法である。
【0022】
本発明の別の態様は、受容体リガンドから選択される部分の機能的に活性な形態と、本発明の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質との間のポリペプチド鎖交換によって産生される酵素とを含むタンパク質(活性化タンパク質)である。
【0023】
本発明の別の態様は、受容体リガンド及び酵素から選択される部分の機能的に活性な形態を含む活性化タンパク質を提供する方法であって、前駆体ポリペプチドがポリペプチド鎖交換を受けて活性化タンパク質を形成するように、本発明の第1の前駆体ポリペプチドと第2の前駆体ポリペプチドとを組み合わせる工程を含む方法である。
【0024】
本発明によれば、機能的に活性な受容体リガンド又は酵素は、ポリペプチド鎖交換によって2つの前駆体ポリペプチドから形成される。ポリペプチド鎖交換は、適切な条件下で2つの前駆体タンパク質を合わせた際に、例えば、標的細胞の表面に結合している場合のように両方の前駆体タンパク質が近接している場合に起こる。本発明は、目的の部位での治療的に所望の機能的部分の標的化された活性化を可能にし、それにより、治療、例えばオフターゲット毒性の低減に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1A:実施例で例示的に使用される前駆体ポリペプチド(R1、R2)の抗体コアのドメイン配置。ポリペプチド鎖交換は、産物ポリペプチド(P1及びP2)の形成をもたらす。
図1B:人工的に分割されたIL-4を含む実施例1に記載の前駆体ポリペプチドのドメイン配置。前駆体タンパク質(R1、R2)間のポリペプチド鎖交換は、活性化産物タンパク質P1及び不活性産物タンパク質P2の形成をもたらす。
【
図2】
図2A:インターロイキン-4(タンパク質データバンク2B8U)のスプリット設計。IL-4の3+1スプリット。1つの部分はインターロイキン-4のN末端ヘリックスからなり(明るい灰色)、他の部分は残りのタンパク質からなる(暗い灰色)。
図2B:インターロイキン-4(タンパク質データバンク2B8U)のスプリット設計。IL-4の2+2スプリット。インターロイキン-4 DABCを生成する環状置換。1つの部分はインターロイキン-4 DABCの2つのN末端ヘリックスからなり(明るい灰色)、他の部分は残りのタンパク質からなる(暗い灰色)。
【
図3】
図3A:実施例1による人工的に分割されたIL-4及び活性産物(P1)タンパク質を含む精製前駆体タンパク質(R1、R2)のSDS-PAGE分析。タンパク質調製を、細胞培養上清からのKappa Select抽出、続いてイオン交換クロマトグラフィーによって行った。
図3B:実施例1に記載の精製分子R2の例示的なSECプロファイル。プロファイルの主ピークは、目的のタンパク質を表す。
【
図4】
図4A:TF-1細胞を用いたIL-4活性測定。TF-1増殖アッセイによってIL-4シグナル伝達機能性を検出する原理。IL-4は、TF-1細胞上のIL-4受容体に結合し、増殖を誘導する。
図4B:TF-1細胞上の抗原発現(Her2、CD38、LeY、CD33)のフローサイトメトリー分析。
図4C:IL-4及びIL-4のDABC活性を比較するために、構築物をTF-1増殖アッセイで試験した。
図4D:
図4Bに示される分子を用いたTF-1増殖アッセイ。IL-4 DABCはIL-4と同様の活性を示す。
【
図5】
図5A:E9Q及びR88Q変異を有する3+1スプリットIL-4前駆体タンパク質を用いたTF-1細胞増殖アッセイ。TF-1細胞上で発現されるCD38を標的とする分子。
図5B:E9Q及びR88Q変異を有する3+1スプリットIL-4前駆体タンパク質を用いたTF-1細胞増殖アッセイ。TF-1細胞上に発現されないHer2を標的とする分子。
図5C:E9Q及びR88Q変異を有する3+1スプリットIL-4前駆体タンパク質を用いたTF-1細胞増殖アッセイ。標的化ポリペプチド鎖交換と非標的化ポリペプチド鎖交換の比較。
【
図6】スプリットIL-4前駆体タンパク質及びCD38を標的とする産物分子を用いたTF-1細胞増殖アッセイ。
【
図7】異なる変異を有する100nMの3+1スプリットIL-4反応物分子を用いたTF-1細胞増殖アッセイ。
【
図8】
図8A:T6D E9A及びR81E R88Q変異を有する2+2スプリットIL-4前駆体タンパク質を用いたTF-1細胞増殖アッセイ。TF-1細胞上で発現されるCD38を標的とする分子。
図8B:T6D E9A及びR81E R88Q変異を有する2+2スプリットIL-4前駆体タンパク質を用いたTF-1細胞増殖アッセイ。TF-1細胞上に発現されないHer2を標的とする分子。
図8C:T6D E9A及びR81E R88Q変異を有する2+2スプリットIL-4前駆体タンパク質を用いたTF-1細胞増殖アッセイ。標的化ポリペプチド鎖交換と非標的化ポリペプチド鎖交換の直接比較。
【
図9】
図9A:表面プラズモン共鳴(SPR)。IL-4含有分子とIL-4受容体アルファとの相互作用を研究するためのSPR設定。
図9B:表面プラズモン共鳴(SPR)。SPRによって試験した分子の数値結果。
図9C:表面プラズモン共鳴(SPR)。SPRによって試験した分子のグラフ結果。
【
図10】
図10A:インターロイキン-2を含む実施例2で使用される前駆体ポリペプチドの設計及びモジュール組成。
図10B:
図10Aに示される方法における反応物質R1として適した3つの異なる前駆体タンパク質。IL-2vは、インターロイキン-2受容体アルファへの結合の減少のために設計されたIL-2バリアントを指す。γcは、共通のガンマ鎖の細胞外ドメインを指す。IL-2Rβは、インターロイキン-2受容体ベータの細胞外ドメインを指す。
【
図11】精製された前駆体タンパク質R2、活性産物(P1)及び3つの異なる前駆体タンパク質R1のSDS-PAGE分析。タンパク質調製を、細胞培養上清からのKappa Select抽出、続いてイオン交換クロマトグラフィーによって行った。
【
図12】
図12A:CTLL-2細胞を用いたIL-2v活性測定。CTLL-2増殖アッセイによってIL-2vシグナル伝達機能性を検出する原理。IL-2vは、CTLL-2細胞上のIL-2受容体(IL-2Rβ及びγcからなる)に結合し、増殖を誘導する。
図12B:CTLL-2細胞を用いたIL-2v活性測定。実施例2に記載のCTLL-2増殖アッセイ。
【
図13】
図13A:インターロイキン-12を含む実施例2で使用される前駆体ポリペプチドの設計及びモジュール組成。このアプローチは、IL-12のp35サブユニット及びp40サブユニットを利用する。P35i及びp40iは、p35及びp40の不活性化バージョンを指す。ここで、前駆体タンパク質R2は、IL-12 p40サブユニットのみを担持し、隣接するIL-12 p35サブユニットを担持しない。
図13B:インターロイキン-12を含む実施例2で使用される前駆体ポリペプチドの設計及びモジュール組成。ここで、前駆体タンパク質R2は、IL-12 p40サブユニット(IL-12 p40)並びに不活性化IL-12 p35サブユニット(IL-12 p35i)を担持する。
【
図14】IL-12のいくつかのサブユニットを含む精製産物P1及び反応物R1分子のSDS-PAGE分析。タンパク質調製を、細胞培養上清からのKappa Select抽出、続いてイオン交換クロマトグラフィーによって行った。P1 SDS-PAGEについて、全てのポリペプチド鎖が調製物中に存在することが示された。R1について、2つの重鎖は類似の分子量を有し、したがって2つのバンドは重なっていた。しかしながら、両方のタイプの重鎖の存在は、質量分析によって確認された。
【
図15】HEK-Blue IL-12レポーター細胞を使用した、
図13Aに示される分子のIL-12活性測定。
【
図16】NanoBiT(登録商標)スプリットルシフェラーゼ酵素を含む実施例9で使用される前駆体ポリペプチドの設計及びモジュール組成。
【
図17】CD38を発現するTF-1細胞の存在下又は非存在下における、CD38を標的とする50nMでのスプリットルシフェラーゼ前駆体ポリペプチドR1及びR2並びにそれらの組み合わせの発光読み出し(実施例10)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明の詳細な説明
1.定義
本明細書で特に定義されていない限り、本発明に関連して使用される科学的及び技術的な用語は、当技術分野の当業者に一般的に理解される意味を有するものとする。さらに、文脈上特に必要とされない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。本開示の方法及び技術は、一般的に、当技術分野で周知の従来の方法に従って行われる。一般的に、本明細書中に記載されている生化学、酵素学、分子生物学、及び細胞生物学、微生物学、遺伝学、及びタンパク質及び核酸の化学、並びにハイブリダイゼーションに関連して使用される命名法並びに技術は、当技術分野でよく知られ、一般的に使用されているものである。
【0027】
用語「a」、「an」、及び「the」は、一般的には、文脈が別途明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。
【0028】
本明細書で特に定義されていない限り、「含む(comprising of)」という用語は、「からなる(consisting of)」という用語を含むものとする。
【0029】
「・・・又はのいずれか(either … or)」という用語を使用する2つの代替物の提供は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、相互に排他的な代替物を示す。
【0030】
本明細書で使用される「抗原結合領域」という用語は、標的抗原に特異的に結合する部分を指す。この用語は、抗体並びに、標的抗原に特異的に結合することができる他の天然分子(例えば、受容体、リガンド)又は合成分子(例えば、DARPins)を含む。
【0031】
「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、それらが所望の抗原結合活性を呈する限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)及び抗体断片を含むがこれらに限定されない、種々の抗体構造を包含する。
【0032】
本明細書で使用される「結合部位」又は「抗原結合部位」という用語は、抗原が実際に結合する抗原結合領域の1つ以上の領域を表す。抗原結合領域が抗体である場合、抗原結合部位は、抗体重鎖可変ドメイン(VH)及び/又は抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、又はVH/VLの対を含む。標的抗原に特異的に結合する抗体由来の抗原結合部位は、a)抗原に特異的に結合する公知の抗体、又はb)とりわけ抗原タンパク質若しくは核酸若しくはその断片を使用するデノボ免疫化法か、又はファージディスプレイ法によって得られた新しい抗体若しくは抗体断片に由来するものであってよい。
【0033】
抗体に由来する場合、本発明による抗体の抗原結合部位は、抗原に対する結合部位の親和性に様々な程度で寄与する6つの相補性決定領域(CDR)を含むことができる。3つの重鎖可変ドメインCDR(CDRH1、CDRH2、及びCDRH3)及び3つの軽鎖可変ドメインCDR(CDRL1、CDRL2、及びCDRL3)がある。CDR及びフレームワーク領域(FR)の範囲は、アミノ酸配列のコンパイルされたデータベースと比較することによって決定され、それらの領域は、配列間の変動に従って定義される。より少ないCDR(すなわち、結合特異性が3つ、4つ又は5つのCDRによって決定される)により構成される機能的抗原結合部位も本発明の範囲内に含まれる。例えば、6つのCDRの完全なセット未満でも結合に十分であり得る。
【0034】
「価数」という用語は、本明細書で使用される場合、抗体分子内の特定数の抗原結合部位の存在を示す。天然抗体は、例えば、2つの結合部位を有し、二価である。したがって、「三価」という用語は、抗体分子中に3つの結合部位が存在することを示す。
【0035】
「抗体断片」とは、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部を含む、インタクトな抗体以外の分子である。抗体断片の例には、Fv、Fab、Fab、Fab-SH、F(ab)2;ダイアボディ;線形抗体;一本鎖抗体分子(例えばscFv、scFab);及び抗体断片から形成された多重特異性抗体が含まれるが、これらに限られない。
【0036】
「特異性」は、抗原結合領域、例えば抗体による抗原の特定のエピトープの選択的認識を指す。例えば、天然抗体は単一特異性である。本明細書で使用される、「単一特異性抗体」という用語は、同一の抗原の同一のエピトープにそれぞれ結合する1つ以上の結合部位を有する抗体を示す。「多重特異性抗体」は、2つ以上の異なるエピトープ(例えば、2つ、3つ、4つ、又はそれ以上の異なるエピトープ)に結合する。エピトープは、同一又は異なる抗原上にあり得る。多重特異性抗体の例は、2つの異なるエピトープに結合する「二重特異性抗体」である。抗体が2つ以上の特異性を有する場合、認識されたエピトープは、単一の抗原又は2つ以上の抗原に関連し得る。
【0037】
エピトープは、抗原結合領域、例えば抗体によって結合される抗原の領域である。「エピトープ」という用語は、抗体又は抗原結合領域に対して特異的に結合することができる任意のポリペプチド決定基を含む。特定の実施形態において、エピトープ決定基は、分子の化学的に活性な表面基、例えば、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル又はスルホニルを含み、特定の実施形態において、特定の三次元構造特性、及び/又は特定の電荷特徴を有していてもよい。
【0038】
本明細書で使用される、「結合」及び「特異的結合」という用語は、インビトロアッセイ、好ましくは、精製された野生型抗原を用いたプラズモン共鳴アッセイ(BIAcore(登録商標)、GE-Healthcare Uppsala、Sweden)における抗原のエピトープへの抗体又は抗原結合領域の結合を指す。特定の実施形態において、抗体又は抗原結合領域は、タンパク質及び/又は高分子の複雑な混合物においてその標的抗原を優先的に認識する場合、抗原に特異的に結合すると言われる。
【0039】
抗原に対する抗体の結合の親和性は、用語ka(抗体/抗原複合体からの抗体の会合の速度定数)、kd(解離定数)、及びKD(kd/ka)により定義される。一実施形態において、結合又は特異的に結合するとは、10-8mol/l以下の結合親和性(KD)を意味し、一実施形態においては、10-8M~10-13mol/lである。したがって、抗原結合領域、特に抗体結合部位は、それが特異的である各抗原に、10-8mol/l以下の結合親和性(KD)、例えば、10-8~10-13mol/lの結合親和性(KD)、一実施形態においては、10-9~10-13mol/lの結合親和性(KD)で特異的に結合する。
【0040】
「可変領域」又は「可変ドメイン」という用語は、抗原に対する抗体の結合に関与する抗体重鎖又は抗体軽鎖のドメインを指す。天然抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH及びVL)は、一般的に、類似の構造を有し、それぞれのドメインは、4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と、3つの相補性決定領域(CDR)とを含む(例えば、Kindt et al.Kuby Immunology,6th ed.,W.H.Freeman and Co.,page 91(2007)を参照のこと)。単一のVH又はVLドメインは、抗原結合特異性を付与するために充分であり得る。さらに、特定の抗原に結合する抗体は、抗原に結合する抗体のVH又はVLドメインを使用し、それぞれ、相補的VL又はVHドメインのライブラリをスクリーニングして、単離してもよい。例えば、Portolano et al.,J.Immunol.150:880-887(1993);Clarkson et al.,Nature 352:624-628(1991)を参照のこと。
【0041】
本出願内で使用される「定常ドメイン」又は「定常領域」という用語は、可変領域以外の抗体のドメインの合計を示す。定常領域は、抗原の結合に直接的には関与していないが、種々のエフェクタ機能を示す。
【0042】
重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMといった「クラス」に分類され、これらのうちのいくつかは、サブクラス、例えば、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4、IgA1及びIgA2にさらに分類され得る。異なるクラスの抗体に対応する重鎖定常領域は、それぞれ、α、δ、ε、γ及びμと呼ばれる。5つの抗体クラス全てに見られる軽鎖定常領域(CL)は、κ(カッパ)及びλ(ラムダ)と呼ばれる。
【0043】
ここで使用される「定常ドメイン」は、好ましくは、サブクラスIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4のヒト抗体の定常重鎖領域及び/又は定常軽鎖カッパ領域もしくラムダ領域に由来するヒト起源に由来する。そのような一定のドメイン及び領域は、当技術分野でよく知られており、例えば、Kabat等のSequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)によって説明されている。
【0044】
野生型抗体において、「ヒンジ領域」は、IgG及びIgA免疫グロブリンクラスの重鎖の中央部分の柔軟なアミノ酸伸長であり、これは、ジスルフィド結合、すなわち2つの重鎖の間に形成される「鎖間ジスルフィド結合」によって2つの重鎖を連結する。ヒトIgG1のヒンジ領域は、一般的に、ヒトIgG1の約216位のGlu又は約226位Cysから約230位のProまでの伸長として定義される(Burton,Molec.Immunol.22:161-206(1985))。ヒンジ領域内のシステイン残基を欠失させること、又はヒンジ領域内のシステイン残基をセリン等の他のアミノ酸で置換することによって、ヒンジ領域内のジスルフィド結合形成が回避される。
【0045】
任意の脊椎動物種由来の抗体の「軽鎖」は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と称する2つの異なる型の1つに割り当てられ得る。野生型軽鎖は通常、2つの免疫グロブリンドメインを含み、通常、抗原への結合に重要な1つの可変ドメイン(VL)と定常ドメイン(CL)である。
【0046】
抗体のクラス又はアイソタイプを定義するいくつかの異なるタイプの「重鎖」が存在する。野生型重鎖には一連の免疫グロブリンドメインが含まれ、通常、抗原の結合に重要な1つの可変ドメイン(VH)といくつかの定常ドメイン(CH1、CH2、CH3など)が含まれる。
【0047】
用語「Fc領域」とは、本明細書では定常領域の少なくとも一部分を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語は、天然配列Fc領域及びバリアントFc領域を含む。一実施形態では、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226から、又はPro230から、重鎖のカルボキシル末端までに及ぶ。本明細書で特に明記されない限り、Fc領域又は定常領域におけるアミノ酸残基のナンバリングは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991に記載される、EUインデックスとも呼ばれる、EUナンバリングシステムに従う。
【0048】
通常、ヒトIgG Fc領域の「CH2ドメイン」は、およそ231位のアミノ酸残基からおよそ340位のアミノ酸残基に及ぶ。多重特異性抗体はCH2ドメインを欠いている。「CH2ドメインを欠く」とは、本発明による抗体がCH2ドメインを含まないことを意味する。
【0049】
「CH3ドメイン」は、Fc領域のC末端からCH2ドメインまでの一続きの残基(すなわち、IgGのおよそ341位のアミノ酸残基からおよそ447位のアミノ酸残基まで)を含む。本明細書における「CH3ドメイン」は、バリアントCH3ドメインであり、ここで、天然CH3ドメインのアミノ酸配列は、多重特異性抗体内で互いに対向する2つのCH3ドメインのヘテロ二量体化を促進するために、少なくとも1つの異なるアミノ酸置換(すなわち、CH3ドメインのアミノ酸配列の改変)に供された。
【0050】
典型的には、当技術分野で公知のヘテロ二量体化アプローチにおいて、一方の重鎖のCH3ドメイン及び他方の重鎖のCH3ドメインは両方とも相補的に操作され、1つの操作されたCH3ドメインを含む重鎖は、同じ構造の他の重鎖とは、もはやホモ二量体化することができないようになっている。それにより、1つの操作されたCH3ドメインを含む重鎖は、相補的な方法で操作されたCH3ドメインを含む他方の重鎖とヘテロ二量体化することを余儀なくされる。
【0051】
当技術分野で公知のヘテロ二量体化アプローチの1つは、いわゆる「ノブ・イントゥ・ホール」技術であり、これは、例えば、国際公開第96/027011号、Ridgway,J.B.,et al.,Protein Eng.9(1996)617-621;Merchant,A.M.,et al.,Nat.Biotechnol.16(1998)677-681、及び国際公開第98/050431号にいくつかの例を示して詳細に記載されており、これらの文献は参照により本明細書に組み入れられる。「ノブ・イントゥ・ホール」技術では、抗体の三次構造中の2つのCH3ドメイン間に形成された界面内において、各CH3ドメイン上の特定のアミノ酸が、CH3ドメインの一方に突起(「ノブ」)を、CH3ドメインの他方に空洞(「ホール」)をそれぞれ作製するように操作されている。多重特異性抗体の三次構造において、一方のCH3ドメインの導入された突起は、他方のCH3ドメインの導入された空洞内に配置可能である。
【0052】
ノブ・イントゥ・ホール技術による置換と組み合わせて、追加の鎖間ジスルフィド結合をCH3ドメインに導入して、ヘテロ二量体化ポリペプチドをさらに安定化することができる(Merchant,A.M.,et al.,Nature Biotech.16(1998)677-681)。そのような鎖間ジスルフィド結合は、例えば、以下のアミノ酸置換をCH3ドメインに導入することによって形成される、一方のCH3ドメイン中のD399C及び他方のCH3ドメイン中のK392C;一方のCH3ドメイン中のY349C及び他方のCH3ドメイン中のS354C;一方のCH3ドメイン中のY349C及び他方のCH3ドメイン中のE356C;一方のCH3ドメイン中のY349C及び他方のCH3ドメイン中のE357C;一方のCH3ドメイン中のL351C及び他方のCH3ドメイン中のS354C;一方のCH3ドメイン中のT394C及び他方のCH3ドメイン中のV397C。本明細書で使用される「システイン変異」は、システインによる第2のCH3ドメイン中のアミノ酸の他の、一致するアミノ酸置換とともに有する鎖間ジスルフィド結合を形成することができる、システインによるCH3ドメイン中のアミノ酸の1つのアミノ酸置換を指す。
【0053】
「医薬組成物」という用語は、その中に含まれる有効成分の生体活性を有効にし、組成物が投与される対象に対して受け入れられないほど毒性である更なる構成要素を含まないような形態での調製物を指す。本発明の医薬組成物は、当該技術分野で公知の種々の方法によって投与し得る。当業者に理解されるように、投与の経路及び/又は態様は、所望な結果に依存して変わり得る。特定の投与経路によって本発明の抗体を投与するために、抗体をその不活性化を防止するための材料で被覆するか、又は抗体を材料と同時投与することが必要な場合がある。例えば、ヘテロ二量体ポリペプチドは、適切な担体、例えばリポソーム又は希釈剤中で対象に投与し得る。薬学的に許容され得る希釈剤としては、生理食塩水、及び緩衝液水溶液が挙げられる。
【0054】
医薬組成物は、有効量の本発明によって提供されるヘテロ二量体ポリペプチドを含む。薬剤、例えば、ヘテロ二量体ポリペプチドの「有効量」は、所望の治療結果又は予防結果を達成するために必要な薬用量及び所要期間で有効な量を指す。特に、「有効量」は、対象に投与された場合、(i)特定の疾患、状態又は障害を処置又は予防する、(ii)特定の疾患、状態又は障害の1つ以上の症状を減弱、改善又は排除する、又は(iii)本明細書に記載する特定の疾患、状態又は障害の1つ以上の症状の発症を予防又は遅延する、本発明のヘテロ二量体ポリペプチドの量を意味する。治療有効量は、使用されるヘテロ二量体ポリペプチド分子、処置される疾患状態、処置される疾患の重症度、対象の年齢及び相対的健康状態、投与経路及び投与形態、主治医又は獣医学専門家の判断、及び他の要因に応じて変化する。
【0055】
「薬学的に許容され得る担体」は、対象にとって無毒である、活性成分以外の医薬製剤中の成分を指す。薬学的に許容され得る担体としては、生理学的に適合性であるありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などが挙げられる。好ましい一実施形態では、担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄又は表皮投与(例えば注射又は点滴によって)に適している。
【0056】
本発明による医薬組成物はまた、アジュバント、例えば、保存剤、湿潤剤、乳化剤及び分散剤も含有し得る。上記の滅菌化手順、及び種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等を含むことの両方によって、微生物の存在の予防が確保され得る。等張剤、例えば糖、塩化ナトリウム等を組成物に含めることも望ましい場合がある。さらに、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチン等の吸収を遅延させる薬剤を含めることによって、注射用医薬形態の長期吸収がもたらされ得る。
【0057】
本明細書において使用される場合、重鎖及び軽鎖の全ての定常領域及びドメインのアミノ酸位置は、Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)に記載されているKabatナンバリングシステムによりナンバリングされる。特に、可変ドメイン、並びにカッパ及びラムダアイソタイプの軽鎖定常ドメインCLについては、Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)のナンバリングシステム(第 647頁~第660頁参照)が使用され、定常重鎖ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2及びCH3)については、Kabat EUインデックスナンバリングシステム(第661頁~第723頁参照)が使用される。
【0058】
ポリペプチド鎖内のアミノ酸「置換(substitution)」又は「置換(replacement)」又は「変異」(全ての用語は本明細書では互換的に使用される)は、抗体DNAに適切なヌクレオチド変化を導入することによって、又はヌクレオチド合成によって調製される。しかしながら、このような改変は、例えば、上記のように非常に限られた範囲でのみ実行できる。例えば、改変は、IgGアイソタイプや抗原結合などの上記の抗体特性を変更しないが、組換え生成の収率、タンパク質の安定性をさらに改善するか、又は精製を容易にし得る。特定の実施形態では、1つ又は複数の保存アミノ酸置換を有する抗体バリアントが提供される。本明細書で言及される「二重変異」は、示されたアミノ酸置換の両方がそれぞれのポリペプチド鎖に存在することを意味する。
【0059】
ここで使用される「アミノ酸」という用語は、カルボキシル基のα位に位置するアミノ部分を有する有機分子を示す。アミノ酸の例としては、アルギニン、グリシン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、アラニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、メチオニン、セリン、プロリンが挙げられる。使用されるアミノ酸は、任意に、それぞれの場合に、L形態である。「正に帯電した」又は「負に帯電した」アミノ酸という用語は、pH7.4でのアミノ酸側鎖電荷を指す。アミノ酸は、一般的な側鎖特性に従って分類され得る:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile、Trp、Tyr、Phe;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性又は負に電荷した:Asp、Glu;
(4)塩基性又は正に電荷した:His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響を及ぼす残基:Gly、Pro。
【0060】
【0061】
2つのタンパク質間の「ポリペプチド鎖交換」は、第1の前駆体タンパク質由来の2つのポリペプチド鎖が解離し、第2の前駆体タンパク質由来の2つのポリペプチド鎖が解離し、第1の前駆体タンパク質由来のポリペプチド鎖が第2の前駆体タンパク質由来のポリペプチド鎖と対をなす場合に起こる。結果として、第1の前駆体ポリペプチド由来のポリペプチド鎖及び第2の前駆体ポリペプチド由来のポリペプチド鎖を含む「産物」タンパク質が形成される。両方のポリペプチド鎖は、産物タンパク質中のそれらの二量体化ドメインを介して会合する。
【0062】
本発明の前駆体タンパク質は、「受容体リガンド及び酵素から選択される部分」を含む。本明細書で使用される「部分」という用語は、受容体リガンド又は酵素から選択されるタンパク質;その断片;又は受容体リガンド、酵素若しくはその断片の置換バリアントを指す。例示的な受容体リガンドはサイトカインである。典型的には、受容体リガンド及び酵素は、1つよりも多くのサブユニットで構成されるタンパク質複合体である。したがって、本明細書で言及される「サブユニット」は、他のポリペプチド(「サブユニット」)とアセンブリしてタンパク質複合体を形成する単一のポリペプチド分子である。
【0063】
その結果、その部分は生物学的機能、すなわち受容体リガンド(すなわち、リガンドと受容体との間の複合体の形成)又は酵素(すなわち生体触媒活性)の生物学的機能を有する。本明細書で使用される「機能的に活性」という用語は、前記部分が生理学的条件下でその生物学的機能を示すことを意味する。本明細書で使用される「機能的に不活性」という用語は、前記部分の活性が、対応する機能的に活性な全長受容体リガンド又は酵素の活性の5%未満に低下していることを意味する。好ましくは、「機能的に不活性な」部分は生物学的活性を有さない。
【0064】
その部分は、好ましくはペプチドリンカーを介して、二量体化ドメインを有する前駆体タンパク質のポリペプチド鎖に含まれる。典型的には、ペプチドコネクタは、グリシン及びセリンなどの柔軟なアミノ酸残基から構成される。したがって、その部分をポリペプチドに融合するために使用される典型的なペプチドコネクタは、グリシン-セリンリンカー、すなわちグリシン及びセリン残基のパターンからなるペプチドコネクタである。部分の構造に応じて、前駆体タンパク質は、その部分が機能的に不活性であるように前記部分の1つ又は2つの断片を含むか、又は前駆体タンパク質は、前記部分と、その部分が機能的に不活性であるように前記部分に結合する不活性化部分とを含む。
【0065】
2.本発明の実施形態
第1の態様では、本発明は、第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセットに関するものであり、各前駆体タンパク質が二量体化ドメインを介して互いに会合した2つのポリペプチドを含み、前駆体タンパク質の少なくとも1つが受容体リガンド及び酵素から選択される部分を含み、前記部分が機能的に不活性であり、前記部分が二量体化ドメインに融合し、第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質と間のポリペプチド鎖交換時に、活性化タンパク質が形成され、活性化タンパク質が第1の前駆体タンパク質由来の1つのポリペプチドと第2の前駆体タンパク質由来の1つのポリペプチドとを含み、両方のポリペプチドがそれらの二量体化ドメインを介して互いに会合し、かつ、活性化タンパク質が前記部分を含み、活性化タンパク質が機能的に活性な形態で前記部分を含むこと、を特徴とする。
【0066】
A)第1の選択肢:不活性化部分に結合
第1の態様の第1の実施形態では、本発明は、第1の前駆体タンパク質又は第2の前駆体タンパク質のいずれかが受容体リガンド及び酵素から選択される部分を含み、該部分が不活性化部分に結合している、本発明による第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセットに関する。一実施形態では、該部分は受容体リガンドであり、不活性化部分は対応する受容体、そのリガンド結合サブユニット又は部分を不活性化する別のタンパク質である。一実施形態では、受容体リガンドはサイトカインであり、不活性化部分は対応するサイトカイン受容体又はそのサイトカイン結合サブユニットである。一実施形態では、受容体リガンドはIL-2vであり、不活性化部分はIL-2Rのサブユニット、好ましくはIL-2Rベータ、IL-2Rガンマ鎖、IL-2Rベータ_ガンマ鎖から選択される。本明細書で言及される「対応する受容体」は、受容体リガンドの生物学的機能を示すために前駆体タンパク質に含まれる受容体リガンドによって結合される受容体である。例えば、受容体リガンドがサイトカイン、例えばIL-2である場合、対応する受容体は、前記サイトカインのサイトカイン受容体、例えばIL-2Rである。対応する受容体の「リガンド結合サブユニット」は、前記受容体リガンドの前記受容体への結合に関与する前記受容体のサブユニットを指す。例えば、受容体リガンドがIL-2である場合、対応する受容体はIL-2Rであり、リガンド結合サブユニットはIL-2Rベータである。
【0067】
B)第2の選択肢:いくつかのサブユニット
第1の態様の第2の実施形態では、本発明は、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質のが受容体リガンド及び酵素から選択される部分の相補的サブユニットを含む、本発明による第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセットに関する。一実施形態では、第1の前駆体タンパク質は、部分の第1の非改変サブユニット及び部分の第2のサブユニットを含み、第2のサブユニットは、不活性化変異を含み;第2の前駆体タンパク質は、部分の第2の非改変サブユニットを含む。「非改変サブユニット」という用語は、その生物学的機能を失わせる変異を含まない部分のタンパク質サブユニットを指す。一実施形態では、非改変サブユニットは、その部分の天然のそれぞれのサブユニットのアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有する。「不活性化変異」という用語は、前記部分の天然サブユニットのアミノ酸配列におけるアミノ酸の付加、置換又は欠失を指す。不活性化変異を有するサブユニットを含む全長部分は、機能的に不活性である。
【0068】
一実施形態では、部分は受容体リガンドである。一実施形態では、受容体リガンドはサイトカインであり、第1の前駆体タンパク質は、サイトカインの第1のサブユニット及びサイトカインの第2のサブユニットを含み、第2のサブユニットは不活性化変異を含み;第2の前駆体タンパク質は、サイトカインの第2の非改変サブユニットを含む。一実施形態では、第1の前駆体タンパク質は、IL-12 p35及び不活性化変異を含むIL-12 p40を含み;第2の前駆体タンパク質は、非改変IL-12 p40を含む。一実施形態では、第1の前駆体タンパク質は、IL-12 p35及び不活性化変異を含むIL-12 p40を含み;第2の前駆体タンパク質は、非改変IL-12 p40及び不活性化変異を含むIL-12 p35を含む。
【0069】
C)第3の選択肢:分割された受容体リガンド又は酵素
第1の態様の第3の実施形態では、本発明は、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質が、受容体リガンド又は酵素から選択される人工的に分割された部分の相補部分を含み、相補部分の1つが不活性化されている、本発明による第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセットに関する。「人工的に分割された部分」という用語は、本明細書では「スプリット断片」と呼ばれる2つ以上(好ましくは2つ)の断片に分割された機能的に活性なタンパク質部分を指す。各スプリット断片は、機能的に活性な部分の機能に関して不活性である。すべてのスプリット断片が会合すると、機能的に活性な部分の機能性が回復する。前駆体タンパク質は、人工的に分割された部分の1つの機能的(例えば変異していない)部分及び1つの不活性化(例えば変異した)部分を含むように配置される。他方の前駆体タンパク質は、2つの前駆体タンパク質間のポリペプチド鎖交換の際に、機能的に活性な部分の形成をもたらす人工的に分割された部分の2つの相補部分が活性化タンパク質に含まれるように配置される。
【0070】
一実施形態では、部分は受容体リガンドである。一実施形態では、受容体リガンドはサイトカインである。一実施形態では、人工的に分割された部分は、スプリットサイトカインである。「スプリットサイトカイン」は、当技術分野において、例えばVenetz et al.J Biol Chem.2016 Aug 26;291(35):18139-18147に記載されている。
【0071】
一実施形態では、受容体リガンドは酵素である。一実施形態では、人工的に分割された部分は、スプリット酵素である。「スプリット酵素」は、当技術分野において、例えばLittmann et al.Scientific Reports volume 8,Article number:17179(2018)に記載さている。
【0072】
D)前駆体タンパク質
本発明のセットに含まれる前駆体タンパク質は、ポリペプチド鎖交換を受けることができる。そのような前駆体タンパク質対の一般的なドメイン配置は、例えば、WO2019/077092、WO2019086362、PCT/EP2020/061412及びPCT/EP2020/061413に記載されており、これらは参照により本明細書に組み込まれる。特定の実施形態では、各前駆体タンパク質は、半抗体形状であり、すなわち、ヒンジ領域を介して1つの二量体化Fcベース領域に配置された1つの抗原結合部位(好ましくはFab断片)を含む。そのような前駆体タンパク質は、例えばWO2019/077092、WO2019086362、PCT/EP2020/061412及びPCT/EP2020/061413に記載されている。前記二量体化Fcベース領域は、CH3ドメインの対を含み、任意に、前記CH3ドメインのN末端に配置されたCH2ドメインの対をさらに含む(したがって、前駆体タンパク質の2つの二量体化ポリペプチドは、N末端からC末端にCH2-CH3のドメイン配列を含む)か、又は、前記CH3ドメインのN末端に配置されたVH及びVLドメインの対をさらに含む(したがって、前駆体タンパク質の一方のポリペプチドは、N末端からC末端にVL-CH3のドメイン配列を含み、前駆体タンパク質の他方のポリペプチドは、N末端からC末端にVH-CH3のドメイン配列を含む)。VH及びVLドメインの対はまた、CHドメインのN末端に融合されたCH2ドメインのN末端に配置され得る(したがって、前駆体タンパク質の一方のポリペプチドは、N末端からC末端にVL-CH2-CH3のドメイン配列を含み、前駆体タンパク質の他方のポリペプチドは、N末端からC末端にVH-CH2-CH3のドメイン配列を含む)。二量体化ドメインを含む2つのポリペプチドの二量体化を含み、さらに別の異なる前駆体タンパク質とのポリペプチド鎖交換を可能にする前駆体タンパク質のアセンブリを支持するために、前駆体タンパク質に含まれる二量体化ドメインが改変される。
【0073】
a.二量体化ドメイン
本発明の一実施形態では、二量体化ドメインはCH3ドメインである。「CH3ドメイン」は、Fc領域のC末端からCH2ドメインまでの一続きの残基(すなわち、IgGのおよそ341位のアミノ酸残基からおよそ447位のアミノ酸残基まで)を含む。本明細書における「CH3ドメイン」は、バリアントCH3ドメインであり、ここで、天然CH3ドメインのアミノ酸配列は、前駆体タンパク質内で互いに対向する2つのCH3ドメインのヘテロ二量体化を促進するために、少なくとも1つの異なるアミノ酸置換(すなわち、CH3ドメインのアミノ酸配列の改変)に供された。
【0074】
一実施形態では、各前駆体タンパク質は、上で定義したようなノブ・イントゥ・ホール改変、システイン変異及び不安定化変異を有するCH3ドメインを含む。
【0075】
CH3ドメインは任意のIgGアイソタイプのものであり得るが、2つの前駆体タンパク質のCH3ドメインは同じIgGアイソタイプのものである。一実施形態では、CH3ドメインはIgG1アイソタイプのものである。一実施形態では、CH3ドメインはIgG3アイソタイプのものである。
【0076】
ノブ-イントゥ・ホール変異
一実施形態では、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質はそれぞれ、CH3ドメインを含む2つのポリペプチドを含み、一方のCH3ドメインはノブ変異を含み、他方のCH3ドメインはホール変異を含む。この実施形態によれば、前駆体タンパク質に含まれるCH3ドメインは、ノブ・イントゥ・ホール改変を含む。「ノブ・イントゥ・ホール技術」は当技術分野で周知であり、例えば、国際公開第96/027011号、Ridgway,J.B.,et al.,Protein Eng.9(1996)617-621;Merchant,A.M.,et al.,Nat.Biotechnol.16(1998)677-681、及び国際公開第98/050431号にいくつかの例を示して詳細に記載されており、これらの文献は参照により本明細書に組み入れられる。「ノブ・イントゥ・ホール」技術では、抗体の三次構造中の2つのCH3ドメイン間に形成された界面内において、各CH3ドメイン上の特定のアミノ酸が、CH3ドメインの一方に突起(「ノブ」)を、CH3ドメインの他方に空洞(「ホール」)をそれぞれ作製するように操作されている。多重特異性抗体の三次構造において、一方のCH3ドメインの導入された突起は、他方のCH3ドメインの導入された空洞内に配置可能である。
【0077】
一実施形態において、第1の前駆体タンパク質に含まれるノブ変異は、第2の前駆体タンパク質に含まれるノブ変異と同一である。一実施形態において、ノブ変異は、T366Wである。一実施形態において、ホール変異はT366S L368A Y407Vである。
【0078】
ヘテロ二量体化を必然的に起こすためにCH3ドメインを修飾するための、前述の「ノブ・イントゥー・ホール」技術以外のさらなる技術は、当技術分野において既知である。これらの技術、特に国際公開第96/27011号、国際公開第98/050431号、欧州特許第1870459号、国際公開第2007/110205号、国際公開第2007/147901号、国際公開第2009/089004号、国際公開第2010/129304号、国際公開第2011/90754号、国際公開第2011/143545号、国際公開第2012/058768号、国際公開第2013/157954号及び国際公開第2013/096291号に記載されている技術は、本明細書において、本発明によって提供される前駆体タンパク質についての「ノブ・イントゥ・ホール技術」の代替として企図されている。これらの技術は全て、反対の電荷又は異なる側鎖体積のアミノ酸の導入により、相補的な様式でCH3ドメインを操作し、それによってヘテロ二量体化を支持することを含む。
【0079】
システイン変異
ノブ・イントゥ・ホール技術による置換と組み合わせて、追加の鎖間ジスルフィド結合をCH3ドメインに導入して、ヘテロ二量体化ポリペプチドをさらに安定化することができる(Merchant,A.M.,et al.,Nature Biotech.16(1998)677-681)。そのような鎖間ジスルフィド結合は、例えば、以下のアミノ酸置換をCH3ドメインに導入することによって形成される、一方のCH3ドメイン中のD399C及び他方のCH3ドメイン中のK392C;一方のCH3ドメイン中のY349C及び他方のCH3ドメイン中のS354C;一方のCH3ドメイン中のY349C及び他方のCH3ドメイン中のE356C;一方のCH3ドメイン中のY349C及び他方のCH3ドメイン中のE357C;一方のCH3ドメイン中のL351C及び他方のCH3ドメイン中のS354C;一方のCH3ドメイン中のT394C及び他方のCH3ドメイン中のV397C。一実施形態において、i)第1の前駆体タンパク質のノブ変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含み、第2の前駆体タンパク質のホール変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含むか、又はii)第1の前駆体タンパク質のホール変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含み、第2の前駆体タンパク質のノブ変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含むかのいずれかである。本明細書で使用される「システイン変異」は、システインによる第2のCH3ドメイン中のアミノ酸の他の、一致するアミノ酸置換とともに有する鎖間ジスルフィド結合を形成することができる、システインによるCH3ドメイン中のアミノ酸の1つのアミノ酸置換を指す。
【0080】
本発明の一実施形態において、前駆体タンパク質のCH3ドメインは、相互作用する位置にシステイン置換を有する2つのCH3ドメイン間の鎖間ジスルフィド結合の形成を可能にするために、変異の第2のパターン、すなわちCH3/CH3界面における異なるアミノ酸のシステインによる置換を含む。
【0081】
したがって、本発明の一実施形態において、i)第1の前駆体タンパク質のノブ変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含み、第2の前駆体タンパク質のホール変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含むか、又はii)第1の前駆体タンパク質のホール変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含み、第2の前駆体タンパク質のノブ変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含むかのいずれかである。言い換えれば、一実施形態において、i)第1のヘテロ二量体ポリペプチド内で、ノブ変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含み、ホール変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含まず、第2のヘテロ二量体ポリペプチド内で、ノブ変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含まず、ホール変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含むか、又はii)第1のヘテロ二量体ポリペプチド内で、ノブ変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含まず、ホール変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含み、第2のヘテロ二量体ポリペプチド内で、ノブ変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含み、ホール変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含まないかのいずれかである。
【0082】
一実施形態において、i)第1の前駆体タンパク質のノブ変異を含むCH3ドメインが第1のシステイン変異を含み、第2の前駆体タンパク質のホール変異を含むCH3ドメインが第2のシステイン変異を含むか、又はii)第1の前駆体タンパク質のホール変異を含むCH3ドメインが第1のシステイン変異を含み、第2の前駆体タンパク質のノブ変異を含むCH3ドメインが第2のシステイン変異を含むかのいずれかであり、第1及び第2のシステイン変異は、以下の対から選択される。
【0083】
一実施形態において、第1のシステイン変異は、Y349Cであり、第2のシステイン変異は、S354Cである。
【0084】
本発明の一実施形態において、i)第1の前駆体タンパク質のノブ変異を含むCH3ドメインが置換S354Cを含み、第2の前駆体タンパク質のホール変異を含むCH3ドメインが置換Y349Cを含むか、又はii)第1の前駆体タンパク質のホール変異を含むCH3ドメインが置換Y349Cを含み、第2の前駆体タンパク質のノブ変異を含むCH3ドメインが置換S354Cを含む。
【0085】
本発明の一実施形態において、第1の前駆体タンパク質内で、ノブ変異を含むCH3ドメインは置換S354Cを含み、ホール変異を含むCH3ドメインは349位にYを含み、第2の前駆体タンパク質内で、ホール変異を含むCH3ドメインは置換Y349Cを含み、ノブ変異を含むCH3ドメインは、354位にSを含む。
【0086】
本発明の一実施形態において、i)第1の前駆体タンパク質のノブ変異を含むCH3ドメインが置換T366W S354Cを含み、第2の前駆体タンパク質のホール変異を含むCH3ドメインが置換T366S L368A Y407V Y349Cを含むか、又はii)第1の前駆体タンパク質のホール変異を含むCH3ドメインが置換T366S L368A Y407V Y349Cを含み、第2の前駆体タンパク質のノブ変異を含むCH3ドメインが置換T366W S354Cを含む。
【0087】
本発明の一実施形態において、第1の前駆体タンパク質内で、ノブ変異を含むCH3ドメインは置換T366W S354Cを含み、ホール変異を含むCH3ドメインは349位のY、及び置換T366S L368A Y407Vを含み、第2の前駆体タンパク質内で、ホール変異を含むCH3ドメインは置換T366S L368A Y407V Y349Cを含み、ノブ変異を含むCH3ドメインは、354位のS、及び置換T366Wを含む。
【0088】
本発明の一実施形態において、前駆体タンパク質のCH3ドメインは、鎖間ジスルフィド結合を含まない。
【0089】
不安定化変異
一実施形態では、第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質との間のポリペプチド鎖交換を支持するために、CH3ドメインは、改変された界面を有する。本発明の前駆体タンパク質は、そのCH3ドメインの1つのみに、本明細書において「不安定化変異」とも称する「CH3/CH3界面を不安定化する」アミノ酸置換を含む。これらの末端により、ヘテロ二量体前駆体タンパク質に会合しているCH3ドメインの1つのみに配置されているアミノ酸置換が意味される。前記CH3ドメインにおいて、例えば上記のCH3ヘテロ二量体化戦略に関連する先行技術に開示されているように、CH3/CH3界面内で相互作用することが知られている1つ以上のアミノ酸位置が、他の部位鎖特性を有するアミノ酸によって置換される。典型的には会合したCH3ドメイン中の相互作用するアミノ酸の対が置換されるヘテロ二量体化戦略(すなわち、ヘテロ二量体に関与する一方のCH3ドメイン中の1つ以上のアミノ酸残基、及びヘテロ二量体に関与する他方のCH3ドメイン中の1つ以上のアミノ酸残基)とは対照的に、不安定化変異は、本発明による前駆体タンパク質に関与するCH3ドメインの1つのみに配置される。CH3/CH3接触面を不安定にする例示的アミノ酸置換は、以下に列挙される。本明細書に具体的に開示される全ての例示的なアミノ酸置換は、置換されたアミノ酸が前記CH3ドメインの対内のCH3/CH3界面で相互作用するように配置される。
【0090】
一実施形態では、i)ノブ変異を含む第1の前駆体タンパク質のCH3ドメイン及びホール変異を含む第2の前駆体タンパク質のCH3ドメイン、又はii)ホール変異を含む第1の前駆体タンパク質のCH3ドメイン及びノブ変異を含む第2の前駆体タンパク質のCH3ドメインは、少なくとも1つの相補的不安定化変異を含むが、第1及び第2の前駆体ポリペプチドの他の2つのCH3ドメインは不安定化変異を含まない。
【0091】
本発明によれば、i)ノブ変異を含む第1の前駆体タンパク質のCH3ドメイン及びホール変異を含む第2の前駆体タンパク質のCH3ドメイン、又はii)ホール変異を含む第1の前駆体タンパク質のCH3ドメイン及びノブ変異を含む第2の前駆体タンパク質のCH3ドメインのいずれかは、1つ以上の不安定化変異を含む。第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質と内の1つ以上の不安定化変異は、それらが前駆体ポリペプチド間のポリペプチド鎖交換によって形成された産物ポリペプチドのCH3/CH3界面で相互作用するように選択される。
【0092】
前駆体タンパク質のノブ変異を含むCH3ドメインが不安定化変異を含む場合、前記前駆体タンパク質のホール変異を含むCH3ドメインは不安定化変異を含まない。CH3ドメインは、それが「不安定化変異を含まない」とき、同じクラスの野生型免疫グロブリンのCH3ドメインにおいて、対応するCH3ドメインに含まれる不安定化変異の位置にあるアミノ酸残基と相互作用する位置に、野生型アミノ酸残基を含む。
【0093】
変異の第1のセット(FORCE/PACE 1.0変異)
不安定化変異の第1のセットは、WO2019/077092、及びWO2019086362に開示されている。
【0094】
本発明の一実施形態では、ホール変異を有するCH3ドメインは、E345R、Q347K、Y349W、Y349E、L351F、L351Y、S354E、S354V、D356S、D356A、D356K、E357S、E357A、E357L、E357F、E357K、K360S、K360E、Q362E、S364V、S364L、T366I、L368F、L368V、K370E、N390E、K392E、K392D、T394I、V397Y、D399A、D399K、S400K、D401R、F405W、Y407W、Y407L、Y407I、K409D、K409E、K409I、K439E、L441Y、C349Y、S366T、A368L、V407Y、C354S、及びW366Tの群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換、すなわち不安定化変異を含み;ノブ変異を有するCH3ドメインは、E345R、Q347K、Y349W、Y349E、L351F、L351Y、S354E、S354V、D356S、D356A、D356K、E357S、E357A、E357L、E357F、E357K、K360S、K360E、Q362E、S364V、S364L、T366I、L368F、L368V、K370E、N390E、K392E、K392D、T394I、V397Y、D399A、D399K、S400K、D401R、F405W、Y407W、Y407L、Y407I、K409D、K409E、K409I、K439E、L441Y、C349Y、S366T、A368L、V407Y、C354S、及びW366T.の群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換、すなわち不安定化変異を含む。
【0095】
一実施形態では、ホール変異を持つCH3ドメインは、357位又は356位に少なくとも1つのアミノ酸置換、すなわち不安定化変異を含み;ノブ変異を有するCH3ドメインは、370位又は439位に少なくとも1つのアミノ酸置換、すなわち不安定化変異を含む。一実施形態では、ホール変異を持つCH3ドメインは、356位に少なくとも1つのアミノ酸置換、すなわち不安定化変異を含み;ノブ変異を有するCH3ドメインは、439位に少なくとも1つのアミノ酸置換、すなわち不安定化変異を含む。一実施形態では、ホール変異を持つCH3ドメインは、357位に少なくとも1つのアミノ酸置換、すなわち不安定化変異を含み;ノブ変異を有するCH3ドメインは、370位に少なくとも1つのアミノ酸置換、すなわち不安定化変異を含む。
【0096】
一実施形態では、一方(例えば、第1)の前駆体タンパク質のホール変異を有するCH3ドメインはD356K変異を含み、他方(例えば、第2)の前駆体タンパク質のノブ変異を有するCH3ドメインはK439E変異を含む。一実施形態では、一方(例えば、第1)の前駆体タンパク質のホール変異を有するCH3ドメインはE357K変異を含み、他方(例えば、第2)の前駆体タンパク質のノブ変異を有するCH3ドメインはK370E変異を含む。
【0097】
変異の第2のセット(FORCE2.0変異)
不安定化変異の第2のセットは、PCT/EP2020/061412に開示されている。
【0098】
本発明の一実施形態において、ホール変異を有するCH3ドメインは、疎水性アミノ酸でのS354の置き換え;正荷電アミノ酸でのD356の置き換え;正荷電アミノ酸又は疎水性アミノ酸でのE357の置き換え;正荷電アミノ酸でのD356の置き換えと、正荷電アミノ酸又は疎水性アミノ酸でのE357の置き換え;疎水性アミノ酸でのS364の置き換え;疎水性アミノ酸でのA368の置き換え;負荷電アミノ酸でのE392の置き換え;疎水性アミノ酸でのT394の置き換え;疎水性アミノ酸でのD399の置き換えと、正荷電アミノ酸でのS400の置き換え;疎水性アミノ酸でのD399の置き換えと、正荷電アミノ酸でのF405の置き換え;疎水性アミノ酸でのV407の置き換え;及び負荷電アミノ酸でのK409の置き換え;及び負荷電アミノ酸でのK439の置き換えからなる群から選択される、少なくとも1つのアミノ酸置換,即ち不安定化変異を含み;ノブ変異を有するCH3ドメインは、正荷電アミノ酸でのQ347の置き換えと、負荷電アミノ酸でのK360の置き換え;負荷電アミノ酸でのY349の置き換え;疎水性アミノ酸のL351の置き換えと、疎水性アミノ酸でのE357の置き換え;疎水性アミノ酸でのS364の置き換え;疎水性アミノ酸でのW366の置き換えと、負荷電アミノ酸でのK409の置き換え;疎水性アミノ酸でのL368の置き換え;負荷電アミノ酸でのK370の置き換え;負荷電アミノ酸でのK370の置き換えと、負荷電アミノ酸でのK439の置き換え;負荷電アミノ酸でのK392の置き換え;疎水性アミノ酸でのT394の置き換え;疎水性アミノ酸でのV397の置き換え;正荷電アミノ酸でのD399の置き換えと、負荷電アミノ酸でのK409の置き換え;正荷電アミノ酸でのS400の置き換え;F405W;Y407W;及び負荷電アミノ酸でのK439の置き換えの群から選択される、少なくとも1つのアミノ酸置換,即ち不安定化変異を含む。
【0099】
一実施形態において、疎水性アミノ酸は、ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile、Trp、Tyr、及びPheから選択される。一実施形態において、疎水性アミノ酸は、Ala、Val、Leu、Ile及びTyrから選択される。一実施形態において、疎水性アミノ酸は、Val、Leu又はIleである。一実施形態において、疎水性アミノ酸は、Leu又はIleである。一実施形態において、疎水性アミノ酸は、Leuである。一実施形態において、疎水性アミノ酸は、Tyrである。一実施形態において、疎水性アミノ酸は、Pheである。
【0100】
一実施形態において、正荷電アミノ酸は、His、Lys又はArgである。一実施形態において、正荷電アミノ酸は、Lys又はArgである。一実施形態において、正荷電アミノ酸は、Lysである。
【0101】
一実施形態において、負荷電アミノ酸は、Asp又はGluである。一実施形態において、負荷電アミノ酸残基は、Aspである。一実施形態において、負荷電アミノ酸残基は、Gluである。
【0102】
CH3ドメイン内に示されたアミノ酸位置にそれぞれの側鎖特性を有するアミノ酸でのアミノ酸置換は、2つの前駆体ポリペプチドからの産物ポリペプチド形成とポリペプチド鎖交換とをサポートすることが分かった。
【0103】
本発明の一実施形態において、ホール変異を有するCH3ドメインは、S354V、S354I、S354L、D356K、D356R、E357K、E357R、E357F、S364L、S364I、A368F、K392D、K392E、T394L、T394I、V407Y、K409E、K409D、K439D、K439E及び二重変異D399A S400K、D399A S400R、D399A F405Wの群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含み、ノブ変異を有するCH3ドメインは、Y349E、Y349D、S364V、S364I、S364L、L368F、K370E、K370D、K392E、K392D、T394L、T394I、V397Y、S400K、S400R、F405W、Y407W、K349E、K439D及び二重変異Q347K K360E、Q347R K360E、Q347K K360D、Q347R K360D、L351F E357F、W366I K409E、W366L K409E、W366K K409D、W366L K409D、D399K K409E、D399R K409E、D399K K409D、及びD399K K409Eの群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。
【0104】
本発明の一実施形態において、ホール変異を有するCH3ドメインは、S354V、D356K、E357K、E357F、S364L、A368F、K392E、T394I、V407Y、K409E、K439E及び二重変異D399A S400Kの群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含み、ノブ変異を有するCH3ドメインは、Y349E、S364V、L368F、K370E、K392D、T394I、V397Y、S400K、F405W、Y407W、K349E、及び二重変異Q347K K360E、L351F E357F、W366I K409E、及びD399K K409Eの群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。
【0105】
本発明の一実施形態において、ホール変異を有するCH3ドメインは、D356K、D356R、E357K、E357R、E357F、S364L、S364I、V407Y、K409E、K409D及び二重変異D399A S400K、D399A S400Rの群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含み、ノブ変異を有するCH3ドメインは、Y349E、Y349D、K370E、K370D、K392E、K392D、T394L、T394I、V397Y、F405W、Y407W、K349E、K439D及び二重変異Q347K K360E、Q347R K360E、Q347K K360D、Q347R K360D、W366I K409E、W366L K409E、W366K K409D、W366L K409D、D399K K409E、D399R K409E、D399K K409D及びD399K K409Eの群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。
【0106】
本発明の一実施形態において、ホール変異を有するCH3ドメインは、D356K、E357K、E357F、S364L、V407Y、K409E、及び二重変異D399A S400Kの群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含み、ノブ変異を有するCH3ドメインは、Y349E、K370E、K392D、T394I、V397Y、F405W、Y407W、K349E、及び二重変異Q347K K360E、W366I K409E、及びD399K K409Eの群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。
【0107】
本発明の一実施形態において、不安定化変異を含む、ホール変異を有するCH3ドメイン及びノブ変異を有するCH3ドメインは、以下の表に示す群から選択されるアミノ酸置換の1つを含む。
【0108】
明確性のために、この表は、ホール変異を含むCH3ドメインが上記の表の第1列に示される不安定化変異を含み、ノブ変異を含むCH3ドメインが、同じ行に示される上記の表の右列に列挙される不安定化変異を含むという点で理解されるべきである。
【0109】
本発明の一実施形態において、不安定化変異を含む、ホール変異を有するCH3ドメイン及びノブ変異を有するCH3ドメインは、以下の表に示す群から選択されるアミノ酸置換の1つを含む。
【0110】
本発明の一実施形態において、不安定化変異を含む、ホール変異を有するCH3ドメイン及びノブ変異を有するCH3ドメインは、以下の表に示す群から選択されるアミノ酸置換の1つを含む。
【0111】
変異の第3のセット(PACE2.0変異)
不安定化変異の第3のセットは、PCT/EP2020/061413に開示されている。
【0112】
本発明の一実施形態では、ホール変異を有するCH3ドメインは、E357の正荷電アミノ酸による置換、S364の疎水性アミノ酸による置換、A368の疎水性アミノ酸による置換、及びV407の疎水性アミノ酸による置換の群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換、すなわち不安定化変異を含み、ノブ変異を有するCH3ドメインは、不安定化変異を含まないか、又はK370の負荷電アミノ酸による置換K370の負荷電アミノ酸による置換、及びK439の負荷電アミノ酸による置換、K392の負荷電アミノ酸による置換、及びV397の疎水性アミノ酸による置換の群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換、すなわち不安定化変異を含むかのいずれかである。
【0113】
一実施形態において、疎水性アミノ酸は、ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile、Trp、Tyr、及びPheから選択される。一実施形態において、疎水性アミノ酸は、Ala、Val、Leu、Ile及びTyrから選択される。一実施形態において、疎水性アミノ酸は、Val、Leu又はIleである。一実施形態において、疎水性アミノ酸は、Leu又はIleである。一実施形態において、疎水性アミノ酸は、Leuである。一実施形態において、疎水性アミノ酸は、Tyrである。一実施形態において、疎水性アミノ酸は、Pheである。
【0114】
一実施形態において、正荷電アミノ酸は、His、Lys又はArgである。一実施形態において、正荷電アミノ酸は、Lys又はArgである。一実施形態において、正荷電アミノ酸は、Lysである。
【0115】
一実施形態において、負荷電アミノ酸は、Asp又はGluである。一実施形態において、負荷電アミノ酸残基は、Aspである。一実施形態において、負荷電アミノ酸残基は、Gluである。
【0116】
CH3ドメイン中の示されたアミノ酸位置にそれぞれの側鎖特性を有するアミノ酸によるアミノ酸置換は、ポリペプチド鎖交換及び2つの前駆体ポリペプチドからの産物ポリペプチド形成を支持することが見出された。
【0117】
本発明の一実施形態において、ホール変異を有するCH3ドメインは、E357K、E357R、S364L、S364I、V407Y、V407F及びA368Fの群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含み、ノブ変異を有するCH3ドメインは、不安定化変異を含まないか、又はK370E、K370D、K392E、K392D、V397Y、及び二重変異K370E K439E、K370D K439E、K370E K439D、及びK370D K439Dの群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。
【0118】
本発明の一実施形態において、ホール変異を有するCH3ドメインは、E357K、S364L、V407Y及びA368Fの群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含み、ノブ変異を有するCH3ドメインは、K370E、K392D、V397Y及び二重変異K370E K439Eの群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。
【0119】
本発明の一実施形態において、ホール変異を有するCH3ドメインは、E357K、E357R、S364L、S364I、V407Y及びV407Fの群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含み、ノブ変異を有するCH3ドメインは、K370E、K370D、K392E、K392D、V397Y、及び二重変異K370E K439E、K370D K439E、K370E K439D、及びK370D K439Dの群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。
【0120】
本発明の一実施形態において、ホール変異を有するCH3ドメインは、E357K、S364L及びV407Yの群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含み、ノブ変異を有するCH3ドメインは、K370E、K392D、V397Y及び二重変異K370E K439Eの群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。
【0121】
本発明の一実施形態において、不安定化変異を含む、ホール変異を有するCH3ドメイン及びノブ変異を有するCH3ドメインは、以下の表に示す群から選択されるアミノ酸置換の1つを含む。
【0122】
明確性のために、この表は、ホール変異を含むCH3ドメインが上記の表の第1列に示される不安定化変異を含み、ノブ変異を含むCH3ドメインが、同じ行に示される上記の表の右列に列挙される不安定化変異を含むという点で理解されるべきである。
【0123】
本発明の一実施形態において、不安定化変異を含む、ホール変異を有するCH3ドメイン及びノブ変異を有するCH3ドメインは、以下の表に示す群から選択されるアミノ酸置換の1つを含む。
【0124】
b.抗原結合部位
上に概説したように、本発明の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とは、ポリペプチド鎖交換を受けることができる。特定の実施形態では、両方の前駆体タンパク質を溶液中に提供することによって、ポリペプチド鎖交換が自発的に起こる。特定の実施形態では、本発明の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのポリペプチド鎖交換は、両方の前駆体タンパク質が、例えば同じ細胞の表面に結合することによって近接するときに支持される。したがって、一実施形態では、前駆体タンパク質は、細胞の表面に結合したときにポリペプチド鎖交換を受けることができる。一実施形態では、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、標的細胞に特異的に結合する。一実施形態では、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、標的細胞の表面上の抗原に特異的に結合する。一実施形態では、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、標的細胞の表面上の異なる抗原に特異的に結合する。本明細書で使用される「標的細胞」は、本発明のタンパク質による治療を受けることが望ましい細胞である。一実施形態では、標的細胞は癌細胞である。
【0125】
一実施形態では、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は抗体結合領域を含む。抗体結合領域は、二量体化ドメインに対してN末端又はC末端に配置され得る。
【0126】
本発明の一実施形態において、抗原結合領域は、VHドメインとVLドメインとの対を含み、これは標的抗原に特異的に結合する抗原結合部位を形成する。
【0127】
一実施形態では、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は抗体断片を含む。一実施形態では、各前駆体タンパク質は、一本鎖抗体断片又は2つのポリペプチドを含む抗体断片であり得る抗体フラグメントを含む。
【0128】
本発明の一実施形態において、本発明による(前駆体)ポリペプチドに含まれる抗体断片は、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab)2、ダイアボディ、scFv、及びscFabの群から選択される抗体断片である。一実施形態において、本発明による(前駆体)ポリペプチドに含まれる抗体断片はFv又はFabである。本発明の一実施形態において、標的抗原結合領域は、Fab断片である。本発明の一実施形態において、第1の抗原結合領域は第1のFab断片であり、第2の抗原結合領域は第2のFab断片である。
【0129】
一実施形態では、抗体断片がFab断片である場合、前駆体タンパク質は、3つのポリペプチド:VL-CLドメインを含む抗体軽鎖、機能性Fab断片及びCH3ドメインの形成を可能にする対応するVH-CH1ドメインを含む抗体重鎖様ポリペプチド、対応するCH3ドメインを含む別の抗体重鎖様ポリペプチドを含む。上記のように、CH2ドメイン又はVH/VL対のようなさらなる抗体ドメインが存在してもよい。
【0130】
本発明の一実施形態において、第1のFab断片、第2のFab断片又はその両方、第1のFab断片及び第2のFab断片は、ドメイン交差によって、
a)CH1ドメインとCLドメインのみが互いに置換されている、
b)VHドメインとVLドメインのみが互いに置換されている、又は
c)CH1ドメインとCLドメインは互いに置換されており、VHドメインとVLドメインは互いに置換されているように変更される。
【0131】
本発明の一実施形態において、標的抗原結合領域は、Fv断片である。本発明の一実施形態において、第1の抗原結合領域は第1のFv断片であり、第2の抗原結合領域は第2のFv断片である。
【0132】
本発明の一実施形態では、第1の前駆体タンパク質の抗原結合領域及び第2の前駆体タンパク質の抗原結合領域は、同じ抗原に結合する。本発明の一実施形態では、第1の前駆体タンパク質の抗原結合領域及び第2の前駆体タンパク質の抗原結合領域は、同一の抗原結合部分である。
【0133】
本発明の一実施形態では、第1の前駆体タンパク質の抗原結合領域及び第2の前駆体タンパク質の抗原結合領域は、異なる抗原に結合する。この場合、2つの前駆体タンパク質間のポリペプチド鎖交換時に、第1の前駆体タンパク質に由来する抗原結合領域及び第2の前駆体タンパク質に由来する抗原結合領域を含む、多重特異性産物ポリペプチドが形成される。
【0134】
さらなる抗原結合部分は、前駆体タンパク質中に存在してよく、これは、より高い価数の産物ポリペプチドを提供するために、前駆体タンパク質に含まれるポリペプチド鎖のN末端又はC末端に融合され得る。
【0135】
そのようなさらなる抗原結合部分は、適切なペプチドコネクタを介してポリペプチド鎖に融合される。一実施形態において、ペプチドコネクタはグリシン-セリンリンカーである。
【0136】
本発明の一実施形態において、前駆体タンパク質において、CH3ドメインを含むポリペプチド鎖の1つのみが、抗原結合領域の少なくとも一部を含む。本発明の一実施形態において、前駆体タンパク質において、標的抗原に特異的に結合する抗原結合部位のCH3ドメインを含むポリペプチド鎖の1つ。本発明の一実施形態において、前駆体タンパク質において、CH3ドメインを含むポリペプチド鎖の1つは、N末端からC末端方向に、ヒンジ領域、抗体可変ドメイン及びCH3ドメインを含み、ポリペプチド鎖は、標的抗原に特異的に結合する抗原結合部位の一部ではない。本発明の一実施形態において、前駆体タンパク質において、CH3ドメインを含むポリペプチド鎖の1つは、N末端からC末端方向に、ヒンジ領域、抗体可変ドメイン、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含み、ポリペプチド鎖は、標的抗原に特異的に結合する抗原結合部位の一部ではない。
【0137】
c.前駆体タンパク質のドメイン配列
本発明による前駆体タンパク質は、種々の形式及び種々のドメイン配置の産物ポリペプチドの生成に適している。前駆体タンパク質に提供されるドメインの選択及び抗原結合領域の数に応じて、異なる抗原結合特性(例えば、特異性、結合価)及び異なるエフェクタ機能を有する産物ポリペプチドが生成され得る。
【0138】
一実施形態において、第1の前駆体ポリペプチド及び第2の前駆体タンパク質は、CH3ドメインを含む正確に2つのポリペプチド鎖を含む。したがって、CH3ドメインを欠くさらなるポリペプチド鎖が、第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とに含まれ得る。
【0139】
抗体断片
本発明の一実施形態において、抗原結合領域は、VHドメイン及びVLドメインの対を含み、これは、標的抗原に特異的に結合する抗原結合部位を形成し、かつ、
a)第1の前駆体タンパク質は、
- CH3ドメインと第1の抗体可変ドメインとを含む第1の重鎖ポリペプチド、
- CH3ドメインを含む第2の重鎖ポリペプチドであって、第1の重鎖ポリペプチドと第2の重鎖ポリペプチドがCH3ドメインを介して互いに会合してヘテロ二量体を形成しており、CH3ドメインの一方がノブ変異を含み、他方のCH3ドメインがホール変異を含む、第2の重鎖ポリペプチド;及び
- 第2の抗体可変ドメインを含む軽鎖ポリペプチドであって、第1及び第2の抗体可変ドメインが一緒に、標的抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部位を形成する、軽鎖ポリペプチド
を含み;
b)第2の前駆体タンパク質は、
- CH3ドメインと第3の抗体可変ドメインとを含む第3の重鎖ポリペプチド、
- CH3ドメインを含む第4の重鎖ポリペプチドであって、第3の重鎖ポリペプチドと第4の重鎖ポリペプチドがCH3ドメインを介して互いに会合してヘテロ二量体を形成しており、CH3ドメインの一方がノブ変異を含み、他方のCH3ドメインがホール変異を含む、第4の重鎖ポリペプチド;及び
- 第4の抗体可変ドメインを含む軽鎖ポリペプチドであって、第3及び第4の抗体可変ドメインが一緒に、標的抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部位を形成する、軽鎖ポリペプチド
を含み;
c)i)第1の重鎖ポリペプチドがノブ変異を含むCH3ドメインを含み、且つ第3の重鎖ポリペプチドがホール変異を含むCH3ドメインを含むか;又はii)第1の重鎖ポリペプチドがホール変異を含むCH3ドメインを含み、且つ第3の重鎖ポリペプチドがノブ変異を含むCH3ドメインを含む。
【0140】
CH2ドメインを含む前駆体タンパク質
本発明の一実施形態において、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを含む少なくとも2つのポリペプチド鎖を含む。CH2ドメインとCH3ドメインとを含む前駆体タンパク質は、Fc媒介エフェクター機能の媒介及び循環における長い半減期といった有利な特性を呈する。
【0141】
本発明の一実施形態において、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、N末端からC末端の方向に、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを含む少なくとも2つのポリペプチド鎖を含む。
【0142】
本発明の一実施形態では、i)第1の前駆体タンパク質が、VLドメインと、CH2ドメインと、CH3ドメインとを含む1つのポリペプチド鎖を含み、且つ第2の前駆体タンパク質が、VHドメインと、CH2ドメインと、CH3ドメインとを含む1つのポリペプチド鎖を含み、前記VLドメイン及び前記VHドメインは、VHドメインとVLドメインの対に会合すると、抗原に特異的に結合するか;又はii)第1の前駆体タンパク質が、VHドメインと、CH2ドメインと、CH3ドメインとを含む1つのポリペプチド鎖を含み、且つ第2の前駆体タンパク質が、VLドメインと、CH2ドメインと、CH3ドメインとを含む1つのポリペプチド鎖を含み、前記VLドメイン及び前記VHドメインは、VHドメインとVLドメインの対に会合すると、抗原に特異的に結合する。
【0143】
本発明の一実施形態では、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質はCH2ドメインを欠いている。CH2ドメインを欠く前駆体タンパク質は、循環からの迅速なクリアランスといった有利な特性を呈する。
【0144】
活性化可能な抗原結合部位
特定の実施形態では、各前駆体タンパク質は、抗原結合領域の一部を含み、前記抗原結合領域は、前駆体ポリペプチド内で非機能性であり、前駆体ポリペプチド間のポリペプチド鎖の交換により形成された産物ポリペプチド内で、抗原結合領域は機能性であり、標的抗原に特異的に結合する。特定の実施形態では、本発明の前駆体タンパク質は、前駆体タンパク質間のポリペプチド鎖交換後、すなわち活性化タンパク質でのみ機能的に活性なVH及びVLドメインの追加の対を含む。ポリペプチド鎖交換による抗原結合部位の活性化は、WO2019086362、PCT/EP2020/061412及びPCT/EP2020/061413に以前に記載されている。簡単に記載すると、一方の前駆体タンパク質は、目的の抗体に由来するVHドメインを含み、これが、CH2ドメイン又は異なる抗体由来のVLドメインのいずれかと対になる。どちらの場合も、機能的結合部位は形成されない。さらに、他方の前駆体タンパク質は、目的の抗体に由来する対応するVLドメインを含み、これが、CH2ドメイン又は異なる抗体由来のVHドメインのいずれかと対になる。ポリペプチド鎖交換時に、目的の抗体の両方の可変ドメインVH及びVLが活性化抗体内で組み合わされる。一実施形態では、目的の抗体は、T細胞抗原に、一実施形態ではCD3に特異的に結合する。このためには、両方の可変ドメインがCH3ドメインを有するポリペプチド上に配置されなければならず、VHドメインはノブ変異を有するCH3ドメイン上に配置され、VLドメインはホール変異を有するCH3ドメイン上に配置され、逆もまた同様である(すなわち、CH3-ホールポリペプチド上にVHドメイン及びCH3-ノブポリペプチド上にVL)。したがって、一実施形態では、a)活性化タンパク質は、抗原に特異的に結合するVHドメイン及びVLドメインの対を含み、VHドメインは第1の前駆体タンパク質由来のポリペプチドに含まれ、VLドメインは第2の前駆体タンパク質由来のポリペプチドに含まれるか;又は、b)活性化タンパク質は、抗原に特異的に結合するVHドメイン及びVLドメインの対を含み、VLドメインは第1の前駆体タンパク質由来のポリペプチドに含まれ、VHドメインは第2の前駆体タンパク質由来のポリペプチドに含まれる。一実施形態では、抗原はT細胞抗原、好ましくはCD3である。
【0145】
本発明の一実施形態において、前記抗原結合領域は、一対の抗体可変ドメインを含む抗原結合部位である。
【0146】
本発明の一実施形態において、第1の前駆体タンパク質は、VLドメイン及びCH3ドメインを含む1つのポリペプチド鎖を含み、第2の前駆体タンパク質は、VHドメイン及びCH3ドメインを含む1つのポリペプチド鎖を含み、前記VLドメイン及び前記VHドメインは、VHドメイン及びVLドメインの対に会合した場合に抗原に特異的に結合する。一実施形態において、VHドメイン及びVLドメインの対によって特異的に結合される抗原はCD3である。
【0147】
本発明の一実施形態において、第1の前駆体タンパク質は、N末端からC末端方向に、VLドメイン及びCH3ドメインを含む1つのポリペプチド鎖を含み、第2の前駆体タンパク質は、N末端からC末端方向に、VHドメイン及びCH3ドメインを含む1つのポリペプチド鎖を含み、前記VLドメイン及び前記VHドメインは、VHドメイン及びVLドメインの対に会合した場合に抗原に特異的に結合する。
【0148】
本発明の一実施形態では、
a)第1の前駆体タンパク質は、
a)N末端からC末端方向に、第1のVHドメインと、CH1ドメインと、VHドメイン及びVLドメインから選択される第2の抗体可変ドメインと、CH3ドメインとを含む第1の重鎖ポリペプチド、及び
b)N末端からC末端の方向に、第1の重鎖ポリペプチドの第2の抗体可変ドメインと会合することのできる抗体可変ドメインと、CH3ドメインとを含む第2の重鎖ポリペプチドであって、第1の重鎖ポリペプチドと第2の重鎖ポリペプチドがCH3ドメインを介して互いに会合してヘテロ二量体を形成しており、CH3ドメインの一方がノブ変異を含み、他方のCH3ドメインがホール変異を含む、第2の重鎖ポリペプチド;及び
c)N末端からC末端の方向に、第1のVLドメインとCLドメインを含む軽鎖ポリペプチドであって、第1のVHドメインと第1のVLドメインとが互いに結合して標的抗原に特異的に結合する抗原結合部位を形成する、軽鎖ポリペプチド
を含み;
b)第2の前駆体タンパク質は、
d)N末端からC末端方向に、第2のVHドメインと、CH1ドメインと、VHドメイン及びVLドメインから選択される第3の抗体可変ドメインと、CH3ドメインとを含む第3の重鎖ポリペプチド、及び
e)N末端からC末端の方向に、第3の重鎖ポリペプチドの第3の抗体可変ドメインと会合することのできる抗体可変ドメインと、CH3ドメインとを含む第4の重鎖ポリペプチドであって、第3の重鎖ポリペプチドと第4の重鎖ポリペプチドがCH3ドメインを介して互いに会合してヘテロ二量体を形成しており、CH3ドメインの一方がノブ変異を含み、他方のCH3ドメインがホール変異を含む、第4の重鎖ポリペプチド;及び
f)N末端からC末端の方向に、第2のVLドメインとCLドメインとを含む軽鎖ポリペプチドであって、第2のVHドメインと第2のVLドメインが互いに会合して、標的抗原に特異的に結合する抗原結合部位を形成する、軽鎖ポリペプチド
を含み;
c)i)第1の重鎖ポリペプチドがノブ変異を含むCH3ドメインを含み、且つ第3の重鎖ポリペプチドがホール変異を含むCH3ドメインを含むか;又はii)第1の重鎖ポリペプチドがホール変異を含むCH3ドメインを含み、且つ第3の重鎖ポリペプチドがノブ変異を含むCH3ドメインを含み;
d)第1の重鎖ポリペプチド及び第3の重鎖ポリペプチドの可変ドメインは、標的抗原に特異的に結合する抗原結合部位を形成することができる。
【0149】
一実施形態において、第1の重鎖ポリペプチドは、N末端からC末端の方向に、第1のVHドメインと、CH1ドメインと、VHドメイン及びVLドメインから選択される第2の抗体可変ドメインと、ペプチドコネクターと、CH3ドメインとを含み、第2の重鎖ポリペプチドは、N末端からC末端の方向に、第1の重鎖ポリペプチドの第2の抗体可変ドメインと会合することのできる抗体可変ドメインと、ペプチドコネクターと、CH3ドメインとを含み、第1の重鎖ポリペプチドと第2の重鎖ポリペプチドは、CH3ドメインを介して互いに会合してヘテロ二量体を形成しており、CH3ドメインの一方はノブ変異を含み、他方のCH3ドメインはホール変異を含み;第3の重鎖ポリペプチドは、N末端からC末端の方向に、第2のVHドメインと、CH1ドメインと、VHドメイン及びVLドメインから選択される第3の抗体可変ドメインと、ペプチドコネクターと、CH3ドメインとを含み、第4の重鎖ポリペプチドは、N末端からC末端の方向に、第3の重鎖ポリペプチドの第3の抗体可変ドメインと会合することのできる抗体可変ドメインと、ペプチドコネクターと、CH3ドメインとを含み、第3の重鎖ポリペプチドと第4の重鎖ポリペプチドはCH3ドメインを介して互いに会合してヘテロ二量体を形成しており、CH3ドメインの一方はノブ変異を含み、他方のCH3ドメインはホール変異を含む。一実施形態において、第1、第2、第3及び第4の重鎖ポリペプチドに含まれるペプチドコネクターは同一である。
【0150】
一実施形態において、第1の前駆体タンパク質では、第1の重鎖ポリペプチドに含まれる第2の抗体可変ドメインは、第1の標的抗原に特異的に結合する抗体に由来しており、第2の重鎖ポリペプチドに含まれる抗体可変ドメインは、第2の標的抗原に特異的に結合する。両方の可変ドメインは、互いに会合することができる。したがって、重鎖ポリペプチドの一方はVHドメインを含み、他方の重鎖ポリペプチドはVLドメインを含む。VHドメインとVLドメインは、互いに会合することができる。しかしながら、非機能性抗原結合部位が形成される。したがって、本発明の文脈で用語「互いに会合することのできる可変ドメイン」は、VHドメインとVLドメインの対が提供されることを意味する。この実施形態では、第2の前駆体タンパク質内で、第3の重鎖ポリペプチドに含まれる第3の抗体可変ドメインは、第1の標的抗原に特異的に結合する抗体に由来しており(即ち第1の前駆体タンパク質の第1の重鎖ポリペプチドに含まれる第2の可変ドメインと機能性VH/VL対を形成することができる)、第4の重鎖ポリペプチドに含まれる抗体可変ドメインは、別の、例えば第2の、標的抗原に特異的に結合する。第1の重鎖ポリペプチド及び第3の重鎖ポリペプチドに含まれる可変ドメインは、互いに会合することができ、即ち可変ドメインの一方がVHドメインであり、可変ドメインの他方がVLドメインであり;第1の重鎖ポリペプチド及び第3の重鎖ポリペプチドに含まれる可変ドメインは、標的抗原に特異的に結合する抗原結合部位を形成することができ、即ち両方の可変ドメインが、標的抗原に特異的に結合する同じ抗体に由来している。
【0151】
本発明の一実施形態において、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、N末端からC末端の方向に、CH2ドメインとCH3ドメインとを含む少なくとも2つのポリペプチド鎖を含み、第1の前駆体タンパク質は、N末端からC末端の方向に、VLドメインと、CH2ドメインと、CH3ドメインとを含む1つのポリペプチド鎖を含み、第2の前駆体タンパク質は、N末端からC末端の方向に、VHドメインと、CH2ドメインと、CH3ドメインとを含む1つのポリペプチド鎖を含み、VLドメインとVHドメインは、標的抗原に特異的に結合する抗原結合部位を形成することができる。
【0152】
本発明の一実施形態では、
a)第1の前駆体タンパク質は、
a)N末端からC末端の方向に、第1のVHドメインと、CH1ドメインと、VHドメイン及びVLドメインから選択される第2の抗体可変ドメインと、CH2ドメインと、CH3ドメインとを含む第1の重鎖ポリペプチド、
b)N末端からC末端の方向に、第1の重鎖ポリペプチドの第2の抗体可変ドメインと会合することのできる抗体可変ドメインと、CH2ドメインと、CH3ドメインとを含む第2の重鎖ポリペプチドであって、第1の重鎖ポリペプチドと第2の重鎖ポリペプチドがCH3ドメインを介して互いに会合してヘテロ二量体を形成しており、CH3ドメインの一方がノブ変異を含み、他方のCH3ドメインがホール変異を含む、第2の重鎖ポリペプチド;及び
c)N末端からC末端の方向に、第1のVLドメインとCLドメインを含む軽鎖ポリペプチドであって、第1のVHドメインと第1のVLドメインとが互いに結合して標的抗原に特異的に結合する抗原結合部位を形成する、軽鎖ポリペプチド
を含み;
b)第2の前駆体タンパク質は、
d)N末端からC末端の方向に、第2のVHドメインと、CH1ドメインと、VHドメイン及びVLドメインから選択される第3の抗体可変ドメインと、CH2ドメインと、CH3ドメインとを含む第3の重鎖ポリペプチド、
e)N末端からC末端の方向に、第3の重鎖ポリペプチドの第3の抗体可変ドメインと会合することのできる抗体可変ドメインと、CH2ドメインと、CH3ドメインとを含む第4の重鎖ポリペプチドであって、第3の重鎖ポリペプチドと第4の重鎖ポリペプチドがCH3ドメインを介して互いに会合してヘテロ二量体を形成しており、CH3ドメインの一方がノブ変異を含み、他方のCH3ドメインがホール変異を含む、第4の重鎖ポリペプチド;及び
f)N末端からC末端の方向に、第2のVLドメインとCLドメインとを含む軽鎖ポリペプチドであって、第2のVHドメインと第2のVLドメインが互いに会合して、標的抗原に特異的に結合する抗原結合部位を形成する、軽鎖ポリペプチド
を含み;
c)i)第1の重鎖ポリペプチドがノブ変異を含むCH3ドメインを含み、且つ第3の重鎖ポリペプチドがホール変異を含むCH3ドメインを含むか;又はii)第1の重鎖ポリペプチドがホール変異を含むCH3ドメインを含み、且つ第3の重鎖ポリペプチドがノブ変異を含むCH3ドメインを含み;
d)第1の重鎖ポリペプチド及び第3の重鎖ポリペプチドの可変ドメインは、標的抗原に特異的に結合する抗原結合部位を形成することができる。
【0153】
一実施形態において、第1の重鎖ポリペプチドは、N末端からC末端の方向に、第1のVHドメインと、CH1ドメインと、VHドメイン及びVLドメインから選択される第2の抗体可変ドメインと、ペプチドコネクターと、CH2ドメインと、CH3ドメインとを含み、第2の重鎖ポリペプチドは、N末端からC末端の方向に、第1の重鎖ポリペプチドの第2の抗体可変ドメインと会合することのできる抗体可変ドメインと、ペプチドコネクターと、CH2ドメインと、CH3ドメインとを含み、第1の重鎖ポリペプチドと第2の重鎖ポリペプチドは、CH3ドメインを介して互いに会合してヘテロ二量体を形成しており、CH3ドメインの一方はノブ変異を含み、他方のCH3ドメインはホール変異を含み;第3の重鎖ポリペプチドは、N末端からC末端の方向に、第2のVHドメインと、CH1ドメインと、VHドメイン及びVLドメインから選択される第3の抗体可変ドメインと、ペプチドコネクターと、CH2ドメインと、CH3ドメインとを含み、第4の重鎖ポリペプチドは、N末端からC末端の方向に、第3の重鎖ポリペプチドの第3の抗体可変ドメインと会合することのできる抗体可変ドメインと、ペプチドコネクターと、CH2ドメインと、CH3ドメインとを含み、第3の重鎖ポリペプチドと第4の重鎖ポリペプチドはCH3ドメインを介して互いに会合してヘテロ二量体を形成しており、CH3ドメインの一方はノブ変異を含み、他方のCH3ドメインはホール変異を含む。一実施形態において、第1、第2、第3及び第4の重鎖ポリペプチドに含まれるペプチドコネクターは同一である。
【0154】
鎖間ジスルフィド結合
本発明の前駆体タンパク質は抗体ベースの構造を有するので、前駆体タンパク質の個々のポリペプチド間の鎖間ジスルフィドが存在し得る。しかしながら、鎖間ジスルフィドを介して連結されたポリペプチド間のポリペプチド鎖交換は、ジスルフィド結合の還元後にのみ起こり、これは治療的使用には望ましくない。したがって、治療のために、前駆体タンパク質は、二量体化ドメインを含むポリペプチド間の鎖間ジスルフィド結合を欠いている。これを実現するために、天然に存在するジスルフィド結合は、当技術分野で公知の適切なアミノ酸変異(付加、欠失、置換)によって除去される。
【0155】
ヒンジ領域
一実施形態では、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質はヒンジ領域を含む。一実施形態において、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、ヒンジ領域に鎖間ジスルフィド結合を含まない。
【0156】
本発明の一実施形態において、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、N末端からC末端の方向に、ヒンジ領域とCH3ドメインとを含む少なくとも2つのポリペプチド鎖を含む。
【0157】
本発明の一実施形態において、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、N末端からC末端の方向に、ヒンジ領域、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを含む少なくとも2つのポリペプチド鎖を含む。
【0158】
本発明の一実施形態において、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、ヒンジ領域に鎖間ジスルフィド結合を含まない。鎖間ジスルフィド結合のないヒンジ領域を有する前駆体タンパク質は、還元剤の非存在下でポリペプチド鎖交換を受けることができる。したがって、鎖間ジスルフィド結合のないヒンジ領域を有する前駆体タンパク質は、還元剤の存在が不可能であるか、又は望ましくない用途に特に適している。したがって、これらの前駆体タンパク質は、治療に有利に使用し得る。
【0159】
本発明の一実施形態において、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、鎖間ジスルフィドを形成しない天然ヒンジ領域を含む。一例は、IgG4アイソタイプの抗体に由来するヒンジ領域ペプチドである。
【0160】
鎖間ジスルフィド結合を含まないヒンジ領域の代わりに、前駆体タンパク質は、抗原結合領域(の一部)と定常抗体ドメイン(即ちCH2又はCH3)を接続するペプチドコネクターを含んでもよい。本発明の一実施形態において、第1及び第2のペプチドコネクタの間に鎖間ジスルフィド結合は形成されない。本発明の一実施形態において、第1及び第2のペプチドコネクタは互いに同一である。
【0161】
本発明の一実施形態において、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、N末端からC末端の方向に、ペプチドコネクタとCH3ドメインとを含む少なくとも2つのポリペプチド鎖を含む。
【0162】
本発明の一実施形態において、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、N末端からC末端の方向に、ペプチドコネクタ、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを含む少なくとも2つのポリペプチド鎖を含む。
【0163】
本発明の一実施形態において、第1の前駆体タンパク質は、第1のペプチドコネクターと,抗体可変ドメインと,任意にCH2ドメインと,CH3ドメインとを含む第1のポリペプチド鎖,及び第1のペプチドコネクターと,第1のポリペプチド鎖からの抗体可変ドメインと会合することのできる抗体可変ドメインと、任意にCH2ドメインと,CH3ドメインとを含む第2のポリペプチド鎖を含み;第2の前駆体タンパク質は、第1のペプチドコネクターと,抗体可変ドメインと,任意選択的にCH2ドメインと,CH3ドメインとを含む第1のポリペプチド鎖,及び第1のペプチドコネクターと,第1のポリペプチド鎖からの抗体可変ドメインと会合することのできる抗体可変ドメインと、任意にCH2ドメインと,CH3ドメインとを含む第2のポリペプチド鎖を含む。
【0164】
本発明の一実施形態において、ペプチドコネクタは、少なくとも15アミノ酸のペプチドである。本発明の他の実施形態において、ペプチドコネクタは、15~70アミノ酸のペプチドである。本発明の他の実施形態において、ペプチドコネクタは、20~50アミノ酸のペプチドである。本発明の他の実施形態において、ペプチドコネクタは、10~50アミノ酸のペプチドである。例えば、活性化可能な結合部位によって結合される抗原の種類に応じて、より短い(又はさらに長い)ペプチドコネクタも、本発明による前駆体タンパク質に適用可能であり得る。
【0165】
本発明のさらに他の実施形態において、第1及び第2のペプチドコネクタは、天然のヒンジ領域(IgG1アイソタイプの天然抗体分子については約15アミノ酸であり、IgG3アイソタイプについては約62アミノ酸である)とほぼ同じ長さである。したがって、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質がIgG1アイソタイプである一実施形態において、ペプチドコネクタは10~20アミノ酸、好ましい一実施形態においては12~17アミノ酸のペプチドである。第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質がIgG3アイソタイプである別の一実施形態において、ペプチドコネクタは55~70アミノ酸、好ましい一実施形態においては60~65アミノ酸のペプチドである。
【0166】
本発明の一実施形態において、ペプチドコネクタはグリシン-セリンリンカーである。本発明の一実施形態において、ペプチドコネクタは、グリシン残基及びセリン残基からなるペプチドである。本発明の一実施形態において、グリシン-セリンリンカーは、構造
(GxS)n又は(GxS)nGm
(式中、G=グリシン、S=セリン、x=3又は4、n=2、3、4、5又は6、及びm=0、1、2又は3である)
のものである。
【0167】
上記で定義されたグリシン-セリンリンカーの一実施形態において、x=3、n=3、4、5又は6、及びm=0、1、2又は3;又はx=4、n=2、3、4又は5、及びm=0、1、2又は3である。1つの好ましい実施形態において、x=4、及びn=2又は3、及び、m=0である。一のさらに他の好ましい実施形態において、x=4、及びn=2である。一実施形態において、前記ペプチドコネクタは(G4S)4又は(G4S)6である。
【0168】
本発明の一実施形態では、i)第1の前駆体タンパク質が、VLドメインと、ペプチドコネクタと、CH3ドメインとを含む1つのポリペプチド鎖を含み、且つ第2の前駆体タンパク質が、VHドメインと、ペプチドコネクタと、CH3ドメインとを含む1つのポリペプチド鎖を含み、前記VLドメイン及び前記VHドメインは、VHドメインとVLドメインの対に会合すると、抗原に特異的に結合するか;又はii)第1の前駆体タンパク質が、VHドメインと、ペプチドコネクタと、CH3ドメインとを含む1つのポリペプチド鎖を含み、且つ第2の前駆体タンパク質が、VLドメインと、ペプチドコネクタと、CH3ドメインとを含む1つのポリペプチド鎖を含み、前記VLドメイン及び前記VHドメインは、VHドメインとVLドメインの対に会合すると、抗原に特異的に結合する。
【0169】
本発明の一実施形態では、i)第1の前駆体タンパク質が、VLドメインと、ペプチドコネクタと、CH2ドメインと、CH3ドメインとを含む1つのポリペプチド鎖を含み、且つ第2の前駆体タンパク質が、VHドメインと、ペプチドコネクタと、CH2ドメインと、CH3ドメインとを含む1つのポリペプチド鎖を含み、前記VLドメイン及び前記VHドメインは、VHドメインとVLドメインの対に会合すると、抗原に特異的に結合するか;又はii)第1の前駆体タンパク質が、VHドメインと、ペプチドコネクタと、CH2ドメインと、CH3ドメインとを含む1つのポリペプチド鎖を含み、且つ第2の前駆体タンパク質が、VLドメインと、ペプチドコネクタと、CH2ドメインと、CH3ドメインとを含む1つのポリペプチド鎖を含み、前記VLドメイン及び前記VHドメインは、VHドメインとVLドメインの対に会合すると、抗原に特異的に結合する。
【0170】
抗体アイソタイプ
本発明の一実施形態において、前駆体ポリペプチドは、1つ以上の免疫グロブリンクラスの免疫グロブリン定常領域を含む。免疫グロブリンクラスには、IgG、IgM、IgA、IgD、及びIgEアイソタイプが含まれ、IgG及びIgAの場合はそれらのサブタイプが含まれる。本発明の一実施形態において、前駆体ポリペプチドはIgG型抗体の定常ドメイン構造を有する。
【0171】
本発明の一実施形態において、前駆体ポリペプチドに含まれるCH3ドメインは、哺乳動物IgGクラスのものである。本発明の一実施形態において、前駆体ポリペプチドに含まれるCH3ドメインは、哺乳動物IgG1サブクラスのものである。本発明の一実施形態において、前駆体ポリペプチドに含まれるCH3ドメインは、哺乳動物IgG4サブクラスのものである。
【0172】
本発明の一実施形態において、前駆体ポリペプチドに含まれるCH3ドメインは、ヒトIgGクラスのものである。本発明の一実施形態において、前駆体ポリペプチドに含まれるCH3ドメインは、ヒトIgG1サブクラスのものである。本発明の一実施形態において、前駆体ポリペプチドに含まれるCH3ドメインは、ヒトIgG4サブクラスのものである。
【0173】
一実施形態において、本発明による前駆体ポリペプチドの定常ドメインは、ヒトIgGクラスのものである。一実施形態において、本発明による前駆体ポリペプチドの定常ドメインは、ヒトIgG1サブクラスのものである。一実施形態において、本発明による前駆体ポリペプチドの定常ドメインは、ヒトIgG4サブクラスのものである。
【0174】
一実施形態において、前駆体ポリペプチドはCH4ドメインを欠いている。
【0175】
本発明の一実施形態において、本発明による前駆体ポリペプチドの定常ドメインは、同じ免疫グロブリンサブクラスのものである。本発明の一実施形態において、本発明による前駆体ポリペプチドの可変ドメインと定常ドメインは、同じ免疫グロブリンサブクラスのものである。
【0176】
本発明の一実施形態において、前駆体ポリペプチドは単離された前駆体ポリペプチドである。本発明の一実施形態において、産物ポリペプチドは単離された産物ポリペプチドである。
【0177】
一実施形態において、CH3ドメインを含むポリペプチド鎖を含む前駆体タンパク質又はヘテロ二量体産物ポリペプチドは、全長CH3ドメイン又はCH3ドメインを含み、1つ又は2つのC末端アミノ酸残基、すなわちG446及び/又はK447は存在しない。
【0178】
一実施形態において、第1の前駆体タンパク質は単一特異性であり、第2の抗原結合部位の一部を含み、第2の前駆体タンパク質は単一特異性であり、第2の抗原結合部位の他の部分を含む。前記実施形態において、ヘテロ二量体産物ポリペプチドは二重特異性又は三重特異性である。
【0179】
一実施形態において、第1の前駆体タンパク質は単一特異性であり、第2の抗原結合部位の一部を含み、第2の前駆体タンパク質は単一特異性であり、第2の抗原結合部位の他の部分を含む。前記実施形態において、ヘテロ二量体産物ポリペプチドは三重特異性である。
【0180】
一実施形態において、第1の前駆体タンパク質は二重特異性である。一実施形態において、第2の前駆体タンパク質は単一特異性である。
【0181】
一実施形態において、第1の前駆体タンパク質は二重特異性である。一実施形態において、第2の前駆体タンパク質は二重特異性である。
【0182】
一実施形態において、第1の前駆体タンパク質は一価である。一実施形態において、第2の前駆体タンパク質は一価である。
【0183】
一実施形態において、第1の前駆体タンパク質は二価である。一実施形態において、第2の前駆体タンパク質は二価である。
【0184】
一実施形態において、第1の前駆体タンパク質は三価である。一実施形態において、第2の前駆体タンパク質は三価である。
【0185】
一実施形態において、ヘテロ二量体産物ポリペプチドは三価である。一実施形態において、ヘテロ二量体産物ポリペプチドは四価である。
【0186】
E)治療への応用
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様について上で定義した第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質を含む、治療キットに関する。一実施形態では、治療キットは、第1の前駆体タンパク質を含む第1の医薬組成物と、第2の前駆体タンパク質を含む第2の医薬組成物とを含む。一実施形態では、本発明の治療キットは医薬として使用するためのものである。一実施形態では、本発明の治療キットは、CD3に特異的に結合する活性化可能な抗原結合部位を有する第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質を含み、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、癌細胞上の抗原に特異的に結合する抗原結合領域を含み、癌の処置における医薬として使用するためのものである。一実施形態では、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、癌細胞上の異なる抗原に結合する抗原結合領域を含む。
【0187】
第3の態様では、本発明は、部分の活性化形態を生成するための、本発明の第1の態様について上で定義した第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質のセットの使用に関する。
【0188】
第4の態様では、本発明は、治療のための、本発明の第1の態様について上で定義した第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質のセットの使用に関する。一実施形態では、治療は癌の処置である。
【0189】
第5の態様では、本発明は、本発明の第2の態様による治療キットを提供する方法であって、組換え発現された第1の前駆体タンパク質及び組換え発現された第2の前駆体タンパク質を提供する工程と、第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とを、任意に、薬学的に許容され得る担体と共に製剤化して、治療キットを提供する工程とを含む方法に関する。
【0190】
本発明によるタンパク質は、組換え手段によって産生される。タンパク質、例えば抗体の組換え生産のための方法は、当技術分野で広く知られており、原核生物及び真核生物宿主細胞におけるタンパク質発現と、それに続くポリペプチドの単離、及び通常は薬学的に許容され得る純度への精製を含む。宿主細胞における前述のようなポリペプチドの発現のために、それぞれのポリペプチド鎖をコードする核酸が、標準的な方法によって発現ベクターに挿入される。発現は、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6細胞、酵母、又は大腸菌(E.coli)細胞等の適切な原核生物又は真核生物の宿主細胞で行われ、抗体は細胞(上清又は溶解後の細胞)から回収される。ポリペプチド、例えば抗体の組換え生産のための一般的な方法は、最先端技術でよく知られており、例えば、Makrides,S.C.,Protein Expr.Purif.17(1999)183-202;Geisse,S.等のProtein Expr.Purif.8(1996)271-282;Kaufman,R.J.,Mol.Biotechnol.16(2000)151-161;Werner,R.G.,Drug Res.48(1998)870-880の総説に記載されている。
【0191】
F)活性化タンパク質を生成する方法
第6の態様では、本発明は、活性化タンパク質を生成する方法であって、a)組換え発現された第1の前駆体タンパク質及び組換え発現された第2の前駆体タンパク質を提供する工程と、b)活性化タンパク質が形成されるように、前駆体タンパク質間のポリペプチド鎖交換を可能にする条件下で第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とを組み合わせる工程とを含み、活性化タンパク質が、第1の前駆体タンパク質に由来するポリペプチド及び第2の前駆体タンパク質に由来するポリペプチドを含む、方法に関する。
【0192】
第6の態様の一実施形態において、本発明は、産物タンパク質を生成する方法を提供し,この方法は、本発明による第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質を接触させて、第1の前駆体タンパク質からのCH3ドメインを含む少なくとも1つのポリペプチド鎖と、第2のヘテロ二量体ポリペプチドからのCH3ドメインを含む少なくとも1つのポリペプチド鎖とを含む第3のヘテロ二量体ポリペプチドを形成することを含む。本発明の一実施形態において、本方法は、第3のヘテロ二量体ポリペプチドを回収するステップを含む。
【0193】
一実施形態において、本発明による第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とを接触させて、第1の前駆体タンパク質からのCH3ドメインを含む少なくとも1つのポリペプチド鎖と、第2のヘテロ二量体ポリペプチドからのCH3ドメインを含む少なくとも1つのポリペプチド鎖とを含む第3のヘテロ二量体ポリペプチド、及び前駆体タンパク質からのCH3ドメインを含む他のポリペプチドと、第2の前駆体タンパク質からのCH3ドメインを含む他のポリペプチドとを含む第4のヘテロ二量体ポリペプチドを形成する。一実施形態において、方法は、第4のヘテロ二量体産物ポリペプチドを回収する工程を含む。
【0194】
本発明の一実施形態において、方法は、第3のヘテロ二量体産物ポリペプチド及び第4のヘテロ二量体産物ポリペプチドの形成を含み、産物ポリペプチドの一方(即ち第3のヘテロ二量体産物ポリペプチド、又は第4のヘテロ二量体産物ポリペプチド)は、抗原に特異的に結合する抗原結合部位を含まない。
【0195】
本発明の一実施形態において、第1の前駆体タンパク質は、第1の抗原に特異的に結合する抗原結合部分を含み、第2の抗原結合部位の一部を含み、第2の前駆体タンパク質は、第3の抗原に特異的に結合する抗原結合部分を含み、第2の抗原結合部位の他の部分を含み、第3のヘテロ二量体ポリペプチドは、第1の抗原に特異的に結合する抗原結合部分、第2の抗原に特異的に結合する抗原結合部分、及び第3の抗原に特異的に結合する抗原結合部分を含む。
【0196】
本発明の一実施形態において、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、鎖間ジスルフィド結合を含まないヒンジ領域を含む。この場合、ポリペプチド鎖交換は、還元剤の非存在下で起こり得る。したがって、一実施形態では、第1の前駆体タンパク質及び第2の前駆体タンパク質は、鎖間ジスルフィド結合を含まないヒンジ領域を含み、第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とを、還元剤の非存在下で接触させる。
【0197】
本発明の一実施形態において、第1及び第2のヘテロ二量体ポリペプチドの、CH3ドメインを含む2つのポリペプチド鎖間に鎖間ジスルフィド結合は形成されず、接触は還元剤の非存在下で実施される。
【0198】
第7の態様では、本発明は、本発明の第6の態様による方法によって産生される活性化タンパク質に関する。
【0199】
本発明の一態様は、CH3ドメインを含む少なくとも2つのポリペプチド鎖を含む活性化タンパク質、一実施形態ではヘテロ二量体活性化産物タンパク質であり、CH3ドメインを含む2つのポリペプチド鎖は不安定化変異を含まない。
【0200】
産物ポリペプチドを生成する方法の他の産物、したがって本発明の他の態様は、好ましくは本発明の方法によって得られる産物ポリペプチドであり、CH3ドメインを含む2つのポリペプチド鎖を含み、CH3ドメインの両方が不安定化変異を含まない。
【0201】
3.本発明の特定の実施形態
以下に、本発明の特定の実施形態を列挙する。
【0202】
1.第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセットであって、
各前駆体タンパク質は、二量体化ドメインを介して互いに会合した2つのポリペプチドを含み、
前駆体タンパク質の少なくとも1つは、受容体リガンド及び酵素から選択される部分を含み、前記部分は機能的に不活性であり、前記部分は二量体化ドメインに融合され、
第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質との間のポリペプチド鎖交換時に、活性化タンパク質が形成され、
活性化タンパク質が、第1の前駆体タンパク質由来の1つのポリペプチド及び第2の前駆体タンパク質由来の1つのポリペプチドを含み、両方のポリペプチドがそれらの二量体化ドメインを介して互いに会合しており、かつ、活性化タンパク質が前記部分を含み、
活性化タンパク質が前記部分を機能的に活性な形態で含むこと、を特徴とする、
前記第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0203】
2.前記第1の前駆体タンパク質又は前記第2の前駆体タンパク質のいずれかが、受容体リガンド及び酵素から選択される部分を含み、前記部分が不活性化部分に結合している、実施形態1に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0204】
3.前記部分が、受容体リガンドであり、前記不活性化部分が、対応する受容体又はそのリガンド結合サブユニットである、実施形態2に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0205】
4.前記受容体リガンドがサイトカインであり、前記不活性化部分が、対応するサイトカイン受容体又はそのサイトカイン結合サブユニットである、実施形態3に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0206】
5.前記受容体リガンドがIL-2vであり、前記不活性化部分がIL-2Rのサブユニット、好ましくはIL-2Rベータ、IL-2Rガンマ鎖、IL-2Rベータ_ガンマ鎖から選択される、実施形態3に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0207】
6.前記第1の前駆体タンパク質及び前記第2の前駆体タンパク質が、受容体リガンド及び酵素から選択される前記部分の相補的サブユニットを含む、実施形態1に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0208】
7.前記第1の前駆体タンパク質が、前記部分の第1の非改変サブユニット及び前記部分の第2のサブユニットを含み、前記第2のサブユニットが不活性化変異を含み;前記第2の前駆体タンパク質が、前記部分の第2の非改変サブユニットを含む、実施形態6に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0209】
8.前記部分が受容体リガンドである、実施形態7に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0210】
9.前記受容体リガンドがサイトカインであり、前記第1の前駆体タンパク質が、前記サイトカインの第1のサブユニット及び前記サイトカインの第2のサブユニットを含み、前記第2のサブユニットが不活性化変異を含み;前記第2の前駆体タンパク質が、前記サイトカインの第2の非改変サブユニットを含む、実施形態8に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0211】
10.前記第1の前駆体タンパク質が、IL-12 p35及び不活性化変異を含むIL-12 p40を含み;前記第2の前駆体タンパク質が、非改変IL-12 p40を含む、実施形態9に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0212】
11.前記第1の前駆体タンパク質が、IL-12 p35及び不活性化変異を含むIL-12 p40を含み;前記第2の前駆体タンパク質が、非改変IL-12 p40及び不活性化変異を含むIL-12 p35を含む、実施形態10に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0213】
12.前記第1の前駆体タンパク質及び前記第2の前駆体タンパク質が、受容体リガンド及び酵素から選択される人工的に分割された部分の相補部分を含み、前記相補部分の1つが不活性化されている、実施形態1に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0214】
13.前記部分が受容体リガンドである、実施形態12に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0215】
14.前記受容体リガンドがサイトカインである、実施形態13に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0216】
15.前記人工的に分割された部分がスプリットサイトカインである、実施形態14に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0217】
16.前記受容体リガンドが酵素である、実施形態15に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0218】
17.前記人工的に分割された部分がスプリット酵素である、実施形態16に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0219】
18.前記二量体化ドメインがCH3ドメインである、先行する実施形態のいずれか一つに記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0220】
19.前記第1の前駆体タンパク質と前記第2の前駆体タンパク質との間のポリペプチド鎖交換を支持するために、前記CH3ドメインが、改変された界面を有する、実施形態18に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0221】
20.前記第1の前駆体タンパク質及び前記第2の前駆体タンパク質はそれぞれ、CH3ドメインを含む2つのポリペプチドを含み、一方のCH3ドメインはノブ変異を含み、他方のCH3ドメインはホール変異を含む、実施形態18又は19に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0222】
21.i)第1の前駆体タンパク質のノブ変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含み、第2の前駆体タンパク質のホール変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含むか、又はii)第1の前駆体タンパク質のホール変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含み、第2の前駆体タンパク質のノブ変異を含むCH3ドメインがシステイン変異を含むかのいずれかである、実施形態20に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0223】
22.i)ノブ変異を含む第1の前駆体タンパク質のCH3ドメイン及びホール変異を含む第2の前駆体タンパク質のCH3ドメイン、又はii)ホール変異を含む第1の前駆体タンパク質のCH3ドメイン及びノブ変異を含む第2の前駆体タンパク質のCH3ドメインは、少なくとも1つの相補的不安定化変異を含むが、第1及び第2の前駆体ポリペプチドの他の2つのCH3ドメインは不安定化変異を含まない、実施形態20又は22に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0224】
23.前記前駆体タンパク質が、細胞の表面に結合したときにポリペプチド鎖交換を受けることができる、先行する実施形態のいずれか一つに記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0225】
24.前記第1の前駆体タンパク質及び前記第2の前駆体タンパク質が、標的細胞の表面上の抗原に特異的に結合する、先行する実施形態のいずれか一つに記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0226】
25.前記第1の前駆体タンパク質及び前記第2の前駆体タンパク質が抗体結合領域を含む、先行する実施形態のいずれか一つに記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0227】
26.前記第1の前駆体タンパク質及び前記第2の前駆体タンパク質が抗体断片を含む、先行する実施形態のいずれか一つに記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0228】
27.前記第1の前駆体タンパク質及び前記第2の前駆体タンパク質がヒンジ領域を含む、先行する実施形態のいずれか一つに記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0229】
28.前記第1の前駆体タンパク質及び前記第2の前駆体タンパク質が、ヒンジ領域に鎖間ジスルフィド結合を含まない、実施形態27に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0230】
29.a)前記活性化タンパク質は、抗原に特異的に結合するVHドメイン及びVLドメインの対を含み、前記VHドメインは前記第1の前駆体タンパク質由来の前記ポリペプチドに含まれ、前記VLドメインは前記第2の前駆体タンパク質由来の前記ポリペプチドに含まれるか;又は
B)前記活性化タンパク質は、抗原に特異的に結合するVHドメイン及びVLドメインの対を含み、前記VLドメインは前記第1の前駆体タンパク質由来の前記ポリペプチドに含まれ、前記VHドメインは前記第2の前駆体タンパク質由来の前記ポリペプチドに含まれる、先行する実施形態のいずれか一つに記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0231】
30.前記抗原がT細胞抗原、好ましくはCD3である、実施形態29に記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセット。
【0232】
31.先行する実施形態のいずれか一つにおいて定義される第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とを含む、治療キット。
【0233】
32.前記部分の活性化形態を生成するための、実施形態1~30のいずれか一つで定義される第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセットの使用。
【0234】
33.治療のための、実施形態1~30のいずれか一つで定義される第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセットの使用。
【0235】
34.組換え発現された第1の前駆体タンパク質及び組換え発現された第2の前駆体タンパク質を提供する工程と、前記第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とを、任意に、薬学的に許容され得る担体と共に製剤化して、治療キットを提供する工程とを含む、実施形態31に記載の治療キットを提供する方法。
【0236】
35.実施形態1~30のいずれか一つで定義される第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質との間のポリペプチド鎖交換によって産生される活性化タンパク質。
【0237】
36.第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質との間のポリペプチド鎖交換を可能にする条件下で、実施形態1から30のいずれか一つで定義される第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とを組み合わせる工程を含む、実施形態35に記載の活性化タンパク質を生成する方法。
【0238】
37.実施形態1~30のいずれか一つに記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質とのセットと、薬学的に許容され得る担体とを含む、医薬組成物。
【0239】
38.疾患を有する個体を処置する方法であって、有効量の実施形態1~30のいずれか一つに記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質と又は実施形態37に記載の医薬組成物を前記個体に投与することを含む、方法。
【0240】
39.第1及び第2のヘテロ二量体前駆体ポリペプチド中で、B)に示されるVHドメインとVLドメインが、癌の処置における使用のための、CD3に特異的に結合する抗原結合部位を形成することができる、実施形態1~30のいずれか一つに記載の前駆体タンパク質のセット。
【0241】
40.癌を有する個体を処置する方法であって、個体に対し、実施形態1~30のいずれか1つに記載の第1の前駆体タンパク質と第2の前駆体タンパク質との有効量を投与することを含み、第1及び第2のヘテロ二量体前駆体ポリペプチド中で、B)に示されるVHドメインとVLドメインが、CD3に特異的に結合する抗原結合部位を形成することができる、方法。
【0242】
【実施例】
【0243】
以下の実施例は、本発明の理解を助けるために提供されており、その真の範囲は、特許請求の範囲に明記されている。本発明の思想から逸脱することなく、定められた手順に変更を加えることができると理解される。
【0244】
【0245】
示された図には、以下の組換えタンパク質が示されている(以下の表1、2及び3によるタンパク質名):
【0246】
実施例1:
人工的に分割されたIL-4を含む活性化可能な前駆体タンパク質の設計
図1に示される一般的なドメイン配列の前駆体タンパク質を調製した。2つの前駆体タンパク質(R1及びR2)は、ノブ及びホール変異並びにさらなる不安定化変異を有するCH3ドメインを含む。前駆体タンパク質は半IgG様形状を有し、VH/VLドアミンの非機能性対がCH3ドメインのN末端に配置されている。前駆体タンパク質は、CD38又はHer2に特異的に結合するFab断片をさらに含む。
【0247】
図1bに示すように、スプリットIL-4の一部を各ポリペプチドのC末端に融合した。2つの前駆体タンパク質は、機能的に不活性であるが、ポリペプチド鎖交換時、産物タンパク質の1つ、すなわち活性化タンパク質における活性化IL-4分子と組み合わされるサイトカイン部分を含む(
図1b)。これは、活性化されたIL-4部分をR1のCH3(ノブ)ポリペプチドに融合し、対応する活性化されたIL-4部分をR2のCH3(ホール)ポリペプチドに融合することによって実現された。
【0248】
スプリットIL-4分子の設計を以下のように行った:ヒトインターロイキン-4は、本明細書においてA、B、C及びDと称される4つのαヘリックスドメインを有する単一のポリペプチド鎖からなる。IL-4の2つの異なるスプリット設計を行った。
【0249】
- 「3+1」スプリット設計では、1つのジスルフィド架橋をC3S及びC128S変異によって除去した。第1のヘリックス(残基1~21)は、3+1スプリットIL-4の一部(「A」)を構成し、残りの構造(残基22~130)は、3+1スプリットIL-4の他の部分(「BCD」)を構成する(
図2a)。スプリットIL-4 PACEアプローチのために、2つのスプリットIL-4単位を、前駆体タンパク質のCH3ドメインのC末端にフレキシブルリンカーで融合した。各分子(R1、R2、P1、P2)は、1つの「BCD」単位及び1つの「A」単位を担持していた。
- 「2+2」スプリット設計では、IL-4のC末端及びN末端を7残基のフレキシブルリンカーと接続し、新しいC末端及びN末端をそれぞれP100及びV101に設定することによって、IL-4を環状に置換した。最初の2つのヘリックスは、2+2スプリットIL-4の一部(「DA」)を構成し、残りの構造は、2+2スプリットIL-4の他の部分(「BC」)を構成する(
図2b)。スプリットIL-4 PACEアプローチのために、2つのスプリットIL-4単位を、従来のPACE分子のC末端にフレキシブルリンカーで融合した。各分子(R1、R2、P1、P2)は、1つの「BC」単位及び1つの「DA」単位を担持していた。
【0250】
条件付きサイトカイン活性は、前駆体タンパク質R1及びR2中に存在するIL-4の「3+1」及び「2+2」バージョンの不活性化を必要とした。変異E9Q及びR88QはIL-4活性を低下させることが以前に記載されている(Wang Y,Shen BJ,Sebald W.,Proc Natl Acad Sci U S A.1997;94(5):1657-1662)。したがって、Fab断片を欠くポリペプチド鎖(「ダミー鎖」)に融合したスプリットIL-4単位は、E9Q変異(前駆体タンパク質R1)又はR88Q変異(前駆体タンパク質R2)のいずれかを保有していた。R1とR2との間のポリペプチド鎖交換時に、不活性産物タンパク質P2は両方の不活性化単位を担持し、活性化産物タンパク質P1は両方の野生型単位のIL-4を担持し、機能的に活性なIL-4分子を形成する(
図1b)。
【0251】
【0252】
実施例2:
不活性化部分に結合したIL-2vを含む活性化可能な前駆体タンパク質の設計
図1に示される一般的な抗体ドメイン配列の前駆体タンパク質を調製した。2つの前駆体タンパク質(R1及びR2)は、ノブ及びホール変異並びにさらなる不安定化変異を有するCH3ドメインを含む。前駆体タンパク質は半IgG様形状を有し、VH/VLドアミンの非機能性対がCH3ドメインのN末端に配置されている。前駆体タンパク質は、LeYに特異的に結合するFab断片をさらに含む。
【0253】
この実験のために、IL-2受容体アルファ結合(IL-2v)を減少させるように操作されたヒトインターロイキン-2を使用した(Klein C et al.,OncoImmunology,6:3)。前駆体タンパク質の1つのポリペプチド鎖のC末端にフレキシブルリンカーを用いてIL-2vを融合した。
【0254】
前駆体タンパク質R1において、機能的に活性なIL-2vを、
図10aに示されるように、一方のCH3(ノブ)ポリペプチドのC末端に融合した。CH3(ホール)ポリペプチドのC末端とIL-2受容体サブユニットとを融合させ、それによってIL-2v分子の活性を不活性化した。IL-2vは、2つのサブユニットIL-2Rβ及び共通ガンマ鎖(γc)からなる細胞表面IL-2受容体に結合することによってその活性を発揮する。したがって、IL-2Rβの細胞外ドメイン若しくはγcの細胞外ドメイン又はIL-2Rβとγcとの融合物をCH3(ホール)鎖にすることによって、IL-2vの不活性化を試みた(
図10b)。他の前駆体タンパク質R2は、サイトカインドメインを全く有していなかった。結果として、ポリペプチド鎖交換時、産物タンパク質のうちの1つ、すなわち活性化タンパク質(
図10a)には、機能的に活性なIL-2vのみが含まれる。他の不活性な産物ポリペプチドは、IL-2受容体サブユニットのみを含む。
【0255】
【0256】
実施例3:
IL-12の異なるサブユニットを含む活性化可能な前駆体タンパク質の設計
図1に示される一般的な抗体ドメイン配列の前駆体タンパク質を調製した。2つの前駆体タンパク質(R1及びR2)は、ノブ及びホール変異並びにさらなる不安定化変異を有するCH3ドメインを含む。前駆体タンパク質は半IgG様形状を有し、VH/VLドアミンの非機能性対がCH3ドメインのN末端に配置されている。前駆体タンパク質は、LeYに特異的に結合するFab断片をさらに含む。
【0257】
インターロイキン-12(IL-12)は、2つのジスルフィド結合サブユニットp35及びp40のヘテロ二量体として最も高いシグナル伝達活性を示す(Sieburth D et al.,Genomics.1992 Sep;14(1):59-62)。IL-12の標的化された活性化のための前駆体タンパク質を提供するために、2つのサブユニット間の分子間ジスルフィド結合を、p35におけるC73S変異及びp40におけるC177S変異によって除去した。
【0258】
前駆体タンパク質R1において、IL-12サブユニットp35を、
図13aに示されるように、フレキシブルリンカーを介して一方のCH3(ノブ)ポリペプチドのC末端に融合した。IL-12サブユニットp40の不活性化バリアントであるCH3(ホール)ポリペプチドのC末端を柔軟なリンカーを介して融合させ、その結果、IL-12ヘテロ二量体全体が機能的に不活性であった。前駆体タンパク質R2において、機能的に活性なIL-12サブユニットp40を、
図13aに示されるように、フレキシブルリンカーを介してCH3(ホール)ポリペプチドのC末端に融合した。
【0259】
R1とR2との間のポリペプチド鎖交換時に、活性化産物タンパク質P1は、不活性化単位なしで活性IL-12を担持する(
図13a)。他方の不活性な産物ポリペプチドは、IL-12サブユニットp40の不活性化バリアントのみを含む。
【0260】
【0261】
実施例4:
前駆体タンパク質の発現及び精製
実施例1~3に記載される前駆体タンパク質の発現は、最先端技術を介して、軽鎖、重鎖(ノブ又はホール変異を有する)及び一致する「ダミー」重鎖(すなわち、抗原結合断片を欠く前駆体タンパク質の重鎖様ポリペプチド;ホール又はノブ)をコードするプラスミドの哺乳動物細胞(例えば、HEK293)への同時トランスフェクションによって行った。
【0262】
より詳細には、例えば、一過性トランスフェクション(例えばHEK293細胞において)による前駆体タンパク質の産生のために、CMV-イントロンAプロモーターを含む若しくは含まないcDNA構成又はCMVプロモーターを含むゲノム構成のいずれかに基づく発現プラスミドを適用した。
【0263】
抗体発現カセット以外に、プラスミドは、以下のものを含んでいた:
- 大腸菌(E.coli)においてこのプラスミドの複製を可能にする複製開始点、及び
- 大腸菌(E.coli)においてアンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子。
【0264】
各抗体遺伝子の転写ユニットは、以下の要素で構成されていた。
- ヒトサイトメガロウイルス由来の最初期遺伝子及びプロモーター、
- 次に、cDNA組織化の場合には、イントロンA配列、
- ヒト抗体遺伝子の5非翻訳領域、
- 免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
- リンカー及びサイトカイン又はスプリットサイトカイン配列をcDNA又はゲノム構成のいずれかで有する抗体鎖(免疫グロブリンエクソン-イントロン構成が維持される)、及び
- ポリアデニル化シグナル配列を有する3’非翻訳領域、
重鎖及び軽鎖を含む融合遺伝子は、PCR及び/又は遺伝子合成によって作成され、例えば、それぞれのプラスミド中の固有の制限部位を用いて、核酸セグメントに従って接続することによって、既知の組換え方法及び技術によってアセンブリされた。サブクローン化された核酸配列は、DNA配列決定によって確認された。一過性トランスフェクションのために、形質転換された大腸菌(E.coli)培養物からのプラスミド調製によって、より大量のプラスミドを調製した(HiSpeed Plasmid Maxi Kit、Qiagen)。
【0265】
標準的な細胞培養技術は、Current Protocols in Cell Biology(2000),Bonifacino,J.S.,Dasso,M.,Harford,J.B.,Lippincott-Schwartz,J.and Yamada,K.M.(eds.),John Wiley&Sons,Inc.に記載されているように使用した。
【0266】
前駆体タンパク質を、HEK293-Fシステム(Invitrogen)を製造者の指示に従って使用して、それぞれのプラスミドでの一過性トランスフェクションによって生成した。簡潔に述べれば、シェークフラスコ又は撹拌発酵槽のいずれかにおいて無血清FreeStyle(商標)293発現培地(Invitrogen)中で懸濁状態で生育させたHEK293-F細胞(Invitrogen)に各々の発現プラスミド及び293fectin(商標)、fectin(Invitrogen)又はPEIpro(Polyplus)をトランスフェクトした。2Lシェークフラスコ(Corning)にHEK293-F細胞を600mL中1×106細胞/mLの密度で播種し、120rpm、8%のCO2でインキュベートした。翌日、細胞を約1.5*106細胞/mLの細胞密度で、A)20mLのOpti-MEM(Invitrogen)と300μgの全プラスミドDNA(0.5μg/mL)及びB)20mLのOpti-MEM+1.2mLの293fectin又はfectin(2μL/mL)又は750μLのPEIpro(1.25μL/mL)の42mLの混合物によりトランスフェクションした。グルコース消費に従って発酵の経過の間にグルコース溶液を加えた。正確にアセンブリされた前駆体タンパク質が、標準的なIgGのような培養上清に分泌された。前駆体タンパク質を含有する上清を5~10日後に回収し、前駆体タンパク質を上清から直接的に精製したか、又は上清を-20℃で凍結し、貯蔵した。
【0267】
使用した前駆体タンパク質はカッパ軽鎖を含むので、標準的なカッパ軽鎖アフィニティークロマトグラフィーを適用することによって精製した。前駆体タンパク質を、KappaSelect(GE Healthcare,Sweden)及びSuperdex 200サイズ排除(GE Healthcare,Sweden)クロマトグラフィ又はイオン交換クロマトグラフィを使用する親和性クロマトグラフィによって細胞培養上清から精製した。
【0268】
簡潔に述べれば、無菌でフィルタにかけられた細胞培養上清を、PBS緩衝液(10mM Na2HPO4、1mM KH2PO4、137mM NaCl及び2.7mM KCl、pH7.4)を用いて平衡化されたKappaSelect樹脂に捕捉させ、平衡化緩衝液を用いて洗浄し、50mM クエン酸ナトリウム、150mM NaClを用いてpH3.0で溶出させた。溶出した前駆体タンパク質画分をプールし、2MのTris、pH9.0を用いて中和した。前駆体タンパク質プールをサイズ排除クロマトグラフィ又はイオン交換クロマトグラフィによってさらに精製した。サイズ排除クロマトグラフィのために、20mMヒスチジン、140mM NaCl、pH6.0で平衡化したSuperdex(商標)200pg HiLoad(商標)16/600(GEヘルスケア、スウェーデン)カラム。イオン交換クロマトグラフィのために、KappaSelect精製から得られたタンパク質試料を20mMヒスチジン、pH6.0で1:10に希釈し、緩衝液A(20mMヒスチジン、pH 6.0)で平衡化したHiTrap(商標)SP HPイオン交換(GEヘルスケア、スウェーデン)カラムにロードした。0~100%緩衝液B(20mMヒスチジン、1M NaCl、pH6.0)の勾配を適用して、異なるタンパク質種を溶出した。前駆体タンパク質を含有する画分をプールし、Vivaspin限外濾過デバイス(Sartorius Stedim Biotech S.A.、France)を使用して要求される濃度まで濃縮し、-80℃で貯蔵した。
【0269】
SDS-PAGEによる精製後に純度及び完全性を分析した。タンパク質溶液(13μl)を5μlの4×NuPAGE LDS試料緩衝液(Invitrogen)及び2μlの10×NuPAGE試料還元剤(Invitrogen)と混合し、95℃に5分間加熱した。試料をNuPAGE 4~12%Bis-Trisゲル(Invitrogen)にロードし、Novex Mini-Cell(Invitrogen)及びNuPAGE MES SDS泳動緩衝液(Life Technologies)を使用して製造業者の指示に従って泳動した。ゲルを、InstantBlue(商標)クマシータンパク質染色を使用して染色した。さらに、タンパク質の完全性及び均一性を、分析的サイズ排除クロマトグラフィーを用いて分析した。
【0270】
実施例1に記載されるような前駆体タンパク質は、前駆体タンパク質(R1、R2)及びCD38に特異的に結合するFab断片を含む活性化産物タンパク質(P1)については、
図3a及び
図3bに示されるように、高純度で生産可能であった。同様に、LeYに特異的に結合するFab断片を含むタンパク質R1、R2及びP1、並びにHer2に特異的に結合するFab断片を含むタンパク質R1、R2及びP1も高純度で生成可能であった(データは示さず)。SDS-PAGE及び分析サイズ排除クロマトグラフィーによって分析したところ、タンパク質が首尾よく産生された。SDS-PAGEにより、予想される全てのポリペプチド鎖が調製物中に存在することが明らかになった(
図3a)。分析的サイズ排除により、調製物の純度90%超が確認された。抗体の純度を評価するための方法の概説については、例えば、Flatman,S.ら、J.Chrom.B 848(2007)79-87を参照されたい。調製物の収量は、R1分子については約0.2mg/Lの培養物、R2分子については0.5mg/Lの培養物、及びP1分子については2mg/Lの培養物であった。
【0271】
実施例2に記載されるような前駆体タンパク質は、前駆体タンパク質(R1、R2)及びLeYに特異的に結合するFab断片を含む活性化産物タンパク質(P1)については、
図11に示されるように、高純度で生産可能であった。SDS-PAGEによって分析したところ、タンパク質が首尾よく産生され、予想されるすべてのポリペプチド鎖が調製物中に存在したことが明らかになった(
図11)。タンパク質調製物の収量は、R1分子については約10mg/Lの培養物、R2分子については6mg/Lの培養物、及びP1分子については2mg/Lの培養物であった。
【0272】
実施例3に記載されるような前駆体タンパク質は、前駆体タンパク質(R1)及びLeYに特異的に結合するFab断片を含む活性化産物タンパク質(P1)については、
図14に示されるように、高純度で生産可能であった。SDS-PAGEによって分析したところ、分子が首尾よく産生され、予想されるすべてのポリペプチド鎖がP1調製物中に存在したことが明らかになった(
図14)。R1については、2つの異なる重鎖は非常に類似した分子量を有し、したがってSDS-PAGEによる満足のいく識別を可能にしなかった。代わりに、質量分析により、両方の重鎖がR1調製物中に存在することが明らかになった。調製物の収量は約5mg/L培養物であった。
【0273】
実施例5:
活性化可能なスプリットIL-4を含む前駆体タンパク質の細胞表面標的化は、活性化IL-4を生成する
実施例1の前駆体タンパク質のインターロイキン-4活性を、TF-1細胞増殖アッセイを使用して評価した。
【0274】
TF-1細胞(最初はDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHから得られ、その後Roche培養条件に適合させた)は、増殖の増加を伴ってインターロイキン-4に応答する赤芽球細胞である(
図4a)。細胞をRPMI-1640(Gibco,cat.no.A10491-01)、2ng/ml組換えヒトGM-CSF(Abcam)、10%(v/v)ウシ胎児血清中、37℃、5% CO
2で培養した。アッセイのために、TF-1細胞を、組換えヒトGM-CSFを含まない培地で3回洗浄した。組換えヒトGM-CSFを含まない培地中の20 000個のTF-1細胞を96ウェルプレートのウェルに添加した。前駆体タンパク質を、典型的には1μM~10fMの範囲の示された濃度で添加した。37℃、5% CO
2で72~96時間インキュベートした後、製造業者のプロトコルに従ってレサズリン細胞生存度アッセイ(Abcam)を使用して細胞増殖を評価した。簡潔には、予熱したPBS中の2×レサズリン試薬を96ウェルプレート中の細胞に1:1の体積比で添加し、37℃、5% CO
2で最大4時間インキュベートした。ウェルの上清100μlをCorning(商標)96ウェル透明底白色ポリスチレンマイクロプレート(Thermo Fisher Scientific)に移した。Infinite 200Proプレートリーダー(Tecan)を使用して、550nm励起及び590nm発光で蛍光を測定した。高い蛍光値は高い増殖に対応する。分析のために、対照試料(タンパク質を添加していないTF-1細胞)の蛍光値を0に設定し、それに応じて残りの試料を調整した。Prism7ソフトウェア(GraphPad)を使用してデータを分析した。
【0275】
IL-4及び環状に置換したIL-4 DABCの活性を比較するために、全長IL-4又は全長IL-4 DABCのいずれかに融合した抗体を用いてTF-1増殖アッセイを行った(
図4c)。
【0276】
両方の構築物の活性は類似しており、IL-4の環状置換がシグナル伝達活性を損なわないことを示した(
図4d)。
【0277】
前駆体プロエイン間のポリペプチド鎖交換が細胞表面標的化によって増強されることを実証するために、個々の前駆体タンパク質、前駆体タンパク質の組み合わせ及び活性化産物タンパク質のIL4活性を、TF-1活性アッセイを使用して評価した。
【0278】
このアッセイでは、活性化がシスで起こり、すなわち、ポリペプチド鎖交換及びIL-4受容体活性化がTF-1細胞表面で起こる。ポリペプチド鎖交換を評価するための実験は、それぞれがTF-1細胞上で発現されるCD38に特異的に結合するFab断片を含む前駆体ポリペプチドを使用して「標的化設定」で行ない、比較として、それぞれがTF-1細胞上に発現されないHer2に特異的に結合するFab断片を含む前駆体ポリペプチドを使用して「非標的化設定」で行なった(
図4b)。R1又はR2単独のいずれかとは対照的に両方のスプリット前駆体ポリペプチド「R1+R2」が存在する場合のTF-1増殖の増加によって示されるように、両方の設定でポリペプチド鎖交換が起こった(
図5a、
図5b)。これはまた、E9Q(R1)及びR88Q(R2)によるスプリットIL-4の片側不活性化が成功したことを示す。
【0279】
直接比較すると、標的化設定におけるポリペプチド鎖交換が非標的化設定よりも効率的であったことは明らかである(
図5c)。標的化ポリペプチド鎖交換は既に約0.1nMで起こったが(
図5a)、非標的化ポリペプチド鎖交換は約10nMでのみ起こった(
図5b)。非標的化活性と標的化活性との間のこの100倍の差は、スプリットIL-4からの機能的IL4の効果的な生成が、効果的な細胞表面標的化に依存することを示している。生産的ポリペプチド鎖交換に対する標的化の観察された効果は、効果的なポリペプチド鎖交換を可能にする細胞上濃度に達する前駆体ポリペプチドの標的化誘導蓄積を反映する。ポリペプチド鎖交換は濃度及び鎖の接近性に依存する様式で起こるので、細胞表面上の標的抗原の組成、配置及び密度は、ポリペプチド鎖交換の有効性に影響を及ぼす因子と見なされる必要がある。
【0280】
前駆体ポリペプチドを含むスプリットIL-4 3+1及び2+2:
全長IL-4及び3+1スプリットIL-4活性化産物タンパク質P1を担持する比較タンパク質は同様の活性を示し、再構成された3+1スプリットIL-4が全長サイトカインと同様のエフェクター効力を有することが示された(
図6a)。R1及びR2のCD38標的化ポリペプチド鎖交換は、P1又は全長IL-4を含む比較タンパク質と同様の最大活性に達し、3+1スプリットIL-4がポリペプチド鎖交換時に完全なサイトカイン活性を再構成できることを示した(
図6a)。
【0281】
全長IL-4 DABC又は2+2スプリットIL-4活性化産物タンパク質P1を担持する比較タンパク質は同様の活性を示し、再構成された2+2スプリットIL-4が全長環状置換サイトカインと同様のエフェクター効力を有することが示された(
図6b)。R1及びR2のCD38標的化ポリペプチド鎖交換は、P1又は全長IL-4と同様の最大活性に達し、2+2スプリットIL-4がポリペプチド鎖交換時に完全なサイトカイン活性を再構成できることを示した(
図6b)。
【0282】
スプリットIL-4の代替バージョン:
反応物活性をさらに低下させるために、変異E9A、I5A E9Q、T6D E9Q及びT6D E9AをR1の不活性化IL-4部分に導入し、変異R88A、R81E R88Q、K84E R88Q、R88Q N89A及びR88Q W91AをR2の不活性化IL-4部分に導入した。
【0283】
R1の不活性化IL-4部分に導入された変異E9A、I5A E9Q及びT6D E9Qは、残留活性の低下を示したが、変異T6D E9Aは、R1の不活性化IL-4部分に導入された場合、検出可能な活性を示さなかった(
図7)。R2に存在する不活性化IL-4部分では、R88A及びR88Q N89A置換を含む変異バリアントは、残留活性の低下を示したが、変異R81E R88Q及びK84E R88Qは、検出可能な活性を示さなかった(
図7)。
【0284】
実施例6:
活性化可能なスプリットIL-4を含む前駆体タンパク質の表面プラズモン共鳴は、活性化IL-4を生成する
インターロイキン-4のシグナル伝達活性には、インターロイキン-4受容体への結合が必要である。インターロイキン-4受容体アルファとタンパク質R1、R2、P1、並びに全長IL-4を含有するR1及びR2の組み合わせ(P1)又はインターロイキン-4のスプリット部分との間の相互作用の速度論的特性を、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して評価した。
【0285】
抗ヒスチジン抗体(GE Healthcare 28-9980-56)をCM5センサー上に高密度(>10.000 RU)で固定化した。組換えヒトIL-4R Hisタグタンパク質(Abcam,ab167726)の5nM溶液をCM5センサーチップ上に45秒間捕捉した(捕捉レベル約55RU)。試験したタンパク質との相互作用を、50μl/分の流速で120秒の会合時間及び900秒の解離時間を使用して、7.4nM~600nMでの単一サイクル速度論によって分析した。全てのBiacore T200実験は、25℃のHBS-P+(GEヘルスケア、Br-1008-27)pH7.4ランニングバッファー中で行った。T200評価ソフトウェア及び1:1ラングミュア結合モデルを使用して、速度論的特性を決定した。
【0286】
3+1及び2+2活性化産物タンパク質は、IL-4Rαに対する結合能を保持したが、全長IL-4対照分子と比較して親和性は低かった。E9Q又はR88Qを有する3+1スプリットIL-4 PACE反応物分子は、IL-4Rαに対する残留結合を示したが、T6D E9A及びR81E R88Qバリアントについては結合が検出できなかった(
図9b、c)。これらの結果は、TF-1増殖アッセイと一致している(
図7)。
【0287】
実施例7:
不活性化部分に結合したIL-2vを含む活性化可能な前駆体タンパク質の細胞表面標的化
実施例2の前駆体タンパク質のインターロイキン-2v活性を、CTLL-2細胞増殖アッセイを使用して評価した。
【0288】
CTLL-2細胞(American Type Culture Collectionから最初に入手し、続いてRoche培養条件に適合させた)は、増殖の増加を伴ってインターロイキン-2vに応答するマウス細胞傷害性Tリンパ球細胞である(
図12a)。細胞をRPMI-1640(Gibco,cat.no.A10491-01)、10%(v/v)ウシ胎児血清、Con A(Becton Dickinson)を含む10%(v/v)T細胞培養サプリメント中、37℃、5% CO
2で培養した。アッセイのために、CTLL-2細胞をT細胞培養サプリメントを含まない培地で3回洗浄した。T細胞培養サプリメントを含まない培地中の30 000個のCTLL-2細胞をU底96ウェルプレートのウェルに添加した。目的のタンパク質を、典型的には1μM~10fMの範囲の所望の濃度で添加した。37℃、5% CO
2で48~72時間インキュベートした後、製造業者のプロトコルに従ってレサズリン細胞生存度アッセイ(Abcam)を使用して細胞増殖を評価した。簡潔には、予熱したPBS中の2×レサズリン試薬を96ウェルプレート中の細胞に1:1の体積比で添加し、37℃、5% CO
2で最大4時間インキュベートした。ウェルの上清100μlをCorning(商標)96ウェル透明底白色ポリスチレンマイクロプレート(Thermo Fisher Scientific)に移した。Infinite 200Proプレートリーダー(Tecan)を使用して、550nm励起及び590nm発光で蛍光を測定した。高い蛍光値は高い増殖に対応する。分析のために、対照試料(タンパク質を添加していないCTLL-2細胞)の蛍光値を0に設定し、それに応じて残りの試料を調整した。Prism7ソフトウェア(GraphPad)を使用してデータを分析した。
【0289】
IL-2vを3つの異なる不活性化ドメインと組み合わせて含む3つの異なる前駆体タンパク質R1はすべて、活性化産物タンパク質P1と比較してIL-2v活性が低下していた(
図12b)。
【0290】
実施例8:
IL-12の異なるサブユニットを含む活性化可能な前駆体タンパク質の細胞表面標的化
実施例3の前駆体タンパク質のインターロイキン-12活性を、HEK-Blue(商標)レポーター細胞アッセイを製造者の説明書(Invivogen)に従って使用して評価した。HEK-Blue(商標)IL-12レポーター細胞(Invivogen)をRPMI-1640(Gibco,cat.no.A10491-01)、10%(v/v)ウシ胎児血清、30μg/mlブラストサイジン、100μg/mlゼオシン中37℃、5% CO2で培養した。アッセイのために、HEK-Blue(商標)IL-12レポーター細胞を培地で3回洗浄した。培地中の50 000個のHEK-Blue(商標)IL-12レポーター細胞を96ウェルプレートのウェルに加えた。目的のタンパク質を、典型的には1μM~10fMの範囲の所望の濃度で添加した。37℃、5% CO2で20~24時間インキュベートした後、Quanti-Blue(商標)(Invivogen)を製造者のプロトコルに従って使用してIL-12シグナル伝達活性を評価した。簡単に説明すると、検出試薬を予熱したエンドトキシンを含まない指示された水に溶解し、37℃で30分間インキュベートした。Corning(商標)96ウェル透明底白色ポリスチレンマイクロプレート(Thermo Fisher Scientific)のウェルに検出溶液200μlを添加し、細胞上清20μlを添加した。37℃で1~5時間インキュベートした後、Infinite 200Proプレートリーダー(Tecan)を使用して640nmで吸光度を測定した。高い吸光度値は、高いIL-12シグナル伝達活性に対応する。分析のために、対照試料(タンパク質を添加していないHEK-Blue(商標)IL-12レポーター細胞)の蛍光値を0に設定し、それに応じて残りの試料を調整した。Prism7ソフトウェア(GraphPad)を使用してデータを分析した。
【0291】
前駆体タンパク質R1は、対応する活性化産物タンパク質P1と比較して、IL-12活性が約1000倍低下していた(
図15)。
【0292】
実施例9:
人工的に分割されたルシフェラーゼを含む活性化可能な前駆体タンパク質の設計
NanoBiT(登録商標)は、2つのサブユニット、LgBiT及びSmBiTからなるスプリットルシフェラーゼ酵素である(Dixon AS et al.,ACS Chem Biol.2016;11(2):400-408)。2つのサブユニットが近接すると、Nano-Glo(登録商標)Live Cell Substrateを変換して発光シグナルを生成することができる機能性酵素を形成する。前駆体ポリペプチドを生成するために、LgBiT及びSmBiTを、実施例1に示される前駆体タンパク質について示されるような一般構造に従って、前駆体タンパク質R1のCH3(ノブ)ポリペプチド及び前駆体タンパク質R2のCH3(ホール)ポリペプチドのC末端にそれぞれフレキシブルリンカーで融合した(
図16)。R1及びR2が組換えられると、産物分子P1はLgBiT及びSmBiTの両方を保有し、NanoBiT(登録商標)ルシフェラーゼ活性を再構成する(
図16)。
【0293】
実施例10:
スプリットルシフェラーゼPACE前駆体の細胞表面標的化
実施例9に記載されるようなNanoBiT(登録商標)(Promega)ルシフェラーゼの一部を含有するタンパク質の活性を、Nano-Glo(登録商標)Live Cell Assay System(Promega)を使用して評価した。
【0294】
【0295】
TF-1細胞をRPMI-1640(Gibco,cat.no.A10491-01)、2ng/ml組換えヒトGM-CSF(Abcam)、10%(v/v)ウシ胎児血清中、37℃、5% CO2で培養した。アッセイのために、TF-1細胞をPBSで2回洗浄した。Opti-MEM(登録商標)I Reduced Serum(Thermo Fisher Scientific)中の100 000個のTF-1細胞をCorning(商標)96ウェル透明底白色ポリスチレンマイクロプレート(Thermo Fisher Scientific)のウェルに添加した。Opti-MEM(登録商標)I Reduced Serumのみを含む無細胞プレートを調製して、細胞上PACEと溶液中PACEを比較した。目的のタンパク質を50nMで添加した。ルシフェラーゼ活性を、Nano-Glo(登録商標)Live Cell Assay System(Promega)を製造者のプロトコルに従って使用して評価した。簡潔には、Nano-Glo(登録商標)Live Cell Reagentを1:5の体積比で添加し、37℃で1時間インキュベートした。発光を、Infinite 200Proプレートリーダー(Tecan)を使用して測定した。高い発光値は、高い基質変換に対応する。
【0296】
前駆体タンパク質は低い発光を示したが、前駆体タンパク質の組み合わせは高い発光を示し、産物分子P1の形成の成功を示した(
図17)。TF-1細胞上での標的化ポリペプチド鎖交換は、非標的化ポリペプチド鎖交換(TF-1細胞なし)よりも高い発光を示した(
図17)。非標的化活性と標的化活性との間のこの差は、スプリットルシフェラーゼPACE分子からの機能的NanoBiT(登録商標)ルシフェラーゼの効果的な生成が、効果的な細胞表面標的化に依存することを示している。
【配列表】
【国際調査報告】