(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-25
(54)【発明の名称】センサシステムにおける信号校正のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20231218BHJP
G01N 21/552 20140101ALI20231218BHJP
【FI】
G01N33/543 541A
G01N21/552
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536861
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(85)【翻訳文提出日】2023-07-28
(86)【国際出願番号】 EP2021084960
(87)【国際公開番号】W WO2022128729
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】321002824
【氏名又は名称】シーメンス ヘルシニアーズ ネイザランド ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・ファン・リーネン
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB04
2G059BB13
2G059CC16
2G059DD01
2G059DD13
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE07
2G059GG02
2G059KK01
2G059KK03
2G059MM14
(57)【要約】
磁気バイオセンサシステムにおける重力および流体組成の影響を補償するための方法およびシステムが提供される。一例では、センサシステムは、試験される分析物を含む試料を受けるように構成された試料容器を備え、試料容器は、検出表面および試料容器内の複数の信号発生要素を含み、検出表面は、分析物および/または複数の信号発生要素に直接、かつ/または間接的に結合することができる捕捉要素で部分的に機能化された結合表面を含む。センサシステムは、検出表面の1つまたはそれ以上の背景領域からのセンサ信号を含む背景データを取得し、結合表面からセンサ信号を含む試料データを取得し、背景データに基づいて試料データの補正を実行するようにプロセッサによって実行可能な命令を記憶するメモリをさらに備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサシステムであって:
試験される分析物を含む試料を受けるように構成された試料容器を含み、該試料容器は:
検出表面;ならびに
試料容器内の複数の信号発生要素を含み、検出表面は、分析物および/または複数の信号発生要素に直接、かつ/または間接的に結合することができる捕捉要素で部分的に機能化された結合表面を含み;
該センサシステムはさらに、
検出表面の1つまたはそれ以上の背景領域からのセンサ信号を含む背景データを取得し、
結合表面からセンサ信号を含む試料データを取得し、
背景データに基づいて試料データの補正を実行するようにプロセッサによって実行可能な命令を記憶するメモリを含む、
前記センサシステム。
【請求項2】
検出表面の1つまたはそれ以上の背景領域はそれぞれ、結合表面と少なくとも部分的に重ならないように配置される、請求項1に記載のセンサシステム。
【請求項3】
磁気要素をさらに含み、ここで、該磁気要素は、背景データが取得されている間、複数の信号発生要素を結合表面に引き付ける磁場を発生させるように活性化され、磁気要素は、試料データが取得されている間、磁場を発生させるように活性化されないか、または磁気要素は、結合表面から未結合の信号発生要素を離したままにするように活性化される、請求項1または2に記載のセンサシステム。
【請求項4】
複数の信号発生要素のうちの少なくとも一部の信号発生要素は、分析物に結合することができる捕捉要素を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサシステム。
【請求項5】
命令は、少なくとも1つの背景領域からのセンサ信号に、少なくとも1つの他の背景領域とは異なるように重み付けをするように実行可能である、請求項1~4のいずれか1項に記載のセンサシステム。
【請求項6】
結合表面は複数の個々の領域を含み、結合表面の各領域は捕捉要素で機能化されており、検出表面の1つまたはそれ以上の背景領域はそれぞれ、背景領域それぞれが捕捉要素で機能化されないように、結合表面の複数の個々の領域と重ならないように配置される、請求項1~5のいずれか1項に記載のセンサシステム。
【請求項7】
結合表面の複数の個々の領域は、第1の列の領域および第2の列の領域に配置され、検出表面の1つまたはそれ以上の背景領域は、第1の列の背景領域、第2の列の背景領域、および第3の列の背景領域に配置される複数の背景領域を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のセンサシステム。
【請求項8】
第1の列の背景領域は、試料容器のピンニングに近接して配置され、第3の列の背景領域は、試料容器の入口に近接して配置され、第2の列の背景領域は、第1の列の背景領域と第3の列の背景領域との中間に配置され、1つまたはそれ以上の背景領域のセンサ信号は、第1の列の背景領域および第3の列の背景領域からのセンサ信号が第2の列の背景領域からのセンサ信号よりも大きな重みが与えられるように重み付けされる、請求項1~7のいずれか1項に記載のセンサシステム。
【請求項9】
検出表面の各背景領域は、結合表面のそれぞれの領域と重なる、請求項1~8のいずれか1項に記載のセンサシステム。
【請求項10】
命令は、試料データを背景データから減算して補正済み背景データを生成するように実行可能であり、背景データに基づいて試料データを補正することは、補正済み背景データに基づいて試料データを補正することを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載のセンサシステム。
【請求項11】
命令は、補正済み試料データに基づいて試料中の分析物濃度を決定するように実行可能である、請求項1~10のいずれか1項に記載のセンサシステム。
【請求項12】
命令は、1つまたはそれ以上の背景領域の各々から正で非ゼロの光信号が取得されたことに応答して、補正済み試料データに基づいて試料中の分析物の濃度を決定し、1つまたはそれ以上の背景領域の各々から正で非ゼロの光信号が取得されなかったことに応答して、分析物の濃度を決定できないことを示す通知を出力するように実行可能である、請求項1~11のいずれか1項に記載のセンサシステム。
【請求項13】
センサシステムのための方法であって:
センサシステムの試料容器に収容された分析物を含む試料の試験中に、試料容器の検出表面の1つまたはそれ以上の背景領域でセンサ信号を測定して背景データを生成することと;
試料容器の結合表面でセンサ信号を測定して試料データを生成することであって、結合表面は、分析物および/または試料容器の複数の信号発生要素に直接、かつ/または間接的に結合することができる捕捉要素で機能化された検出表面の1つまたはそれ以上の領域を含むことと;
試料データおよび背景データに基づいて試料中の分析物の濃度を出力することと
を含む、前記方法。
【請求項14】
1つまたはそれ以上の背景領域におけるセンサ信号は、複数の信号発生要素が結合表面に引き寄せられている間に測定され、結合表面におけるセンサ信号は、複数の信号発生要素が結合表面に引き寄せられていない間に測定される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
センサ信号は、漏れ全反射を用いて測定された光信号を含む、請求項13または14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、概して、試料中の分析物を検出するためのセンサシステムのためのシステムおよび方法に関し、より詳細には、分析物の検出に影響を与える信号変動の補償に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサは、分析物と呼ばれる所定の特定の標的分子を試料内で検出することができ、前記分析物の量または濃度は典型的には低く、時にはミリリットルあたりナノグラムの範囲である。これらの分子を検出するために、酵素、フルオロフォア、または磁性ビーズなどの機能化ラベルまたは検出タグが利用される。磁気標識バイオセンサでは、分析物(薬物または心臓マーカなど)の存在の測定は、磁性粒子または磁性ビーズによる分子捕捉および標識に基づく。磁性ビーズは、試料カートリッジの試料チャンバ内に配置されている。試料チャンバ内のセンサ表面の少なくとも一部は、分析物の検出用に準備される。例えば、センサ表面は、分析物に結合するように構成された捕捉要素(例えば、抗体)が固定されている1つまたはそれ以上の領域を含むことができる。試験を実施するために、試料がカートリッジに入れられ、試料中の分析物はすべて結合表面の磁性ビーズおよび捕捉要素の両方に結合する。
【0003】
アクチュエーションとも呼ばれるビーズの磁気吸引は、ポイントオブケア用途のバイオセンサの性能、例えば速度を向上させることができる。磁気吸引の方向は、実際の測定が行われる表面に向かうか、またはこの表面から離れるかのいずれかであることができる。第1の場合、磁気アクチュエーションにより、センサ表面近傍の磁性粒子の濃度を高めることができ(磁性粒子は、分析物を介してセンサ表面の抗体などの対応する捕捉要素に結合し得る)、センサ表面での磁性粒子の結合プロセスを加速させることができる。第2の場合では、未結合の磁性粒子(例えば、センサ表面の捕捉要素に結合していない磁性粒子)が表面から除去され、これは磁気洗浄と呼ばれる。磁気洗浄が完了すると、試料中の分析物の濃度が、センサ表面の捕捉要素に結合した磁性ビーズの数を測定することによって決定される。例えば、光源はセンサ表面の、捕捉素子が固定された領域に向けられ、全反射光を発生させる。センサ表面の磁性粒子は、全反射光を散乱させる、かつ/または吸収することができ、これは検出器によって検出され、試料中の標的分子の濃度を決定するために使用される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一実施形態では、センサシステムは、試験される分析物を含む試料を受けるように構成された試料容器を備え、試料容器は、検出表面および試料容器内の複数の信号発生要素を含み、検出表面は、分析物および/または複数の信号発生要素に直接、かつ/または間接的に結合することができる捕捉要素で部分的に機能化された結合表面を含む。センサシステムは、検出表面の1つまたはそれ以上の背景領域からのセンサ信号を含む背景データを取得し、結合表面からセンサ信号を含む試料データを取得し、背景データに基づいて試料データの補正を実行するようにプロセッサによって実行可能な命令を記憶するメモリをさらに備える。
【0005】
上記および関連する目的を達成するために、システムの特定の例示的な態様を、以下の説明および添付の図面に関連して本明細書に記述する。議論されている構成、機能、および利点は、本開示の種々の実施形態において独立して達成されるか、またはさらに他の実施形態において組み合わされ、そのさらなる詳細は、以下の説明および図面を参照することで分かるであろう。本概要は、「発明を実施するための形態」において以下でさらに記述される概念の選択したものを簡単な形で紹介するために提供される。本概要は、本明細書に記載される任意の主題の重要な構成または本質的な構成を特定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本開示によるセンサシステムの一般的なセットアップを模式的に示す図である。
【
図2】本開示による複数の結合表面領域を有するセンサシステムの例示的試料カートリッジを模式的に示す。
【
図3】本開示による複数の結合表面領域を有するセンサシステムの例示的試料カートリッジを模式的に示す。
【
図4】本開示による複数の結合表面領域を有するセンサシステムの例示的試料カートリッジを模式的に示す。
【
図5】複数の背景領域が結合表面領域の外側に位置している、
図2~
図4の例示的試料カートリッジを模式的に示す図である。
【
図6】本開示による試料カートリッジ内の例示的な信号発生要素の分布を模式的に示す図である。
【
図7】本開示による、結合表面領域の外側の背景領域で測定された背景補正を用いて、センサシステムにより試料を試験する方法を示すフローチャートである。
【
図8】本開示による、背景補正が実行される場合または実行されない場合の、センサシステムを使用する分析物の測定パラメータを示すグラフを示す図である。
【
図9】本開示による、背景補正が実行される場合または実行されない場合の、センサシステムを使用する分析物の測定パラメータを示すグラフを示す図である。
【
図10】本開示による、背景補正が実行される場合または実行されない場合の、センサシステムを使用する分析物の測定パラメータを示すグラフを示す図である。
【
図11】本開示による、背景補正が実行される場合または実行されない場合の、センサシステムを使用する分析物の測定パラメータを示すグラフを示す図である。
【
図12】本開示による、背景補正が実行される場合または実行されない場合の、センサシステムを使用する分析物の測定パラメータを示すグラフを示す図である。
【
図13】複数の背景領域が結合表面領域内に位置している、
図2~
図4の例示的試料カートリッジを模式的に示す図である。
【
図14】本開示による、結合表面領域内の背景領域で測定された背景補正を用いて、センサシステムにより試料を試験する方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の説明は、マイクロ流体試験システムまたはマイクロ電子センサシステムとも呼ばれるセンサシステムのためのシステムおよび方法に関する。センサシステムは、トロポニンまたはB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)などの特定の標的分子(本明細書では分析物または対象分析物とも呼ぶ)に結合するように構成された機能化信号発生要素、例えば抗体標識磁性粒子が入った1つまたはそれ以上の試料容器を備えた磁気センサシステムであってもよい。各試料容器は、検出表面に結合表面を形成するために、例えば、信号発生要素に結合した抗体と同じ、および/または異なる抗体でさらに機能化されたセンサ検出表面を有する。血液または唾液などの試料中の分析物の濃度を測定するために、試料が試料容器に供給され、そこで試料は信号発生要素と混合される。このようにして、信号発生要素は分析物を介してセンサ結合表面に結合することができ、センサ結合表面に結合する信号発生要素の数は分析物の濃度の関数である。
【0008】
センサシステムが磁気センサシステムである例では、信号発生要素は磁性粒子であってもよく、1つまたはそれ以上の磁気要素は試料容器の外側(例えば、試料容器の下方)に位置し、1つまたはそれ以上の磁気要素によって発生する磁場が磁性粒子をセンサ結合表面に引き付けて、磁性粒子/分析物複合体のセンサ結合表面への結合を促進することができる。したがって、磁性粒子/分析物複合体に結合するセンサ結合表面の領域は、磁気要素のサイズおよび位置、ならびに磁気要素によって生じる磁場の変動に基づくことができる。典型的には、抗体/捕捉要素は、個々のパッチまたはスポットなどの個々の領域内のセンサ検出表面に固定されている。さらに、一部の試料容器は、複数の分析物の濃度の検出を容易にするように構成されており、そのため、異なる捕捉要素が異なる結合表面領域に存在し得る。したがって、結合表面領域の位置決めは、磁気要素によって生じる磁場に基づいていてもよい。例えば、磁場がセンサ検出表面の中心で最も高い磁束密度を有する場合、結合表面はセンサ検出表面の中心に位置している。そうするときに、磁気要素が結合表面領域およびその近傍に集中し、検出器によって測定される信号を増大し得る。
【0009】
しかしながら、重力および/またはセンサシステムの移動中に発生する力など、他の力も信号発生要素に作用し、このことにより試料試験中の信号発生要素の挙動に影響を与え、それによって結果のばらつきにつながり得る。さらに、信号発生要素の可動性は、試験される試料の流体によって影響される。例えば、試料流体の粘度、またはスクロースもしくはタンパク質などの試料流体中の他の物質の含有量は、分析物の濃度を決定するために測定される信号発生要素によって生じる光信号だけでなく信号発生要素の可動性に影響し得る。
【0010】
信号発生要素に作用する重力および/または他の力、ならびに試料流体からの信号発生要素の可動性に対する影響の結果として、信号発生要素の分布は、結合表面全体で等しくないことがある。この不均一な信号発生要素分布は、特にセンサ結合表面上に2種以上の捕捉要素が存在する場合、信頼性の低い試験測定となり得る。さらに、試料流体の組成は試料ごとに異なり得る(例えば、患者によっては高血糖であり得、患者によっては低血糖であり得る)ため、流体組成による信号発生要素の光信号への影響により、試験ごとにばらつきが生じることがあり、これも試験の信頼性を低下させ得る。
【0011】
したがって、本明細書に開示される実施形態によれば、試料中の分析物の濃度を測定するために、センサシステムを用いた試料の試験の検出段階中に取得される試料光信号は、試料光信号が取得される検出段階に先行し得る生化学反応段階中に取得される背景光信号により補正される。生化学反応段階は、センサシステムの磁気要素が活性化されて磁性粒子をセンサ結合表面に引き寄せる期間を含むことができ、未結合の磁性ビーズをセンサ結合表面から遠ざける最終磁気洗浄の前に起こり得る。磁性ビーズがセンサ結合表面に引き寄せられる生化学反応段階中に磁性ビーズからの信号を測定することによって、試料光信号の応答に影響を与え得る試料流体特性と磁性粒子分布の不均一性との複合効果が測定でき、結合表面で測定された試料光信号応答(例えば、試料光信号)を直接補正するために使用できる。さらに、背景光信号は、検出表面の、結合表面領域と(少なくとも部分的に)重ならない複数の背景領域から取得される。そうする際に、背景光信号は、分析物の濃度の影響を受けないが、これは生化学反応段階中の結合表面領域内の信号応答に影響する(例えば、生化学反応段階中、信号応答は、分析物濃度に応じて経時的に増加する)。しかし、いくつかの例では、背景領域が結合表面と重なることがあり、結合した信号発生要素の存在は、背景データから試料データを減算することによって説明することができる。
【0012】
図1は、本開示による超小型電子センサシステム100の一般的なセットアップを模式的に示す。システム100は、例えばガラス製またはポリスチレンのような透明プラスチック製の支持体11を備えている。支持体11は、検出される標的成分(例えば、薬物、抗体、DNAなど)を含む試料流体が供給される試料チャンバ2の隣(例えば、下方)に配置される。いくつかの例では、試料チャンバ2は、試料カートリッジの内部領域であってもよく、支持体11は、試料カートリッジの底面を形成してもよい。他の例では、試料チャンバ2は、マイクロウェルプレートまたは他の適切な容器の内部領域であってもよい。試料は、信号発生要素1、例えば超常磁性ビーズをさらに含んでおり、これらの要素1は、上記の標的成分に標識として結合することができる(簡単にするために、信号発生要素1のみが
図1に示されている)。
【0013】
支持体11と試料チャンバ2との間の界面は、検出表面12と呼ばれる表面によって形成される。この検出表面12は、標的成分と特異的に結合することができる捕捉要素、例えば抗体でコーティングされている。捕捉要素による検出表面12のコーティングに関するさらなる詳細を以下に示す。
【0014】
センサシステム100は、検出表面12および試料チャンバ2の隣接空間に磁場Bを制御可能に発生させるための磁場発生器41、例えばコイルおよびコアを備えた電磁石を含む。この磁場Bの助けにより、信号発生要素1は操作、すなわち磁化され、(傾斜のある磁場が使用される場合)特に移動させることができる。したがって、例えば、検出表面12への関連する標的成分の結合を促進するために、信号発生要素1を検出表面12に引き付けることが可能である。
【0015】
センサシステム100は、支持体11へと透過する入射光ビームL1を発生させる光源21、例えばレーザまたは発光ダイオード(LED)をさらに含む。入射光ビームL1は、全反射(TIR)の臨界角θcよりも大きな角度で検出表面12に到達し、したがって出射光ビームL2として全反射される。出射光ビームL2は、別の表面を通って支持体11を離れ、光検出器31、例えばフォトダイオードによって検出される。光検出器31は、出射光ビームL2の光量を決定する(例えば、スペクトル全体またはスペクトルの特定の部分におけるこの光ビームの光強度によって表される)。測定結果は、検出器31に連結された評価および記録モジュール32によって評価され、場合により観察期間に監視される。モジュール32は、検出器31から入力データを受信し、入力データを処理し、1つまたはそれ以上のルーチンに対応するプログラムされた命令またはコードに基づいて、処理された入力データに応答して表示システムへの表示用および/または記憶用(例えば、患者電子カルテ内)の情報を出力することができる。特に、モジュール32は、マイクロプロセッサユニット、入出力ポート、実行可能プログラムおよび校正値のための電子記憶媒体、例えば読み取り専用メモリチップ、ランダムアクセスメモリ、キープアライブメモリ、およびデータバスを備えたマイクロコンピュータであってもよい。記憶媒体の読み取り専用メモリは、
図7および
図13に関して後述される方法など、
図1の異なる構成要素の制御方法を実行するようにプロセッサによって実行可能な命令を表すコンピュータ可読データを用いてプログラムされる。さらに、モジュール32は、磁場発生器41への電流供給を制御することなどにより、命令されたときに連続地場またはパルス磁場を提供するように磁場発生器41を制御するように構成(例えば、命令を実行)される。
【0016】
光源21において、レーザダイオード(例えばλ=658nm)が用いられる。入射光ビームL1を平行にするためにコリメータレンズが使用され、ビーム径を小さくするために例えば0.5mmのピンホール23が使用される。正確な測定のためには、非常に安定した光源が必要である。しかし、完璧に安定した光源であっても、レーザの温度変化によって出力のドリフトおよびランダムな変化が引き起こされ得る。
【0017】
この問題に対処するために、光源は、場合によりレーザの出力レベルを測定するための統合入射光監視ダイオード22を有することができる。監視センサ22の(ローパスフィルタされた)出力は、その後、評価モジュール32に連結され、評価モジュール32は、検出器31からの(ローパスフィルタされた)光信号を監視センサ22の出力で除算することができる。信号対雑音比を改善するために、結果として取得された信号は時間平均化される。この除算により、レーザ出力変動の影響、すなわち電力の変化によるもの(安定化電源が必要とされない)も温度ドリフトによるもの(ペルチェ素子のような予防措置が必要とされない)も排除される。
【0018】
いくつかの例では、光源21の最終出力が測定される。
図1が大まかに示すように、レーザ出力の一部のみがピンホール23を退出する。この一部のみが支持体11における実際の測定に使用され、したがって最も直接的な光源信号である。明らかに、この一部は、例えば統合監視ダイオード22によって決定されるように、レーザの出力に関連しているが、光路における機械的な変化または不安定性の影響を受ける(レーザビームのプロファイルは、ガウス分布を有する略楕円形、すなわちかなり不均一である)。したがって、ピンホール23を通過後、および/または結果として、光源21の他の光学部品を通過後、入射光ビームL1の光量を測定することが有利である。これは、様々な方法で行われる。例えば、平行ガラスプレート24を45°未満に配置、またはビームスプリッタキューブ(例えば、透過率90%、反射率10%)をピンホール23の後方の光路に挿入して、わずかな割合の光ビームを別の入射光監視センサ22’に向けて偏向させることができる。別の例として、ピンホール23または入射光ビームL1の縁部にある小型ミラーを使用して、ビームのわずかな部分を検出器に向けて偏向させることができる。
【0019】
図1は、入射光ビームL1のエバネッセント波によって励起された蛍光粒子1によって放出された蛍光を検出するために、代替的にまたは追加的に使用される第2の光検出器31’を含んでいる。この蛍光は、通常、全側面へと等方的に放出されるため、第2の検出器31’は、原理的には、どこにでも、例えば、検出表面12の上方に配置される。さらに、検出器31を蛍光のサンプリングに使用することももちろん可能であり、蛍光は例えば反射光L2とはスペクトルで区別される。
【0020】
上述したように、センサシステムは、全反射(TIR)を用いて光信号を測定するように構成される。例えば、光源は、光ビームが支持体の検出表面における調査領域において全反射されるように、上記支持体内に光ビームを放出する。この「調査領域」は、検出表面のサブ領域であっても、または検出表面全体を構成してもよく、典型的には、入射光ビームによって照明される略円形のスポットの形状を有する。さらに、全反射の発生には、支持体の屈折率が検出表面に隣接する材料の屈折率よりも大きいことが必要であることに留意すべきである。これは、例えば、支持体がガラス(n=1.6)製であり、隣接する材料が水(n=1.3)である場合に当てはまる。「全反射」という用語は、反射過程の間に入射光の一部が失われる(吸収される、散乱する、など)「漏れ全反射」(fTIR)と呼ばれる場合も含むことにさらに留意すべきである。
【0021】
fTIRを利用することによって、検出技術は表面特異的になり、これにより背景雑音を低減し得る。fTIRにより、試料中にエバネッセント波が生じ、このエバネッセント波は支持体の表面から離れると指数関数的に減衰する。このエバネッセント波が、
図1のセットアップにおける信号発生要素1のような別の媒体と相互作用すると、入射光の一部が試料流体に結合し(これを「漏れ全反射」と呼ぶ)、反射強度が低下する(一方、きれいな界面で相互作用がない場合、反射強度は100%になる)。外乱の量、すなわち検出表面12またはそのごく近傍(約200nm以内)にある(試料チャンバ2の他の部分にはない)信号発生要素の量に従って、反射強度はそれに応じて低下する。この強度低下は、結合した信号発生要素1の量、したがって標的分子の濃度の直接的な尺度である。約200nmのエバネッセント波の上記の相互作用距離を、抗体、標的分子および磁性ビーズの典型的な寸法と比較すると、背景の影響が最小限であることは明らかである。
【0022】
図1は、試料中の分析物の濃度を測定するために光学検出システムを使用する超小型電子センサシステムを示しており、検出表面に結合した信号発生要素を検出するための他の機構も可能である。例えば、検出表面に結合した信号発生要素は、磁気抵抗法、ホールセンサ、コイル、光学法、イメージング、蛍光、化学発光、吸収、散乱、表面プラズモン共鳴、ラマン、音波検出、例えば表面音響波、バルク音波、カンチレバー、水晶振動子など、電気検出、例えば伝導、インピーダンス、電流測定、酸化還元サイクルなどを用いて検出される。
【0023】
図2は、
図1の超小型電子センサシステム100の試料カートリッジなどのセンサシステムの例示的試料カートリッジ202の上面
図200を模式的に示す。試料カートリッジ202は、複数の壁および中空の内部を含み、それによって試料チャンバ203を形成することができる。試料チャンバ203は、
図1の試料チャンバ2の非限定的な例である。試験中、試料(1つまたはそれ以上の対象分析物を含む液体)は、注入口を介して試料カートリッジ202に入れられ、これは
図2に示す矢印に沿っていてもよい。試料カートリッジ202は、試料カートリッジ202の底面にコーティングされた捕捉要素(例えば、1つまたはそれ以上の抗体)を含む結合表面205を備えている(試料カートリッジ202の底面は、検出表面206とも呼ばれる)。図示された例では、試料カートリッジ202は、2列に配置された6つの結合表面領域を含む。結合表面205は、第1の列に配置された第1の領域208、第2の領域210、第3の領域212と、第2の列に配置された第4の領域214、第5の領域216、および第6の領域218とを含む。各結合表面領域は、同じ捕捉要素を含んでいてもよい。例えば、各結合表面領域は、所定の濃度で検出表面206にコーティングされた抗トロポニン抗体を含んでいてもよい。他の例では、1つまたはそれ以上の結合表面領域は異なる捕捉要素を含んでいてもよい。例えば、結合表面領域の半分は抗トロポニン抗体を含むことができ、結合表面領域の残りの半分は抗BNP抗体を含むことができる。検出表面206の、結合表面領域の周囲および結合表面領域間の部分は、結合表面を形成/画成する捕捉要素で機能化されていないこともある。
【0024】
また、
図2には、センサシステムの一部として含まれる磁気要素204が示されている。磁気要素204は、磁場発生器41の非限定的な例であり、したがって、検出表面206および試料チャンバ203の隣接空間に磁場を制御可能に発生させるための、コイルおよびコアを備えた電磁石を含むことができる。
【0025】
磁気要素204は、傾斜を有する磁場を発生させるように構成され、傾斜の最高密度(例えば、最高磁束)は、磁気軸に沿って延びており、この軸は、
図2では、試料カートリッジ202の中心軸220であってもよい。
図2に示す例では、中心軸220は、磁気要素204の長手方向軸に沿って(例えば、これと平行に、かつ整列して)延びることがある。さらに、
図2は、デカルト座標系250を含み、中心軸220は、座標系250のX軸に沿って(例えば、平行に)延びている。
【0026】
図3および
図4は、試料カートリッジ202の異なる図を示す。
図3は、試料カートリッジ202の第1の側面
図300を示し、
図4は、第2の側面
図400を示す。
図3および
図4の各々は、デカルト座標系250を含む。
図3に示すように、試料カートリッジ202は、上壁302、第1の側面306、および第2の側面308を含む。第1の側面306および第2の側面308の各々は、座標系250のZ軸に沿って延びており、このZ軸は、重力に平行であってもよく、重力とは反対の方向(例えば、正のZ方向は、平坦な地面から離れる上向きである)を指してもよい。
図4に示すように、試料カートリッジ202は、第3の側面402および第4の側面404も含む。また、
図3および
図4には、乾燥した機能化信号発生要素(例えば、磁性ビーズ)が一時的に配置される信号発生要素領域304が示されている。図示されるように、信号発生要素領域304は、試料カートリッジ202の内側上面(例えば、上壁302の内側表面)にあってもよいが、他の位置が可能であり、かつ/または複数の信号発生要素領域が含まれる。試料が試料カートリッジ202に入れられると、乾燥した機能化信号発生要素が放出され、試料と混合される。
【0027】
図3に示すように、試料カートリッジ202は、座標系250のX軸に沿って第1の側面306から第2の側面308まで延びる長さL1を有する。磁気要素204は、磁気要素204の長手方向軸に平行なX軸に沿って延びる長さL2を有する。図示されている例では、磁気要素204の長さL2は、試料カートリッジ202の長さL1と同じか、またはそれより長くてもよい。
【0028】
図4に示すように、試料カートリッジ202は、Y軸に沿って第3の側面402から第4の側面404まで延びる幅W1を有する。いくつかの例では、試料カートリッジ202の幅W1は、試料カートリッジ202の長さL1に等しくてもよい。他の例では、幅W1は、長さL1より長くても短くてもよい。磁気要素204は、磁気要素204の長手方向軸に垂直な、Y軸に沿って延びる幅W2を有する。図示されている例では、磁気要素204の幅W2は、試料カートリッジ202の幅W1よりも短い。さらに、磁気要素204は、磁気要素204の中心長手方向軸が試料カートリッジ202の中心軸と整列するように、試料カートリッジ202に対して中心に配置され、ここで、試料カートリッジの中心軸は、第3の側面402と第4の側面404との間の等距離の点に位置し、第1の側面306から第2の側面308まで延びる。このようにして、磁気要素204の中心長手方向軸は、2列の結合表面領域の間に位置する。
【0029】
磁気要素204は、試料カートリッジの中心に向かって、例えば中心軸220に沿って磁場傾斜を引き起こす。磁気要素204は、試料カートリッジ202の長さL1よりも長い長さL2を有するため、磁場傾斜は、試料カートリッジ202の長さL1に沿って一貫していてもよいが、試料カートリッジ202の幅W1に沿って変化してもよい。例えば、中心軸220に沿って、磁場は、第1の側面306から第2の側面308までの中心軸220全体に沿って最高磁束密度を有し得る。しかしながら、磁束密度は、中心軸220から第3の側面402まで、また中心軸220から第4の側面404まで減少し得る。
【0030】
このように、磁気要素204が活性化される(例えば、磁気要素204のコイルに電流が供給される)と、磁場が発生する。磁場は、磁束密度が最も高い領域が試料カートリッジの中心、例えば中心軸220に沿って位置する傾斜を有し得る。試料が試料カートリッジ202に入れられると、信号発生要素が放出され、試料と混合される。磁気要素204が活性化されると、信号発生要素(磁性粒子であってもよい)および結合した分析物は、磁力によって検出表面206に引き寄せられ、特に中心軸220に向かって引き寄せられ、そこで信号発生要素は、検出表面206に固定された捕捉要素(例えば、結合表面205として)と相互作用する。したがって、試料中に分散した信号発生要素は、最も高い磁力線密度/最も高い磁束密度の位置に集中する。
【0031】
したがって、特に複数の分析物が試験されるときに、一貫した分析物分析を確実にするために、結合表面205は、最も高い磁力線密度/磁束密度の位置に、またはその近傍に位置する。例えば、
図2に戻って参照すると、結合表面205は、中心軸220に近接して配置される(例えば、各領域は、磁気要素の上方で、中心軸220から閾値距離以内に配置される)。このようにして、信号発生要素が、磁気要素によって発生する磁場を介して検出表面206に集中するとき、信号発生要素は、結合表面205において、またはそれに沿って集中することになり、これにより、いかなる磁性粒子/分析物複合体も、結合表面205を形成する適切な抗体と相互作用し、結合する可能性が高くなる。
【0032】
図2~
図4に示す例では、試料カートリッジ202は、6つの結合表面領域を含み、磁気軸が試料カートリッジ202の中心軸と位置合わせされた単一の磁気要素の上に位置しているが、本開示の範囲から逸脱することなく、他の構成も可能である。例えば、単一の結合表面領域、2つの結合表面領域、3つの結合表面領域など、より多くの、またはより少ない結合表面領域を含むことができる。結合表面領域は、1列に配置される、3列に配置される、円形に配置されるなど、
図2~
図4に示されるのとは異なるように配置することができる。センサシステムは、いくつかの例において、複数の磁気要素を含んでもよい。さらに、いくつかの例では、磁気要素は、軸に沿ってではなく、単一の点を中心に磁束密度が最も高い磁場を発生させることができる。
【0033】
試料カートリッジ202は、
図1のセンサシステムなどのセンサシステム内に位置するように構成される。試料カートリッジ202は、例えば、試料中の分析物の濃度を測定するための試験を実施するための試薬を含む。試薬は、機能化された磁性粒子(例えば、信号発生要素領域304に含まれる信号発生要素など、分析物に特異的な捕捉要素を含む磁性粒子)および結合表面205を含むことができ、さらに緩衝液または他の試薬を含むことができる。血液または唾液などの試料は、試料カートリッジの試料チャンバに導入され、そこで試料は磁性粒子および検出表面206に結合した捕捉要素と混合される。試料が試料チャンバに導入され、信号発生要素が分散されると、試験の生化学反応段階が始まる。生化学反応段階の間、試料中の分析物(例えば、トロポニン)は、機能化された信号発生要素および/または結合表面に結合する。生化学反応段階において、分析物分子は、未結合、信号発生要素にのみ結合、結合表面にのみ結合、または結合表面および信号発生要素の両方に結合の4つの状態になり得る。分析物が第4の状態(分析物が結合表面および信号発生要素の両方に結合している)に到達するプロセスを促すために、磁気要素は、信号発生要素を試料カートリッジの結合表面に活発に近づける磁場を発生させるために活性化される。
【0034】
閾値量の時間が経過した後、生化学反応段階は、未結合の信号発生要素(例えば、分析物および/または捕捉要素を介して結合表面に結合されていない信号発生要素)を結合表面から引き離す磁場を印加することによって停止される。この磁気洗浄をしたとき、検出段階が始まり、その時点で、(信号発生要素が結合表面に結合していることによって)結合表面に残っている信号発生要素の数の測定値を得るために光場が使用される。検出段階中に測定された、本明細書では試料データと呼ばれる光信号は、次いで、分析物の濃度を計算するために、予め決められ、RFIDタグなどの試料カートリッジのタグから取得された校正情報と比較される。典型的には、分析物の濃度を計算するために使用される光信号は、結合表面の所定の特定の測定関心領域(ROI)から取得される。これらの測定ROIは、結合表面のサブセット、例えば、結合表面の領域と重なる矩形領域であってもよい。各測定ROIは、代替的に、それぞれの結合表面領域の領域全体、またはそれぞれの結合表面領域およびそれぞれの結合表面領域外の一部の領域を含む領域であってもよい。
【0035】
上記試験プロセスは、信号発生要素分布の不均一性および/または粘度などの試料流体パラメータの相違により、各測定ROIで検出される光信号の変動および/または試験間の光信号の変動が生じ得る。例えば、分析物濃度(例えばトロポニン)について試験される第1の患者は、第2の患者由来の試料よりも高い血糖値を有する試料(例えば血液)を提出することがある。信号発生要素の光学特性は、信号発生要素および信号発生要素を取り囲む流体の材料組成により影響を受けるため、血糖値がより高いことで、第1の患者由来の試料中の信号発生要素が、第2の患者由来の試料中の信号発生要素とは異なる光学特性を有することになる。このように、第1の患者と第2の患者との間の試験結果は、分析物の様々なレベルに加えて、患者の血液試料の血糖値によって異なり得る。さらに、いくつかの例では、患者試料によって異なる流体粘度を示し得、これは試験中の信号発生要素の可動性に影響を与えることがあり、その結果、試験のばらつきが生じることがある。
【0036】
信号発生要素分布の不均一性および異なる試料流体特性という上記の問題に対処するために、背景データが、試験の生化学反応段階(例えば、結合表面から未結合の磁性粒子を除去するために磁場を印加する前)または試験の別の適切な時点で取得され、検出段階中に取得された試料データを補正するために使用される。背景データは、結合した磁性粒子および未結合の磁性粒子が結合表面に存在するときに取得される光信号を含むことができ、したがって磁場が印加されて磁性粒子が結合表面に活発に引き寄せられるときに取得されるが、磁場が印加されていないときに取得することもできる。
【0037】
しかしながら、背景データによる試料データの補正をさらに改善するために、分析物の濃度は、結合表面への信号発生要素の結合に影響するため、背景データは、未結合の信号発生要素のみからの光信号の測定を含んでもよい。したがって、背景データは、結合表面に重なっていない背景領域から取得される。
【0038】
図5は、複数の背景領域502の位置を含む試料カートリッジ202の別の模式
図500を示す。図示されている例では、複数の背景領域502は、個々の結合表面領域それぞれを取り囲むように配置され、したがって、第1の列504、第2の列506、および第3の列508に配置される。いくつかの例では、各列は、4つの背景領域を含むことができ、合計12の背景領域がある。図示されている例では、第1の列504は(左から右へ)1~4と番号付けされた背景領域を含み、第2の列506は5~8と番号付けされた背景領域を含み、第3の列508は9~12と番号付けされた背景領域を含む。背景領域は、上述したように、背景データを生成するために光信号が検出される検出表面206の領域であり、背景領域では捕捉要素が検出表面に固定されていないことを理解すべきである。いくつかの例では、四隅の背景領域(
図5において破線で示される)は省略することができる。本明細書で使用する場合、「背景領域」という用語は、試料カートリッジの検出表面の、試料データを補正するために使用される背景データを生成するためにセンサ信号(光信号など)が測定される領域(円形、矩形、または別の適切な形状であり得る)を指すことがあり、試料データは、試料中の1つまたはそれ以上の分析物の濃度を決定するために使用される。いくつかの例では、背景領域は結合表面と完全にまたは部分的に重なることがある。他の例では、背景領域は結合表面と重なっていないことがある。本明細書に記載されるように、背景領域で測定されるセンサ信号は、検出表面に(例えば、検出表面が1つまたはそれ以上の捕捉要素でコーティングされている領域において)結合している、かつ/または検出表面に結合していない信号発生要素(磁性粒子または光学的な、もしくは他の方法で検出することができる他のタイプの粒子もしくはビーズであり得る)によって生成される光信号または他のタイプの信号(例えば、磁気)を含み得る。fTIRが光信号の生成および測定に使用される例では、検出表面の閾値範囲内(例えば、100nm以内)の信号発生要素によって出力される光信号が測定されるが、閾値範囲外の信号発生要素は検出されない。
【0039】
図6は、試料が試料カートリッジに導入された後、信号発生要素640が試料と混合され、試料カートリッジの検出表面603上の結合表面605に引き寄せられる生化学反応段階の間の試料カートリッジ602の例示的な画像600を示す。試料カートリッジ602は、上記で説明した試料カートリッジ202の非限定的な例であり、したがって、検出表面603の一端に入口604を含み、検出表面603の他方の反対側の端にピンニング(pinning)606を含む。結合表面605は、検出表面603に固定された捕捉要素の6つの個々の領域を含み、これらの領域は、第1の領域608、第2の領域610、第3の領域612、第4の領域614、第5の領域616、および第6の領域618を含む2列に配置される。結合表面605の各領域は、測定ROI(例えば、結合表面における磁性粒子由来の光信号が検出される)を示し得る矩形によって表される。しかしながら、本開示の範囲から逸脱することなく、捕捉要素および/または測定ROIの領域のための他の形状も可能である。
【0040】
図6は、複数の背景領域の位置をさらに示しており、これらは、図示されているように、3列に配置されている。背景領域の第1(上)の列は、第1の背景領域620および第2の背景領域622を含む。背景領域の第2(中央)の列は、第3の背景領域624、第4の背景領域626、第5の背景領域628、および第6の背景領域630を含む。背景領域の第3(下)の列は、第7の背景領域632および第8の背景領域634を含む。
【0041】
図6の暗い点/線は、信号発生要素640を示す。生化学反応段階中の信号発生要素分布は、検出表面603全体で変化する。例えば、磁気要素(
図6には示されていない)の構成により、信号発生要素640は検出表面の中心領域に沿って集中しており、試料カートリッジの上部(例えば、ピンニング606を含む)または下部(例えば、入口604を含む)近傍の検出表面に沿って信号発生要素はまったく(またはほとんど)存在していない。背景領域は、これらのゼロ密度領域を除外するように位置し、さらに結合表面の領域を取り囲むように位置する。
【0042】
図6に示す例では、信号発生要素は不均一な分布を示している。例えば、試料カートリッジ602の左側および右側には、試料カートリッジ602の中央よりも多くの信号発生要素が存在している。そのため、検出段階の間に取得される光信号は、試料カートリッジの中央よりも左側および右側の結合表面の領域で強くなり得る。したがって、背景データを用いて試料データを補正することができる。例えば、第1の領域608を取り囲む背景領域(例えば、背景領域620、624、および626)で測定された光信号は、組み合わされ(例えば、平均され)、第1の領域608で取得された試料データを補正するために使用される。他の例では、各背景領域で測定された光信号を組み合わせて、結合表面の各領域で取得された試料データを補正するために使用される背景データセット全体を形成する。このようにして、生化学反応段階で測定された光信号は、特定の試験の光信号能力の校正測定値とみなされ、したがって、試料データを補正するために使用される。そうする際に、信号発生要素の濃度または屈折率もしくは粘度などの流体特性のばらつきが補償される。
【0043】
本明細書では、センサデバイスまたはセンサシステムに位置するように構成された試料カートリッジについて記述したが、試料カートリッジは、その結合表面を形成するために1つまたはそれ以上の捕捉要素でコーティングされ、信号発生要素と混合された試料を収容するように構成された任意の適切な容器であってもよいことを理解すべきである。例えば、試料カートリッジは、本明細書に記載されているように密閉されず、代わりに上壁がなくてもよく、または試料カートリッジは、1つまたはそれ以上のウェルを含むプレートの形態であってもよい。このように、
図2~
図6に関して上述した試料カートリッジは、試料容器と呼ばれ、これは、カートリッジ、プレート、マルチウェルプレート、または試料を収容することができ、本明細書に記載される結合表面を有する実質的に任意の他の構造を含んでいてもよい。
【0044】
図7は、結合表面のどの領域とも重ならない複数の背景領域(
図5および/または
図6に示す複数の背景領域など)で収集された背景データを使用して背景補正を適用することを含む、センサシステム100などのセンサシステムを用いて試料を試験するための方法700を示すフローチャートである。方法700は、少なくとも部分的にセンサシステム100の評価および記録モジュール32などのコンピューティングシステムによって、そのメモリに記憶された、プロセッサによって実行される命令に従って実行される。702において、試料はセンサシステムの試料チャンバ内に受けられる。試料は、血液、唾液などの体液を含むことができ、これは試薬、緩衝液、水などと混合される。試料は、試料入口を介して導入され、試料チャンバ内に流入することができる。試料チャンバは、試料カートリッジ202などの試料容器の内部を構成し得る。したがって、試料は、試料チャンバ内で信号発生要素(磁性粒子など)と混合され得る。試料容器は、試料容器の検出表面にコーティングされた1種またはそれ以上の捕捉要素を含み、それによって結合表面を形成することができる。
【0045】
704では、場合により基準測定値が取得される。基準測定値を取得することは、センサシステムの1つまたはそれ以上の光源を起動することと、センサシステムの1つまたはそれ以上の検出器で結果として生じた光信号を検出することとを含み得る。基準測定値は、生化学反応段階の開始前、例えば、センサシステムの磁気要素の活性化前に取得される。706では、信号発生要素を試料カートリッジの結合表面に引き付けるために、センサシステムの1つまたはそれ以上の磁気要素が活性化される。1つまたそれ以上の磁気要素は、磁気軸または単一の点を中心とした磁場を発生させる磁気要素204などの1つまたはそれ以上の磁気要素を含むことができる。磁気要素は、所定のアクチュエーションプロトコルに従って、連続磁場またはパルス磁場を発生するように活性化される。
【0046】
708では、1つまたはそれ以上の磁気要素がアクチュエーションプロトコルに従ってアクチュエーションされる生化学反応段階中に、センサシステムの、光源21などの1つまたはそれ以上の光源が起動され、検出器データは、検出器31などの1つまたはそれ以上の検出器から取得され、背景データを生成するために、試料容器の各背景領域における光信号を測定する。例えば、背景領域に光を導くように位置する光源が起動され、その結果生じる光信号は対応する検出器によって測定される。背景データの収集は、少なくともいくつかの例では、磁場が印加されて信号発生要素を結合表面に引き寄せるアクチュエーション期間に対応するようにタイミングを合わせてもよい。光信号は、生化学反応段階中の1つまたはそれ以上の別個の時点で取得されるか、または光信号は、生化学反応段階中に連続的に取得される。いくつかの例では、光信号はFTIRベースの検出を用いて取得することができる。そのような例では、検出表面に極めて近接している、例えば通常、試料チャンバ内を約100nm貫入するエバネッセント波内にある(磁性)粒子のみが検出される。さらに、パルス磁場を使用する場合、磁性粒子はパルスの全持続時間(磁場が数百ミリ秒または数秒間オフにされている場合)検出表面には近接せず、したがって、測定された信号は、粒子が検出表面にある(それから初めて結合表面に結合することができる)有効時間に対応する。
【0047】
710では、少なくとも1回の磁気洗浄が実施された後に始まる検出段階(例えば、磁気洗浄が、未結合の信号発生要素を試料容器の結合表面から遠ざけるために磁場を印加することを含む)の間、1つまたはそれ以上の光源が起動され、検出器データは、試料データを生成するために、結合表面の各領域で光信号を測定するために取得される。例えば、結合表面に光を導くように位置する光源が起動され、その結果生じる光信号は対応する検出器によって測定される。いくつかの例では、試料データの収集は、生化学的反応段階が完了した後にのみ実行される。他の例では、試料データは、生化学反応段階の中断中に複数の時点で収集することができる。例えば、生化学反応段階は、最初の試料データセットを収集し(磁気洗浄を行った後)、その後、生化学反応段階を再開することができるように、一時停止することができる。次いで、生化学反応段階が終了し、第2の試料データセットが(もう一度磁気洗浄を行った後)収集される。生化学反応段階が完了する前の1つまたはそれ以上の時点で試料データを収集することによって、例えば、高分析物濃度による信号飽和は、生化学反応が完了する前に光信号を測定することにより回避される。光信号は、検出段階中の1つまたはそれ以上の別個の時点で取得されるか、または光信号は検出段階中に連続的に取得される。光信号が取得されるタイミングは、信号の所望の信号対雑音比(例えば、結合表面の飽和により近いときに取得される信号は、より高い信号対雑音比を有することがある)および/または試験を行う所望の速度に基づいてもよい。さらに、背景光信号と同様に、試料データを生成するために取得される光信号は、fTIRを用いて取得される。
【0048】
712では、方法700は、各背景領域から測定された光信号が非ゼロ信号であるか否かを判定する。例えば、背景データの収集中に各背景領域から検出された信号応答を分析して、各領域が対応する検出器の出力から正の非ゼロ値を記録したことを確認することができる。磁性粒子の密度を考慮すると、各背景領域から少なくともいくつかの信号が測定されることが期待される。1つまたはそれ以上の背景領域から信号が検出されない(例えば、ゼロ値、またはゼロの閾値範囲内)場合、気泡があること、または試料が試料容器を完全に充填していないことを示すことがあり、これにより試験結果が損なわれ得る。したがって、1つまたはそれ以上の背景領域がゼロの信号を記録するか、またはゼロの閾値範囲内の信号を記録する場合(例えば、712での回答が「いいえ」)、方法700は720に進み、現在の試験が無効である、および/または分析物濃度が測定できないという通知を表示および/または記憶し、次いで、方法700は元に戻る。
【0049】
しかしながら、各背景領域が正の非ゼロ信号を有する場合(例えば、712での回答が「はい」)、方法700は714に進み、背景データおよび試料データは、場合により704で取得された基準測定値に基づいて補正される。例えば、基準測定値は、背景データおよび試料データの各々から減算することができる。そうする際に、光信号(例えば、光源からの出力)に影響を与え得る他の変動を補償することができる。716では、試料データは背景データに基づいて補正される。先に説明したように、結合表面の領域に隣接しているか、または取り囲むように位置する1つまたはそれ以上の背景領域からの背景データを組み合わせ、結合表面のその領域の試料データを補正するために使用することができる。他の例では、すべての背景領域からの背景データを組み合わせ、結合表面の各領域からの試料データを補正するためにまとめて使用することができる。背景データに基づいて試料データを補正することは、試料データを背景データで除算することを含むことができる。他の例では、校正中に確立される試料データと背景データとの間の関係(この関係は線形、べき乗関数、指数関数などである)などの様々な関数が、背景データを使用して試料データを補正するために適用される。
【0050】
いくつかの例では、背景データは、いくつかの背景領域から取得された光信号に他の背景領域から取得された光信号よりも大きな重みが与えられるように重み付けすることができる。例えば、
図6を参照すると、第2(中央)の列の背景領域(背景領域624、626、628、および630)由来の光信号は、第1(上)の列および第3(下)の列の背景領域由来の光信号よりも小さな重みが与えられる。重み付け後、光信号は、背景データを生成するために組み合わせる(例えば、合計する、または平均する)ことができる。中央列の背景領域により小さい重みを与えることによって、試料カートリッジの、磁束密度が最も高い中央部に沿って信号発生要素が集中する傾向を補償することができる。
【0051】
718では、補正済み試料データは、記憶され、かつ/またはセンサシステムのディスプレイに表示される。補正済み試料データは、試料中の1つまたはそれ以上の対象分析物の濃度を決定するために使用されるか、または決定された濃度もしくは濃度信号は、表示のために出力され、かつ/もしくはメモリに保存される。例えば、コンピューティングシステムは、補正済み試料データと分析物の濃度との間の関係(例えば、試料容器のRFIDタグから、メモリに記憶された関係から、など)にアクセスし、この補正済み試料データおよび関係に基づいて分析物の濃度を決定することができる。例えば、分析物の濃度は、校正曲線を用いて計算され、測定済みの結合した信号発生要素の量を分析物の濃度に変換することができる。校正曲線(または計算式、または方程式)は、センサシステム(例えば、評価および記録モジュール32)のメモリに記憶され、校正曲線または方程式の値/パラメータは、センサシステムのRFIDタグに記憶される。校正パラメータ(例えば、校正曲線または方程式の定数を含む方程式)は、製造後、基準試料、例えば、試験の報告可能範囲にわたって分布した、異なる濃度の分析物を含む試料を用いて一連のカートリッジを試験することによって決定される。試験データはその後、数式を用いたデータのフィッティング(例えば、最小二乗回帰)により分析される。次いで、得られたフィッティングパラメータがデバイスのRFIDタグに書き込まれる。すると方法700が終了する。
【0052】
図8~
図10は、
図7に関して上述した背景補正の効果を示すグラフの例である。各グラフについて、試料データおよび/または背景データは、異なる患者由来の複数の様々な試料で取得され、各試料は、異なる量の分析物、本明細書ではトロポニン-Iでスパイクされている。試料は、
図1のセンサシステムなどのセンサシステムを用いて測定された。試料を測定するために使用された試料容器は、
図2~
図6の試料カートリッジであってもよく、図示されている例では、
図2に示すように、6つの別個の領域に配置された結合表面を含むことができ、結合表面の各領域は抗トロポニン抗体を含む。図示されている例では、6つの試料が測定され、各試料は15回測定された。各試料の測定のために、トロポニンの濃度はそれぞれの検出段階中に決定された。さらに、各試料測定について、背景データは、以下に詳述するように、生化学反応段階中に各背景領域で取得された。
【0053】
図8は、各試料の生化学反応段階(結合段階とも呼ぶ)中に測定された平均光信号の関数としての測定トロポニン濃度のグラフ800を示す。したがって、グラフ800のy軸は、ng/L単位の測定トロポニン-I濃度(cTnI)であり、x軸は、生化学反応段階中に取得された平均光信号(これは、基準測定値に対して正規化され、したがって、基準測定値に対するパーセンテージである)を示す。
図8のグラフ800は、背景補正が行われていない、検出段階中に取得された光信号に基づく測定トロポニン濃度を示す。所定の試料についての測定トロポニン濃度(例えば、13~15の測定トロポニン濃度)の各々は、その測定での生化学反応段階中の平均光信号の関数としてプロットされた。例えば、線802は、所定の試料の生化学反応段階中に測定された平均光信号の関数として、それぞれの検出段階中の第1の試料についての13の測定されたトロポニン濃度のベストフィットの線である。第1の試料の個々のトロポニン濃度測定値はそれぞれ、生化学反応段階中に測定された平均光信号の関数としてプロットされたプラス記号として
図8に示されている。グラフ800から理解されるように、測定されたトロポニン濃度は、線802の増加する傾きおよび試験された試料の残りの部分によって示されるように、生化学反応段階中に検出された平均光信号が増加するにつれて増加する(試験された試料はそれぞれ、対応する個々の測定値が種々の記号として示されているベストフィット線として示される)。測定された分析物濃度と光信号との間の相関関係は、潜在的な変動係数(CV)効果を示している。換言すれば、試料はそれぞれ、各測定中に測定されるべき既知のトロポニン濃度を有する。しかしながら、磁性粒子結合の試験間変動(例えば、均一でない粒子分布、試料流体特性などに起因する)は、人為的に低い、または人為的に高いトロポニン濃度測定値をもたらす可能性がある。例えば、第1の試料中のトロポニン濃度の測定値は、約15ng/Lから20ng/Lにわたる比較的高いレベルの変動を示す。
【0054】
図9は、背景補正を適用した、各試料について生化学反応段階中に測定された光信号の関数としての複数の試料の測定トロポニン濃度のグラフ900を示す。したがって、グラフ900のy軸は、ng/L単位の測定トロポニン-l濃度(cTnl)であり、x軸は、生化学反応段階中に取得された光信号を示す。グラフ900を生成するために測定された試料は、グラフ800を生成するために測定された試料と同じであるが、グラフ900において、測定されたトロポニン濃度は、(例えば、
図7に関して上述された)本明細書に記載された背景補正を用いて補正された光信号を用いて、検出段階中に取得された光信号に基づいて決定された。グラフ900を生成するために適用された特定の背景補正は、
図6に示す背景領域における光信号を測定することを含んでいた。第1の列の背景領域由来のおよび第3の列の背景領域由来の光信号は、背景領域の第2の列の光信号に対して重み付けされた。背景領域に対する重み付けの合計は、(左から右、上から下へ)係数2、2、1、1、1、1、2、および2であった。結合表面の複数の領域から測定された光信号(例えば、試料データ)は、生化学反応段階中の背景領域で測定された光信号(例えば、背景データ)で除算され、係数37.5(これは、背景データ全体の平均光信号であった)で乗算された。
【0055】
図9によって理解されるように、測定された分析物濃度と光信号との間の観察された相関関係は、各試料で低下した。例えば、線902は、所定の試料(線802を生成するために測定された試料に対応する)の生化学反応段階中に測定された、平均され補正された光信号の関数として、第1の試料について測定されたトロポニン濃度のベストフィット線を示す。線902は、測定された分析物濃度と生化学反応段階中の光信号との間の相関関係の低下を示す。このように、全体的な磁性粒子結合を示す背景データを用いて試料データを補正することによって、磁性粒子結合の試験間変動が説明され、トロポニン濃度測定の精度および再現性が向上する。
【0056】
定量限界(LoQ)10%変動係数(CV)(LoQ10%CV)は、
図10に示すように、未補正トロポニン濃度測定値および補正トロポニン濃度測定値について計算され、プロットされた。
図10のグラフ1000は、2種のトロポニン(ネイティブおよびNISTによって開発された参照トロポニン)について、未補正または上記のように補正した場合の、測定トロポニン濃度(ng/L)のLoQ10%CVを示す。
図10から理解されるように、背景補正は、各種トロポニンのLoQを低下させる。
【0057】
図11は、背景領域の異なる組み合わせを用いるCVへの影響を示すグラフ1100を示す。
図11に示す背景領域の異なる組み合わせは、すべての背景領域(例えば、
図6に示す第1の列、第2の列、および第3の列)、第2の列の背景領域のみ、第1の列および第3の列の背景領域のみ、最も中央の2つの背景領域(
図6の626および628と番号付けられた背景領域)のみ、ならびに第2の列の単一の背景領域(
図6の624と番号付けられた背景領域)のみを含む。各背景領域の組み合わせは、CVへの影響を示した。例えば、各背景領域由来の光信号を測定すると、CVの18%の低下を示した(「すべて」と印付けられた行)。さらに、組み合わせによっては、第2の列の背景領域が係数1で重み付けされ、第1の列および第3の列の背景領域が係数4で重み付けされるように、背景領域も重み付けされた。この重み付けは、重み付けされていない背景補正と比較してCV効果の改善を示し、例えば、CVの18%の低下がCVの21%の低下に改善された。グラフ1100は、ピンニングおよび試料容器の入口に近い背景領域(例えば、第1の列および第3の列の背景領域)が補正後のCV改善に最も寄与していることも示す。
【0058】
背景補正による測定トロポニン濃度CVおよびLoQ10%CVの改善は、
図12のグラフ1200によって示されるように、試料容器のさらなるバッチで試験された。バッチは、カゼイン濃度、血液収容(bloodhousing)、または他の要因において異なり得るが、試験されたバッチはすべて、6つの抗トロポニン抗体スポットを含んでいた。グラフ1200は、背景補正のLoQ10%CVに対する効果はバッチごとに異なるが、背景補正はバッチ1以外の各バッチでLoQの低下を示し、それによって背景補正の効果に高い再現性を示していることを示す。
【0059】
図13は、背景補正を実行し、分析物濃度測定における試験間変動を低減するために、試料データを補正するための背景データを取得するために使用される別の背景領域レイアウトを示す。
図13では、複数の背景領域1302の位置を含む試料カートリッジ202の模式
図1300が示されている。
図13に示す例では、複数の背景領域1302は、各背景領域が結合表面の対応する領域と重なるように配置される。例えば、第1の背景領域1304は、第1の領域208と同じ位置に位置し、残りの各背景領域は、(捕捉要素を含むように機能化された結合表面の各領域に1つずつ位置する、6つの背景領域が含まれるように)結合表面の異なる領域と同じ位置に位置する。背景領域は、上述したように、検出表面206の、生化学反応段階中に光信号が検出される領域であることを理解されたい。
【0060】
背景領域が
図13に示すように位置している場合、生化学反応段階中に測定された光信号は、結合した磁性粒子と未結合の磁性粒子の両方からの信号を含む。したがって、未結合の磁性粒子のみからの信号は、生化学反応段階が完了したときに取得される光信号を使用することによって取得される(また、上述のように試料データを補正するための背景データとして使用される)。例えば、生化学反応段階が完了した後の光信号(例えば、検出段階中に取得された光信号)は、生化学反応段階中に取得された光信号から減算され、背景データを得る。
【0061】
図14は、各々がそれぞれの結合表面領域(
図13に示す複数の背景領域など)と重なる複数の背景領域で収集された背景データを使用して背景補正を適用することを含む、センサシステム100などのセンサシステムを用いて試料を試験するための方法1400を示すフローチャートである。方法1400は、少なくとも部分的にセンサシステム100の評価および記録モジュール32などのコンピューティングシステムによって、そのメモリに記憶された命令に従って実行される。1402において、試料はセンサシステムの試料チャンバ内に受けられる。試料は、血液、唾液などの体液を含むことができ、これは試薬、緩衝液、水などと混合される。試料は、試料入口を介して導入され、試料チャンバ内に流入することができる。試料チャンバは、試料カートリッジ202などの試料容器の内部を構成し得る。したがって、試料は、試料チャンバ内で信号発生要素(磁性粒子など)と混合され得る。試料容器は、試料容器の検出表面にコーティングされた1種またはそれ以上の捕捉要素を含み、それによって結合表面を形成することができる。
【0062】
1404では、場合により基準測定値が取得される。基準測定値を取得することは、センサシステムの1つまたはそれ以上の光源を起動することと、センサシステムの1つまたはそれ以上の検出器で結果として生じた光信号を検出することとを含み得る。基準測定値は、生化学反応段階の開始前、例えば、センサシステムの磁気要素の活性化前に取得される。1406では、信号発生要素を試料カートリッジの結合表面に引き付けるために、センサシステムの1つまたはそれ以上の磁気要素が活性化される。1つまたそれ以上の磁気要素は、磁気軸または単一の点を中心とした磁場を発生させる磁気要素204などの1つまたはそれ以上の磁気要素を含むことができる。磁気要素は、所定のアクチュエーションプロトコルに従って、連続磁場またはパルス磁場を発生するように活性化される。
【0063】
1408では、1つまたはそれ以上の磁気要素がアクチュエーションプロトコルに従ってアクチュエーションされる生化学反応段階中に、センサシステムの、光源21などの1つまたはそれ以上の光源が起動され、検出器データは、検出器31などの1つまたはそれ以上の検出器から取得され、背景データを生成するために、試料容器の各背景領域における光信号を測定する。例えば、背景領域に光を向けるように位置する光源が起動され、その結果生じる光信号は対応する検出器によって測定される。背景データの収集は、少なくともいくつかの例では、磁場が印加されて信号発生要素を結合表面に引き寄せるアクチュエーション期間に対応するようにタイミングを合わせてもよい。
【0064】
1410では、少なくとも1回の磁気洗浄が実施された後に始まる検出段階(例えば、磁気洗浄が、未結合の磁性粒子を試料容器の結合表面から遠ざけるために磁場を印加することを含む)の間、1つまたはそれ以上の光源が起動され、検出器データは、試料データを生成するために、結合表面の各領域における光信号を測定するために取得される。例えば、結合表面に光を向けるように位置する光源が起動され、その結果生じる光信号は対応する検出器によって測定される。いくつかの例では、試料データの収集は、生化学的反応段階が完了した後にのみ実行される。他の例では、試料データは、生化学反応段階の中断中に複数の時点で収集することができる。例えば、生化学反応段階は、第1の試料データセットを収集し(磁気洗浄を行った後)、その後、生化学反応段階を再開することができるように、一時停止することができる。次いで、生化学反応段階を終了し、第2の試料データセットが(もう一度磁気洗浄を行った後)収集される。生化学反応段階が完了する前の1つまたはそれ以上の時点で試料データを収集することによって、例えば、高分析物濃度による信号飽和は、生化学反応が完了する前に光信号を測定することにより回避される。
【0065】
1412では、背景データおよび試料データは、場合により1404で取得された基準測定値に基づいて補正される。例えば、基準測定値は、背景データおよび試料データの各々から減算することができる。そうする際に、光信号(例えば、光源からの出力)に影響を与え得る他の変動を補償することができる。1414では、試料データが背景データから減算され、補正済み背景データを生成する。上記で説明したように、生化学反応段階中に測定される光信号は、光信号が(背景領域が結合表面と重なるため)捕捉要素スポットで測定されるため、結合した信号発生要素および未結合の信号発生要素の両方からの信号を含む。したがって、未結合の信号発生要素のみからの信号は、生化学反応段階が完了したときに取得された光信号(結合した信号発生要素のみの光信号を示す)を除去することによって取得される。補正された背景データは、各背景領域について別個の補正済み背景データセットを含んでも、または背景データは組み合わされ、組み合わされた試料データが組み合わされた背景データから減算される。
【0066】
1416では、試料データは補正済み背景データに基づいて補正される。補正済み背景データに基づいて試料データを補正することは、試料データを補正済み背景データで除算することを含むことができる。他の例では、校正中に確立される試料データと背景データとの間の関係(この関係は線形、べき乗関数、指数関数などである)などの様々な関数が、背景データを使用して試料データを補正するために適用される。
【0067】
1418では、補正済み試料データは、記憶され、かつ/またはセンサシステムのディスプレイに表示される。補正済み試料データは、
図7に関して上述したプロセスと同様に試料中の1つまたはそれ以上の対象分析物濃度を決定するために使用され、決定された濃度もしくは濃度信号は、表示のために出力され、かつ/もしくはメモリに保存される。すると方法1400が終了する。
【0068】
図7および
図14に関して上述した方法は、個々の領域で取得された光信号を使用する背景補正に係るが、本明細書で論じられる方法は、代わりに、試料容器の検出表面全体の画像に依存し得る。例えば、試験の生化学反応段階および検出段階の両方の間に、試料チャンバ/検出表面全体の画像が取得され、メモリに記憶される。検出段階が完了したら、記憶された画像から信号が抽出されて、背景データ(例えば、生化学反応段階中の未結合磁性ビーズ由来の信号)および試料データ(例えば、生化学反応停止後の結合したビーズ由来の信号)を取得することができる。
【0069】
このように、磁気吸引段階中に信号発生要素由来のセンサ信号を測定することによって、信号応答に影響する試料特性および信号発生要素の分布の不均一性(および場合によっては他の原因)の複合効果が測定され、結合表面の信号応答を直接補正するために使用される。(例えば、背景データが、捕捉要素により機能化されていない検出表面の1つまたはそれ以上の領域で取得されるように)結合表面領域の外側の信号発生要素からの信号応答を使用することによって、背景補正は、磁気吸引段階の間にも結合表面内の信号応答に影響を及ぼし得る(例えば、この段階の間、信号応答は、分析物濃度に応じて時間と共に増大する)、試験される分析物の濃度に影響されない。本明細書に記載の背景補正の別の利点は、生化学反応(磁性粒子が結合表面にあるとき)中に結合表面外で測定された信号が、反応の補正機能の確認として使用されることである。例えば、反応チャンバが液体で完全に充填されておらず、代わりに空気含有物を含んでいる場合、ゼロに近い信号が空気含有物の位置で測定され、信号発生要素が検出表面のこの位置領域に到達できないことを示す。次いで、この情報は、試験を無効にし、誤った試験結果が出るのを防ぐために使用することができる。
【0070】
結合表面に結合した信号発生要素の数を示す試料データを、未結号の信号発生要素の数を示す背景データに基づいて補正する技術的効果は、試料データに基づいて決定される分析物の濃度に対する重力および流体組成の影響が補償され、それによって試験間の変動が低減されることである。
【0071】
本開示は、センサシステムであって、試験される分析物を含む試料を受けるように構成された試料容器を含み、試料容器は、検出表面、ならびに試料容器内の複数の信号発生要素を含み、検出表面は、分析物および/または複数の信号発生要素に直接、かつ/または間接的に結合することができる捕捉要素で部分的に機能化された結合表面を含み、センサシステムはさらに、検出表面の1つまたはそれ以上の背景領域からのセンサ信号を含む背景データを取得し、結合表面からセンサ信号を含む試料データを取得し、背景データに基づいて試料データの補正を実行するようにプロセッサによって実行可能な命令を記憶するメモリを含む、センサシステムのための支援も提供する。システムの第1の例では、検出表面の1つまたはそれ以上の背景領域はそれぞれ、結合表面と少なくとも部分的に重ならないように配置される。システムの第2の例(場合により第1の例を含む)では、システムは、磁気要素をさらに含み、磁気要素は、背景データが取得されている間、複数の信号発生要素を結合表面に引き付ける磁場を発生させるように活性化され、磁気要素は、試料データが取得されている間、磁場を発生させるように活性化されないか、または磁気要素は、結合表面から未結合の信号発生要素を離したままにするように活性化される。システムの第3の例(場合により第1の例および第2の例の一方または両方を含む)では、複数の信号発生要素のうちの少なくとも一部の信号発生要素は、分析物に結合することができる捕捉要素を含む。システムの第4の例(場合により第1~第3の例のうちの1つもしくはそれ以上または各々を含む)では、命令は、少なくとも1つの背景領域からのセンサ信号に、少なくとも1つの他の背景領域とは異なるように重み付けをするように実行可能である。システムの第5の例(場合により第1~第4の例のうちの1つもしくはそれ以上または各々を含む)では、結合表面は複数の個々の領域を含み、結合表面の各領域は捕捉要素で機能化されており、検出表面の1つまたはそれ以上の背景領域はそれぞれ、各背景領域が捕捉要素で機能化されないように、結合表面の複数の個々の領域と重ならないように配置される。システムの第6の例(場合により第1~第5の例のうちの1つもしくはそれ以上または各々を含む)では、結合表面の複数の個々の領域は、第1の列の領域および第2の列の領域に配置され、検出表面の1つまたはそれ以上の背景領域は、第1の列の背景領域、第2の列の背景領域、および第3の列の背景領域に配置された複数の背景領域を含む。システムの第7の例(場合により第1~第6の例のうちの1つもしくはそれ以上または各々を含む)では、第1の列の背景領域は、試料容器のピンニングに近接して配置され、第3の列の背景領域は、試料容器の入口に近接して配置され、第2の列の背景領域は、第1の列の背景領域と第3の列の背景領域の中間に配置され、1つまたはそれ以上の背景領域のセンサ信号は、第1の列の背景領域および第3の列の背景領域からのセンサ信号が第2の列の背景領域からのセンサ信号よりも大きな重みが与えられるように重み付けされる。システムの第8の例(場合により第1~第7の例のうちの1つもしくはそれ以上または各々を含む)では、検出表面の各背景領域は、結合表面のそれぞれの領域と重なる。システムの第9の例(場合により第1~第8の例のうちの1つもしくはそれ以上または各々を含む)では、命令は、試料データを背景データから減算して補正済み背景データを生成するように実行可能であり、背景データに基づいて試料データを補正することは、補正済み背景データに基づいて試料データを補正することを含む。システムの第10の例(場合により第1~第9の例のうちの1つもしくはそれ以上または各々を含む)では、命令は、補正済み試料データに基づいて試料中の分析物の濃度を決定するように実行可能である。システムの第11の例(場合により第1~第10の例のうちの1つもしくはそれ以上または各々を含む)では、命令は、1つまたはそれ以上の背景領域の各々から正で非ゼロの光信号が取得されたことに応答して、補正済み試料データに基づいて試料中の分析物濃度を決定し、1つまたはそれ以上の背景領域の各々から正で非ゼロの光信号が取得されなかったことに応答して、分析物の濃度を決定できないことを示す通知を出力するように実行可能である。
【0072】
本開示はまた、センサシステムのための方法であって、センサシステムの試料容器に収容された分析物を含む試料の試験中に、試料容器の検出表面の1つまたはそれ以上の背景領域でセンサ信号を測定して背景データを生成することと、試料容器の結合表面でセンサ信号を測定して試料データを生成することであって、結合表面は、分析物および/または試料容器の複数の信号発生要素に直接、かつ/または間接的に結合することができる捕捉要素で機能化された検出表面の1つまたはそれ以上の領域を含む、ことと、試料データおよび背景データに基づいて、試料中の分析物濃度を出力することとを含む、方法の支援も提供する。本方法の第1の例では、1つまたはそれ以上の背景領域におけるセンサ信号は、複数の信号発生要素が結合表面に引き寄せられている間に測定され、結合表面におけるセンサ信号は、複数の信号発生要素が結合表面に引き寄せられていない間に測定される。方法の第2の例(場合により第1の例を含む)では、センサ信号は、漏れ全反射を用いて測定された光信号を含む。
【0073】
「一実施形態」または「実施形態」への言及は、必ずしも同じ実施形態を指すとは限らないが、そうであってもよい。文脈上明白に他の意味に解すべき場合を除き、本明細書および特許請求の範囲全体を通して、「含む(comprise、comprising)」などの語は、排他的または網羅的な意味とは対照的に、すなわち、「~を含むが、これに限定されない」という意味で包括的意味で解釈される。単数または複数を用いる語は、明白に単一のものまたは複数のものに限定されない限り、それぞれ複数または単数も含む。加えて、「本明細書において」、「上記」、「以下」という語、および類語は、本出願において使用される場合、本出願全体を指し、本出願の特定の部分を指すものではない。特許請求の範囲が、2つ以上の項目のリストに関して「または」という語を使用する場合、この語は、明示的に一方または他方に限定されない限り、リスト中の項目のいずれか、リスト中の項目のすべて、およびリスト中の項目の任意の組み合わせという、この語の解釈のすべてを包含している。
【国際調査報告】