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特表2023-553874生体適合性固相マイクロ抽出デバイスのためのプレコーティング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-26
(54)【発明の名称】生体適合性固相マイクロ抽出デバイスのためのプレコーティング
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/10 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
G01N1/10 F
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533836
(86)(22)【出願日】2021-12-02
(85)【翻訳文提出日】2023-07-26
(86)【国際出願番号】 US2021072707
(87)【国際公開番号】W WO2022120363
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】63/121,035
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/121,050
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/121,071
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】311016949
【氏名又は名称】シグマ-アルドリッチ・カンパニー・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Sigma-Aldrich Co. LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ヨン
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA30
2G052ED07
2G052ED11
2G052GA24
(57)【要約】
固相マイクロ抽出のための改善されたデバイスであって、プラスチック基質、プラスチック基質上のプレコーティング層およびプレコーティング層上のSPMEコーティングを含む、デバイス。SPMEコーティングは、典型的に基質およびコーティングの間の表面エネルギーの差異により、プラスチック基質と不適合であり、不均一なコーティングおよび悪い接着となる。プレコーティング層の付加は、均一性増加およびSPMEコーティングのプラスチック基質へのより強い接着をもたらす。また提供されるのは、プラスチック基質上にSPMEコーティングをコーティングする方法であって、プラスチック基質をプレコーティングして、プレコーティングされた基質を提供し、次いで、プレコーティングされた基質をSPMEコーティングでコーティングする工程を含み、ここで、プレコーティングがコーティング均一性およびSPMEコーティングのプラスチック基質への接着の改善を提供する、方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相マイクロ抽出(SPME)のためのデバイスであって、
プラスチック基質、
プラスチック基質上のプレコーティング層および
プレコーティング層上のSPMEコーティング
を含む、デバイス。
【請求項2】
プラスチック基質がポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリスルホンおよびポリテレフタレートからなる群から選択される、請求項1のデバイス。
【請求項3】
プラスチック基質がポリプロピレンおよびポリエチレンからなる群から選択される、請求項1または2のデバイス。
【請求項4】
プレコーティング層がポリアクリロニトリル(PAN)を含む、請求項1~3の何れかのデバイス。
【請求項5】
プレコーティング層がX18および所望によりシリカ、チタニア、炭酸ナトリウム、ポリマー樹脂およびそれらの組み合わせからなる群から選択される粒子を含む、請求項1~3の何れかのデバイス。
【請求項6】
プレコーティング層がX18および粒子、好ましくはシリカ粒子を含み、粒子の粒子径が1ナノメートル~10ミクロンの範囲であり、X18対粒子の範囲が8:1~3:1(w/w)である、請求項5のデバイス。
【請求項7】
SPMEコーティングが
ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリピロール、誘導体化セルロース、ポリスルホン、ポリアクリルアミド、ポリアミド、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリアクリレート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびポリアニリンからなる群から選択される結合剤および
官能化シリカ、炭素、ポリマー樹脂およびそれらの組み合わせからなる群から選択される吸着剤
を含む、請求項1~6の何れかのデバイス。
【請求項8】
吸着剤がC18シリカ、C8シリカ、混合モード官能化シリカ、HLB樹脂、ジビニルベンゼン樹脂、スチレン樹脂、ポリ(スチレン-コ-ジビニルベンゼン)樹脂およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項7のデバイス。
【請求項9】
プラスチック基質が1ピンまたは複数のピンを含む、請求項1~8の何れかのデバイス。
【請求項10】
1以上のピンが固体である、請求項8のデバイス。
【請求項11】
プラスチック基質が第一表面エネルギーを有し、
SPMEコーティングが第二すなわちプラスチック基質の表面エネルギーより高い表面エネルギーを有し、
ここで、プレコーティング層がプラスチック基質に強く接着し、
SPMEコーティングがプレコーティング層に強く接着する、
請求項1~10の何れかのデバイス。
【請求項12】
プラスチック基質上のSPMEコーティングの接着を改善する方法であって、
プラスチック基質を準備し、
基質をプレコーティングでコーティングして、プレコーティングされた基質を提供し、そして
プレコーティングされた基質をSPMEコーティングでコーティングする
工程を含み、
ここで、プレコーティングがポリアクリロニトリルおよびX18からなる群から選択され;レコーティング層がX18であるならば、プレコーティング層はさらにシリカ、チタニア、炭酸ナトリウム、ポリマー樹脂およびそれらの組み合わせから選択される粒子を含んでよく、そして
SPMEコーティングが未処理プラスチック基質に接着するより良好にプレコーティングされた基質に接着する、
方法。
【請求項13】
プラスチック基質がポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリスルホンおよびポリテレフタレートからなる群から選択される、請求項12の方法。
【請求項14】
結合剤がポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリピロール、誘導体化セルロース、ポリスルホン、ポリアクリルアミド、ポリアミド、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリアクリレート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびポリアニリンからなる群から選択され、
吸着剤が官能化シリカ、炭素、ポリマー樹脂およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、
請求項12または13の方法。
【請求項15】
結合剤がPANであり、吸着剤がC18官能化シリカである、請求項14の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年12月3日出願の米国仮出願63/121,050、2020年12月3日出願の米国仮出願63/121,035および2020年12月3日出願の米国仮出願63/121,071の優先権の利益を主張し、その各々を全体として引用により本明細書に包含させる。
【背景技術】
【0002】
浸漬抽出のための使い捨て生体適合性固相マイクロ抽出(BioSPME)デバイスの要望がある。費用を抑えるために、プラスチックなどの安価な材料が好ましい。しかしながら、ポリオレフィンなどの安価なプラスチックの使用は、BioSPME抽出相に適用したとき、問題がある。ポリアクリロニトリル(PAN)におけるC18シリカなどの有用な抽出相は、適切にプラスチック基質に付着しない。
【0003】
プラスチックの表面エネルギーは低い。例えば、ポリプロピレンの表面エネルギーは約30mJ/mである。SPMEコーティングスラリーの表面エネルギーはプラスチックよりはるかに高く、すなわち、プラスチック表面がSPMEコーティングスラリーで湿潤不可能であることを意味する。換言すると、SPMEコーティングはプラスチック表面に均一にコーティングされ得ず、SPMEコーティングはプラスチック表面の何らかの前処理無しでは、プラスチック表面に強く接着しない。
【0004】
伝統的に、プラスチックは3つの方法で処理され得る。第一に、電動工具でのサンドブラスティング、タンブリングおよび研磨などの機械的方法;第に、火炎、コロナ放電、プラズマなどの物理的方法;第三に、酸エッチング、陽極酸化などの化学的方法。しかしながら、これらの方法の使用がプラスチック表面へのコーティングの接着を改善できたとしても、接着は、特に尖端などの領域で強力ではなく、これらの方法は、SPMEデバイスなどの先端を有するデバイスに不適となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、プラスチック表面に生体適合性SPMEコーティングなどのコーティングを接着させる新規方法が必要とされる。このような方法は、デバイスの費用を低く抑えるために安価でなければならず、同時に縁または先端に沿っても、デバイスのプラスチック基質に強く、均一な接着をもたらさなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
提供されるのは、プラスチック基質、プラスチック基質上のプレコーティング層およびプレコーティング層上のSPMEコーティングを有する、固相マイクロ抽出(SPME)のためのデバイスである。
【0007】
ある実施態様において、SPMEのためのデバイスは第一表面エネルギーを有するプラスチック基質、プラスチック基質上のプレコーティング層および第二表面エネルギーを有するプレコーティング層上のSPMEコーティングを含み、ここで、第一表面エネルギーは第二表面エネルギーより低く、プレコーティング層はプラスチック基質に強く接着し、生体適合性コーティングはプレコーティング層に強く接着する。
【0008】
他の実施態様において、SPMEのためのデバイスは複数のプラスチックピン、プラスチックピン上のプレコーティング層(ここで、プレコーティング層はPANまたはX18であり、所望によりシリカ、チタニア、炭酸ナトリウムまたはポリマー樹脂などの粒子を含む)、結合剤および吸着剤を含むプレコーティング層上のSPMEコーティングを含む。この実施態様において、結合剤はポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリピロール、誘導体化セルロース、ポリスルホン、ポリアクリルアミド、ポリアミド、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリアクリレート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびポリアニリンから選択される。吸着剤は官能化シリカ、炭素、ポリマー樹脂およびそれらの組み合わせから選択される。
【0009】
また提供されるのは、プラスチック基質上のSPMEコーティングの接着を改善する方法である。方法は、プラスチック基質をプレコーティングでコーティングし、次いでプレコーティングされた基質をSPMEコーティングでコーティングして、SPMEコーティングが未処理プラスチック基質に接着するより良好にプレコーティングされた基質に接着するデバイスを提供することを含む。プレコーティングはポリアクリロニトリルおよびX18から選択される。プレコーティングがX18である実施態様において、プレコーティング層はシリカまたはチタニア、炭酸ナトリウムまたはポリマー樹脂などの他の粒子をさらに含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1AはX18:シリカプレコーティング上のBioSPMEコーティングでコーティングしたピンデバイスの顕微鏡画像である;図1BはPANプレコーティング上のBioSPMEコーティングでコーティングしたピンデバイスの顕微鏡画像である。
【0011】
図2】プラスチック基質上のBioSPMEコーティングの直接コーティングに起因する不均一なコーティングエッジを示す顕微鏡画像を示す。
【0012】
図3】慣用の前処理方法により産生した粗面を示す顕微鏡画像である。
【0013】
図4図4Aはピン型基質の先端のBioSPMEコーティングの弱い接着を示す、側面からの顕微鏡画像である;図4Bは同じピン型基質を端から示す。
【0014】
図5図5Aは7:1(w/w)比のX18:シリカでのプレコーティングを示す顕微鏡画像である;図5Bは5.8:1(w/w)比のX18:シリカでのプレコーティングを示す;図5Cは5:1(w/w)比のX18:シリカでのプレコーティングを示す;図5Dは3.5:1(w/w)比のX18:シリカでのプレコーティングを示す。
【0015】
図6図6AはX18:シリカプレコーティングおよびPAN/C18 BioSPMEコーティングでコーティングされた16ピンデバイスを示す;図6BはX18:シリカプレコーティングおよびPAN/C18 BioSPMEコーティングでコーティングされた96ピンデバイスを示す;図6CはX18:シリカプレコーティングおよびPAN/C18 BioSPMEコーティングでコーティングされた384ピンを示す。
【0016】
図7】同じピンから複数回1000ng/mLでカフェイン、カルバマゼピンおよびジアゼパムを複数抽出したパーセント相対標準偏差を示す。
【0017】
図8】同じデバイスから複数回1000ng/mLでカフェイン、カルバマゼピンおよびジアゼパムを抽出したピン毎のパーセント相対標準偏差を示す。
【0018】
図9】複数デバイスから1000ng/mLでカフェイン、カルバマゼピンおよびジアゼパムを抽出したデバイス毎のパーセント相対標準偏差を示す。
【0019】
図10】アルブミンタンパク質、抽出ピンおよび2.5μg/mL標準の代表的クロマトグラムである。
【0020】
図11】タンパク質沈殿サンプル、BioSPME抽出サンプルおよび脱着溶液中のリン脂質のTICクロマトグラムを示す。クロマトグラムを同じ相対計数に調整する。
【0021】
図12】血漿および緩衝液から遊離検体を除去する抽出工程(左)および脱着溶液に放出される検体(右)を示す。
【0022】
図13】REDおよびSPME方法のタンパク質結合値の比較を示す。
【0023】
図14】対照サンプル(アセトニトリルタンパク質沈殿)およびBioSPMEサンプル中のリン脂質の代表的クロマトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な記載
本発明者らは、従来不適合のSPMEコーティングが、コーティング前のプラスチック基質の慣用の前処理方法を使用する必要なく、プラスチック基質とSPMEコーティングの適合性を改善するプレコーティングの使用により、プラスチック基質に十分に接着することを発見した。本明細書で用語SPMEおよびBioSPMEが使用されているが、ここに記載するプレコーティングは、例えば固相抽出(SPE)デバイスを含む他のデバイスにも有用である。
【0025】
先に記載のとおり、例えば、複数ピンSPMEデバイスの産生に、理想的にされる安価なプラスチックの表面エネルギーは、典型的SPMEコーティングの表面エネルギーよりはるかに低く、種々の表面エネルギーによる悪い湿潤性の問題を説明する図2に示すとおり、コーティングと基質の不適合性に至る。ある近似表面エネルギーを下表に示す。
【表1】
【0026】
いくつかの慣用の方法が異なる表面エネルギーを有する基質へのコーティングの接着を促進することが知られる。このような方法は、電動工具を用いるサンドブラスティング、タンブリングおよび研磨などの機械的方法;火炎、コロナ放電およびプラズマを含む物理的方法;および酸エッチングおよび陽極酸化などの化学的方法を含む。これらの方法の背後にある原理は、コーティングスラリーがプラスチック表面に均一にコーティングでき、コーティングがプラスチックに強く接着できるような表面エネルギーおよび接触面積増加である。しかしながら、このような方法は図3に示す粗面を生じ、図4におけるピンの端において示されるとおり、接着を悪くし得る。
【0027】
ここに記載するとおり、SPMEコーティングでのコーティング前に基質上のプレコーティングまたはプライマーの層を使用する、コーティング均一性と接着を促進する新規方法が発見された。プレコーティングはプラスチック表面とSPMEコーティングの間の緩衝材として作用する。それはプラスチック基質に強く接着し、図1に示すとおり、SPMEコーティングなどのトップコーティングが均一にコーティングされかつ強く接着され得る表面を提供する。
【0028】
ここに提供する方法は、何らかの慣用の前処理工程の必要性なくプラスチック基質をSPMEコーティングでコーティングすることを可能とする。適当なプラスチック基質のある非限定的例は、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリスルホンおよびポリテレフタレート基質を含む。好ましい実施態様において、プラスチック基質はポリプロピレンまたはポリエチレンである。プレコーティングを、SPMEまたはBioSPMEコーティングに適用する同じコーティング方法で未処理プラスチック基質に直接適用し得る。BioSPMEコーティングを使用するとき、プレコーティングは、SPMEコーティングの生体適合性を維持しながら、SPMEコーティングの接着を改善しなければならない。すなわち、プレコーティングは興味ある生物学的サンプルと適合性でなければならない、SPMEコーティングの吸着性の性質に負に干渉すべきではないまたはサンプリングもしくは分析でその他の干渉を引き起こさない。本明細書で用語SPMEおよびBioSPMEが使用されるが、ここに記載するプレコーティングは、例えば固相抽出(SPE)デバイスを含む他のデバイスにも有用である。
【0029】
ここに記載する方法は、例えば、繊維、ブレード、チューブ、ふるいまたは網、カラムおよびピンを含む、SPMEに有用なあらゆるプラスチックデバイスのコーティングに有用である。ここで使用する用語「ピン」は、一端に尖端を有するプラスチックの薄片を含む。このようなピンは円筒形、棒様、円錐、円錐台形、ピラミッド形、角錐台形(frustopyramidal)、長方形、正方形などであり得る。ここに記載するピンは、好ましくは、固体の、閉じた表面を有する。ピンが「固体ピン」または「ピンが固体である」として記載されるとき、ピン表面が固体であることを意味する。ここで定義する固体ピンは、典型的に金属繊維がSPEまたはSPMEコーティングでコーティングされた基質である、SPEまたはSPME繊維を保持する覆いとして使用され得る、先端に開口部を有する設計と区別され得る。ピン表面はSPMEコーティングでコーティングされる。ピンのコーティングされた外表面のみがサンプルと接触するため、コーティングもサンプルも内表面と接触しないため、内表面が固体または空洞であるかは重要ではない。ピンの先端または先は平らでも曲線的でもよくまたは先が細くなっていてよい。ある実施態様において、SPMEデバイスは単一ピンを含み得て、一方他の実施態様において、デバイスは複数のピンを含み得る。特に好ましいピンデバイスは、全体を引用により本明細書に包含させる、同時係属国際出願公開WO2019/036414に記載される。
【0030】
好ましくは、ピンは、約0.2mm~約5mmの範囲の直径を有する。好ましい実施態様において、ピンの直径は約0.5mm~約2mmの範囲である。特に好ましい実施態様において、ピンは約1mmの直径を有する。ピンの長さは、例えば、種々のサンプル体積およびウェルの深さに合わせるために、変わり得る。ピンの長さは好ましくは約0.2mm~約5cmの範囲である。ある実施態様において、長さは約0.5mm~約2.5cmであり得る。他の実施態様において、長さは約1mm~約1cmであり得る。
【0031】
ここに記載するコーティング、プレコーティングおよびSPMEコーティングは、目的のサンプルと接触するピンの端に適用される。ある実施態様において、ピンの長さのおよそ半分をプレコーティングおよびSPMEコーティングでコーティングする。他の実施態様において、ピンの長さの約1/4をプレコーティングおよびSPMEコーティングでコーティングする。種々の実施態様において、プレコーティングおよびSPMEコーティングは、1以上のピンの長さの一定部分、例えば、1以上のピンの長さの1/10、1/5、1/4、1/3または1/2を覆い得る。他の実施態様において、コーティングを、サンプルと接触するピンの選択される、ピンの先端から測定する。ある実施態様において、プレコーティングおよびコーティングはピンの1mmを覆ってよく、他の実施態様において、プレコーティングおよびコーティングは1.5mmを覆ってよく、一方他の実施態様において、プレコーティングおよびコーティングはピンの2mmを覆い得る。1cmピンの実施態様において、プレコーティングおよびコーティングはピンの先端から0.5mm、0.6mm、0.7mm、0.8mm、0.9mm、1mm、1.1mm、1.2mm、1.3mm、1.4mm、1.5mm、1.6mm、1.7mm、1.8mm、1.9mm、2mm、2.1mm、2.2mm、2.3mm、2.4mm、2.5、2.6mm、2.7mm、2.8mm、2.9mm、3mm、3.1mm、3.2mm、3.3mm、3.4mm、3.5mm、3.6mm、3.7mm、3.8mm、3.9mm、4mm、4.1mm、4.2mm、4.3mm、4.4mm、4.5mm、4.6mm、4.7mm、4.8mm、4.9mmまたは5mmを覆い得る。他の実施態様において、他の適当なコーティング被覆率は、ピンの長さ、形状および直径に基づき容易に決定され得る。
【0032】
デバイスが1を超えるピン、例えば、4ピン、8ピン、12ピン、24ピン、48ピン、96ピン、384ピンまたは1536ピンを含むとき、コーティングが各ピンの類似の部分を被覆するのが好ましい。ある実施態様において、複数ピンデバイスのピンを、ディップコーティング過程を使用して同時にコーティングする。このような過程において、プラスチック複数ピンデバイスをまずプレコーティングに浸漬し、取り出し、乾燥させ、次いでSPMEコーティングに浸漬し、取り出し、乾燥。コーティングすべきピンの部分のみを、コーティング調製物またはスラリーと接触させる。このようなコーティング方法は、デバイスの全ピンの一貫したコーティングを確実にし得る。あるいは、噴霧コーティングなどの他のコーティング方法を使用し得る。単一ピンおよび複数ピン両方の実施態様において、ディップコーティングは、プレコーティングおよびSPMEコーティング層をプラスチック基質/ピンに適用する最も好ましい方法である。
【0033】
ある実施態様において、プラスチック基質は、プレコーティングが適用されるとき未処理である。好ましい実施態様において、プレコーティングの使用は、機械的、物理的または化学的方法などの他の前処理方法を使用したときより、SPMEコーティングの接着を良好にする。
【0034】
ある実施態様において、プラスチック基質を、プレコーティングの適用前に慣用の前処理方法を使用して前処理し得る。
【0035】
ここに提供するプレコーティングは、SPMEコーティングの表面および接着両方の均一性を改善する。2個の特によく適しているプレコーティングは、ポリアクリロニトリル(PAN)およびMaster Bond, Inc., Hackensack, NJ 07601から入手可能な、専有の低粘性、1成分プライマーであるX18を含む。プレコーティングがX18であるとき、シリカまたは他のチタニア、炭酸ナトリウムまたはポリマー樹脂などの固体粒子をプレコートスラリーに添加して、粘性を調節し、プレコーティングの表面性質を微調整し得る。シリカまたは他の粒子の添加は必須ではないが、X18単独の使用より均一性を改善する。ある実施態様において、X18にシリカを添加するのが好ましい。
【0036】
プレコーティングがPANであるとき、プレコーティングの厚さは0.5μm~200μmの範囲であり得る。ある実施態様において、PANプレコーティングの厚さは0.4μm、0.5μm、0.6μm、0.7μm、0.8μm、0.9μm、1μm、1.5μm、2μm、2.5μm、3μm、3.5μm、4μm、4.5μm、5μm、5.5μm、6μm、6.5μm、7μm、7.5μm、8μm、8.5μm、9μm、9.5μm、10μm、10.5μm、11μm、11.5μm、12μm、12.5μm、13μm、13.5μm、14μm、14.5μm、15μm、15.5μm、16μm、16.5μm、17μm、17.5μm、18μm、19μm、20μmであり得る。さらに他の実施態様において、PANプレコーティングの厚さは、例えば、5μm、10μm、20μm、25μm、30μm、35μm、40μm、45μmまたは50μmであり得る。さらに他の実施態様において、PANプレコーティングの厚さは、例えば、10μm、20μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、80μm、90μm、100μm、110μm、120μm、130μm、140μm、150μm、160μm、170μm、180μm、190μmまたは200μmであり得る。好ましい実施態様において、PANプレコーティングの厚さは0.5μm~15μmの範囲である。
【0037】
プレコーティングがX18であるとき、X18単独で使用してよくまたは粒子SiO、TiO、NaCO、固体ポリマー樹脂または他の固体粒子と組み合わせてよい。シリカまたは他の粒子をX18プレコーティングに添加するとき、粒子径はナノ粒子~マイクロ粒子の範囲であり得る。好ましい実施態様において、X18ベースのプレコーティングに使用される粒子は、ナノ粒子~10μmの範囲の粒子径を有するシリカである。プレコーティング層に添加するシリカまたは他の粒子のタイプ、例えば、多孔度、分散性などは特に重要ではない。理論に拘束されないが、プレコーティング層における粒子の機能は、プレコーティングスラリーの粘性の調節、プレコーティングの表面性質の微調整および表面およびSPMEコーティングの基質への接着両方の均一性の改善の補助と考えられる。プレコーティングにおけるシリカまたは他の粒子は、SPMEコーティングの機能に何ら役割を有しないと考えられる。
【0038】
X18対粒子比率は3:1(w/w)より大きいのが好ましい。種々の実施態様において、X18対粒子の比は、重量/重量ベースで12:1~3:1の範囲である。ある実施態様において、X18:粒子の比(w/w)は7:1~3:1である。種々の他の実施態様において、X18対シリカの比(w/w)は、例えば、11:1、10.5:1、10:1、9.5:1、9:1、8.5:1、8:1、7.5:1、7:1、6.5:1、6:1、5.5:1、5:1、4.5:1、4:1、3.5:1または3:1であり得る。X18:粒子(w/w)の好ましい範囲はこれらの何れかを含み得る。
【0039】
好ましい実施態様において、粒子はシリカである。X18対シリカ比率は3:1(w/w)より大きいのが好ましい。ある実施態様において、X18対シリカの比、は、重量/重量ベースで12:1である;種々の他の実施態様において、X18対シリカの比(w/w)は、例えば、11:1、10.5:1、10:1、9.5:1、9:1、8.5:1、8:1、7.5:1、7:1、6.5:1、6:1、5.5:1、5:1、4.5:1。4:1、3.5:1または3:1であり得る。ある実施態様において、X18対シリカの比は10:1~3:1(w/w)の範囲である。ある実施態様において、X18対シリカの比は7:1~3.5:1(w/w)の範囲である。好ましい実施態様において、X18対シリカの比は8:1~5:1(w/w)の範囲である。
【0040】
粒子、すなわち、シリカ、チタニア、炭酸ナトリウムまたはポリマー樹脂がX18プレコーティングに添加されるとき、プレコーティングの厚さは、例えば、0.4μm、0.5μm、0.6μm、0.7μm、0.8μm、0.9μm、1μm、1.5μm、2μm、2.5μm、3μm、3.5μm、4μm、4.5μm、5μm、5.5μm、6μm、6.5μm、7μm、7.5μm、8μm、8.5μm、9μm、9.5μm、10μm、10.5μm、11μm、11.5μm、12μm、12.5μm、13μm、13.5μm、14μm、14.5μm、15μm、15.5μm、16μm、16.5μm、17μm、17.5μm、18μm、19μmまたは20μmであり得る。さらに他の実施態様において、X18および粒子プレコーティングの厚さは、例えば、5μm、10μm、20μm、25μm、30μm、35μm、40μm、45μmまたは50μmであり得る。さらに他の実施態様において、X18および粒子プレコーティングの厚さは、例えば、10μm、20μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、80μm、90μm、100μm、110μm、120μm、130μm、140μm、150μm、160μm、170μm、180μm、190μmまたは200μmであり得る。好ましい実施態様において、X18および粒子プレコーティングの厚さは好ましくは0.5μm~15μmの範囲である。
【0041】
SPMEコーティングは、典型的に、結合剤および吸着剤を含む、固相マイクロ抽出適用に有用なコーティングである。ある適用において、結合剤および吸着剤は生体適合性である。「生体適合性」により、コーティングが興味ある生物学的サンプルと適合性であるおよび生物学的サンプルがSPMEコーティングの吸着性の性質に負に干渉すべきではないまたはサンプリングもしくは分析でその他の干渉を引き起こさないことが意味される。
【0042】
SPMEに有用な結合剤のある非限定的例は、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリピロール、誘導体化セルロース、ポリスルホン、ポリアクリルアミド、ポリアミド、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリアクリレート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびポリアニリンを含む。ある適用に関して、結合剤はまた生体適合性でなければならない。特に適当な生体適合性結合剤は、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリピロール、誘導体化セルロース、ポリスルホン、ポリアクリルアミドおよびポリアミドを含む。好ましい実施態様において、結合剤は生体適合性結合剤である。特に好ましい実施態様において、生体適合性結合剤はPANである。
【0043】
ここに記載するSPMEデバイスに有用な吸着剤は、官能化シリカスフェア、官能化炭素スフェア、ポリマー樹脂、混合モード樹脂およびそれらの組み合わせなどのマイクロスフェアを含む。典型的に、液体クロマトグラフィー、すなわち、親和性クロマトグラフィーに有用な、ならびに固相抽出(SPE)および固相マイクロ抽出(SPME)に有用なマイクロスフェアがここに記載するコーティングのために好ましい。
【0044】
特に、吸着剤は、例えば、C18シリカ(オクタデシル含有疎水性相で誘導体化されたシリカ粒子)、C8シリカ(オクチル含有結合相を有するシリカ粒子)、RP-アミド-シリカ(パルミトアミドプロピル含有結合相を有するシリカ)またはHS-F5-シリカ(ペンタフルオロフェニル-プロピル含有結合相を有するシリカ)などの、官能化シリカマイクロスフェアを含み得る。
【0045】
適当な吸着剤のあるその他の非限定的例は順相シリカ、C1シリカ、C4シリカ、C6シリカ、C8シリカ、C18シリカ、C30シリカ、フェニル/シリカ、シアノ/シリカ、ジオール/シリカ、イオン性液体/シリカ、TitanTMシリカ(MilliporeSigma)、分子インプリントポリマー微粒子、親水性-親油性-均衡(HLB)微粒子、特にUS2020/0197907として公開された係属中の米国特許出願16/640,575に開示のもの、Carboxen(登録商標)1006(MilliporeSigma)、ジビニルベンゼン、スチレンおよびポリ(スチレン-コ-ジビニルベンゼン)を含む。吸着剤の混合物もコーティングに使用され得る。ここに記載するコーティングに使用する吸着剤は、無機(例えばシリカ)、有機(例えばCarboxen(登録商標)またはジビニルベンゼン)または無機/有機ハイブリッド(例えばシリカおよび有機ポリマー)であり得る。好ましい実施態様において、吸着剤はC18シリカ、C8シリカまたは混合モード官能化シリカである。特に好ましい実施態様において、吸着剤はC18シリカである。
【0046】
吸着剤粒子またはマイクロスフェアは、約10nm~約1mmの範囲の直径を有し得る。ある実施態様において、球状粒子は、約20nm~約125μmの範囲の直径を有する。ある実施態様において、マイクロスフェアは、約30nm~約85μmの範囲の直径を有する。ある実施態様において、球状粒子は、約10nm~約10μmの範囲の直径を有する。球状粒子の粒子径分布が狭いのが好ましい。
【0047】
ある実施態様において、吸着剤粒子は約10m/g~1000m/gの範囲の表面積を有する。ある実施態様において、多孔性球状粒子は約350m/g~約675m/gの範囲の表面積を有する。ある実施態様において、表面積は約350m/gである;他の実施態様において、表面積は約375m/gである、他の実施態様において、表面積は約400m/gである;他の実施態様において、表面積は約425m/gである;他の実施態様において、表面積は約450m/gである;他の実施態様において、表面積は約475m/gである;他の実施態様において、表面積は約500m/gである;他の実施態様において、表面積は約525m/gである;他の実施態様において、表面積は約550m/gである;他の実施態様において、表面積は約575m/gである;他の実施態様において、表面積は約600m/gである;他の実施態様において、表面積は約625m/gである;他の実施態様において、表面積は約650m/gである;さらに他の実施態様において、表面積は約675m/gである;およびさらに他の実施態様において、表面積は約700m/gである。
【0048】
好ましくは、ここに記載するデバイス吸着剤粒子は多孔性である。ある実施態様において、球状粒子は約50Å~約500Åの範囲の平均孔径を有する。ある実施態様において、多孔度は約100Å~約400Åの範囲である、他の実施態様において、多孔度は約75Å~約350Åの範囲である。さらに、ここで使用する球状粒子の平均孔径は約50Å、約55Å、約60Å、約65Å、約70Å、約75Å、約80Å、約85Å、約90Å、約95Å、約100Å、約105Å、約110Å、約115Å、約120Å、約125Å、約150Å、約160Å、約170Å、約180Å、約190Åまたは約200Åであり得る。
【0049】
コーティングの準備として、結合剤中の吸着剤のスラリーが調製される。吸着剤、結合剤および溶媒をコンテナに計り入れる。必要であれば、吸着剤の大きな塊または凝集体を、例えば、スパチュラまたはミキサーで破壊する。結合剤を溶媒に溶解する。音波処理および混合も使用して、結合剤溶液中の粒子の均一な分布を確実にし得る。所望により、スラリーを基質にコーティングする前に脱気し得る。
【0050】
ディップコーティング過程において、基質はSPMEコーティングスラリー中に沈められ、次いで取り出され、乾燥および硬化される。ある実施態様において、乾燥工程は空気または窒素に実施でき、高温で実施できる。ある好ましい実施態様において、乾燥を、2021年12月2日出願の“Drying Processes for BioSPME Coatings”なる名称の出願人Sigma-Aldrich Co. LLCの同時係属国際特許出願に開示の温度および湿度制御環境における空気または窒素下に実施し得る。他の好ましい実施態様において、コーティングを、2021年12月2日出願の“Preparation of Solid Phase Microextraction (SPME) Coatings Using Immersion Precipitation”なる名称の出願人Sigma-Aldrich Co. LLCの同時係属国際特許出願に開示の浸漬沈殿過程で処理し得る。
【0051】
SPMEコーティングのコーティングの厚さは、所望の性質を達成するために変わり得る。種々の実施態様において、コーティングの厚さは約0.1μm~約200μmの範囲であり得る。好ましい実施態様において、コーティングの厚さは約2μm~約50μmの範囲である。他の実施態様において、コーティングの厚さは、例えば、約1μm、約2μm、約3μm、約4μm、約5μm、約6μm、約7μm、約8μm、約9μm、約10μm、約15μm、約20μm、約25μm、約30μm、約35μm、約40μm、約45μm、約50μm、約55μm、約60μm、約65μm、約70μm、約75μm、約80μm、約90μm、約100μm、約110μm、約120μm、約130μm、約140μm、約150μm、約160μm、約170μm、約180μm、約190μmまたは約200μmであり得る。ある実施態様において、コーティングの厚さは約2μm~約50μmの範囲である、他の実施態様において、コーティングの厚さは約2μm~約40μmの範囲である、さらに他の実施態様において、コーティングの厚さは約5μm~約40μmの範囲である、さらに他の実施態様において、コーティングの厚さは約5ミクロン~約30ミクロンの範囲である、さらに他の実施態様において、コーティングの厚さは約10ミクロン~約100ミクロンの範囲である。好ましい実施態様において、コーティングの厚さは約10μm~約50μmの範囲である。コーティングの厚さは、例えば、コーティング工程を複数回実施することにより、変わり得る。例えば、薄いコーティングを、サンプルサイズが極めて小さいときまたは速い平衡抽出が所望であるときに使用し得るが、しかしながら、薄いコーティングは、抽出され得る検体の量を制限し得る。複数ピンデバイスについて、全ピンでコーティングの厚さが一貫しているのが好ましい。
【0052】
ここに記載する実施態様は、特にプラスチック基質上の生体適合性SPMEコーティングを含むSPMEコーティングに適する。SPMEデバイスは単一プラスチックピンを含んでよくまたは複数サンプルからの同時抽出のために設定されたデバイス上などの複数のプラスチックピンを含み得る。このようなデバイスは、自動化サンプリング系に特に有用である。
【0053】
第一の実施態様において、固相マイクロ抽出(SPME)のためのデバイスはプラスチック基質、プラスチック基質上のプレコーティング層およびプレコーティング層上のSPMEコーティングを含む。
【0054】
この実施態様におけるプラスチック基質のある非限定的例は、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリスルホンおよびポリテレフタレート基質を含む。好ましい実施態様において、プラスチック基質はポリプロピレンまたはポリエチレンである。
【0055】
ある実施態様において、プレコーティング層はポリアクリロニトリル(PAN)を含む。ある実施態様において、プレコーティング層はPANである。プレコーティング層がPANを含むときまたはプレコーティング層がPANであるとき、プレコーティング層の厚さは好ましくは0.5ミクロン~200ミクロンの範囲である。ある実施態様において、プレコーティング層の厚さは0.5ミクロン~50ミクロンの範囲である。さらに他の実施態様において、プレコーティング層の厚さは0.5ミクロン~20ミクロンの範囲である。特に好ましい実施態様において、プレコーティング層の厚さは0.5ミクロン~15ミクロンの範囲である。
【0056】
他の実施態様において、プレコーティングはX18を含む。ある実施態様において、プレコーティング層がX18を含むとき、シリカ、チタニア、炭酸ナトリウム、ポリマー樹脂またはそれらの組み合わせから選択される粒子も含む。粒子をX18にプレコーティングスラリーの粘性の修飾、プレコーティングの表面性質の微調整、コーティング均一性の改善およびSPMEコーティングの基質への接着の改善のために添加し得る。シリカまたは他の粒子のサイズはナノ粒子またはマイクロ粒子範囲であり得る。好ましい実施態様において、シリカまたは他の粒子は10ミクロン以下の直径を有する。ある実施態様において、プレコーティング層はX18およびシリカの組み合わせである。他の実施態様において、プレコーティング層はX18およびチタニア、炭酸ナトリウムまたはポリマー樹脂の組み合わせである。好ましい実施態様において、プレコーティング層はX18およびシリカである。プレコーティング層がX18およびシリカを含むときまたはプレコーティング層がX18およびシリカであるとき、プレコーティング層の厚さは好ましくは0.5ミクロン~200ミクロンの範囲である。ある実施態様において、X18およびシリカ含有プレコーティング層の厚さは0.5ミクロン~50ミクロンの範囲である。さらに他の実施態様において、X18およびシリカ含有プレコーティング層の厚さは0.5ミクロン~20ミクロンの範囲である。特に好ましい実施態様において、X18およびシリカ含有プレコーティング層の厚さは0.5ミクロン~15ミクロンの範囲である。
【0057】
プレコーティング層がX18およびシリカ両方を含むとき、X18対シリカの比は、重量(X18:シリカ(w/w))で好ましくは3:1より大きい。ある実施態様において、X18:シリカの比は5:1(w/w)より大きい。さらに他の実施態様において、X18:シリカの比は10:1~3:1(w/w)の範囲である。さらに他の実施態様において、X18:シリカの比は8:1~5:1(w/w)の範囲である。チタニア、炭酸ナトリウムまたはポリマー樹脂などの他の粒子を同じ比率で加え得ることは理解される。
【0058】
この第一の実施態様において、SPMEコーティングまたはBioSPMEコーティングは結合剤および吸着剤を含む。この実施態様に有用な結合剤のある非限定的例は、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリピロール、誘導体化セルロース、ポリスルホン、ポリアクリルアミド、ポリアミド、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリアクリレート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアニリンおよびそれらの組み合わせを含む。特に好ましい実施態様において、結合剤はPANである。
【0059】
この実施態様における吸着剤はSPMEまたはBioSPMEで有用なあらゆる吸着剤を含む。このような吸着剤は官能化シリカ、炭素、ポリマー樹脂およびそれらの組み合わせを含む。多くの適当な吸着剤は上記である。ある好ましいシリカ吸着剤は、C18シリカ、C8シリカおよび混合モード官能化シリカを含む。ある好ましいポリマー樹脂はHLB樹脂、ジビニルベンゼン樹脂、スチレン樹脂、ポリ(スチレン-コ-ジビニルベンゼン)樹脂およびそれらの組み合わせを含む。
【0060】
この第一の実施態様において、プラスチック基質はピンの形状である。好ましくは、ピンは固体ピンである。ピンの長さはデバイスに適するどんな長さでもよい。コーティング、すなわちプレコーティングおよびSPMEコーティングは基質の先端、すなわち分析すべきサンプルと接触する基質の部分またはピンの部分にコーティングされる。ある実施態様において、デバイスは、多数の異なるサンプルの同時サンプリングを可能とする複数のピンを含む。このような複数ピンデバイスは、自動化サンプリング系との連動に特に適する。
【0061】
第二の実施態様において、SPMEのためのデバイスは第一表面エネルギーを有するプラスチック基質、プラスチック基質上のプレコーティング層および第二表面エネルギーを有するプレコーティング層上のSPMEコーティングを含み、ここで、第一表面エネルギーは第二表面エネルギーより低い。この実施態様において、プレコーティング層はプラスチック基質をコーティングし、そうしてSPMEコーティングとより適合性の表面エネルギーを提供し、それによりそれ以外の方法ではプラスチック基質と不適合であるSPMEコーティングが、プラスチック基質に均一にコーティングされ、強く接着することを可能とする。
【0062】
好ましい実施態様において、プラスチック基質はポリオレフィンであり、一方他の実施態様において、プラスチック基質はポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホンまたはポリテレフタレートであり得る。
【0063】
この実施態様において、プレコーティング層はPANまたはX18を含み得る。ある実施態様において、プレコーティング層はPANまたはX18である。プレコーティング層がX18を含むまたはX18である実施態様において、プレコーティング層はさらにシリカを含み得る。第一の実施態様と同様、プレコーティング層がシリカを含むとき、シリカ粒子のサイズはナノ粒子またはマイクロ粒子範囲であり得る。好ましい実施態様において、シリカ粒子は10ミクロン以下の直径を有する。
【0064】
プレコーティング層がX18であり、シリカを含まないとき以外、プレコーティング層の厚さは好ましくは0.5ミクロン~200ミクロンの範囲である。ある実施態様において、プレコーティング層の厚さは0.5ミクロン~50ミクロンの範囲である。さらに他の実施態様において、プレコーティング層の厚さは0.5ミクロン~20ミクロンの範囲である。特に好ましい実施態様において、プレコーティング層の厚さは0.5ミクロン~15ミクロンの範囲である。
【0065】
先の実施態様と同様、SPMEコーティングは結合剤および吸着剤を含む。結合剤はポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリピロール、誘導体化セルロース、ポリスルホン、ポリアクリルアミド、ポリアミド、ポリジメチルシロキサン、ポリアクリレート、ポリテトラフルオロエチレンおよびポリアニリンから選択され得る。吸着剤は官能化シリカ、炭素、ポリマー樹脂およびそれらの組み合わせから選択され得る。好ましい実施態様において、プラスチック基質はポリプロピレンであり、結合剤はPANであり、吸着剤は官能化シリカである。
【0066】
ここに提供される第三の実施態様は、デバイスが、例えば、4ピン、8ピン、12ピン、24ピン、48ピン、96ピン、384ピンまたは1536ピンなどの複数のピンを含む、SPMEのためのデバイスである。この複数ピンデバイスのピンは、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホンおよびポリテレフタレートで作られ得る。好ましい実施態様において、ピンは固体プラスチックピンである。他の好ましい実施態様において、ピンは固体ポリプロピレンピンである。
【0067】
この実施態様において、デバイスの各ピンはプレコーティング層を含み、プレコーティング層はPANまたはX18を含み、プレコーティングがX18を含むとき、さらにシリカ、チタニア、炭酸ナトリウムまたはポリマー樹脂などの粒子を含み得る。ある実施態様において、プレコーティング層はPANまたはX18であり、所望によりシリカを含む。プレコーティングがX18を含むかまたはそれであり、さらにシリカなどの粒子を含むとき、シリカまたは他の粒子のサイズはナノ粒子またはマイクロ粒子範囲であり得る。好ましい実施態様において、粒子は10ミクロン以下の直径を有する。
【0068】
プレコーティング層がX18であり、シリカを含まないとき以外または他の粒子、プレコーティング層の厚さは好ましくは0.5ミクロン~200ミクロンの範囲である。ある実施態様において、プレコーティング層の厚さは0.5ミクロン~50ミクロンの範囲である。さらに他の実施態様において、プレコーティング層の厚さは0.5ミクロン~20ミクロンの範囲である。特に好ましい実施態様において、プレコーティング層の厚さは0.5ミクロン~15ミクロンの範囲である。
【0069】
各ピンのプレコーティング層上のSPMEコーティング、は結合剤および吸着剤を含む。適当な結合剤は、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリピロール、誘導体化セルロース、ポリスルホン、ポリアクリルアミド、ポリアミド、ポリジメチルシロキサン、ポリアクリレート、ポリテトラフルオロエチレンおよびポリアニリンを含む。適当な吸着剤は官能化シリカ、炭素、ポリマー樹脂およびそれらの組み合わせを含む。
【0070】
また提供されるのは、プラスチック基質上のSPMEコーティングの接着を改善する方法である。本方法により、1ピンまたは複数のピンなどのプラスチック基質をプレコーティングでコーティングして、プレコーティングされた基質を提供し、次いでプレコーティングされた基質をSPMEコーティングでコーティングする。この方法により、SPMEコーティングは、未処理プラスチック基質に接着するより良好にプレコーティングされた基質に接着する。
【0071】
この方法は、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホンおよびポリテレフタレートを含むが、これらに限定されないSPMEに有用な多様なプラスチック基質に適する。好ましい実施態様において、プラスチック基質はポリプロピレンまたはポリエチレンなどのポリオレフィンである。特に好ましい実施態様において、プラスチック基質は1ピンまたは複数ピンデバイスにおけるような複数のピンである。ある実施態様において、プラスチック基質をいかなる前処理もせずに使用する。他の実施態様において、基質を、プレコーティング層でコーティング前に機械的、物理的または化学的前処理に付してよい。
【0072】
この方法によるプレコーティングは、好ましくはポリアクリロニトリル(PAN)またはX18を含む。ある実施態様において、プレコーティングはPANまたはX18である。プレコーティング層がX18である実施態様において、プレコーティング層はさらにシリカ、チタニア、炭酸ナトリウムまたはポリマー樹脂などの粒子を含み得る。プレコーティングがX18を含むかまたはそれであり、かつさらに粒子を含むとき、粒子のサイズはナノ粒子またはマイクロ粒子範囲であり得る。好ましい実施態様において、粒子は10ミクロン以下の直径を有する。
【0073】
プレコーティング層がX18であり、シリカを含まないとき以外または他の粒子、プレコーティング層の厚さは好ましくは0.5ミクロン~200ミクロンの範囲である。ある実施態様において、プレコーティング層の厚さは0.5ミクロン~50ミクロンの範囲である。さらに他の実施態様において、プレコーティング層の厚さは0.5ミクロン~20ミクロンの範囲である。特に好ましい実施態様において、プレコーティング層の厚さは0.5ミクロン~15ミクロンの範囲である。
【0074】
この方法により、SPMEコーティングは結合剤および吸着剤を含む。この方法における使用に適当な結合剤は、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリピロール、誘導体化セルロース、ポリスルホン、ポリアクリルアミド、ポリアミド、ポリジメチルシロキサン、ポリアクリレート、ポリテトラフルオロエチレンおよびポリアニリンを含むおよび適当な吸着剤は官能化シリカ、炭素、ポリマー樹脂およびそれらの組み合わせを含む。
【0075】
好ましい実施態様において、プレコーティングをスラリーとして調製し、ディップコーティングによりプラスチック基質上にコーティングし、次いで乾燥させる。SPMEコーティングもスラリーとして調製する。次いで、プレコーティングされた基質を同様にディップコーティングによりSPMEコーティングでコーティングする。他の実施態様において、噴霧コーティングなどの他のコーティング技術をプレコーティングおよびSPMEコーティング工程の何れかまたは両方に使用し得る。次いで、コーティングされたSPMEデバイスを、慣用法で乾燥、硬化またはその他処理し得る
【0076】
X18の粒子でのプレコーティング手順。粒子(シリカ、チタニア、炭酸ナトリウムまたはポリマー樹脂)およびX18をコンテナに計り入れ、溶媒を添加する。粒子の凝集によるなど必要であれば、粒子をスパチュラで破壊し得る。混合物を、均一スラリーの形成に十分な時間音波処理する。音波処理後、スラリーをさらに時間混合し、次いで超音波破砕装置で脱気し、室温に冷却する。X18/粒子スラリーを使用する準備ができるまで混合する。基質をディップコーティングまたは他のコーティング方法によりコーティングし、次いでプレコーティングを硬化させる。プレコーティングを加熱、例えば、110℃で1~4分間の加熱により硬化させ、次いで、コーティングされた、硬化基質を室温に冷却し得る。
【0077】
PANのためのプレコーティング。PANおよびDMFなどの適当な溶媒をコンテナに計り入れる。PANのあらゆる大きな断片を、スパチュラまたはミキサーを使用して小片に破壊してよい。PAN-溶媒混合物を加熱して、PANを溶解する。X18/シリカプレコーティングと同様、基質をディップコーティングまたは他のコーティング方法によりコーティングし、次いでプレコーティングを硬化させる。プレコーティングを加熱、例えば、110℃で1~4分間の加熱により硬化させ、次いで、コーティングされた、硬化基質を室温に冷却し得る。
【0078】
PAN/C18 BioSPMEコーティングのコーティング手順。PANおよびDMFなどの適当な溶媒をコンテナに計り入れる。PANのあらゆる大きな断片を、小片に破壊する。溶液を加熱して、PANを溶解する。吸着剤を計り取り、PAN溶液に添加し、良く混合する。スラリーを音波処理して、均質スラリーとする。スラリーを脱気してよく、コーティングの準備ができるまで混合すべきである。コーティングのために、プレコーティングした基質をディップコーティングし、取り出し、硬化する。比較例のために、SPMEコーティングをプラスチック基質上に直接ディップコーティングする。
【0079】
コーティングを顕微鏡を使用して目視観察する。コーティングの耐久性および接着を(a)硬化コーティングの指摩擦および(b)ブルーテープ接着試験により試験した。ブルーテープ接着試験を次のとおり実施する:青色マスキングテープ(中程度接着)をコーティングされた、硬化SPMEデバイスに適用し、90秒間定着させ、次いで、テープをデバイスに対して180°の角度で剥がす。接着を、顕微鏡を使用して目視観察する。
【0080】
ここに記載するプレコーティングは、プラスチック基質上のSPMEコーティングの均一性および接着を改善し、生体適合性の喪失なく、改善された結果をもたらす。図2に示すとおり、ディップコーティングによる直接プラスチックピン上への慣用のPAN/C18 SPMEコーティングは、プラスチック基質とコーティングの間の表面エネルギーの差による悪い湿潤性により不均一な端となる。プレコーティングがないプラスチック基質へのPAN/C18コーティングの弱い接着をさらに図4に示し、コーティングされたピンの側面および先端両方を示す。
【0081】
有利に、ここに提供するデバイスは、次の実施例により完全に示されるとおり、高レベルの生体適合性を維持する。
【0082】
【実施例
【0083】
実施例1. プレコーティングスラリーを33gのX18、7gのシリカおよび11gのメシチレンを使用して調製した。慣用のPAN/C18 BioSPMEコーティングスラリーを調製した。ポリプロピレン複数ピンSPMEデバイスを次のとおりコーティングした。プレコーティングの薄層を、ピンをプレコーティングスラリーにディップコーティングすることによりピン上に形成させ、110℃で4分間乾燥させた。プレコーティングされたピンデバイスを室温に冷却後、PAN/C18 SPMEコーティングをプレコーティングされたピンツール上にディップコーティングし、乾燥した。均一なPAN/C18の薄層がピン上に形成された。
【0084】
実施例2. PANプレコーティングスラリーを35gのDMFに5gのPANを溶解することにより調製した。慣用のPAN/C18 BioSPMEコーティングスラリーを調製した。ポリプロピレン複数ピンSPMEデバイスを次のとおりコーティングした。プレコーティングの薄層を、ピンをプレコーティングスラリーにディップコーティングすることによりピン上に形成させ、110℃で4分間乾燥させた。プレコーティングされたピンを室温に冷却後、PAN/C18 SPMEコーティングをプレコーティングされたピンツール上にディップコーティングし、乾燥した。均一なPAN/C18の薄層がピン上に形成された。
【0085】
実施例1および2のPAN/C18 SPMEコーティングは、図1に示すとおり、プラスチック基質に均一にコーティングされ、強く接着する。
【0086】
実施例3. 比較例。ポリプロピレン複数ピンデバイスをプラズマ処理に付した。(AST Products, Inc., Billerica, MA)。プラズマ処理PPの接触角:60~80(参照:90~120)。慣用のPAN/C18 SPMEコーティングをプレコーティングされたピンツール上にディップコーティングし、乾燥した。PAN/C18の薄層がピン上に形成された。未処理PP基質と比較して、プラズマ処理後PP表面上のPAN/C18接着の有意な改善は観察されなかった。
【0087】
実施例4. X18:シリカプレコーティングスラリーを、X18:シリカ比(A)7:1、(B)5.8:1、(C)5:1および(D)3.5:1(全て(w/w))で調製した。各画像を図5に示す。
【0088】
実施例5. 図6に示す複数ピンデバイス(A)16ピン、(B)96ピンおよび(C)384ピンを、X18:シリカプレコーティングおよびPAN/C18 BioSPMEコーティングでプレコーティングした。
【0089】
実施例6. 分析的方法検証およびデバイス再現性。16ピンデバイスをX18/シリカプレコーティングおよびPAN/C18 BioSPMEコーティングを用いて調製した。1000ng/mLのカフェイン、カルバマゼピンおよびジアゼパムを、各ピンあたり複数回抽出した。個々の%相対標準偏差はカルバマゼピンおよびジアゼパムについて5%未満であった。カフェインの%相対標準偏差はより変動性であり、2.7%~16.3%の範囲であった。結果を図7に示す。
【0090】
実施例7. 16ピンデバイスをX18/シリカプレコーティングおよびPAN/C18 BioSPMEコーティングを用いて調製した。1000ng/mLのカフェイン、カルバマゼピンおよびジアゼパムを同じデバイスで複数回抽出した。カルバマゼピンおよびジアゼパムについて%相対標準偏差は5%未満であり、カフェインについて12%未満であった。結果を図8に示す。
【0091】
実施例8. 3個の複数ピンデバイスをX18/シリカプレコーティングおよびPAN/C18 BioSPMEコーティングを用いて調製した。1000ng/mLのカフェイン、カルバマゼピンおよびジアゼパムを複数デバイスを使用して抽出し、相対標準偏差を比較した。パーセント相対標準偏差は3デバイス間で一貫し、カルバマゼピンおよびジアゼパムについてはデバイス内精度について5%未満であった。デバイス間精度は、カフェインおよびカルバマゼピンについて類似の%相対標準偏差を示すが、ジアゼパムについてデバイス内精度と比較してわずかに高かった。結果を図9に示す。
【0092】
実施例9。生体適合性試験。プレコーティングしたピンツールの有効性を試験した。96ピンデバイスをX18/シリカプレコーティングおよびPAN/C18 BioSPMEコーティングを用いて調製した。
【0093】
96ピンツールを使用して抽出後サンプルに残存するリン脂質の量を決定するために、アセトニトリル補助タンパク質沈殿後残存するリン脂質と比較した。簡潔には、ピンツールをイソプロパノールでコンディショニングし、続いて水で短く濯ぐ。この点で、ピンツールは抽出の準備ができている。抽出後、ピンツールを短く濯いで、ピン表面に残存している可能性のあるあらゆるタンパク質を除去し、その後検体を脱着し、次いで分析の準備が整う。
【0094】
タンパク質沈殿を100μL ヒト血漿を使用して実施し、300μLのアセトニトリルと混合した。混合物を4℃で20分間保管し、その後5,000rpmで10分間遠心分離した。上清を移し、10PSIの窒素流下45℃で乾燥させた。次いで、サンプルを200μLの出発移動相に再懸濁した。
【0095】
2つの方法からの5サンプルを、Agilent 1290 LCを備えたAB Sciex-3200 Q Trapマススペクトロメトリーで、表2に記載する方法を使用して分析した。モニターしたリン脂質を表3に列記する。
【表2】

【表3】

LPC - リソホスファチジルコリン
PC - ホスファチジルコリン
【0096】
タンパク質(アルブミン)の除去。ピン上の非特異的保持を介して抽出サンプルに残存するタンパク質の量をNanoOrangeTMキットを使用して決定した。ピン(8)を、静的条件下、ウェルプレートで800μLのイソプロパノール中15分間コンディショニングした。次いで、ピンを800μLの水で10秒間洗浄した。37℃設定の熱アダプターと共に1200rpmで撹拌しながら、96ウェルプレートから貯留ヒト血漿(800μL)を抽出した。抽出後、ピンを水で1分間洗浄した。
【0097】
他のウェルプレートを、生成物管理で記載したとおり、ウェルプレートの適切なウェルに充填した1mLの作業溶液(タンパク質染色用色素)で調製した。BSA抽出に使用するピンを作業溶液に暴露し、300rpmで振盪しながら90~96℃で10分間反応させた。ウェルプレートをホイルで覆って、サンプルを遮光した。次いで、サンプルを室温に冷却した。
【0098】
サンプルを、ダイレクトフロー(カラムなし)の蛍光検出器を使用するThermo Scientific Dionex HLPCで分析した(表4参照)。サンプルを、BSAの0.1~5.0μg/mLの範囲の外部較正を使用するピークh8を使用して、定量した。
【表4】
【0099】
全体的サンプル清浄度。サンプルの清浄度を、3条件のTICの取得により決定した。これらの条件は、80:20脱着溶液対照、抽出されたスパイクした血漿サンプルおよびアセトニトリルタンパク質沈殿サンプルであった。
【0100】
アセトニトリル沈殿サンプルを次のとおり調製した。抽出サンプルで使用した血漿に対応する残ったスパイクした血漿を、アセトニトリルで3倍希釈した。次いで、このサンプルを10分間、10,000rpmで4℃で遠心分離した。完了後、上清を取り出し、10PSIの窒素下に乾燥させ、脱着溶液に再懸濁して、溶媒効果を最小とし、サンプル清浄度を良好に反映させた。全3サンプルを、100~900m/zのQ1の走査を用いて、2μL注入を使用して、表2に記載するとおり分析した。複数メタノール注入を、各目的のサンプルの後に行い、サンプル間のキャリーオーバーを除去した。
【0101】
結果。BioSPME調製サンプルにおけるリン脂質量を、アセトニトリル補助タンパク質沈殿調製サンプルと比較した。0.1%未満のリン脂質が、アセトニトリルタンパク質沈殿対照と比較してBioSPMEからの最終抽出サンプルで残存した。2条件を比較するサンプルクロマトグラムを図14に示す。
【0102】
NanoOrangeTM試験から、BSAとして定量して、ピンツールは、ピン表面に約1.2μgのタンパク質を蓄積した。較正物質と比較した、ピンからの代表的クロマトグラムは図10に見られ得る。アルブミンは、血漿中総タンパク質の約半分を占める(35mg/mL~50mg/mL)(Merlot, A., Kalinowski, D., & Richardson, D. (2014). Unraveling the mysteries of serum albumin - more than just a serum protein. Frontier in Physiology, 1-7, https://doi.org/10.3389/fphys.2014.00299)。この値は、試験した8ピンにわたる最終抽出サンプルにおけるタンパク質が0.01%未満であることと相関する。
【0103】
サンプルが標準調製物と比較して明示的により清浄であることを示すために、完全TICを、タンパク質沈殿血漿サンプル、BioSPME抽出血漿サンプルおよび脱着溶液について取得した(図11参照)。見られるとおり、BioSPME抽出サンプルは、アセトニトリル沈殿サンプルよりも顕著に脱着溶液に近い。脱着溶液で観察されるピークは、存在する重水素化カルバマゼピンに対応する。
【0104】
実施例10. BioSPMEによるタンパク質結合を試験した。96ピンデバイスをX18/シリカプレコーティングおよびPAN/C18 BioSPMEコーティングを用いて調製した。ヒト血漿および緩衝液を、治療上適切な濃度でスパイクし、300rpmで振盪しながら、1時間、37℃でインキュベートした。インキュベーション後、200μL血漿および緩衝液を、抽出ウェルプレートの別々のカラムに充填した(n=8)。タンパク質結合の決定を、BioSPME C18 96ピンツールを使用する自動化ロボット方法により決定した。簡潔には、ピンツールをイソプロパノール中、20分間静的にコンディショニングし、次いで新規ウェルプレートに、10秒間、水中で移す(洗浄工程)。この後、抽出工程が続く。ピンツールを、先に記載の予め充填した抽出プレートに移す。ここで、ピンツールは、37℃で15分間、1200~1250rpmで振盪させながら、検体を抽出する。ピンツールを、60秒間洗浄のために水溶液に戻し、最後に脱着プレートに移す。脱着溶液は80:20 メタノール:水であり、20分間、静的条件下に脱着させる。サンプルを、表5および6に記載の方法を使用して、分析した。
【0105】
この試験で使用した抽出プレートは、プラスチックおよびガラスコーティングされたプレート両方を含んだ。プレートの選択は、化合物の性質および化合物が緩衝液溶液中で以下に良く行動するかに依存する。ケトコナゾールおよびイミプラミンなど、より疎水性の化合物は、プラスチックに非特異的結合を示し、ガラス-コーティングされた96ウェルプレートからの抽出効率が良好であることが判明した。エリスロマイシンおよびプロプラノロールの抽出を、プラスチックプレートからの抽出と比較して、高い抽出効率値がガラスで得られたため、同様にガラス-コーティングされたプレートから実施した。
【0106】
迅速な平衡透析(RED)によるタンパク質結合決定
【0107】
REDを、指示書に指示されるとおり実施した。簡潔には、200μLの治療上適切な濃度で「スパイクされた」ヒト血漿および400μLのリン酸緩衝化食塩水(PBS)を、対応するチャンバーに少なくともトリプリケートで充填した。透析を、エッペンドルフシェーカーで、カバーし、300rpmおよび37℃で振盪しながら、少なくとも4時間実施した。透析終了時、50μLのスパイクされた血漿を50μLの清浄(スパイクされていない)PBSと混合し、50μLの透析液(緩衝液区画)を50μLの清浄血漿と混合した。これにより、マトリクス一貫性を確認できた。次に、300μLの氷冷アセトニトリルを各サンプルに添加し、その後5,000rpmで4℃で10分間遠心分離した。最後に、上清を、脱着溶液中マトリクスマッチ外部較正を使用するAgilent 1290 LCを備えたAB Sciex 6500を使用する、表5および6に記載するLC-MS/MSによる分析のために、ガラスバイアルに移した。
【表5】

【表6】
【0108】
リン脂質除去(マトリクス効果)
【0109】
種々の方法間で残存するリン脂質の量を決定するために、迅速な平衡透析またはBioSPMEで各々処理したサンプルを、アセトニトリル補助タンパク質沈殿により残存するリン脂質と比較した。タンパク質沈殿を100μL ヒト血漿を使用して実施し、300μLのアセトニトリルと混合した。混合物を、4℃で20分間保管し、その後5,000rpmで10分間遠心分離した。上清を移し、10PSIの窒素流下45℃で乾燥させた。次いで、サンプルを200μLの出発移動相に再懸濁した。
【0110】
3つの方法からの5サンプルを、Agilent 1290 LCを備えたAB Sciex-3200 Q Trapマススペクトロメトリーで、表7に記載する方法を使用して分析した。モニターしたリン脂質を表8に列記する。
【表7】

【表8】

LPC - リソホスファチジルコリン
PC - ホスファチジルコリン
【0111】
BioSPMEによる%遊離フラクション(F)の決定
【0112】
BioSPME方法は、検体の100%がタンパク質結合がないとみなされる緩衝液サンプルからの検体の抽出と比較して、血漿中の検体の遊離濃度を決定する。
【0113】
遊離パーセントまたは非結合パーセントを、式1で決定する:
【数1】
式中、遊離濃度は、この場合血漿であるマトリクス中の検体の非結合濃度を表し、総濃度は検体の総濃度を表す。抽出された量は単位に非依存的であり、好ましい数量(例えばナノグラムまたはモル濃度)M遊離および血漿抽出体積、V血漿を使用して、適用できる。脱着溶液中の検体濃度を、外部較正曲線により定量し、脱着体積と血漿および緩衝液抽出体積が等しいならば、脱着からの濃度は、式2に示すとおり、抽出濃度と等しい。
【数2】
結合フラクション、Fを、式6に示すとおり、抽出濃度から決定できる。
【数3】
図12は、血漿(桃色)および緩衝液(青色)から遊離検体を除去する抽出工程(左)および脱着溶液に放出された検体(右)を示す。抽出された量は、非枯渇性と称される遊離検体濃度に大きな影響はなかった。緩衝液溶液が100%遊離とみなされるため、BioSPMEは、血漿よりも緩衝液から多く抽出される。
【0114】
BioSPME抽出により血漿からの化合物枯渇が顕著なとき(抽出がスパイクされた総検体の5%を超える)、計算結合フラクションに対する補正が、下記のとおり必要であった:
【数4】
式中、BおよびPは、緩衝液、Bおよび血漿、Pから抽出された各量を示す。Bはサンプルがもともとスパイクされた濃度を表す。式8は繊維上の抽出後の溶液中の濃度;サンプルからの検体の枯渇を説明する。式6および式7はこの係数に考慮されない。しかしながら、抽出量が5%未満であるとき、正確な値を提供する。
【0115】
RED対BioSPMEの比較
【0116】
式、式5および式6を使用して、検体-タンパク質結合についての表9における値を、BioSPME抽出から決定した。これらの値は、迅速な平衡透析デバイス(RED)を使用して決定した値および文献報告値と良好に一致する。これらの値を、図13でグラフで比較する。
【0117】
さらに、表10は、標準タンパク質沈殿方法と比較した残存リン脂質量を示す。BioSPMEサンプル対アセトニトリルタンパク質沈殿サンプルのクロマトグラムを図14に示す。表10に示すとおり、BioSPMEは、処理サンプルの99%を超えるリン脂質を除去する。これは、約50%のリン脂質が残存するREDデバイスと極めて対照的である。この量を、試験する区画に依存した清浄緩衝液または血漿での遠心分離サンプルにより説明されるため、代表的値から減算される。
【0118】
BioSPME技術はまた表11に示すとおり、50%を超える時短を提供する。BioSPME過程の最長工程は、検体と血漿の最初のインキュベーションである(60分間)。これは、REDデバイスで必要な4時間インキュベーション時間より相当短い。
【表9】
【0119】
図13はREDおよびSPME方法のタンパク質結合値の比較を示す。青色線は、タンパク質結合文献値間隔を示す。星印をした化合物は、生理学的pHで荷電されている。
【表10】

【表11】
【0120】
BioSPME C18技術は、迅速な平衡透析(RED)方法と比較したとき、タンパク質結合決定について50%時短を提供し、完全自動化ロボット方法を介して使用された。BioSPMEタンパク質結合値は、これら10化合物のlog Pが1~5の範囲であることにより示されるとおり、迅速な平衡透析方法と遜色なかった。さらに、BioSPMEはまたREDデバイスと比較して、清浄サンプルも提供する。
【0121】
ここに含まれる実施例は説明の目的のみであり、特許請求の範囲により規定される本発明の範囲を限定することを意図しない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】