(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-26
(54)【発明の名称】疾患関連タンパク質組成物を産生するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
G16B 30/00 20190101AFI20231219BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20231219BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20231219BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
G16B30/00
C07K16/18
C12N15/13 ZNA
C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534656
(86)(22)【出願日】2021-12-06
(85)【翻訳文提出日】2023-06-12
(86)【国際出願番号】 US2021062027
(87)【国際公開番号】W WO2022125448
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522282793
【氏名又は名称】アブサイ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ビアチ, ダニエレ
(72)【発明者】
【氏名】デ サンティアゴ ドミンゴス デ ヘスス, イネス
(72)【発明者】
【氏名】トプタス, バーク カグカン
(72)【発明者】
【氏名】ラコツェヴィチ, ゴラン
【テーマコード(参考)】
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA05
4H045AA10
4H045AA11
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書の開示は、がん、自己免疫状態、又は感染性疾患の治療及び診断に有用な抗体を含むがこれに限定されない、新規の生物活性タンパク質二量体についての完全なポリペプチド及び核酸コンセンサス配列を再構築するためのインシリコの方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫グロブリンの少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成するための方法であって、
(a)疾患又は障害を有する対象から取得された複数の生物学的試料についてのリボ核酸配列データを取得することと、
(b)前記リボ核酸配列データを処理して、複数の固有の免疫グロブリンクロノタイプを識別することと、
(c)前記複数の固有の免疫グロブリンクロノタイプに基づいて、前記免疫グロブリンの少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記免疫グロブリンが、ヒト免疫グロブリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒト免疫グロブリンが、前記疾患又は障害を治療するための候補免疫グロブリンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
(b)において前記リボ核酸配列データを処理することが、前記リボ核酸配列情報をフィルタリングすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記フィルタリングが、更なる分析から非機能的クロノタイプを除去することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
(b)において前記リボ核酸配列データを処理することが、予測される参照配列からシード配列を選択し、前記複数の配列のうちの少なくとも1つについて重鎖D及び軽鎖V-J接合部のうちの少なくとも1つを識別するために、ファジーパターン検索アルゴリズムを使用して前記シード配列について前記リボ核酸配列データを検索することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
(b)において前記リボ核酸配列データを処理することが、前記リボ核酸配列データをフィルタリングして、前記予測される参照配列との閾値照会適合率を達成することができない配列を排除することを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
(b)において前記リボ核酸配列データを処理することが、前記予測される参照配列から新しいシード配列を選択し、前記新しいシード配列について前記リボ核酸配列データを検索することを含む、請求項6又は7に記載の方法
【請求項9】
前記1つ以上の生物学的試料の少なくともサブセットに対する多様性測定基準を算出することを更に含み、前記多様性測定基準が、クロノタイプ多様性の測定基準である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記多様性測定基準が、エントロピー指数を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記エントロピー指数が、Shannon-Wienerエントロピー指数である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記再構築されたコンセンサス配列を生成するために使用される前記固有の免疫グロブリンクロノタイプが、最小閾値を上回る多様性測定基準を有する生物学的試料に由来する、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
(c)において前記再構築されたコンセンサス配列を生成することが、前記複数の固有の免疫グロブリンクロノタイプの多重配列アラインメントを生成することを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
(b)において前記リボ核酸配列データを処理することが、前記複数の固有の免疫グロブリンクロノタイプに対して、重鎖D領域又は軽鎖V-J接合部配列を決定することを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
重鎖D領域又は軽鎖V-J接合部配列を決定することが、予測される重鎖D領域又は軽鎖V-J接合部配列に基づいてシード配列を識別し、ファジーパターン検索アルゴリズムを使用して、照会適合のために配列データセットを検索することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ファジーパターン検索アルゴリズムが、bitapアルゴリズムである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記リボ核酸配列決定データから識別された重鎖D領域又は軽鎖V-J接合部配列をフィルタリングして、最小閾値未満の照会適合率を有する配列を除去することを更に含む、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記最小閾値が、少なくとも0.60、0.65、0.70、0.75、0.80、0.85、又は0.90である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記複数の固有のクロノタイプの前記配列をアセンブルすることを更に含む、請求項15~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記複数の固有のクロノタイプを整列させることと、前記アラインメントに基づいて前記再構築されたコンセンサス配列をアセンブルすることと、を更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記疾患又は障害が、がんである、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記がんが、脳がん、腎がん、卵巣がん、前立腺がん、結腸がん、肺がん、頭頸部の扁平上皮細胞がん、及び黒色腫からなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記腫瘍が、皮膚悪性黒色腫である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記再構築されたコンセンサス配列が、ポリペプチド配列である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記ポリペプチド配列を生成することを更に含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記再構築されたコンセンサス配列が、核酸配列である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記核酸配列を生成することを更に含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記再構築されたコンセンサス配列が、軽鎖CDR1、CDR2、CDR3、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記再構築されたコンセンサス配列が、重鎖CDR1、CDR2、CDR3、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記再構築されたコンセンサス配列によって少なくとも部分的にコードされる前記免疫グロブリンに対して親和性試験を実施して、1つ以上の結合標的を識別することを更に含む、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記親和性試験が、ヒトプロテオームマイクロアレイを使用して実施される、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記免疫グロブリンが、IgG、IgA、又はIgM抗体である、請求項1~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記IgGが、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgGA1、又はIgGA2である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記免疫グロブリンが、モノクローナル抗体である、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記免疫グロブリンが、多重特異性抗体である、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記免疫グロブリンが、多価抗体である、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記免疫グロブリンが、腫瘍細胞に対して細胞溶解性である、請求項1~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記免疫グロブリンが、腫瘍増殖を阻害する、請求項1~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
がんを治療するための医薬組成物を調製することを更に含み、前記組成物が、前記再構築されたコンセンサス配列によって少なくとも部分的にコードされる前記免疫グロブリンを含む、請求項1~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記再構築されたコンセンサス配列によって少なくとも部分的にコードされる前記免疫グロブリンを含む医薬組成物を投与することによって対象を治療することを更に含む、請求項1~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
がんを治療するための免疫グロブリン候補を設計するための方法であって、
(a)がんと診断された対象から取得された複数の生物学的試料についてのリボ核酸配列データを取得することと、
(b)前記リボ核酸配列データを処理して、複数の固有の免疫グロブリンクロノタイプを識別することと、
(c)前記複数の固有の免疫グロブリンクロノタイプに基づいて、免疫グロブリンの少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成することであって、前記免疫グロブリンが、がんを治療するための候補である、生成することと、を含む、方法。
【請求項42】
免疫グロブリンの少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成するための方法であって、
(a)疾患又は障害を有する対象から複数の生物学的試料を取得することと、
(b)前記複数の生物学的試料上でリボ核酸配列決定を実施して、複数の配列を含むリボ核酸配列データを取得することと、
(c)予測される参照配列からシード配列を選択し、前記複数の配列のうちの少なくとも1つについて重鎖D及び軽鎖V-J接合部のうちの少なくとも1つを識別するために、ファジーパターン検索アルゴリズムを使用して前記シード配列について前記リボ核酸配列データを検索することと、
(d)前記リボ核酸配列データをフィルタリングして、前記予測される参照配列との閾値照会適合率を達成することができない配列を排除することと、
(e)前記予測される参照配列から新しいシード配列を選択し、前記新しいシード配列について前記リボ核酸配列データを検索することと、
(f)前記複数の配列のうちの前記少なくとも1つのJセグメントの閾値パーセンテージがアセンブルされるまで、ステップ(e)を反復的に繰り返すことと、
(g)前記複数の配列のうちの前記少なくとも1つに基づいて、複数の固有のクロノタイプを整列させ、アセンブルすることと、
(h)前記整列された複数の固有のクロノタイプに基づいて、再構築されたコンセンサス配列を生成することと、を含む、方法。
【請求項43】
免疫グロブリンの少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成するためのコンピュータ実装システムであって、少なくとも1つのプロセッサと、実行可能命令を実施するように構成されたオペレーティングシステムと、メモリと、ステップを実施するように少なくとも1つのプロセッサによって実行可能な命令と、を備え、前記ステップが、
(a)疾患又は障害を有する対象から取得された複数の生物学的試料についてのリボ核酸配列データを取得することと、
(b)前記リボ核酸配列データを処理して、複数の固有の免疫グロブリンクロノタイプを識別することと、
(c)前記複数の固有の免疫グロブリンクロノタイプに基づいて、前記免疫グロブリンの少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成することと、を含む、コンピュータ実装システム。
【請求項44】
がんを治療するための免疫グロブリン候補を設計するためのコンピュータ実装システムであって、少なくとも1つのプロセッサと、実行可能命令を実施するように構成されたオペレーティングシステムと、メモリと、ステップを実施するように少なくとも1つのプロセッサによって実行可能な命令と、を備え、前記ステップが、
(a)がんと診断された対象から取得された複数の生物学的試料についてのリボ核酸配列データを取得することと、
(b)前記リボ核酸配列データを処理して、複数の固有の免疫グロブリンクロノタイプを識別することと、
(c)前記複数の固有の免疫グロブリンクロノタイプに基づいて、免疫グロブリンの少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成することであって、前記免疫グロブリンが、がんを治療するための候補である、生成することと、を含む、コンピュータ実装システム。
【請求項45】
免疫グロブリンの少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成するためのコンピュータ実装システムであって、少なくとも1つのプロセッサと、実行可能命令を実施するように構成されたオペレーティングシステムと、メモリと、ステップを実施するように少なくとも1つのプロセッサによって実行可能な命令と、を備え、前記ステップが、
(a)疾患又は障害を有する対象から複数の生物学的試料を取得することと、
(b)前記複数の生物学的試料上でリボ核酸配列決定を実施して、複数の配列を含むリボ核酸配列データを取得することと、
(c)予測される参照配列からシード配列を選択し、前記複数の配列のうちの少なくとも1つについて重鎖D及び軽鎖V-J接合部のうちの少なくとも1つを識別するために、ファジーパターン検索アルゴリズムを使用して前記シード配列について前記リボ核酸配列データを検索することと、
(d)前記リボ核酸配列データをフィルタリングして、前記予測される参照配列との閾値照会適合率を達成することができない配列を排除することと、
(e)前記予測される参照配列から新しいシード配列を選択し、前記新しいシード配列について前記リボ核酸配列データを検索することと、
(f)前記複数の配列のうちの前記少なくとも1つのJセグメントの閾値パーセンテージがアセンブルされるまで、ステップ(e)を反復的に繰り返すことと、
(g)前記複数の配列のうちの前記少なくとも1つに基づいて、複数の固有のクロノタイプを整列させ、アセンブルすることと、
(h)前記整列された複数の固有のクロノタイプに基づいて、再構築されたコンセンサス配列を生成することと、を含む、コンピュータ実装システム。
【請求項46】
1つ以上のコンピュータプロセッサによる実行時、免疫グロブリンの少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成するための方法を実装する、機械実行可能コードを含む非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記方法が、
(a)疾患又は障害を有する対象から取得された複数の生物学的試料についてのリボ核酸配列データを取得することと、
(b)前記リボ核酸配列データを処理して、複数の固有の免疫グロブリンクロノタイプを識別することと、
(c)前記複数の固有の免疫グロブリンクロノタイプに基づいて、前記免疫グロブリンの少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成することと、を含む、非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項47】
1つ以上のコンピュータプロセッサによる実行時、がんを治療するための免疫グロブリン候補を設計するための方法を実装する、機械実行可能コードを含む非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記方法が、
(a)がんと診断された対象から取得された複数の生物学的試料についてのリボ核酸配列データを取得することと、
(b)前記リボ核酸配列データを処理して、複数の固有の免疫グロブリンクロノタイプを識別することと、
(c)前記複数の固有の免疫グロブリンクロノタイプに基づいて、免疫グロブリンの少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成することであって、前記免疫グロブリンが、がんを治療するための候補である、生成することと、を含む、非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項48】
1つ以上のコンピュータプロセッサによる実行時、免疫グロブリンの少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成するための方法を実装する、機械実行可能コードを含む非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記方法が、
(a)疾患又は障害を有する対象から複数の生物学的試料を取得することと、
(b)前記複数の生物学的試料上でリボ核酸配列決定を実施して、複数の配列を含むリボ核酸配列データを取得することと、
(c)予測される参照配列からシード配列を選択し、前記複数の配列のうちの少なくとも1つについて重鎖D及び軽鎖V-J接合部のうちの少なくとも1つを識別するために、ファジーパターン検索アルゴリズムを使用して前記シード配列について前記リボ核酸配列データを検索することと、
(d)前記リボ核酸配列データをフィルタリングして、前記予測される参照配列との閾値照会適合率を達成することができない配列を排除することと、
(e)前記予測される参照配列から新しいシード配列を選択し、前記新しいシード配列について前記リボ核酸配列データを検索することと、
(f)前記複数の配列のうちの前記少なくとも1つのJセグメントの閾値パーセンテージがアセンブルされるまで、ステップ(e)を反復的に繰り返すことと、
(g)前記複数の配列のうちの前記少なくとも1つに基づいて、複数の固有のクロノタイプを整列させ、アセンブルすることと、
(h)前記整列された複数の固有のクロノタイプに基づいて、再構築されたコンセンサス配列を生成することと、を含む、非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項49】
mRNA配列決定データから疾患又は障害と関連付けられたタンパク質二量体を識別する方法であって、前記方法が、
(a)前記疾患又は障害を有する対象から取得された複数の生物学的試料についてのリボ核酸配列データを取得することと、
(b)前記リボ核酸配列データを処理して、複数のmRNAアイソフォームを識別することと、
(c)前記複数の固有のmRNAアイソフォームから少なくとも1つのタンパク質二量体を推測することであって、前記少なくとも1つのタンパク質二量体が、前記複数のmRNAアイソフォームから推測される第1のタンパク質アイソフォーム及び第2のタンパク質アイソフォームを含む、推測することと、
(d)前記複数のmRNAアイソフォームに基づいて、前記少なくとも1つのタンパク質二量体をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成することと、を含む、方法。
【請求項50】
前記リボ核酸配列データを処理することが、トランスクリプトーム参照されたゲノムアライナー又は疑似アライナーを使用して前記リボ核酸配列決定データを整列させることを含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
リボ核酸配列データを、前記リボ核酸配列データが、タンパク質異性体中の2つのmRNAアイソフォームをコードすることが知られている一対の遺伝子座から少なくとも0.5リード長、1リード長、又は2リード長超であるゲノム遺伝子座と整列する場合、廃棄することを更に含む、請求項51に記載の方法。
【請求項52】
前記リボ核酸配列データを処理することが、前記複数のmRNAアイソフォームを識別するために前記リボ核酸配列データをアセンブルすることを含む、請求項49に記載の方法。
【請求項53】
前記mRNAアイソフォームの発現レベルを推定することを更に含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記mRNAアイソフォームの前記発現レベルに基づいて、インビボにおける前記第1のmRNAアイソフォーム及び前記第2のmRNAアイソフォームから前記タンパク質二量体が形成される確率を推測することを更に含む、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記複数の固有のmRNAアイソフォームから少なくとも1つのタンパク質二量体を推測することが、クローン性比を計算することを更に含む、請求項49に記載の方法。
【請求項56】
前記クローン性比が、前記第1のタンパク質アイソフォームの前記発現レベルと前記第2のタンパク質アイソフォームの前記発現レベルとの和を、前記複数のmRNAアイソフォームの前記発現レベルで除算したものを含む、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記推測されるタンパク質二量体を実験的に検証することを更に含む、請求項49に記載の方法。
【請求項58】
前記推測されるタンパク質二量体を実験的に検証することが、
(a)複数の細胞に遺伝子導入されたときに、前記第1のタンパク質アイソフォーム及び前記第2のタンパク質アイソフォームの前記発現をガイドすることができる2つの発現ベクターを産生させることと、
(b)前記複数の細胞を前記2つの発現ベクターで遺伝子導入することと、
(c)前記複数の細胞を培養して、複数の前記第1のタンパク質アイソフォーム及び前記第2のタンパク質アイソフォームを増殖させることと、
(d)前記第1のタンパク質アイソフォーム及び前記第2のタンパク質アイソフォームのインビボの相互作用に基づいて、前記推測されるタンパク質二量体を検証することと、を含む、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記複数の細胞が、ヒト細胞株を含む、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記複数の固有のmRNAアイソフォームが、免疫グロブリンmRNAを含み、前記推測されるタンパク質二量体が、免疫グロブリンの少なくとも一部を含む、請求項49~59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記複数の固有のmRNAアイソフォームが、T細胞受容体鎖を含み、前記推測されるタンパク質二量体が、T細胞受容体の少なくとも一部を含む、請求項49~59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記複数の固有のmRNAアイソフォームが、前記補体系の遺伝子を含み、前記推測されるタンパク質二量体が、前記補体カスケードの新規のメンバーを含む、請求項49~59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記疾患又は障害が、がんである、請求項49~62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
前記疾患又は障害が、自己免疫疾患である、請求項49~62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
前記疾患又は障害が、感染性疾患である、請求項49~62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
前記少なくとも1つのタンパク質二量体を用いて患者を治療することを更に含む、請求項49~65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
前記リボ核酸配列データが、急性免疫応答を経験した患者組織に由来する、請求項49~66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
前記急性免疫応答が、感染性疾患に応答した、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記急性免疫応答が、がんに応答した、請求項67に記載の方法。
【請求項70】
前記急性免疫応答が、自己免疫疾患に応答した、請求項67に記載の方法。
【請求項71】
タンパク質二量体の少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成するための方法であって、
(a)疾患又は障害を有する対象から取得された複数の生物学的試料についてのリボ核酸配列データを取得することと、
(b)前記リボ核酸配列データを処理して、複数の固有のタンパク質アイソフォームを識別することと、
(c)前記複数の固有のタンパク質アイソフォームに基づいて、タンパク質二量体の少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成することと、を含む、方法。
【請求項72】
前記タンパク質二量体が、ヒト免疫グロブリンである、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記ヒト免疫グロブリンが、前記疾患又は障害を治療するための候補免疫グロブリンである、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
(b)において前記リボ核酸配列データを処理することが、前記リボ核酸配列情報をフィルタリングすることを含む、請求項71に記載の方法。
【請求項75】
前記フィルタリングが、更なる分析から非機能的タンパク質アイソフォームを除去することを含む、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
(b)において前記リボ核酸配列データを処理することが、予測される参照配列からシード配列を選択し、前記複数の配列のうちの少なくとも1つについて重鎖D及び軽鎖V-J接合部のうちの少なくとも1つを識別するために、ファジーパターン検索アルゴリズムを使用して前記シード配列について前記リボ核酸配列データを検索することを含む、請求項71~75のいずれか一項に記載の方法。
【請求項77】
(b)において前記リボ核酸配列データを処理することが、前記リボ核酸配列データをフィルタリングして、前記予測される参照配列との閾値照会適合率を達成することができない配列を排除することを含む、請求項71~76のいずれか一項に記載の方法。
【請求項78】
(b)において前記リボ核酸配列データを処理することが、前記予測される参照配列から新しいシード配列を選択し、前記新しいシード配列について前記リボ核酸配列データを検索することを含む、請求項76又は77に記載の方法
【請求項79】
前記1つ以上の生物学的試料の少なくともサブセットに対する多様性測定基準を算出することを更に含み、前記多様性測定基準が、クロノタイプ多様性の測定基準である、請求項71~78のいずれか一項に記載の方法。
【請求項80】
前記多様性測定基準が、エントロピー指数を含む、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
前記エントロピー指数が、Shannon-Wienerエントロピー指数である、請求項80に記載の方法。
【請求項82】
前記再構築されたコンセンサス配列を生成するために使用される前記固有の免疫グロブリンクロノタイプが、最小閾値を上回る多様性測定基準を有する生物学的試料に由来する、請求項79~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項83】
(c)において前記再構築されたコンセンサス配列を生成することが、前記複数の固有のタンパク質異性体の多重配列アラインメントを生成することを含む、請求項71~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項84】
(b)において前記リボ核酸配列データを処理することが、前記複数の固有のタンパク質異性体に対して、重鎖D領域又は軽鎖V-J接合部配列を決定することを含む、請求項71~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項85】
重鎖D領域又は軽鎖V-J接合部配列を決定することが、予測される重鎖D領域又は軽鎖V-J接合部配列に基づいてシード配列を識別し、ファジーパターン検索アルゴリズムを使用して、照会適合のために配列データセットを検索することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項86】
前記ファジーパターン検索アルゴリズムが、bitapアルゴリズムである、請求項15に記載の方法。
【請求項87】
前記リボ核酸配列決定データから識別された重鎖D領域又は軽鎖V-J接合部配列をフィルタリングして、最小閾値未満の照会適合率を有する配列を除去することを更に含む、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項88】
前記最小閾値が、少なくとも0.60、0.65、0.70、0.75、0.80、0.85、又は0.90である、請求項17に記載の方法。
【請求項89】
前記複数の固有のタンパク質異性体の前記配列をアセンブルすることを更に含む、請求項15~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項90】
前記複数の固有のタンパク質異性体を整列させることと、前記アラインメントに基づいて前記再構築されたコンセンサス配列をアセンブルすることと、を更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項91】
前記疾患又は障害が、がんである、請求項71~90のいずれか一項に記載の方法。
【請求項92】
前記がんが、脳がん、腎がん、卵巣がん、前立腺がん、結腸がん、肺がん、頭頸部の扁平上皮細胞がん、及び黒色腫からなる群から選択される、請求項91に記載の方法。
【請求項93】
前記腫瘍が、皮膚悪性黒色腫である、請求項91に記載の方法。
【請求項94】
前記再構築されたコンセンサス配列が、ポリペプチド配列である、請求項71~93のいずれか一項に記載の方法。
【請求項95】
前記ポリペプチド配列を生成することを更に含む、請求項94に記載の方法。
【請求項96】
前記再構築されたコンセンサス配列が、核酸配列である、請求項71~93のいずれか一項に記載の方法。
【請求項97】
前記核酸配列を生成することを更に含む、請求項96に記載の方法。
【請求項98】
前記再構築されたコンセンサス配列が、軽鎖CDR1、CDR2、CDR3、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項71~97のいずれか一項に記載の方法。
【請求項99】
前記再構築されたコンセンサス配列が、重鎖CDR1、CDR2、CDR3、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項71~97のいずれか一項に記載の方法。
【請求項100】
前記再構築されたコンセンサス配列によって少なくとも部分的にコードされる前記免疫グロブリンに対して親和性試験を実施して、1つ以上の結合標的を識別することを更に含む、請求項71~99のいずれか一項に記載の方法。
【請求項101】
前記親和性試験が、ヒトプロテオームマイクロアレイを使用して実施される、請求項71~100のいずれか一項に記載の方法。
【請求項102】
前記タンパク質二量体が、IgG、IgA、又はIgM抗体である、請求項71~101のいずれか一項に記載の方法。
【請求項103】
前記IgGが、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgGA1、又はIgGA2である、請求項102に記載の方法。
【請求項104】
前記タンパク質二量体が、モノクローナル抗体である、請求項71~103のいずれか一項に記載の方法。
【請求項105】
前記タンパク質二量体が、多重特異性抗体である、請求項71~103のいずれか一項に記載の方法。
【請求項106】
前記タンパク質二量体が、多価抗体である、請求項71~103のいずれか一項に記載の方法。
【請求項107】
前記タンパク質二量体が、腫瘍細胞に対して細胞溶解性である、請求項71~106のいずれか一項に記載の方法。
【請求項108】
前記タンパク質二量体が、腫瘍増殖を阻害する、請求項71~107のいずれか一項に記載の方法。
【請求項109】
がんを治療するための医薬組成物を調製することを更に含み、前記組成物が、前記再構築されたコンセンサス配列によって少なくとも部分的にコードされるタンパク質二量体を含む、請求項71~108のいずれか一項に記載の方法。
【請求項110】
前記再構築されたコンセンサス配列によって少なくとも部分的にコードされる前記タンパク質二量体を含む医薬組成物を投与することによって対象を治療することを更に含む、請求項71~108のいずれか一項に記載の方法。
【請求項111】
タンパク質二量体の少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成するためのコンピュータ実装システムであって、少なくとも1つのプロセッサと、実行可能命令を実施するように構成されたオペレーティングシステムと、メモリと、ステップを実施するように少なくとも1つのプロセッサによって実行可能な命令と、を備え、前記ステップが、
(a)疾患又は障害を有する対象から取得された複数の生物学的試料についてのリボ核酸配列データを取得することと、
(b)前記リボ核酸配列データを処理して、複数の固有のタンパク質アイソフォームを識別することと、
(c)前記複数の固有のタンパク質アイソフォームに基づいて、タンパク質二量体の少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成することと、を含む、コンピュータ実装システム。
【請求項112】
1つ以上のコンピュータプロセッサによる実行時、タンパク質二量体の少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成するための方法を実装する、機械実行可能コードを含む非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記方法が、
(a)疾患又は障害を有する対象から取得された複数の生物学的試料についてのリボ核酸配列データを取得することと、
(b)前記リボ核酸配列データを処理して、複数の固有のタンパク質異性体を識別することと、
(c)前記複数の固有の免疫グロブリンクロノタイプに基づいて、前記タンパク質二量体の少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成することと、を含む、非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項113】
タンパク質二量体の少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成するためのコンピュータ実装システムであって、少なくとも1つのプロセッサと、実行可能命令を実施するように構成されたオペレーティングシステムと、メモリと、ステップを実施するように少なくとも1つのプロセッサによって実行可能な命令と、を備え、前記ステップが、
(a)疾患又は障害を有する対象から取得された複数の生物学的試料についてのリボ核酸配列データを取得することと、
(b)前記リボ核酸配列データを処理して、複数のmRNAアイソフォームを識別することと、
(c)前記複数の固有のmRNAアイソフォームから少なくとも1つのタンパク質二量体を推測することであって、前記少なくとも1つのタンパク質二量体が、前記複数のmRNAアイソフォームから推測される第1のタンパク質アイソフォーム及び第2のタンパク質アイソフォームを含む、推測することと、
(d)前記複数のmRNAアイソフォームに基づいて、前記少なくとも1つのタンパク質二量体をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成することと、を含む、コンピュータ実装システム。
【請求項114】
1つ以上のコンピュータプロセッサによる実行時、タンパク質二量体の少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成するための方法を実装する、機械実行可能コードを含む非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記方法が、疾患又は障害を有する対象から取得された複数の生物学的試料についてのリボ核酸配列データを取得することと、
(a)前記リボ核酸配列データを処理して、複数のmRNAアイソフォームを識別することと、
(b)前記複数の固有のmRNAアイソフォームから少なくとも1つのタンパク質二量体を推測することであって、前記少なくとも1つのタンパク質二量体が、前記複数のmRNAアイソフォームから推測される第1のタンパク質アイソフォーム及び第2のタンパク質アイソフォームを含む、推測することと、
(c)前記複数のmRNAアイソフォームに基づいて、前記少なくとも1つのタンパク質二量体をコードする再構築されたコンセンサス配列を生成することと、を含む、非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項115】
前記複数の固有のmRNAアイソフォームから少なくとも1つのタンパク質二量体を推測することが、スコアを計算することを更に含む、請求項49に記載の方法。
【請求項116】
前記スコアが、前記第1のタンパク質アイソフォームと前記第2のタンパク質アイソフォームとの存在量の比を含む、請求項115に記載の方法。
【請求項117】
前記スコアが、前記第1のタンパク質アイソフォームと前記第2のタンパク質アイソフォームとの存在量の平均を含む、請求項115に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表への参照
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。2021年12月6日に作成された当該ASCIIコピーは、57301_Seqlisting.txtと名付けられ、67,012バイトのサイズである。
【背景技術】
【0002】
ヒト及び他の生物のゲノム内には、ポリペプチドを産生する複数の遺伝子座があり、それらは一緒に結合して、生物活性特性を有する二量体構造を形成する。例示的なタンパク質構造としては、二量体重鎖及び軽鎖ポリペプチドの対を含むヒト免疫グロブリン、並びにアルファ及びベータ鎖ポリペプチド、又はガンマ及びデルタ鎖ポリペプチドのいずれかを含む二量体を形成するヒトT細胞受容体が挙げられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本開示は、生物学的に活性であり、様々な疾患状態を患う患者を治療するために有用な新規のタンパク質組成物を産生させるためのシステム及び方法の実施形態を説明する。一態様では、新規のタンパク質組成物は、タンパク質二量体を含む。タンパク質二量体は、疾患又は障害を有する患者から単離された(例えば)リボ核酸配列決定データ内に含有されるポリペプチド配列を再構築することによって識別され得る。
【0004】
本開示の特定の実施形態は、1)非常にオリゴクローナルな抗体レパートリーを有する少数のがん、自己免疫、又は感染性疾患の患者の存在、及び2)そのような患者の識別及び分析を容易にする特殊なバイオインフォマティクスプラットフォーム、という2つの要素を認識し、それらを活用する。がん、自己免疫、又は感染性疾患の患者からの試料は、RNA配列決定データを生成するために本開示の実施形態に従って処理され得、患者から生成された配列は、治療候補を識別するために分析され得る。
【0005】
本開示の別の利点は、がんなどの様々な疾患を治療するための候補である完全ヒト抗体の生成を提供することである。したがって、古典的な免疫学的方法に必要とされる、従来のヒト化プロセス又は実験室における湿潤ステップ(例えば、ファージディスプレイ)の必要性はない。代わりに、インシリコの再構築されたコンセンサス配列は、完全にヒトであり、更なるバイオエンジニアリングを必要とせずに、医薬組成物又は薬剤に直接組み込まれ得る。
【0006】
本開示の別の利点は、古典的な免疫学的方法を必要とせずに、インシリコにおいてヒトの疾患又は状態を治療するための抗体又はその抗原結合断片の配列を生成する能力である。例えば、古典的アプローチは、労働集約的であり、抗原を標的化する抗体を生成するために、精製された標的抗原を有する必要がある。対照的に、本開示のシステム及び方法は、バイオインフォマティクス技術を利用して、リボ核酸配列決定データ(例えば、RNA-Seqデータ)から直接的に腫瘍内抗体の配列を再構築し得る。
【0007】
一実施形態では、mRNA配列決定データから疾患又は障害と関連付けられたタンパク質二量体を推測する方法は、疾患又は障害を有する対象から取得された複数の生物学的試料についてのリボ核酸配列データを取得することを含む。方法は、リボ核酸配列データを処理して、複数のmRNAアイソフォームを識別し、複数の固有のmRNAアイソフォームから少なくとも1つのタンパク質二量体を推測することを更に含む。少なくとも1つのタンパク質二量体は、複数のmRNAアイソフォームから推測される、第1のタンパク質アイソフォーム及び第2のタンパク質アイソフォームを含み得る。次いで、複数のmRNAアイソフォームに基づいて、少なくとも1つのタンパク質二量体をコードするコンセンサス配列が再構築され得る。
【0008】
いくつかの実施形態では、タンパク質二量体は、免疫グロブリン可変重鎖を少なくとも部分的に含み、可変重鎖は、再構築されたポリペプチドコンセンサス配列を含む。いくつかの実施形態では、再構築されたポリペプチドコンセンサス配列は、可変重鎖相補性決定領域CDR-H1、CDR-H2、又はCDR-H3のうちの1つ以上を含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、タンパク質二量体は、免疫グロブリン可変軽鎖を少なくとも部分的に含み、可変軽鎖は、再構築されたポリペプチドコンセンサス配列を含む。いくつかの実施形態では、再構築されたポリペプチドコンセンサス配列は、可変軽鎖相補性決定領域CDR-L1、CDR-L2、又はCDR-L3のうちの1つ以上を含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、タンパク質二量体は、IgG、IgA、又はIgM抗体内の可変重鎖及び可変軽鎖である。いくつかの実施形態では、IgGは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgGA1、又はIgGA2である。いくつかの実施形態では、抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、モノクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、多重特異性抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、多価抗体である。上記に開示された態様のいくつかの実施形態では、抗原結合断片は、Fab、Fab’、Fab’-SH、Fv、scFv、F(ab’)2、又は二重特異性抗体である。いくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、組換え型である。いくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、酵素、基質、補因子、蛍光マーカー、化学発光マーカー、ペプチドタグ、磁気粒子、薬物、又は毒素を更に含む。いくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、腫瘍細胞に対して細胞溶解性である。
【0011】
いくつかの実施形態では、タンパク質二量体は、ヒトT細胞受容体のアルファ及びベータ鎖、又はガンマ及びデルタ鎖である。いくつかの実施形態では、T細胞受容体は、キメラ抗原受容体である。
【0012】
本明細書に開示される態様のいくつかの実施形態では、タンパク質二量体は、腫瘍増殖を阻害する。いくつかの実施形態では、がんが、脳がん、腎がん、卵巣がん、前立腺がん、結腸がん、肺がん、頭頸部の扁平上皮細胞がん、及び黒色腫からなる群から選択される。
【0013】
本明細書に開示される態様のいくつかの実施形態では、タンパク質二量体は、ウイルス感染を中和する。いくつかの実施形態では、中和されるウイルスは、SARS-CoV-2であってもよい。
【0014】
別の態様では、本明細書に開示される態様のタンパク質二量体を含む融合タンパク質を含むポリペプチド配列を生成するためのシステム及び方法が本明細書に提供される。
【0015】
一態様では、(a)上記に開示された態様の抗原結合断片、(b)膜貫通ドメイン、及び(c)細胞内シグナル伝達ドメインを含む、T細胞のキメラ抗原受容体を含むポリペプチド配列を生成するためのシステム及び方法が本明細書に提供される。
【0016】
参照による組み込み
本明細書において言及される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、個々の刊行物、特許、又は特許出願が、参照により組み込まれることを具体的かつ個別に示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明の新規の特徴は、添付の特許請求の範囲に具体的に記載されている。本発明の原理が利用される例示的な実施形態及び添付の図面を説明する以下の詳細な説明を参照することによって、本発明の特徴及び利点をより良好な理解が得られることになる。
【0018】
【
図1】免疫グロブリンクロノタイプを識別するために使用される計算パイプラインの例示的なスキームを示す。
【
図2A】5人の患者及び免疫グロブリン配列のアラインメントの可視化を示す。RNA-seqから取得された個々のリードは、5人の選択された患者について示されている。整列された生殖系列のVDJセグメントは、各トラックの底部に示されている。期待値(水平色付き線)から逸脱するIGV色のペアエンドのアラインメント及びミスマッチ塩基は、色付きで提示される(Aは緑色、Cは青色、Gは黄色、Tは赤色)。
【
図3】VDJ識別パイプラインの例示的なスキームを図示する。
【
図4】体細胞VDJ配列識別の詳細なスキームを示す。
【
図5A】
図5Aは、重鎖を示し、
図5Bは、初期アラインメントと比較した、選択された患者の軽鎖精密化アラインメントを示す。重鎖のDセグメント及び軽鎖のV-J接合部では、突然のカバレッジ低下が観察され得る。
【
図6】重鎖Dセグメントのアセンブリの可視化を示す。
【
図7】アラインメント段階後の補正されたDセグメントを有する重鎖のIGVプロットを示す。
【
図8】生殖系列及びCDRの配列識別の詳細なスキームを例示する。
【
図9】本開示の実施形態による、再構築されたコンセンサス配列を生成する例示的な方法を示す。
【
図10】本開示の実施形態による、タンパク質二量体の存在を推測する例示的な方法を示す。
【
図11A】それぞれ、リボ核酸配列データを処理し、識別された抗体を実験的に検証するための計算及び実験ワークフローの1つの例示的な実施形態を図示する。
【
図12A】本開示の実施形態による、識別された抗体の様々な特性を図示するチャートである。
【
図13】本開示の実施形態による、抗体再構築ワークフローの性能を評価するために使用され得る合成ベンチマークの設計を図示するチャートである。
【
図14A】本開示の実施形態による、同じ抗原に対する、腫瘍内Igに由来する抗体及び市販の抗体についてのK
D値の分布を図示するチャートである。
【
図15】異なるTCGA試料について再構築された重鎖にマッピングされたリードの分布のヒストグラムを図示するチャートである。
【
図16A】合成データ上の再構築性能の評価を例示するチャートである。
【
図17】本開示の実施形態による、エピトープマッピング結果の図解表現である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
B細胞は、適応免疫系の中心的構成要素であり、抗原認識及び提示、抗体産生及び分泌を含む多様な一連の役割を果たすとともに、調節機能を有する。しかしながら、がんに対する免疫応答を分析するときに、主要な科学的焦点は、腫瘍微小環境(TME)内に多量に存在することが多い、別のタイプの腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、T細胞に置かれている。いくつかの研究が重要な予後因子としてB細胞の存在を示したが、それは、腫瘍内の三次リンパ組織様構造(TLS)(Dieu-Nosjean et al.2008)(Sautes-Fridman et al.2011)(Dieu-Nosjean et al.2016)、並びにがんにおける免疫の複雑な性質及び組織化が明らかにされている免疫療法の応答及び生存におけるそれらの直接的な影響(Dieu-Nosjean et al.2016、Helmink et al.2020)(Sautes-Fridman et al.2011、Petitprez et al.2020)(Cabrita et al.2020)の発見を伴う。TLSは、固形腫瘍内に発生するリンパ球形成物であり、その構造及び機能は、二次リンパ器官の構造及び機能を反映する(Sautes-Fridman et al.2019)。TLSは、B細胞、濾胞性樹状細胞、及び形質細胞から構成されるT細胞リッチゾーン及び胚中心(GC)を含有する。GC内では、B細胞は、周囲の腫瘍微小環境から捕捉された抗原を結合する際に競合し、体細胞超変異、及びクラススイッチ組換えを受ける。TLSの機能及び予後値は、GCの存在、結果として、GC内のB細胞の成功裏の発生に大きく依存することが示唆されている(Sautes-Fridman et al.2019、Silila et al.2018)(Posch et al.2018)。
【0020】
がんに対する免疫応答におけるB細胞の重要性を認識したが、発明者らは、これらのB細胞によって産生される抗体によってどの抗原が認識されるかを決定するという問題に直面した。この問題を研究するために、発明者らは、例えば、固形腫瘍組織のバルクRNA配列決定からのクローン増殖B細胞集団の免疫グロブリン鎖の配列再構築及びペアリングのための方法の様々な実施形態を開発した。一実施形態では、The Cancer Genome Atlas(TCGA)からのがんRNA配列決定試料の選択されたサブセットからの抗体が、治療潜在性について識別及び評価される。これらの抗体の多くは、がん組織で過剰発現される既知のがん抗原又は遺伝子に結合し、多くの場合、がん特異的発現パターンを示し、したがって、疾患に対する新規の治療として潜在的に使用され得る。
【0021】
抗体を計算的に再構築する
本明細書において、がん関連抗体のポリペプチド及び核酸コンセンサス配列を再構築するためのシステム及び方法が提供される。コンセンサス配列は、インシリコで再構築される。本明細書で使用される場合、「ポリペプチドコンセンサス配列」という用語は、任意の特定のサブクラス又はサブユニット構造の全ての免疫グロブリンの各場所で最も頻繁に発生するアミノ酸残基を含むアミノ酸配列を指す。ポリペプチドコンセンサス配列は、特定の種又は多くの種の免疫グロブリンに基づき得る。ポリペプチド「コンセンサス」配列、「コンセンサス」構造、又は「コンセンサス」抗体は、本明細書に提供される特定の実施形態に説明されるヒトポリペプチドコンセンサス配列を包含し、任意の特定のサブクラス又はサブユニット構造の全てのヒト免疫グロブリン中の各場所に最も頻繁に発生するアミノ酸残基を含むアミノ酸配列を指すと理解される。本明細書の実施形態は、コンセンサスヒト構造及びコンセンサス構造を提供し、これは、ヒトに加えて他の種を考慮する。
【0022】
本明細書で使用される場合、「核酸コンセンサス配列」という用語は、任意の特定のサブクラス又はサブユニット構造の全ての免疫グロブリン核酸配列中の各場所で最も頻繁に発生するヌクレオチド残基を含む、核酸配列を指す。核酸コンセンサス配列は、特定の種又は多くの種の免疫グロブリンに基づき得る。核酸「コンセンサス」配列、又は「コンセンサス」構造は、本発明の特定の実施形態に説明されるヒト核酸コンセンサス配列を包含し、任意の特定のサブクラス又はサブユニット構造の全てのヒト免疫グロブリン核酸中の各場所に最も頻繁に発生するヌクレオチド残基を含む核酸配列を指すと理解される。
【0023】
本明細書では、コンセンサスヒト構造及びヒトに加えて他の種のコンセンサス構造が提供される。RNA seqデータからのコンセンサス配列を計算的に再構築する方法が、本明細書の例で説明される。MIGEC(Shugay et al.2014)、PRESTO(Vander Heiden et al.2014)、MiXCR(Bolotin et al.2015)、及びIGREPERTOIRECONSTRUCTOR(Safonova et al.2015)を含む、完全長抗体レパートリーを再構築するために当該技術分野で公知の計算ツールの非限定的な例。いくつかの実施形態では、Stubbington及びTeichmannによるTraCeRパイプラインが実装され、これは、International Immunogenetics Information System(IMGT)リポジトリにおける全ての既知のヒトV及びJ遺伝子セグメント/アレルのインシリコの組み合わせを含有するカスタムデータベースに対する事前フィルタリングステップの後、デノボアセンブリを使用する。いくつかの実施形態では、TCR遺伝子にマッピングすることによってリードにおいてフィルタリングし、Trinityベースのアセンブリに続く、別のパイプライン、VDJPuzzleが実装され、それによって、総リードは、次いで、初期マッピングステップで見逃されたリードを取り出すためにアセンブリに戻ってマッピングされ、Trinityとのアセンブリの別のラウンドに続く。コンセンサス配列を計算的に再構築するための例示的な方法は、体細胞配列の識別、手動IGV調査及び体細胞vdj配列の補正(必要に応じて)、並びに生殖系列の配列及びCDR領域の識別を含み得る。
【0024】
いくつかの実施形態では、患者、例えば、がん患者のために取り出されたRNA-seq FASTQファイルが記録及び分析される。いくつかの実施形態では、Kallisto、BWA、MiXCR、又は他の既知のツールが、試料中に存在するレパートリーを識別するために、免疫グロブリンのV、D、及びJ遺伝子を参照するために、RNA-seq試料の第1のアラインメントを実施するために使用され得る。更なる実施形態では、同一のCDR3配列は、クロノタイプで識別及びグループ化される(Bolotin DA et al.,Nature Methods,2015、Bolotin DA et al.Nature biotechnology,2017)。いくつかの実施形態では、VDJtoolsは、非機能的(非コーディング)クロノタイプをフィルタ除外するために、及び基本多様性統計を算出するために使用される(Shugay M.et al.PLoS computational biology,2015)。更なる実施形態では、非機能的クロノタイプは、それらの受容体配列中に終止コドン又はフレームシフトを含有するものとして識別される。いくつかの実施形態では、Igレパートリーの多様性は、Shannon-Wienerエントロピー指数として計算される種の有効数に基づいて取得される(MacArthur RH.Biological reviews.1965)。
【0025】
いくつかの実施形態では、試料中に存在する免疫グロブリンセグメントに対する更なるアラインメントが、V、D、J遺伝子セグメント、特に、CDR3領域長さの統計に沿った配列ミスマッチの頻度分布を探索するために、結果を表示するために実施される。このアラインメントステップは、例えば、レパートリーを要約するとともに、個々の問い合わせ配列の再構成及び領域アラインメントの詳細ビューを提案するのに有用であり得る。アラインメント及びアセンブリの例示的な方法論は、本明細書の例で説明される。
【0026】
いくつかの実施形態では、試料中に存在する免疫グロブリンセグメントは、IMGT参照ファイル又は均等物を使用して識別される。いくつかの事例では、重鎖Dセグメント及び軽鎖V-J接合部配列は、アセンブラを使用してアセンブルされ得る。当該技術分野で公知のアセンブラの非限定的な例としては、Trinity及びV’DJerが挙げられる。いくつかの実施形態では、補正された重鎖D及び軽鎖V-J接合部配列を有するFASTAファイルが、各試料に対して生成され得る。アセンブルされたFASTAファイルに加えて、生殖系列のFASTAファイルが、例えば、IgBLAST v1.9.0[Ye J,et al Nucleic Acids Research,2013]及びIMGTデータベースを使用することによって生成され得る。更なる実施形態では、体細胞FASTA配列は、重鎖及び軽鎖の最も近いセグメントIDを取得するために、IgBLASTに入力され得る。生殖系列のFASTAは、IMGTデータベースから対応するセグメント配列をマージすることによって生成され得る。最終的にアセンブルされるFASTA配列は、アラインメント及び可視化ステップの「参照」配列として機能し得る。
【0027】
更なる実施形態では、アセンブリステップから生成された参照ファイルを使用して、FASTQが、BowTie2デフォルトモードで整列され得る。当該技術分野で公知の他のアラインメントツール、例えば、STAR又はTopHat2もまた使用され得る。出力BAMファイルがIGV可視化に使用され得、患者の突然変異が観察され得る。
【0028】
更なる実施形態では、例えば、IgBLASTを用いて、最終的にアセンブリされるFASTA配列からのCDR3領域、並びに対応するV、D、及びJ鎖の識別が行われ得る。IgBLASTのバージョンv.1.9.0を使用して標準化された出力は、いくつかの事例では、IgBLASTnをデフォルトパラメータでラッピングすることによって送達され得る。他の事例では、IgBLASTサービスからの出力は、CDR1、CDR2、及びCDR3のヌクレオチド及びアミノ酸配列を抽出するように設計された専用パーサーツールを使用して抽出され得る。
【0029】
がん関連抗体又はその抗原結合断片
別の態様では、本開示は、再構築されたコンセンサス配列を含むがん関連抗体を生成するためのシステム及び方法を提供する。いくつかの実施形態では、抗体又はそれらの抗原結合断片は、がん細胞の溶解を誘導する。溶解は、例えば、C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)、食作用、又は細胞アポトーシスの直接的な誘導などの、エフェクター機能を介在することなどによって、任意の機構によって誘導され得る。
【0030】
いくつかの実施形態では、非操作親抗体又はその抗原結合断片と比較して、エフェクター機能における少なくとも1つの増加を有するように操作される本明細書に開示される抗体又はその抗原結合断片を生成するためのシステム及び方法が本明細書に開示される。エフェクター機能は、抗体のFc領域に起因する生物活性であり、抗体アイソタイプによって変動する。抗体エフェクター機能の例としては、C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)、食作用が挙げられる。例えば、本明細書に開示される抗体又はその抗原結合断片は、非糖鎖操作親と比較して、エフェクター機能における少なくとも1つの増加を有するように糖鎖操作され得る。抗体依存性細胞傷害(ADCC)は、抗体のIgG Fab部分と細胞表面上のウイルスタンパク質との間の複合体の形成、及びエフェクター細胞上における、Fc受容体(FcγR)へのFc部分の結合の結果である。エフェクター機能の増加は、Fc受容体への結合親和性の増加、ADCCの増加、細胞介在性免疫の増加、細胞傷害性CD8 T細胞への結合の増加、NK細胞への結合の増加、マクロファージへの結合の増加、多形核細胞への結合の増加、単球への結合の増加、マクロファージへの結合の増加、大きい顆粒状リンパ球への結合の増加、顆粒球への結合の増加、アポトーシスを誘導する直接シグナル伝達、樹状細胞の成熟の増加、又はT細胞プライミングの増加であり得る。
【0031】
抗体
本開示は、がんを治療及び/又は診断する際に利用されるがん関連抗体のための再構築されたポリペプチドコンセンサス配列を生成するためのシステム及び方法を提供する。本明細書で使用される場合、「がん関連抗体」という用語は、がん関連抗原に特異的な抗体を指す。いくつかの実施形態では、がん関連抗体は、がん関連抗原に特異的な少なくとも1つの抗原結合領域を含む。本明細書では、抗体の可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)の完全に再構築された核酸コンセンサス配列及び完全に再構築されたポリペプチドコンセンサス配列が開示される。VH及びVLのCDR3の核酸配列及びポリペプチド配列もまた提供される。
【0032】
抗体は、モノクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体及び多反応性抗体)、並びに抗体断片を含む。したがって、抗体は、限定されるものではないが、任意の特異的結合メンバー、免疫グロブリンクラス及び/又はアイソタイプ(例えば、IgGl、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA、IgD、IgE、及びIgM)、並びにFab、F(ab’)2、Fv、及びscFv(単鎖又は関連実体)を含むがこれらに限定されない、生物学的に関連のある断片又はその特異的結合メンバーを含む。モノクローナル抗体は、実質的に均質な抗体の集団から取得され、例えば、その集団を含む個々の抗体は、わずかな量で存在し得る、考えられる天然由来の突然変異を除いて同一である。ポリクローナル抗体は、異なる決定基(エピトープ)に対して向けられた異なる抗体を含む調製物である。
【0033】
抗体は、ジスルフィド結合によって相互接続された少なくとも2つの重鎖(H)及び2つの軽鎖(L)、又はその抗原結合部分を有する糖タンパク質であることが当該技術分野で理解されている。重鎖は、重鎖可変領域(VH)及び重鎖定常領域(CH1、CH2、及びCH3)から構成される。軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)から構成される。重鎖及び軽鎖の両方の可変領域は、フレームワーク領域(FR又はFWR)及び超可変領域(HVR)を含む。HVRは、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基である。超可変領域は、概して、相補性決定領域(CDR)由来のアミノ酸残基を含み、最も高い配列変動性を有する、及び/又は抗原認識に関与する。VH中のCDR1を除いて、CDRは、概して、超可変ループを形成するアミノ酸残基を含む。CDRはまた、抗原に接触する残基である、「特異性決定残基」、又は「SDR」を含む。SDRは、短縮型CDR又はa-CDRと称されるCDRの領域内に含有される。例示的なa-CDR(a-CDR-L1、a-CDR-L2、a-CDR-L3、a-CDR-H1、a-CDR-H2、及びa-CDR-H3)は、L1のアミノ酸残基31~34、L2の50~55、L3の89~96、H1の31~35B、H2の50~58、及びH3の95~102で生じる。(例えば、Fransson,Front.Biosci.13:1619-1633(2008)を参照されたい。)
【0034】
別途示されない限り、可変ドメイン中のHVR残基及び他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書では上記のKabatらに従って番号付けされる。可変領域は、抗体を抗原に結合するのに関与する抗体重鎖又は軽鎖のドメインである。(例えば、Kindt et al.Kuby Immunology,6th ed.,W.H.Freeman and Co.,p.91(2007)を参照されたい)。単一のVH又はVLドメインは、抗原結合特異性を付与するのに十分であり得る。更に、特定の抗原に結合する抗体は、それぞれ、相補的なVL又はVHドメインのライブラリーをスクリーニングするために抗原に結合する、抗体からのVH又はVLドメインを使用して単離され得る。(例えば、Portolano et al.,J.Immunol.150:880-887(1993)、Clarkson et al.,Nature352:624-628(1991)を参照されたい)。4つのFWR領域が、典型的には、より保存性が高いが、CDR領域(CDR1、CDR2、及びCDR3)は、超可変領域を表し、NH2末端からCOOH末端まで以下のように配置される。FWR1、CDR1、FWR2、CDR2、FWR3、CDR3、及びFWR4。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有するが、一方、アイソタイプに応じて、定常領域は、宿主組織又は因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。抗体はまた、キメラ抗体、ヒト化抗体、及び組換え抗体、遺伝子組換え非ヒト動物から生成されたヒト抗体、並びに当業者に利用可能な濃縮技術を使用してライブラリーから選択される抗体を含む。
【0035】
参照ポリペプチド配列に対するパーセント(%)配列同一性は、配列同一性の最大パーセントを達成し、配列同一性の一部としていかなる保存的置換も考慮しないように、配列を整列させ、必要に応じて、ギャップを導入した後、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージである。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公的に利用可能なコンピュータソフトウェアを使用して、当業者が有する技能の範囲内にある様々な方式で達成され得る。当業者は、比較される配列の完全長にわたって最大アラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列を整列させるための適切なパラメータを決定し得る。しかしながら、本明細書の目的のために、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用して、%アミノ酸配列同一性値が生成される。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、Genentech,Inc.によって作成され、ソースコードは、U.S.Copyright Office、Washington D.C.,20559にユーザ文書とともに提出され、米国著作権登録番号TXU510087の下に登録されている。ALIGN-2プログラムは、Genentech,Inc.、South San Franciscoから公的に利用可能であるか、又はソースコードからコンパイルされ得る。ALIGN-2プログラムは、Digital UNIX(登録商標) V4.0Dを含むUNIXオペレーティングシステムで使用するためにコンパイルされる必要がある。全ての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。
【0036】
アミノ酸配列の比較にALIGN-2が用いられる状況では、所与のアミノ酸配列Bへの、Bとの、又はBに対する所与のアミノ酸配列Aの%アミノ酸配列同一性(あるいは、所与のアミノ酸配列Bへの、Bとの、又はBに対する特定の%アミノ酸配列同一性を有するか、又は含む所与のアミノ酸配列と言い換えられる)は、100×分数X/Yのように計算され、式中、Xは、配列アラインメントプログラムALIGN-2によって、そのプログラムのA及びBのアラインメントにおいて完全な一致としてスコア付けされたアミノ酸残基の数であり、Yは、Bにおけるアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、Bに対するAの%アミノ酸配列同一性は、Aに対するBの%アミノ酸配列同一性と等しくないことになる。別途具体的に記載されない限り、本明細書で使用される全ての%アミノ酸配列同一性値は、ALIGN-2コンピュータプログラムを使用して、直前の段落に説明されるように取得される。
【0037】
抗体特性
変異頻度
本開示のシステム及び方法は、生殖系列の配列から少なくとも約5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、又は20%以上の変異頻度を有する重鎖配列を含む抗体又はその抗原結合断片を生成し得る。いくつかの実施形態では、本開示の抗体又はそれらの抗原結合断片の再構築された生殖系列のポリペプチド配列は、表5から選択され得る。
【0038】
本開示の抗体は、生殖系列の配列から少なくとも約5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、又は20%以上の変異頻度を有する軽鎖配列であるCDR3領域を含み得る。本開示の抗体は、生殖系列の配列から少なくとも約5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、又は20%以上の変異頻度を有する軽鎖配列であるCDR1領域を含み得る。本開示の抗体は、生殖系列の配列から少なくとも約5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、又は20%以上の変異頻度を有する軽鎖配列であるCDR2領域を含み得る。
【0039】
本開示の抗体は、生殖系列の配列から少なくとも約5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、又は20%以上の変異頻度を有する重鎖配列であるCDR3領域を含み得る。本開示の抗体は、生殖系列の配列から少なくとも約5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、又は20%以上の変異頻度を有する重鎖配列であるCDR1領域を含み得る。本開示の抗体は、生殖系列の配列から少なくとも約5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、又は20%以上の変異頻度を有する重鎖配列であるCDR2領域を含み得る。
【0040】
本発明の抗体又はそれらの抗原結合断片は、生殖系列の配列から少なくとも約5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、又は20%以上の変異頻度を有する重鎖及び軽鎖配列を含み得る。本発明の抗体又はそれらの抗原結合断片は、VHファミリー4~59のいずれか1つからなる群から選択されるVHファミリーからのVH領域を含み得る。
【0041】
重鎖及び軽鎖の長さ
本開示のシステム及び方法は、長さが少なくとも約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30アミノ酸の長さであるCDR3領域を含む、抗体又はその抗原結合断片を生成し得る。本開示の抗体又はそれらの抗原結合断片は、長さが少なくとも約18アミノ酸であるCDR3領域を含み得る。
【0042】
本開示のシステム及び方法は、軽鎖の末端に欠失を含む抗体又はその抗原結合断片を生成し得る。本発明の抗体又はそれらの抗原結合断片は、軽鎖の末端に3アミノ酸以上の欠失を含み得る。本発明の抗体又はそれらの抗原結合断片は、軽鎖の末端に7アミノ酸以下の欠失を含み得る。本発明の抗体又はそれらの抗原結合断片は、軽鎖の末端に3、4、5、6、又は7アミノ酸の欠失を含み得る。
【0043】
本開示のシステム及び方法は、軽鎖の挿入を含む抗体又はその抗原結合断片を生成し得る。本発明の抗体又はそれらの抗原結合断片は、軽鎖中に1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10アミノ酸以上の挿入を含み得る。本発明の抗体又はそれらの抗原結合断片は、軽鎖に3アミノ酸の挿入を含み得る。
【0044】
親和性
親和性は、分子(例えば、抗体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との間の非共有結合性相互作用の総和の強度である。別途示されない限り、本明細書で使用される場合、「結合親和性」は、結合対(例えば、抗体及び抗原)のメンバー間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、概して、解離定数(kd)によって表され得る。親和性は、本明細書に説明されるものを含む、当該技術分野で公知の共通の方法によって測定され得る。結合親和性を測定するための具体的な例示的及び代表的な実施形態が、以下に説明される。
【0045】
いくつかの実施形態では、本開示のシステム及び方法は、約1μM、100nM、10nM、5nM、2nM、1nM、0.5nM、0.1nM、0.05nM、0.01nM、又は0.001nM以下(例えば、10-8M以下、例えば、10-8M~10-13M、例えば、10-9M~10-13M)の解離定数(KD)を有する抗体の少なくとも一部分に対応する再構築されたコンセンサス配列を生成し得る。本発明の別の態様は、その標的に対する親和性が増加した抗体又はその抗原結合断片、例えば、親和性成熟抗体を提供する。親和性成熟抗体は、1つ以上の超可変領域(HVR)における1つ以上の変化を有する抗体であり、そのような変化を有しない親抗体と比較して、そのような変化は、抗原に対する抗体の親和性の改善を結果的にもたらす。これらの抗体は、約5×10-9M、2×10-9M、1×10-9M、5×10-10M、2×10-9M、1×10-10M、5×10-11M、1×10-11M、5×10-12M、1×10-12M以下のKDで抗原に結合し得る。いくつかの実施形態では、本開示は、重鎖配列及び軽鎖配列、又はその両方を含有する生殖系列の抗体と比較して、少なくとも1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、4倍、5倍、10倍、20倍以上の増加した親和性を有する抗体又はその抗原結合断片を提供する。他の実施形態では、本明細書に説明される抗体と同じエピトープへの結合に競合する抗体が提供される。いくつかの実施形態では、同じエピトープに結合する、及び/又は抗体と同じエピトープへの結合に競合する抗体又はその抗原結合断片は、例えば、ADCC活性を含む、Fc介在性細胞傷害などのエフェクター機能活性を呈する。
【0046】
KDは、任意の好適なアッセイによって測定され得る。例えば、KDは、放射性標識された抗原結合アッセイ(RIA)によって測定され得る(例えば、Chen et al.,J.Mol.Biol.293:865-881(1999)、Presta et al.,Cancer Res.57:4593-4599(1997)を参照されたい)。例えば、KDは、表面プラズモン共鳴アッセイを使用して測定され得る(例えば、BIACORE(登録商標)-2000又はBIACORE(登録商標)-3000を使用して)。
【0047】
抗体断片
抗体断片又は「抗原結合断片」は、完全抗体の抗原結合領域又は可変領域などの、無傷の抗体の一部分を含む。本発明の更なる態様では、上記の実施形態のいずれかによる抗体は、キメラ、ヒト化、又はヒト抗体を含む、モノクローナル抗体である。抗体断片としては、限定されるものではないが、以下に説明される抗体断片抗体及びscFv断片、並びに他の断片から形成される、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、Fv、二重特異性抗体、線状抗体、多重特異性が挙げられる。別の実施形態では、抗体は、完全長抗体、例えば、本明細書に説明される無傷のIgG1抗体又は他の抗体クラス若しくはアイソタイプである。(例えば、Hudson et al.Nat.Med.9:129-134(2003)、Pluckthiin,The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,pp.269-315(1994)、Hollinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:6444-6448(1993)を参照されたい)。完全長抗体、無傷の抗体、又は全抗体は、天然抗体構造と実質的に同様の構造を有するか、又は本明細書に定義されるFc領域を含有する重鎖を有する抗体である。抗体断片は、本明細書に説明されるように、無傷の抗体のタンパク質消化、及び組換え宿主細胞(例えば、E.coli又はファージ)による産生を含むがこれに限定されない、様々な技術によって作製され得る。
【0048】
Fvは、完全な抗原認識及び抗原結合部位を含有する最小抗体断片である。この断片は、1つの重鎖及び1つの軽鎖可変領域ドメインの二量体を、緊密な非共有結合関係で含有する。これら2つのドメインのフォールディングから、抗原結合のためにアミノ酸残基に寄与し、抗体に抗原結合特異性を付与する、6つの超可変ループ(H及びL鎖から各々3つのループ)を発する。しかしながら、単一の可変領域(又は抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)でさえ、抗原を認識及び結合する能力を有するが、結合部位全体よりも低い親和性である。
【0049】
一本鎖Fv(sFv又はscFv)は、単一のポリペプチド鎖に接続されたVH及びVL抗体ドメインを含む抗体断片である。sFvポリペプチドは、sFvが抗原結合のための所望の構造を形成することを可能にする、VHドメインとVLドメインとの間のポリペプチドリンカーを更に備え得る。(例えば、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,Springer-Verlag,New York,pp.269-315(1994)、Borrebaeck 1995、下記を参照されたい。
【0050】
二重特異性抗体は、Vドメインの鎖内ではなく鎖間ペアリングが達成されるように、VHドメインとVLドメインとの間に短いリンカー(約5~10個の残基)を有するsFv断片を構築することによって調製される小さい抗体断片であり、二価断片を結果的にもたらす。二特異性二重特異性抗体は、2つの抗体のVHドメイン及びVLドメインが、異なるポリペプチド鎖上に存在する、2つのクロスオーバーsFv断片のヘテロ二量体である。(例えば、Hollinger et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444-6448(1993)を参照されたい)。
【0051】
完全ヒト型で産生され得るドメイン抗体(dAb)は、約11kDa~約15kDaに及ぶ、抗体の最小の既知の抗原結合断片である。DAbは、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の頑強な可変領域である(それぞれ、VH及びVL)。それらは、微生物細胞培養において高度に発現され、例えば、限定されるものではないが、溶解性及び温度安定性を含む好ましい生物物理特性を示し、例えば、ファージディスプレイなどのインビトロ選択系による選択及び親和性成熟に良好に適している。DAbは単量体として生理活性であり、それらの小さいサイズ及び固有の安定性により、血清半減期の延長又は他の薬理活性を有する薬物を作成するために、より大きい分子にフォーマットされ得る。
【0052】
Fv及びsFvは、定常領域を欠く無傷の結合部位を有する唯一の種である。したがって、それらは、インビボの使用中の非特異的結合の低減に好適である。sFv融合タンパク質は、sFvのアミノ末端又はカルボキシ末端のいずれかでエフェクタータンパク質の融合をもたらすように構築され得る。抗体断片はまた、「線状抗体」であり得る。そのような線状抗体断片は、単一特異性又は二重特異性であり得る。
【0053】
ヒト抗体
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるシステム及び方法は、ヒト抗体である本明細書に提供される抗体をコードする再構築されたコンセンサス配列の生成を提供する。ヒト抗体は、当該技術分野で公知の様々な技術を使用して産生され得る(例えば、van Dijk and van de Winkel,Curr.Opin.Pharmacol.5:368-74(2001)、及びLonberg,Curr.Opin.Immunol.20:450-459(2008)を参照されたい)。ヒト抗体は、ヒト若しくはヒト細胞によって産生されるか、又はヒト抗体レパートリー若しくは他のヒト抗体コード配列を利用する非ヒト源に由来する、抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を保有する抗体である。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を特異的に除外する。ヒト抗体は、抗原投与に応答して、無傷のヒト抗体又はヒト可変領域を有する無傷の抗体を産生するように改変された遺伝子組換え動物に免疫原(例えば、がん細胞抗原)を投与することによって調製され得る。(例えば、Lonberg,Nat.Biotech.23:1117-1125(2005)を参照されたい)。そのような動物によって生成された無傷の抗体由来のヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせることによって、更に改変され得る。
【0054】
ヒト抗体はまた、ハイブリドーマベースの方法によって作製され得る。例えば、ヒト抗体は、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術、及び他の方法を使用して、ヒト骨髄腫及びマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞株から産生され得る(例えば、Kozbor J.Immunol.,133:3001(1984)、Brodeur et al.,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,pp.51-63(1987)、Boerner et al.,J.Immunol.,147:86(1991)、Li et al.,Proc.Natl.Acad.,103:3557-3562(2006)、Ni,Xiandai Mianyixue,26(4):265-268(2006)、Vollmers and Brandlein,Histology and Histopathology,20(3):927-937(2005)、及びVollmers and Brandlein,Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology,27(3):185-91(2005)を参照されたい)。ヒト抗体はまた、ヒト由来ファージディスプレイライブラリーから選択されるFvクローン可変ドメイン配列を単離することによっても生成され得る。次いで、そのような可変ドメイン配列が、所望のヒト定常ドメインと組み合わせられ得る。
本開示のシステム及び方法は、湿潤実験室ステップを必要とせずに、ヒト抗体配列(例えば、ポリペプチド配列)のインシリコの生成を可能にする。
【0055】
ライブラリー導出
本開示の抗体又はそれらの抗原結合断片は、所望の活性を有する抗体について複合ライブラリーをスクリーニングすることによって単離され得る。(例えば、Hoogenboom et al.,Methods in Molecular Biology178:1-37(2001)、McCafferty et al.,Nature348:552-554、Clackson et al.,Nature352:624-628(1991)、Marks et al.,J.Mol.Biol.222:581-597(1992)、Marks and Bradbury,Methods in Molecular Biology248:161-175(2003)、Sidhu et al.,J.Mol.Biol.338(2):299-310(2004)、Lee et al.,J.Mol.Biol.340(5):1073-1093(2004)、Fellouse,Proc.Natl.Acad.Sci.USA101(34):12467-12472(2004)、及びLee et al.,J.Immunol.Methods284(1-2):119-132(2004)を参照されたい)。VH遺伝子とVL遺伝子のレパートリーは、別々にクローニングされ(例えば、PCRによって)、ライブラリー(例えば、ファージライブラリー)内でランダムに組換えられ、スクリーニングされ得る(例えば、Winter et al.,Ann.Rev.Immunol.,12:433-455(1994)を参照されたい)。あるいは、無感作レパートリーが、クローニングされて(例えば、ヒトから)、いかなる免疫化もせずに、広範囲の非自己及びまた自己抗原に対する抗体の単一源を提供し得る(例えば、Griffiths et al.,EMBO J,12:725-734(1993)を参照されたい。あるいは、無感作ライブラリーは、幹細胞から再構成されていないV遺伝子セグメントをクローニングし、ランダムプライマーを使用してCDR3領域をコードするか、又はインビトロでV遺伝子セグメントを再構成することによって、合成的に作製され得る(例えば、Hoogenboom and Winter,J.Mol.Biol.,227:381-388(1992)を参照されたい)。ヒト抗体ライブラリーから単離された抗体又は抗体断片は、本明細書のヒト抗体又はヒト抗体断片とみなされる。
【0056】
多重特異性
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される抗体は、多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位に対する結合特異性を有するモノクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、結合特異性のうちの1つは、がん関連抗原に対するものであり、他方は、任意の他の抗原に対するものである。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、抗原の2つの異なるエピトープに結合し得る。二特異性抗体はまた、細胞傷害性薬剤をがん細胞に局在化するためにも使用され得る。二特異性抗体は、完全長抗体又は抗体断片として調製され得る。
【0057】
多重特異性抗体を作製するための例示的な技術としては、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え共発現、抗体Fcヘテロ二量体分子を作製するための静電的ステアリング効果を操作すること、2つ以上の抗体又は断片を架橋結合すること、ロイシンジッパーを使用して二特異性抗体を産生すること、「二重特異性抗体」技術を使用して二重特異性抗体断片を作製すること、一本鎖Fv(sFv)二量体を使用すること、三重特異性抗体を調製すること、及び「knob-in-hole」操作が挙げられる(例えば、Milstein and Cuello,Nature305:537(1983)、Traunecker et al.,EMBO J.10:3655(1991)、米国特許第4,676,980号及び同第5,731,168号、Brennan et al.,Science,229:81(1985)、Kostelny et al.,J.Immunol.,148(5):1547-1553(1992)、Hollinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444-6448(1993)、Gruber et al.,J.Immunol.,152:5368(1994))、及びTutt et al.J.Immunol.147:60(1991))。3つ以上の機能的抗原結合部位を有する操作された抗体もまた、企図される。
【0058】
バリアント
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される抗体のアミノ酸配列バリアントが企図される。バリアントは、典型的には、1つ以上の置換、欠失、付加、及び/又は挿入において、本明細書に具体的に開示されるポリペプチドとは異なる。そのようなバリアントは、天然由来であってもよく、又は本発明の上記のポリペプチド配列のうちの1つ以上を改変すること、本明細書に説明されるポリペプチドの1つ以上の生物学的活性を評価すること、及び/又は当該技術分野で周知のいくつかの技術のいずれかを使用することによって合成的に生成され得る。例えば、結合親和性を改善することが望ましい場合があり得る、及び/又は抗体の抗体アミノ酸配列バリアントの他の生物学的特性が、抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な改変を導入することによって、若しくはペプチド合成によって調製され得る。そのような改変は、例えば、抗体のアミノ酸配列からの欠失、並びに/又は抗体のアミノ酸配列内の残基への挿入及び/若しくは残基の置換を含む。最終構築物が所望の特性、例えば、抗原結合を保有するという条件で、欠失、挿入、及び置換の任意の組み合わせが、最終構築物に到達するように作製され得る。
【0059】
置換、挿入、及び欠失バリアント
いくつかの実施形態では、1つ以上のアミノ酸置換を有する抗体バリアント又はその抗原結合断片を生成する本開示のシステム及び方法が提供される。置換による変異誘発性の関心対象の部位は、CDR及びFRを含む。アミノ酸置換は、関心対象の抗体、及び所望の活性、例えば、保持/改善された抗原結合、低下した免疫原性、又は改善されたADCC若しくはCDC機能についてスクリーニングされた生成物に導入され得る。
【表1-1】
【表1-2】
【0060】
疎水性アミノ酸は、ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、及びIleを含む。中性親水性アミノ酸は、Cys、Ser、Thr、Asn、及びGlnを含む。酸性アミノ酸は、Asp及びGluを含む。塩基性アミノ酸は、His、Lys、及びArgを含む。鎖の配向に影響する残基を有するアミノ酸は、Gly及びProを含む。芳香族アミノ酸は、Trp、Tyr、及びPheを含む。
【0061】
いくつかの実施形態では、置換、挿入、又は欠失は、1つ以上のCDR内で起こり得、置換、挿入、又は欠失は、抗原への抗体結合を実質的に低減しない。例えば、結合親和性を実質的に低減しない保存的置換が、CDRにおいて行われ得る。そのような変化は、CDRの「ホットスポット」又はSDRの外側であり得る。バリアントVH及びVL配列のいくつかの実施形態では、各CDRは、不変であるか、又は1つ、2つ、若しくは3つ以下のアミノ酸置換を含有する。
【0062】
変化(例えば、置換)は、例えば、抗体親和性を改善するために、CDRで行われ得る。そのような変化は、体細胞成熟中に高い変異率を有するCDRコードコドンで作製され得(例えば、Chowdhury,Methods Mol.Biol.207:179-196(2008)を参照されたい)、結果的に生じるバリアントは、結合親和性について試験され得る。親和性成熟(例えば、エラープローンPCR、鎖シャッフリング、CDRの無作為化、又はオリゴヌクレオチド指定突然変異を使用する)が、抗体親和性を改善するために使用され得る(例えば、Hoogenboom et al.in Methods in Molecular Biology178:1-37(2001)を参照されたい)。抗原結合に関与するCDR残基は、例えば、アラニンスキャニング変異誘発又はモデリングを使用して、特異的に識別され得る(例えば、Cunningham and Wells Science,244:1081-1085(1989)を参照されたい)。特にCDR-H3及びCDR-L3が、多くの場合、標的化される。代替的又は追加的に、抗体と抗原との間の接触点を識別する抗原抗体複合体の結晶構造。そのような接触残基及び隣接残基は、置換の候補として標的化又は排除され得る。バリアントは、それらが所望の特性を含有するか否かを判定するためにスクリーニングされ得る。
【0063】
アミノ酸配列の挿入及び欠失は、1つの残基から100個以上の残基を含有するポリペプチドまでの長さに及ぶアミノ及び/又はカルボキシル末端の融合、並びに単一又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入及び欠失を含む。末端挿入の例としては、N末端メチオニル残基を有する抗体が挙げられる。抗体分子の他の挿入バリアントは、例えば、N末端又はC末端で、抗体の血清半減期を増加させるポリペプチドへの融合を含む。「エピトープタグ付き」という用語は、エピトープタグに融合された抗体を指す。エピトープタグポリペプチドは、それに対する抗体が作製され得るエピトープを提供するのに十分な残基を有するが、抗体の活性と干渉しないように十分に短い。エピトープタグは、好ましくは、それに対する抗体が他のエピトープと実質的に交差反応しないように、十分に固有である。好適なタグポリペプチドは、概して、少なくとも6つのアミノ酸残基、及び、通常、約8~50個のアミノ酸残基(好ましくは、約9~30個の残基)を有する。例としては、インフルエンザHAタグポリペプチド及びその抗体12CA5[Field et al.,Mal.Cell.Biol.8:2159-2165(1988)]、c-mycタグ及びそれらに対する8F9、3C7、6E10、G4、B7、及び9E10抗体[Evan et al.,Mal.Cell.Biol.5(12):3610-3616(1985)]、及びHerpes Simplexウイルス糖タンパク質D(gD)タグ及びその抗体[Paborsky et al.,Protein Engineering3(6):547-553(1990)]が挙げられる。他の例示的なタグは、ポリヒスチジン配列、概して、約6つのヒスチジン残基であり、ニッケルキレート化を使用してそのように標識された化合物の分離を可能にする。当該技術分野で周知であり、常用されているFLAG(登録商標)タグ(Eastman Kodak、Rochester,N.Y.)などの他の標識及びタグが、本発明によって採用される。
【0064】
抗体分子の他の挿入バリアントとしては、抗体の血清半減期を増加させる、酵素(例えば、ADEPTに対する)又はポリペプチドに対する抗体のN又はC末端への融合が挙げられる。抗体分子の配列内挿入バリアントの例としては、軽鎖における3アミノ酸の挿入が挙げられる。末端欠失の例としては、軽鎖の末端に7アミノ酸以下の欠失を有する抗体が挙げられる。
【0065】
Fc領域バリアント
いくつかの実施形態では、1つ以上のアミノ酸改変が、本明細書に提供される抗体のFc領域内に導入され得、それによって、Fc領域バリアントを生成する。本明細書のFc領域は、定常領域の少なくとも一部分を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域である。Fc領域は、天然配列のFc領域及びバリアントのFc領域を含む。Fc領域バリアントは、1つ以上のアミノ酸位置にアミノ酸改変(例えば、置換)を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4 Fc領域)を含み得る。
【0066】
いくつかの実施形態では、本発明は、全部ではないが一部のエフェクター機能を保有する抗体バリアントを企図し、それを、抗体のインビボにおける半減期が重要であるが、特定のエフェクター機能(補体及びADCCなど)が不要又は有害である用途のための望ましい候補にする。CDC及び/又はADCC活性の低減/枯渇を確認するために、インビトロ及び/又はインビボの細胞傷害アッセイが実施され得る。例えば、Fc受容体(FcR)結合アッセイは、抗体がFcγR結合を欠く(したがって、ADCC活性を欠く可能性が高い)が、FcRn結合能力を保持することを確認するために実施され得る。関心対象の分子のADCC活性を評価するためのインビトロのアッセイの非限定的な例は、米国特許第5,500,362号及び同第5,821,337号に説明される。あるいは、非放射性アッセイ方法が採用され得る(例えば、ACTI(商標)及びCytoTox96(登録商標)非放射性細胞傷害アッセイ)。そのようなアッセイのための有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核球(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。代替的又は追加的に、関心対象の分子のADCC活性は、インビボで、例えば、動物モデルで評価され得る(例えば、Clynes et al.Proc.Nat’l Acad.Sci.USA95:652-656(1998)を参照されたい。C1q結合アッセイは、抗体がC1qを結合することができるか、又はできないか、したがって、CDC活性を含有するか、又は欠くかを確認するために実施され得る(Idusogie et al.J.Immunol.164:4178-4184(2000))。補体活性化を評価するために、CDCアッセイが実施され得る(例えば、Gazzano-Santoro et al.,J.Immunol.Methods202:163(1996)、Cragg,M.S.et al.,Blood101:1045-1052(2003)、及びCragg et al.,Blood103:2738-2743(2004)を参照されたい)。FcRn結合及びインビボのクリアランス/半減期の決定はまた、当該技術分野で公知の方法を使用して実施され得る(例えば、Petkova,S.B.et al.,Int’l.Immunol.18(12):1759-1769(2006)を参照されたい)。低減されたエフェクター機能を有する抗体は、アラニンに対する残基265及び297の置換を有するFc変異などの、Fc領域残基238、265、269、270、297、327、及び329のうちの1つ以上、又はアミノ酸位置265、269、270、297、及び327のうちの2つ以上の置換を有するものを含む(例えば、米国特許第6,737,056号及び同第7,332,581号を参照されたい)。改善又は減少したFcRへの結合を有する抗体バリアントも含まれる(例えば、Shields et al.,J.Biol.Chem.9(2):6591-6604(2001)を参照されたい)。いくつかの実施形態では、抗体バリアントは、ADCCを改善する1つ以上のアミノ酸置換、例えば、Fc領域の298位、333位、及び/又は334位の置換を有するFc領域を含む。
【0067】
抗体は、増加した半減期、及び新生児のFc受容体(FcRn)への改善された結合を有し得る。そのような抗体は、FcRnへのFc領域の結合を改善する1つ以上の置換を有するFc領域を含み、Fc領域残基238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424、又は434のうちの1つ以上の置換を有するものを含む。Fc領域バリアントの他の例も企図される(例えば、Duncan&Winter,Nature322:738-40(1988)を参照されたい)。
【0068】
システイン操作された抗体バリアント
いくつかの実施形態では、システイン操作された抗体又はそれらの抗原結合断片、例えば、抗体の1つ以上の残基がシステイン残基で置換されている「thioMAb」を作成することが望ましい場合がある。いくつかの実施形態では、置換された残基は、抗体のアクセス可能な部位で発生する。反応性チオール基は、免疫コンジュゲートを作成するために、薬物部分又はリンカー-薬物部分などの、他の部分へのコンジュゲーションのための部位に位置付けられ得る。いくつかの実施形態では、以下の残基のうちのいずれか1つ以上が、システインで置換され得る:軽鎖のV205(Kabatナンバリング)、重鎖のA118(EUナンバリング)、及び重鎖Fc領域のS400(EUナンバリング)。システイン操作された抗体は、説明されるように生成され得る。
【0069】
二重特異性抗体
いくつかの実施形態では、少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有するモノクローナル、ヒト、ヒト化、又はバリアント抗体を含む、多重特異性(例えば、二重特異性)モノクローナル抗体を生成することが望ましい場合がある。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される抗体は、多重特異性である。例示的な二重特異性抗体は、抗原(例えば、がん関連抗原)の2つの異なるエピトープに結合し得る。あるいは、抗原結合領域は、細胞防御機構を抗原発現細胞に集束させるために、T細胞受容体分子(例えば、CD2又はCD3)などの白血球上のトリガー分子、又はFcyRI(CD64)、FcyRII(CD32)、及びFcyRIII(CD16)などのIgG(FcyR)に対するFe受容体に結合する領域と組み合わせられ得る。二重特異性抗体はまた、所望の抗原を発現する細胞に細胞傷害性薬剤を局在化するためにも使用され得る。これらの抗体は、抗原結合アーム及び細胞傷害性薬剤(例えば、サポリン、抗インターフェロン-60、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキサート、又は放射性同位体ハプテン)に結合するアームを保有する。二重特異性抗体は、完全長抗体又は抗体断片(例えば、F(ab’)2二重特異性抗体)として調製され得る。
【0070】
二重特異性抗体を作製するための別のアプローチによると、一対の抗体分子の間の界面が、組換え細胞培養から回収されるヘテロ二量体のパーセンテージを最大化するように操作され得る。好ましい界面は、抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、第1の抗体分子の界面からの1つ以上の小さいアミノ酸側鎖が、より大きい側鎖(例えば、チロシン又はトリプトファン)で置換される。大きい側鎖と同一又は同様のサイズの代償性「キャビティ」は、大きいアミノ酸側鎖をより小さい鎖(例えば、アラニン又はスレオニン)で置換することによって、第2の抗体分子の界面上に作成される。これは、ホモ二量体などの他の望ましくない最終生成物よりもヘテロ二量体の収率を増加させる機構を提供する。
【0071】
二重特異性抗体は、架橋結合又は「ヘテロコンジュゲート」抗体を含む。例えば、ヘテロコンジュゲート内の抗体の一方は、アビジンに結合され、他方は、ビオチンに結合され得る。ヘテロコンジュゲート抗体は、任意の簡便な架橋結合方法を使用して作製され得る。好適な架橋結合剤が、いくつかの架橋結合技術とともに、企図されている。
【0072】
モノクローナル抗体
いくつかの実施形態では、本開示の抗体は、モノクローナルである。モノクローナル抗体は、Kohler et al.,Nature,256:495(1975)によって最初に説明されたハイブリドーマ方法を使用して作製され得るか、又は組換えDNA方法によって作製され得る。
【0073】
操作及び改変された抗体
本発明の少なくともいくつかの実施形態による抗体は、本明細書に開示される、抗体又はその抗原結合断片に由来するVH及び/又はVL配列のうちの1つ以上を有する抗体、改変された抗体を操作するための出発物質を使用して調製され得、改変された抗体は、出発抗体から変化した特性を有し得る。本明細書に開示される抗体のVH及びVL鎖領域の完全に再構築されたアミノ酸及び核酸コンセンサス配列が本明細書に提供される。また、本明細書に説明される抗体のVH及びVLのCDR3領域のアミノ酸配列及び核酸配列も本明細書に提供される。抗体は、一方又は両方の可変領域(例えば、VH及び/又はVL)、例えば、1つ以上のCDR領域内及び/又は1つ以上のフレームワーク領域内で、1つ以上の残基を改変することによって操作され得る。追加的又は代替的に、抗体は、例えば、抗体のエフェクター機能を変化させるために、定常領域内の残基を改変することによって操作され得る。
【0074】
実施され得る可変領域操作の1つのタイプは、CDRグラフティングである。抗体は、主に6つの重鎖及び軽鎖の相補性決定領域(CDR)に位置するアミノ酸残基を通じて、標的抗原と相互作用する。このため、CDR内のアミノ酸配列は、CDRの外側の配列よりも個々の抗体間でより多様である。CDR配列が、ほとんどの抗体-抗原相互作用に関与するため、異なる特性を有する異なる抗体からフレームワーク配列上に移植された特異性抗体(例えば、本明細書に開示される抗体)からのCDR配列を含む表現ベクターを構築することによって、特異性抗体の特性を模倣する組換え抗体を発現することができる(例えば、Riechmann,L.et al.(1998)Nature332:323-327、Jones,P.et al.(1986)Nature321:522-525、Queen,C.et al.(1989)Proc.Natl.Acad.See.U.S.A.86:10029-10033、Winterに対する米国特許第5,225,539号、Queen et al.に対する米国特許第5,530,101号、同第5,585,089号、同第5,693,762号、及び同第6,180,370号を参照されたい)。
【0075】
好適なフレームワーク配列は、公開DNAデータベース、又は生殖系列の抗体遺伝子配列を含む公開された参考文献から取得され得る。例えば、ヒト重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子のための生殖系列のDNA配列は、ヒト生殖系列の配列データベース「VBase」(インターネット上で入手可能)、及びKabatで見つかり得、E.A.,et al.(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242、Tomlinson,I.M.,et al.(1992)“The Repertoire of Human Germline VH Sequences Reveals about Fifty Groups of VH Segments with Different Hypervariable Loops”J.Mol.Biol.227:776-798、及びCox,J.P.L.et al.(1994)“A Directory of Human Germ-line VH Segments Reveal a Strong Bias in their Usage”Eur.J.Immunol.24:827-836は、それらの各々の内容が、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0076】
可変領域改変の別のタイプは、VH及び/又はVL CDR1、CDR2、及び/又はCDR3領域内のアミノ酸残基を突然変異させ、それによって、関心対象の抗体の1つ以上の結合特性(例えば、親和性)を改善することである。部位特異的変異誘発又はPCR介在性変異誘発が、突然変異を導入するために実施され得、抗体結合に対する影響、又は関心対象の他の機能的特性が、適切なインビトロ又はインビボアッセイで評価され得る。好ましくは、保存的改変(上記に論じられたように)が導入される。突然変異は、アミノ酸置換、付加、又は欠失であってもよいが、好ましくは置換である。更に、典型的には、CDR領域内の1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つ以下の残基が変化する。
【0077】
本発明の少なくともいくつかの実施形態による操作された抗体は、例えば、抗体の特性を改善するために、VH及び/又はVL内でフレームワーク残基に改変が行われている抗体を含む。典型的には、そのようなフレームワーク改変が、抗体の免疫原性を減少させるために行われる。例えば、1つのアプローチは、1つ以上のフレームワーク残基を対応する生殖系列の配列に「逆突然変異」することである。より具体的には、体細胞突然変異を受けた抗体は、抗体が由来する生殖系列の配列とは異なるフレームワーク残基を含有し得る。そのような残基は、抗体フレームワーク配列を、抗体が由来する生殖系列の配列と比較することによって識別され得る。
【0078】
フレームワーク又はCDR領域内で行われる改変に加えて、又はそれに代えて、本開示の少なくともいくつかの実施形態による抗体は、典型的には、血清半減期、補体固定、Fc受容体結合、及び/又は抗原依存性細胞傷害などの、抗体の1つ以上の機能的特性を変化させるために、Fc領域内に改変を含むように操作され得る。更に、本発明の少なくともいくつかの実施形態による抗体は、化学的に改変されるか(例えば、1つ以上の化学的部分が抗体に結合され得る)、又はそのグリコシル化を変化させて、抗体の1つ以上の機能的特性を再び変化させるように改変され得る。そのような実施形態は、上記に説明されている。Fc領域の残基のナンバリングは、KabatのEUインデックスのものである。
【0079】
一実施形態では、CH1のヒンジ領域は、ヒンジ領域内のシステイン残基の数が変化する、例えば、増加又は減少するように改変される。このアプローチは、Bodmerらによる米国特許第5,677,425号に更に説明されている。CH1のヒンジ領域内のシステイン残基の数は、例えば、軽鎖及び重鎖のアセンブリを容易にするか、又は抗体の安定性を増加若しくは減少させるために変化させられる。別の実施形態では、抗体のFcヒンジ領域は、抗体の生物学的半減期を減少させるように突然変異させられる。より具体的には、1つ以上のアミノ酸突然変異は、抗体が、スタフィロコシルタンパク質A(SpA)結合を天然のFc-ヒンジドメインSpA結合に対して損なっているように、Fc-ヒンジ断片のCH2-CH3ドメイン界面領域内に導入される。このアプローチは、Wardらによる米国特許第6,165,745号に更に詳細に説明されている。
【0080】
別の実施形態では、抗体は、その生物学的半減期を増加させるように改変される。様々なアプローチが可能である。例えば、生物学的半減期を増加させるために、抗体は、Prestaらによる米国特許第5,869,046号及び同第6,121,022号に説明されるように、IgGのFc領域のCH2ドメインの2つのループから得られるサルベージ受容体結合エピトープを含有するように、CH1又はCL内で変化させられ得る。
【0081】
更に他の実施形態では、Fc領域は、少なくとも1つのアミノ酸残基を異なるアミノ酸残基で置換して、抗体のエフェクター機能を変化させることによって変化させられる。別の例では、1つ以上のアミノ酸は、抗体がClq結合を変化させる、及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)を低減若しくは無効化するように、異なるアミノ酸残基で置換され得る。このアプローチは、Idusogieらによる米国特許第6,194,551号に更に詳細に説明されている。別の例では、1つ以上のアミノ酸残基が変化させられ、それによって、補体を固定する抗体の能力を変化させる。このアプローチは、BodmerらによるPCT公開第94/29351号に更に説明されている。
【0082】
更に別の例では、Fc領域は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を媒介する、及び/又は1つ以上のアミノ酸を改変することによって、Fcy受容体に対する抗体の親和性を増加させる、抗体の能力を増加させるように改変される。このアプローチは、PrestaによるPCT公開第00/42072号に更に説明されている。更に、FcガンマRI、FcガンマRII、FcガンマRIII、及びFcRnに対するヒトIgG1上の結合部位がマッピングされており、改善された結合を有するバリアントが説明されている(Shields,R.L.et al.(2001)J.Biol.Chem.276:6591-6604を参照されたい)。位置における特異的突然変異は、FcγRIIIへの結合を改善することが示されている。更に、FcRnへの結合を改善し、抗体循環半減期を増加させ得るような特異的突然変異(Chan CA and Carter PJ(2010)Nature Rev Immunol10:301-316を参照されたい)。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される抗体の定常領域は、IGHG1で置換される。
【0083】
更に別の実施形態では、抗体のグリコシル化が改変される。例えば、脱グリコシル化された抗体が作製され得る(例えば、抗体は、グリコシル化を欠く)。グリコシル化は、例えば、抗原に対する抗体の親和性を増加させるように変化させられ得る。そのような炭水化物改変は、例えば、抗体配列内のグリコシル化の1つ以上の部位を変化させることによって、達成され得る。例えば、1つ以上の可変領域フレームワークグリコシル化部位の排除を結果的にもたらし、それによって、その部位におけるグリコシル化を排除する、1つ以上のアミノ酸置換が行われ得る。そのような脱グリコシル化は、抗原に対する抗体の親和性を増加させ得る。そのようなアプローチは、Coらによる米国特許第5,714,350号及び同第6,350,861号に更に詳細に説明されている。保存的置換は、アミノ酸をそのクラスの別のメンバーで置換することを伴う。非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーを別のクラスのメンバーで置換することを伴う。
【0084】
モノクローナル、ヒト、ヒト化、又はバリアント抗体の適切な立体構造を維持する際に関与しない任意のシステイン残基もまた、分子の酸化安定性を改善し、異常な架橋結合を防止するために、概して、セリンで置換され得る。逆に、システイン結合が、抗体の安定性を改善するために抗体に付加され得る(特に、抗体がFv断片などの抗体断片である場合)。
【0085】
抗体の他の改変が企図される。例えば、がんの治療における抗体の有効性を高めるために、例えば、エフェクター機能に関して本発明の抗体を改変することが望ましい場合がある。例えば、システイン残基が、Fe領域に導入され、それによって、この領域に鎖間ジスルフィド結合形成を可能にする。このように生成されたホモ二量体抗体は、改善された内部移行能力、並びに/又は増加した補体介在性細胞死滅及び抗体依存性細胞傷害(ADCC)を有し得る。Caron et al.,J.Exp Med.176:1191-1195(1992)及びShapes,B.J.Immunol.148:2918-2922(1992)を参照されたい。増強された抗腫瘍活性を有するホモ二量体抗体はまた、Wolff et al.,Cancer Research53:2560-2565(1993)に説明されるように、ヘテロ官能性架橋剤を使用して調製され得る。あるいは、二重のFe領域を有する抗体が、操作され得、それによって、増強された補体溶解及びADCC能力を有し得る。Stevenson et al.,Anti-Cancer Drug Design3:219-230(1989)を参照されたい。加えて、CDR内の配列が、抗体をMHCクラスIIに結合させ、望ましくないヘルパーT細胞応答をトリガーさせ得ることが示されている。保存的置換は、抗体が結合活性を保持しつつ、望ましくないT細胞応答をトリガーするその能力を失うことを可能にし得る。また、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、マウス可変領域がヒトガンマ1、ガンマ2、ガンマ3、及びガンマ4定常領域と接合されたキメラ抗体を説明した、Steplewski et al.,Proc Natl Acad Sci USA.1988;85(13):4852-6も参照されたい。
【0086】
本発明の特定の実施形態では、例えば、腫瘍湿潤を増加させるために、無傷の抗体ではなく、抗体断片を使用することが望ましい場合がある。この場合、抗体断片を、その血清半減期を増加させるために、例えば、PEG、又は多糖類ポリマーを含む他の水溶性ポリマーなどの分子を抗体断片に添加して半減期を増加させるために、改変することが望ましい場合がある。これはまた、例えば、抗体断片内へのサルベージ受容体結合エピトープの組み込みによって達成され得る(例えば、抗体断片中の適切な領域の突然変異によって、又はエピトープをペプチドタグに組み込み、次いで、末端又は中央のいずれかで、例えば、DNA又はペプチド合成によって、抗体断片に融合させることによって)(例えば、W096/32478を参照されたい)。
【0087】
サルベージ受容体結合エピトープは、好ましくは、Feドメインの1つ又は2つのループからの任意の1つ以上のアミノ酸残基が、抗体断片の類似位置に移される領域を構成する。更により好ましくは、Feドメインの1つ又は2つのループからの3つ以上の残基が移される。なおより好ましくは、エピトープは、Fe領域(例えば、igGの)のCH2ドメインから取得され、抗体のCHI、CH3、若しくはVH領域、又は2つ以上のそのような領域に移される。あるいは、エピトープは、Fe領域のCH2ドメインから取得され、抗体断片のCL領域若しくはVL領域、又はその両方に移される。また、Feバリアント、及びサルベージ受容体とのそれらの相互作用を説明する国際出願第97/34631号及び同第96/32478号も参照されたい。
【0088】
したがって、本発明の抗体は、ヒトFe部分、ヒトコンセンサスFe部分、又はFeサルベージ受容体と相互作用する能力を保持するそのバリアントを含み得、ジスルフィド結合に関与したシステインが改変又は除去される、並びに/又はメチオニンがN末端に付加される、及び/若しくはN末端20アミノ酸のうちの1つ以上が除去される、及び/若しくはCl q結合部位などの、補体と相互作用する領域が除去される、及び/若しくはADCC部位が除去される、バリアントを含む[例えば、Malec.Immunol.29(5):633-9(1992)を参照されたい]。
【0089】
過去の研究では、FcRに対するヒト及びマウスIgG上の結合部位を、主に、lgG残基233~239から構成される、より下位のヒンジ領域にマッピングした。他の研究は、追加の広範なセグメント、例えば、ヒトFe受容体IのGly316~Lys338、ヒトFe受容体IIIのLys274~Arg301及びTyr407~Arg416を提案したか、又はより下位のヒンジの外側の少数の特定の残基、例えば、マウスFe受容体IIと相互作用するマウスIgG2bのAsn297及びGlu318を見出した。ヒトFe受容体IIIAを有するヒトIgG Fe断片の3.2-A結晶構造のレポートは、Fee受容体IIIAに結合する際に関与したとして、IgGl残基Leu234~Ser239、Asp265~Glu269、Asn297~Thr299、及びAla327~Ile332を明示した。結晶構造に基づいて、より下位のヒンジ(Leu234~Gly237)に加えて、IgG CH2ドメインループFG(残基326~330)及びBC(残基265~271)内の残基が、Fe受容体IIAへの結合における役割を果たし得ることが示唆されている。参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Shields et al.,J.Biol.Chem.,276(9):6591-6604(2001)を参照されたい。Fe受容体結合部位内の残基の突然変異は、変化したADCC活性若しくはCDC活性、又は変化した半減期などの、変化したエフェクター機能を結果的にもたらし得る。上記に説明されたように、潜在的な突然変異としては、アラニンとの置換、保存的置換、非保存的置換、又は異なるIgGサブクラスからの同じ位置における対応するアミノ酸残基との置換(例えば、その位置における対応するIgG2残基とIgGl残基を置換する)を含む、1つ以上の残基の挿入、欠失、又は置換が挙げられる。
【0090】
Shieldsらは、全てのヒトFe受容体への結合に関与するIgGl残基が、ヒンジの近位のCH2ドメインに位置し、以下の2つのカテゴリーに収まることを報告した、1)全てのFcRと直接相互作用し得る位置が、Leu234~Pro238、Ala327、及びPro329(及び場合によりAsp265)を含む、2)炭水化物の性質又は位置に影響する位置が、Asp265及びAsn297を含む。Fe受容体IIへの結合に影響した追加のIgG1残基は、(最大の効果)Arg255、Thr256、Glu258、Ser267、Asp270、Glu272、Asp280、Arg292、Ser298、並びに(より少ない効果)His268、Asn276、His285、Asn286、Lys290、Gln295、Arg301、Thr307、Leu309、Asn315、Lys322、Lys326、Pro331、Ser337、Ala339、Ala378、及びLys414である。A327Q、A327S、P329A、D265A、及びD270Aは、結合を低減させた。全てのFcRについて上記で識別された残基に加えて、Fe受容体IIIAへの結合を40%以上低減させた追加のIgG1残基は、Ser239、Ser267(Glyのみ)、His268、Glu293、Gln295、Tyr296、Arg301、Va1303、Lys338、及びAsp376である。FcRIIIAへの結合を改善したバリアントとしては、T256A、K290A、S298A、E333A、K334A、及びA339Tが挙げられる。
【0091】
Lys414は、FcRIIA及びFcRIIBに対する結合の40%の低減を示し、Arg416は、FcRIIA及びFcRIIIAに対する30%の低減、Gln419は、FcRIIAに対する30%の低減、及びFcRIIBに対する40%の低減、Lys360は、FcRIIIAに対する23%の改善を示した。Presta et al.,Biochem.Soc.Trans.(2001)30,487-490を参照されたい。
【0092】
例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,194,551号は、アミノ酸位置329、331、又は322(Kabatナンバリングを使用)で、ヒトIgG Fe領域に突然変異を含有する変化したエフェクター機能を有するバリアントを説明しており、それらの一部は、低減されたClq結合又はCDC活性を提示する。別の例として、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,737,056号は、アミノ酸位置238、239、248、249、252、254、255、256、258、265、267、268、269、270、272、276、278、280、283、285、286、289、290、292、294、295、296、298、301、303、305、307、309、312、315、320、322、324、326、327、329、330、331、333、334、335、337、338、340、360、373、376、378、382、388、389、398、414、416、419、430、434、435、437、438、又は439(Kabatナンバリングを使用)で、ヒトIgG Fe領域内の変異を含有する変化したエフェクター又はFeガンマ受容体結合を有するバリアントを説明しており、それらの一部は、低減されたADCC又はCDC活性と関連付けられた受容体結合プロファイルを提示する。これらのうち、アミノ酸位置238、265、269、270、327、又は329における突然変異は、FcRIへの結合を低減するように記載されており、アミノ酸位置238、265、269、270、292、294、295、298、303、324、327、329、333、335、338、373、376、414、416、419、435、438、又は439における突然変異は、FcRIIへの結合を低減するように記載されており、アミノ酸位置238、239、248、249、252、254、265、268、269、270、272、278、289、293、294、295、296、301、303、322、327、329、338、340、373、376、382、388、389、416、434、435、又は437における突然変異は、FcRIIIへの結合を低減するように記載されている。
【0093】
参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第5,624,821号は、マウス抗体のClq結合活性が、重鎖のアミノ酸残基318、320、又は322を突然変異させることによって変化され得、残基297(Asn)を置換することが、溶解活性が除去を結果的にもたらすことを報告している。
【0094】
参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2004/0132101号は、アミノ酸位置240、24 245、247、262、263、266、299、313、325、328、若しくは332(Kabatナンバリングを使用)又は位置234、235、239、240、241、243、244、245、247、262、263、264、265、266、267、269、296、297、298、299、313、325、327、328、329、330、若しくは332(Kabatナンバリングを使用)における突然変異を有するバリアントを説明しており、そのうち、位置234、235、239、240、241、243、244、245、247、262、263、264、265、266、267、269、296、297、298、299、313、325、327、328、329、330、又は332における変異は、ADCC活性を低減するか、又はFeガンマ受容体への結合を低減し得る。
【0095】
参照によりその全体が本明細書に組み込まれるChappel et al.,Proc Natl Acad Sci USA.1991;88(20):9036-40は、IgG1の細胞親和性活性が、その重鎖CH2ドメインの固有特性であることを報告している。IgGlのアミノ酸残基234~237のいずれかにおける単一点突然変異は、その活性を有意に低下又は無効化した。IgG2及びIgG4へのlgGl残基234~237(LLGG)の全ての置換が、完全な結合活性を回復させるために必要であった。ELLGGP配列全体(残基233~238)を含有するIgG2抗体は、野生型IgGlよりも活性が高いことが観察された。
【0096】
参照によりその全体が本明細書に組み込まれるIsaacs et al.,J Immunol.1998;161(8):3862-9は、FeガンマR結合に重要なモチーフ内の突然変異(グルタミン酸233からプラリン、ロイシン/フェニルアラニン234からバリン、及びロイシン235からアラニン)が標的細胞の枯渇を完全に防止したことを報告している。グルタミン318からアラニンへの突然変異は、マウスIgG2bのエフェクター機能を排除し、ヒトIgG4の効力も低減した。
【0097】
参照によりその全体が本明細書に組み込まれるArmour et al.,Mol Immunol.2003;40(9):585-93は、活性化受容体であるFcgammaRIIaと反応するIgG1バリアントを識別し、野生型IgGlよりも少なくとも10倍低効率であるが、その阻害性受容体であるFcgammaRIIbへの結合は、4倍だけ低減される。突然変異は、アミノ酸233~236の領域、及び/又はアミノ酸位置327、330、及び331で行われた。参照によりその全体が本明細書に組み込まれるWO99/58572を参照されたい。参照によりその全体が本明細書に組み込まれるXu et al.,J Biol Chem.1994;269(5):3469-74は、IgGl Pro331をSerに突然変異させることが、Clq結合を著しく減少させ、溶解活性を実質的に排除したことを報告している。対照的に、IgG4中のSer331に対するProの置換は、IgG4 Pro331バリアントへの部分溶解活性(40%)を付与した。
【0098】
参照によりその全体が本明細書に組み込まれるSchuurman et al.,Mol Immunol.2001;38(1):1-8は、重鎖間結合形成に関与するヒンジシステインの1つであるCys226をセリンに突然変異させることが、より安定した重鎖間結合を結果的にもたらすと報告している。IgG4ヒンジ配列Cys-Pro-Ser-CysをIgGlヒンジ配列Cys-Pro-Pro-Cysに突然変異させることはまた、重鎖間の共有結合相互作用も顕著に安定化する。参照によりその全体が本明細書に組み込まれるAngal et al.,Mol Immunol.1993;30(1):105-8は、IgG4のアミノ酸位置241でセリンをプラリン(IgGl及びIgG2のその位置に見つかる)に突然変異させることが、均質な抗体の産生につながるとともに、血清半減期を延長し、元のキメラIgG4と比較して組織分布を改善することを報告している。
【0099】
親和性成熟は、親抗体のCDR内の置換を有する抗体バリアントを調製及びスクリーニングすること、並びに親抗体に対する結合親和性などの改善された生物学的特性を有するバリアントを選択することを伴う。そのような置換バリアントを生成する簡便な方式は、ファージディスプレイを使用した親和性成熟である。簡潔に述べると、いくつかの超可変領域部位(例えば、6~7部位)を突然変異させて、各部位で全ての可能性のあるアミノ置換を生成する。したがって、生成された抗体バリアントは、各粒子内にパッケージングされたM13の遺伝子III生成物への融合として、フィラメント状ファージ粒子から一価の様式で提示される。次いで、ファージディスプレイされたバリアントが、それらの生物学的活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングされる。
【0100】
抗原結合に有意に寄与する超可変領域残基を識別するために、アラニンスキャニング変異誘発が実施され得る。代替的又は追加的に、抗体と抗原との間の接触点を識別するために、抗原抗体複合体の結晶構造を分析することが有益であり得る。そのような接触残基及び隣接残基は、本明細書に詳述される技術による置換の候補である。そのようなバリアントが生成されると、本明細書に説明されるようにバリアントのパネルがスクリーニングに供され、1つ以上の関連するアッセイにおける優れた特性を有する抗体が、更なる開発のために選択され得る。
【0101】
抗体を操作する方法
上述のように、本明細書に開示されるVH及びVL配列を有する抗体は、それぞれ、VH及び/若しくはVL配列、又はそれらに結合された定常領域を改変することによって、新しい抗体を作成するために使用され得る。したがって、本開示の少なくともいくつかの実施形態による別の態様では、本開示の少なくともいくつかの実施形態による本明細書に開示される抗体の構造的特徴は、それぞれ、ヒトがん細胞抗原への結合などの、本明細書の開示の少なくともいくつかの実施形態による親抗体の少なくとも1つの機能的特性を保持する構造的に関連する抗体を作成するために使用される。例えば、本明細書に開示される1つの抗体の1つ以上のCDR領域、又はそれらの突然変異は、上述のように、本開示の少なくともいくつかの実施形態による、追加の組換え操作された抗体を作成するために、既知のフレームワーク領域及び/又は他のCDRと組換え的に組み合わせられ得る。他のタイプの改変は、前のセクションで説明されたものを含む。操作方法の出発物質は、本明細書に提供されるVH及び/若しくはVL配列のうちの1つ以上、又はそれらの1つ以上のCDR領域、又は本明細書に提供されるCDR3領域配列のうちの1つ以上である。操作された抗体を作成するために、本明細書に提供されるVH及び/若しくはVL配列のうちの1つ以上、又はそれらの1つ以上のCDR領域を有する抗体を実際に調製する(例えば、タンパク質として発現する)必要はない。むしろ、配列に含まれる情報は、元の配列に由来する「第2世代」配列を作成するための出発物質として使用され、次いで、「第2世代」配列は、タンパク質として調製及び発現される。
【0102】
標準的な分子生物学技術が、変化した抗体配列を調製及び発現するために使用され得る。好ましくは、変化した抗体配列によってコードされる抗体は、それぞれ、本明細書に提供される方法及び配列によって産生される、本明細書に開示された抗体の機能的特性のうちの1つ、一部、又は全部を保持する抗体であり、機能的特性は、特定のKDレベル以下のがん細胞抗原に結合すること、及び/又は免疫刺激を調節すること、及び/又は、例えば、がん関連抗原を発現するなどの所望の標的細胞に選択的に結合することを含む。
【0103】
変化した抗体の機能的特性は、当該技術分野で利用可能な、及び/又は本明細書に説明される標準的なアッセイを使用して評価され得る。いくつかの実施形態では、突然変異は、本明細書に開示される抗体コード配列の全部若しくは一部に沿って無作為に、若しくは選択的に導入され得、結果的に得られる改変された抗体は、結合活性及び/又は他の所望の機能的特性についてスクリーニングされ得る。突然変異方法は、当該技術分野で説明されてきた。例えば、ShortらによるPCT公開第02/092780号は、飽和変異誘発、合成ライゲーションアセンブリ、又はそれらの組み合わせを使用して抗体突然変異を作成及びスクリーニングするための方法を説明している。あるいは、LazarらによるPCT公開第03/074679号は、抗体の物理化学的特性を最適化するために計算スクリーニング方法を使用する方法を説明している。
【0104】
種選択性及び種交差反応性
本開示の特定の実施形態によると、抗体又はそれらの抗原結合断片は、ヒトがん抗原に結合することができるが、他の種からのがん抗原には結合することができない。あるいは、特定の実施形態では、抗体又はそれらの抗原結合断片は、ヒトがん抗原、及び1つ以上の非ヒト種由来のがん抗原に結合する。例えば、抗体又はそれらの抗原結合断片は、ヒトがん抗原に結合することができ、また場合によって、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、スナネズミ、ブタ、ネコ、イヌ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル、又はチンパンジーがん抗原のうちの1つ以上に結合することができるか、又は結合することができない。
【0105】
核酸分子コード抗体
本開示の別の態様は、本明細書に説明される抗体ポリペプチド又はその抗原結合断片をコードする、再構築されたコンセンサス核酸配列を含む核酸分子に関する。本開示の少なくともいくつかの実施形態による核酸は、標準的な分子生物学技術を使用して取得され得る。ハイブリドーマによって発現される抗体(例えば、以下に更に説明されるヒト免疫グロブリン遺伝子を担持する遺伝子組換えマウスから調製されたハイブリドーマ)について、ハイブリドーマによって作製された抗体の軽鎖及び重鎖をコードするcDNAは、標準的なPCR増幅又はcDNAクローニング技術によって取得され得る。免疫グロブリン遺伝子ライブラリーから取得された抗体(例えば、ファージディスプレイ技術を使用して)について、抗体をコードする核酸は、ライブラリーから回収され得る。
【0106】
標的抗原の識別
スクリーニング方法
抗体は、当該技術分野で公知の方法によって結合親和性についてスクリーニングされ得る。例えば、ゲルシフトアッセイ、ウェスタンブロット、放射性標識された競合アッセイ、クロマトグラフィーによる共分画、共沈殿、架橋結合、ELISAなどが使用され得、これらは、例えば、Current Protocols in Molecular Biology(1999)John Wiley&Sons,NYに説明されており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0107】
抗原(例えば、がん関連抗原)上の所望のエピトープに結合する抗体を最初にスクリーニングするために、Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Ed Harlow and David Lane(1988)に説明されるものなどの通例のクロスブロッキングアッセイが実施され得る。未知の抗体が、本発明の抗原特異的抗体への抗原の結合を阻害するその能力によって特徴付けられる、通例の競合結合アッセイも使用され得る。無傷の抗原、その断片、又は線状エピトープが使用され得る。エピトープマッピングは、Champe et al.,J.Biol.Chem.270:1388-1394(1995)に説明されている。
【0108】
本明細書に説明される抗体又はそれらの抗原結合断片はまた、がんの予防又は治療にも有用であり得る。がん転移の予防又は治療における候補抗体又はその抗原結合断片の有効性は、Filderman et al.,Cancer Res52:36616,1992に説明されるヒト羊膜基底膜侵襲モデルを使用してスクリーニングされ得る。加えて、様々なタイプのがんの転移についての動物モデルシステムのいずれかも使用され得る。そのようなモデルシステムとしては、限定されるものではないが、Wenger et al.,Clin.Exp.Metastasis19:169 73,2002、Yi et al.,Cancer Res.62:917 23,2002、Tsutsumi et al.,Cancer Lett169:77-85,2001、Tsingotjidou et al.,Anticancer Res.21:971 8,2001、Wakabayashi et al.,Oncology59:75 80,2000、Culp and Kogerman,Front Biosci.3:D672 83,1998、Runge et al.,Invest Radiol.32:212 7、Shioda et al.,J.Surg.Oneal.64:122 6,1997、Ma et al.,Invest Ophthalmol Vis Sci.37:2293 301,1996、Kuruppu et al.,J Gastroenterol Hepatol.11:26 32,1996に説明されるものが挙げられる。有効な抗体の存在下で、がん転移は、予防されるか、又は阻害されて、より少ない及び/若しくはより小さい転移を結果的にもたらし得る。
【0109】
特定の抗体、又は抗体の組み合わせ、又はそれらの断片の抗腫瘍活性は、好適な動物モデルを使用してインビボで評価され得る。例えば、ヒトリンパ腫細胞が、ヌード又はSCIDマウスなどの免疫不全状態の動物に導入される、異種間リンパ腫がんモデル。有効性は、腫瘍形成、腫瘍退縮、又は転移などの阻害を測定するアッセイを使用して予測され得る。
【0110】
インビトロアッセイの1つの変形例において、本開示は、(a)固定化抗原を候補抗体と接触させるステップと、(b)抗原への候補抗体の結合を検出するステップと、を含む、方法を提供する。代替的な実施形態では、候補抗体が固定化され、抗原の結合が検出される。固定化は、支持体、ビーズ、又はクロマトグラフィー樹脂への共有結合、及び抗体結合などの非共有結合の高親和性相互作用、又は固定化化合物がビオチン部分を含むストレプトアビジン/ビオチン結合の使用を含む、当該技術分野で周知の方法のいずれかを使用して達成される。結合の検出は、(i)固定化されていない化合物上の放射性標識を使用して、(ii)非固定化化合物上の蛍光標識を使用して、(iii)非固定化化合物に抗体免疫特異性を使用して、(iv)固定化化合物が結合される蛍光支持体を励起する非固定化化合物上の標識を使用して、並びに当該技術分野で周知かつ通例的に実施される他の技術を使用して、達成され得る。
【0111】
所望される標的の活性又は発現を調節する(例えば、増加、減少、又は遮断する)抗体は、所望される標的を発現する細胞で推定モジュレーターをインキュベートし、標的の活性又は発現に対する推定上のモジュレーターの効果を決定することによって識別され得る。標的ポリペプチド又はポリヌクレオチドの活性を調節する抗体の選択性は、標的ポリペプチド又はポリヌクレオチドに対するその効果を、他の関連化合物に対するその効果と比較することによって評価され得る。選択的モジュレーターは、例えば、標的ポリペプチド、又は標的ポリペプチドをコードする核酸に特異的に結合する、抗体及び他のタンパク質、ペプチド、又は有機分子を含み得る。標的活性のモジュレーターは、標的ポリペプチドの正常又は異常な活性が関与する疾患及び生理学的状態の治療において治療的に有用である。標的は、例えば、限定されるものではないが、がん関連抗原であり得る。
【0112】
本発明はまた、抗原の生物学的活性と相互作用するか、又はそれを阻害する(例えば、酵素活性、結合活性などを阻害する)抗体を識別するために、ハイスループットスクリーニング(HTS)アッセイを包含する。HTSアッセイは、効率的な様式で多数の化合物のスクリーニングを可能にする。細胞ベースのHTS系が、抗体とそれらの標的抗原及びそれらの結合パートナーとの間の相互作用を調査するために企図される。HTSアッセイは、所望の特性を有する「ヒット」又は「リード化合物」を識別するように設計され、そこから所望の特性を改善するために改変が設計され得る。「ヒット」又は「リード化合物」の化学的改変は、多くの場合、「ヒット」抗原と標的抗原との間の識別可能な構造/活性関係に基づく。
【0113】
本発明の別の態様は、標的抗原の活性を調節する(例えば、減少させる)抗体を識別する方法を対象とし、方法は、標的抗原を抗体と接触させることと、抗体が抗原の活性を改変するか否かを判定することと、を含む。試験抗体の存在下における活性が、試験抗体の非存在下における活性と比較される。試験抗体を含有する試料の活性が、試験抗体を欠く試料の活性よりも低い場合、抗体は、阻害された活性を有することになる。
【0114】
当業者に周知の組換えポリペプチドの機能的発現には、様々な異種系が利用可能である。そのような系としては、細菌(Strosberg,et al.,Trends in Pharmacological Sciences(1992)13:95-98)、酵母(Pausch,Trends in Biotechnology(1997)15:487-494)、数種類の昆虫細胞(Vanden Broeck,Int.Rev.Cytology(1996)164:189-268)、両生類細胞(Jayawickreme et al.,Current Opinion in Biotechnology(1997)8:629-634)、及びいくつかの哺乳動物細胞株(CHO、HEK293、COSなど、Gerhardt,et al.,Eur.J.Pharmacology(1997)334:1-23を参照されたい)が挙げられる。これらの例は、線虫から取得された細胞株を含む、他の可能性のある細胞発現系の使用を妨げない(PCT出願第98/37177号)。
【0115】
本発明の一実施形態では、標的抗原の活性を調節する抗体のスクリーニング方法は、抗体を標的抗原ポリペプチドと接触させることと、抗体と標的抗原との間の複合体の存在を検定することと、を含む。そのようなアッセイでは、リガンドが典型的に標識される。好適なインキュベーション後、遊離リガンドは、結合形態で存在するものから分離され、遊離又は非複合化標識の量は、標的抗原に結合する特定の抗体の能力の尺度である。
【0116】
本開示は、標的抗原を識別及び特性評価するためのHTSの使用を包含する。HTSは、タンパク質アレイ(例えば、抗体アレイ、抗体マイクロアレイ、タンパク質マイクロアレイ)であり得る。アレイは、固体支持体上に固定化された、本明細書に開示される1つ以上の抗体又はそれらの抗原結合断片を含み得る。そのようなアレイの産生及び使用の方法は、当該技術分野で周知である(例えば、(Buessow et al.,1998,Lueking et al.,2003、Angenendt et al.,2002,2003a,b,2004a,2004b,2006)。いくつかの実施形態では、非常に少量(例えば、1~500μg)の抗体又はその抗原結合断片が固定化される。いくつかの実施形態では、1μg~100μg、1μg~50μg、1μg~20μg、3μg~100μg、3μg~50μg、3μg~20、5μg~100μg、5μg~50μg、5μg~20μgの抗体の存在が単一試料中に存在することになる。一態様では、複数の試料中の試料のうちの少なくとも1つは、1μg~100μg、1μg~50μg、1μg~20μg、3μg~100μg、3μg~50μg、3μg~20、5μg~100μg、5μg~50μg、5μg~20μgの抗体の存在を有することになる。固体支持体は、抗体が、直接的又は間接的に、可逆的に結合され得る不溶性の官能化された物質を指し、それらが、望ましくない物質、例えば、過剰な試薬、汚染物、及び溶媒から分離されることを可能にする。固体支持体の例としては、例えば、官能化されたポリマー材料、例えば、アガロース、若しくはそのビーズ形態のSepharose(登録商標)、デキストラン、ポリスチレン、及びポリプロピレン、又はそれらの混合物、マイクロ流体チャネル構造を含むコンパクトディスク、タンパク質アレイチップ、ピペットチップ、膜、例えば、ニトロセルロース又はPVDF膜、並びに微粒子、例えば、常磁性又は非常磁性ビーズが挙げられる。いくつかの実施形態では、親和性媒体は、固体支持体に結合されることになり、抗体は、親和性媒体を介して固体支持体に間接的に結合されることになる。一態様では、固体支持体は、タンパク質A親和性媒体又はタンパク質G親和性媒体を含む。「タンパク質A親和性媒体」及び「タンパク質G親和性媒体」は、各々、それぞれタンパク質A若しくはタンパク質GのFc結合ドメインを含む天然若しくは合成タンパク質、又はそれぞれタンパク質A若しくはタンパク質GのFc結合ドメインの突然変異したバリアント若しくは断片を結合される固相を指し、バリアント又は断片は、抗体のFc部分に対する親和性を保持する。抗体アレイは、組織化された高密度フォーマットで固体表面上への抗体の移動、その後の化学的固定化によって製作され得る。アレイの製作のための代表的な技術としては、フォトリソグラフィー、インクジェット及び接触印刷、液体分注、並びに圧電が挙げられる。抗体アレイのパターン及び寸法は、各特定の用途によって決定されるべきである。各抗体スポットのサイズは、ユーザによって容易に制御され得る。抗体は、拡散、吸着/吸収、又は共有結合の架橋結合及び親和性を介して、様々な種類の表面に結合され得る。抗体は、プレーンガラス表面上に直接スポット化され得る。印刷プロセス中、抗体を湿潤環境に保つために、高パーセントグリセロール(例えば、30~40%)が試料緩衝液で使用され得、スポット化は、湿度制御環境で実施される。
【0117】
基材の表面は、より良好な結合能力を達成するために改変され得る。例えば、ガラス表面は、抗体が非特異的相互作用を通じて改変された表面に受動的に吸着され得るように、薄いニトロセルロース膜又はポリ-L-リシンで被覆され得る。抗体は、共有結合又は非共有結合のいずれかを通じた化学ライゲーションによって支持面上に固定化され得る。抗体を固体支持体上に共有結合的に固定化するための多くの公知の方法がある。例えば、MacBeath et al.,(1999)J.Am.Chem.Soc.121:7967-7968)は、Michael付加を使用して、チオール含有化合物をマレイミド誘導体化ガラススライドに連結して、小分子のマイクロアレイを形成する。Lam&Renil(2002)Current Opin.Chemical Biol.6:353-358も参照されたい。場合によっては、潜在的な抗原が特定のタイプのがんと関連付けられている場合、更なるバイオマーカーに特異的な抗体が、抗体アレイに含まれ得る。バイオマーカーの代表的な例としては、TROP/TNFRSF19、IL-1 sRI、uPAR、IL-10、VCAM-1(CD106)、IL-10受容体-β、VE-カドヘリン、IL-13受容体-α1、VEGF、IL-13受容体-α2、VEGF R2(KDR)、IL-17、VEGF R3が挙げられる。
【0118】
アレイは、単一抗体(標識ベース)検出又は2抗体(サンドイッチベース)検出を採用することができる。いくつかの実施形態では、ELISA(抗体サンドイッチアッセイとしても公知である)は、以下の標準的な技術に従って実施され得る。固体支持体上に配設された(例えば、被覆された)抗原の捕捉抗体として使用される抗体は、次いで、少なくとも1回(例えば、水及び/又はPBS-tなどの緩衝液で)洗浄され、標準的なブロッキング緩衝液に続き、次いで、少なくとも1回、更に洗浄され得る。次いで、固体支持体は、抗体-抗原複合体が形成することを可能にする条件下で試料/生体試料と接触させられ得る(例えば、約4℃~ほぼ室温の温度で1時間~約24時間インキュベートする)。本明細書で使用される場合、「生体試料」及び「試料」は、互換的に使用され、対象から取得された流体(本明細書では流体試料及び生物流体とも称される)及び組織の両方を包含する。本明細書で使用される場合、「生物流体」という用語は、血液試料、脳脊髄液(CSF)、尿、及び対象から取得された他の液体などの生物学的流体試料、又は細胞成分が溶解されて細胞内内容物を緩衝液又は他の液体媒体に放出する、そのような流体の可溶化調製物を指す。定義はまた、試料の調達後に、試薬を用いた処理、又はタンパク質若しくはポリヌクレオチドなどの特定の成分の濃縮などの任意の方式で操作された試料も含む。「血液試料」という用語は、全血、血漿、及び血清を包含する。固体組織試料は、生検標本及び組織培養物又はそれらに由来する細胞、並びにそれらの後代を含む。試料は、単一細胞又は単一細胞よりも多い細胞を含み得る。生体試料はまた、対象ヒト又は動物に由来する細胞の培養された集団であってもよい。しかしながら、生体試料が細胞の集団を含むときは常に、方法は、まず、細胞を溶解し、固体細胞片を除去することによって細胞の成分が可溶化され、それによって、バイオマーカーの溶液を提供することを必要とすることになる。試料は、親和性精製、FACS、レーザー捕捉マイクロ切片、又は等密度遠心分離を含む、溶解、分画、精製などの当該技術分野で公知の方法によって調製され得る。次いで、支持体は、少なくとも1回(例えば、PBS-tなどの緩衝液を用いて)洗浄され得る。試料中に存在し得る捕捉抗体と抗原との間の複合体を検出するために、二次又は「検出」抗体が、二次抗体とそれぞれのバイオマーカーとの間の等密度複合体形成を可能にする条件下(例えば、室温で少なくとも1時間)で、固体支持体に適用される(例えば、ブロッキング緩衝液中で希釈される)。二次抗体は、捕捉抗体とは異なるエピトープを抗原に結合するように選択される。捕捉及び検出抗体の最適な濃度は、「クリスクロス」方法の希釈などの標準的な技術を使用して決定される。検出抗体は、検出可能な標識に直接的又は間接的にコンジュゲートされ得る。
【0119】
本明細書で使用される場合、「検出可能な標識」という用語は、当該技術分野で公知の部分の標識化を指す。その部分は、例えば、放射性標識(例えば、3H、125I、35S、14C、32Pなど)、検出可能な酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼなど)、染料(例えば、蛍光染料)、コロイド金又は着色ガラス若しくはプラスチック(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックスなど)などの比色標識、ビーズ、あるいは比色、蛍光、化学発光、又は電気化学発光(ECL)信号などの検出可能な信号を生成することができる任意の他の部分であり得る。本明細書で使用される場合、「染料」という用語は、その光吸収特性又は発光特性によってその存在が検出され得る任意のレポーター群を指す。例えば、Cy5は、シアニン染料ファミリーの反応性水溶性蛍光染料である。Cy5は、赤色領域(約650~約670nm)において蛍光である。窒素側鎖の一方又は両方で反応基を用いて合成され得、その結果、窒素側鎖は、核酸又はタンパク質分子のいずれかに化学的に連結され得る。標識化は、可視化及び定量化を目的として行われる。Cy5は、約649nmで最大に励起され、スペクトルの遠赤部において、約670nmで最大に放射され、量子収率は、0.28(FW=792)である。本開示のプローブに好適なフルオロフォア(クロム)は、フルオレセインイソチオシアネート(FITC、緑)、シアニン染料Cy2、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、Cy7.5(緑色から近赤外の範囲)、テキサスレッドなどから選択され得るが、これらに限定されることは意図されていない。本開示の実施形態で使用するためのこれらの染料の誘導体は、Cy染料(Amersham Bioscience)、Alexa Fluors(Molecular Probes Inc.)、HILYTE(商標)Fluors(AnaSpec)、及びDYLITE(商標)Fluors(Pierce,Inc)であり得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、検出可能な標識は、ビオチンなどの発色性標識であり、その場合、検出抗体-ビオチンコンジュゲートは、ストレプトアビジン/ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)又は均等物を使用して検出される。ストレプトアビジンは、適切なブロックで希釈され、室温で30分間インキュベートされ得る。本発明における使用に好適な他の検出可能な標識は、蛍光標識及び化学発光標識を含む。
【0120】
次いで、支持体が洗浄され、標識(例えば、ストレプトアビジン上のHRP酵素コンジュゲート)が、発色系(SIGMA FAST(商標)OPD系)、蛍光系、又は化学発光系などの以下の標準的なプロトコルを使用して検出される。次いで、試料中に存在する抗原の量は、ELISAプレートリーダー(例えば、SpectraMax384又は均等物)上で読み取られ得る。次いで、抗原の各々の濃度が逆算され(例えば、精製された抗原から生成され、標準的な曲線フィッティング方法に従って希釈倍数を乗じた標準曲線を使用することによって)、次いで、対照(健康な対象から取得された組織試料から生成される)と比較され得る。
【0121】
一実施形態では、生体試料、例えば、生物流体は、試料の構成成分の一部又は全部、特にバイオマーカーを含むタンパク質又はそのペプチド成分にビオチン部分を付着させ得る、当該技術分野で周知の試薬の系と接触する。このビオチン化ステップの後、次いで、ビオチン化生体試料が、抗原の各々に特異的な抗体のアレイを含有する抗体アレイと接触し得る。
【0122】
適切なインキュベーション期間の後、試料中の任意の抗原をアレイのその対応する抗体に結合させることを可能にするように容易に選択され、流体試料は、アレイから洗浄される。次いで、アレイが、検出可能な標識(ELISAと関連して上記に説明されたように)とコンジュゲートされている、アビジン又はストレプトアビジンなどの、ビオチン結合ポリペプチドと接触する。アレイ上の標識の検出(対照と比較して)は、それぞれの抗体によって捕捉されたバイオマーカーのうちのどれが試料中に存在するかを示すことになる。
【0123】
特定のアッセイフォーマットにかかわらず、ビオチン標識ベースのアレイ方法は、いくつかの見地から比較的有利である。ビオチン標識は、シグナル増幅として使用され得る。ビオチンは、タンパク質を標識化するための最も一般的な方法であり、標識プロセスは、非常に効率的であり得る。更に、ビオチンは、蛍光ストレプトアビジンを使用して検出され、したがって、レーザースキャナ、又は化学発光を使用してHRPストレプトアビジンを介して可視化され得る。ビオチン標識ベースの抗体アレイを使用して、ほとんどの標的化タンパク質がpg/mlレベルで検出され得る。本方法の検出感度は、3-DNA検出技術又はローリングサークル増幅を使用することによって更に増強され得る(Schweitzer et al.,(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.97:10113-10119、Horie et al.,(1996)Int.J.Hematol.63:303-309)。
【0124】
本開示に関して、試料は、疾患(例えば、がん)を有する対象及び健康な対象から取得され得る。
【0125】
いくつかの実施形態では、既知の同一性を有するタンパク質抗原が、捕捉分子として固体支持体上に固定化され、既知の抗原が候補抗体に結合するか否かを判定することを試みる場合、タンパク質アレイが使用され得る。抗原は、固定化された抗体による捕捉後に検出又は免疫沈降を可能にするタグで標識され得る。タンパク質抗原は、例えば、がん患者又はがん細胞から取得され得る。いくつかの市販のタンパク質アレイ、例えば、ProtoArray(登録商標)、Kinex(商標)、RayBio(登録商標)ヒトRTKリン酸化抗体アレイが利用可能である。抗体-抗原複合体は、当該技術分野で公知の方法(例えば、免疫沈降又はウェスタンブロット)によって取得され得る。この研究で関心対象であり得るタンパク質アレイ及び抗体アレイに関するレビューについては、Reymond Sutandy,et al..2013、Liu,B.C.-S.,et al.2012、Haab BB,2005を参照されたい。
【0126】
例示的な免疫沈降方法では、本明細書に説明される抗体又はその抗原結合断片は、抗原を含む試料に最初に添加され、抗原抗体複合体が形成することを可能にするようにインキュベートされる。続いて、抗原抗体複合体は、タンパク質A/G被覆ビーズであるか、又はそれらを有して、それらが複合体を吸収することを可能にする。改変されるアプローチでは、抗体又はその抗原結合断片は、組換えDNA技術によってHisタグ又は他のタグ(例えば、FLAGタグ、ビオチンタグ)に融合され、タグに対する抗体を使用して免疫沈降される(プルダウンアッセイ)。次いで、ビーズが徹底的に洗浄され、抗原が酸性溶液又はSDSによってビーズから溶出される。溶出された試料は、抗原を識別及び確認するために、質量分析又はSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を使用して分析され得る。タンパク質マイクロアレイ上に形成された抗体抗原複合体を解析し、質量分析を介して抗原を識別する方法が公知である。
【0127】
一態様では、本明細書に開示される抗体又はそれらの抗原結合断片が、がんの治療のための治療用抗体として企図される。したがって、抗体又はそれらの抗原結合断片は、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)アッセイ及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)アッセイで更にスクリーニングされ得る。「ADCC活性」は、抗体がADCC反応を誘発する能力を指す。ADCCは、FcRを発現する抗原非特異的細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)が、標的細胞の表面に結合した抗体を認識し、その後、標的細胞(例えば、がん細胞)の溶解(例えば、「死滅」)を引き起こす、細胞介在性反応である。一次メディエーター細胞は、ナチュラルキラー(NK)細胞である。NK細胞は、FcγRIIIのみを発現し、FcγRIIIAは、活性化受容体であり、FcγRIIIBは、阻害するものであり、単球は、FcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIを発現する(Ravetch et al.(1991)Annu.Rev.Immunol.,9:457-92)。ADCC活性は、例えば、実施例、及びShields et al.(2001)J.Biol.Chem.,276:6591-6604、又は当該技術分野で公知の別の好適な方法で説明されるように、インビトロのアッセイ、例えば、末梢血単核球(PBMC)及び/又はNKエフェクター細胞を使用する51Cr放出アッセイを使用して直接評価され得る。ADCC活性は、標的細胞の溶解が最大半量である抗体の濃度として発現され得る。したがって、いくつかの実施形態では、溶解レベルが、野生型対照による最大半量溶解レベルと同じである、本開示の抗体又はその抗原結合断片の濃度が、野生型対照自体の濃度よりも少なくとも2倍、3倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍低い。
【0128】
加えて、いくつかの実施形態では、本開示の抗体又はその抗原結合断片は、野生型対照と比較して、より高い最大標的細胞溶解を呈し得る。例えば、本発明の抗体又はFc融合タンパク質の最大標的細胞溶解は、野生型対照よりも10%、15%、20%、25%以上高い場合がある。「補体依存性細胞傷害」又は「CDC」は、補体の存在下で標的(例えば、がん細胞)を溶解する分子の能力を指す。補体活性化経路は、同族抗原と複合体化された分子(例えば、抗体)への補体系(C1q)の第1の成分の結合によって開始される。補体活性化を評価するために、例えば、Gazzano-Santoro et al.,J.Immunol.Methods202:163(1996)に説明されるCDCアッセイが実施され得る。
【0129】
エピトープマッピング
本明細書で使用される場合、「エピトープ」という用語は、パラトープとして公知の抗体分子の可変領域において特定の抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を指す。単一の抗原は、2つ以上のエピトープを有し得る。したがって、異なる抗体は、抗原上の異なるエリアに結合し得、異なる生物学的効果を有し得る。エピトープは、立体構造又は線状のいずれかであり得る。立体構造エピトープは、線状ポリペプチド鎖の異なるセグメントから空間的に並置されたアミノ酸によって産生される。線状エピトープは、ポリペプチド鎖中の隣接するアミノ酸残基によって産生されるものである。特定の状況では、エピトープは、抗原上の糖類、ホスホリル基、又はスルホニル基の部分を含み得る。
【0130】
当業者に公知の様々な技術が、抗体の抗原結合ドメインがポリペプチド又はタンパク質内の「1つ以上のアミノ酸と相互作用する」か否かを判定するために使用され得る。例示的な技術としては、例えば、説明されるAntibodies,Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harb.,NY)、アラニンスキャニング突然変異分析、ペプチドブロット分析(Reineke,2004,Methods Mol Biol248:443-463)、及びペプチド切断分析などの、通例のクロスブロッキングアッセイが挙げられる。加えて、抗原のエピトープ切除、エピトープ抽出、及び化学改変などの方法が採用され得る(Tomer,2000,Protein Science9:487-496)。抗体の抗原結合ドメインが相互作用するポリペプチド内のアミノ酸を識別するために使用され得る別の方法は、質量分析によって検出される水素/重水素交換である。一般的に、水素/重水素交換方法は、関心対象のタンパク質を重水素標識化すること、その後に重水素標識されたタンパク質に抗体を結合することを伴う。次に、タンパク質/抗体複合体が水に移されて、水素-重水素交換が、抗体(重水素標識されたままである)によって保護される残基を除く全ての残基で起こることを可能にする。抗体の解離後、標的タンパク質がプロテアーゼ切断及び質量分析に供され、それによって、抗体が相互作用する特定のアミノ酸に対応する重水素標識された残基を明らかにする。例えば、Ehring(1999)Analytical Biochemistry267(2):252-259、Engen and Smith(2001)Anal.Chem.73:256A-265Aを参照されたい。抗原/抗体複合体のX線結晶構造解析もまた、エピトープマッピングの目的に使用され得る。
【0131】
本明細書に開示される抗体又は抗原結合断片が結合する抗原上のエピトープは、抗原の3アミノ酸以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20以上)の単一連続配列から構成され得る。あるいは、エピトープは、抗原の複数の非連続アミノ酸(又はアミノ酸配列)から構成され得る。
【0132】
抗原
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるシステム及び方法は、がん関連抗原を対象とする抗体又はそれらの抗原結合断片の再構築されたコンセンサス配列の生成を可能にする。いくつかの実施形態では、がん関連抗原は、腫瘍抗原、例えば、細胞質、細胞表面、又は細胞核に由来し得る腫瘍細胞に発現されるタンパク質又はペプチドなどの腫瘍細胞の一部、特に細胞内で又は腫瘍細胞の表面抗原として主に発生するものである。例えば、腫瘍抗原としては、がん胎児性抗原、α1-フェトタンパク質、イソフェリチン、並びに胎児スルホ糖タンパク質、α2-H-フェロタンパク質、及びγ-フェトタンパク質が挙げられる。本明細書で使用される場合、「がん関連抗原」という用語は、当該技術分野で公知であるように、がんと関連付けられ得る任意のタイプのがん抗原であり、腫瘍細胞を含む細胞表面上に存在する抗原、及び可溶性がん抗原を含む。腫瘍及び正常細胞上のいくつかの細胞表面抗原は、可溶性対応物を有する。がん関連抗原は、腫瘍微小環境内に位置するか、又は治療される腫瘍に別様に近接した細胞表面抗原又は可溶性がん抗原であり得る。そのような抗原は、がん関連線維芽細胞(CAF)、腫瘍血管内皮細胞(TEC)、及び腫瘍関連マクロファージ(TAM)に見出されるものを含むが、これらに限定されない。がん関連線維芽細胞(CAF)標的抗原の例としては、限定されるものではないが、炭酸脱水酵素IX(CAIX)、線維芽細胞活性化タンパク質アルファ(FAPα)、並びにMMP-2及びMMP-9を含むマトリクスメタロプロテアーゼ(MMP)が挙げられる。腫瘍血管内皮細胞(TEC)標的抗原の例としては、限定されるものではないが、VEGFR-1、2、及び3を含む血管内皮増殖因子(VEGF)、CD-105(エンドグリン)、TEM1及びTEM8を含む腫瘍血管内皮マーカー(TEM)、MMP-2、サバイビン、及び前立腺特異的膜抗原(PMSA)が挙げられる。腫瘍関連マクロファージ抗原の例としては、限定されるものではないが、CD105、MMP-9、VEGFR-1、2、3、及びTEM8が挙げられる。一実施形態では、がん関連抗原に特異的ながん関連抗体は、非腫瘍細胞、例えば、VEGFR-2、MMP、サバイビン、TEM8、及びPMSAに位置するがん抗原に特異的であり得る。がん関連抗原は、上皮がん抗原(例えば、乳房、消化器系、肺)、前立腺特異的がん抗原(PSA)、若しくは前立腺特異的膜抗原(PSMA)、膀胱がん抗原、肺(例えば、小細胞肺)がん抗原、結腸がん抗原、卵巣がん抗原、脳がん抗原であり、胃がん抗原、腎細胞がん抗原、膵がん抗原であり、肝がん抗原、食道がん抗原、又は頭頸部がん抗原であり得る。がん抗原はまた、リンパ腫抗原(例えば、非ホジキンリンパ腫又はホジキンリンパ腫)、B細胞リンパ腫がん抗原、白血病抗原、骨髄腫(例えば、多発性骨髄腫又は形質細胞性骨髄腫)抗原、急性リンパ芽球性白血病抗原、慢性骨髄性白血病抗原、又は急性骨髄性白血病抗原であり得る。本発明によると、がん関連抗原は、腫瘍又はがん、及び腫瘍又はがん細胞のタイプ及び/又は発現レベルに関して、発現され、任意選択的に特徴付けられる任意の抗原を含むことが好ましい。一実施形態では、「腫瘍抗原」又は「腫瘍関連抗原」又は「がん抗原」又は「がん関連抗原」という用語は、限られた数の組織及び/若しくは器官で、又は特定の発達段階で特異的に発現される正常な条件下にあるタンパク質に関し、例えば、がん関連抗原は、胃組織で、好ましくは、胃粘膜で、生殖器で、例えば、精巣で、栄養膜細胞で、例えば、胎盤で、又は生殖系列細胞で、特異的に発現される正常条件下にあってもよく、1つ以上の腫瘍又はがん組織において発現されるか、又は異常に発現される。この文脈では、「限られた数」は、好ましくは、3以下、より好ましくは、2以下を意味する。本発明の文脈におけるがん関連抗原としては、例えば、分化抗原、好ましくは、細胞型特異的分化抗原、例えば、特定の分化段階で特定の細胞型で特異的に発現される正常条件下にあるタンパク質、がん/精巣抗原、例えば、精巣及び時には胎盤で特異的に発現される正常条件下にあるタンパク質、及び生殖系列の特異的抗原が挙げられる。好ましくは、がん関連抗原又はがん関連抗原の異常発現が、がん細胞を識別する。本発明の文脈では、対象、例えば、がん疾患に罹患している患者においてがん細胞によって発現されるがん関連抗原は、好ましくは、当該対象における自己タンパク質である。好ましい実施形態では、本発明の文脈におけるがん関連抗原は、特に、必須ではない組織若しくは器官、例えば、免疫系によって損傷されたときに対象の死につながらない組織若しくは器官、又は免疫系によってアクセスされないか又はほとんどアクセスすることができない身体の器官若しくは構造で、正常条件下で発現される。本明細書で使用される場合、「がん関連抗原」は、腫瘍細胞で産生又は過剰発現される任意の抗原性物質であり得る。それは、例えば、宿主における免疫応答をトリガーし得る。あるいは、本開示の目的のために、がん関連抗原は、健康な細胞及び腫瘍細胞の両方によって発現されるタンパク質であり得るが、それらは、特定の腫瘍型を識別するため、それらは、好適な治療標的であり得る。がん関連抗原の非限定的な例は、CD19、CD20、CD30、CD33、CD38、Her2/neu、ERBB2、CA125、MUC-1、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、CD44表面接着分子、メソテリン、がん胎児性抗原(CEA)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、EGFRvIII、血管内皮増殖因子受容体-2(VEGFR2)、高分子量黒色腫関連抗原(HMW-MAA)、MAGE-A1、IL-13R-a2、GD2、又はそれらの任意の組み合わせである。いくつかの実施形態では、がん関連抗原は、1p19q、ABL1、AKT1、ALK、APC、AR、ATM、BRAF、BRCA1、BRCA2、cKIT、cMET、CSF1R、CTNNB1、EGFR、EGFRvIII、ER、ERBB2(HER2)、FGFR1、FGFR2、FLT3、GNA11、GNAQ、GNAS、HER2、HRAS、IDH1、IDH2、JAK2、KDR(VEGFR2)、KRAS、MGMT、MGMT-Me、MLH1、MPL、NOTCH1、NRAS、PDGFRA、Pgp、PIK3CA、PR、PTEN、RET、RRM1、SMO、SPARC、TLE3、TOP2A、TOPO1、TP53、TS、TUBB3、VHL、CDH1、ERBB4、FBXW7、HNF1A、JAK3、NPM1、PTPN11、RB1、SMAD4、SMARCB1、STK1、MLH1、MSH2、MSH6、PMS2、マイクロサテライト不安定性(MSI)、ROS1、ERCC1、又はそれらの任意の組み合わせである。本発明によると、「がん関連抗原」、「腫瘍抗原」、「腫瘍発現抗原」、「がん抗原」、「がん関連抗原」、及び「がん発現抗原」は、同等であり、本明細書では互換的に使用される。
【0133】
融合タンパク質
一態様では、本明細書に開示される抗体又は抗原結合断片を含む融合タンパク質が本明細書に提供される。いくつかの実施形態では、融合タンパク質は、本明細書に開示される1つ以上の抗体又はその抗原結合断片と、免疫調節物質又は毒素部分と、を含む。抗体融合タンパク質を作製する方法は公知である。インターロイキン-2部分を含む抗体融合タンパク質は、Boleti et al.,Ann.Oneal.6:945(1995)、Nicolet et al.,Cancer Gene Ther.2:161(1995)、Becker et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA93:7826(1996)、Hank et al.,Clin.Cancer Res.2:1951(1996)、及びHu et al.,Cancer Res.56:4998(1996)によって説明される。加えて、Yang et al.,Hum.Antibodies Hybridomas6:129(1995)は、F(ab’)2断片及び腫瘍壊死因子アルファ部分を含む融合タンパク質を説明する。
【0134】
キメラ抗原受容体
一態様では、本明細書の開示は、本明細書に開示される抗原結合断片、膜貫通ドメイン、及び細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体を提供する。本明細書で使用される場合、「キメラ抗原受容体」(CAR)、「人工T細胞受容体」、「キメラT細胞受容体」、又は「キメラ免疫受容体」は、任意の特異性を免疫エフェクター細胞に移植する操作された受容体を指す。CARは、典型的には、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内(エンドドメイン)ドメインを含む、細胞外ドメイン(外部ドメイン)を有する。「シグナル伝達ドメイン」という用語は、第2のメッセンジャーを生成すること、又はそのようなメッセンジャーに応答することによってエフェクターとして機能することによって、細胞内の情報を送信して、定義されたシグナル伝達経路を介して細胞活性を調節することによって作用する、タンパク質の機能部分を指す。
【0135】
本明細書で使用される用語である「細胞内シグナル伝達ドメイン」は、分子の細胞内部分を指す。細胞内シグナル伝達ドメインは、CAR含有細胞、例えば、CART細胞の免疫エフェクター機能を促進するシグナルを生成する。例えば、CART細胞における免疫エフェクター機能の例としては、サイトカインの分泌を含む細胞溶解活性及びヘルパー活性が挙げられる。
【0136】
一実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、一次細胞内シグナル伝達ドメインを含み得る。例示的な一次細胞内シグナル伝達ドメインは、一次刺激又は抗原依存性シミュレーションに関与する分子に由来するものを含む。一実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、共刺激細胞内ドメインを含み得る。例示的な共刺激細胞内シグナル伝達ドメインとしては、共刺激シグナル、又は抗原非依存性刺激に関与する分子に由来するものが挙げられる。例えば、CARTの場合、一次細胞内シグナル伝達ドメインは、T細胞受容体の細胞質配列を含み得、共刺激細胞内シグナル伝達ドメインは、共受容体又は共刺激分子からの細胞質配列を含み得る。
【0137】
一次細胞内シグナル伝達ドメインは、免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ又はITAMとして公知であるシグナル伝達モチーフを含み得る。一次細胞質シグナル伝達配列を含有するITAMの例としては、限定されるものではないが、CD3 zeta、FcRガンマ、FcRベータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79b、並びにCD66d DAP10及びDAP12に由来するものが挙げられる。
【0138】
「ゼータ」又は代替的に「ゼータ鎖」、「CD3-ゼータ」又は「TCR-ゼータ」は、GenBan Acc.No.BAG36664.1として提供されるタンパク質、又は、非ヒト種、例えば、マウス、齧歯類、サル、類人猿などに由来する同等の残基として定義され、「ゼータ刺激ドメイン」、又は代替的に「CD3-ゼータ刺激ドメイン」若しくは「TCR-ゼータ刺激ドメイン」は、T細胞活性化に必要な初期信号を機能的に送信するのに十分であるゼータ鎖の細胞質ドメイン由来のアミノ酸残基として定義される。一態様では、ゼータの細胞質ドメインは、GenBank Acc.No.BAG36664.1の残基52~164、又はその機能的オルソログである、非ヒト種、例えば、マウス、齧歯類、サル、類人猿などに由来する同等の残基を含む。
【0139】
「共刺激分子」という用語は、共刺激リガンドと特異的に結合するT細胞上の同族結合パートナーを指し、それによって、限定されるものではないが、増殖などの、T細胞による共刺激応答を媒介する。共刺激分子は、効率的な免疫応答に必要とされる抗原受容体又はそれらのリガンド以外の細胞表面分子である。共刺激分子としては、限定されるものではないが、MHCクラスI分子、BTLA、及びTollリガンド受容体、並びにOX40、CD2、CD27、CD28、CD5、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、及び4-1BB(CD137)が挙げられる。
【0140】
共刺激細胞内シグナル伝達ドメインは、共刺激分子の細胞内部分に由来し得る。共刺激分子は、以下のタンパク質ファミリーで表され得る:TNF受容体タンパク質、免疫グロブリン様タンパク質、サイトカイン受容体、インテグリン、シグナル伝達リンパ球活性化分子(SLAMタンパク質)、及び活性化NK細胞受容体。そのような分子の例としては、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、GITR、CD30、CD40、ICOS、BAFFR、HVEM、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、SLAMF7、NKp80、CD160、B7-H3、及びCD83と特異的に結合するリガンドなどが挙げられる。
【0141】
細胞内シグナル伝達ドメインは、それが由来する分子の細胞内部分全体、若しくは天然細胞内シグナル伝達ドメイン全体、又はその機能的断片を含み得る。
【0142】
別の態様では、抗原結合断片は、ヒト化抗体又は抗体断片を含む。一実施形態では、抗原結合断片が、本明細書に説明される抗体の1つ以上(例えば、1つ、2つ、又は3つ全て)の軽鎖相補性決定領域1(CDR-L1)、軽鎖相補性決定領域2(CDR-L2)、及び軽鎖相補性決定領域3(CDR-L3)、並びに本明細書に説明される抗体の1つ以上(例えば、1つ、2つ、又は3つ全て)の重鎖相補性決定領域1(CDR-H1)、重鎖相補性決定領域2(CDR-H2)、及び重鎖相補性決定領域3(CDR-H3)を含む。
【0143】
がんを治療するのに好適なコンセンサス配列の生成
本開示は、患者を治療する有効量で患者への本明細書に開示される抗体又はその抗原結合断片の投与によって、制御不能な細胞増殖によって特徴付けられる、新生物、腫瘍、転移、又は任意の疾患又は障害を含むがこれらに限定されない、がんの治療又は予防のために好適な再構築されたコンセンサスポリペプチド配列を含む、抗体又はそれらの抗原結合断片のためのポリペプチド配列を生成するためのシステム及び方法を提供する。
【0144】
いくつかの実施形態では、がんは、細胞腫、肉腫、リンパ腫、白血病、生殖細胞腫瘍、芽腫、又は黒色腫であり得る。いくつかの実施形態では、がんは、膀胱、血液、骨、骨髄、脳、乳房、結腸、食道、胃腸、歯肉、頭部、腎臓、肝臓、肺、上咽頭、首、卵巣、前立腺、皮膚、胃、精巣、舌、又は子宮からのがんであり得る。いくつかの実施形態では、がんは、新生物、悪性細胞腫、細胞腫、未分化、巨細胞がん及び紡錘細胞がん、小細胞がん、乳頭状がん、扁平上皮がん、リンパ上皮がん、基底細胞がん、ピロマトリクスがん、移行上皮細胞がん、乳頭状移行上皮細胞がん、腺がん、ガストリノーマ、胆管がん、肝細胞がん、肝細胞がんと胆管がんとの組み合わせ、線維柱帯腺がん、腺様嚢胞がん、腺腫性ポリープの腺がん、腺がん、家族性腺腫性ポリープ症、固形がん、カルチノイド腫瘍、細気管支肺胞腺がん、乳頭状腺がん、嫌色素性腎細胞がん、好酸球がん、好酸性腺がん、好塩基球がん、明細胞腺がん、顆粒細胞がん、濾胞性腺がん、乳頭状及び濾胞性腺がん、非被包性硬化がん、副腎皮質がん、子宮内膜がん、皮膚付属器がん、アポクリン腺がん、皮脂腺がん、耳垢腺がん、粘表皮がん、嚢胞腺がん、乳頭状嚢胞腺がん、乳頭状漿液嚢胞腺がん、粘液性嚢胞腺がん、粘液性腺がん、印環細胞がん、浸潤性乳管がん、髄様がん、葉状がん、炎症性がん、パジェット病、乳腺腺房細胞がん、腺扁平上皮がん、扁平上皮化生を伴う腺がん、胸腺腫、卵巣間質腫瘍、莢膜細胞腫、顆粒膜細胞腫瘍、セルトリ間質細胞腫瘍、セルトリ細胞種、ライディッヒ細胞腫、脂肪細胞腫、傍神経節腫、乳腺外傍神経節腫、褐色細胞腫、血管球血管肉腫、黒色腫、悪性黒子、悪性黒子由来黒色腫、末端黒子型黒色腫、粘膜黒色腫、結節性黒色腫、ポリポイド黒色腫、線維形成性黒色腫、皮膚黒色腫、無色素性黒色腫、表在拡大型黒色腫、巨大色素性母斑の黒色腫、類上皮細胞黒色腫、青色母斑、肉腫、線維肉腫、線維性組織球腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、胎児性横紋筋肉腫、肺胞横紋筋肉腫、間質肉腫、混合腫瘍、ミュラー管混合腫瘍、腎芽腫、肝芽腫、がん肉腫、間葉腫、ブレンナー腫瘍、葉状腫瘍、滑膜肉腫、中皮腫、未分化胚細胞腫、胎児性がん、奇形腫、卵巣甲状腺腫、絨毛がん、中腎腫、血管肉腫、血管内皮腫、カポシ肉腫、血管周囲細胞腫、リンパ管肉腫、骨肉腫、傍骨性骨肉腫、軟骨肉腫、軟骨芽腫、間葉軟骨肉腫、骨巨細胞腫、ユーイング肉腫、歯原性腫瘍、エナメル上皮肉腫、エナメル上皮腫、エナメル上皮線維肉腫、松果体腫、脊索腫様膠腫、上衣腫、星細胞腫、原形質星細胞腫、線維性星細胞腫、星芽腫、神経膠芽腫、乏突起膠腫、乏突起膠芽腫、原始神経外胚葉性腫瘍、小脳肉腫、神経節芽細胞腫、神経芽腫、網膜芽腫、嗅神経原性腫瘍、髄膜腫、神経線維肉腫、神経鞘腫、顆粒細胞腫瘍、悪性リンパ腫、ホジキン病、ホジキン、側肉芽腫、リンパ腫、小リンパ球性リンパ腫、悪性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、菌状息肉症、他の特定非ホジキンリンパ腫、組織球症、多発性骨髄腫、肥満細胞肉腫、免疫増殖性小腸疾患、白血病、リンパ性白血病、形質細胞白血病、赤芽球症、リンパ肉腫細胞性白血病、骨髄性白血病、好塩基球性白血病、好酸球性白血病、単球性白血病、肥満細胞白血病、巨核芽球性白血病、骨髄肉腫、又はヘアリーセル白血病であり得る。いくつかの実施形態では、がんは、皮膚悪性黒色腫である。
【0145】
本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療」、「治療すること」、「改善」という用語は、治療的処置を指し、目的は、疾患又は障害と関連付けられた状態の進行又は重症度を逆転させるか、緩和するか、改善するか、阻害するか、減速するか、又は停止することである。「治療する」という用語は、限定されるものではないが、慢性感染又はがんなどの、慢性免疫状態と関連付けられた状態、疾患又は障害の少なくとも1つの有害作用又は症状を低減又は緩和することを含む。治療は、概して、1つ以上の症状又は臨床マーカーが低減された場合、概して「有効」である。あるいは、疾患の進行が低減又は停止された場合、治療は「有効」である。すなわち、「治療」は、症状又はマーカーの改善のみならず、治療がない場合に予想されることになる症状の進行又は悪化の少なくとも減速の停止も含む。有益又は所望の臨床結果としては、限定されるものではないが、1つ以上の症状の軽減、疾患の程度の減少、安定した(例えば、悪化しない)疾患の状態、疾患進行の遅延又は減速、疾患状態の改善又は緩和、及び検出可能又は検出不可能であるか否かにかかわらず、寛解(部分的又は全体的)が挙げられる。疾患の「治療」という用語はまた、疾患の症状又は副作用(緩和治療を含む)からの軽減を提供することも含む。
【0146】
定義
以下の定義は、当該技術分野のものを補足し、現在の出願を対象とし、いかなる関連又は非関連ケース、例えば、いかなる共通所有の特許又は出願にも帰属するべきではない。したがって、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明する目的のためのものであり、限定することを意図するものではない。
【0147】
本出願において、単数形の使用は、別途具体的な記載がない限り、複数形を含む。本明細書で使用されるとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が別途明確に指示しない限り、複数の参照を含むことに留意されなければならない。更に、「含む(including)」、並びに「含む(include)」、「含む(includes)」、「含まれる」などの他の形態の使用は、限定するものではない。
【0148】
本明細書で使用される場合、「及び/又は」並びに「それらの任意の組み合わせ」という用語と、それらの文法的等価物は、互換的に使用され得る。これらの用語は、任意の組み合わせが具体的に企図されていることを伝達し得る。例示的な目的のみで、以下の語句「A、B、及び/又はC」又は「A、B、C、又はそれらの任意の組み合わせ」は、「A個別、B個別、C個別、A及びB、B及びC、A及びC、並びにA、B、及びC」を意味し得る。
【0149】
「又は」という用語は、文脈が、離接的使用を特に指していない限り、接続的又は離接的に使用され得る。
【0150】
「約」又は「およそ」という用語は、当業者によって決定される特定の値に対して許容可能な誤差範囲内を意味し、これは、値がどのように測定又は決定されるか、例えば、測定システムの限界に部分的に依存することになる。例えば、「約」は、当該技術分野の慣行によると、1つ以上の標準偏差以内を意味し得る。あるいは、「約」は、所与の値の最大20%、最大10%、最大5%、又は最大1%の範囲を意味し得る。あるいは、特に生物学的システム又はプロセスに関して、用語は、1桁以内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内の値を意味し得る。特定の値が本出願及び特許請求の範囲に説明されている場合、別途記載されない限り、「約」という用語が特定の値について許容可能な誤差範囲内を意味するが想定されるべきである。
【0151】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、「含む(comprising)」(並びに「含む(comprise)」及び「含む(comprises)」などの、含む(comprising)の任意の形態、「有する(having)」(並びに「有する(have)」及び「有する(has)」などの、有する(having)の任意の形態)、又は「含有する(containing)」(並びに「含有する(contains)」及び「含有する(contain)」などの、含有する(containing)の任意の形態)は、包括的又は限定なしであり、追加の列挙されていない要素又はステップを排除しない。本発明の任意の方法又は組成物に関して、本明細書に論じられる任意の実施形態が実装され得、その逆も同様であることが企図される。更に、本発明の組成物は、本発明の方法を達成するために使用され得る。
【0152】
本明細書で使用される場合、「~から本質的に構成される」という用語は、それらの要素が所与の実施形態に必要とされることを指す。用語は、本発明の実施形態の基本及び新規の又は機能的特性に実質的に影響しない要素の存在を可能にする。
【0153】
本明細書で使用される場合、「~から構成される」という用語は、本明細書に説明される組成物、方法、及びそれぞれの構成要素を指し、これらは、実施形態の説明に列挙されていない、いかなる要素も含まない。
【0154】
本明細書における「いくつかの実施形態」、「一実施形態」、「1つの実施形態」、又は「他の実施形態」に対する言及は、実施形態と関連して説明される特定の特徴、構造、又は特性が、本発明の必ずしも全ての実施形態ではないが、少なくともいくつかの実施形態に含まれることを意味する。
【0155】
「疾患」、「障害」、又は「状態」という用語は、本明細書で互換的に使用され、機能の実施を中断若しくは妨害する、及び/あるいは不快感、機能障害、苦痛、又は更には、罹患した人物若しくは人物と接触した人物の死亡などの症状を引き起こす、身体又は器官の一部の状態における任意の変化を指す。疾患又は障害はまた、不調、病気療養中、病気、疾患、障害、病的状態、病状、又は精神状態にも関連し得る。
【0156】
治療的又は予防的処置の文脈で使用されるとき、「それを必要とする」という用語は、疾患を有するか、疾患と診断されるか、又は疾患を予防する必要がある、例えば、疾患を発症するリスクがあることを意味する。したがって、それを必要とする対象は、疾患を治療又は予防する必要のある対象であり得る。
【0157】
本明細書で使用される場合、「投与する」という用語は、所望の部位における薬剤の少なくとも部分的な送達を結果的にもたらす方法又は経路による、対象への化合物(例えば、本明細書に開示される抗体又はその抗原結合断片)の配置を指す。本明細書に開示される抗体又はその抗原結合断片を含む医薬組成物は、組織実質部内への直接の静脈内、動脈内、注射、又は注入などを含むがこれらに限定されない、対象において有効な治療を結果的にもたらす任意の適切な経路によって投与され得る。必要又は望ましい場合、投与は、例えば、脳室内(「icv」)投与、鼻腔内投与、頭蓋内投与、腔内投与、脳内投与、又は髄腔内投与を含み得る。
【0158】
本明細書で使用される場合、「対象」、「患者」、「個人」、及び同様の用語は、互換的に使用され、脊椎動物、哺乳動物、霊長類、又はヒトを指す。哺乳動物は、限定なしで、ヒト、霊長類、齧歯類、野生化した動物、家畜、スポーツ動物、及びペットを含む野生又は家畜動物を含む。霊長類としては、例えば、チンパンジー、シノモルザル、クモザル、及びマカク、例えば、アカゲザルが挙げられる。齧歯類としては、例えば、マウス、ラット、マーモット、フェレット、ウサギ、及びハムスターが挙げられる。家畜及び狩猟動物としては、例えば、ウシ、ウマ、ブタ、シカ、バイソン、バッファロー、ネコ類、例えば、イエネコ、イヌ類、例えば、イヌ、キツネ、オオカミ、鳥類、例えば、ニワトリ、エミュー、ダチョウ、並びに魚類、例えば、マス、ナマズ、及びサケが挙げられる。「個人」、「患者」、及び「対象」という用語は、本明細書では互換的に使用される。対象は、男性又は女性であり得る。
【0159】
いくつかの実施形態では、対象は、哺乳動物である。哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、又はウシであり得るが、これらの例に限定されない。ヒト以外の哺乳動物は、制御不能な細胞増殖(例えば、がん)と関連付けられた状態又は障害の動物モデルを表す対象として有利に使用され得る。非限定的な例としては、マウス腫瘍モデルが挙げられる。加えて、本明細書に説明される組成物及び方法は、家畜化された動物及び/又はペットを治療するために使用され得る。対象は、以前にがんと診断されたか、又はがんを患っていると識別されたことがある対象であり得る。対象は、診断され、現在治療を受けているか、又は治療、監視、既存の治療的処置の調整若しくは修正を求めているか、又は所与の障害(例えば、がん)を発症するリスクがある対象であり得る。
【0160】
「細胞傷害性薬剤」は、細胞に対する細胞傷害性及び/又は細胞増殖抑制性効果を有する薬剤を指す。「細胞傷害性効果」は、標的細胞の枯渇、排除、及び/又は死滅を指す。「細胞増殖抑制性効果」は、細胞増殖の阻害を指す。
【0161】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」、「ペプチド」、及び「ポリペプチド」という用語は、隣接する残基のアルファ-アミノ基とカルボキシ基との間のペプチド結合によって互いに接続された一連のアミノ酸残基を示すように互換的に使用される。「タンパク質」、「ペプチド」、及び「ポリペプチド」という用語は、そのサイズ又は機能にかかわらず、改変されたアミノ酸(例えば、リン酸化、糖化、グリコシル化など)及びアミノ酸類似体を含む、アミノ酸のポリマーを指す。「タンパク質」及び「ポリペプチド」は、多くの場合、比較的大きいポリペプチドを参照する際に使用されるが、「ペプチド」という用語は、多くの場合、小さいポリペプチドを参照する際に使用されるが、当該技術分野におけるこれらの用語の使用は重複する。「タンパク質」、「ペプチド」、及び「ポリペプチド」という用語は、遺伝子産物及びその断片を指すとき、本明細書で互換的に使用される。
【0162】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子の可変領域に位置する、少なくとも1つの抗原認識部位を通じた、標的(例えば、がん関連抗原)への特異的結合が可能な免疫グロブリン分子を指す。本明細書で使用される場合、この用語は、無傷の抗体のみならず、その断片(Fab、Fab’、F(ab’)2、Fvなど)、一本鎖(ScFv)、その変異体、抗体部分を含む融合タンパク質、及び抗原認識部位を含む免疫グロブリン分子の任意の他の改変された構成も包含する。抗体は、IgG、IgA、IgD、IgE、又はIgM(又はそれらのサブクラス)などの任意のクラスの抗体を含み、抗体は、任意の特定のクラスである必要はない。
【0163】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」は、実質的に均質な抗体の集団から取得される抗体を指し、例えば、その集団を含む個々の抗体は、わずかな量で存在し得る、考えられる天然由来の突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、特異性がより高く、単一の抗原部位に向けられる。更に、典型的には、異なる決定基(エピトープ)に向けられた異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して向けられる。改変因子の「モノクローナル」は、抗体の実質的に均質な集団から取得される抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするように解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、Kohler and Milstein,1975,Nature,256:495によって最初に説明されたハイブリドーマ方法によって作製され得るか、又は組換えDNA方法によって作製され得る。モノクローナル抗体はまた、例えば、McCafferty et al.,1990,Nature,348:552-554に説明される技術を使用して生成されたファージライブラリーから単離され得る。
【0164】
本明細書で使用される場合、「ヒト化」抗体は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含有する、特定のキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、又はそれらの断片(Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2、又は抗体の他の抗原結合配列など)である非ヒト(例えば、マウス)抗体の形態を指す。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(受容体抗体)であり、受容体の相補性決定領域(CDR)からの残基は、所望の特異性、親和性、及び能力を有するマウス、ラット、又はウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDRからの残基によって置換される。いくつかの事例では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。更に、ヒト化抗体は、受容体抗体にも、導入されたCDR又はフレームワーク配列にも存在しないが、抗体性能を更に精密化し、最適化するために含まれる残基を含み得る。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインのうちの実質的に全てを含むことになり、CDR領域の全て又は実質的に全ては、非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FR領域の全て又は実質的に全ては、ヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである。ヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域又はドメイン(Fc)の少なくとも一部分、典型的にはヒト免疫グロブリンのものを最適に含むことになる。ヒト化抗体の他の形態は、元の抗体に対して変化させられる1つ以上のCDR(1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ)を有し、これらはまた、元の抗体からの1つ以上のCDRに「由来する」1つ以上のCDRとも称される。
【0165】
本明細書で使用される場合、「単離された抗体」は、その天然環境の成分から分離及び/又は回収された抗体である。その天然環境の汚染成分は、抗体の診断的又は治療的使用を妨げることになる物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質若しくは非タンパク質成分を含み得る。好ましい実施形態では、抗体は、(1)ローリー法によって決定される抗体の95重量%超、最も好ましくは99重量%超まで、(2)スピニングカップシークエンサーの使用によってN末端又は内部アミノ酸配列の少なくとも15個の残基を取得するのに十分な程度まで、又は(3)還元又は非還元条件下で、クマシーブルー又は好ましくは銀染色を使用して、SDS-PAGEによって示されるような均質性まで精製される。単離された抗体は、抗体の天然環境の少なくとも1つの成分が存在しないことになるため、組換え細胞内でインサイチュの抗体を含む。しかしながら、通常、単離された抗体は、少なくとも1つの精製ステップによって調製されることになる。
【0166】
本明細書で使用される場合、「相補性決定領域」(CDR、例えばCDR1、CDR2、及びCDR3)という用語は、その存在が抗原結合に必要である、抗体可変ドメインのアミノ酸残基を指す。各可変ドメインは、典型的には、CDR1、CDR2、及びCDR3として識別される3つのCDR領域を有する。可変重鎖のCDRは、CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3であり得る。可変軽鎖のCDRは、CDR-L1、CDR-L2、及びCDRL3であり得る。例示的な超可変ループは、アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)、及び96~101(H3)で生じる。(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987))。例示的なCDR(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3)は、L1のアミノ酸残基24~34、L2の50~56、L3の89~97、H1の31-35B、H2の50~65、及びH3の95~102で生じる。(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.(1991))。したがって、HVは、対応するCDR内に含まれ得、VH及びVLドメインの「超可変ループ」に対する本明細書の参照は、別途示されない限り、対応するCDRも包含していると解釈されるべきであり、その逆も同様である。可変ドメインのより高度に保存された領域は、以下に定義されるように、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、各々、4つのFR(それぞれ、FR1、FR2、FR3、及びFR4)を含み、3つの超可変ループによって接続される[ベータ]シート構成を主に採用する。各鎖における超可変ループは、FRによって、近接して一緒に保持され、他方の鎖からの超可変ループとともに、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。抗体の構造解析は、相補性決定領域によって形成される結合部位の配列と形状との間の関係を明らかにした(Chothia et al.,J.Mol.Biol.227:799-817(1992)、Tramontano et al.,J.Mol.Biol,215:175-182(1990))。それらの高い配列変動性にもかかわらず、6つのループのうちの5つは、「標準構造」と呼ばれる、主鎖立体構造の小さいレパートリーのみを採用する。これらの立体構造は、第1に、ループの長さによって決定され、第2に、それらのパッキング、水素結合、又は異常な主鎖立体構造を想定する能力を通じて立体構造を決定する、ループ内の特定の位置及びフレームワーク領域におけるキー残基の存在によって決定される。
【0167】
抗体の「可変領域」は、単独又は組み合わせのいずれかにおける、抗体軽鎖の可変領域、又は抗体重鎖の可変領域を指す。重鎖及び軽鎖の可変領域は、各々、超可変領域としても公知の3つの相補性決定領域(CDR)によって接続される4つのフレームワーク領域(FR)から構成される。各鎖におけるCDRは、FRによって、近接して一緒に保持され、他方の鎖からのCDRとともに、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。CDRを決定するための少なくとも2つの技術がある:(1)異種間配列の可変性に基づくアプローチ(例えば、Kabat et al.Sequences of Proteins of Immunological Interest,(5th ed.,1991,National Institutes of Health,Bethesda Md.))、及び(2)抗原抗体複合体の結晶学的研究に基づくアプローチ(Allazikani et al(1997)J.Molec.Biol.273:927-948))。CDRは、アプローチのいずれかによって、又は両方のアプローチの組み合わせによって定義されるCDRを指し得る。
【0168】
抗体の「定常領域」は、単独又は組み合わせのいずれかにおける、抗体軽鎖の定常領域、又は抗体重鎖の定常領域を指す。定常領域は、抗原特異性に関して変動しない。
【0169】
本明細書で使用される場合、「重鎖領域」という用語は、免疫グロブリン重鎖の定常ドメインに由来するアミノ酸配列を含む。重鎖領域を含むポリペプチドは、CH1ドメイン、ヒンジ(例えば、上位、中央、及び/又は下位ヒンジ領域)ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、又はそのバリアント若しくは断片のうちの少なくとも1つを含む。一実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、免疫グロブリン重鎖のFc領域(例えば、ヒンジ部分、CH2ドメイン、及びCH3ドメイン)を含み得る。別の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、定常ドメインの少なくとも領域(例えば、CH2ドメインの全部又は一部)を欠く。特定の実施形態では、定常ドメインの少なくとも1つ、及び好ましくは全ては、ヒト免疫グロブリン重鎖に由来する。例えば、1つの好ましい実施形態では、重鎖領域は、完全ヒトヒンジドメインを含む。他の好ましい実施形態では、重鎖領域は、完全ヒトFc領域(例えば、ヒト免疫グロブリン由来のヒンジ、CH2、及びCH3ドメイン配列)を含む。特定の実施形態では、重鎖領域の構成定常ドメインは、異なる免疫グロブリン分子由来である。例えば、ポリペプチドの重鎖領域は、IgG1分子に由来するドメイン、及びIgG3又はIgG4分子に由来するヒンジ領域を含み得る。他の実施形態では、定常ドメインは、異なる免疫グロブリン分子の領域を含むキメラドメインである。例えば、ヒンジは、IgG1分子由来の第1の領域と、IgG3又はIgG4分子由来の第2の領域と、を含み得る。上記のように、当業者であれば、重鎖領域の定常ドメインは、それらが天然由来(野生型)免疫グロブリン分子からアミノ酸配列において変動するように、改変され得ることを理解するであろう。すなわち、本明細書に開示される本発明のポリペプチドは、重鎖定常ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2、又はCH3)及び/又は軽鎖定常ドメイン(CL)のうちの1つ以上に対する変化又は改変を含み得る。例示的な改変としては、1つ以上のドメインにおける1つ以上のアミノ酸の付加、欠失、又は置換が挙げられる。
【0170】
本明細書で使用される場合、「ヒンジ領域」という用語は、CH1ドメインをCH2ドメインに結合する重鎖分子の領域を含む。このヒンジ領域は、約25個の残基を含み、可動性であり、したがって、2つのN末端抗原結合領域が独立して移動することを可能にする。ヒンジ領域は、3つの別個のドメインである、上位、中央、及び下位ヒンジドメインに細分化され得る(Roux et al.J.Immunol.1998 161:4083)。
【0171】
本明細書で使用される場合、「Fv」という用語は、完全な抗原認識及び結合部位を含有する最小抗体断片である。この断片は、緊密な非共有結合関係における1つの重鎖及び1つの軽鎖可変領域ドメインの二量体から構成される。
【0172】
これら2つのドメインのフォールディングから、抗原結合のためにアミノ酸残基に寄与し、抗体に抗原結合特異性を付与する、6つの超可変ループ(H及びL鎖から各々3つのループ)を発する。しかしながら、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)でさえ、抗原を認識及び結合する能力を有するが、結合部位全体よりも低い親和性である。
【0173】
「フレームワーク」又はFR残基は、超可変領域残基以外のそれらの可変ドメイン残基である。
【0174】
本明細書で互換的に使用される場合、「ポリヌクレオチド」又は「核酸」は、任意の長さのヌクレオチドのポリマーを指し、DNA及びRNAを含む。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、改変されたヌクレオチド若しくは塩基、及び/又はそれらの類似体、あるいはDNA又はRNAポリメラーゼによってポリマーに組み込まれ得る任意の基質であり得る。ポリヌクレオチドは、メチル化されたヌクレオチド及びそれらの類似体などの、改変されたヌクレオチドを含み得る。存在する場合、ポリマーのアセンブリの前又は後に、ヌクレオチド構造に対する改変が付与され得る。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分によって中断され得る。ポリヌクレオチドは、標識成分とのコンジュゲーションなどによって、重合後に更に改変され得る。他のタイプの改変は、例えば、「キャップ」、類似体との天然由来ヌクレオチドのうちの1つ以上の置換、例えば、非電荷リンケージを有するもの(例えば、ホスホン酸メチル、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カバメートなど)及び電荷リンケージ(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を有するもの、例えば、タンパク質(例えば、ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ply-L-リシンなど)などの、ペンダント部分を含有するもの、インターカレーター(例えば、アクリジン、ソラレンなど)、キレート剤(例えば、金属、放射性金属、ホウ素、酸化金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、改変されたリンケージ(例えば、アルファアノマー核酸など)を有するものなどの、ヌクレオチド間改変、並びに非改変形態のポリヌクレオチドを含む。更に、糖中に通常存在するヒドロキシル基のうちのいずれかは、例えば、ホスホン酸基、リン酸基によって置換されるか、標準的な保護基によって保護されるか、若しくは追加のヌクレオチドへの追加のリンケージを調製するために活性化され得るか、又は固体支持体にコンジュゲートされ得る。5’及び3’末端のOHは、1~20個の炭素原子のアミン又は有機キャッピング基部分でリン酸化又は置換され得る。他のヒドロキシルもまた、標準的な保護基に誘導体化され得る。ポリヌクレオチドはまた、例えば、2’-O-メチル-、2’-O-アリル、2’-フルオロ-、又は2’-アジド-リボース、炭素環の糖類似体、α-アノマー糖、アラビノース、キシロース、又はリキソースなどのエピマー糖、プラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環式類似体、及びメチルリボシドなどの脱塩基ヌクレオシド類似体を含む、当該技術分野で一般的に公知である類似形態のリボース又はデオキシリボース糖も含有し得る。1つ以上のホスホジエステル結合が、代替的な結合基によって置換され得る。これらの代替的な結合基としては、限定されるものではないが、リン酸が、P(O)S(「チオエート」)、P(S)S(「ジチオエート」)、”(O)NR2(「アミデート」)、P(O)R、P(O)OR’、CO、又はCH2(「ホルムアセタール」)によって置換される実施形態が挙げられ、各R又はR’は、独立したHであるか、又は(-O-)結合、アリル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、又はアラルキルのいずれかを任意選択的に含有する置換又は非置換のアルキル(1~20C)である。ポリヌクレオチド中の全ての結合が同一である必要はない。上記の説明は、RNA及びDNAを含む、本明細書に参照される全てのポリヌクレオチドに適用される。
【0175】
「組換えヒト抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、(a)ヒト免疫グロブリン遺伝子又はそこから調製されるハイブリドーマに対する遺伝子組換え又はトランスクロモソームである動物(例えば、マウス)から単離される抗体(以下に更に説明される)、(b)ヒト抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から、例えば、トランスフェクトーマから単離される抗体、(c)組換えの組み合わせヒト抗体ライブラリーから単離される抗体、及び(d)他のDNA配列へのヒト免疫グロブリン遺伝子配列のスプライシングを伴う任意の他の手段によって調製、発現、作成、又は単離された抗体などの、組換え手段によって調製、発現、作成、又は単離される全てのヒト抗体を含む。そのような組換えヒト抗体は、フレームワーク及びCDR領域が、本明細書に開示される再構築された免疫グロブリンコンセンサス配列に由来する可変領域を有する。しかしながら、特定の実施形態では、そのような組換えヒト抗体は、インビトロの変異誘発(又はヒトIg配列のための動物遺伝子組換えが使用されるとき、インビボの体細胞変異誘発)に供され得、したがって、組換え抗体のVH及びVL領域のアミノ酸配列は、ヒト免疫グロブリンVH及びVL配列に由来し、それらに関連するが、インビボにおけるヒト抗体生殖系列レパートリー内には天然に存在しない場合がある配列である。
【0176】
本明細書で使用される場合、「単離核酸」は、他のゲノムDNA配列、並びに天然配列に天然に付随するリボソーム及びポリメラーゼなどのタンパク質又は複合体から実質的に分離される核酸である。用語は、その天然由来環境から除去された核酸配列を包含し、組換え又はクローン化されたDNA単離物、及び化学的に合成された類似体又は異種系によって生物学的に合成された類似体を含む。実質的に純粋な核酸は、単離された形態の核酸を含む。当然ながら、これは、元々単離された核酸を指し、後にヒトの手によって単離された核酸に追加された遺伝子又は配列を除外しない。「ポリペプチド」という用語は、例えば、アミノ酸の配列として、その従来的な意味で使用される。
【0177】
抗体又はその抗原結合断片の文脈では、「特異性」又は「~に特異的」という用語は、特定の抗体又はその抗原結合断片が結合し得る、異なるタイプの抗原又は抗原決定基の数を指す。抗体又は抗原結合断片若しくはその一部分の特異性は、親和性及び/又は結合性に基づいて決定され得る。抗原結合タンパク質を有する抗原の解離(KD)に対する平衡定数によって表される親和性は、抗原結合タンパク質上の抗原決定基と抗原結合部位との間の結合強度の尺度であり、KDの値が低いほど、抗原決定基と抗原結合分子との間の結合強度が強くなる。あるいは、親和性は、1/KDである親和性定数(KA)としても発現され得る)。当業者には明らかであろうように、親和性は、関心対象の特定抗原に応じて、それ自体が公知の様式で決定され得る。したがって、本明細書に定義される抗体又はその抗原結合断片は、当該アミノ酸配列又はポリペプチドが別の標的又はポリペプチドに結合する親和性の少なくとも100倍、好ましくは少なくとも1000倍、最大10,000倍などの、少なくとも50倍である親和性(上記のように、及び、例えば、KD値として好適に表現される)を有する第1の抗原に結合するときに、第2の標的又は抗原と比較して第1の標的又は抗原に「特異的」であると言及される。好ましくは、抗体又はその抗原結合断片が、標的又は抗原に「特異的」であるとき、別の標的又は抗原と比較して、標的又は抗原を結合し得るが、他の標的又は抗原を結合しない。
【0178】
しかしながら、当業者によって理解されるように、いくつかの実施形態では、標的上の結合部位は、複数の異なるリガンドによって共有されるか、又は部分的に共有され、抗体又はその抗原結合断片は、がん関連抗原などの標的に特異的に結合し得、例えば、腫瘍の進行を阻害/予防する機能効果を有し得る。
【0179】
結合性は、抗原結合分子と関連する抗原との間の結合の強度の尺度である。親和性は、抗原結合分子上の抗原決定基とその抗原結合部位との間の親和性、及び抗原結合分子上に存在する関連する結合部位の数の両方に関連する。典型的には、抗原結合タンパク質は、解離定数(10-5~10-12モル/リットル以下、好ましくは10-7~10-12モル/リットル以下、より好ましくは10-8~10-12モル/リットルのKD(例えば、105~1012リットル/モル以上、好ましくは107~1012リットル/モル以上、より好ましくは108~1012リットル/モルの会合定数(KA)を有する)を有する、それらの同族又は特異的抗原に結合することになる。10-4モル/リットル超の任意のKD値(又は104M-1未満の任意のKA値)は、非特異的結合を示すと一般的にみなされる。有意(例えば、特異的)であるとみなされる生物学的相互作用のKDは、典型的には、10-10M(0.1nM)~10-5M(10000nM)の範囲内である。相互作用が強いほど、そのKDは低くなる。好ましくは、本明細書に説明される抗LAP抗体又はその抗原結合断片上の結合部位は、500pM未満などの、500nM未満、好ましくは200nM未満、より好ましくは10nM未満の親和性で結合することになる。抗原又は抗原決定基に対する抗原結合タンパク質の特異的結合は、例えば、Scatchard分析、並びに/又は放射免疫測定(RIA)、酵素免疫測定(EIA)、及びサンドイッチ競合アッセイなどの競合結合アッセイと、当該技術分野でそれ自体が既知の異なるバリアントと、本明細書に述べられる他の技術と、を含む、それ自体が公知の任意の好適な様式で決定され得る。
【0180】
本明細書で使用される場合、「融合タンパク質」という用語は、抗体又はその断片のアミノ酸配列、及び異種ポリペプチド(例えば、非関連ポリペプチド)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを指す。
【0181】
本明細書で使用される場合、「宿主細胞」という用語は、核酸分子で遺伝子導入された特定の対象細胞、及びそのような細胞の後代又は潜在的な後代を指す。そのような細胞の後代は、後続する世代において、又は宿主細胞ゲノムへの核酸分子の組み込みにおいて生じ得る突然変異又は環境的影響に起因して、核酸分子で遺伝子導入された親細胞と同一ではない場合がある。
【0182】
デジタル処理デバイス
いくつかの実施形態では、本明細書に説明されるシステム、デバイス、プラットフォーム、媒体、方法、及びアプリケーションは、デジタル処理デバイス、プロセッサ、又はそれらの使用を含む。例えば、いくつかの実施形態では、デジタル処理デバイスは、本明細書に説明される再構築されたコンセンサス配列を生成するためのシステムの一部である。いくつかの実施形態では、システムは、デジタル処理デバイスを備える。いくつかの実施形態では、システムは、コンピューティングシステムである。更なる実施形態では、デジタル処理デバイスは、デバイスの機能を実施する、1つ以上のプロセッサ又はハードウェア中央処理装置(CPU)を含む。また更なる実施形態では、デジタル処理デバイスは、実行可能な命令を実施するように構成されたオペレーティングシステムを更に含む。いくつかの実施形態では、デジタル処理デバイスは、任意選択的に、コンピュータネットワークに接続される。更なる実施形態では、デジタル処理デバイスは、ワールドワイドウェブにアクセスするように、任意選択的に、インターネットに接続される。なお更なる実施形態では、デジタル処理デバイスは、任意選択的に、クラウドコンピューティングインフラストラクチャに接続される。他の実施形態では、デジタル処理デバイスは、任意選択的に、イントラネットに接続される。他の実施形態では、デジタル処理デバイスは、任意選択的に、データストレージデバイスに接続される。本明細書の説明によると、好適なデジタル処理デバイスは、非限定的な例として、サーバコンピュータ、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、ノートブックコンピュータ、サブノートブックコンピュータ、ネットブックコンピュータ、ネットパッドコンピュータ、セットトップコンピュータ、ハンドヘルドコンピュータ、インターネットアプライアンス、モバイルスマートフォン、タブレットコンピュータ、パーソナルデジタルアシスタント、ビデオゲームコンソール、及び車両を含む。当業者であれば、多くのスマートフォンが、本明細書に説明されるシステムにおける使用に好適であることを認識するであろう。当業者はまた、任意選択のコンピュータネットワーク接続を有する選択されたテレビ、ビデオプレーヤー、及びデジタル音楽プレーヤーが、本明細書に説明されるシステムにおける使用に好適であることも認識するであろう。好適なタブレットコンピュータとしては、当業者に公知のブックレット、スレート、及びコンバーチブル構成を有するものが挙げられる。
【0183】
いくつかの実施形態では、デジタル処理デバイスは、実行可能な命令を実施するように構成されたオペレーティングシステムを含む。オペレーティングシステムは、例えば、デバイスのハードウェアを管理し、アプリケーションの実行のためのサービスを提供する、プログラム及びデータを含むソフトウェアである。当業者であれば、好適なサーバオペレーティングシステムが、非限定的な例として、FreeBSD、OpenBSD、NetBSD(登録商標)、Linux(登録商標)、Apple(登録商標)、Mac OS X Server(登録商標)、Oracle(登録商標)、Solaris(登録商標)、Windows Server(登録商標)、及びNovell(登録商標)NetWare(登録商標)を含むことを認識するであろう。当業者であれば、適切なパーソナルコンピュータオペレーティングシステムが、非限定的な例として、Microsoft(登録商標)Windows(登録商標)、Apple(登録商標)、Mac OS X(登録商標)、UNIX(登録商標)、及びGNU/Linux(登録商標)などのUNIX様オペレーティングシステムを含むことを認識するであろう。いくつかの実施形態では、オペレーティングシステムは、クラウドコンピューティングによって提供される。当業者であれば、好適なモバイルスマートフォンオペレーティングシステムが、非限定的な例として、Nokia(登録商標)Symbian(登録商標)OS、Apple(登録商標)iOS(登録商標)、Research In Motion(登録商標)BlackBerry OS(登録商標)、Google(登録商標)Android(登録商標)、Microsoft(登録商標)Windows Phone(登録商標)OS、Microsoft(登録商標)Windows Mobile(登録商標)OS、Linux(登録商標)、及びPalm(登録商標)WebOS(登録商標)を含むことも認識するであろう。
【0184】
いくつかの実施形態では、デバイスは、ストレージ及び/又はメモリデバイスを含む。ストレージ及び/又はメモリデバイスは、一時的又は恒久的にデータ又はプログラムを記憶するために使用される1つ以上の物理的装置である。いくつかの実施形態では、デバイスは、揮発性メモリであり、記憶された情報を維持するために電力を必要とする。いくつかの実施形態では、デバイスは、不揮発性メモリであり、デジタル処理デバイスが給電されていないときに記憶された情報を保持する。更なる実施形態では、不揮発性メモリは、フラッシュメモリを含む。いくつかの実施形態では、不揮発性メモリは、ダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)を含む。いくつかの実施形態では、不揮発性メモリは、強誘電体メモリ(FRAM)を含む。いくつかの実施形態では、不揮発性メモリは、相変化メモリ(PRAM)を含む。いくつかの実施形態では、不揮発性メモリは、磁気抵抗メモリ(MRAM)を含む。他の実施形態では、デバイスは、非限定的な例として、CD-ROM、DVD、フラッシュメモリデバイス、磁気ディスクドライブ、磁気テープドライブ、光ディスクドライブ、及びクラウドコンピューティングベースのストレージを含む、ストレージデバイスである。更なる実施形態では、ストレージ及び/又はメモリデバイスは、本明細書に開示されるものなどのデバイスの組み合わせである。
【0185】
いくつかの実施形態では、デジタル処理デバイスは、対象に視覚情報を送信するディスプレイを含む。いくつかの実施形態では、ディスプレイは、陰極線管(CRT)である。いくつかの実施形態では、ディスプレイは、液晶ディスプレイ(LCD)である。更なる実施形態では、ディスプレイは、薄膜トランジスタ液晶ディスプレイ(TFT-LCD)である。いくつかの実施形態では、ディスプレイは、有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイである。様々な更なる実施形態では、OLEDディスプレイは、パッシブマトリクスOLED(PMOLED)又はアクティブマトリクスOLED(AMOLED)ディスプレイである。いくつかの実施形態では、ディスプレイは、プラズマディスプレイである。いくつかの実施形態では、ディスプレイは、電子ペーパー又はEインクである。他の実施形態では、ディスプレイは、ビデオプロジェクタである。なお更なる実施形態では、ディスプレイは、本明細書に開示されるものなどのデバイスの組み合わせである。
【0186】
いくつかの実施形態では、デジタル処理デバイスは、対象から情報を受信するための入力デバイスを含む。いくつかの実施形態では、入力デバイスは、キーボードである。いくつかの実施形態では、入力デバイスは、非限定的な例として、マウス、トラックボール、トラックパッド、ジョイスティック、ゲームコントローラ、又はスタイラスを含む、ポインティングデバイスである。いくつかの実施形態では、入力デバイスは、タッチスクリーン又はマルチタッチスクリーンである。他の実施形態では、入力デバイスは、音声又は他の音声入力を捕捉するためのマイクである。他の実施形態では、入力デバイスは、動き又は視覚的入力を捕捉するためのビデオカメラ又は他のセンサである。更なる実施形態では、入力デバイスは、Kinect、Leap Motionなどである。なお更なる実施形態では、入力デバイスは、本明細書に開示されるものなどのデバイスの組み合わせである。
【0187】
非一時的コンピュータ可読記憶媒体
いくつかの実施形態では、本明細書に説明されるプラットフォーム、媒体、方法、及びアプリケーションは、任意選択的にネットワーク化されたデジタル処理デバイスのオペレーティングシステムによって実行可能な命令を含むプログラムでコードされた1つ以上の非一時的コンピュータ可読記憶媒体を含む。更なる実施形態では、コンピュータ可読記憶媒体は、デジタル処理デバイスの有形構成要素である。なお更なる実施形態では、コンピュータ可読記憶媒体は、任意選択的に、デジタル処理デバイスから取り外し可能である。いくつかの実施形態では、コンピュータ可読記憶媒体は、非限定的な例として、CD-ROM、DVD、フラッシュメモリデバイス、ソリッドステートメモリ、磁気ディスクドライブ、磁気テープドライブ、光ディスクドライブ、クラウドコンピューティングシステム及びサービスなどを含む。いくつかの場合では、プログラム及び命令は、恒久的、実質的に恒久的、半恒久的、又は非一時的に媒体上でコードされる。
【0188】
コンピュータプログラム
いくつかの実施形態では、本明細書に説明されるプラットフォーム、媒体、方法、及びアプリケーションは、少なくとも1つのコンピュータプログラム、又はその使用を含む。コンピュータプログラムは、指定されたタスクを実施するために記述された、デジタル処理デバイスのCPU内で実行可能な一連の命令を含む。コンピュータ可読命令は、特定のタスクを実施するか、又は特定の抽象データ型を実装する、関数、オブジェクト、アプリケーションプログラミングインターフェース(API)、データ構造などのプログラムモジュールとして実装され得る。本明細書に提供される開示に照らして、当業者は、コンピュータプログラムが様々な言語の様々なバージョンで記述され得ることを認識するであろう。
【0189】
コンピュータ可読命令の機能性は、様々な環境で望ましいように組み合わせられてもよく、又は分配されてもよい。いくつかの実施形態では、コンピュータプログラムは、1つの一連の命令を含む。いくつかの実施形態では、コンピュータプログラムは、複数の一連の命令を含む。いくつかの実施形態では、コンピュータプログラムは、1つの場所から提供される。いくつかの実施形態では、コンピュータプログラムは、複数の場所から提供される。様々な実施形態では、コンピュータプログラムは、1つ以上のソフトウェアモジュールを含む。様々な実施形態では、コンピュータプログラムは、部分的又は全体的に、1つ以上のウェブアプリケーション、1つ以上のモバイルアプリケーション、1つ以上のスタンドアロンアプリケーション、1つ以上のウェブブラウザプラグイン、拡張機能、アドイン、若しくはアドオン、又はそれらの組み合わせを含む。
【0190】
ウェブアプリケーション
いくつかの実施形態では、コンピュータプログラムは、ウェブアプリケーションを含む。本明細書に提供される開示に照らして、当業者は、様々な実施形態で、ウェブアプリケーションが、1つ以上のソフトウェアフレームワーク及び1つ以上のデータベースシステムを利用することを認識するであろう。いくつかの実施形態では、ウェブアプリケーションは、Microsoft(登録商標).NET又はRuby on Rails(RoR)などのソフトウェアフレームワーク上に作成される。いくつかの実施形態では、ウェブアプリケーションは、非限定的な実施例、関係、非関係、オブジェクト指向、連想、及びXMLデータベースシステムを含む、1つ以上のデータベースシステムを利用する。更なる実施形態では、好適な関係データベースシステムは、非限定的な例として、Microsoft(登録商標)SQL Server、mySQL(商標)、及びOracle(登録商標)を含む。当業者であれば、様々な実施形態では、ウェブアプリケーションが1つ以上の言語の1つ以上のバージョンで記述されていることも認識するであろう。ウェブアプリケーションは、1つ以上のマークアップ言語、プレゼンテーション定義言語、クライアント側スクリプト言語、サーバ側コーディング言語、データベース照会言語、又はそれらの組み合わせで記述され得る。いくつかの実施形態では、ウェブアプリケーションは、ハイパーテキストマークアップ言語(HTML)、拡張ハイパーテキストマークアップ言語(XHTML)、又はeXtensibleマークアップ言語(XML)などのマークアップ言語である程度記述される。いくつかの実施形態では、ウェブアプリケーションは、カスケーディングスタイルシート(CSS)などのプレゼンテーション定義言語である程度記述される。いくつかの実施形態では、ウェブアプリケーションは、非同期Javascript(登録商標)及びXML(AJAX)、Flash(登録商標)Actionscript、Javascript、又はSilverlight(登録商標)などのクライアント側スクリプト言語である程度記述される。いくつかの実施形態では、ウェブアプリケーションは、Active Server Pages(ASP)、ColdFusion(登録商標)、Perl、Java(登録商標)、JavaServer Pages(JSP)、Hypertext Preprocessor(PHP)、Python(商標)、Ruby、Tcl、Smalltalk、WebDNA(登録商標)、又はGroovyなどのサーバ側コーディング言語である程度記述される。いくつかの実施形態では、ウェブアプリケーションは、構造化照会言語(SQL)などのデータベース照会言語である程度記述される。いくつかの実施形態では、ウェブアプリケーションは、IBM(登録商標)Lotus Domino(登録商標)などのエンタープライズサーバ製品を統合する。いくつかの実施形態では、ウェブアプリケーションは、メディアプレーヤー要素を含む。様々な更なる実施形態では、メディアプレーヤー要素は、非限定的な例として、Adobe(登録商標)Flash(登録商標)、HTML5、Apple(登録商標)QuickTime(登録商標)、Microsoft(登録商標)Silverlight(登録商標)、Java(商標)、及びUnity(登録商標)を含む、多くの好適なマルチメディア技術のうちの1つ以上を利用する。
【0191】
モバイルアプリケーション
いくつかの実施形態では、コンピュータプログラムは、スマートフォンなどのモバイルデジタル処理デバイスに提供されるモバイルアプリケーションを含む。いくつかの実施形態では、モバイルアプリケーションは、それが製造される時点でモバイルデジタル処理デバイスに提供される。他の実施形態では、モバイルアプリケーションは、本明細書に説明されるコンピュータネットワークを介してモバイルデジタル処理デバイスに提供される。
【0192】
本明細書に提供される開示の観点から、モバイルアプリケーションは、当該技術分野で公知のハードウェア、言語、及び開発環境を使用して、当業者に公知の技術によって作成される。当業者であれば、モバイルアプリケーションがいくつかの言語で記述されていることを認識するであろう。好適なプログラミング言語としては、非限定的な例として、C、C++、C#、Objective-C、Java(商標)、Javascript、Pascal、Object Pascal、Python(商標)、Ruby、VB.NET、WML、及びCSSあり若しくはなしのXHTML/HTML、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0193】
好適なモバイルアプリケーション開発環境は、いくつかのソースから入手可能である。商業的に利用可能な開発環境としては、非限定的な例として、AirplaySDK、alcheMo、Appcelerator(登録商標)、Celsius、Bedrock、Flash Lite、.NET Compact Framework、Rhomobile、及びWorkLight Mobile Platformが挙げられる。他の開発環境は、非限定的な例として、Lazarus、MobiFlex、MoSync、及びPhonegapを含む、費用なしで利用可能である。また、モバイルデバイス製造業者は、非限定的な例として、iPhone(登録商標)及びiPad(登録商標)(iOS)SDK、Android(商標)SDK、BlackBerry(登録商標)SDK、BREW SDK、Palm(登録商標)OS SDK、Symbian SDK、webOS SDK、及びWindows(登録商標)Mobile SDKを含むソフトウェア開発者キットを配布している。
【0194】
当業者であれば、非限定的な例として、Apple(登録商標)App Store、Android(商標)Market、BlackBerry(登録商標)App World、App Store for Palm devices、App Catalog for webOS、Windows(登録商標)Marketplace for Mobile、Ovi Store for Nokia(登録商標)devices、Samsung(登録商標)Apps、及びNintendo(登録商標)DSi Shopを含む、いくつかの商用フォーラムがモバイルアプリケーションの配布に利用可能であることを認識するであろう。
【0195】
スタンドアロンアプリケーション
いくつかの実施形態では、コンピュータプログラムは、独立したコンピュータプロセスとして実行されるプログラムであり、既存のプロセスへのアドオンではない、例えば、プラグインではない、スタンドアロンアプリケーションを含む。当業者であれば、スタンドアロンアプリケーションが、多くの場合、コンパイルされていることを認識するであろう。コンパイラは、プログラミング言語で記述されたソースコードを、アセンブリ言語又は機械コードなどのバイナリオブジェクトコードに変換するコンピュータプログラムである。好適なコンパイルされたプログラミング言語としては、非限定的な例として、C、C++、Objective-C、COBOL、Delphi、Eiffel、Java(商標)、Lisp、Python(商標)、ビジュアルベーシック、及びVB.NET、又はそれらの組み合わせが挙げられる。コンパイルは、多くの場合、実行可能プログラムを作成するために、少なくとも部分的に実施される。いくつかの実施形態では、コンピュータプログラムは、1つ以上の実行可能なコンパイルされたアプリケーションを含む。
【0196】
ソフトウェアモジュール
いくつかの実施形態では、本明細書に説明されるプラットフォーム、媒体、方法、及びアプリケーションは、ソフトウェア、サーバ、及び/若しくはデータベースモジュール、又はそれらの使用を含む。本明細書に提供される開示を考慮すると、ソフトウェアモジュールは、当該技術分野に公知の機械、ソフトウェア、及び言語を使用して、当業者に公知の技術によって作成される。本明細書に開示されるソフトウェアモジュールは、多数の方式で実装される。様々な実施形態では、ソフトウェアモジュールは、ファイル、コードのセクション、プログラミングオブジェクト、プログラミング構造、又はそれらの組み合わせを含む。更に様々な実施形態では、ソフトウェアモジュールは、複数のファイル、複数のコードのセクション、複数のプログラミングオブジェクト、複数のプログラミング構造、又はそれらの組み合わせを含む。様々な実施形態では、1つ以上のソフトウェアモジュールは、非限定的な例によって、ウェブアプリケーション、モバイルアプリケーション、及びスタンドアロンアプリケーションを含む。いくつかの実施形態では、ソフトウェアモジュールは、1つのコンピュータプログラム又はアプリケーション内にある。他の実施形態では、ソフトウェアモジュールは、2つ以上のコンピュータプログラム又はアプリケーション内にある。いくつかの実施形態では、ソフトウェアモジュールは、1台のマシン上でホストされる。他の実施形態では、ソフトウェアモジュールは、2つ以上のマシン上でホストされる。更なる実施形態では、ソフトウェアモジュールは、クラウドコンピューティングプラットフォーム上でホストされる。いくつかの実施形態では、ソフトウェアモジュールは、1つの場所で1つ以上のマシン上でホストされる。他の実施形態では、ソフトウェアモジュールは、2つ以上の場所で1つ以上のマシン上でホストされる。
【0197】
データベース
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるプラットフォーム、システム、媒体、及び方法は、1つ以上のデータベース、又はその使用を含む。本明細書に提供される開示の観点から、当業者であれば、多くのデータベースが、バーコード、経路、小包、対象、又はネットワーク情報の記憶及び検索に好適であることを認識するであろう。様々な実施形態では、好適なデータベースは、非限定的な例として、関係データベース、非関係データベース、オブジェクト指向データベース、オブジェクトデータベース、実体関連モデルデータベース、連想データベース、及びXMLデータベースを含む。いくつかの実施形態では、データベースは、インターネットベースである。更なる実施形態では、データベースは、ウェブベースである。なお更なる実施形態では、データベースは、クラウドコンピューティングベースである。他の実施形態では、データベースは、1つ以上のローカルコンピュータストレージデバイスに基づく。
【0198】
例示的な方法
図9は、本開示の実施形態による、再構築されたコンセンサス配列を生成する例示的な方法900を開示する。方法900は、がんなどの疾患又は障害を有する対象から取得された複数の生物学的試料についてのリボ核酸配列データを取得することによって開始し得る(ステップ910)。次いで、リボ核酸配列データが、複数の固有の免疫グロブリンクロノタイプを識別するように処理され得る(ステップ920)。次いで、複数の固有の免疫グロブリンクロノタイプに基づいて、免疫グロブリンの少なくとも一部分をコードする再構築されたコンセンサス配列が生成される(ステップ930)。
【0199】
図10は、本開示の実施形態による、mRNA配列決定データから、疾患又は障害と関連付けられたタンパク質二量体を識別する例示的な方法1000を開示する。方法1000は、疾患又は障害を有する対象から取得された複数の生物学的試料についてのリボ核酸配列データを取得することを含む(ステップ1010)。リボ核酸は、例えば、がん、自己免疫疾患、又は感染性疾患などの、急性免疫応答を経験した患者組織に由来し得る。次いで、リボ核酸配列データが、複数の固有のmRNA転写物を識別するように処理され得る(ステップ1020)。複数の固有のmRNA転写物に基づいて、少なくとも1つのタンパク質二量体が識別され得、少なくとも1つのタンパク質二量体は、第1のタンパク質アイソフォームと、複数のmRNAアイソフォームから推測される第2のタンパク質アイソフォームと、を含む(ステップ1030)。次いで、少なくとも1つのタンパク質二量体をコードする再構築されたコンセンサス配列が生成され得る(ステップ1040)。
【0200】
リボ核酸配列データを処理すること(ステップ1020)は、様々な方式で実施され得る。一実施形態では、2つの遺伝子、A及びBを考慮する。遺伝子Aは、異なるタンパク質アイソフォームをコードする、未知の配列の複数のmRNAアイソフォーム(a1、a2、…ai)を生成することができ、遺伝子Bは、異なるタンパク質アイソフォームをコードする、未知の配列の複数のmRNAアイソフォーム(b1、b2、…bi)を生成することができる。遺伝子A及びBの両方の発現されたコピーが、リボ核酸配列データに存在し得、これは、ショートリードを含むバルクRNA配列決定データセットDであり得る。Dは、A及びBのコーディング領域から遠く離れたゲノム遺伝子座から生じる可能性が高いD内のそれらのショートリードを除去するために、トランスクリプトーム参照されたゲノムアライナー、又は疑似アラインメントなどの同様の代替物を使用して更にフィルタリングされ得、このより小さいリードのセットは、D’と称され得る。一実施形態では、タンパク質異性体中のmRNAアイソフォームをコードすることが知られている遺伝子座から半リード長、1リード長、2リード長、又はそれ以上離れて整列又は疑似整列するリボ核酸配列データ配列リードが、破棄される。
【0201】
一実施形態では、D’内に含有される遺伝子A及びBの最も可能性のあるmRNAアイソフォームは、(例えば)de Bruijnグラフアセンブリ、又はオーバーラップレイアウトコンセンサスアセンブリなどの同等の方法を使用して、D’内のショートリードをアセンブルすることによって決定され得、その結果、遺伝子A(a*1、a*2、…a*i)及び遺伝子B(b*1、b*2、…b*i)からの一組のmRNAアイソフォームをもたらす。1つの実施形態では、タンパク質異性体中のmRNAアイソフォームをコードすることが知られているゲノム遺伝子座の半リード長以内、1リード長以内、2リード長以内、又はゲノム遺伝子座の内側に整列するそれらのリボ核酸配列データ配列リードのみが、(例えば)de Bruijnグラフアセンブリ、又はオーバーラップレイアウトコンセンサスアセンブリなどの同等の方法を使用して、インシリコのアイソフォーム配列にアセンブルされる。
【0202】
少なくとも1つのタンパク質二量体を識別すること(ステップ1030)は、様々な方式で実施され得る。一実施形態では、遺伝子A及び遺伝子Bからの一組のmRNAアイソフォームがアセンブルされると、各推測されるmRNAアイソフォームの発現レベルは、当該技術分野で公知の遺伝子発現定量化方法を使用して、D’に基づいて決定され得る。次いで、発現レベルの推定値が、インビボで形成され得る少なくとも1つのタンパク質二量体(a*i、b*j)を推測するためにA及びBの各アイソフォームについて分析され得、少なくとも1つのタンパク質二量体(a*i、b*j)が、Aのタンパク質アイソフォーム(a*i)及びBのタンパク質アイソフォーム(b*j)を含む。1つの実施形態では、ペアリングは、スコアを計算することによって決定され得る。いくつかの実施形態では、スコアは、遺伝子A及び遺伝子Bの各々について、最も豊富なアイソフォームと、2番目に豊富なアイソフォームとのクローン性比である。他の実施形態では、スコアは、優性スコアであり、これは、A及びBの各アイソフォームに対するBerger-Parker優性指数を計算し、次いで、これらの指数の幾何平均として優性スコアを計算することによって決定され得る。これらの尺度は、試料内で特に優性である少なくとも1つのタンパク質二量体(a*i、b*j)を識別するために使用され得る。
【0203】
本開示によるタンパク質二量体は、タンパク質異性体、二量体、三量体、多量体などの任意の種類又は組み合わせを含み得る。例えば、タンパク質二量体は、2つの重鎖及び2つの軽鎖を含む完全抗体分子などの、2つの関連タンパク質二量体を含み得る。いくつかの実施形態では、タンパク質二量体は、タンパク質単量体と別のタンパク質二量体との組み合わせを含み得る。様々な実施形態及びタンパク質アイソフォームの組み合わせが、本開示の範囲内で考慮される。
【0204】
1つの実施形態では、リボ核酸配列データで最も高度に発現される一対のmRNAアイソフォームを産生することができる合成発現ベクターを産生するために、インビトロ技術が使用される。別の実施形態では、合成発現ベクターが遺伝子導入コンピテント細胞株に遺伝子導入され、細胞が培養され、タンパク質二量体を含む合成ポリペプチドが発現され、精製される。
【0205】
方法1000を使用して推測されるタンパク質二量体は、タンパク質二量体が疾患又は障害の治療に有用であるか否かを決定するために実験的に検証され得る。1つの実施形態では、インビトロ技術が検証するために使用される。例えば、ヒト細胞株(例えば、HEK293細胞)などの複数の細胞に遺伝子導入されたとき、推測されるタンパク質アイソフォームa*i及びb*jの発現をガイドすることができる、2つの発現ベクターが生成され得る。次いで、複数の細胞が、2つの発現ベクターで遺伝子導入され、培養され得る。次いで、インビトロ技術が、培養上清中の仮定されたタンパク質二量体(a*i、b*j)の存在を検出するために使用され得、次いで、プロテオミクス技術が、生成されたデータに基づいて、推測されるタンパク質二量体(a*i、b*j)の相互作用物質を特性評価するために使用され得る。二量体の生存率を評価することを目的としたインビボ及びインビトロ実験の両方が実施され得、推測されるタンパク質二量体(a*i、b*j)の潜在的な治療用途が決定され得る。追加のインビボ実験が、治療用途を評価するために実施され得る。
【0206】
一実施形態では、インビトロのプロテオミクス技術は、タンパク質二量体に結合する標的の同一性、結合解離定常Kd、又はタンパク質二量体がウイルス感染の中和において50%の効力を達成するIC50濃度を含むがこれに限定されない、結果として生じるタンパク質二量体の相互作用を特性評価するために使用される。一実施形態では、タンパク質二量体のインビトロの生物学的相互作用特性の実験的に導出された知識が、疾患の治療的処置のための医薬組成物又は医薬品の有効成分としてのタンパク質二量体の有用性を仮定し、インビボの試験を実施するために使用される。
【0207】
方法1000などの本開示による方法は、がん、自己免疫疾患、及び感染性疾患を治療することを含む、多くの用途を有する。例えば、方法1000は、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖から形成されるタンパク質二量体であるがん関連抗体を識別するために適用され得る。この例では、遺伝子Aが免疫グロブリン重鎖をコードするIGH遺伝子座であり、遺伝子Bが免疫グロブリン軽鎖をコードするIGK又はIGL遺伝子座であることを考慮する。これらの遺伝子座は、代替的なスプライシング、クラススイッチ、体細胞組換え、及び体細胞超変異のため、膨大な数の新規のタンパク質アイソフォームを産生する。この実施形態では、推測されるタンパク質二量体(a*i、b*j)は、免疫グロブリンの一部である。したがって、がん患者からのバルクRNA配列決定データに方法1000を使用して、識別されたタンパク質二量体は、そのがんと関連付けられた免疫グロブリンであり、したがって、そのがんのバインダーである可能性が高く、
図11A及び
図11Bに例示され、並びに以下の実施例に更に説明されるように、そのがんを治療するために使用され得る。
【0208】
別の例では、遺伝子Aは、T細胞受容体アルファ鎖をコードするTRA遺伝子座であり、Bは、T細胞受容体ベータ鎖をコードするTRB遺伝子座である。これらの遺伝子座は、代替的なスプライシング及び体細胞組換えに起因して、膨大な数の新規のタンパク質アイソフォームを産生する。この実施形態では、推測されるタンパク質二量体(a*i、b*j)は、T細胞受容体の一部である。
【0209】
別の例では、遺伝子A及びBは、補体系の遺伝子であり得る。これらの遺伝子座は、代替的なスプライシングに起因して、新規のタンパク質アイソフォームを産生する。この実施形態では、推測されるタンパク質二量体(a*i、b*j)は、補体カスケードの新規のメンバーであってもよい。
【実施例】
【0210】
がん関連抗体のコンセンサス配列のインシリコの再構築のための例示的な方法が以下に提供される。また、免疫グロブリンレパートリーの多様性の推定、及びレパートリー中に存在するクローン性の再構築された免疫グロブリンCDR3配列の識別のための計算分析アプローチもまた説明される。アプローチは、当該免疫グロブリンの可変重鎖、可変軽鎖、及びそれぞれのCDR3の完全なコンセンサス配列の再構築のために企図される。また、本明細書では、再構築されたコンセンサス配列を発現し、個別に試験するとともに、それらの標的抗原及び結合潜在性を識別する技術も説明される。
【0211】
概要
免疫グロブリン軽鎖及び重鎖をコードする転写物が、多くの場合、異なるがんのタイプにわたる固形腫瘍で検出されるが、それらの機能的関連性は不明なままである。腫瘍内Igレパートリーの特定の特性(例えば、転写物の存在量、クローン性及び検出可能な体細胞突然変異の数)は、より長い全生存及び免疫チェックポイント阻害剤への応答などの、好ましい臨床転帰と関連付けられている。更に、抗体選択及び産生機構の重要な構成要素である腫瘍内形質細胞及び異所性胚中心の存在は、より長い全生存及び免疫療法応答と関連付けられている。これらの観察にもかかわらず、がんに対する免疫応答への腫瘍内Igの寄与は、ほぼ未知のままである。
【0212】
腫瘍内Igの機能的特性評価に対する主な障害は、それらの標的抗原についての我々の限定的な理解である。これまでの研究では、大規模ながんゲノミクスの取り組みによって生成されたバルクRNA配列決定データ(RNA-Seq)からのバイオインフォマティクス方法を使用して、個々のIg鎖の配列が再構築され得ることが実証されている。専用のB細胞受容体(BCR)配列決定又は単一細胞配列決定と比較して、バルクRNA-seqは、数千の臨床的に注釈付けされた腫瘍試料に対して容易に利用可能となるという顕著な利点を有する。しかしながら、これまでの研究は、インシリコの分析に限定されており、これまでの研究は、抗体の標的抗原を実験的に識別するために必要な2つの重要なステップである、重鎖及び軽鎖Igをペアリングしようとすることも、結果的に得られた配列を完全抗体として発現しようとすることもなかった。
【0213】
以下の実施例では、我々は、ヒトがんのこれまでの最も包括的なゲノム研究のうちの1つであるTCGAからのレガシーバルクRNA-Seqデータを使用して、数千の腫瘍内Ig鎖をアセンブルし、ペアリングした(
図11A及び
図11Bに示されるように)。我々は、Ig鎖の283対の遺伝子合成、哺乳動物発現、及び精製を個別に実施し、ほとんどの場合、高品質の完全ヒト組換えの43個の抗体を取得した。次に、我々は、最も可能性の高い結合標的を取得するために、ヒトプロテオームの大部分をカバーする、組換えタンパク質の2つの大きいコレクションに対して、各抗体を個別にスクリーニングした。選択されたケースでは、我々は、結合動力学を特性評価するために、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して結合を確認した。我々の結果は、専門のBCR又は単一細胞配列決定を必要とせずに、レガシーバルク腫瘍RNA-Seqから完全機能性抗体が取得され得ることを示す。このアプローチを使用して、ヒト腫瘍で発現されたいくつかの高親和性Igの標的抗原を識別することができた。
【0214】
ヒト腫瘍におけるIg転写物の発現と好ましい臨床転帰との顕著な相関にもかかわらず、腫瘍内Igの機能的役割は、実質的に未知のままである。以下の実施例では、我々は、腫瘍内Igのインシリコのペアリングが、レガシー腫瘍RNA配列決定データから完全機能性抗体を取得するために使用され得ることを初めて実証した。更に、我々は、ハイスループットプロテオミクス技術を使用して、それらの標的抗原を識別し、それらの結合動力学を特性評価し、対応するエピトープをマッピングすることが可能であることを示す。これらのステップは、更なる機能的特性評価研究を可能にするために重要である。興味深いことに、我々は、高クローン性腫瘍内Igが、がん特異的抗原(NY-ESO-1、MAGEA3、GAGE2A、DLL3)のみならず、腫瘍微小環境(ANXA1、TGFBI、C4BPB)で発現される野生型タンパク質も結合するように選択されることを実証した。非変異自己抗原に対するものであるにもかかわらず、これらのIgは、同じ抗原で異なる種を免疫化することによって取得された抗体と同様に、非常に高い親和性でそれらの標的に結合する。この観察の重要性は二重であり、一方で、がん罹患組織における免疫応答中に末梢性免疫寛容が損なわれ得る程度を強調し、一方で、慢性炎症によって影響される組織で発現されたIg転写物を配列決定することによって、ヒトタンパク質に対する高親和性の完全ヒト抗体が取得され得ることを示唆する。
【0215】
我々は、産生された抗体の多くについて標的抗原を識別していないが、我々の抗原スクリーニングが非変異タンパク質のみを考慮したことに留意されたい。残りのオーファン抗体は、インシリコのペアリング方法のエラーによって説明され得る。あるいは、これらのオーファン抗体のいくつかは、特定の患者又はグリカンなどの非タンパク質抗原に特異的なネオ抗原を含む、我々が本試験でスクリーニングすることができなかった抗原に結合する可能性がある。抗原スクリーニング方法の進歩は、将来的に追加の候補の脱オーファン化することを可能にし得る。これらの制限にもかかわらず、この研究は、これまでに生成された個別にスクリーニングされた完全ヒト腫瘍内Igの最大のコレクションを生成し、抗腫瘍免疫応答中のそれらの機能的役割に関する我々の理解を改善させるための道を開き、レガシーRNA配列決定データから免疫学的洞察を抽出するための新規の方式を提案する。
【0216】
図11Aは、以下の実施例1~9に更に詳細に説明されるように、腫瘍試料の未加工のRNA配列決定データからの入力として開始し、非Ig転写物にマッピングされたリードを除去し、Ig鎖配列を再構築し、両方の鎖が優性閾値を満たすペアリングされた配列を出力する、計算ワークフローのステップを図示する。
図11Bは、以下の実施例10~13に更に詳細に説明されるように、再構築されたIgを組換え抗体として発現すること、2つの異なるヒトタンパク質ライブラリーを使用してそれらの標的抗原をスクリーニングすること、及び表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して結果を確認することを目的とした実験ワークフローのステップを図示する。
【0217】
実施例1:免疫グロブリンレパートリー多様性の推定
TCGAコンソーシアム(The Cancer Genome Atlas、NCI&NHGRI)によって収集された473人のTCGA皮膚黒色腫(SKCM)患者のRNA-seq FASTQファイルが記録及び分析された。RNA-seq試料(n=473)を、試料中に存在するレパートリーを識別するために、免疫グロブリンの参照V、D、及びJ遺伝子に対して整列させた。次いで、同一のCDR3配列を識別し、クロノタイプでグループ化した。情報は、タブ区切りかつ理解可能なテキストファイルにエクスポートされた(
図1)。最初の473個の試料から、免疫グロブリン重鎖遺伝子に整列するリードがなかったか、又はリード数がダウンサンプリング閾値未満であった178個の試料、及びリンパ節に対応する追加の25個の試料が排除された。合計で、270個の黒色腫試料からの免疫グロブリン(Ig)多様性に関する情報を収集し、分析した。
【0218】
VDJtoolsを使用して、非機能的(非コーディング)クロノタイプをフィルタリングし、基本的な多様性統計量を計算した。非機能性クロノタイプを、それらの受容体配列中に終止コドン又はフレームシフトを含有するものとして識別した。Igレパートリーの多様性は、Shannon-Wienerエントロピー指数の指数部として計算される種の有効数に基づいており、その結果、種頻度p1、…pi、…psを有するS種のコミュニティ、結果として、多様性(D)は、次式によって与えられるShannon-Wienerエントロピー指数(H)の指数である。
【数1】
【0219】
実施例2:クローン性免疫グロブリン配列の識別
上位50人の患者(高クローン性患者)を、それらの免疫グロブリン配列をより詳細に調査するために選択した。免疫グロブリン予測及び対応するリードアラインメントの手動精選は、更なるアラインメント調査のための14人の患者の選択につながった。以下の表8は、選択された患者の臨床及びクローン性情報を示す。
【表2】
【0220】
実施例3:V D J配列のアラインメント及びアセンブリ
結果を表示するために第1のアラインメントステップによって識別された免疫グロブリンセグメントに対してアラインメントを実施し、V、D、J遺伝子セグメントに沿った、特にCDR3領域長さの統計における、配列ミスマッチの頻度分布の探索を可能にした。このアラインメントステップは、レパートリーを要約するとともに、個々の照会配列の再構成及び領域アラインメントの詳細ビューを提案するのに有用であった。アラインメント及びアセンブリ方法に関するより詳細は、以下の実施例5に与えられる。
【0221】
簡潔に述べると、IMGTからの第1のアラインメントステップによって識別されたセグメントは、BraCeRツールに提供された参照ファイルを使用して最初に提供された。次いで、重鎖Dセグメント及び軽鎖V-J接合部配列を、インハウス構築アセンブラを使用して再構築した(詳細な説明は実施例5を参照されたい)。補正された重鎖D及び軽鎖V-J接合部配列を有するFASTAファイルを、各試料に対して生成した。アセンブルされたFASTAファイルに加えて、IgBLAST v1.9.0及びIMGTデータベースを使用して生殖系列のFASTAファイルも生成した。体細胞FASTA配列をIgBLASTに入力し、重鎖及び軽鎖の最も近いセグメントIDを取得した。次いで、生殖系列のFASTAを、IMGTデータベースから対応するセグメント配列をマージすることによって生成した。最終的にアセンブリされたFASTA配列は、以下に説明されるアラインメント及び可視化ステップのための「参照」配列として機能した。全ての最終的に「再構築された」ヌクレオチド及びアミノ酸コンセンサス配列が本明細書に提供される(表1~表4)。
【0222】
アラインメントの品質管理及び視覚的確認
アセンブリステップから生成された参照ファイルを使用して、FASTQを、BowTie2デフォルトモードで整列した。出力BAMファイルがIGV可視化に使用され得、患者の突然変異が観察され得る。
【0223】
4人の例示的な患者のデフォルトパラメータを有するBowTie2を使用した例示的なアラインメント及び対応する超変異の例が
図2A~
図2Jに示されている。重鎖のDセグメントを、カスタムローカルアセンブリツールを使用して識別し、FASTAファイルの対応する部分を編集したため、IGVプロットのDセグメントには突然変異は示されていない。
【0224】
実施例4:再構成された免疫グロブリンCDR3アミノ酸配列の識別
最終的にアセンブリされたFASTA配列からのCDR3領域及び対応するV、D、及びJ鎖の識別を、IgBLASTを用いて達成した。IgBLASTのバージョンv.1.9.0を使用して標準化された出力を、IgBLASTnをデフォルトパラメータでラッピングすることによって送達した。IgBLASTサービスからの出力は、CDR1、CDR2、及びCDR3のヌクレオチド及びアミノ酸配列を抽出するように設計された専用パーサーツールを使用して抽出される。選択された腫瘍試料に対するCDR3の識別されたヌクレオチド及びアミノ酸コンセンサス配列の概要が本明細書に提供される(例えば、表2及び表4)。
【0225】
実施例5:VDJ配列識別ワークフロー
VDJ配列識別ワークフローを使用して、所与の患者の体細胞及び生殖系列の配列、並びにCDR領域及び突然変異率などの情報を決定した。例示的なパイプラインは、3つのステップから構成される(
図3)。
1.体細胞配列の識別
2.手動IGV調査及び(必要に応じて)体細胞vdj配列の補正
3.生殖系列の配列及びCDR領域の識別
【0226】
ワークフローは、各標的患者について2つの入力を受け入れた。(1)TCGAアーカイブファイル:患者のTCGAアーカイブファイル。全ての出力ファイルの接頭辞は、患者のアーカイブファイルのメタデータ(例えばアリコートID)に基づいて決定された、(2)予備的アラインメント出力ファイル:予備的アラインメントのIGクローン出力を使用して、初期セグメントID予測を取得した。このテキストファイルは、重鎖及び軽鎖結果の両方を含んだ。
【0227】
パイプラインの3つのステップを全て完了することによって、以下の出力ファイルを取得した。
●体細胞配列:所与の患者の識別されたVDJ配列に対するFASTAファイル
●生殖系列の配列:IMGTデータベースを使用した、所与の患者の予測される生殖系列の配列に対するFASTAファイル。
●体細胞及び生殖系列のFASTAファイルのアミノ酸翻訳
●体細胞FASTAファイルのためのIgBLAST出力ログ:CDR領域を含む
●アラインメントログ:体細胞配列の重鎖D領域及び軽鎖V-J接合部の視覚的テキスト表現(検証目的)。
●集積ログ:我々が内部品質管理測定基準として使用する、セグメントの体細胞突然変異率、並びに重鎖及び軽鎖のV-Cセグメントのカバレッジ比を含有する。
【0228】
ステップ1:体細胞配列の識別
VDJ配列識別ワークフローの第1のステップは、体細胞配列の識別であった。この目的のために、最初に2つの入力が行われ、これらは、患者の第1のアラインメントステップ中に識別されたIGセグメントID及びFASTQファイルであった。体細胞配列の識別を3つのサブステージで実施した(
図4)。
【0229】
アセンブリステージ
予備的アラインメントステップ中、重鎖及び軽鎖の両方について、vdjcセグメントIDを識別した。次いで、セグメントID及びIMGTデータベースを使用して、重鎖配列及び軽鎖配列を、セグメント配列を付加してV(D)JC構造を形成することによって生成した。
【0230】
患者のFASTQが、第1のアラインメントステップによって生成された参照FASTAと整列されたとき、重鎖のDセグメント(
図5A)及び軽鎖のV-J接合部(
図5B)が適切に整列されなかったことが頻繁に観察された。これらのエリアにおける低カバレッジを観察する1つの理由は、抗体構築の高い突然変異率であり得る。これら2つの領域の体細胞突然変異は、IMGT参照に対するアラインメントの間、十分に高く、多くのリードが排除された。加えて、リードのサイズは、TCGA患者にとって典型的に小さく(例えば、黒色腫データセットについては50bp)、困難な(突然変異した)領域に整列させるのがより困難であった。
【0231】
重鎖D及び軽鎖V-J接合部における正しい配列を識別するために、カスタムアセンブリベースのアルゴリズムを実装した。第1のアラインメントステップ中に識別されたVDJセグメントから、22bpのシード配列を、Vセグメントの末端から選択した。Vセグメントの末端から、リード長を後方に読み取った。そのインデックスから、次の22bpを初期シードとして選択した。いくつかの実施形態では、シード配列は、少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、又は50bpである。いくつかの実施形態では、シード配列は、10、15、20、25、30、35、40、45、又は50bp以下である。
【0232】
シード配列が選択されると、FASTQファイルが、このシード配列を含有するリードについて検索された。体細胞突然変異が発生し得るため、照会適合が最大4の編集距離ペナルティを可能にすることによって、ファジーパターン検索アルゴリズム(例えば、bitapアルゴリズム)を使用した。
【0233】
第1の反復でリードが選択された後、Vセグメントとリード全体を比較することによって、非関連リードを排除した。照会適合率が、リードと、第1のアラインメントステップ中に識別されたVセグメントとの交差をチェックした。照会適合率が0.84未満である場合、リードを除去した。非関連リードが除去されると、リードを、それらの照会適合率で降順にソートし、集積処理のためにリードの前半を選択した。
【0234】
選択されたリードを使用して、塩基を集積し、単一の配列を形成した。生成された配列から、別の22bpのシードを選択し、新たな反復を開始した。以下の反復では、最大編集距離ペナルティを1まで低下させ、第1の反復とは対照的に、リード排除を実施しなかった。反復は、Jセグメントの半分以上をカバーする十分な長さの最終的にアセンブルされた配列が取得されるまで続けられた(
図6)。
【0235】
アセンブルされた重鎖D領域及び軽鎖V-J接合部が取得されると、参照の対応する部分を編集し、アラインメントステージ用の中間FASTAファイルを生成した。
【0236】
b.アラインメントステージ
カスタムアセンブリ方法を使用して困難な領域(例えば、重鎖D及び軽鎖V-J接合部)が識別された後、目的は、リードを整列させ、その後にバリアントコールを伴う、標準的なバリアントコールパイプラインを使用することによって、残りのバリアント(例えば、
図7に見られるバリアント)を補正することであった。この目的のために、デフォルトパラメータを有するBowTie2 2.2.6を使用した。出力BAMファイルのサイズを小さくするために、未整列のリードをBAMファイルから破棄した。その後、Sambamba0.5.9を使用して出力BAMファイルをソートした。
【0237】
c.集積ステージ
第3の段階では、バリアントコーラーを使用する代わりに、BAMファイルをアラインメント段階から使用して、集積処理を行って、参照ファイル内のバリアントを識別及び補正した。アラインメントの各位置について、SNP及びINDELをチェックした。20未満のリードの品質閾値は無視された。特定の位置のバリアントを識別するために、最小適合率として0.5を適用し、これは、合計リードの少なくとも半分がその位置のバリアントを含有するべきであることを意味する。総カバレッジが200リード未満である位置のバリアントも無視された。Vセグメントの第1の数個の塩基対、及びCセグメントの末端数個の塩基対において、低カバレッジ値が主に観察された。
【0238】
突然変異率の計算
最終配列が取得されると、配列を、BAMファイルが生成された初期参照ファイルと比較した。突然変異率は、セグメント間のレーベンシュタイン距離を、セグメントのアラインメント長さで除算されたものとして計算された(例えば、Python Levenshtein.ratio(seq1,seq2))。
【0239】
VセグメントとCセグメントとの間のカバレッジ比
内部品質管理ステップとして、患者が高クローン性であったことを確認するために、両鎖のVセグメントとCセグメントとの間で平均カバレッジをチェックした。集積ログファイルでは、カバレッジ比が0.3を超えた場合、これは、高いクローン性を示唆した。高いV/C比は、必ずしも患者が高度にクローン性であることを意味するとは限らない。しかしながら、低いV/C比は、低いクローン性に対する強い兆候であり得る。
【0240】
ステップ2:手動IGV検査及び体細胞配列補正
ステップ1を通じて体細胞FASTAファイルを取得すると、IGVブラウザを使用してFASTAファイルを手動で検査した。IGVブラウザで、我々の体細胞参照ファイルでバリアントを示したか否かをチェックした。ステップ1の集積ステージにおける少ないリード数に起因して、以前はスキップされていた塩基が、ほとんど補正された。
【0241】
ステップ3:生殖系列の配列及びCDR領域の識別
図8は、生殖系列及びCDRの配列識別の詳細なスキームを例示する。第1の2つのステップで最終的な体細胞配列が識別されると、参照をIgBLASTツールに入力して、IMGTデータベースから最も近いセグメントIDを識別した。最も近いIDが識別されると、V(D)JC形態のIMGTデータベースからの配列をマージすることによって生殖系列の配列を生成した。
【0242】
IgBLASTはまた、例示的な抗体のCDR1、CDR2、及びCDR3配列の位置も報告した。これらの位置を使用して、体細胞配列をクリップし、CDR領域をアミノ酸翻訳で返した。
【0243】
最終ステップとして、再構築された完全生殖系列及び体細胞VDJコンセンサス配列のアミノ酸翻訳を生成した。
【0244】
実施例6:TCGAデータセットにおける優性Ig配列の識別
いくつかの腫瘍試料では、Igレパートリーが特にクローン性であることが観察されており、Ig転写物の小さいセットが、高レベルで発現され、その試料中のIg遺伝子に起因する全てのリードの大部分を占める。我々は、おそらく、胚中心(GC)反応における濾胞性ヘルパーT(Tfh)細胞への限定されたアクセスに対する競争に勝つ選択されたB細胞クローンから結果的に生じるこの現象が、少なくともいくつかのケースで、バルクRNA-SeqデータからのIg重鎖及び軽鎖を正しくペアリングするために使用され得ると推測した。したがって、我々は、各TCGA腫瘍試料で発現されたIg鎖配列を計算的にアセンブルし、我々は、特に優性配列を有する試料を識別するために、関連付けられたBerger-Parker指数を計算した。
図13は、TCGAデータセット中の腫瘍サンプルから再構築された重鎖及び軽鎖のBerger-Parker優性スコアの分布を図示する。
図13に示されるように、我々は、分析された試料の小さいが、無意味ではない割合が、高度に優性のIg配列を発現したことを観察した。
【0245】
免疫グロブリン転写物に由来するものではない配列決定リードの量は、フィルタリングを通じて低減され得る。この例では、3つのフィルタリングステップが使用され得る。まず、我々は、参照として、Kallisto(バージョン0.44)(Bray et al.2016)及びGencode(バージョン22)(Harrow et al.2012)のタンパク質コード配列を使用して、免疫グロブリン遺伝子にマッピングするか、又はマッピングすることができないリードのいずれかのみを選択する。次に、我々は、残りのリードを全ヒトゲノム(バージョンGRCh38、(Harrow et al.2012、Schneider et al.2017))にマッピングし、免疫グロブリン遺伝子座にマッピングするか、又は全くマッピングすることができないリードのみを再び保持する。次いで、リードがマッピングから抽出され、Sambamba(Tarasov et al.2015)ビュー(バージョン(0.5.9)及びSamtools(Li et al.2009)Fastq(バージョン1.8)コマンドを使用してFASTQに復帰し得る。第3のフィルタリングステップでは、ウイルス源及び細菌源に由来するリードは、kraken2(Wood et al.2019)を実行して、未分類リードを保持することによってフィルタリングされてもよい。
【0246】
リードがフィルタリングされると、それらは、例えば、カスタムパラメータ「-no_normalize_reads」、「-max_chrysalis_cluster_size100」、及び「-max_reads_per_graph5000000」を用いて、Trinity RNA Seqアセンブラ(バージョン2.8.4)(Grabherr et al.2011)を使用してアセンブルされ得る。次いで、我々は、IgBLAST(Wood et al.2019、Ye et al.2013)(バージョン1.13)を使用して、アセンブルされた配列をそれらの生殖系列のV、D、及びJ領域にマッピングする。高いV遺伝子照会適合スコア(カットオフ=100)を有する配列は、推定上の免疫グロブリン鎖として保持される。
【0247】
このワークフローの性能を評価し、強く発現されたクローンが存在する場合に、どの重鎖及び軽鎖が対を形成するかを識別する可能性を評価するために、我々は、Lindeman,I.et al.,BraCeR:B-cell-receptor reconstruction and clonality inference from single-cell RNA-seq,Nat.Methods 15,563-565(2018)からの試料PW2に対する単一細胞配列決定データを使用して合成ベンチマークを生成した。我々は、
図15に例示されるように(推定平均=5.78、標準偏差-1.52)、各再構築されたIg鎖にマッピングされたTCGAデータにおけるIgリードの分布を推定し、それが対数正規モデルに厳密に従うことを見出した。我々は、次いで、1,000個の合成試料のセットを生成した。我々は、この分布から25個の数をサンプリングし、それらをPW2データからの25個のランダムB細胞に、Igリードの総数として割り当てることによって、各試料を生成した。次いで、25個のB細胞の各々においてIg鎖にマッピングされたRNA配列決定リードから、対応する数のRNA配列決定リードを無作為に選択した。この混合物に、我々はまた、バルクRNA配列決定試料(TCGA-04-1348-01A)から無作為に選択された1000万リードも加えて、バックグラウンドとして作用させた。我々は、上位クローンリードの各値に対してこの手順を200回繰り返し、ベンチマークで使用される1000個の合成試料を結果的に得た。評価では、我々は、上位クローンの重鎖及び軽鎖の両方のCDR領域(CDR1、CDR2、及びCDR3)の全てが正しかった場合、再構築が成功であると考え、その対を最も豊富な抗体として正しく選択した。
【0248】
図16A及び
図16Bは、合成データ上の再構築性能の評価を例示する。
図16Aは、ワークフローによって推定される優性スコア(例えば、Ig重鎖及び軽鎖のBerger-Parker指数の幾何平均)に応じて、正しく及び誤って再構築された試料の分布を示す。0.382の閾値を上回ると、90%の合成試料の上位抗体が正しく再構築された。
図16Bは、優性スコアの異なる値における評価のためのROC曲線を図示する。赤色十字は、偽陽性率が0.1である、最も高い真陽性率(0.46)を有する点として選択された0.382のクローン性カットオフをマークしている。
【0249】
実施例7:優性Ig配列は、インシリコのバルクRNA-Seqデータから正しくペアリングされ得る
次のステップとして、我々は、Berger-Parker指数によって捕捉された優性情報が、バルクRNA-Seqデータから重鎖及び軽鎖を正しくペアリングするために使用され得るか否かを評価した。そのために、我々は、単一のB細胞からのRNA-Seqデータを使用して、全てのIg鎖の発現レベル、配列、及び正しいペアリングが既知であるバルクRNA-Seq試料をシミュレートした。このアプローチを使用して、我々は、0.382より大きい優性スコアを有する試料について、我々が高い正確性で優性Ig鎖を識別し、正しくペアリングし得ることを確立した(
図16A及び
図16Bに示されるように、真陽性率0.46、偽陽性率0.1、AUC=0.757)。我々は、この結果を使用して、
図12A~
図12F)に示されるように、哺乳動物細胞における発現及び更なる特性評価のために、我々のTCGAから1919のペアリングされた腫瘍内Ig配列を選択した。対照として、我々はまた、我々の選択した優性スコアのカットオフを下回る92個の配列の発現及び特性評価のために選択した。
【0250】
処理された各試料について、我々は、Kallistoを使用して、推定上のIg鎖転写物の各々に由来するRNA配列決定リードの量を定量化した。次いで、我々は、Ig重鎖及び軽鎖の両方のBerger-Parker優性指数を、対応するタイプの最も一般的な鎖に起因するリードの割合として計算した。次いで、我々は、各試料の優性スコアを、重鎖及び軽鎖のBerger-Parker指数の幾何平均として計算した。このワークフローの性能を評価するために、我々は、単一細胞配列決定データを使用して合成ベンチマークを生成した(Lindman et al.2018)。合成ベンチマークの結果を使用して、我々は、配列再構築が正確であると我々が予想するスコア(>0.382)を上回る閾値、及びペアリングされたIgを形成するための上位の(最も豊富な)重鎖及び軽鎖を決定した。そのような各Igについて、我々は、重鎖の定常部分(注釈付きJ領域の後のアセンブルされた配列のセクション)をGencode v22参照免疫グロブリンC配列にマッピングすることによって、推定上のアイソタイプを割り当てた。我々は、生殖系列のセグメントへのIgBlastマッピングを使用して、各鎖における突然変異した位置を識別した。Martinナンバリングスキーム(Abhinandan,K.R.&Martin,A.C.R.,Analysis and Improvements to Kabat and structurally correct numbering of antibody variable domains,Mol.Immunol.45,3832-3839(2008))によって定義される位置毎に、我々は、再構築された免疫グロブリン鎖の全てにわたって突然変異の頻度を計算した。
【0251】
実施例8:TCGA RNA配列決定データの処理
使用した未加工のRNA配列決定リードは、TCGA Research Network:https://www.cancer.gov/tcgaによって生成され、TCGAデータポータルを通じて入手可能である。TCGA BAMファイルを、Cancer Genomics Cloud(Lau et al.,The Cancer Genomics Cloud:Collaborative,Reproducible,and Democratized-A New Paradigm in Large-Scale Computational Research,Cancer Res.77,e3-e6(2017)(CGC)で処理した。我々は、BAMファイルをソートするためにsambamba-sortを適用し、それらをFASTQファイルに変換するためにSamtools fastqを適用し、その後、GCバイアス補正を用いてマッピングベースモード(GENOME v27(GRCH38.p10)転写アセンブリを使用した)でSalmon quantを適用した。我々は、33個のTCGAがんタイプにわたって、10533個の腫瘍試料及び730個の正常試料についてTPM値を取得した。
【0252】
実施例9:腫瘍RNAから再構築された抗体配列
クローン性増殖したB細胞集団を有する試料の推定上のサブセットを識別するために、我々は、本開示の実施形態によるワークフローを、Cancer Genomics Cloud(CGC)プラットフォーム(n=11092)で利用可能なTCGA RNA配列決定試料に適用した。その結果、これらの試料の28%(n=3074)について、正確な配列再構築及び鎖のペアリングに対する高信頼基準を満たす抗体を取得した。更なる実験分析のために、我々は、異なるがんタイプに広がった試料に由来する、135個の抗体のサブセットを用いて進めた(
図1a)。これらは、黒色腫(SKCM)、膀胱(BLCA)、及び肺がん(LUAD)などの免疫学的に炎症性であると従来から考えられているがん(Posch et al.2018、Bonaventura et al.2019)、並びに典型的には、乳房(BRCA)、カラム(COAD)、及び膵(PAAD)がんのような免疫学的に非炎症性であると典型的に考えられるがん(Maleki Vareki2018)を含んだ。重鎖相補性決定領域3(CDR3)の長さは、7~22アミノ酸の範囲であり、その基礎となる分布は、ヒト抗体のレパートリーに対する予想に厳密に合致する(Shi et al.2014)(Shi et al.2014、Hu et al.2019)。最も一般的に使用される重鎖Vセグメントは、IGHV3(n=64、又は47.4%)であり、続いて、IGHV1(n=30、又は22.2%)、及びIGHV4(n=25又は18.5%)であった。ほとんどの軽鎖は、IGKV1(n=38、又は28.1%)、続いてIGKV3(n=26、又は19.3%)及びIGLV3(n=23、又は17%)を使用した。ペアリング頻度は、無作為ペアリングから予想されることになるものとほぼ同じであり、IGHV3-IGKV1が最も一般的なペアである(m=n=18、又は全抗体の13.3%)。唯一の顕著な例外は、予想される頻度の2倍(10.4%対5.2%)で発生した、IGHV4-IGKV1のペアであった。しかしながら、3074個の推定上の抗体のより大きいセットでは、この対は、予想される頻度(4.6%対4.2%)に近い頻度で発生し、この表現が、生物学的現象ではなく、我々の選択プロセスの結果であることを示唆している。
【0253】
我々は、次に、RNA-Seqリードをアセンブルされた配列にマッピングし、ミスマッチ塩基に対する集積を調査し、1ヌクレオチド当たりの突然変異頻度をMartinナンバリングスキーム(Abhinandan及びMartin2008)で定義されるアミノ酸位置に投影することによって、体細胞超変異(SHM)の証拠について、これらの鎖を分析した。我々は、重鎖及び軽鎖の両方の突然変異プロファイルが、以前に報告された発見(Yaari et al.2013)(Yaari et al.2013、Saul et al.2016)とほぼ一致していることを見出し、ほとんどのSHMは、相補性決定領域1及び2(CDR1及びCDR2)に濃縮されていた。
【0254】
図12A~
図12Fは、本開示の実施形態による、識別された抗体の様々な特性を図示する。
図12Aは、TCGAがんタイプにわたる抗体の分布を示す。
図12Bは、IgH CDR3領域のアミノ酸長さの分布を示す。
図12Cは、アイソタイプによる選択された抗体の数を示す。
図12D及び
図12Eは、選択された抗体セットの重鎖及び軽鎖にわたるMartinナンバリングスキームにおける各位置の平均SHM率を示す。各鎖について、アミノ酸当たりの突然変異率を、マッピングされた配列決定リードから推定し、Martinナンバリングスキームに従って番号付けした。複数のアミノ酸が同じMartinナンバーにマッピングされる鎖について、我々は、それらのアミノ酸にわたって平均値を使用した。
【0255】
実施例10:インシリコのペアリングされたIg配列は、哺乳動物細胞において高レベルで発現され得る
我々は、283のペアリングされたIg配列の遺伝子合成を実施し、哺乳動物細胞(HEK293)における対応する抗体タンパク質の発現を試みた。各候補について、我々は、その後の検出及びスクリーニングを容易にするために、重鎖定常領域を標準的なヒトIgG1配列で置換した。抗体の可変領域を、AbAbの組換えプラットフォーム(Absolute Antibody Ltd、Oxford,UK)を使用して、ヒトIgGクラスIの定常領域と再結合した。抗体を、絶対抗体一過性発現システムを使用してHEK293細胞に発現させ、ワンステップアフィニティクロマトグラフィーによって精製した。我々は、品質管理(QC)分析を実施して、濃度、総量、エンドトキシンのレベル、及びドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を評価した。我々は、283個中275個の組換え抗体を高収率(平均収率2.35mg/150mL)で発現することに成功した。発現後、各抗体をタンパク質Aを使用して精製し、1ug/uLの標準濃度でPBS中に保存し、その後の標的抗原スクリーニングに使用した。
【0256】
実施例11:ハイスループットプロテオミクスを使用した標的抗原の識別
我々がインシリコでペアリングした腫瘍内Igを成功裏に発現させており、我々は、結果的に得られた組換え抗体を使用して、それらの標的抗原の識別を試みることを決めた。この目的のために、我々は、ハイスループットプロテオミクスを使用して、大規模な野生型ヒトタンパク質のコレクションに対する個々の抗体をスクリーニングした。私たちは、約2万個のヒトタンパク質のコレクションに対して173個の抗体をスクリーニングし、各々がタンパク質アレイの表面上に重複して表され、既知のヒトプロテオームの約80%をカバーした。具体的には、我々は、酵母で発現されたGSTタグ付き組換えヒトタンパク質の包括的ライブラリーであるヒトプロテオームマイクロアレイHuProt(商標)4.0を使用して抗体を試験した。簡潔に述べると、HuProtアレイを、5%のBSA/1xTBS-Tを用いて室温で1時間ブロッキングした。次いで、抗体を4℃で一晩インキュベートし、洗浄し、検出前に二次抗体で標識化した。
【0257】
タンパク質アレイは、多数の潜在的な標的に対して抗体を試験するための費用効果の高い方式であるが、この技術は、膜タンパク質をそれらの正しい立体構造で表示するように設計されていない。アレイの表面、外側、又はそれらの天然膜コンテキスト上に固定されたとき、複雑な膜タンパク質が正しく折り畳まれる可能性は低い。この理由から、我々は、ヒトHEK0293T細胞で発現された6千の構造的に無傷な膜タンパク質のライブラリーに対して92個の抗体をスクリーニングするために、ハイスループット蛍光活性化細胞ソーティング(HT-FACS)を使用した。具体的には、我々は、膜タンパク質アレイ(MPA)を使用したが、これは、Integral Molecularの細胞ベースの約6,000個のヒト膜タンパク質のアレイであり、各々が384ウェルプレートの別個のウェルで生きた非固定細胞中で発現される。この研究では、試験の36時間前にHEK-293T細胞でMPAを発現させた。各MAbを蛍光標識化し、膜テザリングされたタンパク質Aに対する独立した免疫蛍光滴定曲線を使用して、標的検出のための最適なシグナル対バックグラウンド比に最適化された濃度でMPAに添加した。結合を、Intellicyt iQue3によって測定した。各384ウェルプレートは、プレート毎のデータ有効性を確保するために、ポジティブ(Fc結合)及びネガティブ(空のベクター)対照を含有した。ヒットを、抗体の連続希釈を用いてフローサイトメトリーによって検証し、標的同一性を配列決定によって確認した。
【0258】
抗原アレイの統計分析。未加工のシグナル強度(平均F635値)を、Rパッケージのlimmaからの関数バックグラウンドを使用して、バックグラウンドシグナル(平均B635値)に対して相関させ、補正方法を「mle」パラメータ推定戦略で「normexpr」に設定した。同じ標的クローンの複製スポットを、幾何平均を計算し、続いて、対数変換することによって要約した。我々は、いくつかのスポットが、非特異的結合に起因すると思われる、複数のアレイにわたる高いシグナル強度を報告したことに気づいた。この問題に対処するため、我々は、各標的クローンに対して、172個のアレイの全てにわたる平均シグナル値を減算した。我々は、次いで、Benjamini-Hochberg方法に従って偽発見率を計算することによって、シグナル強度を中心化及び拡縮し、複数の試験補正を実施した。偽陽性ヒットの数を制御するために、我々は、0.01の厳密なq値カットオフを使用した。
【0259】
これらのスクリーニングの結果として、我々は、タンパク質アレイを使用してスクリーニングされた84個の我々の抗体候補(48%)及びHT-FACSを使用してスクリーニングされた21個の候補(23%)について、高信頼ヒットを識別することができた。我々のインシリコのペアリングされた腫瘍内Igによって認識される標的は、周知のがん特異的抗原1 4(NY-ESO-1、MAGEA3、GAGE2A、DLL3)、及び腫瘍微小環境内で発現された免疫調節分子(ANXA1、TGFBI、C4BPB、
図14A~
図14Eを参照されたい)を含んだ。
【0260】
実施例12:腫瘍内Igは、それらの標的抗原を高親和性で結合する
次のステップとして、我々は、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用することによって、選択された腫瘍内Igとそれらの推定上の標的抗原との間の相互作用を独立して確認することを決めた。各腫瘍内Ig配列について、我々は、対応する組換え抗体のその推定上の標的抗原への結合親和性を特性評価し、ハイスループットプロテオミクススクリーニングに使用されるベンダーとは無関係に抗原を調達した。SPR原理を利用するBiacore8K機器を使用して、平衡解離定数(KD)を計算した。選択された抗体(リガンド)を、タンパク質Aで被覆されたセンサチップに個別に固定化して、抗体の正しい配向を確保しながら、抗原(分析物)を、30μl/分のフローストリーム内に注入した。我々は、600秒の解離時間とともに、各実験に90秒の会合時間を使用した。Rパッケージpbmを使用してデータ解析を実施した。センサグラムの未加工のデータ時系列測定値をBiacore8K機器からダウンロードし、非線形最小二乗パラメータ推定技術を使用して、pbmパッケージから適切な観察モデルにフィッティングした。モデルを合理的に選択し、より少ないパラメータを使用してデータを適切に説明し得るモデルが概して好ましい。少数のケースでは、機器測定の異常、又は明らかな統計的な外れ値のいずれかに起因する選択された濃度曲線を、フィッティング手順から除外した。限定的な異常の例としては、会合測定段階と解離測定段階との間の遷移における屈折率バルクシフトの不連続性が挙げられる。
【0261】
我々は、19個の抗体-抗原相互作用を確認した。我々は、腫瘍内Ig配列に由来する組換え抗体が、低ナノモル範囲のK
Dで、非常に高い親和性によってそれらの標的抗原に結合することを観察した(
図14B)。我々が、同じ抗原を用いた免疫化後に、ウサギ(非常に高い親和性の抗体を生成することが知られているモデル生物)から取得された市販の抗体に対する我々の完全ヒト抗体を比較したとき、我々は、それらの結合親和性に有意差が見出されなかった(
図14A)。
【0262】
図14Aは、ヒト由来抗体(Ab)に対する経験的に決定されたK
D値、及び同じ抗原に対するそれらのウサギ由来の対応物の分布を図示し、ペアリングされたt検定を使用しても統計的有意差を示していない。Abは複数の実験で試験されているため、p値を計算するために、我々は、まず、特定の分析物(抗原の異なる供給源)を用いて実験全体にわたって-log10(K
D)を平均し、次いで、ヒト由来Abからのこれらの各平均を、同じ分析物についてウサギ由来Abからの平均とペアリングし、ペアリングされたt検定を適用した。
図14Bは、
図14Aに提示されたヒト及びウサギ由来抗体のK
D値を図示する。ヒト又はウサギAbに対して複数の実験が実施されたとき、我々は、これらの実験から平均K
Dを計算した。
図14C~
図14Eは、CYC214(抗C4BPB抗体)(
図14C)、CYC066(抗MAGEA3抗体)(
図14D)、及びCYC168(抗TGFBI抗体)(
図14E)に対するSPR決定された抗体-抗原相互作用の代表的なセンサグラムを図示する。影付き実線は、Biacore8K機器で観察された未加工のデータを示し、重なった黒色の実線は、モデルを使用して推定されたフィッティング結果を示す。
【0263】
実施例13:腫瘍内Igに由来する組換え抗体のエピトープマッピング
我々のインシリコのペアリングされた腫瘍内Igが、高い親和性でそれらの標的抗原に結合することを実証したことから、我々は、少なくとも原理的に、それらのエピトープを識別することが可能であるか否かを評価することを決めた。我々は、1つの対応する組換え抗体を選択し、水素/重水素交換質量分析法(HDX-MS)を使用してエピトープマッピングを実施した。標的抗原長さに及ぶ線状ペプチドを、関連抗体の存在下又は非存在下で重水素含有緩衝液中でインキュベートして、推定上の結合部位における水素との差分交換を観察した。この技術を使用して、我々は、抗体の推定上の結合領域をその指定された標的上で識別することができた(C4BPB、
図17)。我々は、最も可能性の高いエピトープが、タンパク質S1 9のC4BPB結合部位と重複することを観察し、これは、その生物学的機能2 0に対して重要である。この特定の抗体がC4BPBとタンパク質Sとの間の結合と干渉することができるか否かを明確にするために、追加の機能的研究が必要とされるが、我々のワークフローは、原理的には、標的抗原と、インシリコのペアリングされた腫瘍内Igの対応するエピトープと、を識別することが可能であり、それにより、それらの生物学的機能に対する更なる洞察を得ることが可能であることを示す。
【0264】
図17は、C4BPBがタンパク質S結合部位と重複していることを示す、エピトープマッピング結果のグラフィカル表現である。HDX-MSを使用して、C4BPB単独又はCYC214抗体の存在下における重水素(D)取り込みのレベルを測定した。
図17の左は、タンパク質表面全体にわたる残基当たりの相対的なDの取り込み差(影付きの明から暗)を示す。
図17の右は、タンパク質Sの既知の結合部位20を含有するタンパク質領域の詳細を示す。高いDの取り込み差(暗い影)は、タンパク質Sの結合部位を含有する領域で検出され、したがって、CYC214がC4BPBとタンパク質Sとの間の相互作用を妨害し得ることを示唆する。各C4BPB断片は、最大で3回測定され、各残基は、1つ以上の重複断片によってカバーされ得、残基当たりの取り込み差を、残基をカバーする断片の取り込み差の平均を使用して計算した。
【0265】
例示的な結果
可変重鎖、可変軽鎖、及びそれらの対応するCDR3の例示的な再構築されたアミノ酸及び核酸コンセンサス配列が以下に提供される。
【0266】
表1は、可変重鎖(VH)の例示的な再構築されたアミノ酸コンセンサス配列と、例示的な再構築されたアミノ酸コンセンサス配列の可変軽鎖(VL)と、を列挙する。
【表3-1】
【表3-2】
【0267】
以下の表2は、可変重鎖からの相補性決定領域3(CDR-H3)の例示的な再構築されたアミノ酸コンセンサス配列と、可変軽鎖からの相補性決定領域(CDR-L3)の例示的な再構築されたアミノ酸コンセンサス配列と、を列挙する。
【表4-1】
【表4-2】
【0268】
以下の表3は、可変重鎖(VH)の例示的な再構築された核酸コンセンサス配列と、可変軽鎖(VL)の例示的な再構築された核酸コンセンサス配列と、を列挙する。
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【表5-4】
【0269】
以下の表4は、可変重鎖からの相補性決定領域(CDR-H3)の例示的な再構築された核酸コンセンサス配列と、可変軽鎖からの相補性決定領域(CDR-L3)の例示的な再構築された核酸コンセンサス配列と、を列挙する。対応する単離された核酸配列上のCDR3の開始及び終了位置が示されている。
【表6-1】
【表6-2】
【0270】
表5は、可変重鎖(VH)の例示的な再構築された生殖系列のアミノ酸コンセンサス配列と、例示的な再構築された生殖系列のアミノ酸コンセンサス配列の可変軽鎖(VL)と、を列挙する。
【表7-1】
【表7-2】
【0271】
表6は、可変重鎖(VH)の例示的な再構築された生殖系列の核酸コンセンサス配列と、可変軽鎖(VL)の例示的な再構築された生殖系列の核酸コンセンサス配列と、を列挙する。
【表8-1】
【表8-2】
【表8-3】
【表8-4】
【0272】
表7は、例示的な重鎖及び軽鎖のペアリングを列挙する
【表9】
【0273】
本発明の好ましい実施形態が本明細書に示され、説明されているが、そのような実施形態が例としてのみ提供されることが、当業者には明らかであろう。ここで、本発明から逸脱することなく、当業者には数多くの変形、変化、及び置換が生じるであろう。本明細書に説明される本発明の実施形態に対する様々な代替例が、本発明を実施する際に採用され得ることが理解されるべきである。以下の特許請求の範囲は、本発明の範囲、及びこれらの特許請求の範囲内の方法及び構造、並びにそれらの等価物がそれによって包含されることが意図される。
【配列表】
【国際調査報告】