(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-26
(54)【発明の名称】対象者の動脈特性についての情報を決定するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20231219BHJP
A61B 5/0225 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
A61B5/02 A
A61B5/0225 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534958
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(85)【翻訳文提出日】2023-06-15
(86)【国際出願番号】 EP2021084883
(87)【国際公開番号】W WO2022122863
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ボガツ ローラ イオアナ
(72)【発明者】
【氏名】ミュールステフ ジェンス
(72)【発明者】
【氏名】ウォーリー ピエール
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA03
4C017AA07
4C017AA08
4C017AA10
4C017AB01
4C017AC01
4C017AD01
4C017BC08
4C017BC11
4C017BD06
4C017FF05
(57)【要約】
一態様によれば、対象者の動脈の動脈特性についての情報を決定するための方法が提供される。本方法は、対象者の肢上の第1のロケーションにある第1のカフ中に第1の振動周波数で容積振動を生成するステップ(103)であって、それらの容積振動が第1のカフ中に複数のカフ圧で生成される、容積振動を生成するステップ(103)と、第1のカフ圧信号を生成するために容積振動の生成中に第1のカフ中の圧力を測定するステップ(105)と、dVart=(Pcuff-Pabs)*Ccuff-dVoscを使用して、それぞれのカフ圧における容積振動に対する動脈の容積反応を表す第1の動脈容積反応を決定するステップ(107)であって、ここで、dVartは第1の動脈容積反応であり、Pcuffは第1のカフ圧信号であり、Pabsは第1のカフにおけるそれぞれのカフ圧であり、Ccuffは第1のカフのカフコンプライアンスであり、dVoscは、生成された容積振動によるカフ中の容積の変化を表す信号である、第1の動脈容積反応を決定するステップ(107)と、第1の動脈容積反応から対象者の動脈特性についての情報を決定するステップ(109)とを有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の動脈の動脈特性についての情報を決定するための方法であって、前記方法は、
(a)前記対象者の肢上の第1のロケーションにある第1のカフ中に第1の振動周波数で容積振動を生成するステップであって、前記容積振動が前記第1のカフ中に複数のカフ圧で生成される、容積振動を生成するステップと、
(b)第1のカフ圧信号を生成するために前記容積振動の前記生成中に前記第1のカフ中の圧力を測定するステップと、
(c)dV
art=(P
cuff-P
abs)*C
cuff-dV
oscを使用して、それぞれのカフ圧における前記容積振動に対する前記動脈の容積反応を表す第1の動脈容積反応を決定するステップであって、ここで、dV
artは前記第1の動脈容積反応であり、P
cuffは前記第1のカフ圧信号であり、P
absは前記第1のカフにおけるそれぞれのカフ圧であり、C
cuffは前記第1のカフのカフコンプライアンスであり、dV
oscは、生成された前記容積振動による前記カフ中の容積の変化を表す信号である、第1の動脈容積反応を決定するステップと、
(d)前記第1の動脈容積反応から前記対象者の前記動脈特性についての前記情報を決定するステップと
を有する、方法。
【請求項2】
前記ステップ(c)が、
前記容積振動の前記第1の振動周波数に対応する信号成分を得るために前記第1のカフ圧信号をバンドパスフィルタ処理するステップと、
バンドパスフィルタ処理された前記第1のカフ圧信号に基づいて前記第1の動脈容積反応を決定するステップと
をさらに有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、
前記ステップ(a)の前に、前記対象者上の第2のロケーションにある第2のカフを、前記対象者の収縮期血圧を上回るカフ圧である遮断カフ圧まで膨張させるステップであって、前記第2のロケーションが、前記第1のロケーションと同じ肢上の、前記第1のロケーションの上流にある、前記対象者上の第2のロケーションにある第2のカフを、前記対象者の収縮期血圧を上回るカフ圧である遮断カフ圧まで膨張させるステップ
をさらに有し、
前記ステップ(a)及び前記ステップ(b)は、前記第2のカフが前記遮断カフ圧まで膨張させられる間に実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(d)が、
前記第1の動脈容積反応から経壁圧に対する動脈容積反応の関数を決定するステップと、
決定された前記関数から前記動脈特性についての前記情報を決定するステップと
を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記動脈特性が動脈コンプライアンスを含み、前記方法は、
経壁圧に対する動脈容積反応の関数から、最大動脈コンプライアンスが前記第1のカフにおいて生じるカフ圧を決定するステップと、
前記最大動脈コンプライアンスが前記第1のカフにおいて生じるカフ圧として、前記対象者についての平均体循環充満圧(MSFP)を決定するステップと
をさらに有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、
(e)それぞれの1つ又は複数のさらなるカフ圧信号を生成するために、前記容積振動についての1つ又は複数のさらなる振動周波数について前記ステップ(a)及び前記ステップ(b)を繰り返すステップと、
(f)前記1つ又は複数のさらなる振動周波数の各々についてのさらなる動脈容積反応を決定するステップであって、前記さらなる動脈容積反応が、それぞれのカフ圧における前記容積振動に対する前記動脈の容積反応を表し、前記それぞれの1つ又は複数のさらなるカフ圧信号と、前記第1のカフの前記カフコンプライアンスと、前記第1のカフ中に生成された前記容積振動のそれぞれの振動周波数に関係するそれぞれの容積振動信号とに基づいて、動脈容積反応が決定される、さらなる動脈容積反応を決定するステップと
をさらに有し、
前記ステップ(d)が、前記第1の動脈容積反応と、前記さらなる動脈容積反応とから、前記対象者の前記動脈特性についての前記情報を決定するステップを有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記動脈特性が前記動脈の粘度であり、前記ステップ(d)が、前記第1の動脈容積反応と前記さらなる動脈容積反応との比較から前記動脈の前記粘度についての情報を決定するステップを有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、前記ステップ(c)の前に、
前記第1のカフが第3のカフ圧まで膨張させられたときに、前記第1のカフ中に第2の振動周波数で容積振動を生成することと、
第3のカフ圧信号を生成するために、前記第2の振動周波数での前記容積振動の前記生成中に前記第1のカフ中の圧力を測定することと、
前記第2の容積振動の振動周波数に対応する信号成分を得るために前記第3のカフ圧信号をバンドパスフィルタ処理することと、
フィルタ処理された前記第3のカフ圧信号から前記第1のカフの前記カフコンプライアンスを決定することと
によって、前記第1のカフの前記カフコンプライアンスを決定するステップをさらに有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
コンピュータ可読コードを有するコンピュータプログラムであって、前記コンピュータ可読コードは、好適なコンピュータ又は処理ユニットによって実行されると、前記コンピュータ又は処理ユニットが請求項1から8のいずれか一項に記載の方法を実行させられるように構成された、コンピュータプログラム。
【請求項10】
対象者の動脈の動脈特性についての情報を決定するための装置であって、前記装置は、
(a)前記対象者の肢上の第1のロケーションにある第1のカフ中に第1の振動周波数で容積振動の生成を開始する行為であって、前記容積振動が前記第1のカフ中に複数のカフ圧で生成される、容積振動の生成を開始する行為と、
(b)前記容積振動の前記生成中の前記第1のカフ中の圧力の測定値を含む第1のカフ圧信号を得る行為と、
(c)dV
art=(P
cuff-P
abs)*C
cuff-dV
oscを使用して、それぞれのカフ圧における前記容積振動に対する前記動脈の容積反応を表す第1の動脈容積反応を決定する行為であって、ここで、dV
artは前記第1の動脈容積反応であり、P
cuffは前記第1のカフ圧信号であり、P
absは前記第1のカフにおけるそれぞれのカフ圧であり、C
cuffは前記第1のカフのカフコンプライアンスであり、dV
oscは、生成された前記容積振動による前記カフ中の容積の変化を表す信号である、第1の動脈容積反応を決定する行為と、
(d)前記第1の動脈容積反応から前記対象者の前記動脈特性についての前記情報を決定する行為と
を行う、装置。
【請求項11】
前記装置は、
前記行為(a)の前に、前記第1のロケーションと同じ肢上の、前記第1のロケーションの上流にある、前記対象者上の第2のロケーションにある第2のカフの、前記対象者の収縮期血圧を上回るカフ圧である遮断カフ圧までの膨張を開始することをさらに行い、
前記行為(a)及び前記行為(b)は、前記第2のカフが前記遮断カフ圧まで膨張させられる間に実行される、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記行為(d)が、
前記第1の動脈容積反応から経壁圧に対する動脈容積反応の関数を決定することと、
決定された前記関数から前記動脈特性についての前記情報を決定することと
を含む、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記動脈特性が動脈コンプライアンスを含み、前記装置は、
経壁圧に対する動脈容積反応の前記関数から、最大動脈コンプライアンスが前記第1のカフにおいて生じるカフ圧を決定することと、
前記最大動脈コンプライアンスが前記第1のカフにおいて生じるカフ圧として、前記対象者についての平均体循環充満圧(MSFP)を決定することと
をさらに行う、請求項10から12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記装置は、
(e)それぞれの1つ又は複数のさらなるカフ圧信号を生成するために、前記容積振動についての1つ又は複数のさらなる振動周波数について前記行為(a)及び前記行為(b)を繰り返すことと、
(f)前記1つ又は複数のさらなる振動周波数の各々についてのさらなる動脈容積反応を決定する行為であって、前記さらなる動脈容積反応が、それぞれのカフ圧における前記容積振動に対する前記動脈の容積反応を表し、前記それぞれの1つ又は複数のさらなるカフ圧信号と、前記第1のカフの前記カフコンプライアンスと、前記第1のカフ中に生成された前記容積振動のそれぞれの振動周波数に関係するそれぞれの容積振動信号とに基づいて、動脈容積反応が決定される、さらなる動脈容積反応を決定する行為と
をさらに行い、
前記行為(d)が、前記第1の動脈容積反応と、前記さらなる動脈容積反応とから、前記対象者の前記動脈特性についての前記情報を決定することを含む、請求項10から13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記動脈特性が前記動脈の粘度であり、前記行為(d)が、前記第1の動脈容積反応と前記さらなる動脈容積反応との比較から前記動脈の前記粘度についての情報を決定することを含む、請求項14に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象者の動脈特性についての情報を決定するための方法及び装置、特に、この情報を非侵襲的に決定することに関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許出願公開第2014135634(A1)号は、正確な中心血圧測定値を自動的に生成するためのシステム及び方法を提供する。
【0003】
米国特許出願公開第2011263990(A1)号は、血圧の非侵襲的な決定のための方法及び装置に関する。
【0004】
EP3705033A1は、血圧測定デバイス、特に身体に取付け可能な血圧測定デバイスと、そのデバイスを構成するための方法とに関する。
【0005】
患者の容体の危機的な状態の早期検出は、病院など、臨床環境における重要なニーズである。心拍数など、一般に使用される信号は、患者の容体(例えば血圧(BP))の変化を示す際に極めて曖昧であるか、又は遅れることがある。例えば、低血圧(低い血圧)期は、血圧だけを見ているときには遅れて検出されることがある。このことを、
図1を参照しながら示す。
図1中のプロットは、80mmHgの危機的な低い収縮期(systolic)BP(SBP)に達しつつある集中治療室(ICU)中の患者の低血圧期に関する。経時的な収縮期BPが
図1の上部に示されている。しかしながら、(
図1の下部に示されている)心拍数は、早く、しかし曖昧に応答して、BPの低下を代償するために増加する。(
図1の中間部にプロットされている)脈波到達時間(PAT)は、この場合、BPの変化により変化するが、PATの変化ではBPは予測されない。
【0006】
したがって、患者について容易に、邪魔にならずに監視又は導出することができる患者の状態に、迅速に、敏感に、及び明確に応答する新しい又はより良い手段が必要である。
【0007】
現在の臨床業務における過小評価されており、十分に活用されていない情報源は、循環系の完全性において基本的な役割を果たす脈管(動脈)コンプライアンスである。動脈コンプライアンスは、血圧、概日(circadian)リズム、身体活動、ストレスの変化に対して、並びに年齢、ライフスタイルなどによって生じる長期的な変化に対して順応する。コンプライアンス、特に動脈コンプライアンスは、患者又は対象者の健康状態に関するかなりの量の情報をあらわにすることができる。従来、動脈コンプライアンスは、脈管超音波又はMRI(磁気共鳴撮像)など、撮像ソリューションを使用して測定されるが、これにより、たいていの患者(例えば、ICU中の患者)についての動脈コンプライアンスを連続的に測定することが実現不可能になる。
【0008】
動脈コンプライアンス、又は(収縮/膨張を可能にする)動脈壁の弾力性特性のほかに、循環器系の新しい調節機構、例えば、動脈壁の非線形性特性、粘度、減衰特性、カットオフ周波数の存在、平滑筋緊張のひずみ依存性の活性化が発見された。このことのために、これらの代償機構を観測し、測定するための方法が開発されている。しかしながら、現在までに、そのような複雑な調節測定値を得るための提案された方法は、侵襲的な測定、動脈の生体外研究、又は不確実性と仮定とを伴う複雑な生理学的モデルを介した推論を伴う。それらの方法のうちのいくつかは、Fernando Pablo Salvucciらによる「Arterial wall mechanics as a function of heart rate: role of vascular smooth muscle」2007 J.Phys.:Conf. Ser.90 012010、及びL.J.Cymberknopらによる「Beat to Beat Modulation of Arterial Pulse Wave Velocity Induced by Vascular Smooth Muscle Tone」2019 41st Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society(EMBC)、ベルリン、ドイツ、2019年、5030-5033ページに記載されている。
【0009】
動脈コンプライアンスは、圧力の変化に応答して膨張及び収縮する動脈の能力を表す。したがって、(C
aで示されている)動脈コンプライアンスは、以下の式1に示されているように表され得る。
【数1】
【0010】
式1において、Vartは動脈容積であり、Ptmは動脈壁にわたる経壁圧(transmural pressure)である。経壁圧Ptmは、式2
Ptm=Part-Pext (2)
によって与えられ、ここで、Partは動脈圧であり、Pextは、動脈の外側の圧力(例えば大気圧)、又はカフが腕又は肢上に配置されている場合には、(「カフ圧」と呼ばれる)カフの内側の圧力である。Partの最大値は収縮期血圧であり、Partの最小値は拡張期血圧(DBP)であり、Ca、すなわち動脈コンプライアンスは、経壁圧Ptm(すなわち動脈壁にわたる圧力)の高度に非線形の対象者固有の関数である。
【0011】
原則として、動脈容積は、動脈圧が収縮期の値と拡張期の値との間で変動する際の動脈直径の変化をあらわにすることができる、高解像度撮像(例えば超音波)によって測定され得る。実際には、しかしながら、(Wilkinson IB及びWebb DJ,Br.J.による「Venous occlusion plethysmography in cardiovascular research: methodology and clinical applications」Clin.Pharmacol.2001;52:631-646に記載されているように)手順が自動的でなく、そのことにより、高度に熟練したオペレータが必要とされ、誤りを生じやすいことによって困難が生じる。このことのほかに、より広範囲の経壁圧にわたる動脈特性についての情報が必要とされる場合、カフ設定に撮像技術を組み込まなければならず、それにより測定がさらに複雑になる。
【0012】
動脈容積測定の異なる手法は、既存のBPカフ(すなわち、血圧を測定するときに使用されるカフ)の使用を伴う。カフの内側の圧力振動は、体血圧の脈動性質による動脈容積の変化を表す。しかしながら、この信号から動脈特性を抽出するためには、動脈圧の正確な知識が必要である。そのような正確さは動脈経路を介して侵襲的に得られ得る。非侵襲的な測定の場合、血圧値は一般的なカフベースのオシロメトリック(oscillometric)測定を介して得られ得る。しかしながら、オシロメトリック測定は、(低血圧患者及び高血圧患者など)いくつかの患者グループでは不正確であることがわかっている。このことに加えて、特に、血行動態的に不安定な患者では、BPは極めて短いタイム・スパン内で変化することがあり、呼吸によって生じる心拍間隔の変動がある。したがって、ある時間において血圧を測定し、異なる時間において動脈容積の変化を測定すると、正しい動脈特性値が与えられないことがある。
【0013】
患者の容体悪化のより良い検出の目的のために、推定される動脈コンプライアンス又は粘度特性が使用され得るいくつかのやり方がある。最も簡単な手法は、動脈コンプライアンス、動脈虚脱(arterial collapse)又は粘度値の変化の定量化である。これらの変化は、心圧値及び血圧値と同様のやり方で手術室(OR)/ICUモニタ上に表示される追加のスコアを介して臨床医にとって利用可能にされ得る。別の方法は、心拍出量(cardiac output)又は末梢抵抗など、系全体のパラメータを概算する目的のための、生理モデル中への動脈コンプライアンス及び粘度情報の組込みに基づく。
【0014】
動脈コンプライアンスの知識は、BPサロゲート(surrogate)の正確な較正を可能にすることによって、より連続的で非侵襲的なBP推定を与えることができる。例えば、PATは、
図1に示されているように、収縮期血圧の変化の良好なインジケータであり得る。このことを利用するために、PATの変化をBPの変化に結び付けるための較正ステップが必要とされる。動脈コンプライアンスの良好な概算は、BP-PAT関数において考慮される経壁圧の正確さ及び範囲に関して、この較正ステップに複数の利益をもたらすことができる。さらに、動脈コンプライアンスについての情報は、BPサロゲートの較正における経験的仮定の必要を減らし、より生理学に基づく解釈を裏付ける。
【0015】
1つの関係する適用例は、内皮(endothelial)機能、すなわち、恒常性を維持するために内腔サイズを調整する動脈の能力の評価である。通常、この評価は、数分間の血管閉塞の後の動脈寸法(これは血流依存性血管拡張反応(flow-mediated dilation)として知られている)を測定することによって実行される。血流の短期的な変化により動脈内腔サイズの変化が生じ、それにより、(敗血症の存在など)患者の安定性、又は心臓血管疾患の進行状況についての情報があらわになる。Ras,R.Tらによる「Flow-mediated dilation and cardiovascular risk prediction: a systematic review with meta-analysis」Int J Cardiol 168,344-351、Selvaraj Nらによる「Influence of respiratory rate on the variability of blood volume pulse characteristics」J Med Eng Technol.2009;33(5):370-375、Wu HTらによる「Assessment of Vascular Health With Photoplethysmographic Waveforms From the Fingertip」IEEE J Biomed Health Inform.2017 Mar; 21(2):382-386、及びZahedi Eによる「Finger photoplethysmogram pulse amplitude changes induced by flow-mediated dilation」Physiol Meas.2008;29:625-37におけるものなど、超音波、フォトプレチスモグラム(photoplethysmogram)(PPG)、又はPATベースの技法が、動脈寸法調整の評価において現在採用されている。これらの現在の技法は、制限、例えば、動脈の撮像に関する明らかな課題に直面しているが、他のPPG及びPATベースの技法は、動脈サイズの検出可能な変化を生じさせるために(患者にとって外傷になる)閉塞が数分間起こる必要があることを克服することができない。コンプライアンス又は粘度についての情報は、現在の業務と比較して、動脈サイズの変化のより正確で快適な(より速い)測定を潜在的に可能にすることによって、内皮反応評価に利益をもたらし得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、動脈コンプライアンス及び/又は動脈粘度など、動脈特性は、対象者の健康状態を監視する際に有用である。したがって、対象者のこれらの及び他の動脈特性についての情報を非侵襲的に推定するための改善されたやり方を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は独立請求項によって定義される。従属請求項は有利な実施形態を定義する。
【0018】
動脈特性を非侵襲的に測定するためのソリューションは、(外圧式非観血(external pressure non-invasive)BP(NIBP)測定として知られている)外部摂動(external perturbation)を使用して血圧を測定するための技法から開発され得る。外部振動構成を用いると、経壁圧の変化を生じる外部の明確な圧力変化に対する反応として動脈容積を測定することができる。この場合、内部動脈圧の知識は不要である。この動脈容積反応から動脈コンプライアンスについての情報を導出することができる。さらに、(心拍数を超える)異なる周波数に対する動脈反応を、外部摂動を介して測定することができる。これにより動脈の粘度特性に関する情報を得ることができる。
【0019】
第1の特定の態様によれば、対象者の動脈の動脈特性についての情報を決定するための方法が提供される。本方法は、(a)対象者の肢上の第1のロケーションにある第1のカフ中に第1の振動周波数で容積振動を生成するステップであって、それらの容積振動が第1のカフ中に複数のカフ圧で生成される、容積振動を生成するステップと、(b)第1のカフ圧信号を生成するために容積振動の生成中に第1のカフ中の圧力を測定するステップと、(c)dVart=(Pcuff-Pabs)*Ccuff-dVoscを使用して、それぞれのカフ圧における容積振動に対する動脈の容積反応を表す第1の動脈容積反応を決定するステップであって、ここで、dVartは第1の動脈容積反応であり、Pcuffは第1のカフ圧信号であり、Pabsは第1のカフにおけるそれぞれのカフ圧であり、Ccuffは第1のカフのカフコンプライアンスであり、dVoscは、生成された容積振動によるカフ中の容積の変化を表す信号である、第1の動脈容積反応を決定するステップと、(d)第1の動脈容積反応から対象者の動脈特性についての情報を決定するステップとを有する。この態様は、内部動脈圧の知識を必要とすることなしに動脈特性を非侵襲的に測定することができるという利点を有する。
【0020】
いくつかの実施形態では、ステップ(c)は、容積振動の第1の振動周波数に対応する信号成分を得るために第1のカフ圧信号をバンドパスフィルタ処理するステップと、バンドパスフィルタ処理された第1のカフ圧信号に基づいて第1の動脈容積反応を決定するステップとをさらに有する。これらの実施形態は、第1の動脈容積反応を決定するときに心拍による信号成分が考慮に入れられないという利点を与える。
【0021】
いくつかの実施形態では、容積振動の第1の振動周波数は、対象者の心拍数とは異なる周波数に設定される。これらの実施形態では、容積振動の第1の振動周波数は1Hz~3Hzの範囲内であり得る。これらの実施形態では、心拍による容積振動をフィルタ処理して除去することが可能である。
【0022】
代替実施形態では、本方法は、ステップ(a)の前に、対象者上の第2のロケーションにある第2のカフを、対象者の収縮期血圧を上回るカフ圧である遮断カフ圧まで膨張させるステップであって、第2のロケーションが、第1のロケーションと同じ肢上の、第1のロケーションの上流にある、対象者上の第2のロケーションにある第2のカフを、対象者の収縮期血圧を上回るカフ圧である遮断カフ圧まで膨張させるステップをさらに有し得、ステップ(a)及びステップ(b)は、第2のカフが遮断カフ圧まで膨張させられる間に実行される。これらの実施形態は、血流による容積振動が停止され、それにより第1のカフ圧信号の後続の処理がより簡単になるという利点を有する。これらの実施形態では、ステップ(d)は、第1の動脈容積反応から経壁圧に対する動脈容積反応の関数を決定するステップと、決定された関数から動脈特性についての情報を決定するステップとを有し得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、動脈特性は動脈コンプライアンスを含む。これらの実施形態では、本方法は、経壁圧に対する動脈容積反応の関数から、最大動脈コンプライアンスが前記第1のカフにおいて生じるカフ圧を決定するステップと、最大動脈コンプライアンスが前記第1のカフにおいて生じるカフ圧として、対象者についての平均体循環充満圧(MSFP)を決定するステップとをさらに有し得る。これらの実施形態は、動脈圧を測定する必要なしにMSFPを非侵襲的に決定するための簡単な手法を与える。
【0024】
いくつかの実施形態では、本方法は、(e)それぞれの1つ又は複数のさらなるカフ圧信号を生成するために、容積振動についての1つ又は複数のさらなる振動周波数についてステップ(a)及びステップ(b)を繰り返すステップと、(f)1つ又は複数のさらなる振動周波数の各々についてのさらなる動脈容積反応を決定するステップであって、さらなる動脈容積反応が、それぞれのカフ圧における容積振動に対する動脈の容積反応を表し、それぞれの1つ又は複数のさらなるカフ圧信号と、第1のカフのカフコンプライアンスと、第1のカフ中に生成された容積振動のそれぞれの振動周波数に関係するそれぞれの容積振動信号とに基づいて、動脈容積反応が決定される、さらなる動脈容積反応を決定するステップとをさらに有し、ステップ(d)は、第1の動脈容積反応と、さらなる動脈容積反応とから、対象者の動脈特性についての情報を決定するステップを有する。これらの実施形態は、それらが、異なる周波数における動脈容積反応に関する情報を与えるという利点を有する。
【0025】
これらの実施形態では、ステップ(a)、ステップ(b)及びステップ(e)は、(g)第1のカフを第1のカフ圧まで膨張させるステップと、(h)第1のカフ中に第1の振動周波数で容積振動を生成し、容積振動の生成中に第1のカフ中の圧力を測定するステップと、(i)第1のカフにおける1つ又は複数のさらなる振動周波数についてステップ(h)を繰り返すステップと、(j)第1のカフを第2の圧力まで膨張させるステップと、(k)第1のカフが第2の圧力まで膨張させられる間にステップ(h)及びステップ(i)を繰り返すステップとを有し得る。したがって、これらの実施形態は、異なる周波数における動脈容積反応に関する情報が単一のカフ膨張手順から得られ得ることを規定している。
【0026】
上記実施形態では、動脈特性は動脈の粘度であり得る。これらの実施形態では、ステップ(d)は、第1の動脈容積反応とさらなる動脈容積反応との比較から動脈の粘度についての情報を決定するステップを有し得る。
【0027】
上記実施形態では、第1の振動周波数及び1つ又は複数のさらなる振動周波数は1Hz~25Hzの範囲内の周波数であり得る。
【0028】
いくつかの実施形態では、第1の振動周波数における容積振動は5ml~20mlの範囲内の振幅を有する。
【0029】
いくつかの実施形態では、本方法は、第1のカフのカフコンプライアンスを決定するステップをさらに有する。いくつかの実施形態では、カフコンプライアンスは、ステップ(c)の前に、第1のカフが第3のカフ圧まで膨張させられたときに、第1のカフ中に第2の振動周波数で容積振動を生成することと、第3のカフ圧信号を生成するために、第2の振動周波数での容積振動の生成中に第1のカフ中の圧力を測定することと、第2の容積振動の振動周波数に対応する信号成分を得るために第3のカフ圧信号をバンドパスフィルタ処理することと、フィルタ処理された第3のカフ圧信号から第1のカフのカフコンプライアンスを決定することとによって決定され得る。これらの実施形態は、上記の方法が実行される前にカフコンプライアンスが知られている必要がないという利点を有し、また、本方法が(例えば、対象者の年齢/サイズに従って決定されるカフのサイズをもつ)任意の特定のカフを用いて実行され得るという利点を有する。
【0030】
これらの実施形態では、カフコンプライアンスを決定するステップは、第2の振動周波数における容積振動の振幅を、フィルタ処理された第3のカフ圧信号の振幅によって除算するステップを有し得る。これらの実施形態では、第2の振動周波数における容積振動の振幅は第1の振動周波数における容積振動の振幅よりも小さくなり得る。これらの実施形態では、第2の振動周波数における容積振動の振幅は0.1ml~5mlの範囲内であり得る。
【0031】
第2の態様によれば、それの中で実施されるコンピュータ可読コードを有する(例えばコンピュータ可読媒体を含む)コンピュータプログラムプロダクトであって、そのコンピュータ可読コードは、好適なコンピュータ又は処理ユニットによって実行されると、そのコンピュータ又は処理ユニットが第1の態様又はそれの任意の実施形態による方法を実行させられるように構成された、コンピュータプログラムプロダクトが提供される。いくつかの実施形態では、コンピュータ又は処理ユニットは、ステップ(a)を実行するためにポンプ若しくは他の振動器構成要素に接続するか若しくはそれとインターフェースするように、及び/又はステップ(b)を実行するためにカフ圧センサーに接続するか又はそれとインターフェースするように構成される。
【0032】
第3の特定の態様によれば、対象者の動脈の動脈特性についての情報を決定するための装置が提供される。本装置は、(a)対象者の肢上の第1のロケーションにある第1のカフ中に第1の振動周波数で容積振動の生成を開始する行為であって、それらの容積振動が第1のカフ中に複数のカフ圧で生成されるべきである、容積振動の生成を開始する行為と、(b)容積振動の生成中の第1のカフ中の圧力の測定値を含む第1のカフ圧信号を得る行為と、(c)dVart=(Pcuff-Pabs)*Ccuff-dVoscを使用して、それぞれのカフ圧における容積振動に対する動脈の容積反応を表す第1の動脈容積反応を決定する行為であって、ここで、dVartは第1の動脈容積反応であり、Pcuffは第1のカフ圧信号であり、Pabsは第1のカフにおけるそれぞれのカフ圧であり、Ccuffは第1のカフのカフコンプライアンスであり、dVoscは、生成された容積振動によるカフ中の容積の変化を表す信号である、第1の動脈容積反応を決定する行為と、(d)第1の動脈容積反応から対象者の動脈特性についての情報を決定する行為とを行う。この態様は、内部動脈圧の知識を必要とすることなしに動脈特性を非侵襲的に測定することができるという利点を有する。
【0033】
いくつかの実施形態では、行為(c)は、容積振動の第1の振動周波数に対応する信号成分を得るために第1のカフ圧信号をバンドパスフィルタ処理することと、バンドパスフィルタ処理された第1のカフ圧信号に基づいて第1の動脈容積反応を決定することとをさらに含む。これらの実施形態は、第1の動脈容積反応を決定するときに心拍による信号成分が考慮に入れられないという利点を与える。
【0034】
いくつかの実施形態では、容積振動の第1の振動周波数は、対象者の心拍数とは異なる周波数に設定される。これらの実施形態では、容積振動の第1の振動周波数は1Hz~3Hzの範囲内であり得る。これらの実施形態では、心拍による容積振動をフィルタ処理して除去することが可能である。
【0035】
代替実施形態では、本装置は、行為(a)の前に、対象者上の第2のロケーションにある第2のカフの、対象者の収縮期血圧を上回るカフ圧である遮断カフ圧までの膨張を開始することであって、第2のロケーションが、第1のロケーションと同じ肢上の、第1のロケーションの上流にある、対象者上の第2のロケーションにある第2のカフの、対象者の収縮期血圧を上回るカフ圧である遮断カフ圧までの膨張を開始することをさらに行い得、行為(a)及び行為(b)は、第2のカフが遮断カフ圧まで膨張させられる間に実行される。これらの実施形態は、血流による容積振動が停止され、それにより第1のカフ圧信号の後続の処理がより簡単になるという利点を有する。これらの実施形態では、行為(d)は、第1の動脈容積反応から経壁圧に対する動脈容積反応の関数を決定することと、決定された関数から動脈特性についての情報を決定することとを含み得る。
【0036】
いくつかの実施形態では、動脈特性は動脈コンプライアンスを含む。これらの実施形態では、本装置は、経壁圧に対する動脈容積反応の関数から、最大動脈コンプライアンスが前記第1のカフにおいて生じるカフ圧を決定することと、最大動脈コンプライアンスが前記第1のカフにおいて生じるカフ圧として、対象者についての平均体循環充満圧(MSFP)を決定することとをさらに行い得る。これらの実施形態は、動脈圧を測定する必要なしにMSFPを非侵襲的に決定するための簡単な手法を与える。
【0037】
いくつかの実施形態では、本装置は、(e)それぞれの1つ又は複数のさらなるカフ圧信号を生成するために、容積振動についての1つ又は複数のさらなる振動周波数について行為(a)及び行為(b)を繰り返すことと、(f)1つ又は複数のさらなる振動周波数の各々についてのさらなる動脈容積反応を決定することであって、さらなる動脈容積反応が、それぞれのカフ圧における容積振動に対する動脈の容積反応を表し、それぞれの1つ又は複数のさらなるカフ圧信号と、第1のカフのカフコンプライアンスと、第1のカフ中に生成された容積振動のそれぞれの振動周波数に関係するそれぞれの容積振動信号とに基づいて、動脈容積反応が決定される、さらなる動脈容積反応を決定することとをさらに行い、行為(d)は、第1の動脈容積反応と、さらなる動脈容積反応とから、対象者の動脈特性についての情報を決定することを含む。これらの実施形態は、それらが、異なる周波数における動脈容積反応に関する情報を与えるという利点を有する。
【0038】
これらの実施形態では、行為(a)、行為(b)及び行為(e)は、(g)第1のカフの第1のカフ圧までの膨張を開始することと、(h)第1のカフ中に第1の振動周波数での容積振動の生成を開始し、容積振動の生成中に第1のカフ中の圧力を測定することと、(i)第1のカフにおける1つ又は複数のさらなる振動周波数について行為(h)を繰り返すことと、(j)第1のカフの第2の圧力までの膨張を開始することと、(k)第1のカフが第2の圧力まで膨張させられる間に行為(h)及び行為(i)を繰り返すこととを含み得る。したがって、これらの実施形態は、異なる周波数における動脈容積反応に関する情報が単一のカフ膨張手順から得られ得ることを規定している。
【0039】
上記実施形態では、動脈特性は動脈の粘度であり得る。これらの実施形態では、行為(d)は、第1の動脈容積反応とさらなる動脈容積反応との比較から動脈の粘度についての情報を決定することを含み得る。
【0040】
上記実施形態では、第1の振動周波数及び1つ又は複数のさらなる振動周波数は1Hz~25Hzの範囲内の周波数であり得る。
【0041】
いくつかの実施形態では、第1の振動周波数における容積振動は5ml~20mlの範囲内の振幅を有する。
【0042】
いくつかの実施形態では、本装置は、第1のカフのカフコンプライアンスを決定することをさらに行う。いくつかの実施形態では、カフコンプライアンスは、行為(c)の前に、第1のカフが第3のカフ圧まで膨張させられたときに、第1のカフ中に第2の振動周波数で容積振動の生成を開始することと、第2の振動周波数での容積振動の生成中に第1のカフ中の圧力の測定値を含む第3のカフ圧信号を得ることと、第2の容積振動の振動周波数に対応する信号成分を得るために第3のカフ圧信号をバンドパスフィルタ処理することと、フィルタ処理された第3のカフ圧信号から第1のカフのカフコンプライアンスを決定することとによって決定され得る。これらの実施形態は、上記のプロセスが実行される前にカフコンプライアンスが知られている必要がないという利点を有し、また、そのプロセスが(例えば、対象者の年齢/サイズに従って決定されるカフのサイズをもつ)任意の特定のカフを用いて実行され得るという利点を有する。
【0043】
これらの実施形態では、本装置は、第2の振動周波数における容積振動の振幅を、フィルタ処理された第3のカフ圧信号の振幅によって除算することによってカフコンプライアンスを決定するように構成され得る。これらの実施形態では、第2の振動周波数における容積振動の振幅は第1の振動周波数における容積振動の振幅よりも小さくなり得る。これらの実施形態では、第2の振動周波数における容積振動の振幅は0.1ml~5mlの範囲内であり得る。
【0044】
これらの及び他の態様は、以下で説明する実施形態から明らかになり、それらの実施形態を参照すれば解明されよう。
【0045】
上記実施形態は、したがって、患者監視のために使用される既存の機器又は装置を使用して実行され得る、(動脈コンプライアンス及び動脈の粘度など)動脈特性についての情報を非侵襲的に決定するための改善されたやり方を与える。能動的に調節される動脈特性の変化の検出は、例えば低血圧イベントに先行する、身体における代償的調節機構の活性化をあらわにすることができる。さらに、上記実施形態は外圧振動を使用するので、(侵襲的か非侵襲的かにかかわらず)動脈圧の測定を必要とすることなしに動脈特性についての改善された情報が得られる。
【0046】
動脈粘弾性(viscoelastic)特性の変化は、血圧の大きい変化と血行動態の不安定化とに先行し得るので、動脈特性についての情報は患者の容体悪化の早期検出のために使用され得る。動脈粘弾性特性の測定は、心臓血管疾病の進行状況の評価及び治療に対する反応性の評価において役割を果たし得るので、動脈特性についての情報は心臓血管疾病の診断及び治療のために同様に又は代替的に使用され得る。動脈特性についての情報は、脈波到達時間及び脈波形態学的特徴など、血圧サロゲート測度の較正の精度の改善を達成するために同様に又は代替的に使用され得る。さらに、動脈粘弾性は、例えば投薬反応に関係して、異なる患者グループをより良く識別する際の重要なファクタであるので、動脈特性についての情報の改善された随意に連続する測定により、個人化された医療処置及び介入の開発が可能になり得る。
【0047】
次に、以下の図面を参照しながら、例示的な実施形態について単に例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】低血圧期を経験している対象者についての心拍数、脈波到達時間及び収縮期血圧の測定を示すグラフである。
【
図2】本明細書で説明する技法を実施するために使用され得る装置のブロック図である。
【
図3】一実施形態による、対象者上の例示的な測定セットアップの説明図である。
【
図4】カフが膨張する際のカフの下の動脈容積振動を示すグラフである。
【
図5】様々な実施形態による、1つ又は複数の動脈特性についての情報を決定する方法を示すフローチャートである。
【
図6】時間とともに動脈圧の変化を示すグラフと、時間とともにカフの内側に生成される人工的な容積振動を示すグラフとを示す図である。
【
図7(a)】カフの下の動脈流が遮断されていないときに、
図6(b)に示されている容積振動を受けるカフから得られるカフ圧信号を示すグラフである。
【
図7(b)】別のカフを使用して血流が遮断されているときに、
図6(b)に示されている容積振動を受けるカフから得られるカフ圧信号を示すグラフである。
【
図8】
図7(a)中のカフ圧信号から得られる動脈容積反応を示す図である。
【
図9】
図8中のグラフの一部をより詳細に示す図である。
【
図10】
図9中のグラフの一部をより詳細に示す図である。
【
図11】経壁圧の関数としての動脈容積を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
上記のように、動脈コンプライアンス及び/又は動脈粘度など、対象者の動脈特性は、対象者の健康状態を監視するために有用である。これらの特性は、例えば、これらの特性の変化が、心拍数及び血圧など、より定期的に監視される特性の変化に先行する場合、対象者の健康の悪化の早期検出のために有用であり得る。これらの特性はまた、心臓血管疾病の診断及び治療において有用であり得、及び/又はそれらは、血圧サロゲート測度を較正する際に使用され得る。
【0050】
本明細書で説明する技法の実施形態は、動脈コンプライアンスのより正確な非侵襲的な測定を可能にする。それらの技法は、一般に動脈特性の測定における誤りの最も顕著な原因である血圧の知識を必要としない。本明細書で説明する技法の実施形態は動脈粘度の非侵襲的な測定を可能にする。従来、動脈粘度の測定は、生体外測定を介して侵襲的に実行されるか、又は生理学的モデルを介した推論によって実行されるだけである。さらなる実施形態は、動脈コンプライアンスの測定値を使用する平均体循環充満圧(MSFP)の非侵襲的な測定を可能にする。
【0051】
それらの技法は、動脈に明確な外圧を印加することと、超音波センサーなど、追加の容積センサーの必要なしに外圧の変化に対する動脈容積反応を同時に測定することの両方のために、血圧測定において一般に使用されるカフをどのように使用することができるかの新しい理解に基づく。
【0052】
以下では、本発明について説明し、例示するために様々なパラメータが使用される。これらのパラメータは便宜のために以下の表1において定義される。
【0053】
【0054】
図2は、本明細書で説明する技法の様々な実施形態による、動脈特性を推定するために使用することができるシステム2のブロック図を示している。システム2は、(「第1のカフ4」とも呼ばれる)カフ4と、(例えば接続管7を介して)カフ4に接続されたポンプ6と、カフ4中の圧力を測定するためのカフ圧センサー8とを備える。カフ4は、当該の対象者の身体部位の周りに、例えば、腕又は脚など、肢の周りに配置されるべきであり、ポンプ6は、カフ4を選択的に膨張させるように制御可能である。ポンプ6はまた、カフ4を選択的に収縮させることが可能であり、及び/又はカフ4を選択的に収縮させることを可能にするための弁(図示せず)が与えられる。
【0055】
カフ4がある圧力レベルまで膨張させられる間に、カフ4の内側に容積振動が生成される。例えば、カフ4に空気を追加し、次いでカフ4から空気を除去することによって容積振動を生成することができる。いくつかの実施形態では、ポンプ6は、カフ4の内側に容積振動を生成することが可能である。代替実施形態では、システム2は、ポンプ6、カフ4及び/又は接続管7に接続され、カフ4の内側に容積振動を生成するために使用される、(
図2に示されていない)別個の振動器構成要素を含み得る。以下でさらに説明するように、容積振動の大きさはカフ4の容積に対して相対的に小さい(例えば、振動は最大25ミリリットル(ml)の振幅を有するが、カフ4の一般的な膨張させられた容積は100ml~300mlの範囲内である)。
【0056】
カフ圧センサー8は、少なくとも、カフ4が、例えば、カフ4の膨張中に、カフ4の収縮中に、及び/又はカフ4中の圧力が特定のレベルに保持されている間に、カフ4の下に位置する動脈に対して刺激を加えているときの、並びにポンプ6がカフ4中に容積振動を生成している間の、カフ4中の圧力を測定する。カフ圧センサー8は、経時的なカフ4中の圧力の測定値を表すか又はそれらの測定値に関係する、カフ圧信号を出力する。カフ圧信号はPcuffとして示されており、本明細書では第1のカフ圧信号とも呼ぶ。Pcuffはまた、カフ圧センサー8による第1のカフ4中の圧力の瞬間測定値(ここで、瞬間測定値を本明細書ではカフ圧測定値と呼ぶ)を指し得ることに留意されたい。
【0057】
システム2の動作中にカフ4の内側に生成された容積振動は、(例えば、動脈コンプライアンスが、決定されるべき動脈特性である場合に)単一の周波数にあるか、又は複数の異なる周波数にあり得る。後者の場合、カフ4中に異なる周波数の容積振動が生成されたときに得られるカフ圧測定値が、動脈の粘度についての情報を得るために使用され得る。代替又は追加として、カフ4中に1つの周波数の容積振動が生成されたときに得られるカフ圧測定値は、カフ4のコンプライアンスを推定するために使用され得、他の又は別の周波数の容積振動が生成されたときに得られるカフ圧測定値は、動脈コンプライアンスについての情報を決定するために使用される。容積振動の周波数は1Hz~25Hzの範囲内であり得る。以下でさらに説明するように、カフ4中に生成された容積振動の効果が、動脈中の血流による振動とは別個にカフ圧測定において観測され得るように、容積振動の周波数は対象者の心拍数とは異なるべきである。一般的な心拍数は0.8Hz~3Hzの範囲内であり、容積振動の好適な周波数は心拍数を上回ることも下回ることもあり得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、システム2は第2のカフ10を備える。第2のカフ10は、当該の対象者の身体部位の周りに、特に、第1のカフ4と同じ肢の周りの、第1のカフ4の上流に配置されるべきである(すなわち、第2のカフ10は第1のカフ4よりも対象者の心臓に近い、言い換えれば、第2のカフ10は近位にあり、第1のカフ4は遠位にある)。第2のカフ10は、接続管11を介してポンプ6に接続され得、ポンプ6は、第2のカフ10を選択的に膨張させるように制御可能である。ポンプ6はまた、第2のカフ10を選択的に収縮させることが可能であり、及び/又は第2のカフ10を収縮させることを可能にするための弁(図示せず)が与えられる。ポンプ6は第1のカフ4とは別個に第2のカフ10を膨張/収縮させることができること、例えば、ポンプ6は、第1のカフ4が膨張若しくは収縮させられないか、又はさもなければ現在の圧力に保持されている間に、第2のカフ10を特定の圧力まで膨張又は収縮させることができ、第2のカフ10が膨張若しくは収縮させられないか、又はさもなければ現在の圧力に保持されている間に、第1のカフ4を特定の圧力まで膨張又は収縮させることができることに留意されたい。さらに、ポンプ6(又は他の振動器構成要素)は、第2のカフ10中の圧力又は容積に影響を及ぼすことなしに(すなわち、第2のカフ10に容積振動が印加されることなしに)、第1のカフ4に容積振動を印加することが可能である。いくつかの実施形態では、第1のポンプ6を使用する代わりに、特に、第2のカフ10を膨張/収縮させるための(
図2に示されていない)別個のポンプが与えられる。
【0059】
以下でさらに説明するように、システム2の使用中に、第2のカフ10は、(例えば第1のカフ4がそこに位置する)肢の下側部分における血流を遮断する圧力まで膨張させられ得、そのことは、第1のカフ4の下の動脈中に血液が流れないことを意味する。動脈中で血流が遮断されている間に第1のカフ4中に容積振動が生成され、カフ圧信号が得られ得る。このようにして血流を遮断することにより、動脈特性についての情報を決定するときにカフ圧信号の処理を簡略化することが可能になる。さらに、このようにして血流を遮断することにより、いくつかの実施形態では、カフ圧信号から対象者についての平均体循環充満圧(MSFP)を推定することが可能になる。
【0060】
システム2はまた、対象者についての1つ又は複数の動脈特性についての情報を決定するために、本明細書で説明した技法に従って動作する装置12を備える。装置12は、カフ圧センサー8からのカフ圧信号を受信するように構成される。いくつかの実施形態では、装置12は、ポンプ6の動作を制御し、それによって、適切な時間に第1のカフ4の膨張を開始し、カフ4中に容積振動の生成を開始するように構成される。
【0061】
装置12は、サーバ、デスクトップコンピュータ、ラップトップ、タブレットコンピュータ、スマートフォン、スマートウォッチなどの計算デバイス、若しくは、動脈コンプライアンス及び/若しくは動脈粘度などの動脈特性を含む、対象者/患者の様々な生理学的特徴を監視する(及び随意に表示する)ために使用される患者監視デバイス(例えば、臨床環境において患者のベッドサイドに位置する監視デバイス)など、臨床環境において一般に見つけられる他のタイプのデバイスの形態であるか、又はそのような計算デバイス若しくは他のタイプのデバイスの一部であり得る。
【0062】
装置12は、装置12の動作を制御し、本明細書で説明する方法を実行又は実施するように構成され得る、処理ユニット22を含む。処理ユニット22は、本明細書で説明する様々な機能を実行するために、ソフトウェア及び/又はハードウェアを用いて多数のやり方で実装され得る。処理ユニット22は、必要とされる機能を実行するための、及び/又は必要とされる機能を実施するために処理ユニット22の構成要素を制御するためのソフトウェア又はコンピュータプログラムコードを使用してプログラムされる1つ又は複数のマイクロプロセッサ又はデジタル信号プロセッサ(DSP)を備える。処理ユニット22は、ある機能を実行するための専用のハードウェア(例えば、増幅器、前置増幅器、アナログデジタルコンバータ(ADC)及び/又はデジタルアナログコンバータ(DAC))と、他の機能を実行するためのプロセッサ(例えば、1つ又は複数のプログラムされたマイクロプロセッサ、コントローラ、DSP及び関連する回路)との組合せとして実装され得る。本開示の様々な実施形態において採用される構成要素の例としては、限定はしないが、従来のマイクロプロセッサ、DSP、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、ニューラルネットワークを実装するためのハードウェア、及び/又はいわゆる人工知能(AI)ハードウェアアクセラレータ(すなわち、メインプロセッサと一緒に使用され得る、AIアプリケーションのために特に設計されたプロセッサ又は他のハードウェア)がある。
【0063】
処理ユニット22は、装置12の動作を制御する際に、及び/又は本明細書で説明する方法を実行又は実施する際に処理ユニット22が使用するためのデータ、情報及び/又は信号を記憶し得る、メモリユニット24に接続される。いくつかの実装形態では、メモリユニット24は、処理ユニット22が、本明細書で説明する方法を含む1つ又は複数の機能を実行するように、処理ユニット22によって実行され得る、コンピュータ可読コードを記憶する。特定の実施形態では、プログラムコードは、スマートウォッチ、スマートフォン、タブレット、ラップトップ又はコンピュータのためのアプリケーションの形態であり得る。メモリユニット24は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、スタティックRAM(SRAM)、ダイナミックRAM(DRAM)、読取り専用メモリ(ROM)、プログラマブルROM(PROM)、消去可能PROM(EPROM)及び電気的消去可能PROM(EEPROM)など、揮発性及び不揮発性コンピュータメモリを含むキャッシュ又はシステムメモリなど、任意のタイプの非一時的機械可読媒体を含み得、メモリユニット24は、メモリチップ、(コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)又はBlu-Rayディスクなどの)光ディスク、ハードディスク、テープストレージソリューション、又はメモリスティック、ソリッドステートドライブ(SSD)、メモリカードなどを含む、ソリッドステートデバイスの形態で実装され得る。
【0064】
いくつかの実施形態では、装置12は、装置12のユーザが装置12に情報、データ及び/又はコマンドを入力することを可能にする、及び/又は装置12が装置12のユーザに情報又はデータを出力することを可能にする、1つ又は複数の構成要素を含むユーザインターフェース26を備える。ユーザインターフェース26によって出力され得る情報は、動脈特性についての情報、動脈特性の値、動脈コンプライアンスについての情報、動脈コンプライアンス値、動脈の粘度についての情報、動脈粘度値、及びカフコンプライアンス値のうちのいずれかを含み得る。ユーザインターフェース26は、限定はしないが、キーボード、キーパッド、1つ又は複数のボタン、スイッチ又はダイヤル、マウス、トラックパッド、タッチスクリーン、スタイラス、カメラ、マイクロフォンなどを含む、任意の好適な入力構成要素を含み得、及び/又はユーザインターフェース26は、限定はしないが、ディスプレイスクリーン、1つ又は複数のライト又は光要素、1つ又は複数のラウドスピーカー、振動要素などを含む、任意の好適な出力構成要素を含み得る。
【0065】
装置12の実際的な実装形態は、
図2に示されている構成要素への追加の構成要素を含み得ることが理解されよう。例えば、装置12は、バッテリーなどの電源、又は装置12をコンセント電源に接続することを可能にするための構成要素をも含む。装置12は、サーバ、データベース及びユーザデバイスを含む、他のデバイスへのデータ接続、及び/又はそのような他のデバイスとのデータ交換を可能にするためのインターフェース回路をも含み得る。
【0066】
図3は、対象者30上の第1のカフ4及び随意の第2のカフ10を用いた例示的な測定セットアップを示している。第1のカフ4は対象者30の左腕32上に示されており、
図3はまた、第2のカフ10が使用される実施形態において第2のカフ10をどこに配置することができるかを示している。上記のように、第2のカフ10は、第1のカフ4と同じ肢の周りの、第1のカフ4の上流にあるべきである。したがって、この説明図では、第2のカフ10は左腕32の上側部分上にあり、第1のカフ4は左腕32の下側部分上にある。カフ4、10のこの配置により、第1のカフ4がそこに位置する左腕32の下側部分の中への血流を妨げる圧力まで第2のカフ10を膨張させることが可能になる。血流を妨げるために第2のカフ10において必要とされる圧力は対象者30の収縮期血圧を上回る。
【0067】
図4は、人工的な容積振動がない場合の、カフ4中の異なる圧力における血流による動脈容積の変化(dV
art)の大きさを示すグラフである。
図4は、(mlで表される)動脈容積振動と、動脈容積振動についての信号エンベロープの両方を示している(図示されている信号エンベロープは、容積振動信号についての上側エンベロープと、容積振動信号についての下側エンベロープとの間の差(すなわち、信号エンベロープ=上側エンベロープ-下側エンベロープ)である)。
【0068】
外圧に対する動脈容積反応を測定することは、対象者30の腕32上に配置された第1のカフ4の内側に明確な容積振動を生成することによって実行され得ることがわかっている。動脈容積反応を測定することは、単一のカフ(第1のカフ4、ただし、第1のカフ4は腕32の上側部分にも下側部分にも配置され得る)を必要とするだけである。使用中に、カフ4は異なる絶対圧(Pabs)まで膨張させられ、様々な絶対圧にある間にポンプ6によってカフ4内に容積振動(dVosc)が人工的に生成され、カフ圧センサー8によってカフ4中の圧力が測定される。いくつかの実施形態では、例えば、カフ4を第1の絶対圧まで膨張させ、カフ4中に容積振動を生成し、容積振動が生成される間にカフ4中の圧力を測定する、段階的な膨張/測定手法を使用することができる。カフ4中の圧力は、次いで、(第1の絶対圧よりも高くなることも低くなることもある)第2の絶対圧に変更され、カフ4中に容積振動が生成され、カフ4中の圧力が測定され、以下同様である。代替実施形態では、例えば、カフ4を(例えば、一定の膨張率で)連続的に膨張させながら、カフ4中に容積振動を生成し、容積振動が生成される間にカフ4中の圧力を測定する、連続的な膨張/測定手法を使用することができる。いずれの実施形態でも、カフ4中の圧力は0~200mmHgの範囲内であり得る。
【0069】
第1のカフ4のコンプライアンス(Ccuff)が明確である場合、人工的な容積変化(容積振動)に対するカフ4の圧力反応dPoscは、
dPosc=dVosc/Ccuff (3)
から知られる。
【0070】
動脈容積Vartは、圧力振動dPoscと、(収縮期血圧値と拡張期血圧値との間に生じる)内圧脈動dPartとに反応する。測定されたカフ圧信号Pcuffは、したがって、dVartとdVoscの両方の影響を受ける。動脈容積反応は、式
dVart=(Pcuff-Pabs)*Ccuff-dVosc (4)
を介したPcuffの測定から得ることができる。
【0071】
式(4)は、カフ圧Pcuffの離散測定のための動脈容積反応を決定するために使用することができるが、より一般的には、動脈容積反応は、
dVart(t)=(Pcuff(t)-Pabs(t))*Ccuff-dVosc(t) (5)
を使用して導出することができ、ここで、dVart(t)は経時的な動脈容積反応であり、Pcuff(t)はカフ圧信号である。
【0072】
動脈容積(dV
art)の変化の予想される大きさは、
図4に示されているように、低いカフ圧においては0.25mlのオーダーになり、カフ圧が平均動脈圧に達する際には1.25mlのオーダーになり得る。一般に、dV
artの最大振幅は1ml~3mlの範囲内であることが予想される。この容積変化は、(脈圧、又は収縮期血圧値と拡張期血圧値との間の差である)40mmHgのオーダーの動脈圧変化の結果として生じる。
【0073】
Ccuffは、通常、カフ4の膨張の前には知られていないので、いくつかの実施形態では、ポンプ6によって誘起される容積振動によるカフ4中の圧力の測定値はまた、
Ccuff=dVosc/dPosc (6)
からカフコンプライアンスを決定するためにも使用することができる。
【0074】
2mmHgのオーダーのカフ圧反応を生じさせる1mlのオーダーの人工的な容積振動を、カフコンプライアンスを測定するために使用することができる。2mmHgのオーダーの大きさを有するカフ圧脈動は動脈を振動させない。このことは、特に、20~40mmHgの、又は140~180mmHgの(すなわち、収縮期血圧を上回る)絶対カフ圧でカフコンプライアンスが測定される場合にそうなる。これらの圧力において、2mmHgの圧力変化に対する動脈反応は、無視できる0.02mlのオーダーになる。このことは、dVoscに反応するdPoscがカフ反応によることを効果的に保証し、この振幅範囲(1~2mmHgの人工的な圧力脈動)においては、動脈の障害はない。
【0075】
図5中のフローチャートは、様々な実施形態による、1つ又は複数の動脈特性についての情報を決定する例示的な方法を示している。この方法の様々なステップは、処理ユニット22と、第1のカフ4と、ポンプ6と、カフ圧センサー8とを使用して実行され得る。特に、処理ユニット22は、第1のカフ4を膨張及び収縮させるようにポンプ6の動作を制御することができる。いくつかの実施形態では、第2のカフ10は、第1のカフ4の下の動脈中の血流を遮断するために存在し、膨張させられ得る。
【0076】
手短に言えば、
図5の方法において、カフ4の下の動脈の容積反応はカフ4中のいくつかの異なる圧力において決定され、1つ又は複数の動脈特性についての情報は容積反応から決定される。
【0077】
随意である、第1のステップ、ステップ101において、第2のカフ10は、対象者30の腕32(又は他の肢)上に配置され、腕32中の動脈を通る血液の流れを遮断するのに十分である圧力レベルまで(例えばポンプ6によって)膨張させられる。この圧力レベルは、本明細書では遮断カフ圧と呼ばれ、対象者30の収縮期血圧以上の圧力である。いくつかの実施形態では、対象者30の収縮期血圧は、例えば、従来の血圧測定技法を使用して血圧測定を実行したことから知られるが、他の実施形態では、遮断カフ圧は、対象者の母集団についての収縮期血圧を上回る値に再設定され得る。
【0078】
第2のカフ10が使用される実施形態では、ステップ103及び105は、第2のカフ10が遮断カフ圧まで膨張させられ、第1のカフ4の下の動脈中の血流が止められている間に実行される。他の場合、第2のカフ10は存在しないか又は使用されず、ステップ103及び105は、血液が第1のカフ4の下の動脈を通って流れている間に実行される。
【0079】
ステップ103において、第1のカフ4中に第1の振動周波数で容積振動が生成される。第1のカフ4は、対象者30の腕32(又は他の肢)(ただし、第2のカフ10が使用される実施形態では第2のカフ10と同じ肢)上の第1のロケーションにある。ステップ103において、第1のカフ4における複数のカフ圧についての容積振動が生成される。容積振動はポンプ6又は他の振動器構成要素によって生成され得る。容積振動の大きさは明確である、すなわち知られている。いくつかの実施形態では、第1のカフ4中に生成される容積振動の大きさは、カフ4中の生じる圧力振動が20~50mmHgの範囲内になるような大きさである。いくつかの実施形態では、カフ4中に生成される容積振動の大きさは10mlのオーダー、例えば5ml~20mlの範囲内であり得る。第1のカフ4のコンプライアンスが0.5ml/mmHgである場合、大きさ10mlの容積振動により20mmHgのオーダーの圧力脈動が生じ得る。
【0080】
一般に、第1の振動周波数は1Hz~25Hzの範囲内の周波数であり得る。第2のカフ10を使用しない実施形態では、第1の振動周波数は対象者30の心拍数とは異なるべきである。例えば、対象者30の心拍数が60回/分(bpm)、すなわち1Hzである場合、第1の振動周波数は1Hzとは異なるべきである。一例として、60bpmの心拍数の場合、第1の振動周波数は3Hz以上になり得る。別の例として、180bpm(すなわち3Hz)の心拍数の場合、第1の振動周波数は1Hzであるか、又は3Hzを上回る周波数であり得る。
【0081】
図6を参照しながら一例を与える。
図6(a)は、カフ4、10も容積振動もない場合の経時的な動脈圧(P
art)を示すグラフである。動脈圧P
artは血圧を表し、
図6(a)では1Hzである心拍数に従って、収縮期血圧(例えば120mmHg)と拡張期血圧(例えば80mmHg)との間の変化を示している。
図6(b)は、好適な振動周波数における例示的な人工的な容積振動(V
oscの変化)を示すグラフである。したがって、容積振動は20ml(+10ml~-10ml)の大きさと10Hzの周波数とを有し得る。
【0082】
第1のカフ4の下の動脈中の血液の流れを遮断するために第2のカフ10を使用する実施形態では、第1の振動周波数を任意の望まれる値に設定することができるが、以下では、
図6(b)による容積振動を使用すると仮定する。
【0083】
ステップ105において、第1のカフ4中に容積振動が生成されている間に、カフ圧センサー8がカフ4中の圧力を測定する。カフ圧センサー8は、経時的なカフ4中の圧力を表す第1のカフ圧信号を生成する。カフ圧センサー8によって出力された信号はPcuffとして示されている。
【0084】
上記のように、ステップ103及びステップ105が、第1のカフ4を第1の絶対圧まで膨張させるステップと、カフ4中に容積振動を生成するステップと、容積振動が生成される間にカフ4中の圧力を測定するステップとを有する、段階的な膨張/測定手法を使用することができる。カフ4中の圧力は、次いで、(第1の絶対圧よりも高くなることも低くなることもある)第2の絶対圧に変更され、カフ4中に容積振動が生成され、カフ4中の圧力が測定され、以下同様である。代替実施形態では、ステップ103及びステップ105が、第1のカフ4を(例えば、一定の膨張率で)連続的に膨張させながら、カフ4中に容積振動を連続的に生成するステップと、容積振動が生成される間にカフ4中の圧力を測定するステップとを有する、連続的な膨張/測定手法を使用することができる。いずれの実施形態でも、カフ4中の絶対圧は0~200mmHgの範囲内であり得る。
【0085】
図7(a)は、血液が第1のカフ4の下の動脈を通って流れているときに、連続的な膨張/測定手法を使用して得られるカフ圧信号(P
cuff)を示している。カフ圧信号は、第1のカフ4が連続的に膨張させられ、
図6(b)に示されている容積振動が生成される間に、第1のカフ4中の圧力を測定することによって得られる。この例では、第1のカフ4の膨張率は約3~4ml/sであるが、他の膨張率も使用することができることが理解されよう。カフについての一般的な膨張率では、カフを0mmHgから収縮期血圧を上回るまで膨張させるのに10秒~100秒かかり得る。第1のカフ4中の圧力におけるより高い周波数振動は人工的な容積振動によって生じ、より低い周波数振動は血流によって生じるので、第1のカフ4中の圧力に対する心拍による血流の効果は
図7(a)中のカフ圧信号のエンベロープから見ることができる。
【0086】
図7(b)は、第1のカフ4の下の動脈を通る血流が第2のカフ10の使用によって止められたときに、連続的な膨張/測定手法を使用して得られるカフ圧信号(P
cuff)を示している。
図7(a)と同様に、
図7(b)中のカフ圧信号は、第1のカフ4が連続的に膨張させられ、
図6(b)に示されている容積振動が生成される間に、第1のカフ4中の圧力を測定することによって得られる。この場合も、この例では、第1のカフ4の膨張率は約3~4ml/sであるが、他の膨張率も使用することができることが理解されよう。この場合も、カフについての一般的な膨張率では、カフを0mmHgから収縮期血圧を上回るまで膨張させるのに10秒~100秒かかり得る。
【0087】
段階的な膨張/測定手法の場合、カフ圧測定がカフにおいて行われる各圧力「段階」についてそれぞれのカフ圧信号があり得、その場合、これらの信号は本方法の後続のステップにおいてまとめて考えられ、又は、各々の圧力段階におけるカフ圧測定値を含む、単一のカフ圧信号があり得る(その場合、これらの圧力段階はカフ圧信号中で観測可能である)ことが理解されよう。
【0088】
ステップ107において、処理ユニット22は、第1のカフ4中の異なる圧力における(第1の振動周波数での)明確な容積振動に対する動脈の容積反応を表す、動脈容積反応を決定する。動脈容積反応は、ステップ105において得られたカフ圧信号から決定される。いくつかの実施形態では、動脈容積反応は、第1のカフ4のカフコンプライアンス(Ccuff)と、カフ圧測定時に第1のカフ4中に生成される容積振動についての情報とを使用して決定される。第1のカフ4のカフコンプライアンス(Ccuff)は、以下でさらに説明する随意の実施形態によれば、知られているか、又はすでに導出されているかのいずれかである。容積振動についての情報は、生成された容積振動の最大振幅と、容積振動の周波数とであり得る。いくつかの実施形態では、容積振動についての情報は、第1のカフ4中に生成された容積の変化を表す信号であり得る(この容積変化信号はdVoscとして示されている)。容積振動についての情報は、適切な容積振動を生成するためにポンプ6又は他の振動器構成要素によって使用される制御信号であるか、又はそのような制御信号に基づき得る。いくつかの実施形態では、動脈容積反応は、さらに、特定のカフ圧測定値が得られた時間における第1のカフ4中の絶対圧を示す情報を使用して決定される。
【0089】
いくつかの実施形態では、明確な容積振動に対する動脈容積反応は、上記の式(4)又は(5)を使用して決定される。随意には、これらの実施形態では、式(4)又は(5)中の(Pcuff-Pabs)は、例えばカフ圧信号のトレンドフィッティング(trend fitting)によって、カフ圧信号から直接導出され得る。
【0090】
図8は、式(4)又は(5)を使用して
図7(a)中のカフ圧信号から得られた動脈容積反応を示している。特に、
図8は、第1のカフ4中のmmHgでの異なる圧力(x軸)における、明確な容積振動と、第1の振動周波数における内圧振動とに対する、mlでの動脈の容積反応(y軸)を示している。
図9は、
図8中の動脈容積反応の一部を「拡大」したものである。
図10は、
図9中の動脈容積反応の一部をさらに「拡大」したものである。
【0091】
好ましくは、動脈容積反応は、カフ圧信号の一貫性のある部分から決定される。すなわち、動脈容積反応はカフ圧信号中の波形の特定の部分から決定される。例えば、
図10に示されているように、動脈容積反応は、カフ圧信号中の極大値、すなわち、カフ圧信号が動脈圧拍動の頂部を表す場所(動脈圧が収縮期血圧である場所)から決定され得る。代替的に、動脈容積反応は、カフ圧信号中の極小値、すなわち、カフ圧信号が動脈圧拍動の底部を表す場所(動脈圧が拡張期血圧である場所)から決定され得る。
【0092】
血液が第1のカフ4の下の動脈中を流れている実施形態では(すなわち、第2のカフ10が使用されないか又はシステム2中に存在しない実施形態では)、ステップ107は、容積振動の第1の振動周波数に対応する信号成分を得るか又は抽出するために、第1のカフ圧信号をバンドパスフィルタ処理するステップを有し得る。すなわち、第1のカフ圧信号は、内部的に発生した脈動(すなわち、対象者30の心拍数に対応する周波数における血液の流れ)による信号成分(すなわち圧力変化)と、外部的に生成された容積振動による信号成分(すなわち圧力変化)とを含む。容積振動による圧力変化のみが、動脈特性についての情報を決定することにとって重要であるので、容積振動によって生じた信号成分を抽出するために、カフ圧信号がバンドパスフィルタ処理される。したがって、バンドパスフィルタ処理は、第1の振動周波数を含む周波数帯域、若しくは第1の振動周波数を中心とする周波数帯域を通過させる(抽出する)か、又は、少なくとも、対象者30の心拍数を含まない周波数帯域を通過させるべきである。バンドパスフィルタ処理の通過帯域は第1の振動周波数に基づいて設定され得る。バンドパスフィルタ処理されたカフ圧信号は、容積振動の第1の振動周波数に対応する信号成分を含み、上記で説明したように、動脈容積反応を決定するために使用される。例えば、式(4)中の(Pcuff-Pabs)は、例えば、膨張による変化を除去するためのカフ圧信号のトレンドフィッティングと、内圧効果を除去するための得られた信号のトレンドフィッティングとを実行することによって、バンドパスフィルタ処理されたカフ圧信号から決定され得る。別の例として、式(4)中の(Pcuff-Pabs)を決定するために、さらなるバンドパスフィルタ処理を使用することができる。
【0093】
上記で説明したように、カフ圧信号をバンドパスフィルタ処理することの代替として、第1の振動周波数が対象者30の心拍数よりもはるかに高い場合に、外部容積振動に対する動脈の反応についての情報をカフ圧信号から抽出するために、時間領域におけるデトレンディング(de-trending)を使用することができる。例えば、
図7(a)に示されているカフ圧信号に対して、緩やかに変化するトレンドをフィッティングすることができ、
図7(a)中の信号とトレンドとの間の差として当該の信号を得ることができる。
【0094】
最後に、ステップ109において、ステップ107において決定された動脈容積反応から対象者30の動脈特性についての情報が決定される。動脈特性は動脈コンプライアンス及び/又は動脈の粘度であり得る。
【0095】
カフが(低圧、例えば0mmHgから)膨張させられるにつれて経壁圧(P
tm)が低下することに留意して、動脈特性についての情報、例えば、動脈コンプライアンス又は動脈の粘度は、経壁圧(すなわち、動脈壁にわたって印加された圧力)に対する動脈容積反応の関数から決定され得る。G.Drzewieckiらによる論文「Theory of the Oscillometric Maximum and the Systolic and Diastolic Detection Ratios」Annals of Biomedical Engineering,Vol.22,pp.88-96,1994は、経壁圧が動脈虚脱の作用にどのように関係しているかについて記載している。経壁圧に対する動脈容積反応の関数は、ステップ107において決定された明確な圧力脈動に対する動脈容積反応から決定される。明確な圧力振動に対する動脈容積反応から経壁圧に対する動脈容積反応の関数を決定するための例示的な技法は、WO2020/126576(「Control unit for deriving a measure of arterial compliance」)、並びにBogatu,L.I.、Turco,S.、Mischi,M.、Woerlee,P.、Bouwman,A.、Korsten,E.H.H.M.、及びMuehlsteff,J.による論文「A modelling framework for assessment of arterial compliance by fusion of oscillometry and pulse wave velocity information」Computer Methods and Programs in Biomedicine,2020,196に記載されている。
図11は、(mmHgでの)経壁圧の関数としての(mlでの)動脈容積反応を示すグラフである。式(1)に基づいて、
図11に示されている関係は経壁圧の関数としての動脈コンプライアンスを表し、したがって、経壁圧に対する動脈容積反応の関数は対象者30の動脈コンプライアンスに関する情報を与えることがわかる。
【0096】
動脈特性が動脈の粘度である実施形態では、粘度情報は、複数の異なる周波数における容積振動に対する動脈の反応に基づいて得られ得る。その場合に、粘度についての情報が望まれる場合、ステップ103及びステップ105は、矢印111によって示されるように、容積振動についての1つ又は複数のさらなる振動周波数について繰り返される。1つ又は複数のさらなる振動周波数は、第1の振動周波数とは異なり、1Hz~25Hzの範囲内の任意の周波数であり得る。第1の振動周波数と同様に、第2のカフ10を使用しない実施形態では、さらなる振動周波数は対象者30の心拍数とは異なるべきである。
【0097】
ステップ103及びステップ105の繰り返しにより、各さらなる振動周波数についてそれぞれのさらなるカフ圧信号が与えられる。(主に、連続的な膨張/測定手法に適用可能である)いくつかの実施形態では、第1の振動周波数についてステップ103及びステップ105が実行されると、第1のカフ4は初期圧力レベルまで収縮させられ、第1のカフ4が再び膨張させられる間に、第2の振動周波数においてステップ103及びステップ105が実行され得る。このことにより第2の振動周波数についてのカフ圧信号が与えられる。これは各さらなる振動周波数について繰り返され得る。(主に、段階的な膨張/測定手法に適用可能である)代替実施形態では、特定の圧力「段階」における第1の振動周波数についてのカフ圧信号が得られると、さらなる振動周波数における容積振動が印加され、さらなるカフ圧信号が得られ得る。これは、各さらなる振動周波数について、各圧力「段階」において繰り返され得る。
【0098】
各さらなる振動周波数についてのそれぞれのさらなるカフ圧信号を与えるためにステップ103及びステップ105を繰り返すことの代替として、ステップ103において、単一の周波数を有する容積振動を印加するのではなく、複数の周波数の容積振動が組み合わせられ、ステップ103において多周波数容積振動が印加され得る。例えば、3Hz正弦波と10Hz正弦波とが組み合わせられ、この組み合わせられた信号は容積振動を駆動するために使用され得る。この実施形態では、異なる振動周波数による動脈容積反応を分離するために、得られたカフ圧信号を処理することが必要であることが理解されよう。このことは、それぞれの振動周波数による信号成分を抽出するためのバンドパスフィルタの使用によって達成され得る。
【0099】
各さらなる振動周波数についてのカフ圧信号を得るためにどの手法を使用しても、振動周波数の各々におけるさらなる動脈容積反応を決定するために、得られたカフ圧信号がステップ107に従って処理される。特定のさらなる振動周波数についてのさらなる動脈容積反応は、上記のステップ107と同様に、それぞれのさらなるカフ圧信号と、第1のカフのカフコンプライアンスと、容積振動の特定のさらなる振動周波数に関係するそれぞれの容積振動信号とに基づいて決定される。上記のステップ107と同様に、動脈容積反応は式(4)又は式(5)に従って決定され得る。
【0100】
ステップ103及びステップ105の繰り返しは、ステップ107の繰り返しを実行する前に(例えば、第1の振動周波数について得られたカフ圧信号から動脈容積反応を決定する前に)実行することが可能であることが理解されよう。
【0101】
ステップ109において、対象者30の動脈特性についての情報(例えば動脈の粘度)は、第1の動脈容積反応と、さらなる動脈容積反応とから決定され得る。特に、粘度情報は、異なる周波数における外部容積振動に対する異なる動脈容積反応から導出され得る。
【0102】
一例として、粘度についての情報は、1つの振動周波数における容積振動に対する動脈容積反応と、1つ又は複数の他の振動周波数における容積振動に対する動脈容積反応との比較として与えられ得る。例えば、10Hz容積振動に対する動脈容積反応が、1Hz容積振動に対する動脈容積反応と比較され得る。(例えば、対象者の健康の悪化又は改善による)経時的な粘度の変化は、異なる測定動作において得られた動脈容積反応を比較することによって観測され得る。動脈の粘度についての情報は、各テーブルエントリが、例えば、ある経壁圧と、ある振動周波数とにおける動脈容積反応を示す、ルックアップテーブルの形態で記憶され得る。粘度についての他の情報は、(応力の遅い変化における粘度挙動を記述すると考えられ得る)低い周波数をもつ容積振動に対する動脈容積反応と、(高負荷期(すなわちより高い心拍数)に対して動脈がどのように反応するかを示すと考えられ得る)より高い周波数における容積振動に対する動脈容積反応とによって与えられ得る。
【0103】
記載されているように、動脈特性についての情報はいくつかのやり方で提示され得る。例えば、動脈コンプライアンスについての情報は、dV
art(t)/dP
ext(t)(例えば
図11に示されている関係)、又は|max(dV
art)|/|max(dP
ext)|の形態で表され得る。別の例として、動脈の粘度についての情報は、
dV
art(1Hz,time1)/dV
art(10Hz,time1)-dV
art(1Hz,time2)/dV
art(10Hz,time2) (7)
又は単に、それぞれの経壁圧におけるdV
art(10Hz)-dV
art(1Hz)の形態で表され得る。式はすべて、動脈の粘度に関する情報を含んでいる。また、動脈容積反応、及び/又は経壁圧に対する動脈容積反応の関数が、弾性/粘度パラメータを介して動脈を記述するモデルに入力され得る。例えば、弾性/粘度パラメータを推論するために、異なる周波数/経壁圧における測定値が動脈モデルにフィッティングされ得る。
【0104】
上記のように、動脈容積反応は第1のカフ4のコンプライアンスに基づいて決定される。いくつかの実施形態では、カフコンプライアンスC
cuffは、
図5における方法が実行される前に知られているか又は導出される。カフのコンプライアンスを導出するための技法は、例えば、EP3705033(「Blood pressure measurement device and control method」)、並びにBogatu,L.、Muehlsteff,J.、Bresch,E.、Smink,J.、及びWoerlee,P.H..による論文「Insights into oscillometry: An Experimental Study for Improvement of Cuff-Based Blood Pressure Measurement Technology」2019 41st Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society、EMBC 2019(pp.7068-7071)において当技術分野で知られている。
【0105】
代替実施形態では、第1のカフ4のコンプライアンスは、
図5における方法の前に、又は
図5における方法の一部としてシステム2を使用して決定され得る。これにより、動脈特性測定技法の開始時にカフコンプライアンスを決定することが可能になり、例えば、システム2を用いた異なるカフ(例えば、異なるサイズを有する対象者のための異なるサイズを有するカフ)の使用が可能になり得るので、このことは有用であり得る。いずれの場合も、ステップ107において動脈容積反応を決定するためにカフコンプライアンスが必要とされ、したがって、カフコンプライアンスは、それらのステップが実行される前に(例えば、(適用可能な場合)ステップ101の前に、ステップ103及びステップ105の前に、又はステップ103及びステップ105の後に)決定されるか又は利用可能であるべきである。第2のカフ10も存在し、動脈中の血液の流れを遮断している実施形態においても、第2のカフ10が省略されるか若しくは使用されない(若しくは動脈特性についての情報を得るときにのみ使用される)実施形態においても、カフコンプライアンスは決定され得る。
【0106】
カフコンプライアンスを決定するために、第1のカフ4が最初に(本明細書では第3のカフ圧とも呼ぶ)特定の圧力レベルまで膨張させられる。任意の特定の圧力レベルを使用することができ、いくつかの実施形態では、特定の圧力レベルは80mmHgである。
【0107】
第1のカフ4中の圧力が特定の圧力レベルにある間に、ポンプ6又は他の振動器構成要素によって第1のカフ4中に容積振動が生成される。これらの容積振動は、一般に、ステップ103において生成された(又は生成されるべき)容積振動よりも小さい又ははるかに小さい大きさを有する。いくつかの実施形態では、第1のカフ4中に生成される容積振動の大きさは1ml、又は1mlのオーダーであり得、これらの容積振動の周波数は8Hz又は約8Hzであり得る。ここで生成される容積振動は、カフ4中に、2mmHgのオーダーの圧力変化、すなわち、ステップ103において生成された容積振動によって生じる圧力変化よりもはるかに低い圧力変化を誘起することを目的とする。カフ圧センサー8は、容積振動が生成される際に第1のカフ4中の圧力を測定する。
【0108】
次いで、容積振動による第1のカフ4中の圧力反応を抽出するために、カフ圧信号がバンドパスフィルタ処理される。ステップ107の上記実施形態における場合と同様に、目的は、1Hz(60BPM)のオーダーの周波数を有する、動脈中の血流による圧力反応をフィルタ処理して除く(すなわち除去する)ことである。したがって、カフ圧信号は、容積振動による圧力反応を抽出するために、容積振動の周波数(例えば8Hz)を中心とするか又はそのような周波数を含む通過帯域を用いてバンドパスフィルタ処理される。第2のカフ圧信号のバンドパスフィルタ処理の結果として、フィルタ処理されたカフ圧信号が得られる。
【0109】
次いで、フィルタ処理されたカフ圧信号から第1のカフ4のカフコンプライアンスが決定され得る。特に、上記の式(3)に基づいて、カフコンプライアンスCcuffを与えるために、容積脈動による第1のカフ4中の容積の変化(すなわち容積振動の振幅、例えば1ml)であるdVoscが、フィルタ処理されたカフ圧信号(dPosc)の振幅によって除算される。上記のように、カフコンプライアンスの導出のさらなる詳細は、例えば、EP3705033、及び/又は「Insights into oscillometry: An Experimental Study for Improvement of Cuff-Based Blood Pressure Measurement Technology」という論文において見つけられ得る。このカフコンプライアンスは、次いで、動脈容積反応を決定するためにステップ107において使用され得る。
【0110】
動脈コンプライアンス又は動脈の粘度など、動脈特性についての情報を決定することに加えて、圧力平均体循環充満圧(MSFP)を計算することによる流体反応性の評価は、動脈コンプライアンスの定量化から恩恵を受けることができる別の適用例である。下記のように、MSFPはストップフロー動脈平衡圧力及びストップフロー静脈平衡圧力の測定によって導出され得る。これらの圧力値は、Maas JJらによる「Estimation of mean systemic filling pressure in postoperative cardiac surgery patients with three methods」Intensive Care Med.2012;38:1452-1460、及びAya HDらによる「Transient stop-flow arm arterial-venous equilibrium pressure measurement: determination of precision of the technique」J Clin Monit Comput.2016、30(1):55-61に記載されているように、流体反応性の評価に寄与する、平均体循環充満圧、さらには、効果的な血管内容積状態を推論するためにガイトン(Guytonian)モデルに入力され得る。動脈コンプライアンスについての情報によりモデルパラメータの精度が改善され、したがって流体反応性の定量化の向上につながり得る。
【0111】
MSFPは、血液の動きがないときに循環器系中に存在する平均圧力として定義される。MSFPは血液量と平滑筋緊張との影響を受ける。MSFPはストップフロー動脈平衡圧力及びストップフロー静脈平衡圧力の測定によって導出され得る。特定の部位(例えば上腕部位)において静脈及び動脈を閉塞させることにより、肢(例えば下腕)の末梢部における血液の流れが止められる。従来、MSFPは、閉塞中の遠位肢部位における血圧を測定することによって決定される。
【0112】
しかしながら、MSFPは、血圧を測定する必要なしに、
図2中のシステム2を使用して得ることができる。MSFPを決定するために、第1のカフ4の下の動脈中の血流が止められるように、第2のカフ10が遮断カフ圧まで膨張させられた状態で、最初に、対象者30の動脈コンプライアンスに関する情報が
図5中の方法に従って決定される。動脈コンプライアンスについての情報は、
図11に示されている動脈容積対経壁圧関数の形態であり得る。
【0113】
経壁圧に対する動脈容積反応の関数から、最大動脈コンプライアンスが第1のカフ4において生じるカフ圧が決定される。動脈コンプライアンスは式(1)によって与えられ、したがって、特定の経壁圧における動脈コンプライアンスは、その経壁圧における
図11に示されている関数の勾配に対応する。したがって、
図11から、最大動脈コンプライアンスは0mmHgの経壁圧において生じることがわかる。動脈コンプライアンスの測定中には第1のカフ4の下に血流がないので、0mmHgのこの経壁圧を達成するために必要とされるカフ圧はMSFPに等しい。したがって、対象者30についてのMSFPは、最大動脈コンプライアンスが第1のカフ4において生じるカフ圧として決定される。したがって、この実施形態はMSFPの非侵襲的な測定を可能にする。
【0114】
さらなる手法では、動脈コンプライアンスについての情報はまた、静脈閉塞プレチスモグラフィによって測定される肢血流の評価に使用され得る。この測定はまた、Seagar、A.D.らによる「Interpretation of venous occlusion plethysmographic measurements using simple model」Med.Biol.Eng.Comput.(1984)22:12に記載されているように、閉塞した肢の生理学を記述するモデルを採用することに基づく。モデルのパラメータ(例えば動脈コンプライアンス)の正確な推定は、この測定(例えば静脈血栓症の検出)中の肢体積の変化を解釈するのを助けることができる。
【0115】
上記のステップ107及び109のさらなる詳細を以下で与える。人工的な振動と、人工的な振動に対する動脈反応との存在下でカフ圧信号がどのように生成されるかを示すために(順モデル)、及び動脈の反応を得るためにカフ圧信号がどのように処理され得るかを示すために(逆モデル)、シミュレーションフレームワークが確立される。シミュレーションフレームワークは、以下の式
P
cuff=P
abs+(V
osc+V
art)/C
cuff (8)
【数2】
によって特徴づけられる。
【0116】
式(9)において、Vartは、(Ptmとして示されている)動脈壁にわたる経壁圧の関数としての第1のカフ4の下の動脈容積である。式(9)は、上記で参照されているG.Drzewieckiらによる論文「Theory of the Oscillometric Maximum and the Systolic and Diastolic Detection Ratios」において見つけられる。
【0117】
式(2)に基づいて、第1のカフ4によって与えられる経壁圧Ptm
Ptm=Part-Pcuff (10)
を用いると、Partは、収縮期血圧と拡張期血圧との間で振動する動脈圧である。
【0118】
第1のカフ4は、0mmHgから200mmHgまで膨張する(すなわち、P
absが徐々に増加する)ようにシミュレートされる。P
artは、
図6(a)中のグラフによって示されているように、動脈中の血液の流れによりほぼ1Hzの周波数で80mmHgと120mmHgとの間で振動する。この例では、V
oscは、
図6(b)に示されているように、10mlの振幅で、10Hzで振動する。このシミュレーションでは、カフコンプライアンスは0.5ml/mmHgに設定される。
【0119】
P
absが増加するにつれて、P
art及びV
oscは振動し、カフ4の内側の圧力が測定される。これにより、
図7(a)に示されているカフ圧信号が生成される。
図7(a)は、得られた経壁圧P
tm脈動により生じる動脈容積振動を示している。(内部動脈振動によって生じる)
図4に示されている信号と比較すると、
図7(a)中の動脈容積脈動は内部動脈圧脈動と外部カフ圧脈動との組合せによって生じている。
図8及び
図9は
図7(a)のデトレンドされた又はバンドパスフィルタ処理された圧力信号を示している。
【0120】
カフ圧の実際の測定中に、
図8中のカフ圧信号が記録され、振動容積(dV
art)が知られる。動脈容積脈動は、式(4)又は式(6)と、記録されたカフ圧信号と、知られている容積振動振幅とを使用して得られ得る。
図10は、元の動脈容積信号と一緒にプロットされた、再構成された動脈容積振動を示している。
【0121】
上記のように、動脈コンプライアンス及び他の動脈虚脱特性は、
図11に示されているように、動脈容積反応対経壁圧関数を再構成することによって得られ得る。記載されているように、この関数は、振幅20mmHgの人工的な圧力振動に対する動脈容積反応を得ることによって達成され得る。例えば、
図10(
図9の一部の「拡大図」)では、内部動脈圧によって、すなわち血流により、より大きい振幅の低周波数拍動が生成されている。速い、より小さい容積振動は、20mmHgの人工的な圧力脈動により生じる容積振動である。20mmHgの圧力変化に反応して、動脈容積反応dV
artがいくつかのカフ圧において得られる。動脈内圧振動の影響を最小にするためには、
図10に示されているように、波形の特定の部分を処理することが有用である。
図10において、動脈圧がそこで常に収縮期値である、動脈圧拍動の頂部(ピーク)は、動脈コンプライアンスを決定するために処理される波形の一部であり得る。代替実施形態では、動脈圧がそこで常に拡張期値である、動脈圧拍動の底部は、動脈コンプライアンスを決定するために処理される波形の一部であり得る。異なるカフ圧における動脈コンプライアンス値は、動脈容積対経壁圧関数を得るためにパラメトリックに又は非パラメトリックに決定され得る。経壁圧に対する動脈容積反応の関数を決定するための例示的な技法は、「Control unit for deriving a measure of arterial compliance」という名称のWO2020/126576、及び「A modelling framework for assessment of arterial compliance by fusion of oscillometry and pulse wave velocity information」という論文に記載されている。
【0122】
したがって、上記で説明した技法は、動脈コンプライアンス及び動脈の粘度など、動脈特性についての情報を非侵襲的に決定するための改善されたやり方を与える。これらの技法は、従来の技法における測定誤差の原因であり得る、血圧の測定を必要としない。さらに、説明した技法は、患者監視のために使用される既存の機器又は装置を使用して実行され得る。
【0123】
開示された実施形態の変形形態は、図面、本開示及び添付の特許請求の範囲の研究から、本明細書で説明した原理及び技法を実施する際に当業者によって理解され、実施され得る。特許請求の範囲では、「備える」又は「有する」という単語は他の要素又はステップを除外せず、単数形の要素は複数を除外しない。単一のプロセッサ又は他のユニットは、特許請求の範囲に記載されたいくつかの項目の機能を果たす。相互に異なる従属請求項においていくつかの手段が具陳されているという単なる事実は、これらの手段の組合せを有利に使用することができないことを示さない。コンピュータプログラムは、他のハードウェアと一緒に、又は他のハードウェアの一部として供給される光記憶媒体又はソリッドステート媒体など、好適な媒体上で記憶又は配布され得るが、インターネット又は他のワイヤード若しくはワイヤレス電気通信システムを介してなど、他の形態でも配布され得る。特許請求の範囲におけるいかなる参照符号もその範囲を限定するものとして解釈されるべきでない。
【国際調査報告】