(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-26
(54)【発明の名称】表面品質及び耐ラメラテア品質に優れたスチームドラム用極厚物鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231219BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20231219BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/58
C21D8/02 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535074
(86)(22)【出願日】2021-11-24
(85)【翻訳文提出日】2023-06-08
(86)【国際出願番号】 KR2021017415
(87)【国際公開番号】W WO2022139204
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0180225
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム, デ-ウ
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032BA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CB01
4K032CC04
4K032CF03
(57)【要約】
【課題】表面品質及び耐ラメラテア品質に優れたスチームドラム用極厚物鋼材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】重量%で、C:0.2~0.3%、Si:0.05~0.5%、Mn:1.0~2.0%、Al:0.005~0.1%、P:0.01%以下、S:0.015%以下、Nb:0.001~0.02%、V:0.001~0.03%、Ti:0.001~0.03%、Cr:0.01~0.3%、Mo:0.01~0.12%、Cu:0.01~0.4%、Ni:0.05~0.4%、Ca:0.0005~0.004%を含み、残りがFe及びその他の不可避不純物からなり、下記の関係式1によるCeqが0.5~0.6の範囲を満たし、平均粒度が20μm以下のフェライト及びパーライトの複合組織を基地組織として有し、表面から厚さ方向に10mmまでの領域である表層部における硬質組織の分率が5面積%以下であり、3/8t~5/8t(ここで、tは鋼材の厚さ(mm)を意味する)の領域である中心部の空隙率が0.1mm3/g以下であり、溶接後熱処理(PWHT)以後の鋼材の断面で観察される析出物のうち、直径が5~15nmの微細VC析出物が1μm2当たり5個以上であることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.2~0.3%、Si:0.05~0.5%、Mn:1.0~2.0%、Al:0.005~0.1%、P:0.01%以下、S:0.015%以下、Nb:0.001~0.02%、V:0.001~0.03%、Ti:0.001~0.03%、Cr:0.01~0.3%、Mo:0.01~0.12%、Cu:0.01~0.4%、Ni:0.05~0.4%、Ca:0.0005~0.004%を含み、残りがFe及びその他の不可避不純物からなり、
下記の関係式1によるCeqが0.5~0.6の範囲を満たし、
平均粒度が20μm以下のフェライト及びパーライトの複合組織を基地組織として有し、表面から厚さ方向に10mmまでの領域である表層部における硬質組織の分率が5面積%以下であり、
3/8t~5/8t(ここで、tは鋼材の厚さ(mm)を意味する)の領域である中心部の空隙率が0.1mm
3/g以下であり、
溶接後熱処理(PWHT)以後の鋼材の断面で観察される析出物のうち、直径が5~15nmの微細VC析出物が1μm
2当たり5個以上であることを特徴とする極厚物鋼材。
[関係式1]
Ceq=[C]+[Mn]/6+([Cr]+[Mo]+[V])/5+([Ni]+[Cu])/15
前記関係式1において、[C]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Ni]及び[Cu]は、それぞれ鋼材に含まれるC、Mn、Cr、Mo、V、Ni及びCuの含量(重量%)を意味し、これらの成分が意図的に添加されない場合は0を代入する。
【請求項2】
前記鋼材の厚さは133~250mmであることを特徴とする請求項1に記載の極厚物鋼材。
【請求項3】
前記鋼材の引張強度は550~690MPaであることを特徴とする請求項1に記載の極厚物鋼材。
【請求項4】
前記鋼材の厚さ方向の断面収縮率(ZRA)は35%以上であることを特徴とする請求項1に記載の極厚物鋼材。
【請求項5】
前記鋼材の表面クラックの最大深さは0.1mm以下(0を含む)である、請求項1に記載の極厚物鋼材。
【請求項6】
重量%で、C:0.2~0.3%、Si:0.05~0.5%、Mn:1.0~2.0%、Al:0.005~0.1%、P:0.01%以下、S:0.015%以下、Nb:0.001~0.02%、V:0.001~0.03%、Ti:0.001~0.03%、Cr:0.01~0.3%、Mo:0.01~0.12%、Cu:0.01~0.4%、Ni:0.05~0.4%、Ca:0.0005~0.004%を含み、残りがFe及びその他の不可避不純物からなり、下記の関係式1によるCeqが0.5~0.6の範囲を満たし、旧オーステナイトの平均粒度が500μm以下であり、厚さが650mm以上であるスラブを準備する段階と、
前記スラブを1100~1300℃の温度範囲で1次加熱する段階と、
前記1次加熱されたスラブを3~15%の累積圧下量及び1/s~4/sの変形速度で1次鍛造加工して、厚さ450~550mmの1次中間材を提供する段階と、
前記1次中間材を1000~1200℃の温度範囲に2次加熱する段階と、
前記2次加熱された1次中間材を3~30%の累積圧下量及び1/s~4/sの変形速度で2次鍛造加工して、厚さ300~340mmの2次中間材を提供する段階と、
前記2次中間材を1000~1200℃の温度範囲に3次加熱する段階と、
前記3次加熱された2次中間材を900~1100℃の温度範囲で熱間圧延して厚さが133~233mmの熱延材を提供する段階と、
前記熱間圧延が完了した熱延材を820~900℃の温度範囲に加熱して10~40分間保持した後、常温まで空冷する焼ならし熱処理段階と、を含むことを特徴とする極厚物鋼材の製造方法。
[関係式1]
Ceq=[C]+[Mn]/6+([Cr]+[Mo]+[V])/5+([Ni]+[Cu])/15
前記関係式1において、[C]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Ni]及び[Cu]は、それぞれ鋼スラブに含まれるC、Mn、Cr、Mo、V、Ni及びCuの含量(重量%)を意味し、これらの成分が意図的に添加されない場合は0を代入する。
【請求項7】
前記2次中間材の中心部の空隙率は0.1mm
3/g以下であることを特徴とする請求項6に記載の極厚物鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記熱延材の表面クラックの最大深さは2μm以下(0を含む)であることを特徴とする請求項6に記載の極厚物鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記焼ならし熱処理された鋼材を溶接する段階と、
前記溶接された鋼材の残留応力を除去するために更なる熱処理(PWHT)を行う段階と、をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の極厚物鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面品質及び耐ラメラテア品質に優れたスチームドラム用極厚物鋼材及びその製造方法に係り、より詳しくは、石油化学の発電設備及びボイラ等に使用可能な表面品質及び耐ラメラテア(Lamellar Tearing)品質に優れたスチームドラム(Steam Drum)用極厚物鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電設備に使用されるボイラスチームドラム(Steam Drum)は、ボイラから蒸発した水蒸気を一定の圧力下で貯蔵して水蒸気(Steam)と水(Water)を分離する役割を果たす容器である。化学反応や燃焼反応で発生する熱を活用するために廃熱ボイラがよく使用され、廃熱ボイラが設置される場合には必ずスチームドラム(Steam Drum)を必要とする。スチーム(Steam)ボイラへの効率性増大の要求に応えるために、大型化、大容量の貯蔵を目的として使用される鋼材の厚物化が持続的に増大している実情である。鋼材の厚さが増大するほど総圧延の圧下量が減少するため、微細組織が大きくなり、介在物や偏析など、材料内の欠陥により材質が劣化する傾向性を示すことになる。したがって、鋼材の内外部健全性(Soundness)を向上させるために、非金属介在物や偏析などの不純物の濃度を低減し、又は表面及び材料内部のクラック、空隙などを極限に制御する傾向にある。
【0003】
特に、厚さが100mmtを超える極厚物材の場合、薄物材と比較したとき、圧延の圧下比が高くないため、連鋳又は鋳造時に発生する未凝固の収縮孔が粗圧延過程で十分に圧着されず、製品の中心部に残留空隙の形態で残るようになる。
【0004】
このような残留空隙は、構造物において厚さの軸方向の応力を受けたとき、クラックの開始点として作用し、結局、ラメラテアの形態で設備全体に破損を起こすことがある。したがって、圧延前の段階では必ず残留空隙が存在しないように中心空隙を十分に圧着する工程が必要である。
【0005】
これに関連する特許文献1は、厚板の粗圧延工程において強圧下を適用する技術であって、圧延機の設計許容値(荷重及びトルク)に近づくように設定されたパス別の強圧下率から厚さ別の板噛み込みが発生する厚さ別の限界圧下率を決定する技術、粗圧延機の目標厚さを確保するために、パス別の厚さ比の指数を調整して圧下率を分配する技術、そして厚さ別の限界圧下率に基づいて板噛み込みが発生しないように圧下率を修正する技術を活用したものであって、80mmtを基準に粗圧延の最終3パスにおける平均圧下率を約27.5%で印加できる製造方法を提供する。しかし、上記圧延方法の場合、製品厚さ全体の平均圧下率を測定したものであって、最大厚さが233mmt以上である極厚物材の場合、残留空隙が存在する中心部まで高変形を印加させるには技術的困難が伴う。
【0006】
極厚物を製造する他の方法の一つは、圧延機よりもパス当たりの有効変形量が高い鍛造機を活用する方法である。特許文献2では、加熱炉から抽出された連鋳スラブを垂直に立てて全幅の鍛造圧下量を400mm以上付与し、幅鍛造のパスを座屈限界圧下量以内の条件である2パス以内の圧下量で幅鍛造のパスを行い、幅方向のエッジ部と中心部の気孔を除去し、中心部の変形率を増加させる方法を提案し、特許文献1で問題となっていた中心部の残留空隙を効果的に圧着させることができるため、製品の耐ラメラテア品質を向上させることができる。
【0007】
しかし、幅鍛造過程における局所的な変形集中により表面欠陥が発生することがある。特に、鍛造前の鋳片状態で表層又は表層下欠陥が存在する場合、鍛造過程で欠陥が伝播し、圧延後の製品状態で表面品質がさらに低下することがある。
【0008】
一方、特許文献3では、所定の合金組成で提供される素材を1200~1350℃に加熱し、累積圧下量を25%以上とする熱間鍛造を行い、Ac3点以上1200℃以下に加熱し、累積圧下量を40%以上とする熱間圧延を行い、Ac3点以上1050℃以下に再加熱し、Ac3点以上の温度で350℃以下又はAr3点以下の低い方の温度まで急冷し、450℃~700℃の温度で焼戻しを行う工程を通じて、降伏強度が620MPa以上である100mmt以上の厚肉高強度鋼板を製造することができると開示している。
【0009】
しかし、上述した超高強度鋼板の場合、炭素当量(Ceq)及び硬化能指数(DI)が高く、鋳造中に表面クラックに脆弱であるだけでなく、焼ならし(Normalizing)熱処理により製造されるスチームドラム(Steam Drum)用鋼材の場合、当該工程条件を容易に適用することができない。また、炭素当量(Ceq)と硬化能指数(DI)が高い場合、製鋼の2次冷却過程で表層の硬質組織の生成により、鋳片表層のクラックが発生しやすく、鍛造過程でクラックが伝播することで、最終製品の表面品質を劣化させる恐れがある。
【0010】
したがって、中央部の空隙を圧着して、最終製品の内部健全性を向上させるために鍛造を行う方案が提案されているが、スチームドラム(Steam Drum)用鋼材の適切な材質及び優れた表面品質を共に確保するための実質的な方案は提示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2012-0075246号公報
【特許文献2】韓国公開特許第10-2012-0074039号公報
【特許文献3】韓国公開特許第10-2017-0095307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明によれば、表面品質及び耐ラメラテア品質に優れたスチームドラム用極厚物鋼材及びその製造方法を提供することができる。
【0013】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。通常の技術者であれば、本明細書の全体的な内容から本発明のさらなる課題を理解する上で何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る極厚物鋼材は、重量%で、C:0.2~0.3%、Si:0.05~0.5%、Mn:1.0~2.0%、Al:0.005~0.1%、P:0.01%以下、S:0.015%以下、Nb:0.001~0.02%、V:0.001~0.03%、Ti:0.001~0.03%、Cr:0.01~0.3%、Mo:0.01~0.12%、Cu:0.01~0.4%、Ni:0.05~0.4%、Ca:0.0005~0.004%を含み、残りがFe及びその他の不可避不純物からなり、下記の関係式1によるCeqが0.5~0.6の範囲を満たし、平均粒度が20μm以下のフェライト及びパーライトの複合組織を基地組織として有し、表面から厚さ方向に10mmまでの領域である表層部における硬質組織の分率が5面積%以下であり、3/8t~5/8t(ここで、tは鋼材の厚さ(mm)を意味する)の領域である中心部の空隙率が0.1mm3/g以下であり、溶接後熱処理(PWHT)以後の鋼材の断面で観察される析出物のうち、直径が5~15nmの微細VC析出物が1μm2当たり5個以上であることができる。
【0015】
[関係式1]
Ceq=[C]+[Mn]/6+([Cr]+[Mo]+[V])/5+([Ni]+[Cu])/15
【0016】
上記関係式1において、[C]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Ni]及び[Cu]は、それぞれ鋼材に含まれるC、Mn、Cr、Mo、V、Ni及びCuの含量(重量%)を意味し、これらの成分が意図的に添加されない場合は0を代入する。
【0017】
上記鋼材の厚さは133~250mmであり得る。
【0018】
上記鋼材の引張強度は550~690MPaであり得る。
【0019】
上記鋼材の厚さ方向の断面収縮率(ZRA)は35%以上であり得る。
【0020】
上記鋼材の表面クラックの最大深さは0.1mm以下(0を含む)であり得る。
【0021】
本発明に係る極厚物鋼材の製造方法は、重量%で、C:0.2~0.3%、Si:0.05~0.5%、Mn:1.0~2.0%、Al:0.005~0.1%、P:0.01%以下、S:0.015%以下、Nb:0.001~0.02%、V:0.001~0.03%、Ti:0.001~0.03%、Cr:0.01~0.3%、Mo:0.01~0.12%、Cu:0.01~0.4%、Ni:0.05~0.4%、Ca:0.0005~0.004%を含み、残りがFe及びその他の不可避不純物からなり、下記の関係式1によるCeqが0.5~0.6の範囲を満たし、旧オーステナイトの平均粒度が500μm以下であり、厚さが650mm以上であるスラブを準備する段階と、上記スラブを1100~1300℃の温度範囲で1次加熱する段階と、上記1次加熱されたスラブを3~15%の累積圧下量及び1/s~4/sの変形速度で1次鍛造加工して厚さ450~550mmの1次中間材を提供する段階と、上記1次中間材を1000~1200℃の温度範囲に2次加熱する段階と、上記2次加熱された1次中間材を3~30%の累積圧下量及び1/s~4/sの変形速度で2次鍛造加工して、厚さ300~340mmの2次中間材を提供する段階と、上記2次中間材を1000~1200℃の温度範囲に3次加熱する段階と、上記3次加熱された2次中間材を900~1100℃の温度範囲で熱間圧延して厚さ133~233mmの熱延材を提供する段階と、上記熱間圧延が完了した熱延材を820~900℃の温度範囲に加熱して10~40分間保持した後、常温まで空冷する焼ならし熱処理段階と、を含むことができる。
【0022】
[関係式1]
Ceq=[C]+[Mn]/6+([Cr]+[Mo]+[V])/5+([Ni]+[Cu])/15
【0023】
上記関係式1において、[C]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Ni]及び[Cu]は、それぞれ鋼スラブに含まれるC、Mn、Cr、Mo、V、Ni及びCuの含量(重量%)を意味し、これらの成分が意図的に添加されない場合は0を代入する。
【0024】
上記2次中間材の中心部の空隙率は0.1mm3/g以下であり得る。
【0025】
上記熱延材の表面クラックの最大深さは2μm以下(0を含む)であり得る。
【0026】
上記焼ならし熱処理された鋼材を溶接する段階と、上記溶接された鋼材の残留応力を除去するために更なる熱処理(PWHT)を実施する段階と、をさらに含むことができる。
【0027】
上記課題の解決手段は、本発明の特徴を全て列挙したものではなく、本発明の様々な特徴及びそれによる利点及び効果は、以下の具体的な実現例を参照することで詳細に理解することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、表面品質及び耐ラメラテア品質に優れたスチームドラム用極厚物鋼材及びその製造方法が提供されることができる。
【0029】
本発明の効果は、前述の事項に限定されるものではなく、通常の技術者が以下に記載された事項から類推可能な技術的効果を含むものと解釈することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、表面品質及び耐ラメラテア品質に優れたスチームドラム用極厚物鋼材及びその製造方法に関するものであって、以下では、本発明の好ましい実現例について説明する。本発明の実現例は様々な形態に変形することができ、本発明の範囲は以下に説明される実現例に限定されるものとして解釈されてはならない。本実現例は、当該発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に本発明をさらに詳細に説明するために提供されるものである。
【0031】
以下、本発明の表面品質及び耐ラメラテア品質に優れたスチームドラム用極厚物鋼材について、より詳細に説明する。
【0032】
本発明のスチームドラム用極厚物鋼材は、重量%で、C:0.2~0.3%、Si:0.05~0.5%、Mn:1.0~2.0%、Al:0.005~0.1%、P:0.01%以下、S:0.015%以下、Nb:0.001~0.02%、V:0.001~0.03%、Ti:0.001~0.03%、Cr:0.01~0.3%、Mo:0.01~0.12%、Cu:0.01~0.4%、Ni:0.05~0.4%、Ca:0.0005~0.004%を含み、残りがFe及びその他の不可避不純物からなり、下記の関係式1によるCeqが0.5~0.6の範囲を満たし、平均粒度が20μm以下のフェライト及びパーライトの複合組織を基地組織として有し、表面から厚さ方向に10mmまでの領域である表層部における硬質組織の分率が5面積%以下であり、3/8t~5/8t(ここで、tは鋼材の厚さ(mm)を意味する)の領域である中心部の空隙率が0.1mm3/g以下であり、溶接後熱処理(PWHT)以後の鋼材の断面で観察される析出物のうち、直径が5~15nmの微細VC析出物が1μm2当たり5個以上であることができる。
【0033】
[関係式1]
Ceq=[C]+[Mn]/6+([Cr]+[Mo]+[V])/5+([Ni]+[Cu])/15
【0034】
上記関係式1において、[C]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Ni]及び[Cu]は、それぞれ鋼材に含まれるC、Mn、Cr、Mo、V、Ni及びCuの含量(重量%)を意味し、これらの成分が意図的に添加されない場合は0を代入する。
【0035】
以下、本発明の合金組成についてより詳細に説明する。以下では、特に断りのない限り、合金組成に関して記載された%及びppmは重量を基準とする。
【0036】
炭素(C):0.20~0.30%
炭素(C)は基本的な強度の確保に最も重要な元素であるため、適切な範囲内で鋼中に含有される必要があり、このような添加効果を得るためには0.20%以上の炭素(C)が添加されることができる。好ましくは、0.22%以上の炭素(C)を添加することができる。一方、炭素(C)の含量が一定レベルを超えると、焼ならし熱処理時にパーライトの分率が増大して母材の強度及び硬度が過度に超過されることがあり、これにより鍛造加工中に表面クラックが発生し、最終製品における耐ラメラテア特性が低下することがある。したがって、本発明では、炭素(C)含量を0.30%に制限することができ、より好ましい炭素(C)含量の上限は0.26%とすることができる。
【0037】
シリコン(Si):0.05~0.50%
シリコン(Si)は置換型元素であって、固溶強化により鋼材の強度を向上させ、強力な脱酸効果を有しているため、清浄鋼の製造に必須的な元素である。したがって、シリコン(Si)は0.05%以上添加することができ、より好ましくは0.20%以上添加することができる。一方、シリコン(Si)が多量に添加される場合、MA(Martensite-Austenite)相を生成させ、フェライトの基地強度を過度に増大させて極厚物製品の表面品質に劣化をもたらすことがあるため、その含量の上限を0.50%に制限することができる。より好ましいシリコン(Si)含量の上限は0.40%であってもよい。
【0038】
マンガン(Mn):1.0~2.0%
マンガン(Mn)は、固溶強化により強度を向上させ、低温変態相が生成されるように硬化能を向上させる有用な元素である。したがって、550MPa以上の引張強度を確保するために、1.0%以上のマンガン(Mn)が添加されることが好ましい。より好ましいマンガン(Mn)含量は1.1%以上であってもよい。一方、マンガン(Mn)は、硫黄(S)と共に延伸された非金属介在物であるMnSを形成して靭性を低下させ、厚さ方向への引張時に伸び率を低下させる要因として作用するため、耐ラメラテア品質が急激に低下する要因となり得る。したがって、マンガン(Mn)含量は2.0%以下に管理することが好ましく、より好ましいマンガン(Mn)含量は1.5%以下であってもよい。
【0039】
アルミニウム(Al):0.005~0.1%
アルミニウム(Al)は、シリコン(Si)と共に製鋼工程における強力な脱酸剤の一つであって、このような効果を得るために0.005%以上添加されることが好ましい。より好ましいアルミニウム(Al)含量の下限は0.01%であってもよい。一方、アルミニウム(Al)含量が過剰な場合、脱酸の結果物として生成される酸化性介在物中のAl2O3の分率が過度に増大してそのサイズが粗大になり、精練中に当該介在物を除去し難くなるという問題があるため、耐ラメラテア特性を低下させる要因となり得る。したがって、アルミニウム(Al)含量は0.1%以下に管理することが好ましい。より好ましいアルミニウム(Al)含量は0.07%以下であってもよい。
【0040】
リン(P):0.010%以下(0%を含む)、硫黄(S):0.0015%以下(0%を含む)
リン(P)及び硫黄(S)は結晶粒界に脆性を誘発し、又は粗大な介在物を形成させて、脆性を誘発する元素である。したがって、脆性割れ伝播抵抗性を向上させるために、リン(P)を0.010%以下に制限し、硫黄(S)を0.0015%以下に制限することが好ましい。
【0041】
ニオブ(Nb):0.001~0.02%
ニオブ(Nb)は、NbC又はNbCNの形態で析出して母材の強度を向上させる元素である。また、高温再加熱時に固溶したニオブ(Nb)は、圧延時にNbCの形態で非常に微細に析出し、オーステナイトの再結晶を抑制するため、組織を微細化させる効果がある。したがって、ニオブ(Nb)は0.001%以上添加されることが好ましく、より好ましいニオブ(Nb)含量は0.005%以上であってもよい。一方、ニオブ(Nb)が過剰に添加される場合、未溶解のニオブ(Nb)がTiNb(C、N)形態で生成され、耐ラメラテア特性を阻害させる要因となるため、ニオブ(Nb)含量の上限は0.02%に制限することが好ましい。より好ましいニオブ(Nb)含量は0.017%以下であってもよい。
【0042】
バナジウム(V):0.001~0.03%
バナジウム(V)は、再加熱時にほとんどが再固溶するため、後続の圧延時に析出や固溶による強化効果は僅かであるものの、その後のPWHTなどの熱処理過程では非常に微細な炭窒化物として析出して強度を向上させる効果がある。このような効果を十分に得るためには、0.001%以上のバナジウム(V)を添加する必要がある。より好ましいバナジウム(V)含量の下限は0.01%であってもよい。一方、その含量が過剰な場合、母材及び溶接部の強度及び硬度が過度に増大し、スチームドラム加工時に表面クラック等の要因として作用することがあるだけでなく、製造コストが急激に上昇して商業的にも有益でない。したがって、バナジウム(V)含量は0.03%以下に制限することができる。より好ましいバナジウム(V)含量は0.02%以下であってもよい。
【0043】
チタン(Ti):0.001~0.03%
チタン(Ti)は、再加熱時にTiNとして析出し、母材及び溶接熱影響部の結晶粒の成長を抑制し、低温靭性を大きく向上させる成分である。このような効果を得るためには、0.001%以上のチタン(Ti)が添加されることが好ましい。一方、チタン(Ti)が過剰に添加される場合、連鋳ノズルの目詰まりや中心部の晶出による低温靭性が減少することがある。また、チタン(Ti)は窒素(N)と結合して厚さ中心部に粗大なTiN析出物を形成し、製品の伸び率を低下させるため、最終材の耐ラメラテア特性が低下する可能性がある。したがって、チタン(Ti)含量は0.03%以下とすることができる。好ましいチタン(Ti)含量は0.025%以下であってもよく、より好ましいチタン(Ti)含量は0.018%以下であってもよい。
【0044】
クロム(Cr):0.01~0.30%
クロム(Cr)は、焼入れ性を増大させて低温変態組織を形成することにより、降伏強度及び引張強度を増大させる成分である。また、急冷後の焼戻しや溶接後熱処理中にセメンタイトの分解速度を遅くすることで、強度の低下を防止する効果を奏する成分でもある。このような効果のためには、0.01%以上のクロム(Cr)を添加することができる。一方、クロム(Cr)含量が過剰な場合、M23C6等のようなCr-Rich粗大炭化物のサイズ及び分率が増大し、製品の衝撃靭性が低下し、製品内のニオブ(Nb)の固溶度及びNbCのような微細析出物の分率が減少するため、製品の強度低下が問題になる可能性がある。したがって、本発明では、クロム(Cr)含量の上限を0.30%に制限することができる。好ましいクロム(Cr)含量の上限は0.25%であってもよい。
【0045】
モリブデン(Mo):0.01~0.12%
モリブデン(Mo)は、粒界強度を増大させ、フェライト内の固溶強化効果が大きい元素であり、製品の強度及び延性の増大に効果的に寄与する元素である。また、モリブデン(Mo)は、リン(P)などの不純物元素の粒界偏析による靭性の低下を防止する効果がある。このような効果のために、0.10%以上のモリブデン(Mo)を添加することができる。但し、モリブデン(Mo)は高価な元素であって、過度に添加する場合、製造コストが大きく上昇することがあるため、モリブデン(Mo)含量の上限を0.12%に制限することができる。
【0046】
銅(Cu):0.01~0.40%
銅(Cu)は、フェライト内の固溶強化により基地相の強度を大きく向上させることができるだけでなく、湿潤硫化水素雰囲気での腐食を抑制する効果があり、本発明において有利な元素である。このような効果のためには、0.01%以上の銅(Cu)を含むことができる。より好ましい銅(Cu)含量は0.03%以上であってもよい。但し、銅(Cu)の含量が過剰な場合、鋼板の表面にスタークラックを誘発する可能性が高くなり、銅(Cu)は高価な元素であって、製造コストが大きく上昇するという問題が生じ得る。したがって、本発明では、銅(Cu)含量の上限を0.40%に制限することができる。好ましい銅(Cu)含量の上限は0.35%であってもよい。
【0047】
ニッケル(Ni):0.05~0.40%
ニッケル(Ni)は、低温で積層欠陥を増大させ、転位の交差滑り(Cross slip)を容易にして衝撃靭性を向上させ、硬化能を向上させて強度の向上に効果的に寄与する元素である。このような効果のためには、0.05%以上のニッケル(Ni)を添加することができる。好ましいニッケル(Ni)含量は0.10%以上であってもよい。一方、ニッケル(Ni)が過剰に添加される場合、高価なコストにより製造コストも上昇する可能性があるため、ニッケル(Ni)含量の上限を0.40%に制限することができる。好ましいニッケル(Ni)含量の上限は0.35%であってもよい。
【0048】
カルシウム(Ca):0.0005~0.0040%、
アルミニウム(Al)による脱酸後にカルシウム(Ca)を添加すると、MnS介在物を形成する硫黄(S)と結合してMnSの生成を抑制するとともに、球状のCaSを形成して水素誘起割れによるクラックの発生を抑制する効果がある。不純物として含有される硫黄(S)をCaSとして十分に形成させるためには、0.0005%以上のカルシウム(Ca)を添加することが好ましい。但し、その添加量が過剰になると、CaSを形成し、残ったカルシウム(Ca)が酸素(O)と結合して粗大な酸化性介在物を生成するようになり、これは、圧延時に伸び及び破壊されて耐ラメラテア特性を低下させる要因となり得る。したがって、カルシウム(Ca)含量の上限を0.0040%に制限することができる。
【0049】
本発明のスチームドラム用極厚物鋼材は、前述の成分以外に、残りはFe及びその他の不可避不純物からなる。但し、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるため、これを全面的に排除することはできない。これらの不純物は、本技術分野において通常の知識を有する者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書では、その全ての内容について特に言及しない。さらに、前述の成分以外に有効な成分の更なる添加が全面的に排除されるものではない。
【0050】
本発明のスチームドラム用極厚物鋼材は、下記の関係式1によるCeqが0.5~0.6の範囲を満たすことができる。
【0051】
[関係式1]
Ceq=[C]+[Mn]/6+([Cr]+[Mo]+[V])/5+([Ni]+[Cu])/15
【0052】
上記関係式1において、[C]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Ni]及び[Cu]は、それぞれ鋼材に含まれるC、Mn、Cr、Mo、V、Ni及びCuの含量(重量%)を意味し、これらの成分が意図的に添加されない場合は0を代入する。
【0053】
本発明のスチームドラム用極厚物鋼材は133~250mmの厚さを有するため、スチームドラムの大型化傾向に効果的に対応することができる。
【0054】
本発明のスチームドラム用極厚物鋼材の表層部は、平均粒度が20μm以下のフェライト及びパーライトの複合組織からなることができる。本発明の一側面に係る極厚物スチームドラム用鋼材は、鋼材の表層部に硬質組織が導入されることを制限するため、最終製品の表面クラックの最大深さを0.1mm以下に抑制することができる。すなわち、本発明の極厚物スチームドラム用鋼材は、鋼材の表層部にマルテンサイト及びベイナイト等の硬質組織が形成されることを積極的に抑制し、これらの硬質組織が不可避に形成される場合であっても、その分率を5面積%以下(0%を含む)に積極的に抑制することができる。好ましい鋼材表層部の硬質組織の分率は3%以下(0%を含む)であってもよい。ここで、鋼材の表層部とは、鋼材の表面から厚さ方向に10mmまでの領域を意味することができる。
【0055】
本発明のスチームドラム用極厚物鋼材は、溶接後熱処理(PWHT)を経た鋼材の断面を観察したとき、直径5~15nmの微細なVC析出物を1μm2当たり最小5個以上含むことができる。VCは600~700℃の温度領域で炭化物又は炭窒化物の形態で形成され、析出強化を引き起こす。したがって、本発明は、高温で試験片を熱処理した後にも550MPa以上の適切な強度を保持することができる。
【0056】
本発明のスチームドラム用極厚物鋼材は、鋼材の中心部の空隙率が0.1mm3/g以下であり得る。したがって、本発明のスチームドラム用極厚物鋼材は、耐ラメラテア品質を効果的に確保することができる。ここで、鋼材の中心部とは3/8t~5/8t(t:鋼材の厚さ、mm)を意味し、中心部の空隙率は密度を測定して逆数をとることにより確認することができる。
【0057】
本発明のスチームドラム用極厚物鋼材は、550~690MPaの引張強度及び35%以上の厚さ方向の断面収縮率(ZRA)を有することができる。また、本発明の一側面に係るスチームドラム用極厚物鋼材は、最終製品状態での表面クラックの最大深さが0.1mm以下であり得る。ここで、表面クラックの深さは、目視で表面クラックの存在有無を判断した後、クラックが存在する場合、当該地点にクラックがなくなるまで研削を行い、表層から研削によって除去された箇所までの深さを測定して確認することができる。
【0058】
以下、本発明のスチームドラム用極厚物鋼材の製造方法についてより詳細に説明する。
【0059】
本発明のスチームドラム用極厚物鋼材は、重量%で、C:0.2~0.3%、Si:0.05~0.5%、Mn:1.0~2.0%、Al:0.005~0.1%、P:0.01%以下、S:0.015%以下、Nb:0.001~0.02%、V:0.001~0.03%、Ti:0.001~0.03%、Cr:0.01~0.3%、Mo:0.01~0.12%、Cu:0.01~0.4%、Ni:0.05~0.4%、Ca:0.0005~0.004%を含み、残りがFe及びその他の不可避不純物からなり、下記の関係式1によるCeqが0.5~0.6の範囲を満たし、旧オーステナイトの平均粒度が500μm以下であり、厚さが650mm以上であるスラブを準備する段階と、上記スラブを1100~1300℃の温度範囲で1次加熱する段階と、上記1次加熱されたスラブを3~15%の累積圧下量及び1/s~4/sの変形速度で1次鍛造加工して、厚さ450~550mmの1次中間材を提供する段階と、上記1次中間材を1000~1200℃の温度範囲に2次加熱する段階と、上記2次加熱された1次中間材を3~30%の累積圧下量及び1/s~4/sの変形速度で2次鍛造加工して、厚さ300~340mmの2次中間材を提供する段階と、上記2次中間材を1000~1200℃の温度範囲に3次加熱する段階と、上記3次加熱された2次中間材を900~1100℃の温度範囲で熱間圧延して厚さが133~233mmの熱延材を提供する段階と、上記熱間圧延が完了した熱延材を820~900℃の温度範囲に加熱して10~40分間保持した後、常温まで空冷する焼ならし熱処理段階と、を通じて製造されることができる。
【0060】
[関係式1]
Ceq=[C]+[Mn]/6+([Cr]+[Mo]+[V])/5+([Ni]+[Cu])/15
【0061】
上記関係式1において、[C]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Ni]及び[Cu]は、それぞれ鋼スラブに含まれるC、Mn、Cr、Mo、V、Ni及びCuの含量(重量%)を意味し、これらの成分が意図的に添加されない場合は0を代入する。
【0062】
スラブの準備
本発明の発明者は、スチームドラム用に適した物性を有しながらも、優れた表面品質を有する極厚物鋼材を製造するための方案について鋭意研究を行った。特に650mm以上の厚さで作製されるスラブにおいて、最終鋼材の強度及び表面品質を確保するためには、スラブの炭素当量(Ceq)を一定範囲に制御する必要があるだけでなく、スラブの旧オーステナイト(Prior Austenite)結晶粒サイズが有効な条件であることを認知し、本発明を導出するに至った。
【0063】
本発明のスラブは、前述の鋼材と対応する合金組成を備えるため、スラブの合金組成に対する説明は、前述の鋼材の合金組成に対する説明で代替する。本発明に用いられるスラブの合金組成は、550~690MPaの引張強度及び35%以上の断面収縮率(ZRA)を確保するための必要条件に該当する。
【0064】
厚さが650mm以上のスラブを製造する大断面鋳造機の鋳造速度は0.06~0.1m/minであるため、厚さが250~400mmであるスラブを製造する一般的な鋳造機(鋳造速度:0.4~1.5m/min)に比べて著しく遅い速度で鋳造作業を行う。したがって、厚さが650mm以上であるスラブを作製する場合、モールド(Mold)内で保持される時間が相対的に長くなるため、オーステナイト(Austenite)がさらに粗大に成長できる環境に置かれる。
【0065】
初期オーステナイトの結晶粒サイズが増加するほど、オーステナイト粒界のマンガン(Mn)の偏析指数が増加し、粒界強度が低くなると同時に焼入れ性が増加するため、スラブの表層部には軟質のフェライト及びパーライトではなく、硬質のベイナイト及びマルテンサイトの分率が増加するようになる。硬質組織は均一伸び率が低いため、熱変形や外部変形又は応力が印加されると、粒界クラック(Intergranular cracking)が容易に発生することができる。したがって、スラブ表層の旧オーステナイト(Prior Austenite)の結晶粒サイズが大きい場合、スラブ表面の粒界クラックがより活発に発生する可能性があり、以後の鍛造及び圧延などの高変形過程でクラックの流入深さがさらに増大する可能性がある。したがって、最終製品の表面クラックを抑制するためには、旧オーステナイトの結晶粒サイズを適正レベル以下に制御することが非常に重要である。
【0066】
スラブの平均旧オーステナイト結晶粒サイズは、下記の関係式2で導出することができ、本発明は、スラブの平均旧オーステナイト結晶粒サイズを500μm以下に制限して粒界クラックを効果的に抑制することができる。好ましいスラブの平均旧オーステナイト結晶粒サイズは400μm以下であってもよく、より好ましいスラブの平均旧オーステナイト結晶粒サイズは350μm以下であってもよい。
【0067】
[関係式2]
D(鋳造後のスラブの旧オーステナイト結晶粒度)=3600×exp {-(89098+3581×[C]+1211×[Ni]+1443×[Cr]+4043×[Mo])/(RT)}×t0.18
【0068】
上記関係式2において、[C]、[Ni]、[Cr]及び[Mo]は、それぞれ鋼スラブに含まれるC、Ni、Cr及びMoの含量(重量%)を意味し、Rは8.314J/mol/K、Tは鋳造温度(K)、tは鋳造時間(s)を意味する。
【0069】
旧オーステナイトの結晶粒サイズを小さくする方案としては、溶質引きずり(solute dragging)効果やピンニング(Pinning)効果のある炭素(C)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)及びモリブデン(Mo)の成分を高く設計する方案がある。しかし、これらの炭素(C)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)及びモリブデン(Mo)の成分が高くなる場合、炭素当量(Ceq)も増大し、スラブの冷却過程で低温変態組織が生成されることがある。したがって、本発明では、下記の関係式1による鋼スラブの炭素当量(Ceq)を0.6以下に制限することができる。好ましい炭素当量(Ceq)は0.5~0.6であってもよい。
【0070】
[関係式1]
Ceq=[C]+[Mn]/6+([Cr]+[Mo]+[V])/5+([Ni]+[Cu])/15
【0071】
上記関係式1において、[C]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Ni]及び[Cu]は、それぞれ鋼スラブに含まれるC、Mn、Cr、Mo、V、Ni及びCuの含量(重量%)を意味し、これらの成分が意図的に添加されない場合は0を代入する。
【0072】
スラブの1次加熱
準備されたスラブを1100~1300℃の温度範囲で加熱することができる。前述のように、スラブの厚さは650mm以上であってもよく、好ましい厚さは700mm以上であってもよい。
【0073】
鋳造中に形成されたチタン(Ti)やニオブ(Nb)の複合炭窒化物又はTiNb(C、N)粗大晶出物などを再固溶させるためには、一定温度範囲以上でスラブを加熱する必要がある。また、1次鍛造前のスラブを再結晶温度以上まで加熱させて保持することにより組織を均質化させ、鍛造終了温度を十分に高く確保して鍛造過程で発生し得る表層クラックを最小化するために、一定温度範囲以上でスラブを加熱することが好ましい。したがって、本発明におけるスラブの1次加熱は、1100℃以上の温度範囲で行うことが好ましい。
【0074】
これに対し、スラブの加熱温度が過度に高い場合、高温酸化スケールが過度に発生する可能性があり、高温加熱及び保持によって製造コストの増加が過度になる可能性がある。したがって、本発明におけるスラブの1次加熱は、1300℃以下の範囲で行うことが好ましい。
【0075】
1次鍛造
1次加熱されたスラブを3~15%の累積圧下量及び1/s~4/sの変形速度で1次鍛造加工して1次中間材を提供することができる。ここで、1/sは、1秒当たりの変形区間が100%変形されたことを意味する。
【0076】
1次鍛造は、1次加熱された加熱スラブを450~550mmの厚さで鍛造して最終2次中間材の幅に加工する段階である。空隙を十分に圧着させるためには高変形の低速鍛造が必須であるため、1次鍛造は3~15%の累積圧下量及び1/s~4/sの変形速度の条件で行うことができる。
【0077】
1次鍛造の累積圧下量が3%未満である場合、スラブに残留した空隙を十分に圧着させることができず、残留空隙が発生するため、最終製品における耐ラメラテア特性が低下することがある。好ましい1次鍛造の累積圧下量は5%以上であってもよく、より好ましい1次鍛造の累積圧下量は7%以上であってもよい。しかし、転位密度が回復するか、又は再結晶によって相殺されない未再結晶温度以下での累積圧下量が15%を超える場合は、重なった転位の加工硬化により表面の均一伸び率が極めて低下し、鍛造過程で表面クラックが発生することがある。好ましい1次鍛造の累積圧下量は13%以下であってもよく、より好ましい1次鍛造の累積圧下量は11%以下であってもよい。
【0078】
2次加熱及び2次鍛造
1次中間材を1000~1200℃の温度範囲に2次加熱し、3~30%の累積圧下量及び1/s~4/sの変形速度で2次鍛造加工して、厚さ300~340mmの2次中間材を提供することができる。2次中間材の表面クラックの最大深さは5μm以下であり得る。
【0079】
2次鍛造は、1次中間材を1000~1200℃の温度範囲に加熱して鍛造することにより、目的とする最終2次中間材の厚さ及び長さに加工する段階である。1次鍛造と同様に、2次中間材の中心部の空隙率を十分に下げるために、2次鍛造においても高変形の低速鍛造が必須である。したがって、2次鍛造は、3~30%の累積圧下量及び1/s~4/sの変形速度を適用して実施することができる。2次中間材の中心部の空隙率を0.1mm3/g以下とすることができる。
【0080】
2次鍛造の累積圧下量が十分でない場合、1次鍛造後に残留した微細空隙を完全に圧着させない可能性がある。また、楕円状に圧着された空隙の終点に変形が印加される場合、ノッチ効果(Notch Effect)により、むしろ円形の空隙形態のときよりも物性が低下する可能性がある。したがって、2次鍛造時に3%以上の累積圧下量で空隙を十分に圧着させる必要がある。しかし、累積圧下量が過度な場合、表層の加工硬化により表面クラックが発生することがあるため、累積圧下量の上限を30%に制限することができる。
【0081】
2次鍛造の変形速度は、1次鍛造と同様に1/s~4/sであってもよい。1/s未満の変形速度では仕上げ鍛造の温度が低下し、表層クラックが発生する恐れがある。一方、未再結晶域において4/s超過の高変形速度を適用する場合、伸び率の低下及び表面クラックを誘発する可能性がある。
【0082】
3次加熱及び熱間圧延
鍛造作業が完了した2次中間材を1000~1200℃の温度範囲に3次加熱することができる。
【0083】
鋳造中に形成されたチタン(Ti)又はニオブ(Nb)の複合炭窒化物又はTiNb(C、N)粗大晶出物などを再固溶させ、熱間圧延前に2次中間材を再結晶温度以上まで加熱させて保持することにより組織を均質化させ、圧延終了温度を十分に高く確保して、圧延過程で介在物の破砕を最小化するために1000℃以上の温度範囲で3次加熱を行うことができる。
【0084】
一方、過度に高い温度で2次中間材を加熱する場合、高温での酸化スケールが問題となることがあり、高温加熱及び保持による製造コストの上昇が問題となる可能性があるため、本発明では、3次加熱温度の上限を1200℃に制限することができる。
【0085】
3次加熱された2次中間材を900~1100℃の温度範囲で熱間圧延して厚さが133~233mmである熱延材を提供することができる。熱延材の表面クラックの最大深さは2μm以下であり得る。
【0086】
仕上げ熱間圧延温度が900℃未満である場合、温度低下に伴って変形抵抗値が過度に増大するため、製品の厚さ方向の中心部にけるオーステナイト結晶粒を十分に微細化しにくく、それにより最終製品の耐ラメラテア特性が低下する可能性がある。一方、熱間圧延温度が1100℃を超える場合、オーステナイト結晶粒が過度に粗大になるため、強度及び衝撃靭性が低下する恐れがある。したがって、熱間圧延温度は900~1100℃であることが好ましい。
【0087】
焼ならし熱処理
熱間圧延が完了した熱延材を820~900℃の温度範囲に加熱して10~40分間保持した後、常温まで空冷する焼ならし熱処理を行うことができる。
【0088】
焼ならし熱処理時に、加熱温度が820℃未満、又は保持時間が10分未満である場合、圧延後の冷却中に生成された炭化物や粒界に偏析した不純元素の再固溶が円滑に行われず、熱処理後に鋼材の厚さ方向の伸び率(ZRA)及び低温靭性が大きく低下することがある。一方、焼ならし熱処理時に、加熱温度が900℃を超えるか、又は保持時間が40分を超える場合は、オーステナイトの粗大化及びNb(C、N)、V(C、N)等の析出相の粗大化により耐ラメラテア品質が低下する可能性がある。
【0089】
溶接後の熱処理(PWHT)
溶接後の熱処理は、焼ならしが完了した製品を溶接し、残留応力を除去するために、更なる熱処理(ASME section VIII-Division 1.Table UCS-56)を行うことができる。一例として、厚さ180mmの鋼材に対して、635℃及び370分の条件の溶接後熱処理が行われることができる。
【0090】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。但し、後述する実施例は、本発明を例示してより具体化するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。
【0091】
(実施例)
表1の合金成分を有する厚さ700mmの鋳片を作製した。表2の工程条件により、1次鍛造、2次鍛造、熱間圧延及び焼ならし熱処理を行った。このとき、1200℃の1次加熱温度、1100℃の2次加熱温度及び1050℃の3次加熱温度を共通に適用し、焼ならし時間は30分を共通に適用した。1次中間材の厚さは550mmの条件を適用し、2次中間材の厚さは400mmの条件を適用した。表2に記載の工程条件以外には、本発明の範囲を満たす工程条件を適用した。
【0092】
【0093】
【0094】
その後、各試験片の物性値を測定して表3に記載した。SEMを用いて各試験片の微細組織を観察し、全ての試験片は平均粒度が20μm以下のフェライト及びパーライトの複合組織を基地組織として有することが確認できた。表層部の硬質組織の分率は、レペラーエッチング(LePera etching)によって表層部の組織試験片からMAを顕出させた後、イメージ自動分析器を用いてサイズを測定し、中心部の空隙率は、試験片の中心部の密度を測定して判断した。また、引張試験機を用いて各試験片の引張強度及び厚さ方向の断面収縮率(ZRA)を測定した。併せて、各試験片の表面を目視で観察した後、表面クラックが形成された地点に研削を行い、クラックがなくなるまでの研削深さを表面クラックの深さとして測定した。VC析出物は、TEM-Replicaを活用して分析し、先ず回折パターンを測定してVCの結晶構造を確認した。VC析出物は、(001)面がフェライトの(001)面と平行であり、VC析出物の[110]方向がフェライトの[100]方向と平行なBaker-Nutting方位関係を形成しているため、TEMイメージ(TEM Image)上から容易に見つけることができる。統計的な処理のために、200nm2×200nm2のイメージを複数枚活用して、1μm2当たりのVC析出物の個数をカウントした。
【0095】
【0096】
表1~表3から分かるように、本発明が提案する合金組成及び製造条件を満たす発明例1~5の場合、優れた引張強度、耐ラメラテア特性(ZRA品質)及び表面品質を確保できることが分かる。
【0097】
しかし、比較例1~4の場合、本発明が提案する合金組成は満たしているものの、製造条件を満たしておらず、本発明が提案する表層の微細組織の種類及び分率、又は中央部の空隙率特性を満たしていないため、強度及びZRA、表面品質特性が低いレベルであることが分かる。
【0098】
比較例5~7の場合、本発明が提案する製造条件は満たしているものの、合金組成を満たしておらず、本発明が提案する微細組織の種類及び分率、中央部の空隙率などの条件を満たしていないため、強度及びZRA、表面品質が低いレベルであることが分かる。比較例8の場合は、本発明が提案するVC析出物の個数を満たしていないため、引張強度が相対的に低いレベルであることが分かる。
【0099】
以上のように、実施例を通じて本発明について詳細に説明したが、これと異なる形態の実施例も可能である。したがって、以下に記載された特許請求の範囲の技術的思想及び範囲は実施例に限定されない。
【国際調査報告】