(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-26
(54)【発明の名称】Z軸線の磁場を検知する磁気抵抗素子
(51)【国際特許分類】
H10N 50/20 20230101AFI20231219BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20231219BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20231219BHJP
G01R 33/09 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H10N50/20
H01L29/82 Z
H10N50/10 U
G01R33/09
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535328
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(85)【翻訳文提出日】2023-06-28
(86)【国際出願番号】 IB2021061484
(87)【国際公開番号】W WO2022123472
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509096201
【氏名又は名称】クロッカス・テクノロジー・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(74)【代理人】
【識別番号】100208258
【氏名又は名称】鈴木 友子
(72)【発明者】
【氏名】チルドレス・ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】ストレルコフ・ニキータ
【テーマコード(参考)】
2G017
5F092
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AD55
2G017AD65
5F092AA12
5F092AA20
5F092AB01
5F092AC12
5F092AD23
5F092BB33
5F092BB43
5F092BB53
5F092BC04
5F092BC07
5F092BC12
5F092BC13
5F092BC22
5F092BE27
5F092CA21
5F092CA25
(57)【要約】
【課題】検知層の平面に実質的に垂直な面外の軸線に沿った外部磁場を計測できる磁気抵抗素子を提供する。
【解決手段】磁気抵抗素子(2)は、基準磁化が固定された基準層(210)と、自由検知磁化(230)を持つ検知層(23)と、基準層(21)と検知層(23)との間のトンネル障壁層(22)とを備え、磁気抵抗素子(2)は、2層(21、23)の平面に対して略垂直に配向した外部磁場(60)を計測するように構成されている。基準磁化(210)は、基準層(21)の平面に対して略垂直に配向されている。検知磁化(230)は、外部磁場がないところでの渦構成(60)を備え、渦コア(231)は、検知層(23)の平面に略平行であり、検知層(23)の平面に略垂直な面外の軸線(50)に沿った磁化を持つ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定基準磁化(210)を持つ基準層(21)と、自由検知磁化(230)を持つ検知層(23)と、前記基準層(21)と前記検知層(23)との間のトンネル障壁層(22)とを備える磁気抵抗素子(2)であって、前記磁気抵抗素子(2)は、前記層(21、23)の平面に対して実質的に垂直に配向した外部磁場(60)を計測するように構成されていて、
前記基準磁化(210)は、前記基準層(21)の平面に対して実質的に垂直に配向されていて、
前記検知磁化(230)は、外部磁場(60)がないところでの渦構成を備え、前記渦構成は、前記検知層(23)の平面に実質的に平行であり、前記検知層(23)の平面に実質的に垂直な平面外の軸線(50)に沿った渦コア(231)の磁化方向を持つ、
磁気抵抗素子(2)。
【請求項2】
横方向の寸法が、450nm未満、好ましくは300nm未満、250nm未満である、請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項3】
前記検知層(23)が60nmより厚い厚みを持つ、請求項1又は2に記載の磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記検知層(23)が80nmより厚いか、100nmより厚い厚みを持つ、請求項1から3のいずれか一項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項5】
前記検知層(23)が第1軟質強磁性材を備え、
前記検知磁化(230)が、室温で、600kA/mm以下であるか、好ましくは300kA/mと600kA/mとの間である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項6】
前記検知層(23)は、第1軟質強磁性材を備える第1検知層(234)と、第2軟質強磁性材を備える第2検知層(235)とを備え、
前記検知層(235)は前記第1検知層(234)と前記トンネル障壁層(22)との間にあって、前記トンネル障壁層(22)に接している、
請求項1から5のいずれか一項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項7】
前記第2検知層(235)が、単一層を備えて1nmと5nmの間の厚みを持つ、請求項6に記載の磁気抵抗素子。
【請求項8】
前記第2検知層(235)が複数の強磁性副層(2351)を備え、各強磁性副層(2351)は0.5nmと3nmの間の厚みを持つ、請求項6に記載の磁気抵抗素子。
【請求項9】
前記第2軟質強磁性材はCoFeB合金又はNifeB合金を備える、請求項7又は8に記載の磁気抵抗素子。
【請求項10】
前記CoFeB合金は、20から80at%のCoと、20から80at%のFeと、0から30at%のBとを、備える、請求項9に記載の磁気抵抗素子。
【請求項11】
前記第2検知層(235)は、隣の強磁性副層(2351)の間のTa、W又はTiの挿入副層(2352)をさらに備え、前記挿入副層(2352)は0.1nmと0.5nmの間の厚みを持つ、請求項8から10のいずれか一項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項12】
前記検知層(23)が、
前記第2検知層(235)と前記第1検知層(234)の間に0.1nmと0.5nmの間の厚みを持ちそしてTa、W又はTiの挿入層(236)を備える、請求項6から11のいずれか一項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項13】
前記第1検知層(234)が、複数の第1強磁性副層(2341)を備え、各第1強磁性副層は0.5nmと3nmの間の厚みを持ち、
Ta、Ti、W又はRuを備えて0.05nmと0.2nmの間の厚みを持つ第1挿入副層(2342)によって、前記第1強磁性副層(2341)が分けられている、請求項6から12のいずれか一項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項14】
前記第1軟質強磁性材が、Ni、Fe、Coの少なくともいずれ1種の合金を含有している、請求項5から13のいずれか一項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項15】
前記合金をNi80Fe20をat%で備える、請求項14に記載の磁気抵抗素子。
【請求項16】
前記第1軟質強磁性材が、Ta、Ti、W、又はRuの1種類を0at%と30at%の間の値で含有している、請求項5から14のいずれか一項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項17】
前記基準層(21)が、
前記トンネル障壁層(22)に接している第1基準副層(211)と、
反強磁性的に前記第1基準副層(211)と第2基準副層(212)とを結合している結合層(213)によって前記第1基準副層(211)から離されている第2基準副層(212)と
を備える合成反強磁性(SAF)構造を備える、
請求項1から16のいずれか一項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項18】
前記第1基準副層(211)と前記第2基準副層(212)はそれぞれ、第1金属層(201)と第2金属層(202)を交互に複数備える、請求項17に記載の磁気抵抗素子。
【請求項19】
前記第1金属層(201)が0.4nmと0.6nmの間の厚みを持ち、前記第2金属層(202)が0.2nmと0.4nmの間の厚みを持つ、請求項18に記載の磁気抵抗素子。
【請求項20】
渦放出磁場(H
expl)に達するまで初期化磁場を加えることと、
前記初期化磁場を渦が再形成する核生成磁場(H
nucl)を下回るまで減らすことで前記渦コア磁化の方向(z、-z)を選択することであって、前記渦コアの方向(z、-z)が前記渦放出磁場(H
expl)及び前記核生成磁場(H
nucl)の極性によって決定される、前記選択することと、
外部磁場(60)を計測することと
を備える、
請求項1から19のいずれか一項に記載の磁気抵抗素子(2)を操作する方法。
【請求項21】
前記外部磁場(60)を計測することが、前記渦放出磁場(H
expl)を下回る外部磁場(60)について実施される、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知層を備える磁気抵抗素子(磁気抵抗効果素子)に関し、検知層の平面に実質的に垂直な軸に沿って外部磁場を計測する。本発明はさらに、磁気抵抗素子の操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、磁気センサは電子コンパスとして携帯電話などの移動体機器で広く使われている。X-Y平面内の2次元磁場の場合、直交する2つのセンサを用いて平面内の磁場のX成分とY成分の計測を実施してもよいが、Z軸線方向の磁場の計測には多くの困難がある。典型的には、次の解決策が使われている。
【0003】
1解決策には、2軸平面センサに垂直に設置された個別の1軸平面磁気抵抗センサが含まれる。この解決策では、X-Yの2軸磁気抵抗センサとZ軸磁気抵抗センサの2つの異なるセンサを組み立てる必要がある。
【0004】
別の解決策には、Z軸線方向の磁場をX軸線方向とY軸線方向の磁場成分に変換する磁束ガイドが含まれる。例えば、特許文献1には、面内センサの上に磁束ガイドを配置することでZ軸線方向の磁場の計測を実装する単一チップ3軸AMRセンサが開示されている。このような解決策では、Z軸線方向の磁場がX軸線方向とY軸線方向に完全に変換されない。さらに、このようなセンサ設計では、Z軸線方向の磁場を計算する特定のアルゴリズムを使用する必要があり、センサの設計がより複雑になる。
【0005】
さらに別の解決策は、基板を微細加工して傾斜面を形成し、その上にZ軸線方向の磁場を部分的に検知するセンサを堆積させることを備える。このような処理は非常に複雑であり、空間効率が低く、センサの堆積に何らかのシャドウイング効果を引き起こすおそれがあり、これがセンサの性能を低下させるおそれとなる。
【0006】
さらに別の解決策には、Z軸線方向の磁場を計測する垂直磁気異方性を持つ磁性材料の使用が含まれている。例えば、特許文献2は、垂直磁気異方性材料を用いて外部磁場のZ軸成分を計測する磁気センサを開示している。垂直磁気異方性材料は、保磁力が高く、磁気抵抗が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012/206137号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2013/168787号明細書
【発明の概要】
【0008】
本開示は、固定基準磁化を持つ基準層と、自由検知磁化を持つ検知層と、基準層と検知層との間のトンネル障壁層とを備える磁気抵抗素子に関する。磁気抵抗素子は、各層の平面に対して実質的に垂直に配向した外部磁場を計測するように構成されている。基準磁化は、基準層の平面に対して実質的に垂直に配向されている。この検知磁化は、外部磁場がないところでの渦構成を備える。渦構成は、検知層の平面に実質的に平行であり、検知層の平面に実質的に垂直な平面外の軸線に沿った渦コアの磁化方向を持つ。
【0009】
本開示はさらに、磁気抵抗素子を操作する方法に関し、この方法は、
渦放出磁場に達するまで初期化磁場を与えることによって渦コアの方向を選択することと、
渦が再形成される核生成磁場より下回って初期化磁場を減らすこと(ここでは前記渦コアの磁化方向は、前記渦放出磁場及び前記核生成磁場の極性によって決定される)と、
外部磁場を計測することと
を備える。
【0010】
ここに開示される磁気抵抗素子は、検知層の平面に実質的に垂直な面外軸に沿った外部磁場を計測できる。磁気抵抗素子の渦構成は、200mT又は250mTを超える放出磁場を備えてよい。
【0011】
磁気抵抗素子は、ヒステリシスが低く、外部磁場の大きさから排出磁場までで300pV/V未満であり、直線性が高く、誤差が2%又は1%未満である。
【0012】
本発明の例示的な実施形態が、明細書の記載内で開示され、図面によって描かれている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、1実施形態による磁気抵抗素子を表す。
【
図3】
図3は、
図2の磁化曲線の可逆線形部分の一部の拡大図を示す。
【
図4】
図4は、検知層の厚さの複数の値に対する磁化曲線と、横方向の寸法が250nmの磁気抵抗素子の磁化曲線を報告する。
【
図5】
図5は、検知層の厚さの複数の値に対する磁化曲線と、横方向の寸法が450nmの磁気抵抗素子の磁化曲線を報告する。
【
図6】
図6は、磁気抵抗素子の感度を検知層の厚さの関数として報告する。
【
図7】
図7は、横方向の寸法が250nm、厚さが110nm、磁気モーメントが600kA/mの磁気抵抗素子の磁化曲線を示す。
【
図8】
図8は、横方向の寸法が250nm、検知層の厚さが46nm、磁気モーメントが400kA/mの磁気抵抗素子の磁化曲線を示す。
【
図9】
図9は、1実施形態による磁気抵抗素子の基準層を示す。
【
図10】
図10は、1実施形態による第1及び第2検知層を備える磁気抵抗素子を示す。
【
図11】
図11は、1実施形態による複数の第2強磁性副層を備える第2検知層を示す。
【
図12】
図12は、1実施形態による複数の第2強磁性副層及び第2挿入副層を備える第2検知層を示す。
【
図13】
図13は、別の実施形態による第1及び第2検知層を備える磁気抵抗素子を示す。
【
図14】
図14は、1実施形態による複数の第1強磁性副層を備える第1検知層を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、1実施形態による磁気抵抗素子2を表す。磁気抵抗素子は、固定基準磁化210を持つ基準層21と、自由検知磁化230を持つ検知層23と、基準層21と検知層23との間のトンネル障壁層22とを備える。検知磁化230は、外部磁場60がないところでの検知層23の平面に実質的に平行な渦構成を備える。基準層21は、基準磁化210が基準層21の平面に対して実質的に垂直に配向するように、垂直磁気異方性(PMA)を備えてよい。
【0015】
磁気抵抗素子2は、基準層及び検知層21、23の平面に対して実質的に垂直に配向している外部磁場60を計測できる。
【0016】
検知層23は、渦構成を持つ検知磁化230方向分布をもつ。これにより、渦磁化は、検知層23の縁に沿って、渦コア231の周囲に円状の経路で曲がっている。渦磁化方向は、時計回りの方向に配置されていてもよいし、反時計回りの方向に配置されていてもよい。通常のセンサの操作中、渦コア231の磁化は、外部磁場60に応じて、検知層23の平面に実質的に垂直な方向(又は方向±z)に変化し得る。
図1を参照すると、渦コア231の磁化は、上向き方向(すなわち、方向+zに向かって)又は下向き方向(すなわち、反対方向-zに向かって)に配向可能である。渦コアの大きさは、外部磁場60の大きさがそれぞれ増減すると、+z方向又は-z()方向に増減する。しかしながら、通常のセンサの操作中は、渦コア磁化方向±z、又は渦コア磁化極性は固定されている。
【0017】
磁気抵抗素子2の実用的な大きさ及び検知層23の厚さのためにこの渦構成が、外部磁場60の大きな、磁場の大きさの範囲内の線形及び非ヒステリシス挙動を提供する。磁化曲線の線形及び非ヒステリシス部分は、外部磁場60の小さな変動の計測を容易にする。そのようにして、渦構成は磁気センサの複数用途に有利である。
【0018】
図2は、(記号B
extzで示される)外部磁場60の関数としての磁気抵抗素子2の磁化曲線(又はヒステリシス応答)を示す。ここで、「mz」は、検知磁化の方向に沿った平均成分±z(<Mz>又は検知磁化Msのz成分)に規格化された(mz=<Mz>/Ms)に相当する。渦構成の場合、磁化曲線は、H
expl点で渦放出磁場に達するまで、外部磁場B
extzによる渦コア磁化の線形増加によって特徴付けられる。この時点で、検知磁化230は磁気的に飽和(上向きの矢印(方向+z)で表される)する。検出層23内の渦状態は、外部磁場B
extzが核生成磁場H
nucl以下に減少すると回復する。H
expl点で渦放出磁場に達するまで外部磁場B
extzが減少すると(負の外部磁場B
ext)、検知磁化230は磁気的に飽和する(下向きの矢印(方向-z)で表される)。核生成磁場H
nuclは、渦放出後に渦が再形成される場である。外部磁場B
extzの大きさが追放磁場(+/-H
expl)に対応する絶対値以下である限り、磁化曲線は、外部磁場60による渦コア231の磁化の変化に対応する可逆的な線形の部分を含む。渦コア磁化極性は、放出磁場H
explを超えると(方向zと-zの間で)反転できる。
【0019】
図3は、
図2の磁化曲線の可逆線形部分の一部を拡大して示す。外部磁場B
extzが核生成磁場H
nuclから増えるときと比較して、外部磁場B
extzが核生成磁場H
nuclから減ると、外部磁場B
extzへの磁化曲線はより高い磁化値に移行する。つまり、磁化曲線の可逆的な線形の部分は、渦コア磁化極性、すなわち渦コア231の磁化方向が異なることによるヒステリシスを示す。
【0020】
渦コア磁化極性は、渦放出後に渦が再形成される核生成磁場+/-H
nuclに依存する。次に、磁化曲線の分岐の1つだけで磁気抵抗素子2を操作できる。分岐は、例えば、磁場が正の核生成磁場+H
nucl(及び正の渦放出磁場+H
expl)から掃引されて負に戻るときの分岐A(
図3を参照)、又は磁場が負の核生成磁場-H
nucl(及び負の渦放出磁場-H
expl)から掃引されて正に戻るときの分岐Bである。
【0021】
磁気抵抗素子2の操作方法は、磁気抵抗素子2に初期化磁場をかけて渦放出磁場Hexplに達するまで、渦コアの磁化の方向z又は-z(渦コア磁化極性)を選択し、その後、渦が再形成する核生成磁場Hnuclより下に、初期化磁場を減らす工程を備えてよい。渦コア磁化極性は、渦放出磁場Hexpl及び核生成磁場Hnuclの極性によって決定される。この方法は、外部磁場60を計測する工程をさらに備える。
【0022】
初期化磁場を与えた(印加した)後、この方法は、基準磁化210の向きをプログラムするように磁気抵抗素子2をプログラムする工程をさらに備えてよい。プログラミング工程は、基準磁化210を方向付けるように適合されたプログラミング磁場を与えることによって実行できる。プログラミング工程は、磁気抵抗素子2を、基準磁化210の配向が容易になる温度、例えば基準磁化210が固定解除される温度に加熱することをさらに備えてよい。磁気抵抗素子2の加熱は、抵抗加熱又はレーザー加熱を用いて行える。プログラミングの工程中、渦コア磁化極性は固定されていると見なせる。
【0023】
磁気抵抗素子2の操作は、
図3に示す分岐A又はBの何ら特定の部分に限定されない点に留意されたい。実際に、磁気抵抗素子2は、分岐A又は分岐Bの線形領域内の任意の場所で操作可能である(後者は、分岐Aのものに対して渦磁化極性が逆転している)。
【0024】
いずれにしても、磁気抵抗素子2は、渦放出磁場+/-Hexplより下の外部磁場60を計測する必要がある。渦磁化極性はセンサの操作中に固定され、渦の(時計回り又は反時計回り方向の)カイラリティー(掌性)とは無関係である。
【0025】
検知層23における渦構成の観察は、検知層23の材料特性を含む多数の要因に依存する。一般に、渦構成は、検知層23の直径に対する厚みのアスペクト比を大きくすることによってゼロ印加磁場で好まれる。アスペクト比は通常、1よりはるかに小さい(例えば、0.01から0.5)。また、
図2の磁化曲線の線形部分の値や傾きは、検知層23の大きさに強く依存している。
【0026】
特に、渦配置は、磁化曲線の線形領域の傾きに対応するその磁化率χによって特徴付けられる。
【数1】
【0027】
磁気抵抗素子2の感度Sは、磁気抵抗センサ素子2の磁化率χとトンネル磁気抵抗(TMR)との間の積に比例する。
【数2】
【0028】
図4は、検知層23の磁化に関するz配向外部磁場B
extzに対する磁化曲線を、検知層23の数の厚さ、すなわち10nmと60nmの間の検知層23の厚さについて報告している。磁気抵抗素子2は、約250nmの横方向の寸法Dを持つ。
図4は、検知層23の厚さの増加に伴う磁化曲線の傾き、ひいては磁化率χの増加を示す。所与のTMR値に対して、検知層23の厚さを増加させることは、磁気抵抗素子2の感度Sの増加をもたらす。これは、検知層23の平面内に渦構成を有し、検知層23の平面に実質的に平行に可逆的に移動可能な渦コア磁化を持つ場合とは対照的である。
【0029】
図5は、検知層23の複数の厚み(すなわち10nmと60nmの間の検知層23のいろいろな厚み)の、z(軸線に)位置決めした外部磁場B
extzに対する磁化曲線を報告する。磁気抵抗素子2は、約450nmの横方向の寸法を持つ。
図4及び
図5は、磁化率χが増え、所与のTMR値に対して磁気抵抗素子2の感度Sが増え、磁気抵抗素子2の横方向寸法Dが小さくなることを示す。所与の厚さの層21,23について、感度Sの値は、磁気抵抗素子2の直径(横寸法)Dに対する厚さtのアスペクト比t/Dを増加させるとともに増加する。
【0030】
磁気抵抗素子2の感度Sは、
図6に検知層23の厚さの関数として図にしている。感度Sは、磁気抵抗素子2の横方向の寸法Dが150nm、200nm、250nm、検知層23の磁化が400及び600kA/mの場合に模擬試験がなされた。磁気抵抗素子2のTMR値を100%と仮定した。
図6は、横方向の寸法が150nm、磁化が400kA/mの場合、より高い感度Sの値が得られることを示す。所与のTMR値に対して、検知層23の検知磁化230を減少させると、磁気抵抗素子2の感度Sが増加する。この用途の全文において、「検知磁化」という表現は、「飽和検知磁化」又は「自発検知磁化」に対して関係なく使用され、飽和磁化は最大誘導磁気モーメントという通常の意味を持つ。
【0031】
検知層の面に対して実質的に垂直な面外軸に沿って外部磁場を計測でき、高い作動磁場範囲、低ヒステリシス、高直線性及び十分な感度を持つ磁気抵抗素子2の設計規則の観点から、上記に示した結果は、
基準層21が、基準層21の平面に対して実質的に垂直に配向した基準磁化210を持ち、かつ
検知層23が、外部磁場60がないところでの渦構成を備える検知磁化230を持つ、
磁気抵抗素子2の提供を示唆している。この渦構成は、検知層23の平面に実質的に平行であり、検知層23の平面に実質的に垂直な面外軸50に沿った渦コア231磁化を持つはずある。
【0032】
さらに、高い作動磁場範囲(60mT以上など)、外部磁場の大きさに対する(300pV/V未満のような)低ヒステリシスと、(2%未満又は1%の誤差のような)高い直線性と、十分な感度を持つ磁気抵抗素子2の設計規則の観点から、磁気抵抗素子2は、
横方向の寸法Dが小さく(又はアスペクト比が高い)、例えば、450nm未満、又は300nm未満、好ましくは250nm未満、又は好ましくは150nm未満の横方向の寸法Dを持つべきであり、
検知層23の小さな検知磁化230、例えば、850kA/m未満の検知磁化、可能ならば600kA/m未満、又は可能ならば400kA/M未満の検知磁化230を持つべきである。
有利には、検知層23は、50nmより厚い、好ましくは100nmを超える厚みを持つ。
【0033】
一観点では、検知層23の厚さを(50nm以上)厚くでき、検知層23の検知磁化230は、従来の磁気抵抗素子に見られる典型的な飽和磁化値(例えば600kA/m以上)に対応する値を持ってよい。第1例(
図7)において、磁気抵抗素子2は、250nmの横方向の寸法Dを有し、検知層23の厚さは110nmである。検知層23を形成する強磁性体は、検知磁化230が600kA/m以上(ここでは600kA/m)の強磁性合金を備えてよい。
【0034】
好ましくは、検知層23を形成する強磁性体は、300から600kA/mの間の検知磁化230を持つ第1軟質強磁性材を備えるか、又はそれからなるものである。300から600kA/mの間の検知磁化230により、磁気抵抗素子の垂直感度を高められる。
【0035】
好ましい1実施形態において、検知層23は、60nmより厚い、又は70nmより厚い、又は80nmを超える厚みを持つ。
【0036】
別の態様では、検知層23の低検知磁化は、低検知磁化(例えば600kA/m未満)を得るように、
厚さを減少させること(例えば50nm未満)と、
検知層23を形成する強磁性材料の適切な選択と
の少なくとも一方によって得られる。第2例(
図8)において、磁気抵抗素子2は、250nmの横方向の寸法Dを有し、検知層23は、46nmの厚さを持ち、400kA/mの検出磁化を持つ。検知層23には、低磁化の強磁性合金を形成してよい。
【0037】
図7及び
図8は、第1及び第2実施例の磁気抵抗素子2についてほぼ同一の磁化曲線が得られることを示している。両方の例において、放出磁場H
explは約300mTであってもよく、核生成磁場H
nuclは約200mTであってもよい。
【0038】
磁気抵抗素子2は、TMR=100%の場合、感度Sが1mV/V以上であり得る。感度Sは、TMRを増やすことによってさらに高められる。
【0039】
再び
図1を参照すると、基準層21は、トンネル障壁層22に接する第1基準副層211と、結合層213によって第1基準副層211から分離された第2基準副層212とを備える合成反強磁性(SAF)構造を備えてよく、ここで、結合層213は、第1基準副層211を第2基準副層212に反強磁性的に結合している。第1及び第2基準副層211、212はそれぞれ、基準磁化210が第1及び第2基準副層211、212の平面に対して実質的に垂直に、かつ反対方向に配向するようなPMAを持つ。
【0040】
図9で表される実施形態では、第1及び第2基準副層211、212はそれぞれ、複数層構造を備える。特に、第1及び第2基準副層211、212の各々は、複数の交互の第1金属層201及び第2金属層202を備えてよい。例えば、第1金属層201は極薄のCo層を備えてよく、第2金属層202は極薄のPt層を備えてよい。第2金属層202はPtを含有することが好ましいが、PMAを提供する他の金属も使用できる。
【0041】
一観点において、極薄Co層201は、0.4nmと0.6nmとの間の厚さを持ち得る。極薄のPt層202は、0.2nmと0.4nmとの間の厚さを持ち得る。結合層213は、Ru層としてよい。結合層213はRuを含むことが好ましいが、RKKY結合を生じる他の金属も使用できる。
【0042】
図9の構成によるSAF構造を備える基準層21は、300mTから400mT超の電界安定性を達成できる。
【0043】
図10に示す別の実施形態では、検知層23は、第1検知層234と第2検知層235とを備え、第2検知層235は、第1検知層234とトンネル障壁層22との間にあってトンネル障壁層22に接している。磁気抵抗素子2は、第1検知層234の上に少なくともキャップ層25をさらに備えてよい。第2検知層235は、1nmと5nmの間の厚さを持つ。上述したように、検知層23が60nmを超える厚さを持つように、第2検知層235及び第1検知層234の合計厚さは60nmより厚い。第1検知層234は、第1軟質強磁性材を含むか、又は、第1軟質強磁性材からなる。第2検知層235は、第2軟質強磁性材を含むか、又は、それからなる。
【0044】
第2検知層235は、第2軟質強磁性材を含有する単層を備え得る。代替的に、第2検知層235は、各強磁性副層が第2軟質強磁性材料を含有する(
図11参照)複数の第2強磁性副層2351を備えてよい。各副層は、0.5nmから3nmの間の厚さを持ち得る。
【0045】
第2軟質強磁性材は、CoFeB(コバルト鉄ホウ素)合金を含有してよい。特に、第2軟質強磁性材料は、Coは20から80at%、Feは20から80at%、及びBは0から30at%のCoFeB合金を含有し得る。
【0046】
図12に図示される別の代替のものにおいて、第2検知層235は、隣りの第2強磁性副層2351の間に備わる複数の第2強磁性副層2351と、Ta、W又はTi(タンタル、タングステン、チタン)の第2挿入副層2352とを備える。第2挿入副層2352は、0.1nmと0.5nmとの間の厚さを持ち得る。
【0047】
図13に示すさらに別の代替のものにおいて、検知層23は、第2検知層235と第1検知層234との間に、Ta、W又はTi(を含有し)そして0.1nmと0.5nmの間の厚さの挿入層236を備え得る。
【0048】
第1検知層234は、外部磁場60がないところでの検知層23の平面に検知磁化230が実質的に平行な渦構成となるように構成されている。第1検知層234は、第1軟質強磁性材を含有してもよく、又は、それからなるものとしてよい。
【0049】
代替的に、第1検知層234は、複数の第1強磁性副層2341を備えてよい(
図14参照)。各第1強磁性副層2341は、第1軟質強磁性材料を含有するか、又はそれらからなるものとしてよく、厚さが0.5nmから3nmの間である。各第1強磁性副層2341は、Ta、Ti、W又はRuを含有し、0.05nmと0.2nmの間の厚さを持つ第1挿入副層2342によって分離できる。
【0050】
第1及び第2軟質強磁性材は、検知磁化230が600kA/m以下、又は300から600kA/mの間である、検知層23を持つように選択できる。
【0051】
第1軟質強磁性材は、Ni、Fe、Co、Ni80Fe20at%のような合金を含有してよい。
【0052】
一観点において、第1軟質強磁性材料は、Ta、Ti、W又はRuのうちの1つを1at%から30at%含有する。Ta、Ti、W又はRuとの合金化は、600kA/m以下、又は300から600kA/mの間の低検知磁化230を達成するのに役立つ。
【符号の説明】
【0053】
2 磁気抵抗素子
21 基準層
201 第1金属層
202 第2金属層
210 基準磁化
211 第1基準副層
212 第2基準副層
213 結合層
22 トンネル障壁層
23 検知層
230、Ms 検知磁化
231 渦コア
234 第1検知層
2341 第1強磁性副層
2342 第1挿入副層
235 第2検知層
2351 第2強磁性副層
2352 第2挿入副層
236 挿入層
25 キャップ層
50 平面外の軸線
60 外部磁場
A、B 磁化曲線の分岐
Bextz Z(軸線)方向に沿った外部磁場
D 水平方向の寸法、直径
Hexpl (渦)放出磁場
Hnuci 核(生成)場
mz 磁化
t 厚み
【手続補正書】
【提出日】2023-08-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本開示は、固定基準磁化を持つ基準層と、自由検知磁化を持つ検知層と、基準層と検知層との間のトンネル障壁層とを備える磁気抵抗素子に関する。磁気抵抗素子は、各層の平面に対して実質的に垂直に配向した外部磁場を計測するように構成されている。基準磁化は、基準層の平面に対して実質的に垂直に配向されている。この検知磁化は、外部磁場がないところでの渦構成を備える。渦構成は、検知層の平面に実質的に平行であり、検知層の平面に実質的に垂直な平面外の軸線に沿った渦コアの磁化方向を持つ。
一観点では、検知層は60nmより厚い厚みを持ち、ここでは、検知層は300から600kA/mの間の検知磁化230を持つ第1軟質強磁性材を備える。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定基準磁
化を持つ基準
層と、自由検知磁
化を持つ検知
層と、前記基準
層と前記検知
層との間のトンネル障壁
層とを備える磁気抵抗素
子であって、前記磁気抵抗素
子は、前記
層の平面に対して実質的に垂直に配向した外部磁場を計測するように構成されていて、
前記基準磁
化は、前記基準
層の平面に対して実質的に垂直に配向されていて、
前記検知磁
化は、外部磁場がないところでの渦構
成を備え、前記渦構成は、前記検知
層の平面に実質的に平行であり、前記検知
層の平面に実質的に垂直な平面外の軸
線に沿った渦コ
アの磁化方向を持
ち、
前記検知層は60nmより厚い厚みを持ち、
検知層は300から600kA/mの間の検知磁化を持つ第1軟質強磁性材を備える、
磁気抵抗素子
。
【請求項2】
横方向の寸法が、450nm未満、好ましくは300nm未満、250nm未満である、請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項3】
前記検知
層が60nmより厚い厚みを持つ、請求項
1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記検知
層が80nmより厚いか、100nmより厚い厚みを持つ、請求項
1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項5】
前記検知
層が第1軟質強磁性材を備え、
前記検知磁
化が、室温で、600kA/m以下であるか、好ましくは300kA/mと600kA/mとの間である、
請求項
1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項6】
前記検知
層は、第1軟質強磁性材を備える第1検知
層と、第2軟質強磁性材を備える第2検知
層とを備え、
前記
第2検知
層は前記第1検知
層と前記トンネル障壁層との間にあって、前記トンネル障壁
層に接している、
請求項
1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項7】
前記第2検知
層が、単一層を備えて1nmと5nmの間の厚みを持つ、請求項6に記載の磁気抵抗素子。
【請求項8】
前記第2検知
層が複数の第2強磁性副
層を備え、各強磁性副
層は0.5nmと3nmの間の厚みを持つ、請求項6に記載の磁気抵抗素子。
【請求項9】
前記第2軟質強磁性材はCoFeB合金又はNifeB合金を備える、請求項
7に記載の磁気抵抗素子。
【請求項10】
前記CoFeB合金は、20から80at%のCoと、20から80at%のFeと、Bを0から30at%のBとを、備える、請求項9に記載の磁気抵抗素子。
【請求項11】
前記第2検知
層は、隣の強磁性副
層の間のTa、W又はTiの挿入副
層をさらに備え、前記挿入副
層は0.1nmと0.5nmの間の厚みを持つ、請求項
8に記載の磁気抵抗素子。
【請求項12】
前記検知
層が、
前記第2検知
層と前記第1検知
層の間に0.1nmと0.5nmの間の厚みを持ちそしてTa、W又はTiの挿入
層を備える、請求項
6に記載の磁気抵抗素子。
【請求項13】
前記第1検知
層が、複数の第1強磁性副
層を備え、各第1強磁性副層は0.5nmと3nmの間の厚みを持ち、
Ta、Ti、W又はRuを備えて0.05nmと0.2nmの間の厚みを持つ第1挿入副
層によって、前記第1強磁性副
層が分けられている、請求項
6に記載の磁気抵抗素子。
【請求項14】
前記第1軟質強磁性材が、Ni、Fe、Coの少なくともいずれ1種の合金を含有している、請求項
5に記載の磁気抵抗素子。
【請求項15】
前記合金をNi80Fe20をat%で備える、請求項14に記載の磁気抵抗素子。
【請求項16】
前記第1軟質強磁性材が、Ta、Ti、W、又はRuの1種類を0at%と30at%の間の値で含有している、請求項
5に記載の磁気抵抗素子。
【請求項17】
前記基準
層が、
前記トンネル障壁
層に接している第1基準副
層と、
反強磁性的に前記第1基準副
層と第2基準副層とを結合している結合
層によって前記第1基準副
層から離されている第2基準副
層と
を備える合成反強磁性(SAF)構造を備える、
請求項
1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項18】
前記第1基準副
層と前記第2基準副
層はそれぞれ、第1金属
層と第2金属
層を交互に複数備える、請求項17に記載の磁気抵抗素子。
【請求項19】
前記第1金属
層が0.4nmと0.6nmの間の厚みを持ち、前記第2金属
層が0.2nmと0.4nmの間の厚みを持つ、請求項18に記載の磁気抵抗素子。
【請求項20】
渦放出磁
場に達するまで初期化磁場を加えることと、
前記初期化磁場を渦が再形成する核生成磁
場を下回るまで減らすことで前記渦コア磁化の方
向を選択することであって、前記渦コアの方
向が前記渦放出磁
場及び前記核生成磁
場の極性によって決定される、前記選択することと、
外部磁
場を計測することと
を備える、
請求項
1に記載の磁気抵抗素
子を操作する方法。
【請求項21】
前記外部磁
場を計測することが、前記渦放出磁
場を下回る外部磁
場について実施される、請求項20に記載の方法。
【国際調査報告】