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特表2023-553936ボリコナゾールを含む吸入可能な粉体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-26
(54)【発明の名称】ボリコナゾールを含む吸入可能な粉体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/506 20060101AFI20231219BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20231219BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20231219BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20231219BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20231219BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231219BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20231219BHJP
   A61K 47/16 20060101ALI20231219BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231219BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20231219BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20231219BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20231219BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
A61K31/506
A61P31/10
A61P11/00
A61K9/14
A61K9/72
A61K47/10
A61K47/18
A61K47/16
A61K47/26
A61K47/34
A61K47/20
A61K47/14
A61K47/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535337
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(85)【翻訳文提出日】2023-08-09
(86)【国際出願番号】 EP2021085197
(87)【国際公開番号】W WO2022123009
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】102020000030437
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】507310709
【氏名又は名称】ザンボン エス.ピー.エー.
【氏名又は名称原語表記】ZAMBON S.p.A.
【住所又は居所原語表記】Via Lillo del Duca 10,Bresso,Milano,Italy
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】ザネッロッティ,ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】マギー,ロレッタ
(72)【発明者】
【氏名】ファイエッラ,ジャンルイージ
(72)【発明者】
【氏名】マギ,ナーディア
(72)【発明者】
【氏名】ニコシア,ヴァレンティーナ
(72)【発明者】
【氏名】カステギニ,フランコ
(72)【発明者】
【氏名】カポネッティ,ジョヴァンニ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA24
4C076AA29
4C076AA93
4C076BB27
4C076CC15
4C076CC31
4C076DD02
4C076DD05
4C076DD07
4C076DD08
4C076DD09
4C076DD19
4C076DD37
4C076DD51
4C076GG09
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC60
4C086GA07
4C086GA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA13
4C086MA43
4C086MA57
4C086NA03
4C086NA10
4C086ZB35
(57)【要約】
本発明は、吸入可能な粉体であって、当該粉体の総量に対して50重量%以上の量の実質的に結晶形態であるボリコナゾール又はその薬学的に活性な塩と、ロイシンとを含む粉体を製造する方法に関する。本方法は、適切なビヒクル中のボリコナゾール又はその薬学的に活性な塩及びロイシンの溶液を準備することからなる第1のステップと、前記粉体を、40~75℃の出口温度及び10g/分以上の供給速度でのスプレードライ法を用いて乾燥させることから本質的になる第2のステップと、最後に、得られた粉体を収集することとを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入可能な粉体を製造する方法であって、
前記粉体は、当該粉体の総量に対して50重量%以上の量の実質的に結晶形態であるボリコナゾール又はその薬学的に活性な塩と、ロイシンとを含み、
前記方法は、
a)適切なビヒクル中のボリコナゾール又はその薬学的に活性な塩及びロイシンの均質な溶液を準備するステップ;
b)前記粉体を、40~75℃の出口温度及び10g/分以上の供給速度でスプレードライするステップ;
c)前記粉体を収集するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記粉体は40%以上の微粒子画分(FPF)を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ロイシンは前記粉体の総量に対して10重量%以上の量で存在する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップa)において界面活性剤が存在する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記界面活性剤は前記粉体の総量に対して0.2~2重量%の量で存在する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記粉体は10μm以下のX90を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記粉体は5μm以下のMMADを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ボリコナゾール又はその薬学的に活性な塩は、前記粉体の総量に対して50~85重量%の量で存在する、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ボリコナゾールは、前記粉体中のボリコナゾールの総量の90~100%の割合が結晶性固体形態で存在する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記界面活性剤は、ベンザルコニウムクロライド、セトリミド、ドクサートナトリウム、グリセリルモノオレエート、ソルビタンエステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート、リン脂質、胆汁酸塩、ポリソルベート、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンとのブロックコポリマーからなる群より選択される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ビヒクルは水とアルコールとの混合物である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ロイシンは結晶形態で存在する、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記供給速度は15g/分以上である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記出口温度は50~70℃である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の方法により得られる吸入可能な粉体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の吸入器を用いた吸入投与のための乾燥粉体形態の薬物製剤であって、高度に呼吸可能で安定である製剤に関する。
特に、本発明は、肺の真菌感染症の処置に適切な吸入可能な粉体であって、トリアゾール類に属する薬物、特にボリコナゾールを含有する粉体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアロゾル調製物を用いる吸入治療は、活性成分を気道、粘膜、気管及び気管支領域に投与するために用いられる。エアロゾルという用語は、ガス(通常は空気)によって治療作用部位に運ばれる微粒子又は液滴から形成される調製物を表す。治療適用部位が肺胞及び細気管支である場合、薬物は、空気力学的直径が5.0μm以下のサイズを有する液滴又は粒子として分散されなければならない。
標的が咽頭領域である場合、より大きな粒子がより適切である。
これらの処置に適した状態は、気管支痙攣、炎症、粘膜浮腫、肺感染症等によって代表される。
【0003】
現在、肺深部への薬物の投与は、以下のような吸入デバイスを用いた送達により得られる:
- 薬物が溶解され又は懸濁液の形態に分散され、霧状にされた微細な液滴として肺に運ばれるネブライザー;
- 薬物が(これもまた、溶液又は懸濁液の液滴の形態で)、加圧キャニスターによって空気中で急速に膨張した不活性ガスによって肺深部に運ばれる加圧吸入器;
- 微粉化乾燥粒子として吸入器中に存在する薬物を分注することができる粉体吸入器。
【0004】
これらすべての場合において、効率的な製品の製造において技術的困難に直面しており、今日でも吸入による薬物の投与は依然として制限されている。
粉体形態の吸入製剤の場合、これらは、本質的に、結晶形態の活性成分の粉砕/微粉化により得られ、一般には5.0μm以下、より好ましくは2.0μm以下の直径を有する粒子が得られる。一般に、賦形剤の使用は、希釈剤として使用される大きな粒径を有するラクトースと混合することによって対処される微粉化活性成分の粉体のフローに関連した問題の解決に制限される。
【0005】
粉砕/微粒子化に基づく製剤技術は、最終製剤が、非常に異なる化学的及び物理化学的特性を有していても、気道の深部領域への吸入投与に適した空気力学的特性を有することを確実にする活性成分の加工処理可能性の観点からは、いくつかの制限を有することが明らかである。この意味で、良好な空気力学的特性を有する吸入可能な粉体を得るための有効なアプローチは、スプレードライ生産技術を用いて得ることができる粒子工学によって代表される。この技術によれば、活性成分及び適切な賦形剤を組み合わせて、その空気力学的特性が用いられるプロセス条件及び組成によって規定される粒子を形成することができる。
【0006】
粒子工学によって提供される機会にも関わらず、この技術は、克服すべき製剤化の困難性がないわけではない。吸入可能な粉体製品の開発において遭遇する最も関連のあるものの中には、間違いなく、開発中の製品が大気中の薬剤に対して経時的に十分な化学的及び物理的安定性を有することを確実にする必要性がある。実際に、これらの大気中の薬剤は、吸入調製物の有効性を大きく制限するような吸入調製物の化学分解及び/又は物理的変化を決定することができる。
吸入可能な製品の安定性は、肺最深領域への粒子又は液滴の定量的浸透のための物性を維持しながら肺深部に投与されなければならないという事実に関連して特に重要である。これに加えて、吸入投与のために現在承認されており、したがって肺組織に対する毒性の点で許容される賦形剤の数が極めて限られているという事実がある。
【0007】
臨床的観点から、本発明の主目的に関して、肺の真菌感染症は、喘息患者から血液腫瘍患者までの様々なタイプの患者における罹患率及び死亡率の重要な原因を表す。
アスペルギルス(Aspergillus)は、約200種のカビを含むマユハキタケ/トリココマ科の真菌属である。それは、高湿度の条件が存在する様々な環境において容易に増殖する、自然界に遍在する真菌の群を表す。適切な条件下では、大量の胞子が形成されて、環境中に放出される。胞子は、環境中で長期間浮遊したままである。
最も一般的な種の中で、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)及びアスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)は、ヒト及び動物におけるアスペルギルス症として知られる感染症の原因である。
アスペルギルス胞子は、サイズが小さく(直径2.5~3.5μm)、気道に容易に吸入され得る。
健常個体の場合に起こるように、胞子が直ちに排除される場合、病理学的事象は起こらない。
コロニー形成が起こると、コロニーは、長い又は短い持続時間を有し得る。
【0008】
疾患のプロファイルは、おそらく最初のコロニー形成を生じる接種菌のサイズと組み合わせて、罹患した個体の特徴及び健康状態によって決定される。
侵襲性疾患は、通常、吸入を主な感染経路とする免疫不全患者において起こる。アレルギー性アスペルギルス症は、喘息、アトピー又は嚢胞性線維症の患者に起こる。
肺アスペルギルス症の処置は、全身薬の使用を必要とする。このことにもかかわらず、治療薬の血流から組織サブコンパートメント(例えば、肺)への分布は、かなりの変動性に特徴付けられることが多く、標的部位における薬物の濃度は、血漿中で測定される濃度に対して非常に異なることが多い。
【0009】
さらに、標的部位における低く最適未満の濃度が、抗真菌活性成分の効果が無い症例の原因であり得る。
トリアゾール抗真菌剤は、基本環に3つの窒素原子を有するという特徴的な構造を有する。現在臨床で使用されている活性成分には、イトラコナゾール、フルコナゾール、ボリコナゾール及びポサコナゾールが含まれる。
これらの化合物は、化学構造及び分子量、親油性及び代謝に関してすべて異なり、これらの差異は、それらの薬物動態及び薬力学に重要な影響を及ぼす。
実際、前記物理化学的特性は、身体の様々な組織における浸透及び分布の速度及び程度、並びに組織、器官及び生体液における相対的バイオアベイラビリティを決定する。
【0010】
抗真菌トリアゾールであるフルコナゾールは、侵襲性アスペルギルス症に対して活性ではない。
イトラコナゾールは、標準的な抗真菌治療に対して不応答性又は不耐性である患者における侵襲性アスペルギルス症の処置のための全身使用が認可されている。
ポサコナゾールは、侵襲性アスペルギルス症の予防のためにFDAによって認可されている。
ボリコナゾールは、侵襲性アスペルギルス症の一次処置のためにFDAによって認可されており、現在、この疾患の治療の標準と考えられている;ボリコナゾールは、スルホブチルエーテルシクロデキストリン包接複合体の形態で経口錠剤又は静脈溶液に製剤化されている。
【0011】
肺感染症は気道で始まる。このため、気道感染症の予防又は処置に使用される抗真菌剤の場合、上皮被覆液(Epithelial Lining Fluid;ELF)及び肺胞マクロファージのレベルで高濃度を得ることが重要である。ボリコナゾールで処置された患者の肺組織のホモジネートに対して実施した死後研究は、血漿中で測定された濃度に匹敵するボリコナゾールの濃度を示した。
ボリコナゾールの静脈内負荷量、続いて1日2回200mgの経口量で処置された健常ボランティアは、ELF/血漿濃度比が11であった(Felton T., Troke PF., Hope WW. 2014. Tissue penetration of antifungal agents. Clin Microbiol Rev. 27(1): 68-88)。
移植を受けていない患者への経口投与後のボリコナゾールのバイオアベイラビリティは96%である。
代わりに、最初の負荷量、続いて12時間毎に4mg/kgの3回の用量によって得られる静脈内投与の場合、文献では、6~9の範囲で変化するELF/血漿濃度比、及び3.8~6.5の範囲で変化する肺胞マクロファージ/血漿濃度比が報告されている。
【0012】
イトラコナゾールの場合、これは健康なボランティアの血漿濃度の約1/3のELF暴露を示したが、肺胞細胞中の濃度は血漿濃度に対して2倍以上であった。
他の場合には、気管支肺胞洗浄及び気道の肺組織から得られた液体中のイトラコナゾール濃度は、血漿中で測定された濃度より10倍低かった。
4人の血液学的患者から得られた死後試料において、イトラコナゾールの平均肺組織/血漿濃度比は、0.9~7の範囲であると報告された。
したがって、報告された結果は、経口投与及び注射による投与の両方の後に、上皮液、肺胞マクロファージ及び組織自体を含む気道の種々の要素のレベルで、抗真菌作用を有する比較的高濃度のトリアゾール活性成分を得ることが可能であることを説得力をもって示している。しかしながら、高濃度によるこのプラスの効果は、他の重要な身体系の関与なくして達成されるものではない。
【0013】
第1に、より高い親油性を有する活性成分の延長された滞留時間、及び血漿中の濃度より遥かに高い濃度での様々な器官における蓄積の危険性が、正当に考慮されなければならない。
ボリコナゾールの場合、経口又は静脈内投与後、未変化のまま尿中に排泄される薬物が5%しかないので、その肝代謝が懸念される要素となる。ボリコナゾールは、非線形薬物動態プロファイル、投与される用量の増加に比例しない様式で増加する血漿最大濃度及び血漿曲線下面積(AUC)に関連付けられる。
ボリコナゾールは、シトクロムCYP2C19、CYP2C9及びCYP3A4の代謝基質及び阻害剤である。別の疾患のために異なる薬物で処置されている患者の場合、これらの薬物との潜在的な相互作用の非常に慎重な評価を行わなければならない。
【0014】
ボリコナゾールによる侵襲性アスペルギルス症の処置は、最初の24時間に、12時間毎に6mg/kgの初期負荷量を静脈内投与し、続いて12時間毎に4mg/kgを投薬する。これらの用量は、慣行的に経口で使用される用量(12時間毎に200mg)より高い。
小児患者の場合には、それらの加速した代謝及び迅速なクリアランスに起因して、ボリコナゾールの用量はさらに高くなり得る。
ボリコナゾールの想定される副作用のプロファイルには、一時的な視覚障害(光視症)、血清ビリルビン、アルカリホスファターゼ及び肝臓アミノトランスフェラーゼの増加を通して現れ、投与される用量に影響を及ぼし得る肝毒性;皮膚発疹、幻視及び他の副作用が含まれる。
【0015】
全ての前述の理由のために、吸入経路を用いるボリコナゾールによる処置は、もはや活性成分を身体全体に分布させる必要がないので、投与される用量を劇的に減少させて標的器官への投与を最適化することができることは明らかである。
特に、ボリコナゾールの物理化学的特性及びイトラコナゾールに関する親油性の程度は、活性成分が一旦肺内に直接投与されると、それは、上皮被覆液中及び肺組織のレベルの両方で、そして場合によりマクロファージのレベルでも、高濃度で分布させることができることを示唆する。この活性成分が、イトラコナゾールに関して、処置される様々な組織に蓄積する傾向がないという事実もまた、重要であると考えられなければならない。
【0016】
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)は、侵襲性疾患ではなく、むしろ、アスペルギルスに対する過敏性に特徴付けられる疾患である。治療指標は、侵襲性アスペルギルス症の治療指標とは大きく異なる。ABPAの治療目的は、急性増悪の予防及び処置、並びに患者において発症し得る線維症末期の予防に向けられる。全身性コルチコステロイドは、この治療のために選択される薬物である。最初に処方される用量は、0.5mg/kg/日のプレドニゾン(又は他の等価なコルチコステロイド)であり、症状が改善し始めた時点から、用量を漸減させ始める。
それほど重篤でない増悪は、コルチコステロイド及び吸入による気管支拡張薬の使用を通して管理することができる。
急性増悪の場合、推奨される治療サイクルは、1~2週間にわたる0.5~1.0mg/kg/日のプレドニゾンの用量と、続く、臨床的寛解後の6~12週間にわたる隔日での0.5mg/kgの用量と、増悪前の期間に当初に使用された用量への用量のさらなる低減とからなる。
【0017】
この管理戦略を考慮すると、喘息の増悪は、通常7.5mg/kg/日より高いコルチコステロイドの用量での慢性治療を必要とする。
ABPAは嚢胞性線維症患者において特に危険であり、該疾患は全嚢胞性線維症患者の10%に蔓延していることに留意しなければならない。
重篤な肺損傷が無症状の患者でも起こり得るという事実を考慮すると、血清IgEのレベルを定期的な間隔(1~2月毎)で注意深くモニターすることが重要である。呼吸機能の定期的なモニタリング及び胸部X線も推奨される。肺に浸潤、ムコイド、線維化、気管支喘息の悪化又は生理学的悪化の存在が見出された場合、コルチコステロイドによる治療の適応が推奨される。
これらの患者では、ステロイドと組み合わせて、1日2回200mgの経口量のイトラコナゾールを6ヶ月まで導入することが提案されており、コルチコステロイドの経口使用量の著しい減少を可能にする良好な結果が得られている。
【0018】
抗真菌薬の吸入投与は、この経路を用いると、最小の全身曝露で薬物の非常に高い局所濃度に到達することが理論的に可能であるので、非常に魅力的な選択肢であり、特に全身投与が著しい副作用を伴うこれらの薬剤のいくつかの場合に特に重要である。
組織又は器官における薬物及び病原体の共局在化は、実際、感染因子に対して治療的処置を有効にするための理想的な方法である。
感染部位に到達するために薬物の拡散を必要とする、薬物を投与する経口及び非経口方法とは異なり、吸入による薬物の投与は、抗感染薬を呼吸器系に直接運搬する。
その結果、吸入による投与は、それらの有効性を最大にし、全身毒性を制限することができる。
【0019】
吸入される抗感染薬の場合、それらが有効であることを可能にするために、投与は、気道の最も深い領域における感染部位で治療的濃度を得るために最適化されなければならない。
投与手技の違いにより、有効に投与される用量にかなりのばらつきが生じ得、100%を超えることさえある。
気道への抗菌剤の直接投与に関する2つの重要な態様は、エアロゾル化した粒子の特徴及びエアロゾル投与方法に関連している。抗菌製剤の物理的特性は、薬物の投与に対して著しい効果を有し得、並びに患者による忍容性に対して影響を及ぼし得る。
この理由のため、吸入投与のために特別に製剤化された抗感染治療はほとんどなく、場合によっては、注射可能な調製物がエアロゾルの形態でネブライザーを介して投与される。
【0020】
時には、これらの製剤はエアロゾル投与のために最適化されておらず、それらの投与を困難及び/又は有害にし、場合によっては副作用、例えば、咳及び気管支収縮を引き起こす物理的特性(すなわち、粒径分布、粘度、表面張力、浸透圧重量モル濃度、緊張度、pH)を有し得る。
一般に、エアロゾルを介して投与される液体製剤中の薬物は、150~1200mOsm/kgの浸透圧重量モル濃度、77~154mEq/Lの範囲のナトリウム含有量、及び2.6~10のpHを有するべきである。
製剤のこれらの特徴は、静脈内調製物においてさえ常に存在するわけではない。
さらに、いくつかの非経口調製物中に見出される保存剤(例えば、フェノール及び亜硫酸塩)は、咳及び気道の刺激、並びに気管支収縮を生じることに寄与し得る。
【0021】
気道及び肺胞における沈着についての主要な特性は、エアロゾルの粒子(又は液滴)の空気力学的直径である。
吸入用エアロゾルの粒子の空気力学的サイズ分布を特徴づける参照パラメーターは、MMAD、すなわち空気力学的質量メジアン径である。
異なるタイプのアスペルギルス症の処置のために経口及び静脈内投与されたトリアゾール抗真菌活性成分で見出された陽性臨床要素を考慮して、侵襲性アスペルギルス症及びABPAを含む様々な形態のアスペルギルス症の処置におけるボリコナゾールの吸入使用の可能性を考慮しなければならない。
【0022】
許容できなくなった有害な副作用に起因してボリコナゾールによる全身治療が中止された侵襲性アスペルギルス症の3つの異なる症例において、ネブライザーを用いて吸入により投与されるボリコナゾールの静脈内製剤について、有望な効果を有する予備研究が公開されている(Hilberg O., Andersen CU., Henning O., Lundby T., Mortensen J., Bendstrup E.; Remarkably efficient inhaled antifungal monotherapy for invasive pulmonary aspergillosis. Eur. Resp. J. 40 (1) 271-273)。
上述したように、静脈内投与に利用可能な生成物を変換することによって得られる吸入製剤の製造は、既に述べた理由のために、技術的に許容される経路ではない。
特に、シクロデキストリンにボリコナゾールを含有させてこの成分を水に可溶にすることは、規制の観点から認可されていない。
【0023】
このため、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)及び同属の真菌によって引き起こされる肺感染症の形態を効果的かつ安全に処置することができるトリアゾール抗真菌剤を含有する望ましい吸入製剤は、ボリコナゾールを含み、適切な空気力学的特性並びに十分な物理的及び化学的安定性を備えた吸入可能な粉体の調製により製造することができる。
当業者が直面しなければならない製剤の技術的困難性の確認として、トリアゾール抗真菌薬、特にボリコナゾールは、前世紀から知られている活性成分であり、その吸入による使用が1990年代に始まって提案されたことに言及すべきである。
【0024】
しかしながら、今日まで、市販されている、したがって適格な規制当局によって認可されている、前記活性成分を含む肺投与に適した薬物はまだ存在しない。
科学文献及び特許文献には、肺の真菌感染症の処置に潜在的に有用な抗真菌薬を含む吸入可能な粉体が記載されている。
US2019/0167579には、肺アスペルギルス症を処置するために使用することができる、アモルファス形態のイトラコナゾールを45~75%の量で含む乾燥粉体が記載されている。しかしながら、記載された粉体は、粉体の一般的にアモルファスな固体状態に起因して、特に高温及び高湿度の条件において、物理的及び化学的安定性の問題を有し得、これは、この粉体の性能及び安定性に経時的に影響を及ぼし得る。
【0025】
WO2018/071757には、サブ粒子の形態の結晶性抗真菌薬を含む吸入用の乾燥医薬組成物が記載されている。最終粉体製剤の粒子は、最初に抗真菌活性成分のナノ粒子の安定化懸濁液を調製し、続いてスプレードライ法を行うことによって生産される。この製剤は、パイロット規模から工業規模に移行することが困難な生産方法を有する。該国際特許出願の実験部分は、活性成分イトラコナゾールを含む乾燥粉体の開発を目的としていることに留意しなければならない。
【0026】
EP2788029B1には、アモルファス形態のトリアゾールを含有する吸入用医薬組成物が記載されている。これら組成物は活性成分の搭載量が低く、このことは、記載された物理的形態と共に、製剤を安定性の問題に曝し、同時に、いくつかの肺疾患における使用を制限する。さらに、いくつかの特定の賦形剤(例えば、ポリオール及び糖)が製剤中に存在し得、これは、活性成分の安定性を変化させ得る。該特許の実験部分は、活性成分イトラコナゾールを含む乾燥粉体の開発に専ら向けられていることに留意しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
上記の考察を考慮すると、安定であり、一般的な乾燥粉体吸入器で容易に投与することができ、同時に生産が容易なままである、トリアゾール、特にボリコナゾールを含む乾燥粉体形態の吸入用医薬組成物を製造することが有利であろう。
また、工業規模で適用可能な、ボリコナゾールを含む吸入用医薬組成物を製造するための方法であって、製造コストを最小限に抑える安定で送達可能な製品を提供する方法を得ることが望ましい。
現在の最新技術では、安定であり、一般的な乾燥粉体吸入器で投与することができ、高い送達性及び呼吸可能性の特徴を維持し、経済的観点から有利な方法で工業的に製造することができる、ボリコナゾールを含む薬物の吸入製剤を提供するという課題は、依然として解決されていないか、又は満足のいくようには解決されていない。
【課題を解決するための手段】
【0028】
したがって、本発明の第1の態様は、吸入可能な粉体であって、ボリコナゾール又はその薬学的に活性な塩を、実質的に結晶形態で、当該粉体の総量に対して50重量%以上の量で含む粉体の製造方法を提供することである。
【0029】
特に、本発明は、吸入可能な粉体を製造する方法であって、
前記粉体は、当該粉体の総量に対して50重量%以上の量の実質的に結晶形態であるボリコナゾール又はその薬学的に活性な塩と、ロイシンとを含み、
前記方法は、
a)適切なビヒクル中のボリコナゾール又はその薬学的に活性な塩及びロイシンの均質な溶液を準備するステップ;
b)前記粉体を、40~75℃の出口温度及び10g/分以上の供給速度でスプレードライするステップ;
c)前記粉体を収集するステップ
を含む方法に関する。
【0030】
本発明のさらなる態様は、上記の製造方法により得られる吸入可能な粉体である。
本発明によれば、「吸入可能な」という用語は、粉体が肺投与に適していることを意味する。吸入可能な粉体は、それを構成する活性成分の薬理学的特徴を発揮するために、構成粒子が肺に浸透して肺胞に到達することができるように、適切な吸入器によって分散及び吸入することができる。5.0μm以下の空気力学的直径を有する粒子は、通常は、吸入可能であると考えられる。
【0031】
本発明の一態様では、活性成分は、結晶形態で存在する;すなわち、ボリコナゾールは、特定の固体状態と、固定された幾何学的モデルに配置された構造単位の規則的な再配置とを有する。
本発明による「実質的に結晶性」という用語は、結晶性固体状態の活性成分であるボリコナゾールの割合が、粉体中のボリコナゾール総量に対して51~100%、好ましくは70~100%、さらにより好ましくは90~100%の範囲であることを意味する。
【0032】
好ましくは、本発明による方法により得られる粉体は、40%以上、好ましくは50%以上の微粒子画分(FPF)を有する。
「微粒子画分(FPF)」という用語は、吸入器によって送達される粉体の総量に対する、5.0m以下の空気力学的直径(aed)を有する粉体の割合を意味する。「送達画分(DF)」という用語は、装填された活性成分総量に対する送達された活性成分の割合を意味する。粉体の特性を評価するために実施される性質決定試験は、欧州薬局方の現行版に記載されている次世代インパクター(NGI)試験である。本発明によれば、この試験を実施するための条件は、60±2リットル/分のフローを発生するように、吸入器を通して粉体を吸引することにある。吸入器モデルRS01(Plastiape, Osnago IT)の場合のこのフローは、システム内に2Kpaの圧力降下を発生させることにより得られる。
【0033】
本発明によれば、ボリコナゾールの薬学的に活性な塩は、例えば、酢酸塩、硫酸塩、クエン酸塩、ギ酸塩、メシル酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、乳酸塩、バリン酸塩などである。
安定で薬学的に活性な吸入用粉体を得るために、ボリコナゾール又はその薬学的に活性な塩は、好ましくは、当該粉体の総量に対して50~85重量%の量で存在する。
さらにより好ましくは、ボリコナゾール又はその薬学的に活性な塩は、粉体の総量に対して70重量%に等しい量で存在する。
【0034】
この粉体の好ましい粒径では、肺深部沈着を最適化する表面積を増加させるために、サイズ分布の少なくとも90%(X90)が10μm以下、好ましくは7μm以下である。
さらにより好ましい実施形態では、サイズ分布の少なくとも90%(X90)が4.5~7μmである。
本発明によれば、記載される方法で得られる粉体は、送達される粒子の空気力学的質量メジアン径(MMAD)が5μm以下、好ましくは3~4.5μmである。
さらにより好ましい実施形態では、本発明による粉体は、送達される粒子の空気力学的メジアン径(MMAD)が3.5~4.5μmである。
【0035】
好ましくは、前記ロイシンは、粉体の総量に対して10重量%以上の量で、さらにより好ましくは粉体の総量に対して14~49重量%の量で、さらにより好ましくは粉体の総量に対して25~35重量%の量で存在する。
ロイシンは、好ましくは非アモルファス形態であり、より好ましくは結晶形態である。
【0036】
本明細書に記載の方法に従って得られる粉体は、実質的に乾燥粉体、すなわち、10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは3%未満の水分含量を有する粉体である。この乾燥粉体は、好ましくは、活性成分を加水分解して不活化するのに十分な量の水を含まない。組成物中に存在する湿気の量は、ロイシンの存在によって制御され、ロイシンは、その疎水特性のおかげで、粉体の生産期及びその後の取り扱い期の両方においてその水分含量を制限する。
【0037】
好ましくは、本発明による方法の前記ステップa)において、界面活性剤が、好ましくは溶液中に存在する。
好ましくは、前記界面活性剤は、各粉体の量に対して0.2~2.0重量%の量で、好ましくは各粉体の量に対して0.4~1.2重量%の量で、さらにより好ましくは1%で存在する。
本発明による医薬組成物の界面活性剤は、医薬用途のための様々なクラスの界面活性剤から選択することができる。
【0038】
本発明において使用することができる界面活性剤は、一般に有機溶媒に易溶性であるが、水に難溶性又は不溶性である疎水性部分と、有機溶媒に難溶性又は不溶性であるが、水に易溶性である親水性(又は極性)部分とを含有する、中分子量又は低分子量によって特徴付けられる全ての物質である。界面活性剤は、それらの極性部分に従って分類される;したがって、負に荷電した極性部分を有する界面活性剤は、アニオン性界面活性剤として定義されるが、カチオン性界面活性剤は、正に荷電した極性部分を含有する。電荷を有さない界面活性剤は、一般に、非イオン性と定義され、一方、正に荷電した基及び負に荷電した基の両方を含有する界面活性剤は、双性イオン性と呼ばれる。脂肪酸の塩(石鹸としてよく知られている)、硫酸塩、硫酸エーテル及び硫酸エステルは、アニオン性界面活性剤の例を代表する。カチオン性界面活性剤は、アミノ基を含有する極性基に基づいていることが多い。最も一般的な非イオン性界面活性剤は、オリゴ-(エチレン-オキシド)基を含有する極性基に基づいている。双性イオン性界面活性剤は、一般に、四級アミンと硫酸又はカルボキシル基とからなる極性基によって特徴付けられている。
【0039】
この用途の具体例としては、以下の界面活性剤が代表的である:ベンザルコニウムクロライド、セトリミド、ドクサートナトリウム、グリセリルモノオレエート、ソルビタンエステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート、リン脂質、胆汁酸塩。
非イオン性界面活性剤、例えば、ポリソルベート並びに「ポロクサマー」として知られるポリオキシエチレン及びポリオキシプロピレンブロックコポリマーが好ましい。ポリソルベートは、CTFA International Cosmetic Ingredient Dictionaryにおいて、ソルビトールと、エチレンオキシドと縮合した無水ソルビトール脂肪酸エステルとの混合物として記載されている。特に好ましいのは、「Tween」として知られるシリーズの非イオン性界面活性剤、特に「Tween 80」として知られる界面活性剤、市場で入手可能なポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートである。
界面活性剤の存在は、それを含まない製剤に見られる静電荷の低減、粉体のフロー、及び初期結晶化を伴わない均質な固体状態の維持を確実にするために有用である。
【0040】
本発明によれば、製造方法のステップa)による前記溶液において、1又は2以上の賦形剤、特に吸入投与に適した賦形剤が、この溶液に使用されるビヒクル中に有利に存在することもできる。
これらの賦形剤は、好ましくは糖、例えばラクトース、マンニトール、スクロース、トレハロース、マルトデキストリン及びシクロデキストリン;脂肪酸;脂肪酸のエステル;脂質、好ましくはリン脂質、例えば天然及び合成のスフィンゴリン脂質及び天然及び合成のグリセロリン脂質、例えばジアシルリン脂質、アルキルアシルリン脂質及びアルケニルアシルリン脂質;アミノ酸;及びペプチド、例えばジロイシン及びトリロイシン又は疎水性タンパク質である。
【0041】
本発明によれば、第1のステップa)においてボリコナゾール又はその薬学的に活性な塩とロイシンとが溶解したビヒクルは、活性成分及び賦形剤が可溶性である任意の溶媒、例えば、有機溶媒、水性溶媒及び/又はそれらの混合物等である。
好ましくは、本発明によるビヒクルは、水とアルコールとの混合物からなる。
さらにより好ましくは、ビヒクルは、水とアルコールとの混合物であり、前記アルコールは、有利には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-メチル-1-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、1-ペンタノール等からなる群から、単独で又は混合物で選択される。
好ましくは、アルコールは、水と70/30~30/70v/vの比にあり、さらにより好ましくは60/40v/vの比にある。
好ましくは、アルコールはエチルアルコールであり、したがって、好ましいビヒクルは水とエチルアルコールという水とアルコールとの混合物である。
【0042】
周知のように、スプレードライは、適切な溶媒又は混合溶媒中の活性成分及び賦形剤の溶液から、均一で実質的にアモルファスな粒子を有する粉体を得ることを可能にする技術である。
この技術は、以下に示す一連の操作:
- 活性成分及び任意の賦形剤が適切な液体媒体中に溶解又は分散されている第1の相を調製すること;
- 前記相を制御された条件下で乾燥させて、10.0μm未満の平均直径を有するサイズ分布を有する粒子を含む乾燥粉体を得ること;
- 前記乾燥粉体を収集すること
からなる。
【0043】
第1の相は、水性又は非水性の液体媒体中の活性成分の懸濁液か、又は適切な溶媒中の活性成分の溶液のいずれかであり得る。
溶液の調製物が好ましく、有機溶媒は、水と混和性のものから選択される。
乾燥操作は、液体媒体、溶媒又は分散剤を除去して、所望のサイズ特性を有する乾燥粉体を得ることにある。ノズルの特徴及びプロセスパラメータは、液体媒体が溶液又は懸濁液から蒸発し、所望の粒径を有する粉体が形成されるように選択される。
【0044】
本発明の好ましい態様では、製造方法のステップa)は、有利には、3つの別のサブステップ:
a1)ロイシン、任意に含まれてもよい界面活性剤及び任意に含まれてもよい可溶性賦形剤の水溶液を準備することと;
a2)適切な有機溶媒中のボリコナゾールの溶液を準備することと;
a3)サブステップa1に示された溶液をサブステップa2に示された溶液と混合することと
からなる。
このようにして、ボリコナゾール、ロイシン及び任意の他の含まれていてもいなくても成分の安定かつ均質な溶液が調製され、スプレードライ法によって容易に乾燥させることができるように沈殿物の形成が回避される。
【0045】
本発明による所望の特徴を有する粉体を得るために、スプレードライヤの供給速度は、10g/分以上、好ましくは15g/分以上、さらにより好ましくは20g/分以上でなければならない。このようにして、上記のスプレードライ法で通常生じるものとは対照的に、実質的に結晶形態でボリコナゾール及びロイシンを含む粉体が得られる。
本発明による所望の特徴を有する粉体を得るために操作することが可能な最大供給速度は、使用されるスプレードライヤのタイプ、すなわち工業規模又はパイロット規模のスプレードライヤによって決定される。したがって、最大供給速度は現在200g/分であるが、より大きな機械が使用される場合には制限はない。
【0046】
好ましい実施形態では、スプレーの供給速度は、90~200g/分の範囲にある。
さらにより好ましい実施形態では、供給速度は140~180g/分の範囲にある。
上記と同じ理由で、出口温度は40~75℃、好ましくは50~70℃であるべきである。
さらにより好ましい実施形態では、出口温度は55~70℃の範囲である。
本発明による出口温度という用語は、乾燥チャンバから出た後でありサイクロン分離器に入る前の既に乾燥された生成物の温度を意味する。
本発明による入口温度という用語は、溶液がスプレードライヤのノズルから出るときに溶液が遭遇する温度を意味する。
本発明によれば、入口温度は、80~140℃、好ましくは90~120℃である。
【0047】
上記で既に詳細に記載したように、実験室で使用される規模より大規模、例えばパイロット規模及び工業規模で実施される製造方法を用いてボリコナゾールを含有する粉体形態の吸入製剤を得るためには、医薬性能の本質的な態様、例えば、可能な最大量の薬物を肺深部領域に送達するための空気力学的性能だけでなく、製品の品質及び効率的な工業製造の態様も組み合わせることによって、粉体に異なる特定の特徴を与えることが必須である。このため、理想的な製造は、以下:
- 単回投与で高用量を投与する可能性;
- 粒子の空気力学的サイズの低減;
- 製剤の化学的及び物理的安定性;
- 収率の点で高効率な生産プロセス
によって同時に特徴付けられるべきである。
【0048】
選択された活性成分であるボリコナゾールの場合のように、吸入による高用量の投与に関して、これは、200mg/用量以上の用量で経口又は非経口投与されることが慣例であるという事実に起因して、妥当であると考えられなければならない。粉体形態での吸入投与の場合、用量は、顕著に低く、約10~40mg/用量であり、これは、いずれの場合も、吸入投与経路に対して比較的高い用量を表す。
【0049】
粉体形態での吸入による高用量の投与の可能性に関して、これは、大量の粉体の吸入が患者の咳嗽反射を刺激することを防止するために、少なくとも50重量%の割合の活性成分をその中に導入するように管理することによって潜在的に達成することができる。スプレードライ製造技術は、一般的に、適切な量の活性成分及び粒子分離を容易にするか又は低密度構造の形成を促進する機能を果たす賦形剤を組み合わせた操作された粉体粒子を生産することを可能にする。これらの促進効果は、粉体の組成物に添加することができる賦形剤の割合との関係で明らかにより良好である。水性溶媒中での低い溶解度に特徴付けられるボリコナゾールのような活性成分の場合、最初に、それは、スプレードライによって異なる賦形剤と均質な粒子を形成せず、均質な構造ではこれらと一緒にならない高い傾向を有し、所望のように組成物中のボリコナゾール含有量が高ければなおさらである。したがって、得られた粉体は、初期成分の溶液に関して組成が完全には均質でない粒子の分布によって特徴付けることができた。しかしながら、期待する最終結果は、初期溶液及び導入された賦形剤に対する活性成分の含有量に関して均質な粉体である。この考えられる、単一の粉体粒子の均質性の欠如の原因は、スプレードライプロセス中に粒子又は結晶構造を形成する活性成分ボリコナゾールの傾向に見出される。しかしながら、粉体の最終的な均質性を確保するためには、この均質性に有利に働くプロセス条件を使用する必要がある。より具体的には、高すぎる乾燥温度を伴う条件は、異なる成分の混合物の場合、プロセス中にこれらの成分が多様ぶ乾燥し得ることが見出された。
【0050】
粉体粒子の空気力学的サイズに関して、例えば、患者に投与される用量の50%以上の呼吸可能性を確実にするため、スプレードライ生産技術は、気流、例えば、吸入の間に粉体吸入器によって発生する気流に晒されると容易に分散可能な粉体の粒子の形成を確実にすることができる賦形剤と一緒になった、多量のボリコナゾールからなる空気力学的に微細な粒子(5.0μm以下の空気力学的質量メジアン径(MMAD))の設計を可能にする。
この製剤アプローチは、ボリコナゾールを含有する製剤の場合、異なる吸入粉体について文献に報告されている他の場合とは異なり、製剤中に特に高い割合の賦形剤を使用する必要がなく、組成物中に50%以上の量のボリコナゾールを含有させることを可能にする。
【0051】
粉体の化学的及び物理的安定性に関して、25℃の温度条件で24ヶ月間安定でなければならない。
その結果、化学的及び物理的に安定な吸入可能な粉体の製造は、使用される活性成分の安定性の必要性と、肺深部への送達に関して十分なエアロゾル性能を確実にする必要性とを調和させなければならない。
化学的及び物理的安定性を得るための理想的なアプローチは、吸入によって投与することができ、肺上皮に対して高レベルの局所忍容性を有する、多量のこの活性成分を医薬賦形剤と組み合わせて含有するボリコナゾールの乾燥粉体の製造によって代表される。ボリコナゾールと同様に、スプレードライのために、賦形剤は、プロセス中に優先的に結晶性の固体状態となることができなければならない。スプレードライ後に成分の大部分を結晶形態で得ることができる吸入可能な粉体の形成は、高温及び高湿度の条件においてもその長期の物理的及び化学的安定性を保証することができる。得られた粉体は、ボリコナゾールと賦形剤とから形成された粒子を含むことができ、各単一粒子は、スプレードライプロセスに供された組成物に相当する組成物を有する。最終粉体は、全組成がスプレードライプロセスに供されるボリコナゾール及び賦形剤の割合を反映しているが、個々には互いに異なる組成を有する粒子から形成されることも許容される。
【0052】
本方法の生産収率に関して、これは、高い呼吸可能性を伴う吸入によって投与することができるが、特に効率的ではない生産方法によって得られるボリコナゾールを含有する粒子を生産することが理論的に可能であるので、過小評価することはできない。これは、疑いもなく、実験室で使用するためのスプレードライ機器の場合である。6時間で生産される少なくとも50gの粉体の粉体のスプレードライプロセスの収率は、パイロット又は工業生産プロセスの基準目標であるべきである。これらの生産率は、単位時間に大量の溶液をスプレードライすることによってのみ達成することができる。単に指標として、効率的な生産プロセスは、1分当たり少なくとも20グラムの溶液を処理することができるはずである。
【実施例
【0053】
本発明をより良く説明するために、いくつかの実施例を以下に示す。

実施例
本発明による実質的に結晶形態のボリコナゾールを含む吸入可能な粉体を製造する方法のいくつかの例を以下に記載する。
【0054】
粉体の製造
上記のように、活性成分を含有する粉体をスプレードライによって得た。
記載された製剤について、使用した溶媒は、54/45(p/p)の固定比の水及びエチルアルコールであった。溶解した固体の濃度は1%p/vであった。
粉体の製造のために、2つの溶液を調製した:溶液中に賦形剤ロイシン及び界面活性剤を含有する水溶液、並びに活性成分ボリコナゾールを含有するアルコール溶液。次いで、いずれの成分も沈殿しないように注意しながら、水性部分をアルコール溶液に室温でゆっくりと添加して、単一の透明な含水アルコール溶液を得た。
【0055】
このようにして得られた含水アルコール溶液を以下の手段によって加工処理した:
・GEA NIRO PSD1スプレードライヤー、閉サイクルを使用し、以下のプロセスパラメータを設定する:
- 5mmの直径を有するガス出口ノズルカップを備える、溶液送達のための0.5mmの直径を有する二流体ノズル
- 噴霧ガス:窒素
- 噴霧圧力:3バール
- 乾燥ガス:窒素
- 乾燥ガス流量:80kg/h
- 入口温度:90~120℃
- 供給速度:20g/分
粉体回収システム:サイクロン分離器
出口フィルタシステム:テフロン膜フィルター。
【0056】
・GEA NIRO PSD2スプレードライヤー、閉サイクルを使用し、以下のプロセスパラメータを設定する:
- 5mmの直径を有するガス出口ノズルカップを備える、溶液送達のための0.5mmの直径を有する二流体ノズル
- 噴霧ガス:窒素
- 噴霧圧力:4バール
- 乾燥ガス:窒素
- 乾燥ガス流量:360kg/h
- 入口温度:98~103℃
- 供給速度:100~120g/分
粉末回収システム:サイクロン分離器
出口フィルタシステム:テフロン膜フィルター。
【0057】
乾燥プロセスの終時に、粉体を製造直後にポリエチレンバッグに包装し、次にヒートシールしたアルミニウムバッグ中に貯蔵した。
【0058】
粉体の性質決定:粒径分析
得られた粉体を、粒径を分析することができ、粉体分析のためのRODOS/L分散ユニットを備え、試料の自動装填のためのASPIROS/Lシステムを伴うSympatec HELOS/BRレーザー回折装置を使用して、乾燥粒径に関して性質決定した。
機器を参照試料で較正し、機器のユーザーマニュアルに定められた指示に従って準備した。
【0059】
分析手順:
生成物をAspiros用の特定の試料ホルダー(バイアル)にサンプリングし、分析した。
使用した分散ガスは、粒子が適切に除去された圧縮空気であった。
粒径分布分析に使用した方法は以下の通りである。
- 分析機器:Sympatec HELOS/BRレーザー光回折装置
- レンズ:R1(0.1~35μm)
- 試料分散系:RODOS/L
- 試料供給システム:ASP RIOS/L
- 分散圧力:3バール、真空圧力の自動調整あり。
- 信号積分時間:10.0s
- 参照測定の期間:10s
- 1.5%~50%のチャネル20の濃度範囲で有効な測定
- ソフトウェアバージョン:PAQXSOS 3.1.1
- 計算方法:FREE
【0060】
全ての分析は、室温及び室内湿度で実施した。
サイズ分析は、それぞれ、粉体サンプル中の粒子集団の10%の直径値(X10)、粒子集団の50%の直径値(X50)、粒子集団の90%の直径値(X90)、及び粒子集団の体積メジアン径(VMD)で返す。
【0061】
粉体の性質決定:力価及び関連物質の決定
HPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析法を使用して、活性成分(力価)及び関連物質の含有量を決定した。
使用される分析法は、以下のパラメータによって特徴付けられる。
溶媒:70/30メタノール/水
移動相:メタノール/リン酸緩衝液pH7.5 10mM
勾配溶出
【表1】
流量:1ml/分
注入量:2μl
分析カラム:Agilent Poroshell 120 EC-C18、100mm×4.6mm、2.7μm
カラム温度:45℃
波長:254nm
保持時間:1.8分
【0062】
モデルG1315Cダイオードアレイ型検出器を備えたモデル1200 HPLC Agilentを分析に使用した。
活性成分の含有量の分析のための試料は、参照溶液のように、50μg/ml~90μg/mlの濃度のボリコナゾールを得るような量の粉体を溶媒に溶解することによって得た。
不純物の分析のための試料は、500μg/ml~900μg/mlの濃度のボリコナゾールを得るような量の粉体を溶媒に溶解することによって得た。
2%以下でなければならない相対標準偏差率(RSD%)として表されるシステムの精度を決定するために、参照溶液を試料の前に3回連続して注入した。
活性成分含有量は、既知濃度の参照溶液に対する面積の比を計算することによって得られる。生成物の分解は、各応答因子について補正された、分解生成物に対応する分析ピークの総面積と試料中に存在する活性物質の面積との比として計算される。活性物質の面積に対して0.1%以上の面積を有する全ての分析ピークを、分解生成物の合計に含めた。
【0063】
粉体の性質決定:NGI(次世代インパクター)を用いた呼吸可能性試験
次世代インパクター(NGI)は、エアロゾルの形態で空気中に分散された粉体粒子の空気力学的直径を測定するために使用される、薬局方(EP;USP)に記載されている粉体インパクターである。適切な吸入器によって分注され、吸引によって機器内に運ばれる吸入製剤は、粒径、密度及び形態に依存する空気力学的特性に従って、連続して配置されたインパクターの様々な段階で堆積する。NGIの各段階は、存在する活性成分のHPLC定量分析によって決定される、その中に堆積した粉体の空気力学的粒径の範囲に対応する。各段階における活性成分の定量を通して、粉体の空気力学的サイズ分布が得られ、空気力学的メジアン径及び呼吸可能画分(<5.0μmの空気力学的直径を有する画分として欧州薬局方によって定義される)を計算することができる。
呼吸可能性試験のために、実施例の製剤の粉体をサイズ3HPMCカプセルに分割し、モデル7単回投与RS01粉体吸入器、コード239700001AB(Aerolizer-Plastiape S.p.A.)により分注した。
取扱説明書に従い、欧州薬局方の指示に従って機器を組み立てた。
試験を実施するために、各呼吸可能性試験に対して単一の粉体カプセルの送達で十分である。試験は、システムの圧力降下は2KPaに由来する60 lpmの流量で4秒間実施した。
【0064】
以下の空気力学的直径カットオフは、NGIの各段階についてのこの流量に対応する。
- 段階1:>8.06μm
- 段階2:8.06μm~4.46μm
- 段階3:4.46μm~2.82μm
- 段階4:2,82μm~1.66μm
- 段階5:1.66μm~0.94μm
- 段階6:0.94μm~0.55μm
- 段階7:0.55μm~0.34μm
- 段階8(MOC):<0.34μm
呼吸可能な画分(微粒子画分)は、5.0μm以下の空気力学的メジアン径を有する粒子によって特徴付けられる、送達された用量に対して計算された薬物の量であり、特定の認証ソフトウェア(CITDAS Copley)を用いて計算される。
【0065】
NGI分析に供した吸入製剤の空気力学的パラメータは、以下で表される:
- 送達画分(DF):すなわち、装填された用量に対する、吸入器のマウスピースから送達された活性剤の用量の割合。
- 微粒子用量(FPD):空気力学的直径<5.0μmで特徴付けられる、活性成分の理論的に呼吸可能な画分。
- 微粒子画分(FPF):送達された量の割合として表される活性剤の理論的に呼吸可能な画分(空気力学的直径<5.0μm)。
- 空気力学的質量メジアン径(MMAD):送達された粒子の空気力学的メジアン径。
【0066】
各段階における活性剤の定量決定は、力価及び関連物質の試験方法を用い、HPLCによって実施し、唯一の違いは溶媒レベルであり、NGI試験試料の回収段階中のその蒸発によって引き起こされる分析誤差を最小限に抑える目的で内部標準(テストステロン)を添加した。力価及び関連物質の分析法とは異なり、新しい溶媒では、テストステロンは、70/30メタノール/水溶液中約10μg/mlの濃度で添加される。
ボリコナゾール含有量は、試料中のテストステロン(保持時間2.6分)の面積に対する活性成分の面積の比から、既知濃度の参照溶液中の同比を基準として計算される。
【0067】
粉体の性質決定:X線回折法による固体状態の決定及び結晶化度の割合の計算
X線回折測定
X線回折測定を実施して粉体の固体状態を決定した。
結晶は、その構造に特徴的な様式でX線を回折する。このため、X線回折法は、試料の成分の結晶性固体状態又はアモルファスな固体状態の決定を可能にする。
使用した機器は、LYNXEYE検出器、測定ソフトウェアDIFFRAC.MEASUREMENT CENTER.V7を備えたBruker AXS D2-Phaserである。
粉体試料を、セパレータ、モデルA100B139(鋼気密試料ホルダー)を備えたドームを有するシリコン試料ホルダー上に均一な層で配置した。
【0068】
選択した分析法では、以下の機器構成を用いた。
- ソース:銅
- 発散スリット:0.2mm
- ソラースリット:4°
以下の走査パラメータを使用した:
- 角度範囲:4~50°2θ
- ステップサイズ:0.03°
- 各角度での滞留時間:1s
- 検出器開口:4mm
- 試料の回転なし。
【0069】
結晶化度割合の計算
成分の結晶性は、文献中に見出される参照構造及び結晶性原料の試料との比較によって測定した。
Bruker AXS DIFFRAC.TOPAS.V6ソフトウェアを使用して、ディフラクトグラムを分析した。ディフラクトグラムをソフトウェアにロードし、ボリコナゾール及びロイシンのSTR形式の参照構造をそれらに関連付け、両方ともCrystallography Open Databaseウェブサイト上のオンラインCIFファイル(それぞれ2212055及び2108011)から、以下の変更を加えて作成した:
- セルパラメータの改良
- ロイシンに対しては0.01、ボリコナゾールに対しては0.02の優先方位。
【0070】
以下のパラメーターをディフラクトグラム分析のために選択した:
- バックグラウンド:チェビシェフ(Chebyshev)補正及び1/XBkgを有する次数3のアルゴリズム。
- ピークシフト:試料の変位補正
- 試料コンボリューション(Convolution):固定試料厚さ0.5mmによる吸収補正
アモルファスな成分の尺度としてピーク相を加えた。19°2Thでのピークと21°2Thでのピークとの間の最小点を、各ディフラクトグラムについてグラフ上で選択した。
【0071】
これはアモルファス成分の基準であるので、結晶子サイズLは1として示唆され、微調整の可能性を残したが、ピークの位置及び面積のパラメータには固定設定を与えた。次いで、この相を、試料の結晶化度の計算のためにアモルファスとして同定した。
フィッティングは常にソフトウェアの計算限界まで行われ、Rwp値が15を超えない範囲で受け入れられた。
【0072】
以下の表は、本発明による製造方法を用いて、ボリコナゾールを高濃度で含有し、呼吸可能性の高い粉体がどのように得られるかを実証するために、上に示した仕様に従って実施した一連の実施例を示す。
特に、表1及び表2は、実施例が実施されたプロセス条件を示し、一方、表3及び表4は、本発明による方法で得られた粉体の特徴を示す。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
実施例1~3
実施例1、2及び3は、活性成分としてボリコナゾールを含有し、同じ割合の組成を有する製剤であって、NIRO PSD1スプレードライヤを用いて、異なる乾燥温度で、上記のような成分の含水アルコール溶液をスプレードライすることによって得られた製剤を報告している。
実施例は、得られた粒径と、その空気力学的特徴と、活性成分の力価によって決定される粉体の化学的均質性との観点から最適な特徴を有するスプレードライしたボリコナゾールの製剤を得るために、乾燥温度(入口温度)と乾燥させる溶液の供給速度との組合せの影響の結果である出口温度(乾燥チャンバから出る生成物の温度)として意図されるプロセス温度の重要性を強調する。
【0078】
実施例1は、高温で行われたプロセスが、サイズ分布の90%に対応する直径が13μmである大きな粒子によって特徴付けられる粉体をどのようにもたらしたかを強調しており、その約30%のみが呼吸可能である(FPF30.5%)。実際に、高温では、単独成分の乾燥が異なる時間に起こり、不均質な粉体をもたらし、その中には、収集サイクロン中に蓄積する傾向がある活性成分の粒子のみか、又はそうではなく収集フィルター中に蓄積する傾向がある賦形剤(ロイシン)の粒子のみが存在し、その結果、サイクロンによって蓄積された粉体は活性成分に富む(力価109%)。
【0079】
44℃の出口温度に対応する、90℃への入口温度の低減は、沈殿する傾向が最も高い成分の乾燥速度の低減を可能にし、その結果、成分の乾燥が同時に起こり、活性成分が均一に分布している(力価102.9%)呼吸可能性が高い(FPF73.4%)微粒子(X90=5.4μm)の形成を可能にする。物理的、空気力学的及び化学的特性の改善は、プロセス温度に反比例する。(実施例1~3)。
粉体の収率は、サイクロン中に収集された粉体を評価することによって計算される。
【0080】
実施例4
実施例4は、活性成分が実施例2~3に対してより少量で存在するスプレードライボリコナゾールの製剤を報告する。
また、この場合、低いプロセス温度は、呼吸可能性が高く(FPF>75%)活性成分力価が104.2%である微粒子(X90=4.3μm)によって特徴付けられる製剤をもたらす。
【0081】
実施例5~6
実施例5~6は、活性成分が実施例2~3に対してより多量に存在するスプレードライボリコナゾールの製剤を報告する。
この場合にも、したがって再び製剤の組成を変化させても、得られる生成物の特徴に対する温度の影響はいずれの場合にも明らかである。実際に、この場合も、高温では、低温で得られた対応する製剤に対して、より大きい粒径に特徴付けられる生成物が得られる(X90 6.9μm対4.6μm)。同様に、低温で得られた製剤の空気力学的特徴もより高い(FPF72.3%対56.3%)。
【0082】
実施例7~20
実施例7~20は、実施例2~3と同様の組成物(70%ボリコナゾール)から出発したが、PSD2-工業規模のスプレードライヤで操作して得た。このタイプのスプレードライヤについても、低いプロセス温度を適用する条件を設定した。生成物の出口温度44~75℃を得るように、100~180g/分の供給速度では入口温度82~130℃。
特に、実施例7及び8は、44℃の生成物の出口温度を得るように、それぞれ82℃及び83℃の入口温度、120g/分の供給速度を有する。
実施例9は、52℃の生成物の出口温度を得るように、82及び83℃の入口温度、120g/分の供給速度を有する。
【0083】
実施例10~17は、60℃の生成物の出口温度を得るように、98~126℃の入口温度、100~180g/分の供給速度を有する。
実施例18~20は、75℃の生成物の出口温度を得るように、116~124℃の入口温度、100~120g/分の供給速度を有する。
これらのプロセス条件を用いて、5~7.9μmの範囲のX90値、及び40,5%~58,9%の範囲の呼吸可能性を有するスプレードライボリコナゾール粉体を得ることが可能であり、後者は、より低い供給速度(100g/分)で得られた粉体についてのものである(実施例10)。
特に、実施例10~17の粉体、すなわち、60℃の出口温度で得られた粉体は、好ましい値の範囲内のサイズ分布(X90)、粒子の空気力学的サイズ分布(MMAD)、及び呼吸可能性を示し、高い収率を伴う。
【0084】
これらの実施例は、使用される機器のサイズ及び規模にかかわらず、活性成分含有量に関して呼吸可能であり且つ均質な微細なスプレードライボリコナゾール粉体を得るために、低いプロセス温度を維持することがいかに重要であるかを示す。
これらの実施例はまた、本発明による方法が、本発明のボリコナゾール粉体の物性及び空気力学的性能を損なわないプロセスの効率的な工業的規模拡大をどのように可能にしたかを示す。
【0085】
実施例21
実施例21は、本発明に記載の方法を用いて得られた粉体の化学的及び物理的安定性を評価するために実施した。特に、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月及び24ヶ月での安定性を評価した。
上記の実施例2に記載のようにして得られた一連の粉体を分割し、密封アルミニウムバッグに包装し、25℃及び相対湿度(RH)60%の条件で貯蔵した。
各時間間隔で試料を採取し、室温で平衡化させ、開封し、分析して、ボリコナゾール含有量、総不純物、並びに粉体の呼吸可能性に関するいくつかのパラメータ、例えば、X50(μm)、X90(μm)、FPF(%)及びMMAD(μm)を評価した。
【0086】
以下の表5に、上記説明による安定性データを示す。
【表6】
【国際調査報告】