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特表2023-553958硬質銀層の堆積のための銀-ビスマス電解液
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  • 特表-硬質銀層の堆積のための銀-ビスマス電解液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-26
(54)【発明の名称】硬質銀層の堆積のための銀-ビスマス電解液
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/64 20060101AFI20231219BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20231219BHJP
   C25D 5/10 20060101ALI20231219BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C25D3/64
C25D7/00 H
C25D5/10
C25D5/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535548
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(85)【翻訳文提出日】2023-06-09
(86)【国際出願番号】 EP2021085127
(87)【国際公開番号】W WO2022122989
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】102020133188.6
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513151152
【氏名又は名称】ウミコレ・ガルファノテフニック・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サッシャ・ベルガー
(72)【発明者】
【氏名】クラウス・ブロンダー
(72)【発明者】
【氏名】クラウディア・ブルム
(72)【発明者】
【氏名】ベルント・ワイミュラー
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ・マンツ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・マイヤー
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
【Fターム(参考)】
4K023AB04
4K023AB40
4K023BA26
4K023CB03
4K023CB09
4K023CB11
4K023CB21
4K023CB33
4K023DA04
4K023DA07
4K023DA08
4K024AA03
4K024AA24
4K024AB01
4K024AB02
4K024BA01
4K024BA09
4K024BB10
4K024BB11
4K024BB20
4K024CA02
4K024CA03
4K024CA06
4K024DA02
4K024DA04
4K024GA03
4K024GA04
(57)【要約】
本発明は、元素ビスマスが銀と合金化されている、硬質銀層の堆積のための電解液に関する。本発明はまた、本発明の電解液から対応する銀-ビスマス合金を堆積させる方法、及び対応して堆積された層に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材上への銀-ビスマス合金の電解析出のための水性電解液であって、以下の特徴:
- 金属に基づいて0.5~200g/lの銀化合物又は銀を含む可溶性陽極;
- 金属に基づいて0.1~50g/lの可溶性ビスマス化合物;
- 5~200g/lの可溶性シアン化物、特にシアン化カリウム;
- 0.05~2mol/lの可溶性ジ-、トリ-又はテトラカルボン酸;
- >0~5g/lの、ケトン又はジチオカルバメートと二硫化炭素との反応生成物である可溶性光沢剤A;
- >0~5g/lの、アリールスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合生成物の群から選択される更なる可溶性光沢剤B;
- 1~1000mg/lの可溶性湿潤剤;及び
- 10~14のpH、
を有する、電解液。
【請求項2】
前記銀化合物が、メタンスルホン酸銀、炭酸銀、リン酸銀、ピロリン酸銀、硝酸銀、酸化銀、乳酸銀、フッ化銀、臭化銀、塩化銀、ヨウ化銀、チオシアン酸銀、チオ硫酸銀、ヒダントイン銀、硫酸銀、シアン化銀、及びアルカリシアン化銀(alkali silver cyanide)から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記ビスマス化合物が、酸化ビスマス(III)、水酸化ビスマス(III)、フッ化ビスマス(III)、塩化ビスマス(III)、臭化ビスマス(III)、ヨウ化ビスマス(III)、メタンスルホン酸ビスマス(III)、硝酸ビスマス(III)、酒石酸ビスマス(III)、クエン酸ビスマス(III)から選択され、特にクエン酸ビスマスアンモニウムであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の電解液。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の電解液から銀及び銀合金コーティングを電解析出させる方法であって、導電性基材を前記電解液中に浸漬し、電解液と接触している陽極と陰極としての基材との間に電流を確立することを特徴とする、方法。
【請求項5】
前記電解液の温度が20℃~90℃であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
電解中の電流密度が0.2~150A/dmであることを特徴とする、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
電解中のpH値を10~14の範囲に継続的に設定することを特徴とする、請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
0.1~50μmの厚さを有する銀-ビスマスコーティングを堆積させることを特徴とする、請求項4~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
陽極として、可溶性銀陽極及び/又は不溶性陽極を用いることを特徴とする、請求項4~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項4~9のいずれか一項に記載の方法に従って製造された、0.1~50μmの厚さを有し、150℃で1000時間コーティングをアニールした後に>200HVの硬度を有する、銀-ビスマス合金層。
【請求項11】
前記合金層がニッケルもしくはニッケル合金層又は銅もしくは銅合金層上に堆積されていることを特徴とする、請求項10に記載の合金層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、元素ビスマスが銀と合金化されている、硬質銀層の堆積のための電解液に関する。本発明はまた、本発明の電解液から対応する銀-ビスマス合金を堆積させる方法、及び対応して堆積された層に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、実質上全ての電気器具に電気接点が用いられている。これらの用途は、自動車産業、又は航空宇宙技術用の通信部門における、単純なプラグコネクタから安全性に関係する、洗練された接触のスイッチ切り替えの範囲に及ぶ。ここで、接触面は、良好な導電性、長期安定性を備えた低い接触抵抗、可能な限り低い挿入力を有する良好な耐腐食性及び耐摩耗性、並びに熱ストレスに対する良好な耐性を有することが要求される。電気工学において、プラグ接点は多くの場合、金-コバルト、金-ニッケル、又は金-鉄からなる硬質金合金層でコーティングされる。これらの層は、良好な耐摩耗性、良好なはんだ付け性、長期安定性を備えた低い接触抵抗、及び良好な耐腐食性を有する。金の価格の上昇により、さほど高価でない代替物が求められている。
【0003】
硬質金めっきの代用品として、銀リッチ銀合金(硬質銀)によるコーティングが有利であることが証明されている。中でも、銀及び銀合金は電気工学において最も重要な接点材料であり、それは高い導電率及び良好な抗酸化性という理由だけによるものではない。これらの銀-合金層は、合金に添加される金属に応じて、現在使用されている硬質金層及び層の組合せ(金フラッシュしたパラジウム-ニッケル等)のものに類似する層の性質を有する。更に、銀の価格は他の貴金属、特に硬質金合金と比較して低い。
【0004】
硬質銀層の堆積のためには、主に銀-アンチモン電解液が工業的に使用されている。堆積されたアンチモン合金の硬質銀層は、堆積された状態で約160~180HVの硬度を有する。150℃で最大1000時間の熱エージング後の永久硬度は約120HVである。耐熱性に対する要求はますます厳しくなっている。電気的特性もまた考慮しなければならない。純銀は、非常に低い接触抵抗の値を特徴とする。銀合金層の接触抵抗は、第2の金属の合金化及びその結果としての硬度の向上によって、過度に増加してはならない。目標値は50cNの接触力で最大10mオームの接触抵抗である。最大3%のアンチモンを有する銀-アンチモンコーティングはこの要件を満たす。しかしながら、記載されているように、永久硬度は最大120~140HVの値に制限される。更に、電解液中に使用されているアンチモン(III)は、操作中に陽極でその五価の酸化状態に変換され、したがって硬化剤としてもはや有効ではない。アンチモン(III)含有量を決定するためには高いレベルの分析作業が必要とされるため、これによって電解液の有効寿命が制限され、加工がより困難になる。
【0005】
したがって、銀-アンチモンコーティングの接触表面への使用の可能性は制限される。現代の用途では、最大で200℃の熱負荷がしばしば発生し得る。ここで重要なことはその永久硬度であって、それは高温下であってもそうであり、かつ、摩滅による摩耗が少ないことである。銀-ビスマス電解液は文献に記載されているが、それらは、広い電流密度の範囲にわたって十分に均質で光沢のあるコーティングを堆積させることができない。
【0006】
米国特許第7628903(B1)号明細書では、銀及びSn、Bi、In、Pbを含む銀合金を、強酸性のpH範囲で脂肪族硫化物を使用して非シアン化物電解液から電解により析出させている。ここで、銅又は銅合金層のコーティングでは、強酸性のpH範囲においてそれらが急速に溶解するため、問題が生じる。
【0007】
特開平11-279787(A)号公報には、やはり強酸性のpH範囲において、アミノチオフェノール化合物を使用し、銀及び合金のパートナーとしてSn、Bi、Zn、In、Cu、Sb、Ti、Fe、Ni又はCoを含む銀合金の堆積が記載されている。ここでも、銅又は銅合金基材をコーティングする際の強酸性電解液に伴う問題がある。
【0008】
サイクリックボルタンメトリーによる銀-ビスマス電解液の電解析出が、I.Valkova;I.Krastev,Transactions of the institute of metal finishing 80,(2002)21~24に記載されている。ここでは、低い電流密度しか適用できず安定性が不十分なシアン化物を含まないアルカリ電解液が使用されている。
【0009】
独国特許第1182014(B)号明細書には、高い硬度を有する銀-アンチモン又は銀-ビスマス合金のガルバニック堆積のための方法が記載されている。シアン化銀電解液は多価アミノアルコールを使用して合金金属を錯体化するが、3A/dmまでの範囲の電流密度しか使用できず、これは連続システムにおけるコーティングには不十分である。
【0010】
独国特許第2731595(B1)号明細書には、シアン化銀浴中でのケトン-二硫化炭素縮合生成物の光沢剤の組合せの使用が記載されている。しかしながら、この場合ではビスマスとの合金化については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第7628903号明細書
【特許文献2】特開平11-279787号公報
【特許文献3】独国特許第1182014号明細書
【特許文献4】独国特許第2731595号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】I.Valkova;I.Krastev,Transactions of the institute of metal finishing 80,(2002)21~24頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、これらの知見に基づいて、本発明の意図は、上述の文脈内で電解液又は堆積層の特性を改善することを目的として銀-ビスマス合金電解液を開発することであった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的及びここでは言及されていないが当業者には明らかである更なる目的は、本発明の請求項1に記載の電解液によって解決される。本発明の電解液の好ましい構成は、請求項1に従属する従属請求項に記載されている。請求項4~9は、銀-ビスマス合金を堆積させるための本発明の方法に関する。請求項10及び11は、それぞれ堆積された層及び層シーケンスに関する。
【0015】
ガルバニック浴は、電気化学的金属沈殿物(コーティング)が基材(対象物)上に析出可能な金属塩を含有する溶液である。この種類のガルバニック浴は、しばしば「電解液」とも呼ばれる。したがって、水性ガルバニック浴を、以下では「電解液」と呼ぶ。
【0016】
導電性基材上への銀-ビスマス合金の電解析出のための水性電解液を提供することによって、記載された問題に対する解決策が得られ、ここで、この電解液は以下の特徴を有する:
- 金属に基づいて0.5~200g/lの銀化合物又は銀を含む可溶性陽極、
- 金属に基づいて0.1~50g/lの可溶性ビスマス化合物、
- 5~200g/lの可溶性シアン化物、特にシアン化カリウム、
- 0.05~2mol/lの可溶性ジ-、トリ-又はテトラカルボン酸、
- >0~5g/lの、ケトン又はジチオカルバメートと二硫化炭素との反応生成物である可溶性光沢剤A、
- >0~5g/lの、アリールスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合生成物の群から選択される更なる可溶性光沢剤B、
- 1~1000mg/lの可溶性湿潤剤、
- 10~14のpH値。ここに記載された銀-ビスマス電解液は非常に安定であることが証明されている。存在するビスマス(III)は、アンチモン(III)と比較して著しく酸化を受けにくい。銀-ビスマスコーティングを堆積させることにより、永久硬度及び電気特性に関して上述の利点が得られる。驚くべきことに、これらのコーティングは、非常に高くかつ熱に安定な硬度値を有し、初期状態で最大で250HVの値に達し、150℃で1000時間エージングした後でさえ依然として200HVを超える。対照的に、そのような層についての文献には、堆積された状態において80HV~180HVの硬度値のみが記載されている。本明細書においてHVに言及する場合、これはビッカース硬度(DIN EN ISO 14577-1-出願日における最新版)を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施例3(表1)の電解液から得られたコーティングを150℃で100時間及び500時間エージングして、その後、硬度値を決定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
銀は、対応する可溶性銀塩で本発明の電解液中に供給される。これらは、好ましくは、メタンスルホン酸銀、炭酸銀、リン酸銀、ピロリン酸銀、硝酸銀、酸化銀、乳酸銀、フッ化銀、臭化銀、塩化銀、ヨウ化銀、チオシアン酸銀、チオ硫酸銀、ヒダントイン銀、硫酸銀、シアン化銀、及びアルカリシアン化銀から選択される。シアン化銀カリウムが非常に好ましい。銀の量は、特にそれらの適用目的のために当業者が選択することができる。一般に、金属に基づいた銀濃度は0.5~200g/lである。好ましい実施形態では、この値は1~100g/lであり、特に好ましくは10~50g/lである。代替的又は追加的に、銀はまた、銀を含む可溶性陽極の形態で電解液に入れることができる(Praktische Galvanotechnik,5th edition,Eugen G.Leuze Verlag,p.342f,1997)。
【0019】
本発明の電解液中の第2の合金金属はビスマスである。これは、同様に、当業者に公知の化合物を用いて電解液に添加することができる。ビスマスは、好ましくは(III)の酸化状態で存在する。これに関連して有利な化合物は、酸化ビスマス(III)、水酸化ビスマス(III)、フッ化ビスマス(III)、塩化ビスマス(III)、臭化ビスマス(III)、ヨウ化ビスマス(III)、メタンスルホン酸ビスマス(III)、硝酸ビスマス(III)、酒石酸ビスマス(III)、クエン酸ビスマス(III)、特にクエン酸ビスマスアンモニウムから選択されるものである。金属の量は当業者が選択することができるが、一般的には金属に基づいて0.1~50g/lである。好ましい実施形態では、この値は0.5~10g/lであり、特に好ましくは1~5g/lである。
【0020】
本発明の電解液中には遊離シアン化物も存在する。これらは可溶性化合物の形態で使用される。当業者は、どの化合物が本目的に適しているかを知っている。この場合、シアン化ナトリウム又は特にはシアン化カリウムの使用が好ましい。これは導電性塩としても機能する。それは5~200g/l、好ましくは10~100g/l、非常に好ましくは20~80g/lの量で使用される。
【0021】
電解液は、1つ以上のカルボン酸基を有する特定の有機化合物を含有する。特に、これらの有機化合物は、ジ-、トリ-又はテトラカルボン酸である。これらは、本目的に関して当業者に公知であり、例えば、文献(Beyer-Walter,Lehrbuch der Organischen Chemie,22nd Edition,S.Hirzel-Verlag,pp.324 et seqq.)に見ることができる。これに関連して特に好ましいのは、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、マロン酸、リンゴ酸からなる群から選択される酸である。シュウ酸、マロン酸、クエン酸、及び酒石酸が非常に好ましい。これらの酸は、設定するpH値において、電解液中にアニオンの形態で自然に存在する。ここで言及されたカルボン酸は、1リットル当たり0.05~2モル、好ましくは1リットル当たり0.1~1モル、特に好ましくは1リットル当たり0.2~0.5モルの濃度で電解液に添加される。
【0022】
二硫化炭素とケトン又はジチオカルバメートとの反応生成物が本発明の電解液中の光沢剤Aとして使用される。当業者は、ここで使用することができる製品を知っている。これらは、例えば、独国特許第885036(C)号明細書、独国特許第2731595(B1)号明細書又は独国特許第959775(C)号明細書に記載されている。本発明の場合に使用される好ましいケトンは、プロパノン、2-ブタノン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2,3-ヘキサンジオン、2,4-ヘキサンジオン、2,5-ヘキサンジオン、3,4-ヘキサンジオン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2,3-ヘプタンジオン、2,4-ヘプタンジオン、2,5-ヘプタンジオン、2,4-ヘプタンジオン、3,5-ヘプタンジオン、2,6-ヘプタンジオン、アセトフェノンからなる群から選択されるものである。使用される好ましいジチオカルバメートはジエチルジチオカルバミン酸のアルカリ金属塩、ジフェニルジチオカルバミン酸のアルカリ金属塩からなる群から選択されるものである。
【0023】
これらの反応生成物を、電解液中に>0~5000mg/l、好ましくは1~500mg/l、特に好ましくは5~200mg/lの量で使用する。
【0024】
また電解液中に使用される光沢剤Bは、1つ以上のアリールスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合生成物である。このような重合物は当業者に知られている。例えば、独国特許第2731595(B1)号明細書では、これらは、銀の析出において前述のケトンと二硫化炭素の縮合生成物と一緒に使用されている。この場合では、1-ナフタレンスルホン酸及び2-ナフタレンスルホン酸の使用が特に好ましい。しかしながら、他のアリールスルホン酸、例えば、フェノールスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、1,2-ベンゼンジスルホン酸、1,3-ベンゼンジスルホン酸、1,4-ベンゼンジスルホン酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、ピリジン-3-スルホン酸もまたこの目的のために使用することができ、当業者は入手することができる。この光沢剤Bは、本発明の電解液中で>0~5000mg/l、より好ましくは5~2500mg/l、非常に好ましくは100~1000mg/lの濃度で使用される。
【0025】
本電解液において、用途に応じて、更に一般的には、例えば、ポリエチレングリコール付加物、脂肪アルコールスルフェート、アルキルスルフェート、アルキルスルホネート、アリールスルホネート、アルキルアリールスルホネート、ヘテロアリールスルフェート、ベタイン、フッ素系界面活性剤、並びにそれらの塩及び誘導体などの、アニオン性及び非イオン性界面活性剤を湿潤剤として使用することができる(Kanani,N:Galvanotechnik;Hanser Verlag,Munich Vienna,2000;pp.84 et seqq.も参照されたい)。例えば、市場でHamposyl(登録商標)として知られている置換グリシン誘導体もまた、湿潤剤である。Hamposyl(登録商標)は、N-アシルサルコシネート、すなわち、脂肪酸アシル残基とN-メチルグリシン(サルコシン)との縮合生成物からなる。これらの浴を用いて堆積された銀コーティングは、白色であり、光沢があるか、非常に光沢がある。湿潤剤によって孔の無い層が得られる。さらなる有利な湿潤剤は、以下の群から選択されるものである:
- 例えば、β-ナフトールエトキシレートカリウム塩、脂肪アルコールポリグリコールエーテル、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール及びそれらの混合物などの非イオン性湿潤剤。2,000g/mol未満の分子量を有する湿潤剤が特に有利である。
- 例えば、N-ドデカノイル-N-メチルグリシン、(N-ラウロイルサルコシン)-Na塩、アルキルコラーゲン加水分解物、2-エチルヘキシル硫酸-Na塩、ラウリルエーテル硫酸-Na塩、1-ナフタレンスルホン酸-Na塩、1,5-ナフタレンジスルホン酸-Na塩及びそれらの混合物などのアニオン性湿潤剤、
- 例えば、1H-イミダゾリウム-1-エテニル(又は3-メチル)-、メチル硫酸ホモポリマーなどのカチオン性湿潤剤。
【0026】
本発明の電解液を塩基性pHの範囲内で使用する。電解液のpH値10~14で最適な結果を得ることができる。当業者は電解液のpH値の調整方法を知っている。これは好ましくは強塩基性の範囲であり、より好ましくは>11である。pH値が12を超え、例外的な場合には13又は14にさえ達することができる極めて強い塩基性の堆積条件の選択が非常に有利である。
【0027】
原理的には、pH値は当業者によって必要に応じて調整することができる。しかしながら、当業者は、対象の合金の堆積に悪影響を及ぼし得る追加の物質は電解液中で可能な限り少なくするという考えに従うであろう。したがって、特に好ましい実施形態では、pH値は塩基の添加によってのみ設定される。当業者は、対応する用途に適した全ての化合物を塩基として使用することができる。好ましくは、この目的のためにはアルカリ金属の水酸化物、特に水酸化カリウムを使用する。
【0028】
本発明の更なる主題は、上述した電解液から銀合金コーティングを電解析出する方法である。この方法では、導電性基材を本発明の電解液中に浸漬し、電解液と接触している陽極と陰極としての基材との間に電流を確立する。
【0029】
銀及び銀合金コーティングの堆積中の優位な温度は、当業者が望むように選択することができる。したがって、一方では、十分な堆積速度及び適用可能な電流密度の範囲、他方では、経済的な側面又は電解液の安定性に従うことになる。20℃~90℃、好ましくは25℃~65℃、特に好ましくは30℃~50℃の温度に設定することが有利である。
【0030】
堆積プロセス中の陰極と陽極との間の電解液中に確立される電流密度は、堆積の効率及び質に基づいて、当業者が選択することができる。用途及びコーティングシステムの種類に応じて、電解液中の電流密度は、有利には0.2~150A/dmに設定される。必要に応じて、コーティングセルの設計、流量、陽極又は陰極の関係などのシステムのパラメータを調整することにより電流密度を増加又は減少させることができる。0.2~100A/dmの電流密度が有利であり、0.2~50A/dmが好ましく、0.2~30A/dmが特に好ましい。
【0031】
本発明との関連において、低、中、及び高の電流密度範囲は以下のように定義される:
- 低電流密度範囲:0.1~0.75A/dm
- 中電流密度範囲:0.75A/dm超~5A/dm
- 高電流密度範囲:5A/dm超。
【0032】
本発明の電解液及び本発明の方法は、技術用途、例えば電気プラグコネクタ及びプリント回路基板のための、並びに装飾用途、例えば宝石及び時計のための銀-ビスマスコーティングの電解析出のために使用することができる。
【0033】
上に既に示したように、本発明の電解液はアルカリ型である。電解液のpH値の変動が電解中に発生する可能性がある。したがって、本方法の好ましい一実施形態では、当業者は電解中にpH値を監視し、必要であれば、pH値を設定値に調整するように進める。水酸化カリウムはpH値の設定に有利に使用される。
【0034】
電解液の使用時には、様々な陽極を用いることができる。可溶性又は不溶性陽極は、可溶性及び不溶性の陽極の組合せと同様に好適である。可溶性陽極を使用する場合、銀陽極又は銀ビスマス陽極又はビスマス陽極の使用が特に好ましい(独国特許第1228887号明細書,Praktische Galvanotechnik,5 th edition,Eugen G.Leuze Verlag,p.342f,1997)。
【0035】
不溶性陽極として好ましいのは、白金めっきチタン、グラファイト、混合金属酸化物、ガラス炭素陽極、及び特殊炭素材料(「ダイヤモンド状炭素(diamond-like carbon)」、DLC)からなる群から選択される材料で作製されたもの、又はこれらの陽極の組合せである。白金めっきチタン又は混合金属酸化物でコーティングされたチタンの不溶性陽極が有利であり、該混合金属酸化物は、好ましくは、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル及びこれらの混合物から選択される。イリジウム-ルテニウム混合酸化物、イリジウム-ルテニウム-チタン混合酸化物、又はイリジウム-タンタル混合酸化物で構成されるイリジウム-遷移金属混合酸化物陽極も、本発明の実施において有利に使用される。更なる情報は、Cobley,A.J et al.(The use of insoluble anodes in acid sulphate copper electrodeposition solutions,Trans IMF,2001,79(3),pp.113 and 114)に見ることができる。
【0036】
典型的には、0.1~0.3μmの範囲の薄い層厚の銀合金が、例えば、ラック操作においてプラスチックキャップをコーティングするために使用される。ここでは、0.25~0.75A/dmの範囲の低電流密度が使用される。低電流密度の更なる適用が、ドラム又は振動技術、例えばコンタクトピンのコーティングにおいて使用される。ここでは、約0.5~3μmの銀合金が0.25~0.75A/dmの電流密度範囲で適用される。一般的には、1~10μmの範囲の層厚が、1~5A/dmの範囲の電流密度で、技術及び装飾用途のためのラック操作において堆積される。技術用途では、最大で25μmの層厚が堆積されることもある。連続したシステムでは、約0.5~約5μmという比較的広い範囲にわたる層厚が、可能な限り高い堆積速度で、したがって5~50A/dmの可能な限り高い電流密度で堆積される。更には、例えば電鋳の場合など、数十μmから数ミリメートルまでの比較的厚い層厚が堆積される特別な用途もある。
【0037】
直流電流の代わりに、パルス直流電流を印加することもできる。これにより、電流が一定時間遮断される(パルスめっき)。逆パルスめっきでは、電極の極性を切り替えることにより、コーティングの一部を陽極酸化的に剥離させる。この陽極酸化的剥離及び陰極パルスを一定して交互に繰り返すことにより、層の蓄積を制御する。単純なパルス条件、例えば、平均の電流密度で1秒の通電(ton)及び0.5秒のパルス休止(toff)を適用して、均質な光沢のある白色コーティングが得られた。
【0038】
本発明はまた、本発明の方法によって製造された0.1~50μmの厚さを有し、コーティングを150℃で1000時間アニーリングした後に>200HVの硬度を有する銀-ビスマス合金層に関する。硬度の上限は、金属層の技術的に到達可能な硬度にある。それは、350HV、又はより好ましくは400HVでさえあり得る(図1)。本発明の層の好ましい厚さは、上に示した範囲、好ましくは0.5~30μm、非常に好ましくは1~5μmである。
【0039】
好ましくは、本発明の合金層は、ニッケルもしくはニッケル合金層又は銅もしくは銅合金層上に堆積される。ここで有利に使用される適切な基材材料は、純銅、真鍮、青銅(例えばCuSn、CuSnZn)、又はケイ素、ベリリウム、テルル、リンを有する合金などのプラグコネクタ用の特殊銅合金などの銅ベースの材料、もしくは鉄又はステンレス鋼などの鉄ベースの材料、もしくはニッケル、又はNiP、NiW、NiBなどのニッケル合金、金もしくは銀である。基材材料はまた、ガルバニックコーティングされた、又は他のコーティング技術を使用してコーティングされた多層システムであってもよい。これには、例えば、ニッケルメッキ又は銅メッキの後に任意に金メッキした、又はプレシルバーでコーティングした鉄系材料が含まれる。更なる基材材料は、例えば、銀導電性ラッカーで予めコーティングされたワックスのコアである(電鋳)。
【0040】
本発明の電解液は銀白色の印象を与える光沢のある堆積物を与える。堆積した合金金属層は有益なことに+97を超えるL値を有する。Cielab表色系(EN ISO11664-4-出願日における最新版)によって、a値は好ましくは-0.2~0.2であり、b値は+2~+4である。これらの値はコニカミノルタ社のCM-700dを使用して決定された。
【0041】
本発明の電解液は長期安定性を有する。銀の堆積及び銀とビスマスとの合金化について記載した光沢剤を組み合わせることによって、記載した用途に適したコーティングを得ることができた。これらは、十分に低い接触抵抗を有し、更に、熱にさらされた後でさえ驚くほど高い硬度を保持する。これは利用可能な最新技術からは予想されなかった。
【実施例
【0042】
それぞれの例示的実施形態で特定される電解液1リットルを、長さ60mmの円柱形磁気撹拌棒を用いて少なくとも200rpmで撹拌しながら、磁気撹拌機によって例示的実施形態で特定される温度まで加熱する。この撹拌及び温度は、コーティング中も維持される。
【0043】
所望の温度に達した後、電解液のpH値をKOH溶液(c=0.5g/ml)及び硫酸(c=25%)などの適切な酸を使用して、例示実施形態において特定される値に設定する。
【0044】
銀プレート又は混合金属酸化物で被覆されたチタンを陽極として使用する。
【0045】
少なくとも0.2dmの表面積を有する、機械的に研磨された真鍮板を陰極として機能させる。真鍮板は、電解液からの、高光沢層を生成するニッケル(少なくとも5μm)で予めコーティングすることができる。また、ニッケル層上に厚さ約0.1μmの金層を析出させてもよい。
【0046】
電解液への導入前に、これらの陰極は、電解脱脂(5~7V)及び硫酸含有酸浸漬(c=5%硫酸)を用いて洗浄される。各洗浄工程の間、及び電解液への導入前に、陰極を脱イオン水ですすぐ。
【0047】
陰極は、陽極間の電解液中に配置され、少なくとも5cm/秒で陽極に対して平行に移動する。陽極と陰極との間の距離は変化しないようにする。
【0048】
電解液中で、陽極と陰極との間に直流電流を印加することによって、陰極をコーティングする。電流強度は、表面領域で少なくとも0.5A/dmが達成されるように選択される。適用例において特定されている電解液が、技術的及び装飾的な目的で使用できる品質の層を生成することを意図している場合、より高い電流密度を選択することができる。
【0049】
電流の持続時間は、少なくとも0.5~1μmの層厚が表面領域にわたって平均して得られるように選択される。適用例において特定される電解液が、技術的及び装飾的な目的で使用できる品質の層を生成することを意図している場合、より大きい層厚を生成することができる。
【0050】
コーティング後、陰極を電解液から取り出し、脱イオン水ですすぐ。陰極の乾燥は、圧縮空気、熱風、又は遠心分離によって行うことができる。
【0051】
陰極の表面積、印加電流のレベル及び持続時間、並びにコーティング前後の陰極の重量を記録し、平均層厚、及び析出効率を決定するために使用する。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例3(表1)の電解液から得られたコーティングを150℃で100時間及び500時間エージングして、その後、硬度値を決定した。結果を図1に示す。
図1
【国際調査報告】