(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-26
(54)【発明の名称】ポリペプチドのグルクロン酸化、イズロン酸化、及びガラクツロン酸化の相対分布を定量するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20231219BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20231219BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20231219BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20231219BHJP
G01N 30/74 20060101ALI20231219BHJP
B01J 20/287 20060101ALI20231219BHJP
C12Q 1/37 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G01N30/88 J
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N30/06 E
G01N30/72 C
G01N30/88 N
G01N30/74 E
B01J20/287
C12Q1/37
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535623
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(85)【翻訳文提出日】2023-06-29
(86)【国際出願番号】 US2021062843
(87)【国際公開番号】W WO2022125922
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ヤン, イー
【テーマコード(参考)】
2G041
4B063
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA12
2G041GA09
2G041HA01
2G041HA04
2G041JA02
2G041LA08
4B063QA01
4B063QQ67
4B063QQ79
4B063QR16
4B063QR41
4B063QR82
4B063QS36
4B063QX01
(57)【要約】
本開示は、ポリペプチドのグルクロン酸化、イズロン酸化、及び/又はガラクツロン酸化の同時分離及び相対定量を達成できる立体選択的液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)法を含む、ポリペプチドのグルクロン酸化、イズロン酸化、及び/又はガラクツロン酸化の相対分布を定量するための方法及び組成物に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチドの集団のグルクロン酸化、イズロン酸化、及びガラクツロン酸化の相対分布を定量するための方法であって、
a)ポリペプチドの集団をプロテアーゼと接触させてペプチドを生成すること;
b)疎水性固定相と正の表面電荷とを含むクロマトグラフィー支持体に前記ペプチドを接触させること;
c)前記クロマトグラフィー支持体を弱酸性移動相勾配と接触させて、前記ペプチドを分離すること;
d)前記分離されたペプチドを分析して前記ペプチドのグルクロン酸化、イズロン酸化、及び/又はガラクツロン酸化の相対分布を定量すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記プロテアーゼが、トリプシン、lys-C、Glu-C、又はAsp-Nである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クロマトグラフィー支持体が、正荷電表面改質剤を有する支持体材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記疎水性固定相が前記表面改質剤に結合している、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記疎水性固定相が、アルキル、アルケニル、アルキニル又はアリール官能基を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記疎水性固定相がC18官能基を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記クロマトグラフィー支持体がCSH
TMC18固定相である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記分離されたペプチドが、質量分析を用いて分析される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
グルクロン酸化ペプチド、イズロン酸化ペプチド、及びガラクツロン酸化ペプチドの同定を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ペプチドが、それぞれのクロマトグラフィー保持時間及質量スペクトルによって同定される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
グルクロン酸化、イズロン酸化、及びガラクツロン酸化の前記相対分布が、UV吸光度でモニターされる、前記分離されたペプチドに対応する液体クロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
グルクロン酸化、イズロン酸化、及びガラクツロン酸化の前記相対分布が、質量分析から抽出されたイオンクロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
弱酸がギ酸又は酢酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記酸性移動相が、グルクロン酸化、イズロン酸化又はガラクツロン酸化に関連するカルボン酸部分の50%超が脱プロトン化状態であるpHにある、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記弱酸性移動相勾配が、pH>3を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記弱酸性移動相勾配が、約4.5のpKa値を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
質量分析が、エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ESI-MS/MS)である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリペプチドが抗体である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年12月11日に出願された米国仮特許出願第63/124320号に対する優先権の利益を主張するものであり、上記特許出願の内容全体を参照により本明細書に援用する。
【0002】
発明の分野
本明細書は、ポリペプチドのグルクロン酸化、イズロン酸化(iduronidation)、及びガラクツロン酸化(galacturonidation)の相対分布を定量するための方法及び組成物に関するものである。具体的には、本明細書は、ポリペプチドのグルクロン酸化、イズロン酸化及びガラクツロン酸化の同時分離と相対定量を達成する立体選択的液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
グルクロン酸化とは、リジン残基の側鎖などの一級アミン基へのグリクロン酸(ウロン酸ともいう)の共有結合から生じる、翻訳後のポリペプチド修飾である。天然に存在するグリクロン酸は、グルクロン酸、イズロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸、グルロン酸の5種類である(
図1)。哺乳類細胞、例えばCHO細胞、及び細菌細胞、例えば大腸菌によって生産される組換えポリペプチドでは、グルクロン酸、イズロン酸、ガラクツロン酸による一級アミンの修飾が起こり得る。対照的に、マンヌロン酸とグルロン酸による修飾は、これらの2つのグリクロン酸が褐藻類に見られるか、又は組換えポリペプチドの生産に一般的に使用されない特定の種類の細菌に見られるため、組換え発現ポリペプチドでは予期されない。
【0004】
グルクロン酸、イズロン酸又はガラクツロン酸によるポリペプチドの修飾は、そのような組換え発現産物の安全性及び/又は有効性に影響を与える可能性がある。例えば、モノクローナル抗体薬物の相補性決定領域内のリジン残基のグルクロン酸による修飾は、標的結合を阻害し、それによって抗体効力の喪失が起こる可能性がある。また、相補性決定領域内のリジン残基のイズロン酸による修飾は、イズロン酸の独特な立体構造の柔軟性により、オフターゲット結合を引き起こす可能性がある。また、リジン残基のイズロン酸又はガラクツロン酸による修飾は内因性のヒトポリペプチドでは観察されていないため、組換え発現ポリペプチドのイズロン酸化及びガラクツロン酸化は、ネオエピトープを形成し、免疫原性のリスクとなる可能性がある。組換え発現ポリペズチドの安全性と有効性を確保するためには、グルクロン酸化、イズロン酸化、及び/又はガラクツロン酸化の相対分布を定量することが重要である。
【発明の概要】
【0005】
特定の実施形態では、本開示は、ポリペプチドのグルクロン酸化、イズロン酸化、及び/又はガラクツロン酸化の相対分布を定量するための組成物及び方法に関するものである。特定の実施形態において、ポリペプチドの集団のグルクロン酸化、イズロン酸化、及びガラクツロン酸化の相対分布を定量するための方法は、以下のことを含む:a)ポリペプチドの集団をプロテアーゼと接触させてペプチドを生成すること;b)疎水性固定相と正の表面電荷とを含むクロマトグラフィー支持体に該ペプチドを接触させること;c)該クロマトグラフィー支持体を弱酸性移動相勾配と接触させて該ペプチドを分離すること;d)分離されたペプチドを分析して該ペプチドのグルクロン酸化、イズロン酸化、及びガラクツロン酸化の相対分布を定量すること。
【0006】
特定の実施形態では、本明細書に記載のポリペプチドの集団のグルクロン酸化、イズロン酸化、及び/又はガラクツロン酸化の相対分布を定量するための方法に関連して使用されるプロテアーゼは、トリプシン、lys-C、Glu-C又はAsp-Nである。
【0007】
特定の実施形態では、本明細書に記載のポリペプチドの集団のグルクロン酸化、イズロン酸化、及び/又はガラクツロン酸化の相対分布を定量するための方法に関連して用いられるクロマトグラフィー支持体は、正荷電表面改質剤を含む支持材を含む。
【0008】
特定の実施形態では、本明細書に記載のポリペプチドの集団のグルクロン酸化、イズロン酸化、及び/又はガラクツロン酸化の相対分布を定量するための方法に関連して使用される疎水性固定相は、上記表面改質剤に結合される。特定の実施形態において、疎水性固定相は、アルキル、アルケニル、アルキニル又はアリール官能基を含む。特定の実施形態において、疎水性固定相は、C18官能基を含む。
【0009】
特定の実施形態では、クロマトグラフィー支持体は、CSHTMC18固定相を含む。
【0010】
特定の実施形態において、分離されたペプチドは、質量分析を用いて分析される。
【0011】
特定の実施形態において、本明細書に記載の方法は、グルクロン酸化ペプチド、イズロン酸化ペプチド、及び/又はガラクツロン酸化ペプチドの同定を含む。特定の実施形態では、上記ペプチドは、それぞれのクロマトグラフィー保持時間及び質量スペクトルによって同定される。
【0012】
特定の実施形態において、本明細書に記載の方法は、グルクロン酸化、イズロン酸化、及び/又はガラクツロン酸化の相対分布が、UV吸光度でモニターされる、分離されたペプチドに対応する液体クロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量されることを含む。特定の実施形態では、グルクロン酸化、イズロン酸化、及び/又はガラクツロン酸化の相対分布は、質量分析から抽出されたイオンクロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量される。
【0013】
特定の実施形態において、本明細書に記載の方法の文脈で用いられる弱酸は、ギ酸又は酢酸である。
【0014】
特定の実施形態では、本明細書に記載の方法で用いられる酸性移動相は、グルクロン酸化、イズロン酸化又はガラクツロン酸化に関連するカルボン酸部分の50%超が脱プロトン化状態であるpHにある。
【0015】
特定の実施形態において、本明細書に記載の方法の文脈で用いられる弱酸性移動相勾配は、pH>3を有する。特定の実施形態では、弱酸性移動相勾配は、pKa値が約4.5である。
【0016】
特定の実施形態において、本明細書に記載の方法の文脈で用いられる質量分析は、エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ESI-MS/MS)である。
【0017】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法で分析されるポリペプチドは、抗体である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】グルクロン酸化(glua)ペプチドとイズロン酸化(idoa)ペプチドの分離を示す抽出イオンクロマトグラムである。抗体Aは、強制グルクロン酸化/イズロン酸化により修飾された。その後、試料をトリプシンで消化し、CSH C18カラムを用いるLC-MS/MSで分析した。IdoAペプチドとGluAペプチドは、それぞれ15.07分と15.38分で溶出した。
【
図3】ガラクツロン酸化(glaa)ペプチドの抽出イオンクロマトグラムを示す。抗体Aは、強制ガラクツロン酸化により修飾された。その後、試料をトリプシンで消化し、CSH
TM C18カラムを用いるLC-MS/MSで分析した。GlaAペプチドは、15.16分で溶出した。
【
図4】BEH
TM C18カラムでは、候補ペプチドが立体選択的に分離されないことを表している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
例示として与えられる以下の詳細な説明は、現在開示されている主題を記載された特定の実施形態に限定することを意図しておらず、添付の図面と併せて理解され得るものである。
【0020】
本明細書は、ポリペプチドのグルクロン酸化、イズロン酸化、及び/又はガラクツロン酸化の相対分布を定量するための方法及び組成物に関するものである。具体的には、本明細書は、ポリペプチドのグルクロン酸化、イズロン酸化及び/又はガラクツロン酸化の同時分離と相対定量を実現する立体選択的LC-MS法に関するものである。
【0021】
1.定義
別途指定のない限り、本明細書で用いられる全ての技術用語、表記法、及び他の科学用語は、本開示が関係する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有することが意図されている。場合によって、明確にするため及び/又は参照を容易にするために、一般に理解されている意味を有する用語が本明細書で定義されているが、本明細書にそのような定義を含めることは、当技術分野において一般に理解されるものに対する実質的な相違を表していると必ずしも解釈されるものではない。
【0022】
本明細書で使用される用語「含む」(“comprise(s)” “include(s)”)、「有する」(“having” “has”)、「~できる」(“can”)「含有する」(“contain(s)”)、及びこれらの変形は、追加の行為又は構造の可能性を排除しないオープンエンドの移行句、用語又は単語であることが意図されている。単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明らかにそうではない場合を除き、複数の指示対象を含む。また、本開示では、明示的に記載されているかどうかにかかわらず、本明細書に提示される実施形態又は要素を「含む」、それら「から成る」、及びそれら「から本質的に成る」他の実施形態も企図されている。
【0023】
本明細書で使用する場合、用語「約」又は「およそ」とは、当業者によって定量される特定の値の許容できる誤差範囲内を意味し、これは、その値がどのように測定又は定量されるか、すなわち、測定システムの限界に部分的に依存する。例えば、「約」は、当技術分野の慣例によって、3以内又は3を超える標準偏差を意味し得る。或いは、「約」は、所与の値の20%まで、好ましくは10%まで、更に好ましくは5%まで、更になお好ましくは1%までの範囲を意味し得る。或いは、特に生物学的システム又はプロセスに関して、この用語は、値の1桁以内、好ましくは5倍以内、更に好ましくは2倍以内を意味し得る。
【0024】
本明細書で用いられる場合、「ポリペプチド」は、概して、約10より多くのアミノ酸を有するペプチド及びタンパク質を指す。ポリペプチドは、宿主細胞に相同であってもよく、又は好ましくは、チャイニーズハムスター卵巣細胞によって生産されるヒトタンパク質若しくは哺乳動物細胞によって生産される酵母ポリペプチドのように、利用される宿主細胞に対して異種、すなわち、外来であるという意味の外来性であってもよい。ある特定の実施形態では、哺乳動物ポリペプチド(もともと哺乳類生物から誘導されるポリペプチド)が用いられ、より好ましくは、培地に直接分泌されるものが用いられる。
【0025】
「タンパク質」という用語は、高次の三次構造及び/又は四次構造を生成するのに十分な鎖長を持つアミノ酸の配列を指す。これは、そのような構造を有しない「ペプチド」又は他の低分子量の薬物と区別するためである。本明細書のタンパク質は、典型的には、少なくとも約15~20kD、好ましくは少なくとも約20kDの分子量を有する。本明細書の定義に包含されるタンパク質の例には、全ての哺乳動物タンパク質、特に治療用タンパク質及び診断用タンパク質、例えば治療用抗体及び診断用抗体、並びに1又は複数の鎖間ジスルフィド結合及び/又は鎖内ジスルフィド結合を含む多重鎖ポリペプチドを含めた、1又は複数のジスルフィド結合を含むタンパク質が一般に含まれる。
【0026】
「抗体」という用語は、本明細書では最も広い意味で用いられ、所望の抗原結合活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単一特異性抗体(例えば、単一の重鎖配列と単一の軽鎖配列から成る抗体(そのようなペアリングの多量体を含む))、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片を含むがこれらに限定されない、様々な抗体構造を包含する。
【0027】
2.ポリペプチドのグルクロン酸化、イズロン酸化、ガラクツロン酸化の相対分布の定量方法
特定の実施形態において、本明細書に記載のポリペプチドのグルクロン酸化、イズロン酸化、及び/又はガラクツロン酸化の相対分布及び/又は同定のための方法は、以下のことを含む:a)ポリペプチドをプロテアーゼと接触させてペプチドを生成すること;b)疎水性固定相と正の表面電荷とを含むクロマトグラフィー支持体に該ペプチドを接触させること;c)該クロマトグラフィー支持体を弱酸性移動相勾配と接触させて該ペプチドを分離すること;並びにd)分離されたペプチドを分析して該ペプチドのグルクロン酸化、イズロン酸化、及び/又はガラクツロン酸化の相対分布を定量すること。
【0028】
本明細書で概説している方法は、ポリペプチドのグルクロン酸化、イズロン酸化、及び/又はガラクツロン酸化の相対分布の直接定量を提供する。上記方法は、ポリペプチドのグルクロン酸化、イズロン酸化、及び/又はガラクツロン酸化を研究するためのその他の手法とは対照的である。例えば、細胞培養液中のグルクロン酸のレベルを測定する手法は、必ずしもそのような培養物によって引き起されるポリペプチドのグルクロン酸化のレベルと相関するものではなく、ましてや、そのようなポリペプチドの修飾アミノ酸の分布又同一性に関するいかなる情報も提供するものではない。本記載の手法は、検出過程でペプチドからグリクロン酸の放出を必要とし、それゆえ修飾アミノ酸の分布又は位置を直接特定することができない方法(例えば、Lin et al., Eur. J Biochem, 106:341-351 (1980)及びSpiro, JBC, 252(15): 5424-5430 (1977))とも異なる。
【0029】
特定の実施形態において、プロテアーゼは、アスパラギン酸プロテアーゼ、システインプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ又はスレオニンプロテアーゼである。本開示に関連して有用な例示的なプロテアーゼは、当技術分野で知られており、例えば、Verhamme et al.Proteases:Pivot Points in Functional Proteomics,Methods Mol Biol.2019;1871:313-392(参照によりその全体が援用される)に記載されている。特定の実施形態では、プロテアーゼは、トリプシンである。特定の実施形態において、プロテアーゼは、lys-Cである。特定の実施形態において、プロテアーゼは、Glu-Cである。特定の実施形態では、プロテアーゼは、Asp-Nである。
【0030】
特定の実施形態では、クロマトグラフィー支持体は、正荷電表面改質剤を有する支持体材料を含む。特定の実施形態では、表面改質剤は、誘導体化、コーティング、及び/又は架橋を介してクロマトグラフィー支持体の基材に付着することができ、それによって表面改質剤の化学的性質がクロマトグラフィー支持体の基材に付与される。例示的な改質剤は、米国j特許第7223473号(参照によりその全体が本明細書に援用される)に特定されている。特定の実施形態では、表面改質剤は、オクチルトリクロロシラン又はオクタデシルトリクロロシランなどのオルガノトリハロシランであってもよい。特定の実施形態では、クロマトグラフィー支持体は、疎水性固定相を含む。特定の実施形態では、疎水性固定相は、共有結合又は非共有結合で表面改質剤に結合している。例えば、限定するものではないが、表面改質剤は、疎水性固定相として、1又は複数のアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール官能基を含み得る。特定の実施形態において、官能基は、オクチル(C8)、オクタデシル(C18)、及びトリアコンチル(C30)などのC1-C30アルキル;アルカリール(alkaryl)、例えばC1-C4-フェニル基を含むが、これらに限られない。特定の実施形態では、クロマトグラフィー支持体は、Charged Surface Hybrid(CSHTM)固定相である。特定の実施形態では、クロマトグラフィー支持体は、CSHTMC18固定相である。
【0031】
特定の実施形態では、酸性移動相は、グルクロン酸化、イズロン酸化、及び/又はガラクツロン酸化に関連するカルボン酸部分の50%超が脱プロトン化状態であるpHにある。特定の実施形態では、弱酸は、ギ酸又は酢酸である。特定の実施形態では、弱酸性移動相勾配は、3より大きいpHを有する。特定の実施形態では、弱酸性移動相勾配は、pKa値が約4.5である。
【0032】
特定の実施形態において、分離されたペプチドは、質量分析を用いて分析される。特定の実施形態において、質量分析は、エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ESI-MS/MS)である。
【0033】
特定の実施形態において、本開示の主題である方法は、グルクロン酸化ペプチド、イズロン酸化ペプチド、及び/又はガラクツロン酸化ペプチドの同定を更に含む。特定の実施形態では、上記ペプチドは、それぞれのクロマトグラフィー保持時間及び/又は質量スペクトルによって同定される。特定の実施形態において、グルクロン酸化、イズロン酸化、及び/又はガラクツロン酸化の相対分布は、UV吸光度でモニターされる、分離されたペプチドに対応する液体クロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量される。特定の実施形態では、グルクロン酸化、イズロン酸化、及び/又はガラクツロン酸化の相対分布は、質量分析から抽出されたイオンクロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量される。
【0034】
特定の実施形態では、ポリペプチドは抗体である。特定の実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。特定の実施形態では、抗体は多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体又は三重特異性抗体である。
【0035】
3.例示的な実施形態
A-1.特定の実施形態において、本開示は、ポリペプチドの集団のグルクロン酸化の相対分布を定量するための方法に関する方法であり、本方法は、以下のことを含む:a)ポリペプチドの集団をプロテアーゼと接触させてペプチドを生成すること;b)疎水性固定相と正の表面電荷とを含むクロマトグラフィー支持体に該ペプチドを接触させること;c)該クロマトグラフィー支持体を弱酸性移動相勾配と接触させて該ペプチドを分離すること;d)分離されたペプチドを分析して該ペプチドのグルクロン酸化の相対分布を定量すること。
【0036】
A-2.特定の実施形態において、本開示は、,ポリペプチドの集団のイズロン酸化の相対分布を定量するための方法に関するものであり、本方法は、以下のことを含む:a)ポリペプチドの集団をプロテアーゼと接触させてペプチドを生成すること;b)疎水性固定相と正の表面電荷とを含むクロマトグラフィー支持体に該ペプチドを接触させること;c)該クロマトグラフィー支持体を弱酸性移動相勾配と接触させて該ペプチドを分離すること;d)分離されたペプチドを分析して該ペプチドのイズロン酸化の相対分布を定量すること。
【0037】
A-3.特定の実施形態において、本開示は、ポリペプチドの集団のガラクツロン酸化の相対分布を定量するための方法に関するものであり、本方法は、以下のことを含む:a)ポリペプチドの集団をプロテアーゼと接触させてペプチドを生成すること;b)疎水性固定相と正の表面電荷とを含むクロマトグラフィー支持体に該ペプチドを接触させること;c)該クロマトグラフィー支持体を弱酸性移動相勾配と接触させて該ペプチドを分離すること;d)分離されたペプチドを分析して該ペプチドのガラクツロン酸化の相対分布を定量すること。
【0038】
A-4.特定の実施形態において、本開示は、ポリペプチドの集団のグルクロン酸化及びイズロン酸化の相対分布を定量するための方法に関するものであり、本方法は、以下のことを含む:a)ポリペプチドの集団をプロテアーゼと接触させてペプチドを生成すること;b)疎水性固定相と正の表面電荷とを含むクロマトグラフィー支持体に該ペプチドを接触させること;c)該クロマトグラフィー支持体を弱酸性移動相勾配と接触させて該ペプチドを分離すること;d)分離されたペプチドを分析して該ペプチドのグルクロン酸化及びイズロン酸化の相対分布を定量すること。
【0039】
A-5.特定の実施形態において、本開示は、ポリペプチドの集団のグルクロン酸化及びガラクツロン酸化の相対分布を定量するための方法に関するものであり、本方法は、以下のことを含む:a)ポリペプチドの集団をプロテアーゼと接触させてペプチドを生成すること;b)疎水性固定相と正の表面電荷とを含むクロマトグラフィー支持体に該ペプチドを接触させること;c)該クロマトグラフィー支持体を弱酸性移動相勾配と接触させて該ペプチドを分離すること;d)分離されたペプチドを分析して該ペプチドのグルクロン酸化及びガラクツロン酸化の相対分布を定量すること。
【0040】
A-6.特定の実施形態において、本開示は、ポリペプチドの集団のイズロン酸化及びガラクツロン酸化の相対分布を定量するための方法に関するものであり、本方法は、以下のことを含む:a)ポリペプチドの集団をプロテアーゼと接触させてペプチドを生成すること;b)疎水性固定相と正の表面電荷とを含むクロマトグラフィー支持体に該ペプチドを接触させること;c)該クロマトグラフィー支持体を弱酸性移動相勾配と接触させて該ペプチドを分離すること;d)分離されたペプチドを分析して該ペプチドのイズロン酸化及びガラクツロン酸化の相対分布を定量すること。
【0041】
A-7.特定の実施形態において、本開示は、ポリペプチドの集団のグルクロン酸化、イズロン酸化、及びガラクツロン酸化の相対分布を定量するための方法に関するものであり、本方法は、以下のことを含む:a)ポリペプチドの集団をプロテアーゼと接触させてペプチドを生成すること;b)疎水性固定相と正の表面電荷とを含むクロマトグラフィー支持体に該ペプチドを接触させること;c)該クロマトグラフィー支持体を弱酸性移動相勾配と接触させて該ペプチドを分離すること;d)分離されたペプチドを分析して該ペプチドのグルクロン酸化、イズロン酸化、及びガラクツロン酸化の相対分布を定量すること。
【0042】
B-1.特定の実施形態A-1からA-7では、プロテアーゼは、トリプシン、lys-C、Glu-C、及びAsp-Nから成る群より選択される。特定の実施形態A-1からA-7では、プロテアーゼは、トリプシンである。特定の実施形態A-1からA-7では、プロテアーゼは、lys-Cである。特定の実施形態A-1からA-7では、プロテアーゼは、Glu-Cである。特定の実施形態A-1からA-7では、プロテアーゼは、Asp-Nである。
【0043】
C-1.特定の実施形態A-1からA-7では、クロマトグラフィー支持体は、正荷電表面改質剤を有する支持体材料を含む。
【0044】
C-2.特定の実施形態A-1からA-7、B-1、及びC-1では、疎水性固定相は、表面改質剤と結合している。
【0045】
C-3.特定の実施形態C-2において、疎水性固定相は、アルキル、アルケニル、アルキニル又はアリール官能基を含む。
【0046】
C-4.特定の実施形態C-3において、疎水性固定相は、C18官能基を含む。
【0047】
C-5.特定の実施形態C-3において、クロマトグラフィー支持体は、CSHTMC18固定相を含む。
【0048】
D-1.特定の実施形態A-1からA-7、B-1、及びC-1からC-5では、分離されたペプチドは質量分析によって分析される。特定の実施形態D-1において、質量分析は、エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ESI-MS/MS)である。特定の実施形態D-1では、グルクロン酸化の相対分布は、質量分析から抽出されたイオンクロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量される。特定の実施形態D-1では、イズロン酸化の相対分布は、質量分析から抽出されたイオンクロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量される。特定の実施形態D-1では、ガラクツロン酸化の相対分布は、質量分析から抽出されたイオンクロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量される。特定の実施形態D-1では、グルクロン酸化及びイズロン酸化の相対分布は、質量分析から抽出されたイオンクロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量される。特定の実施形態D-1では、グルクロン酸化及びガラクツロン酸化の相対分布は、質量分析から抽出されたイオンクロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量される。特定の実施形態D-1では、イズロン酸化及びガラクツロン酸化の相対分布は、質量分析から抽出されたイオンクロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量される。特定の実施形態D-1では、グルクロン酸化、イズロン酸化、及びガラクツロン酸化の相対分布は、質量分析から抽出されたイオンクロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量される。
【0049】
E-1.特定の実施形態A-1からA-7、B-1、及びC-1からC-5では、分離されたペプチドは、それぞれのクロマトグラフィー保持時間によって分析される。特定の実施形態E-1において、分離されたペプチドは、UV吸光度でモニターされる、分離されたペプチドに対応する液体クロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって分析される。特定の実施形態E-1において、グルクロン酸化の相対分布は、UV吸光度でモニターされる、分離されたペプチドに対応する液体クロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量される。特定の実施形態E-1において、イズロン酸化の相対分布は、UV吸光度でモニターされる、分離されたペプチドに対応する液体クロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量される。特定の実施形態E-1において、ガラクツロン酸化の相対分布は、UV吸光度でモニターされる、分離されたペプチドに対応する液体クロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量される。特定の実施形態E-1において、グルクロン酸化及びイズロン酸化の相対分布は、UV吸光度でモニターされる、分離されたペプチドに対応する液体クロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量される。特定の実施形態E-1において、イズロン酸化及びガラクツロン酸化の相対分布は、UV吸光度でモニターされる、分離されたペプチドに対応する液体クロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量される。特定の実施形態E-1において、グルクロン酸化及びガラクツロン酸化の相対分布は、UV吸光度でモニターされる、分離されたペプチドに対応する液体クロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量される。特定の実施形態E-1において、グルクロン酸化、イズロン酸化、及びガラクツロン酸化の相対分布は、UV吸光度でモニターされる、分離されたペプチドに対応する液体クロマトグラムのそれぞれのピークを積分することによって定量される。
【0050】
F-1.特定の実施形態A-1からA-7、B-1、C-1からC-5、D-1、及びE-1において、本方法は、グルクロン酸化ペプチド、イズロン酸化ペプチド又はガラクツロン酸化ペプチドの同定を含む。特定の実施形態F-1では、本方法は、グルクロン酸化ペプチドの同定を含む。特定の実施形態F-1では、本方法は、イズロン酸化ペプチドの同定を含む。特定の実施形態F-1では、本方法は、ガラクツロン酸化ペプチドの同定を含む。特定の実施形態F-1では、本方法は、グルクロン酸化ペプチド及びイズロン酸化ペプチドの同定を含む。特定の実施形態F-1では、本方法は、イズロン酸化ペプチド及びガラクツロン酸化ペプチドの同定を含む特定の実施形態F-1では、本方法は、グルクロン酸化ペプチド及びガラクツロン酸化ペプチドの同定を含む。特定の実施形態F-1では、本方法は、グルクロン酸化ペプチド、イズロン酸化ペプチド、及びガラクツロン酸化ペプチドの同定を含む。
【0051】
F-2.特定の実施形態F-1では、上記ペプチドは、それぞれのクロマトグラフィー保持時間によって同定される。特定の実施形態F-1では、上記ペプチドは、それぞれの質量スペクトルによって同定される。特定の実施形態F-1では、上記ペプチドは、それぞれのクロマトグラフィー保持時間及質量スペクトルによって同定される。
【0052】
G-1.特定の実施形態A-1からA-7、B-1、C-1からC-5、D-1、E-1、及びF-1からF-2において、弱酸は、ギ酸又は酢酸である。
【0053】
G-2.特定の実施形態A-1からA-7、B-1、C-1からC-5、D-1、E-1、及びF-1からF-2において、酸性移動相は、グルクロン酸化、イズロン酸化又はガラクツロン酸化に関連するカルボン酸部分の50%超が脱プロトン化状態であるpHにある。特定の実施形態において、酸性移動相は、グルクロン酸化に関連するカルボン酸部分の50%以上が脱プロトン化状態であるpHにあり;酸性移動相は、イズロン酸化に関連するカルボン酸部分の50%超が脱プロトン化状態であるpHにあり;酸性移動相は、ガラクツロン酸化に関連するカルボン酸部分の50%超が脱プロトン化状態であるpHにあり;酸性移動相は、グルクロン酸化及びイズロン酸化に関連するカルボン酸部分の50%超が脱プロトン状態であるpHにあり;酸性移動相は、グルクロン酸化及びガラクツロン酸化に関連するカルボン酸部分の50%超が脱プロトン状態であるpHにあり;酸性移動相は、グルクロン酸化、イズロン酸化、及びガラクツロン酸化に関連するカルボン酸部分の50%超が脱プロトン化状態であるpHにある。特定の実施形態G-2では、弱酸性移動相勾配は、3より大きいpHを有する。特定の実施形態G-2では、弱酸性移動相勾配は、pKa値が約4.5である。
【0054】
H-1.特定の実施形態A-1からA-7、B-1、C-1からC-5、D-1、E-1、F-1からF-2、及びG-1からG-2において、ポリペプチドは抗体である。
【実施例】
【0055】
実施例1:ポリペプチドのグルクロン酸化、イズロン酸化、及びガラクツロン酸化の相対分布を定量するためのアッセイ
プロテアーゼ(トリプシン、lys-C、Glu-C、Asp-Nなど)を用いて、抗体Aポリペプチドが消化された。得られたペプチドは、CSHTM C18カラムを用いて分離された。立体選択的分離(stereoselective separation)は、グリクロン酸の負電荷と固定相の正の表面電荷との間の電荷間相互作用、及びグリクロン酸化ペプチドと疎水性固定相との間の疎水性相互作用に基づいていた。移動相に弱酸(例えばギ酸又は酢酸、但しトリフルオロ酢酸は不可)を用いる移動相勾配を採用し、グルクロン酸化ペプチド、イズロン酸化ペプチド、及びガラクツロン酸化ペプチドの分離を達成した。pH>3では、グリクロン酸部分のカルボキシ基(pKa=約4.5)の大部分が負に帯電しており、それがグリクロン酸部分と正荷電固定相との間の立体選択的な電荷間相互作用を促進するため、弱酸が選択された。
【0056】
プロテアーゼ(トリプシン、lys-C、Glu-C、Asp-Nなど)を用いて、抗体Aポリペプチドが消化された。得られたペプチドは、固定相が正に帯電していないBEH
TMC18カラムを使用して分析した。移動相にはトリフルオロ酢酸を用いる移動相勾配(pH<3)を採用した。トリフルオロ酢酸は、クロマトグラフィー分離の改善のためにピーク形状を改善する、一般的に用いられるイオン対試薬の一つである。
図4に示すように、BEH
TMC18カラムでは、立体選択的分離を達成できない。
【0057】
その後、溶出したペプチドをESI-MS/MSで分析した。グルクロン酸化ペプチド、イズロン酸化ペプチド、及びガラクツロン酸化ペプチドの同一性は、クロマトグラフィー分離のそれぞれのペプチドの保持時間(
図2、3)とESI-MS/MS分析で収集したそれぞれのペプチド質量スペクトルによって確認された。グルクロン酸化、イズロン酸、及びガラクツロン酸化の相対分布は、液体クロマトグラム(UV吸光度でモニター)又は抽出イオンクロマトグラム(分子量に基づく、
図2、3)のそれぞれのピークを積分して定量された。
【国際調査報告】