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特表2023-554009ダイヤモンドコーティングの選択的堆積方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-26
(54)【発明の名称】ダイヤモンドコーティングの選択的堆積方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/27 20060101AFI20231219BHJP
   C23F 1/28 20060101ALI20231219BHJP
   C23F 1/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C23C16/27
C23F1/28
C23F1/00 102
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535912
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(85)【翻訳文提出日】2023-07-28
(86)【国際出願番号】 EP2021085764
(87)【国際公開番号】W WO2022129095
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】102020133403.6
(32)【優先日】2020-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,プフェフィコーン
【氏名又は名称原語表記】OERLIKON SURFACE SOLUTIONS AG, PFAEFFIKON
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディートリヒ,オラフ
(72)【発明者】
【氏名】ブレイト,ディルク
【テーマコード(参考)】
4K030
4K057
【Fターム(参考)】
4K030BA27
4K030BB14
4K030CA02
4K030DA02
4K030LA22
4K057WA05
4K057WA20
4K057WB01
4K057WC08
4K057WE01
4K057WN06
(57)【要約】
本発明は、選択的ダイヤモンド被覆基材を製造するための方法であって、選択的ダイヤモンド被覆基材が、超硬合金材料を含む表面を有し、被覆されるように選択された基材表面の領域(10)及び被覆されるように選択されていない基材表面の領域(20)を有する基材(1)と、被覆されるように選択された基材表面の領域(10)上に堆積された1つ以上のダイヤモンドコーティング(30)と、を含み、該方法が、以下の工程、1つ以上の化学的前処理工程を実施する前に行われる第1のマスキング工程であって、第1のマスキング工程において、被覆されるように選択されていないが、1つ以上の化学的前処理工程の実施中に化学的に浸食される可能性がある基材表面の領域(20)が、これらの領域(20)における基材材料のいかなる薬品浸食も回避するために、これらの領域(20)を覆うラテックスマスク(50)を適用することによってマスクされる、第1のマスキング工程、ラテックスマスク(50)が完全に除去される、1つ以上の化学的前処理工程を実施した後、かつ1つ以上のコーティング工程を実施する前に行われるマスク除去工程、1つ以上のコーティング工程を実施する前に行われる第2のマスキング工程であって、第2のマスキング工程において、ラテックスマスク(50)が除去され、被覆されるように選択されないが、1つ以上のコーティング工程の実施中に1つ以上のダイヤモンドコーティング(30)で被覆され得る基材表面の領域(20)が、これらの領域上へのいかなるダイヤモンドコーティング(30)の堆積も回避するために1つ以上のマスキングカバー(60)で覆われる、第2のマスキング工程、を含む、選択的ダイヤモンド被覆基材を製造するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択的ダイヤモンド被覆基材を製造するための方法であって、前記選択的ダイヤモンド被覆基材が、
-超硬合金材料を含む表面を有し、被覆されるように選択された前記基材表面の領域(10)及び被覆されるように選択されていない前記基材表面の領域(20)を有する基材(1)と、
-被覆されるように選択された前記基材表面の前記領域(10)上に堆積された1つ以上のダイヤモンドコーティング(30)と、を含み、
前記方法が、以下の工程、
-Co結合剤が前記基材表面に含まれる前記超硬合金材料から除去される1つ以上の化学的前処理工程、及び
-被覆されるように選択された前記基材表面の前記領域(10)上に1つ以上のダイヤモンドコーティング(30)が堆積される、1つ以上のコーティング工程、を含み、
前記方法が、以下の工程、
-前記1つ以上の化学的前処理工程を実施する前に行われる第1のマスキング工程であって、前記第1のマスキング工程において、被覆されるように選択されていないが、前記1つ以上の化学的前処理工程の実施中に化学的に浸食される可能性がある前記基材表面の前記領域(20)が、これらの領域(20)における前記基材材料のいかなる薬品浸食も回避するために、これらの領域(20)を覆うラテックスマスク(50)を適用することによってマスクされる、第1のマスキング工程、
-前記ラテックスマスク(50)が完全に除去される、前記1つ以上の化学的前処理工程を実施した後、かつ前記1つ以上のコーティング工程を実施する前に行われるマスク除去工程、
-前記1つ以上のコーティング工程を実施する前に行われる第2のマスキング工程であって、前記第2のマスキング工程において、前記ラテックスマスク(50)が除去され、被覆されるように選択されないが、前記1つ以上のコーティング工程の実施中に1つ以上のダイヤモンドコーティング(30)で被覆され得る前記基材表面の前記領域(20)が、これらの領域上へのいかなるダイヤモンドコーティング(30)の堆積も回避するために1つ以上のマスキングカバー(60)で覆われる、第2のマスキング工程、を更に含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記ラテックスマスク(50)が、天然ラテックスを使用することによって適用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記天然ラテックスが、予備加硫された、50重量%~80重量%の間の固形分を有する液体天然ラテックスのタイプのものであることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記天然ラテックスが、アンモニアを含まないか、又は0.0重量%~3重量%の間の低アンモニア分率を含むことを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アンモニア分率が0.0重量%~1重量%の間であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上のマスキングカバー(60)が、銅及び/又はステンレス鋼で作られているか、又は主に銅及び/又はステンレス鋼を含む材料で作られていることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記基材(1)が、工具(1)、特にホブカッター(1)又は穿孔工具(1)であり、
実装部分(20)であって、前記実装部分(20)が、被覆されるように選択されておらず、前記1つ以上のコーティング工程中に前記基材を保持するために基材ホルダ上に実装可能であるように適合されている、前記基材表面の領域(20)として形成されている、実装部分(20)と、
特に歯(10)及び/又はドリル(10)が、被覆されるように選択された前記基材表面の領域(10)として形成される動的部分(10)であって、前記動的部分(10)が、前記工具(1)の機能性、特に切削及び/又は穿孔を提供するのに適している、動的部分(10)と、
を備えることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上へのダイヤモンドコーティングの選択的堆積を得るための方法に関し、該方法は、マスキング工程を含み、被覆されるように選択されていないが、1つ以上の化学的前処理工程の実施中に化学的に浸食される可能性がある基材表面の領域が、ラテックスマスクが、いかなる薬品浸食による影響も受けないようにする必要がある基材材料領域を覆うように、ラテックスマスクを適用することによってマスクされる。
【0002】
本発明の文脈におけるラテックスマスクは、特に、ゴムを含むか又はゴムからなる材料のマスクである。
【0003】
本発明の文脈において、ラテックスマスクは、ラテックスのゴムへの凝固から生じた材料のマスクである。
【0004】
本発明の文脈において、例えば天然ラテックス(天然ゴムを含む)を、ラテックスマスクを製造するために使用することができる。しかしながら、本発明は、天然ラテックスの使用に限定されない。
【0005】
一般に、「ラテックス」という用語は、天然ゴムを含む分散体を指すために、又は更には天然ゴム(ドイツ語では、「天然ゴム」を指すために使用される用語は、「Naturkautschuk」又は単に「Kautschuk」である)を直接指すために使用することもできる。
【0006】
ドイツ語を話す国では、「シリコーン(Silikone)」という用語は「ラテックス(Latex)」を指すために使用されることがある。
【背景技術】
【0007】
技術分野及び技術水準
超硬合金(炭化タングステンとしても知られる)の基材上にダイヤモンドコーティングを堆積させるため、被覆される基材表面は、通常、例えばKarner et al.によって米国特許第6,096,377号に記載されているように、WC-Co複合材(炭化タングステン及びコバルトとで複合化されているか、又は炭化タングステン及びコバルトとを主に含む)からCo結合剤(コバルト結合剤)を除去することによって化学的に前処理される。コーティング堆積プロセスにおいてダイヤモンドコーティングの成長及び十分な接着を確実にするためのこの工程の後、化学的に前処理された基材は、例えばKarner et al.によって米国特許第6,096,377号で言及されているように、例えばダイヤモンド粉末懸濁液を含む超音波浴内で、摩擦接触によってダイヤモンド粉末でシード、すなわち核形成される。
【0008】
具体的には、米国特許第6,096,377号に記載されている方法は、焼結金属炭化物(すなわち、Co結合剤を含む炭化タングステン焼結金属)の基材をダイヤモンド膜でコーティングするプロセスに関し、この方法は、以下のように実現することができる。
【0009】
-Coエッチング、
-炭化タングステンエッチング、
-ダイヤモンド粉末核生成、
-ダイヤモンドコーティング、
又は
-炭化タングステンエッチング、
-ダイヤモンド粉末核生成、
-Coエッチング、
-ダイヤモンドコーティング、
又は
-炭化タングステンエッチング
-Coエッチング
-ダイヤモンド粉末核生成
-ダイヤモンドコーティング
米国特許第6,096,377号では、それぞれ選択的炭化タングステンエッチング及び選択的Coエッチングを実現するための適切な化学系を使用することが更に提案されている。そのような適切な化学系は、例えば、ドイツ国特許出願公開第19 522 372号A1に記載されている。
【0010】
特に、超硬合金基材、例えば超硬合金工具上にダイヤモンドコーティングを堆積させるために、被覆される基材の表面は通常、少なくとも超硬合金材料(以下、WC-Co複合材料とも呼ばれる)からCo結合剤を除去するために化学的に前処理される。超硬合金基材は、通常、上記の化学的前処理工程を実施するために適切な酸並びにアルカリ溶液に浸漬され、その後、超音波浴内のダイヤモンド粉末懸濁液に浸漬又は露出されてシーディング工程を実施する。
【0011】
技術水準の欠点
そのような種類の前処理工程及びシーディング工程を実施するために、並びにその後ダイヤモンドコーティングの堆積を実施するために、被覆される基材が複雑な幾何学的形状を示し、基材表面のいくつかの領域(以下、選択領域又は選択部分とも呼ばれる)のみが前処理され、その後被覆される場合、大きな課題がある。
【0012】
そのような場合、被覆される基材の表面は完全に被覆されるべきではなく、選択的に被覆されるべきであり、上記の標準的又は従来の前処理工程、シーディング工程及びコーティング方法は、単純な方法で達成することができない。
【0013】
本明細書の文脈において、「選択的被覆」という用語は、基材の表面が部分的にのみ被覆されているそのような場合を指すために使用される。言い換えれば、基材の表面のいくつかの選択領域(又はいくつかの選択された「部分」)のみが、前処理され、ダイヤモンドコーティングで被覆されるように選択される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的
本発明の目的は、上述の欠点を少なくとも部分的に回避又は克服し、生態学的及び経済的に有利なダイヤモンドコーティングの堆積方法を提供し、更にコーティング品質を損なうことなく、また被覆されない基材表面を損傷することなく、選択された基材表面上にダイヤモンドコーティングを堆積させることを可能にする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の説明
本発明の目的は、以下に記載され、請求項1に記載される選択的ダイヤモンド被覆基材を得るための方法を提供することによって達成される。本発明の更なる特徴及び詳細は、それぞれの従属請求項、明細書及び図面から導き出すことができる。
【0016】
本発明は、選択的ダイヤモンド被覆基材を製造するための方法を提供し、選択的ダイヤモンド被覆基材は、
-超硬合金材料を含む表面を有し、被覆されるように選択された基材表面の領域及び被覆されるように選択されていない基材表面の領域を有する基材と、
-被覆されるように選択された基材表面の領域上に堆積された1つ以上のダイヤモンドコーティングと、を含み、
方法が、以下の工程、
-Co結合剤が基材表面に含まれる超硬合金材料から除去される1つ以上の化学的前処理工程、及び
-被覆されるように選択された基材表面の領域上に1つ以上のダイヤモンドコーティングが堆積される、1つ以上のコーティング工程、を含み、
該方法が、以下の工程、
-1つ以上の化学的前処理工程を実施する前に行われる第1のマスキング工程であって、第1のマスキング工程において、被覆されるように選択されていないが、1つ以上の化学的前処理工程の実施中に化学的に浸食される可能性がある基材表面の領域が、これらの領域における基材材料のいかなる薬品浸食も回避するために、これらの領域を覆うラテックスマスクを適用することによってマスクされる、第1のマスキング工程、
-ラテックスマスクが完全に除去される、1つ以上の化学的前処理工程を実施した後、かつ1つ以上のコーティング工程を実施する前に行われるマスク除去工程、
-1つ以上のコーティング工程を実施する前に行われる第2のマスキング工程であって、第2のマスキング工程において、ラテックスマスクが除去され、被覆されるように選択されないが、1つ以上のコーティング工程の実施中に1つ以上のダイヤモンドコーティングで被覆され得る基材表面の領域が、これらの領域上へのいかなるダイヤモンドコーティングの堆積も回避するために1つ以上のマスキングカバーで覆われる、第2のマスキング工程、を更に含む。
【0017】
マスキングカバーは、例えば、化学蒸着(CVD)技術又はプラズマ化学蒸着(PA_CVD)技術を使用することによってダイヤモンドコーティングプロセスを実施するために、ダイヤモンドコーティングプロセスを実施するのに適した任意の材料で作製され得る。それは、コーティングプロセス及びコーティング品質に悪影響を及ぼさない任意の材料を意味する。
【0018】
好ましくは、1つ以上のマスキングカバーは、銅及び/又はステンレス鋼で作られるか、又は銅及び/又はステンレス鋼を主に含む材料で作られる。
【0019】
言い換えれば、本発明は、化学的前処理及びダイヤモンドで被覆されるべきではない領域が保護されている、複雑な幾何学的形状を有する基材(以下、複雑な幾何学的形状部分とも呼ばれる)上に選択的領域化学的前処理及び選択的領域ダイヤモンド堆積を達成する方法を提供する。
【0020】
本発明者らは、本発明の方法を使用することによって得られた非常に良好な結果に驚かされた。
【0021】
本発明者らは、本発明によるラテックスマスクによる基材表面の領域のマスキングが、これらの領域の望ましくない化学的前処理を回避するために非常に適切かつ効果的であると考えており、なぜなら、ラテックスマスクは、孔がなく、水密であり、上述の化学的前処理を実施するために使用される化学溶液と反応せず、任意の化学的前処理の実施後に容易に(手で簡単に(指で))除去することができるからである。この文脈で使用される典型的な化学溶液は、例えば、特許文献である米国特許出願公開第5,700,518号においてLee et al.によって、又は論文である‘‘Murakami and HSO/H Pretreatment of WC-Co Hard Metal Substrates to Increase the Adhesion of CVD Diamond Coatings’’ published in:Journal de Physique IV Colloque,1995,05(C5),pp.C5-753-C5-760.ff10.1051/jphyscol:1995589ff.ffjpa00253951においてHaubner et al.によって言及されている化学溶液である。
【0022】
ダイヤモンドコーティングは、化学的に前処理されていない領域には非常に良好に付着せず、したがって、ダイヤモンドコーティングプロセス中にこれらの領域をマスキングすることなくダイヤモンドコーティングの堆積を実施することが可能であり得るが、本発明者らは、ダイヤモンドコーティング工程又はダイヤモンドコーティング工程(複数)を実施する前に、化学的に前処理されていない領域を銅カバーで覆うことを推奨し、これは、ダイヤモンド被覆された領域とダイヤモンド被覆されていない領域との間の良好な区別に関するより良好な品質を達成するのに大きく寄与するためである。
【0023】
化学的前処理中にマスキング材料として使用されるラテックスマスクを製造するためにラテックスを使用し、ダイヤモンドコーティング中にマスキング材料として銅を使用する利点は、これらの材料が、それぞれ化学的前処理プロセス及びダイヤモンド堆積プロセスに影響を与えることなく優れたマスキング効果を示すことである。本発明者らは、それが各それぞれのプロセス中のこの材料の各々の不活性のためであると考えている。
【0024】
本発明の方法は、様々な用途のためにダイヤモンドコーティングでコーティングすることができる任意の様々な超硬合金基材(例えば、超硬合金で作られた、又は超硬合金で作られた若しくは超硬合金を含むダイヤモンド被覆される表面を備える部品又は構成要素又は工具)に適している。
【0025】
基材は、ダイヤモンドコーティングでコーティングされない実装部分と、ダイヤモンドコーティングで被覆される非実装部分とを備えてもよい。実装部分は、基材ホルダ上に取り付け可能に構成されてもよく、基材ホルダは、コーティング工程、特に化学気相蒸着及び/又はプラズマ支援化学気相蒸着プロセスにおいて基材を保持するのに適している。
【0026】
超硬合金材料は、Co結着剤(コバルト結着剤)を含む。特に、超硬合金材料の表面はCo結合剤を含む。
【0027】
ラテックスマスクは、天然ラテックスを使用して適用されることが更に考えられる。天然ラテックスは、広範囲の細菌によって分解可能であり、その結果、より低い生態学的影響をもたらすという利点を有する。
【0028】
天然ラテックスは、50重量%~80重量%の間の固形分を有する、予備加硫された液体天然ラテックスのタイプのものであることが提供され得る。液体天然ラテックスは、容易に加工することができる。予備加硫されたラテックスは、通常、熟成期間を必要としないため、取り扱いを更に単純化する。50重量%~80重量%の間の固形分は、容易に堆積及び除去することができる高品質の非多孔質コーティングをもたらすことが分かった。
【0029】
有利には、本発明の範囲内で、天然ラテックスがアンモニアを含まないか、又は0.0重量%~3重量%の間の低アンモニア分率を含むことが提供され得る。0.0重量%~3重量%の間の低アンモニア分率は、アンモニアの分率が高い場合と比較して、深刻な汚染が少ないという利点を提供する。
【0030】
アンモニア分率が0.0重量%~1重量%の間であることが更に考えられる。0.0重量%~1重量%の間の非常に低いアンモニア分率は、ラテックスの安定性を依然として確保しながら、非常に低い生態学的影響という利点を提供する。
【0031】
1つ以上のマスキングカバー(60)は、銅及び/又はステンレス鋼で作られているか、又は主に銅及び/又はステンレス鋼を含む材料で作られているものが提供され得る。両方の材料は、そのようなマスキングカバー上に堆積されたダイヤモンドコーティングが、それぞれの材料の膨張係数間の差のために、コーティングプロセス後の冷却中に自発的に剥がれるという利点を提供する。このようにして、銅及び/又はステンレス鋼を含むか、又はそれらで作られたマスクは、コーティングプロセス及びダイヤモンドコーティングの品質に悪影響を及ぼさない。
【0032】
有利には、本発明の範囲内で、基材が、工具、特にホブカッター又は穿孔工具であり、実装部分であって、実装部分が、被覆されるように選択されておらず、1つ以上のコーティング工程中に基材を保持するために基材ホルダ上に実装可能であるように適合されている、基材表面の領域として形成されている、実装部分と、特に歯及び/又はドリルが、被覆されるように選択された基材表面の領域として形成される動的部分であって、動的部分が、工具の機能性、特に切削及び/又は穿孔を提供するのに適している、動的部分とを備えることが提供され得る。
【0033】
本発明を改善する更なる手段は、図に概略的に示されている本発明のいくつかの実施形態の以下の説明から得られる。構造的詳細、空間的配置及びプロセス工程を含む、特許請求の範囲、明細書又は図面から生じる全ての特徴及び/又は利点は、個々に及び多種多様な組み合わせで本発明に不可欠であり得る。図面は説明のためのものにすぎず、決して本発明を限定することを意図するものではないことに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1:ダイヤモンドコーティングで被覆されるように選択された基材表面の選択領域10を有する基材としてのホブ1の概略図であり、選択領域は、ホブの歯を含み、基材表面の非選択領域20は、ダイヤモンドコーティングで被覆されるように選択されていない(この場合、選択されていない領域は、ホブのいわゆる実装部分である)。
図2図2:化学的前処理の実施中に化学的浸食から保護されるべき、図1に示す2つの非選択領域20のうちの1つを覆う、本発明によるラテックスマスク50を有する、図1に示すホブ1の概略図である。
図3図3図2に示すラテックスマスク50を除去した後の、図1に示すホブ1の概略図であり、本発明による2つの銅カバー60は、コーティング工程中にダイヤモンドコーティングで被覆されるのを防ぐべき図1に示す2つの非選択領域20を覆っている。
図4図4:本発明によるコーティング工程を実施した後、及び図3に示すクーパーカバー60を除去した後の、図1に示すホブ1の概略図であり、選択的被覆ホブ1は、ダイヤモンドコーティング30で被覆された図1に示す選択領域10と、いかなる化学的前処理の影響をも受けず、またダイヤモンドコーティングが堆積されずに残っている非選択領域20とを示す(すなわち、ダイヤモンドコーティング30で被覆された選択領域10及びコーティングされていないままの非選択領域20を示す)。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明による方法を用いて選択的被覆工具を製造するための手順の例
【実施例1】
【0036】
本発明の実施例1:
本発明の方法のショーケースとして、化学的前処理プロセス及びその後の両面実装部分を有するホブカッター(両側実装部を有するこのようなホブカッターが、図1に概略的に示されている)の選択領域上にダイヤモンドコーティングを堆積させるためのコーティングプロセスを以下のように実施した。
【0037】
a)ホブカッター1の2つの実装部分20のうちの1つ、この場合、歯10を含む部分と共に化学的前処理にさらされることになる実装部分は、天然ラテックスからなるラテックスマスクで、場合によっては天然ラテックスを上記で言及された実装部分20にペイントブラシを使用して塗布することによって、及び他の場合では、通常の周囲条件(空気雰囲気)下で24時間の乾燥プロセスの後、天然ラテックスバッドに上記で言及された部分20を浸漬することによって覆われた(マスクされた)。
【0038】
b)上記工程a)を少なくとも3回繰り返した。得られたラテックスマスク50(図2に概略的に示される)は、滑らかで均一に着色された、孔のない表面(視覚的外観)を示した。
【0039】
c)歯(選択領域10)を含むホブカッターの部分、並びにラテックスマスクでマスクされた実装部分を、後に被覆されるべき基材表面の選択領域に含まれる超硬合金材料からCo結合剤を除去するための化学的前処理を実施するために一般的に使用される酸性溶液に浸漬した。
【0040】
d)ラテックスマスクをホブカッターの各実装部分から手で容易に取り外した。
e)歯(選択領域10)を含むホブカッターの部分、並びにラテックスマスクが除去された実装部分を、工程c)に記載されたように既に化学的前処理された基材表面の選択領域10をシーディングするためにダイヤモンドシーディング浴に浸漬し、後にダイヤモンドコーティングで被覆する。
【0041】
f)シーディング工程e)後に、両方の実装部分がクーパーカバーで覆われるようにホブカッター1を基材ホルダに取り付け、ダイヤモンドコーティングプロセスを実施するためのCVD(化学蒸着)コーティングチャンバの内部に基材ホルダを配置した。
【0042】
7.図3に示すように、実装部分20を銅カバー60で覆いながら、ホブカッターにダイヤモンドコーティングを堆積させた。
【0043】
コーティングプロセス中に銅カバー上に堆積したダイヤモンドコーティングの剥離は、ダイヤモンド(コーティング材料)及び銅(カバー材料)のそれぞれの材料の膨張係数間の差のために、コーティングプロセス後の冷却中に自発的に起こる。このようにして、ダイヤモンドコーティングプロセス中の銅カバーの使用は、コーティングプロセスに悪影響を及ぼすことはなく、ダイヤモンドコーティングの品質にも悪影響を及ぼさない。
【0044】
次いで、選択領域10のみが被覆され、コーティングプロセス及びコーティング品質が損なわれないように、ホブカッターを本発明に従って選択的に被覆した。
【実施例2】
【0045】
本発明の実施例2:
本発明の実施例1で上述したのと同様の手順を使用して、選択的被覆穿孔工具を製造した。
【0046】
この場合、穿孔工具の機能領域の上部は非選択領域であり、これは、上部穿孔工具表面の安定性へのいかなる影響も回避し、また、上部穿孔工具表面の幾何学的形状へのいかなる影響も回避するために、特に機械的安定性、特に(ドリルビットを含む)穿孔工具の上部分における衝撃強度のいかなる望ましくない低下も回避するために、化学的前処理もダイヤモンドコーティングによる被覆もすべきではない。
【0047】
その結果、穿孔工具の寿命を延ばすために、最終的な穿孔工具直径を画定すると考えられる穿孔工具の部分のみがダイヤモンドコーティングで被覆されるべきである。
【0048】
したがって、この実施例では、被覆される選択領域を形成する超硬合金材料からCo結合剤を除去するための任意の化学的前処理プロセスを実施する前に、ラテックスマスクを穿孔工具のドリルビットを覆って適用した。
【0049】
同様に、化学的前処理プロセスを実施した後、ラテックスマスクを機械的に除去した。
穿孔工具は、ドリルのそれぞれのシャフトを覆うために銅スリーブ内に配置され、ドリルビットは、いずれの場合もコーティングプロセス中に穿孔工具のシャフト又はドリルビット上へのダイヤモンドコーティングの望ましくない堆積を回避するために、それぞれの銅カバーで覆われている。
【0050】
本発明によるラテックスマスクを適用するために、本発明者らは、好ましくは天然ラテックス、例えば、予備加硫された、50重量%~80重量%(重量%=重量パーセント)の間の固形分を有し、アンモニアを含まないか、又はアンモニア分率が低い、好ましくは0.0重量%~3重量%の間、より好ましくは0.0重量%~1重量%の間のアンモニアの分率を有する液体天然ラテックスのタイプのものを使用することを推奨する。例えば、上記のようにラテックスマスクを塗布するために、本発明の実施例のいくつかでは、予備加硫された、60重量%の固形分を有し、0.3重量%のアンモニア分率を有する液体天然ラテックスを使用した。上記の説明、実施例及び図面は、本発明をよりよく理解するのを助けるために使用されることを意図しており、本発明の限定として理解されるべきではない。
【0051】
実施形態の上記の説明は、実施例の文脈においてのみ本発明を説明している。当然のことながら、実施形態の個々の特徴は、本発明の範囲を逸脱することなく、技術的に妥当である限り、互いに自由に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0052】
参照符号
1 基材、工具、ホブカッター
10 選択領域、歯
20 非選択領域、実装部分
30 ダイヤモンドコーティング
50 ラテックスマスク
60 マスキングカバー、銅カバー
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】