(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-26
(54)【発明の名称】少なくとも2つの異なるAlCr系ターゲットから製造された耐摩耗性コーティング
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20231219BHJP
B23C 5/16 20060101ALI20231219BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C23C14/06 P
C23C14/06 L
B23C5/16
B23B27/14 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535915
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(85)【翻訳文提出日】2023-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2021085761
(87)【国際公開番号】W WO2022129094
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,プフェフィコーン
【氏名又は名称原語表記】OERLIKON SURFACE SOLUTIONS AG, PFAEFFIKON
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エバーソルド,マリヤナ・ミオニッチ
(72)【発明者】
【氏名】フーノルト,オリバー
【テーマコード(参考)】
3C046
4K029
【Fターム(参考)】
3C046AA01
3C046AA02
3C046FF10
3C046FF11
3C046FF16
3C046FF19
3C046FF23
3C046FF24
3C046FF25
4K029BA58
4K029BB02
4K029BC02
4K029BD05
4K029CA04
4K029CA13
4K029DB04
4K029DB14
4K029DD06
4K029EA01
4K029EA03
4K029EA08
(57)【要約】
下塗り塗膜(212)と、A/B/A/B/A...構造を形成する互いに交互に堆積された複数のA層及び複数のB層からなる多層膜(216)として堆積された介在塗膜(216)とを含む、基材(201)の表面に堆積されたコーティングシステム(210)であって、A層は、アルミニウムクロム及び任意に1つ以上のドーパント元素を含み、B層は、窒化アルミニウムクロム及び1つ以上のドーパント元素を含む、コーティングシステム(210)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下塗り塗膜(212)と、A/B/A/B/A...構造を形成する互いに交互に堆積された複数のA層及び複数のB層からなる多層膜(216)として堆積された介在塗膜(216)とを含む、基材(201)の表面に堆積されたコーティングシステム(210)であって、前記A層は、アルミニウムクロム及び任意に1つ以上のドーパント元素を含み、前記B層は、窒化アルミニウムクロム及び1つ以上のドーパント元素を含み、
-前記下塗り塗膜(212)は、コーティングされる前記基材(201)の前記表面、又はいずれの場合にも、前記介在塗膜(216)よりも前記基材(201)に近い表面に堆積され、
-前記介在塗膜(216)は、前記下塗り塗膜(212)と前記上塗り塗膜(220)との間に堆積され、
-前記上塗り塗膜(220)は、前記介在塗膜(216)よりも前記基材(201)から離れて堆積され、
-前記A層が、
-アルミニウム(Al)、クロム(Cr)及び窒素(N)、又は
-アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、窒素(N)と、ホウ素(B)、イットリウム(Y)、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)、タングステン(W)、チタン(Ti)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)及びニオブ(Nb)から選択される1つ以上のドーパント元素とを含み、
-前記B層が、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、窒素(N)と、ホウ素(B)、イットリウム(Y)、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)、タングステン(W)、チタン(Ti)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)及びニオブ(Nb)から選択される1つ以上のドーパント元素とを含み、
ここで、
-前記A層は、少なくとも前記化学組成が前記B層と異なり、
-少なくとも1つの化学元素が前記B層中に存在するが前記A層中には存在しないか、若しくは前記B層中に存在するが前記A層中には存在しないか、又は
-A層及びB層の両方が同じ化学元素を含む場合であれば、前記B層中の前記化学元素の前記濃度は前記A層中の前記化学元素の前記濃度とは異なり、
かつ
-前記B層中の前記1つ以上のドーパントの前記濃度は、存在する場合、前記A層中の前記1つ以上のドーパント元素の前記濃度よりも高いことを特徴とする、コーティングシステム(210)。
【請求項2】
前記上塗り塗膜(220)が、前記コーティングシステムの最外層として堆積されることを特徴とする、請求項1に記載のコーティングシステム。
【請求項3】
前記A層の前記個々の層厚が、前記B層の前記個々の層厚よりも大きいことを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項4】
前記B層の前記個々の層厚に対する前記A層の前記個々の層厚の比が、1%~600%の間、好ましくは50%~400%大きい範囲にあることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項5】
前記下塗り塗膜(212)の前記厚さが、前記コーティングシステムの総厚さの65%~97%の間であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項6】
前記上塗り塗膜の前記厚さが、前記コーティングシステムの総厚さの3%~35%の間であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項7】
前記上塗り塗膜の前記層厚が、前記下塗り塗膜の前記層厚よりも薄いことを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項8】
-前記上塗り塗膜(220)若しくは前記上塗り塗膜(220)の少なくとも一部、又は存在する場合には、前記上塗り塗膜(220)に含まれる前記A層の少なくともいくつか及び/又は前記B層の少なくともいくつかが、
及び/又は
-前記介在塗膜(216)若しくは前記介在塗膜(216)の少なくとも一部、又は前記介在塗膜(216)に含まれる前記A層の少なくともいくつか及び/又は前記B層の少なくともいくつかが、
窒素(N)に加えて、酸素(O)及び/又は炭素(C)も含むことを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項9】
前記コーティングシステムを形成する1つのコーティング層又は1つの塗膜中の炭素及び/又は酸素の原子百分率での前記濃度が、N、C及びOの前記濃度のみを考慮する場合(それは、前記それぞれのコーティング層又は塗膜中のN、C及びOの前記濃度の合計が100at.%とみなされる場合を意味する)、3at.%~38at.%の間であることを特徴とする、請求項8に記載のコーティングシステム。
【請求項10】
クロムに対するアルミニウムの原子百分率での前記濃度の比(Al/Cr)が、前記コーティングシステムの前記総厚さに沿って変化し、前記Al/Cr濃度比の変動の前記範囲が、好ましくは69/31~79/21の間であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項11】
前記B層中の前記ドーパント元素の原子百分率での前記濃度、及び前記A層がドーパント元素を含む場合には、前記A層中のドーパント元素の原子百分率での前記濃度も、全ての元素の前記濃度を考慮する場合(それは、前記それぞれのB層又はA層の全ての元素の前記濃度の合計が100at.%とみなされる場合を意味する)0.1at.%~20at.%の間、好ましくは0.5at.%~15at.%の間であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項12】
前記B層中の前記ドーパント元素の原子百分率での前記濃度、及び前記A層がドーパント元素を含む場合には、前記A層中の前記ドーパント元素の原子百分率での前記濃度も、前記コーティングシステムの前記介在塗膜の前記総厚さに沿って変化し、変動の前記範囲は、好ましくは、前記介在塗膜中の前記それぞれのドーパント元素の前記最低濃度を基準として、0.1%~600%の間であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項13】
前記介在塗膜(216)は、異なる膜部分(216.i)を含み、iはi=1からi=nまで変化し、ここで、i及びnは自然数であり、すなわち部分(216.1から216.n)を含み、前記膜部分(216.i)の数は少なくとも1、すなわち、n≧1、好ましくは1つより多い、すなわちn≧2であり、前記介在膜部分(216.i)の各々は、下部(216.i.下)及び上部(216.i.上)を含み、前記部分の各々は、1つ以上の二重層bによって形成され、二重層bの各々は、1つの層A及び1つの層Bによって形成され、前記介在塗膜(216)の前記厚さの拡張内の全てのA層は、同じ化学元素を含むが、必ずしも同じ濃度であるとは限らず、前記介在塗膜(216)の前記厚さの拡張内の全てのB層は、同じ化学元素を含むが、必ずしも同じ濃度であるとは限らず、
互いに堆積された少なくとも2つの介在膜部分、例えば216.1及び216.2は、主な結晶配向、結晶サイズ及び/又は結晶サイズ分布-いずれも、X線回折図からのピーク強度及びピーク未満の面積並びに半値全幅から計算される-、硬度、弾性及び弾性率などの機械的特性、化学組成のうちの少なくとも1つの物理化学的特性が異なることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項14】
連続して堆積される2つの介在膜部分にそれぞれ属する少なくとも2つの下部(216.i.下は216.iに含まれ、216.i+1.下は216.i+1に含まれる)は、異なる固有応力を示し、216.iは216.i+1よりも前記基材に近く、前記基材により近い前記下部(216.i.下)は、他の下部(216.i+1.下)よりも低い固有応力を示すことを特徴とする、請求項13に記載のコーティングシステム。
【請求項15】
前記下塗り塗膜(212)が、前記層Aと同じ元素を含むことを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項16】
前記上塗り塗膜(220)が、
3)前記層Bと同じ化学元素(この場合、前記上塗り塗膜(220)は、前記層Bの堆積に使用されたのと同じターゲットを使用することによって製造され、好ましくは単層として堆積される)、又は
4)前記層Aの同じ化学元素及び前記層Bの同じ化学元素(この場合、前記上塗り塗膜(220)は、前記介在塗膜(216)における前記層A及び前記層Bの堆積に使用されたのと同じターゲットをそれぞれ使用することによって多層として製造されるが、前記上塗り塗膜(220)は、前記介在塗膜(216)と比較して、異なる層Aと層Bの厚さの比及び異なる化学組成を有し、前記上塗り塗膜(220)中の前記個々の層Bの前記厚さに対する前記個々の層Aの前記厚さは、より低いか又は等しいか又はより高いかのいずれかであるが、A
層_厚さ_220中/B
層_厚さ_220中>0であれば、A
層_厚さ_216中/B
層_厚さ_216中>A
層_厚さ_220中/B
層_厚さ_220中である)のいずれかを含むことを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項17】
前記下塗り塗膜(存在する場合)並びに前記上塗り塗膜中の前記ドーパント元素の濃度が、前記下塗り塗膜の前記総厚さに沿って変化することを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項18】
前記ドーパント元素の前記濃度が、前記コーティングシステムの前記上塗り塗膜の前記総厚さに沿って変化することを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項19】
前記変動の範囲が、前記下塗り塗膜又は前記上塗り塗膜の前記それぞれのドーパント元素の最低濃度を基準としてそれぞれ0.1%~600%の間であることを特徴とする、先行する請求項16~18のいずれかに記載のコーティングシステム。
【請求項20】
先行する請求項1~19のいずれかに記載のコーティングシステムを製造するための方法であって、前記コーティングシステムは、反応性陰極アークPVD法を用いて製造されており、前記A層の前記堆積のために、1つ以上のA
ソース-ターゲットが使用され、前記B層の前記堆積のために、1つ以上のB
ソース-ターゲットが使用され、少なくとも窒素ガスが反応性ガスとして使用され、前記A
ソース-ターゲットは、Al及びCrと、任意に、B、Y、Ta、Si、W、Ti、Ca、Mg、Fe、Co、Zn及びNbから選択される1つ以上のドーパント元素とを含み、前記B層B
ソース-ターゲットは、Al及びCrと、B、Y、Ta、Si、W、Ti、Ca、Mg、Fe、Co、Zn及びNbから選択される1つ以上のドーパント元素とを含み、前記A
ソース-ターゲット及び前記B
ソース-ターゲットは、両方が1つ以上のドーパント元素を含む場合、それらは、少なくとも1つのドーパント元素が互いに異なり、前記コーティングシステムの前記堆積中に、以下のパラメータ、
ガス圧力、温度、バイアス電圧、ソース電流、磁場形状及び/又は強度並びに反応性ガスの少なくとも1つが、
前記コーティングの以下の物理化学的特性、
主な結晶配向、結晶サイズ及び/又は結晶サイズ分布-いずれもX線回折図からのピーク強度及びピーク未満の面積並びに半値全幅から計算される-、硬度及び弾性率等の機械的特性、並びに化学組成の少なくとも1つを変化させるために変化されることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリング加工(粗面化及び仕上げの両方)などの機械加工作業において優れた耐摩耗性を示すAlCrN系コーティングに関する。本発明は更に、コーティングシステム(以下、コーティングスキームとも呼ばれる)を適用する方法に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、コーティングスキームにおけるAlCrN系層の少なくともいくつかがナノ層であり得るように、様々な厚さで堆積され得るAlCrN系層を含むコーティングスキームによる被覆物品に関する。
【0003】
この文脈における例示的な被覆物品は、エンドミルなどの切削工具、成形工具及び摩耗構成要素を含むが、これらに限定されない。
【背景技術】
【0004】
技術水準
Anders et al.は、国際公開第2016/102170号において、機械加工作業による切削工具のクレータ摩耗を低減するためのコーティングシステムを提案しており、これはホビングなどの乾式機械加工作業において特に有益であると予想される。
【0005】
Eriksson et al.による国際公開第2016/102170号による被覆物品及びコーティング方法は、既に良好な結果をもたらしている。しかしながら、安定した新たな需要の増加を満たす必要がある。したがって、上述のコーティング並びに他の現在利用可能なコーティングで達成される利点にもかかわらず、顕著な耐摩耗性、遮熱特性、及び亀裂の発生及び伝播に対する向上した耐性などの向上した特性の組み合わせを示す新しいコーティングが依然として必要とされている。
【0006】
特に、コーティングされたエンドミルの場合、被覆物品の一例に言及するために、コーティングされたエンドミルは、典型的には、その上にコーティングスキーム(コーティングシステムとも呼ばれる)を有する基材を含む。コーティングされたエンドミルは、チップ形成材料除去作業における材料の除去に有用である。ワークピースの材料、機械加工プロセス及び切断パラメータに応じて、エンドミルとチップとの界面には、大量の摩耗、特に研磨と、亀裂の形成及び伝播(特に湿式機械加工)及び/又は熱の伝達(特に乾式機械加工)の両方が存在し得る。したがって、摩耗、特に研磨摩耗、並びに亀裂の形成及び伝播(特に湿式機械加工における)及び/又は切削チップ界面での基材及びコーティングスキームと基材との間の界面(すなわち、コーティング-基材界面)への熱の伝達(特に環式機械加工における)の両方が、エンドミルの性能に有害となり得る。
【0007】
コーティングスキームは、典型的には、摩耗、亀裂形成及び伝播、並びにエンドミルチップ界面から基材及びコーティング-基材界面への熱伝達の程度に影響を及ぼす。コーティングスキームの物理化学的特性は、全ての摩耗、亀裂形成及び伝播、並びにそのような熱伝達の程度に強く影響する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的
本発明の主な目的は、技術水準によるコーティングの欠点を克服するコーティング溶液を提供することである。
【0009】
特に、本発明は、ミリング加工(粗面化及び仕上げ)両方)などの多様な機械加工作業において増大する需要を満たすのに適し得る増強された特性を示す新しいコーティングシステムを提供するはずである。
【0010】
より具体的には、本発明は、技術水準と比較して、研磨摩耗、クレータ摩耗、並びに熱亀裂の形成及び伝播の同時低減によって著しく高い耐摩耗性を可能にし、その結果、機械加工作業、特にミリング加工に使用される切削工具の切削性能及び寿命を著しく増加させるコーティングスキームを提供すべきである。さらに、本発明の目的は、切削工具のコーティングに適用可能であるべき本発明によるコーティングスキームを適用する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の説明
本発明の目的は、独立請求項1に記載のコーティングシステムを提供すること、並びに独立請求項20に記載の方法を提供することによって達成される。
【0012】
本発明の第1の態様によれば、下塗り塗膜と、A/B/A/B/A...構造を形成する互いに交互に堆積された複数のA層及び複数のB層からなる多層膜として堆積された介在塗膜とを含む、基材の表面に堆積されたコーティングシステムであって、A層は、アルミニウムクロム及び任意に1つ以上のドーパント元素とを含み、B層は、窒化アルミニウムクロム及び1つ以上のドーパント元素とを含み、下塗り塗膜は、コーティングされる基材の表面、又はいずれの場合にも、介在塗膜よりも基材に近い表面に堆積され、介在塗膜は、下塗り塗膜と上塗り塗膜との間に堆積され、上塗り塗膜は、介在塗膜よりも基材から離れて堆積され、A層は、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)及び窒素(N)、又はアルミニウム(Al)、クロム(Cr)、窒素(N)と、ホウ素(B)、イットリウム(Y)、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)、タングステン(W)、チタン(Ti)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)及びニオブ(Nb)から選択される1つ以上のドーパント元素とを含み、B層は、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、窒素(N)と、ホウ素(B)、イットリウム(Y)、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)、タングステン(W)、チタン(Ti)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)及びニオブ(Nb)から選択される1つ以上のドーパント元素とを含み、A層は、少なくとも化学組成がB層と異なり、少なくとも1つの化学元素がB層中に存在するがA層中には存在しないか、若しくはB層中に存在するがA層中には存在しないか、又はA層及びB層の両方が同じ化学元素を含む場合であれば、B層中の化学元素の濃度はA層中の化学元素の濃度とは異なり、かつB層中の1つ以上のドーパントの濃度は、存在する場合、A層中の1つ以上のドーパント元素の濃度よりも高い、コーティングシステムが開示される。
【0013】
第1の態様の別の例では、上塗り塗膜は、コーティングシステムの最外層として堆積されてもよい。
【0014】
第1の態様の別の例では、A層の個々の層厚は、B層の個々の層厚よりも大きくてもよい。
【0015】
第1の態様の別の例では、B層の個々の層厚に対するA層の個々の層厚の比は、1%~600%の間、好ましくは50%~400%大きい範囲であり得る。
【0016】
第1の態様の別の例では、下塗り塗膜の厚さは、コーティングシステムの総厚さの65%~97%の間であってもよい。
【0017】
第1の態様の別の例では、上塗り塗膜の厚さは、コーティングシステムの総厚さの3%~35%の間であってもよい。
【0018】
第1の態様の他の例では、上塗り塗膜の層厚が下塗り塗膜の層厚よりも薄くてもよい。
第1の態様の別の例では、上塗り塗膜若しくは上塗り塗膜の少なくとも一部、又はA層の少なくともいくつか及び/又はB層の少なくともいくつかは、存在する場合、上塗り塗膜に含まれてもよく、及び/又は介在塗膜、又は介在塗膜の少なくとも一部、又はA層の少なくともいくつか及び/又はB層の少なくともいくつかは、窒素(N)、酸素(O)及び/又は炭素(C)に加えて含まれる介在塗膜に含まれる。
【0019】
第1の態様の別の例では、コーティングシステムを形成する1つのコーティング層又は1つの塗膜中の炭素及び/又は酸素の原子百分率での濃度は、N、C及びOの濃度のみを考慮する場合(それは、それぞれのコーティング層又は塗膜中のN、C及びOの濃度の合計が100at.%とみなされ得る場合を意味する)、3at.%~38at.%の間であり得る。
【0020】
第1の態様の別の例では、B層中のドーパント元素の原子百分率での濃度、及びA層がドーパント元素を含む場合には、A層中のドーパント元素の原子百分率での濃度も、コーティングシステムの介在塗膜の総厚さに沿って変化してもよく、変動の範囲は、好ましくは、介在塗膜中のそれぞれのドーパント元素の最低濃度を基準として、0.1%~600%の間であってもよい。
【0021】
第1の態様の別の例では、介在塗膜は、異なる膜部分を含んでもよく、iはi=1からi=nまで変化し、ここで、i及びnは自然数であり、すなわち部分を含み、膜部分の数は少なくとも1、すなわち、n≧1、好ましくは1つより多い、すなわちn≧2であり、介在膜部分の各々は、下部及び上部を含んでもよく、部分の各々は、1つ以上の二重層bによって形成され、二重層bの各々は、1つの層A及び1つの層Bによって形成され得て、介在塗膜の厚さの拡張内の全てのA層は、同じ化学元素を含み得るが、必ずしも同じ濃度であるとは限らず、介在塗膜の厚さの拡張内の全てのB層は、同じ化学元素を含み得るが、必ずしも同じ濃度であるとは限らず、互いに堆積された少なくとも2つの介在膜部分、例えば216.1及び216.2は、主な結晶配向、結晶サイズ及び/又は結晶サイズ分布-いずれも、X線回折図からのピーク強度及びピーク未満の面積並びに半値全幅から計算される-、硬度、弾性及び弾性率などの機械的特性、化学組成のうちの少なくとも1つの物理化学的特性が異なり得る。
【0022】
第1の態様の別の例では、連続して堆積される2つの介在膜部分にそれぞれ属する少なくとも2つの下部、は、異なる固有応力を示し得て、216.iは216.i+1よりも基材に近く、基材により近い下部は、他の下部よりも低い固有応力を示し得る。
【0023】
第1の態様の別の例では、下塗りは、層Aと同じ元素を含んでもよい。
第1の態様の別の例では、上塗り塗膜は、
1)層Bと同じ化学元素(この場合、上塗り塗膜は、層Bの堆積に使用されたのと同じターゲットを使用することによって製造され得て、好ましくは単層として堆積され得る)、又は
2)層Aの同じ化学元素及び層Bの同じ化学元素(この場合、上塗り塗膜は、介在塗膜における層A及び層Bの堆積に使用されたのと同じターゲットをそれぞれ使用することによって多層として製造され得るが、上塗り塗膜は、介在塗膜と比較して、異なる層Aと層Bの厚さの比及び異なる化学組成を有し得て、上塗り塗膜(220)中の個々の層Bの厚さに対する個々の層Aの厚さは、より低いか又は等しいか又はより高いかのいずれかであり得るが、A層_厚さ_220中/B層_厚さ_220中>0であれば、A層_厚さ_216中/B層_厚さ_216中>A層_厚さ_220中/B層_厚さ_220中である)のいずれかを含み得る。
【0024】
第1の態様の別の例では、下塗り塗膜(存在する場合)並びに上塗り塗膜中のドーパント元素の濃度は、下塗り塗膜の総厚さに沿って変化してもよい。
【0025】
第1の態様の別の例では、ドーパント元素の濃度は、コーティングシステムの上塗り塗膜の総厚さに沿って変化してもよい。
【0026】
第1の態様の別の例では、変動の範囲は、下塗り塗膜又は上塗り塗膜のそれぞれのドーパント元素の最低濃度を基準としてそれぞれ0.1%~600%の間である。
【0027】
本発明の第2の態様によれば、第1の態様によるコーティングシステムを製造するための方法が開示され、コーティングシステムは、反応性陰極アークPVD法を用いて製造され、A層の堆積のために、1つ以上のAソース-ターゲットが使用され、B層の堆積のために、1つ以上のBソース-ターゲットが使用され、少なくとも窒素ガスが反応性ガスとして使用され、Aソース-ターゲットは、Al及びCrと、任意に、B、Y、Ta、Si、W、Ti、Ca、Mg、Fe、Co、Zn及びNbから選択される1つ以上のドーパント元素とを含み、B層Bソース-ターゲットは、Al及びCrと、B、Y、Ta、Si、W、Ti、Ca、Mg、Fe、Co、Zn及びNbから選択される1つ以上のドーパント元素とを含み、Aソース-ターゲット及びBソース-ターゲットは、両方が1つ以上のドーパント元素を含む場合、それらは、少なくとも1つのドーパント元素が互いに異なり、コーティングシステムの堆積中に、以下のパラメータ、
ガス圧力、温度、バイアス電圧、ソース電流、磁場形状及び/又は強度並びに反応性ガスの少なくとも1つが、
コーティングの以下の物理化学的特性、
主な結晶配向、結晶サイズ及び/又は結晶サイズ分布-いずれもX線回折図からのピーク強度及びピーク未満の面積並びに半値全幅から計算される-、硬度及び弾性率等の機械的特性、並びに化学組成の少なくとも1つを変化させるために変化される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【発明を実施するための形態】
【0029】
詳細な説明
本発明をより良く説明するために、
図1~
図8が使用される。
【0030】
図1は、特に、本発明のコーティングシステム(コーティングスキームとも呼ばれる)の好ましい実施形態を概略的に示すために使用される。
図1は、
図1a、
図1b、
図1c、並びに
図1d(a)及び(b)を含む。
【0031】
本発明によるコーティングシステムの基本的な実施形態を
図1aに概略的に示す。
本発明のコーティングシステム210(又はコーティングスキーム210)は、少なくとも3つの塗膜:下塗り塗膜212(下塗り塗膜は下塗り層とも呼ばれる場合がある)、介在塗膜216及び上塗り塗膜220(上塗り塗膜は上塗り層とも呼ばれる場合がある)を含む。
【0032】
下塗り塗膜212は、コーティングされる基材201の表面に堆積されるか、又はいずれの場合にも(基材201と下塗り塗膜212との間に他の層が堆積される場合には)、介在塗膜216よりも基材201に近い表面に堆積される。
【0033】
介在塗膜216は、下塗り塗膜212と上塗り塗膜220との間に堆積される。
上塗り塗膜220は、介在塗膜216よりも基材201から離れて堆積される。
【0034】
好ましくは、上塗り塗膜220は、コーティングシステム210の最外層として堆積される。
【0035】
介在塗膜216は、複数のタイプAの層(以下、A層ともいう)と複数のタイプBの層(以下、B層ともいう)とを含む多層膜として堆積される。
【0036】
A層及びB層は、互いに交互に堆積されて、層A/B/A/B/A...の順序を形成する。
【0037】
A層は、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)及び窒素(N)を含むか、又はアルミニウム(Al)、クロム(Cr)、窒素(N)と、ホウ素(B)、イットリウム(Y)、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)、タングステン(W)、チタン(Ti)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)及びニオブ(Nb)から選択される1つ以上のドーパント元素とを含み、すなわち、A層は、Al、Cr及びNを含み、任意に上述の1つ以上のドーパント元素を更に含む。
【0038】
B層は、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、窒素(N)と、ホウ素(B)、イットリウム(Y)、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)、タングステン(W)、チタン(Ti)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)及びニオブ(Nb)から選択される1つ以上のドーパント元素とを含み、すなわち、B層は、Al、Cr、Nと、上述の1つ以上のドーパント元素とを含む。
【0039】
好ましい実施形態によれば、B層に含まれる化学元素は、A層に含まれる化学元素と少なくとも1つの化学元素が異なり、これは、タイプAの層及びタイプBの層の両方が1つ以上のドーパントを含む場合には、B層に存在するドーパントの少なくとも1つがA層に存在しないか、又はA層に存在するドーパントの少なくとも1つがB層に存在しないことを意味し、タイプBの層(本発明の文脈ではB層とも呼ばれる)中の1つ以上のドーパントの濃度は、タイプAの層(本発明の文脈ではA層とも呼ばれる)中の1つ以上のドーパントの濃度よりも高い。
【0040】
更に好ましい実施形態によれば、B層に含まれる化学元素は、A層に含まれる同じ化学元素であってもよいが、この場合、B層とA層の両方が1つ以上のドーパントを含み、A層の化学組成は、化学元素の濃度においてB層の化学組成と異なり、B層の1つ以上のドーパント元素の濃度は、A層の1つ以上のドーパント元素の濃度よりも高い。
【0041】
本発明による方法の好ましい実施形態によれば、A層を製造するために使用されるAソース-ターゲットの化学元素組成は、B層を製造するために使用されるBソース-ターゲットの化学組成と少なくとも1つの化学元素において異なり、すなわち、Bソース-ターゲットに含まれる少なくとも1つの化学元素は、Aソース-ターゲットに含まれないか、又はAソース-ターゲットに含まれる少なくとも1つの化学元素は、Bソース-ターゲットに含まれず、Bソース-ターゲット中の1つ以上のドーパントの濃度は、Aソース-ターゲット中の1つ以上のドーパントの濃度よりも高い。
【0042】
本発明による方法の更に好ましい実施形態によれば、A層を製造するために使用されるAソース-ターゲットの化学元素組成は、B層を製造するために使用されるBソース-ターゲットの化学組成と化学元素の濃度が異なり、すなわち、Bソース-ターゲットに含まれる化学元素がAソース-ターゲットに含まれる化学元素と同一である場合には、両方の種類のターゲットが1つ以上のドーパント元素を含み、Aソース-ターゲット中の化学元素の化学元素濃度がBソース-ターゲット中の化学元素濃度とは異なり、Bソース-ターゲット中の1つ以上のドーパントの濃度は、Aソース-ターゲット中の1つ以上のドーパントの濃度よりも高い。
【0043】
介在塗膜216は、
図1bに概略的に示されているように、1つ以上の膜部分216.iからなり、iはi=1からi=nまで変化し、i及びnは自然数であり、n≧1、好ましくはn≧2である。
【0044】
これらの介在塗膜部分は、必ずしも同じ厚さである必要はない。
これらの全ての膜部分において、好ましくは全てのA層が同じターゲット(本発明の文脈ではAソース-ターゲットとも呼ばれる)を使用することによって製造され、好ましくは全てのB層が同じターゲット(本発明の文脈ではBソース-ターゲットとも呼ばれる)を使用することによって製造される。
【0045】
それらの介在塗膜部分は、以下の物理化学的特性のうちの最低でも1つが異なる:主な結晶配向、結晶サイズ及び/又は結晶サイズ分布(いずれも、X線回折図からのピーク強度及びピーク未満の面積並びに半値全幅から計算される)、機械的特性(例えば、硬度、弾性率)、化学組成。
【0046】
異なるフィルム部分216.1から216.nにおける上述の物理化学的特性に関する差(これは、異なる介在膜部分216.i間の差を意味する)は、好ましくは、コーティング堆積プロセス中に、圧力、温度、バイアス電圧、バイアス電流、ソース電流、磁場形状、磁場強度、反応性ガス流、反応性ガス分圧、コーティングチャンバに導入される反応性ガスの種類から選択される1つ以上のプロセスパラメータを変化させることによってもたらされる。
【0047】
しかしながら、介在塗膜216の堆積によるプロセスパラメータの変化にかかわらず、全ての介在膜部分216.iについて、A層及びB層のそれぞれの堆積のための同じターゲットAソース-ターゲット及び同じBソース-ターゲットを使用することによって、介在塗膜216全体が製造されることが好ましく、これはi=1~i=nを意味する。
【0048】
本発明の好ましい実施形態によれば、コーティングシステムは、
図1bに概略的に示されているように、iがi=1からi=nまで変化する異なるフィルム部分216.iを含む介在塗膜216を有するように設計されており、ここで、i及びnは自然数であり、すなわち部分216.1から216.nを含み、介在膜部分216.iの数は少なくとも1であり、すなわち、n≧1、好ましくは1より多く、すなわちn≧2であり、介在膜部分216.iの各々は、
図1b及び
図1cに概略的に示すように、下部216.i.下及び上部216.i.上側を含み、部分の各々は、1つ以上の二重層bによって形成され、二重層bの各々は、
図1dに概略的に示されているように、1つの層A及び1つの層Bによって形成され、介在塗膜216の厚さの拡張内の全てのA層は、同じ化学元素を含むが、必ずしも同じ濃度である必要はなく、介在塗膜216の厚さの拡張内の全てのB層は、同じ化学元素を含むが、必ずしも同じ濃度である必要はない。
【0049】
好ましくは、互いに堆積された少なくとも2つの介在膜部分、例えば216.1及び216.2は、主な結晶配向、結晶サイズ及び/又は結晶サイズ分布(いずれも、X線回折図からのピーク強度及びピーク未満の面積並びに半値全幅から計算される)、硬度、弾性率などの機械的特性、及び/又は化学組成の物理化学的特性の少なくとも1つが異なる。
【0050】
本発明の好ましい一実施形態によれば、それぞれの下部216.i.下に堆積された少なくとも一つの上部216.i.上は、それぞれの下部とは異なる固有応力を示す。この特徴は、好ましくは、
図1cに概略的に示されているように、下部216.i.下の堆積中に値U
iを有する一定のバイアス電圧を印加することによって、及び上部216.i.上の堆積中に値U
iから値U
i+1まで変化する可変バイアス電圧を印加することによって生成され、ここで、好ましくはU
i及びU
i+1は負バイアス電圧であり、絶対値におけるU
i+1は絶対値におけるU
iよりも高い、すなわち|U
i+1|>|U
i|である。好ましくは、連続する2つの堆積された介在膜部分(例えば、216.1に含まれる216.1.下、及び216.2に含まれる216.2.下であり、216.1は216.2よりも基材に近い)のそれぞれに属する少なくとも2つの下部は、異なる固有応力を示し、好ましくは、基材(例えば、216.1.下)に近い下部は、他の下部(例えば、216.2.下)よりも低い固有応力を示す。この特徴は、好ましくは、
図1cに概略的に示されているように、下部216.i.下の堆積中に値U
iを有する一定の負バイアス電圧を印加することによって、及び下部216.i+1.上の堆積中に値U
i+1を有する異なる一定の負バイアス電圧を印加することによって生成され、絶対値のバイアス電圧U
i+1は、絶対値のバイアス電圧U
iよりも高く、すなわちU
i+1>U
iである。例えば、216.1.下の堆積のための第1の一定の負バイアス電圧U
1及び216.2.下の堆積のための第2の一定の負バイアス電圧U
2を印加することによって、216.1.下は216.2.下よりも基材に近く、U
1はU
2よりも絶対値において低く、すなわち|U
1|<|U
2|であり、216.2.下の固有応力は216.1.下の固有応力よりも高いことが達成される。この文脈における固有応力は、好ましくは圧縮応力である。
【0051】
図1dに概略的に示すように、それぞれの下部及び上部に二重層bとして存在するA層及びB層は、好ましくはナノ層として堆積される。
【0052】
上部216.i.上の厚さは、上部216.i.上が堆積される対応する下部216.i.下の厚さよりも小さく、すなわち、厚さ216.i.下>厚さ216.i.上の厚さである。
【0053】
介在塗膜216はまた、
図1bに概略的に示すように最上層216_TPを含むことができる。
【0054】
好ましくは、介在塗膜216の堆積中に負バイアス電圧が印加され、好ましくは、負バイアス電圧の値は、介在塗膜216の堆積開始時に使用されるより低いバイアス電圧U1から、介在塗膜216の堆積終了時に使用されるより高いバイアス電圧Unまで(絶対値において)増加される。好ましくは、このバイアス電圧変動は、バイアス電圧がそれぞれの下部216.i.下の堆積中に値Uiで可能な限り一定に維持され、それぞれの上部216.i.上の堆積中にUiからより高い値Ui+1まで徐々に増加するように行われる。
【0055】
本発明によれば、
図1dに概略的に示されているように、A層の個々の層厚は、B層の個々の層厚よりも大きい。
【0056】
B層の個々の層厚に対するA層の個々の層厚の間の比は、50%~400%の間大きい範囲である。
【0057】
下塗り塗膜212の厚さは、コーティングシステム210の総厚さの65%~97%の間であることが好ましい。
【0058】
上塗り塗膜220の厚さは、コーティングシステム210の総厚さの3%~35%の間であることが好ましい。
【0059】
上塗り塗膜の層厚は、下塗り塗膜212の層厚よりも薄い220であることが好ましい。
【0060】
本発明の好ましい実施形態によれば、
-上塗り塗膜220及び/又は介在塗膜216、又は
-上塗り塗膜220の少なくとも一部分(すなわち、完全な拡張を含まずに上塗り塗膜220の厚さに沿って延在する上塗り塗膜220の一部分、又はその厚さに沿って上塗り塗膜220の全体)及び/又は介在塗膜216の少なくとも一部は、
窒素(N)に加えて、酸素(O)及び/又は炭素(C)を含み、
このようにして、
-上塗り塗膜220及び/又は介在塗膜216、又は
-上塗り塗膜220の少なくとも一部分及び/又は介在塗膜216の少なくとも一部分を、
金属窒化物だけでなく、金属酸窒化物又は金属炭窒化物又は金属カルボキシ窒化物(carboxynitride)も含むものとすることができる。
【0061】
コーティングシステム210を形成する1つのコーティング層又は1つの塗膜中の炭素及び/又は酸素の原子百分率での濃度は、N、C及びOの濃度のみを考慮する場合(それは、それぞれのコーティング層又は塗膜中のN、C及びOの濃度の合計が100at.%とみなされ得る場合を意味する)、3at.%~38at.%の間であることが好ましい。
【0062】
クロムに対するアルミニウムの原子百分率での濃度の比(Al/Cr)は、好ましくは、コーティングシステムの総厚さに沿って変化する。この場合のAl/Cr濃度比の変動範囲は、69/31~79/21の間であることが好ましい。
【0063】
B層中のドーパント元素の原子百分率での濃度、及びA層がドーパント元素を含む場合には、A層中のドーパント元素の原子百分率での濃度も、全ての元素の濃度を考慮する場合(それは、それぞれのB層又はA層の全ての元素の濃度の合計が100at.%とみなされる場合を意味する)0.1at.%~20at.%の間、好ましくは0.5at.%~15at.%の間である。
【0064】
B層中及びA層がドーパント元素を含む場合、A層中のドーパント元素の原子百分率での濃度は、好ましくは、コーティングシステムの介在塗膜の総厚さに沿って変化する。変動の範囲は、好ましくは、介在塗膜中のそれぞれのドーパント元素の最低濃度を基準として、0.1%~600%の間である。
【0065】
下塗り塗膜212は、層Aと同じ元素を含むことが好ましい。
上塗り塗膜220は、
-好ましくは、層Bと同じ化学元素(これは、上塗り塗膜220が単層として堆積され得ることを意味する)、又は
-好ましくは、層Aの化学元素及び層Bの化学元素の両方(これは、上塗り塗膜220が、介在塗膜216の堆積に使用される同じターゲットの使用によって製造されるが、介在塗膜216と比較して、異なる層A及びBの厚さの比、並びに異なる化学組成を有する層A及びBを含む多層周期性を有する多層として堆積され得ることを意味する)のいずれかを含む。上塗り塗膜220における層Bの厚さに対する層Aの厚さは、より低くても、又は等しくても、又はより高くてもよいが、最後の場合、それは、部分216におけるよりも低くなければならず、すなわちA層_厚さ_220中/B層_厚さ_220中>0である場合には、
A層_厚さ_216中/B層_厚さ_216中>A層_厚さ_220中/B層_厚さ_220中である。
【0066】
全ての層Aが同じAソース-ターゲットから製造され、全てのB層が同じBソース-ターゲットから製造されるにもかかわらず、これは、全てのA層の化学組成が同じであることを意味するわけではなく、全てのB層の化学組成が塗膜の厚さに沿って、又はこれらのA層及びB層を含む塗膜の部分に沿って同じであることも意味し、これは、プロセスパラメータを変えることができるため、コーティング堆積中に使用される異なるプロセスパラメータの影響のために、それぞれのA層及びB層中の化学元素の濃度も変えることができるからである。
【0067】
同様に、1つの塗膜が同じ1つ又は複数のターゲットから製造されるにもかかわらず、既に上述したようにコーティング堆積中に使用されるプロセスパラメータの影響のために、この塗膜の化学組成が塗膜の厚さに沿って同じであることを意味しない。
【0068】
下塗り塗膜212中及び/又は上塗り塗膜220中にドーパント元素が存在する場合、その濃度は、下塗り塗膜212の総厚さ及び/又はコーティングシステム210の上塗り塗膜220の総厚さに沿って変化することが好ましい。変動の範囲は、好ましくは、下塗り塗膜又は上塗り塗膜のそれぞれのドーパント元素の最低濃度を基準としてそれぞれ0.1%~600%の間である。
【0069】
本発明のコーティングシステム(これに関連して既に上述したコーティングスキームとも呼ばれる)は、上述したように、以下の困難な要件:
-研磨摩耗の低減、
-クレータ摩耗の低減、
-熱亀裂の形成及び伝播の低減/抑制、並びに
-エンドミルチップ界面から基材及びコーティング-基材界面への熱伝達を可能にする
を同時に満たすことを可能にする、特に本発明の方法で調整された層構成を含む。
【0070】
本発明によるコーティングシステムを使用することによって得られる驚くべき利点を例示するために、いくつかの例を以下に記載する。これらの実施例は、本発明の限定として理解されるべきではなく、単なる実例として理解されるべきである。
【実施例1】
【0071】
本発明のコーティングシステム210のいくつかの実施例の堆積に使用されるプロセスパラメータ:
○ 圧力範囲:0.1Pa~9Pa(N2分圧制御)
○ 基材温度の範囲:200℃~600℃
○ バイアス電圧の範囲:+20V~-300V
○ ソース電流の範囲:50A~200A
発明実施例の堆積のために、コーティングパラメータを上記の範囲から選択し、必要に応じて様々な特性に変更した。
【0072】
元素である窒素、炭素及び酸素は、それぞれの反応性ガス、例えば窒素を提供するためのN2ガス、酸素を提供するためのO2ガス、炭素を提供するためのC2H2又はCH4を使用することによって、コーティングシステム210の形成のためにコーティングチャンバ内に提供された。
【0073】
Al、Cr及びドーパント元素を提供するために、固体ターゲットを蒸発させるカソードとして使用し、このようにしてコーティングシステムを形成するための材料源として使用した。
【0074】
ターゲットは、好ましくは、アークPVD源として使用されるアーク蒸発器のカソードとして動作した。
【0075】
プロセスが反応性であることを意味する:反応性カソードPVDコーティングプロセス。
【0076】
コーティングスキーム210の堆積のためのコーティングプロセス全体の間、最低でも2つの相互に異なるターゲット(相互に異なるターゲットは、一方のターゲットが他方のターゲットと異なることを意味する)が使用された。これらのターゲットは、以下の態様のうちの最低でも1つに関して互いに異なっていた:
1)全Al+Cr含有量中のAlの濃度(at.%単位でのAl/(Al+Cr)を意味する)、及び/又は
2)全金属濃度に対する全ドーパントの合計濃度及び/又は
3)全ドーパント濃度及び/又は総元素濃度に対するドーパントのうちの1つの濃度。
【0077】
本実施例では、Al及びCr源としてAlCr金属ターゲットを使用し、AlCr金属ターゲットは、Al及びCrに対して最小68%のAlの濃度(at.%でのAl/(Al+Cr))を有する。
【0078】
全てのドーパント(金属又は半金属ドーパント)は、AlCrターゲット中のドーパントとして直接提供された。
【0079】
以下の実施例では、AlCrターゲットをAソース-ターゲットとして使用し、AlCrBターゲットをBソース-ターゲットとして使用したが、これらの実施例は本発明を限定するものとして理解されるべきではなく、単なる実例として理解されるべきである。
【実施例2】
【0080】
切削試験の結果:
焼入れ鋼(鋼種1.2344)の湿式条件での38HRC粗面化及び45HRC仕上げのミリング加工。38HRC粗面化試験は、試験例1と呼ばれる。
【0081】
45HRC仕上げ試験は、試験例2と呼ばれる。
試験例1は、以下のようにラベル付けされたコーティングされた切削エンドミルの試験を含む:
-技術水準=商業市場におけるベンチマークコーティング
-本発明で与えられる例示的な本発明のコーティング1、2、3。
【0082】
38HRC粗面化の試験パラメータ:ここでは、エンドミルを使用した粗面化の性能を試験する。ワークピース材料は、38HRC焼入れ鋼(1.2344)である。工具は、4つの歯を有する直径=10mmの超硬エンドミルである。切断パラメータを以下に示す:切断速度Vc=175m/分;送り速度f=0.05mm/歯;切断深さap=5.0mm;カットの幅ae=4mm;外部冷却:湿式;及び摩耗基準:VBmax=120μm。技術水準と3つの発明実施例とを比較した工具寿命(%)を
図1に示す。試験期間後の摩耗の進行の違いは、技術水準及び1つの発明実施例について
図2に示されている。
図2には、代表例である4つの主刃先のうちの1つが示されている。
【0083】
図2は、試験例1、すなわち、市場ベンチマークとしての技術水準に対して試験された3つの例示的な発明(発明実施例1、2、3)の耐摩耗性コーティングスキームの38HRC焼入れ鋼(鋼種1.2344)適用の湿式ミリング加工切削試験におけるコーティングされた超硬エンドミルの寿命の比較を示す。本発明のコーティングは、市場ベンチマークとしての技術水準と比較して、最大220%の工具寿命の顕著な増加を有することが分かる。
【0084】
図3は、試験された工具の中から選ばれた1つの変形例当たり1つの工具の代表的な例で与えられた試験例1におけるコーティングされた超硬エンドミルの摩耗及び摩耗の進展を示す図であり、ベンチマークとしての技術水準に対して試験された発明実施例1の耐摩耗性コーティングスキームの38HRC焼入れ鋼(鋼種1.2344)の湿式ミリング切削試験を示す図である。本発明のコーティングと比較して、技術水準のコーティングでは、両方の摩耗、特に開始摩耗がはるかに高く、摩耗の進行がはるかに速いことが分かる。したがって、技術水準コーティングは、
図2の工具寿命の実施例1の試験によって示されるように、早期に破損した。対照的に、実施例1の本発明のコーティングは、最大摩耗(VBmax)によって定義される工具寿命の終わりまで、チッピングのない非常に低い開始摩耗及び均一な摩耗の進行を有する。
【0085】
試験例2は、以下のようにラベル付けされたコーティングされた切削エンドミルの試験を含む:
-技術水準=商業市場におけるベンチマークコーティング
-本発明で与えられる例示的な本発明のコーティング1、2、4。
【0086】
45HRC仕上げの試験パラメータ:ここでは、エンドミルを使用した仕上げの性能を試験する。ワークピース材料は、45HRC焼入れ鋼(1.2344)である。工具は、4つの歯を有する直径=10mmの超硬エンドミルである。切断パラメータを以下に示す:切断速度Vc=150m/分;送り速度f=0.1mm/歯;切断深さap=5.0mm;カットの幅ae=0.5mm;外部冷却:湿式;及び摩耗基準:VBmax=140μm。技術水準と3つの発明実施例(1、2、4)とを比較した工具寿命(%)を
図3に示す。試験期間後の摩耗の進行の違いは、技術水準及び1つの発明実施例(4)について
図5に示されている。
図5には、代表例として4つの主刃先のうちの1つが示されている。
【0087】
図4は、試験例2、すなわち、市場ベンチマークとしての技術水準に対して試験された3つの例示的な発明(発明実施例1、2、4)の耐摩耗性コーティングスキームの45HRC焼入れ鋼(鋼種1.2344)適用の湿式ミリング加工切削試験におけるコーティングされた超硬エンドミルの寿命の比較を示す。本発明のコーティングは、市場ベンチマークとしての技術水準と比較して、最大200%の工具寿命の顕著な増加を有することが分かる。
【0088】
図5は、試験された工具の中から選ばれた1つの変形例当たり1つの工具の代表的な例で与えられた試験例2におけるコーティングされた超硬エンドミルの摩耗及び摩耗の進展を示す図であり、ベンチマークとしての技術水準に対して試験された発明実施例2の耐摩耗性コーティングスキームの45HRC焼入れ鋼(鋼種1.2344)の湿式ミリング切削試験を示す図である。本発明のコーティングと比較して、技術水準のコーティングでは、両方の摩耗、特に開始摩耗がはるかに高く、摩耗の進行がはるかに速いことが分かる。したがって、技術水準コーティングは、
図4の工具寿命の実施例2の試験によって示されるように、早期に破損した。対照的に、実施例2の本発明のコーティングは、最大摩耗(VBmax)によって定義される工具寿命の終わりまで、チッピングのない非常に低い開始摩耗及び均一な摩耗の進行を有する。
【0089】
表1に、技術水準のコーティング及び本発明のコーティングの特性を示す。これらの特性は、硬度(H)、弾性率(E)、比H/E、比H3/E2及び圧縮応力である。表1に示す本発明のコーティングの特性は、これらの本発明のコーティングには、技術水準の例に対して、Eの増加、H値の低下、H/Eの比のわずかな低下、H3/E2の比の明らかな低下、及び圧縮応力の上昇があるという特徴を共通して有することを示している。さらに、著しく高い圧縮応力は、耐摩耗性に有益なレベルに維持されるが、基材とコーティングとの間の破損が生じていないレベルにある。これらは全て、合金化及びドーピングを含む専用の化学と組み合わせて、専用の新しい構造と組み合わせることで、研磨摩耗の低減、クレータ摩耗の低減、熱亀裂の形成及び伝播の低減/抑制、並びにここに示す本発明のコーティングのエンドミルチップ界面から基材及びコーティング-基材界面への熱伝達の可能化を同時に可能にする。
【0090】
表1は、技術水準のコーティング及び本発明のコーティングの実施例の特性(硬度、弾性率、それらの比及び圧縮応力)を示す。
【0091】
【国際調査報告】