(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-26
(54)【発明の名称】一体型熱開口部を有するレーザダイオード
(51)【国際特許分類】
H01S 5/024 20060101AFI20231219BHJP
H01S 5/185 20210101ALI20231219BHJP
【FI】
H01S5/024
H01S5/185
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535921
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(85)【翻訳文提出日】2023-08-08
(86)【国際出願番号】 EP2021085730
(87)【国際公開番号】W WO2022129075
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】102020133368.4
(32)【優先日】2020-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521338765
【氏名又は名称】フェルディナント-ブラウン-インスティツット ゲーゲーエムベーハー, ライプニッツ-インスティツット フュー ヘーヒストフレクエンツテヒニク
【氏名又は名称原語表記】FERDINAND-BRAUN-INSTITUT GGMBH, LEIBNIZ-INSTITUT FUR HOCHSTFREQUENZTECHNIK
【住所又は居所原語表記】Gustav-Kirchhoff-Strasse 4 12489 Berlin (DE)
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】デラ カーサ, ピエトロ
(72)【発明者】
【氏名】クランプ, ポール
(72)【発明者】
【氏名】エラッタール, モハメド
(72)【発明者】
【氏名】カロウ, マティアス エム.
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AB90
5F173AF72
5F173AF80
5F173AH03
5F173AR72
(57)【要約】
本発明は、一体型熱開口部を有するダイオードレーザに関する。
本発明によるレーザダイオード(10)は、nドープ半導体材料(12)とpドープ半導体材料(16)との間に形成された活性層(14)を備え、活性層(14)は、電磁放射線を生成するために長手方向軸に沿って幅wを有する活性領域(40)を形成し、pドープ半導体材料(16)および/またはnドープ半導体材料(12)において、対応する半導体材料(16、12)の熱伝導係数k
bulkよりも小さい熱伝導係数k
blockを有する層形状に形成された熱開口部(18)が、活性領域(40)から、対応する半導体材料(16、12)の活性層(14)とは反対の側への空間的で選択的な熱輸送のために形成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
nドープ半導体材料(12)とpドープ半導体材料(16)との間に形成された活性層(14)であって、電磁放射線を生成するために長手方向軸に沿った幅wを有する活性領域(40)を形成する、活性層(14)
を備えるレーザダイオード(10)において、
前記pドープ半導体材料(16)において、前記活性領域(40)から、前記pドープ半導体材料(16)の前記活性層(14)とは反対の側への空間的で選択的な熱輸送のために、前記pドープ半導体材料(16)の熱伝導係数k
bulkよりも小さい熱伝導係数k
blockを有する層形状に形成された熱開口部(18)が形成されること、または、
前記nドープ半導体材料(12)において、前記活性領域(40)から、前記nドープ半導体材料(12)の前記活性層(14)とは反対の側への空間的で選択的な熱輸送のために、前記nドープ半導体材料(12)の熱伝導係数k
bulkよりも小さい熱伝導係数k
blockを有する層形状に形成された熱開口部(18)が形成されること
を特徴とする、レーザダイオード(10)。
【請求項2】
前記熱開口部(18)が半導体材料からなる、請求項1に記載のレーザダイオード(10)。
【請求項3】
前記熱開口部(18)は、周期的に交互に配置された材料で形成される、請求項1または2に記載のレーザダイオード(10)。
【請求項4】
前記熱開口部(18)は、前記活性領域(40)から前記レーザダイオード(10)の外側に向かう熱流(42)のために、前記活性層(14)に平行に配置されたスリット状の通路領域を形成する、請求項1~3のいずれか一項に記載のレーザダイオード(10)。
【請求項5】
前記スリット状の通路領域は、前記活性領域(40)について内側に配置されている、請求項4に記載のレーザダイオード(10)。
【請求項6】
前記活性領域(40)の外縁と前記熱開口部(18)の最も近い内縁との間の横方向距離dxは、-w/6≦dx≦+w/6である、請求項1~5のいずれか一項に記載のレーザダイオード(10)。
【請求項7】
前記活性層(14)の中心と前記熱開口部(18)の頂部との間の垂直距離dyは、0μm≦dy≦1μmである、請求項1~6のいずれか一項に記載のレーザダイオード(10)。
【請求項8】
前記熱開口部(18)は、0.3μm~3μmの開口部厚さd
blockを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のレーザダイオード(10)。
【請求項9】
前記熱伝導係数k
blockは、対応する前記熱伝導係数k
bulkの最大30%である、請求項1~8のいずれか一項に記載のレーザダイオード(10)。
【請求項10】
前記nドープ半導体材料(12)内に層状に形成された熱開口部(18)が形成され、かつ前記pドープ半導体材料(16)内に層状に形成された熱開口部(18)が形成される、請求項1~9のいずれか一項に記載のレーザダイオード(10)。
【発明の詳細な説明】
【説明】
【0001】
本発明は、一体型熱開口部を有するレーザダイオードに関する。
【技術水準】
【0002】
広域ダイオードレーザ(BAL)は、特に高い効率および輝度を示すことができる。これらのエミッタにより、15W超の出力パワーを確実に達成することができる。BALは、近赤外(NIR)放射に最も効率的な光源であるため、固体レーザおよびファイバレーザのポンプ源として広く使用されている。BALはまた、高い壁プラグ効率で材料処理のための高放射輝度のビームを送達するように設計されたファイバ結合レーザシステムの重要な要素である。これらのシステムの出力パワーを増加させ、それらのコストを削減するために、低速軸のビーム品質を改善することが重要であり、なぜなら、低速軸のビーム品質を改善することにより、低開口数(NA)ファイバ内のより多くのエミッタの結合が可能になるからである。
【0003】
しかしながら、高い光出力パワーおよび関連する動作電流では、一般にビーム品質の著しい劣化があり、これはファイバの結合に特に悪影響を及ぼす。低速軸の熱レンズ(電荷キャリアまたは利得誘導導波ではなく)は、動作電流が増加したときのビーム品質劣化の主な原因の1つであることが示されている(Bai,J.G.et al,Mitigation of Thermal Lensing Effect as a Brightness Limitation of High-Power Broad Area Diode Lasers,Proc.SPIE 7953,79531F(2011))。したがって、高出力パワーでのビーム品質の劣化の決定的な要因は、レーザストライプの下の中央領域の温度上昇による横方向の温度勾配の形成であり、これは屈折率の局所的な増加をもたらし、したがって追加の横方向導波路をもたらし、結果としてより大きな発散角をもたらす。
【0004】
特に、熱輸送を改善するために、レーザ共振器の拡張またはレーザダイオードとサブマウントとの間の熱流の影響(熱経路技術;例えば、Baiら、ドイツ登録特許二次公報102013114226および米国特許出願公開20160315446号明細書を参照)が提案されている。これにより、横方向の温度勾配を低減し、生成される熱レンズを平坦化することができる。しかしながら、共振器が長いダイオードレーザは、製造コストが高くなる。しかしながら、最近、レーザダイオードと適切なメタライゼーションとの間の界面に高い熱障壁が形成され、熱レンズに対する熱経路技術の有効性を著しく低下させることが示されている(Rieprich,J.et al,Chip-carrier thermal barrier and its impact on lateral thermal lens profile and beam parameter product in high power broad area lasers,J.Appl.Phys.123,125703(2018))。
【0005】
横方向の温度勾配を低減する別の方法は、外部熱源を用いてレーザダイオードをさらに加熱することである(Hohimer,J.P.,Mode control in broad area diode lasers by thermally induced lateral index tailoring,Appl.Opt.Phys.Lett.52,260(1988))。しかしながら、外部熱源のダイオードレーザへの統合は非常に複雑であり、したがってあまり実用的ではない。
【0006】
横方向の温度勾配の低減は、特別に適合された層構造を介して達成することもできる(Winterfeldt,M.et al,Assessing the Influence of the Vertical Epitaxial Layer Design on the Lateral Beam Quality of High-Power Broad Area Diode Lasers,Proc.SPIE 9733,97330O(2016))。しかしながら、そのような調整は、横方向ビーム品質をわずかに改善することしかできない。さらに、そのような調整は、特定のレーザ設計でのみ可能である。
【発明の開示】
【0007】
したがって、本発明の目的は、横方向の温度勾配を低減することができ、かつ、生成される熱レンズを平坦化することができるレーザダイオードを提供することにある。特に、レーザダイオードは、チップの外部の層構造(例えば、メタライゼーション)において、外部熱源または調整を必要とするべきではなく、すなわち、ダイオードレーザ内のモノリシック一体型構造のみに基づくべきである。
【0008】
これらの目的は、本発明によれば、特許請求項1の特徴によって達成される。本発明の適切な実施形態は、それぞれの従属請求項に含まれる。
【0009】
本発明によるレーザダイオードは、nドープ半導体材料とpドープ半導体材料との間に形成された活性層を備え、活性層は、電磁放射線を生成するために幅wを有する活性領域を長手方向軸に沿って形成し、pドープ半導体材料において、pドープ半導体材料(例えば、活性領域とレーザダイオードの冷却された下側との間にあるpドープ半導体材料)の熱伝導係数kbulkよりも小さい熱伝導係数kblockを有する層形状に形成された熱開口部が、活性領域から、活性層とは反対のpドープ半導体材料の側への空間的で選択的な熱輸送のために形成され、またはnドープ半導体材料の熱伝導係数kbulkよりも小さい熱伝導係数kblockを有する層形状に形成された熱開口部が、活性領域から、nドープ半導体材料の活性層とは反対の側への空間的で選択的な熱輸送のために、nドープ半導体材料に形成される。
【0010】
したがって、本発明による熱開口部は、pドープ半導体材料およびnドープ半導体材料の両方に形成することができ、形成は、好ましくは対応する半導体材料内で行われる。以下では、p側の熱開口部を例として想定するが、説明はn側の熱開口部にも当てはまる。
【0011】
レーザダイオードは、メタライゼーションの有無にかかわらず半導体材料からなる層構造(いわゆるレーザチップ)であると理解される。半導体材料という用語は、ここでは、任意の半導体材料または半導体材料の組み合わせ、例えばAlInGaAsNSb材料系の組み合わせを指すために一般的に使用される。特に、nドープ半導体材料およびpドープ半導体材料はそれぞれ、異なる組成の異なる種類または異なるドーピングレベルの対応する半導体材料の層系を含むこともできる。したがって、使用は、n側半導体材料およびp側半導体材料という用語と同義であると理解されるべきである。
【0012】
活性層は、nドープ半導体材料とpドープ半導体材料との間の遷移領域に形成される。電磁放射線の生成は、活性領域内の活性層の電気的にポンピングされた領域で起こる。レーザダイオードの動作中に生成される熱の大部分はそこで生成され、それに応じて放散されなければならない。これは、特にサブマウントを介して行うことができ、それによって、サブマウントは、例えば、活性領域の下のレーザダイオードの下側に熱伝導的に接続することができる。レーザダイオードの下側とサブマウントとの間の接続は最新技術であり、特にはんだ付けまたは接着によって行うことができる。
【0013】
本発明によれば、活性領域からレーザダイオードの下側への空間的で選択的な熱輸送のために、周囲のpドープ半導体材料の熱伝導係数kbulkよりも小さい熱伝導係数kblockを有する層形状に形成された熱開口部が、活性領域の下のpドープ半導体材料内に形成される。熱伝導係数(熱伝導率または熱伝導係数とも呼ばれる)は、熱伝導に基づいて材料を通る熱流を決定する。この値が低いほど、材料の熱伝導特性が悪くなる。本発明によれば、熱開口部は、横方向の従来の拡大領域(活性領域の横方向下方)の熱抵抗を局所的に増加させることによって、活性領域とレーザダイオードの下側との間の領域における熱流の空間的な横方向の拡大を打ち消すことによって、横方向の温度勾配を低減する(すなわち、熱レンズを平坦化する)ように意図されている。その熱抵抗の増加の結果として、側方領域(熱開口部)の局所温度は、出力パワーの増加に伴ってストライプ内(中央領域内)でより多くの熱が生成されるにつれて増加する。これは、中央領域と側方領域との間のより低い温度勾配、したがってより平坦な熱レンズに対応する。
【0014】
2つの熱伝導係数の間の関係に関して、活性領域の下のpドープ半導体材料の熱伝導係数kbulkが特に重要である。いくつかの層から構成されるpドープ半導体材料の場合、個々の層はそれぞれわずかに異なる熱伝導係数klayerを有し得る。次いで、熱伝導係数kbulkは、熱流に関与するすべての層の、結果として生じる熱伝導係数と見なすことができる。近似として、活性領域の下のpドープ半導体材料の平均熱伝導係数も、pドープ半導体材料の熱伝導係数kbulkに使用することができる。代替的に、近似として、pドープ半導体材料の熱伝導係数kbulkは、pドープ半導体材料のpコンタクト層の熱伝導係数kKSと等しくすることもできる。
【0015】
したがって、本発明の着想は、特に、モノリシックに一体化された熱開口部(内部熱経路技術)をレーザダイオードに直接統合することによって平坦な熱レンズを実現することである。対照的に、外部熱経路技術は、固有の半導体-金属熱障壁の存在のためにあまり効果的ではない。本発明による熱開口部はまた、活性領域の非常に近くに設置することができ、横方向の熱流の広がりを最小限に抑え、特に平坦な熱レンズをもたらす。したがって、従来技術から公知の熱経路技術をレーザダイオード内に適用することができ、その有効性および効率を大幅に高めることができる。
【0016】
好ましくは、熱開口部は半導体材料からなる。半導体材料は、(低い熱伝導係数kblockのために)特に低い熱伝導率を有するべきである。さらに、導電性が高いことが好ましい。特に、熱開口部は、pドープ半導体材料と同じ半導体材料系(例えば、GaAs基板上のAlInGaAsP複合材の場合:p半導体材料としてのGaAsおよびAlGaAs)から構築することができる。インジウムおよび/またはリンの含有量(例えば、GaAs基板上のAlInGaAsP複合材の場合:p型半導体材料としてのGaAsおよびAlGaAs、熱開口部としてのInGaPまたはInGaAsP)を変化させることにより、熱伝導係数kblockを下げることができる。
【0017】
好ましくは、特に小さい熱伝導係数kblockを達成するために、熱開口部は、周期的に交互に配置された材料(例えば、異なる半導体、または半導体と空気)から形成され、材料間に多数の規則的な交互性があり、熱伝導率klayerの差が大きい多くの界面を形成する。界面を横切る熱輸送は制限され、熱伝導率kblockがさらに低減される(J.Piprek et al,Thermal conductivity reduction in GaAs-AlAs distributed Bragg reflectors,in IEEE Photon.Tech.Lett.10,81(1998)を参照)。
【0018】
好ましくは、熱開口部はフォトニック結晶構造で実現することができる。フォトニック結晶構造は、結晶格子内の光子の動きに影響を及ぼし得る3D周期的ナノ構造であると理解される。典型的には、高屈折率コントラストを生成するために、空気または他の特に低屈折率材料で充填された開放部(「空気孔」)が構造内に形成される。これらの開放部および複数の材料の移行は、これらの材料の熱伝導率の特に大幅な低減の原因となる。要約すると、フォトニック結晶構造を使用して、良好な光学特性および非常に低い熱伝導率を有する領域を作成することができる。同じことが、2つの異なる材料、特に半導体材料の薄層が互いの上に交互に配置された1D周期格子(超格子)にも当てはまる。
【0019】
したがって、本発明によるレーザダイオードでは、追加の熱開口部にもかかわらず、活性領域の下の領域の光学特性を大部分で維持することができる。
【0020】
例えば、GaAs(kKS≒44W/(m・K))またはAlxGa1-xAs(kKS≒11~91W/(m・K))に基づくレーザダイオードの場合、InGaP(kblock≒5W/(m・K))、InGaAsP(kblock≒5W/(m・K))、InGaAsSb、またはInGaP-InGaAsP超格子(kblock≒2.5W/(m・K))の熱開口部を構築することができる。
【0021】
十分な開口効果のために、熱伝導係数kblockは可能な限り低くなければならない。熱伝導係数kblockは、対応するバルク値kbulkの好ましくは最大30%、より好ましくは最大10%、より好ましくは最大5%、特に好ましくは最大1%であるべきである。InGaP-InGaAsP超格子では、熱伝導係数kblockを達成することができ、これはInGaPおよびInGaAsPの熱伝導係数kの値の約半分である(J.Piprek et al.,Thermal conductivity reduction in GaAs-AlAs distributed Bragg reflectors,in IEEE Photon.Tech.Lett.10,81(1998)を参照)。しかしながら、フォトニック結晶構造によってはるかに低い熱伝導率を実現することができる。
【0022】
好ましくは、熱開口部は、活性領域からレーザダイオードの外側(例えば、p側熱開口部の場合にはヒートシンクが設けられたp側の下側)に向かう熱流のために、活性層に平行に配置されたギャップ形状の通路領域を形成する。そのような構成では、熱開口部は、共振器軸(z軸)全体に沿った熱流をスリット状の通路に制限することができる。効率上の理由から、活性領域に対するスリット状の通路領域の中心対称配置(内方配置)が好ましい。
【0023】
好ましくは、活性領域の外縁(横方向の横方向境界)と熱開口部の最も近い内縁(活性領域を向いた横方向の横方向境界)との間の横方向距離dxは、-w/6≦dx≦+w/6である。これは、距離が好ましくは活性領域の幅wに依存し、熱開口部の内縁が活性領域の外縁に対して正および負の横方向距離の両方を有することができるように選択されることを意味する。距離dxが0、すなわち、活性領域の外縁と熱開口部の対応する内縁とが、レーザダイオードの下側への射影を取ったときに空間的に一致する場合が特に好ましい。
【0024】
好ましくは、活性層の中心と熱開口部の頂部との間の垂直距離dyは、0μm≦dy≦1μmである。これは、熱開口部の頂部が、好ましくは活性層の中心の直下に、それから最大1μm離れて位置することを意味する。可能な限り小さい距離は、最も高い開口効果を有するが、光学特性に悪影響を及ぼし得る。1μmを超える距離では、熱流の横方向の広がりが効果的に抑制されなくなる可能性がある。
【0025】
好ましくは、熱開口部は、0.3μm~3μmの開口部厚さdblockを有する。より厚い熱開口部は、熱流の横方向の広がりのより大きな抑制を提供することができる。
【0026】
好ましくは、pドープ半導体材料(一体型熱開口部を有する)は、0.5μm~10μm、より好ましくは1μm~5μm、さらにより好ましくは2μm~3μmの全層厚さdを有する。
【0027】
好ましくは、nドープ半導体材料には層状に形成された熱開口部が形成され、pドープ半導体材料には層状に形成された熱開口部が形成される。nドープ半導体材料の熱開口部は、機能的にpドープ半導体材料の熱開口部に対応することができる。この点において、この説明においてpドープ半導体材料の熱開口部に関して提供されるすべての情報は、それに応じて、ドーピングの変化を考慮して適用される。好ましくは、nドープ半導体材料の熱開口部およびpドープ半導体材料の熱開口部は、活性層に関して対称的に構築することができる。この対称性は、特に、熱開口部の幾何学的および/または材料形成を指すことができる。しかしながら、例えば、pドープ半導体材料とnドープ半導体材料とが異なる厚さを有し、距離の調整が必要とされる場合、熱開口部の形成も異なっていてもよい。このような実施形態は、レーザダイオードが両面冷却のために搭載される場合、すなわちレーザダイオードの両面に対して熱抽出を実施することができる場合に有効である。
【0028】
本発明のさらに好ましい実施形態は、従属請求項に記載の特徴からもたらされる。
【0029】
本出願で言及される本発明の様々な実施形態は、個々の場合に特に指定されない限り、互いに有効に組み合わせることができる。
【0030】
本発明は、添付の図面を参照して実施例において以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】熱開口部のない例示的な従来のレーザダイオードの概略図である。
【
図2】熱開口部を有する本発明によるレーザダイオードの例示的な第1の実施形態の概略図である。
【
図3】活性領域内の横方向位置(x軸)の関数としての温度のシミュレーションである。
【
図4】pコンタクト層の熱伝導係数k
KSの関数としての正規化された熱レンズ曲率係数|B2|のシミュレーションである。
【
図5】開口部厚さd
blockの関数としての正規化された熱レンズ曲率係数|B2|のシミュレーションである。
【
図6】横方向距離dxの関数としての正規化された熱レンズ曲率係数|B2|のシミュレーションである。
【
図7】
図4によるKS材料を有する構造についての、横方向位置(x軸)の関数としての温度Tと位置x=0におけるピーク温度T
peakとの間の温度差ΔTのシミュレーションである。
【
図8】2つの熱開口部を有する本発明によるレーザダイオードの例示的な第2の実施形態の概略図である。
【図面の詳細な説明】
【0032】
図1は、熱開口部のない例示的な従来のレーザダイオードの概略図を示す。図示のダイオードレーザは、nドープ半導体材料12とpドープ半導体材料16との間に形成された活性層14であって、電磁放射を生成するための幅wを有する活性領域40を長手方向軸に沿って形成する、活性層14を有するレーザダイオード10と、活性領域40の下方でレーザダイオード10のp側下側に熱伝導的に接続されているサブマウント30とを備える。熱伝導性接続は、中間はんだ層20によって形成されてもよく、はんだは、レーザダイオード10の下側とサブマウント30との間の最適な熱伝達を提供するように意図されている。
【0033】
特に、レーザダイオード10は、n基板と、n基板の上にあるnクラッド層と、nクラッド層の上にあるn導波路層と、n導波路層の上にある活性層14と、活性層14の上にあるp導波路層と、p導波路層の上にあるpクラッド層と、pクラッド層の上にあるpコンタクト層と、pコンタクト層の上にある金属pコンタクトとを含む多層構造を有することができる。
【0034】
活性領域40においてレーザダイオードの動作中に熱として生じる損失は、活性領域40から放散されなければならない。この目的のために、サブマウント30が通常、対応するヒートシンクとして使用される。しかしながら、活性領域40からサブマウント30に向かう熱流は、横方向に強く広がり、活性領域40の下方の領域に不均一な温度分布をもたらす。結果として生じる温度分布は、生成された電磁放射線に対して熱光学効果を有し、そして、この領域に熱レンズを形成することにより、放射線放出中のビーム品質の低下に寄与し得る。
【0035】
図2は、本発明による熱開口部を有するレーザダイオードの例示的な第1の実施形態の概略図を示す。図示のダイオードレーザは、nドープ半導体材料12とpドープ半導体材料16との間に形成された活性層14であって、電磁放射線を生成するために幅wを有する活性領域40を長手方向軸(長手方向、z軸)に沿って形成する、活性層14を有するレーザダイオード10と、活性領域40の下方でレーザダイオード10のp側下側に熱伝導的に接続されているサブマウント30とを備える。これは、
図1について説明した構造に可能な限り対応する。
【0036】
しかしながら、pドープ半導体材料16では、活性領域40から、pドープ半導体材料16の活性層14とは反対の側(レーザダイオード10の下側)、したがってサブマウント30への空間的で選択的な熱輸送のために、pドープ半導体材料16(活性領域40の下方)の熱伝導係数kbulkよりも小さい熱伝導係数kblockを有する層形状に形成された熱開口部18が形成される。近似として、pドープ半導体材料16の平均熱伝導係数も、活性領域40の下方のpドープ半導体材料の熱伝導係数kbulkに使用することができる。代替的に、pドープ半導体材料16の熱伝導係数kbulkは、pドープ半導体材料16のpコンタクト層の熱伝導係数kKSとほぼ等しくすることもできる。
【0037】
ここでも、熱伝導接続は、レーザダイオード10の下側とサブマウント30との間の最適な熱伝達を可能にするように意図された中間はんだ層20によって形成することができる。接続は、例えば熱伝導性接着剤を用いて接合することによって行うこともできる。
【0038】
熱開口部18は、活性領域40からレーザダイオード10の下側に向かう熱流42のために、活性層14に平行に配置されたスリット状の通路領域を形成する。スリット状の通路領域は、図において活性領域40の内側下方に配置されている。活性領域40からサブマウント30に向かう熱流42の横方向の伝播は、本発明による熱開口部18によって抑制され、大部分が平行な熱流42をもたらす。熱開口部18の高い熱抵抗は、出力パワーの増加に伴って活性領域40によってより多くの熱が生成されるにつれて、その局所的な温度の上昇(すなわち、側方領域における加熱)をもたらす。これは、中央領域(活性領域の真下)と熱開口部(側方領域)との間の活性領域40の下方の領域においてより均一な温度分布をもたらす。したがって、この領域における熱レンズの形成も抑制され、放射線放出中のビーム品質を高めることができる。
【0039】
この図は、活性領域40の外縁と、熱開口部の最も近い内縁との間の水平距離dxをさらに示す。活性層14の中心と熱開口部18との間の垂直距離dyも示されている。熱開口部18の開口部厚さdblockおよびpドープ半導体材料16の全層厚さdも示されている。
【0040】
したがって、説明は、nドープ半導体材料12に形成された熱開口部18にも当てはまる。この場合、活性領域40の上方の対応するサブマウント30をレーザダイオード10のn側頂部に熱伝導的に接続して、上方に向かう熱流42の横方向の広がりを抑制することができる。
【0041】
図3は、活性領域内の横方向位置(x軸)の関数としての温度のシミュレーションを示す。シミュレーションは、光パワーP
opt=10Wで動作するストライプ幅w=90μmのGaAsベースの広域ダイオードレーザ(BAL)について、y=0の垂直位置(y軸)、すなわち活性層の中心で実施される(M.Elattar et al,High-brightness broad-area diode lasers with enhanced self-aligned lateral structure,Semicond.Sci.Technol.35,095011(2020)を参照)。シミュレートされたBALは、nドープ半導体材料とpドープ半導体材料との間の活性領域(AZ)からなる典型的な構造に対応する。pドープ半導体材料は、AZ上に成長したAl
xGa
1-xAs導波路層(WL)、続いてAl
xGa
1-xAsクラッド層(MS)、最後にGaAsコンタクト層(KS)からなり、GaAsコンタクト層(KS)の上にはコンタクト金属がその後堆積される。シミュレーション(一致する対応する実験結果)は、KS金属界面における熱障壁を含む。熱レンズ曲率係数B2という用語は、得られた熱プロファイルの二次フィッティングの二次項であり(Rieprich,J.et al.,Chip-carrier thermal barrier and its impact on lateral thermal lens profile and beam parameter product in high power broad area lasers,J.Appl.Phys.123,125703(2018))、二次適合は、ストライプ幅w=90μm内の領域についてシミュレーションで実施された。シミュレーションにおける例示的な従来のダイオードレーザは、幅広ストリップの縁部における約45℃と、中央における約51℃との間の湾曲プロファイルを有する熱プロファイルが得られることを示す。
【0042】
図4は、pコンタクト層の熱伝導係数k
KSの関数としての正規化された熱レンズ曲率係数|B2|のシミュレーションを示す。基準構造では、KSはGaAsからなる(k
KS≒44W/(m・K))。GaAsをInGaP(k
block≒5W/(m・K))、InGaAsP(k
block≒5W/(m・K))、InGaP-InGaAsP超格子(k
block≒2.5W/(m・K);J.Piprek et al.,Thermal conductivity reduction in GaAs-AlAs distributed Bragg reflectors,in IEEE Photon.Tech.Lett.10,81(1998)を参照)、または空気(k
air≒0.026 W/(m・K)などの熱伝導率の低い材料に置き換えると、正規化された熱レンズ曲率係数|B2|は低減され、対応して熱レンズは弱くなる。これにより、遠視野角が小さくなり、したがってビーム品質が改善される。具体的には、シミュレーションは、正規化された熱レンズ曲率係数|B2|の5%の低減が、低減された熱伝導係数k
KS≒18W/(m・K)で達成され得ることを示した。熱伝導係数k
KS≒7W/(m・K)では10%の低減を達成することができる。15%低減するためには、熱伝導係数はk
KS≒2.5W/(m・K)でなければならない。
【0043】
図5は、開口部厚さd
blockの関数としての正規化された熱レンズ曲率係数|B2|のシミュレーションを示す。GaAs(KS)またはAl
xGa
1-xAs(MS、WL)の層をInGaP(低い熱伝導係数k)で置き換えると、正規化された熱レンズ曲率係数|B2|は低減され、対応して形成される熱レンズは弱くなる。これにより、遠視野角が小さくなり、したがってビーム品質が改善される。特に、シミュレーションは、正規化された熱レンズ曲率係数|B2|の5%の低減が、開口部厚さd
block≒688nmで達成され得ることを示した。開口部厚さd
block≒1375nmでは10%の低減を達成することができる。
【0044】
図6は、横方向距離dxの関数としての正規化された熱レンズ曲率係数|B2|のシミュレーションを示す。KSは、ここではInGaPからなると仮定した。熱開口部は、dx=0のとき、すなわち、活性領域の下方の熱的で特に導電性のスリット状の通路領域がレーザストライプについて完全に内側に位置合わせされる場合に、熱レンズ曲率係数|B2|が最も効果的に低減され得ることを観察することができる。
【0045】
図7は、
図4に示すKS材料を有する構造についての、横方向位置(x軸)の関数としての温度Tと位置x=0におけるピーク温度T
peakとの間の温度差ΔTのシミュレーションを示す。曲線は、GaAsをより低い熱伝導率を有する材料で置き換えた場合の熱レンズの曲率の低下を示す。
【0046】
図8は、2つの熱開口部を有する本発明によるレーザダイオードの例示的な第2の実施形態の概略図を示す。示されているレーザダイオード10は、原理的には、
図2に示されている熱開口部18を有する本発明によるレーザダイオード10の第1の実施形態に対応する。したがって、個々の参照番号および個々の特徴へのそれぞれの割り当てがそれに応じて適用される。しかしながら、
図2の図示とは対照的に、活性層14の下方のpドープ半導体材料16および活性層14の上のnドープ半導体材料12の両方において、本発明による熱開口部18を有する構造がここに示されている。第1のサブマウント30aは、活性領域40の下方のレーザダイオード10の下側に熱伝導的に接続されている。さらに、第2のサブマウント30bは、活性領域40の上方でレーザダイオード10の頂部に熱伝導的に接続されている。したがって、レーザダイオード10の両側で冷却を行うことができ、それにより、レーザダイオード10の頂部および下側の両方への熱流42の横方向の広がりを、熱開口部18によって効果的に抑制することができる。このような実施形態は、レーザダイオード10が両面冷却のために搭載される場合、すなわちレーザダイオード10の両面に対して熱抽出が起こり得る場合に有効である。図示のレーザダイオードは、活性層14に関して対称である。
【参照符号の一覧】
【0047】
10 レーザダイオード
12 nドープ半導体材料
14 活性層
16 pドープ半導体材料
18 熱開口部
20 はんだ層
30 サブマウント
30a 第1のサブマウント
30b 第2のサブマウント
40 活性領域
42 熱流
dx 横方向距離(低速軸)
dy 垂直距離(高速軸)
dblock 開口部厚さ
w 幅
【国際調査報告】