IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セラティチット オーストリア ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

特表2023-554040切削加工用工具、及び、その工具での切削インサートの使用
<>
  • 特表-切削加工用工具、及び、その工具での切削インサートの使用 図1
  • 特表-切削加工用工具、及び、その工具での切削インサートの使用 図2
  • 特表-切削加工用工具、及び、その工具での切削インサートの使用 図3
  • 特表-切削加工用工具、及び、その工具での切削インサートの使用 図4
  • 特表-切削加工用工具、及び、その工具での切削インサートの使用 図5
  • 特表-切削加工用工具、及び、その工具での切削インサートの使用 図6
  • 特表-切削加工用工具、及び、その工具での切削インサートの使用 図7
  • 特表-切削加工用工具、及び、その工具での切削インサートの使用 図8
  • 特表-切削加工用工具、及び、その工具での切削インサートの使用 図9
  • 特表-切削加工用工具、及び、その工具での切削インサートの使用 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-26
(54)【発明の名称】切削加工用工具、及び、その工具での切削インサートの使用
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/22 20060101AFI20231219BHJP
   B23B 27/16 20060101ALI20231219BHJP
   B23C 5/06 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B23C5/22
B23B27/16 A
B23C5/06 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536127
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(85)【翻訳文提出日】2023-07-20
(86)【国際出願番号】 EP2021084514
(87)【国際公開番号】W WO2022135899
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】20216165.9
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500005837
【氏名又は名称】セラティチット オーストリア ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】ブルチャー,ペーター
【テーマコード(参考)】
3C022
3C046
【Fターム(参考)】
3C022HH01
3C022HH05
3C022MM06
3C046EE09
(57)【要約】
切削加工用の工具(100)であって、動作中に工具がその周りを回転する回転軸(R)を有する基体部(1)と、交換可能な切削インサート(3)を収容するために基体部(1)上に形成された少なくとも1つの取付座(2)と、切削インサート(3)を取付座(3)に固定するための固定ネジ(5)と、取付座(2)に固定された切削インサート(3)と、を有する切削加工用の工具。取付座(2)が前記切削インサートの下面(33)を載置するためのベース面(21)と、切削インサート(3)を半径方向内側に向けて支持する、切削インサート(3)の第1の側面(37)に当接するための第1の横方向当接面(22)と、切削インサート(3)を軸方向に、且つ、半径方向外側に向けて支持する、切削インサート(3)の第2の側面(38)に当接するための第2の横方向当接面(23)とを有し、さらに、ベース面(21)には固定ネジ(5)を収容するための1つの孔(4)が形成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削加工用の工具(100)であって、
動作中に前記工具がその周りを回転する回転軸(R)を有する基体部(1)と、
交換可能な切削インサート(3)を収容するために前記基体部(1)上に形成された少なくとも1つの取付座(2)と、
前記切削インサート(3)を前記取付座(2)に固定するための固定ネジ(5)と、
前記取付座(2)に固定された切削インサート(3)と、
を有する工具(100)において、
前記取付座(2)が前記切削インサートの下面(33)を載置するためのベース面(21)と、前記切削インサート(3)を半径方向内側に向けて支持する、前記切削インサート(3)の第1の側面(37)に当接するための第1の横方向当接面(22)と、前記切削インサート(3)を軸方向に、且つ、半径方向外側に向けて支持する、前記切削インサート(3)の第2の側面(38)に当接するための第2の横方向当接面(23)とを有し、さらに、前記ベース面(21)には前記固定ネジ(5)を収容するための孔(4)が形成されており、
前記孔(4)は、前記ベース面(21)から離れたネジ孔部(41)と、前記ベース面(21)により近いネジなし孔部(42)とを有し、
前記固定ネジ(5)は、前記ネジ孔部(41)と係合するためのネジ部(51)と、前記切削インサート(3)の貫通孔(36)で支持するための頭部(53)と、前記ネジ部(51)と前記頭部(53)の間のネジなし軸部(52)とを有し、前記ネジなし軸部(52)の断面は前記ネジなし孔部(42)よりも小さく、
前記切削インサート(3)は以下のように前記取付座(2)に固定されている、すなわち、前記固定ネジ(5)の前記頭部(53)が前記切削インサート(3)の前記貫通孔(36)で支持され、前記固定ネジ(5)の前記ネジ部(51)が前記ネジ孔部(41)と係合し、前記固定ネジ(3)の前記頭部(53)は、前記ネジなし軸部(52)が前記ベース面(21)に垂直な視線方向において半径方向で外側の、且つ、軸方向で前記工具の自由端(12)の方向に位置する第2象限(Q2)において前記ネジなし孔部(42)で支持されるように、弾性的に撓められている、
工具(100)。
【請求項2】
前記ネジなし軸部(52)が、半径方向内側で、且つ、前記工具の前記自由端(21)の反対側に位置する第4象限(Q4)において、前記ネジなし孔部(42)から離間して配置されている、請求項1に記載の工具。
【請求項3】
前記固定ネジ(5)の前記頭部(53)が半径方向で外側に、且つ、軸方向で工具の前記自由端(12)の方向に弾性的に撓められている、請求項1または2に記載の工具。
【請求項4】
前記第1の横方向当接面(22)と前記第2の横方向当接面(23)とが、前記ベース面(21)に垂直な視線方向において互いに成す角度(α)が75°より小さく、好適には65°よりも小さい、請求項1から3のいずれか1項に記載の工具。
【請求項5】
前記固定ネジ(5)の前記頭部(53)が前記固定ネジ(5)の軸線に対して垂直方向に最大断面を有し、前記最大断面は前記貫通孔(36)の最小断面よりも大きい、請求項1から4のいずれか1項に記載の工具。
【請求項6】
前記ネジ孔部(4)の縦軸線(Z)が、前記固定ネジ(5)の前記頭部(53)と前記切削インサート(3)の前記貫通孔(36)との接触面において、前記貫通孔(36)の縦軸線(W)に対して、前記第1の横方向当接面(22)に向かう方向及び前記第2の横方向当接面(23)に向かう方向にオフセットされている、請求項1から5のいずれか1項に記載の工具。
【請求項7】
前記第1の横方向当接面(22)の面法線は半径方向外側に向かう方向成分を主成分とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の工具。
【請求項8】
前記第2の横方向当接面(23)の面法線が軸方向成分及び半径方向内向きの方向成分を有する、請求項1から7のいずれか1項に記載の工具。
【請求項9】
前記ベース面(21)の面法線は接線方向成分を主成分とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の工具。
【請求項10】
前記ネジなし孔部(42)の壁が、少なくとも、前記孔(4)の半径方向で外側に、且つ、軸方向で前記工具の前記自由端(12)の方向に位置する第2象限(Q2)において、周方向の孔側で凹状に湾曲して形成されている、請求項1から9のいずれか1項に記載の工具。
【請求項11】
前記ネジなし孔部(42)が略円形の断面を有する、請求項1から10のいずれか1項に記載の工具。
【請求項12】
前記ネジなし孔部(42)が前記ネジ孔部(41)と平行に形成されている、請求項1から11のいずれか1項に記載の工具。
【請求項13】
前記工具(100)が毎分10,000回転を超える回転数での切削加工のために構成された高速フライスである、請求項1から12のいずれか1項に記載の工具。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の工具(100)での切削インサート(3)の使用。
【請求項15】
工具(100)の基体部(1)の取付座(2)に切削インサート(3)を固定する方法であって、
前記基体部(1)が回転軸(R)を有し、動作中に前記工具(100)が前記回転軸の周りを回転し、前記取付座(2)が、前記切削インサート(3)の下面を載置するためのベース面(21)と、前記切削インサート(3)を半径方向内側に向けて支持する第1の横方向当接面(22)と、前記切削インサート(3)を軸方向に、且つ、半径方向外側に向けて支持する第2の横方向当接面(23)とを有し、
固定ネジ(5)を収容する孔(4)が前記ベース面(21)に形成されており、前記孔(4)は前記ベース面(21)から離れたネジ孔部(41)及び前記ベース面(21)により近いネジなし孔部(42)を有し、
以下のステップ、すなわち、
前記切削インサート(3)を前記取付座(2)上に配置するステップであって、前記切削インサート(3)の下面(33)が前記ベース面(21)で支持され、前記切削インサート(3)の第1の側面(37)が前記第1の横方向当接面(22)に当接し、前記切削インサート(3)の第2の側面(38)が前記第2の横方向当接面(23)に当接する、ステップと、
前記切削インサート(3)の貫通孔(36)及び前記孔(4)を通して固定ネジ(5)のネジ部(51)を案内するステップであって、前記ネジ部(51)が前記ネジ孔部(41)と係合し、前記固定ネジ(5)の前記ネジ部(51)と頭部(53)との間に配置されたネジなし軸部(52)が前記ネジなし孔部(42)内に全周にわたって間隔をあけて配置される、ステップと、
前記固定ネジ(5)をネジ込みするステップであって、最初に前記頭部(53)が前記貫通孔(36)の、前記基体部(1)の自由端(12)とは反対側の半径方向内側に当接し、次に前記頭部(53)及び前記ネジなし軸部(52)が半径方向で外側方向に、且つ、軸方向で前記基体部(1)の前記自由端(12)の方向に弾性的に撓められて、前記ネジなし軸部(52)は半径方向で外側の、且つ、軸方向で前記自由端(12)の側にあるネジなし孔部(42)の第2象限(Q2)と当接する、ステップと、
を有する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工用工具、及び、その工具での切削インサートの使用に関する。
【0002】
特に金属材料及び最近増えている複合材料の切削加工では、被削材と係合する刃先は交換可能な切削インサート上に形成されており、これらの切削インサートは硬くて摩耗しにくい材料で形成されており、特に工具鋼のような強い靭性の材料で形成された基体部上でそのために設けられた取付座に配置されている。これらの交換可能な切削インサートはしばしば、いわゆるスローアウエイチップ又はインデックス可能な切削インサートとして形成されており、これらは多数の刃先を有し、これらの刃先は、それぞれその前に使用された刃先が磨耗すると、順次、基体部のアクティブな切削位置にもたらされる。この場合、これらの切削インサートは一般的には、硬質金属(超硬合金)、サーメット又は切削工具用セラミックから形成することができる。
【0003】
フライス加工によって切削加工するように構成された工具では、基体部は回転軸を有し、工具の動作中に基体部がこの回転軸の周りを回転する。基体部は、交換可能な切削インサートを収容するための、例えば1つの取付座のみを有することができる。しかし、一般的には、複数のこのような取付座が設けられており、工具の周上に分散配置されている。このような工具で切削加工を行う際に生産性を上げるために、材料に適した工具をますます高速で運転し、しばしば回転数が毎分数万回転となる、いわゆる高速フライス又は高速カッターとして構成する傾向がある。
【0004】
このような工具を非常に高速回転で運転する場合、一般的に発生する主に接線方向及び軸方向に働く切削力に加えて、特に高速回転の結果として切削インサートに作用する遠心力も問題となる。以下の説明において、半径方向、軸方向及び接線方向という用語が使用される場合、これらはそれぞれ、具体的なコンテクストに基づく他の基準がない限り、工具の基体部の回転軸を基準にしている。
【0005】
大きい遠心力は、例えば、切削インサートが固定ネジによって取付座に固定されている場合、基体部の取付座での切削インサートの位置を変化させることがあり、また極端な場合には、固定ネジを損傷させることがあり、その結果、切削インサートが取付座から外れることもある。これが切削加工中に発生すると、加工されるワークに損傷を与える可能性があり、さらに安全上のリスクが生じる。
【0006】
特許文献1には高速加工用の切削工具が記載されており、ここでは、交換可能な切削インサートを収容するための取付座に、切削インサートの下面とある程度確実に嵌め合い結合的に係合する形状が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1083017A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、高速回転速度で切削加工するための改良された工具、切削インサートの改良された使用、及び、切削インサートを固定するための改良された方法を提供することにあり、この場合、切削インサートは製造公差による影響を受けないような方法で、作用する遠心力に抗して確実に支持され、且つ、この切削インサートを取付座内でクランプするクランプ力をより狭い範囲内で予め与えることができるようになされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、請求項1に記載の切削加工用工具で解決される。有利な展開形態は従属請求項に記載されている。
【0010】
この工具は、動作中にその工具がその周りを回転する回転軸を有する基体部と、交換可能な切削インサートを収容するために基体部上に形成された少なくとも1つの取付座と、切削インサートを取付座に固定するための固定ネジと、取付座に固定された1つの切削インサートとを有する。この取付座は、切削インサートの下面を載置するためのベース面と、切削インサートを半径方向内側に向けて支持する、切削インサートの第1の側面に当接するための第1の横方向当接面と、切削インサートを軸方向に、且つ、半径方向外側に向けて支持する、切削インサートの第2の側面に当接するための第2の横方向当接面とを有する。このベース面には固定ネジを収容するための孔が形成されている。この孔は、ベース面から離れたネジ孔部と、ベース面により近いネジなし孔部とを有する。前記固定ネジは、前記ネジ孔部と係合するためのネジ部と、前記切削インサートの貫通孔での支持のための頭部と、ネジ部と頭部の間のネジなし軸部とを有し、このネジなし軸部の断面は前記ネジなし孔部よりも小さい。この切削インサートは以下のように取付座に固定されている。すなわち、固定ネジの頭部が切削インサートの貫通孔で支持され、固定ネジのネジ部がネジ孔部と係合し、固定ネジの頭部は、ネジなし軸部が、ベース面に垂直な視線方向において、半径方向で外側の、且つ、軸方向でこの工具の自由端の方向に位置する第2象限においてネジなし孔部で支持されるように、弾性的に撓められている。
【0011】
ベース面に垂直な視線方向において、上記の孔は4つの象限を有し、そのうちの2つ(第3象限及び第4象限)が半径方向で内側に、すなわち基体部の回転軸に近い方に位置し、2つ(第1象限及び第2象限)が半径方向で外側に、すなわち基体部の回転軸からさらに離れて位置する。孔の半径方向内側に位置する象限のうちの1つである第3象限、及び、半径方向外側に位置する象限のうちの1つである第2象限は、それぞれ軸方向には工具の自由端の方向に位置しており、これを以下では、「軸方向前方」と呼ぶ。半径方向内側のもう1つの象限である第4象限、及び、半径方向外側のもう1つの象限である第1象限は、それぞれ工具の自由端とは反対側に、すなわち、工具の取付部の方向に位置しており、これを以下では「軸方向後方」と呼ぶ。こうして、時計回り方向に見て、半径方向で外側の、且つ、軸方向では自由端とは反対側の第1象限と、半径方向で外側の、且つ、軸方向では自由端の側の第2象限と、半径方向で内側の、且つ、軸方向では自由端の側の第3象限と、半径方向で内側の、且つ、軸方向では自由端とは反対側の第4象限とが存在する。
【0012】
第2の横方向当接面が切削インサートの第2の側面に当接するように設けられていて、切削インサートを軸方向に、且つ、半径方向で外側方向に支持し、これに加えて、ネジなし軸部が半径方向で外側の、且つ、軸方向で工具の自由端の方向に位置する第2象限においてネジなし孔部で支持されるように固定ネジが弾性的に撓められているので、この切削インサートは互いに空間的に離れた2つの位置で遠心力に抗して支持されており、その結果、工具の高速回転時であっても取付座からの切削インサートの変位が確実に防止される。ネジなし孔部でのネジなし軸部の支持が、固定ネジの頭部及びネジなし軸部の弾性的な撓みによって行われるので、第1及び第2の横側当接面、孔、ならびに、固定ネジの製造公差は固定ネジの弾性変形によって確実に補償することができる。さらに、切削インサートを取付座にクランプするクランプ力は、締め付けネジの弾性特性によって予め決定することができる。
【0013】
一展開形態によれば、半径方向内側で、且つ、工具の自由端の反対側に位置する第4象限において、ネジなし軸部はネジなし孔部から離間して配置されている。すなわち、ネジなし孔部は固定ネジのネジなし軸部に対して相応の過剰な寸法を有し、その結果、ネジなし軸部は、半径方向外側で、且つ、工具の自由端の側に位置するこの象限においてネジなし孔部に当接するまで、妨げられることなく弾性的に撓められることができる。このようにして、切削インサート及び横方向当接面の公差を特に良好に補償することができる。また、このネジなし軸部は、第1象限内及び第3象限内においてもネジなし孔部から離間していることが好ましい。
【0014】
固定ネジの頭部が半径方向で外側に、且つ、軸方向で工具の自由端の方向に弾性的に撓められると、切削インサートは第1の横方向当接面及び第2の横方向当接面の両方に対して特に確実にクランプされる。
【0015】
一展開形態によれば、第1の横方向当接面と第2の横方向当接面とは、ベース面に垂直な視線方向において、互いに75°よりも大きい角度を成している。この場合、切削インサートは特に確実に嵌め合い結合的に固定されているので、作用する遠心力から守られている。好ましくは、この角度は65°よりもおおきい。この場合、第1の横方向当接面と第2の横方向当接面とによって成される角度は、切削インサートを取付座に確実に固定するために、好ましくは35°よりも大きく、より好ましくは40°よりも大きい。
【0016】
一展開形態によれば、固定ネジの頭部は固定ネジの軸線に垂直に最大の断面を有し、この最大断面は貫通孔の最小断面よりも大きい。換言すれば、この場合、固定ネジの頭部は切削インサートの貫通孔を通り抜けることができない。この場合、この切削インサートは、嵌め合い結合的に特に確実に取付座に固定されている。
【0017】
一展開形態によれば、ネジ孔部の縦軸線は、固定ネジの頭部と切削インサートの貫通孔との接触面において、貫通孔の縦軸線に対して、第1の横方向当接面に向かう方向及び第2の横方向当接面に向かう方向にオフセットされている。この場合、切削インサートは第1の横方向当接面の方向及び第2の横方向当接面の方向に確実にクランプされ、固定ネジのネジなし軸部は弾性的な撓みによってネジなし孔部に確実に当接されるようになる。
【0018】
第1の横方向当接面の面法線は半径方向外側に向かう方向成分が主成分であるので、この第1の横方向当接面は半径方向内側に向けて作用する力に抗して切削インサートを特に確実に支持する。半径方向外側に向かう方向成分に加えて、この面法線は、数値的にはより小さい軸方向及び/又は接線方向の方向成分を有することができる。
【0019】
一展開形態によれば、第2の横方向当接面の面法線は軸方向成分及び半径方向内向きの方向成分を有する。この場合、切削インサートは、この第2の横方向当接面によって、軸方向に作用する力に抗して及び遠心力に抗して確実に支持される。また、この第2の横方向当接面の面法線は、数値的にはより小さい接線方向成分を有することができる。
【0020】
一展開形態によれば、ベース面の面法線は接線方向成分を主成分とする。この例では、切削インサートは、主に接線方向に作用する切削力に抗して特に確実に取付座に支持される。また、ベース面の面法線はさらに、数値的にはより小さい半径方向及び/又は軸方向の方向成分を有することができる。
【0021】
一展開形態によれば、ネジなし孔部の壁は、少なくとも、孔の半径方向で外側に、且つ、軸方向で工具の自由端の方向に位置する第2象限において、周方向の孔側で凹状に湾曲されて形成されている。この場合、第1の横方向当接面及び第2の横方向当接面ならびにこれらと係合する切削インサートの領域における公差は、頭部の弾性的な撓み時のネジなし軸部のネジなし孔部への接触領域を第2象限内でより大きな角度範囲内で調整することができることによって、特に確実に補償される。
【0022】
一展開形態によれば、ネジなし孔部は略円形の断面を有する。この場合、ネジなし孔部は、特に簡単に低コストで形成することができる。しかし、円形断面とは異なる断面形状を有するネジなし孔部を形成することも可能である。
【0023】
一展開形態によれば、ネジなし孔部はネジ孔部と平行に形成されている。これにより、この孔とその中に収容される固定ネジの両方を、特に簡単に低コストで製造することができる。好ましくは、ネジなし孔部はネジ孔部に対して同軸に形成される。
【0024】
一展開形態によれば、この工具は、毎分10,000回転を超える回転数での切削加工のために構成された高速フライスである。高速回転数での加工のために構成されたこのような工具では特に、作用する遠心力に抗して確実に支持することが特に重要である。
【0025】
前記課題は、請求項14による、かかる工具への切削インサートの使用によっても解決される。この使用時に、工具に関して上述した利点が得られる。
【0026】
前記課題は、請求項15による、切削インサートの固定方法によっても解決される。
【0027】
工具の基体部の取付座に切削インサートを固定する方法において、基体部は回転軸を有し、動作中にこの工具がこの回転軸の周りを回転し、この取付座は、切削インサートの下面を載置するためのベース面と、切削インサートを半径方向内側に向けて支持する第1の横方向当接面と、切削インサートを軸方向に、且つ、半径方向外側に向けて支持する第2の横方向当接面とを有する。固定ネジを収容する孔がベース面に形成されており、この孔はベース面から離れたネジ孔部及びベース面により近いネジなし孔部を有する。本方法は以下のステップ、すなわち、
・切削インサートを取付座上に配置するステップであって、その結果、切削インサートの下面がベース面で支持され、第1の側面が第1の横方向当接面に当接し、第2の側面が第2の横方向当接面に当接する、ステップと、
・切削インサートの貫通孔及び孔を通して固定ネジのネジ部を案内するステップであって、その結果、ネジ部がネジ孔部と係合し、固定ネジのネジ部と頭部との間に配置されたネジなし軸部がネジなし孔部内に全周にわたって間隔をあけて配置される、ステップと、
・固定ネジをネジ込みするステップであって、その結果、最初に頭部が貫通孔の、基体部の自由端とは反対側の半径方向内側に当接し、その次に、頭部及びネジなし軸部が半径方向で外側方向に、且つ、軸方向で基体部の自由端の方向に弾性的に撓められて、結果的にネジなし軸部が、ネジなし孔部の半径方向で外側の、且つ、軸方向で自由端の側に位置する第2象限に当接する、ステップと、
を有する。
【0028】
本方法によって、工具に関して上述した利点が得られる。工具に関して述べた複数の有利な展開形態は本方法においても同様に有利に使用することができる。
【0029】
本発明の他の利点及び合目的性を、添付の図面を参照して実施例に基づき以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】一実施形態による工具の斜視図である。
図2図1の丸で囲まれた領域B内の取付座の拡大図であって、この取付座に切削インサートが配置されている。しかし、固定ネジはない。
図3図2に対応するが切削インサートを含まない補助図である。
図4】この実施形態における固定ネジの模式図である。
図5】ネジ孔部の縦軸線を含む平面の断面模式図であって、取付座の領域に切削インサートが配置されているが、固定ネジはない。
図6】この実施形態における切削インサートの模式的斜視図である。
図7】固定ネジがねじ込まれていない状態の、図5に対応する固定ネジの断面図である。
図8】固定ネジがねじ込まれた状態の、図7に対応する断面図である。
図9】固定ネジがねじ込まれていない状態での、ネジなし孔部の領域における孔の縦軸に垂直な方向における断面模式図である。
図10】固定ネジがねじ込まれた状態の、図9に対応する断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に一実施形態を図面を参照してより詳細に説明する。
【0032】
この具体的に示された実施例では、切削加工用の工具100はフライス工具、特に最大で毎分数万回転の回転数で加工するように構成された高速フライスである。
【0033】
工具100は基体部1を有し、この基体部は、例えば、工具鋼、Densimet(登録商標)のようなタングステン重金属又は硬質金属で形成することができる。基体部1は、加工機械(図示せず)の駆動スピンドルに間接的又は直接的に接続するためのインターフェースが設けられた第1の端部11と、第1の端部11とは反対側の自由端12とを有する。基体部1は回転軸Rを有し、工具100は動作中に、すなわち切削加工中に、この回転軸の周りを回転する。
【0034】
図1に示すように、基体部1における自由端12の領域には、交換可能な複数の切削インサート3を収容するための複数の取付座2が設けられている。これらの取付座2は基体部1の周上にわたって分散配置されている。この具体的に図示されている実施例では、交換可能な切削インサート3を収容するための合計4つの取付座2を有する基体部1が示されているが、このような取付座2をより少なく、しかし少なくとも1つ、又は、4つよりも多い取付座2を設けてもよい。これらの取付座2は次のように配置されている。すなわち、その取付座に配置された切削インサート3がそれぞれ、副切刃31が軸方向に基体部1の自由端12を越えて突き出し、主切刃32が半径方向に基体部1を越えて突き出るように、配置されている。これら取付座2は、切削インサート3のいわゆる半径方向クランプのために構成されており、この場合、それぞれの取付座2に固定されている切削インサート3の主たる広がり面はそれぞれ略半径方向に延びており、切削インサート3を取付座に固定している固定ネジ5の縦軸線は主に接線方向に延びている。これらの取付座2は互いに略同一構成であり、また、その上に配置された切削インサートも相互に少なくとも略同一であるので、以下においては1つの取付座2、及び、その上に配置された1つの切削インサート3の固定についてのみ詳細に説明する。
【0035】
切削インサート3は略多角形の基本形状であり、特に図6に示すように、下面33と、この下面33に対向しすくい面として形成された上面34とを有している。下面33と上面34は複数の側面によって互いに結合されている。貫通孔36が、切削インサート3を通って上面34から下面33に延びている。副切刃31及び主切刃32が、上面34から複数の側面への移行部に沿って形成され、コーナ切刃35によって互いに結合されている。具体的に図示されたこの実施例では、切削インサート3は貫通孔36の縦軸線に関して2回転対称性を有しているので、2つの刃先部があり、これらはそれぞれが1つの主切刃と、コーナ切刃35を介して主切刃に結合している1つの副切刃とを備えている。図1に示すように、切削インサート3を基体部1に組み付けた状態では、2つの刃先部のうち一方がアクティブポジションに位置し、このアクティブポジションでは主切刃32が半径方向に基体部1を越えて突き出ており、副切刃31が軸方向に基体部1を越えて突き出ており、2つの刃先部のうちの他方は非アクティブポジションに位置している。
【0036】
具体的に図示されたこの実施例では、上面34から複数の側面への移行部にのみ複数の刃先部が設けられている切削インサート3を示しているが、変形例では、下面33から複数の側面への移行部にも複数の刃先部が設けられている、切削インサートの両面構成も可能である。
【0037】
この切削インサート3は第1の側面37を有し、この側面により切削インサート3は半径方向内側に向けて取付座2で支持されている。この第1の側面37は、切削インサート3のアクティブポジションにある主切刃32とは反対側に形成されている。上述した2回転対称性により、アクティブな主切刃32の主逃げ面の下側にももう1つの第1の側面37があり、これは対向する非アクティブ主切刃32に付随している。
【0038】
この切削インサート3は、さらに第2の側面38を有し、この側面により切削インサート3は取付座2上で軸方向に、且つ、半径方向外側に向けて支持されている。この第2の側面38は、アクティブポジションにある副切刃31とは反対側の切削インサート3の側部に形成されている。上述した2回転対称性により、アクティブな副切刃31の側にも、もう1つの第2の側面38があり、これは対向する非アクティブな副切刃31に付随している。
【0039】
切削インサート3が保持される取付座2について、図3を参照して以下に詳細に説明する。
【0040】
この取付座2は、切削インサート3の下面33を載置するベース面21と、切削インサート3の第1の側面37に当接する第1の横方向当接面22と、切削インサート3の第2の側面38に当接する第2の横方向当接面23とを有する。
【0041】
ベース面21の面法線は接線方向成分を主成分とする。この他に、ベース面21の面法線は、さらに、数値的にはより小さい軸方向成分及び/又は半径方向成分を有してもよい。
【0042】
第1の横方向当接面22は、切削インサート3を半径方向内側に向けて支持する。この第1の横方向当接面22は、例えば、連続した1つの面として形成することができる。しかし、例えば図3に示すように、この第1の横方向当接面22が、半径方向内側に向けた支持のための互いに分離された複数の部分面を有することも可能である。半径方向内側に向けた支持を実現するために、第1の横方向当接面22の面法線は、半径方向外側を向いた方向成分を主成分とする。この場合、この第1の横方向当接面22の面法線は、例えば、半径方向外側を向いた方向成分のみを有することもできるし、あるいは、それに加えて、数値的にはより小さい接線方向成分及び/又は軸方向成分を有することもできる。
【0043】
第2の横方向当接面23は、切削インサート3の、基体部1の自由端12とは反対側を、軸方向にも半径方向外側に向けても支持する。これを実現するために、第2の横方向当接面23の面法線は、基体部1の自由端12の方向の軸方向成分と、半径方向内側を向いた方向成分との両方を有する。この他に、第2の横方向当接面23の面法線は、例えば図3に示す第2の横方向当接面23の様に、小さい接線方向成分を有していてもよい。
【0044】
図3に示すように、第1の横方向当接面22と第2の横方向当接面23とは、ベース面21に垂直方向に見て、互いに内角αを成しており、この内角は75°未満、好ましくは65°未満である。具体的に図示したこの実施例では、内角αは約60°である。第1の横方向当接面22とベース面21とは90°以上の内角を成している。同様に、第2の横方向当接面23とベース面とは90°以上の内角を成している。具体的に図示したこの実施例では、ベース面21と第1の横方向当接面22との間の内角は90°よりもわずかに大きく、例えば約100°であってもよい。同様に、ベース面21と第2の横方向当接面22との間の内角は90°よりもわずかに大きく、例えば約100°であってもよい。下面33から側面への移行部においても刃先部が形成されている両面構成の切削インサート3の場合には、ベース面21と横方向当接面22、23との間の内角は、それぞれの場合に90°であることが好ましい。
【0045】
図3及び図5に示すように、取付座2のベース面21には孔4が形成されている。孔4はベース面21から基体部1の材料内に延在し、ベース面21から離れた領域に、以下により詳細に説明するように、固定ネジ5の対応する外側ネジ山と係合するための内側ネジ山を備えたネジ孔部41を有する。ネジ孔部41とベース面21における孔4の開口部との間には、ネジなし孔部42が形成されている。具体的に図示されたこの実施例では、ネジなし孔部42は円形断面を有し、ネジ孔部41に対して同軸に延びている。しかし、ネジなし孔部42が異なる断面形状を有することも可能である。
【0046】
図4に示すように、固定ネジ5は、ネジ孔部41と係合するように構成されたネジ部51と、頭部53と、頭部53とネジ部51との間に配置されたネジなし軸部52とを有する。具体的に図示されたこの実施例では、ネジ部51とネジなし軸部52との間に括れ(くびれ)が設けられており、この括れにより、固定ネジ5の縦軸に垂直な方向においてネジ部51に対する頭部53の相対的で弾性的な撓みが有利に行われる。固定ネジ5の頭部53は、切削インサート3の貫通孔36と係合するように形成されている。頭部53は、貫通孔36の最小の内側断面よりも大きい最大断面を有しているので、この頭部53は貫通孔36を完全に通り抜けることができない。この頭部53は、頭部53が貫通孔36で支持され得るように、特に好適には環状に支持され得るように、貫通孔36の形状に適合されている。固定ネジ5のネジなし軸部52の断面は、孔4のネジなし孔部42の断面よりも著しく小さい。言い換えれば、ネジなし孔部42は、ネジなし軸部52に対して、ぴったり合う製造時の通常の公差よりも著しく大きい過剰寸法を全周にわたって有する。
【0047】
特に図3に示すように、ネジなし孔部42は4つの象限Q1、Q2、Q3及びQ4を有し、この場合、時計回り方向に番号が付けられている。ネジなし孔部42の第1象限Q1は、基体部1の自由端12の反対側で、且つ、ネジなし孔部42の半径方向外側にある。第2象限Q2は自由端12の側で、且つ、半径方向外側にある。第3象限Q3は同様に自由端12の側にあるが、半径方向では内側にある。第4象限Q4は自由端12とは反対側で、且つ、半径方向内側にある。換言すると、第1象限Q1は、回転軸Rと平行な方向を起点として、「12時~3時」の範囲に、第2象限Q2は「3時~6時」の範囲に、第3象限Q3は「6時~9時」の範囲に、第4象限Q4は「9時~12時」の範囲にある。
【0048】
以下に、図7から図10を参照して、切削インサート3が固定ネジ5によって取付座2上にどのように保持されているかをより詳細に説明する。
【0049】
まず、図7及び図9を参照して次の状態について説明する。すなわち、取付座2に切削インサート3が配置されており、固定ネジ5のネジ部51が切削インサート3の貫通孔36を通って貫通挿入されているので、ネジ部51がネジ孔部41に係合し、ネジなし軸部52がネジなし孔部42内に配置されているが、固定ネジ5は未だねじ込まれていない状態について、説明する。この状態では、ネジなし軸部52は、特に図9に示すように、過剰な寸法を備えたネジなし孔部42から全ての方向で離れて配置されている。換言すれば、この状態では、ネジなし軸部52は、第1象限Q1においても、第2象限Q2、第3象限Q3及び第4象限Q4においても、ネジなし孔部42から離れている。ネジ孔部41の縦軸Zは、例えば図5に示すように、切削インサート3の貫通孔36の縦軸線Wに対して、第1の横方向当接面23の方向においても第2の横方向当接面23の方向においても、わずかにオフセットされている。図2に矢印Pでこの方向が模式的に(正しい縮尺ではなく)図示されており、ここでは、ネジ孔部41の縦軸Zが貫通孔36の縦軸線Wに対してずれている。この方向は軸方向に対して角度βで延びており、その結果、その方向は、半径方向内向きの方向成分と、軸方向で後方を向いた、すなわち基体部1の第1の端部11の方向を向いた方向成分とを有していることが分かる。具体的に図示したこの例では、角度βは、例えば、50°~70°である。
【0050】
固定ネジ5が締め付けられると、ネジ部51はネジ孔部により深くねじ込まれるので、固定ネジ5の頭部53が切削インサート3の貫通孔36に当接する。貫通孔36の縦軸線Wとネジ孔部41の縦軸Zとの間の上述したオフセットにより、頭部53は、まず、貫通孔36の領域の、取付座2の第1の横方向当接面22と第2の横方向当接面23の間の側に当接する。これにより、切削インサート3は、第1の横方向当接面22と第2の横方向当接面23の間の方向に押される。貫通孔36へのこの当接によって、固定ネジ5の頭部53及びこれと共にネジなし軸部52は、基体部1の半径方向外側に向けて、且つ、自由端12の方向に向けて弾性的に撓められ、その結果、ネジなし軸部52は、ネジなし孔部42の第2象限Q2に向けて曲げられる。この場合、この弾性的な撓みは、ネジなし軸部52がネジなし孔部42の第2象限Q2においてネジなし孔部42に当接するまで行われる。この状態を図8及び図10に示す。図10では、ネジなし軸部52の領域における、ネジ孔部41の縦軸Zに対する、結果として生じた固定ネジ5の縦軸Yのオフセットが模式的に図示されている。第2の横方向当接面23による半径方向外側へ向けての支持に加えて、切削インサート3は、ネジなし軸部52とネジなし孔部42とのこのような協働によってもう一つのポジションにおいて半径方向外側に向けて嵌め合い結合的に支持されるので、この切削インサート3は、切削加工動作中に作用する遠心力に対して特に確実に支持される。この支持はネジなし軸部52において行われるので、遠心力によって生じ固定ネジ5にかかる剪断力は、固定ネジ5のより弱いネジ部51ではなく、より安定なネジなし軸部52に作用し、その結果、固定ネジ5の材料破損のリスクが低減される。固定ネジ5の弾性的な変形の結果として、固定ネジ5の頭部53は貫通孔36に嵌め合い結合的に当接する。この場合、固定ネジ5のより大きな頭部53と切削インサート3のより小さい貫通孔36との協働により、切削インサート3はベース面21の方向に確実にクランプされ、ベース面21からの浮き上がりに抗して確実に嵌め合い結合的に固定される。
【0051】
ネジなし孔部42の第1象限Q1、第3象限Q3及び第4象限4においては、特に図10に示すように、固定ネジ5がねじ込まれたとき、ネジなし孔部42の過剰寸法により、固定ネジ5のネジなし軸部52は当接しない。ネジなし軸部52がネジなし孔部42と当接するまでの固定ネジ5の弾性変形により、切削インサート3、ならびに、第1の横方向当接面22及び第2の横方向当接面23の製造公差は比較的大きな範囲にわたって問題なく補償することができる。第1の横方向当接面22及び第2の横方向当接面23の互いに対する位置及び方向の公差は、この場合、ネジなし孔部42の第2象限Q2内のネジなし軸部52が、自由端12の方向にさらに移動するか、又は、半径方向外向き方向にさらに移動することによって、補償される。第2象限Q2におけるネジなし孔部42の壁の形状は、円周方向において孔側に凹状となっているので、この場合、ネジなし軸部52のこの方向への問題のない方向づけが可能となる。図示されている実施例では、ネジなし孔部42の円形の断面形状が示されており、これは製造技術的には特に簡単かつ低コストで実現可能であるが、ネジなし孔部42の断面形状はこのような円形形状に限定されるものではなく、他の断面形状も可能である。しかし、ネジなし孔部42の壁は少なくとも第2象限においては、円周方向で凹状に湾曲して形成すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2023-08-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削加工用の工具(100)であって、
動作中に前記工具がその周りを回転する回転軸(R)を有する基体部(1)と、
交換可能な切削インサート(3)を収容するために前記基体部(1)上に形成された少なくとも1つの取付座(2)と、
前記切削インサート(3)を前記取付座(2)に固定するための固定ネジ(5)と、
前記取付座(2)に固定された切削インサート(3)と、
を有する工具(100)において、
前記取付座(2)が前記切削インサートの下面(33)を載置するためのベース面(21)と、前記切削インサート(3)を半径方向内側に向けて支持する、前記切削インサート(3)の第1の側面(37)に当接するための第1の横方向当接面(22)と、前記切削インサート(3)を軸方向に、且つ、半径方向外側に向けて支持する、前記切削インサート(3)の第2の側面(38)に当接するための第2の横方向当接面(23)とを有し、さらに、前記ベース面(21)には前記固定ネジ(5)を収容するための孔(4)が形成されており、
前記孔(4)は、前記ベース面(21)から離れたネジ孔部(41)と、前記ベース面(21)により近いネジなし孔部(42)とを有し、
前記固定ネジ(5)は、前記ネジ孔部(41)と係合するためのネジ部(51)と、前記切削インサート(3)の貫通孔(36)で支持するための頭部(53)と、前記ネジ部(51)と前記頭部(53)の間のネジなし軸部(52)とを有し、前記ネジなし軸部(52)の断面は前記ネジなし孔部(42)よりも小さく、
前記切削インサート(3)は以下のように前記取付座(2)に固定されている、すなわち、前記固定ネジ(5)の前記頭部(53)が前記切削インサート(3)の前記貫通孔(36)で支持され、前記固定ネジ(5)の前記ネジ部(51)が前記ネジ孔部(41)と係合し、前記固定ネジ(3)の前記頭部(53)は、前記ネジなし軸部(52)が前記ベース面(21)に垂直な視線方向において半径方向で外側の、且つ、軸方向で前記工具の自由端(12)の方向に位置する第2象限(Q2)において前記ネジなし孔部(42)で支持されるように、弾性的に撓められている、
工具(100)。
【請求項2】
前記ネジなし軸部(52)が、半径方向内側で、且つ、前記工具の前記自由端(21)の反対側に位置する第4象限(Q4)において、前記ネジなし孔部(42)から離間して配置されている、請求項1に記載の工具。
【請求項3】
前記固定ネジ(5)の前記頭部(53)が半径方向で外側に、且つ、軸方向で工具の前記自由端(12)の方向に弾性的に撓められている、請求項1または2に記載の工具。
【請求項4】
前記第1の横方向当接面(22)と前記第2の横方向当接面(23)とが、前記ベース面(21)に垂直な視線方向において互いに成す角度(α)が75°より小さい、請求項1から3のいずれか1項に記載の工具。
【請求項5】
前記固定ネジ(5)の前記頭部(53)が前記固定ネジ(5)の軸線に対して垂直方向に最大断面を有し、前記最大断面は前記貫通孔(36)の最小断面よりも大きい、請求項1から4のいずれか1項に記載の工具。
【請求項6】
前記ネジ孔部(4)の縦軸線(Z)が、前記固定ネジ(5)の前記頭部(53)と前記切削インサート(3)の前記貫通孔(36)との接触面において、前記貫通孔(36)の縦軸線(W)に対して、前記第1の横方向当接面(22)に向かう方向及び前記第2の横方向当接面(23)に向かう方向にオフセットされている、請求項1から5のいずれか1項に記載の工具。
【請求項7】
前記第1の横方向当接面(22)の面法線は半径方向外側に向かう方向成分を主成分とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の工具。
【請求項8】
前記第2の横方向当接面(23)の面法線が軸方向成分及び半径方向内向きの方向成分を有する、請求項1から7のいずれか1項に記載の工具。
【請求項9】
前記ベース面(21)の面法線は接線方向成分を主成分とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の工具。
【請求項10】
前記ネジなし孔部(42)の壁が、少なくとも、前記孔(4)の半径方向で外側に、且つ、軸方向で前記工具の前記自由端(12)の方向に位置する第2象限(Q2)において、周方向の孔側で凹状に湾曲して形成されている、請求項1から9のいずれか1項に記載の工具。
【請求項11】
前記ネジなし孔部(42)が略円形の断面を有する、請求項1から10のいずれか1項に記載の工具。
【請求項12】
前記ネジなし孔部(42)が前記ネジ孔部(41)と平行に形成されている、請求項1から11のいずれか1項に記載の工具。
【請求項13】
前記工具(100)が毎分10,000回転を超える回転数での切削加工のために構成された高速フライスである、請求項1から12のいずれか1項に記載の工具。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の工具(100)での切削インサート(3)の使用。
【請求項15】
工具(100)の基体部(1)の取付座(2)に切削インサート(3)を固定する方法であって、
前記基体部(1)が回転軸(R)を有し、動作中に前記工具(100)が前記回転軸の周りを回転し、前記取付座(2)が、前記切削インサート(3)の下面を載置するためのベース面(21)と、前記切削インサート(3)を半径方向内側に向けて支持する第1の横方向当接面(22)と、前記切削インサート(3)を軸方向に、且つ、半径方向外側に向けて支持する第2の横方向当接面(23)とを有し、
固定ネジ(5)を収容する孔(4)が前記ベース面(21)に形成されており、前記孔(4)は前記ベース面(21)から離れたネジ孔部(41)及び前記ベース面(21)により近いネジなし孔部(42)を有し、
以下のステップ、すなわち、
前記切削インサート(3)を前記取付座(2)上に配置するステップであって、前記切削インサート(3)の下面(33)が前記ベース面(21)で支持され、前記切削インサート(3)の第1の側面(37)が前記第1の横方向当接面(22)に当接し、前記切削インサート(3)の第2の側面(38)が前記第2の横方向当接面(23)に当接する、ステップと、
前記切削インサート(3)の貫通孔(36)及び前記孔(4)を通して固定ネジ(5)のネジ部(51)を案内するステップであって、前記ネジ部(51)が前記ネジ孔部(41)と係合し、前記固定ネジ(5)の前記ネジ部(51)と頭部(53)との間に配置されたネジなし軸部(52)が前記ネジなし孔部(42)内に全周にわたって間隔をあけて配置される、ステップと、
前記固定ネジ(5)をネジ込みするステップであって、最初に前記頭部(53)が前記貫通孔(36)の、前記基体部(1)の自由端(12)とは反対側の半径方向内側に当接し、次に前記頭部(53)及び前記ネジなし軸部(52)が半径方向で外側方向に、且つ、軸方向で前記基体部(1)の前記自由端(12)の方向に弾性的に撓められて、前記ネジなし軸部(52)は半径方向で外側の、且つ、軸方向で前記自由端(12)の側にあるネジなし孔部(42)の第2象限(Q2)と当接する、ステップと、
を有する方法。
【国際調査報告】