IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ・キャソリック・ユニバーシティ・オブ・アメリカの特許一覧

特表2023-554078水溶液からヨウ素酸塩を除去する方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-26
(54)【発明の名称】水溶液からヨウ素酸塩を除去する方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/06 20060101AFI20231219BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20231219BHJP
   C02F 1/70 20230101ALI20231219BHJP
   C02F 1/58 20230101ALI20231219BHJP
   C02F 1/42 20230101ALI20231219BHJP
【FI】
G21F9/06 551
G21F9/06 581F
C02F1/28 E
C02F1/28 A
C02F1/70 Z
C02F1/58 L
C02F1/42 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536905
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(85)【翻訳文提出日】2023-08-04
(86)【国際出願番号】 IB2021061315
(87)【国際公開番号】W WO2022130104
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】63/127,303
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/540,332
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】399128150
【氏名又は名称】ザ・キャソリック・ユニバーシティ・オブ・アメリカ
【氏名又は名称原語表記】THE CATHOLIC UNIVERSITY OF AMERICA
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】ペッグ,イアン エル.
(72)【発明者】
【氏名】ペナフィエル,ミゲル
【テーマコード(参考)】
4D025
4D038
4D050
4D624
【Fターム(参考)】
4D025AA01
4D025AA09
4D025AB06
4D025BA14
4D025DA10
4D038AA02
4D038AA03
4D038AA08
4D038AB14
4D038BB13
4D038BB15
4D050AA02
4D050AA06
4D050AA12
4D050AB19
4D050BA05
4D050BA12
4D050CA06
4D050CA08
4D050CA13
4D050CA20
4D624AA01
4D624AA04
4D624AA05
4D624AB10
4D624AB11
4D624BA07
4D624BA14
4D624BA17
4D624BB07
4D624DB19
4D624DB22
(57)【要約】
水溶液からヨウ素酸塩を除去する方法および材料を記載する。本方法は、ヨウ素酸塩のヨウ化物への還元と、それに続いてまたは同時に吸着、イオン交換、または沈殿を行うことによるヨウ化物の除去とを含む。これらの方法は、放射性核廃棄物からの放射性ヨウ素の除去に有効である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性液からヨウ素酸塩を除去する方法であって、
(i)チオール基を含む水溶性化合物を添加する工程と、
(ii)ヨウ化物を除去する工程と
を含み、該チオール基がヨウ素酸塩をヨウ化物へ変換する、方法。
【請求項2】
ヨウ化物が、吸着、イオン交換、および沈殿からなる群から選択される少なくとも1つの方法によって除去される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水性液が放射性ヨウ素種を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
チオール基を含む前記水溶性化合物が、L-システインまたはその鏡像異性体もしくはそのラセミ混合物である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
チオール基を含む前記水溶性化合物がチオグリコール酸塩である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
チオール基を含む前記水溶性化合物の少なくとも1つが、チオグリコール酸ナトリウムおよびチオグリコール酸からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
チオール基を含む前記水溶性化合物の少なくとも1つがチオグルタチオンである、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ヨウ素酸塩の濃度が10ppb~10ppmの範囲内である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記水性液が1~11の範囲内のpHを有する、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記水性液が水性廃液流である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記水性液が海水である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記水性液が地下水である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ヨウ素酸塩に対する水溶性化合物のモル比が少なくとも6である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ヨウ素酸塩に対する水溶性化合物のモル比が8~10の範囲内である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ヨウ化物が強塩基性陰イオン交換樹脂を用いるイオン交換によって除去される、請求項2から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ヨウ化物がヨウ化銀として沈殿されることによって除去される、請求項2から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ヨウ化物が、銀含浸ゼオライトへの吸着、またはセリウム含有、ビスマス含有、もしくは鉄含有材料への吸着によって除去される、請求項2から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記水性液がナトリウムを12,000ppmまでの濃度で含有する、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記水性液が、塩素を20,000ppmまでの濃度で含有する、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記水性液が炭酸水素塩および硫酸塩からなる群から選択される少なくとも1つの化学基を15,000ppmまでの濃度で含有する、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記水性液がアンモニウムを約1000ppmまでの濃度で含有する、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記水性液が亜硝酸塩を200ppmまでの濃度で含有する、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記水性液が硝酸塩を5ppmまでの濃度で含有する、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記水性液が、0.5ppmまでの濃度を有する、カリウム、カルシウム、アルミニウム、フッ化物、リン酸塩、およびマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1つの化学物質を含有する、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
水溶液中のヨウ素酸塩をヨウ化物へ変換するための材料であって、チオール基含有化合物が結合される固体基質を含む、材料。
【請求項26】
前記チオール基含有化合物が、L-システイン;L-システイン鏡像異性体;L-システインラセミ混合物;チオグルタチオン;またはチオグリコール酸ナトリウムおよびチオグリコール酸からなる群から選択される少なくとも1つのチオグリコール酸塩;からなる群から選択された少なくとも1つである、請求項25に記載の材料。
【請求項27】
前記基質がイオン交換材料である、請求項25または26に記載の材料。
【請求項28】
前記基質がヨウ化物を吸収する陰イオン交換材料である、請求項25から27のいずれか一項に記載の材料。
【請求項29】
前記基質がスチレン-ジビニルベンゼンイオン交換樹脂である、請求項25から28のいずれか一項に記載の材料。
【請求項30】
前記基質が酸化アルミニウムである、請求項25から29のいずれか一項に記載の材料。
【請求項31】
前記基質が酸化ケイ素である、請求項25から30のいずれか一項に記載の材料。
【請求項32】
前記材料が、前記基質を前記チオール基含有化合物の水溶液と接触させ、次いでリンスすることによって作製される、請求項25から31のいずれか一項に記載の材料。
【請求項33】
前記材料が、MARATHON Aイオン交換樹脂またはAmberLite HPR4800 OHイオン交換樹脂を、L-システイン;L-システイン鏡像異性体;L-システインラセミ混合物;チオグルタチオン;またはチオグリコール酸ナトリウムおよびチオグリコール酸からなる群から選択される少なくとも1つのチオグリコール酸塩;からなる群から選択される少なくとも1つのチオール基含有化合物の水溶液と接触させ、次いでリンスすることによって作製される、請求項25から32のいずれか一項に記載の材料。
【請求項34】
水性液からヨウ素酸塩を除去する方法であって、該水性液を、請求項25から33のいずれか一項に記載の材料と接触させる工程を含む、方法。
【請求項35】
水性液からヨウ素酸塩を除去する方法であって、該水性液を、(i)請求項25から34のいずれか一項に記載の材料と(ii)吸着またはイオン交換によってヨウ化物を除去することができる媒体とを含む混床に接触させる工程を含む、方法。
【請求項36】
水性液からヨウ素酸塩を除去する方法であって、該水性液を、請求項25から35のいずれか一項に記載の材料を含む第1の床と接触させる工程と、次いで該水性液を、吸着またはイオン交換によってヨウ化物を除去することができる媒体を含む第2の床と接触させる工程とを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素酸塩をヨウ化物に変換し、それに続いてまたは同時に、吸着、イオン交換、または沈殿を行うことによってヨウ化物を除去することにより、水溶液からヨウ素酸塩を除去する方法に関する。本発明の重要な適用は、一部がヨウ素酸塩として存在し得る放射性ヨウ素を含有する液状廃棄物流の浄化に関する。そのような廃棄物としては、特に、原子炉運転および使用済み核燃料の再処理によって生じた液状廃棄物が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
ヨウ素の放射性同位体である129Iは、原子炉内でウランおよびプルトニウムの核分裂によって形成され、したがって、多くの種類の核廃棄物中に存在する。129Iは、半減期が1570万年であるベータ放射体である。ヨウ素は、ヨウ化物およびヨウ素酸塩などの極めて可溶性である陰イオンを形成するため、環境での可動性が高い。環境における放射性ヨウ素の存在は、生態系全般および人間の健康に対してリスクをもたらすことから、129Iは、極めて長い半減期および環境での高い可動性と、特に甲状腺におけるヨウ素の生物学的活性とが相まって、核廃棄物処分場の性能評価において重要な環境リスク因子とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
放射性液状廃棄物におけるヨウ素の化学的形態は、典型的にはヨウ化物およびヨウ素酸塩であり、これらの形態が大部分を占めていることが多い。ヨウ化物の除去には、幾つもの有効な選択肢があり、例えば、強塩基性陰イオン交換体によるイオン交換、ヨウ化銀としての沈殿、銀ゼオライトなどの銀含浸媒体への吸着、およびセリウム系、ビスマス系、または鉄系媒体による吸着などがある。しかし、対照的に、ヨウ素酸塩の除去には有効な選択肢はほとんどない。その結果、全体として廃液流から放射性ヨウ素を除去する能力は、ヨウ素酸塩として存在するヨウ素の量によって制限され得る。本発明は、ヨウ素酸塩の形態で存在するヨウ素の除去に有効な方法を教示することによりこの必要性に対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の広範な局面によれば、本開示は、水性液からヨウ素酸塩を除去する方法であって、チオール基を含む水溶性化合物を添加する工程と、ヨウ化物を除去する工程とを含み、該チオール基が、ヨウ素酸塩をヨウ化物に変換することができる、方法を提供する。
【0005】
第2の広範な局面によれば、本開示は、水溶液中のヨウ素酸塩をヨウ化物に変換するための材料であって、チオール基含有化合物が結合される固体基質を含む該材料を提供する。
【0006】
第2の広範な局面によれば、本開示は、水溶液中のヨウ素酸塩をヨウ化物に変換するための材料を用いて水性液からヨウ素酸塩を除去する方法であって、該材料が、チオール基含有化合物が結合される固体基質を含む、方法を提供する。
【0007】
本発明のその他の応用が、本明細書に示した説明から当業者には明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(定義)
用語の定義が、一般的に使用されるその用語の意味から逸脱する場合、特段の指示がない限り、出願人は以下に示す定義を利用することを意図する。
【0009】
上記の概括的な説明および下記の詳細な説明は、例示的かつ説明的なものにすぎず、特許請求されているいかなる主題も限定しないことを理解されたい。本出願では、特段の明記がない限り、単数の使用は複数を含む。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈に特に明確な指示がない限り、複数の指示対象を含むことを留意しなければならない。本出願では、「または」の使用は、別段の記載がない限り、「および/または」を意味する。さらに、用語「including(含む)」、ならびに「include(含む)」、「includes(含む)」、および「included(含まれる)」などのその他の形態の使用は、限定的なものではない。
【0010】
本開示では、用語「comprising(含む)」、用語「having(有する)」、用語「including(含む)」、およびこれらの単語の変形は、非限定的であることが意図されており、列記された要素以外の追加的な要素があり得ることを意味する。
【0011】
本開示では、「最上部の」、「最下部の」、「上の」、「下の」、「上に」、「下に」、「左の」、「右の」、「水平の」、「垂直方向の」、「上へ」、「下へ」などの方向を示す用語は、本開示の様々な実施形態を説明するなかで単に便宜的に使用されているにすぎない。本開示の実施形態は、様々に方向づけされてもよい。例えば、図面に示した線図、装置などは、反転させる、任意の方向に90°回転させる、逆向きにするなどしてもよい。
【0012】
本開示では、値または特性は、該値が特定の値、特性、またはその他の因子を使用して数学的計算または論理的決定を実施することによって導出される場合、該特定の値、特性、条件の満足度、またはその他の因子「に基づく」ものとする。
【0013】
本開示では、より簡潔な説明とするために、本明細書で示した定量的表現の一部は、「約」という用語によって限定されていないことに留意すべきである。用語「約」の使用が明示的であるにせよそうでないにせよ、本明細書において所与の量はいずれも、実際の所与の値を指すことを意味し、また、当技術分野の通常の技術に基づき合理的に推測されるはずである、そのような所与の値に対する近似値を指すことをさらに意味することが理解される。近似値としては、そのような所与の値についての、実験および/または測定条件に応じた近似値が挙げられる。
【0014】
本開示では、用語「有機硫黄化合物」は、硫黄を含有する有機化合物を指す。本開示では、この用語は、一般式R-(SH)よって表され得る、チオール官能基を少なくとも1つ有する硫黄含有有機化合物を指す。
【0015】
本開示では、用語「化学量論」は、化学反応の前、間、および後の反応物の量と生成物の量との間の関係を指す。
【0016】
本開示では、用語「媒体」、「基質」、および「樹脂」は、互換的に使用される。用語「媒体」は、ペンダント状(pendant)化学的部分を有する「基質」からなる有機系または無機系固体イオン交換材料を指し、該化学的部分は、基質の完全性を維持しつつ化学反応に関与し得る。イオン交換媒体は、有機系ポリマー「樹脂」であってもよい。この文脈では、用語「媒体」、「基質」、および「樹脂」は、イオン交換およびその他の化学反応に関与することができる化学的部分、例えばチオール官能基、を結合するためのバックボーンである、固体マトリックスを指す。
【0017】
(説明)
本発明は様々な修正および代替形態が可能であるが、その具体的な実施形態は図面に例として示されており、以下で詳しく説明するものとする。ただし、この説明は開示した特定の形態に本発明を限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明が本発明の精神および範囲内にあるすべての変更、均等物、および代替物を包含するものであることが理解されるべきである。
【0018】
水溶液に溶解しているヨウ素のスペシエーション(speciation)は、その他の溶解成分の濃度および溶液のpHや酸化還元(レドックス)状態などのその他の特徴に依存する。水溶液に溶解しているヨウ素の一般的な形態としては、ヨウ化物(I)、ヨウ素酸塩(IO )、分子状ヨウ化物(I)、および三ヨウ化物(I )が挙げられる。核原料からの放射性液状廃棄物中で大部分を占めるヨウ素の形態は、典型的にはヨウ化物およびヨウ素酸塩である。
【0019】
ヨウ化物として水溶液中に存在するヨウ素の除去は、強塩基性陰イオン交換体によるイオン交換、その他のイオン交換体、ヨウ化銀としての沈殿、銀ゼオライトなどの銀含浸媒体への吸着、またはセリウム系、ビスマス系、または鉄系媒体による吸着を含む様々な方法によって、効果的に達成され得る。しかし、対照的に、ヨウ素酸塩の除去には有効な選択肢はほとんどない。例えば、ヨウ化物除去に有効な多くのイオン交換媒体は、ヨウ素酸塩除去に対する有効性は桁違いに低い。同様に、ヨウ化銀は室温での水可溶性が約3×10-8g/Lであるのに対し、ヨウ素酸銀の室温での水可溶性はその100,000倍を超える。その結果として、ヨウ化物が、例えば硝酸銀を添加してヨウ化銀として沈殿させることによって、極めて効果的に除去できるのに対して、ヨウ素酸塩は、沈殿によって容易に除去することができない。
【0020】
1つの実施形態では、本開示は、まずヨウ素酸塩の形態のヨウ素をヨウ化物に還元することによって水流からヨウ素酸塩を除く、新規の方法を説明する。ヨウ素酸塩は、ひとたびヨウ化物に変換されれば、ヨウ化物除去に有効であることが示されているイオン交換によって容易に除去され得る。
【0021】
1つの実施形態では、ヨウ素酸塩のヨウ化物への還元は、1つまたは複数のチオール官能基を有する化合物を使用して達成される。チオール官能基は、タンパク質中に豊富に存在し、より詳細にはアミノ酸のシステイン中に豊富に存在する。チオール官能基は、チオグリコール酸およびチオグルタチオンなどのその他の低分子量の有機化合物中にもみられる。これらの有機硫黄化合物は、一般式R-SH(式中、SHはチオール官能基であり、Rは有機化合物のそれ以外の部分である)を有する。複数のチオール官能基を有する化合物は、やはりヨウ素酸塩のヨウ化物への還元に使用できるものであるが、例えば、R-SH化合物の重合によって構成されていてもよい。この場合、重合化合物は、一般式R’-(SH)(式中、SHはチオール官能基であり、R’はポリマー骨格であり、nはポリマー分子当たりのチオール基の数である)によって表されることになる。この場合、nは、1より大きく、骨格の構造およびその長さによって限定される。
【0022】
チオール官能基を含有する有機硫黄化合物の酸化によって、ジスルフィド結合を有する化学的実体が形成され得る。
【0023】
1つの実施形態では、R-(SH)(式中、n=1)で表される有機硫黄化合物によるヨウ素酸塩の還元の化学量論は、以下のように表すことができる。
6R-SH+IO →3R-S-S-R+I+3H
【0024】
この反応は、決して本発明を限定するものではないが、溶液中に存在するヨウ素酸塩のすべての還元を達成するのに必要とされる還元剤の最少量について、有用かつ有効な指針を示すものである。上記の化学量論に基づくと、1モルのヨウ素酸塩を還元するのに、少なくとも6モルのR-SHが必要とされる。
【0025】
1つの実施形態では、本開示に記載した、ヨウ素酸塩をヨウ化物に変換し、ヨウ化物として除去する方法は、二工程プロセスまたは一工程プロセスとして実行され得る。
【0026】
別の実施形態では、ヨウ素酸塩をヨウ化物に変換し、ヨウ化物として除去する方法のその他の変形形態が当業者には明らかとなるであろう。例えば、ヨウ素酸塩をヨウ化物に変換した後、ヨウ化物は、ヨウ化銀として沈殿させることによって、あるいは銀含浸ゼオライトに、またはセリウム含有、ビスマス含有、もしくは鉄含有材料に吸着させることによって、除去され得る。
【0027】
1つの実施形態では、ヨウ素酸塩除去は、二工程プロセスにおいて達成される。まず、少なくとも1つの還元剤を所要濃度で添加する。還元期間が終了すると、プロセスの第2の工程がヨウ化物を除去する処理に関わる。好ましい実施形態では、溶液中のヨウ素酸塩1モルにつき約8モルの還元種が、上記の所要最少量を上回る好適な量である。好ましい実施形態では、還元剤は、水溶液として添加される。他の実施形態では、還元剤はまた、処理される予定の液体に溶解される固体として添加され得る。本開示に記載の還元剤によるヨウ素酸塩の還元は、迅速に進行し、概して数分で完了する。還元プロセス後のヨウ化物の除去に関しては、1つの実施形態では、溶液は、ヨウ化物の除去に有効な陰イオン交換媒体にさらされ得る。好ましい実施形態では、そのような媒体の1つはPurolite(登録商標)A532Eであり、ジビニルベンゼンと架橋されたポリスチレン構造を有するゲルポリマー樹脂である。
【0028】
別の実施形態では、還元剤は、固体媒体に結合されており、次いで、ヨウ素酸塩含有溶液と接触してヨウ素酸塩をヨウ化物に効果的に還元し、ヨウ化物は、次いで上記のように除去される。固体媒体は、有機系または無機系であり得る。好ましい実施形態では、還元剤は、ある特定の陰イオン交換樹脂に化学的に結合され得る。還元剤処理された樹脂は、したがって、遊離チオール官能基を結合した陰イオン交換樹脂となる。結合した遊離チオール官能基は、ヨウ素酸塩をヨウ化物に還元することにおいて有効である。1つの実施形態では、還元剤処理された樹脂は、ヨウ化物の除去に有効なPurolite(登録商標)A532Eなどの強塩基性樹脂と組み合わせて使用してもよい。別の実施形態では、還元剤処理された樹脂は、ヨウ素酸塩の還元にもヨウ化物の除去にも有効である場合、単独で使用され得る。これらどちらの実施形態でも、ヨウ素酸塩の除去は、還元剤処理された媒体に溶液を該媒体単独でまたはヨウ化物除去に有効な第2の媒体と組み合わせて接触させることを含む一工程プロセスにおいて、達成され得る。
【0029】
1つの実施形態では、イオン交換樹脂は、チオグリコール酸ナトリウム水溶液で、室温で少なくとも12時間処理される。別の実施形態では、イオン交換樹脂は、L-システインまたはグルタチオンナトリウムなどのその他のチオール含有化合物で処理される。1つの実施形態では、還元剤を固体媒体に結合させ、かつチオール官能基を遊離状態のままにしておく任意のプロセスが、ヨウ素酸塩の還元とヨウ化物の除去との両方が可能な、還元剤処理されたイオン交換樹脂を作出するのに有効である。溶解したヨウ素酸塩イオンを含む水溶液を、還元剤処理された樹脂と接触させて静置すると、遊離チオール基がヨウ素酸塩をヨウ化物に還元し、次いでヨウ化物が上記のプロセスのいずれかによって除去され得る。
【0030】
1つの実施形態では、本開示に記載したヨウ素酸塩の除去法は、広範な条件にわたり有効である。一部の好ましい実施形態では、幾つかの特定の条件が、試験され、検証された。これらは以下の実施例に記載している。実施例は、決して本発明の範囲を限定するものではない。
【0031】
本開示の幾つもの実施形態を詳細に説明しているので、修正および変形形態が、添付の特許請求の範囲において定義された本発明の範囲から逸脱することなく可能であることは明らかとなるであろう。さらに、本開示におけるすべての実施例は、本発明の幾つもの実施形態を例証する一方で、非限定的な例として示されており、したがって、そのように例証された様々な態様を限定するものとして用いられるものではないことを認識すべきである。
【実施例
【0032】
実施例1
二工程ヨウ素除去法の検証
ヨウ素酸塩の除去に対する本開示に記載の二工程法の使用の有効性を、米国エネルギー省Hanford核施設での廃棄物処理および環境浄化作業の間に生じることが予測される放射性ヨウ素(129I)を含有する低レベル放射性水性廃液流の化学的組成をシミュレートした溶液を使用して、実験的に検証した。Hanfordの廃液中の放射性ヨウ素は、主にヨウ化物およびヨウ素酸塩として存在する。本実施例では、この廃液流の化学的類似物を、非放射性ヨウ素を用いて調製し、以下、溶液1と呼ぶ。
【0033】
本実施例では、溶液1は、以下の成分および近似濃度を用いて調製した:Na、SO 2-、およびHCO 、それぞれ約1,500ppm;NH 、約100ppm;Cl、約50ppm;NO 、約20ppm;NO 、約0.5ppm;K、Ca 、Al 、F、およびPO 3-、それぞれ約0.05ppm;Mg2+、約0.005ppm。ヨウ素酸塩は、ヨウ素酸ナトリウムとして、ヨウ素濃度が5ppmとなるように添加した。これは、溶液1リットル当たり約4×10-5モルのヨウ素酸塩に相当する。この溶液のpHは、約10.5に調整した。L-システインは、L-システインの約0.1%水溶液として、システインの最終濃度が溶液1リットル当たり約3.3×10-4モルとなるように、溶液1に添加した。この配合を用いると、溶液は、ヨウ素酸塩1モルに対して8モルのチオール官能基を含有する。溶液を約10分間、手作業で混合し、次いで、サンプリングして溶液中のヨウ素酸塩およびヨウ化物の量を測定した。L-システイン添加の前と後の溶液のイオンクロマトグラフィーによる測定値から、装置の測定能力の範囲において、ヨウ素酸塩がすべてヨウ化物に還元されたことが示された。
【0034】
溶液1のpHを、硫酸を使用して10.5、8、7、4、および2を含む幾つかのpH値の各値に調整した後、この試験を繰り返した。すべてのpHで、L-システインが、溶液中のすべてのヨウ素酸塩をヨウ化物に還元することにおいて等しく有効であることが見出された。
【0035】
試験はまた、還元剤としてチオグリコール酸ナトリウムを使用して繰り返した。L-システインに代えてチオグリコール酸ナトリウムを使用してヨウ素酸塩をヨウ化物に還元した場合、同様の結果が得られた。還元剤としてチオグリコール酸ナトリウムを使用した場合、還元剤対ヨウ素酸塩のモル比が8対1で、ヨウ素酸塩のヨウ化物への完全な還元がやはり達成された。
【0036】
ヨウ素酸塩をヨウ化物に還元する本開示に記載の方法の有効性を、さらに、ヨウ素酸塩以外のすべての成分の濃度を10倍高めた溶液1の変形でも試験した。ヨウ素酸塩としてのヨウ素の濃度は、溶液1の変形を使用する試験でも5ppmを維持した。L-システインを還元剤とし、先の試験と同じ濃度で使用した。溶液のpHは、硫酸を使用して10.5、8、7、4、および2を含む幾つかのpH値の各値に調整した。溶液1の変形を使用した場合、試験したすべてのpH値で、ヨウ素酸塩のヨウ化物への完全な還元が達成された。
【0037】
上記のように試験溶液中のヨウ素酸塩をヨウ化物に変換した後、ヨウ化物を、強塩基性陰イオン交換樹脂を使用して除去した。本実施例の本工程のために選択した樹脂は、塩化物形態のスチレン-ジビニルベンゼン共重合体の複合アミン誘導体であり、これは、A532Eの名称およびPurolite(登録商標)の商標で市販されている。この樹脂は、ヨウ化物除去に有効な数あるイオン交換樹脂のうちの1つである。A532Eを使用した溶液中のヨウ化物除去の有効性は、10mlの類似物溶液に0.5グラムの樹脂を添加することによって試験した。この類似物溶液には、ヨウ素をヨウ素酸塩として元々5ppm有し、次いで上記のようにヨウ化物に還元された、還元工程後の溶液1および溶液1の変形が含まれる。樹脂を含む溶液を、約1時間の連続転倒回転によって混合させ、次いで、サンプリングして、イオンクロマトグラフィーによってヨウ素酸塩およびヨウ化物の濃度を測定した。下記の表1に示すように、すべての場合で、装置の測定能力の範囲において、ヨウ化物の完全な除去が確認された。表1および本明細書のすべての表では、直接的な比較を容易にするために、ヨウ素種(ヨウ素酸塩またはヨウ化物)の濃度は、すべてヨウ素の等量濃度として報告していることを留意されたい。
【0038】
【表1】
【0039】
本実施例によって、約2~10.5の広いpH範囲の複合イオン組成物の溶液からのヨウ素酸塩の完全な除去が、ヨウ素酸塩のヨウ化物への還元とその後のイオン交換によるヨウ化物の除去とを含む本開示に記載の二工程法によって、効果的に達成され得ることが実証された。
【0040】
実施例2
一工程ヨウ素除去法の検証
ヨウ素酸塩の除去に対する本発明に記載の一工程法の使用の有効性を、実施例1に記載した溶液1をやはり使用して、実験的に検証した。実施例2では、ヨウ素酸ナトリウムとしてヨウ素酸塩を添加して、溶液中10ppmのヨウ素の濃度を得た。
【0041】
本実施例の目標は、ヨウ素酸塩をヨウ化物に還元する化学基を含有する第1の樹脂とヨウ化物を除去することができる第2の樹脂とから構成された、ヨウ素酸塩の除去のための混床を使用することである。ヨウ素酸塩を還元する樹脂は、チオール含有化学基を、チオール官能基の還元能を維持しつつ、陰イオン交換樹脂のポリマービーズに結合させる化学的処理によって調製した。還元剤の結合のために使用した樹脂は、水酸化物形態のスチレン-ジビニルベンゼンゲル樹脂であり、この樹脂は、MARATHON Aの名称ならびにMARATHON(登録商標)およびDOWEX(登録商標)の商標で市販されている。MARATHON Aは、現在はAmberlite HPR4800 OHの名称で販売されている。ヨウ化物除去樹脂はA532Eとし、これは実施例1でも使用した。
【0042】
本実施例では、0.5グラムの樹脂を、チオグリコール酸ナトリウムの0.5%水溶液10mlに室温でまたは37℃にて連続回転下で24時間浸漬させることによって、チオール基をMARATHON A樹脂に結合させた。得られた材料を、次いで、等量の好ましくは10~10.5の範囲のpHの水酸化ナトリウム溶液で複数回リンスした。この処理は、室温、37℃のどちらでも、チオール官能基のMARATHON A樹脂への結合に等しく有効である。得られたチオール官能基を有するMARATHON A樹脂は、M-A_modと名付けた。
【0043】
10ppmのヨウ素濃度となるようにヨウ素酸ナトリウムを加えた溶液1を10ml使用して、上記のように調製したヨウ素酸塩還元樹脂約0.4グラムおよびA532E樹脂0.5グラムを添加して、試験を行った。樹脂の混合物を含む溶液を、約1時間連続転倒回転させることによって混合し、次いで、サンプリングして、誘導結合プラズマ質量分析(ICPMS)によってヨウ素を分析した。ICPMSは、スペシエーションに関係なく総ヨウ素を測定する。樹脂添加前のヨウ素濃度も測定した。下記の表2に示すように、ヨウ素酸塩として元々添加されていたヨウ素の完全な除去が実証された。
【0044】
【表2】
【0045】
本実施例は、複合イオン組成物の溶液からのヨウ素酸塩の完全な除去が、ヨウ素酸塩をヨウ化物に還元するペンダント状チオール官能基を有する陰イオン樹脂とイオン交換によってヨウ化物を除去できる陰イオン樹脂とから構成された混床樹脂を使用する、本開示に記載の一工程法によって、効果的に達成され得ることを実証している。
【0046】
実施例3
非放射性ヨウ素と放射性ヨウ素との混合物を除去する二工程ヨウ素除去法の検証
水溶液からのヨウ素酸塩の除去に対する本開示に記載の二工程法の使用の有効性を、非放射性ヨウ素と放射性ヨウ素との混合物を含有する溶液を用いたこと以外、実施例1に記載した方法と同様に、実験的に検証した。放射性ヨウ素の使用によって、放射性ヨウ素が極めて低濃度でも、本発明が放射性ヨウ素酸塩の除去に適用できることが実証される。これらの試験には、半減期が13.2時間である、短寿命のヨウ素の放射性同位体123Iを使用した。この同位体は、医療用途で使用され、ヨウ化ナトリウムの水溶液として市販されている。本試験では、ヨウ素はヨウ素酸塩の形態で存在することが必要であったため、材料は、ヨウ化物をヨウ素酸塩に変換する処理を行った。ヨウ化物をヨウ素酸塩に変換するための出発溶液は、安定同位体の放射性同位体に対する比が少なくとも10であるヨウ化ナトリウム溶液とした。まず、酢酸ナトリウムおよび酢酸を用いてヨウ化物溶液を緩衝化し、次いで、亜塩素酸ナトリウムを適切な化学量論的比(ヨウ化ナトリウム1モル当たり6当量の亜塩素酸ナトリウム)で添加することによって、出発溶液中のヨウ化物をヨウ素酸塩に変換した。この変換は、変換したヨウ素酸塩溶液を溶液1に加え、次いで、この溶液をPurolite(登録商標)A532Eと1時間接触させることによって確認した。A532E樹脂は、溶液からヨウ化物をヨウ素酸塩よりはるかに効果的に除去するため、したがって、ヨウ素除去度が低ければ、ヨウ素がヨウ素酸塩として存在したことを示している。これらの試験では、出発放射能の約90%が試験終了時になお存在しており、これは、意図した通り、溶液中のヨウ素の全部ではないとしても大部分がヨウ素酸塩として存在したことを示している。
【0047】
本実施例では、試料は、変換した放射性ヨウ素酸塩溶液を、公称値約0.2ppmおよび1ppmの総ヨウ素濃度ならびに公称値約0.3または1.5μCi/mlの放射能となるように加えた溶液1を10ml使用して調製した。実施例1と同様に、まず、L-システインをヨウ素酸塩含有溶液に添加して、ヨウ素酸塩をヨウ化物に還元した。次に、この溶液をPurolite(登録商標)A532Eと1時間接触させて、溶液からヨウ化物を除去した。ヨウ素酸塩除去の有効性は、L-システインおよびPurolite(登録商標)A532Eによる処理の前後にガンマ線分光法によって測定した溶液中の放射能を比較することによって評価した。処理前後の溶液中のヨウ素濃度も、ICPMSによって測定した。ガンマ線分光法およびICPMSの両分析からは同様の結果が得られ、本実施例で記載した条件下では、下記の表3および4に示すように、溶液中の85%に達するヨウ素酸塩が除去されたことが示された。
【0048】
本実施例によって、複合イオン組成物の溶液からの放射性ヨウ素酸塩の実質的な除去が、ヨウ素酸塩をヨウ化物に還元した後、イオン交換によってヨウ化物を除去することを含む本開示に記載の二工程法によって、効果的に達成され得ることが検証された。
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
実施例4
非放射性ヨウ素と放射性ヨウ素との混合物を除去する一工程ヨウ素除去法の検証
水溶液からのヨウ素酸塩の除去に対する本発明に記載の一工程法の使用の有効性を、実施例3と同じく、非放射性ヨウ素と放射性ヨウ素との混合物を含有する溶液を用いたこと以外、実施例2に記載した方法と同様に、さらに検証した。結合した還元剤を有するDOWEX(登録商標)のMARATHON Aのヒドロキシル形態の改変バージョンを実施例2に記載したように調製し、これを使用して、溶液からのヨウ素酸塩の除去を試験した。
【0052】
これらの試験では、試料は、変換した放射性ヨウ素酸塩溶液を、公称値約0.2ppm、1ppm、または10ppmの最終ヨウ素濃度、および公称値約0.3μCi/ml、1.5μCi/ml、または15μCi/mlの放射能となるように加えた溶液1を10ml使用して調製した。これらの試験は、まず、各試料に、水分を部分的に除去した後に秤量した改変型MARATHON A樹脂(M-A_mod-p)約0.15グラムを添加し、1時間転倒回転させることによって行った。その後、溶液の試料を採取して、ICPMSおよびガンマ線分光法によって分析した。次いで、0.1グラムのPurolite(登録商標)A532E樹脂を添加し、この混合物をさらに1時間転倒回転させた。A532E樹脂による処理後、溶液の試料を採取して、ICPMSおよびガンマ線分光法によって分析した。ヨウ素酸塩除去に対するこれらの処理の有効性は、処理の前後にガンマ線分光法によって測定した溶液中の123I活性レベルを比較することによって評価した。評価はまた、ICPMSによって測定した処理前後の濃度を比較することによっても行った。M-A_mod-pによる処理後に採取した溶液の測定値は、改変型MARATHON A樹脂を単独で使用した場合は、ヨウ素酸塩の除去は、ICPMSおよびガンマ線分光法いずれの測定でも約85%超であったことを示している。A532Eによる処理後に採取した溶液の測定値から、改変型MARATHON A樹脂とPurolite(登録商標)A532E樹脂とを組み合わせた場合は、表5および6に示したガンマ線分光法およびICPMSの両結果が示している通り、95%超のヨウ素酸塩除去率が実証された。
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
別の試験を、変換した放射性ヨウ素酸塩溶液を、公称値約10ppbの総ヨウ素濃度および公称値約0.5μCi/mlの活性となるように加えた、溶液1を10ml用いて行った。ろ紙に載せ、風乾させた後に秤量した改変型MARATHON A樹脂(M-A_mod-d)約0.06グラムを、ヨウ素酸塩溶液を加えた溶液1試料に添加し、この試料を1時間転倒回転させた。また、比較目的のために、2つの対照試験を、一方は10ppb/0.5μCi/mlのヨウ素酸塩および0.1グラムの非改変型MARATON A樹脂を加えた溶液1試料を使用して、もう一方は10ppb/0.5μCi/mlのヨウ化物および0.1グラムの非改変型MARATHON A樹脂を加えた溶液1試料を使用して実施した。比較試験を、改変型樹脂を用いた試験で使用した前記ヨウ素酸塩溶液を加えた溶液1中のヨウ素が、ヨウ素酸塩の形態で存在したことを実証するために行った。ヨウ素酸塩の確認には、非改変型MARATHON A樹脂を、Purolite(登録商標)A532E樹脂に代えて使用した。その理由は、それがヨウ化物に対してより高い選択性を有するからであり、これらの試験の低いヨウ素濃度(10ppb)では特に有用であった。本実施例の試験は、樹脂処理の前後にガンマ線分光法によって測定した溶液中の123I活性レベルを比較することによって評価した。結果から、非改変型樹脂を使用すると、ヨウ素がヨウ素酸塩として存在した場合、約35%の放射能が除去されたことが示された。比較して、ヨウ素がヨウ化物として存在した場合、非改変型樹脂によって80%超の放射能が除去された。改変型樹脂とヨウ素酸塩含有溶液とを使用した場合、80%超の放射能が除去されており、これは、表7に示すように、非改変型樹脂のヨウ化物除去能に匹敵していた。
【0056】
【表7】
【0057】
本実施例によって、非放射性ヨウ素酸塩および放射性ヨウ素酸塩の混合物として存在するヨウ素酸塩の実質的な除去が、本発明に記載の一工程法であって、(i)ヨウ素酸塩をヨウ化物に還元するペンダント状チオール官能基とイオン交換によってヨウ化物を除去するイオン交換部位とを有する陰イオン樹脂、または(ii)ヨウ素酸塩をヨウ化物に還元するペンダント状チオール官能基を有する陰イオン樹脂とイオン交換によってヨウ化物を除去できる別の陰イオン樹脂とから構成された混床、を使用する前記方法によって効果的に達成され得ることが検証された。
【0058】
実施例5
海水からのヨウ素除去法の検証
本実施例では、ヨウ素酸塩が海水中に存在する場合における、本開示に記載のヨウ素酸塩除去法の有効性を検証した。本実施例の試験の実施には、Carolina Biological Supply Companyから入手したCarolina(登録商標)Seawaterを使用した。海水1リットル当たり約4×10-5モルのヨウ素酸塩に相当する5ppmのヨウ素濃度となるように、ヨウ素酸塩をヨウ素酸ナトリウムとして海水に添加した。本開示に記載のヨウ素酸塩除去法の両法を本実施例で検証した。二工程法を使用する試験では、ヨウ素酸塩を添加した海水の10ml試料を、まず、ヨウ素酸塩をヨウ化物に還元するためにL-システインで処理し、次いで、溶液からヨウ化物を除去するために0.1グラムのPurolite(登録商標)A532Eで1時間転倒回転させて処理した。一工程法を使用する試験では、海水1リットル当たり約4×10-5モルのヨウ素酸塩に相当する5ppmのヨウ素濃度となるようにヨウ素酸塩を添加した海水の10ml試料を、実施例2のように調製した、乾燥せずに秤量した約0.13グラムの改変型MARATHON A樹脂(M-A_mod)で1時間転倒回転させて処理した後、0.1グラムのPurolite(登録商標)A532Eを加えてさらに1時間転倒回転させた。海水から除去されたヨウ素酸塩の割合は、二工程法を使用した場合は約60%であり、一工程法を使用した場合は90%超であった。試験結果を表8に示す。
【0059】
【表8】
【0060】
本実施例によって、海水中に存在するヨウ素酸塩の実質的な除去が、本開示に記載の二工程法、一工程法のどちらによっても効果的に達成され得ることが検証された。どちらの方法も、チオール化学基によってヨウ素酸塩をヨウ化物に還元した後、イオン交換によってヨウ化物を除去することを含む。
【0061】
実施例6
地下水からのヨウ素除去法の検証
本実施例では、ヨウ素酸塩が地下水中に存在する場合における、本開示に記載のヨウ素酸塩除去法の有効性を検証した。これらの試験のために選択した地下水は、米国Yucca Mountain高レベル核廃棄物処分場に関係する地下水である。これらの試験に使用した溶液は、EJ-13の類似物であり、これは、Yucca MountainサイトからのTopopah Spring凝灰岩粉砕物と90℃で接触させて平衡化することによって処理したUSGS J-13井戸の地下水を使用して作製した地下水調製物である。ヨウ素酸塩は、ヨウ素酸ナトリウムとして、EJ-13溶液1リットル当たり約4×10-5モルのヨウ素酸塩に相当する5ppmのヨウ素濃度となるようにEJ-13類似物に添加した。実施例5と同様に、本実施例では、本開示に記載のヨウ素酸塩除去の二工程法および一工程法の両法を使用した。二工程法を使用する試験では、ヨウ素酸塩を加えたEJ-13類似物の10ml試料を、まず、ヨウ素酸塩をヨウ化物に還元するためにL-システインで処理し、次いで、溶液からヨウ化物を除去するために0.1グラムのPurolite(登録商標)A532Eで1時間転倒回転させて処理した。一工程法を使用する試験では、ヨウ素酸塩を加えたEJ-13類似物の10ml試料を、実施例2のように調製した、乾燥せずに秤量した約0.13グラムの改変型MARATHON A樹脂(M-A_mod)で1時間転倒回転させて処理した後、0.1グラムのPurolite(登録商標)A532Eを加えて、さらに1時間転倒回転させて処理した。EJ-13類似物からのヨウ素酸塩除去率は、表9に示すように、二工程法を使用した場合は約80%であり、一工程法を使用した場合は95%超であった。
【0062】
【表9】
【0063】
本実施例によって、地下水溶液中に存在するヨウ素酸塩の実質的な除去が、本発明に記載の二工程法、一工程法のどちらによっても効果的に達成され得ることが検証された。どちらの方法も、チオール化学基によってヨウ素酸塩をヨウ化物に還元した後、イオン交換によってヨウ化物を除去することを含む。
【0064】
本発明は、本発明を実行するために企図された本明細書に開示した特定の実施形態に限定されるのではなく、本発明は、特許請求の範囲に入るすべての実施形態を包含することが意図される。
【0065】
本出願において引用されたすべての文書、特許、雑誌論文、およびその他の資料は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0066】
本発明の多くの特徴および利点が詳細な明細書から明らかであり、したがって、添付の特許請求の範囲によって、本発明の真の精神および範囲に入るすべてのそのような本発明の特徴および利点が網羅されることが意図される。さらに、数多くの修正および変形形態が当業者には容易に思い浮かぶこととなるため、本発明を、図示され、説明された正確な構築および操作に限定することは望ましくなく、したがって、すべての好適な修正および均等物が本発明の範囲に入るものとする。
【国際調査報告】