(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-26
(54)【発明の名称】CD123を標的とするキメラ抗原受容体とその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20231219BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20231219BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20231219BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20231219BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20231219BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231219BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20231219BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231219BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231219BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20231219BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231219BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231219BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231219BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231219BHJP
A61K 47/68 20170101ALN20231219BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/86 Z
C12N15/867 Z
C12N5/10
C12N5/0783
A61P35/00
A61P35/02
A61K35/76
A61K48/00
A61K35/17
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61P37/04
A61K39/395 U
A61K39/395 D
A61K47/68
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537626
(86)(22)【出願日】2021-10-29
(85)【翻訳文提出日】2023-08-09
(86)【国際出願番号】 CN2021127505
(87)【国際公開番号】W WO2022127401
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】202011498660.9
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522322815
【氏名又は名称】イミュノファーム テクノロジー カンパニー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】523228680
【氏名又は名称】山▲東▼金▲賽▼生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANDONG JINSAI CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100227019
【氏名又は名称】安 修央
(72)【発明者】
【氏名】何 霆
(72)【発明者】
【氏名】▲齊▼ 菲菲
(72)【発明者】
【氏名】▲魯▼ ▲薪▼安
(72)【発明者】
【氏名】ディン ヤンピン
(72)【発明者】
【氏名】梁 梦梦
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC07
4C076CC27
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZB021
4C084ZB091
4C084ZB261
4C084ZB271
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB01
4C085BB11
4C085BB31
4C085CC03
4C085CC31
4C085DD62
4C085EE01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA04
4C087CA12
4C087CA16
4C087CA20
4C087CA47
4C087NA14
4C087ZB02
4C087ZB09
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
本発明は、配列番号:56、57、58、59、60及び61から選択されたアミノ酸配列を含み、CD123と特異的に結合する一本鎖抗体scFv、配列番号:65、66、67、68、69及び70から選択されたアミノ酸配列を含み、CD123を標的とするキメラ抗原受容体、前記scFv又はキメラ抗原受容体をコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター及び細胞、及びCD123を発現する腫瘍の治療薬の調剤における、前記抗体、キメラ抗原受容体、核酸分子、ベクター又は細胞の使用の提供を目的とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖可変ドメインVHと軽鎖可変ドメインVLとを含み、CD123と特異的に結合する抗体であって、
前記重鎖可変ドメインは、配列番号:1に示すアミノ酸配列VH-CDR1(GYX
1X
2X
3X
4(D)YX
5X
6X
7)、配列番号:2に示すアミノ酸配列VH-CDR2(X
8X
9X
10(X
11)X
12X
13X
14X
15X
16X
17X
18NX
19X
20X
21KX
22X
23X
24)、配列番号:3に示すアミノ酸配列VH-CDR3(AX
25X
26X
27X
28X
29X
30X
31(YD)X
32X
33X
34X
35X
36X
37X
38X
39X
40)を含み、
X
1は、S及びTから選択され、X
2は、F及びIから選択され、X
3は、T、S及びMから選択され、X
4は、S、D、T及びGから選択され、X
5は、W、Y、V、A及びNから選択され、X
6は、M、V、I及びWから選択され、X
7は、N及びHから選択され、X
8は、Y及びRから選択され、X
9は、I及びCから選択され、X
10は、D、N、Y及びSから選択され、X
11は、P及びCから選択され、X
12は、Y及びGから選択され、X
13は、D、N及びSから選択され、X
14は、S、N、D及びGから選択され、X
15は、E、A、G及びSから選択され、X
16は、T、I及びSから選択され、X
17は、H、S及びNから選択され、X
18は、Y及びSから選択され、X
19は、Q、E及びPから選択され、X
20は、K、N及びSから選択され、X
21は、F及びLから選択され、X
22は、D、G及びSから選択され、X
23は、K及びRから選択され、X
24は、A及びIから選択され、X
25は、R及びGから選択され、X
26は、G、S及びEから選択され、X
27は、E、P及びRから選択され、X
28は、G及びSから選択され、X
29は、N、Y、L及びWから選択され、X
30は、W、Y及びLから選択され、X
31は、G及びDから選択され、X
32は、R及びEから選択され、X
33は、Y、S及びTから選択され、X
34は、D、Y及びGから選択され、X
35は、G及びYから選択され、X
36は、Y及びLから選択され、X
37は、A、G及びPから選択され、X
38は、M及びLから選択され、X
39は、D及びAから選択され、X
40は、Y及びCから選択され、
前記軽鎖可変ドメインは、配列番号:4に示すアミノ酸配列VL-CDR1(X
41SX
42X
43X
44X
45X
46X
47X
48X
49(QK)X
50X
51X
52X
53W)、配列番号:5に示すアミノ酸配列VL-CDR2(X
54SX
55X
56X
57X
58X
59)、配列番号:6に示すアミノ酸配列VL-CDR3(X
60X
61X
62X
63X
64(P)X
65TF)を含み、
X
41は、A及びSから選択され、X
42は、Q、K及びSから選択され、X
43は、S及びDから選択され、X
44は、I、V及びLから選択され、X
45は、S、N、D及びLから選択され、X
46は、K、Y、S、D及びNから選択され、X
47は、D及びSから選択され、X
48は、G及びSから選択され、X
49は、D及びNから選択され、X
50は、S及びNから選択され、X
51は、D及びYから選択され、X
52は、L、I及びMから選択され、X
53は、A、N及びHから選択され、X
54は、G、T及びAから選択され、X
55は、T、N及びQから選択され、X
56は、L、S及びRから選択され、X
57は、Q、E、A、I及びDから選択され、X
58は、S及びPから選択され、X
59は、G及びEから選択され、X
60は、Q及びNから選択され、X
61は、H、Y、S、F及びGから選択され、X
62は、N、D、H及びYから選択され、X
63は、K、L、E、R及びSから選択され、X
64は、Y、D、S、F及びTから選択され、X
65は、Y、R及びWから選択され、
好ましくは、前記VH-CDR1は、配列番号:8、9、10、11及び12からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2は、配列番号:14、15、16、17及び18からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR3は、配列番号:20、21、22、23及び24からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR1は、配列番号:26、27、28、29及び30からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2は、配列番号:32、33、34、35及び36からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR3は、配列番号:38、39、40、41及び42からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、
さらに好ましくは、前記抗体は、
(1)配列番号:8に示すVH-CDR1、配列番号:14に示すVH-CDR2、及び配列番号:20に示すVH-CDR3を含む重鎖可変ドメインと、配列番号:26に示すVL-CDR1、配列番号:32に示すVL-CDR2、及び配列番号:38に示すVL-CDR3を含む軽鎖可変ドメイン、及び/又は
(2)配列番号:9に示すVH-CDR1、配列番号:15に示すVH-CDR2、及び配列番号:21に示すVH-CDR3を含む重鎖可変ドメインと、配列番号:27に示すVL-CDR1、配列番号:33に示すVL-CDR2、及び配列番号:39に示すVL-CDR3を含む軽鎖可変ドメイン、及び/又は
(3)配列番号:10に示すVH-CDR1、配列番号:16に示すVH-CDR2、及び配列番号:22に示すVH-CDR3を含む重鎖可変ドメインと、配列番号:28に示すVL-CDR1、配列番号:34に示すVL-CDR2、及び配列番号:40に示すVL-CDR3を含む軽鎖可変ドメイン、及び/又は
(4)配列番号:11に示すVH-CDR1、配列番号:17に示すVH-CDR2、及び配列番号:23に示すVH-CDR3を含む重鎖可変ドメインと、配列番号:29に示すVL-CDR1、配列番号:35に示すVL-CDR2、及び配列番号:41に示すVL-CDR3を含む軽鎖可変ドメイン、及び/又は
(5)配列番号:12に示すVH-CDR1、配列番号:18に示すVH-CDR2、及び配列番号:24に示すVH-CDR3を含む重鎖可変ドメインと、配列番号:30に示すVL-CDR1、配列番号:36に示すVL-CDR2、及び配列番号:42に示すVL-CDR3を含む、軽鎖可変ドメインを含む抗体。
【請求項2】
前記重鎖可変ドメインが、配列番号:44、45、46、47及び48からなる群から選択される、アミノ酸配列又は前記アミノ酸配列に対して、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、及び/又は、前記軽鎖可変ドメインが、配列番号:50、51、52、53及び54からなる群から選択される、アミノ酸配列又は前記アミノ酸配列に対して、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
好ましくは、前記抗体は、
(1)配列番号:44に示す重鎖可変ドメイン及び配列番号:50に示す軽鎖可変ドメイン、及び/又は、
(2)配列番号:45に示す重鎖可変ドメイン及び配列番号:51に示す軽鎖可変ドメイン、及び/又は、
(3)配列番号:46に示す重鎖可変ドメイン及び配列番号:52に示す軽鎖可変ドメイン、及び/又は、
(4)配列番号:47に示す重鎖可変ドメイン及び配列番号:53に示す軽鎖可変ドメイン、及び/又は、
(5)配列番号:48に示す重鎖可変ドメイン及び配列番号:54に示す軽鎖可変ドメイン
を含み、より好ましくは、前記抗体が、配列番号:56、57、58、59、60及び61からなる群から選択されるアミノ酸配列、又は前記アミノ酸配列に対して、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記抗体が、一本鎖抗体scFvであり、より好ましくは、前記一本鎖抗体scFvの重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインが、グリシンとセリンが豊富なリンカーペプチド鎖によって連結し、前記重鎖可変ドメインと前記軽鎖可変ドメインの順序を入れ替えることができる、請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項4】
CD123を標的とするキメラ抗原受容体であって、 請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体と、ヒンジ領域と、膜貫通ドメインと、共刺激ドメインと、CD3ζ細胞内シグナル伝達ドメインとを含み、
好ましくは、前記共刺激ドメインは、CD27、CD28、4-1BB、OX-40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、LFA-1、CD-2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3から選択されるか、これらのいずれかの組み合わせであり、より好ましくは、前記共刺激ドメインは、4-1BB及びCD28から選択され、前記4-1BBは配列番号:62に示すアミノ酸配列を含み、
好ましくは、前記CD3ζ細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号:63に示すアミノ酸配列を含み、
好ましくは、前記ヒンジ領域及び膜貫通ドメインは、IgG1、IgG4、CD8α、CD28、IL-2受容体、IL-7受容体、IL-11受容体、PD-1又はCD34ヒンジ領域及び膜貫通ドメインから選択される、キメラ抗原受容体。
【請求項5】
配列番号:65、66、67、68、69及び70からなる群から選択されるアミノ酸配列、又は前記アミノ酸配列に対して、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項4に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体、又は請求項4から5に記載のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子。
【請求項7】
請求項6に記載の核酸分子を含み、好ましくはウイルスベクターであり、より好ましくはレンチウイルスベクターである、ベクター。
【請求項8】
請求項7に記載のベクターでトランスフェクションされ、請求項6に記載の核酸分子又は請求項7に記載のベクターを含み、好ましくはT細胞である、細胞。
【請求項9】
請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体と、請求項4から5のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体と、請求項6に記載の核酸分子と、請求項7に記載のベクター又は請求項8に記載の細胞と、薬学的に許容可能な担体とを含む、医薬組成物。
【請求項10】
CD123を発現する腫瘍の治療薬の調剤における使用であって、好ましくは、前記CD123を発現する腫瘍が急性骨髄性白血病(AML)である、請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体、請求項4から5のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体、請求項6に記載の核酸分子、請求項7に記載のベクター、又は、請求項8に記載の細胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる抗原認識ドメインを有し、CD123を標的とするscFv配列、これらのscFv配列に基づき設計されたキメラ抗原受容体(CAR)及びCAR-T細胞、ならびに、CD123を発現する腫瘍、特に急性骨髄性白血病の治療における、これらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
急性骨髄性白血病(AML)は、発病率が増加している悪性腫瘍で、主に高齢者が発症し、年齢の中央値は66歳である。米国国立がん研究所の推定によると、この疾患の2018年の新規患者数は19,520人であり、内死亡者数は10,670人に及ぶ(非特許文献1)。65~74歳の患者における12か月生存率は、過去30年間で20%から30%に増加したが、現在のAMLの治療効果は依然として不十分であり、これらの患者の5年生存率は、5%未満である(非特許文献2)。若年のAML患者に対する主な治療法は、集中化学治療法であり、再発リスクの高い患者(治癒率35~40%)に対しては、同種造血幹細胞移植(AHCT)が行われるが、高齢患者の予後は、改善されないままである(非特許文献2)。AMLが再発した患者が、再び回復する見込みは50%未満であり、2回目の救済化学療法後に疾患の抑制が成功する患者は、わずか16%である(非特許文献3)。1970年代にアントラサイクリンとシタラビンの併用化学療法が導入されて以来、それが主な治療法となっている(非特許文献4、5)。したがって、この疾患の治療には、新たな治療戦略が求められている。\
【0003】
キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)は、抗体特異性とT細胞の殺傷効果を組み合わせて養子免疫作用を形成するという構想であり、1980年代後半に初めて提唱された(非特許文献6、7)。キメラ抗原受容体(CAR)の分子構造は、主に、単鎖可変領域フラグメント(scFv)抗体、細胞内シグナルドメイン、及びscFvと細胞内シグナルドメインを結合するヒンジ領域と膜貫通領域を含む。近年、抗CD19及び抗CD20のキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)が、リンパ性腫瘍(B細胞急性リンパ性白血病及び非ホジキンリンパ腫)の治療に用いられ、成果を挙げている(非特許文献8)。現在、AML治療に対するCAR-Tの標的は、CD123、CD33、CLL1、FLT3等を含み、中でも、CD123を標的とするCAR-Tに関する研究が最も多い。
【0004】
CD123は、IL-3受容体のα鎖(IL-3Rα)である。CD123は、CD131と共に高親和性IL-3受容体を形成するが、このIL-3受容体は、細胞の増殖と分化を促進し、IL-3と結合すると、造血細胞のアポトーシスを抑制する(非特許文献9、10)。CD123の高発現は、シグナル伝達兼転写活性化因子5(STAT5)のシグナル伝達経路の活性化と関係する。STAT5活性化経路は、様々な悪性血液疾患に関与している(非特許文献11)。CD123は、主に造血系に発現し、正常なCD34+CD38-細胞には、低発現するか発現しない(非特許文献12)。また、正常な状態では、CD123は、骨髄系前駆細胞及びBリンパ前駆細胞に高発現し、赤血球前駆細胞及び多方向分化能前駆細胞には、低発現するか発現しない(非特許文献13、14)。CD123は、60~90%を超えるAML初代細胞に高発現する(非特許文献15~18)。Bras AEら(非特許文献19)は、455人のAML患者に検査を行い、そのうちのおよそ55%の患者のAML細胞にCD123が発現しており、陽性率は80%を超えていた。
【0005】
CAR-T細胞は、腫瘍細胞治療において成果を挙げているが、CAR-Tの有効性と安全性には、主にオフターゲット効果、サイトカインストーム、神経毒性等の大きな問題が残されている(非特許文献20)。CAR-T細胞における最適な有効性と安全性は、多くの要因に左右され、中でもCAR-T細胞の有効な活性化が重要な役割となる。CAR-T細胞の活性化の度合いは、CAR分子scFvの親和性、ヒンジ領域の長さ、共刺激シグナルドメイン、標的細胞の表面上の抗原密度等、多くの要因に影響を受ける。CAR分子のscFvは、標的細胞の表面上の抗原と直接結合する領域として用いられ、その親和性は、CAR-T細胞全体の活性化において非常に重要である。CAR分子scFvの親和性が低いと、CAR-T細胞は十分な抗原認識を得られず、最適な活性化状態を得ることができない。CAR分子scFvの親和性が高いと、CAR-T細胞は腫瘍細胞を認識できる一方で、比較的抗原密度が低い正常細胞も認識するおそれがあり、深刻なオフターゲット効果を引き起こす可能性がある。
【0006】
したがって、CAR-T細胞の有効性と安全性をさらに改善し、CAR-T細胞の有効な活性化を確保し、オフターゲット効果を避けるためには、標的に対して適度な親和性を有するscFvをスクリーニングする必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Surveillance, Epidemiology, and End Results (SEER) Program. Research Data (1973-2015), National Cancer Institute, Dccps, Surveillance Research Program, Released April 2018, Based on the November 2017 Submission. 2019. (www.seer.cancer.gov).
【非特許文献2】Thein MS, Ershler WB, Jemal A, Yates JW, Baer MR. Outcome of older patients with acute myeloid leukemia: an analysis of SEER data over 3 decades. Cancer 2013;119(15):2720-7.
【非特許文献3】Kantarjian HM, DiNardo CD, Nogueras-Gonzalez GM, Kadia TM, Jabbour E, Bueso-Ramos CE, et al. Results of second salvage therapy in 673 adults with acute myelogenous leukemia treated at a single institution since 2000. Cancer 2018;124(12):2534-40.
【非特許文献4】Jang J, Lee J, Jang JH, Jung CW, Park S. Anti-leukemic effects of simvastatin on NRAS(G12D) mutant acute myeloid leukemia cells. Mol Biol Rep. 2019;46:5859-66.
【非特許文献5】Roboz GJ. Novel approaches to the treatment of acute myeloid leukemia. Hematology Am Soc Hematol Educ Program. 2011;2011:43-50.
【非特許文献6】Benmebarek, M.R.; Karches, C.H.; Cadilha, B.L.; Lesch, S.; Endres, S.; Kobold, S. Killing mechanisms of chimeric antigen receptor (CAR) T cells. Int. J. Mol. Sci. 2019, 20, 1283.
【非特許文献7】Gross, G.; Waks, T.; Eshhar, Z. Expression of immunoglobulin-T-cell receptor chimeric molecules as functional receptors with antibody-type specificity. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1989, 86, 10024-10028.
【非特許文献8】Khalil DN, Smith EL, Brentjens RJ, Wolchok JD. The future of cancer treatment: immunomodulation, CARs and combination immunotherapy. Nat Rev Clin Oncol 2016;13(6):394.
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【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様の抗体は、重鎖可変ドメインVHと軽鎖可変ドメインVLとを含み、CD123と特異的に結合する抗体であり、前記重鎖可変ドメインは、配列番号:1に示すアミノ酸配列VH-CDR1(GYX1X2X3X4(D)YX5X6X7)と、配列番号:2に示すアミノ酸配列VH-CDR2(X8X9X10(X11)X12X13X14X15X16X17X18NX19X20X21KX22X23X24)と、配列番号:3に示すアミノ酸配列VH-CDR3(AX25X26X27X28X29X30X31(YD)X32X33X34X35X36X37X38X39X40)とを含み、X1は、S及びTから選択され、X2は、F及びIから選択され、X3は、T、S及びMから選択され、X4は、S、D、T及びGから選択され、X5は、W、Y、V、A、及びNから選択され、X6は、M、V、I及びWから選択され、X7は、N及びHから選択され、X8は、Y及びRから選択され、X9は、I及びCから選択され、X10は、D、N、Y及びSから選択され、X11は、P及びCから選択され、X12は、Y及びGから選択され、X13は、D、N及びSから選択され、X14は、S、N、D及びGから選択され、X15は、E、A、G及びSから選択され、X16は、T、I及びSから選択され、X17は、H、S及びNから選択され、X18は、Y及びSから選択され、X19は、Q、E及びPから選択され、X20は、K、N及びSから選択され、X21は、F及びLから選択され、X22は、D、G及びSから選択され、X23は、K及びRから選択され、X24は、A及びIから選択され、X25は、R及びGから選択され、X26は、G、S及びEから選択され、X27は、E、P及びRから選択され、X28は、G及びSから選択され、X29は、N、Y、L及びWから選択され、X30は、W、Y及びLから選択され、X31は、G及びDから選択され、X32は、R及びEから選択され、X33は、Y、S及びTから選択され、X34は、D、Y及びGから選択され、X35は、G及びYから選択され、X36は、Y及びLから選択され、X37は、A、G及びPから選択され、X38は、M及びLから選択され、X39は、D及びAから選択され、X40は、Y及びCから選択される。
【0009】
前記軽鎖可変ドメインは、配列番号:4に示すアミノ酸配列VL-CDR1(X41SX42X43X44X45X46X47X48X49(QK)X50X51X52X53W)と、配列番号:5に示すアミノ酸配列VL-CDR2(X54SX55X56X57X58X59)と、配列番号:6に示すアミノ酸配列VL-CDR3(X60X61X62X63X64(P)X65TF)とを含み、X41は、A及びSから選択され、X42は、Q、K及びSから選択され、X43は、S及びDから選択され、X44は、I、V及びLから選択され、X45は、S、N、D及びLから選択され、X46は、K、Y、S、D及びNから選択され、X47は、D及びSから選択され、X48は、G及びSから選択され、X49は、D及びNから選択され、X50は、S及びNから選択され、X51は、D及びYから選択され、X52は、L、I及びMから選択され、X53は、A、N及びHから選択され、X54は、G、T及びAから選択され、X55は、T、N及びQから選択され、X56は、L、S及びRから選択され、X57は、Q、E、A、I及びDから選択され、X58は、S及びPから選択され、X59は、G及びEから選択され、X60は、Q及びNから選択され、X61は、H、Y、S、F及びGから選択され、X62は、N、D、H及びYから選択され、X63は、K、L、E、R及びSから選択され、X64は、Y、L、D、S、F及びTから選択され、X65は、Y、R及びWから選択され、好ましくは、前記抗体は、scFvである。
【0010】
本発明の第二の態様のCD123を標的とするキメラ抗原受容体は、第一の態様の抗体と、ヒンジ領域と、膜貫通ドメインと、共刺激ドメインと、CD3ζ細胞内シグナル伝達ドメインとを含む。
【0011】
本発明の第三の態様の核酸分子は、第一の態様の抗体又は第二の態様のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0012】
本発明の第四の態様のベクターは、第三の態様の核酸分子を含む。
【0013】
本発明の第五の態様の細胞は、第四の態様のベクターでトランスフェクションされることにより、第三の態様の核酸分子又は第四の態様のベクターを含む。
【0014】
本発明の第六の態様の医薬組成物は、第一の態様の抗体と、第二の態様のキメラ抗原受容体と、第三の態様の核酸分子と、第四の態様のベクター又は第五の態様の細胞と、薬学的に許容可能な担体とを含む。
【0015】
本発明の第七の態様は、CD123を発現する腫瘍の治療薬の調剤における、第一の態様の抗体、第二の態様のキメラ抗原受容体、第三の態様の核酸分子、第四の態様のベクター、又は第五の態様の細胞の使用である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、標的CD123のCAR分子のscFvにおける親和性のスクリーニング、及びCAR-T細胞の殺傷効果の比較を行うことで、最良の標的CD123のscFv配列を得られ、CAR-T細胞は、より高い安全性と有効性を有する。本発明によれば、先行技術と比較し、CD123を標的とするCAR-T細胞が持つ腫瘍細胞株及び初代腫瘍細胞に対する殺傷効率を、効果的に高め、また、細胞増殖能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、T細胞内における異なるscFvのCD123 CAR分子の伝達効率を示す。
【
図2】
図2は、培養中におけるCD123 CAR-Tの細胞増殖の総量を示す。
【
図3】
図3は、標的細胞であるAML初代細胞とTHP-1細胞が、それぞれ刺激下におけるCD123 CAR-T細胞の分化に及ぼす影響を示す。
【
図4】
図4は、CD123陽性細胞株(THP-1)及びCD123陰性細胞株(K562)に対するCD123 CAR-Tの殺傷効率を示す。
【
図5】
図5は、AML初代細胞に対するCD123 CAR-Tの殺傷効率を示す。
【
図6】
図6は、AML細胞を5時間刺激した後のCD123 CAR-Tのサイトカイン発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の抗体は、CD123と特異的に結合し、重鎖可変ドメインVH及び軽鎖可変ドメインVLを含み、前記重鎖可変ドメインは、VH-CDR1と、VH-CDR2と、VH-CDR3とを含み、前記軽鎖可変ドメインは、VL-CDR1と、VL-CDR2と、VL-CDR3とを含む。
【0019】
特定の一実施形態において、前記VH-CDR1は、配列番号:8、9、10、11及び12からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR2は、配列番号:14、15、16、17及び18からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、前記VH-CDR3は、配列番号:20、21、22、23及び24からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR1は、配列番号:26、27、28、29及び30からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR2は、配列番号:32、33、34、35及び36からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、前記VL-CDR3は、配列番号:38、39、40、41及び42からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0020】
特に、本発明のCD123と特異的に結合する抗体は、以下を含む。
(1)配列番号:8に示すVH-CDR1と、配列番号:14に示すVH-CDR2と、配列番号:20に示すVH-CDR3とを含む重鎖可変ドメインと、配列番号:26に示すVL-CDR1と、配列番号:32に示すVL-CDR2と、配列番号:38に示すVL-CDR3とを含む軽鎖可変ドメイン、及び/又は、
(2)配列番号:9に示すVH-CDR1と、配列番号:15に示すVH-CDR2と、配列番号:21に示すVH-CDR3とを含む重鎖可変ドメインと、配列番号:27に示すVL-CDR1と、配列番号:33に示すVL-CDR2と、配列番号:39に示すVL-CDR3とを含む軽鎖可変ドメイン、及び/又は、
(3)配列番号:10に示すVH-CDR1と、配列番号:16に示すVH-CDR2と、配列番号:22に示すVH-CDR3とを含む重鎖可変ドメインと、配列番号:28に示すVL-CDR1と、配列番号:34に示すVL-CDR2と、配列番号:40に示すVL-CDR3とを含む軽鎖可変ドメイン、及び/又は、
(4)配列番号:11に示すVH-CDR1と、配列番号:17に示すVH-CDR2と、配列番号:23に示すVH-CDR3とを含む重鎖可変ドメインと、配列番号:29に示すVL-CDR1と、配列番号:35に示すVL-CDR2と、配列番号:41に示すVL-CDR3とを含む軽鎖可変ドメイン、及び/又は、
(5)配列番号:12に示すVH-CDR1と、配列番号:18に示すVH-CDR2と、配列番号:24に示すVH-CDR3とを含む重鎖可変ドメインと、配列番号:30に示すVL-CDR1、配列番号:36に示すVL-CDR2、配列番号:42に示すVL-CDR3とを含む軽鎖可変ドメイン
【0021】
別の特定の実施形態において、本発明の抗体の重鎖可変ドメインは、配列番号:44、45、46、47及び48からなる群から選択されるアミノ酸配列、又は、前記アミノ酸配列に対して、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、及び/又は、前記軽鎖可変ドメインは、配列番号:50、51、52、53及び54からなる群から選択されるアミノ酸配列、又は前記アミノ酸配列に対して、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0022】
特に、本発明のCD123と特異的に結合する抗体は、以下を含む。
(1)配列番号:44に示す重鎖可変ドメイン及び配列番号:50に示す軽鎖可変ドメイン、及び/又は、
(2)配列番号:45に示す重鎖可変ドメイン及び配列番号:51に示す軽鎖可変ドメイン、及び/又は、
(3)配列番号:46に示す重鎖可変ドメイン及び配列番号:52に示す軽鎖可変ドメイン、及び/又は、
(4)配列番号:47に示す重鎖可変ドメイン及び配列番号:53に示す軽鎖可変ドメイン、及び/又は、
(5)配列番号:48に示す重鎖可変ドメイン及び配列番号:54に示す軽鎖可変ドメイン
【0023】
別の特定の実施形態において、本発明のCD123と特異的に結合する抗体は、配列番号:56、57、58、59、60及び61からなる群から選択されるアミノ酸配列、又は、前記アミノ酸配列に対して、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は、少なくとも99%の同一性を有する、アミノ酸配列を含む。
【0024】
好ましくは、本発明の抗体は一本鎖抗体scFvであり、より好ましくは、前記一本鎖抗体scFvの重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインは、グリシンとセリンが豊富なリンカーペプチド鎖によって連結し、前記重鎖可変ドメインと前記軽鎖可変ドメインの順序を入れ替えることができる。
【0025】
本発明のCD123を標的とするキメラ抗原受容体は、本発明の抗体と、ヒンジ領域と、膜貫通ドメインと、共刺激ドメインと、CD3ζ細胞内シグナル伝達ドメインとを含む。
【0026】
特定の実施形態において、前記共刺激ドメインは、CD27、CD28、4-1BB、OX-40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、LFA-1、CD-2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3から選択されるか、またはこれらのいずれかの組み合わせであり、好ましくは、前記共刺激ドメインは、4-1BB及びCD28から選択され、前記4-1BBは、配列番号:62に示すアミノ酸配列を含む。
【0027】
特定の一実施形態において、前記CD3ζ細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号:63に示すアミノ酸配列を含む。
【0028】
特定の一実施形態において、前記ヒンジ領域及び前記膜貫通ドメインは、IgG1、IgG4、CD8α、CD28、IL-2受容体、IL-7受容体、IL-11受容体、PD-1又はCD34ヒンジ領域及び膜貫通ドメインから選択される。
【0029】
好ましくは、前記キメラ抗原受容体は、配列番号:65、66、67、68、69及び70からなる群から選択されるアミノ酸配列、又は前記アミノ酸配列に対して少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0030】
本発明の核酸分子は、本発明の抗体又は本発明のキメラ抗原受容体をコードする、ヌクレオチド配列を含む。
【0031】
本発明のベクターは本発明の核酸分子を含み、好ましくは、前記ベクターはウイルスベクターであり、より好ましくは、前記ベクターはレンチウイルスベクターである。
【0032】
本発明の細胞は、本発明のベクターでトランスフェクションされることにより、前記核酸分子又は前記ベクターを含み、好ましくは、前記細胞がT細胞である。
【0033】
本発明は、CD123を発現する腫瘍の治療薬の調剤における、前記抗体、前記キメラ抗原受容体、前記核酸分子、前記ベクター又は前記細胞の使用であり、好ましくは、前記CD123を発現する腫瘍は急性骨髄性白血病(AML)である。
【0034】
特に明示されない限り、ここに記載される技術的解決は、いかなる組み合わせであってもよい。
【0035】
本発明について、例を挙げて、さらに具体的に説明する。
【実施例】
【0036】
[実施例1]
(CD123 CAR分子の設計とCAR-Tの作製)
本実施例では、異なる抗原認識ドメインを有するCD123 CAR分子の設計と、CAR-T細胞の作製を行った。
【0037】
前記抗原認識ドメインを設計した原理は、以下の通りである。 CAR-T-1を対照群とし、CD123のscFv配列は、ペンシルバニア大学より報告されたものであり(非特許文献21)、scFv配列を、本開示ではscFv-01と呼ぶ。マウス免疫のCD123細胞外融合タンパク質から得られたモノクローナル抗体配列由来のscFv配列を有するCAR-T-2~CAR-T-7を、修飾群とし、これらのscFv配列を、本明細書ではscFv-02-07と呼ぶ。
【0038】
異なる抗原認識ドメインのCD123 scFvのヌクレオチド配列を、遺伝子合成方法により合成し、次いで、前記CD123 scFvのヌクレオチド配列を相同組換え法によりCD8αヒンジ領域、CD8α膜貫通領域、4-1BB及びCD3ζ細胞内領域の配列と連結し、完全なCAR分子、すなわち、CAR1―7を形成した。このCAR核酸フラグメントを、制限エンドヌクレアーゼ消化、及び、リガーゼによるライゲーションによって、レンチウイルストランスファープラスミドpLenti6.3/V5(アメリカ合衆国マサチューセッツ州ウォルサム、Thermo Fisher社)内に組み込んだ。Lipofectamine 3000(アメリカ合衆国マサチューセッツ州ウォルサム、Thermo Fisher社)を使用し、レンチウイルスパッケージングプラスミドpLP/VSVG、pLP1/MDK、pLP2/RSK(アメリカ合衆国マサチューセッツ州ウォルサム、Thermo Fisher社)、及び、得られた前記トランスファープラスミドを、HEK293T細胞にトランスフェクションし、48時間後に培養基を収集し、300gで遠心分離して細胞片を取り除き、遠心分離は、超遠心機を用いて、25,000rpmで3時間行った。そして、沈殿物を生理食塩水1mLで溶解し、目的のレンチウイルスベクターを得た。
【0039】
T細胞は、CD3/CD28ビーズ(Thermo Fisher社、カタログ番号:40203D)を使用し、健康なボランティアの末梢血単核球から単離した。単離し、精製した前記Tを細胞1.0×106個/mLとし、500IU/mLのIL-2(中国、Shandong Jintai Bioengineering社)を含む培地X-VIVO 15(スイス、Lonza社)に播種し、培養した。48時間の培養後、T細胞を、CD123 CAR分子を有するレンチウイルスベクターに、MOI=0.5の比率で感染させ、CAR-T-1-7を得た。24時間のレンチウイルス感染後、細胞液交換を行い、X-VIVO 15と、500IU/mLのIL-2とを合わせた新たな培養系に前記レンチウイルスを播種し、培養を継続した。5日間のレンチウイルス感染後、ピペットを用いて、前記培養系中の細胞を繰り返し吹きつけ、遠心チューブ内に回集し、CD3/CD28ビーズを、磁気スタンド上で除去した。T細胞を、遠心分離してカウントし、また、一部の細胞を取り出し、フローサイトメトリー(アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴ、ACEA Biosciences社、商品名:NovoCyte 2060R)を用いて、各細胞群のCAR分子伝達効率を検出した。
【0040】
図1に、T細胞を、レンチウイルスに5日間、7日間、9日間、12日間感染させた後の各細胞群のCAR分子伝達効率を示す。CAR-T-2群、CAR-T-3群、及び、CAR-T-7群のCAR分子伝達効率は、対照群CAR-T-1のCAR分子伝達効率に近く、CAR-T-4群、CAR-T-5群、及びCAR-T-6群のCAR分子伝達効率は、対照群CAR-T-1のCAT分子伝達効率より、著しく高かった。よって、全ての各CAR-T細胞群において、良好なCARタンパク質発現が示された。
【0041】
[実施例2]
(改変されたCD123 CAR-Tのin vitroでの増殖能)
本実施例では、異なる抗原認識ドメインを有するCD123CAR-Tの増殖能を検出した。
【0042】
CD123CAR-T細胞の培養過程において、レンチウイルスをT細胞に感染させた日を培養2日目とし、その後2~3日毎にCAR-T細胞を収集して遠心分離し、1~2mlの培養系を加えて再懸濁し、細胞10μlを取り出して一定の倍率に希釈し、トリパンブルー(Solarbio社、カタログ番号:C0040)で着色し、倒立顕微鏡(日本、株式会社ニコン、商品名:Ts2-FL)を用いて、生細胞の総数と死細胞の総数をカウントし、各群における細胞増殖を算出した。
【0043】
図2によると、異なる抗原認識ドメインを有するCAR-T-2およびCAR-T-7の細胞増殖総量は、対照群CAR-T-1と比較して著しく増進していた。この結果は、CAR-T-2およびCAR-T-7のscFv設計により、CD123 CAR-T細胞の増殖能を増進できることを示している。
【0044】
[実施例3]
(標的細胞の刺激下における、改変されたCD123 CAR-T細胞の細胞分化)
本実施例では、2つの標的細胞AML初代細胞又はTTP-1細胞(どちらもCD123を発現)をそれぞれ刺激し、異なる抗原認識ドメインを有するCD123CAR-TのT細胞分化を検出した。
【0045】
CAR-T細胞を5日目まで培養したとき、各群から5×105の細胞2個を取り出し12ウェルプレートに加え、さらに、標的細胞であるAML初代細胞又はTHP-1細胞を、それぞれエフェクター/標的の比率(E:T)=5:1の比率となるよう前記12ウェルプレートに加えた。6日間の標的細胞の刺激後、つまりCAR-T細胞を11日目まで培養したとき、各群から1×106の細胞を取り出し、遠心分離し、100μlのDPBS(ブランド名:HyClone、カタログ番号:SH30028.02)で再懸濁し、各CAR-T細胞群をT細胞分化関連蛍光抗体で標識し、フルスペクトラムフローサイトメーター(フリーモント、Cytek Biosciences社)、商品名:N7-00008-0A)を用いて検出した。
【0046】
図3はその結果を示し、CD45RA
+CD62L
+細胞集団は、初期のT細胞集団と乾燥したメモリーT細胞集団の組み合わせを表し、CD45RA
+CD62L
-は、エフェクターT細胞集団を表した。異なる抗原認識ドメインを有するCAR-T-2及びCAR-T-7におけるCD45RA
+CD62L
+細胞集団の割合は、対照群CAR-T-1における割合と比べて高く、CD45RA
+CD62L
-細胞集団の割合においては、対照群CAR-T-1における割合と比べて低かった。この結果により、改変されたCD123抗原認識ドメインは、CAR-T細胞の持続性に優れていることが示された。
【0047】
[実施例4]
(改変されたCD123 CAR-Tのin vitroにおける細胞株に対する殺傷効率)
本実施例では、CD123を発現している細胞株と、CD123を発現していない細胞株に対する、異なる抗原認識ドメインを有するCD123CAR-T細胞の殺傷効率を検出した。
【0048】
CD123を発現している細胞株THP-1と、CD123を発現していない細胞株K562を、それぞれ収集し、遠心分離した後、通常の生理食塩水(中国、Hebei Tiancheng Pharmaceutical社)1mlで再懸濁し、5μlの生細胞染色用色素Calcein-AM(濃度1μg/μL、アメリカ合衆国、Thermo Fisher社、カタログ番号:C3100MP)を加え、緩やかに混合し、37℃のインキュベーターで30分間インキュベートして、標的細胞を標識した。インキュベーション終了後、通常の生理食塩水で2回洗浄し、X-VIVO 15を加えて再懸濁し、カウントした。1ウェル当たり1×105個の前記標識された標的細胞を、48ウェル細胞培養用プレート(アメリカ合衆国ニューヨーク州コーニング、Corning社)に加え、各CAR-T細胞群を前記48ウェル細胞培養用プレートに、E:T=10:1の比率となるよう加え、この48ウェル細胞培養用プレートを、37℃、5%CO2インキュベーターに配置し、5時間インキュベートした。インキュベーション終了後、濃度2%のTriton-X-100(ドイツ、Sigma社、カタログ番号:T8787-100ML)を加え、陽性対照群、すなわち、前記標識した標的細胞1×105を溶解した。各ウェルから殺傷系上清100μlを取り出してマイクロプレートに配置し、多機能マイクロプレートリーダー(ThermoFisher社、商品名:Varioscan Lux)を用いて、蛍光値(励起波長:496nm、発光波長:515nm)を検出した。
【0049】
図4に示すように、CD123陽性の細胞株THP-1に対して、異なる抗原認識ドメインを有するCD123 CAR-TのCAR-T-3及びCAR-T-5の殺傷効率は、対照群CAR-T-1の殺傷効率よりも、著しく高かった。一方で、CD123を発現していない細胞株K562に対する、改変されたCD123 CAR-T及び対照群CAR-T-1の各群の殺傷効率は、T細胞群の殺傷効率と一致していた。この結果により、各CD123 CAR-T細胞群は、標的細胞に対する一定の殺傷効率と優れた特異性を備え、CAR-T-3及びCAR-T-5のscFv設計は、CAR-Tによる腫瘍細胞の殺傷を、促進したことが示された。
【0050】
[実施例5]
(改変されたCD123 CAR-T細胞のin vitroにおけるAML初代細胞に対する殺傷効率)
本実施例では、異なる抗原認識ドメインを有するCD123 CAR-Tの、AML初代細胞に対する殺傷効率を検出した。
【0051】
CD123陽性のAML患者らから、高抗原密度(すなわち、AML1#、CD123発現率99.87%、MFI値13298)、中抗原密度(すなわち、AML2#、CD123発現率75.4%、MFI値7518)、低抗原密度(すなわち、AML3#、CD123発現率94.58%、MFI値5252)の3つの骨髄血サンプルを得た(抗原密度レベルは、以下に沿って定義した:高抗原密度:蛍光強度中央値(MFI)が10,000より大きい;中抗原密度:MFI値が6,000より大きく、10,000より小さい;低抗原密度:MFI値が6,000より小さい)。CD123陽性のAML患者から得た骨髄血サンプルから、単核細胞を単離させ、CD34マイクロビーズ(ドイツ、Miltenyi社、カタログ番号:130-100-453)を用いて、CD34陽性AML初代細胞を選別し、通常の生理食塩水1mlで再懸濁し、10μlのCallein-AM(濃度1μg/μL、アメリカ合衆国、ThermoFisher社)を加え、緩やかに混合し、37℃のインキュベーターに配置して30分間インキュベートし、AML初代細胞を標識した。インキュベーション終了後、通常の生理食塩水で2回洗浄し、X-VIVO 15を加えて再懸濁し、カウントした。48ウェル細胞培養用プレート(アメリカ合衆国ニューヨーク州コーニング、Corning社)に、1ウェルあたり1×105個の前記標識したAML初代細胞を加え、CD123 CAR-T細胞をそれぞれE:T=10:1の比率で48ウェル細胞培養用プレートに加え、この48ウェル細胞培養用プレートを、37℃、5%CO2インキュベーターに配置し、5時間インキュベートした。インキュベーション終了後、濃度2%のTriton-X-100に、陽性対照群、すなわち前記標識したAML初代細胞1×105を溶解したものを加えた。1ウェルあたり100μlの殺傷系上清を取り出して、マイクロプレートに配置し、マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher社、商品名:Varioscan Lux)を用いて、蛍光値(励起波長:496nm、発光波長:515nm)を検出した。
【0052】
図5に示すように、異なる抗原認識ドメインを有するCAR-T-3は、対照群CAR-T-1と比較し、CD123陽性AML患者の高抗原密度(すなわち、AML1#)、中抗原密度(すなわち、AML2#)、低抗原密度(すなわち、AML3#)の3つの初代細胞に対して、著しく高い殺傷効率を有することがわかった。この結果により、CAR-T-3 scFvを有するCD123 CAR-T細胞は、初代細胞に対する殺傷効率を、効果的に改善できることが示唆された。
【0053】
[実施例6]
(標的細胞の刺激下における、改変されたCD123 CAR-Tのサイトカイン発現)
本実施例では、異なる抗原認識ドメインを有するCD123 CAR-Tの、AML初代細胞に対するサイトカイン発現レベルを検出した。
【0054】
標的細胞であるAML初代細胞を、1ウェルあたり1×105個、48ウェル細胞培養用プレート(アメリカ合衆国ニューヨーク州コーニング、Corning社)に加えた。前記AML初代細胞のCD123発現率は、99.87%であり、MFI値は、13298であった。各CAR-T細胞群を、48ウェル細胞培養用プレートに、E:T=10:1の比率で加え、この48ウェル細胞培養用プレートを、37℃、5%CO2インキュベーターに配置し、5時間インキュベートした。細胞上清を取り出し、CBAキット(アメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼ、BD Biosciences社)、及び、フローサイトメトリー(アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴ、ACEA Biosciences社、商品名:NovoCyte 2060R)を用いて、各種サイトカインの発現レベルを検出した。
【0055】
図6に示すように、異なる抗原認識ドメインを有するCAR-T-6における標的細胞の刺激下では、対照群CAR-T-1と比較すると、IL-2、TNF、IFN-γの発現レベルが、著しく高かった。また、残りのCAR-T細胞群におけるサイトカイン発現レベルは、対照群CAR-T-1のサイトカイン発現レベルと同程度だった。この結果により、CAR-T-6のscFv設計は、CD123 CAR-Tサイトカインの発現を促進することが示された。
【0056】
本発明に関するアミノ酸配列の詳細を、以下の表1及び表2に記載する。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【配列表】
【国際調査報告】