(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-26
(54)【発明の名称】足場タンパク質としてのペルオキシレドキシンファミリーの多量体タンパク質
(51)【国際特許分類】
C12N 15/53 20060101AFI20231219BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20231219BHJP
C12N 9/08 20060101ALI20231219BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231219BHJP
C12N 15/30 20060101ALI20231219BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20231219BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231219BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231219BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231219BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C12N15/53
C07K19/00 ZNA
C12N9/08
C12N15/63 Z
C12N15/30
C12N15/62 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023559152
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(85)【翻訳文提出日】2023-08-08
(86)【国際出願番号】 EP2021085149
(87)【国際公開番号】W WO2022122998
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523222127
【氏名又は名称】キャットサライズ
【氏名又は名称原語表記】CATSALYZE
【住所又は居所原語表記】L’atelier de la pep’ 20 Boulevard du 26e Regiment d’Infanterie 54000 NANCY (FR)
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】クインターネット、 マーク
(72)【発明者】
【氏名】クリズニク、 アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】シャゴット、 マリー‐イブ
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA80Y
4B065AA87X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA27
4B065CA28
4B065CA46
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA11
4H045DA89
4H045EA50
4H045EA60
4H045FA74
4H045GA22
4H045GA26
4H045GA30
(57)【要約】
本願発明は、足場タンパク質としてのペルオキシレドキシンのファミリーの多量体タンパク質の使用であって、1つ以上の目的のタンパク質が、前記ペルオキシレドキシンの1つ以上の単量体の1つまたは2つのNおよびC末端に連結されていて、前記ペルオキシレドキシンは酸化還元活性を有さないことを特徴とする使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルオキシレドキシンのファミリーに由来する多量体タンパク質の足場タンパク質としての使用であって、1つ以上の目的のタンパク質が、前記ペルオキシレドキシンの1つ以上の単量体の1つまたは2つのNおよびC末端に連結されていて、前記ペルオキシレドキシンは酸化還元活性を有さないことを特徴とする、使用。
【請求項2】
前記1つ以上の目的のタンパク質が酵素であり、前記足場タンパク質が前記酵素の触媒活性を増強するために使用されることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記目的のタンパク質が同じ代謝経路のタンパク質であり、前記足場タンパク質が合成効率を増強するために使用されることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記ペルオキシレドキシンが、配列番号1のサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のペルオキシレドキシンTSA1、または配列番号16のパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来のペルオキシレドキシンであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記ペルオキシレドキシンTSA1が、配列番号1の配列の48位および/または171位に変異したシステインを含み、好ましくはそれぞれアラニンまたはセリンで置換され、好ましくは配列番号29の配列を含むことを特徴とする、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来のペルオキシレドキシンが、配列番号16の配列の46位および/または211位に変異したシステインを含み、好ましくはそれぞれアラニンまたはセリンで置換され、好ましくは配列番号52の配列を含むことを特徴とする、請求項4に記載の使用。
【請求項7】
前記目的のタンパク質が、連結配列を介して前記ペルオキシレドキシン単量体の1つまたは2つのNおよびC末端に融合されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記ペルオキシレドキシン単量体と目的のタンパク質がアダプター/ペプチドリガンド対を介して連結されていることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
酸化還元活性を有さない1つ以上のペルオキシレドキシン単量体の1つまたは2つのNおよびC末端に連結された少なくとも1つの目的のタンパク質を含む、ペルオキシレドキシンのファミリーに由来する多量体タンパク質であって、前記ペルオキシレドキシン単量体と前記目的のタンパク質がアダプター/ペプチドリガンド対を介して連結された多量体タンパク質。
【請求項10】
酸化還元活性を有さない1つ以上のペルオキシレドキシン単量体の1つまたは2つのNおよびC末端に連結された少なくとも2つの異なる目的タンパク質を含む、ペルオキシレドキシンのファミリー由来の多量体タンパク質。
【請求項11】
前記ペルオキシレドキシンが、配列番号1のサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のペルオキシレドキシンTSA1、または配列番号16のパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来のペルオキシレドキシンであることを特徴とする、請求項9または10に記載の多量体タンパク質。
【請求項12】
前記ペルオキシレドキシンTSA1が、配列番号1の48位および/または171位に変異したシステインを含み、好ましくはそれぞれアラニンまたはセリンで置換されていることを特徴とする、請求項11に記載の多量体タンパク質。
【請求項13】
前記パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来のペルオキシレドキシンが、配列番号16の46位および/または211位に変異したシステインを含み、好ましくはそれぞれアラニンまたはセリンで置換されていることを特徴とする、請求項11に記載の多量体タンパク質。
【請求項14】
前記ペルオキシレドキシン単量体と目的のタンパク質がアダプター/ペプチドリガンド対を介して連結されていることを特徴とする、請求項10~13のいずれか一項に記載の多量体タンパク質。
【請求項15】
請求項9~14のいずれか一項に記載の多量体タンパク質をコードする1つ以上のヌクレオチド構築物であって、好ましくは、48位及び171位においてそれぞれセリン及びアラニンにより変異したペルオキシレドキシンTSA1をコードする配列番号51の配列、又は、46位および211位においてそれぞれセリン及びアラニンにより変異したパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来のペルオキシレドキシンをコードする配列番号53の配列を含む、ヌクレオチド構築物。
【請求項16】
請求項15に記載のヌクレオチド構築物を含む発現ベクター。
【請求項17】
請求項9~14のいずれか一項に記載の多量体タンパク質、請求項15に記載の1つ以上のヌクレオチド構築物、または請求項16に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルオキシレドキシン(Prxs)のファミリーに由来する多量体タンパク質の足場タンパク質としての使用であって、1つ以上の目的のタンパク質が、前記ペルオキシレドキシンの1つ以上の単量体の1つまたは2つのNおよびC末端に連結されていて、前記ペルオキシレドキシンは酸化還元活性を有さないことを特徴とする使用に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素は、分子の合成、修飾、または分解を促進することができる生体触媒であり、生体に適合した条件下で最適に機能するという特定の特徴を有する。これらは、バイオプラスチック、バイオ燃料、治療用分子の合成などの多くの分野で使用されている。
【0003】
酵素の触媒力を改善するために多くの研究が行われてきた。その結果、遺伝子工学の急速な拡大により、特定の酵素に活性化変異を導入することが可能になった。タンパク質の立体構造解析とバイオインフォマティクスの進歩により、これらの変異を合理的な方法で誘導できるようになった(Goldenzweig et al., 2016, Mol Cell. 2016 Jul 21;63(2):337-346)。
【0004】
別のアプローチは、反応物、中間体、及び酵素を同じ複合体に組み込んで局所的に濃縮し、生化学反応の効率を向上させることである。酵素の人工的な組み立てを可能にする様々な方法が開発されている。例えば、酵素同士の直接融合は、細胞内での生成物の生成を増強するように、レスベラトロールの生合成における2つの酵素の発現と局在を調整するために使用されている(Zhang et al., J. Am. Chem. Soc. 128:13030-13031 (2006))。それにもかかわらず、融合した2つの酵素の構造が悪影響を受け、酵素の不活性化をもたらす可能性がある。
【0005】
別のアプローチは、足場タンパク質と呼ばれるタンパク質性の支持体上に酵素を固定化することである。足場タンパク質は、1つ以上の酵素を目的の基質の近傍に局所的に集中させることができ、特に高分子基質の触媒反応に適している。また、足場タンパク質は、同じ代謝経路に属する酵素を空間的に近づけることができ、小分子の合成を加速させ簡略化する。
【0006】
酵素が特定の部位に組み込まれたセルロソーム由来の人工多タンパク質複合体は、セルロースの分解を改善するために使用される(Fierobe et al. 2001. J. Biol. Chem. 276:21257-21261及びFierobe et al. 2005, J Biol Chem. 280(16):16325-34)。また、メバロン酸塩やグルカル酸などの目的分子の生産効率を高めるために、タンパク質間相互作用ドメインを利用した足場タンパク質も開発されている (Dueber et al. 2009. Nat. Biotechnol. 27:753-759)。
【0007】
それにもかかわらず、多様な環境条件下で安定性を保ちながら、細胞内で強力に発現される新規の足場タンパク質を開発する必要性が依然として存在する。
【0008】
ペルオキシレドキシン(Prxs)は、極限環境生物を含む生物界全体に見られるタンパク質である。ペルオキシレドキシンは、pH、温度、塩濃度の非常に多様な条件に対して耐性がある。これらは、細胞の存続に不可欠な酸化還元機能を確保するために、高い安定性を獲得している。これらの配列は、機能に重要なシステインの周辺に構成された共通のモチーフを含んでいる。このモチーフを囲む配列の多様性により、宿主生物に適切な物理化学的特性を付与している。このタンパク質ファミリーは、ほとんどの場合、多量体化して十量体または十二量体環を形成できる約20kDaの単量体に基づく共通の構造を共有している。この特定の三次元配置により、S.セレビシエ(S. cerevisiae)由来のTSA1などのPrxは、単量体のN末端位置およびC末端位置に位置する浮遊末端を示す。
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、多様な環境条件で使用できる足場タンパク質を開発するために、ペルオキシレドキシンファミリーの多量体タンパク質である、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のTSA1タンパク質またはピロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来のペルオキシレドキシンの特性を利用した。Prxの固有の酸化還元活性を抑制し、Prxの支持機能のみを保持するために、活性システインに変異が加えられた。本発明者らは、Prxs単量体のNおよび/またはC末端位置に目的のタンパク質を連結しても、Prxの十量体構造が保存されたままであることと、目的のタンパク質の機能が維持されること、ペルオキシレドキシンは特定の特性を有する足場タンパク質であることを示した。
【0010】
本発明は、ペルオキシレドキシンのファミリーに由来する多量体タンパク質の足場タンパク質としての使用であって、1つ以上の目的のタンパク質が、前記ペルオキシレドキシンの1つ以上の単量体の1つまたは2つのNおよびC末端に連結されていて、前記ペルオキシレドキシンは酸化還元活性を有さないことを特徴とする使用に関する。1つの特定の実施形態において、前記1つ以上の目的のタンパク質は酵素であり、足場タンパク質は酵素の触媒活性を増強するために使用され、または、前記目的のタンパク質は同じシグナル伝達経路のタンパク質であり、足場タンパク質はシグナル伝達の効率を増強するために使用される。
【0011】
ペルオキシレドキシンは、好ましくは配列番号1のサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のペルオキシレドキシンTSA1であり、より詳細には配列番号1の配列の48位および/または171位に変異したシステインを含み、好ましくはそれぞれアラニンまたはセリンで置換されている。
【0012】
別の好ましい実施形態では、ペルオキシレドキシンは、配列番号16のパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来のペルオキシレドキシンであり、より具体的には、配列番号16の配列の46位および/または211位に変異したシステインを含み、好ましくはそれぞれアラニンまたはセリンで置換されている。
【0013】
特定の一実施形態では、目的のタンパク質は、連結配列を介して前記ペルオキシレドキシン単量体の1つまたは2つのNおよびC末端に融合される。
【0014】
別の特定の実施形態では、前記ペルオキシレドキシン単量体および目的のタンパク質は、アダプター/ペプチドリガンド対を介して連結される。
【0015】
別の態様によれば、本発明は、酸化還元活性を有さない1つ以上のペルオキシレドキシン単量体の1つまたは2つのNおよびC末端に連結された少なくとも1つの目的のタンパク質を含む、ペルオキシレドキシンのファミリーに由来する多量体タンパク質であって、前記ペルオキシレドキシン単量体と前記目的のタンパク質がアダプター/ペプチドリガンド対を介して連結していることを特徴とする多量体タンパク質に関する。本発明は、また、酸化還元活性を有さない1つ以上のペルオキシレドキシン単量体の1つまたは2つのNおよびC末端に連結された少なくとも2つの異なる目的タンパク質を含むペルオキシレドキシンのファミリー由来の多量体タンパク質に関する。ペルオキシレドキシンは、好ましくは配列番号1のサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のペルオキシレドキシンTSA1であり、より具体的には配列番号1の配列の48位および/または171位に変異したシステインを含み、好ましくはそれぞれアラニンまたはセリンで置換されている。
【0016】
別の好ましい実施形態では、ペルオキシレドキシンは、配列番号16のパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来のペルオキシレドキシンであり、より具体的には、配列番号16の配列の46位および/または211位に変異したシステインを含み、好ましくはそれぞれアラニンまたはセリンで置換されている。
【0017】
好ましい一実施形態では、前記ペルオキシレドキシン単量体と目的のタンパク質は、アダプター/ペプチドリガンド対を介して連結される。
【0018】
本発明はさらに、上記の多量体タンパク質をコードする1つ以上のヌクレオチド構築物、および前記ヌクレオチド構築物を含む発現ベクターに関する。本発明はまた、すべて上述したような、多量体タンパク質、1つ以上のヌクレオチド構築物、または発現ベクターを含む宿主細胞にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】(A)左から右へ、共有結合グラフトTSA1-CRD
SAT、CRD
SAT-TSA1、およびCRD
SAT-TSA1-(GGGS)3-CRD
SATのSDS-PAGE分析。矢印で示された目的のタンパク質は、超音波処理上清(SSo)、ラクトース-セファロース樹脂(Lac-Seph)、および溶出画分(溶出1~3)中に見出された。
【
図1BC】(B)(A)に示した3つの構造で得られたサイズ排除クロマトグラフィープロファイル。(C)(B)で得られたメインピーク(P1およびP2)に対応する画分がSDS-PAGEで分析されている。
【
図1D】(D)(B)で得られたピークP1とグラフトされていないタンパク質TSA1の動的光散乱による分析。平均サイズがナノメートル単位で報告されている。
【
図2】6xHIS-SPAG1-TPR3とCRD
SAT-TSA1-(GGGS)
2または3-HSP90pepとの複合体の再構成のSDS-PAGEによる分析。SSoおよびTALONは、それぞれ、超音波処理上清およびアフィニティー樹脂を示す。
【
図3】(A)遊離Pfu-PRX、足場を備えたPreScission 3C、および(C)足場を備えたPETaseのDLSスペクトル(DLS:動的光散乱)。主要な種のそれぞれのサイズが示されている。
【
図4】25℃での等温滴定マイクロカロリメトリーによって得られたTsa1(灰色)およびPfu-Prx(黒色)について記録されたサーモグラム。
【
図5】示差走査マイクロカロリメトリーによりPfu-Prxについて得られた変性曲線。各ピークの頂上で測定された半変性温度を示す。
【
図6】SDS変性ゲルでの電気泳動による、Pfu-Prxを足場としたプロテアーゼ3Cによる6His-SPAG1-TPR3の分解のモニタリング。「Pfu-Prx:3C」と表示されたレーンは、足場を備えたプロテアーゼに対応する。「基質」と表示されたレーンは、プロテアーゼの非存在下、10℃で60分後の6His-SPAG1-Cterに対応する。1から60と表示されたレーンは、1、2、5、10、15、30および60分後に採取された反応液サンプルの堆積に対応する。「MT」と表示されたレーンは、kDaで表されるサイズマーカー(MT)に対応する。
【
図7】Pfu-Prxを足場としたPETaseによるPET分解中の反応液のpHのモニタリング。黒色の曲線は、酵素の存在下でのPETに対応する。灰色の曲線は、酵素を含まないコントロールに対応する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、単量体の遊離NおよびC末端が目的のタンパク質に連結しているペルオキシレドキシンの多量体タンパク質が、その特定の三次元構造を十量体または十二量体として保持し、目的のタンパク質の機能を維持することを示した。したがって、ペルオキシレドキシンの多量体タンパク質は足場タンパク質として使用され得る。
【0021】
「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」という用語は互換的に使用され、この鎖を形成するアミノ酸の数に関係なく、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸の鎖に対応する。
【0022】
足場タンパク質は、様々な目的タンパク質間の相互作用とそれらの機能を促進するため、あるいは目的のタンパク質を局所的に集合させるために、単一のタンパク質複合体において、複数の同一または異なる目的タンパク質を連結することを可能にするタンパク質である。
【0023】
足場タンパク質は、複数の目的タンパク質を連結することにより、例えば、不要な相互作用を制限し、目的タンパク質の近接性と濃度を増大することにより、酵素反応の効率を高めるために、同じ代謝経路の化合物を単一の複合体に集合させることを可能にする。足場タンパク質はまた、目的タンパク質の機能を向上させるために、目的タンパク質を細胞の特定の領域に局在させることもできる。
【0024】
TSA(チオール特異的抗酸化物質)とも呼ばれるペルオキシレドキシンタンパク質(PrxまたはPRDX)(EC 1.11.1.24)は、ペルオキシダーゼ性(Peroxidatic)システイン(Cp)と呼ばれるシステイン残基によるペルオキシダーゼ活性を持つ高度に保存された酵素である。ペルオキシレドキシンは、その酸化部位を介して過酸化物を還元する。その後、Cpシステインは「分解(resolving)」システイン(CR)と反応してジスルフィド架橋を形成し、これが電子供与体によって還元されて触媒サイクルを完了する(Revue Rhee SG, Mol Cells. 2016. 39(1):1-5)。
【0025】
ペルオキシレドキシンは、CRシステインを有するか否かに応じて、2-Cys、非定型2-Cys、および1-Cysペルオキシレドキシンのサブクラスに分類できる。Prxの非定型2-Cysサブクラスでは、CRシステインは非定型の位置に位置する。
【0026】
最近では、ペルオキシレドキシンは、AhpC-Prx1、BCP-PrxQ、Prx5、Prx6、Tpx、およびAhpEと呼ばれる6つのクラスにも分類される(Soito, Laura et al. 2011, Nucleic Acids Res. England. 39 (Database issue):D332-7.doi:10.1093/nar/gkq1060)。
【0027】
サブクラスAhpC/Prx1およびPrx6のメンバーは、互いに結合して八量体、十量体、または十二量体を形成する(Hall et al. 2010, J Mol Biol. 402(1):194-209; Parsonage et al. 2005, Biochemistry, 2005;44(31):10583-92)。
【0028】
本特許出願のペルオキシレドキシンは、多量体化して、好ましくは十量体または十二量体を形成でき、より具体的にはAhpC-Prx1またはPrx6のサブクラスのペルオキシレドキシン単量体である。Prx単量体は、好ましくは、AhpC-Prx1のサブクラスに由来する。
【0029】
サブクラスAhpC-Prx1は、本質的に「典型的な2-Cys」Prxで構成されている。このサブクラスのメンバーは、細菌のAhpCタンパク質、トリパレドキシンペルオキシダーゼ、シロイヌナズナ由来の2-Cys Pxrsおよびオオムギ由来のBas1 Pxrsを含む植物Prx、酵母タンパク質TSA1およびTSA2、ならびにヒトPrxI、II、IIIおよびIVを含む。Prxsの共通の基本構造に加えて、このサブクラスのメンバーはCRを含むC末端伸長を持ち、これはB型インターフェースを介してそのパートナーのサブユニットのCpとジスルフィド結合を形成する(Hall et al 2010, J Mol Biol.402(1):194-209)。
【0030】
サブクラスPrx6は、細菌のPrx6タンパク質、シロイヌナズナおよびオオムギの1-Cys植物Prx、ミトコンドリア酵母タンパク質Prx1、およびヒトPrxVIを含む。Prx6タンパク質は、AhpC/Prx1サブクラスに近い。Prx6タンパク質はC末端伸長を含み、B型二量体を形成し、場合によってはより高次のオリゴマー状態を形成する。しかし、AhpC-Prx1サブクラスとは対照的に、代表的な2-Cysが存在するもののPrx6サブクラスのメンバーは主に1-Cysである(Deponte and Becker 2005)。
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
好ましくは、ペルオキシレドキシンのファミリー由来の多量体タンパク質の単量体は、以下からなる群から選択される:サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のペルオキシレドキシンTSA1(配列番号1)、Aeropyrum pernix K1由来のペルオキシレドキシン(配列番号2)、Crithidia fasciculata由来のトリパレドキシンペルオキシダーゼ(配列番号3)、コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)由来のペルオキシレドキシン(配列番号4)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のクロロプラスチック2-CysペルオキシレドキシンBAS1(配列番号5)、リーシュマニア・インファンタム(Leishmania infantum)由来のミトコンドリアペルオキシレドキシン(配列番号6)、ラット(Rattus norvegicus)由来のペルオキシレドキシン-1(配列番号7)、Leishmania major由来のトリパレドキシンペルオキシダーゼ(配列番号8)、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)由来のペルオキシレドキシン-4(アイソフォーム1)(配列番号9)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のペルオキシレドキシンTSA2(配列番号10)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)由来のアルキルヒドロペルオキシドレダクターゼC(配列番号11)、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)由来のペルオキシレドキシン-2(アイソフォーム1)(配列番号12)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)由来のアルキルヒドロペルオキシドレダクターゼC(配列番号13)、吸虫(Schistosoma mansoni)(住血吸虫(Blood fluke))由来のチオレドキシンペルオキシダーゼ(配列番号14)、Trypanosoma cruzi由来の推定トリパレドキシンペルオキシダーゼ(配列番号15)、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来のペルオキシレドキシン(配列番号16)、Pyrococcus horikoshii由来のペルオキシレドキシン(配列番号17)、Mus musculus由来のペルオキシレドキシン-4(配列番号18)、Amphibacillus xylanus由来のアルキルヒドロペルオキシドレダクターゼC(配列番号19)、Ancylostoma ceylanicum由来のペルオキシレドキシン-1(配列番号20)、Enterococcus faecalis 由来のアルキルヒドロペルオキシドレダクターゼC(配列番号21)、Larimichthys crocea由来のペルオキシレドキシン4(配列番号22)、Sulfolobus islandicus由来のペルオキシレドキシン(配列番号23)、Plasmodium vivax由来の推定2-Cysペルオキシレドキシン(配列番号24)、Leishmania braziliensis由来のペルオキシレドキシン(配列番号25)、Akkermansia muciniphila由来のペルオキシレドキシン(配列番号26)、大腸菌(Escherichia coli)由来のアルキルヒドロペルオキシドレダクターゼC(配列番号27)およびMycobacterium tuberculosis H37Rv由来のアルキルヒドロペルオキシドレダクターゼC(配列番号28)、またはその機能的変異体。
【0037】
「ペルオキシレドキシン単量体」または「ペルオキシレドキシン」とは、天然のペルオキシレドキシンの任意の単量体であるが、特に、多量体化して十量体または十二量体環を形成する能力を保持し、単量体のNおよびC末端がこの環の外側に露出しているその機能的変異体も意味する。
【0038】
好ましくは、本明細書で使用される「変異体」または「機能的変異体」という用語は、上述のペルオキシレドキシン中のアミノ酸配列、より具体的には、配列番号1~28からなる群から選択される配列のうちの1つと、少なくとも70、75、80、85、90、95または99%の配列同一性を示すアミノ酸配列を有し、多量体化して十量体または十二量体環を形成する能力を保持するポリペプチドを示し、単量体のNおよびC末端がこの環の外側に露出している。
【0039】
本明細書において、「配列同一性」または「同一性」という用語は、2つのポリペプチド配列のアラインメントに由来する位置における一致(同一のアミノ酸残基)の数(%)を指す。配列の同一性は、配列間のギャップを最小限に抑えながら重複と同一性を最大化するように配列を並べたときに配列を比較することによって決定される。より具体的には、配列同一性は、2つの配列の長さに応じて、所定数のグローバルまたはローカル数学的アラインメントアルゴリズムを使用して決定され得る。類似した長さの配列は、好ましくは、配列を全長にわたって最適に並べるグローバルアラインメントアルゴリズム(例えば、Needleman and Wunschのアルゴリズム;Needleman and Wunsch,1970)を用いて並べ、一方、実質的に異なる長さを有する配列は、好ましくは、ローカルアラインメントアルゴリズム(例えば、Smith and Watermanのアルゴリズム(Smith and Waterman, 1981)またはAltschulのアルゴリズム(Altschul et al, 1997; Altschul et al, 2005))を用いて並べる。アミノ酸配列の同一性パーセンテージを決定する目的のためのアラインメントは、例えばhttp:/ /blast.ncbi.nlm.nih.gov/またはhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/emboss/などのウェブサイトで公衆がアクセスできるデジタルソフトウェアを使用するなど、当業者の能力の範囲内であるさまざまな方法で実施することができる。この分野の専門家は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを得るために必要なアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。本文書の目的上、アミノ酸配列同一性のパーセント値は、EMBOSS Needleペアワイズ配列アラインメントプログラムを使用して生成された値を指す。このプログラムは、Needleman-Wunschアルゴリズムを使用して2つの配列の最適なグローバルアラインメントを作成するもので、すべての検索パラメータは、デフォルトの値、すなわち、スコアリングマトリックス=BLOSUM62、オープンスペース=10、拡張スペース=0.5、エンドスペースペナルティ=false、エンドオープンスペース=10、およびエンド拡張スペース=0.5に調節されている。
【0040】
「変異体」または「機能的変異体」という用語は、好ましくは、1つ以上の保存的置換において配列番号1~28の配列の配列とは異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。
【0041】
「置換された」または「修飾された」とは、本発明では、天然アミノ酸から変更または修飾されたアミノ酸を意味する。
【0042】
本明細書で使用される「保存的置換」という用語は、タンパク質の立体構造および全体的な機能に悪影響を与えることなく、あるアミノ酸残基を別のアミノ酸残基に置換することを意味し、これには、あるアミノ酸を類似の特性(例えば、極性、水素結合ポテンシャル、酸性度、塩基性酸性度、形状、疎水性、芳香族性など)を有する別のアミノ酸で置換することが挙げられるが、これに限定されない。
【0043】
保存的置換の例は、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン、およびヒスチジン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸およびアスパラギン酸)、極性アミノ酸(グルタミンおよびアスパラギン)、疎水性アミノ酸(メチオニン、ロイシン、イソロイシン、およびバリン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシン)、小アミノ酸(グリシン、アラニン、セリン、トレオニン)のグループに見られる。
【0044】
本特許出願におけるペルオキシレドキシンまたはペルオキシレドキシンの機能的変異体は、酸化還元活性を示さないペルオキシレドキシンである。より具体的には、ペルオキシレドキシンまたはペルオキシレドキシン変異体は、変異したペルオキシダーゼ性(peroxidatic)システインおよび/または「分解」残基を含む。ペルオキシレドキシンのペルオキシダーゼ性(peroxidatic)システインおよび「分解」システインは、多数のペルオキシレドキシンタンパク質について特徴づけられており、当業者にはよく知られている(Nelson et al. Proteins, 2012, 79(3):947-964; http://csb.wfu.edu/prex/search.php)。より具体的には、CRはヒトPrxIIのC172と同じ位置で保存されている。例として、多数のペルオキシレドキシンタンパク質のペルオキシダーゼ性(peroxidatic)システインと分解システインを表1に示す。
【0045】
上述のペルオキシレドキシン単量体は、他のアミノ酸、好ましくはアラニンまたはセリンによって変異したペルオキシダーゼ性(peroxidatic)および/または「分解」システインを有することが好ましい。
【0046】
本特許出願は、好ましくは、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のペルオキシレドキシン単量体TSA1に関し、好ましくは配列番号1の配列の48位および/または171位に任意の他のアミノ酸、好ましくはアラニンまたはセリンによって変異したシステインを有し、好ましくは、配列番号29の配列を含む、またはそれからなる変異Prx単量体に関する。
【0047】
本発明者らは、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来のペルオキシレドキシンが特に安定であり、低濃度でもその十量体構造を保持しており、足場タンパク質として特に有利であることを実証した。したがって、別の好ましい実施形態においては、本特許出願は、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来のペルオキシレドキシン単量体に関し、好ましくは、配列番号16の配列の46位および/または211位において任意の他のアミノ酸、好ましくはアラニンまたはセリンにより変異したシステインを有し、好ましくは配列番号52の配列を含む、またはそれからなる変異Prx単量体に関する。
【0048】
多量体化して十量体または十二量体環を形成できるペルオキシレドキシンは、各単量体のNおよびC末端位置に浮遊末端をもつ。したがって、上述のように、1つ以上の目的のタンパク質は、ペルオキシレドキシンの1つ以上の単量体の1つまたは2つのNおよびC末端に連結され得る。
【0049】
本発明によるペルオキシレドキシンのファミリー由来の多量体タンパク質は、好ましくは、酸化還元活性を有さない1つ以上のペルオキシレドキシン単量体の1つまたは2つのNおよびC末端に連結する少なくとも2つの異なる目的のタンパク質を含む。
【0050】
目的のタンパク質は、タンパク質複合体に組み立てられたときに活性または機能が向上する任意のタンパク質を含む。目的のタンパク質は、好ましくは50kDa未満、好ましくは40、30、20または10kDa未満、好ましくは20kDa未満のサイズを有する。
【0051】
本発明による目的のタンパク質は、好ましくは代謝経路の酵素またはタンパク質である。
【0052】
特定の一実施形態では、目的のタンパク質は同じ代謝経路からのタンパク質であり、足場タンパク質は合成の効率を増強するために使用される。例えば、同じ代謝経路のタンパク質は、例えば、カテキン、D-グルカル酸、H2、ハイドロキノン、レスベラトロール、酪酸塩、γ-アミノ酪酸、およびメバロン酸塩、(2S,5S)-ヘキサンジオール、モノ(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(MHET)、テレフタル酸およびエチレングリコールなどの目的の分子の合成を可能にするタンパク質である。
【0053】
別の特定の実施形態では、目的のタンパク質は酵素であり、足場タンパク質は酵素の触媒活性を増強するために使用される。酵素は、好ましくはポリマー基質を有する酵素である。例えば、酵素は以下からなる群から選択され得る:PET加水分解酵素(PETase)、リゾチーム、MHETase、アルコールデヒドロゲナーゼ、溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(lytic polysaccharide monooxygenases)(LPMO)およびエンドペプチダーゼ。
【0054】
ある特定のケースでは、目的のタンパク質はレポータータンパク質ではない。
【0055】
「レポータータンパク質」という用語は、例えば生物発光(例えば蛍光)、酵素活性の検出、または抗体による認識によって、それを観察または定量化できる特徴を有するタンパク質を示す。したがって、レポータータンパク質は、蛍光タンパク質、着色された生成物または容易に特徴付け可能な表現型の出現を引き起こす作用を有する酵素、または他の定量化可能な活性を有する任意の他のタンパク質、またはタグと呼ばれるアミノ酸の短い配列から選択され得る。レポータータンパク質は、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ(LacZ)またはヒドロラーゼ(β-グルクロニダーゼ、アルカリホスファターゼ)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)およびβ-ラクタマーゼ(TEM-1)、タグHA(ヒトインフルエンザヘマグルチニン)、FLAG、polyHis6および蛍光タンパク質から選択される。
【0056】
目的のタンパク質は、共有結合または非共有結合によって、ペルオキシレドキシン単量体のN末端またはC末端に連結させることができる。
【0057】
特定の一実施形態では、目的のタンパク質は、ペルオキシレドキシンの単量体のN末端またはC末端に共有結合で融合される。
【0058】
本特許出願において使用される「融合タンパク質」の用語は、同じタンパク質に由来しない少なくとも2つの異なるポリペプチドを含むタンパク質のことをいう。
【0059】
2つのタンパク質は、直接融合されてもよいし、リンカーと呼ばれるペプチド配列を介して融合されてもよく、このリンカーは、タンパク質がタンパク質の活性のためによりよい立体構造をとるように、様々なタンパク質またはタンパク質フラグメントを結合させることができる。より具体的には、ヌクレオチド配列は、1、2、3、4、5、10、15、20、30、40または50アミノ酸のペプチド配列をコードする。1つの好ましい実施形態において、リンカーは、GGGS、GGGSGGGS(配列番号30)またはGGGSGGGSGGGS(配列番号31)からなるペプチド配列をコードする。
【0060】
別の特定の実施形態では、目的のタンパク質は、ペルオキシレドキシンの単量体のN末端またはC末端に、好ましくはアダプター/ペプチドリガンド対を介して非共有結合的に連結される。アダプター/ペプチドリガンド対は、それぞれ連結している2つのタンパク質の効果的なカップリングを可能にする特定の配列モチーフを有するペプチドリガンドに対して高い親和性を有するタンパク質のアダプター領域からなる。
【0061】
アダプター/ペプチドリガンド対を使用すると、足場タンパク質のPrx単量体に連結する目的のタンパク質の数と種類を制御し、足場タンパク質上の目的のタンパク質の立体障害を防ぐことができる。
【0062】
本発明の文脈において使用することができるアダプター/ペプチドリガンド対は、当業者に周知であり、例えば、ドメインSH3、SH2、PDZ、GBD(GTPase結合ドメイン)が挙げられる(Horn A. H. C. et al. 2015, Front Bioeng Biotechnol. 3:191)。
【0063】
本発明者らはまた、Rsa1(Uniprot ID:Q08932)、NUFIP1(Uniprot ID:Q9UHK0),HSP90(Uniprot ID:P08238,P07900),HSP70(Uniprot ID:P0DMV8),RPAP3(Uniprot:Q9H6T3),SPAG1(Uniprot ID:Q07617)またはTah1(Uniprot ID:P25638)のタンパク質の連結ドメインを含む新しいアダプター/ペプチドリガンド対の特徴づけも行った。
【0064】
1つの好ましい実施形態では、アダプター/ペプチドリガンド対は、以下の対から選択される(表2を参照):
-配列番号32または33のHSP90Cおよび配列番号34のSPAG1-622742;
-配列番号32または33のHSP90Cおよび配列番号35のSPAG1-206327opt;
-配列番号32または33のHSP90Cおよび配列番号36のRPAP3-281396;
-配列番号32または33のHSP90Cおよび配列番号37のTah1;
-配列番号38のHSP70Cおよび配列番号34のSPAG1-622742;
-配列番号38のHSP70Cおよび配列番号35のSPAG1-206327opt;
-配列番号39のySNU13および配列番号40のRsa1-238259;
-配列番号41のhSNU13および配列番号42のNUFIP1-233255;
-配列番号43のTah1-93111および配列番号44のPih1-258344;
-配列番号45のRPAP3-396455および配列番号46のPIH1D1-199290;
-配列番号47のZNHIT3-85155および配列番号48のNUFIP1-462495;
-配列番号49のHit1-70164および配列番号50のRsa1-317352。
【0065】
【0066】
より具体的には、上記のようなアダプタードメインおよび/またはペプチドリガンドは、ペルオキシレドキシンの単量体、好ましくは1つまたは2つのNまたはC末端に融合され、対応するアダプタードメインおよび/またはペプチドリガンドは、ペルオキシレドキシンの単量体と目的のタンパク質とがアダプター/ペプチドリガンド対の連結を介して互いに連結されるように、目的のタンパク質に融合される。
【0067】
1つの好ましい実施形態では、タンパク質は、組換え技術を使用して合成される。この場合、上記のタンパク質をコードする核酸配列を含む、またはそれからなる核酸構築物が使用され、宿主細胞内で発現される。本特許出願によるタンパク質を生産するために使用され得る核酸および発現ベクターを以下に記載する。
【0068】
核酸と発現ベクター
本特許出願はさらに、上述の多量体タンパク質をコードする1つ以上のヌクレオチド構築物に関する。
【0069】
「核酸」または「ヌクレオチド配列」という用語は、核酸から構成される、または核酸を含む任意の分子を指すために互換的に使用され得る。核酸は、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドであってもよい。ヌクレオチド配列は、DNAであってもRNAであってもよい。ヌクレオチド配列は、化学的または人為的に改変されていてもよい。ヌクレオチド配列は、核酸、ペプチド、モルホリノ、ブロックされた核酸、さらにグリコール核酸およびトレオース核酸を含んでもよい。これらの配列はそれぞれ、天然のDNAまたはRNAとは骨格の性質が異なる。ホスホロチオエートヌクレオチドを使用してもよい。メチルホスホネート、ホスホルアミデート、ホスホロジチオエート、N3’P5’-ホスホルアミデートおよびホスホロチオエートオリゴリボヌクレオチド、ならびに類似体2’-O-アリル-および2’-O-メチルリボヌクレオチドメチルホスホネート等の、他の核酸類似体が本発明の文脈において使用され得る。
【0070】
特定の一実施形態において、本特許出願は、1つまたは2つのNおよびC末端に、目的のタンパク質と、好ましくはリンカーを介して融合されたペルオキシレドキシン単量体をコードするヌクレオチド構築物に関する。
【0071】
上述のペルオキシレドキシン単量体をコードするヌクレオチド配列は、好ましくは、「リンカー」、好ましくは、タンパク質がタンパク質の活性のためにより良いコンフォメーションをとるように、種々のタンパク質またはタンパク質フラグメントを連結することを可能にするペプチド配列をコードするヌクレオチド配列を介して、目的のタンパク質をコードするヌクレオチド配列に融合される。より具体的には、ヌクレオチド配列は、1、2、3、4、5、10、15、20、30、40または50アミノ酸のペプチド配列をコードする。1つの好ましい実施形態において、リンカーは、ペプチド配列GGSGGS(配列番号30)、GGGSGGGSGGS(配列番号31)またはGGGSをコードする。
【0072】
2つ以上のヌクレオチド配列の融合とは、異なるタンパク質またはタンパク質フラグメントをコードする2つ以上のヌクレオチド配列の組み合わせのことをいい、融合した2つの遺伝子の翻訳により単一の機能的ポリペプチドが得られる。本発明の文脈において、ペルオキシレドキシン単量体は、目的のタンパク質と融合し、目的のタンパク質または目的の複数のタンパク質が複合体化することを可能にする、多量体の「足場」タンパク質を形成する。
【0073】
別の特定の実施形態において、本特許出願は、1つまたは2つのNおよびC末端で、上記で定義されたアダプタードメインの第1のペプチド配列と融合したペルオキシレドキシン単量体をコードするヌクレオチド構築物、ならびに、アダプター/ペプチドリガンド対の対応するペプチドリガンドに融合された目的のタンパク質をコードするヌクレオチド構築物に関する。ペルオキシレドキシン単量体は、アダプター/ペプチドリガンド対を介して、1つ以上の目的のタンパク質と非共有結合的に連結し、1つ以上の目的のタンパク質を複合化させる多量体の「足場」タンパク質を形成することができる。
【0074】
記載のヌクレオチド配列は、好ましくは、ペルオキシレドキシン単量体または目的のタンパク質をコードする相補的DNA(cDNAとも呼ぶ)のことをいう。本特許出願のヌクレオチド構築物は、好ましくは、上記のようなペルオキシレドキシン単量体をコードする配列を含み、好ましくは、48位および171位が変異したS.セレヴィシエ(S. cerevisiae)由来のペルオキシレドキシン単量体TSA1をコードする配列番号51の配列を含む。
【0075】
別の好ましい実施形態において、本特許出願のヌクレオチド構築物は、46位および211位が変異したパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来のペルオキシレドキシン単量体をコードする配列番号53の配列を含む。
【0076】
本特許出願はさらに、上記のヌクレオチド構築物を含むベクターに関する。
【0077】
ここで「ベクター」とは、一本鎖または二本鎖の形態を同様に有し得るDNA分子のことをいう。
【0078】
本発明による組換えベクターは、好ましくはプラスミドベクターまたは組み込みベクターである。本発明のある実施形態では、ベクターはプラスミドである。本明細書における「プラスミド」とは、細胞内で自律的に複製できるような複製起点と、細胞増殖の過程で生物によって失われないような選択遺伝子を持つ、2本鎖の環状DNA分子のことをいう。それ自体、多数のベクターが知られている;適切なベクターの選択は、このベクターの使用目的(例えば、目的の配列の複製、この配列の発現、染色体外形態でのこの配列の維持、または宿主の染色体装置への組み込み)、および宿主細胞の性質による。
【0079】
前記ベクターは、好ましくは、上記で定義したような目的遺伝子の発現に必要な全ての要素を含む発現ベクターである。例えば、前記ベクターは、転写および場合によっては翻訳を調節する適切な配列(プロモーター、アクチベーター、イントロン、開始コドン(ATG)、コドン停止、ポリアデニル化シグナル、スプライシング部位)の制御下にある、上記で定義した少なくとも1つの目的の遺伝子を含む発現カセットを含む。
【0080】
ベクターは好ましくはDNAプラスミドベクターである。1つの特定の実施形態において、ベクターは、原核宿主細胞における使用に適合され、好ましくは以下から選択される:ACYC184、pBeloBacll、pBR332、pBAD33、pBBR1MCSおよびその誘導体、pSC101、SuperCos(コスミド)、pWE15(コスミド)、pTrc99A、pBAD24、ColE1複製起点を含むベクターおよびその誘導体、pUC、pBluescript、pCARGHO、pET、pGEM、pnEA、pnYK、pnCSおよびpTZベクター。
【0081】
コード領域に加えて、目的の遺伝子は、活性化配列、応答エレメント、インスレーター、ポリアデニル化シグナルおよび/または任意の他の機能的エレメントのような、前記遺伝子の発現を促進または増強する1つ以上のエレメントを含むか、またはそれらと組み合わせられてもよい。
【0082】
ペルオキシレドキシン単量体および/または目的のタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、タンパク質の発現を可能にするためのプロモーターの転写制御下で、発現ベクターに挿入され得る。
【0083】
「プロモーター」とは、操作的に連結されたヌクレオチド配列の細胞内での発現を正に制御することができるポリヌクレオチドのことをいう。プロモーターまたはプロモーター配列は、遺伝子の近くに位置し、DNAからRNAへの転写に不可欠なDNA領域である。プロモーター配列は一般に転写開始部位の上流に位置する。プロモーター配列は、RNAポリメラーゼがRNAの合成を開始する前に最初に付着する領域に相当する。
【0084】
宿主細胞
本特許出願はさらに、すべて上記のような多量体タンパク質、ヌクレオチド構築物またはベクターを含む宿主細胞に関する。
宿主細胞は真核細胞でも原核細胞でもよい。
【0085】
真核細胞には、特に動物細胞、真菌細胞、昆虫細胞、植物細胞、藻類細胞が含まれる。
真核宿主細胞は、好ましくは、以下からなる群から選択される:ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ピキア・フィンランディカ(Pichia finlandica)、ピキア・トレハロフィラ(Pichia trehalophila)、ピキア・コクラメ(Pichia koclamae)、ピキア・メンブラナエファシエンス(Pichia membranaefaciens)、ピキア・オプティアエ(Pichia opuntiae)、ピキア・サーモトレランス(Pichia thermotolerans)、ピキア・サリクタリア(Pichia salictaria)、ピキア・ゲルカム(Pichia guercuum)、ピキア・ピジュペリ(Pichia pijperi)、ピキア・スティプティス(Pichia stiptis)、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピキア属種(Pichia sp.)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス属種(Saccharomyces sp.)、ハンセヌラ・ポリモルフ(Hansenula polymorphs)、クリベロマイセス属種(Kluyveromyces sp.)、クリベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)、クリソスポリウム・ラクノウェンス(Chrysosporium lucknowense)、フザリウム属種(Fusarium sp.)、フザリウム・グラミネウム(Fusarium gramineum)、フザリウム・ベネナタム(Fusarium venenatum)、アカパンカビ(Neurospora crassa)、スポドプテラ・フルギペルダ Sf9(Spodoptera frugiperda Sf9)、スポドプテラ・フルギペルダ Sf21(Spodoptera frugiperda Sf21)、コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)。
【0086】
原核細胞は、好ましくは、大腸菌(Escherichia coli)、ラクトバチルス属菌(Lactobacillus sp.)、サルモネラ属菌(Salmonella sp.)、赤痢菌属(Shigella sp.)、ロドコッカス属菌(Rhodococcus sp.)、バチルス属菌(Bacillus sp.)、およびシュードモナス属菌(Pseudomonas sp.)からなる群から選択される。
【0087】
多量体タンパク質の使用
上述のペルオキシレドキシンのファミリーに由来する多量体タンパク質は、足場タンパク質として使用される。足場タンパク質は、1つまたは複数の目的のタンパク質の機能を改善するために、1つまたは複数の目的のタンパク質を複合体化することを可能にする。
【0088】
足場タンパク質は、好ましくは、1つ以上の代謝経路タンパク質を足場タンパク質に複合体化することによって、目的の分子の合成を増強することを可能にする。目的のタンパク質が代謝経路タンパク質である場合の機能改善とは、代謝経路の最終産物または中間産物に相当する目的の分子の合成を増強することをいう。より具体的には、本発明による足場タンパク質の使用は、遊離酵素の存在下での生産と比較して、目的の分子の代謝生産レベルを少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40または50倍に増強することを可能にする。
【0089】
目的の分子としては、限定されるものではないが、カテキン、D-グルカル酸、H2、ヒドロキノン、レスベラトロール、酪酸塩、γ-アミノ酪酸、メバロン酸塩、(2S,5S)ヘキサンジオール、モノ(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(MHET)、テレフタル酸、エチレングリコールなどが挙げられる。
【0090】
目的のタンパク質が酵素である場合、機能の向上とは酵素の触媒活性を増強することをいう。したがって、足場タンパク質は酵素の濃度と安定性を高め、よって、触媒活性を高めることができる。
【0091】
特定の一実施形態において、目的のタンパク質は加水分解酵素であり、好ましくは高分子基質を有する加水分解酵素である。加水分解酵素は、好ましくは以下から選択される酵素である:PETヒドロラーゼ、MHETアーゼ、リゾチーム、アルコールデヒドロゲナーゼ、LPMOおよびエンドペプチダーゼ。
【0092】
以下の実施例を参照すると、本発明がよりよく理解されるであろうが、これらの実施例はいかなる制限も課すことを意図しておらず、単に本発明の特定の実施形態および特定の有利な特性を文書化するものである。
【実施例】
【0093】
1.共有結合グラフトの例
以下の例では、ヒトガレクチン-3のCRDSATドメインをS.セレビシエ(S. cerevisiae)由来のTSA1タンパク質の変異体C171Aに共有結合でグラフトさせた。このために、大腸菌によるタンパク質の過剰発現に適したプラスミドが合成された。CRDSATドメインのオリゴヌクレオチド配列(Kriznikら、2019、Biotechnol.J., doi:10.1002/biot.201800214)を、これらのプラスミド上で、TSA1-C171Aのオリゴヌクレオチド配列の上流(Nter位置)または下流(Cter位置)、あるいはその両側に配置した。Cter位置に配置されるとき、CRDSATの配列の前には、タンパク質配列GGGSGGGSGGGS(すなわち、(GGGS)3、配列番号31)の非天然リンカー領域がある。
【0094】
a.プロトコル
各プラスミドは、コンピテント大腸菌BL21(DE3)pRARE2 Ca2+株に42℃で60秒間のヒートショックにより導入した。形質転換クローンは、アンピシリン(A)とクロラムフェニコール(C)を添加した固形LB-寒天培地上で選択した。37℃で一晩おいた後、単離したコロニーを50mLのLB-AC培地中で撹拌しながら37℃で16時間培養する。この培養液10mLを500mLのLB-AC培地に導入し、37℃で撹拌しながら、波長600nmで測定した溶液の吸光度が0.6になるまで培養する。プラスミドがコードする組換えタンパク質の過剰発現が、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG、最終濃度0.25mM)の添加によって誘導される。この培養液を20℃で16時間撹拌した後、4000gで45分間遠心分離する。菌体ペレットを20mLのバッファー1(25mM HEPES、pH7.5、300mM NaCl、0.5mM TCEP)に取り込み、超音波処理で溶解する。超音波処理物を4℃、20,000gで30分間遠心分離した後、上清をあらかじめバッファー1で平衡化した50%ラクトース・セファロース樹脂1mLとともに4℃で30分間インキュベートする。樹脂をバッファー1で3回洗浄する。組換えタンパク質を、濃度200mMのD-ラクトースを含む1.5mLのバッファー1を3回加えて溶出する。各精製ステップ(溶解、固定、溶出)でサンプルを採取し、SDS-PAGEで分析する。必要に応じて、目的のタンパク質を含む画分を集め、体積が0.25mLになるまで濃縮する。この溶液を、あらかじめバッファー2(20mM HEPES、pH7.5、100mM NaCl)で平衡化したSuperose 6 Increase分析カラム(S6I、GE Healthcare)に注入する。タンパク質は、そのサイズに応じてバッファー2で溶出される。溶出液は280nmの吸光度を測定することによりモニターされる。0.5mLの画分をカラム出口で回収する。画分中の目的のタンパク質の存在は、SDS-PAGEでモニターする。
【0095】
b.結果
超音波処理上清中、ラクトース-セファロース樹脂上、およびラクトース-セファロース樹脂からの溶出画分中に、タンパク質CRD
SAT-TSA1、TSA1-CRD
SAT、CRD
SAT-TSA1-CRD
SATの存在が検出された(
図1A)。各溶出液の大部分のピークのSDS-PAGE分析から、これらのピークの画分には、CRD
SAT-TSA1、TSA1-CRD
SAT、またはCRD
SAT-TSA1-CRD
SATタンパク質が高純度で含まれていることが示された。S6Iカラムでの保持量とSDS-PAGE上でのタンパク質の移動プロファイルは、タンパク質CRD
SAT-TSA1、TSA1-CRD
SAT、またはCRD
SAT-TSA1-CRD
SATの分子量と一致している(
図1Bおよび1C)。目的のタンパク質を含むS6I画分の動的光散乱(DLS)分析は、NanoSizer装置(Malvern)を用いて20℃で行った。この分析は、目的の各タンパク質について、溶液中の大部分の種を非常によく特徴づける単分散ピークを示す。十量体野生型タンパク質TSA1で行った測定で示されるように、タンパク質CRD
SAT-TSA1、TSA1-CRD
SAT、CRD
SAT-TSA1-CRD
SATのサイズは、Nter、Cter、またはNter/CterがCRD
SATドメインによって装飾されたTSA1十量体に適合する(
図1D)。
【0096】
2.非共有結合グラフトの例
a.プロトコル
組換えタンパク質の生産のために、タンパク質TSA1-C171Aのオリゴヌクレオチド配列、その後ろにGGGSGGGSリンカー(配列番号30)またはGGGSGGGSGGGSリンカー(配列番号31)、その後続けてヒトタンパク質HSP90(HSP90pep)から得られたペプチド配列DASRMEEVD(配列番号32)をコードするpCARGHO2型プラスミドを設計した。pnEAベクターは、ヒトタンパク質SPAG1のTPR3ドメイン(タンパク質の622-742領域に対応、配列番号34)をコードすることができ、N末端位置に6-ヒスチジン(6xHIS)標識が融合されている。上記で詳述したように、LB培地中で組換えタンパク質CRDSAT-TSA1-(GGGS)2または3-HSP90pepおよび6xHIS-SPAG1-TPR3を過剰発現させた大腸菌BL21(DE3)pRARE2株の30mL培養物を生産する。
【0097】
発現した6xHIS-SPAG1-TPR3を含む30mLの細菌培養液をペレット化し、1.5mLのバッファー3(25mM HEPES、pH7.5、300mM NaCl、10mMイミダゾール、0.5mM TCEP)に取り込み、16,000gで20分間遠心分離する。500μLの上清を150μLのTALON樹脂懸濁液と4℃で20分間接触させる。樹脂を500μLのバッファー1で3回洗浄する。CRDSAT-TSA1-(GGGS)2または3-HSP90pepを含む細菌培養物30mLを1.5mLのバッファー1に取り込み、16,000gで20分間遠心分離する。500μLの上清を、6xHIS-SPAG1-TPR3を固定したTALONビーズと4℃で30分間接触させる。樹脂を500μLのバッファー3で3回洗浄する。ビーズに固定されたタンパク質を、300mMのイミダゾールを混合した150μLのバッファー3で溶出する。150μLのTALONビーズとCRDSAT-TSA1-(GGGS)2または3-HSP90pepを含む500μLの上清を直接接触させる対照(上記で使用した条件と厳密に同一の条件で処理)により、6xHIS標識のないタンパク質の樹脂に対する非特異的な固定の程度を評価することができる。
【0098】
b.結果
CRD
SAT-TSA1-(GGGS)2または3-HSP90pepと6xHIS-SPAG1-TPR3の複合体の再構成をSDS-PAGEでモニターした(
図2)。本発明者らは、目的のタンパク質が超音波処理上清中に存在し、6xHIS-SPAG1-TPR3のTALONビーズへの固定が特異的であることを観察した。対照実験との比較により、本発明者らは、タンパク質CRD
SAT-TSA1-(GGGS)2または3-HSP90pepが、むき出しのTALONビーズ上よりも、6xHIS-SPAG1-TPR3を固定したTALONビーズ上に保持されやすいことを示した。タンパク質CRD
SAT-TSA1-(GGGS)2または3-HSP90pepと6xHIS-SPAG1-TPR3は、高濃度のイミダゾールの添加により化学量論的に共溶出される。対照実験で溶出したタンパク質が少量であることは、CRD
SAT-TSA1-(GGGS)
2または3-HSP90pepと6xHIS-SPAG1-TPR3の特異的複合体が溶液中で形成されることを示唆する。
【0099】
大腸菌BL21(DE3)株でCRDSAT-TSA1-(GGGS)2または3-HSP90pepと6xHIS-SPAG1-TPR3を共発現させることにより、非共有結合複合体が再構成される。このため、タンパク質をコードするプラスミドが互換性のある複製起点を持つ必要がある。各プラスミドは、2つのプラスミドによって共形質転換された細菌を選択するように、抗生物質に対する単独の耐性を与える。非共有結合性複合体は、1つまたは他の標識によって、好ましくは上記の場合には6xHIS標識によって精製される。
【0100】
3.目的の酵素のグラフトの例
a.装置
組換えタンパク質の生産と精製
ペルオキシレドキシンタイプの足場およびグラフト化の目的の酵素は、誘導性発現プラスミドによって大腸菌BL21(DE3)pRARE2で異種的に生産される。タンパク質は、25mM HEPES(pH7.5),150mM NaClバッファー中で、細胞抽出物の可溶性画分から出発して、2つの連続したクロマトグラフィーを用いて精製される。最初の金属アフィニティークロマトグラフィー(GE Healthcare HiTrap Talon Crude 5mL)に続いて、サイズ排除クロマトグラフィー(Superose(商標)6 Increase 10/300 GL)を行う。
【0101】
酵素の足場の組み立て
選択された足場は、システイン残基がセリン残基に変異したパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来のPrx1(Pfu-Prx)に相当する(配列番号52)。選択された目的の酵素は、プロテアーゼPreScission 3Cおよび堆肥から得られたPETヒドロラーゼ(またはPETase)である(配列番号54および55)。足場上の酵素の組み立ては、遺伝子融合によって、または上記のタンパク質/アダプターペプチド対を用いることによって生産される。ポリグリシンタイプのリンカーが目的の酵素から足場を離している。
【0102】
b.結果
動的光散乱(DLS)によるタンパク質粒子径の分析
DLS実験は、Zetasizer Nano ZS装置(Malvern Panalytical)と小容量の石英セルを用いて、25mM HEPES(pH7.5)、150mM NaClバッファー中、20℃で行った。結果を
図3に示す。
【0103】
Pfu-Prxで14.2nmと測定された粒子の大きさは、このタンパク質が十量体環状構造であることを示している。それにより、3CプロテアーゼとPETアーゼをPfu-Prxにグラフトさせると、それぞれ27.8および20.3nmという、より大きなサイズの粒子が形成される。この分析は、十量体のPfu-Prx環上での目的の酵素の足場作りが正しく行われたことを示す。
【0104】
等温滴定マイクロカロリメトリー(isothermal titration microcalorimetry)(ITC)による解離のモニタリング
S.セレビシエ(S. cerevisiae)由来のペルオキシレドキシンTsa1とPfu-Prxを、100μMのVP-ITCストック溶液(Malvern)を用いて、マイクロカロリメーターのセルに注入した。実験は25mM HEPES(pH7.5)、150mM NaClバッファー中、25℃で行われた。結果を
図4に示す。
【0105】
熱放出の測定により、臨界転移濃度(またはCTC)を決定することができる。この濃度は溶液中の十量体の50%が解離する濃度に相当する。Tsa1(灰色)では2.8μMの値が決定された。対照的に、Pfu-Prx(黒)では値を決定できなかった。
【0106】
この結果から、Pfu-Prxは非常に低濃度(μモル閾値未満)でも、その十量体環状構造を保っていることが確認された。このパラメータは足場機能にとって有利である。したがって、Pfu-Prxは本発明に非常に適したツールである。
【0107】
示差走査マイクロカロリメトリー(differential scanning microcalorimetry)(DSC)による熱変性のモニタリング
Pfu-Prxを、濃度0.5mg/mlの原液を用い、圧力2atmで示差走査型マイクロカロリメーター(DSC)のセルに注入した。実験は25mM HEPES(pH7.5)、150mM NaClバッファー中で行った。結果を
図5に示す。
【0108】
記録されたサーモグラムは、2つの特異的な半変性温度(またはTm)を示し、これはi)十量体が二量体への解離を起こす温度(93.4℃)、および、ii)単量体が変性する温度(107.8℃)と解釈できる。これらの非常に高い温度は、Pfu-Prxの十量体構造の非常に高い安定性を示している。
【0109】
高温での安定性は工業的応用に有利である。さらに、この構造的安定性は、足場の長期的な完全性を示唆している。
【0110】
足場を備えた(scaffolded)PreScission 3Cプロテアーゼのタンパク質分解活性
Pfu-Prxを足場としたPreScission 3Cのタンパク質分解活性を、6His-SPAG1-TPR3基質を用いて評価した。後者は前記プロテアーゼの特異的切断部位を有する。濃度1mg/mLの基質と濃度2μMの足場プロテアーゼを、1mLの25mM HEPES(pH7.5),150mM NaClバッファー中で、10℃で60分間接触させる。分析は、変性ゲルでの電気泳動とクマシーブルーによる染色によって行われる。結果を
図6に示す。
【0111】
特異的な切断産物の時間経過に伴う出現の増加は、Pfu-Prx上を足場としたプロテアーゼがタンパク質分解活性を有することを示している。プロテアーゼ非存在下での6His-SPAG1-TPR3基質の自発的分解がないことを、10℃で60分後に確認する。
【0112】
足場を備えた(scaffolded)PETアーゼによるポリエチレンテレフタレート(PET)の分解試験
約0.5cm
2のPETフィルムクーポン(GoodFellow社製、厚さ0.25mm、透明、非晶質)を、30%エタノールで1時間、周囲温度で処理した後、外気中で乾燥させる。100mgのクーポンを、50℃で撹拌しながら、5mLの100mM NaPi(pH8.00)バッファーとPfu-Prxを足場とした1μMのPETアーゼを含む25mL三角フラスコに入れる。反応は8日間、反応媒体のpHを測定することでモニターされる。酵素を含まない対照実験を同じ条件下で行う。結果を
図7に示す。
【0113】
Pfu-Prxを足場とするPETアーゼを含む反応媒体内で観察されるpHの低下は、PETの分解から得られるテレフタル酸の放出によるものである。酵素がなければ、pHは安定したままである。これらの結果は、足場を備えた酵素がPETに対して加水分解活性を有することを示す。
【配列表】
【国際調査報告】