(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-26
(54)【発明の名称】免疫性脳疾患の治療へのクラドリビンの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7076 20060101AFI20231219BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231219BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231219BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
A61K31/7076
A61P25/00
A61P29/00
A61P37/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023559172
(86)(22)【出願日】2021-12-06
(85)【翻訳文提出日】2023-08-03
(86)【国際出願番号】 GB2021053182
(87)【国際公開番号】W WO2022123221
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523220673
【氏名又は名称】ショルト セラピューティクス ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】コンラッド レイダク
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA18
4C086MA01
4C086MA04
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4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZB08
4C086ZB11
(57)【要約】
2-クロロ-2’-デオキシアデノシン(以下、クラドリビンと称する)、又はその医薬的に許容される塩は、自己免疫性脳炎(以下、AEと称する)と診断された患者におけるAEの治療又は改善に使用することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己免疫性脳炎(以下、AEと称する)の治療又は改善に使用するための、2-クロロ-2’-デオキシアデノシン(以下、クラドリビンと称する)、又はその医薬的に許容される塩。
【請求項2】
前記薬剤が単位用量形で製造されル、請求項1に記載の使用のためのクラドリビン。
【請求項3】
前記薬剤が、錠剤、カプセル、又は液体製剤の形で製造される、請求項2に記載の使用のためのクラドリビン。
【請求項4】
前記薬剤が、単回投与として毎日投与される、請求項2に記載の使用のためのクラドリビン。
【請求項5】
前記薬剤が、単位用量当たり5~30mgを含む単位用量形で製造される、請求項2に記載の使用のためのクラドリビン。
【請求項6】
前記薬剤が、経口投与用である、請求項1に記載のクラドリビン。
【請求項7】
前記薬剤が、単位用量当たり20~26mgを含む単位用量形で製造される、請求項6に記載の使用のためのクラドリビン。
【請求項8】
前記薬剤が、非経口投与、例えば注射に適した液体製剤である、請求項1に記載の使用のためのクラドリビン。
【請求項9】
前記薬剤が、単位用量当たり8~12mgを含む単位用量形で製造される、請求項8に記載の使用のためのクラドリビン。
【請求項10】
前記AEが標準治療に対して抵抗性である、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のためのクラドリビン又はその医薬的に許容される塩。
【請求項11】
抗脳抗体を有することが知られている患者におけるAEの治療又は改善に使用するための、請求項1~5のいずれか1項に記載のクラドリビン又はその医薬的に許容される塩。
【請求項12】
NMDA受容体に対する抗体を有することが知られている患者におけるAEの治療または改善に使用するための、請求項11に記載のクラドリビン又はその医薬的に許容される塩。
【請求項13】
AEと診断された患者における自己免疫性脳炎の治療又は改善に使用するための、請求項1~10のいずれか1項に記載のクラドリビン、又はその医薬的に許容される塩。
【請求項14】
自己免疫性脳炎(AE)の治療又は改善に使用するための、2-クロロ-2’-デオキシアデノシン(クラドリビン)又はその医薬的に許容される塩と、1つ又は複数の医薬的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項15】
前記AEが標準的な治療に対して抵抗性である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
抗脳抗体を有することが知られている患者におけるAEの治療又は改善に使用するための、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
NMDA受容体に対する抗体を有することが知られている患者におけるAEの治療又は改善に使用するための、請求項14に記載の組成物。
【請求項18】
AEと診断された患者における自己免疫性脳炎の治療または改善に使用するための、請求項14~17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
単位用量当たり1mg~30mgのクラドリビン又はその塩、好ましくは単位用量当たり5mg~30mg、最も好ましくは単位用量当たり20mg~26mgのクラドリビン又はその塩を含む、請求項14~18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
単位用量当たり8mg~12mg、好ましくは単位用量当たり10mgを含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
錠剤、カプセル又は液体製剤の形である、請求項14~20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項22】
自己免疫性脳炎と診断された患者における自己免疫性脳炎を治療又は改善する方法であって、有効量の2-クロロ-2’-デオキシアデノシン(以下、クラドリビンと称する)又は医薬的に許容されるその塩を含む医薬組成物、又はクラドリビン又はその医薬的に許容される塩及び医薬的に許容される賦形剤を含む組成物を対象に投与することを含む方法。
【請求項23】
前記AEが標準治療に対して抵抗性である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記患者が抗脳抗体を有することが知られている、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記患者がNMDA受容体に対する抗体を有することが知られている、請求項22~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記患者が自己免疫性脳炎を患っていることが知られている、請求項22~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記組成物が単位用量形で提供される、請求項22~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記単位用量形が錠剤、カプセル又は液体製剤である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記有効量のクラドリビンが経口投与される、請求項22~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記組成物が単回用量として毎日投与される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
自己免疫性脳炎(以下、AEという)と診断された患者における自己免疫性脳炎の治療又は改善のための薬剤の製造のためへの、2-クロロ-2’デオキシアデノシン(以下、クラドリビンという)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己免疫性脳障害、特に自己免疫性脳炎(以下、AEと称する)を治療又は改善するための、2-クロロ-2'-デオキシアデノシン(以下、クラドリビンと称する)、又はその医薬的に許容される塩の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
自己免疫疾患は、感染症や悪性腫瘍を攻撃又は抑制することで病気から守る免疫系の要素の活動が、身体自身の正常なタンパク質やその他の構造の一部に対して異常に活性化される、大きな疾患群である。自己免疫性脳疾患では、患者の血液又は脳脊髄液中に存在する抗体が脳の細胞によって作られる標的タンパク質に結合し、中等度から重度の症状を引き起こす。 疾患の症状にばらつきがあるのは一般的であり、同じ疾患を持つ患者間で重症度が著しく異なる場合がある。
【0003】
脳炎は、多くの原因が考えられ、複雑な鑑別診断が必要な脳の重度の炎症性疾患である。
【0004】
自己免疫介在性脳炎は、体の免疫系が誤って健康な脳細胞を攻撃し、脳の炎症を引き起こすときに発生する、さまざまな症状のグループである。 それらは、細胞内又は細胞外のさまざまな神経抗原に対する自己抗体によって引き起こされる。AE は、あらゆる年齢層及び性別に影響を与える可能性がある。 それらは次の状況で発生する可能性がある:
- 根底にある腫瘍(腫瘍随伴性)、
- 感染後
- 特発性(原因不明)状態。それらは病態機構や病因が異なり、場合によっては強い遺伝的素因を持ち、治療に対する反応も優れたものから無視できるものまでさまざまである。
【0005】
患者は、アルツハイマー病やパーキンソン病などの進行性神経変性疾患で通常見られる症状よりも突然に発症する、さまざまな神経学的症状及び/又は認知症状及び精神症状を経験することがある。AE に一般的に関連する症状には、認知障害、記憶障害、発作、意識喪失、不随意運動、話す能力の低下又は喪失、及び行動の変化 (興奮や抑制の喪失など) が含まれる。 発症はどの年齢でも起こるが、青年期以前に発症することはほとんどない。
【0006】
「自己免疫性脳炎」という用語は、一般に、重複する臨床的特徴及び神経画像所見を共有するが、最終的には、異なるCNS構造に対する根底にある免疫介在性攻撃を引き起こす特定の抗体サブタイプによって区別される、密接に関連した疾患プロセスのファミリー又はグループを指す(Kelley et al. Autoimmune Encephalitis: Pathophysiology and Imaging Review of an Overlooked Diagnosis, American Journal of Neuroradiology, June 2017, 38 (6) 1070-1078)。米国における自己免疫性脳炎の有病率は、10万人当たり約14人と推定される(Dubey et al; Ann. Neurol.; 83(1); 166-177; (2018))。
【0007】
AEの 1つのグループでは、細胞外受容体やイオン チャネルなどの細胞外抗原に対する自己抗体が産生される。 これらの細胞外抗原への抗体の結合は病原性であると考えられている。このグループには、抗 NMDA (N-メチル-D-アスパラギン酸) 受容体脳炎や抗 LGI1 (ロイシンリッチグリオーマ不活化-1) 抗体脳炎など、多くのよく知られた AE 症候群が含まれる。
【0008】
AE の2 番目のグループでは、細胞内抗原に対する自己抗体が見つかり、この状態は多くの場合腫瘍随伴性であり、ある種の癌と強い関連がある。
【0009】
腫瘍随伴症候群:
CNSに影響を与える腫瘍随伴症候群は、一般的に、腫瘍細胞と天然の非腫瘍性神経細胞が共有する抗原が、以前は免疫特権を与えられていた神経構造に対する抗体媒介攻撃を引き起こす場合に、癌で発症すると考えられている。 当初は癌患者の1% に発生すると考えられていたが、より最近のデータでは、実際の発生率はさらに高い可能性が高いことが示唆されている。腫瘍随伴症候群は、小細胞肺癌で最もよく見られるが、神経芽腫、精巣の胚細胞腫瘍、乳癌、ホジキンリンパ腫、胸腺腫、未熟卵巣奇形腫など、他のさまざまな癌でも見られることがある。 病因や抗体プロファイルに関係なく、自己免疫性脳炎では、脳の大脳辺縁系内の抗原に結合する抗体の存在が明らかに好まれる。多くの場合、腫瘍随伴症候群は検出可能な癌の増殖に先行する可能性があるため、又は腫瘍形成が証明されていない唯一の症状と推定されるため、基礎となる腫瘍は見つからない。
【0010】
細胞内抗原及び細胞表面抗原:
「腫瘍随伴性対非腫瘍随伴性」の分類に加えて、抗体媒介性脳炎症状は、神経抗原の位置に応じて、以下の検出可能な抗体の種類によって特徴付けることができる:
(a) 細胞内抗原を標的とする抗体、及び
(b) 病原性活性を有する、又は有さない細胞表面上の抗原を標的とする抗体。この区別は、治療反応、基礎となる悪性腫瘍との関連性、及び全体的な長期予後に影響を与えるため、臨床的に重要である。
【0011】
細胞内抗原による自己免疫性脳炎(AE-IA):
AE-IA グループの抗体は、細胞内ニューロン抗原を標的とし、根底にある悪性腫瘍とより密接に関連しており、癌に対する免疫応答の一部として細胞内ニューロン抗原及び腫瘍ニューロン抗原を標的とする場合には、同じ細胞傷害性 T 細胞機構を使用する。AE-IA グループの抗体は、免疫調節療法に対する反応の低下や不可逆的な神経損傷の有病率の増加を特徴とする不良な臨床転帰とも関連しており、多くの場合、潜在的な悪性腫瘍のさらなる負担を抱えている。
【0012】
AE-IA グループ抗体は、自己免疫性脳炎の疾患の臨床マーカーとしてはあまり特異的ではないが、また腫瘍随伴症候群のない癌患者にも見られることがある。
【0013】
細胞表面抗原による自己免疫性脳炎 (AE-EA):
細胞表面神経抗原を標的とする AE-EA グループの抗体は、根底にある悪性腫瘍と関連する可能性が低く、より「限定された」神経毒性の体液性免疫機構を使用する。 AE-EA グループの抗体は、抗体媒介性脳炎の疾患のより特異的な臨床マーカーでもあり、治療後の血清抗体力価の低下は神経学的転帰の改善に直接関連している。AE-EA グループの抗体はシナプスタンパク質を標的とすることが多く、受容体のダウンレギュレーションを引き起こし、癲癇様の活動に関連するシナプス伝達の変化を引き起こす可能性がある。 AE-EA グループ抗体に関連する非腫瘍性自己免疫性脳炎の患者は、基礎となる全身性自己免疫疾患を抱えているか、ウイルス感染やワクチン接種後に症状を発症する可能性があるが、多くの場合、明確な病因は特定されていない。
【0014】
診断及び治療:
AE の診断は、行動障害を引き起こす他のより一般的な神経精神医学的症候群と区別するのが難しいさまざまな神経学的及び精神医学的症状を呈する可能性があるため、非常に困難な場合がある。
【0015】
標準的な初期治療は、通常、高用量の静脈内ステロイドレジメン、通常はメチルプレドニゾロン 1mg/kg で始まり、その後、血漿交換又は静脈内免疫グロブリン (IVIg) 投与が続く、又はそれと同時に行われる。 このようなステロイドレジメンは、3~5日間の範囲から、臨床的安定が達成されるまで慢性的に漸減するまでの範囲に及ぶ。 血漿交換及び IVIg レジメンは通常、およそ 5 ~ 7 日間行われる。リツキシマブの静脈内投与も可能である。 アザチオプリンなどの長期ステロイド節約型免疫抑制剤は、継続投与が必要な維持療法に使用される場合がある。
【0016】
AE からの回復には時間がかかることがよくある。 難治性の症例や治療開始が遅れた症例では、患者が生産的な生活を再開できるようになるまでに数か月、場合によっては数年かかることがある。
【0017】
クラドリビン又は 2-クロロ-2‘-デオキシアデノシンは、リンパ球に影響を与える腫瘍学の分野で使用されている。 多発性硬化症(MS)の治療にも使用されており(米国特許第 5,506,214 号を参照のこと)、そして現在その症状の治療に使用されている。 しかし、MSに対するクラドリビンの治療効果は、治療後3か月後にのみ明らかになる。クラドリビンは、自己免疫性神経筋疾患である重症筋無力症の治療法の可能性として試験されている(国際公開第2019/016505号を参照のこと)。クラドリビンは、視神経脊髄炎と診断された患者の治療を目的として使用されたことも報告されている(欧州特許第3 099 307号 を参照のこと)。クラドリビンは、一部の白血病や多発性硬化症を含む他の疾患の治療に使用されており、投与計画も記載されているが(欧州特許第2263678号を参照のこと)、クラドリビンが自己免疫性脳炎の治療に有効であるとは予想できなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明者は、予期せぬことに、クラドリビンが自己免疫性脳障害、特に自己免疫性脳炎の治療又は改善に有益である可能性があることを発見した。 他の標準治療では効果がなかった自己免疫性脳炎の症状を示した患者に特に有益であった。さらに本発明者は、免疫系に対するクラドリビンの効果を総合すると、頻繁な再治療を必要とせずに、比較的短期間の治療で10か月から2年以上の長期にわたって疾患に有益な効果をもたらすことができることを予想外に発見した。さらに、本発明者は、予期せぬことに、多発性硬化症に対するクラドリビンの治療効果が通常治療後3ヶ月で明らかになるのと比較して、クラドリビンが難治性自己免疫性脳炎に罹患している患者の重篤な症状に対して迅速な効果をもたらしたことを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の1つの側面によれば、自己免疫性脳炎(以下、AEと称する)と診断された患者におけるAEの治療又は改善に使用するための、クラドリビンとして知られる2-クロロ-2'-デオキシアデノシン、又はその薬学的に許容される塩が提供される。
【0020】
クラドリビンは、AE に対する通常の標準治療に抵抗性のある AE の使用に有益である可能性がある。
【0021】
クラドリビンは、抗脳抗体、例えばNMDA受容体に対する抗体を有することが知られている患者の治療に使用することができる。
【0022】
また、自己免疫性脳炎を示す臨床像を示し、別の神経タンパク質に対する抗体が証明されている患者、または特定の神経抗体が検出されない患者の治療に使用することもできる。
【0023】
本発明の第2の側面によれば、自己免疫性脳炎の治療又は改善に使用するための、クラドリビンとして知られる2-クロロ-2’-デオキシアデノシンを含む医薬組成物が提供される。 組成物は、好ましくは、1つ以上の医薬的に許容される賦形剤を含む。
【0024】
組成物は、経口摂取する場合には単位用量当たり1ミリグラム(mg)~30mg、好ましくは単位用量当たり5mg~30mg、最も好ましくは単位用量当たり20mg~26mg、又は注射によって投与する場合には8mg~12mgのクラドリビンを含んでもよい。
【0025】
好ましくは、組成物は経口投与されるべきである。 経口投与の場合、組成物は錠剤、カプセル又は液体製剤として提供され得る。 また、注射に適した液体製剤で提供されてもよい。
【0026】
好ましくは、組成物はクラドリビン又はそのイヤク的に許容される塩からなる。
【0027】
本発明の別の側面によれば、自己免疫性脳炎の治療又は改善のための薬剤の調製に、2-クロロ-2’-デオキシアデノシン(クラドリビン)又はその医薬的に許容される塩の使用が提供される。
【0028】
好ましくは、薬剤は経口投与され、そして錠剤、カプセル又は液体製剤の形態で提供される。
【0029】
薬剤中の有効累積用量又は量は、患者の体重1kg当たり1~8.75mg(mg/kg)のクラドリビンであり、通常は経口的に摂取することができる。 好ましくは、有効累積量は、1.5mg/kg~3.5mg/kgのクラドリビンを含む。
【0030】
本発明のさらに別の側面によれば、有効量の2-クロロ-2’-デオキシアデノシン(クラドリビン)又は医薬的に許容されるその塩を含む医薬組成物を、対象又は患者に投与することを含む、自己免疫性脳炎を患う対象における自己免疫性脳炎を治療又は改善する方法が提供される。
【0031】
組成物は、経口投与用の錠剤、カプセル又は液体製剤などの単位用量形態で提供され得る。
【0032】
医薬組成物は、単回用量として毎日投与され得る。
【発明を実施するための形態】
【0033】
定義
疾患の「改善」とは、治療を受けている患者をより良くする、又は患者が患っている疾患の症状を改善する、又は疾患をより忍容性にする、医薬組成物又は治療の能力を指す。
【0034】
本明細書で使用される場合、「治療する」又は「治療」は、治療を受けていない個体の症状と比較して、クラドリビンが投与された個体の症状を軽減する、発症を妨げる、制御する、軽減する、及び/又は逆転させることを意味する。
【0035】
組成物の「有効量」とは、治療期間にわたって治療用量を提供するのに十分な量でクラドリビンを含む組成物を指す。
【0036】
「単位用量」という用語は、患者に投与するための単位用量として適した物理的に別個の単位を指し、そのような各単位は、医薬的に許容される成分と関連して所望の治療効果を生み出すように計算された所定量のクラドリビンを含む。
【0037】
「有効累積量」及び「有効累積用量」という用語は、経時的に患者に与えられるクラドリビンの総量、すなわち一連の治療で与えられるクラドリビンの総用量を指す。
【0038】
クラドリビン及び/又はその医薬的に許容される塩は、本発明の実施において使用され得る。 適切な医薬的に許容される塩は、一般的に化合物を適切な有機酸又は無機酸と反応させることによって調製される非毒性の酸付加塩を指す。 適切な塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩及びマレイン酸塩が挙げられる。
【0039】
クラドリビンは、欧州特許第173,059号、米国特許第5,208,327号及びRobins et al., J. Am. Chem.Soc., 106; 6379; (1984)に記載されているような当技術分野で周知のプロセスによって調製され得る。
【0040】
クラドリビンは静脈内又は皮下に投与できるが、いくつかの理由から経口送達が好まれるが、その中で最も重要なのは患者のコンプライアンスである。 また、診療所、病院、又はその他の専門施設で医師又は看護師が投与を行う必要があるため、非経口投与の費用ははるかに高くなるため、一般的に費用面での利点もある。
【0041】
クラドリビンの経口投与は、カプセル、錠剤、経口懸濁液又はシロップの形であってもよいが、カプセル又は錠剤が好ましい。 クラドリビンの経口製剤は、国際公開第2004/087100号に記載されている。
【0042】
本発明で使用するためのクラドリビンの医薬組成物は、ミョウバン、安定剤、抗菌剤、緩衝剤、着色剤、着香剤、着香剤、アジュバントなどの1つ以上の医薬的に許容される賦形剤をさらに含んでもよい。 組成物が経口投与用の錠剤又はカプセルの形である場合、結合剤、充填剤、滑沢剤、流動促進剤、崩壊剤及び湿潤剤などの従来の賦形剤が含まれてもよい。
【0043】
結合剤には、シロップ、アカシア、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、デンプンの粘液及びポリビニルピロリドンが含まれるが、それらに限定されない。 充填剤には、乳糖、砂糖、微結晶セルロース、トウモロコシデンプン、リン酸カルシウム、及びソルビトールが含まれるが、それらに限定されない。 滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、タルク、ポリエチレングリコール、シリカなどが挙げられるが、それらに限定されない。 崩壊剤には、ジャガイモデンプン及びデンプングリコール酸ナトリウムが含まれるが、それらに限定されない。 湿潤剤としては、ラウリル硫酸ナトリウムが挙げられるが、それに限定されない。 流動促進剤としては、二酸化ケイ素が挙げられるが、それに限定されない。
【0044】
錠剤又は丸薬には、胃内での崩壊に抵抗し、有効成分がそのまま十二指腸に通過するか又は放出が遅れることを可能にするエンベロープの形の腸溶性層が提供されてもよい。 腸溶性層又はコーティングには、ポリマー酸、又はそのような酸とセラック、セラック及びセチルアルコール、酢酸フタル酸セルロースなどの材料との混合物を含む、様々な材料を使用することができる。
【0045】
本発明の組成物は、水性又は油性の懸濁液、溶液、乳濁液、シロップ、及びエリキシルを含むが、それらに限定されない液体製剤であってもよい。 組成物は、使用前に水又は他の適切なビヒクルで構成するための乾燥製品として配合することもできる。 このような液体製剤は、限定するものではないが、懸濁剤、乳化剤、非水性ビヒクル及び保存剤を含む添加剤を含んでもよい。懸濁剤としては、ソルビトールシロップ、メチルセルロース、グルコース/シュガーシロップ、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムゲル、及び水素添加食用脂肪が挙げられるが、それらに限定されない。 乳化剤には、レシチン、モノオレイン酸ソルビタン、及びアカシアが含まれるが、それらに限定されない。 非水性ビヒクルには、食用油、アーモンド油、分別ココナッツ油、油性エステル、プロピレングリコール、及びエチルアルコールが含まれるが、それらに限定されない。 防腐剤には、p-ヒドロキシ安息香酸メチル又はプロピル、及びソルビン酸が含まれるが、それらに限定されない。
【0046】
治療は、多数のコースとして与えられ得、各コースは、例えば、10mgのクラドリビンを含有する1つ又は2つの錠剤もしくはカプセルの連続5日間の投与、又は5日間のそれぞれに液体製剤中の同量のクラドリビンを飲むかもしくは注入することを含む。 AEに罹患している患者は、例えば、治療の開始時に数日、例えば21日から30日の間隔をあけて、そのような治療コースを2回受けることができる。この後に、治療 2 年目の開始時に 21 日から 30 日の間隔をあけて追加の2コースを続けることも、最初の 2コースのみを患者の治療に使用することもできる。 あるいは、より低い用量を使用し、連続5~10日間投与してもよい。
【0047】
ステロイドや血漿交換などの標準治療よりもクラドリビンを使用する利点は、クラドリビンによる治療が完了すると再発のリスクがほとんど又はまったくないことである。
【0048】
本発明は、以下の実施例を参照してさらに説明される。
【実施例】
【0049】
実施例1
パウダーインカプセル製剤
クラドリビン 10mg
微結晶セルロース 100mg
乳糖 77.8mg
クロスカルメロースナトリウム 10mg
二酸化ケイ素 0.2mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
硬質ゼラチン サイズ1 カプセルシェル
【0050】
実施例2
自己免疫介在性辺縁系脳炎に罹患している人の治療
38 歳の女性は、急性の混乱、興奮、行動の変化を訴えていた。 彼女の過去の病歴は重要ではなく、以前の精神医学的又は心理的問題は報告されていなかった。 病気の発症の12か月前に、彼女は健康な子供を出産した。 入院時、動揺と落ち着きのなさが観察され、続いて進行性の緘黙と傾眠が観察され、それらが 5 日以内にこの病気の主な症状であった。 患者は精神病棟に入院している間ずっと、ハロペリドール、オランザピンを含む標準的な抗精神病薬治療を受けたが、精神状態は改善されなかった。5日目、患者の神経状態は著しく悪化し; 意識レベルの低下と筋緊張の低下が観察された。 間代発作だけでなく、上肢、顎、目の不随意運動も認められ、ジアゼパムの静脈内投与で治療された。 最初の診断は感染性脳炎で、患者は州立病院の神経病棟に搬送され、脳脊髄液(CSF)と血液サンプルが採取され、脳の画像検査と脳波検査が行われた。
【0051】
CSF分析の結果、リンパ球性多細胞症(白血球60個/μl)、正常なタンパク質レベル(28.3mg/dl、正常値範囲:15~45mg/dl)、及び正常なグルコースレベル(81mg/dl)が明らかになった。 EEG記録により、リズミカルなベータ周波数活動が重畳された全身性のリズミカルなデルタ活動(「極端なデルタブラシ」)が明らかになった。 頭部のコンピューター断層撮影(CT)では、病理学的変化は明らかにならなかった。 神経病棟への入院時に行われた磁気共鳴画像法 (MRI) では、T2/FLAIR の前頭葉の皮質下白質に高信号病変が 2つだけ明らかになった。さらに、初期の局所発作は、クロナゼパム、バルプロ酸ナトリウム、フェニトイン、カルバマゼピンなどのさまざまな抗痙攣薬に反応しない全身性の強直間代反復発作に発展した。 その後、推定ウイルス性脳炎に対してアシクロビルによる治療が開始された。 免疫療法も実施され、患者は毎日20gの IVIg を 5 日間連続投与された。 患者の状態はさらに悪化し; 彼女は呼吸不全と自律神経不安定症を伴う難治性癲癇重積状態を発症し、神経学的ITUに紹介された。彼女は再び腰椎穿刺を受け、神経表面抗体を探すために血液及びCSFサンプルが収集されたところ、抗NMDAR抗体がCSF中で同定された(力価、1:3.2)が、血漿中では同定されなかった。 以上の結果から抗NMDAR脳炎と診断された。
【0052】
さらに IVIg 治療を行った後、彼女の状態は安定し、次の3週間で改善が始まった。 患者は意識を取り戻し、補助なしで呼吸を始めた。 彼女は混乱したままでしたが、短期記憶障害を抱えていた。 突然、彼女の状態は再び悪化し、発作と呼吸不全が現れ、換気が必要になった。 彼女はステロイドの投与を受けたが、改善はなかった。
【0053】
彼女にクラドリビンの治療試験を行う決定が下され、初回用量はクラドリビン20 mgで、連続2日間、四肢のそれぞれに2.5mgのクラドリビン2.5 ml(合計10 mg)を皮下注射することによって投与された。
【0054】
3 週間連続で患者の状態は徐々に改善し、その後 4 週間で正常な神経学的状態に戻った。 彼女は重大な障害はなく、通常の活動は全て行うことができたと報告した。 唯一の神経学的後遺症は、入院期間全体にわたる睡眠時随伴症と完全な記憶喪失でした。 広範な評価の結果、明らかな兆候や検査結果は腫瘍性疾患の証拠を示さず、腫瘍のマーカーも見つからなかった。 患者は、2か月間隔でさらに5回のクラドリビン維持コース(連続2日間で20mg)を受けた。 2年間の追跡調査では病気の再発は見られなかった。
【国際調査報告】