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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-26
(54)【発明の名称】発現ベクター組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20231219BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20231219BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20231219BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20231219BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231219BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20231219BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20231219BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/53 ZNA
C12M1/00 A
A61P25/16
A61P25/00
A61P25/14
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023559173
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(85)【翻訳文提出日】2023-07-21
(86)【国際出願番号】 GB2021053191
(87)【国際公開番号】W WO2022123226
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】2019286.0
(32)【優先日】2020-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】523218810
【氏名又は名称】マーヴルクス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・マクドナルド
【テーマコード(参考)】
4B029
4C087
【Fターム(参考)】
4B029AA23
4B029BB11
4B029CC01
4B029GA03
4B029GB10
4C087AA01
4C087AA02
4C087CA12
4C087MA16
4C087MA17
4C087MA23
4C087MA43
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA02
(57)【要約】
本発明は、発現ベクター、及び医薬組成物、及びそのベクターを含むキット、並びに特には、パーキンソン病(PD)、DOPA反応性ジストニア、血管性パーキンソン症、パーキンソン病のためのL-DOPA治療と関連する副作用、L-DOPA誘発性ジスキネジア、瀬川症候群、又はドーパミン受容体遺伝子異常を治療するための方法におけるこれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の発現ベクターが、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)をコードする自己相補性コード配列に動作可能に結合するプロモーターを含み、第2の発現ベクターが、GTPシクロヒドロラーゼ1(GCH1)をコードするコード配列に動作可能に結合するプロモーターを含む、第1及び第2の発現ベクターを含む組成物。
【請求項2】
第1の発現ベクター及び/又は第2の発現ベクターが、ネイキッドDNAベクターである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
第1の発現ベクター及び/又は第2の発現ベクターが、AAVベクターである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
第2の発現ベクターが、1本鎖AAV(ssAAV)ベクターである、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
第2の発現ベクターが、自己相補性AAVベクターである、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
第1の発現ベクターが、自己相補性AAVベクターであり、第2の発現ベクターが、ssAAV又はネイキッドDNAベクターである、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
第1及び/又は第2の発現ベクターが、AAV-1、AAV-2、AAV-3A、AAV-3B、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10及び/又はAAV-11に由来する、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
第1及び/又は第2の発現ベクターが、AAV1、AAV5又はAAV9、より好ましくは、AAV5に由来する、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
芳香族アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)をコードするベクターを含まない、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
THをコードするコード配列が、配列番号1若しくは21に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含むか、或いはTHをコードするコード配列が、配列番号2若しくは22に示されるアミノ酸配列又はその断片若しくはバリアントをコードするヌクレオチド配列を実質的に含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
THをコードするコード配列が、THの制御ドメインが欠失した切断THをコードするヌクレオチド配列を含み、任意選択で、THをコードするコード配列が、配列番号3若しくは23に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含むか、或いはTHをコードするコード配列が、配列番号4若しくは24に示されるアミノ酸配列又はその断片若しくはバリアントをコードするヌクレオチド配列を実質的に含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
GCH1をコードするコード配列が、配列番号6に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含むか、或いはGCH1をコードするコード配列が、配列番号7に示されるアミノ酸配列又はその断片若しくはバリアントをコードするヌクレオチド配列を実質的に含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
第1及び/又は第2の発現ベクターにおけるプロモーターが、対象のニューロン、又は対象のグリア細胞、又は対象のニューロン及びグリア細胞、又は対象のニューロン及び脳室を覆う上衣細胞、又は対象のニューロン及びグリア細胞及び上衣細胞における高発現が可能となるプロモーターである、請求項1から12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
第1及び/又は第2の発現ベクターにおけるプロモーターが、CBhプロモーター又はその断片若しくはバリアントであり、任意選択で、第1及び第2のベクターにおけるプロモーターが、CBhプロモーターを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
第1及び/又は第2の発現ベクターにおけるプロモーター配列が、配列番号8に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
第1及び/又は第2の発現ベクターにおけるプロモーターが、ヒトシナプシンプロモーター、又はサイトメガロウイルスエンハンサー(CB7)を有するニワトリベータアクチンプロモーター、又はテトラサイクリン応答性エレメント(TRE)プロモーターであり、任意選択で、CMVプロモーター、又はCMVエンハンサー/プロモーターではない、請求項1から15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
プロモーターが、配列番号9、10、11若しくは25に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
第1の発現ベクター及び/又は第2の発現ベクターが、このプロモーターと、TH1又はGCH1をコードするヌクレオチドとの間に位置するイントロンをそれぞれ含み、任意選択で、
(i)前記イントロンが、少なくとも25、50、75若しくは100ヌクレオチドの長さであるか、
(ii)前記イントロンが、少なくとも125、150、175若しくは200ヌクレオチドの長さであるか、又は
(iii)前記イントロンが、少なくとも225、250、275若しくは300ヌクレオチドの長さである、
請求項1から17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
イントロンが、ヒト成長ホルモン(hGH)イントロン、ベータ-アクチンイントロン、マウス微小ウイルス(MVM)イントロン、SV40イントロン、及びEF-1アルファイントロンからなるイントロンの群から選択される、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
イントロンが、MVMイントロンであり、好ましくは、イントロンが、配列番号27に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
(i)第1及び/若しくは第2の発現ベクターが、SYN1プロモーターの後に、MVMイントロン(配列番号27)若しくはヒト成長ホルモン(hGH)イントロン(配列番号26)のいずれかであるイントロンを含むか、
(ii)第1及び/若しくは第2の発現ベクターが、サイトメガロウイルスエンハンサー(CB7)を有するニワトリベータアクチンプロモーターの後に、MVMイントロン若しくはヒト成長ホルモン(hGH)イントロンのいずれかであるイントロンを含むか、
(iii)第1及び/若しくは第2の発現ベクターが、テトラサイクリン応答性エレメント(TRE)プロモーターの後に、MVMイントロン若しくはヒト成長ホルモン(hGH)イントロンのいずれかであるイントロンを含むか、又は
(iv)第1及び/若しくは第2の発現ベクターが、CMVプロモーターの後に、MVMイントロン若しくはヒト成長ホルモン(hGH)イントロンのいずれかであるイントロンを含む、
請求項18から20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
第2の発現ベクターが、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後制御エレメント(WPRE)をコードするヌクレオチド配列を更に含み、任意選択で、前記WPREコード配列が、GCH1コード配列の3'に位置し、及び/或いは前記WPREが、配列番号12若しくは13に示される核酸配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
第1及び/又は第2の発現ベクターが、ポリAテールをコードするヌクレオチド配列を含み、
(i)前記ポリAテールが、サルウイルスSV40ポリAテールを含み、任意選択で、配列番号14に示される核酸配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含み、及び/或いは
(ii)前記ポリAテールが、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリAテールを含み、任意選択で、配列番号15に示される核酸配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む、
請求項1から22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
第1の発現ベクター及び/又は第2の発現ベクターが、3'非翻訳領域(3'UTR)をコードするヌクレオチド配列を含み、任意選択で、第1の前記発現ベクターが、配列番号28に示される核酸配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む3'UTRコード配列を含む、請求項1から23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
第1及び/又は第2の発現ベクターが、左及び/又は右逆位末端反復(ITR)配列を含み、任意選択で、第1及び/又は第2の前記発現ベクターが、逆位末端反復(ITR)配列1つ、及び末端分離部位を欠失させた修飾ITR配列1つを含み、任意選択で、配列番号16に示される核酸配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含むITRを含む、請求項1から24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
第1の発現ベクターが、配列番号17に示される核酸配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む、請求項1から25のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
第2の発現ベクターが、配列番号18に示される核酸配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む、請求項1から26のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項28】
(i)チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、任意選択で、制御ドメインが欠失した切断THをコードするコード配列に動作可能に結合するプロモーターを含む、第1の自己相補性アデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクター、及び
(ii)GTPシクロヒドロラーゼ1(GCH1)をコードするコード配列に動作可能に結合するプロモーターを含む、第2の自己相補性アデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクター
を含む、請求項1から27のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項29】
請求項1から28のいずれか一項に記載の組成物、及び薬学的に許容される溶媒を含む、医薬組成物。
【請求項30】
医薬としての、又は療法における使用のための、請求項1から28のいずれか一項に記載の組成物、又は請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項31】
パーキンソン病、DOPA反応性ジストニア、血管性パーキンソン症、パーキンソン病のためのL-DOPA治療と関連する副作用、L-DOPA誘発性ジスキネジア、瀬川症候群、又はドーパミン受容体遺伝子異常の治療、予防、又は回復における使用のための、請求項1から28のいずれか一項に記載の組成物、又は請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項32】
血流、脳脊髄液、神経、又は脳への投与のための、請求項31に規定の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項33】
線条体、被殻、又は尾状核、黒質緻密部のドーパミン作動性ニューロンへの投与のための、請求項31に規定の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項34】
送達する組成物の用量が、300μl~20,000μl、300μl~10,000μl、300μl~5,000μl、300μl~4500μl、400μl~4000μl、500μl~3500μl、600μl~3000μl、700μl~2500μl、750μl~2000μl、800μl~1500μl、850μl~1000μl又はおよそ900μlである、請求項31から33のいずれか一項に規定の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項35】
AAVベクターの混合物として投与する場合、各AAVの力価が、1mlあたり1E8~5E14、1E9~1E14、1E10~5E13、1E11~1E13、1E12~8E12、4E12~6E12又はおよそ5E12ゲノムコピー(GC/ml)である、請求項31から34のいずれか一項に規定の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項36】
ネイキッドDNAプラスミドベクターの混合物として投与する場合、各DNAプラスミドベクターの用量が、脳半球あたり50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1250、1500、1750又は2000マイクログラム(μg)である、請求項30から34のいずれか一項に規定の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項37】
療法における使用のため、任意選択で、パーキンソン病、DOPA反応性ジストニア、血管性パーキンソン症、パーキンソン病のためのL-DOPA治療と関連する副作用、L-DOPA誘発性ジスキネジア、瀬川症候群、又はドーパミン受容体遺伝子異常の治療、予防、又は回復における使用のための、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)をコードする自己相補性コード配列に動作可能に結合するプロモーターを含む第1の発現ベクター、及びGTPシクロヒドロラーゼ1(GCH1)をコードするコード配列に動作可能に結合するプロモーターを含む第2の発現ベクター。
【請求項38】
第1及び第2の発現ベクターが、請求項1から28のいずれか一項に規定のものである、請求項37に規定の使用のための第1の発現及び第2の発現ベクター。
【請求項39】
請求項1から28のいずれか一項に規定の第1及び第2の発現ベクター、及び任意選択で、使用説明書を含む、部分のキット。
【請求項40】
第1の発現ベクターを含む第1の容器、及び第2の発現ベクターを含む第2の容器を含み、任意選択で、第1及び/又は第2の前記容器が、バイアル、シリンジ、エッペンドルフ等である、請求項39に記載の部分のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発現ベクター、及び医薬組成物、及びそのベクターを含むキット、並びに特には、パーキンソン病(PD)、DOPA反応性ジストニア、血管性パーキンソン症、パーキンソン病のためのL-DOPA治療と関連する副作用、L-DOPA誘発性ジスキネジア、瀬川症候群、又はドーパミン受容体遺伝子異常を治療するための方法におけるこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病は、線条体におけるドーパミン産生細胞の減少と関連する神経変性疾患である。脳細胞によるドーパミンの産生には3つの酵素:チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、GTPシクロヒドロラーゼ1(GCH1)及び芳香族アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)が必要である。TH及びGCH1は、チロシンからのL-DOPA(ドーパミンの前駆体)の産生を制御し、AADCは、L-DOPAをドーパミンに変換する。パーキンソン病のための現在の治療選択肢は、ドーパミンとは対照的に血液脳関門を越えて吸収されるL-DOPAの経口投与を含む。AADCが、パーキンソン病を有する患者の脳に尚存在するため、この治療は効果的である。
【0003】
しかし、経口L-DOPA療法に関する問題は、これにより副作用、例えば、異常運動が引き起こされ得ることである。このような副作用は、L-DOPAの半減期が短く、能動輸送のために他のアミノ酸との競合から腸粘膜及び血液脳関門を越える吸収が可変であることに起因する、血液及び脳におけるL-DOPAレベルの変動のためであると考えられている(Lees、April 2008、The Importance of Steady-State plasma DOPA levels in reducing motor fluctuations in Parkinson's disease、Expert Roundtable Supplement、CNS Spectr 13:4 (Suppl 7) 4~7頁)。
【0004】
安定な血液及び脳レベルのL-DOPAを送達する持続放出経口製剤にL-DOPAを製剤化するための多くの試みがなされている。これらは成功していない。現在、安定な血漿L-DOPAレベルの送達に最も有効な方法では、患者の腹壁を通したチューブを介して患者の空腸に直接L-DOPAのゲル製剤を一定に緩徐に注入することを必要とする。更に安定な血漿レベルのL-DOPAにより、症候調節が著しく向上し、ジスキネジアが減少する(OlanowらContinuous intrajejunal infusion of levodopa-carbidopa intestinal gel for patients with advanced Parkinson's disease: a randomised, controlled, double-blind, double-dummy study. The Lancet Neurology Vol 13 February 2014)。しかし、大型ポンプを携行し、毎日ゲルを再供給する経腹壁チューブ(移動、ねじれ、封鎖及び感染症を含む有害事象を有する)の生涯要件によって、この療法の使用が制限され、特には、PDを有する高齢患者にとって、最適以下のものとなっている。
【0005】
従って、最も侵された脳領域、即ち線条体内を直接、遺伝子療法の標的とすることにより、パーキンソン病患者におけるドーパミンレベルを回復させる多くの試みが複数の著者によってなされている。前臨床及び臨床試験では、種々の構築物による一部の作用を示しているが、商業的に実現可能な原価で製造され、医薬としての使用のためにいかなる国においても認可されるのに十分な有効性、安全性、又は能力が、いずれの構築物によっても未だ実証されていない。
【0006】
TH、GCH又はAADCのいずれかをコードする3つのモノシストロン性1本鎖AAVベクターの混合製剤の有効性により、1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン(MPTP)により障害したPDマカクモデルにおける有効性が実証された。AADCをコードするAAVベクターの寄与は、製剤の成功にとって不可欠であると考えられた。この製剤は、臨床評価に進んだことはなかった(Muramatsu 10 February、2002、Behavioural Recovery in a Primate Model of Parkinson's disease by Triple Transduction of Striatal Cells with Adeno-Associated Viral (AAV) Vectors Expressing dopamine-Synthesizing Enzymes、Human Gene Therapy、12: 345~354頁)。3つの異なるAAVベクターを生成して混合する必要性と生じる製品原価とが、この製剤の更なる開発の決定を留まらせる因子となっていた。
【0007】
3つ全ての遺伝子をコードする単一のトリシストロン性Lenteベクターにより、PDのMPTPマカクモデルにおける有効性が実証された(Azzouz M、Martin-Rendon E、Barber RDらMulticistronic Lentiviral Vector-Mediated Striatal Gene Transfer of Aromatic l-Amino Acid Decarboxylase, Tyrosine Hydroxylase, and GTP Cyclohydrolase I Induces Sustained Transgene Expression, Dopamine Production, and Functional Improvement in a Rat Model of Parkinson's Disease. J Neurosci. 2002;22(23):10302~10312頁)。これは臨床試験に進んだが、報告された有効性は、中程度であった。およそ3分の1の治療患者では、経口L-DOPAと等しい一日量のL-DOPA及びドーパミンアゴニストにおける低下はなかったことが報告された。残りの患者は、経口L-DOPA又はドーパミンアゴニストの必要性において中程度の低下のみを経験した。残存する最も一般的に報告された有害事象は、ジスキネジア及びオン/オフの変動であった(Palfi S、Gurru J、Le HらLong-term follow up of a phase 1/2 study of ProSavin, a lentiviral vector gene therapy for Parkinson's disease. Hum Gene Ther Cl Dev. Published online 2018)。やはり、AADCの寄与は、製剤の有効性に不可欠であると考えられた。しかし、AADCは、経口L-DOPAの継続的必要性と関連するL-DOPAレベルの不安定なピークを局所的に増幅させることにより、ジスキネジアの発症率にも寄与し得る。
【0008】
Rosenbladらは、TH及びGCH1だけをコードするバイシストロン性AAVを線条体に直接投与してL-DOPAを産生させることを評価した(国際公開第2013/061076号及び国際公開第2010/055209号)。このバイシストロン性AAVベクターにより、PDの6-ヒドロキシドーパミン(6-OHDA)障害ラットモデルにおけるTH及びGCH1の強力な発現、並びに運動障害の完全な症候改善が生じたが、PDのMPTP障害マカクモデルにおいて線条体TH発現の予想された増加(免疫組織化学的検査により評価)又は十分な運動の改善は生じず、発明者らは、「この問題は、臨床試験に進む前に解決すべきである」と記述することとなった(Cederfjall E、Nilsson N、Sahin GらContinuous DOPA synthesis from a single AAV: dosing and efficacy in models of Parkinson's disease. Sci Rep-uk. 2013;3(1))。その上、発明者らは、「我々は、この我々のベクターの特性は、この設計の一部の特徴が原因であることを除外することはできない」と述べた(Rosenblad C、Li Q、Pioli EYらVector-mediated l-3,4-dihydroxyphenylalanine delivery reverses motor impairments in a primate model of Parkinson's disease. Brain. 2019;142(8):2402~2416頁)。
【0009】
この先行技術にもかかわらず、PDの治療に有効な遺伝子療法に対する満たされていない臨床的必要性が明らかに残存している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2013/061076号
【特許文献2】国際公開第2010/055209号
【特許文献3】国際公開第2006/042090号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Lees、April 2008、The Importance of Steady-State plasma DOPA levels in reducing motor fluctuations in Parkinson's disease、Expert Roundtable Supplement、CNS Spectr 13:4 (Suppl 7) 4~7頁
【非特許文献2】OlanowらContinuous intrajejunal infusion of levodopa-carbidopa intestinal gel for patients with advanced Parkinson's disease: a randomised, controlled, double-blind, double-dummy study. The Lancet Neurology Vol 13 February 2014
【非特許文献3】Muramatsu 10 February、2002、Behavioural Recovery in a Primate Model of Parkinson's disease by Triple Transduction of Striatal Cells with Adeno-Associated Viral (AAV) Vectors Expressing dopamine-Synthesizing Enzymes、Human Gene Therapy、12: 345~354頁
【非特許文献4】Azzouz M、Martin-Rendon E、Barber RDらMulticistronic Lentiviral Vector-Mediated Striatal Gene Transfer of Aromatic l-Amino Acid Decarboxylase, Tyrosine Hydroxylase, and GTP Cyclohydrolase I Induces Sustained Transgene Expression, Dopamine Production, and Functional Improvement in a Rat Model of Parkinson's Disease. J Neurosci. 2002;22(23):10302~10312頁
【非特許文献5】Palfi S、Gurru J、Le HらLong-term follow up of a phase 1/2 study of ProSavin, a lentiviral vector gene therapy for Parkinson's disease. Hum Gene Ther Cl Dev. Published online 2018
【非特許文献6】Cederfjall E、Nilsson N、Sahin GらContinuous DOPA synthesis from a single AAV: dosing and efficacy in models of Parkinson's disease. Sci Rep-uk. 2013;3(1)
【非特許文献7】Rosenblad C、Li Q、Pioli EYらVector-mediated l-3,4-dihydroxyphenylalanine delivery reverses motor impairments in a primate model of Parkinson's disease. Brain. 2019;142(8):2402~2416頁
【非特許文献8】Daubner SC、Lohse DL、Fitzpatrick' PF. Expression and characterization of catalytic and regulatory domains of rat tyrosine hydroxylase. Protein Sci. 1993;2:1452~60頁
【非特許文献9】Gray SJ、Foti SB、Schwartz JWらOptimizing Promoters for Recombinant Adeno-Associated Virus-Mediated Gene Expression in the Peripheral and Central Nervous System Using Self-Complementary Vectors. Hum Gene Ther. 2011;22(9):1143~1153頁
【非特許文献10】Bilang-Bleuelら(1997) Proc. Acad. Nati. Sci. USA 94:8818~8823頁
【非特許文献11】Choi-Lundbergら(1998) Exp. Neurol.154:261~275頁
【非特許文献12】Choi-Lundbergら(1997) Science 275:838~841頁
【非特許文献13】Mandelら(1997) Proc. Acad. Natl. Sci. USA 94:14083~14088頁
【非特許文献14】Matsushitaら、Adeno-associated virus vectors can be efficiently produced without helper virus. Gene Therapy (1998) 5、938~945頁
【非特許文献15】Thompsonら、1994、Nucleic Acids Research、22、4673~4680頁
【非特許文献16】Thompsonら、1997、Nucleic Acids Research、24、4876~4882頁
【非特許文献17】Evenら
【非特許文献18】Cederfjall, E.らContinuous DOPA synthesis from a single AAV: dosing and efficacy in models of Parkinson's disease. Sci Rep-uk 3、(2013)
【非特許文献19】Gash DMら、J Neurosci Methods. 1999; 89:111~7頁. KoW Ltd、Mississauga、ON、Canada
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、PDを治療するための新規の発現ベクターについて調べ、GCH1及びTH1を別々にコードする2つのモノシストロン性ベクターの組合せの使用により、驚くべきレベルの遺伝子発現が生じること見い出した。この手法は、Rosenbladバイシストロン性ベクターとは対照的に、免疫組織化学的検査により容易に検出されるTH発現が生じたため、Rosenbladの手法よりも優れている。Muramatsu及びAzzouzの方法とは対照的に、本発明により、PDのMPTP障害マカクモデルにおいてAADCを増強させずに運動機能の改善が生じる。
【0013】
本発明のより良い理解のため及びこの実施形態を実施し得る方法を示すために、例として、添付の図面をここで参照する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】1本鎖ssAAV-SYN1-hGCH-SYN1-EGFP-WPRE-pAベクター(構築物A)の一実施形態のプラスミドマップである。
図2】自己相補性プラスミドpscAAV-CBh-EGFP-WPRE-SV40pAベクター(構築物B)の一実施形態のプラスミドマップである。
図3】自己相補性プラスミドpscAAV-SYN1-EGFP-WPRE-SV40pAベクター(構築物C)の一実施形態のプラスミドマップである。
図4】1本鎖プラスミドsspAAV-SYN1-EGFP-T2A-GCH-WPRE-pAベクター(構築物D)の一実施形態のプラスミドマップである。
図5】pAAV[TetOn]TRE-EGFP-rev(SYN1-tTS-T2A-rtTA)ベクター(構築物E)の一実施形態のプラスミドマップである。
図6】htTHコード配列に動作可能に結合するCBhプロモーターを含むベクターの一実施形態のプラスミドマップである。
図7】GCH-1コード配列に動作可能に結合するCBhプロモーターを含むベクターの一実施形態のプラスミドマップである。
図8】htTHコード配列に動作可能に結合するSYN1プロモーターを含むベクターの一実施形態のプラスミドマップである。
図9】GCH-1コード配列に動作可能に結合するSYN1プロモーターを含むベクターの一実施形態のプラスミドマップである。
図10A】いくつかの構築物A、B及びCのレポーター遺伝子EGFPの発現のウエスタンブロットによる定性的解析を示す図である。ブロットは、37KDaのEGFPの正確な分子量を示す。
図10B】レポーター遺伝子EGFPの発現の定量的DAB比色検出を示す図である。
図11A】構築物A、B及びCのレポーター遺伝子EGFPの発現のウエスタンブロットによる定性的解析の第2のデータセットを示す図である。ブロットは、37KDaのEGFPの正確な分子量を示す。
図11B】レポーター遺伝子EGFPの発現の定量的DAB比色検出を示す図である。結果により、構築物BがEGFPの最も高い用量依存的発現を示すことが確認される。
図12】トランスフェクション後48時間の検査構築物についてのGFPの発現レベルを示す図である。
図13】約48時間の最大シグナルにより経時的にプロットしたGFP細胞の平均数を示す図である。
図14】48時間後にDNA 200ngをトランスフェクトした細胞におけるGFP発現を示す図である。
図15】48時間後にDNA 100ngをトランスフェクトした細胞におけるGFP発現を示す図である。
図16】48時間後にDNA 50ngをトランスフェクトした細胞におけるGFP発現を示す図である。
図17】マウス抗TH抗体で染色したMPTP障害マカク脳の冠状切片である(拡大率×2)。
図18】マウス抗TH抗体で染色したMPTP障害マカク脳の冠状切片である(拡大率×10)。
図19】マウス抗TH抗体で染色したMPTP障害マカク脳の冠状切片である(拡大率×20)。
図20】サル運動解析パネル(mMAP;Gashら、1999より)である。
図21】サル解析パネル実験の結果、即ち、mMAP処置前対後における変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
従って、本発明の第1の態様によれば、第1の発現ベクターが、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)をコードする配列に動作可能に結合するプロモーターを含む自己相補性コード配列を含み、第2の発現ベクターが、GTPシクロヒドロラーゼ1(GCH1)をコードするコード配列に動作可能に結合するプロモーターを含む自己相補性コード配列を含む、第1及び第2の発現ベクターを含む組成物を提供する。
【0016】
好ましくは、組成物は、芳香族アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)をコードするベクター(第1若しくは第2の発現ベクターのいずれか又は他の任意のベクター)を含まない。
【0017】
有利には、本発明の組成物は、次の特性のユニークな組合せを示す:
a)3つのベクターの製造及び混合を必要とせず(2つのベクターだけを必要とする)、従って、製造を単純化して原価を削減し、
b)AADCをコードせず、従って、AADC発現増加の可能性を低下させて、経口L-DOPAの継続的必要性を有する(投与量は低下しても)患者におけるドーパミンレベルのピークを強調し、
c)例えば、線条体において、THの強力な発現が生じ、これにより、パーキンソン病の治療における使用のための内因的に産生されたL-DOPA及びドーパミンのレベルの回復が生じる。
【0018】
好ましくは、一実施形態では、第1の発現ベクターは、AAVベクターである。好ましくは、一実施形態では、第2の発現ベクターは、AAVベクターである。
【0019】
好ましくは、一実施形態では、第1の発現ベクターは、自己相補性AAV(scAAV)ベクターである。好ましくは、一実施形態では、第2の発現ベクターは、自己相補性AAVベクターである。
【0020】
別の実施形態では、第1の発現ベクターは、ネイキッドDNAベクターである。好ましくは、第2の発現ベクターは、ネイキッドDNAベクターである。
【0021】
好ましくは、一実施形態では、第2の発現ベクターは、1本鎖AAV(ssAAV)ベクターである。
【0022】
しかし、好ましい一実施形態では、第1の発現ベクターは、自己相補性AAVベクターであり、第2の発現ベクターは、ssAAV又はネイキッドDNAベクターである。
【0023】
当業者は、自己相補性ベクターは、DNA合成又は複数のベクターゲノム間の塩基対形成の必要なくdsDNAに折畳み可能な逆位反復ゲノムを含むベクターであることを理解する。自己相補性アデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクターは、DNA合成又は複数のベクターゲノム間の塩基対形成の必要なくdsDNAに折畳み可能な逆位反復ゲノムを保有するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0024】
AAV(第1及び/又は第2の発現ベクター)は、AAV-1、AAV-2、AAV-3A、AAV-3B、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10及び/又はAAV-11に由来し得る。好ましくは、AAVは、神経組織に対する向性を有する。第1及び第2のAAV発現ベクターは、種々の血清型であり得るが、より好ましくは、同一の血清型である。好ましい実施形態では、AAV(第1及び/又は第2の発現ベクター)は、AAV1、AAV5又はAAV9、より好ましくは、AAV5に由来し得る。
【0025】
実施例に記載し、図17図19に示されるように、scAAV5ヒト切断TH及びscAAV5-GCH1(ともにCBhプロモーターを使用)の1:1混合物の使用により、ヒト切断THの非常に明らかな発現が生じた。従って、AAV5は、第1及び/又は第2の発現ベクターに最も好ましい。当業者は、切断THが、THの制御ドメインを欠失していることを理解する。
【0026】
組成物は、好ましくは、第1及び第2の発現ベクターの組合せ又は混合物である。THコードベクターは、好ましくは、自己相補性AAV(scAAV)である。GCHコードベクターは、自己相補性又は1本鎖のいずれかであり得る。しかし好ましくは、第2のベクターも、自己相補性である。従って、最も好ましい実施形態では、第1の発現ベクターは、scAAVであり、第2の発現ベクターは、scAAVである。
【0027】
先行技術に基づいて、2つの異なるベクターの投与により、PDのMPTPマカクモデルにおける運動機能改善の達成に十分な形質導入L-DOPA産生を新たに達成するのに、十分な細胞の十分な同時感染が、有効な比率で十分な量の霊長類線条体にわたって生じることが全く予測不可能又は予想されないことが理解されるべきである。その上、scAAVの使用により、これらの発現レベルが高いため、必要とされる用量が著しく低く、これにより治療原価が削減され、これはAAVが高価であることを考慮すると、非常に重要である。
【0028】
組成物は、個別に供給し(例えば、バイアル又はシリンジにより)、投与の直前若しくはその時点で混合するか、又は単一の予混合製剤として供給し得る、2つのベクターを含み得る。第1のベクター対第2のベクターの比率は、好ましくは、約50:50であり得るが、5:95、10:90、20:80、30:70、60:40、40:60、70:30、80:20、90:10又は95:5であり得る。
【0029】
一実施形態では、THをコードするコード配列は、本明細書において配列番号1と呼ぶ、以下に示されるヒトTHをコードする。
【0030】
【化1】
【0031】
従って、好ましくは、THをコードするコード配列は、配列番号1に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む。
【0032】
ヒトTHは、以下に示される、NCBI参照配列:NP_000351.2によるアミノ酸配列を有してもよく、これは本明細書において配列番号2と呼ぶ。
【0033】
【化2】
【0034】
従って、好ましくは、THをコードするコード配列は、配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む。
【0035】
しかし、別の実施形態では、THをコードするコード配列は、本明細書において配列番号21と呼ぶ、以下に示されるヒトTHをコードする。
【0036】
【化3】
【0037】
配列番号21が、1109及び1110番目の位置においてAC(配列番号1の)をCA(配列番号21の)に逆転させることを除いて、配列番号1と全く同一であることが理解されるべきである。従って、好ましくは、THをコードするコード配列は、配列番号21に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む。配列番号21によりコードされるヒトTHは、本明細書において配列番号22と呼ぶ、以下に示されるアミノ酸配列を有し得る。
【0038】
【化4】
【0039】
1109及び1110番目の位置におけるA-Cの転位置(配列番号1から配列番号21)により、チロシンからセリンへのアミノ酸401の変化が生じる。従って、好ましくは、THをコードするコード配列は、配列番号22に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む。
【0040】
しかし、別の実施形態では、THをコードするコード配列は、ヒト切断THをコードするヌクレオチド配列を含む。ヒト切断THは、制御ドメインを除去したTHのバリアントである。従って、好ましくは、第1のベクターは、THの制御ドメインが欠失したTHをコードするコード配列を含む。有利には、本発明の組成物における第1の発現ベクターは、THの制御ドメインをコードせず、従って、これによって、L-DOPA又はドーパミンが生じる可能性が制限され、フィードバック阻害による更なる産生が阻害される。一部の実施形態では、非切断バージョンがscAAV内に最適に収めるには長すぎる可能性を有するため、構築物の好ましい実施形態では、ヒト切断THをコードするヌクレオチド配列を含むことが理解される。
【0041】
THのドメイン及びこれらの役割は、Daubner et al. (Daubner SC、Lohse DL、Fitzpatrick' PF. Expression and characterization of catalytic and regulatory domains of rat tyrosine hydroxylase. Protein Sci. 1993;2:1452~60頁)に記載されている。一実施形態では、ヒト切断THは、本明細書において配列番号3と呼ぶ、以下に示されるヌクレオチド配列を含む。
【0042】
【化5】
【0043】
従って、好ましくは、THをコードする(及び好ましくは、THの制御ドメインが欠失した)コード配列は、配列番号3に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む。
【0044】
好ましい一実施形態では、THをコードするコード配列は、ヒト切断THをコードするヌクレオチド配列を含む。一実施形態では、ヒト切断THは、本明細書において配列番号4と呼ぶ、以下に示されるアミノ酸配列を含む。
【0045】
【化6】
【0046】
従って、好ましくは、THをコードするコード配列は、配列番号4に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む。
【0047】
別の実施形態では、ヒト切断TH(ACからCAへの転位置を有する)は、本明細書において配列番号23と呼ぶ、以下に示されるヌクレオチド配列を含む。
【0048】
【化7】
【0049】
好ましくは、THをコードする(及び好ましくは、THの制御ドメインが欠失した)コード配列は、配列番号23に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む。
【0050】
別の実施形態では、ヒト切断TH(アミノ酸401をチロシンからセリンに変化させた)は、本明細書において配列番号24と呼ぶ、以下に示されるアミノ酸配列を含む。
【0051】
【化8】
【0052】
従って、好ましくは、THをコードするコード配列は、配列番号24に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む。
【0053】
ある実施形態では、GCH1をコードするコード配列は、マウスGCH1をコードするヌクレオチド配列を含む。マウスGCH1をコードするヌクレオチド配列は、以下に示されるように、本明細書において配列番号5と呼ぶ。
【0054】
【化9】
【0055】
従って、コード配列は、配列番号5に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含み得る。
【0056】
しかし、好ましい実施形態では、GCH1をコードするコード配列は、ヒトGCH1をコードするヌクレオチド配列を含む。例えば、ヒトGCHをコードするヌクレオチド配列は、以下に示される、GenBank NM 000161.2による配列であってもよく、これは本明細書において配列番号6と呼ぶ。
【0057】
【化10】
【0058】
従って、好ましくは、GCH1をコードするコード配列は、配列番号6に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む。
【0059】
好ましい一実施形態では、GCH1をコードするコード配列は、ヒトGCH1をコードするヌクレオチド配列を含む。ヒトGCH1は、NCBI参照配列:NP_000152.1によるアミノ酸配列を有し得る。ヒトGCH1は、本明細書において配列番号7と呼ぶ、以下に示されるアミノ酸配列を含む。
【0060】
【化11】
【0061】
従って、好ましくは、GCH1をコードするコード配列は、配列番号7に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む。
【0062】
第1及び第2の発現ベクターはそれぞれ、プロモーターを含み、これは、構成的プロモーター、活性化可能プロモーター、誘導性プロモーター、又は組織特異的プロモーターを含む任意の適するプロモーターであり得る。プロモーターは、第1の構築物及び第2の構築物において同一であり得るか、又は種々のプロモーターを各構築物に使用し得る。
【0063】
好ましい実施形態では、第1及び第2の発現ベクターにおけるプロモーターは、パーキンソン病の治療に最も適する1つ又は複数の組織においてTH及び/又はGCH1の発現が可能となるプロモーターである。従って、ある実施形態では、プロモーターは、対象のニューロン、又は対象のグリア細胞、又は対象のニューロン及びグリア細胞、又は対象のニューロン及び脳室を覆う上衣細胞、又は対象のニューロン及びグリア細胞及び上衣細胞における高発現が可能となるプロモーターである。
【0064】
好ましくは、第1及び/又は第2の発現ベクターにおけるプロモーターは、CBhプロモーター又はその断片若しくはバリアントであり得る(Gray SJ、Foti SB、Schwartz JWらOptimizing Promoters for Recombinant Adeno-Associated Virus-Mediated Gene Expression in the Peripheral and Central Nervous System Using Self-Complementary Vectors. Hum Gene Ther. 2011;22(9):1143~1153頁)。実施例に記載のように、発明者らは、種々の潜在的構築物を比較し、2つの異なるウイルスベクター(THを形質導入するベクター及びGCH1を形質導入するベクター)の使用を必要とする自己相補性ベクターのパッケージ能の制限にもかかわらず、達成した形質導入の上昇に必要とされるベクターゲノムコピーの総数が、最適な単一のバイシストロン性ウイルスベクターを使用した場合に必要とされるベクターゲノムコピーの総数よりも少なくて済むことを、驚くべきことに実証した。これは、少なくとも2つの理由:(1)製品の製造原価を削減すること、及び(2)患者に対するAAVカプシド量を削減し、これにより、カプシド関連毒性のリスクが低減することから重要である。
【0065】
発現ベクターにおけるいずれか又は両方のプロモーターは、CBhプロモーターであり得る。好ましくは、第1及び第2の両発現ベクターは、CBhプロモーターを含む。
【0066】
CBhプロモーターの使用により、構築物に対してPD治療における少なくとも4つの利点がもたらされる。第1に、長さが短いことにより、自己相補性AAV構築物においてプロモーター及び導入遺伝子の組合せを収容することが可能となる。第2に、これまでのモノシストロン性構築物において広く使用されるCMVプロモーターよりも発現抑制の傾向が少ない。第3に、ニューロン特異性を欠くことにより、星状膠細胞及びグリア細胞の形質導入が可能となり、線条体内のこのような細胞による更なるDOPA産生の可能性が上昇する。第4に、CBhプロモーターは、切断ニワトリベータ-アクチンイントロン及びマウス微小ウイルス(MVM)イントロンの両方を含み、これらはともにスペーサーとして作用し、これによって遺伝子発現が増加する。
【0067】
一実施形態では、CBhプロモーターの配列は、次のように、本明細書において配列番号8と呼ぶ。
【0068】
【化12】
【0069】
従って、好ましくは、第1及び/又は第2の発現ベクターにおけるプロモーター配列は、配列番号8に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む。
【0070】
別の実施形態では、第1及び/又は第2の発現ベクターにおけるプロモーターは、ヒトシナプシンプロモーターであり得る。発現ベクターにおけるいずれか又は両方のプロモーターは、ヒトシナプシンプロモーターであり得る。好ましくは、プロモーターは、469ヌクレオチドを含むヒトシナプシン1プロモーターである。ヒトシナプシンI(SYN I)プロモーターを形成するヌクレオチド配列の一実施形態は、以下のように、本明細書において配列番号9と呼ぶ。
【0071】
【化13】
【0072】
プロモーターは、配列番号9に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含み得る。
【0073】
別の実施形態では、第1及び/又は第2の発現ベクターにおけるプロモーターは、サイトメガロウイルスエンハンサー(CB7)を有するニワトリベータアクチンプロモーターである。発現ベクターにおけるいずれか又は両方のプロモーターは、サイトメガロウイルスエンハンサーを有するニワトリベータアクチンプロモーターを含み得る。このプロモーターの一実施形態は、以下のように、本明細書において配列番号10と呼ぶ。
【0074】
【化14】
【0075】
プロモーターは、配列番号10に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含み得る。
【0076】
ある実施形態では、第1及び/又は第2の発現ベクターにおけるプロモーターは、テトラサイクリン応答性エレメント(TRE)プロモーターである。発現ベクターにおけるいずれか又は両方のプロモーターは、TREプロモーターであってもよく、この一実施形態は、以下のように、本明細書において配列番号11と呼ぶ。
【0077】
【化15】
【0078】
プロモーターは、配列番号11に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含み得る。
【0079】
第1及び/又は第2の発現ベクターにおけるプロモーターは、CMVプロモーター、又はCMVエンハンサー/プロモーターでなくてもよい。しかし、一部の実施形態では、第1及び/又は第2の発現ベクターにおけるプロモーターは、CMVプロモーターである。発現ベクターにおけるいずれか又は両方のプロモーターは、CMVプロモーターであってもよく、この一実施形態は、以下のように、本明細書において配列番号25と呼ぶ。
【0080】
【化16】
【0081】
プロモーターは、配列番号25に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含み得る。
【0082】
従って、第1及び/又は第2の発現ベクターにおけるプロモーターは、配列番号8、9、10、11若しくは25に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含み得る。しかし、最も好ましくは、プロモーターは、配列番号8に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアント、即ち、CBhプロモーターを実質的に含み得る。好ましくは、第1及び第2のベクターは、CBhプロモーターを含む。
【0083】
一部の実施形態では、第1の発現ベクターは、このプロモーターと、THをコードするヌクレオチドとの間に位置するイントロンを含む。一部の実施形態では、第2の発現ベクターは、このプロモーターと、GCH1をコードするヌクレオチドとの間に位置するイントロンを含む。
【0084】
非コードDNA配列としてのイントロンは、多様な機構、例えば、RNAポリメラーゼIIプロセス活性の増強、スプライシングタンパク質と特定の転写因子との間の相互作用の増強、複数の種類のRNAプロセシング機構の接続及び促進、並びに核mRNA輸送、翻訳効率及びRNA崩壊への影響により、真核生物における遺伝子発現を制御する機能を有する。
【0085】
イントロンは、少なくとも25、50、75又は100ヌクレオチドの長さであり得る。イントロンは、少なくとも125、150、175又は200ヌクレオチドの長さであり得る。イントロンは、少なくとも225、250、275又は300ヌクレオチドの長さであり得る。
【0086】
イントロンは、ヒト成長ホルモン(hGH)イントロン、ベータ-アクチンイントロン、マウス微小ウイルス(MVM)イントロン、SV40イントロン、及びEF-1アルファイントロンを含むイントロンの群から選択され得る。
【0087】
イントロンは、ヒト成長ホルモン(hGH)イントロンであり得る。hGHイントロンのヌクレオチド配列は、次のように、本明細書において配列番号26と呼ぶ。
【0088】
【化17】
【0089】
従って、第1及び/又は第2の発現ベクターは、配列番号26に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含むイントロンを含み得る。
【0090】
好ましくは、イントロンは、ベータ-アクチンイントロン及び/又はマウス微小ウイルス(MVM)イントロンである。好ましくは、イントロンは、MVMイントロンである。MVMイントロンのヌクレオチド配列は、次のように、本明細書において配列番号27と呼ぶ。
【0091】
【化18】
【0092】
従って、第1及び/又は第2の発現ベクターは、配列番号27に示されるヌクレオチド配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含むイントロンを含み得る。
【0093】
上に考察するように、CBhプロモーターを使用する利点は、ベータ-アクチンイントロンと(MVM)イントロンとの両方を含むことであり、これは、TH(好ましくは、切断TH)及びGCH1の発現レベルの向上に寄与すると考えられる。
【0094】
従って、第1及び/又は第2の発現ベクターは、SYN1プロモーターの後に、MVMイントロン(配列番号27)又はヒト成長ホルモン(hGH)イントロン(配列番号26)であり得るイントロンを含み得る。
【0095】
或いは、第1及び/又は第2の発現ベクターは、サイトメガロウイルスエンハンサー(CB7)を有するニワトリベータアクチンプロモーターの後に、MVMイントロン又はヒト成長ホルモン(hGH)イントロンであり得るイントロンを含み得る。
【0096】
或いは、第1及び/又は第2の発現ベクターは、テトラサイクリン応答性エレメント(TRE)プロモーターの後に、MVMイントロン又はヒト成長ホルモン(hGH)イントロンであり得るイントロンを含み得る。
【0097】
或いは、第1及び/又は第2の発現ベクターは、CMVプロモーターの後に、MVMイントロン又はヒト成長ホルモン(hGH)イントロンであり得るイントロンを含み得る。
【0098】
ある実施形態では、第1及び/又は第2の発現ベクターは、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後制御エレメント(WPRE)をコードするヌクレオチド配列を更に含んでもよく、これによりTH1及び/又はGCH1の発現がそれぞれ更に増強される。一部の実施形態では、第1の発現ベクターは、WPREをコードするヌクレオチド配列を含まない。
【0099】
好ましくは、第2の発現ベクターは、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後制御エレメント(WPRE)をコードするヌクレオチド配列を更に含む。
【0100】
好ましくは、WPREコード配列は、第2の発現ベクター上のGCH1コード配列の3'に位置する。
【0101】
WPREの一実施形態は、592bpの長さであってガンマ-アルファ-ベータエレメントを含み、次のように、本明細書において配列番号12と呼ぶ。
【0102】
【化19】
【0103】
好ましくは、WPREは、配列番号11に示される核酸配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む。
【0104】
しかし、好ましい実施形態では、切断WPREを使用し、これは、ベータエレメントが欠失しているために247bpの長さであり、次のように、本明細書において配列番号13と呼ぶ。
【0105】
【化20】
【0106】
好ましくは、WPREは、配列番号13に示される核酸配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む。
【0107】
好ましくは、第1の発現ベクターは、ポリAテールをコードするヌクレオチド配列を含む。好ましくは、第2の発現ベクターは、ポリAテールをコードするヌクレオチド配列を含む。好ましくは、ポリAテールコード配列は、第2のベクターに存在する場合、TH及び/又はGCH1コード配列の3'、好ましくは、WPREコード配列の3'に位置する。
【0108】
一実施形態では、ポリAテールは、224bpのサルウイルス40ポリA配列(即ち、SV40ポリAテール)を含む。SV40ポリAテールの一実施形態は、次のように、本明細書において配列番号14と呼ぶ。
【0109】
【化21】
【0110】
好ましくは、ポリAテールは、配列番号14に示される核酸配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む。
【0111】
別の実施形態では、ポリAテールは、208bpのウシ成長ホルモン(BGH)ポリA配列を含む。BGHポリAテールの一実施形態は、次のように、本明細書において配列番号15と呼ぶ。
【0112】
【化22】
【0113】
好ましくは、ポリAテールは、配列番号15に示される核酸配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む。
【0114】
好ましくは、第1の発現ベクターは、左及び/又は右逆位末端反復(ITR)配列を含む。好ましくは、第2の発現ベクターは、左及び/又は右逆位末端反復(ITR)配列を含む。好ましくは、各ITRは、発現ベクターの5'及び/又は3'末端に位置する。
【0115】
好ましい自己相補性の第1の発現ベクターは、逆位末端反復(ITR)配列1つ、及び末端分離部位を欠失させた修飾ITR配列1つを含む。好ましい自己相補性の第2の発現ベクターは、逆位末端反復(ITR)配列1つ、及び末端分離部位を欠失させた修飾ITR配列1つを含む。末端分離部位を欠失させたITRの一実施形態は、本明細書において配列番号16と呼ぶ。
【0116】
【化23】
【0117】
従って、好ましくは、第1及び/又は第2の発現ベクターは、配列番号16に示される核酸配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含むITRを含む。
【0118】
第1の発現ベクターは、3'非翻訳領域(3'UTR)をコードするヌクレオチド配列を含み得る。第2の発現ベクターは、3'非翻訳領域(3'UTR)をコードするヌクレオチド配列を含み得る。3'UTRコード配列は、TH及び/若しくはGCH1コード配列の3'、好ましくは、存在する場合、ポリAテールの5'並びに/又は存在する場合、WPREコード配列の5'に位置する。
【0119】
第1の発現ベクターにおける3'UTRコード配列の一実施形態(即ち、THの3'UTR)は、本明細書において配列番号28と呼ぶ。
【0120】
【化24】
【0121】
従って、好ましくは、第1の発現ベクターは、配列番号28に示される核酸配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む3'UTRコード配列を含む。
【0122】
第1の発現ベクターは、5'非翻訳領域(5'UTR)をコードするヌクレオチド配列を含み得る。第2の発現ベクターは、5'非翻訳領域(5'UTR)をコードするヌクレオチド配列を含み得る。好ましくは、5'UTRコード配列は、TH及び/又はGCH1コード配列の5'、好ましくは、プロモーターの3'に位置する。
【0123】
5'UTRコード配列は、好ましくは、コザック配列である。第1及び/又は第2の発現ベクターにおける5'UTRコード配列の一実施形態は、本明細書において配列番号29と呼ぶ。
GCCACC
[配列番号29]
【0124】
従って、好ましくは、第1及び/又は第2の発現ベクターは、配列番号29に示される核酸配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む5'UTRコード配列を含む。
【0125】
ある実施形態では、第1の発現ベクターは、ここに特定する順序で、5'プロモーター、THをコードする配列、及びポリAテールをコードする3'配列を含み得る。ある実施形態では、第2の発現ベクターは、ここに特定する順序で、5'プロモーター、GCH1をコードする配列、及びポリAテールをコードする3'配列を含み得る。本明細書に記載の5'及び3'の使用は、これらの特徴が上流又は下流のいずれかに存在することを示し、これらの特徴が必然的に末端の特徴であることを示すとは意図していない。
【0126】
ある実施形態では、第1の発現ベクターは、ここに特定する順序で、5'ITR、プロモーター、ヒト切断THをコードする配列、ポリAテールをコードする配列、及び3'ITRを含み得る。ある実施形態では、第2の発現ベクターは、ここに特定する順序で、5'ITR、プロモーター、ヒトGCH1をコードする配列、ポリAテールをコードする配列、及び3'ITRを含み得る。
【0127】
ある実施形態では、第1の発現ベクターは、ここに特定する順序で、5'ITR、プロモーター、イントロン、ヒト切断THをコードする配列、ポリAテールをコードする配列、及び3'ITRを含み得る。ある実施形態では、第2の発現ベクターは、ここに特定する順序で、5'ITR、プロモーター、イントロン、ヒトGCH1をコードする配列、ポリAテールをコードする配列、及び3'ITRを含み得る。
【0128】
ある実施形態では、第1の発現ベクターは、ここに特定する順序で、5'ITR、CBhプロモーター、ヒト切断THをコードする配列、ポリAテールをコードする配列、及び3'ITRを含み得る。別の実施形態では、第2の発現ベクターは、ここに特定する順序で、5'ITR、CBhプロモーター、GCH1をコードする配列、WPREをコードする配列、ポリAテールをコードする配列、及び3'ITRを含み得る。
【0129】
好ましい実施形態では、第1の発現ベクターは、ここに特定する順序で、5'ITR、CBhプロモーター、ヒト切断THをコードする配列、ポリAテールをコードする配列、及び末端分離部位を欠失させた3'ITRを含み得る。好ましい実施形態では、第2の発現ベクターは、ここに特定する順序で、5'ITR、CBhプロモーター、GCH1をコードする配列、WPREをコードする配列、ポリAテールをコードする配列、及び末端分離部位を欠失させた3'ITRを含み得る。好ましくは、第1の態様の組成物は、本明細書に記載の第1及び第2の発現ベクターを含む。
【0130】
本明細書において配列番号17と呼び、図6に示される次の配列は、htTH(ヒト切断TH)コード配列に動作可能に結合するCBhプロモーターを含むベクターを表す。
【0131】
【化25A】
【0132】
【化25B】
【0133】
【化25C】
【0134】
好ましくは、第1の発現ベクターは、配列番号17に示される核酸配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む。
【0135】
本明細書において配列番号18と呼び、図7に示される次の配列は、GCH-1コード配列に動作可能に結合するCBhプロモーターを含むベクターを表す。
【0136】
【化26A】
【0137】
【化26B】
【0138】
好ましくは、第2の発現ベクターは、配列番号18に示される核酸配列又はその断片若しくはバリアントを実質的に含む。
【0139】
本明細書において配列番号19と呼び、図8に示される次の配列は、htTHコード配列に動作可能に結合するSYN1プロモーターを含むベクター(即ち、第1の態様の組成物の第1の発現ベクター)を表す。
【0140】
【化27A】
【0141】
【化27B】
【0142】
本明細書において配列番号20と呼び、図9に示される次の配列は、GCH-1コード配列に動作可能に結合するSYN1プロモーターを含むベクター(即ち、第1の態様の組成物の第2の発現ベクター)を表す。
【0143】
【化28A】
【0144】
【化28B】
【0145】
【化28C】
【0146】
好ましくは、本発明では、
(i)チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、任意選択で、制御ドメインが欠失したヒト切断THをコードするコード配列に動作可能に結合するプロモーターを含む、第1の自己相補性アデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクター、及び
(ii)GTPシクロヒドロラーゼ1(GCH1)をコードするコード配列に動作可能に結合するプロモーターを含む、第2の自己相補性アデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクター
を含む、組成物を提供する。
【0147】
第2の態様によれば、第1の態様による組成物、及び薬学的に許容される溶媒を含む、医薬組成物を提供する。
【0148】
第1の態様の組換えベクターを含む組成物、及び第2の態様の医薬組成物は、療法に特に適する。
【0149】
従って、第3の態様によれば、医薬としての、又は療法における使用のための、第1の態様による組成物、又は第2の態様による医薬組成物を提供する。
【0150】
パーキンソン病、DOPA反応性ジストニア、血管性パーキンソン症、パーキンソン病のためのL-DOPA治療と関連する副作用、L-DOPA誘発性ジスキネジア、瀬川症候群、又はドーパミン受容体遺伝子異常の治療を特に想定する。
【0151】
従って、本発明の第4の態様では、パーキンソン病、DOPA反応性ジストニア、血管性パーキンソン症、パーキンソン病のためのL-DOPA治療と関連する副作用、L-DOPA誘発性ジスキネジア、瀬川症候群、又はドーパミン受容体遺伝子異常の治療、予防、又は回復における使用のための、第1の態様による組成物、又は第2の態様による医薬組成物を提供する。
【0152】
当業者は、第1及び第2のベクターの治療的使用が、これらを同一の組成物又は製剤により提供する必要が必ずしもないことを意味することを理解する。
【0153】
従って、また別の態様では、療法における使用のための、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)をコードする自己相補性コード配列に動作可能に結合するプロモーターを含む第1の発現ベクター、及びGTPシクロヒドロラーゼ1(GCH1)をコードするコード配列に動作可能に結合するプロモーターを含む第2の発現ベクターを提供する。
【0154】
また別の態様では、パーキンソン病、DOPA反応性ジストニア、血管性パーキンソン症、パーキンソン病のためのL-DOPA治療と関連する副作用、L-DOPA誘発性ジスキネジア、瀬川症候群、又はドーパミン受容体遺伝子異常の治療、予防、又は回復における使用のための、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)をコードする自己相補性コード配列に動作可能に結合するプロモーターを含む第1の発現ベクター、及びGTPシクロヒドロラーゼ1(GCH1)をコードするコード配列に動作可能に結合するプロモーターを含む第2の発現ベクターを提供する。
【0155】
本明細書において使用する第1及び第2の発現ベクターは、第1の態様に関して記載のものである。
【0156】
好ましくは、本明細書に記載の使用は、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、任意選択で、制御ドメインが欠失したヒト切断THをコードするコード配列に動作可能に結合するプロモーターを含む第1の自己相補性アデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクターの使用を含む。
【0157】
好ましくは、本明細書に記載の使用は、GTPシクロヒドロラーゼ1(GCH1)をコードするコード配列に動作可能に結合するプロモーターを含む第2の自己相補性アデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクターの使用を含む。
【0158】
第5の態様によれば、治療有効量の、第1の態様による組成物、又は第2の態様による組成物をそのような治療を必要とする対象に投与する工程を含む、対象におけるパーキンソン病、DOPA反応性ジストニア、血管性パーキンソン症、パーキンソン病のためのL-DOPA治療と関連する副作用、L-DOPA誘発性ジスキネジア、瀬川症候群、又はドーパミン受容体遺伝子異常を治療、予防、又は回復させる方法を提供する。
【0159】
また別の態様では、治療有効量の、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)をコードする自己相補性コード配列に動作可能に結合するプロモーターを含む第1の発現ベクターと、GTPシクロヒドロラーゼ1(GCH1)をコードするコード配列に動作可能に結合するプロモーターを含む第2の発現ベクターとをそのような治療を必要とする対象に投与する工程を含む、対象におけるパーキンソン病、DOPA反応性ジストニア、血管性パーキンソン症、パーキンソン病のためのL-DOPA治療と関連する副作用、L-DOPA誘発性ジスキネジア、瀬川症候群、又はドーパミン受容体遺伝子異常を治療、予防、又は回復させる方法を提供する。
【0160】
好ましくは、本発明による第1及び第2のベクター又は組成物は、遺伝子療法技術において使用する。
【0161】
実施形態では、治療する障害は、パーキンソン病、DOPA反応性ジストニア、血管性パーキンソン症、パーキンソン病のためのL-DOPA治療と関連する副作用、L-DOPA誘発性ジスキネジア、瀬川症候群、又はドーパミン受容体遺伝子異常からなる群から選択される。
【0162】
最も好ましい実施形態では、治療する疾患は、パーキンソン病である。
【0163】
開示の遺伝子療法技術により、線条体におけるL-DOPAの一定レベルの産生が引き起こされる。これにより、経口L-DOPAの必要性が除去又は削減され、このためピーク対トラフの変動の低下が生じる。従って、開示の遺伝子療法は、パーキンソン病のL-DOPA治療と関連する副作用、及びL-DOPA誘発性ジスキネジアの治療に使用することができる。
【0164】
開示の遺伝子療法技術は、瀬川症候群の治療に使用し得る。GCH1のみ又はTHのみを送達する(瀬川症候群の原因に応じて)遺伝子療法により瀬川症候群を治療することが可能であるが、TH又はGCH1(それぞれ)の更なる包含は、不利であるとは予想されず、有益であり得る。開示の治療は、瀬川症候群の希少性によって、この徴候だけのために治療を開発するには商業的に魅力的又は実現可能とは言えないため、特に有利である。この徴候だけでなくパーキンソン病のための開示の発明の生成により、療法の単位原価が削減される。
【0165】
好ましい実施形態では、本発明による医薬(即ち、第1及び第2の発現ベクター)は、血流、脳脊髄液、神経、又は直接治療を必要とする部位への注射により対象に投与し得る。例えば、発現ベクターは、脳に送達し得る。ベクターは、両側的又は一側的に送達し得る。特定の脳領域、例えば、線条体を標的とし得る。被殻又は尾状核を標的とし得る。或いは、被殻のみを標的とし得る。治療は、黒質緻密部のドーパミン作動性ニューロンに集中させ得る。
【0166】
送達方法は、直接注射であり得る。脳(例えば、線条体)内注射のための方法は、当技術分野において周知である(Bilang-Bleuelら(1997) Proc. Acad. Nati. Sci. USA 94:8818~8823頁; Choi-Lundbergら(1998) Exp. Neurol.154:261~275頁; Choi-Lundbergら(1997) Science 275:838~841頁;及びMandelら(1997)) Proc. Acad. Natl. Sci. USA 94:14083~14088頁)。或いは、又は加えて、選択されたベクターは、特定の所望の組織、例えば、ニューロンを標的とする向性を有し得る。
【0167】
ベクターカプシド特性の修飾により、くも膜下腔内(IT)注射又は脳室内注射(ICV)後にも線条体領域に対するベクターの標的化が可能となり得る。生じたL-DOPA又はドーパミンが上昇するような室内注射は、CSFを通じた拡散又は軸索輸送により線条体に伝達させ得る。代替手法は、混合した2つの血清型から種々の結合特性を受け継ぐキメラAAV血清型を生成することである。
【0168】
しかし、好ましくは、本発明によるベクター及び組成物は、線条体への注射により対象に投与し得る。
【0169】
遺伝子療法ベクターは、当技術分野において公知の任意の技術により生成し得る。例えば、AAVベクターは、古典的三重トランスフェクション方法を使用して生成し得る。アデノ随伴ウイルスベクターの生成のための方法は、Matsushitaらにより開示されている(Matsushitaら、Adeno-associated virus vectors can be efficiently produced without helper virus. Gene Therapy (1998) 5、938~945頁)。
【0170】
混合物中の又は別々に供給する、必要とする本発明の組成物の量及び2つのベクターそれぞれの量は、混合物中の(又は別々の)2つのベクターの生物学的活性及びバイオアベイラビリティにより決定し、これは次いで、投与方法、ベクターの生理化学的特性、及び組成物が単独療法として使用するか又は他の療法と組み合わせるかどうかに依存することが理解される。投与される最適投与量は、当業者により決定してもよく、使用中の特定の発現ベクター、組成物及び医薬組成物の強度、投与方法、及び治療する神経変性障害の進度によって変動する。対象の年齢、体重、性別、食事、及び投与時間を含む、治療する特定の対象に応じた更なる因子により、投与量を調整する必要性が生じる。
【0171】
送達する本発明の組成物の用量は、300μl~20,000μl、300μl~10,000μl、300μl~5,000μl、300μl~4500μl、400μl~4000μl、500μl~3500μl、600μl~3000μl、700μl~2500μl、750μl~2000μl、800μl~1500μl、850μl~1000μl又はおよそ900μlであり得る。
【0172】
AAVベクターの混合物として投与する場合、各AAVの力価は、1mlあたり1E8~5E14、1E9~1E14、1E10~5E13、1E11~1E13、1E12~8E12、4E12~6E12又はおよそ5E12ゲノムコピー(GC/ml)であり得る。
【0173】
ネイキッドDNAプラスミドベクターの混合物として投与する場合、各DNAプラスミドベクターの用量は、脳半球あたり50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1250、1500、1750又は2000マイクログラム(μg)であり得る。
【0174】
組成物は、障害発症の間又は後に投与し得る。用量は、単回投与として投与し得るか、又は治療にわたって複数回用量を投与し得る。用量を患者に投与してもよく、患者を監視して2回目以上の用量の必要性を評価し得る。AAVベクターにおける同一ゲノムの反復使用による送達は、AAVカプシド血清型を変えて、それまでの治療により誘導される抗体又は細胞媒介免疫応答による干渉の確率を低下させることにより促進させ得る。
【0175】
一部の実施形態では、治療方法は、遺伝子療法治療前に、L-DOPAの検査注入を含み得る。検査注入を使用して、対象がL-DOPAに対して応答性であり、血漿中のピーク対トラフの変動及び/又は脳L-DOPAレベルの低下から利益を得、このため遺伝子療法治療から利益を得る可能性が最も高い対象の選択が可能となり得ることを実証し得る。L-DOPA検査注入は、数時間又は数日にわたって定常な血中レベルをもたらすことが可能な任意の手段によるものであり得る。適する注入方法の例としては、経鼻胃チューブ、i.v.注入、ポンプを介する注入によるもの、DuoDOPAの使用によるもの、又は他の任意の適する手段が挙げられる。
【0176】
第1及び第2の発現ベクターそれ自体、又は第1の態様による組成物、又は第2の態様の医薬組成物は、単独療法として使用し得る(即ち、本発明の第1の態様によるベクター組成物、又は第2の態様による組成物の使用)医薬において、本明細書に開示の任意の障害の治療、回復、又は予防のために使用し得ることが理解される。或いは、本発明によるベクターそれ自体又は組成物は、公知の療法の補助として又はこれと組み合わせて、本明細書に開示の任意の障害の治療、回復、又は予防のために使用し得る。一部の場合では、ベクターは、遺伝子療法を向上させるように設計した治療の補助として、これと組み合わせて、又は並行して使用し得る。例えば、ベクターは、免疫抑制治療と組み合わせて使用して、遺伝子療法それ自体により誘導される免疫応答を低減、予防、又は調節し得る。例えば、免疫抑制治療により、遺伝子療法ベクターのカプシド、遺伝子療法ベクター内に含まれるゲノム、又は遺伝子療法ベクターにより療法において産生された産物に対する免疫応答を予防、低減、又は調節し得る。免疫抑制治療計画は、一般的免疫抑制剤、例えば、ステロイドを含み得る。免疫抑制治療計画は、特定の免疫応答を低減するように設計した免疫抑制の更なる標的化、例えば、遺伝子療法構築物中に見い出されるか又はこれにより生成される特定の抗原に対する免疫療法を含み得る。或いは、ベクターを含む組成物は、標的細胞によるベクターの取込み効率を上昇させるか、或いはトランスフェクション若しくは形質導入の効率を上昇させるか、又は発現の下方制御若しくは発現抑制を防ぐことを意図する薬剤と組み合わせて投与又は使用し得る。
【0177】
本発明による組成物は、特に、組成物を使用する方法に応じて、いくつかの異なる形態を有する組成物中に混合し得る。従って、例えば、組成物は、粉末、液体、ミセル溶液、リポソーム懸濁液の形態、又は治療を必要とするヒト若しくは動物に投与し得る他の任意の適する形態であり得る。本発明による医薬の溶媒は、これを投与する対象により十分に許容されるものであるべきことが理解される。好ましくは、組成物は、注射液の形態である。
【0178】
公知の手順、例えば、製薬産業(例えば、in vivoでの実験、臨床試験等)により従来利用されているものを使用して、本発明による組成物の特定の製剤及び詳細な治療計画を形成し得る。
【0179】
第6の態様によれば、第1の態様による組成物と薬学的に許容される溶媒とを接触させる工程を含む、第2の態様による医薬組成物を調製する方法を提供する。
【0180】
「対象」は、脊椎動物、哺乳動物、又は飼育動物であり得る。従って、本発明による組成物及び医薬を使用して任意の哺乳動物、例えば、家畜(例えば、ウマ)、ペットを治療し得るか、又は他の獣医学的適用において使用し得る。しかし、最も好ましくは、対象は、ヒトである。
【0181】
ベクター又は組成物の「治療有効量」は、任意の量であり、対象に投与した場合、障害を治療するのに必要とされる上述の量である。
【0182】
「薬学的に許容される溶媒」は、本明細書において言及する場合、医薬組成物の製剤化において有用であることが当業者に公知の、任意の公知の化合物又は公知の化合物の組合せである。
【0183】
好ましい実施形態では、薬学的に許容される溶媒は、化合物の注射が対象に直接可能となるようなものであり得る。例えば、溶媒は、線条体内への組成物の注射が可能となるのに適し得る。
【0184】
一実施形態では、薬学的に許容される溶媒は、固体であってもよく、組成物は、粉末、又は懸濁液の形態であり得る。固体の薬学的に許容される溶媒は、潤滑剤、可溶化剤、懸濁剤、色素、フィラー、流動促進剤、圧縮補助剤、不活性結合剤、保存剤、色素、コーティング剤、又は固体崩壊剤としても作用し得る1つ又は複数の物質を含み得る。また、溶媒は、封入剤であり得る。粉末では、溶媒は、微粉化した本発明による活性剤との混合物の微粉化した固体である。別の実施形態では、医薬溶媒は、ゲル等であり得る。
【0185】
しかし、医薬溶媒は、懸濁液、又は液体であってもよく、医薬組成物は、懸濁液、又は溶液の形態である。滅菌した溶液又は懸濁液である液体医薬組成物は、脳の標的領域、例えば、線条体への例えば、くも膜下腔内、硬膜外、静脈内、特には、直接注射により利用することができる。第1及び第2のベクターは、懸濁液として、又は滅菌水、食塩水、MgCl2及びCaCl2を有するダルベッコリン酸緩衝食塩水(dPBS)、人工脳脊髄液若しくは他の適切な滅菌注射用培地を使用して、投与時点で溶解若しくは懸濁し得る滅菌の固体若しくは乾燥組成物として調製し得る。
【0186】
一実施形態では、本発明の第1及び第2の態様の組成物は、単一の予混合製剤として(例えば、バイアル又はシリンジにより)供給し得る。しかし、別の実施形態では、組成物は、個別に供給する(例えば、2つのバイアル又は2つのシリンジにより)が、キットでは、投与の直前又はこの時点で混合する、2つの発現ベクターを含む。
【0187】
従って、第7の態様では、第1の態様に従って定義する第1及び第2の発現ベクター、及び任意選択で、使用説明書を含む部分のキットを提供する。
【0188】
部分のキットは、第1の発現ベクターを含む第1の容器を含み得る。部分のキットは、第2の発現ベクターを含む第2の容器を含み得る。第1及び/又は第2の容器は、バイアル、シリンジ、エッペンドルフ等であり得る。例えば、シリンジは、予充填シリンジであり得る。キットは、投与前にベクターを混合し得る混合容器を含み得る。或いは、一方のベクターを、他方のベクターを保持する容器に移してもよく、ここでこれらを混合し得る。或いは、ベクターを別々に投与するが、これらが対象において同時に治療的に活性であるのに十分なように同時間に投与し得る。使用説明書には、好ましくは、適切な場合、ベクターの混合方法、及び投与量を記載する。
【0189】
第1の発現ベクター対第2の発現ベクターの比率は、好ましくは、約50:50であり得るが、5:95、10:90、20:80、30:70、60:40、40:60、70:30、80:20、90:10又は95:5であってもよい。
【0190】
第7の態様のキットは、療法において、好ましくは、パーキンソン病、DOPA反応性ジストニア、血管性パーキンソン症、パーキンソン病のためのL-DOPA治療と関連する副作用、L-DOPA誘発性ジスキネジア、瀬川症候群、又はドーパミン受容体遺伝子異常を治療、予防、又は回復させるために使用可能であることが理解される。
【0191】
別の態様では、第1の発現ベクターが、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)をコードする自己相補性コード配列に動作可能に結合するプロモーターを含み、第2の発現ベクターが、GTPシクロヒドロラーゼ1(GCH1)をコードするコード配列を含む、第1及び第2の発現ベクターを含む組成物を提供する。
【0192】
本発明は、そのバリアント又は断片を含む、本明細書において言及する配列のいずれかのアミノ酸又は核酸配列を実質的に含む、任意の核酸若しくはペプチド、又はこのバリアント、誘導体若しくは類似体に及ぶことが理解される。「実質的アミノ酸/ヌクレオチド/ペプチド配列」、「バリアント」及び「断片」の用語は、本明細書において言及する配列のいずれか1つのアミノ酸/ヌクレオチド/ペプチド配列との少なくとも40%の配列同一性、例えば、配列番号1~29として同定された配列との40%の同一性等を有する配列であり得る。
【0193】
また、言及する配列のいずれかに対して65%を越える、より好ましくは、70%を越える、更により好ましくは、75%を越える、尚より好ましくは、80%を越える配列同一性となる、配列同一性を有するアミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列を想定する。好ましくは、アミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列は、言及する配列のいずれかとの少なくとも85%の同一性、より好ましくは、少なくとも90%の同一性、更により好ましくは、少なくとも92%の同一性、更により好ましくは、少なくとも95%の同一性、更により好ましくは、少なくとも97%の同一性、更により好ましくは、少なくとも98%の同一性、最も好ましくは、本明細書において言及する配列のいずれかとの少なくとも99%の同一性を有する。
【0194】
当業者は、2つのアミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列間のパーセント同一性の算出方法を理解する。2つのアミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列間のパーセント同一性を算出するために、2つの配列のアラインメントを最初に作成した後、配列同一性の値を算出しなければならない。2つの配列のパーセント同一性は、(i)配列のアラインメントに使用する方法、例えば、ClustalW、BLAST、FASTA、Smith-Waterman(種々のプログラムにより実行)、又は3D比較による構造アラインメント、並びに(ii)アラインメント方法により使用されるパラメーター、例えば、ローカル対グローバルアラインメント、使用されるペアスコアマトリックス(例えば、BLOSUM62、PAM250、Gonnet等)、及びギャップペナルティ、例えば、関数形式及び定数に応じて種々の値を取り得る。
【0195】
アラインメントを生成したところで、2つの配列間のパーセント同一性を算出する多くの異なる方法が存在する。例えば、一方法では、同一性の数を(i)最も短い配列の長さ、(ii)アラインメントの長さ、(iii)配列の平均の長さ、(iv)非ギャップ位置の数、又は(v)オーバーハングを除く等しい位置の数で割り得る。その上、パーセント同一性はまた、長さに強力に依存することが理解される。従って、一対の配列が短いほど、配列同一性が高く、偶然生じると予想され得る。
【0196】
従って、タンパク質又はDNA配列の正確なアラインメントは、複雑なプロセスであることが理解される。一般的な多重アラインメントプログラムであるClustalW(Thompsonら、1994、Nucleic Acids Research、22、4673~4680頁; Thompsonら、1997、Nucleic Acids Research、24、4876~4882頁)は、本発明によるタンパク質又はDNAの多重アラインメントの生成に好ましい方法である。ClustalWに適するパラメーターは、次のとおりであり得る。DNAアラインメントでは、ギャップオープンペナルティ=15.0、ギャップエクステンションペナルティ=6.66及びマトリックス=Identity。タンパク質アラインメントでは、ギャップオープンペナルティ=10.0、ギャップエクステンションペナルティ=0.2及びマトリックス=Gonnet。DNA及びタンパク質アラインメントでは、ENDGAP=-1及びGAPDIST=4。当業者は、最適な配列アラインメントのために、これら及び他のパラメーターを変えることが必要であり得ることを認識する。
【0197】
次いで、好ましくは、2つのアミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列間のパーセント同一性の算出は、このようなアラインメントから(N/T)×100として算出してもよく、式中、Nは、配列が同一残基を共有する位置の数であり、Tは、ギャップを含み、オーバーハングを含むか又は除いて比較した位置の総数である。好ましくは、オーバーハングは、算出に含む。従って、2つの配列間のパーセント同一性を算出するための最も好ましい方法は、(i)例えば、上に示される、パラメーターの適するセットを使用する、ClustalWプログラムを使用して配列アラインメントを作成する工程と、(ii)次の式:配列同一性=(N/T)×100にN及びTの値を代入する工程とを含む。
【0198】
類似の配列を同定するための代替方法は、当業者に公知である。例えば、実質的に類似のヌクレオチド配列は、ストリンジェントな条件下でDNA配列又はこれらの補体にハイブリダイズする配列によりコードされる。ストリンジェントな条件は、およそ45℃の3×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中でフィルタに結合したDNA又はRNAに、ヌクレオチドをハイブリダイズさせた後、およそ20~65℃の0.2×SSC/0.1%SDSにより少なくとも1回洗浄することを意味する。或いは、実質的に類似のポリペプチドは、例えば、配列番号1~29に含まれるアミノ酸配列に示される配列と少なくとも1つ以上5、10、20、50又は100個未満のアミノ酸が異なり得る。
【0199】
遺伝子コードの縮重のために、本明細書に記載の核酸配列が、これによりコードされるタンパク質配列に実質的に作用することなく変動又は変化し、これによって、この機能性バリアントがもたらされ得ることが明らかである。適するヌクレオチドバリアントは、配列内の同一アミノ酸をコードする種々のコドンの置換により変化した配列を有し、従って、サイレント変化がもたらされるバリアントである。他の適するバリアントは、相同のヌクレオチド配列を有するが、置換するアミノ酸に類似の生物物理学的特性である側鎖を有するアミノ酸をコードする種々のコドンの置換により変化し、これによって保存的変化がもたらされる配列の全部又は一部を含むバリアントである。例えば、小型の非極性疎水性アミノ酸としては、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン及びメチオニンが挙げられる。大型の非極性疎水性アミノ酸としては、フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンが挙げられる。極性の中性アミノ酸としては、セリン、トレオニン、システイン、アスパラギン及びグルタミンが挙げられる。正荷電(塩基性)アミノ酸としては、リジン、アルギニン及びヒスチジンが挙げられる。負荷電(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられる。従って、類似の生物物理学的特性を有するアミノ酸と置換し得るアミノ酸が理解され、当業者は、このようなアミノ酸をコードするヌクレオチド配列を理解している。
【0200】
本明細書に記載する特徴(任意の添付の特許請求の範囲、要約、及び図面を含む)の全て並びに/又はこのように開示する任意の方法若しくはプロセスの工程の全ては、このような特徴及び/又は工程の少なくとも一部が相互に排他的である組合せを除く任意の組合せにより、上記の態様のいずれかと組み合わせ得る。
【実施例
【0201】
背景
本発明では、TH及びGCH1のin vivoでの発現に最適な発現カセット(及びカセットを内包するベクター)を決定することを目指す。試験の目的は、SH-SY5Y(ヒト神経細胞)に3つの異なる濃度の5つの異なるプラスミドをin vitroでトランスフェクトし、レポーター遺伝子EGFPの発現を解析することであった。このような構築物では、THの配列は、EGFPを置換して、GFP蛍光の測定による形質導入効率の比較を可能とした。
【0202】
(実施例1)
材料及び方法
P13のSH-SY5Y細胞をSigma-Aldrich社から得、2mMのL-グルタミンを含む10%FBS DMEM:F12中で培養してP15で保存した。計5つのトランスフェクション実験を行って、条件を最適化した。簡潔には、SH-SY5Y細胞を1ウェルあたり20,000細胞で96ウェルプレートに凍結状態から直接播種し、24時間培養した。培地を採取し、無血清の基礎培地DMEM:F12中にTransFast試薬対プラスミドDNA比1:1でTransFast試薬を使用してトランスフェクションを行った。プラスミドは、以下のTable1(表1)に示されるようにコードA~Eに割り当てた。トランスフェクションは、TransFast試薬のために提供された説明書に従って、当量24ウェルあたり0.5μg、0.75μg及び1.0μgを使用して行った。Evenらによる公表文献では、0.75μgを使用したことに留意されたい。TransFastプラスミド混合物計40μlを96ウェルプレートの各ウェルに加え、1時間インキュベートした。トランスフェクション試薬プラスミド混合物の算出は、以下のTable2(表2)に示される。1時間後、TransFastプラスミド混合物を採取し、10%FBS DMEM:F12増殖培地200μlを加えて2日間インキュベートした。
【0203】
【表1】
【0204】
構築物A及びDは、1本鎖AAVプラスミドであった。
【0205】
構築物B及びCは、自己相補性AAVプラスミドであった。
【0206】
図1図9を参照すると、本明細書に記載する構築物の種々の実施形態のプラスミドマップを示す。図6(配列番号17)は、ヒト切断THをコードする第1の発現ベクターの好ましい一実施形態のプラスミドマップを例示し、図7(配列番号18)は、ヒトGCH-1をコードする第2の発現ベクターのマップを示す。
【0207】
【表2】
【0208】
1条件あたり計8ウェルをトランスフェクトした。2日のインキュベーション後、細胞を温かいPBSにより1×200μlで穏やかに洗浄した。1条件あたり2ウェル(各96ウェルプレートの上の2列)を、PBS中4%のスクロースを含む4%のパラホルムアルデヒドで15分間固定した。次いで、ウェルをPBSにより1×200μlで洗浄し、PBS100μl中に保存した。Tecan社のプレートリーダーにより励起フィルタ485nm及び発光フィルタ535nmを使用して96ウェルプレートの上の2列をスキャンすることによって蛍光プレート解析を行った。データは、トランスフェクトウェルから非トランスフェクトウェルシグナルを減算することにより示す(n=2)。
【0209】
他の全てのウェルでは、1×SDS PAGEサンプル緩衝液(NuPage、Invitrogen社)を用いて1ウェルあたり30μlを加え、上下にピペットを操作してゲノムDNAを溶解することにより溶解した。各条件について6ウェルを1つのチューブに混合し、5分間煮沸した後、細胞溶解物50μlを4~12%のNuPage Bis-Trisゲルに添加して、MESランニング緩衝液による電気泳動によって分離させた。ゲルのウエスタンブロットは、ブロット転写緩衝液及び10%のメタノールを使用するNovexMiniブロットモジュールにおいてニトロセルロース膜上で実施した。分子量予染色マーカーを使用して、転写を確認した(EZ-Run予染色マーカー、Fisher社)。簡潔には、膜を一晩乾燥させ、0.05%のTween20を含むPBS(PBST)中5%の脱脂粉乳でブロッキングした。膜は、ウサギ抗egfpポリクローナル抗体(Invitrogen社CAB4211)をPBSTによる1:250希釈で用いて1時間調べ、次いで、PBSTにより3×5分洗浄した。膜は、1:2500希釈の二次抗ウサギIgG HRP(Invitrogen社cat#31460)により1時間インキュベートし、次いで、PBSTにより3×5分洗浄した。次いで、Thermo Fisher社の比色分析用DAB Substrate Kit Cat#34002を使用して15分間ウエスタンブロットを展開した。
【0210】
結果
第1のデータセット
図10Aに示されるように、ウエスタンブロットでは、EGFPの正確で明白な分子量37KDaのバンドが示された。プラスミド構築物Bでは、バンドは、0.5μg~1.0μgで明らかに可視である。条件E1では、1ゲルあたり10ウェルしか存在しなかったため、これをゲル上で実行しなかったことに留意されたい。A、B及びCは、対照の非トランスフェクト細胞である。また、GFP発現のレベルを、蛍光プレートリーダーを使用して決定した(図10B)。
【0211】
第2のデータセット
図11A及び図11Bに示されるように、第2のデータセットにより、第1のデータセットの知見が確認される。即ち、構築物B(プラスミドID:VB200507-1054ety 構築物:pscAAV[Exp]CBh>EGFP:WPR E3/SV40)により、EGFPの最も高く用量依存的な発現が示され、構築物C((pscAAV[Exp]SYN1>EGFP:WP RE3/SV40 pA))により、EGFPのはるかに低いが検出可能な発現が示される。この実験では、第1の実験において上のわずか2列をスキャンしたこととは対照的に(n=2)、全プレートをスキャンしたことに留意されたい(n=8)。構築物Aでは、検出可能な発現が存在したが、1μg/mlのドキシサイクリンとともにインキュベートした構築物Eでは、発現は見い出されなかった。
【0212】
ウエスタンブロット解析では、最初よりも高量のサンプルを添加してシグナルを増加させた。加えて、はるかに良好に画像化されるため、TMBを使用してブロットを展開した。ウエスタンブロットでは、図11Aに示されるように、構築物B及び構築物Cにおいて発現が強力に検出される。しかし、1μg/mlのドキシサイクリンとともにインキュベートした構築物Eでは、発現の検出は、バックグラウンドより少し高いだけであった。これは、更に高濃度のドキシサイクリンが必要とされるが、これには、多くの細胞株において、ドキシサイクリンが毒性>2μg/mlであるため、毒性実験を必要とするということであり得る。更に高量の添加及びTMB検出により、構築物AにおけるEGFPの発現は、バックグラウンドよりも少し可視である。構築物Dでは、EGFPの発現は検出されない(Conは対照、MWは分子量マーカー)。
【0213】
要約
試験の目的は、SH-SY5Y(ヒト神経細胞)に3つの異なる濃度の5つの異なるプラスミドをin vitroでトランスフェクトし、レポーター遺伝子EGFPの発現を解析してin vivoでの試験及び療法に最良の発現カセットを決定することであった。SH-SY5Yは、継代15(P15)で、96ウェルプレートにおいて0.5μg、0.75μg及び1μg(24ウェルに対して当量)のTransFast試薬によりトランスフェクトし、定性的にウエスタンブロット及び定量的に蛍光プレートリーダーの両方によって解析した。
【0214】
結果は、自己相補性プラスミドID:VB200507-1054ety構築物:pscAAV[Exp]CBh>EGFP:WPR E3/SV40(構築物B)が、検査した5つ全てのプラスミドのうちでEGFPを最も高く発現したことを示す。その上、ウエスタンブロット及び蛍光プレートリーダーの両方により、EGFPの発現が用量依存的であり、0.5μgから1μgに増加した。EGFPの発現は、唯一の他のプラスミド、即ち、自己相補性pscAAV[Exp]SYN1>EGFP:WP RE3/SV40 pAによって、更に低いレベルで観察された。
【0215】
(実施例2)
パイロット試験-MPTP障害マカクにおいてチロシンヒドロキシラーゼの発現に対するAAV-TH/GCH1の能力を評価する
試験概要
試験は、被殻の3つの部位にわたって投与後、被殻においてTH発現を増加させるAAV-TH/GCH1の能力を評価する非GLP試験であった。
【0216】
MPTPは、1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジンであり、パーキンソン病を誘発する。試験の1日目(D-7)に、それまでに全身的MPTPにより障害され、L-DOPAにより可逆的な著しい運動障害を示す、雌のカニクイザルマカク1匹に、外科的標的を得るための解剖所見を画像化する目的で、T1加重MRIを行った。
【0217】
D0に、動物に定位的手術を行って、右被殻内の3つの部位にわたってAAV-TH/GCH1を投与した。左被殻には、溶媒を投与した。
【0218】
D28に、ペントバルビタールを使用して動物を深く鎮静させ、ヘパリン化食塩水による失血によって屠殺した。
【0219】
迅速な採取後に脳をパラフィン包埋した後、ステンレス鋼のブレインマトリックス内に腹側を上にして配置した。脳を4mm間隔で分割して、線条体全体にわたってスラブを得た。各脳スラブのスライドをTH-IHCのために処理し、40×スライドスキャナー上で画像化した。
【0220】
生存中の全ての項目は、Atuka社の非ヒト霊長類研究所1336 Wuzhong Avenue、Suzhou、Jiangsu Province、PRCにおいて行った。
【0221】
方法及び材料
構築物
本発明の構築物、即ち、scAAV-TH/CGH1は、-80℃で保存した。
【0222】
溶媒
AAV-TH/CGH1の製剤化に使用した溶媒は、5%のソルビトールを有するPBSであった。
【0223】
畜産
試験は、IACUC認可のもとに行った。マカクは、Suzhou Xishan Zhongke Laboratory Animal Company(Xishan island、Jiangsu province、PRC)から得た。動物は、1ケージあたり動物2~3匹による群で飼育した。ケージサイズは、UK、EU、NIH及びCCAC推奨の最小サイズ152(w)×136(d)×192(h)cmを超えた。飼育室は、同一性の動物のみを含む部屋において12時間の明暗サイクル(明は7a.m.)、気温20~26℃に供した。新鮮な果物、霊長類用ペレット及び水は、自由に利用可能であった。
【0224】
動物は、技術を有するスタッフにより取り扱い、ホームケージから観察ケージに定期的に移した。動物IDは、個別に刻んだ金属タグの首輪と、動物ID(Plexx、モデルIPTT-300)によりコードされた皮下移植した応答装置とによっても同定した。動物は、試験期間を通じて毎週秤量した。
【0225】
ウイルスベクターの外科的送達
MRI
各動物及び各標的のための外科的座標を算出する目的のために、T1加重3T MRIを実施した。動物をゾレチル(4~6mg/kg、IM)/アトロピン(0.04mg/kg、IM)で麻酔した。十分に鎮静させると、動物を手術フレーム上に載せ、手術のため同一配向で動物の背中をフレーム内に配置するために座標を記録した。フレーム内に入れると、動物をMRIスキャナー内に配置し、脳にわたって0.3mm厚の水平スライスを得た。画像は、外部のハードドライブ上に保存し、Osirix画像化ソフトウェアに送信して観察し、外科的標的を導出した。このプロセスの一部には、神経解剖学的症状の任意の異常(例えば、腫瘍、非対称性の異常)に注目するための脳の定性的点検が含まれた。
【0226】
手術(D0)
AAVベクターの定位注射を無菌条件のイソフルラン麻酔下で実施した。全ての頭蓋注射は、定位的ヘッドホルダーにより動物に実施した。全ての手術のための詳細な定位座標は、それぞれの動物の各MRIスキャンから手術前に算出した。無菌での準備の後、頭皮の標的領域にわたって切開を行い、皮膚、筋肉、及び筋膜の開口部を固定して頭蓋表面を露出させた。単一で大型の両側頭蓋穿孔を標的領域にわたって行った。次いで、硬膜の所望の注射部位上に小さく切開を行い、ハミルトンシリンジ(26G)の先端を所望の部位まで下げてマイクロインジェクションを行った。AAVを含む注射を1.0μL/分の速度及び15μLの容量で被殻の各半球の3つの部位に行った(AC+1、AC-2及びAC-5mm)。各部位では、2つの異なる深さで2回沈着させた。針は、各注射の後、更に5分間、位置を維持した後、非常に緩徐に取り除いて次の部位に移動させた。注射後、露出した硬膜をゼルフォームで覆い、6-0モノフィラメントによる結節縫合によって切開部を閉じた。手術直前(アンピシリン、160mg/kg、IM)及びその後2×/日で3日間、動物に抗生物質処置を行った。
【0227】
手術後、疼痛管理のために、動物に5日間(1回/日、0.1mg/kg、PO)メロキシカムを投与した。術後期間中、動物を注意深く監視した(以下詳細を参照)。
【0228】
処置
実験では、動物1匹を含んだ。詳細は、以下の表に見出すことができる。
【0229】
【表3】
【0230】
脳組織調製
D28に、動物をホームケージから移し、NSD1015(用量及び経路は未決定)を投与して30分後に剖検を行った。次いで、ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg、IV)の過剰投与により動物を深く鎮静させた。
【0231】
胸腔を迅速に開き、14Gカテーテルを上行大動脈に挿入し、下行大動脈を心臓の裏側でクランプし、右心房内に切開を行って、戻ってきた静脈血を排出させた。灌流ポンプを使用して、氷冷したヘパリン化0.9%食塩水(10000IU/L)およそ200mlを100ml/分の速度で灌流した。次いで、脳を採取し、腹側を上にして予冷した氷冷ブレインマトリックス内に配置した。4mm厚の脳スラブを線条体全体に及び作製し、スラブのうちの1つから、単一穿孔の被殻を両半球から採取して-80℃で保存した。次いで、組織のスラブを10%のホルマリンに48時間浸漬した後、パラフィンに包埋した。次いで、組織切片をスライドガラス上に作製して免疫組織化学的検査を行った。
【0232】
死後の処置
チロシンヒドロキシラーゼ組織学的検査
スライドガラスに載せた両半球の5μm厚のパラフィン包埋切片では、スライドを脱パラフィンし、次のように再水和した:100%キシレンで2回(各5分)、100%エタノールで2回(各3分)、95%エタノールで1回(1分)、70%エタノールで1回(1分)、2回蒸留水で2回(各3分)。熱誘導抗原回復を、スライドをクエン酸緩衝液中で20分間インキュベートした後、およそ20分間室温で冷却することにより実施した。PBSによる3回の洗浄後、内因性ペルオキシダーゼを0.6%の過酸化水素水によりクエンチし、バックグラウンド染色を10%正常ヤギ血清/2%ウシ血清アルブミン0.1%TritonPBS溶液により阻害した。次いで、組織を一次抗体:マウス抗TH抗体(1:50、ThermoFisher社No. 185)とともに一晩インキュベートした。PBSによる3回の洗浄後、切片をビオチン化ヤギ抗マウスIgG(1:500、Jackson Immuno Research Laboratories、West Grove、PA、Cat.No.111-065-144)により1時間、室温で順次インキュベートした。PBSによる3回の洗浄後、切片をEliteアビジン-ビオチン複合体(ABCキット、Vector社、Burlingame、Ca、Cat.No.PK-6101)とともに30分間インキュベートした。3,3ジアミノベンジジン(DABキット、Vector社、Burlingame、Ca、Cat.No.SK-4100)による15分の反応の後に免疫染色を可視化した。切片を乾燥させ、段階的アルコール(70%、95%、100%)により脱水、キシレンにより清澄化し、DEPEX封入培地(Electron Microscopy Sciences社、Hatfield、PA、Cat.No.13514)を用いてカバーガラスを被せた。各スライドを拡大率40×でデジタル的にスキャンすると(Aperio XT、Leica社)、画像が作成される。
【0233】
結果
図17~19を参照すると、マウス抗TH抗体(1:50、ThermoFisher社、No.185)で染色したMPTP障害マカク脳の冠状切片を示す。THを発現する線維及び細胞体は、茶色に染色される。THの発現が、scAAV-htTH及びscAAV-GCH1の組合せを注射した領域において実証される。
【0234】
考察
この試験を行ったのは、バイシストロン性ベクターを用いた形質導入により、PDのMPTPマカクモデルにおいて免疫組織化学的検査により検出されるのに十分なTH発現を形質導入する他の研究者によるこれまでの試み、即ち、Cederfjall, E.らContinuous DOPA synthesis from a single AAV: dosing and efficacy in models of Parkinson's disease. Sci Rep-uk 3、(2013)が失敗したためであり、ここで著者は、「組織学的検査による遺伝子導入TH発現不全及びDOPA及び微小透析によるドーパミン産生不全の理由は、現時点で不明のままである。しかし、この問題には、この手法を利用する臨床試験開始前の解決が必要とされる。」と述べている。
【0235】
対照的に、本明細書に記載の試験は、請求する発明により、等価な免疫組織化学的検出を使用して、MPTP障害マカク被殻においてTHの十分な発現が容易に検出されたことを実証する。
【0236】
(実施例3)
MPTP障害マカクの行動に対するscAAV5-htTH及びscAAV5-GCH1の1:1の組合せの作用の評価
目的
この試験の目的は、被殻に一側的に投与したscAAV-TH及びscAAV-GCH1の1:1混合物の、MPTP曝露による既存の運動障害を有する動物における到達タスクに関する対側性運動能力を改善させる能力を評価することであった。
【0237】
動物福祉
試験は、CCACガイドラインに従い、IACUC認可の動物使用プロトコール(AUP)のもとに行った。
【0238】
試験概要
試験のために選択した動物は、MPTPの全身投与によってそれまでに障害されており、L-DOPA療法に感受性の安定な両側性運動障害を示す。調べる行動タスクには、到達タスク(サル運動評価パネル、mMAP)及び独立的に、全身的自発運動活性の観察ケージ処置(2時間の受動型赤外線活性監視及び24時間にわたるActicalの使用による評価)が含まれた。
【0239】
行動評価(mMAP及び活性)は、手術前に毎週2回を3週間(計6回観察)及び毎週2回、手術後2週間毎を手術後3カ月の間(計12回観察)行った。
【0240】
試験のD-20日目に、外科的標的を得るための解剖所見を画像化する目的で、全ての動物にT1加重MRIを行った。
【0241】
D1に、動物に定位的手術を行って、右被殻内の3つの部位にわたってAAV-TH及びAAV-GCH1の1:1混合物を投与した。
【0242】
方法及び材料
scAAV-TH及びscAAV-GCH1を-80℃で保存して室温に出した後、5%のソルビトールを有するPBSにより同時注入を行った。
【0243】
マカクは、Suzhou Xishan Zhongke Laboratory Animal Company(Xishan island、Jiangsu province、PRC)から得た。動物を実験環境に順応させた。動物は、1日1回の0.2mg/kgのMPTPの皮下注射を8~12日間、パーキンソン病の症候が最初に出現するまで投与することによりパーキンソン病とした。この時点後、パーキンソン症候群は、およそ30日にわたって中等度から著明なレベルに達し、安定化した。MPTPの更なる投与を一部の動物に行って、群にわたって個体において同程度のパーキンソン症に用量設定した。マカクは、最短で更に30日間、パーキンソン症が安定であると実証されるまで回復させた。
【0244】
MPTP投与開始後60日に、L-DOPA(25mg/kg)を、1日2回、少なくとも2カ月間、経口投与した。L-DOPAは、デカルボキシラーゼ阻害剤ベンセラジド(マドパー(商標)として)とともに与える。この処置により、ジスキネジアを含む運動変動の発症が引き起こされる。この試験のために選択されれば、動物には、更なる定期的L-DOPA投与は行わない。
【0245】
各動物及び各標的のための外科的座標を算出する目的のために、T1加重3T MRIを実施した。動物をゾレチル(4~6mg/kg、IM)/アトロピン(0.04mg/kg、IM)で麻酔した。十分に鎮静させると、動物を手術フレーム上に載せ、手術のため同一配向で動物の背中をフレーム内に配置するために座標を記録した。フレーム内に入れると、動物をMRIスキャナー内に配置し、脳にわたって0.3mm厚の水平スライスを得た。画像は、外部のハードドライブ上に保存し、Osirix画像化ソフトウェアに送信して観察し、外科的標的を導出した。
【0246】
AAVベクターの定位注射を無菌条件のイソフルラン麻酔下で実施した。2つのAAVベクターの混合物を含む注射は、2.0μL/分の速度で注入ポンプにより行う(Pump 11 Elite Nanomite Programmable Syringe Pump、Harvard Apparatus社)。針は、WIPO特許番号、国際公開第2006/042090号(Kankiewicz及びSommer)に記載の構成に基づいた。積層した2つの沈着物であるそれぞれのAAV混合物15μLは、3つの軌道に沿って等しく間隔をあける。3つの軌道は、被殻の前交連、交連、及び後交連に配置する。従って、AAV混合物計90μLを各動物の右被殻に沈着させる。針の先端を標的部位に配置して近位に沈着させ(待機時間1分)、その後、カニューレ前進術、及び遠位の沈着における注入(待機時間5分)を行った。
【0247】
手術直前(アンピシリン、160mg/kg、IM)及びその後2×/日で3日間、動物に抗生物質処置を行った。手術後、疼痛管理のために、動物に5日間(1回/日、0.1mg/kg、PO)メロキシカムを投与した。
【0248】
【表4】
【0249】
行動
試験の主要エンドポイントは、動物のホームケージにおいて、到達タスクを使用して評価した右及び左上肢の運動機能が良好であることであった。試験開始前に、動物は、図20に例示するサル運動解析パネルにより(mMAP;Gash DMら、J Neurosci Methods. 1999; 89:111~7頁. KoW Ltd、Mississauga、ON、Canadaにより記載のものと本質的に等価)、右及び左手を使用して、正の強化因子(キャンディー)を回収するように訓練されていた。
【0250】
実験者が、mMAPにおけるキャンディー(Lifesaver社)を動物のホームケージの外側の動物の手が届く範囲内の位置に置くと、試験が始まった。動物がキャンディーを回収し(「回収時間」)、ホームケージ内に腕を戻すのに要した時間を、最大カットオフ45秒により、所与の処置を目隠しした観察者によるビデオ記録の解析によって、事後評価した。3つの上昇レベルの障害を遂行する動物の能力を評価し、ここでは、Lifesaver社のおやつをmMAP容器の底面上(レベルB)、容器(C)内の真直ぐなピン上、又は最も難しくは、容器内の湾曲したフック上(D)のいずれかに配置する。MAP検査は、生じたデジタルビデオファイルにより、処置の割当て又は手術する側面を目隠しした第三の評価者が、回収時間の測定を独立的に反復して見ることが可能となるように、ビデオに記録した。
【0251】
結果
図21を参照すると、mMAP処置前対後における変化を示す。見ることができるように、処置により、同側腕と比較して対側腕におけるベースライン到達時間のパーセントとしての到達時間において有意に(p=0.018)大きな削減が生じた。対側腕の到達時間における削減は、障害された半球におけるL-DOPA産生の増加と一貫する(観察された同側腕における到達時間の増加は、未解明であり、偶然のためであり得るか、又は非処置MPTP障害動物において生じることがわかっているドーパミンD2受容体増加の一部の回復を反映し得る。到達時間のパーセント削減は、同側腕において変化が想定されなかったとしても有意性(p=0.052)に近づく。)
【0252】
総合的結論
パーキンソン症候群は、脳の線条体におけるドーパミン産生の不全に起因することがわかっている。ドーパミンの産生には3つの酵素、即ち、チロシンヒドロキシラーゼ[TH]、GTPシクロヒドロラーゼ1[GCH]及びアミノ酸デカルボキシラーゼ[AADC]が必要である。このような酵素を産生する1、2又は3つの遺伝子を導入することにより、線条体におけるドーパミンの産生を回復させる遺伝子療法を使用することによって、パーキンソン病の症候緩和を提供する、前臨床及び臨床試験を含む複数の試みがなされている。しかし、現在まで、このような試みのいずれによっても最適解はもたらされていない。
【0253】
本明細書に開示の発明は、チロシンヒドロキシラーゼ及びGTPシクロヒドロラーゼ1の形質導入をコードする好ましくは2つの自己相補性AAVウイルスベクターの同時投与を線条体への実質内注射に具体化する。PDのMPTP NHPモデルの被殻へのTH及びGCH1だけ(AADCは有しない)の形質導入を使用する唯一公表された試験とは対照的に、本発明では、免疫組織化学的検査により検出可能なTHの発現が生じた。動物モデル又は患者の線条体に一方又は両方の遺伝子を注射してパーキンソン病の運動症候を低減させる、多くの試験がこれまでに公表されていたにもかかわらず、本明細書に記載の組成物は、これまでには全く記載されていなかった。重要なことには、2つのモノシストロン性自己相補性AAVベクターの新規の同時投与は、明白な戦略として考えられていなかった。本発明により生じる有効性の増強及び製品原価の削減は、驚くべきものであり、臨床的に重要である。
【0254】
発明者は、2つの自己相補性AAVベクターのパーキンソン病治療としての同時投与は、公表文献において、他の任意の公のソースには言及がないことを見出した。
【0255】
本発明の有効性及び経済的利点は、次の理由から有利であり、驚くべきものである。
(i)これまでの2つの公表された手法では、AADCと組み合わせてTH及びGCHを同時投与しており、これは、パーキンソン病の動物モデルの運動症候における改善の結果であった。このような両手法では、TH及びGCHの同時投与を組み込むが、AADCとの同時投与を行わない場合、このいずれによっても、TH及びGCHの使用が有効であることは実証されなかった。これは、非ヒト霊長類及びヒトにおける別々の試験により、臨床的パーキンソン病の進展におけるAADC減少の重要性が強調され、AADC単独の線条体への実質内注射後にパーキンソン病における著しい症候の改善が実証されたために重要である。3つ全ての遺伝子を、3つのモノシストロン性AAVベクター又は単一のトリシストロン性レンチベクターのいずれかとして同時投与した公表文献に基づけば、AADCの非存在下で投与したTH及びGCHの有効性を予測することは不可能である。
【0256】
(ii)一連の前臨床試験により、TH及びGCHの導入遺伝子を保有する1本鎖モノシストロン性AAVベクターの同時投与によって、6ヒドロキシドーパミン障害ラットの線条体に直接投与した場合、運動能力の改善が生じることが実証された。しかし、この手法は、大型動物又はヒトにおいて更には調査されず、研究者らは、「有効性の伝達及び導入遺伝子発現をin vitroでのアッセイにより予測することが困難であり、臨床的生成が非常に厄介となるため、いくつかの制限を有する」と判断した。第2に、包括的規模では2つの遺伝子にわたる発現パターンが類似しているように思われ得るが、個々の細胞における2つのベクターのコピー数が大幅に変動することがあり、このため、様々な段階のDOPA合成が生じる。加えて、この作用が悪化し、多くの細胞に遺伝子が1つも導入されないか又は唯一導入され、これにより、合成されるとすれば制限されたDOPA合成が呈され得る。その上、同一血清型を保有する種々のベクターの同時投与は、標的細胞上の同一結合部位に対してベクター間で競合するリスクを有すると仮定された。最終的かつ重要なことには、2つの個別のAAVベクターを必要とする療法の製品原価は、単一のバイシストロン性ベクターを必要とする療法よりも著しく高いとも判断された。このような理由から、研究者らは、TH及びGCHの両方を送達するバイシストロン性ベクターの開発に転換した。
【0257】
(iii)その後、一連の試験により、バイシストロン性1本鎖[即ち、非自己相補性]AAVベクターによるTH及びGCHの投与によって、ラットにおけるパーキンソン病運動症候が改善することが実証された。この手法により、パーキンソン病の6ヒドロキシドーパミンラットモデルにおいて運動症候の完全な回復がもたらされたが、非ヒト霊長類モデルに規模を拡大した場合、中程度の改善のみがもたらされた。これは、処置した非ヒト霊長類の線条体におけるTHの発現が辛うじて識別可能なほど低かったこと(免疫組織化学的検査により評価)と一貫した。実現可能な最も高用量のバイシストロン性ベクターにおいてこのような知見が観察されたため、この製剤の開発は終結され、臨床試験には進まなかった。実際、もたらされた公表文献では、著者は、「組織学的検査による遺伝子導入TH発現不全及びDOPA及び微小透析によるドーパミン産生不全の理由は、現時点で不明のままである。しかし、この問題には、この手法を利用する臨床試験開始前の解決が必要とされる。」と述べている。このような知見以来、TH及びGCHだけのこの二重使用を意味する更なる試験は公表されておらず、この手法は、十分には効果的でないために放棄されていたと思われる。
【0258】
(iv)この徴候のための2つの自己相補性AAVベクターの同時投与は新規であり、これにより、チロシンヒドロキシラーゼの形質導入の著明な増強が、予測できなかった程度まで生じる。MPTP障害非ヒト霊長類における有効性の明らかな証拠により、次の2つの自己相補性モノシストロン性ベクターの同時投与が実証された。
【0259】
(v)本発明では、パーキンソン病を治療することを意図するベクターには適用されていなかったCBhプロモーターを使用する。CBhプロモーターは、パーキンソン病を治療することを意図するこれまでのベクターにおいて使用するプロモーターに対して、次の利点をもたらす。即ち、(1)長さが短いことにより、自己相補性AAV構築物においてプロモーター及び導入遺伝子の組合せを収容することが可能となる。(2)これまでのモノシストロン性構築物において広く使用されるCMVプロモーターよりも発現抑制の傾向が少ない。(3)ニューロン特異性を欠くことにより、星状膠細胞及びグリア細胞の形質導入が可能となり、線条体内のこのような細胞による更なるDOPA産生の可能性が上昇する。(4)CBhプロモーターは、切断ニワトリベータ-アクチンイントロン及びマウス微小ウイルス(MVM)イントロンの両方を含み、これらはともにスペーサーとして作用し、これによって遺伝子発現が増加する。
【0260】
(vi)重要なことには、本発明によって、ヒト霊長類により有効性の上昇が観察され、これは、2つの個別の自己相補性ベクターの用量が、これまでに研究されたバイシストロン性因子の[中程度に]有効な量よりも50%を超えて低いものである。この驚くべき知見は、もたらされた治療製剤の製品原価に対して著しく有望で有益な影響を有する。
図1
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図10B
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図11B
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図20
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【配列表】
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【国際調査報告】