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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】電気化学装置及び電子装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20231220BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20231220BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20231220BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20231220BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20231220BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20231220BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20231220BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20231220BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20231220BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20231220BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0566
H01M4/13
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M4/58
H01M4/136
H01M4/587
H01M4/133
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554641
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(85)【翻訳文提出日】2022-09-09
(86)【国際出願番号】 CN2021131471
(87)【国際公開番号】W WO2023087209
(87)【国際公開日】2023-05-25
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徐春瑞
(72)【発明者】
【氏名】周邵▲雲▼
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ04
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AL07
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ05
5H029HJ07
5H029HJ08
5H029HJ20
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA10
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB08
5H050DA02
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA17
(57)【要約】
本発明は、電気化学装置及び電子装置に関するものである。本発明の電気化学装置は正極、負極、セパレータ及び電解液を含み、電解液がリチウム塩、有機溶剤及び添加剤を含み、ここで、電解液の常温電気伝導率をb mS/cmとし、一枚の前記正極の片面の塗布重量をa g/1540.25mmとしたとき、aとbは、関係式b≧50.859a-16.044a+8.2071、0.2≦a≦0.55を満たす。該電気化学装置は、改善された長期サイクル特性、高温保存特性を有し、同時に良好な充電池性能及びエネルギー効率を維持することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、セパレータ及び電解液を含み、
前記電解液がリチウム塩、有機溶剤及び添加剤を含み、
前記電解液の常温電気伝導率をb mS/cmとし、前記正極の片面の塗布重量をa g/1540.25mmとしたとき、aとbは、関係式b≧50.859a-16.044a+8.2071を満たし、0.2≦a≦0.55である、電気化学装置。
【請求項2】
b≦20である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項3】
前記電解液の総質量に対する前記リチウム塩の質量分率をc%としたとき、cとaは、
0.2≦a≦0.4のとき、関係式c≧1707a-1393.9a+391.4a-30.28を満たし、
0.4<a≦0.55のとき、関係式12.5≦c≦16.25を満たす、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項4】
前記電解液の総質量に対する前記リチウム塩の質量分率をc%としたとき、cは、関係式6.25≦c≦18.75を満たす、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項5】
前記添加剤は、フルオロカーボネートを含み、
前記電解液の総質量に対する前記フルオロカーボネートの質量分率をd%としたとき、dとaは、関係式10a-3≦d≦4、0.3≦a≦0.55を満たす、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項6】
前記有機溶剤は、炭素数が5以下の有機溶剤を含み、且つ電解液の総質量に対する前記炭素数が5以下の有機溶剤の質量分率は30%以上である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項7】
炭素数が5以下且つ沸点が120℃以下の有機溶剤は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン及びエチレングリコールジメチルエーテルのうちの少なくとも一種を含む、請求項6に記載の電気化学装置。
【請求項8】
前記電解液は、エチレンカーボネートをさらに含む、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項9】
前記添加剤は、S=O官能基含有化合物を含み、
前記S=O官能基含有化合物は、1,3-プロパンスルトン、エチレンスルファート、メチレンメタンジスルホネート、プロペンスルトン、4-メチル-1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド及び1,4-ブタンスルトンからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項10】
電解液の総質量に対するS=O官能基含有化合物の質量分率は0.01%~3%である、請求項9に記載の電気化学装置。
【請求項11】
前記電解液は、
(I)炭素数が5以下且つ沸点が120℃以下の有機溶剤とエチレンカーボネートとの質量比が0.75~3であることと、
(II)エチレンカーボネートとヘキサフルオロリン酸リチウムとの質量比が0.031~0.343であることと、
(III)炭素数が5以下且つ沸点が120℃以下の有機溶剤とヘキサフルオロリン酸リチウムとの質量比が1.8~7.0であることと、
のうちの少なくとも1つの条件を満たす、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項12】
前記リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、過塩素酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドからなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記添加剤は、リチウム含有添加剤を含み、前記リチウム含有添加剤は、LiPO、LiDFOB、LiBOB、LiBF、BLi、LiBO、及びCFLiOSからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項13】
前記正極は
(A)前記正極は正極活物質層を含み、前記正極活物質層の圧縮密度が1.7g/cm~2.5g/cmであることと、
(B)前記正極は正極活物質を含み、前記正極活物質がリン酸鉄リチウム及びリン酸マンガン鉄リチウムのうちの少なくとも一種を含むことと、
(C)前記正極は正極活物質を含み、前記正極活物質の粒子のD50が0.5μm~2.0μmであることと、
(D)前記正極は正極活物質を含み、前記正極活物質のBETが8m/g~25m/gであることと、
のうちの少なくとも1つの条件を満たす、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項14】
前記負極は、黒鉛材料を含み、前記黒鉛材料は、
(E)前記黒鉛材料のBETが0.9m/g~1.7m/gであることと、
(F)前記黒鉛材料のD50が12μm~20μmであることと、
(G)前記黒鉛材料のラマンId/Igが0.25~0.5であることと、
(H)前記黒鉛材料がAl、Fe、Cu、Zn、Cr、Si、Na、P、及びSのうちの1種又は複数種を含むことと、
のうちの少なくとも1つの条件を満たす、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかに記載の電気化学装置を含む、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵分野に関し、具体的には、電気化学装置及び電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン電池は、電気自動車、家電製品、エネルギー貯蔵装置等の分野で広く使用されている。そして、リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、メモリー効果がないことから、上記分野の電池の主流になっている。特に、電気自動車、マイクロ動力及びエネルギー貯蔵産業は急速な発展期に入り、リチウムイオン電池の応用に幅広い展望をもたらしている。リン酸鉄リチウム正極材料自体の特性により、それで形成された電池は安全性が高く、使用寿命が長く、高温性能が高く、コストが低く、環境にやさしいという特性を備えている。そのため、当該電池は、他のタイプのリチウムイオン電池に比べて大きな利点及び応用の見通しを有する。前記電池の相対的な寿命が比較的長いにもかかわらず、動力電池及びエネルギー貯蔵分野の電池の使用寿命に対する要求がますます高くなるにつれて、低コストでリチウムイオン電池の保存特性、サイクル特性、安全性能、動的性能をさらに向上させることは依然として重要な価値を有する。
【0003】
エネルギー密度を向上させ、集電体、セパレータ等の部品の使用を低減させてコストを削減するために、極片の単位面積当たりの塗布重量及び圧縮密度を向上させることは必然的な選択となる。しかし、塗布重量及び圧縮密度を向上させた後、大容量セルの浸潤不良、保液不足、速すぎたサイクル減衰、低温充電でのリチウム析出、使用後期でのリチウム析出、高抵抗による温度上昇の増加等の課題が生じ、深刻な寿命短縮及び安全リスクをもたらす。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、従来技術に存在する問題の解決を目的として、改善された長期サイクル特性、高温保存特性を有し、同時に良好な充電池性能及びエネルギー効率を保持することができる電気化学装置を提供する。
【0005】
第1の態様では、本発明は、正極、負極、セパレータ及び電解液を含む電気化学装置であって、電解液は、リチウム塩、有機溶剤及び添加剤を含み、電解液の常温電気伝導率をb mS/cmとし、正極の片面の塗布重量をa g/1540.25mmとしたとき、aとbは、関係式b≧50.859a-16.044a+8.2071を満たし、0.2≦a≦0.55である電気化学装置を提供する。本発明において、常温電気伝導率は、20℃~30℃の範囲内の温度で測定して得られた電気伝導率である。本発明のいくつかの実施形態によれば、常温電気伝導率は25℃で測定して得られた電気伝導率である。
【0006】
本発明は、電解液の常温電気伝導率と正極の片面の塗布重量との関係を限定することにより、正極材料の塗布重量及び圧縮密度を向上させることによる浸潤不良、膜形成不十分、サイクル中の「ダイビング(diving)」、及び充電ウィンドウ(charging window)が狭すぎるという問題を解決する。電解液の常温電気伝導率と正極の片面の塗布重量とが上記関係を満たすことにより、超高エネルギー密度を実現しつつ、優れた使用寿命を実現する電気化学装置を得ることができる。
【0007】
本発明のいくつかの実施形態によれば、b≦20である。
【0008】
本発明のいくつかの実施形態によれば、電解液の総質量に対するリチウム塩の質量分率をc%としたとき、cとaは、0.2≦a≦0.4のとき、関係式c≧1707a-1393.9a+391.4a-30.28を満たし、0.4<a≦0.55のとき、関係式12.5≦c≦16.25を満たす。本発明のいくつかの実施形態によれば、0.2≦a≦0.4、c≧1707a-1393.9a+391.4a-30.28である。本発明の他のいくつかの実施形態によれば、電解液の総質量に対するリチウム塩の質量分率をc%としたとき、cとaは、関係式0.4<a≦0.55、12.5≦c≦16.25を満たす。
【0009】
本発明のいくつかの実施形態によれば、電解液の総質量に対するリチウム塩の質量分率をc%としたとき、6.25≦c≦18.75である。本発明のいくつかの実施形態によれば、8.75≦c≦16.25である。本発明のいくつかの実施形態によれば、12.5≦c≦16.25である。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態によれば、リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、過塩素酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)からなる群から選択される一種又は複数種である。本発明のいくつかの実施形態によれば、前記リチウム塩は、LiPFを含む。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態によれば、添加剤はフルオロカーボネートを含む。フルオロカーボネートは電気化学装置のフォーメーション過程において負極の表面に安定なSEI膜を形成することができ、電解液中の他の成分の負極の表面での還元分解を抑制することができ、それによって電気化学装置のサイクル特性を向上させる作用を果たし、同時に保存及びサイクル過程におけるガス発生を抑制することができる。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態によれば、電解液の総質量に対するフルオロカーボネートの質量分率をd%としたとき、dとaは、関係式10a-3≦d≦4を満たす。本発明のいくつかの実施形態によれば、10a-3≦d≦4であり、且つ0.3≦a≦0.55である。本発明のいくつかの実施形態によれば、フルオロカーボネートがフルオロエチレンカーボネートである。フルオロエチレンカーボネートの質量分率が低すぎる場合、負極の表面のSEIに対する強化効果が顕著ではなく、電気化学装置のサイクル特性に対する改善が顕著ではない。フルオロエチレンカーボネートの質量分率が4%より高い場合、フルオロエチレンカーボネートが分解してより多くのHFを生成し、逆にSEIの腐食を悪化させ、同時にその低い電気化学的安定性は、セルのガス発生を引き起こしやすい。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態によれば、有機溶剤は炭素数が5以下且つ沸点が120℃以下の有機溶剤を含む。本発明のいくつかのさらなる実施形態によれば、電解液の総質量に対する前記炭素数が5以下且つ沸点が120℃以下の有機溶剤の質量分率は30%以上である。炭素数が5以下且つ沸点が120℃以下の有機溶剤は低粘度及び高誘電率を有し、電解液の浸潤性能を顕著に向上させ、保液性を向上させ、SEI膜形成品質を改善することができる。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態によれば、炭素数が5以下且つ沸点が120℃以下の有機溶剤は、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル(PA)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、ギ酸メチル(MF)、ギ酸エチル(EF)、ギ酸プロピル(PF)、テトラヒドロフラン(THF)、1,3-ジオキソラン(1,3-DOL)、及びエチレングリコールジメチルエーテル(DME)のうちの少なくとも一種を含む。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態によれば、電解液は、エチレンカーボネート(EC)をさらに含む。エチレンカーボネートを加えることによりリチウムイオン電池のサイクル寿命をさらに向上させることができ、同時に電解液の分解によるガス発生を抑制し、安全性能を向上させ、より長いサイクル寿命を実現することができる。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態によれば、電解液は、(I)炭素数が5以下且つ沸点が120℃以下の有機溶剤とエチレンカーボネートとの質量比が0.75~3であることと、(II)エチレンカーボネートとヘキサフルオロリン酸リチウムとの質量比が0.031~0.343であることと、(III)炭素数が5以下且つ沸点が120℃以下の有機溶剤とヘキサフルオロリン酸リチウムとの質量比が1.8~7.0であることとのうちの少なくとも1つの条件を満たす。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態によれば、添加剤は、S=O官能基含有化合物を含み、前記S=O官能基含有化合物は、1,3-プロパンスルトン(PS)、エチレンスルファート(DTD)、メチレンメタンジスルホネート(MMDS)、プロペンスルトン(PES)、4-メチル-1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド(PCS)、及び1,4-ブタンスルトン(BS)からなる群から選択される少なくとも一種である。本発明のいくつかの実施形態によれば、電解液の総質量に対するS=O官能基含有化合物の質量分率が0.01%~3%である。本発明のいくつかの実施形態によれば、電解液の総質量に対するS=O官能基含有化合物の質量分率が0.1%~3%である。S=O官能基含有化合物の質量分率が0.1%より低い場合、S=O官能基含有化合物が正負極の表面のSEIの形成に対する影響が不十分であり、リチウムイオン電池の保存及び高温保存に対する改善が顕著ではない。S=O官能基含有化合物の質量分率が3%より高い場合、正負極界面での膜形成の抵抗が大きすぎ、充放電特性、特に低温での充放電特性を悪化させる。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態によれば、添加剤は、リチウム含有添加剤を含み、前記リチウム含有添加剤は、LiPO、LiDFOB、LiBOB、LiBF、BLi、LiBO及びCFLiOSからなる群から選択される少なくとも一種である。本発明のいくつかの実施形態によれば、電解液の総質量に対するリチウム含有添加剤の質量分率が0.01%~3%である。リチウム含有添加剤の質量分率が0.01%より低い場合、リチウム含有添加剤が負極のパッシベーションに対する影響が不十分であり、電気化学装置のサイクル特性に対する改善が顕著ではない。リチウム含有添加剤の質量百分率含有量が3%より高い場合、リチウム含有添加剤が負極のパッシベーション効果を顕著に向上させず、同時に電解液のコストを増加させ、コストパフォーマンスが高くない。しかし、LiFSI、LiTFSIの使用量を増加し続けることで、電解液の電気伝導率を顕著に向上させ、電気化学装置の動力学を改善することができる。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記正極は、(A)前記正極は正極活物質層を含み、正極活物質層の圧縮密度が1.7g/cm~2.5g/cmであることと、(B)前記正極は正極活物質を含み、前記正極活物質がリン酸鉄リチウム及びリン酸マンガン鉄リチウムのうちの少なくとも一種を含むことと、(C)前記正極は正極活物質を含み、正極活物質の粒子のD50が0.5μm~2.0μmであることと、(D)前記正極は正極活物質を含み、正極活物質のBETが8m/g~25m/gであることとのうちの少なくとも1つの条件を満たす。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態によれば、負極は黒鉛材料を含む。本発明のいくつかの実施形態によれば、黒鉛材料は、(E)黒鉛材料のBETが0.9m/g~1.7m/gであることと、(F)黒鉛材料のD50が12μm~20μmであることと、(G)黒鉛材料のラマンId/Igが0.25~0.5であることと、(H)黒鉛材料がAl、Fe、Cu、Zn、Cr、Si、Na、P及びSのうちの1種又は複数種を含むこととのうちの少なくとも1つの条件を満たす。本発明のいくつかの実施形態によれば、黒鉛材料は、上記の条件(E)~(H)のうちの少なくとも2つまたは少なくとも3つを満たす。本発明のいくつかの実施形態によれば、黒鉛材料は上記条件(E)、(F)、(G)、(H)を同時に満たす。
【0021】
第2の態様では、本発明は、第1の態様の電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0022】
本発明が提供する電気化学装置は、電解液を最適化し、電解液の動力学を向上させ、膜形成の抵抗を低下させることにより、電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)の長寿命及び安全性能を顕著に向上させることができ、それによって、コストを削減し、それに非常に高いコストパフォーマンスを備えさせる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。本発明の実施例は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0024】
「うちの少なくとも一種」という用語によって接続された項目のリストは、リストされた項目の任意の組み合わせを意味することができる。例えば、項目A及びBがリストされている場合、「A及びBのうちの少なくとも一種」という短い表現は、Aのみ、Bのみ、またはA及びBを意味する。他の実例では、項目A、B、及びCがリストされている場合、「A、B、及びCのうちの少なくとも一種」という短い表現は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、A及びB(Cを除く)、A及びC(Bを除く)、B及びC(Aを除く)、またはA、B、及びCのすべてを意味する。項目Aは、単一の要素または複数の要素を含んでいてもよい。項目Bは、単一の要素または複数の要素を含んでいてもよい。項目Cは、単一の要素または複数の要素を含んでいてもよい。
【0025】
本発明者は研究及び広範な実験的検証により、リン酸鉄リチウム系電池については、エネルギー密度を向上させ、コストを低減させるために、極片の単位面積あたりの塗布重量及び圧縮密度を向上させると、セルの浸潤不良、保液不足、速すぎたサイクル減衰、低温充電でのリチウム析出、使用後期でのリチウム析出、高抵抗による温度上昇の増加等の課題が生じ、深刻な寿命短縮及び安全リスクをもたらし、更に、容量の増加に伴い、リスクが著しく拡大することを発見した。本発明は電解液の常温電気伝導率と正極の片面の塗布重量との関係を限定することにより、正極材料の塗布重量及び圧縮密度を向上させることによる浸潤不良、膜形成不十分、サイクルダイビング及び充電ウィンドウが狭すぎるという問題を解決する。
【0026】
第1の態様では、本発明は、正極、負極、セパレータ及び電解液を含む電気化学装置であって、電解液はリチウム塩、有機溶剤及び添加剤を含み、電解液の常温電気伝導率をb mS/cmとし、正極の片面の塗布重量をa g/1540.25mmとしたとき、aとbは、関係式b≧50.859a-16.044a+8.2071を満たし、0.2≦a≦0.55である電気化学装置を提供する。本発明において、常温電気伝導率は、20℃~30℃の範囲内の温度で測定して得られた電気伝導率である。本発明のいくつかの実施形態によれば、常温電気伝導率は25℃で測定して得られた電気伝導率である。電解液の常温電気伝導率と正極の片面の塗布重量とが上記関係を満たすことにより、超高エネルギー密度を実現しつつ、優れた使用寿命を実現する電気化学装置を得ることができる。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態によれば、b≦20である。本発明のいくつかの実施形態によれば、8≦b≦20である。いくつかの実施例において、bは、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20であり、またはこれらの値のいずれか2つからなる範囲にある。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態によれば、電解液の総質量に対するリチウム塩の質量分率をc%としたとき、cとaは、0.2≦a≦0.4のとき、関係式c≧1707a-1393.9a+391.4a-30.28を満たし、0.4<a≦0.55のとき、関係式12.5≦c≦16.25を満たす。本発明のいくつかの実施形態によれば、0.2≦a≦0.4、c≧1707a-1393.9a+391.4a-30.28である。本発明の他のいくつかの実施形態によれば、電解液の総質量に対するリチウム塩の質量分率をc%としたとき、cとaは、関係式0.4<a≦0.55、12.5≦c≦16.25を満たす。リチウム塩の濃度を適度に増加させることで、厚い極片による濃度分極の増大、負極界面におけるダークスポット及びリチウム析出の問題を低減させることができる。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態によれば、電解液の総質量に対するリチウム塩の質量分率をc%としたとき、6.25≦c≦18.75である。本発明のいくつかの実施形態によれば、8.75≦c≦16.25である。本発明のいくつかの実施形態によれば、12.5≦c≦16.25である。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態によれば、リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、過塩素酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)からなる群から選択される一種又は複数種である。本発明のいくつかの実施形態によれば、前記リチウム塩は、LiPFを含む。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態によれば、添加剤は、フルオロカーボネートを含み、フルオロカーボネートの含有量をd%としたとき、dとaは、関係式10a-3≦d≦4を満たす。本発明のいくつかの実施形態によれば、添加剤は、フルオロカーボネートを含み、フルオロカーボネートの含有量をd%としたとき、dとaは、関係式10a-3≦d≦4、且つ0.3≦a≦0.55を満たす。本発明のいくつかの実施形態によれば、フルオロカーボネートがフルオロエチレンカーボネート(FEC)である。フルオロエチレンカーボネートを加えることにより負極界面に低抵抗のSEIを形成することができ、且つ使用過程において良好な自己修復を行い、サイクル過程におけるリチウム析出、クスポットの発生を抑制し、超長サイクル寿命を実現することができる。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態によれば、有機溶剤は、炭素数が5以下且つ沸点が120℃以下の有機溶剤を含み、且つ電解液の質量に対する炭素数が5以下且つ沸点が120℃以下の有機溶剤の質量分率は30%以上である。本発明のいくつかの実施形態によれば、炭素数が5以下且つ沸点が120℃以下の有機溶剤がジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル(PA)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、ギ酸メチル(MF)、ギ酸エチル(EF)、ギ酸プロピル(PF)、テトラヒドロフラン(THF)、1,3-ジオキソラン(1,3-DOL)、及びエチレングリコールジメチルエーテル(DME)のうちの少なくとも一種を含む。炭素数が5以下且つ沸点が120℃以下の有機溶剤は低粘度及び高誘電率を有し、電解液の浸潤性能を顕著に向上させ、保液性を向上させ、SEI膜形成品質を改善することができる。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態によれば、電解液は、エチレンカーボネートをさらに含む。エチレンカーボネートを加えることにより、リチウムイオン電池のサイクル寿命をさらに向上させることができ、同時に電解液の分解によるガス発生を抑制し、安全性能を向上させ、より長いサイクル寿命を実現することができる。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態によれば、電解液は、(I)炭素数が5以下且つ沸点が120℃以下の有機溶剤とエチレンカーボネートとの質量比が0.75~3であることと、(II)エチレンカーボネートとヘキサフルオロリン酸リチウムとの質量比が0.031~0.343であることと、(III)炭素数が5以下且つ沸点が120℃以下の有機溶剤とヘキサフルオロリン酸リチウムとの質量比が1.8~7.0であることとのうちの少なくとも1つの条件を満たす。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態によれば、添加剤は、S=O官能基含有化合物を含む。S=O官能基含有化合物を加えることにより、リチウムイオン電池のサイクル寿命をさらに向上させることができ、同時に電解液の分解によるガス発生を抑制し、安全性能を向上させ、より長いサイクル寿命を実現することができる。本発明のいくつかの実施形態によれば、電解液の総質量に対するS=O官能基含有化合物の質量分率が0.01%~3%である。本発明のいくつかの実施形態によれば、電解液の総質量に対するS=O官能基含有化合物の質量分率が0.1%~3%である。S=O官能基含有化合物の質量分率が0.1%より低い場合、S=O官能基含有化合物が正負極の表面のSEIの形成に対する影響が不十分であり、リチウムイオン電池の保存及び高温保存に対する改善が顕著ではない。S=O官能基含有化合物の質量分率が3%より高い場合、正負極界面での膜形成の抵抗が大きすぎ、充放電特性、特に低温での充放電特性を悪化させる。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記S=O官能基含有化合物は、1,3-プロパンスルトン(PS)、エチレンスルファート(DTD)、メチレンメタンジスルホネート(MMDS)、プロペンスルトン(PES)、4-メチル-1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド(PCS)、及び1,4-ブタンスルトン(BS)からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態によれば、添加剤は、LiPO、LiDFOB、LiBOB、LiBF、BLi、LiBO及びCFLiOSのうちの少なくとも一種を含む。このようなリチウム塩含有添加剤を加えることにより、リチウムイオン電池のサイクル寿命をさらに向上させることができ、同時に電解液の分解によるガス発生を抑制し、安全性能を向上させ、より長いサイクル寿命を実現することができる。本発明のいくつかの実施形態によれば、電解液の総質量に対するリチウム含有添加剤の質量分率が0.01%~3%である。リチウム含有添加剤の質量分率が0.01%より低い場合、リチウム含有添加剤が負極のパッシベーションに対する影響が不十分であり、電気化学装置のサイクル特性に対する改善が顕著ではない。リチウム含有添加剤の質量百分率含有量が3%より高い場合、リチウム含有添加剤が負極のパッシベーション効果を顕著に向上させず、同時に電解液のコストを増加させ、コストパフォーマンスが高くない。しかし、LiFSI、LiTFSIの使用量を増加し続けることにより、電解液の電気伝導率を顕著に向上させ、電気化学装置の動力学を改善することができる。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記正極は、(A)前記正極は正極活物質層を含み、正極活物質層の圧縮密度が1.7g/cm~2.5g/cmであることと、(B)前記正極は正極活物質を含み、前記正極活物質がリン酸鉄リチウム又はリン酸マンガン鉄リチウムのうちの少なくとも一種を含むことと、(C)前記正極は正極活物質を含み、正極活物質の粒子のD50が0.5μm~2.0μmであることと、(D)前記正極は正極活物質を含み、正極活物質のBETが8m/g~25m/gであることと、のうちの少なくとも1つの条件を満たす。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態によれば、正極は正極活物質層を含み、正極活物質層の圧縮密度が1.7g/cm~2.5g/cmである。本発明のいくつかの実施形態によれば、正極は正極活物質を含み、正極活物質は、リン酸鉄リチウム及びリン酸マンガン鉄リチウムのうちの少なくとも一種を含む。本発明のいくつかの実施形態によれば、正極は正極活物質を含み、正極活物質の粒子のD50が0.5μm~2.0μmである。本発明のいくつかの実施形態によれば、正極は正極活物質を含み、正極活物質のBETが8m/g~25m/gである。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態によれば、正極は、集電体と、該集電体上に位置する正極活物質層とを含む。いくつかの実施例において、集電体はアルミニウムを含むが、それに限定されていない。いくつかの実施例において、正極活物質層は、リン酸鉄リチウム又はリン酸マンガン鉄リチウムのうちの少なくとも一種を含む。正極活物質層は、粘着剤をさらに含み、選択的に導電材をさらに含むことができる。粘着剤は、正極活物質粒子同士の密着を向上させ、また、正極活物質と集電体との密着を更に向上させるためのものである。いくつかの実施例において、粘着剤は、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、カルボキシル化されたポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、エチレンオキシドを含むポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル(エステル)化されたスチレンブタジエンゴム、エポキシ樹脂又はナイロン等を含むが、それらに限定されていない。いくつかの実施例において、導電材は、炭素による材料、金属による材料、導電性重合体及びそれらの混合物を含むが、それらに限定されない。いくつかの実施例において、炭素による材料は、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー又はそれらの任意の組み合わせから選択される。いくつかの実施例において、金属による材料は、金属粉末、金属繊維、銅、ニッケル、アルミニウム、又は銀から選択される。いくつかの実施例において、導電性重合体はポリフェニレン誘導体である。
【0041】
正極は、本分野での既知の調製方法によって調製されてもよい。例えば、正極は、溶剤に活物質、導電材及び粘着剤を混合し、活物質組成物を調製し、その活物質組成物を集電体上に塗工する方法によって得られることができる。いくつかの実施例において、溶剤はN-メチルピロリドンを含んでもよいが、これに限定されていない。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態によれば、負極は黒鉛材料を含む。本発明のいくつかの実施形態によれば、黒鉛材料は、(E)黒鉛材料のBETが0.9m/g~1.7m/gであることと、(F)黒鉛材料のD50が12μm~20μmであることと、(G)黒鉛材料のラマンId/Igが0.25~0.5であることと、(H)黒鉛材料がAl、Fe、Cu、Zn、Cr、Si、Na、P又はSのうちの1種又は複数種を含むことと、のうちの少なくとも1つの条件を満たす。本発明のいくつかの実施形態によれば、黒鉛材料は、上記の条件(E)~(H)のうちの少なくとも2つまたは少なくとも3つを満たす。本発明のいくつかの実施形態によれば、黒鉛材料は上記条件(E)、(F)、(G)、(H)を同時に満たす。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態によれば、負極は、導電剤及びバインダーをさらに含む。本発明のいくつかの実施形態によれば、導電剤は、炭素よる材料、金属よる材料、導電性重合体及びそれらの混合物を含むが、それらに限定されていない。いくつかの実施例において、炭素による材料は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー又はそれらの任意の組み合わせから選択される。いくつかの実施例において、金属による材料は、金属粉末、金属繊維、銅、ニッケル、アルミニウム、又は銀から選択される。いくつかの実施例において、導電性重合体はポリフェニレン誘導体である。本発明のいくつかの実施形態によれば、バインダーは、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、カルボキシル化されたポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、エチレンオキシドを含むポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル(エステル)化されたスチレンブタジエンゴム、エポキシ樹脂又はナイロン等を含むが、それらに限定されていない。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態によれば、負極は、集電体をさらに含み、負極活物質が集電体上に位置する。いくつかの実施例において、集電体は、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、発泡ニッケル、発泡銅、導電性金属で被覆された重合体基材、またはそれらの任意の組み合わせを含む。
【0045】
本発明の負極は、本分野での既知の方法によって調製されてもよい。一般的には、負極活物質及び任意に導電剤(例えば、カーボンブラック等の炭素材料及び金属粒子等)、バインダー(例えば、SBR)、及び他の任意の添加剤(例えば、PTCサーミスタ材料)等の材料を混合して共に溶媒(例えば、脱イオン水)に分散させ、均一に撹拌した後に負極集電体に均一に塗工し、乾燥させ、負極活性層を有する負極を得る。次に負極活性層を有する負極に対してリチウム補充処理を行い、本発明におけるリチウム補充負極を得る。負極集電体として、金属箔又は多孔質金属板などの材料を用いることができる。
【0046】
本発明の電気化学装置は、セパレータをさらに含み、本発明の電気化学装置に用いられるセパレータの材料及び形状は特に制限されず、先行技術に開示された任意の技術であってもよい。いくつかの実施例において、セパレータは、本発明の電解液に対して安定な材料で形成された重合体又は無機物等を含む。例えば、セパレータは、基材層及び表面処理層を含んでもよい。基材層は多孔質構造を有する不織布、フィルム又は複合フィルムであり、基材層の材料はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートおよびポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも一種である。具体的には、ポリプロピレン多孔質膜、ポリエチレン多孔質膜、ポリプロピレン不織布、ポリエチレン不織布又はポリプロピレン-ポリエチレン-ポリプロピレン多孔質複合膜を選択して使用することができる。基材層の少なくとも一つの表面上に表面処理層が設けられ、表面処理層は、重合体層又は無機物層であってもよく、重合体と無機物を混合して得られた層であってもよい。無機物層は、無機粒子及びバインダーを含み、無機粒子は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化スズ、酸化セリウム、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、炭化ケイ素、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び硫酸バリウムのうちの少なくとも1種を含む。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコキシ、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン及びポリヘキサフルオロプロピレンのうちの少なくとも1種を含む。重合体層は、重合体を含み、重合体の材料は、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、アクリル酸エステルの重合体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコキシ、ポリフッ化ビニリデン、ポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0047】
第2の態様では、本発明は、第1の態様の電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0048】
本発明の電子デバイス或いは装置は特に限定されていない。いくつかの実施例において、本発明の電子デバイスは、ノートコンピューター、ペン入力型コンピューター、モバイルコンピューター、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯型ファクシミリ、携帯型コピー機、携帯型プリンター、ステレオヘッドセット、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、携帯型CDプレーヤー、ミニディスク、トランシーバー、電子ノートブック、電卓、メモリーカード、ポータブルテープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、アシスト付自転車、自転車、照明器具、おもちゃ、ゲーム機、時計、電動工具、閃光灯、カメラ、大型家庭用ストレージバッテリー、及びリチウムイオンコンデンサーなどを含むが、これらに限定されていない。
【0049】
以下では、実施例を参照して、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明を説明するために使用され、本発明の範囲を制限するものではないことを理解すべきである。
【0050】
一、リチウムイオン電池の調製
実施例及び比較例におけるリチウムイオン電池はいずれも下記方法に従って調製される。
【0051】
1、正極片の調製
正極活物質であるリン酸鉄リチウム材料(LFP)、導電剤Super P、バインダーであるポリフッ化ビニリデンを重量比96.3:1.5:2.2で混合し、N-メチルピロリドン(NMP)を加え、真空撹拌機で系が均一で透明状になるまで撹拌し、正極スラリーを得、ここで、正極スラリーの固形分含有量が72wt%である。正極スラリーを正極集電体であるアルミニウム箔に均一に塗工し、アルミニウム箔を85℃で乾燥させ、次に冷間プレス、切片、裁断をしてから、85℃の真空条件下で4h乾燥させ、正極片を得た。
【0052】
2、負極片の調製
負極活物質である人造黒鉛、導電剤Super P、増粘剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、バインダーであるスチレンブタジエンゴム(SBR)を重量比96.4:1.5:0.5:1.6で混合し、脱イオン水を加え、真空撹拌機で撹拌して負極スラリーを得、ここで、負極スラリーの固形分含有量が54wt%である。負極スラリーを負極集電体である銅箔に均一に塗工し、銅箔を85℃で乾燥させ、次に冷間プレス、切片、裁断をしてから、120℃の真空条件下で12h乾燥させ、負極片を得た。
【0053】
3、電解液の調製
乾燥のアルゴン雰囲気のグローブボックスで、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)等を実施例および比較例に従って混合した後、添加剤を加えて溶解させ、十分に攪拌した後、リチウム塩であるLiPFを加えて均一に混合し、電解液を得た。
【0054】
4、セパレータの調製
厚さ7μmのポリエチレン(PE)セパレータを選択した。
【0055】
5、リチウムイオン電池の調製
セパレータが正極と負極との間に介在して隔離の役割を果たすように、正極、セパレータ、負極を順に積層した。そして、積層体を巻き取って電極パーツを得、タブを溶接した後に、電極パーツを外装箔であるアルミニウムラミネート中に置き、上記調製された電解液を乾燥後の電極パーツ中に注入し、真空パッケージ、静置、フォーメーション(0.02C定電流で3.3Vまで充電し、さらに0.1C定電流で3.6Vまで充電する。)、整形、容量測定等の工程を経て、ソフトパックリチウムイオン電池が得られた(厚さ3.3mm、幅39mm、長さ96mm)。
【0056】
二、リチウムイオン電池の測定過程
1、リチウムイオン電池のサイクル特性測定
リチウムイオン電池を25℃の恒温ボックスに入れ、30分間放置してリチウムイオン電池を恒温にした。恒温になったリチウムイオン電池を1Cの定電流にて、電圧が3.65Vになるまで充電し、そして3.65Vの定電圧にて、電流が0.05Cになるまで充電し、次に1Cの定電流にて、電圧が2.5Vになるまで放電し、それを一つの充放電サイクルとした。初回放電容量を100%とし、充放電サイクルを繰り返し、放電容量が65%に減衰した時点で測定を停止し、リチウムイオン電池のサイクル特性を評価する指標としてのサイクル回数を記録した。
【0057】
同時にリチウムイオン電池の45℃でのサイクル特性を測定し、測定方法は上記25℃サイクル特性測定と同じである。
【0058】
2、リチウムイオン電池の高SOC高温保存測定
リチウムイオン電池を25℃の恒温ボックスに入れ、30分間放置してリチウムイオン電池を恒温にした。1C定電流で3.65Vまで充電し、定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、次に1C定電流で2.5Vまで放電し、リチウムイオン電池の初期容量としての放電容量を記録した。その後、0.5C定電流で3.65Vまで充電し、定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、マイクロメータで測定して、電池の厚さを記録した。試験リチウムイオン電池を60℃の恒温ボックスに移して90日間保存し、その間に30日おきに電池の厚さを一回測定し、且つ電池を25℃の恒温ボックスに移し、60分間静置し、1C定電流で2.5Vまで放電し、リチウムイオン電池の残存容量としての放電容量を記録した。1C定電流で3.65Vまで充電し、定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、次に1C定電流で2.5Vまで放電し、リチウムイオン電池の回復可能容量としての放電容量を記録した。電池のTHK(厚さ)、OCV(開回路電圧)、IMP(抵抗)を測定した。1C DCで2.5Vになって、回復放電容量を記録し、リチウムイオン電池の高温保存特性を評価する指標として、リチウムイオン電池の保存残存容量維持率及び回復可能容量維持率を算出した。
残存容量維持率=(90日間保存後の残存容量-セルの初期容量)/セルの初期容量×100%
回復容量維持率=(90日間保存後の回復可能容量-セルの初期容量)/セルの初期容量×100%
【0059】
3、リチウムイオン電池の低0%SOC高温保存測定
リチウムイオン電池を25℃の恒温ボックスに入れ、30分間放置してリチウムイオン電池を恒温にした。1C定電流で3.65Vまで充電し、定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、次に1C定電流で2.5Vまで放電し、リチウムイオン電池の初期容量としての放電容量を記録した。その後、マイクロメータで測定して、電池の厚さを記録した。試験リチウムイオン電池を60℃の恒温ボックスに移して90日間保存し、その間に30日おきに電池の厚さを一回測定し、且つ電池を25℃の恒温ボックスに入れ、60分間静置し、1C定電流で3.65Vまで充電し、定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、次に1C定電流で2.5Vまで放電し、リチウムイオン電池の回復可能容量としての放電容量を記録した。電池のTHK(厚さ)、OCV(開回路電圧)、IMP(抵抗)を測定した。1C DCで2.5Vになって、リチウムイオン電池の0%SOC高温保存特性を評価する指標として、リチウムイオン電池の保存過程における厚さの膨張率を記録して計算した。
0%SOC保存厚さ膨張率=(90日間保存後の厚さ-セルの初期厚さ)/セルの初期厚さ×100%
【0060】
4、リチウムイオン電池の直流抵抗DCR(-10C)
リチウムイオン電池を-10℃の高温低温ボックスに置き、4時間静置してリチウムイオン電池を恒温にした。0.1C定電流で3.65Vまで充電し、3.65V定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、10分間静置した。次に、0.1C定電流で2.5Vまで放電し、このステップの容量を実際の放電容量D0として記録した。そして、5分間静置し、0.1C定電流で3.65Vまで充電し、3.65V定電圧で電流が0.05C(電流はD0の対応容量で計算する。)になるまで充電した。10分間静置し、0.1C定電流で3H放電し(電流はD0の対応容量で計算する。)、この時の電圧V1を記録した。続いて、1C定電流で1S放電し(100ms間隔でサンプリングし、電流がセルの表記容量に対応して計算する。)、この時の電圧V2を記録した。次に、セルの70%充電状態(SOC)に対応する直流抵抗(DCR)を以下の計算式により算出した。
70%SOC DCR=(V2-V1)/1C
【0061】
5、リチウムイオン電池のエネルギー変換効率RTE(25℃)
リチウムイオン電池を25℃の恒温ボックスに入れ、30分間放置してリチウムイオン電池を恒温にした。0.5C定電流で2.5Vまで放電し、15min静置した。0.5C定電流で3.65Vまで充電し、3.65V定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、60min静置し、次に0.5C定電流で2.5Vまで放電した。上記電流の大きさで連続的に3回充放電し、それぞれ充電及び放電エネルギーを記録し、且つ最後の1サイクルの充電エネルギーEc及び放電エネルギーEdでエネルギー変換効率を計算した。
エネルギー変換効率=放電エネルギーEd/充電エネルギーEc×100%
【0062】
6、リチウムイオン電池の充電性能測定(リチウム析出状況)
1)リチウムイオン電池を-10℃の高温低温ボックスに置き、30分間静置し、リチウムイオン電池を恒温にした。2)恒温になったリチウムイオン電池を0.5C定電流で電圧2.5Vまで放電した。3)10min静置後、0.1C定電流で電圧3.65Vまで充電し、その後、3.65V定電圧で電流が0.05Cになるまで充電した(充電容量Cを記録する)。4)10min静置後、0.5C定電流で電圧2.5Vまで放電し、10min静置後、0.025C定電流で電圧2.5Vまで放電し、続いて10min静置後、0.005C定電流で電圧2.5Vまで放電し、このステップの完全放電容量をDとして記録した。5)10min静置後、0.3C定電流で電圧3.65Vまで充電し、その後、3.65V定電圧で電流が0.05Cになるまで充電した。6)10min静置後、0.5C定電流で電圧2.5Vまで放電し、10min静置後、0.025C定電流で電圧2.5Vまで放電し、続いて10min静置後、0.005C定電流で電圧2.5Vまで放電した。7)ステップ5)、ステップ6)を12回繰り返し、最終回の完全放電容量をD12として記録した。リチウム析出量を充電性能を判断する根拠として計算し(リチウム析出量が低いほど、リチウム析出程度が軽微であり、リチウム析出量が0.3より低く、肉眼でリチウム析出が見えにくい。)、ここで、リチウム析出量の計算式は以下のとおりである。
リチウム析出量=(初回充電容量C-最終回放電容量D12)/初回充電容量C
【0063】
7、リチウムイオン電池の常温放電温度上昇(25℃)
リチウムイオン電池を25℃の恒温ボックスに入れ、30分間放置してリチウムイオン電池を恒温にした。0.5C定電流で2.5Vまで放電し、15min静置した。0.5C定電流で3.65Vまで充電し、3.65V定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、60min静置し、次に6C定電流で2.5Vまで放電し、電池放電過程におけるセルの外表面の真中心箇所の温度Tを記録し、且つ温度増加値(T-25℃)を計算した。
【0064】
8、リチウムイオン電池の充電性能測定
25℃で電池を0.5Cで2.5Vまで放電し、1C定電流で6.5Vまで充電し、さらに定電圧で3h充電し、セルの表面温度変化(合格基準はセルが発火せず、燃焼せず、爆発しないことである。)を監視した。
【0065】
9、電解液の電気伝導率測定(25℃)
電解液を25℃の恒温水浴器に入れて1時間保温し、電気伝導率計を用いて常温電気伝導率測定を行い、且つデータを記録した。(試験中は温度を一定に保つ)
【0066】
10、電解液の表面張力測定(25℃)
電解液を25℃の恒温水浴器に入れて1時間保温し、表面張力計を用いて常温表面張力測定を行い、且つデータを記録した。(試験中は温度を一定に保つ)
【0067】
三、測定結果
1、電解液の電気伝導率の電池性能への影響
実施例1-1~1-20及び比較例1-1~1-6の正極の片面の塗布重量、電解液常温(25℃)電気伝導率のパラメータ及び電池性能データは表1に示す。
【0068】
【表1-1】
【0069】
【表1-2】
【0070】
【表1-3】
【0071】
表1の実施例及び比較例から明らかなように、電解液の電気伝導率が高いほど、動力学が良好になり、厚塗布でのサイクル特性が良好になり、抵抗が低くなり、リチウム析出程度が低減し、高電流での放電温度上昇が低くなり、電解液の界面張力が小さくなり、浸潤が容易になる。
【0072】
2、リチウム塩の含有量と正極塗布重量との関係が電池性能に与える影響
実施例2-1~2-8及び比較例2-1~2-6の正極の片面の塗布重量、電解液におけるリチウム塩のパラメータ及び電池性能データは表2に示す。
【0073】
【表2-1】
【0074】
【表2-2】
【0075】
表2の実施例及び比較例から明らかなように、電解液におけるリチウム塩の含有量が高いほど(16.25%以内)、濃度分極が小さくなり、動力学が良好になり、厚塗布でのリチウム析出程度が低減し、SEI分解が遅くなり、負極の紫斑現象が軽微になり、サイクル特性が良好になり、抵抗が低下し、高電流での放電温度上昇が低くなる。
【0076】
3、フルオロカーボネート添加剤が電池性能に与える影響
実施例3-1~実施例3-29の電解液のパラメータ及び電池性能データは表3に示す。
【0077】
【表3-1】
【0078】
【表3-2】
【0079】
【表3-3】
【0080】
表3の実施例及び比較例から明らかなように、厚塗布の場合、FEC含有量を適度に増加させることにより、サイクル特性が良好になり、抵抗が低下し、高電流での放電温度上昇が低くなる。これは主に、FECを増加させると、負極界面に安定な低抵抗SEIが形成され、リチウム析出程度が軽微になり、SEI分解が遅くになり、負極紫斑が軽微になるためである。
【0081】
4、炭素数が5以下且つ沸点が120℃以下の有機溶剤が電池性能に与える影響
実施例4-1~4-29及び比較例4-1~4-4の電解液のパラメータ及び電池性能データは表4に示す。
【0082】
【表4-1】
【0083】
【表4-2】
【0084】
【表4-3】
【0085】
表4の実施例及び比較例から明らかなように、塗布重量が増加するにつれて、セルのサイクル特性、充電池性能、放電温度上昇、エネルギー変換効率が著しく悪化する。厚塗布の場合、高動力学溶媒(30wt%以上)を導入することで、セルのサイクル特性、充電池性能、放電温度上昇が顕著に改善される。これは主に、塗布重量が大きい場合、電解液の浸潤が極めて困難になり、充放電過程における分極が極めて大きく、初期SEI膜の形成が不十分であることを引き起こしやすく、サイクル過程において負極の表面にリチウムが絶えず析出し、活性リチウムの損失をもたらし、それにより容量が急速に減衰するためである。EMC、DMC、EA、MA、EP、DME等の高動力学溶媒を導入することで、電極は短時間内に十分な浸潤を実現することができ、負極の界面に均一なSEIが形成され、且つ分極が低下し、リチウム析出が抑制され、SEI分解が遅くなり、負極の紫斑が軽微になり、サイクル特性がよくなり、抵抗が低下し、高電流での放電温度上昇が著しく低下する。
【0086】
5、S=O含有化合物添加剤が電池性能に与える影響
実施例5-1~実施例5-11及び比較例5-1の電解液のパラメータ及び電池性能データは表5に示す。
【0087】
【表5-1】
【0088】
【表5-2】
【0089】
表5の実施例及び比較例から分かるように、厚塗布の場合、S=O含有化合物を加えることにより、サイクル特性、保存後の容量維持率、保存ガス発生の抑制、安全性能がいずれも顕著に向上する。これは主に、厚塗布の場合、SEIの分解が速く、サイクルのダイビングが発生しやすく、セルの使用寿命を短縮させるためである。S=O含有化合物は正負極の表面に熱的安定性と化学的安定性が良好な保護膜を形成することができ、電極と電解液の副反応を抑制し、優れたサイクル安定性及び保存安定性(ガス発生の抑制と容量維持率の向上)及び動的性能、安全性能を実現することができる。スルホン酸エステル化合物と高動力学溶媒とを組み合わせることにより、高動力学溶媒による保存ガス発生を著しく抑制することができ、比較的高い動力学を保持する前提で、比較的優れた使用寿命と安全性能を実現することができる。
【0090】
例示的な実施例が開示及び説明されたが、当業者は、上記した実施例が本発明を限定するものとして解釈されないこと、かつ、本発明の技術思想、原理、及び範囲から逸脱しない場合に実施例への改変、置換及び変更が可能であること、を理解すべきである。
【国際調査報告】