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特表2023-554233シトクロムP 450突然変異体タンパク質及び使用
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  • 特表-シトクロムP  450突然変異体タンパク質及び使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】シトクロムP 450突然変異体タンパク質及び使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20231220BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20231220BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231220BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231220BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231220BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231220BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231220BHJP
   C12P 7/18 20060101ALI20231220BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C12N15/09 Z ZNA
C12N15/53
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P7/18
C12N15/10 200Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023529131
(86)(22)【出願日】2021-11-16
(85)【翻訳文提出日】2023-07-10
(86)【国際出願番号】 CN2021130830
(87)【国際公開番号】W WO2022105729
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】202011285843.2
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523419118
【氏名又は名称】生合万物(上海)生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】周 志華
(72)【発明者】
【氏名】王 平平
(72)【発明者】
【氏名】嚴 興
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AC16
4B064CA19
4B064CB12
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】本発明は、シトクロムP 450(CYP 716 A 53 v 2)突然変異体タンパク質及びその使用を提供する。
【解決手段】前記突然変異としては、野生型CYP 716 A 53 v 2タンパク質を元に、F 167 V、T 451 A、I 117 S、L 208 Cからなる群から選ばれるサイトまたはその組み合わせで突然変異を行う。突然変異されて得られるCYP 716 A 53 v 2突然変異体は、酵素触媒活性が向上し、プロトパナキサトリオールの生産量を高めることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトクロムP450 CYP716A53v2のアミノ酸配列を突然変異することを含むシトクロムP450 CYP716A53v2の触媒活性を向上する方法であって、
野生型シトクロムP 450 CYP 716 A 53 v 2に対応して、突然変異は次の群のサイト又はその組み合わせから選ばれる:第167位、第451位、第117位、第208位、
ことを特徴とする、シトクロムP450 CYP716A53v2の触媒活性を向上する方法。
【請求項2】
第167位の突然変異は、Val、第451位の突然変異は、Asn、第117位の突然変異は、Ser、第208位の突然変異は、Cysである、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(a)アミノ酸配列は野生型シトクロムP 450 CYP 716 A 53 v 2に対応し、次の群から選ばれるサイト又はサイトの組み合わせが突然変異したタンパク質:第167位、第451位、第117位、第208位;
(b)(a)タンパク質のアミノ酸配列から一つ又は複数のアミノ酸残基の置換、欠失または添加により形成し、(a)タンパク質機能を有するものであって、(a)から誘導され、野生型シトクロムP450 CYP716A53v2に対応する第167位、第451位、第117位、第208位のアミノ酸は、(a)タンパク質の相応の位置での突然変異後のアミノ酸と同じであるタンパク質;
(c)(a)タンパク質のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有し、(a)タンパク質機能を有するものであって、(a)から誘導され、野生型シトクロムP450 CYP716A53v2に対応する第167位、第451位、第117位、第208位のアミノ酸は、(a)タンパク質の相応の位置での突然変異後のアミノ酸と同じであるタンパク質;
(d)(a)~(c)のいずれか一つに記載のポリペプチドのN又はC末端にタグ配列を添加し、又はそのN末端にシグナルペプチド配列又は分泌シグナル配列を添加した後に形成されるポリペプチド;
である、シトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体。
【請求項4】
第167位の突然変異は、Valであり、第451位の突然変異は、Asnであり、第117位の突然変異は、Serであり、第208位の突然変異は、Cysである、
ことを特徴とする請求項3に記載のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体。
【請求項5】
前記シトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体は、次の群から選ばれるタンパク質を含む:野生型シトクロムP450 CYP716A53v2に対応し、
(1) 第117位の突然変異は、Serであり、第451位の突然変異は、Alaである;
(2) 第117位の突然変異は、Serであり、第208位の突然変異は、Cysであり、第167位の突然変異は、Valであり、第451位の突然変異は、Alaである;
(3) 第117位の突然変異は、Serであり、第208位の突然変異は、Cysである;
(4) 第117位の突然変異は、Serであり、第208位の突然変異は、Cysであり、第451位の突然変異は、Alaである;
(5) 第167位の突然変異は、Valである;
(6) 第451位の突然変異は、Alaである;
(7) 第117位の突然変異は、Serである;
(8) 第208位の突然変異は、Cysである;
ことを特徴とする請求項3又は4に記載のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体。
【請求項6】
上記の核酸は、請求項3~5のいずれか一つに記載のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体をコードすることを特徴とする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項6に記載のポリヌクレオチドを含有することを特徴とするベクター。
【請求項8】
請求項7に記載のベクターを含有し、又はゲノムに請求項6に記載のポリヌクレオチドが組み込まれたことを特徴とする遺伝子操作された宿主細胞。
【請求項9】
前記宿主細胞は真核細胞又は原核細胞である;好ましくは、前記真核細胞は、酵母細胞、植物細胞、真菌細胞、昆虫細胞、カビ細胞、哺乳動物細胞を含む;より好ましくは、前記の酵母細胞は、醸造酵母細胞またはピキア酵母細胞を含む;より好ましくは、前記の植物細胞は、オタネニンジン細胞を含む;好ましくは、前記の原核細胞は、大腸菌、枯草菌細胞を含むことを特徴とする請求項8に記載の宿主細胞。
【請求項10】
(i)請求項8に記載の宿主細胞を培養すること;
(ii) 請求項3~5のいずれか一つに記載のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体を含有する培養物を集めること;
(iii) 培養物から、前記のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体を単離すること;
を含む請求項3~5のいずれか一つに記載のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体の調製方法。
【請求項11】
請求項3~5のいずれか一つに記載のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体;又は、請求項8に記載の宿主細胞又はその培養物又は溶解物;及び
食品学的又は工業的に許容可能なベクター
を有効量で含有する、プロトパナキサジオールによるプロトパナキサトリオールの生成を触媒するための組成物。
【請求項12】
プロトパナキサジオールによるプロトパナキサトリオールの生成を触媒するための、請求項3~5のいずれか一つに記載のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体、又は、請求項11に記載の組成物、の使用であって、
好ましくは、シトクロムP 450 CYP 716 A 53 v 2突然変異体は、プロトパナキサジオールのC 6位に一つのヒドロキシル基を増加させ、それによってプロトパナキサトリオールを生成する、
ことを特徴とする、シトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体、又は、組成物、の使用。
【請求項13】
請求項3~5のいずれか一つに記載のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体、又は、請求項11に記載の組成物でプロトパナキサジオールを処理することを含み、
好ましくは、シトクロムP 450 CYP 716 A 53 v 2突然変異体は、プロトパナキサジオールのC 6位に一つのヒドロキシル基を増加させ、それによってプロトパナキサトリオールを生成する、
ことを特徴とするプロトパナキサジオールによるプロトパナキサトリオールの生成を触媒する方法。
【請求項14】
請求項3~5のいずれか一つに記載のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体又は突然変異体の組み合わせ;
請求項8に記載の宿主細胞;又は
請求項11に記載の組成物;
を含有するプロトパナキサジオールによるプロトパナキサトリオールの生成を触媒するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物技術及び天然産物薬物などの分野に関し、具体的には、本発明は、シトクロムP 450(CYP 716 A 53 v 2)の変異体タンパク質及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ジンセノサイドは、ウコギ科トチバニンジン属植物(例えば、オタネニンジン、デンシチニンジン、アメリカニンジンなど)中の主要な活性物質であり、近年、ウリ科植物アマチャヅルにもジンセノサイドが発見された。現在、国内外の科学者はすでにオタネニンジン、アマチャヅルなどの植物から少なくとも100種類以上のジンセノサイドを分離したが、オタネニンジンにおけるこれらのサポニンの含有量の差は非常に大きい。その中のいくつかの治療効果が顕著なトリテルペノイドサポニンは、天然総サポニン中の含有量が極めて低く(希少サポニンとも呼ばれる)、抽出コストが高いため、価格は非常に高価である。現在、多種のサポニンはすでに薬品と保健品に応用され、例えばジンセノサイドRg 3単量体を主成分とする薬物の参一カプセルは、腫瘍患者の気虚症状を改善し、生体免疫機能を高めることができる;ジンセノサイドRh 1など16種類の希少ジンセノサイド混合物を主成分とするredsenol カプセルは、腫瘍部位の新生血管生成を抑制し、癌化細胞のアポトーシスを促進し、化学療法耐性を低下させることができる。
【0003】
希少ジンセノサイドは、往々にして独特な生物活性またはより顕著な治療効果を有するため、伝統的に調製された希少ジンセノサイドは、オタネニンジン又はデンシチニンジンから抽出された大量のサポニンから化学加水分解法、酵素法加水分解と微生物法加水分解を経て調製される。野生のオタネニンジン資源は基本的に枯渇しているため、オタネニンジン総サポニン資源は、現在主にオタネニンジン又はデンシチニンジンの人工栽培に由来しているが、その人工栽培の生長周期は長く(一般的に5-7年以上かかる)、地域の制限を受け、病虫害を受けて大量の農薬を投与する必要があることもよくあり、また、オタネニンジン又はデンシチニンジンの人工栽培には深刻な連作障害がある(オタネニンジン又はデンシチニンジン栽培地は5-15年以上休耕しなければ連作障害を克服できない)ため、ジンセノサイドの生産量、品質、安全性はすべて挑戦に直面している。一方、オタネニンジン総サポニンを原料として単一成分のサポニンを製造する場合、総サポニンの中には、まだ大量の成分が目標ジンセノサイド単量体(例えばプロトパナキサトリオール型サポニン)に変換できず、資源の浪費をもたらすだけでなく、抽出精製コストを高騰させてしまう。
【0004】
合成生物学の発展は、植物由来の天然産物の異種合成に新たなチャンスを提供した。酵母をシャーシとし、代謝経路の組み立てと最適化を通じて、安価な単糖を用いてアルテミシニン酸またはジヒドロアルテミシニン酸を発酵合成することを実現し、さらに一歩の化学転化方法を通じて、アルテミシニンを生産し、これは合成生物学が天然産物の薬物合成における巨大な潜在力を表明した。酵母シャーシ細胞を用いて合成生物学的方法により異種的に希少ジンセノサイド単量体を合成し、原料は安価な単糖であり、製造過程は安全性制御可能な発酵過程であり、いかなる外来汚染(例えば、原料植物の人工栽培時に使用される農薬)を回避したため、合成生物学技術を通じて希少ジンセノサイド単量体を製造することは、コスト的な優位性があるだけでなく、完成品の品質と安全性を保証することができる。合成生物学技術を用いて十分な量の各種高純度の希少ジンセノサイド単量体を調製し、活性測定及び臨床実験に用い、希少ジンセノサイドの革新的な薬物開発を促進する。
【0005】
合成生物学的方法を用いて薬用活性を有するプロトパナキサトリオール型ジンセノサイドを人工合成するには、まず、プロトパナキサトリオールPPTの合成代謝経路を解析し再構成する必要がある。ジンセノサイドは、トリテルペン化合物に属しているため、植物中のMVAとMEP代謝経路は、テルペン化合物の共通前駆体IPPとDMAPPを提供し、トリテルペン化合物前駆体スクアレンと2,3-エポキシスクアレンの合成の基礎を築いた。2006年に韓国と日本の科学者は、オタネニンジンからそれぞれエポキシスクアレンからダンマレンジオールに変換させるシンターゼDS(Han, J.Y.ら, Plant Cell Physiol, 2006. 47(12): p. 1653-62.;Tansakul, P.ら, FEBS Lett, 2006. 580(22): p. 5143-9)をクローンし、同定した;韓国の研究者Han JYは2011年(Han, J.Y.ら, Plant Cell Physiol, 2011. 52(12): p. 2062-73)と2012年(Han, J.Y.ら, Plant Cell Physiol, 2012. 53(9): p. 1535-45)にオタネニンジンのcDNAライブラリーからそれぞれプロトパナキサジオールとプロトパナキサトリオールを合成する肝心なシトクロムP 450、CYP 716 A 47とCYP 716 A 53 v 2をクローンし同定した。CYP 716 A 47は、ダンマレンジオールC 12位のヒドロキシル化を触媒し、プロトパナキサジオールPPDを生成することができ、CYP 716 A 53 v 2は、プロトパナキサジオールC 6位のヒドロキシル化を触媒し、プロトパナキサトリオールPPTを生成することができる。WAT 21酵母において、DSとこの2つのシトクロムP 450及びシロイヌナズナ由来のP 450還元酵素ATR 2-1を共発現し、プロトパナキサジオールとプロトパナキサトリオールを生産できる組換え菌株を得た。さらに研究によると、CYP 716 A 53 v 2によって触媒されたプロトパナキサジオールのプロトパナキサトリオールへの変換は、合成経路全体における重要な制限速度ステップである。
【0006】
そのため、当技術分野では、ジンセノサイド細胞工場の合成効率を促進するために、シトクロムP 450 CYP 716 A 53 v 2に対してより効率的なシトクロムP 450タンパク質エレメントを得るためのより多くの研究と改造を行う必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Han, J.Y.et al., Plant Cell Physiol, 2006. 47(12): p. 1653-62.
【非特許文献2】Tansakul, P.et al., FEBS Lett, 2006. 580(22): p. 5143-9
【非特許文献3】Han, J.Y.et al, Plant Cell Physiol, 2011. 52(12): p. 2062-73
【非特許文献4】Han, J.Y.et al, Plant Cell Physiol, 2012. 53(9): p. 1535-45
【非特許文献5】J.Sambrookら、Guide to Molecular Cloning、Third Edition、Science Press、2002
【非特許文献6】Wang, P. P.ら, Cell Discovery, 2019. 5(5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、シトクロムP 450 CYP 716 A 53 v 2のタンパク質コード配列に対して、突然変異と最適化を行い、新しい突然変異配列を得て、プロトパナキサジオールを生産する細胞内でこの突然変異配列を発現することは、プロトパナキサトリオールの生産量を著しく高めることができる。
【0009】
本発明の一つの態様では、シトクロムP450 CYP716A53v2の触媒活性を向上する方法を提供し、シトクロムP450 CYP716A53v2的アミノ酸配列を突然変異することを含み、野生型シトクロムP 450 CYP 716 A 53 v 2に対応して、突然変異は次の群のサイト又はその組み合わせから選ばれる:第167位、第451位、第117位、第208位。
【0010】
好ましい例では、前記アミノ酸位置番号は、SEQ ID NO:1に示されるアミノ酸配列に基づく。
【0011】
別の好ましい例では、第167位の突然変異は、Val (V)、第451位の突然変異は、Asn (A)、第117位の突然変異は、Ser (S)、第208位の突然変異は、Cys(C)である。
【0012】
本発明の別の態様では、シトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体を提供し、それは:(a)アミノ酸配列は野生型シトクロムP 450 CYP 716 A 53 v 2に対応し、次の群から選ばれるサイト又はサイトの組み合わせが突然変異したタンパク質:第167位、第451位、第117位、第208位(好ましくは、それらはコアアミノ酸突然変異である);(b)(a)タンパク質のアミノ酸配列から一つ又は複数(例えば1-20個;好ましくは1-15個;より好ましくは1-10個、例えば5個、3個)のアミノ酸残基の置換、欠失または添加により形成し、(a)タンパク質機能を有するものであって、(a)から誘導され、野生型シトクロムP450 CYP716A53v2に対応する第167位、第451位、第117位、第208位のアミノ酸は、(a)タンパク質の相応の位置での突然変異後のアミノ酸と同じであるタンパク質;(c) (a)タンパク質のアミノ酸配列と80%以上(好ましくは85%以上;より好ましくは90%以上;さらに好ましくは95%以上、例えば98%、99%)の相同性を有し、(a)タンパク質機能を有するものであって、(a)から誘導され、野生型シトクロムP450 CYP716A53v2に対応する第167位、第451位、第117位、第208位のアミノ酸は、(a)タンパク質の相応の位置での突然変異後のアミノ酸と同じであるタンパク質;又は、(d) (a)~(c)のいずれか一つに記載のポリペプチドのN又はC末端にタグ配列を添加し、又はそのN末端にシグナルペプチド配列又は分泌シグナル配列を添加した後に形成されるポリペプチド。
【0013】
好ましい例では、前記のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体は、その野生型よりも著しく高い触媒活性を有する。
【0014】
別の好ましい例では、前記のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体において、第167位の突然変異は、Val (V)である。
【0015】
別の好ましい例では、前記のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体において、第451位の突然変異は、Asn (A)である。
【0016】
別の好ましい例では、前記のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体において、第117位の突然変異は、Ser (S)である。
【0017】
別の好ましい例では、前記のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体において、第208位の突然変異は、Cys(C)である。
【0018】
別の好ましい例では、前記のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体は、次の群から選ばれるタンパク質を含む:野生型シトクロムP450 CYP716A53v2に対応し、
(1) 第117位の突然変異は、Serであり、第451位の突然変異は、Alaである;
(2) 第117位の突然変異は、Serであり、第208位の突然変異は、Cysであり、第167位の突然変異は、Valであり、第451位の突然変異は、Alaである;
(3) 第117位の突然変異は、Serであり、第208位の突然変異は、Cysである;
(4) 第117位の突然変異は、Serであり、第208位の突然変異は、Cysであり、第451位の突然変異は、Alaである;
(5) 第167位の突然変異は、Valである;
(6) 第451位の突然変異は、Alaである;
(7) 第117位の突然変異は、Serである;
(8) 第208位の突然変異は、Cysである。
【0019】
本発明のもう一つの態様では、単離されたポリヌクレオチドを提供し、前記の核酸は、前記のいずれか一つに記載のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体をコードする。
【0020】
本発明の別の態様では、前記のポリヌクレオチドを含有するベクターを提供する。
好ましい例では、前記ベクターは、発現ベクター、シャトルベクター、組み込みベクターを含む。
【0021】
本発明のもう一つの態様では、遺伝子操作された宿主細胞を提供し、宿主細胞が、前記のいずれか一つに記載のベクターを含有し、または宿主細胞のゲノムに前記のいずれか一つに記載のポリヌクレオチドを組み込まれた。
【0022】
好ましい例では、前記宿主細胞は真核細胞又は原核細胞である;好ましくは、前記真核細胞は、酵母細胞、植物細胞、真菌細胞、昆虫細胞、カビ細胞、哺乳動物細胞を含むが、これらに限定されない;より好ましくは、前記の酵母細胞は、醸造酵母細胞またはピキア酵母細胞(より好ましくは醸造酵母細胞)を含むが、これらに限定されない;より好ましくは、前記の植物細胞は、オタネニンジン細胞を含むが、これらに限定されない;好ましくは、前記の原核細胞は、大腸菌、枯草菌細胞を含むが、これらに限定されない。
【0023】
本発明の別の態様では、前記のいずれか一つに記載のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体の調製方法を提供し、それは
(i) 前記の宿主細胞を培養すること;
(ii) 前記のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体を含有する培養物を集めること;
(iii) 培養物から、前記のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体を単離すること;
を含む。
【0024】
本発明の別の態様では、プロトパナキサジオールによるプロトパナキサトリオールの生成を触媒する組成物を提供し、それは、前記のいずれか一つに記載のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体、又は、前記の宿主細胞又はその培養物又は溶解物、及び食品学的又は工業的に許容可能なベクターを有効量で含有する。
【0025】
好ましい例では、前記触媒は、高効率触媒であり、その触媒効率は、野生型より少なくとも10%以上高く、好ましくは少なくとも20%以上高く、より好ましくは少なくとも30%以上高く、例えば40%以上、50%以上、60%以上高い。
【0026】
本発明の別の態様では、プロトパナキサジオールによるプロトパナキサトリオールの生成を触媒するための、前記のいずれか一つに記載のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体の使用を提供し、好ましくは、シトクロムP 450 CYP 716 A 53 v 2突然変異体は、プロトパナキサジオールのC 6位に一つのヒドロキシル基を増加させ、それによってプロトパナキサトリオールを生成する。
【0027】
本発明の別の態様では、プロトパナキサジオールによるプロトパナキサトリオールの生成を触媒するための、前記の組成物の使用を提供し、好ましくは、シトクロムP 450 CYP 716 A 53 v 2突然変異体は、プロトパナキサジオールのC 6位に一つのヒドロキシル基を増加させ、それによってプロトパナキサトリオールを生成する。
【0028】
本発明の別の態様では、プロトパナキサジオールによるプロトパナキサトリオールの生成を触媒する方法を提供し、前記方法は、前記のいずれか一つに記載のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体又は前記の組成物でプロトパナキサジオールを処理することを含み、好ましくは、シトクロムP 450 CYP 716 A 53 v 2突然変異体は、プロトパナキサジオールのC 6位に一つのヒドロキシル基を増加させ、それによってプロトパナキサトリオールを生成する。
【0029】
本発明の別の態様では、プロトパナキサジオールによるプロトパナキサトリオールの生成を触媒するためのキットを提供し、ただし、前記のシトクロムP450 CYP716A53v2突然変異体又は突然変異体の組み合わせ;前記の宿主細胞;又は前記の組成物を含有する。
【0030】
本文に開示された内容に基づき、当業者にとって、本発明の他の面は自明なものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、醸造酵母シャーシ細胞に突然変異を組み込まれたCYP 716 A 53 v 2のPPT産量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明者は深い研究を経て、大量のCYP 716 A 53 v 2突然変異体を構築することによって、突然変異体の機能を研究し、酵素触媒活性に関連するアミノ酸サイトを確定し、定点改造を行うことにより、酵素触媒活性が顕著に向上する突然変異体を得た。
【0033】
本発明の突然変異体及びそれをコードする核酸
【0034】
本発明者は、プロトパナキサジオールPPDを合成する醸造酵母シャーシ細胞ZWによって、シトクロムP450(CYP716A53v2)の突然変異体ライブラリーを構築した:ランダムに突然変異したCYP 716 A 53 v 2遺伝子で醸造酵母シャーシ細胞ZWを形質転換することにより、酵母ゲノムに単一コピーを挿入し、プロトパナキサトリオールPPTを合成するCYP 716 A 53 v 2酵母突然変異体ライブラリーを構築した。菌株PPT産量に基づき、本発明者が、CYP716A53v2活性を向上する肝心なアミノ酸サイトを確定した。本発明が、シトクロムP450(CYP716A53v2)の肝心なサイトを改造して得た一部の突然変異体が、PPT産量を向上することができることを見出した。
【0035】
本明細書で使用されるように、用語「突然変異体(タンパク質)」、「CYP716A53v2突然変異体」、「突然変異型CYP716A53v2」は、交換可能に使用され、いずれも非天然に存在する、プロトパナキサジオールによるプロトパナキサトリオールの生成を触媒するタンパク質を指し、且つ前記突然変異タンパク質は、SEQ ID NO:1に示されるタンパク質、又はSEQ ID NO:1に示されるタンパク質に基づく人工的に改造されたタンパク質(その不活性サイトが変化したバリアント、誘導体などを含む)であり、ただし、前記の突然変異タンパク質は、酵素触媒活性に関連するコアアミノ酸を含有し、且つ前記コアアミノ酸の少なくとも一つは、人工的に改造されたものである;且つ、本発明の突然変異タンパク質は、プロトパナキサジオール(PPD)のC6ヒドロキシル化を触媒し、プロトパナキサトリオール(PPT)を形成する酵素活性を有する。
【0036】
用語「コアアミノ酸」とは、SEQ ID NO:1に基づき、且つSEQ ID NO:1との相同性は少なくとも80%、例えば84%、85%、90%、92%、95%、98%である配列には、対応するサイトは本明細書に記載されるような特定アミノ酸であり、例えば、SEQ ID NO:1に示される配列に基づき、コアアミノ酸は、第167位のアミノ酸は、Vである;第451位のアミノ酸は、Aである;第117位のアミノ酸は、Sである;第208位のアミノ酸は、Cである;第117位のアミノ酸は、Sであり、かつ第208位のアミノ酸は、Cである;第117位のアミノ酸は、Sであり、かつ第451位のアミノ酸は、Aである;第117位のアミノ酸は、Sであり、かつ第208位のアミノ酸は、Cであり、かつ第451位のアミノ酸は、Aである;第117位のアミノ酸は、Sであり、第167位のアミノ酸は、Vであり、第208位のアミノ酸は、Cであり、かつ第451位のアミノ酸は、Aである。
【0037】
理解すべきことは、本発明の突然変異タンパク質のアミノ酸番号は、SEQ ID NO:1に基づくもので、特定の突然変異タンパク質とSEQ ID NO:1に示される配列の相同性は、80%又は以上に至る場合、突然変異タンパク質のアミノ酸番号がSEQ ID NO:1のアミノ酸番号に対してずれる可能性があり、例えば、アミノ酸のN末端又はC末端へ1-5位ずれる;当分野の一般的な配列アラインメント技術によって、当業者にとって、このようなズレは合理的な範囲内であり、アミノ酸番号のずれにより相同性が80%(例えば90%、95%、98%)に至る、同一または類似の酵素活性を有する突然変異タンパク質は、本発明の突然変異タンパク質の範囲外にするべきではない。
【0038】
本発明の突然変異体(突然変異タンパク質)は、合成タンパク質または組換えタンパク質であり、すなわち、化学的に合成された産物であってもよく、または組換え技術を用いて原核または真核宿主(例えば、細菌、酵母、植物)から生成されてもよい。組換え生産プロトコルで使用される宿主に応じて、本発明の突然変異タンパク質は、グリコシル化され得るか、または非グリコシル化され得る。本発明の突然変異タンパク質はまた、開始メチオニン残基を含んでも含まなくてもよい。
【0039】
本発明はさらに、前記突然変異タンパク質の断片、誘導体、および類似体を含む。本明細書で使用されるように、用語「断片」、「誘導体」及び「類似体」は、前記突然変異タンパク質と同じ生物学的機能又は活性を実質的に保持するタンパク質を指す。
【0040】
本発明の突然変異タンパク質断片、誘導物又は類似物は、(i)一つ又は複数の保存又は非保存性アミノ酸残基(好ましいのは、保存性アミノ酸残基)が置換され、こんな置換されたアミノ酸残基は、遺伝コードにコードされていてもよく、またはコードされていなくてもよい突然変異タンパク質;又は(ii)一つ又は複数のアミノ酸残基に置換基を有する突然変異タンパク質;又は(iii)成熟突然変異タンパク質と別の化合物(例えば、突然変異タンパク質の半減期を延長する化合物、例えばポリエチレングリコール)との融合により形成される突然変異タンパク質;又は(iv)付加のアミノ酸配列がこの突然変異タンパク質配列に融合して形成される突然変異タンパク質(例えば、リード配列または分泌配列、またはこの突然変異タンパク質を精製するための配列またはタンパク質原配列、または抗原IgG断片と形成される融合タンパク質);であっても良い。本明細書の教示によれば、これらの断片、誘導体および類似体は、当業者に周知の範囲に属する。本発明において、保存的置換アミノ酸は、表1に従ってアミノ酸置換を行って産生することが好ましい。
【0041】
【表1】
【0042】
また、本発明の突然変異タンパク質を修飾することもできる。修飾(一般的に、1次構造を変化させない)形態としては、インビボまたはインビトロの突然変異タンパク質の化学的な誘導形態、例えばアセチル化またはカルボキシル化を含む。修飾は、グリコシル化、例えば、突然変異タンパク質の合成および加工中またはさらなる加工工程で、グリコシル化修飾によって生成される突然変異タンパク質も含む。この修飾は、突然変異タンパク質をグリコシル化する酵素(例えば、哺乳動物のグリコシル化酵素または脱グリコシル化酵素)に暴露することによって達成することができる。修飾形態は、リン酸化アミノ酸残基(例えば、リン酸チロシン、リン酸セリン、リン酸トレオニン)を有する配列も含む。修飾によってその抗タンパク質加水分解性能を向上させたり、溶解性能を最適化したりする突然変異タンパク質も含む。
【0043】
用語「突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド」は、本発明の突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含んでもよく、付加コード及び/又は非コード配列のポリヌクレオチドを含んでも良い。
【0044】
本発明はまた、本発明と同じアミノ酸配列を有するポリペプチドまたは突然変異タンパク質の断片、類似体および誘導体をコードする上記ポリヌクレオチドの変異体に関する。これらのヌクレオチド変異体は、置換変異体、欠失変異体、および挿入変異体を含む。当技術分野で知られているように、対立変異体は、1つまたは複数のヌクレオチドの置換、欠失、または挿入であり得るが、コードされる突然変異タンパク質の機能を実質的に変えることはないポリヌクレオチドの置換形態である。
【0045】
本発明の突然変異タンパク質及びポリヌクレオチドは、好ましくは単離された形態で提供され、より好ましくは均質に精製される。
【0046】
本発明のポリヌクレオチド全長配列は、通常に、PCR増幅法、組換え法または人工合成法により得ることができる。PCR増幅法に対して、本発明に開示されたヌクレオチド配列、特にオープンリーディングフレーム配列に従ってプライマーを設計し、市販のcDNAライブラリー又は本分野の当業者が既知の一般的な方法で作成するcDNAライブラリーをテンプレートとし、増幅で関連する配列を得られる。配列が長い場合、2回又はそれ以上のPCR増幅を実行し、各回で増幅されたフラグメントを正しい順序でつなぎ合わせることがよくある。
【0047】
関わる配列を得ると、組換え方法で、大量に関わる配列を得られる。通常に、それをベクターにクローン化され、細胞にトランスフェクションし、その後、通常の方法で、増殖した宿主細胞から、関わる配列を分離して得る。
【0048】
また、特に断片の長さが短い際に、人工合成の方法で、関わる配列を合成しても良い。通常に、まず複数の小さい断片を合成し、その後それらを連結し、長い配列の断片を得る。
【0049】
只今、もう完全の化学合成で、本発明のタンパク質(又はその断片、又はその誘導体)をコードするDNA配列を得られる。その後、当該DNA配列を本分野に既知された既存の各DNA分子(又はベクター)と細胞に導入しても良い。また、化学合成で、変異を、本発明のタンパク質の配列に導入しても良い。
【0050】
PCR技術を用いてDNA/RNAを増幅する方法は、本発明のポリヌクレオチドを得るために好ましい。特に、全長のcDNAをライブラリーから得ることが困難な場合、PCR用プライマーは、本明細書に開示された本発明の配列情報に従って適宜選択され、かつ通常の方法で合成されるRACE法(RACE-cDNA末端高速増幅法)を使用することが好ましい。増幅されたDNA/RNA断片は、ゲル電気泳動などの従来の方法で、単離および精製されてもよい。
【0051】
発現ベクター及び宿主細胞
【0052】
本発明は、また、本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、及び本発明のベクター又は本発明の突然変異タンパク質コード配列を用いて遺伝子工学的に産生された宿主細胞、並びに組換え技術により本発明のポリペプチドを産生する方法にも関する。
【0053】
従来の組換えDNA技術により、本発明のポリヌクレオチド配列を用いて、組換え突然変異タンパク質を発現または生産することができる。一般的に、以下のステップを含む:
(1)本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチド(又は変異体)と、又は当該ポリヌクレオチドを含有する組換え発現ベクターで、適当な宿主細胞を形質転換または形質導入する;
(2)適当な培地で宿主細胞を培養する;
(3)培地又は細胞からタンパク質を単離、精製する。
【0054】
本発明では、突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を、組換え発現ベクターに挿入することができる。用語「組換え発現ベクター」は、当技術分野で周知の細菌プラスミド、ファージ、酵母プラスミド、植物細胞ウイルス、例えばアデノウイルスのような哺乳動物細胞ウイルス、逆転写ウイルス、または他のベクターを指す。宿主内で複製可能で安定している限り、任意のプラスミドとベクターを使用することができる。発現ベクターの重要な特徴の一つは、通常に、複製起点、プロモーター、マーカー遺伝子、および翻訳制御要素を含むことである。
【0055】
当業者に周知の方法を使用し、本発明の突然変異タンパク質をコードするDNA配列および適切な転写/翻訳制御シグナルを含む発現ベクターを構築することができる。これらの方法には、インビトロ組換えDNA技術、DNA合成技術、インビボ組換え技術などを含む。DNA配列は、発現ベクター内の適切なプロモーターに作動可能に連結して、mRNA合成を指導することができる。これらのプロモーターの代表的な例は、大腸菌のlacまたはtrpプロモーター、λファージPLプロモーター、真核プロモーターには、CMV即時早期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、早期および後期SV 40プロモーター、逆転写ウイルスのLTRs、および原核または真核細胞またはそのウイルス中での遺伝子の発現を制御できる他の既知のプロモーターを含む。発現ベクターは、さらに、翻訳開始用のリボソーム結合部位と転写ターミネーターを含む。
【0056】
また、発現ベクターは、好ましくは、形質転換された宿主細胞の選択のための表現型形質を提供するために、1つ以上の選択的なマーカー遺伝子、例えば、真核細胞培養用のジヒドロ葉酸レダクターゼ、ネオマイシン耐性、緑色蛍光タンパク質(GFP)、または大腸菌用のテトラサイクリンまたはアンピシリン耐性などを含む。
【0057】
上記の適切なDNA配列を適切なプロモーターまたは制御配列と共に含むベクターは、タンパク質を発現できるように適切な宿主細胞の形質転換に用いられる。
【0058】
宿主細胞は、細菌細胞のような原核細胞であっても良く、または酵母細胞のような下等真核細胞であっても良く、または哺乳動物細胞のような高等真核細胞であっても良い。代表的な例としては、大腸菌、ストレプトマイセス属、ネズミチフス菌の細菌細胞、酵母などの真菌細胞、オタネニンジン細胞などの植物細胞がある。
【0059】
本発明のポリヌクレオチドが、高等真核細胞で発現される場合、エンハンサー配列がベクターに挿入されれば、転写が増強される。エンハンサーは、DNAのシス作用エレメントであり、通常に、長さが約10~300塩基対であり、プロモーターに作用して遺伝子の転写を増強する。例としては、複製開始点晩期側の100~270塩基対のSV 40エンハンサー、複製開始点晩期側のポリオーマウイルスエンハンサー、アデノウイルスエンハンサーなどが挙げられる。
【0060】
当業者は、適切なベクター、プロモーター、エンハンサーおよび宿主細胞をどのように選択することを了解する。
【0061】
組換えDNAを用いた宿主細胞の形質転換は、当業者に周知の従来技術により行うことができる。宿主が大腸菌などの原核生物である場合、DNAを吸収できるコンピテント細胞は、指数成長期後に収穫され、CaCl 2法で処理されることができ、使用されるステップは当技術分野でよく知られている。もう1つの方法はMgCl を使用することである。必要に応じて、形質転換は電気穿孔法でも行うことができる。宿主が真核生物である場合、以下のDNAトランスフェクション方法を選択することができる:リン酸カルシウム共沈法、例えば顕微注射、電気穿孔、リポソーム包装などの従来の機械的方法。
【0062】
得られた形質転換子は、通常の方法で培養し、本発明の遺伝子にコードされるポリペプチドを発現する。使用される宿主細胞に応じて、培養に使用される培地は、様々な通常の培地から選択することができる。宿主細胞の成長に適した条件下で培養する。宿主細胞が適切な細胞密度に成長した後、適切な方法(例えば、温度変換または化学誘導)で選択されたプロモーターを誘導し、細胞をしばらく再培養する。
【0063】
上記の方法における組換えポリペプチドは、細胞内または細胞膜上で発現されるか、または細胞外に分泌され得る。必要に応じて、その物理・化学・他の特性を利用し、様々な分離方法で、組換えタンパク質を分離や精製しても良い。それらの方法は、当業者がよく知られるものである。それらの方法の例は、通常のリフォールディング処理、タンパク質沈殿剤での処理(塩析方法)、遠心分離、浸透での細胞破壊、超音波処理、超遠心分離、モレキュラーシーブクロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と他の各液体クロマトグラフィー技術及びそれらの方法の組み合わせを含むが、それらに限定されない。
【0064】
使用
【0065】
本発明のCYP 716 A 53 v 2突然変異体は、プロトパナキサジオールに特異的に作用し、そのC 6位にヒドロキシル基を加え、それによってプロトパナキサトリオールを生成し、そして、その触媒活性は野生型のCYP 716 A 53 v 2より高い。前記触媒は、高効率触媒であり、その触媒効率は、野生型より少なくとも10%以上高く、好ましくは少なくとも20%以上高く、より好ましくは少なくとも30%以上高く、例えば40%以上、50%以上、60%以上高い。
【化1】
【0066】
本発明のCYP 716 A 53 v 2突然変異体を得た後、本発明の啓示によれば、当業者は、本発明の突然変異体を便利に応用し、基質とするプロトパナキサジオールに対する触媒作用を発揮することができ、野生型のCYP 716 A 53 v 2よりも優れた技術効果を得ることができる。
【0067】
使用する際に、特に工業化生産において、本発明のCYP 716 A 53 v 2突然変異体またはその誘導体ポリペプチドは、固相担体に固定化され、固定化された酵素を得、基質とのインビトロ反応に使用することができる。前記固相担体は、例えば、無機物から作られた微小球、管状体などである。固定化酵素の製造方法は、物理法と化学法の2種類がある。物理法は、物理吸着法、包埋法などを含む。化学法は、結合法、架橋法を含む。結合法は、さらにイオン結合法と共有結合法に分けられる。上記の固定化酵素の方法は、いずれも本発明に適用することができる。
【0068】
任意の方式として、本発明のCYP 716 A 53 v 2突然変異体を用いて、インビトロ生産を行うことができ、規模化的に生産される本発明のCYP 716 A 53 v 2突然変異体(その抽出物(粗抽出物を含む)または発酵液であってもよく、分離精製後のものであってもよい)によって、プロトパナキサジオールが(基質として)存在する場合に反応し、プロトパナキサトリオールを産物として得ることができる。
【0069】
本発明の別の好ましい態様として、生合成の方法を用いて製造する。これは一般的に、以下を含む:(1)プロトパナキサトリオール(PPT)を含む合成代謝経路または生産経路の少なくとも一つを含むことを特徴とするエンジニアリング細胞を提供し、(2)前記の(1)に記載のエンジニアリング細胞において、本発明のCYP 716 A 53 v 2突然変異体を発現し、あるいは、代謝経路における野生型CYP 716 A 53 v 2を本発明のCYP 716 A 53 v 2突然変異体に置換し、および(3)前記(2)のエンジニアリング細胞を培養し、プロトパナキサトリオール産物を生産する。より好ましい態様では、前記方法は、さらに、エンジニアリング細胞の培養物から産物を単離精製するステップを含む。
【0070】
生合成の方法を用いて製造する場合、本発明の好ましい態様としては、細胞中のプロトパナキサトリオール(PPT)合成代謝経路中の他の化合物代謝経路/生産経路を強化することを含む。本発明の触媒反応の前駆体として、その合成代謝経路の上流経路の化合物の生成を強化することにより、より多くの上流基質を提供することもできる。プロトパナキサトリオール(PPT)合成代謝経路を強化するための他のいくつかの方法も、本発明に含んでもよいことを理解すべきである。
【0071】
本発明のCYP 716 A 53 v 2突然変異体は、触媒作用を有する組成物の製造にも使用できる。当業者は、組成物の実際の用途に応じて、組成物中のCYP 716 A 53 v 2突然変異体の有効量を決定することができる。
【0072】
本発明に記載のCYP 716 A 53 v 2突然変異体、それを含有する組成物、それを発現する細胞などは、使用または商業使用を拡大化するために、キットに含まれてもよい。好ましくは、前記キットには、遺伝子工学細胞の培養に適した培地または培養成分も含まれ得る。好ましくは、前記キットには、適切な方法での製造を当業者に指導するために、生合成を行う方法を説明する取扱説明書も含まれる。
【0073】
以下、具体的な実施例を参照して、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の単なる例示であることが理解されるべく。以下の実施例における特定の条件を特定しない実験方法は、通常に、J.Sambrookら、Guide to Molecular Cloning、Third Edition、Science Press、2002に記載された通常条件に従って実施され、或いはメーカーが推奨する条件に従って実施される。
【0074】
野生型CYP716A53v2タンパク質配列(SEQ ID NO:1):
MDLFISSQLLLLLVFCLFLFWNFKPSSQNKLPPGKTGWPIIGETLEFISCGQKGNPEKFVTQRMNKYSPDVFTTSLAGEKMVVFCGASGNKFIFSNENKLVVSWWPPAISKILTATPSVEKSKALRSLIVEFLKPEALHKFISVMDRTTRQHFEDKWNGSTEVKAAMSESLTFELACWLLFSINDPVQVQKLSHLFEKVKAGLLSPLNFPGTAFNRGIKAANLIRKELSVVIKQRRSDKLQTRKDLLSHVMLSNGEGEKFFSEMDIADVVLNLLIASHDTTSSAMGSVVYFLADHPHIYAKVLTEQMEIAKSKGAGELLSWEDIKRMKYSRNVINEAMRLVPPSQGGFKVVTSKFSYANFIIPKGWKIFWSVYSTHKDPKYFKNPEEFDPSRFEGDGPMPFTFIPFGGGPRMCPGSEFARLEVLIFMHHLVTNFKWEKVFPNEKIIYPFPFPENGLPIRLSPCTL
上記配列において、突然変異サイトは、黒体下線で表される。
【実施例1】
【0075】
実施例1、ランダム突然変異による高効率なシトクロムP 450変異体タンパク質を得た
【0076】
(1)pUC 57-synPPTS(CYP 716 A 53 v 2コード遺伝子を含むプラスミド)をテンプレートとし、プライマーSJ-F(SEQ ID NO:2)とSJ-R(SEQ ID NO:3)を用いてエラープローンPCRを行った。前記エラープローンPCRは、Stratagene社のGeneMorph II Random Mutagensis Kitのランダム突然変異キットを用いた。PCRプログラムは:95℃ 2 min、95℃ 10 s、55℃ 15 s、72℃ 1 min 30 s、合計24サイクル;72℃で 10 minで10℃に下げ、pUC 57-synPPTSテンプレートの使用量は900 ngである。PCR産物をアガロースゲル電気泳動後に回収し、CYP 716 A 53 v 2エラープローンPCR産物を得た。
SJ-F:atggatttgtttatttcttc (SEQ ID NO:2);
SJ-R:ttacaatgtacatggagaca (SEQ ID NO:3)。
【0077】
(2)表2に記載のプライマーとテンプレートでPCR反応を行い、菌株構築のために標的DNA断片を増幅した。前記PCRシステムは、Tsingke社のハイフィデリティPCR酵素I-5(登録商標)である 2×High-Fidelity Master Mix標準システムである。PCRプログラムは:98℃ 2 min、98℃ 10 s、55℃ 15 s、72℃ 1 min、合計30サイクル;72℃ 10 minで10℃に下げた。アガロースゲル電気泳動により回収した後、各PCR産物を得た。前記PCR産物断片の両端は、醸造酵母における相同組換えのために、PCRプライマーを用いて、それぞれ70 bp前後のその前後に隣接する両端断片と相同な配列を付いた。
【0078】
【表2】
PPT-UP-F:cccaaagctaagagtcccat(SEQ ID NO:4);
PPT-UP-R:gtagaaacattttgaagctatggtgtgtgggggatcactctgctcttgaatggcgacag(SEQ ID NO:5);
PPT-TEF1-F:aacactggggcaataggctgtcgccattcaagagcagagtgatcccccacacaccatag (SEQ ID NO:6);
PPT-TEF1-R:aacaataacaattgtgaagaaataaacaaatccattttgtaattaaaacttagattaga (SEQ ID NO:7);
PPT-PPTS-F:gaaagcatagcaatctaatctaagttttaattacaaaatggatttgtttatttcttcac (SEQ ID NO:8);
PPT-PPTS-R:agtgtctcccgtcttctgtctaatgatgatgatgatgatgcaatgtacatggagacaat (SEQ ID NO:9);
PPT-PRM9-F:attgtctccatgtacattgcatcatcatcatcatcattagacagaagacgggagacact (SEQ ID NO:10);
PPT-PRM9-R:ctgtcgattcgatactaacgccgccatccagtgtcgaattttcaacatcgtattttccg (SEQ ID NO:11);
PPT-KAN-F:cattatgcaacgcttcggaaaatacgatgttgaaaattcgacactggatggcggcgtta (SEQ ID NO:12);
PPT-KAN-R:aattcaaaaaaaaaaagcgaatcttcccatgcctgttcagcgacatggaggcccagaat (SEQ ID NO:13);
PPT-DN-F:agactgtcaaggagggtattctgggcctccatgtcgctgaacaggcatgggaagattcg (SEQ ID NO:14);
PPT-DN-R:tctggtgaggatttacggtatg (SEQ ID NO:15)。
【0079】
(3)上記すべての産物DNA断片をそれぞれ100 ng混合した後、醸造酵母菌株ZW(Wang, P. P.ら, Cell Discovery, 2019. 5(5))コンピテントに形質転換した。形質転換完了後、菌株をYPD+200 mg/LG 418抗生物質スクリーニングプレートに均一に塗布し、30℃で48時間静置培養した。すべてのクローンを、楊枝を用いて採取し、96ウェルプレートに移し、30℃で24 h振動培養し、1:100の割合で新しい96ウェルプレートに移して96 h発酵させた。
化合物抽出:発酵液に、等体積のn-ブタノール溶媒を加えて24 h抽出し、上層有機相を吸引し、各形質転換子のプロトパナキサジオールとプロトパナキサトリオールの産量と割合をHPLCで測定した。
【0080】
(4)大量のスクリーニング作業を経て、本発明者は、プロトパナキサトリオール産量PPTが20%向上し、プロトパナキサトリオール/プロトパナキサジオールの割合(PPT/PPD)が20%以上向上したクローンを4つ獲得し、番号は、それぞれSJ-1、SJ-2、SJ-3、SJ-4であった。それぞれ上記4つのクローンのゲノムをテンプレートとし、プライマーSJ-FとSJ-Rを用いてPCRを行い、各クローンのシトクロムP 450断片を獲得し、シーケンシングを行い、各突然変異体タンパク質配列を得た。
【0081】
上記で得られた各野生型及び突然変異体タンパク質の配列情報及びPPT産量を表3及び図1に示す:
【表3】
【実施例2】
【0082】
実施例2、突然変異サイトを組み込まれ、より効率的なCYP 716 A 53 v 2突然変異体を得た
【0083】
実施例1のランダム突然変異方法により、F 167 V、T 451 A、I 117 S、L 208 Cの4つの活性向上サイトを得た。
【0084】
野生型CYP 716 A 53 v 2遺伝子に基づいて、以上の4つの突然変異サイトを色々に組み合わせて、一連のCYP 716 A 53 v 2の突然変異遺伝子を得た。実施例1に(2)及び(3)に示す方法で、上記CYP 716 A 53 v 2の組み合わせた突然変異遺伝子を、それぞれZW酵母コンピテントに形質転換し、対応する一連の菌株を構築して発酵させた。
【0085】
発酵方法:突然変異体ごとに、6つの単一クローンを96ウェルプレートに採取し、30℃で24 h振動培養し、1:100の割合で新しい96ウェルプレートに移し、96 h発酵させた(酵母自身はヒドロキシルドナーを産生することができる)。
化合物抽出:発酵液に、等体積のn-ブタノール溶媒を加えて、化合物を菌から抽出し、24 hの抽出を行い、上層有機相を吸引し、各形質転換子のプロトパナキサジオールとプロトパナキサトリオールの産量と割合をHPLCで測定した。
【0086】
【表4】
【実施例3】
【0087】
実施例3、前記シトクロムP 450突然変異体タンパク質を用い、プロトパナキサトリオールを高効率に異種合成した
【0088】
本実施例では、前記シトクロムP 450突然変異体タンパク質を用い、プロトパナキサトリオールを高効率に異種合成し、具体的な方法は以下の通りであった:
【0089】
(1)表2に記載のプライマーとテンプレートでPCR反応を行い、菌株構築のために標的DNA断片を増幅した。前記PCRシステムは、Tsingke社のハイフィデリティPCR酵素I-5(登録商標)である 2×High-Fidelity Master Mix標準システムである。PCRプログラムは:98℃ 2 min、98℃ 10 s、55℃ 15 s、72℃ 1 min、合計30サイクル;72℃ 10 minで10℃に下げた。PCR産物は、アガロースゲル電気泳動により回収した後、各PCR産物を得た。前記PCR産物断片の両端は、醸造酵母における相同組換えのために、それぞれ70 bp前後のその前後に隣接する両端断片と相同な配列を付いた。
【0090】
上記すべての遺伝子、相同アーム、及びスクリーニングマーカー遺伝子PCR断片を、それぞれ100 ng混合した後、醸造酵母菌株のコンピテントZWに形質転換し、プロトパナキサトリオールを生産する組換え醸造酵母株PPT-WT菌株を得た。
【0091】
(2)同様に、野生型CYP 716 A 53 v 2遺伝子の代わりに、突然変異体遺伝子ZH-1、ZH-2、ZH-3、ZH-4をテンプレートとした。上記PCRを行って各PCR断片を得、それぞれ醸造酵母のコンピテントZWに形質転換し、各突然変異体タンパク質を含む、プロトパナキサトリオールを生産する組換え醸造酵母菌株PPT-ZH-1株、PPT-ZH-2株、PPT-ZH-3株、PPT-ZH-4株を得た。
【0092】
(3)固体培地の調製:調製培地:1%酵母抽出物、2%Bactoペプトン、2%D-グルコース、2%寒天粉末。液体培地の調製:調製培地:1%酵母抽出物、2%Bactoペプトン、2%D-グルコース。
【0093】
(4)固体培地平板上にストリークした組換え醸造酵母PPT-ZH-1菌株、PPT-ZH-2菌株、PPT-ZH-3菌株、PPT-ZH-4菌株を採取し、それぞれ5 mL液体培地を含む試験管で一晩震動培養した(30℃、250 rpm、16 h);遠心分離して菌体を収集し、10 mL液体培地を有する50 mL三角フラスコに移し、OD 600を0.05に調整し、30℃、250 rpmで振動培養して、4日間にかけて発酵産物を得た。本方法には、各組換え酵母に対して1つの平行実験を同時に設置する。
【0094】
(5)プロトパナキサトリオールの抽出及び検定:10 mL発酵液から100μL発酵液を採取し、Fastprepで酵母を振動で溶解し、等体積のn-ブタノールを加えて抽出し、そして真空条件下でn-ブタノールを蒸発乾燥させた。100μLメタノールで溶解後、HPLCにより目標産物の産量を測定した。
【0095】
上記で得られた各組換え醸造酵母菌株のプロトパナキサトリオールを表5及び図1に示す:
【表5】
【0096】
本出願に言及されている全ての参考文献は、参照として単独に引用されるように、本出願に引用されて、参照になる。理解しておくべきことは、本発明の上記の開示に基づき、当業者は、本発明を様々な変更または修正を行っても良い、これらの同等の形態も本出願に添付された請求の範囲に規定される範囲内に含まれる。
図1
【配列表】
2023554233000001.app
【国際調査報告】