(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】カーボンフットプリントを低減した廃炭素含有材料からの酢酸及びアクリル酸の製造プロセス
(51)【国際特許分類】
C07C 51/353 20060101AFI20231220BHJP
C07C 57/04 20060101ALI20231220BHJP
C07C 31/04 20060101ALI20231220BHJP
C07C 29/151 20060101ALI20231220BHJP
C07C 53/08 20060101ALI20231220BHJP
C07C 51/09 20060101ALI20231220BHJP
C10J 3/00 20060101ALI20231220BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231220BHJP
【FI】
C07C51/353
C07C57/04
C07C31/04
C07C29/151
C07C53/08
C07C51/09
C10J3/00 A
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023531529
(86)(22)【出願日】2021-11-04
(85)【翻訳文提出日】2023-07-24
(86)【国際出願番号】 CA2021051565
(87)【国際公開番号】W WO2022109716
(87)【国際公開日】2022-06-02
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521446495
【氏名又は名称】エネルケム インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド リンチ
(72)【発明者】
【氏名】プラシャント クマール
(72)【発明者】
【氏名】イムティアズ アハメド
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC25
4H006AC41
4H006AC46
4H006AD11
4H006BA12
4H006BA35
4H006BA72
4H006BC13
4H006BC31
4H006BD84
4H006BE20
4H006BE40
4H006BS10
4H006FE11
4H039CA29
4H039CA60
4H039CA65
4H039CE20
4H039CL25
(57)【要約】
シンガスをメタノールに変換し、メタノールを第1及び第2の流れに分離し、メタノールの第1の流れをカルボニル化して酢酸メチルを生成させること、酢酸メチルを加水分解して酢酸を得ること、メタノールの第2の流れを気相反応でホルムアルデヒドに酸化させること、及びホルムアルデヒドと酢酸をアルドール縮合により反応させてアクリル酸を生成させることを含む、炭素質材料のガス化から生じるシンガスを酢酸及びアクリル酸に変換するプロセスが提供される。特に、メタノールの第1の流れを脱水してジメチルエーテル(DME)を生成させ、DMEをさらにヨウ化物フリー環境下でシンガスと接触させて、カルボニル化によって酢酸メチルを生成させ、続いて反応蒸留カラムを使用して酢酸を生成させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、シンガスをアクリル酸に変換するプロセス:
a)前記シンガスをメタノールに変換し、前記メタノールを第1の流れと第2の流れに分離する工程;
b)メタノールの前記第1の流れをカルボニル化して酢酸メチルを生成させる工程;
c)前記酢酸メチルを加水分解して酢酸を得る工程;及び
d)アルドール縮合によりホルムアルデヒドとc)で生成した前記酢酸とを反応させてアクリル酸を生成させる工程。
【請求項2】
メタノールの前記第1の流れを脱水してジメチルエーテル(DME)を生成させ、前記DMEを、さらに、ヨウ化物フリー環境下でシンガスと接触させて、カルボニル化により前記酢酸メチルを生成させる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
メタノールの前記カルボニル化及び酢酸メチルの前記加水分解が、単一の触媒容器内で行われ、酢酸及びジメチルエーテル(DME)を生成する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記単一の容器が固定床反応器である、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記ホルムアルデヒドが、気相反応で前記メタノールの前記第2の流れを酸化した後に取り込まれる、請求項1記載のプロセス。
【請求項6】
前記H
2/CO比が0~2である、請求項1~5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記酢酸メチルが反応蒸留プロセスで加水分解されて前記酢酸を生成する、請求項1~6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
少なくとも95%~99%の炭素ベースの純粋な酢酸が生成される、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記メタノールを250~400℃で過剰の空気で酸化させて、最高で99%のメタノールをホルムアルデヒドに変換する、請求項1~8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記酢酸メチルの前記加水分解をメタノールの存在下で行って、前記酢酸を生成させる、請求項1~9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
酢酸メチルを生成するメタノールの前記第1の流れの前記カルボニル化が気相で行われる、請求項1~10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
DMEを生成させるためのメタノールの前記脱水が脱水触媒の存在下で実施される、請求項2に記載のプロセス。
【請求項13】
前記脱水触媒がγ-アルミナである、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
触媒の存在下で前記DMEをさらに充填床反応器に通過させて、前記酢酸メチルを生成させる、請求項2に記載のプロセス。
【請求項15】
前記触媒がゼオライト又は金属修飾ゼオライトである、請求項14記載のプロセス。
【請求項16】
前記触媒がモルデナイトゼオライト、亜鉛及び銅を含む、請求項14又は15に記載のプロセス。
【請求項17】
DMEと接触して酢酸メチルを生成した後の未反応シンガスが、前記未反応シンガスをメタノールに変換するために再利用される、請求項2に記載のプロセス。
【請求項18】
前記アルドール縮合反応が、VPO触媒に対して大気圧下で運転されるシングルパスの固定床フロー反応器で行われる、請求項1~17のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項19】
前記酢酸メチルが、不均一系触媒を含む反応蒸留カラムで加水分解される、請求項5に記載のプロセス。
【請求項20】
前記不均一系触媒がアンバーリスト型触媒である、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
前記アンバーリスト型触媒が、触媒バスケットを形成しているメッシュの中に存在する、請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
前記触媒が、空気及びフィードガス混合物の存在下で活性化される、請求項9に記載のプロセス。
【請求項23】
前記シンガスを生成させるために炭素質材料をガス化する第1の工程をさらに含む、請求項1~22のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項24】
前記炭素質材料が、炭素を含む液体、固体及び/又は気体である、請求項23に記載のプロセス。
【請求項25】
前記炭素質材料がバイオマスである、請求項23又は24に記載のプロセス。
【請求項26】
前記炭素質材料が、プラスチック、金属、無機塩、有機化合物、産業廃棄物、リサイクル施設に受け入れられなかったもの、自動車のフラッフ、都市固形廃棄物、ICI廃棄物、C&D廃棄物、ごみ固形燃料(RDF)、固形化廃棄物由来燃料、下水汚泥、使用済み木製電柱、木製鉄道枕木、木材、タイヤ、合成テキスタイル、カーペット、合成ゴム、化石燃料由来の材料、発泡ポリスチレン、ポリフィルムフロック、建設用木材、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項24又は25に記載のプロセス。
【請求項27】
以下を含む、反応蒸留カラムを使用して炭素質材料を酢酸に変換するプロセス:
a)気相中で前記炭素質材料をカルボニル化して、ヨウ化物フリー環境でジメチルエーテル(DME)を生成させること;
b)前記DMEを加水分解して酢酸メチルを生成させること;及び
c)前記酢酸メチルを加水分解して酢酸を生成させること;
ここで、前記DMEの加水分解とその後の前記酢酸メチルの加水分解は前記反応蒸留カラムで行われ、前記酢酸を生成する前記炭素質材料のH
2とCOの比は1:1である。
【請求項28】
前記反応蒸留カラムで生成された前記酢酸及びDMEが沸点の差によって分離される、請求項27に記載のプロセス。
【請求項29】
前記炭素質材料がメタノールである、請求項24又は25に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本願は、2021年11月25日に出願された米国仮出願第63/118,103号の優先権を主張するものであり、その内容は、参照によりその全体が本開示に援用される。
技術分野
【0002】
合成ガスを、メタノール製造を経て酢酸及び/又はアクリル酸に変換するプロセスが提供される。
【背景技術】
【0003】
アクリル酸(АA)は、有益な化学工業製品である。AA及びその誘導体の主な用途は、種々のポリマー材料、超吸収剤、塗料及びワニス材料等の製造である。世界生産量は2000年の130万トンから2015年には500万トンに急増し、2023年には720万トンに増加すると予想されている。アクリル酸は主にアクリル酸エステルの原料として使用されるが、業界の1つの傾向は超吸水性ポリマーの需要の高まりである。2016年には世界のアクリル酸供給量の約33%を占め、主に個人用使い捨て衛生製品、例えばベビー用紙おむつ、大人用保護下着、生理用ナプキンなどで非常に力強い成長を遂げている。
【0004】
石油化学資源がますます不足し、より高価になり、また、CO2排出の規制を受けるようになるにつれて、化石ベースのアクリル酸、アクリル酸誘導体、又はそれらの混合物の代替物として機能することができるバイオベースのアクリル酸、アクリル酸誘導体、又はそれらの混合物に対する必要性がますます高まっている。アクリル酸の最も有益な用途の1つは、ポリアクリル酸ナトリウムの製造にそれが使用されることである。このポリアクリレートは超吸水性ポリマー(SAP)であり、紙おむつなどの衛生用品に使われている。この材料は液体を吸収することができる(その重量の500倍以上)。
【0005】
現在、使用済みの紙おむつは埋め立てられているが、かかる廃棄物を循環型経済で原料として利用することは望ましいであろう。
【0006】
長い間、グリセロールの脱水、及びホルムアルデヒドとアセトアルデヒドの縮合が、アクロレイン合成のほとんど唯一の商業的手段であった。現在、世界のアクロレインはすべてプロピレンの酸化から製造されている。
【0007】
工業的に最も広く採用されているアクリル酸の合成プロセスは、酸素を含む混合物を使用したプロピレンの触媒反応を使用する。この反応は一般的に気相で行われ、一般的に2段階で行われる。第1段階は、プロピレンの実質的に定量的な酸化を行って、アクリル酸がマイナーな成分であるアクロレインに富んだ混合物を与え、次いで、第2段階は、アクロレインの選択的な酸化を行って、アクリル酸を与える。直列の2つの反応器又は単一の反応器の2つの反応領域で実施されるこれら2つの段階の反応条件は、それぞれ異なり、それぞれの反応に適した触媒を必要とする。
【化1】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、生物資源の原料を使用するアクロレイン及びアクリル酸の合成プロセスについて、製造業者は研究開発を行っている。これらの研究は、化石原料、例えば温室効果により地球温暖化の原因となっている石油起源物であるプロピレンなどの使用を将来的に避けたいという懸念から起こった。さらに、そのコストは、世界的な石油埋蔵量の減少に伴って将来的に増加する一方であろう。
【0009】
さらに、クロトンアルデヒド(CH3CH=CHCHO)の製造を含むアルドール縮合アプローチを使用する現行の商業的プロセスは、しばしば最終生成物の望ましくない汚染をもたらす高い塩含量のために多くの欠点を有する。
【0010】
したがって、アクリル酸及びその誘導体を製造するための新たな手段を提供することが強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
シンガスをメタノールに変換し、メタノールを第1及び第2の流れに分離すること、メタノールの第1の流れをカルボニル化して酢酸メチルを生成させること、酢酸メチルを加水分解して酢酸を得ること、及びアルドール縮合によりホルムアルデヒドと酢酸とを反応させてアクリル酸を生成させることを含む、シンガスをアクリル酸に変換するプロセスが提供される。
【0012】
一実施形態では、メタノールの第1の流れを脱水してジメチルエーテル(DME)を生成させ、DMEを、さらに、ヨウ化物フリーの環境下でシンガスと接触させて、カルボニル化により酢酸メチルを生成させる。一実施形態では、H2/CO比は0~2である。
【0013】
別の実施形態では、メタノールのカルボニル化及び酢酸メチルの加水分解は、単一の触媒容器内で実施され、酢酸及びジメチルエーテル(DME)を生成する。
【0014】
さらなる実施形態では、単一容器は固定床反応器である。
【0015】
別の実施形態では、ホルムアルデヒドは、気相反応でメタノールの第2の流れを酸化した後に取り込まれる。
【0016】
一実施形態では、酢酸メチルは反応蒸留プロセスで加水分解されて酢酸を生成する。さらなる実施形態では、少なくとも95%又は95~99%の炭素ベースの純粋な酢酸(carbon based pure acetic acid)が生成される。
【0017】
別の実施形態では、メタノールを250~400℃で過剰の空気で酸化させて、最高で99%のメタノールをホルムアルデヒドに変換する。
【0018】
さらなる実施形態では、酢酸メチルの加水分解をメタノールの存在下で行って、酢酸を生成させる。
【0019】
さらなる実施形態では、酢酸メチルを生成するメタノールの第1の流れのカルボニル化は気相で行われる。
【0020】
一実施形態では、DMEを生成させるためのメタノールの脱水は脱水触媒の存在下で行われる。
【0021】
さらなる実施形態では、脱水触媒はγ-アルミナである。
【0022】
一実施形態では、触媒の存在下でDMEをさらに充填床反応器に通過させて、酢酸メチルを生成させる。
【0023】
別の実施形態では、触媒はゼオライト又は金属修飾ゼオライトである。
【0024】
一実施形態では、触媒はモルデナイトゼオライト、亜鉛及び銅を含む。
【0025】
別の実施形態では、DMEと接触して酢酸メチルを生成した後の未反応シンガスは、前記未反応シンガスをメタノールに変換するために再利用される。
【0026】
一実施形態では、アルドール縮合反応は、大気圧下で運転されるシングルパスの固定床フロー反応器で行われる。
【0027】
別の実施形態では、酢酸メチルは、不均一系触媒を含む反応蒸留カラムで加水分解される。
【0028】
別の実施形態では、不均一系触媒はアンバーリスト(Amberlyst)型触媒である。
【0029】
一実施形態では、触媒は、空気及び供給ガス混合物の存在下で活性化される。
【0030】
実施形態では、本開示に記載のプロセスは、シンガスを生成させるために炭素質材料をガス化する第1の工程をさらに含む。
【0031】
別の実施形態では、炭素質材料は、炭素を含む液体、固体及び/又は気体である。
【0032】
補足的な実施形態では、炭素質材料はバイオマスである。
【0033】
一実施形態では、炭素質材料は、プラスチック、金属、無機塩、有機化合物、産業廃棄物、リサイクル施設に受け入れられなかったもの、自動車のフラッフ(automobile fluff)、都市固形廃棄物(又は都市ごみ)、ICI廃棄物、C&D廃棄物、ごみ固形燃料(refuse derived fuel(RDF))、固形化廃棄物由来燃料(solid recovered fuel)、下水汚泥、使用済み木製電柱、木製鉄道枕木、木材、タイヤ、合成テキスタイル、カーペット、合成ゴム、化石燃料由来の材料、発泡ポリスチレン、ポリフィルムフロック(poly-film floc)、建設用木材、又はそれらの任意の組み合わせを含む。
【0034】
次に、添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、一実施形態によるアクリル酸の製造のための非酸化的プロセスを示す。
【0036】
【
図2】
図2は、一実施形態による反応蒸留(RD)法によって酢酸及びDMEを直接製造するプロセスのブロックフロー図を示す。
【0037】
【
図3】
図3は、使用したアルドール縮合触媒試験装置を示す。
【0038】
【
図4】
図4は、温度が低下するにつれて酢酸メチル加水分解が減少することを示す実験平衡定数プロットを示す。
【0039】
【
図5】
図5は、本開示に包含される反応蒸留カラムの構成を示す。
【0040】
【
図6】
図6は、触媒を本質的に保持する実施形態による触媒バスケットを示す図であって、(a)アンバーリスト触媒、(b)SSメッシュ、(c)触媒バスケットに示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
産業廃棄物、都市固形廃棄物及びバイオマスなどの廃棄物から得られる炭素由来の材料からの酢酸及びアクリル酸並びにそれらの誘導体の製造が提供される。
【0042】
より詳細には、本開示に記載のプロセスは、ガス化プロセスを通じて炭素質材料から合成ガスを製造し、その合成ガスを利用してアクリル酸を製造することを含む。廃棄物資源、例えば都市固形廃棄物やバイオマスなどに由来する炭素質材料は、再生可能であると考えられており、石炭火力発電所(混焼)、輸送用燃料分配システム(メタノール、ジメチルエーテル及びエタノール)、及び化学物質生産用を含む既存の化石燃料インフラ内で使用することができる。ガス化プロセスでは、例えば、森林残渣、農業残渣、使用済み構造用木材、及び都市バイオマス、例えば都市固形廃棄物など、いかなる廃棄物バイオマス材料からも合成ガスを製造することができる。
【0043】
シンガスとも呼ばれる合成ガスは、主に一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(C)及び水素(H2)を含む燃料ガス混合物である。シンガスは、バイオマス、又は事実上任意の炭素質材料を含む多くの供給源から、スチーム(スチーム改質)、二酸化炭素(乾式改質)、空気(部分酸化)、酸素と(部分酸化)、又はこれらの列挙した反応物の任意の混合物との反応によって製造することができる。
【0044】
炭素質材料とは、「炭素」原子を含むいかなる気体、液体又は固体も指す。ほとんどの場合、これらの原子は、植物もしくは動物及びその派生物(derivatives)から、あるいは、化石燃料及びその派生物に由来することがある。炭素質材料の例としては、都市ごみ又は都市固形廃棄物(Municipal Solid Waste(MSW))、産業、商業及び施設廃棄物(Industrial, Commercial, and Institutional waste(IC&I))、建設・解体廃棄物(Construction and Demolition waste(C&D))や、いかなる石油製品、プラスチック、均質及び/又は不均質なバイオマスも挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
本開示に包含される炭素質材料は、一実施形態に従ってガス化され得るバイオマスリッチ材料であることができ、本開示に包含される炭素質材料としては、均質バイオマスリッチ材料、不均質バイオマスリッチ材料(non-homogeneous biomass-rich materials)、異種成分からなるバイオマスリッチ材料(heterogeneous biomass-rich materials)、及び都市バイオマスが挙げられるが、これらに限定されない。また、炭素質材料は、プラスチックリッチな残渣、又は炭素を含む任意の廃棄物/製品/ガス/液体/固体であってもよい。例えば、使用済み紙おむつは埋立処分されているが、本開示に記載されたプロセスにより、そのような廃棄物を炭素質材料として、記載されたガス化プロセスの供給原料として使用することができ、その結果、循環型プラスチックリサイクルと同様の循環型紙おむつ利用が実現する。
【0046】
一般的に、都市廃棄物は、例えばごみ由来の燃料、固形化廃棄物由来燃料、下水汚泥、腐敗した紙おむつなどの都市固形廃棄物から得られる材料である。かかる廃棄物のガス化は当業者に知られている。例えば、非限定的な実施形態では、バイオマスは、流動床セクション及び改質セクション又はフリーボードセクションを含むガス化炉でガス化され得る。かかるガス化炉の例は、米国特許第8,080,693号、米国特許第8,436,215号、米国特許第8,137,655号、米国特許第8,192,647号及び米国特許第8,636,923号明細書などの公開特許公報に開示されており、クリーンなシンガスを生成する。
【0047】
本開示に包含される炭素質材料は、炭素質材料は、いかなる種類の石炭及び誘導体、例えば、石油コークス、石油製品及び副産物、廃油、油性燃料、炭化水素及びタールなどであってもよい。
【0048】
均質バイオマスリッチ材料は、単一源から得られるバイオマスリッチ材料である。かかる材料としては、単一種の針葉樹又は落葉樹からの材料や、例えば干し草、トウモロコシ、小麦などの単一種の植物からの農業材料(agricultural materials)、あるいは、例えば木材パルプの一次スラッジ、木材チップなどが挙げられるが、これらに限定されない。また、廃食用油、ライチ果樹皮、又は、トウモロコシからメタノール副産物を得るまでの蒸留廃液のように、精製された単一源由来の材料であってもよい。
【0049】
不均質バイオマスリッチ材料は、一般的に、2種以上の種の植物から得られる材料である。かかる材料としては、雑多な種(mixed species)からの森林残渣、皮剥ぎ作業又は製材作業から得られる雑多な種からの樹木残渣が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
炭素質材料及び廃棄物を合成ガスに変換することは、ガス化技術を用いて達成することができる。シンガスは、炭素質原料をガス化することによって製造することができる。ガス化は、例えば、アンモニア(NH3)、硫黄(硫化水素(H2S)及び硫化カルボニル(COS)として)、塩素(HClとして)、揮発性金属、芳香族タール(NBTX;ナフタレン、ベンゼン、トルエン及びキシレン)、タール(HAPを含む)、細かい灰(金属及び金属塩を含む粒子の形態)、床材、及びチャー(典型的には0.001mmを超え、金属、塩及び主に炭素を含む固体粒子)などの不純物を含む粗シンガスを提供する。しかし、このような不純物は、燃料として使用するシンガスの能力や、クリーニングプロセスなしで他の有用な材料の合成に使用するシンガスの能力を制限する。
【0051】
一実施形態では、メタノール及びシンガス(すべて廃棄物又はバイオマスから誘導された)からのホルムアルデヒド及び酢酸の合成を伴う統合されたアクリル酸製造プロセスが包含される。さらなる実施形態では、少なくとも95%又は95~99%の炭素ベースの純粋な酢酸が製造される。(a)メタノールを過剰の空気と250~400℃で反応させて(メタノール転化率は最高で99%まで)、ホルムアルデヒドを含む生成物流を提供し、(b)酢酸と一緒にし、(c)触媒の存在下で共に反応させて、アクリル酸を含む生成物を提供することから、アクリル酸を製造するプロセスが提供される。
【0052】
本開示は、廃棄物由来のメタノールからアクリレートを製造するプロセス及びシステム設計に関する。また、例えば産業廃棄物、都市固形廃棄物及びバイオマスなどの廃棄物に由来する炭素からのアクリル酸及びその誘導体の製造も提供される。より詳細には、本開示は、合成ガスを製造するガス化プロセスを通じて廃棄物炭素及びバイオマスから合成ガスを製造し、メタノールプラットフォーム上でアクリル酸及びその誘導体などの燃料を製造するために合成ガスを利用することに関する。ホルムアルデヒドと酢酸は両方とも、反応蒸留とヨウ化物フリーカルボニル化の新規な適用を用いることによって、最初に、メタノール(空気酸化を使用してホルムアルデヒド)及び酢酸から誘導される。別の実施形態では、ホルムアルデヒドは、独立した供給源から、外部から供給されるため、メタノールから誘導されない。さらに、CO2などの副生成物はすべて、改質アプローチにより、さらなるシンガスに再利用される。工業用の既知の市販の触媒を使用すると、約50%のホルムアルデヒド転化率(ホルムアルデヒドは制限試薬(limiting agent)である)に基づいて92%超の選択率でアクリル酸が提供された。従って、本開示に記載されたプロセスは、最も選択性の高い転化のための最適化された条件を提供する。
【0053】
本開示に記載のプロセスに関連して使用される原料、例えば酢酸は、メタノールのカルボニル化から誘導される。より具体的には、酢酸は、メタノールの存在下での酢酸メチルの加水分解から得ることができる。別の実施形態では、酢酸メチルは、ヨウ化メチルを共触媒として使用しない触媒ルートで製造され、カルボニル化触媒としてRhなどの貴金属の使用も回避される。より具体的には、酢酸及びホルムアルデヒドの代替源は、廃棄物由来のシンガスから得ることができる。例えばメタノール及び一酸化炭素などの中間体は、代替炭素源として都市固形廃棄物又はバイオマスから製造される。メタノールプラントを改造することで、新しい酢酸プラントのCO生成に関連する多額の資本コストを大幅に削減するか、又はほぼなくすことができる。シンガスの全部又は一部をメタノール合成ループから流用し、分離装置に供給してCOを回収し、これを酢酸の製造に使用する。
【0054】
一実施形態に従って、炭素質材料からアクリル酸を製造するプロセスが提供される。このプロセスは、炭素質材料をガス化して粗合成ガスを提供することを含む。次いで、粗合成ガスを精製して精製合成ガスを提供する。精製合成ガスからの一酸化炭素の少なくとも一部を精製合成ガスからの水素と反応させ、引用によりその内容全体を援用するPCT/CA2020/050464に記載されているようにメタノールを製造する。次いで、メタノールを所定の条件下で反応させて、ホルムアルデヒドの流れと、別の流れでジメチルエーテル(DME)の中間体を提供する。DMEをさらに、ヨウ化物フリー環境下でシンガスと接触させて、酢酸メチルを生成させる。酢酸メチルは、酢酸を生成させるために1つ以上の反応工程に供される。酢酸とホルムアルデヒドを、さらに触媒下で特定の反応条件下で接触させ、アクリル酸を製造する。
【0055】
図1に示されるように、外部水素を取り込まずに、かかる組成のシンガス12を製造することができる廃棄物10のガス化を含むプロセスが提供され、これにより生物起源物質含有率(biogenic content)が改善されるだけでなく、GHG排出量も大幅に削減される。ホルムアルデヒド16及び酢酸22がアルドール縮合反応に参加してアクリル酸24を形成することが見出された。一実施形態では、メタノール14は廃棄物10から合成ガス12を経て製造される。ヨウ化物フリーカルボニル化と反応蒸留の工程Bが、ジメチルエーテル(DME)18(1種のメタノール誘導体)を使用して酢酸22を製造するために使用される。ジメチルエーテル(DME)18を加水分解して、ヨウ化物フリーカルボニル化により形成された酢酸メチル20を生成させ、酢酸メチル20を反応蒸留工程で加水分解して、酢酸22を得る。
【0056】
アルドール縮合ルートは、石油化学産業に依存せずに、経済的に実現可能なアクリル酸生成プロセスを提供し、莫大な炭素捕捉の可能性がある。
【0057】
図1に示すように、一実施形態における、メタノール14からホルムアルデヒド16を製造するプロセスの単純化した表現が示されている。Formox(商標) ProcessによるCH
3OHのホルムアルデヒドへの全転化率は、90~92%と報告された。大気圧で、250~400℃で、修飾された鉄-モリブデン-バナジウム酸化物(例えばV-P-Oタイプ)触媒の存在下、過剰の空気を用いるだけの酸化(メタノール転化率=98~99%);市販の触媒は触媒プロバイダーから入手可能であり、触媒寿命は18~24ヶ月である。
図1には、CH
3Iを共触媒として使用せずに、メタノール由来のDME18を使用して酢酸メチル20を製造するプロセスの簡単なブロックフロー図も示されている。本開示に記載のプロセスは、廃棄物をシンガスに変換し、シンガスを清浄化し、シンガスを圧縮し、次いで、目的生成物を生成させるのに適切なH
2/CO比(メタノール又はエタノールの場合は2:1、酢酸の場合は1:1)に調整した後にシンガスを変換する一連のプロセスユニットを使用する。一例では、H
2/CO比は0~2である。さらに、メタノール過剰の触媒的カルボニル化は、酢酸メチルを製造するために、商業的に実施されている液相の代わりに不均一系触媒を用いて、気相で使用される。酢酸メチル20は、概念的には、DME18のカルボニル化から製造することもでき、そのため水は存在せず、ヨウ化メチルの共触媒としての使用をなくすことができる。
【0058】
一般的に、次式に従って、水素と一酸化炭素(シンガスとして)を反応させて、メタノールを製造する。
【化2】
【0059】
非限定的な実施形態では、メタノールは、次いで、次式に従って、ジメチルエーテル(又はDME)などの少なくとも1種のエーテルを製造するために、脱水に供される。
【化3】
【0060】
メタノールは、脱水触媒の存在下で、ジメチルエーテルを生成するために脱水に供されてもよい。非限定的な一実施形態では、脱水触媒はγ-アルミナである。
【0061】
非限定的な一実施形態では、水素及び一酸化炭素を、「統合(integrated)」メタノール合成-脱水触媒の存在下で反応させる。「統合」メタノール合成-脱水触媒は、不活性油、例えば白色鉱油又はドラケオール(Drakeol)などの中に懸濁されてもよく、不活性油中に水素及び一酸化炭素がバブリングされる。このような実施形態では、水素と一酸化炭素を「統合」触媒の存在下で反応させてメタノールを生成させる。次いで、メタノールを「統合」触媒の存在下で直ちに反応させて、DMEと水を生成させる。非限定的な一実施形態では、水素及び一酸化炭素を第1の反応器でメタノール触媒の存在下で反応させてメタノールを生成させ、次いで、メタノールを第2の反応器で脱水触媒の存在下で反応させて、少なくとも1種のエーテル、例えばDMEなどを生成させる。
【0062】
次いで、DMEを精製して、残留水素、一酸化炭素及び水を除去する。精製DMEを、次いで、反応器、例えば、非限定的な一実施形態では、例えばゼオライト又は金属修飾ゼオライトなどの触媒が存在する充填床反応器に通し、酢酸メチルを選択的に生成させる。このような例は、ジメチルエーテルから酢酸メチルへの変換に使用される触媒に関する米国特許第10,695,756号明細書に見られる。米国特許第10,695,756号明細書では、ジメチルエーテルを一酸化炭素と反応させて酢酸メチルを生成させる。より詳細には、酢酸メチル(MA)へのジメチルエーテルの変換に使用される触媒であって、触媒が、(i)モルデナイトゼオライト;(ii)亜鉛;及び(iii)銅を含み、約0.25の前記亜鉛に対する前記銅のモル比で、前記銅及び前記亜鉛が前記触媒中に存在する触媒が包含される。MA合成に使用される触媒に応じて、選択率は80%~95%である。
【0063】
カルボニル化合物のアルドール縮合反応は、塩基性タイプと酸性タイプの両方の触媒活性部位で起こり得る。現在、塩基性タイプの触媒と酸性タイプの触媒の両方が使用されている。ほとんどの場合、塩基性タイプの触媒の使用は、AA形成の十分な選択率によって特徴付けられるが、触媒上での制限反応器の転化率は比較的低い。一方、酸性タイプの触媒は反応物の高い転化率を提供するが、それらの使用は大量の副生成物の形成を伴う。
【0064】
アルドール縮合反応は、例えば、酸化マグネシウムもしくは酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属酸化物、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムもしくはセシウム促進酸化マグネシウムなどのアルカリ促進アルカリ土類金属酸化物、担持アルカリ触媒、酸性ゼオライト、アルカリ変性ゼオライト、マグネシウムアルミニウムハイドロタルサイト、アニオン性粘土、ジルコニア、硫酸塩変性ジルコニア、酸化ランタン、酸化ニオブ、酸化セリウム、酸化チタンなどを含む、酸触媒、塩基触媒及び酸-塩基二機能性触媒によって触媒することができる。
【0065】
図1に示し、本開示で提供されるように、このプロセスは、酢酸とホルムアルデヒドのアルドール縮合を使用し、酢酸とホルムアルデヒドは両方とも従来のメタノールプラットフォームに基づく。本開示に記載のヨウ化物フリーカルボニル化プロセスは、酢酸メチルを生じ、直接シンガス及びDMEを利用する。代わりに、本開示に包含されるように、メタノールと酢酸メチルを利用する反応蒸留のためのプロセス強化アプローチ(process intensification approach)は、DMEと酢酸を生じる。一実施形態では、シンガスの全部又は一部をリサイクルすることができる。
【0066】
最初のシンガスに関連する全体的な化学量論は、これら2つのルートで異なる:
プロピレンの酸化を経る:
【化4】
【0067】
必要な合成ガス比H2/CO=2/1。
【0068】
【0069】
必要な合成ガス比H2/CO=4/3。
【0070】
このように、アルドール縮合を経るルートは、CO単位あたりの水素の必要量が少ない(1.34対2)ので、より効率的であるように見える。本開示で使用されるガス化工程は、外部水素を取り込まずに、このような組成のシンガス12を製造することが可能であり、これにより生物起源物質含有率が向上するだけでなく、温室効果ガス排出量も大幅に削減される。本開示で使用するアルドール縮合ルートは、石油化学産業に依存せずに、経済的に実現可能なアクリル酸生成プロセスを提供する手段を提供する。非酸化的アプローチに基づく統合された廃棄物由来シンガスプロセスは、化石燃料産業に依存することのない、また、莫大な炭素捕捉の可能性を持つ、アクリル酸の製造を可能にする。
【0071】
本開示で提案する蒸気相アルドール縮合反応は、大気圧下で動作するシングルパスの固定床フロー反応器で行われることが実証された。反応温度は623~693Kの範囲であり、1~10の範囲内の比率の酢酸とホルムアルデヒド(メタノールと水に対して25~37%の濃度)の混合フィードを、様々な触媒に対して試験した。制限試薬に応じて、アクリル酸について90%超(モル比)の選択率が得られた。
【0072】
酢酸とホルムアルデヒドからアクリル酸を製造するための記載したプロセスは、少なくとも以下の工程を含む:廃棄物由来のメタノールを、大気圧で250~400℃で、過剰の空気と市販の触媒の存在下での酸化に供する(メタノール転化率=98~99%)。市販の触媒はジョンソン・マッセイから入手可能であり、触媒寿命は18~24ヶ月である。Formox(商標)プロセスによるメタノールのホルムアルデヒドへの総転化率86%(90~92%)が報告されている。
【0073】
カルボニル化は、ヨウ化メチルの存在下、Rh触媒を使用して気相で商業的にも行われており、適切な条件下で酢酸及び関連生成物を提供する(米国特許第8,080,693号)。メタノールと一酸化炭素の反応が、十分なモル比のメタノールと一酸化炭素、すなわち十分な等モルのメタノールと一酸化炭素と、十分な酸性度とを有する条件下で行われると、触媒的カルボニル化反応により酢酸が生成する。COに比べてメタノールがモル過剰であると、酢酸メチルへのエステル化も起こりうるが、反応生成物中の酢酸メチルと酢酸のモル比は、カルボニル化反応後の酸触媒の反応速度の結果であり、反応物と生成物の間の平衡によって制限される。反応物と生成物の間の平衡は、温度、圧力、及び反応物の組成などの反応条件を変えることによって変化させることができる。
【0074】
例えば、エネルケム・インコーポレイテッド(Enerkem Inc.)は、蒸気/気相触媒フロー反応器において、反応物として(COに対して)過剰のメタノールでカルボニル化を行い、主生成物として酢酸メチル(CH3COOCH3、MA)を得たことで知られている。MAはよく知られた溶媒であり、酢酸を含む有機合成でも使用される。現行のプロセスの主な欠点は、CH3Iを必要とすることであり、これは必然的に腐食性の高いHIを形成し、またその毒性のために下流で完全な回収(>99.99%)を必要とする。これは、多大な資本コスト及び運転コストにつながる。そのため、反応蒸留プロセスによる酢酸メチル加水分解の補助反応を使用して酢酸を製造するプロセスが特に開示される。これにより、特に、酢酸へのジメチルエーテル(DME)のヨウ化物フリー気相カルボニル化を達成することが可能となる。
【0075】
本開示で提供されるように、酢酸メチル(MA)はヨウ化物フリーのプロセスで製造され、酢酸の製造もヨウ化物フリーで達成される。酢酸の合成の場合、この反応は、以下に示すように1/1のH
2/CO比を必要とする:
【化6】
ここで、CO
2をCH
4により乾式改質して1/1のCO/H
2を生成させることができ、メタノールを脱水してDMEにすることができる。
【0076】
ポリマー産業では、MAの加水分解について蓄積されたかなりの知見がある。ポリビニルアルコール((CH
2=CH-OH)
n、PVA)は、合成繊維やフィルムなどを製造するための重要な材料である。PVAの合成プロセスでは、副生成物として酢酸メチルが高収率で生成する。PVA1トン当たり1.5~1.7トンのMAが生成すると推定されている。MAは通常、加水分解されてメタノールと酢酸になり、それぞれポリ酢酸ビニルのメタノリシス反応と酢酸ビニルモノマー(VAM)の合成にリサイクルされる。加水分解反応は、イオン交換樹脂を触媒として固定床反応器で行われる。25℃での平衡定数が約0.14と限られているため、加水分解率は比較的低く(約23%)、その結果、大量の再循環をもたらし、エネルギーが著しく増加する。酢酸メチル加水分解の実験的化学平衡定数(K
eq)が、温度が下がるにつれてどのように減少するかを、
図4に見ることができる。
【0077】
さらに、系内に存在する酢酸メチル-メタノール及び酢酸メチル-水の共沸混合物を処理するために複雑な分離プロセスが必要であり、通常、最大4本の分離カラムが使用される。
【0078】
モルデナイト(H-MOR)及びγ-アルミナのような2つの異なるタイプの固体酸触媒で試験し完了した場合、20のH2O/MA比では、比較的穏やかな温度(100℃)でMAの高い転化率が達成可能であることも示されている。実施した実験に基づくと、H2O/MAのモル供給比を減少させることによって、MAの転化率を改善したり、エネルギー消費量を減少させたりできる可能性は低い。
【0079】
前述の欠点を克服するために、多くの改良されたプロセスが開発された。反応と分離を一緒に行うプロセスである反応蒸留は、魅力的な代替プロセスであり、平衡定数が小さい系に明らかな利点を与える。
【0080】
こうして、二元共沸混合物の存在が観察される:(1)酢酸メチルとメタノールは53.7℃で酢酸メチル65.9mol%の組成を有する最低沸騰共沸混合物を形成し、(2)酢酸メチルと水は56.4℃で89.0mol%の組成を有する最低沸騰共沸混合物を形成する。両方とも大気圧で予測したものである。したがって、純成分と共沸混合物の通常の沸点温度の順序は次のようになる:
【化7】
【0081】
A+B=C+Dとして描かれる反応を考える場合、これらの成分の沸点はA>B>D>Cの順序に従う。このプロセスの伝統的なフローシートは、反応器とそれに続く一連の蒸留カラムから構成される。
Aは酢酸(118)である。
Bはメタノール(64.5)である。
Cは酢酸メチル(57.5)である。
Dは水(100)である。
【0082】
RDの利点の最も顕著な例は、酢酸メチルの製造である。酸触媒反応MeOH+MeOAc=DME+AcOHは、従来、1つの反応器と9本の蒸留カラムを使用して行われていた。本開示で提案するRD(
図5参照)は、たった1つのカラムを必要とし、ほぼ100%の反応物の転化率が達成される。資本コストと運転コストは大幅に低減される。
【0083】
以上により、1のH2/CO比を使用する酢酸合成が提供される。
【0084】
アクリル酸の最も効率的な製造ルートは、その製造ルートに参加するすべての化合物について、できる限りゼロに近い有効なH/C比(H/C
eff)を有するものであることが包含される。H/C
effは、当該化合物の炭素含有量(C)、水素含有量(H)及び酸素含有量(O)に基づいて以下のように定義される(原子比で表示):
【数1】
【0085】
説明のために、この定義をCH4に適用すると、H/Ceff=4となる。CO2に適用すると、H/Ceff=-4となる。アクリル酸(CH2CHCOOH)はH/Ceff=0である。一方、プロピレン(CH2=CH-CH3)は、H/Ceff=2により特徴づけられる。他方、ホルムアルデヒド(HCHO)及び酢酸(CH3COOH)は両方とも、有利には、0であるH/Ceffによって特徴付けられ、したがって、本開示に示されるように、アクリル酸の製造のための又は中間体のより効率的な原料を表す。
【0086】
一実施形態によれば、炭素質材料からアクリル酸を製造するプロセスが提供される。このプロセスは、炭素質材料をガス化して粗合成ガスを提供することを含む。次いで、粗合成ガスを精製して、精製合成ガスを提供する。引用によりその内容全体を援用するPCT/CA2020/050464に記載されているように、精製合成ガスからの一酸化炭素の少なくとも一部を精製合成ガスからの水素と反応させて、メタノールを製造する。次いで、メタノールを所定の条件下で反応させ、ジメチルエーテル(DME)の流れを提供する。DMEを、さらに、ヨウ化物フリー環境下で合成ガスと接触させて、酢酸メチルを生成させる。
【0087】
特に
図1に包含されるように、例えば廃棄物から合成ガスを経て製造されたメタノール14が酢酸22を製造するために使用されるプロセスが提供される。ヨウ化物フリーのカルボニル化及び反応蒸留工程Bは、一種のメタノール誘導体であるジメチルエーテル(DME)18を使用して酢酸22を製造するために使用される。ジメチルエーテル(DME)18は、次いで、酢酸メチル20を製造するために加水分解され、酢酸メチル20は、ヨウ化物フリーカルボニル化によって形成される、酢酸メチル20を反応蒸留プロセスで加水分解して酢酸22を得る。
【0088】
一実施形態では、メタノールは廃棄物から合成ガスを合成ガスを経て製造される。このプロセスは、CH3Iを共触媒として使用せずに、メタノール由来のDMEを使用して酢酸メチルを製造することを包含する。本開示に記載のプロセスは、廃棄物をシンガスに変換し、シンガスを清浄化し、シンガスを圧縮し、次いで、目的生成物を生成させるのに適切なH2/CO(酢酸の場合は1:1)に調整した後にシンガスを変換する一連のプロセスユニットを使用する。さらに、メタノール過剰の触媒的カルボニル化は、酢酸メチルを製造するために、商業的に実施されている液相の代わりに不均一系触媒を用いて、気相で使用される。
【0089】
一般的に、水素と一酸化炭素(シンガスとして)を反応させ、次式に従ってメタノールを生成させる。
【化8】
【0090】
非限定的な実施形態では、メタノールは、次いで、以下の式に従って、ジメチルエーテル(又はDME)などの少なくとも1種のエーテルを生成させるために、脱水に供される。
【化9】
【0091】
特に、
図1(ステップC)及び
図2に見られるように、補助反応によって強化された反応蒸留(RD)プロセス30によって酢酸22及びDME18を直接製造するプロセスが記載されている。このプロセスは、酢酸製造の統合されたプロセスにおいてMeOAcとMeOHを加水分解する新規なプロセスにおいて、化学平衡と速度論的に制御された設計に基づく。従来のプロセスと比較して、RDカラムに供給する追加の水は必要とされず、当該プロセスは著しく簡素化されている。等モルのMeOAcとMeOHをフィードとして使用する本プロセスの別の実施形態では、MeOAcとMeOHの100%に近い転化率が、RDカラムの生成物としての高純度のジメチルエーテル及び酢酸により達成される。
【0092】
記載した反応蒸留は、酢酸とDMEを製造するために単一の触媒容器内での同時反応(メタノールの脱水と酢酸メチルの加水分解)を可能にし、共沸混合物を形成せずに沸点の差によるそれらの分離が適用される。
【0093】
カルボニル化によるメタノールからの酢酸の製造プロセスは広範に実施されている(Howard et al. in Catalysis Today, 18 (1993) 325-354参照)。現在、メタノールのカルボニル化による酢酸の調製のためのすべての商業的プロセスは、第VIII族金属とヨウ素又はヨウ素含有化合物、例えばヨウ化水素及び/又はヨウ化メチルなどを含む均一系触媒系を使用して液相で行われている。ロジウムは最も一般的な第VIII族金属であり、ヨウ化メチルは最も一般的な促進剤である。これらの反応は、触媒の沈殿を防ぐために水の存在下で行われる。
【0094】
非限定的な一実施形態では、酢酸メチルの加水分解は、
図2に示されているように酢酸をもたらすこともできる。これは、反応と分離が同時であるという利点によるプロセス強化(process intensification)のため、反応蒸留(RD)の形態にある魅力的な選択肢として酢酸を製造する本開示のプロセスの概念的な一実施態様である。酢酸メチルの加水分解はしばしば固定床反応器で行われ、その後蒸留や抽出蒸留を含むいくつかの分離工程が行われる。しかしながら、固定床反応器の収率は化学反応の平衡によって制限され、これは、酢酸メチルから酢酸及びメタノールへの転化は平衡点までしか完了しないことを意味する。その結果、かなりの量の酢酸メチルと水が固定床反応器内に未反応のまま残るため、大量のリサイクル流を供給しなければならない。
【0095】
図2に示すように、代替実施形態では、補助反応によって強化された反応蒸留(RD)プロセス30によって酢酸22とDME18を直接製造するプロセスの単純なブロックフロー図が実施される。本プロセスは、酢酸製造の統合されたプロセスでMeOAcとMeOHを加水分解する新規プロセスにおいて、化学平衡と速度論的に制御された設計に基づく。従来のプロセスと比較して、RDカラムに供給する追加の水は必要とされず、当該プロセスは著しく簡素化されている。等モルのMeOAcとMeOHをフィードとして使用する本プロセスの別の実施形態では、MeOAcとMeOHの100%に近い転化率が、RDカラムの生成物としての高純度のジメチルエーテル及び酢酸により達成される。
【0096】
従って、以下の反応による補助反応を使用して酢酸を得るためにRD構成を適用するプロセスが包含される:
【化10】
全体反応
【化11】
【0097】
RDは反応と生成物分離を同時に行うことができるシステムであるため、DME及び酢酸へのメタノール及び酢酸メチルの反応を行うための構造化充填物を含む反応セクションがある蒸留カラムを備えることによって、資本コストと運転コストを大幅に削減することができ、また、最も重要なことは、エネルギー効率が高く、向上した反応平衡条件で効率的な生成物の分離によって、より高い転化率を得ることができる。
化学反応が行われるカラムの反応セクションは、最適化された温度及び流量のもとで、不均一系触媒、例えばアンバーリスト型触媒などを含む。RDの理想的なプロセス構成のひとつは、反応ゾーンの下部と上部に軽質及び重質反応物が供給され、重質及び軽質成分をそれぞれ底部及び頂部生成物とするカラムからなる。
【0098】
反応蒸留における反応と分離プロセスの間に、MeOAc+MeOHが軽質成分として上昇し、水が重質成分として下降する可能性が依然としてある。従って、反応物は触媒と接触しない。したがって、理論に縛られるわけではないが、上部の凝縮液のある程度の分割流を蒸留ユニットのより下方の段に汲み戻すことで、触媒と良好に接触させることができる。基本的には、これによって、より高い反応物転化率を達成することができる。実験結果はASPEN-Hysysシミュレーションによって検証し、シミュレーションで実施して、MeOAc+MeOHの汲み戻しが転化率を大幅に向上させることを実証した。
【0099】
反応物が不均一系触媒と効果的に接触すると、反応は進行する。それに加えて、生成物の分離が、順方向に反応を増進する。しかしながら、反応ゾーンがバスケットなしで触媒だけを含む場合、圧力損失の問題が発生する。底部反応ゾーンの圧力増加は生成物の沸点を上昇させる。これは本質的に蒸留ユニットの底部にフラッディング(flooding)の問題を引き起こす。結局、蒸留システムは不安定になり、分離が効果的に起こらない。
【0100】
触媒を、特別に設計された触媒バスケット(
図6参照)を使用して、反応蒸留に設置することができる。バスケットは、触媒床の圧力損失による潜在的な問題を回避するのに役立つ。一般的に、圧力損失は、主に、小さいサイズの触媒による抵抗に起因する。
図6cに見られるような触媒バスケットは、反応ゾーンで充填材として機能するように設計することができる。これにより、反応性能だけでなく、生成物の分離効率も向上する。従って、いくつかの実施形態では、アンバーリスト型触媒(
図6a参照)をSSメッシュ(
図6b参照)で包んで触媒バスケット(
図6c)とする。この触媒バスケットは、本開示の上の段落で説明したような運転上の問題(例えば圧力損失)を回避する。それに加えて、触媒バスケットは大きな表面積を生み出し、沸点に応じた生成物分離のための平衡段をより多くする。生成物の除去は、本質的に、反応平衡を順方向に進行させ、反応性能を向上させる。反応性エントレーナを使用したシクロヘキセンからシクロヘキサノールへの間接的水和は、インテンシフィケーションの1つの典型的な例である(Steyer et al., 2008, Ind. Eng. Chem. Res. 47, 9581 and Katariya, et al., 2009. Two-step reactive distillation process for cyclohexanol production from cyclohexene. Ind. Eng. Chem. Res. 48, 9534)。シクロヘキセン/水の系では液-液相分割(liquid-liquid phase splitting)が反応速度を制限するため、その系に反応性エントレーナとしてギ酸が導入される。シクロヘキセンは、まず、ギ酸と反応してギ酸シクロヘキシルエステルを形成し、次に、このエステルを水でシクロヘキサノールとギ酸に分割することができる。この反応ルートは、反応速度の限界を克服し、有意な量の副生成物がないという利点をもたらす。同様のコンセプトは、本開示に記載された態様のうちの1つにも適用され、MeOAcの新規な加水分解プロセスが、平衡及び速度論的に制御された設計に基づいて開発された。従来のプロセスと比較して、この新規プロセスは、94%のMeOAc転化率により大幅に単純化され、リボイラーでの酢酸純度が最高で99%になることが証明された。触媒実験は、触媒バスケットを使用して触媒を保持したガラス蒸留を使用して実施した。運転条件は、T=80~100℃、及び大気圧に近い圧力であった。ガラス製ユニットに比べ、ステンレス(SS)製反応蒸留ユニットは少なくとも5倍の大きさであった。運転条件と反応器構成に依存して、40~94%のMeOAc転化率が達成された。酢酸の炭素ベースの純度レベルは95~99mol%であった。さらに、メタノール脱水によって、さらなる生成物として、高純度のジメチルエーテル(DME)も得られた。
【0101】
ホルムアルデヒドと酢酸は、アルドール縮合反応に参加してアクリル酸を形成することが見出されている。アルドール縮合ルートは、石油化学産業に依存せずに、アクリル酸形成のための経済的に実現可能なプロセスを提供する手段を提供する。現行のプロセスを、カルボニル化反応器で酢酸を生成するように設計することができ、酢酸が主生成物となるように反応器ダイナミクスを変更することができる。このプロセスは、VitchaとSimsによる論文(Vapor Phase Aldol Reaction. Acrylic Acid by Reaction of Acetic Acid and Formaldehyde. Industrial & Engineering Chemistry Product Research and Development 1966, 5 (1), 50-53)に記載されている。その後、米国特許第3,840,587号、米国特許第4,339,598号、米国特許第4,165,438号、米国特許第8,507,721号及び米国特許第9,120,743号明細書などの様々な特許が、メタノールと酢酸からアクリル酸を製造するプロセスを開示しており、メタノールは不均一触媒気相反応で部分酸化されてホルムアルデヒドになる。酢酸はホルムアルデヒドより過剰に使用される。反応ガス投入混合物中に存在するホルムアルデヒドは、不均一系触媒作用により酢酸とアルドール縮合し、アクリル酸を生成する。生成物ガス混合物中にアクリル酸とともにまだ存在する未変換の酢酸はそこから除去され、反応ガス投入混合物にリサイクルされる。
【0102】
ホルムアルデヒドと酢酸及び/又はカルボン酸エステルのアルドール縮合反応は、米国特許第8,507,721号明細書に記載されており、この反応は触媒上で行われ、アクリル酸を形成する。
【0103】
米国特許第9,695,099号明細書は、メタノールと酢酸からアクリル酸を製造するプロセスであって、メタノールが不均一触媒気相反応でホルムアルデヒドに部分酸化されるプロセスを開示している。こうして得られた生成物ガス混合物と、酢酸源とを使用して、酢酸とホルムアルデヒドを含む反応ガス投入混合物を得る。酢酸はホルムアルデヒドより過剰に使用される。反応ガス投入混合物中に存在するホルムアルデヒドは、不均一系触媒作用により酢酸とアルドール縮合して、アクリル酸を形成する。生成ガス混合物中にアクリル酸と共にまだ存在する未変換酢酸は、そこから除去され、反応ガス投入混合物にリサイクルされる。
【0104】
酢酸とホルムアルデヒドとのアルドール縮合反応は、アクリル酸の形成をもたらす。この反応は280~400℃の範囲で起こることが観察されており、わずかに発熱的である。
【化12】
【0105】
しかしながら、この系でもさまざまな副反応が起こりうる。
【0106】
ホルマリンからのメタノールによる酢酸のエステル化は、酢酸メチルの形成をもたらし、この酢酸メチルとホルムアルデヒドとの反応は、アクリル酸メチルの形成をもたらす。
【化13】
【0107】
あるいは、メタノールを、アクリル酸と直接反応させてアクリル酸メチルを形成することもできる。
【化14】
【0108】
酢酸の分解により二酸化炭素とアセトンが形成される。
【化15】
【0109】
ホルムアルデヒドの分解により、メタノールと二酸化炭素の形成ももたらされることがある。
【化16】
【0110】
さらに、系内で生成したアクリル酸を重合させてポリアクリレートを形成することができる。
【化17】
【0111】
ここで提供されるプロセスは、不飽和酸及び/又はアクリレートを製造するのに有効な条件下で、アルカン酸をメチレン化剤と接触させることにより、不飽和酸、例えばアクリル酸、又はそのエステル(アルキルアクリレート)を製造することを可能にする。好ましくは、触媒の存在下で酢酸をホルムアルデヒドと反応させる。
【0112】
本開示に記載のプロセスに関連して使用される原料、例えば酢酸は、メタノールのカルボニル化から誘導される。より具体的には、酢酸は、例えばメタノールの存在下での酢酸メチルの加水分解などの従来とは異なるルートに由来するものであることができる。別の実施形態では、カルボニル化触媒としてRhカルボニルを使用する場合、酢酸メチルは、ヨウ化メチルを共触媒として使用しない触媒ルートで製造される。
【0113】
より具体的には、酢酸及びホルムアルデヒド製造の代替源は、廃棄物由来のシンガスに由来するものであることができる。例えばメタノール及び一酸化炭素などの中間体は、代替炭素源として都市固形廃棄物又はバイオマスから製造される。メタノールプラントを改造することで、新しい酢酸プラントのCO生成に関連する多額の資本コストを大幅に削減するか、又はほぼなくすことができる。シンガスの全部又は一部をメタノール合成ループから流用し、分離ユニットに供給してCOを回収し、これを酢酸の製造に使用する。バイオマスの例としては、農業廃棄物、林産物、草、及び他のセルロース系材料、木質ペレット、段ボール、紙、プラスチック、及び炭素を含む他の商業廃棄物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0114】
実施例I
アルドール縮合反応
アルドール縮合反応に関して、使用した実験装置は、生成物収集のために下流に冷却収集タンク60を備えた、公称直径1インチ(2.54cm)のジャケット付き反応器50から構成されていた(
図3参照)。フィードタンク40からの液体フィード混合物を、所定速度0.2~1ml/分で、N
2流下、予熱ユニット(200℃)にポンプで送り込み、フィード蒸気を、蒸発器42を通して、触媒を含む反応器50に送った。蒸気相アルドール縮合反応は、大気圧下で動作するシングルパスの固定床フロー反応器50で行った。
【0115】
触媒試料を反応器50の中央に配置し、触媒試料の下方及び上方の両方に石英砂を使用した。触媒は、粉砕され、活性評価のために50~35メッシュ(300μm~500μm)にふるいがけされたものであった。触媒の量は5.0g~10.0gであり、石英砂を76mlの一定容量になるまで加えた。さらに、蒸発器ユニット42からの流入液を予熱するために、触媒床の上方の空間に0.8mmサイズのα-Al2O3ビーズを充填した。反応温度は623~693Kの範囲であり、触媒床の上方の空間を、流入液を予熱するために石英チップで満たした。フィード蒸発器ユニット42は、300mlのステンレス鋼製サンプルシリンダーと、閉端有孔ディップ管からなっていた。サンプルシリンダーを加熱テープで加熱した。熱電対は、加熱速度を制御するために、ディップ管の内側に、その先端が中央の位置にあるように配置した。サンプルシリンダーには石英を充填し、シリンダー中央部と側部との温度差を最低限に抑えるようにした。N2ガスと液体フィードは、フィード管にポンプで送り込んだ。気化したフィードを反応器システム50に運んだ。凝縮器52と収集タンク60を、生成物回収のために反応器の下流に配置した。
【0116】
滞留時間を最適化した(5秒から25秒まで)。運転温度は350℃から420℃まで変化させた。トリオキサンに加えて、様々な濃度(25wt%~37wt%)のホルムアルデヒド溶液を使用した。酢酸とホルムアルデヒドの混合溶液を、0.01~0.1ml/分の供給速度でHPLCポンプにより予熱器を介して反応器50に導入した。酢酸とホルムアルデヒドのモル比は使用する触媒に依存し、1/2未満又は1/2超の範囲で様々に変えた。反応器50からの生成物は、4℃で運転される凝縮器52を通過する。液体は凝縮器の底部に集められ、ガスは大気に放出される前に活性炭吸着剤を通過する。
【0117】
Agilent 7820Aガスクロマトグラフィーシステムを使用して、液相及び気相のエフルエント生成物を分析した。FID及びDB Waxカラムと、TCDに結合されたHaySepカラムをそれぞれ使用した。
【0118】
製品中の含水量は、メトラー・トレド(Mettler Toledo)V20容量法カールフィッシャー(Karl Fischer)滴定装置を用いて測定した。生成物サンプル中のホルムアルデヒド含量は、亜硫酸ナトリウム法を使用する滴定により求めた。フィード混合物中に存在する制限試薬(limiting agent)の濃度に応じて、ホルムアルデヒドを制限試薬とし、転化率、選択率及び収率を以下の式に従って定義した:
転化率:(ホルムアルデヒドINのモル数-ホルムアルデヒドOUTのモル数)×100/ホルムアルデヒドINのモル数
選択率:形成されたアクリル酸のモル数×100/消費されたホルムアルデヒドのモル数
収率:形成されたアクリル酸のモル数×100/ホルムアルデヒドINのモル数
【0119】
ピロリン酸バナジル(VPO)触媒は、前駆体としてリン酸水素バナジル半水和物(VOHPO4・0.5H2O)をベースとする軽質アルカンの選択的酸化に使用される。VPO触媒は市販製品(クラリアント製のSynDane(登録商標)触媒)であるが、n-ブタンの無水マレイン酸への部分酸化に広く使用されている。
【0120】
VPOタイプの触媒は、酢酸とホルムアルデヒドを縮合ルートを経てアクリル酸に変換する場合にも使用されている。この触媒系は、実験室と産業界で取り組みが行われてきたにもかかわらず、多くの詳細が不明のままである。適切な活性化手順を用いて、アルドール縮合を機能させるためにこのようなVPO触媒を製造することができる。
【0121】
本開示に包含されるように、市販のSyndane触媒及び社内で改良したVPO触媒の両方は、80~90%のアクリル酸選択率(ホルムアルデヒドに基づく)及び40~50%のホルムアルデヒド転化率を達成することができる。
【0122】
アクリル酸に対するより高い選択率を得るために、触媒を空気及びフィードガス混合物の存在下で活性化できることが発見された。活性化の間、触媒は酸化された状態のままであるべきことを発見した。以下の活性化手順を適用した:
11 - N2下で1時間の触媒か焼のために温度を350℃に設定する。
2 - 温度を500℃まで上昇させ、N2下で1時間。
3 - 空気に切り替えて、500℃で2時間。
4 - 温度を350℃まで下げ、空気下で2時間(予熱器バルブは閉じる)。
5 - 0.001~0.1mL/分に設定されたHPLCポンプを始動し、N2流は10~70mL/分で1時間(予熱器バルブは開放する)。
6 - N2ガス流を10~30mL/分に30分間減少させる。
7 - 30mL/分の空気に10~30分間切り替える。
8 - 空気の流量を50~90mL/分に増加させる。
9 - フィード混合物濃度と空気の下で活性化を1時間継続する。
10 - 1時間後、フィード混合物の下で50~90mL/分のN2に切り替える。
11 - 活性化が完了。
【0123】
実施例II
アルドール縮合触媒の合成
ベンジルアルコール(120ml)中での五酸化バナジウム(32.9g)とイソブタノール(120ml)の反応を使用することによって、VPO前駆体を調製した。反応混合物を140℃で5時間還流した。計算量のPEG 6000を上記混合物に加えた。1時間後、P/V比が1.05になるようにリン酸をゆっくり加え、さらに6時間還流した。濁った反応混合物を濾過し、得られた青緑色がかった沈殿物を120℃でオーブン乾燥させた。リン酸水素バナジル半水和物相(VOHPO4・0.5H2O)が得られ、これはXRD分析により確認した。
【0124】
触媒前駆体(VOHPO4・0.5H2O)を、乾式含浸法を用いてTiO2上に担持した。その後、異なる条件で活性化し、それぞれγ-VOPO4/TiO2及びδ-VOPO4/TiO2を得た。触媒の活性化は反応器内で行った。5.0gのVPO/TiO2を反応器に装填した。触媒前駆体を空気下400℃で9時間活性化して、δ-VOPO4/TiO2相を得た。前駆体を680℃で10時間活性化して、γ-VOPO4/TiO2を得た。その後、質量比1:3のγ-VOPO4/TiO2とδ-VOPO4/TiO2を固体-固体湿潤に供した。
【0125】
本開示をその特定の実施形態に関連して説明してきたが、さらなる変更が可能であり、本出願は、当該技術分野における公知又は慣用の範囲内にあるような、また、本開示で前述した本質的な特徴に適用されるような、また、添付の特許請求の範囲に以下のように記載されるような、本開示からの逸脱を含む、任意の変形、使用又は適応をカバーすることを意図していることが理解されるであろう。
【手続補正書】
【提出日】2022-09-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、シンガスをアクリル酸に変換するプロセス:
a)前記シンガスをメタノールに変換し、前記メタノールを第1の流れ
に分離する工程;
b)メタノールの前記第1の流れをカルボニル化して酢酸メチルを生成させる工程;
c)前記酢酸メチルを加水分解して酢酸を得る工程;及び
d)アルドール縮合によりホルムアルデヒドとc)で生成した前記酢酸とを反応させてアクリル酸を生成させる工程;
ここで、メタノールの前記カルボニル化及び酢酸メチルの前記加水分解が、単一の触媒容器内で行われ、酢酸及びジメチルエーテル(DME)を生成する。
【請求項2】
前記単一の容器が固定床反応器である、請求項
1に記載のプロセス。
【請求項3】
工程a)において、前記メタノールが第2の流れに分離され、前記ホルムアルデヒドが、気相反応で前記メタノールの前記第2の流れを酸化した後に取り込まれる、請求項1記載のプロセス。
【請求項4】
H
2
/CO比が0~2である、請求項1~
3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記酢酸メチルが反応蒸留プロセスで加水分解されて前記酢酸を生成する、請求項1~
4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
少なくとも95%~99%の炭素ベースの純粋な酢酸が生成される、請求項
5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記第2の流れの前記メタノールを250~400℃で過剰の空気で酸化させて、最高で99%のメタノールをホルムアルデヒドに変換する、請求項
3に記載のプロセス。
【請求項8】
前記酢酸メチルの前記加水分解をメタノールの存在下で行って、前記酢酸を生成させる、請求項1~
7のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
酢酸メチルを生成するメタノールの前記第1の流れの前記カルボニル化が気相で行われる、請求項1~
8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記アルドール縮合反応が、
ピロリン酸バナジル(VPO
)触媒に対して大気圧下で運転されるシングルパスの固定床フロー反応器で行われる、請求項1~
9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記酢酸メチルが、不均一系触媒を含む反応蒸留カラムで加水分解される、請求項
3に記載のプロセス。
【請求項12】
前記不均一系触媒がアンバーリスト型触媒である、請求項
11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記アンバーリスト型触媒が、触媒バスケットを形成しているメッシュの中に存在する、請求項
12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記触媒が、空気及びフィードガス混合物の存在下で活性化される、請求項
7に記載のプロセス。
【請求項15】
前記シンガスを生成させるために炭素質材料をガス化する第1の工程をさらに含む、請求項1~
14のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記炭素質材料が、炭素を含む液体、固体及び/又は気体である、請求項
15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記炭素質材料がバイオマスである、請求項
15又は
16に記載のプロセス。
【請求項18】
前記炭素質材料が、プラスチック、金属、無機塩、有機化合物、産業廃棄物、リサイクル施設に受け入れられなかったもの、自動車のフラッフ、都市固形廃棄物、
産業、商業及び施設廃棄物(IC&I)、
建設・解体廃棄物(C&D
)、ごみ固形燃料(RDF)、固形化廃棄物由来燃料、下水汚泥、使用済み木製電柱、木製鉄道枕木、木材、タイヤ、合成テキスタイル、カーペット、合成ゴム、化石燃料由来の材料、発泡ポリスチレン、ポリフィルムフロック、建設用木材、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項
16又は
17に記載のプロセス。
【請求項19】
以下を含む、反応蒸留カラムを使用して炭素質材料を酢酸に変換するプロセス:
a)気相中で前記炭素質材料をカルボニル化して、ヨウ化物フリー環境でジメチルエーテル(DME)を生成させること;
b)前記DMEを加水分解して酢酸メチルを生成させること;及び
c)前記酢酸メチルを加水分解して酢酸を生成させること;
ここで、前記DMEの加水分解とその後の前記酢酸メチルの加水分解は前記反応蒸留カラムで行われ、前記酢酸を生成する前記炭素質材料のH
2とCOの比は1:1である。
【請求項20】
前記反応蒸留カラムで生成された前記酢酸及びDMEが沸点の差によって分離される、請求項27に記載のプロセス。
【請求項21】
前記炭素質材料がメタノールである、請求項
19又は
20に記載のプロセス。
【国際調査報告】