(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】接着ペプチド
(51)【国際特許分類】
C07K 7/06 20060101AFI20231220BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20231220BHJP
C09J 189/00 20060101ALN20231220BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
C12N15/11 Z
C09J189/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023532540
(86)(22)【出願日】2021-11-22
(85)【翻訳文提出日】2023-07-11
(86)【国際出願番号】 EP2021082509
(87)【国際公開番号】W WO2022112177
(87)【国際公開日】2022-06-02
(32)【優先日】2020-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523195131
【氏名又は名称】ゼントラクサ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100203208
【氏名又は名称】小笠原 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ブレイ,ハリエット・エレノア・ビクトリア
(72)【発明者】
【氏名】チャランド,マーティン・リチャード
(72)【発明者】
【氏名】レース,ポール・レイモンド
(72)【発明者】
【氏名】サーモン,ロバート・クリストファー
【テーマコード(参考)】
4H045
4J040
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA14
4H045EA20
4H045FA74
4J040BA161
4J040JB02
4J040MA05
4J040MB05
4J040MB09
(57)【要約】
本発明は、接着剤中の、又は接着剤中で使用するための複数のペプチド又はポリペプチドに関する。理想的には、当該ペプチド又はポリペプチドは、以下の配列、すなわち接着配列、架橋配列、弾性付与配列、及び剥離又は切断可能配列のうち、任意の5つの組み合わせを含む少なくとも1つを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤中の、又は接着剤中で使用するための、複数の接着ヘキサペプチドであって、それぞれが3つの異なるアミノ酸を含むモチーフを有し、前記3つのアミノ酸のうち2つが並んで反復し、以下の配列パターン:
XX-YY-又は-XX-YY
ここで、X、Y及び-は、任意の3つの異なるアミノ酸である、
の少なくとも1つをもたらす、接着ヘキサペプチド。
【請求項2】
前記接着ヘキサペプチドの少なくとも2つが同じである、請求項1に記載の接着ヘキサペプチド。
【請求項3】
前記アミノ酸が、アラニンA、アルギニンR、アスパラギンN、アスパラギン酸D、システインC、グルタミン酸E、グルタミンQ、グリシンG、ヒスチジンH、イソロイシンI、ロイシンL、リジンK、メチオニンM、フェニルアラニンF、プロリンP、セリンS、トレオニンT、トリプトファンW、チロシンY、及びバリンVを含む群から選択される、請求項1又は2に記載の接着ヘキサペプチド。
【請求項4】
前記アミノ酸が、グリシンG、チロシンY、リジンK、アラニンA、セリンS及びアルギニンRを含む群から選択される、請求項3に記載の接着ヘキサペプチド。
【請求項5】
前記アミノ酸が天然に存在するL-アミノ酸又はD-アミノ酸である、請求項1~4のいずれか一項に記載の接着ヘキサペプチド。
【請求項6】
前記ヘキサペプチドモチーフが、以下のモチーフ:GYYGKK、AYYAKK、KKGYYG、KKAYYA、GKKGYY、GYYGRR、GYYGSS、AYYARR AYYASS、RRGYYG、RRAYYA、SSGYYG及びSSAYYAのうちの少なくとも1つを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の接着ヘキサペプチド。
【請求項7】
前記ヘキサペプチドの少なくとも1つが、N末端及び/又はC末端架橋配列を含み、それによって前記接着ヘキサペプチドが他の接着ヘキサペプチドと架橋されてペプチド鎖をもたらす、請求項1~6のいずれか一項に記載の接着ヘキサペプチド。
【請求項8】
前記架橋配列が、
SGEGKK、SGEGK、GKK、AKAAK、AKA、SSAKAAK、SSAKA、YFKG、LKG、FKG、YLKG、GQQQLG、YGQQQLG、KKGEGS、AKAAKSS、AKASS及びKKGEGSを含む群から選択される、請求項7に記載の接着ヘキサペプチド。
【請求項9】
前記N末端配列が、SGEGKK、SGEGK、GKK、AKAAK、AKA、SSAKAAK、SSAKA、YFKG、LKG、FKG、YLKG、GQQQLG及びYGQQQLGを含む群から選択される、請求項7に記載の接着ヘキサペプチド。
【請求項10】
前記C末端配列が、GKK、KKGEGS、AKAAK、AKA、AKAAKSS、AKASS、YFKG、LKG、FKG、YLKG、GQQQLG及びYGQQQLGを含む群から選択される、請求項7に記載の接着ヘキサペプチド。
【請求項11】
前記N末端架橋配列GQQQLG又はYGQQQLGが、前記C末端架橋配列GKK、KKGEGS、AKAAK、AKA、AKAAKSS、AKASS、YFKG、LKG、FKG又はYLKGのうちの1つと共に用いられる、請求項7~10のいずれか一項に記載の接着ヘキサペプチド。
【請求項12】
前記接着ヘキサペプチドの少なくとも1つが、少なくとも1つの弾性付与配列又はエラストマ特性付与配列に連結されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の接着ヘキサペプチド。
【請求項13】
前記弾性付与配列又はエラストマ特性付与配列が、GVGVAP、GGRPSDSYGAPGGGN及びKKWTWNPATGKWTWQEを含む群から選択される、請求項12に記載の接着ヘキサペプチド。
【請求項14】
前記接着ヘキサペプチドの少なくとも1つが、複数の弾性付与配列又はエラストマ特性付与配列に連結されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の接着ヘキサペプチド。
【請求項15】
前記弾性付与配列又はエラストマ特性付与配列の各々が、前記接着ヘキサペプチドの少なくとも1つに、N末端及び/又はC末端を設けられる、請求項14に記載の接着ヘキサペプチド。
【請求項16】
前記接着ヘキサペプチドの少なくとも1つが、少なくとも1つの剥離配列又は切断可能配列に連結されており、それによって前記接着剤を基材から剥離させることができる、請求項1~15のいずれか一項に記載の接着ヘキサペプチド。
【請求項17】
前記剥離配列又は切断可能配列が、
XIEGR//X又はXIDGR//X;
XLEVLFQ//GPX;
XENLYFQ//SGX;
XDDDDK//X;
XK//X又はXR//X;
XΦK//ZX又はXΦR//ZX;及び
XK//X又はXA//X又はXY//X
ここで、X=任意のアミノ酸であり、Φ=A、V、L、I、F、W、又はYであり、Z=Vを除く任意のアミノ酸であり、//は切断されるペプチド結合である、
を含む群から選択される、請求項16に記載の接着ヘキサペプチド。
【請求項18】
請求項1~6のいずれか一項に記載の複数の接着ヘキサペプチドを含む接着ポリペプチドであって、前記接着ポリペプチドが、以下の配列:
i)SGEGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK;
ii)SGEGKK AYYAKK AYYAKK AYYAKK;
iii)SGEGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK;
iv)SGEGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK;
v)GYYGKK GYYGKK AYYARR GKKGYY GKKGYY AYYARR GKKGYY GKKGYY;
vi)SGEGKK AYYARR AYYARR AYYAKK;
vii)AKA GYYGRR GYYGRR AKA;
viii)AKA GYYGSS GYYGSS AKA;
ix)SGEGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK LEVLFQGP GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK;
x)SGEGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK G LEVLFQGP GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYY;
xi)SGEGKK GYYGKK GYYGKK LEVLFQGP GKKGYY GKKGYY LEVLFQGP GKKGYY GKKGYY;
xii)SGEGKK GYYGKK GYYG LEVLFQGP GKKGYY GKKGYY G LEVLFQGP GKKGYY GKKGYY GKK;
xiii)SGEGKK AYYAKK ARA AYYAKK;
xiv)SGEGKK GYYGKK ARA GYYGKK;
xv)SGEGKK GYYGKK ENLYFQSG GYYGKK;
xvi)FKG KKAYYA ARA AYYAKK GQQQLG;
xvii)SGEGKK GYYGRR GYYGRR LEVLFQGP GYYGRR GYYGRR GKK;
xviii)KKGYYG KKGYYG GVGVAP GVGVAP GVGVAP GYYGKK GYYGKK;
xix)G KKGYYG KKGYYG GVGVAP GVGVAP GVGVAP G GYYGKK GYYGKK;
xx)SGEKK GYYGKK GYYGKK GVGVAP GVGVAP GVGVAP GYYGKK GYYGKK;
xxi)KKGYYG GGRPSDSYGAPGGGN GYYGKK;
xxii)KKGYYG KKWTWNPATGKWTWQE GYYGKK;
xxiii)GKK GYYGKK GYYGKK GGRPSDSYGAPGGGN GGRPSDSYGAPGGGN GKKGYY GKKGYY GKK;
xxiv)GKK GYYGKK GYYGKK KKWTWNPATGKWTWQE GKKGYY GKKGYY GKK;
xxv)GKKGYY GKKGYY G GVGVAP LEVLFQGP GVGVAP G GYYGKK GYYGKK;
xxvi)GKKGYY GKKGYY GVGVAP LEVLFQGP GVGVAP GYYGKK GYYGKK;
xxvii)AKA GYYGSS GYYGSS GVGVAP LEVLFQGP GVGVAP GYYGSS GYYGSS AKA;
xxviii)FKG GYYGRR GYYGRR GQQQLG;
xxix)FKG GYYGSS GYYGSS GQQQLG;又は
xxx)FKG KKGYYG KKGYYG GQQQLG、
の少なくとも1つ、又は任意の組み合わせを含む複数の配列を含む、接着ポリペプチド。
【請求項19】
複数の接着ヘキサペプチドを含む接着剤であって、それぞれが3つの異なるアミノ酸を含むモチーフを有し、前記3つのアミノ酸のうち2つが並んで反復し、以下のパターン:
XX-YY-又は-XX-YY
ここで、X、Y及び-は、任意の3つの異なるアミノ酸である、
の少なくとも1つをもたらす、接着剤。
【請求項20】
前記接着ヘキサペプチドの少なくとも2つが同じである、請求項19に記載の接着剤。
【請求項21】
前記接着剤が任意の番号の接着ヘキサペプチドを含む、請求項19又は20に記載の接着剤。
【請求項22】
前記接着剤が複数の異なる接着ヘキサペプチドを含む、請求項19~21のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項23】
複数の前記ヘキサペプチドが、N末端及び/又はC末端架橋配列を含む、請求項19~22のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項24】
前記接着剤が、少なくとも1つの剥離配列又は切断配列を更に含み、それによって前記接着剤を基材から剥離させることができる、請求項19~23のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項25】
前記接着剤が、少なくとも1つの弾性付与配列又はエラストマ特性付与配列配列を更に含む、請求項19~24のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項26】
請求項18に記載の少なくとも1つ又は複数の接着ポリペプチドを含む接着剤。
【請求項27】
0.5~2%ゼラチン溶液中に配合された、請求項1~17のいずれか一項に記載の複数の接着ヘキサペプチド、又は請求項18に記載の接着ポリペプチド、又は請求項19~26のいずれか一項に記載の接着剤を含む、接着剤配合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤中の、又は接着剤中で使用するための複数のペプチド又はポリペプチドに関する。理想的には、当該ペプチド又はポリペプチドは、以下の配列、すなわち接着配列、架橋配列、弾性付与配列、及び剥離又は切断可能配列のうち、任意の組み合わせを含む少なくとも1つを含む。
【背景技術】
【0002】
イガイは、軟体動物を海底に固定する耐水性生体接着剤として機能する天然タンパク質分子(Mfp5)を産生及び分泌する。分泌糸の端部には接着性プラークが堆積し、この接着性プラークは、チロシン残基のヒドロキシル化に由来する高比率の3,4-ジヒドロキシフェニル-L-アラニン(DOPA)を含む数種のタンパク質を含有する。イガイ接着タンパク質のDOPA含有量は、特にその接着特性に関係があり、DOPAを含有しないイガイ接着タンパク質類似体は、接着能力の大幅な低下を示す。
【0003】
合成ペプチドは、DOPA系接着を利用するための理想的な足がかりである。それらは、接着性官能基の正確な配置を可能にする化学的方法又は組換方法を用いて容易に合成することができる。チロシンアミノ酸はチロシナーゼ酵素を使用してDOPAに変換でき、非接着前駆体ペプチド由来の接着剤を好都合に活性化させることが可能となる。更に、接着材料の(例えば疎水性表面への)接着性の改善又は弾性若しくは弾力の増加などの、少なくとも1つの機能性を強化する、又は更なる機能性を提供する追加のアミノ酸を、人工的に設計されたペプチドに含めることができる。
【0004】
これらの合成ペプチドは、人体に対して非毒性であり、非免疫原性であることが多いので、有利には、医療用接着剤として使用することができる。更に、その生分解性能により、これらは環境に優しい。実際、ペプチド分解は、ペプチド結合加水分解を促進するプロテアーゼ酵素又は化学物質による処理によって促進され得る。これにより、UV放射又は高熱などの過酷な条件の使用を回避する。
【0005】
再構成イガイ接着剤では、必要な位置にチロシン(Y)を含有するタンパク質又はペプチドを生成し、次いでチロシナーゼ酵素を用いてチロシンを翻訳後にDOPAに変換することによって、DOPA残基が導入される。DOPA残基は、表面キレート化、水素結合、一座、二座又は三座の金属イオン錯体の形成を通じて、及び正に帯電した残基、特にリジン(K)及びアルギニン(R)残基とのカチオン-π相互作用を通じて、接着及び凝集相互作用を可能にする。更に、DOPA残基は、イガイ接着タンパク質分子がo-キノンへの酸化的変換を介して互いに架橋することを可能にし得る。共有結合相互作用は高分子量構造の構築に重要であり、結果として得られる材料の凝集力を増加させるが、DOPA官能基を通じて生じる接着相互作用を犠牲にする。しかしながら、架橋が失われると、分子が滑って互いを通り過ぎ、凝集が弱く柔らかい材料を生成する結果となる。したがって、接着性DOPA官能基を「クエンチ」しない化学作用によって、ペプチド鎖間に共有結合性架橋を生じさせることができる系を開発することが望ましい。
【0006】
本明細書に記載される発明は、上記の望ましい特徴を有する新しい分類の接着ペプチドに関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、接着剤中の、又は接着剤中で使用するための、複数の接着ヘキサペプチドであって、それぞれが3つの異なるアミノ酸を含むモチーフを有し、当該3つのアミノ酸のうち2つが並んで反復して、以下の配列パターン:
XX-YY-又は-XX-YY
ここで、X、Y及び-は、任意の3つの異なるアミノ酸である、
の少なくとも1つをもたらす接着ヘキサペプチドが提供される。
【0008】
本発明の好ましい実施形態では、当該接着ヘキサペプチドの少なくとも2つが同じである。
【0009】
本明細書において、ヘキサペプチドとは、6つのアミノ酸を含むペプチドをさす。
【0010】
本明細書において、接着ヘキサペプチドモチーフ又は接着ペプチドとは、接着特性を有する、又はチロシナーゼなどの活性化剤で処理した後に接着特性を有するペプチド配列をさす。したがって、当該処理の前には、当該ヘキサペプチドモチーフは前駆体ペプチド接着剤である。
【0011】
したがって、本発明は、複数のヘキサペプチドを含む接着ポリペプチドであって、それぞれが3つの異なるアミノ酸を含むモチーフを有し、当該3つのアミノ酸のうち2つが並んで反復して、以下のパターン:
XX-YY-又は-XX-YY
ここで、X、Y及び-は、任意の3つの異なるアミノ酸である、
の少なくとも1つをもたらす接着ポリペプチドを含む。
【0012】
好ましい実施形態では、当該接着ヘキサペプチドの少なくとも2つが同じである。
【0013】
好ましい実施形態では、当該アミノ酸は、アラニンA、アルギニンR、アスパラギンN、アスパラギン酸D、システインC、グルタミン酸E、グルタミンQ、グリシンG、ヒスチジンH、イソロイシンI、ロイシンL、リジンK、メチオニンM、フェニルアラニンF、プロリンP、セリンS、トレオニンT、トリプトファンW、チロシンY、及びバリンVを含む群から選択される。
【0014】
最も好ましくは、アミノ酸は天然に存在するL-アミノ酸であるが、D-アミノ酸であってもよい。D-アミノ酸は、アミノ基に対するα型立体炭素がD配置を有するアミノ酸である。
【0015】
更に好ましい実施形態では、当該アミノ酸は、グリシンG、チロシンY、リジンK、アラニンA、セリンS及びアルギニンRを含む群から選択される。
【0016】
更に好ましくは、当該ヘキサペプチドは、以下のモチーフ:GYYGKK、AYYAKK、KKGYYG、KKAYYA、GKKGYY、GYYGRR、GYYGSS、AYYARR AYYASS、RRGYYG、RRAYYA、SSGYYG及びSSAYYAのうちの1つを含む。
【0017】
本発明で提示されるヘキサペプチド配列は、機能(接着)ドメインを含み、この機能ドメインは、接着機能を与える高比率のDOPA基、又はそれらの非接着前駆体ペプチドチロシン(Y)を含有する。
【0018】
更に、疎水性アミノ酸の量を増加させると、疎水相互作用によって更なる接着及び凝集の可能性がもたらされ、特に、低エネルギー疎水性表面を結合する場合により強い接着が得られる。したがって、本発明の特定の実施形態では、当該ペプチドは、チロシンに加えて、機能接着ドメイン中にアミノ酸グリシン(G)、アルギニン(R)、セリン(S)、リジン(K)及びアラニン(A)を含む群から選択されるアミノ酸を含む。
【0019】
最も好ましくは、複数の当該ヘキサペプチドモチーフが同じであり、したがって、理想的には、いくつかの異なるヘキサペプチドモチーフが提供される。
【0020】
更に、各ヘキサペプチドモチーフは機能接着ドメインであり、N及び/又はC末端の架橋ドメインに隣接している。
【0021】
したがって、更により好ましくは、当該接着ペプチドは、N末端及び/又はC末端架橋配列を含み、それによって当該接着ヘキサペプチドが他の接着ヘキサペプチドと架橋されてペプチド鎖をもたらす。好ましくは、当該架橋配列は、
SGEGKK、SGEGK、GKK、AKAAK、AKA、SSAKAAK、SSAKA、YFKG、LKG、FKG、YLKG、GQQQLG、YGQQQLG、KKGEGS、AKAAKSS及びAKASS及びKKGEGSを含む群から選択される。
【0022】
最も理想的には、当該N末端ヘキサペプチド架橋配列は、SGEGKK、SGEGK、GKK、AKAAK、AKA、SSAKAAK、SSAKA、YFKG、LKG、FKG、YLKG、GQQQLG及びYGQQQLGを含む群から選択される。
【0023】
最も理想的には、当該C末端ヘキサペプチド架橋配列は、GKK、KKGEGS、AKAAK、AKA、AKAAKSS、AKASS、YFKG、LKG、FKG、YLKG、GQQQLG及びYGQQQLGを含む群から選択される。
【0024】
理想的には、前記N又はC末端ヘキサペプチド架橋配列は、以下の架橋酵素、すなわちリジン(K)と反応してデスモシン架橋をもたらすリジルオキシダーゼ、又はグルタミン(Q)をリジン(K)と架橋するトランスグルタミナーゼと組み合わせて使用される。
【0025】
表1に注目すると、N末端架橋配列P12~13は、架橋酵素がトランスグルタミナーゼである場合、C末端架橋配列S1~S10、より好ましくはS7~S10と共に使用されることが好ましい。
【0026】
更に、本発明者らは、チロシン/DOPAに富む接着モチーフを弾性モチーフと組み合わせることによって、単一ポリペプチドにおいて、弾力及び熱安定性を高めた接着性材料が生じることを観察した。これらの観察結果は、弾性モチーフを含めることによって材料の柔軟性が増加した結果であると考えられる。この接着剤は、屈曲に耐える必要がある接合部を接合する場合、例えば、接合された接合部が加熱又は冷却される場合などに特に有利である。
【0027】
したがって、本発明のなお更なる好ましい態様又は実施形態では、当該接着ヘキサペプチドは、少なくとも1つの弾性付与配列又はエラストマ特性付与配列に連結されており、当該弾性付与配列は、GVGVAP、GGRPSDSYGAPGGGN及びKKWTWNPATGKWTWQEを含む群から選択される。
【0028】
特に好ましい実施形態では、当該接着ポリペプチドは、複数の当該弾性付与配列又はエラストマ特性付与配列を含み、これらの配列の各々は、当該複数の接着ヘキサペプチドモチーフの少なくとも1つのN末端又はC末端に設けられる。
【0029】
上述のように、ペプチド結合加水分解を促進するプロテアーゼ酵素又は化学物質による処理によって、接着ペプチドの分解を促進することができる。この点において、本発明者らは、チロシン/DOPAに富む接着ヘキサペプチドモチーフを剥離又は切断可能モチーフと組み合わせることにより、理想的には単一のポリペプチドにおいて、基材から剥離され得る接着材料が得られることを観察した。これは、可逆的接着が必要な場合に特に有利である。
【0030】
したがって、本発明のなお更なる好ましい態様又は実施形態では、当該接着ヘキサペプチドは、少なくとも1つの剥離配列又は切断可能配列に連結され、それにより、当該複数のヘキサペプチドを含有する当該接着剤を基材から剥離することができ、当該剥離配列又は切断可能配列は、
XIEGR//X又はXIDGR//X
XLEVLFQ//GPX
XENLYFQ//SGX
XDDDDK//X
XK//X又はXR//X
XΦK//ZX又はXΦR//ZX
XK//X又はXA//X又はXY//X
ここで、X=任意のアミノ酸であり、Φ=A、V、L、I、F、W又はYであり、Z=Vを除く任意のアミノ酸であり、//は切断されるペプチド結合である、
を含む群から選択される。
【0031】
上記の剥離配列又は切断可能配列モチーフは、特定の酵素で処理した場合に非常に加水分解されやすいペプチド結合を含む。好ましくは、本発明者らは、当該配列モチーフを切断するためにプロテアーゼを使用し、そのモチーフは、有利には、高度に特異的なプロテアーゼ酵素によってのみ認識されるものであり、したがって接着ポリマーの高度に選択的な分解を可能にする。上記7つの配列モチーフは、それぞれ第Xa因子プロテアーゼ、ヒトライノウイルス3Cプロテアーゼ(HRV-3C)、タバコエッチウイルス(TEV)プロテアーゼ、エンテロキナーゼ(Enk)プロテアーゼ、トリプシンプロテアーゼ、パパインプロテアーゼ及びブロメラインプロテアーゼによって認識される。本発明者らは、硬化後に接着ペプチドが消化されると、材料が分解され、接着結合又は接合の強度が低下する、いわゆる剥離することを示した。
【0032】
当業者は、本発明が、表1に列挙された任意の番号又は組み合わせの配列を含む接着剤を包含することを理解するであろう。好ましくは、ある特定の実施形態において、接着ヘキサペプチドモチーフ[A1~A13]の少なくとも2つが同じである。更に好ましくは、当該接着剤は、当該配列の2、4、6、8及び10段の任意の組み合わせを更に含み、各配列番号及び配列の組み合わせは、接着剤の接着強度、接着剤のエラストマ特性及び接着剤の剥離能力を決定する。
【0033】
本発明の特定の実施形態では、当該接着剤は、以下のポリペプチド配列(表2に示す)の少なくとも1つを含む:
SGEGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK、当該配列は、N末端架橋配列と、それに続く3つの接着ヘキサペプチドモチーフとを含む、AP1として知られる[P1]-[A1]3であり、このポリペプチドは架橋に適しているため、優れた結合特性を有する;
SGEGKK AYYAKK AYYAKK AYYAKK、当該配列は、N末端架橋配列と、それに続く3つの接着ヘキサペプチドモチーフとを含む、AP2として知られる[P1]-[A2]3であり、このポリペプチドは架橋に適しているため、優れた結合特性を有する;
SGEGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK、当該配列は、N末端架橋配列と、それに続く6つの接着ヘキサペプチドモチーフとを含む、AP3として知られる[P1]-[A1]6であり、このポリペプチドは架橋に適しているため、より優れた結合特性を有する;
SGEGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK、当該配列は、N末端架橋配列と、それに続く9つの接着ヘキサペプチドモチーフとを含む、AP6として知られる[P1]-[A1]9であり、このポリペプチドは架橋に適しているため、更に優れた結合特性を有する;
GYYGKK GYYGKK AYYARR GKKGYY GKKGYY AYYARR GKKGYY GKKGYY、当該配列は8つの接着ヘキサペプチドモチーフを含む、AP29として知られる[A1]2-[A8]-[A1]2-[A8]-[A1]2であり、このポリペプチドは優れた結合特性を有する;及び
SGEGKK AYYARR AYYARR AYYAKK、当該配列は、N末端架橋配列と、それに続く3つの接着ヘキサペプチドモチーフとを含む、AP30として知られる[P1]-[A8]2-[A2]であり、このポリペプチドは架橋に適しているため、より優れた結合特性を有する。
【0034】
本発明の以下の代替実施形態では、架橋酵素が作用して架橋を形成するためのリジン(K)が接着ヘキサペプチドドメイン中に存在しないため、架橋N及びC末端配列の使用が重要である。以下のポリペプチド配列を表3に示す:
AKA GYYGRR GYYGRR AKA、当該配列は、N及びC末端架橋配列と、2つの接着ヘキサペプチドモチーフとを含む、AP24として知られる[P5]-[A6]2-S4であり、このポリペプチドは架橋に非常に適しているため、優れた結合特性を有する;及び
AKA GYYGSS GYYGSS AKA、当該配列は、N及びC末端架橋配列と、2つの接着ヘキサペプチドモチーフとを含む、AP25として知られる[P5]-[A7]2-S4であり、このポリペプチドは架橋に非常に適しているため、優れた結合特性を有する。
【0035】
したがって、当業者は、前述のペプチド配列において、末端リジン含有配列を含めることにより、リジン架橋を介した高分子量ポリマーの形成が可能となり、このリジン架橋は、リジン媒介架橋酵素を用いて酵素的に、又は2つ以上のマイケルアクセプタを有する化合物などの適切な化学的架橋剤を用いて化学的にもたらされ得ることを理解するであろう。
【0036】
特に、(N又はC末端架橋配列以外で)リジン(K)又はアルギニン(R)が存在しないことは、ペプチドが環境プロテアーゼによって分解されにくいことを意味するので、AP25は、プロテアーゼが存在する環境での使用に特に適している。
【0037】
本発明のなお更なる代替的な態様又は実施形態は、上記の前提に基づくが、以下の剥離可能又は切断可能なポリペプチド配列(表4に示す)の1つを含む:
SGEGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK LEVLFQGP GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK、当該配列は、N末端架橋配列、3つの接着ヘキサペプチドモチーフ、剥離可能領域及び4つの更なる接着ヘキサペプチドモチーフを含む、ADP1として知られる[P1]-[A1]3-[D3]-[A1]4であり、このポリペプチドは架橋に非常に適しているため、優れた結合特性を有する;又は
SGEGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK G LEVLFQGP GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYY、当該配列は、N末端架橋配列、3つの接着ヘキサペプチドモチーフ、グリシン、剥離可能領域、4つの更なる接着ヘキサペプチドモチーフ及びグリシン-チロシン-チロシンのトリペプチドを含む、ADP1[G] として知られる[P1]-[A1]3-[D3]-[A1]3GYYであり、このポリペプチドは架橋に非常に適しているため、優れた結合特性を有する;及び
SGEGKK GYYGKK GYYGKK LEVLFQGP GKKGYY GKKGYY LEVLFQGP GKKGYY GKKGYY、当該配列は、N末端架橋配列、2つの接着ヘキサペプチドモチーフ、剥離可能領域、2つの更なる接着ヘキサペプチドモチーフ、更なる剥離可能領域及び2つの更なる接着ヘキサペプチドモチーフを含む、ADP2として知られる[P1]-[A1]2-[D3]-[A5]2-[D3]-[A5]2-[S1]であり、このポリペプチドは架橋に非常に適しているため、優れた結合特性を有する;又は
SGEGKK GYYGKK GYYG LEVLFQGP GKKGYY GKKGYY G LEVLFQGP GKKGYY GKKGYY GKK、当該配列は、N末端架橋配列、1つの接着ヘキサペプチドモチーフ、GYYG配列、剥離可能領域、2つの更なる接着ヘキサペプチドモチーフ、グリシン、更なる剥離可能領域、2つの更なる接着ヘキサペプチドモチーフ及びC末端架橋配列を含む、ADP2[G]として知られる[P1]-[A1]-GYYG-[D3]-[A5]2-G-[D3]-[A5]2-[S1]であり、このポリペプチドは架橋に非常に適しているため、優れた結合特性を有する;及び
SGEGKK AYYAKK ARA AYYAKK、当該配列は、N末端架橋配列、1つの接着ヘキサペプチドモチーフ、ARA剥離配列及び1つの接着ヘキサペプチドモチーフを含む、ADP5として知られる[P1]-[A2]-[D9]-[A2]であり、このポリペプチドは架橋に非常に適しているため、優れた結合特性を有する;及び
SGEGKK GYYGKK ARA GYYGKK、当該配列は、N末端架橋配列、1つの接着ヘキサペプチドモチーフ、ARA剥離配列及び1つの接着ヘキサペプチドモチーフを含む、ADP6として知られる[P1]-[A1]-[D9]-[A1]であり、このポリペプチドは架橋に非常に適しているため、優れた結合特性を有する;及び
SGEGKK GYYGKK ENLYFQSG GYYGKK、当該配列は、N末端架橋配列、1つの接着ヘキサペプチドモチーフ、剥離配列及び1つの接着ヘキサペプチドモチーフを含む、ADP7として知られる[P1]-[A1]-[D4]-[A1]であり、このポリペプチドは架橋に非常に適しているため、優れた結合特性を有する;及び
FKG KKAYYA ARA AYYAKK GQQQLG、当該配列は、N末端架橋配列、1つの接着ヘキサペプチドモチーフ、剥離配列、1つの接着ヘキサペプチドモチーフ及びC末端架橋配列を含む、ADP-Xとして知られるADP8として知られる[P10]-[A4]-[D9]-[A2]-[S11]であり、このポリペプチドは架橋に非常に適しているため、優れた結合特性を有する;及び
SGEGKK GYYGRR GYYGRR LEVLFQGP GYYGRR GYYGRR GKK、当該配列は、N末端架橋配列、2つの接着ヘキサペプチドモチーフ、剥離可能領域、2つの更なる接着ヘキサペプチドモチーフ及びC末端架橋配列を含む、ADP-Xとして知られる[P1]-[A6]2-[D3]-[A6]2-[S1]であり、このポリペプチドは架橋に非常に適しているため、優れた結合特性を有する。
【0038】
本発明のなお更なる好ましい態様又は実施形態では、当該接着剤は、少なくとも1つの弾性付与配列又はエラストマ特性付与配列、例えば以下のポリペプチド配列(表5に示す)の少なくとも1つを含む:
KKGYYG KKGYYG GVGVAP GVGVAP GVGVAP GYYGKK GYYGKK、当該配列は、2つの接着ヘキサペプチドモチーフ、3つのエラストマ配列及び2つの更なる接着ヘキサペプチド配列を含む、AEP1として知られる[A3]2-[E1]3-[A1]2であり、このポリペプチドは、接着剤が可撓性である必要がある場合における使用に適している;又は
G KKGYYG KKGYYG GVGVAP GVGVAP GVGVAP G GYYGKK GYYGKK、当該配列は、グリシン、2つの接着ヘキサペプチドモチーフ、3つのエラストマ配列、グリシン及び2つの更なる接着ヘキサペプチド配列を含む、AEP1[G]として知られる[A3]2-[E1]3-[G]-[A1]2であり、このポリペプチドは、接着剤が可撓性である必要がある場合における使用に適している;及び
SGEKK GYYGKK GYYGKK GVGVAP GVGVAP GVGVAP GYYGKK GYYGKK、当該配列は、N末端架橋配列、2つの接着ヘキサペプチドモチーフ、3つのエラストマ配列及び2つの更なる接着ヘキサペプチド配列を含む、AEP1bとして知られる[1P]-[A1]2-[E1]3-[A1]2であり、このポリペプチドは、接着剤が可撓性である必要がある場合における使用に適している;及び
KKGYYG GGRPSDSYGAPGGGN GYYGKK、当該配列は、接着ヘキサペプチドモチーフ、エラストマ配列及び更なる接着ヘキサペプチド配列を含む、AEP3として知られる[A3]-[E2]-[A1]であり、このポリペプチドは、接着剤が可撓性である必要がある場合における使用に適している;及び
KKGYYG KKWTWNPATGKWTWQE GYYGKK、当該配列は、接着ヘキサペプチドモチーフ、エラストマ配列及び更なる接着ヘキサペプチド配列を含む、AEP4として知られる[A3]-[E3]-[A1]であり、このポリペプチドは、接着剤が可撓性である必要がある場合における使用に適している;及び
GKK GYYGKK GYYGKK GGRPSDSYGAPGGGN GGRPSDSYGAPGGGN GKKGYY GKKGYY GKK、当該配列は、N末端架橋配列、2つの接着ヘキサペプチドモチーフ、2つのエラストマ配列、2つの更なる接着ヘキサペプチド配列及びGKKを含む、AEP5として知られる[1P]-[A1]2-[E3]2-[A5]2-[S1]であり、このポリペプチドは、接着剤が可撓性である必要がある場合における使用に適している;及び
GKK GYYGKK GYYGKK KKWTWNPATGKWTWQE GKKGYY GKKGYY GKK、当該配列は、N末端架橋配列、2つの接着ヘキサペプチドモチーフ、エラストマ配列、2つの更なる接着ヘキサペプチド配列及びC末端架橋配列を含む、AEP7として知られる[P3]-[A3]2-[E3]-[A5]2-[S1]であり、このポリペプチドは、接着剤が可撓性である必要がある場合における使用に適している。
【0039】
本発明のなお更なる好ましい態様又は実施形態では、当該接着剤は、少なくとも1つの弾性付与配列又はエラストマ特性付与配列、及び少なくとも1つの剥離領域又は切断可能領域、例えば以下のポリペプチド配列(表6に示す)の少なくとも1つを含む:
GKKGYY GKKGYY G GVGVAP LEVLFQGP GVGVAP G GYYGKK GYYGKK、当該配列は、2つの接着ヘキサペプチドモチーフ、グリシン、エラストマ配列、剥離配列、エラストマ配列、グリシン及び2つの更なる接着ヘキサペプチド配列を含む、AEDP1[G]として知られる[A5]2-G-[E1]-[D3]-[E1]-G-[A1]2であり、このポリペプチドは、接着剤が可撓性であり、選択的に基材から剥離させる必要がある場合の使用に適している;又は
GKKGYY GKKGYY GVGVAP LEVLFQGP GVGVAP GYYGKK GYYGKK、当該配列は、2つの接着ヘキサペプチドモチーフ、エラストマ配列、剥離配列、エラストマ配列及び2つの更なる接着ヘキサペプチドモチーフを含む、AEDP1として知られる[A5]2-[E1]-[D3]-[E1]-[A1]2であり、このポリペプチドは、接着剤が可撓性であり、選択的に基材から剥離させる必要がある場合の使用に適している;及び
AKA GYYGSS GYYGSS GVGVAP LEVLFQGP GVGVAP GYYGSS GYYGSS AKA、当該配列は、N末端架橋配列、2つの接着ヘキサペプチドモチーフ、エラストマ配列、剥離配列、エラストマ配列、2つの更なる接着ヘキサペプチド配列及びC末端架橋配列を含む、AEDP4として知られる[P5]-[A7]2-[E1]-[D3]-[E1]-[A7]2であり、このポリペプチドは、接着剤が可撓性であり、選択的に基材から剥離させる必要がある場合の使用に適している。
【0040】
本発明のなお更なる好ましい態様又は実施形態では、当該接着剤は、トランスグルタミナーゼと架橋することができる少なくとも1つの配列(表7に示す)を含む:
FKG GYYGRR GYYGRR GQQQLG、当該配列は、N末端架橋配列、2つの接着ヘキサペプチドモチーフ及びC末端架橋配列を含む、AP26として知られる[P10]-[A6]2-[S11]である、又は
FKG GYYGSS GYYGSS GQQQLG、当該配列は、N末端架橋配列、2つの接着ヘキサペプチドモチーフ及びC末端架橋配列を含む、AP27として知られる[P10]-[A7]2-[S11]である。
【0041】
FKG KKGYYG KKGYYG GQQQLG、当該配列は、N末端架橋配列、2つの接着ヘキサペプチドモチーフ及びC末端架橋配列を含む、AP28として知られる[P10]-[A3]2-[S11]である。
【0042】
本発明のなお更なる態様によれば、
それぞれが3つの異なるアミノ酸を含むモチーフを有し、当該3つのアミノ酸のうち2つが並んで反復して、以下のパターン:
XX-YY-又は-XX-YY
ここで、X、Y及び-は、任意の3つの異なるアミノ酸である、
のうち少なくとも1つをもたらす複数のヘキサペプチド;と、
水溶液中の0.5~2%のゼラチン;と、
任意選択的にチロシナーゼと、を含む配合物が提供される。
【0043】
好ましい実施形態では、当該ヘキサペプチドの少なくとも2つが同じである。
【0044】
本発明の更なる態様によれば、
それぞれが3つの異なるアミノ酸を含むモチーフを有し、当該3つのアミノ酸のうち2つが並んで反復して、以下のパターン:
XX-YY-又は-XX-YY
ここで、X、Y及び-は、任意の3つの異なるアミノ酸である、
のうち少なくとも1つをもたらす複数のヘキサペプチドを含む接着剤;又は、
前述の配合物が提供される。
【0045】
好ましい実施形態では、当該ヘキサペプチドの少なくとも2つが同じである。
【0046】
本発明の好ましい実施形態では、当該接着剤又は配合物は、本明細書に記載の任意の番号又は組み合わせの接着ヘキサペプチドを含む複数の接着ヘキサペプチドを含み、好ましくは当該ヘキサペプチドの少なくとも2つは同じである。
【0047】
より好ましくは、当該接着剤又は配合物は、複数の接着ヘキサペプチドを含み、その少なくとも1つがN末端及び/又はC末端架橋配列を含む。
【0048】
更により好ましくは、当該接着剤又は配合物は、複数の接着ヘキサペプチドを含み、そのうち複数が、複数のN末端及び/又はC末端架橋配列を含む。
【0049】
更により好ましくは、当該接着剤又は配合物は、複数の接着ヘキサペプチドと、少なくとも1つの、理想的には複数の剥離又は切断配列とを含み、それによって当該接着剤を基材から剥離させることができる。
【0050】
更により好ましくは、当該接着剤又は配合物は、複数の接着ヘキサペプチドと、少なくとも1つの、理想的には複数の弾性付与配列又はエラストマ特性付与配列とを含む。
【0051】
最も理想的には、当該接着剤又は配合物は、複数の接着ヘキサペプチドと、少なくとも1つの、理想的には複数の剥離若しくは切断配列及び/又は少なくとも1つの、理想的には複数の弾性付与配列若しくはエラストマ特性付与配列を含む。
【0052】
最も理想的には、当該接着剤又は配合物は、複数の接着ヘキサペプチドと、少なくとも1つの、理想的には複数の剥離若しくは切断配列及び/又は少なくとも1つの、理想的には複数の弾性付与配列若しくはエラストマ特性付与配列及び/又は少なくとも1つのN末端若しくはC末端架橋配列を含む。
【0053】
述べられたように、当業者は、本発明が、表1に列挙された、任意の番号又は組み合わせを含む複数の配列を含んだ接着剤又は配合物を包含することを理解するであろう。好ましくは、少なくとも2つの同じ接着ヘキサペプチドが提供される。更に好ましくは、当該接着剤又は配合物は、当該配列の2、4、6、8及び10段の任意の組み合わせを含み、各配列番号及び配列の組み合わせが、接着剤の接着強度、接着剤の剥離能力及び接着剤のエラストマ特性を決定する。
【0054】
上記の配列を使用して、本発明の2つの好ましい特徴を含むポリペプチド配列を作成することができる。特徴の1つは、接着ヘキサペプチド配列中のリジン(K)含有量を減少させることであり、もう1つは、ヘキサペプチドの開始部(N末端)及び/又は終了部(C末端)の配列モチーフのみによって架橋を形成することを可能にすることである。これは、表3のAP24及びAP25に例示されている。本発明の別の注目すべき特徴は、ヘキサペプチドモチーフから全てのリジン(K)(N及び/又はC末端架橋配列で使用される場合を除く)又はアルギニン(R)を除外することによって、ヘキサペプチド、したがってそれから作製される接着剤が環境プロテアーゼによって分解されにくくなることである。これは、表3のAP25に例示されている。
【0055】
以下の特許請求の範囲及び本発明の前述の説明では、文脈上、明示的な言語又は必要な含意により別途必要とされない限り、「含む(comprise)」という単語、又は「含む(comprises)」若しくは「含む(comprising)」などの変形は包括的な意味で使用され、すなわち、記載された特徴の存在を特定するが、本発明の様々な実施形態における更なる特徴の存在又は追加を排除するものではない。
【0056】
本明細書で引用される任意の特許又は特許出願を含む全ての参考文献は、参照により本明細書に組み込まれる。いかなる参考文献も先行技術を構成することを認めるものではない。更に、先行技術のいずれかが当技術分野における共通の一般知識の一部を構成することを認めるものではない。
【0057】
本発明の各態様の好ましい特徴は、他の態様のいずれかに関連して説明したとおりであり得る。
【0058】
本発明の他の特徴は、以下の実施例から明らかになるであろう。一般的に言えば、本発明は、本明細書(添付の特許請求の範囲及び図面を含む)に開示された特徴の全ての新規なもの、又は全ての新規な組み合わせに及ぶ。したがって、本発明の特定の態様、実施形態又は実施例に関連して記載される特徴、整数、特性、化合物又は化学部分は、それと互換性がない場合を除き、本明細書に記載される任意の他の態様、実施形態又は実施例に適用可能であると理解されるべきである。
【0059】
更に、特に明記しない限り、本明細書に開示された任意の特徴は、同じ又は同様の目的を果たす代替的な特徴によって置き換えられてもよい。
【0060】
本明細書の説明及び特許請求の範囲を通して、文脈上別途必要とされない限り、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、本明細書は、文脈上別途必要とされない限り、複数ならびに単数を企図するものとして理解されるべきである。
【0061】
以下を参照して、本発明の一実施形態を例としてのみ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1A】接着ペプチドAEP1の添加によるゼラチンの接着強度の増加を示すデータである。P=接着ペプチドAEP1、P+T=接着ペプチドAEP1+チロシナーゼ、G=ゼラチン、G+T=ゼラチン+チロシナーゼ、P+G=接着ペプチドAEP1+ゼラチン、P+G+T=接着ペプチドAEP1+ゼラチン+チロシナーゼである。エラーバーは、n=5試料からの標準偏差を示す。
【
図1B】例示的な接着ヘキサペプチドADP2、AP2、AEP3、AEDP1、AP25及びAP28のチロシナーゼによる時間依存的な酸化を示し、酸化的架橋によって高分子量構造が形成される。
【
図2】表面に塗布する前の坩堝内での接着ペプチド(AP)混合物の最適架橋時間を決定するためのデータである。標準偏差から誤差を計算している(n=5)。
【
図3】AEP1と天然に存在するMfp5との比較を示す。データセット1は、周囲条件での硬化後(方法に記載)の破断時力を示す。データセット2は、150℃で60分間加熱した後の破断時力を示す。エラーバーは標準偏差を示す(n=8~10)。細線模様のグラフは試験接着ペプチドAEP1であり、斑点模様のグラフはイガイタンパク質接着剤である。
【
図4A】AEP1の剥離を示し、データセット1は、周囲条件での硬化後(方法に記載)の破断時力を示す。データセット2は、剥離溶液での処理後(方法に記載)の破断時力を示す。エラーバーは標準偏差を示す(n=6~7)。
【
図4B】AEP1について、トリプシンとPBSの剥離性能の比較を示す。剥離剤添加後の剥離時間は、トリプシンの方が有意に短い。エラーバーは、n=5の標準偏差を示す。
【
図4C】ADP5について、パパインとPBSの剥離性能の比較を示す。剥離剤添加後の剥離時間は、パパインの方が有意に短い。エラーバーは、n=5の標準偏差を示す。
【
図5A】本発明による様々な接着剤の重ね剪断強度をゼラチンと比較したものを示す。これは、本発明に従って製造された様々な接着剤のゼラチンへの添加が全て、ゼラチンの接着特性を改善することを示す。エラーバーは、n=5の標準偏差を示す。引張強度もまた、全てのペプチドについて記される。
【
図5B】
図5Aの重ね剪断データを、機能によって分類した接着剤と共に示し、したがって、様々な番号の接着ヘキサペプチド及びN末端又はC末端架橋配列を有する、高分子量構造の形成を可能にするための接着剤を示す。
【
図5C】
図5Aの重ね剪断データについて、選択されたエラストマ接着剤の強度をゼラチンと比較したものを示す。これは、様々な弾性モチーフの追加が全て、ゼラチンの接着特性を改善することを示す。エラーバーは、n=5の標準偏差を示す。引張強度もまた、全てのペプチドについて記される。
【
図5D】
図5Aの重ね剪断データについて、選択された剥離接着剤の強度をゼラチンと比較したものを示す。これは、様々な剥離モチーフの追加が全て、接着ゼラチンの剥離特性を改善することを示す。エラーバーは、n=5の標準偏差を示す。引張強度もまた、全てのペプチドについて記される。
【
図6A】3CプロテアーゼによるAEDP1の剥離を経時的に示す。
【
図6B】AEDP1の剥離又は消化、及び消化された生成物の形成が、同時に起こることが示されている。
【
図6C】剥離剤の添加後の剥離時間であり、3Cの方が短い。エラーバーは、n=5の標準偏差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0063】
表1:全てのペプチド例は、以下の表に提示する「構成要素」モチーフから作製される。以下に提示するモチーフから、ヘキサペプチド接着/剥離/弾性モチーフの任意の番号及び/又は組み合わせを有するペプチドを生成することが可能である。同様に、化学的又は酵素的に誘導される反応のいずれかによって接着ペプチドを架橋させてより高分子量の構造を形成することを可能にする接頭及び/又は接尾モチーフを含んでいてもよい。剥離モチーフにおいて、X=任意のアミノ酸であり、Φ=A、V、L、I、F、W又はYであり、Z=Vを除く任意のアミノ酸である。
【0064】
表2:任意の番号(又は組み合わせ)の接着ヘキサペプチドモチーフを含む接着ペプチドの例である。
【0065】
表3:ペプチド鎖の架橋を確実に可能にするために必要とされ得る接頭又は接尾モチーフを含む接着ペプチドの例である。
【0066】
表4:剥離可能な接着剤の例である。剥離可能配列モチーフには下線を引いている。
【0067】
表5:弾性接着剤の例である。弾性配列モチーフはイタリック体である。
【0068】
表6:剥離可能な弾性接着剤の例である。弾性配列モチーフはイタリック体であり、剥離可能配列モチーフには下線を引いている。
【0069】
表7:トランスグルタミナーゼで架橋することができた接着ペプチドの例である。
【0070】
方法及び材料
ペプチド製造
ペプチドは、Sigma-Aldrich、Genscriptなどの商業的供給業者から調達することができる。あるいは、MollicaらによるCurrent Bioactive Compounds,2013,9 184に記載されているような固相合成などの標準的な合成方法を用いて、又はMateja Zorko及びRoman JeralaによるMethods in Molecular Biology,2009,618,p61-76に記載されているような組換方法によって自前で製造することができる。
【0071】
チロシナーゼ
Sigma Aldrichなどの供給業者から調達されるマッシュルームチロシナーゼを使用することができる。
【0072】
チロシナーゼ架橋結合
25mM酢酸アンモニウムpH6中のペプチド(4mg/ml)にチロシナーゼ(0.125単位/uL)を添加することによって、チロシナーゼが誘導するペプチドの架橋結合を観察した。時間間隔をおいて、反応の進行をSDS-PAGE分析によって監視した。5μLの50mM NH4OAc(pH6)及び10μLの2X Laemmli試料緩衝液を添加することによって、5μLのアリコートをクエンチした。次いで、これを103℃に8分間加熱し、続いて卓上遠心分離機において14,500rpmで5分間遠心分離した。各試料5μLをSDS-PAGEで分析した。
【0073】
接着ペプチド試験配合物の調製
pH6に緩衝した水溶液中のゼラチン(0.5~2%)懸濁液を接着ペプチド(2~10g/l)と混合することによって、試験接着剤を調製した。次いで、チロシナーゼ(1~10μg)を添加し、試料を混合し、試験片の調製前に室温でインキュベートした。
【0074】
重ね剪断試験片の調製
2つの連続したアセトン浴中で30分間洗浄し、続いて70%エタノール浴中で30分間単一洗浄し、続いてデシケータ内で16時間乾燥させることによって、接着実験のための表面を調製した。次いで、7.5μLの接着剤配合物(上記の通り)をスライドガラスの端部に添加し、次いで、3次元印刷された治具内において、第2のスライドで挟持した。正方形のポリテンシートを各対のガラススライドの間に配置した。10対のガラススライドを単一の治具内に配置し、Memmert UT 30 plusオーブン内で、30℃で18時間、単一の1Kg質量で圧縮した。
【0075】
熱硬化
試験片を前の段落に記載のように調製し、Memmert UT 30 plusオーブン内で、150℃で1時間更にインキュベートした。
【0076】
重ね剪断試験
島津オートグラフAGS-X試験機で重ね剪断試験を行った。上記の方法による試料を試験機に装填し、1mm/分の荷重速度で最大荷重500Nに供した。各実験につき技術的反復を10回行い、破断点力を観察した。ガラススライドは、ASTM D1002規格に基づき、12x26mmの重複領域で作製した。
【0077】
浸漬による剥離
上記の方法に記載のように調製した試験片を、トリプシン2.5%に30秒間浸漬した。試験片を周囲条件下で16~24時間保管した後、重ね剪断試験を用いて破断時力を測定した。
【0078】
AEP1の剥離時間
重ね剪断試験片を試験機に装填し、荷重速度1N/秒で固定荷重30Nまで荷重し、この荷重を維持した。次いで、50μLの剥離剤を重ね剪断試験片の接合部の前縁に添加した。次いで、破断時間を記録した。使用される剥離剤には、PBS及びトリプシン2.5%が含まれる。
【0079】
AEDP1の剥離時間
重ね剪断試験片を試験機に装填し、荷重速度1N/秒で固定荷重10N AEDP1まで荷重し、この荷重を維持した。次いで、50μLの剥離剤を重ね剪断試験片の接合部の前縁に添加した。次いで、破断時間を記録した。使用される剥離剤には、PBS及びパパイン2.5%が含まれる。
【0080】
ADP5の剥離時間
重ね剪断試験片を試験機に装填し、荷重速度1N/秒で固定荷重30Nまで荷重し、この荷重を維持した。次いで、50μLの剥離剤を重ね剪断試験片の接合部の前縁に添加した。次いで、破断時間を記録した。使用される剥離剤には、PBS及びパパイン2.5%が含まれる。
【0081】
結果
ゼラチン配合物における接着促進の実証
ここで、本発明者らの接着ペプチドを、接着促進能力によって評価する。本発明者らの試験配合物の調製は、「接着ペプチド試験配合物の調製」に記載されている。
図1に示すデータは、チロシナーゼを含む又は含まないペプチド混合物が、本発明者らの現在の試験条件下(試料P及びP+T)で効果的に接着しないことを示す。ゼラチンは中程度の接着を示し(試料G)、この接着強度はチロシナーゼの添加によって変化しないため、これは重要な対照例である。接着ペプチド、ゼラチン及びチロシナーゼを混合すると(試料P+G+T)、個々の成分の合計よりも高い接着強度の増加が見られたことから、本発明者らのペプチドに接着促進剤としての利点が観察される。
【0082】
このチロシナーゼの添加は、チロシンを翻訳後にDOPAに変換することによってDOPA残基をもたらすように作用する。DOPA残基は、表面キレート化、水素結合、一座、二座又は三座の金属イオン錯体の形成を通じて、及び正に帯電した残基、特にリジン(K)及びアルギニン(R)残基とのカチオン-π相互作用を通じて、接着及び凝集相互作用を可能にする。これは、架橋が起こり、ペプチドの接着特性が現れることを意味する。
図1Bは、ヘキサペプチドADP2、AP2、AEP3、AEDP1、AP25及びAP28へのチロシナーゼの添加が、どのようにして経時的に高分子量複合体の形成をもたらすかを示す。
【0083】
塗布前の硬化時間の最適化
典型的には、接着剤混合物を試験片表面に塗布する前の、チロシナーゼ添加後の反応時間は30分間が最適である(
図2)。反応時間が長すぎると、接着強度が低下する。この最適な30分間によって、DOPAを形成し、架橋をいくらか開始することができる。反応時間を長すぎると、架橋反応が最適量を超えて進行する可能性がある。
【0084】
接着剤の性能を改善する熱硬化
例示的な接着ペプチドAEP1と天然に存在する軟体類Mfp5との比較(
図3)は、周囲条件での硬化後の破断時力を示す。第2のデータセットは、150℃で60分間加熱した後の破断時力を示す。エラーバーは標準偏差を示す(n=8~10)。両方の種類の接着剤について、硬化プロセスが接着性能を約50%改善することが分かる。
【0085】
異なる基材への接着の実証
本発明者らは、ガラス、ステンレス鋼、アルミニウム、塗装鋼を含む多くの異なる基材でAEP1の重ね剪断試験を行った。上に詳述した重ね剪断法を用いて観察された接着強度の概要は、以下の表に含まれる。
【表1】
【0086】
剥離の有効性の実証
基材からのAEP1の剥離。
図4Aにおいて、左側のデータセット1は、周囲条件でのAEP1接着剤の硬化後(方法に記載)の破断時力を示す。右側のデータセット2は、硬化後、次いで剥離溶液で処理後(方法に記載)の破断時力を示し、エラーバーは標準偏差を示す(n=6~7)。硬化した接着剤を剥離させる能力が組み込まれると、結合を破壊するために必要な力は約半分となることが分かる。
【0087】
図4Bでは、AEP1について、トリプシンとPBSの剥離性能を比較する。剥離剤添加後の剥離時間は、トリプシンの方が有意に短く、これらの接着ペプチドのより良好な剥離剤であることを示している。エラーバーは、n=5の標準偏差を示す。
【0088】
図4Cでは、ADP5について、パパインとPBSの剥離性能を比較する。剥離剤添加後の剥離時間は、パパインの方が有意に短い。エラーバーは、n=5の標準偏差を示す。
【0089】
図5では、ゼラチンと比較した場合に改善された接着性を示す13の異なる接着ペプチドの例を示す。このデータは、接頭部(P)、接尾部(S)、接着(A)、弾性(E)及び剥離可能(D)モチーフの任意の組み合わせを組み合わせることによって、様々なペプチドの組み合わせに基づく接着剤を提供することができることを示す。
図5Bでは同じデータを示すが、接着ヘキサペプチド{A1]、[A2]、[A3]、[A4]、[A6]、[A7]、[A8]、[A10]及び[A12]のみについて、改善された性能を比較している。
図5Cでは同じデータを示すが、弾性付与配列を含む接着ヘキサペプチド[E2]及び[E3]のみについて、改善された性能を比較している。
図5dでは同じデータを示すが、剥離配列を含む接着ヘキサペプチド[D4]及び[D9]のみについて、改善された性能を比較している。
【0090】
図6では、3CプロテアーゼによるAEDP1の消化を経時的に示す。B.AEDP1の消化、及び消化された生成物の形成が同時に起こることが示されている。C.剥離剤添加後の剥離時間は、トリプシンと比較して3Cの方が短い。エラーバーは、n=5の標準偏差を示す。
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-01-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の接着ヘキサペプチドを含むペプチド接着剤であって、それぞれが3つの異なるアミノ酸からなるモチーフを有し、前記3つのアミノ酸のうち2つが並んで反復し、以下の配列パターン:
XX-YY-又は-XX-YY
ここで、X、Y及び-は、任意の3つの異なるアミノ酸である、
の少なくとも1つをもたらし、但し、前記3つのアミノ酸のうちの1つがジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)であり、したがって、高比率のDOPA基を含有する、ペプチド接着剤。
【請求項2】
前記接着ヘキサペプチドの少なくとも2つが同じである、請求項1に記載のペプチド接着剤。
【請求項3】
前記アミノ酸が、アラニンA、アルギニンR、アスパラギンN、アスパラギン酸D、システインC、グルタミン酸E、グルタミンQ、グリシンG、ヒスチジンH、イソロイシンI、ロイシンL、リジンK、メチオニンM、フェニルアラニンF、プロリンP、セリンS、トレオニンT、トリプトファンW、チロシンY、及びバリンVを含む群から選択される、請求項1又は2に記載のペプチド接着剤。
【請求項4】
前記アミノ酸が、グリシンG、チロシンY、リジンK、アラニンA、セリンS及びアルギニンRを含む群から選択される、請求項3に記載のペプチド接着剤。
【請求項5】
前記アミノ酸が天然に存在するL-アミノ酸又はD-アミノ酸である、請求項1~4のいずれか一項に記載のペプチド接着剤。
【請求項6】
前記ヘキサペプチドモチーフが、以下のモチーフ:GYYGKK、AYYAKK、KKGYYG、KKAYYA、GKKGYY、GYYGRR、GYYGSS、AYYARR AYYASS、RRGYYG、RRAYYA、SSGYYG及びSSAYYAのうちの少なくとも1つを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のペプチド接着剤。
【請求項7】
前記ヘキサペプチドの少なくとも1つが、N末端及び/又はC末端架橋配列を含み、それによって前記接着ヘキサペプチドが他の接着ヘキサペプチドと架橋されてペプチド鎖をもたらす、請求項1~6のいずれか一項に記載のペプチド接着剤。
【請求項8】
前記架橋配列が、
SGEGKK、SGEGK、GKK、AKAAK、AKA、SSAKAAK、SSAKA、YFKG、LKG、FKG、YLKG、GQQQLG、YGQQQLG、KKGEGS、AKAAKSS、AKASS及びKKGEGSを含む群から選択される、請求項7に記載のペプチド接着剤。
【請求項9】
前記N末端配列が、SGEGKK、SGEGK、GKK、AKAAK、AKA、SSAKAAK、SSAKA、YFKG、LKG、FKG、YLKG、GQQQLG及びYGQQQLGを含む群から選択される、請求項7に記載のペプチド接着剤。
【請求項10】
前記C末端配列が、GKK、KKGEGS、AKAAK、AKA、AKAAKSS、AKASS、YFKG、LKG、FKG、YLKG、GQQQLG及びYGQQQLGを含む群から選択される、請求項7に記載のペプチド接着剤。
【請求項11】
前記N末端架橋配列GQQQLG又はYGQQQLGが、前記C末端架橋配列GKK、KKGEGS、AKAAK、AKA、AKAAKSS、AKASS、YFKG、LKG、FKG又はYLKGのうちの1つと共に用いられる、請求項7~10のいずれか一項に記載のペプチド接着剤。
【請求項12】
前記接着ヘキサペプチドの少なくとも1つが、少なくとも1つの弾性付与配列又はエラストマ特性付与配列に連結されている、請求項1~11のいずれか一項に記載のペプチド接着剤。
【請求項13】
前記弾性付与配列又はエラストマ特性付与配列が、GVGVAP、GGRPSDSYGAPGGGN及びKKWTWNPATGKWTWQEを含む群から選択される、請求項12に記載のペプチド接着剤。
【請求項14】
前記接着ヘキサペプチドの少なくとも1つが、複数の弾性付与配列又はエラストマ特性付与配列に連結されている、請求項1~13のいずれか一項に記載のペプチド接着剤。
【請求項15】
前記弾性付与配列又はエラストマ特性付与配列の各々が、前記接着ヘキサペプチドの少なくとも1つに、N末端及び/又はC末端を設けられる、請求項14に記載のペプチド接着剤。
【請求項16】
前記接着ヘキサペプチドの少なくとも1つが、少なくとも1つの剥離配列又は切断可能配列に連結されており、それによって前記接着剤を基材から剥離させることができる、請求項1~15のいずれか一項に記載のペプチド接着剤。
【請求項17】
前記剥離配列又は切断可能配列が、
XIEGR//X又はXIDGR//X;
XLEVLFQ//GPX;
XENLYFQ//SGX;
XDDDDK//X;
XK//X又はXR//X;
XΦK//ZX又はXΦR//ZX;及び
XK//X又はXA//X又はXY//X
ここで、X=任意のアミノ酸であり、Φ=A、V、L、I、F、W、又はYであり、Z=Vを除く任意のアミノ酸であり、//は切断されるペプチド結合である、
を含む群から選択される、請求項16に記載のペプチド接着剤。
【請求項18】
請求項1~6のいずれか一項に記載の複数の接着ヘキサペプチドを含むペプチド接着剤であって、前記ペプチド接着ポリペプチドが、以下の配列:
i)SGEGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK;
ii)SGEGKK AYYAKK AYYAKK AYYAKK;
iii)SGEGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK;
iv)SGEGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK;
v)GYYGKK GYYGKK AYYARR GKKGYY GKKGYY AYYARR GKKGYY GKKGYY;
vi)SGEGKK AYYARR AYYARR AYYAKK;
vii)AKA GYYGRR GYYGRR AKA;
viii)AKA GYYGSS GYYGSS AKA;
ix)SGEGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK LEVLFQGP GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK;
x)SGEGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK G LEVLFQGP GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYYGKK GYY;
xi)SGEGKK GYYGKK GYYGKK LEVLFQGP GKKGYY GKKGYY LEVLFQGP GKKGYY GKKGYY;
xii)SGEGKK GYYGKK GYYG LEVLFQGP GKKGYY GKKGYY G LEVLFQGP GKKGYY GKKGYY GKK;
xiii)SGEGKK AYYAKK ARA AYYAKK;
xiv)SGEGKK GYYGKK ARA GYYGKK;
xv)SGEGKK GYYGKK ENLYFQSG GYYGKK;
xvi)FKG KKAYYA ARA AYYAKK GQQQLG;
xvii)SGEGKK GYYGRR GYYGRR LEVLFQGP GYYGRR GYYGRR GKK;
xviii)KKGYYG KKGYYG GVGVAP GVGVAP GVGVAP GYYGKK GYYGKK;
xix)G KKGYYG KKGYYG GVGVAP GVGVAP GVGVAP G GYYGKK GYYGKK;
xx)SGEKK GYYGKK GYYGKK GVGVAP GVGVAP GVGVAP GYYGKK GYYGKK;
xxi)KKGYYG GGRPSDSYGAPGGGN GYYGKK;
xxii)KKGYYG KKWTWNPATGKWTWQE GYYGKK;
xxiii)GKK GYYGKK GYYGKK GGRPSDSYGAPGGGN GGRPSDSYGAPGGGN GKKGYY GKKGYY GKK;
xxiv)GKK GYYGKK GYYGKK KKWTWNPATGKWTWQE GKKGYY GKKGYY GKK;
xxv)GKKGYY GKKGYY G GVGVAP LEVLFQGP GVGVAP G GYYGKK GYYGKK;
xxvi)GKKGYY GKKGYY GVGVAP LEVLFQGP GVGVAP GYYGKK GYYGKK;
xxvii)AKA GYYGSS GYYGSS GVGVAP LEVLFQGP GVGVAP GYYGSS GYYGSS AKA;
xxviii)FKG GYYGRR GYYGRR GQQQLG;
xxix)FKG GYYGSS GYYGSS GQQQLG;又は
xxx)FKG KKGYYG KKGYYG GQQQLG、
の少なくとも1つ、又は任意の組み合わせを含む複数の配列を含む、ペプチド接着剤。
【請求項19】
請求項18に記載の少なくとも1つ又は複数の接着ポリペプチドを含むペプチド接着剤。
【請求項20】
0.5~2%ゼラチン溶液中に配合された、請求項1~17のいずれか一項に記載の複数の接着ヘキサペプチド、又は請求項18に記載の接着ポリペプチド、又は請求項19に記載のペプチド接着剤を含む、ペプチド接着剤配合物。
【国際調査報告】